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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1360971
審判番号 不服2019-10728  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-13 
確定日 2020-03-16 
事件の表示 特願2019- 46061「レーザ加工システム」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 6月20日出願公開、特開2019- 96911〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成23年6月13日に出願された特願2011-131491号(以下「原出願」という。)の一部を平成27年10月13日に新たな特許出願(特願2015-202032号)とし,さらに,その一部を平成28年7月4日に新たな特許出願(特願2016-132264号)とし,さらに,その一部を平成29年2月16日に新たな特許出願(特願2017-26939号)とし,さらに,その一部を同年6月27日に新たな特許出願(特願2017-125526号)とし,さらに,その一部を平成30年5月22日に新たな特許出願(特願2018-97877号)とし,さらに,その一部を平成31年1月18日に新たな特許出願(特願2019-7299号)とし,さらに,その一部を平成31年3月13日に新たな特許出願(特願2019-46061号)としたものであり,その後の手続の概要は,以下のとおりである。
平成31年 4月 3日:拒絶理由通知(起案日)
平成31年 4月23日:意見書
令和 元年 5月13日:拒絶査定(起案日)
令和 元年 8月13日:審判請求
令和 元年 9月20日:拒絶理由通知(起案日)
令和 元年11月22日:意見書,手続補正書

2 本願発明
令和元年11月22日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。
「【請求項1】
チップ強度の向上を図るレーザ加工システムにおいて,
ウェハの裏面側から対物レンズを通してレーザ光を照射し,前記ウェハの厚さ方向において前記ウェハの中間位置よりも前記ウェハの表面側に寄った位置に前記レーザ光を集光させて,前記ウェハの内部にレーザ改質領域を形成し,前記レーザ改質領域から延びるクラックは前記ウェハの裏面にまで到達しないレーザ改質領域形成手段と,
前記ウェハを裏面から研削する際に前記クラックを進展させつつ前記クラックの一部を残して前記レーザ改質領域を除去できるように前記レーザ光の集光点の位置を精密に位置決めするために,前記対物レンズを光軸方向に微小移動させる対物レンズ微動手段と,
を備える,レーザ加工システム。」

3 拒絶の理由
令和元年9月20日付けで当審が通知した拒絶理由は,大略,次のとおりのものである。
(進歩性)この出願の請求項1ないし4に係る発明は,その原出願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記1ないし6の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その原出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開2009-290052号公報
2.特開2005-166728号公報
3.国際公開03/077295号
4.特開2007-235069号公報
5.特開2009-124035号公報
6.特開2009-152288号公報

4 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1には,以下の事項が記載されている。
「【請求項2】
基板の表面に格子状に形成された複数のストリートによって区画された複数の領域にデバイスが形成されているとともに該ストリートの表面に膜が被覆されているウエーハを,該ストリートに沿って個々のデバイスに分割するウエーハの分割方法であって,
該基板に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハの裏面側から該基板の内部に集光点を位置付けて該ストリートに沿って照射し,該基板の内部にストリートに沿って変質層を形成する変質層形成工程と,
該変質層形成工程が実施されたウエーハを構成する該基板の裏面を研削し,ウエーハを所定の厚さに形成する裏面研削工程と,
該裏面研削工程が実施されたウエーハの裏面を環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面に貼着するウエーハ支持工程と,
該膜に対して吸収性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側から該ストリートに沿って該膜に照射してレーザー加工溝を形成し,該膜を該ストリートに沿って分断する膜分断工程と,
環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面にウエーハの裏面を貼着した状態で該ダイシングテープを拡張することによりウエーハに外力を付与し,ウエーハを該ストリートに沿って破断するウエーハ破断工程と,を含む,
ことを特徴とするウエーハの分割方法。」

「【発明の効果】
【0008】
本発明におけるウエーハの分割方法によれば,基板の内部にストリートに沿って変質層を形成する変質層形成工程とウエーハの基板に形成されたストリートの表面に被覆された膜をストリートに沿って分断する膜分断工程を実施し後に,ウエーハに外力を付与してウエーハをストリートに沿って破断するので,ウエーハをストリートに沿って破断する際には膜はストリートに沿って分断されているため,膜が破断されずに残ることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下,本発明によるウエーハの分割方法の好適な実施形態について,添付図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
図1には本発明によるウエーハの分割方法によって分割されるウエーハの斜視図が示されており,図2には図1に示すウエーハの要部を拡大した断面図が示されている。図1および図2に示すウエーハ2は,例えば厚さが600μmのシリコン基板21の表面21aに格子状に形成された複数のストリート22によって複数の領域が区画され,この区画された領域にIC,LSI,液晶ドライバー,フラッシュメモリ等のデバイス23が形成されている。このウエーハ2には,図2に示すようにストリート22およびデバイス23を含む表面21aに図示の実施形態においてはポリイミド(PI)系高分子化合物膜24が被覆されている。」

「【0012】
裏面研削工程は,図4の(a)に示す研削装置4を用いて実施する。図4の(a)に示す研削装置4は,被加工物を保持するチャックテーブル41と,該チャックテーブル41に保持された被加工物を研削するための研削砥石42を備えた研削手段43を具備している。」

「【0013】
次に,上述した裏面研削工程が実施されたウエーハ2の基板21に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハ2の裏面側から基板21の内部に集光点を位置付けてストリート22に沿って照射し,基板21の内部にストリート22に沿って変質層を形成する変質層形成工程を実施する。この変質層形成工程は,図5に示すレーザー加工装置5を用いて実施する。図5に示すレーザー加工装置5は,被加工物を保持するチャックテーブル51と,該チャックテーブル51上に保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段52と,チャックテーブル51上に保持された被加工物を撮像する撮像手段53を具備している。チャックテーブル51は,被加工物を吸引保持するように構成されており,図示しない加工送り機構によって図5において矢印Xで示す加工送り方向に移動せしめられるとともに,図示しない割り出し送り機構によって図5において矢印Yで示す割り出し送り方向に移動せしめられるようになっている。
【0014】
上記レーザー光線照射手段52は,実質上水平に配置された円筒形状のケーシング521を含んでいる。ケーシング521内には図示しないYAGレーザー発振器或いはYVO4レーザー発振器からなるパルスレーザー光線発振器や繰り返し周波数設定手段を備えたパルスレーザー光線発振手段が配設されている。このパルスレーザー光線発振手段は,図示の実施形態においては,ウエーハ2の基板21に対して透過性を有する波長(例えば,1064nm)のパルスレーザー光線を発振する。上記ケーシング521の先端部には,パルスレーザー光線発振手段から発振されたパルスレーザー光線を集光するための集光器522が装着されている。
【0015】
上記レーザー光線照射手段52を構成するケーシング521の先端部に装着された撮像手段53は,可視光線によって撮像する通常の撮像素子(CCD)の外に,被加工物に赤外線を照射する赤外線照明手段と,該赤外線照明手段によって照射された赤外線を捕らえる光学系と,該光学系によって捕らえられた赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成されている。この撮像手段53は,撮像した画像信号を図示しない制御手段に送る。
【0016】
図5に示すレーザー加工装置5を用いて変質層形成工程を実施するには,図5に示すようにチャックテーブル51上にウエーハ2の表面21aに貼着された保護テープ3側を載置する。そして,図示しない吸引手段を作動することにより,保護テープ3を介してウエーハ2をチャックテーブル51上に保持する(ウエーハ保持工程)。従って,チャックテーブル51に保持されたウエーハ2は,裏面21bが上側となる。このようにして,ウエーハ2を吸引保持したチャックテーブル51は,図示しない加工送り機構によって撮像手段53の直下に位置付けられる。
【0017】
チャックテーブル51が撮像手段53の直下に位置付けられると,撮像手段53および図示しない制御手段によってウエーハ2のレーザー加工すべき加工領域を検出するアライメント工程を実行する。即ち,撮像手段53および図示しない制御手段は,ウエーハ2に形成されているストリート22と,ストリート22に沿ってレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段52の集光器522との位置合わせを行うためのパターンマッチング等の画像処理を実行し,レーザー光線照射位置のアライメントを遂行する。このアライメント工程を実施する際にはウエーハ2のストリート22が形成されている表面21aは下側に位置しているが,撮像手段53が上述したように赤外線照明手段と赤外線を捕らえる光学系および赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成された撮像手段を備えているので,裏面21bから透かしてストリート22を撮像することができる。
【0018】
以上のようにしてチャックテーブル51上に保持されたウエーハ2のレーザー加工すべき加工領域を検出するアライメントが行われたならば,図6の(a)で示すようにチャックテーブル51をレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段52の集光器522が位置するレーザー光線照射領域に移動し,所定のストリート22の一端(図6の(a)において左端)をレーザー光線照射手段52の集光器522の直下に位置付ける。そして,集光器522からシリコン基板21に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を照射しつつチャックテーブル51を図6の(a)において矢印X1で示す方向に所定の加工送り速度で移動せしめる。そして,図6の(b)で示すようにレーザー光線照射手段52の集光器522の照射位置がストリート22の他端(図6の(b)において右端)の位置に達したら,パルスレーザー光線の照射を停止するとともにチャックテーブル51の移動を停止する。この変質層形成工程においては,パルスレーザー光線の集光点Pを半導体ウエーハ2の厚さ方向中間部に位置付ける。この結果,ウエーハ2の基板21には,図6の(b)および図7に示すようにストリート22に沿って厚さ方向中間部に変質層210が形成される。このようにウエーハ2の基板21の内部にストリート22に沿って変質層210が形成されると,基板21には図7に示すように変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けてストリート22に沿ってクラック211が発生する。」

「【0032】
次に,本発明によるウエーハの分割方法の第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態においては,先ずウエーハ2の基板21に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハ2の裏面側から基板21の内部に集光点を位置付けてストリート22に沿って照射し,基板21の内部にストリート22に沿って変質層を形成する変質層形成工程を実施する。この変質層形成工程を実施するに際し,ウエーハ2の表面に形成されたデバイス23を保護するために,上記図3の(a)および(b)に示すようにウエーハ2の表面21aに塩化ビニール等からなる保護テープ3を貼着する(保護テープ貼着工程)。そして,上記図5に示すようにレーザー加工装置5を用いて上記図6に示す変質層形成工程と同様に実施する。この結果,図14に示すようにウエーハ2の基板21には,内部にストリート22に沿って変質層210が形成されるとともに,変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けてクラック211が発生する。
【0033】
上述した変質層形成工程を実行したならば,ウエーハ2を構成する基板21の裏面21bを研削し,ウエーハ2を所定の厚さに形成する裏面研削工程を実施する。この裏面研削工程は,図4の(a)に示す研削装置4を用いて上記第1の実施形態における裏面研削工程と同様に実施する。この結果,図15に示すようにウエーハ2は,基板21の裏面21bが研削されて所定の厚さ(例えば100μm)に形成される。なお,上記変質層形成工程において形成される変質層210をウエーハ2の表面2aから例えば100μm以内の位置に形成すれば上記裏面研削工程を実施した後にも変質層210は残るが,上記変質層形成工程において形成される変質層210をウエーハ2の表面2aから例えば100μmの位置より裏面2bに形成することにより,上記裏面研削工程を実施することにより変質層210が形成された位置まで研削され,変質層210は除去される。従って,ウエーハ2の基板21には,図15に示すようにストリート22に沿って形成されたクラック211が残される。
【0034】
次に,上述した裏面研削工程が実施されたウエーハ2の裏面を環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面に貼着するウエーハ支持工程を実施する。このウエーハ支持工程は,上記図8に示すウエーハ支持工程と同様に実施し,ウエーハ2における基板21の表面21aに貼着されている保護テープ3を剥離する(保護テープ剥離工程)。
【0035】
上述したウエーハ支持工程および保護テープ剥離工程を実施したならば,上記ウエーハ2を構成する基板21の表面21aに被覆された高分子化合物膜24に対して吸収性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側からストリート22に沿って高分子化合物膜24に照射してレーザー加工溝を形成し,高分子化合物膜24をストリートに沿って分断する膜分断工程を実施する。この膜分断工程は,上記図9に示すレーザー加工装置5を用いて,上記図10に示す膜分断工程と同様に実施する。この結果,図16に示すようにストリート22に被覆された高分子化合物膜24は,レーザー加工溝240によってストリート22に沿って分断される。
【0036】
上記膜分断工程を実施したならば,ウエーハ2に外力を付与しウエーハ2をストリート22に沿って破断するウエーハ破断工程を実施する。このウエーハ破断工程は,上記図12に示すテープ拡張装置6を用いて上記図13に示すウエーハ破断工程と同様に実施する。この結果,ウエーハ2の基板21はクラック211が形成されることによって強度が低下せしめられたストリート22に沿って破断され個々のデバイス23に分割される。このとき,ウエーハ2の基板21の表面に被覆されている高分子化合物膜24は上述したようにストリート22に沿って形成されたレーザー加工溝240によって分断されているので,破断されずに残ることはない。
【0037】
上述した実施形態においては,上記裏面研削工程でウエーハ2の基板21の裏面を研削して変質層210が除去されており,ウエーハ2は基板21に形成されたクラック211に沿って破断される。従って,個々の分割されたデバイス23の破断面には変質層210が残存しないため,デバイス23の抗折強度が向上する。」

(2)上記記載から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「基板の表面に格子状に形成された複数のストリートによって区画された複数の領域にデバイスが形成されているとともに該ストリートの表面に膜が被覆されているウエーハの該基板に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハの裏面側から該基板の内部に集光点を位置付けて該ストリートに沿って照射し,該基板の内部にストリートに沿って変質層を形成する変質層形成工程と,
該変質層形成工程が実施されたウエーハを構成する該基板の裏面を研削し,ウエーハを所定の厚さに形成する裏面研削工程と,
該裏面研削工程が実施されたウエーハの裏面を環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面に貼着するウエーハ支持工程と,
該膜に対して吸収性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側から該ストリートに沿って該膜に照射してレーザー加工溝を形成し,該膜を該ストリートに沿って分断する膜分断工程と,
環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面にウエーハの裏面を貼着した状態で該ダイシングテープを拡張することによりウエーハに外力を付与し,ウエーハを該ストリートに沿って破断するウエーハ破断工程と,を含む,
該ストリートに沿って個々のデバイスに分割するウエーハの分割方法における,該変質層形成工程を実施する際に用いるレーザー加工装置であって,
前記ウエーハは,厚さが600μmの基板の表面に格子状に形成された複数のストリートによって複数の領域が区画され,この区画された領域にIC,LSI,液晶ドライバー,フラッシュメモリ等のデバイスが形成されたものであり,このウエーハには,ストリートおよびデバイスを含む表面に,ポリイミド(PI)系高分子化合物膜が被覆されたものであり,
前記レーザー加工装置は,被加工物を保持するチャックテーブルと,該チャックテーブル上に保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と,チャックテーブル上に保持された被加工物を撮像する撮像手段を具備しており,
ここで,前記レーザー光線照射手段は,実質上水平に配置された円筒形状のケーシングを含んでおり,該ケーシング内にはYAGレーザー発振器或いはYVO4レーザー発振器からなるパルスレーザー光線発振器や繰り返し周波数設定手段を備えたパルスレーザー光線発振手段が配設されるとともに,前記ケーシングの先端部には,パルスレーザー光線発振手段から発振されたパルスレーザー光線を集光するための集光器が装着されており,
さらに,前記レーザー光線照射手段を構成するケーシングの先端部には撮像手段が装着されており,該撮像手段は,可視光線によって撮像する通常の撮像素子(CCD)の外に,被加工物に赤外線を照射する赤外線照明手段と,該赤外線照明手段によって照射された赤外線を捕らえる光学系と,該光学系によって捕らえられた赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成されているものであり,
前記変質層形成工程においては,パルスレーザー光線の集光点をウエーハの厚さ方向中間部に位置付け,この結果,ウエーハの基板には,ストリートに沿って厚さ方向中間部に変質層が形成され,このようにウエーハの基板の内部にストリートに沿って変質層が形成されると,基板には,変質層から表面および裏面に向けてストリートに沿ってクラックが発生し,
前記裏面研削工程は,ウエーハを,100μmの厚さに形成するものであって,前記裏面研削工程は,被加工物を保持するチャックテーブルと,該チャックテーブルに保持された被加工物を研削するための研削砥石を備えた研削手段を具備している研削装置を用いて実施するものであり,
さらに,前記裏面研削工程は,前記変質層形成工程において形成される変質層をウエーハの表面から前記100μmの位置より裏面に形成することにより,前記裏面研削工程を実施することにより変質層が形成された位置まで研削され,変質層を除去し,従って,ウエーハの基板には,ストリートに沿って形成された,表面に向けて変質層から発生したクラックが残されるものであり,
そして,該裏面研削工程でウエーハの基板の裏面を研削して変質層が除去されており,ウエーハは基板に形成されたクラックに沿って破断されることで,個々の分割されたデバイスの破断面には変質層が残存しないため,デバイスの抗折強度が向上する
レーザー加工装置。」

(3)引用文献2には,以下の事項が記載されている。
「【0038】
分断シロの帯幅は,レーザ光のスポット径,集光用レンズの倍率,レーザ光が通過する基板材料の屈折率を考慮し,上記(B)の工程において照射されるレーザ光が積層構造部を通過するときのビーム幅(分断シロの帯幅方向についてのビームの幅)を包含し得る幅とすることが好ましい。分断シロの帯幅を過度に狭く取ると,レーザ光と積層構造部とがオーバラップし変色する部分が生じる。また,分断シロの帯幅を過度に広く取ると,1枚の半導体ウエハーから得られるチップの数が少なくなる。
分断時に改質領域を起点として発生する割れは,分岐や進行方向の変更をしながら進むので,ウエハー基板の横方向にも広がりをもって基板表面に達する。従って,分断シロの帯幅を適当に設けることによって,割れがGaN系結晶層内あるいはGaN系結晶層のうち素子機能を担う層内に入り込むことが抑制されるので,素子部が受ける影響をより低く押さえることができる。
これらの点から,分断シロの帯幅W1は,5?30μm,特に10?20μmが好ましい寸法である。」

(4)引用文献3には,以下の事項が記載されている。
「図23Aは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達している場合を説明するための図である。
図23Bは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達していない場合を説明するための図である。
図24Aは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存しない場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達している場合を説明するための図である。
図24Bは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存しない場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達していない場合を説明するための図である。
図25Aは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面の裏面側のエッジ部に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達している場合を説明するための図である。
図25Bは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面の裏面側のエッジ部に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達していない場合を説明するための図である。」(第5ページ第4-21行)

「図1及び図2に示すように,基板1の表面3には,基板1を切断すべき所望の切断予定ライン5がある。切断予定ライン5は直線状に延びた仮想線である(基板1に実際に線を引いて切断予定ライン5としてもよい)。本実施形態に係るレーザ加工は,多光子吸収が生じる条件で基板1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを基板1に照射して改質領域7を形成する。なお,集光点とはレーザ光Lが集光した箇所のことである。
レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち矢印A方向に沿って)相対的に移動させることにより,集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させる。これにより,図3?図5に示すように改質領域7が切断予定ライン5に沿って基板1の内部にのみ形成され,この改質領域7でもって切断予定部9が形成される。本実施形態に係るレーザ加工方法は,基板1がレーザ光Lを吸収することにより基板1を発熱させて改質領域7を形成するのではない。基板1にレーザ光Lを透過させ基板1の内部に多光子吸収を発生させて改質領域7を形成している。よって,基板1の表面3ではレーザ光Lがほとんど吸収されないので,基板1の表面3が溶融することはない。
基板1の切断において,切断する箇所に起点があると基板1はその起点から割れるので,図6に示すように比較的小さな力で基板1を切断することができる。よって,基板1の表面3に不必要な割れを発生させることなく基板1の切断が可能となる。
なお,切断予定部を起点とした基板の切断には,次の2通りが考えられる。1つは,切断予定部形成後,基板に人為的な力が印加されることにより,切断予定部を起点として基板が割れ,基板が切断される場合である。これは,例えば基板の厚さが大きい場合の切断である。人為的な力が印加されるとは,例えば,基板の切断予定部に沿って基板に曲げ応力やせん断応力を加えたり,基板に温度差を与えることにより熱応力を発生させたりすることである。」(第7ページ第15行-第8ページ第13行)

「実施例1では,上述した切断起点領域を形成する工程において,半導体基板1の内部の表面3側に近い位置に切断起点領域が形成され,この切断起点領域を起点として半導体基板1の厚さ方向に割れが発生している。図16は切断起点領域形成後の半導体基板1を示す図である。図16に示すように,半導体基板1において切断起点領域を起点として発生した割れ15は,切断予定ラインに沿うよう格子状に形成され,半導体基板1の表面3にのみ到達し,裏面21には到達していない。すなわち,半導体基板1に発生した割れ15は,半導体基板1の表面にマトリックス状に形成された複数の機能素子19を個々に分割している。また,この割れ15により切断された半導体基板1の切断面は互いに密着している。
なお,「半導体基板1の内部の表面3側に近い位置に切断起点領域が形成される」とは,切断起点領域を構成する溶融処理領域等の改質領域が,半導体基板1の厚さ方向における中心位置(厚さの半分の位置)から表面3側に偏倚して形成されることを意味する。つまり,半導体基板1の厚さ方向における改質領域の幅の中心位置が,半導体基板1の厚さ方向における中心位置から表面3側に偏倚して位置している場合を意味し,改質領域の全ての部分が半導体基板1の厚さ方向における中心位置に対して表面3側に位置している場合のみに限る意味ではない。
次に,半導体基板1を研磨する工程について,図17?図21を参照して説明する。図17?21は,半導体基板を研磨する工程を含む各工程を説明するための図である。なお,実施例1では,半導体基板1が厚さ350μmから厚さ50μmに薄型化される。」(第18ページ第25行-第19ページ第19行)

「なお,半導体基板を研磨する工程後の半導体チップ25と溶融処理領域13との関係としては,図23A?図25Bに示すものがある。各図に示す半導体チップ25には,後述するそれぞれの効果が存在するため,種々様々な目的に応じて使い分けることができる。ここで,図23A,図24A及び図25Aは,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達している場合であり,図23B,図24B及び図25Bは,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達していない場合である。図23B,図24B及び図25Bの場合にも,半導体基板を研磨する工程後には,割れ15が半導体基板15の表面3に達する。
図23A及び図23Bに示すように,溶融処理領域13が切断面内に残存する半導体チップ25は,その切断面が溶融処理領域13により保護されることとなり,半導体チップ25の抗折強度が向上する。
図24A及び図24Bに示すように,溶融処理領域13が切断面内に残存しない半導体チップ25は,溶融処理領域13が半導体デバイスに好影響を与えないような場合に有効である。
図25A及び図25Bに示すように,溶融処理領域13が切断面の裏面側のエッジ部に残存する半導体チップ25は,当該エッジ部が溶融処理領域13により保護されることとなり,半導体チップ25のエッジ部を面取りした場合と同様に,エッジ部におけるチッピングやクラッキングの発生を防止することができる。
また,図23A,図24A及び図25Aに示すように,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達している場合に比べ,図23B,図24B及び図25Bに示すように半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達していない場合の方が,半導体基板を研磨する工程後に得られる半導体チップ25の切断面の直進性がより向上する。
ところで,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に到達するか否かは,溶融処理領域13の表面3からの深さに関係するのは勿論であるが,溶融処理領域13の大きさにも関係する。すなわち,溶融処理領域13の大きさを小さくすれば,溶融処理領域13の表面3からの深さが浅い場合でも,割れ15は半導体基板1の表面3に到達しない。溶融処理領域13の大きさは,例えば切断起点領域を形成する工程におけるパルスレーザ光の出力により制御することができ,パルスレーザ光の出力を上げれば大きくなり,パルスレーザ光の出力を下げれば小さくなる。」(第21ページ第21行?第22ページ第26行)

「また,レーザ光Lの照射は,サファイア基板1の表面3側から行ってもよいし,裏面21側から行ってもよい。」(第24ページ第21-23行)









(5)引用文献4には,以下の事項が記載されている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら,レーザーダイシング装置では,ダイシング後に各工程に使用される装置間を搬送される際,衝撃や振動により内部の改質領域を起点として割段されてしまう場合がある。そして,一旦割段された場合,ウェーハとしてのハンドリングができず,以降の工程の進行が大幅に妨げられるという問題があった。」

「【0071】
次に,レーザーダイシング装置10Bの構成について説明する。図8はレーザーダイシング装置10Bの構成を模式的に表した側面図である。
【0072】
レーザーダイシング装置10Bは,2ヘッドの装置であり,チャックテーブル212,図示しないガイドベース(Xガイドベース,Yガイドベース,Zガイドベース),レーザーヘッド231,231,及び図示しない制御手段等が備えられている。
【0073】
チャックテーブル212は,ウェーハWを吸着載置し,不図示のθ回転軸により,θ方向に回転されるとともに,Xガイドベース上に取り付けられた不図示のXテーブルによりX方向(紙面に垂直方向)に加工送りされる。
【0074】
チャックテーブル212の上方には,図示しないYガイドベースが設けられている。このYガイドベースには,図示しない2個のYテーブルが設けられ,それぞれのYテーブルには,図示しない2組のZガイドレールが取り付けられている。それぞれのZガイドレールには,不図示のZテーブルが設けられ,それぞれのZテーブルには,ホルダ232を介してレーザーヘッド231が取付けられており,2個のレーザーヘッド231,231はそれぞれ独立してZ方向に移動されるとともに,独立してY方向に割り出し送りされるようになっている。」

「【0078】
レーザーヘッド231は,レーザー発振器231A,コリメートレンズ231B,ミラー231C,コンデンスレンズ231D等からなり,図8に示されるように,レーザー発振器231Aから発振されたレーザー光Lは,コリメートレンズ231Bで水平方向に平行光線とされ,ミラー231Cで垂直方向に反射され,コンデンスレンズ231Dによって集光されるように構成されている。
【0079】
レーザー光Lの集光点を,チャックテーブル212に載置されたウェーハWの厚さ方向内部に設定すると,ウェーハWの表面を透過したレーザー光Lは集光点でエネルギーが集中され,ウェーハ内部の集光点近傍に多光子吸収によるクラック領域,溶融領域,屈折率変化領域等の改質領域を形成する。」

(6)引用文献5には,以下の事項が記載されている。
「【0023】
レーザー光学部20は,レーザー発振器21,コリメートレンズ22,ハーフミラー23,コンデンスレンズ(集光レンズ)24,レーザー光をウェーハWに対して平行に微小移動させる駆動手段25などで構成されている。
【0024】
また,観察光学部30は,観察用光源31,コリメートレンズ32,ハーフミラー33,コンデンスレンズ34,観察手段としてのCCDカメラ35,画像処理装置38,テレビモニタ36などで構成されている。
【0025】
レーザー光学部20では,レーザー発振器21から発振されたレーザー光はコリメートレンズ22,ハーフミラー23,コンデンスレンズ24等の光学系を経てウェーハWの内部に集光される。ここでは,集光点におけるピークパワー密度が1×10^(8)(W/cm^(2))以上でかつパルス幅が1μs以下の条件で,ダイシングシートに対して透過性を有するレーザー光が用いられる。
【0026】
観察光学部30では,観察用光源31から出射された照明光がコリメートレンズ32,ハーフミラー33,コンデンスレンズ24等の光学系を経てウェーハWの表面を照射する。ウェーハWの表面からの反射光はコンデンスレンズ24,ハーフミラー23及び33,コンデンスレンズ34を経由して観察手段としてのCCDカメラ35に入射し,ウェーハWの表面画像が撮像される。
【0027】
この撮像データは画像処理部38に入力され,ウェーハWのアライメントに用いられるとともに,制御部50を経てテレビモニタ36に写し出される。」

「【0032】
図2は,駆動手段25の細部を説明する概念図である。駆動手段25は,コンデンスレンズ24を保持するレンズフレーム26,レンズフレーム26の上面に取り付けられレンズフレーム26を図のZ方向に微小振動させる振動制御手段27,振動制御手段27を保持する保持フレーム28,保持フレーム28をウェーハWと平行に微小移動させるリニア微動手段であるPZ1,PZ2などからなっている。
【0033】
振動制御手段としては,ピエゾ素子などの電圧印加によって伸縮する圧電素子を用いることができる。この圧電素子の伸縮によってコンデンスレンズ24がZ方向に微小に移動し,レーザー光の焦光点のZ方向(厚さ方向)の位置をZ方向に変更させることができる。なお,本実施例においてはピアゾ素子を用いて振動制御を行っているが,本発明はこれに限らず,リニアモータなどの種々のリニアアクチュエーターを用いることができる。」

「【0036】
次に,本発明に係るレーザー加工装置の別の実施形態について説明する。図3および図4はこの別の実施形態の駆動手段25Aを表わしたものである。図3は駆動手段25Aの平面図で,図4は図3のA-O-B断面図である。
【0037】
駆動手段25Aは,図3および図4に示すように,コンデンスレンズ24を保持するレンズフレーム26A,下端がレーザーヘッド40のケース本体に固定されるとともに,上端がレンズフレーム26Aの鍔部下面にフレキシブルに連結され,レンズフレーム26Aを支持する3個のリニア微動手段であるPZ6,PZ7,およびPZ8などからなっている。
【0038】
この3個のリニア微動手段であるPZ6,PZ7,およびPZ8は,図3に示すように,円周上等間隔に配置されたピエゾ素子が用いられている。このピエゾ素子の伸縮によってコンデンスレンズ24がZ方向に微小送りされて,レーザー光の集光点のZ方向の位置を変更させることができる。本実施形態においては,リニア微動手段PZ6,PZ7,PZ8が振動制御手段を構成している。」

(7)引用文献6には,以下の事項が記載されている。
「【0027】
レーザー光学部40は,レーザー光を発振するレーザー発振装置41,発振されたレーザー光を平行光に揃えるコリメートレンズ42,レーザー光を集光するコンデンスレンズ46,制御部50によって制御されコンデンスレンズ46を光軸上で微小移動させるアクチュエータ47,ウェーハWの表面で反射されたレーザー光を後述する非点収差式光学測定装置56に取り出すハーフミラー44,およびハーフミラー44により取り出されたレーザー光を集光する円柱レンズ48を備える。
【0028】
レーザー発振装置41は制御部50によって制御され,レーザー発振装置41から発振されるレーザー光のパワーやパルス幅が,加工対象のウェーハのドーパント種,ドープ量,ウェーハ厚さ等に応じて調節される。例えば,パルス幅が1μs以下であって,焦点におけるピークパワー密度が1×10^(8)(W/cm^(2))以上となるレーザー光がレーザー発振装置41から発振される。
【0029】
レーザー発振装置41により発振されたレーザー光は,コリメートレンズ42,ハーフミラー44,コンデンスレンズ46等の光学系を経てウェーハWの内部に集光される。なお,レーザー光の焦点のZ方向位置(鉛直方向位置)は,アクチュエータ47によってコンデンスレンズ46をZ方向に微小移動させることにより調節される。
【0030】
本実施形態では,アクチュエータ47として圧電素子を使用している。この圧電素子は中空の円筒形状であり,上端がレーザー光学部40の本体(図示せず)に固定されており,下端がコンデンスレンズ46を保持するレンズフレーム(図示せず)と接合されている。圧電素子は印加電圧に応じて伸縮し,コンデンスレンズ46は圧電素子の伸縮に応じて光軸方向に微小移動する。
【0031】
ここで,レーザー発振装置41により発振されたレーザー光がウェーハWの内部に形成する改質領域について説明する。図3(a)および(b)は,ウェーハ内部の焦点近傍に形成される改質領域を示す図である。
【0032】
図3(a)に示すように,レーザー発振装置41からウェーハWの内部に入射したレーザー光L1によって,焦点近傍に改質領域Pが形成される。改質領域Pとは,焦点近傍で多光子吸収が誘起されることによりウェーハWが変質した領域であって,クラック領域,溶融領域,屈折率変化領域等を含む。」

5 本願発明と引用発明の対比
(1)本願発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「レーザー光線」,「ウエーハ」,「変質層」,及び「レーザー光線照射手段」は,それぞれ,本願発明の「レーザ光」,「ウェハ」,「レーザ改質領域」及び「レーザ改質領域形成手段」に相当する。

イ 引用発明の「レーザー加工装置」を用いたウエーハの分割によって得られたデバイスは,「裏面研削工程でウエーハの基板の裏面を研削して変質層が除去されており,ウエーハは基板に形成されたクラックに沿って破断されることで,個々の分割されたデバイスの破断面には変質層が残存しないため,デバイスの抗折強度が向上する」ものである。
そして,引用発明の「個々の分割されたデバイス」は,チップと呼ばれるから,引用発明の,「抗折強度が向上」した「デバイス」は,「チップ強度」が向上したといえる。
そうすると,本願発明と引用発明は,いずれも「チップ強度の向上を図る」ものである点で一致する。

ウ 引用発明の「レーザー光線照射手段」は,「基板に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハの裏面側から該基板の内部に集光点を位置付けて該ストリートに沿って照射」するものであって,「パルスレーザー光線発振手段から発振されたパルスレーザー光線を集光するための集光器」を含んでおり,レーザー加工装置におけるレーザー光線の集光に対物レンズを使用することは,例えば,引用文献2ないし6の図面等からも通常であるから,本願発明と引用発明は,いずれも「ウェハの裏面側から対物レンズを通してレーザ光を照射し」「前記レーザ光を集光させ」るものである点で一致する。

エ 引用発明は「前記変質層形成工程においては,パルスレーザー光線の集光点をウエーハの厚さ方向中間部に位置付け,この結果,ウエーハの基板には,ストリートに沿って厚さ方向中間部に変質層が形成され,このようにウエーハの基板の内部にストリートに沿って変質層が形成されると,基板には,変質層から表面および裏面に向けてストリートに沿ってクラックが発生」するのであるから,引用発明と本願発明は,「レーザ改質領域から延びるクラックは前記ウェハの裏面に向かう」点で一致する。

オ 引用発明の「レーザー加工装置」と,本願発明の「レーザ加工システム」は,以下の相違点を除いて一致する。

カ 以上のことから,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
<一致点>
「チップ強度の向上を図るレーザ加工システムにおいて,
ウェハの裏面側から対物レンズを通してレーザ光を照射し,前記レーザ光を集光させて,前記ウェハの内部にレーザ改質領域を形成し,前記レーザ改質領域から延びるクラックは前記ウェハの裏面に向かうレーザ改質領域形成手段
を備える,レーザ加工システム。」

<相違点>
(相違点1)
本願発明では,レーザ改質領域形成手段は,「前記ウェハの厚さ方向において前記ウェハの中間位置よりも前記ウェハの表面側に寄った位置」にレーザ光を集光させて,ウェハの内部にレーザ改質領域を形成するものであり,かつ,レーザ改質領域から延びるクラックは「ウェハの裏面にまで到達しない」ものであるのに対して,引用発明では,変質層形成工程においては,パルスレーザー光線の集光点を「ウエーハの厚さ方向中間部」に位置付け,基板には,変質層から表面および「裏面に向けて」ストリートに沿ってクラックが発生するものである点。

(相違点2)
本願発明は「前記ウェハを裏面から研削する際に前記クラックを進展させつつ前記クラックの一部を残して前記レーザ改質領域を除去できるように前記レーザ光の集光点の位置を精密に位置決めするために,前記対物レンズを光軸方向に微小移動させる対物レンズ微動手段」を備えるのに対して,引用発明は,パルスレーザー光線の集光点を「ウエーハの厚さ方向中間部」に位置付け,「変質層をウエーハの表面から前記100μmの位置より裏面に形成する」ものである点。

6 判断
(1)相違点1について
ア 引用発明は,厚さが600μmであるウエーハの基板の裏面を,基板内部に形成された変質層を除去する一方で,ストリートに沿って形成された,表面に向けて変質層から発生したクラックが残るように研削して,研削後の厚さを100μmとする工程を含むウエーハの分割方法における,変質層形成工程を実施する際に用いるレーザー加工装置に係る発明である。
そして,引用発明において,ウエーハは,研削後にウエーハの裏面に残るクラックを起点として,ウエーハに外力を付与し,ウエーハをストリートに沿って破断するものである。
一方,ウエーハをストリートに沿って破断して作製した個々のデバイスの形状・寸法が,設計したとおりのものであることが望ましいことは当然であって,そのためには,研削後にウエーハの裏面に残るクラックの水平方向の位置(X-Y平面上の位置)が,ウエーハの裏面側から照射したレーザー光線の集光点が位置付けられたストリートの水平方向の位置(X-Y平面上の位置)に等しいことが望まれることは明らかである。
他方,引用文献2の【0038】に記載されているように,改質領域を起点として発生する割れは,分岐や進行方向の変更をしながら進むので,改質領域を形成した位置と,改質領域から表面に向けて(すなわちZ方向に向けて)発生したクラックの先端部の位置は,その水平方向の位置(X-Y平面上の位置)においてずれが生じる場合があることが理解される。
してみれば,作製する個々のデバイスの形状・寸法を,設計のとおりのものとするために,改質領域を形成した位置と,改質領域から表面に向けて発生したクラックの先端部の位置の水平方向のずれが少なくなるように,改質領域を形成する位置と,研削後にウエーハの裏面に残るクラックの先端部の位置との距離(Z方向の距離)を小さくすることは,当業者が当然に考慮する事項といえる。
そうすると,研削後にウエーハの裏面に残るクラックの先端部の位置の制御性を高めるために,ウェハの内部にレーザ改質領域を形成するためのレーザ光の集光を,厚さが600μmであるウエーハの基板の中間位置より裏面側に寄った位置である,表面から300μmから600μmの範囲ではなく,より表面側に寄った位置である,表面から100μmから300μmの範囲に含まれる位置,すなわち,「前記ウェハの厚さ方向において前記ウェハの中間位置よりも前記ウェハの表面側に寄った位置」とすることは当業者が容易になし得たことといえる。
このことは,引用文献2の図24Bにおいて,引用発明と同様に,基板の裏面を,基板内部に形成された変質層を除去する一方で,ストリートに沿って形成された,表面に向けて変質層から発生したクラックが残るように研削する工程を含むウエーハの分割する際に,変質層形成工程のレーザ光を,前記ウェハの厚さ方向において前記ウェハの中間位置よりも前記ウェハの表面側に寄った位置に集光することが記載されていることからも明らかである。

イ さらに,引用発明は,「環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面にウエーハの裏面を貼着した状態で該ダイシングテープを拡張することによりウエーハに外力を付与し,ウエーハを該ストリートに沿って破断する」ものであり,引用発明の研削後のウエーハには,外力が付与される領域,すなわち,基板の表面とクラックの先端部との間の,クラックが到達していない領域が存在することは明らかである。
してみれば,研削後の時点において,ウエーハの基板の表面とクラックの先端部との間に,クラックが到達していない領域が存在することから,それよりも前の時点である,変質層形成工程の終了時点において,クラックが,基板の表面に到達していないことも自明である。
そうすると,引用発明において,上記アのとおり,レーザ改質領域形成手段が,「前記ウェハの厚さ方向において前記ウェハの中間位置よりも前記ウェハの表面側に寄った位置」にレーザ光を集光させて,ウェハの内部にレーザ改質領域を形成する際に,レーザ改質領域から,近い側の基板の表面にクラックが到達していないのであるから,レーザ改質領域から,遠い側の基板の裏面にはクラックが到達することはないといえる。
このことは,引用文献2の図24Bにおいて,引用発明と同様に,基板の裏面を,基板内部に形成された変質層を除去する一方で,ストリートに沿って形成された,表面に向けて変質層から発生したクラックが残るように研削する工程を含むウエーハの分割に際して,レーザ光を,前記ウェハの厚さ方向において前記ウェハの中間位置よりも前記ウェハの表面側に寄った位置に集光して変質層を形成した時点で,クラックが基板の裏面にまで達していないことからも明らかである。

ウ したがって,引用発明において,上記相違点1に係る本願発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
引用発明は,「パルスレーザー光線の集光点をウエーハの厚さ方向中間部に位置付け,この結果,ウエーハの基板には,ストリートに沿って厚さ方向中間部に変質層が形成され」,「変質層形成工程において形成される変質層をウエーハの表面から前記100μmの位置より裏面に形成する」ものであるから,パルスレーザー光線の集光点を精密に位置決めする必要があることは自明である。
そして,レーザー加工装置において,レーザー光線の集光点を精密に位置決めするために,対物レンズを光軸方向に微小移動させる対物レンズ微動手段を設けることは,引用文献6の「【0029】レーザー発振装置41により発振されたレーザー光は,コリメートレンズ42,ハーフミラー44,コンデンスレンズ46等の光学系を経てウェーハWの内部に集光される。なお,レーザー光の焦点のZ方向位置(鉛直方向位置)は,アクチュエータ47によってコンデンスレンズ46をZ方向に微小移動させることにより調節される。」との記載からも明らかなように周知である。
してみれば,引用発明において,「前記レーザ光の集光点の位置を精密に位置決めするために,前記対物レンズを光軸方向に微小移動させる対物レンズ微動手段」を備えることは当業者が適宜なし得たことである。
そして,引用発明は,パルスレーザー光線の集光点を「ウエーハの厚さ方向中間部」に位置付け,「変質層をウエーハの表面から前記100μmの位置より裏面に形成する」ものであり,その後の裏面研削工程において変質層が除去されるものである。
さらに,当該研削において,ウエーハには研削砥石から押圧力,剪断力が印加され,ウエーハの表面の温度が研削砥石との摩擦熱によって上昇することは自明であるところ,引用文献3の「なお,切断予定部を起点とした基板の切断には,次の2通りが考えられる。1つは,切断予定部形成後,基板に人為的な力が印加されることにより,切断予定部を起点として基板が割れ,基板が切断される場合である。これは,例えば基板の厚さが大きい場合の切断である。人為的な力が印加されるとは,例えば,基板の切断予定部に沿って基板に曲げ応力やせん断応力を加えたり,基板に温度差を与えることにより熱応力を発生させたりすることである。」との記載に照らして,ウエーハの研削に際して,前記押圧力,剪断力,摩擦熱によって生じる,クラックの微小な進展が伴うことは明らかといえる。
してみれば,引用発明において,「前記レーザ光の集光点の位置を精密に位置決めするために,前記対物レンズを光軸方向に微小移動させる対物レンズ微動手段」を備える場合,当該「対物レンズ微動手段」は,ウェハを裏面から研削する際にクラックを進展させつつクラックの一部を残してレーザ改質領域を除去できるように位置決めされるものといえる。
したがって,引用発明において,上記相違点2に係る本願発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

(3)そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用文献2ないし6に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

(4)請求人は,令和元年11月22日に提出した意見書において,「(ウ)すなわち,引用文献1は,『裏面研削工程』と『ウエーハ破断工程』との間に『膜分断工程』を行うことを開示するにすぎず,『膜分断工程』を捨象したあらゆる構成を示唆するものとはいえず,本願発明1の構成を直接開示ないし示唆するものとはいえない。」と主張する。
しかしながら,本願発明は,上記2に記載したとおりの,特定の構成を有する「レーザ改質領域形成手段」と,特定の構成を有する「対物レンズ微動手段」とを備える,レーザ加工システムという物の発明であって,当該レーザ加工システムによってレーザ改質領域を形成した後のウェハへの処理の態様を何ら限定するものではない。
そして,上記(1)ないし(3)で検討したように,本願発明に係るレーザ加工システムは,引用発明と引用文献2ないし6に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
したがって,請求人の前記主張は,請求項の記載に基づかないものであって採用することはできない。

(5)さらに,請求人は,「(キ)また,引用文献1の段落[0032]の『第2の実施形態においては,・・・この結果,図14に示すようにウエーハ2の基板21には,内部にストリート22に沿って変質層210が形成されるとともに,変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けてクラック211が発生する。』および図14の記載からみて,引用発明1においては,変質層形成工程が終了した時点では,変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けて発生したクラック211はそれぞれ表面21aおよび裏面21bに到達していることは明らかといえる。すなわち,引用発明1においては,レーザー光線が形成した変質層は,『前記レーザ改質領域から延びるクラックは前記ウェハの裏面にまで到達しない』位置に形成されているとはいえないものである。」と主張する。
しかしながら,引用発明において,レーザー光線が形成したレーザ改質領域から延びるクラックがウェハの裏面にまで到達しない位置に形成されていると判断されることは,上記相違点1についてで検討したとおりである。
なお,引用文献1の「変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けてクラック211が発生する。」との記載は,変質層から発生するクラックが進行する方向を説明するだけのものであって,当該クラックが,表面21aおよび裏面21bに到達することを特定するものとは,日本語の通常の用法からは解することはできないし,図14の記載が,厚さが600μmの基板に変質層を形成した場合のクラックの状態を写真のように図示したものと解することもできない。
すなわち,図14は,「図14に示すようにウエーハ2の基板21には,内部にストリート22に沿って変質層210が形成されるとともに,変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けてクラック211が発生する。」との記載からも明らかなように,変質層210から発生するクラック211の方向を説明するために記載された図であって,当該方向以外の事項については簡略化されているものと認められる。
このことは,引用文献1の第2の実施形態が,「【0036】上記膜分断工程を実施したならば,ウエーハ2に外力を付与しウエーハ2をストリート22に沿って破断するウエーハ破断工程を実施する。このウエーハ破断工程は,上記図12に示すテープ拡張装置6を用いて上記図13に示すウエーハ破断工程と同様に実施する。この結果,ウエーハ2の基板21はクラック211が形成されることによって強度が低下せしめられたストリート22に沿って破断され個々のデバイス23に分割される。」ものであって,ウエーハ破断工程の開始時点において,ウエーハ2の基板21はクラック211が形成されることによって強度が低下せしめられてはいるものの,一定の強度は保持していることから,クラック211がそれぞれ表面21aに到達しているということはできないにもかかわらず,図14がこれに対応していないことからも明らかである。
さらに,下記の周知例に記載された,レーザ光によって形成される微小亀裂の長さが,最大でおおよそ100μm程度にすぎないという技術常識に照らして,1回のレーザ光線の照射による多光子吸収によって形成された変質層から発生したクラックによって,厚さ600μmの基板の表面から裏面までを分割することが通常行われることがないと理解されることからも,引用文献1の図14に記載された第2の実施形態のクラックが,変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けて発生したクラック211のそれぞれが,厚さ600μmの基板の表面21aおよび裏面21bに到達していることを特定しているものと理解することはできない。
したがって,請求人の前記主張は採用することができない。

・周知例:特開2006-179790号公報
「【0031】
集光点Aにレーザ光Lが集光すると,部分的にシリコンの結晶状態が変化し,その結果,内部亀裂12が形成される。実験結果では,裏側表面10Bから入射したレーザ光Lによる内部亀裂12は,集光点Aより裏側表面10B方向と表側表面10F方向との両方向に進行して形成されることを確認した。その亀裂の進行方向の長さは,実験条件に依存するが,最大でおおよそ100μm程度であった。」

(6)小括
以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明及び引用文献2ないし6に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7 むすび
本願発明は,その原出願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載の発明及び引用文献2ないし6に記載された技術に基づいて,その原出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-01-10 
結審通知日 2020-01-14 
審決日 2020-01-31 
出願番号 特願2019-46061(P2019-46061)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 剛史  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 西出 隆二
加藤 浩一
発明の名称 レーザ加工システム  
代理人 松浦 憲三  

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