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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1360996
審判番号 不服2019-4403  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-04 
確定日 2020-04-07 
事件の表示 特願2015-167750「光学積層体、複合偏光板及び液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月 9日出願公開、特開2016- 71343、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成27年8月27日(先の出願に基づく優先権主張 平成26年9月30日)の出願であって、平成30年8月8日付けで拒絶理由が通知され、同年10月15日に意見書が提出され、同年12月20日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされ、これに対し、平成31年4月4日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。


2 原査定の概要
原査定の拒絶理由の概要は、本願の請求項1?4、8、9に係る発明は、本願の優先権主張の基礎とされた先の出願前(以下、「本願優先日前」という。)に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、本願優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、また、本願の請求項5?7に係る発明は、引用文献1及び引用文献2に記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

なお、原査定の拒絶理由において主引用発明が記載されている文献として引用された引用文献1、副引用文献として引用された引用文献2、周知技術を示す文献として引用された引用文献3及び引用文献4は、次のとおりである。

引用文献1:特表2010-528433号公報
引用文献2:特開2013-47794号公報
引用文献3:国際公開第2014/084046号
引用文献4:特開2012-113478号公報


3 本件発明
本願の請求項1?8に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明8」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりの発明である。
「 【請求項1】
屈折率異方性が異なる複数の薄膜で構成される多層積層体を延伸してなる反射型偏光板、及び前記反射型偏光板の上に積層される位相差板を含む光学積層体と、
前記光学積層体における前記反射型偏光板側に配置される吸収型偏光板と、
を含む複合偏光板であって、
前記反射型偏光板は、波長530nmにおける直交透過率Tx(530)及び波長590nmにおける直交透過率Tx(590)がいずれも5%以下であり、
前記位相差板は、波長590nmにおける面内位相差値が90?200nmであり、かつ厚み方向位相差値が70?200nmであり、
前記吸収型偏光板と前記反射型偏光板とは粘着剤又は接着剤のみを介して積層され、
前記位相差板は、前記反射型偏光板の上に粘着剤層又は接着剤層のみを介して積層される、複合偏光板。
【請求項2】
前記位相差板は、前記反射型偏光板の反射軸を基準に、その遅相軸が反時計回りに45±20°又は135±20°の範囲である、請求項1に記載の複合偏光板。
【請求項3】
前記位相差板は、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、酢酸セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂及び(メタ)アクリル系樹脂からなる群より選択される樹脂で構成される、請求項1又は2に記載の複合偏光板。
【請求項4】
前記吸収型偏光板は、偏光子と、その少なくとも一方の面に積層される樹脂フィルムとを含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の複合偏光板。
【請求項5】
前記反射型偏光板の反射軸と前記吸収型偏光板の吸収軸とのなす角度が0±4°である、請求項1?4のいずれか1項に記載の複合偏光板。
【請求項6】
前記吸収型偏光板は、前記偏光子と、その一方の面に接着剤層を介して積層される酢酸セルロース系樹脂フィルム又は環状ポリオレフィン系樹脂フィルムとを含み、
前記反射型偏光板は、前記偏光子の他方の面、又は前記酢酸セルロース系樹脂フィルム若しくは前記環状ポリオレフィン系樹脂フィルムの面に粘着剤層を介して積層される、請求項1?5のいずれか1項に記載の複合偏光板。
【請求項7】
液晶セルと、その上に積層される請求項1?6のいずれか1項に記載の複合偏光板と、を含む、液晶表示装置。
【請求項8】
バックライト、前記複合偏光板、及び前記液晶セルをこの順に含む、請求項7に記載の液晶表示装置。」


4 引用文献の記載事項及び引用発明
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先日前の平成22年8月19日に頒布された刊行物である特表2010-528433号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、以下の記載事項がある。なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。以下の文献についても同様である。

ア 「【0002】
(発明の分野)
本開示は、一般にバックライトと呼ばれる表示又は他の図形を後方から照明するのに適した広範な面積の光源に関する。この開示は、特に、実質的に1つの偏光状態の可視光だけを放射するバックライトに関するが必ずしもこれに限定されない。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0011】
出願人の見地では、既存のエッジリット・バックライトの欠点すなわち制限として、特にバックライトのサイズが大きい場合に光導体と関連した質量又は重量が比較的大きいこと、特定のバックライト・サイズと特定の光源構造用に光導体を射出成形や他の方法で製造しなければならないので、バックライト間で互換性のない構成要素を使用しなければならないこと、既存の抽出構造パターンと同様にバックライト内の位置に応じて実質的に空間上の不均一を必要とする構成要素を使用しなければならないこと、並びにバックライト・サイズが大きくなるほど、長方形の面積に対する周囲の長さの比率が、特徴的な面内寸法L(例えば、所定の縦横比の長方形では、バックライトの出力領域の長さ、幅、又は対角線寸法)と共に線形(1/L)に低下するので、表示装置の縁に沿った空間すなわち「占有体積」が制限されるため十分な照明を提供するのが困難になることがある。

(中略)

【0013】
既存のダイレクトリット・バックライトの欠点又は制限には、強力な拡散板と関連した効率の低さ、LED光源の場合、十分な均一性と輝度を得るためのそのような光源が多数必要なこと及びそれと関連した高い部品コストと発熱、並びに光源が不均一で望ましくない「突き抜け現象」(各光源の上の外側領域に明るい点が現れる)を発生させないバックライトの達成可能な薄さへの制限が挙げられる。

(中略)

【課題を解決するための手段】
【0015】
一態様において、本開示は、出力面を有する中空の光リサイクリング・キャビティーを形成する前面反射体と背面反射体を含むバックライトを提供する。バックライトは、また、光リサイクリング・キャビティー内に光を放射するように配置された1つ以上の光源を含む。前面反射体は、第1の平面内で偏光された可視光に関して少なくとも90%の軸上の平均反射率と、第1の平面と垂直な第2の平面内で偏光された可視光に関して少なくとも25%かつ90%未満の軸上の平均反射率と、を有する。

(中略)

【0017】
別の態様では、本開示は、表示パネルと、表示パネルに光を提供するように配置されたバックライトとを有する表示システムを提供する。バックライトは、出力面を有する中空の光リサイクリング・キャビティーを形成する前面反射体と背面反射体を含む。バックライトは、更に、光を光リサイクリング・キャビティー内に放射するように配置された1つ以上の光源を含む。前面反射体は、第1の平面内で偏光された可視光に関して少なくとも90%の軸上の平均反射率と、第1の平面と垂直な第2の平面内で偏光された可視光に関して少なくとも25%かつ90%未満の軸上の平均反射率と、を有する。」

イ 「発明を実施するための形態】
【0021】
一般に、本開示は、対象用途に適切な輝度及び空間の均一性を提供するバックライトについて述べる。そのようなバックライトは、いずれの適切な照明用途(例えば、表示装置、看板、全般照明など)に使用することができる。ある実施形態では、記載されるバックライトは、前面反射体と背面反射体によって構成された中空の光導体を有する。前面反射体は、部分的に透過性でよく、それにより、所望の光学特性又は光学特性の組み合わせを有する光の放射が可能になる。ある実施形態では、所望の光学特性には、特定の偏光状態を挙げることができ、他の実施形態では、所望の光学特性には、選定された視野角を有する放射光を挙げることができる。
【0022】
例示的な実施形態では、開示されたバックライトは、1)所望の偏光状態のリサイクリング量、2)キャビティー内の光の散乱度、及び3)キャビティー内に導かれる光の角度及び空間分布、の特性を平衡化する。この平衡/調整により、リサイクリングと必要に応じ制御された量の拡散とを使用して、光で実質的にキャビティーを(空間的かつ角度的に)満たすことができる。リサイクリングの量は、バックライトの効率と輝度との低下が最小の状態で所望のバックライト均一性を達成するのに十分である。また、この平衡により、高性能表示用途と適合した輝度と均一性を有するバックライトを提供することができるが、このバックライトは、また、これまで達成できなかった物理的プロポーション(例えば、薄型設計)又は光学特性(例えば、所定の光源放射面積のための大きな出力領域)を有する。
【0023】
ある実施形態では、この平衡化は、通過状態で中間の軸上の平均反射率を有する前面反射体を使用することにより得られる。例示的な実施形態では、前面反射体は、第1の平面内で偏光された可視光に関して少なくとも90%の軸上の平均反射率と、第1の平面と垂直な第2の平面内で偏光された可視光に関して少なくとも25%かつ90%未満の軸上の平均反射率と、を有する。

(中略)

【0041】
本明細書で使用されるとき、用語「許容可能な空間均一性」とは、全体的な強度とカラーの両方の許容可能な均一性を指す。何が許容可能な輝度と空間均一性と見なされるかは、バックライトが使用される特定の用途に依存する。

(中略)

【0048】
本明細書で言及されるとき、本開示のバックライトを表示システムのバックライトとして利用することができる。図1に、ダイレクトリット表示システム100の一実施形態の概略断面図を示す。このような表示システム100は、例えば、液晶モニタ又は液晶テレビで使用されてもよい。表示システム100は、表示パネル150と、パネル150に光を提供するように位置決めされた照明アセンブリ101とを含む。示した実施形態では、表示パネル150は、液晶パネルを含む(以後、液晶パネル150と呼ぶ)。液晶パネル150は、一般に、パネル板154間に配置された液晶層152を含む。パネル板154は、ガラスで形成されることが多く、その内側面に液晶層152の液晶の配向を制御するための電極構造とアラインメント層を有することがある。これらの電極構造は、一般に、液晶パネル画素、即ち液晶の配向を隣接領域と関係なく制御することができる液晶層の領域を画定するように構成される。また、1つ以上の板152と共に、液晶パネル150によって表示された画像に色付けするためのカラー・フィルタが含まれてもよい。
【0049】
液晶パネル150は、上側吸収偏光子156と下側吸収偏光子158との間に位置する。示した実施形態では、上側吸収偏光子156と下側吸収偏光子158は、液晶パネル150の外側にある。吸収偏光子156,158と液晶パネル150は組み合わせで、バックライト110から表示システム100を介して観察者までの光の透過を制御する。例えば、吸収偏光子156、158は、その透過軸が互いに垂直な状態で配列されてもよい。液晶層152の画素は、非活動状態で、通過する光の偏光を変化させないことがある。したがって、下側吸収偏光子158を通過する光は、上側吸収偏光子156に吸収される。画素が活動化されたとき、通過する光の偏光は、下側吸収偏光子158を透過する光の少なくとも一部分が上側吸収偏光子156も透過すように回転される。例えば制御装置104が液晶層152の異なる画素を選択的に活動化すると、光が表示システム100の特定の所望の位置から出て、それにより観察者が見ることができる画像が形成される。制御装置104は、例えば、コンピュータ、又はテレビ画像を受信して表示するテレビ制御装置を含み得る。

(中略)

【0052】
照明アセンブリ101は、バックライト110を含み、必要に応じて、バックライト110と液晶パネル150との間に位置する1つ以上の光処理フィルム140を含む。バックライト110は、本明細書で述べるいずれかのバックライト、例えば図2のバックライト200を含むことができる。
【0053】
光処理ユニットと呼ばれることもある光処理フィルムの配列140は、バックライト110と液晶パネル150との間に位置する。光処理フィルム140は、バックライト110から伝搬する照明光に作用する。例えば、光処理フィルムの配列140は、拡散体148を含むことがある。拡散体148は、バックライト110から受け取った光を拡散するために使用される。
【0054】
拡散層148は、いずれの好適な拡散被膜又はプレートであってもよい。例えば、拡散層148は、いずれの好適な拡散材を含んでいてもよい。ある実施形態では、拡散層148は、ガラス、ポリスチレンビーズ、及びCaCO_(3)粒子を含むさまざまな分散相を有するポリメチルメタクリレート(PMMA)の高分子マトリックスを含んでもよい。例示的な拡散体には、ミネソタ州セントポールの3M社から入手可能な3M(登録商標)Scotchcal(登録商標)拡散フィルム、タイプ3635-30、3635-70及び3635-100がある。
【0055】
いずれの光処理ユニット140は、反射偏光子142を含んでもよい。反射偏光子142には、例えば、多層光学フィルム(MOF)反射偏光子、連続/分散相偏光子などの拡散反射偏光フィルム(DRPF)、ワイヤ・グリッド反射偏光子、又はコレステリック反射偏光子などのいずれの適切なタイプの反射偏光子を使用することができる。
【0056】
MOF及び連続/分散相反射偏光子の双方は、直交に偏光した状態で光を透過しながら、選択的に1つの偏光状態の光を反射するために、少なくとも2つの材料、通常、高分子材料間の屈折率の差に依存する。MOFの反射偏光子の幾つかの例は、共有米国特許第5,882,774号(ジョンザ(Jonza)他)に示されている。MOF反射偏光子の市販の例には、3M Companyから入手可能な拡散面を含むVikuiti(登録商標)DBEF-D200及びDBEF-D440多層反射偏光子がある。

(中略)

【0060】
ある実施形態では、拡散体板148と反射偏光子142との間に偏光制御層144が提供されることがある。偏光制御層144の例には、4分の1波長の遅延層と、液晶偏光回転層などの偏光回転層がある。偏光制御層144は、反射偏光子142を透過するリサイクリング光の一部が増えるように反射偏光子142から反射される光の偏光を変化させるために使用されてもよい。
【0061】
光処理フィルムの選択的な配列140は、1つ以上の輝度強化層を含んでもよい。輝度強化層は、軸から外れた光の向きをディスプレイの軸に近い方向に変化させることができる。これは、液晶層152を通って軸上を伝播する光の量を増やし、それにより観察者が見る画像の輝度が高まる。輝度強化層の一例は、照明光を屈折と反射で変化させる幾つかのプリズム隆起部を有するプリズム輝度強化層である。表示システム100で使用されることがあるプリズム輝度強化層の例には、BEF II 90/24、BEF II 90/50、BEF IIIM 90/50及びBEF IIITを含む、3M Companyから入手可能なVikuiti(登録商標)BEF II及びBEF III系のプリズムフィルムが入手可能である。輝度強化は、本明細書で更に詳しく説明される前面反射体の実施形態の幾つかによって提供しすることが可能である。
【0062】
図1に示した例示的な実施形態は、反射偏光子142と液晶パネル150との間に配置された第1の輝度強化層146aを示す。プリズム輝度強化層は、一般に、一次元の光学利得を提供する。また、光処理層の配列140には、第1の輝度強化層146aのプリズム構造に直角に向けられたプリズム構造を有する選択的な第2の輝度強化層146bが含まれてもよい。そのような構成は、表示システム100の光学利得を二次元で増大させる。他の例示的な実施形態では、輝度強化層146a、146bは、バックライト110と反射偏光子142との間に配置されてもよい。

(中略)

【0064】
図1に示された実施形態の表示システム100は、本明細書に記載された適切ないずれのバックライトを含むことができる。例えば、図2は、エッジリット・バックライト200の一実施形態の概略断面図である。特に指示しない限り、「バックライト」に関する言及は、その対象用途において名目的に均一な照明を提供する他の広範な面積照明装置にも当てはまる。また、バックライト200は、中空の光リサイクリング・キャビティー202を形成する前面反射体210と背面反射体220を含む。キャビティー202は、出力面204を有する。また、バックライト200は、キャビティー202内に光を放射するように配置された1つ以上の光源230を含む。バックライト200は、必要に応じて、光源を含まない側に、光リサイクリング・キャビティー200の周囲を取り囲む側面又は反射体250を含んでもよい。

(中略)

【0071】
前面反射体210は、前面反射体が、所望の光学特性を有する放射光を提供するようにいずれの適切なフィルム及び/又は層を有することができる。一つの例示的な実施形態では、前面反射体210は、1つ以上の複屈折多層光学フィルムを含むことができる。例えば、「光学フィルム(OPTICAL FILM)」と題する米国特許第5,882,774号(ジョンザ(Jonza)他)、「多層光学フィルム反射体を有するバックライトシステム(BACKLIGHT SYSTEM WITH MULTILAYER OPTICAL FILM REFLECTOR)」と題する米国特許第6,905,220号(ウォルトマン(Wortman)他)、「高効率光学素子(HIGHT EFFICIENCY OPTICAL DEVICES)」と題する米国特許第6,210,785号(ウェーバー(Weber)他)、及び「多層光学フィルムの製造装置(APPARATUS FOR MAKING MULTILAYER OPTICAL FILMS)」と題する米国特許第6,783,349号(ネービン(Neavin)他)を参照されたい。
【0072】
多層光学フィルム、即ち、屈折率の異なるミクロ層を配列することによって望ましい透過特性及び/又は反射特性を少なくとも部分的にもたらすフィルムが知られている。一連の無機材料を真空槽内で基材上の光学的に薄い層(「ミクロ層」)に堆積させることによって、そのような多層光学フィルムを製作することが知られている。無機多層光学フィルムは、例えば、H.A.マクロード(H. A. Macleod)「薄膜光学フィルタ(Thin-Film Optical Filters)」2nd Ed.,Macmillan Publishing Co.(1986)と、A.テラン(A. Thelan)「光干渉フィルタの設計(Design of Optical Interference Filters)」McGraw-Hill,Inc.(1989)に記載されている。

(中略)

【0075】
多層光学フィルムは、通常、異なる屈折率特性を有する個別のミクロ層を含み、その結果一部の光が隣接ミクロ層間の境界面で反射される。ミクロ層は、複数の境界面で反射された光が、発展的又は破壊的干渉を受けて多層光学フィルムに所望の反射又は透過特性を提供できるほど薄い。紫外線波長、可視光波長、又は近赤外線波長の光を反射するように設計された多層光学フィルムの場合、各ミクロ層は、一般に、約1μm未満の光学厚さ(物理的厚さ×屈折率)を有する。しかしながら、多層光学フィルムの外側表面の表皮層、又は多層光学フィルム間に配置され干渉性なミクロ層群を分離する保護境界層(PBL)などのもっと厚い層を含むこともできる。そのような多層光学フィルム本体は、積層体内の2つ以上の多層光学フィルムを接合するために1つ以上の厚い接着層を含むこともできる。」
合議体注:図1及び図2は次のとおりのものである。


ウ 「【0081】
図3は、従来の多層光学フィルム300を示す。フィルム300は、個別のミクロ層302,304を含む。ミクロ層は、隣接するミクロ層間の境界面で一部の光が反射されるように異なる屈折率特性を有する。ミクロ層は、複数の境界面で反射された光が、発展的又は破壊的干渉を受けて膜に所望の反射又は透過特性を提供できるような薄さである。光を紫外線波長、可視光波長、又は近赤外線波長で反射するように設計された光学フィルムの場合、各ミクロ層は、一般に、約1μm未満の光学厚さ(即ち、物理的厚さ×屈折率)を有する。しかしながら、フィルムの外側表面における表皮層、又はミクロ層のパケットを分離する、フィルム内に配置された保護境界層などのより厚い層も含むことができる。

(中略)

【0083】
実際には、屈折率は、賢明な材料選択及び加工条件によって制御される。フィルム300は、典型的には数十又は数百の2つの高分子の交互層A、Bを同時押出形成し、その後で、必要に応じて多層押出物を1つ以上の倍増ダイに通し、次に押出物を伸張又は他の方法で延伸させて最終フィルムを形成することによって作製することができる。得られたフィルムは、典型的には数十又は数百の個々のミクロ層で構成されており、その厚み及び屈折率は、可視又は近赤外などの所望のスペクトル領域において1つ以上の反射バンドをもたらすように調整されている。妥当な数の層で高い反射率を達成するために、隣接ミクロ層のX軸の方向に偏光された光の屈折率の差(Δn_(x))は少なくとも0.05でよい。2つの直交する偏光に高い反射率が必要な場合、隣接ミクロ層のY軸の方向に偏光された光の屈折率の差(Δn_(y))は少なくとも0.05でよい。」
合議体注:図3は以下のとおりのものである。


エ 「【0118】
以下の実施形態では、利得立方体の上にSanritz、モデルHLC2-5618S吸収偏光子が配置され、ドイツ国カールスルーエ(Karlsruhe)のautronic-MELCHERS社から入手可能なConoscope(登録商標)光学測定システムを使用してコノスコープ輝度を測定した。利得立方体の上に吸収偏光子を配置することによって基準線測定を実行した。次に、利得立方体の上に種々の前面反射体を配置し、前面反射体の上に吸収偏光子を配置した。そして、この構成で行われたコノスコープ輝度の測定により、単純なリサイクリングバックライト輝度の変化が、観察者の(測定)観測角の関数になることが実証された。種々の前面反射体実施形態に関する測定輝度値が示され、アジマス角が0°と90°の場合に法線からグレージング角までの角度範囲で輝度をプロットした。アジマス角が0°の場合、吸収偏光子通過軸と整合された光はs偏光され、アジマス角が90°の場合、吸収偏光子通過軸と整合された光はp偏光される。
【0119】
図29は、単一のBEFシートの輝度と極角の関係を示すグラフである。曲線2902及び2904はそれぞれ、0°と90°でのBEFを表わし、曲線2906及び2908はそれぞれ、BEFなしの0°と90°での吸収偏光子を表わす。直角円錐への輝度は、1.605倍になり、輝度強化は、90°アジマス面に沿った(溝の方向の)広い角度範囲と、0°アジマス面に沿った(溝に垂直方向の)狭い角度範囲に広がった。更に、高角度での輝度は、出力面に吸収偏光子だけを有する利得立方体の出力より大幅に低下した。
【0120】
図30は、交差した2枚のBEFの輝度と極角の関係を示すグラフである。曲線3002及び3004はそれぞれ、0°と90°で交差BEFを表わし、曲線3006及び3008はそれぞれ、交差BEFなしの0°と90°における吸収偏光子を表わす。直角円錐への輝度は、2.6倍になり、輝度強化は、90°アジマス面と0°アジマス面の両方に沿ってかなり狭くなる。
【0121】
図31は、上に重なった吸収偏光子の通過軸と整合された通過軸を有するAPF(実施例の記載で更に説明)の輝度と極角の関係を示すグラフである。曲線3102及び3104はそれぞれ、0°と90°におけるAPFを表わし、曲線3106及び3108はそれぞれ、APFなしの0°と90°における吸収偏光子を表す。APF前面反射体は、直角円錐への輝度を1.72倍にし、輝度強化は、90°アジマス面では高角度まで極めて広いままであり、0°アジマスに沿って狭くなる。
【0122】
図32は、上に重なった吸収偏光子の通過軸と整合された通過軸を有するDBEFの輝度と極角の関係を示すグラフである。曲線3202及び3204はそれぞれ、0°と90°におけるDBEFを表わし、曲線3206及び3208はそれぞれ、DBEFなしの0°と90°における吸収偏光子を表わす。DBEF前面反射体は、直角円錐への輝度を1.66倍にし、APF前面反射体と同様に、輝度強化、90°アジマス面の場合は大きな角度まで極めて広いままであり、0°アジマスに沿って狭くなった。」
合議体注:図29?32は、次のとおりのものである。


オ 「【実施例】
【0234】
以下の実施例は、種々のサイズのエッジリット及びダイレクトリット・バックライト構成を含む。以下の表2に示したように、試験されるバックライトは、前面反射体と背面反射体の両方に異なるフィルムを有していた。
【0235】
前面反射体フィルムと背面反射体フィルム
以下は、実施例で使用される前面反射体フィルムと背面反射体フィルムの説明である。

(中略)

【0266】
APF; 3M Companyから入手可能な多層反射偏光フィルム。APFは、51.0%の半球反射率を有した。」

(2)引用文献1に記載された発明
前記記載事項イに基づけば、引用文献1には、表示システムとして、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていたと認められる。
「表示パネルと、パネルに光を提供するように位置決めされた照明アセンブリとを含む表示システムであって、
表示パネルは、液晶パネルを含み、
液晶パネルは、上側吸収偏光子と下側吸収偏光子との間に位置し、
照明アセンブリは、バックライトを含み、バックライトと液晶パネルとの間に位置する1つ以上の光処理フィルムを含むものであり、
光処理フィルムは、拡散体を含み、
光処理ユニットは、反射偏光子を含み、反射偏光子には、多層光学フィルム(MOF)反射偏光子を使用することができ、
拡散体板と反射偏光子との間に、4分の1波長の遅延層である、偏光制御層が提供され、偏光制御層は、反射偏光子を透過するリサイクリング光の一部が増えるように反射偏光子から反射される光の偏光を変化させるために使用され、
光処理フィルムは、1つ以上の輝度強化層を含み、輝度強化層は、バックライトと反射偏光子との間に配置される、
表示システム。」

(3)引用文献3の記載事項
原査定の拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、本願優先日前の2014年(平成26年)6月5日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された国際公開第2014/084046号(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに以下の記載事項がある。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、薄膜ガラスにλ/4位相差層を設けた位相差機能付きガラスと、それを備えた有機EL(Electro-Luminescence)表示装置および液晶表示装置とに関するものである。

(中略)

発明が解決しようとする課題
[0007] ところで、フィルム付き薄膜ガラスに、透過光に対して波長λ(nm)の1/4程度の面内位相差を付与するλ/4位相差フィルムを貼り合わせることで、位相差機能付きガラスを構成することができるが、フィルム付き薄膜ガラスのフィルム自体にλ/4位相差フィルムとしての機能を持たせることができれば、λ/4位相差フィルムを別途貼り合わせる構成に比べて、全体の層数を1つ減らすことができるため、薄型化およびコスト低減に有利となる。
[0008] このとき、λ/4位相差フィルムとしての機能を持つ層(以下、λ/4位相差層と称する)が、従来の接着剤(アクリル系粘着剤やエポキシ樹脂)によって薄膜ガラスに接着されていると、以下の問題が生ずる。
[0009] すなわち、上記の位相差機能付きガラスは、例えば有機EL表示装置の封止ガラスに適用することが可能であるが、薄膜ガラスに対してλ/4位相差層が有機EL素子側に位置するように位相差機能付きガラスを配置すると、使用時に有機EL素子にて発生した熱(発光層の熱)が薄膜ガラスよりも内側(有機EL素子側)に閉じ込められるため、その熱の影響でλ/4位相差層の寸法変化(樹脂の伸縮)が起こりやすくなり、位相差ムラが発生しやすくなる。

(中略)

[0012] 本発明の目的は、前記の事情に鑑み、薄膜ガラス上に接着剤を介してλ/4位相差層を積層した構成であっても、耐久試験時の環境変動によるλ/4位相差層の寸法変化を抑えて位相差ムラを抑えることができる位相差機能付きガラスと、それを備えた有機EL表示装置および液晶表示装置とを提供することにある。
課題を解決するための手段
[0013] 本発明の上記目的は以下の構成により達成される。
[0014] 1.薄膜ガラスとλ/4位相差層とが接着層を介して積層されており、
前記接着層は、反応性金属化合物と水酸基含有高分子化合物との縮合物を含んでいることを特徴とする位相差機能付きガラス。

(中略)

発明の効果
[0023] 反応性金属化合物に含まれる金属成分は、ガラス成分と共有結合することができる。一方、水酸基含有高分子化合物は、水酸基を含んでおり、樹脂との親和性が高い。このため、薄膜ガラスとλ/4位相差層とを接着する接着層が、反応性金属化合物と水酸基含有高分子化合物との縮合物であり、反応性金属化合物の特性と水酸基含有高分子化合物の特性とを両方持つことにより、薄膜ガラスとλ/4位相差層との両方に対して良好な接着性を確保することができる。そして、上記接着層を介して、薄膜ガラスとλ/4位相差層との密着性を向上させることができる。これにより、耐久試験時の環境変動によるλ/4位相差層の寸法変化を抑えることができ、位相差ムラが発生するのを抑えることができる。また、一般的に、有機系の化合物と無機系の化合物とは相溶性に乏しいが、これらの縮合物を構成することで、単層構造で双方の特性を有する接着層を容易に実現することができる。」

イ 「[0047] 〔液晶表示装置の構成〕
図4は、本実施形態の液晶表示装置51の概略の構成を示す断面図である。上記した位相差機能付きガラス3は、液晶表示装置51にも適用することができる。
[0048] 液晶表示装置51は、液晶パネル52と、液晶パネル52を照明するバックライト53とを有している。液晶パネル52は、2枚の基板61・62で液晶層63を挟持して構成されている。液晶層63は、2枚の基板61・62間でシール材64によってシールされている。また、基板61・62の外側(液晶層63とは反対側)には、偏光板(図示せず)がクロスニコル状態で配置されている。
[0049] 2枚の基板61・62は、それぞれ上記の位相差機能付きガラス3で構成されている。このとき、使用時に発生する熱(例えば液晶セルの電極で発生する熱)によるλ/4位相差層33の寸法変化を抑えるため、位相差機能付きガラス3は、λ/4位相差層33が薄膜ガラス31に対して液晶層63とは反対側に位置するように配置される。また、基板61・62においては、λ/4位相差層33の遅相軸は互いに垂直となるようにし、外側の2枚の偏光板の透過軸も互いに垂直となるようにする。
[0050] 基板62の液晶層63側には、各画素に対応する画素電極と、各画素における表示のON/OFFを制御するためのスイッチング素子であるTFT(Thin Film Transistor)と、TFTと接続される各種配線(走査線、信号線を含む)と、液晶分子を配向させるための配向膜とが形成されている。基板61の液晶層63側には、共通電極と、カラー表示を行うためのカラーフィルタと、配向膜とが形成されている。
[0051] 上記の構成において、バックライト53から出射された光のうち、基板62の外側の偏光板を透過した光(直線偏光)は、基板62を介して液晶層63に入射し、液晶層63の厚み方向に伝播しながら、液晶のもつ屈折率異方性(複屈折)に応じてその偏光状態が変化する。液晶層63を介して基板61に入射した光のうち、特定方向の偏光成分の光だけが基板61の外側の偏光板を通過し、表示光として視認側に出射される。したがって、TFTのON/OFF制御により、各画素ごとに液晶層63に印加する電圧を変化させて液晶分子の配向を変化させることにより、映像を表示することができる。
[0052] また、液晶層63を挟むように、λ/4位相差層33を位置させることで、液晶のディスクリネーション部分(液晶の配向が不連続となる部位)が存在することによる輝度低下を改善することができるが、位相差機能付きガラス3を用いることで、耐久試験時の環境変動による位相差ムラの発生を抑えることができるので、環境変動に関係なく上記した輝度低下の改善を画面全体で均一に図ることができる。
[0053] なお、このような効果は、2枚の基板61・62の一方のみが位相差機能付きガラス3で構成されていても(他方の基板がPSAなどの従来の接着剤によってλ/4位相差層とガラスとを接着したものであっても)得ることができるが、両方の基板61・62を位相差機能付きガラス3で構成することで、その効果を最大限得ることができる。

(中略)

[0058] 〔各層の詳細について〕
以下、位相差機能付きガラスを構成する各層の詳細について説明する。

(中略)

[0070] (λ/4位相差層)
λ/4位相差層は、所定の光の波長(通常、可視光領域)に対して、フィルムの面内位相差が約1/4となるフィルムをいう。λ/4位相差層は、可視光の波長の範囲においてほぼ完全な円偏光を得るため、可視光の波長の範囲において概ね波長の1/4の位相差を有する広帯域λ/4位相差フィルムであることが好ましい。
[0071] 本実施形態のλ/4位相差層の面内位相差Roおよび膜厚方向の位相差Rtは、それぞれ以下の式で表される。なお、位相差の値は、たとえばAxometrcs社製のAxoscanを用いて、23℃、55%RHの環境下で、各波長での複屈折率を測定することにより算出することができる。
[0072] Ro=(nx-ny)×d
Rt=〔(nx+ny)/2-nz〕×d ただし、式中、nx、ny、nzは、それぞれ23℃、55%RHの環境下で測定した、550nmにおける屈折率であり、nxはフィルムの面内の最大の屈折率(遅相軸方向の屈折率)であり、nyはフィルム面内で遅相軸に直交する方向の屈折率であり、nzはフィルム面内に垂直な厚さ方向の屈折率であり、dはフィルムの厚さ(nm)である。
[0073] λ/4位相差層の面内位相差Roは、115?160nmであればよく、好ましくは120?160nmであり、より好ましくは130?150nmである。Roが115?160nmの範囲を超える場合、波長550nmにおける位相差が概ね1/4波長とならず、このようなフィルムを用いて長尺円偏光板を作製して例えば有機ELディスプレイに適用した場合に、室内照明の映り込みなどが激しく、明所では黒色が表現できなくなる傾向がある。
[0074] λ/4位相差層の膜厚方向の位相差Rtは、60?200nmの範囲内であることが好ましく、70?150nmの範囲内であることがより好ましく、70?100nmの範囲内であることがさらに好ましい。Rtが60?200nmの範囲を超える場合、大画面で斜めから見たときの色相が劣化してしまう傾向がある。
[0075] λ/4位相差層としては、光学的に透明な樹脂であれば特に限定はなく、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、セルロース系樹脂などを用いることができる。
[0076] 中でも、λ/4位相差層としては、耐久試験時の耐熱性を考慮して、セルロース系樹脂を用いることが好ましい。」
合議体注:図4は次のとおりのものである。


(4)引用文献4の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先日前の平成24年6月14日に頒布された刊行物である特開2012-113478号公報(以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに、以下の記載事項がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は一般にタッチパネルに関し、より特定的には光学特性に優れ、かつLCD(Liquid Crystal Display)上部に搭載した際の視野角特性が優れたタッチパネルに関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記されているような表面低反射タッチパネルは、外光反射を抑制して視認性を向上させるために、最表面に偏光板を配置することが必須であり、そのためにディスプレイの輝度が低下する。特にディスプレイの正面よりも斜めから見た際の輝度が低下する課題を持っていた。
【0009】
また、ポリカーボネート等の、ガラス転移点が150℃以下の素材からなる位相差フィルムは、フィルム111上にITO(酸化インジウムスズ)を製膜する際に、例えばTg=150℃のフィルムでは、フィルム温度を140℃以上に設定することができず、製膜されるITOの結晶が低いものしか得られない、ひいては、機械的、熱的負荷がかかった際に、抵抗値が大きく変化してしまい、それによって耐久性の低い膜質のITOしか得られないという課題があった。
【0010】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、耐久性の高いITO透明電極膜を得ることができ、機械的、熱的負荷、入力動作に対しても耐久性が高く、かつ斜め方向からディスプレイを見た際に輝度の低下が少ないタッチパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るタッチパネルは、位相差π/2を生じさせるλ/4板(四分の一波長板)で、Nz係数が1.4?1.7になるようにされた位相差フィルムを用いてなる。
【0012】
波長板とは、直交する偏光成分の間に位相差を生じさせる複屈折素子のことである。位相板とも呼ばれる。位相差π(180°)を生じるものをλ/2板または半波長板と呼び、直線偏光の偏光方向を変えるために用いる。位相差π/2(90°)を生じるものをλ/4板または四分の一波長板と呼び、直線偏光を円偏光(楕円偏光)に変換、また逆に円偏光(楕円偏光)を直線偏光に変換するために用いる。これらは光を吸収せず、位相のみを変える。本発明では、λ/4板(四分の一波長板)で、Nz係数が1.4?1.7になるようにされた位相差フィルムを用いることにより、斜め方向からディスプレイを見た際に輝度の低下が少ないタッチパネルが得られることが見出された。

(中略)

【発明の効果】
【0015】
本発明に係るタッチパネルによれば、左右方向に45度傾斜させた角度での透過率が高くなり、ディスプレイの輝度向上に効果があることが確認された。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0017】
斜め方向からディスプレイを見た際に輝度の低下が少ないタッチパネルを得るという目的を、λ/4板(四分の一波長板)で、Nz係数が1.4?1.7になるようにされた位相差フィルムを用いることによって実現した。
【0018】
タッチパネルは、表面に透明導電膜が形成された2つの基板を透明導電膜が対向するように所定の間隔をあけて配置してなる。少なくとも一方の基板が、ノルボルネンとエチレンとの共重合比率が80:20?90:10、MVR(メルトボリュームレート)が0.8?2.0cm^(3)/10分である、ガラス転移温度が150℃以上の環状オレフィンの付加(共)重合体よりなる面内位相差がπ/2(90°)、Nz係数が1.4?1.7である位相差フィルムを用いてなる。これにより、機械的、熱的負荷、入力動作に対しても耐久性が高く、かつ斜め方向からディスプレイを見た際に輝度の低下が少ない円偏光型の低反射タッチパネルが得られるのである。」

ウ 「【0019】
(実施例1-1):位相差フィルムの作成
【0020】
ノルボルネンとエチレンとの共重合比率が、82:18であり、ガラス転移温度180℃、MVR=1.5の共重合体を溶融押出法にて樹脂温度300℃、引取りロール温度130℃で、厚みが200μmになるようにフィルムを作成した。次いでフィルム温度を186℃に保った状態で、テンタークリップ方式の横延伸装置により、TD延伸倍率が2.0になるように延伸することによって、厚み100μmのフィルムを得た。得られたフィルムは、リタデーション138nm、Nz係数1.5であった。得られたフィルムはタッチパネル作成に必要なコーティング、スパッタ等のロールtoロールでの表面処理プロセスに耐え、打抜き加工でもクラック等の発生がないことを確認した。得られたフィルムの特性を表1に示す。表1には、後述する比較例1-1の場合も併せて記載されている。
【表1】

【0021】
異方性物質に入射する光が互いに垂直な振動方向を持つ2つの光(常光線と異常光線)に分離する現象を複屈折といい、リタデーション(Retardation)とは、常光線と異常光線の位相差をいう。位相遅れともいう。常光線に対する屈折率をno、異常光線に対する屈折率をneとし、異方性物質の厚みをdとすると、リタデーション(Re)は、異常光線に対する屈折率(ne)と常光線に対する屈折率(no)の差(Δn)と、異方性物質の厚み(d)から式(1)であらわされる。ノルボルネンとエチレンとの共重合体フィルムの延伸によって、リタデーションは制御されるが、その延伸手法に特に限定はない。外部応力が強いほど複屈折が大きくなり、リタデーションも大きくなる。リタデーション(Re)が138のものが、位相差π/2(90°)を生じるλ/4 板になる。
【数1】

【0022】
Nz係数は、屈折率成分n_(x),n_(y),n_(z)の大小関係を表す指標の1つで、式(2)で定義される。ここで、n_(x)及びn_(y)はフィルム面内の屈折率、n_(z)はフィルム面に垂直な方向の屈折率であり、延伸したものが戻ろうとする力に関連している。Nz係数が1.4?1.7は、横延伸(TD方向)することによって得られる。
【数2】



5 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。

(ア)反射型偏光板
引用発明の「多層光学フィルム(MOF)反射偏光子」は、技術的にみて、本件発明1の「屈折率異方性が異なる複数の薄膜で構成される多層積層体を延伸してなる反射型偏光板」に相当する。

(イ)位相差板
引用発明の「偏光制御層」は「4分の1波長の遅延層」である。そうすると、引用発明の「偏光制御層」は、本件発明1の「位相差板」に相当する。
そして、引用発明の「偏光制御層」は「4分の1波長の遅延層」であるから、その面内位相差値は、147.5nm(合議体注:590nm÷4=147.5nm)と考えられる。そうすると、引用発明の「偏光制御層」は、本件発明1の「前記位相差板は、波長590nmにおける面内位相差値が90?200nm」とする要件を満たしている。

(ウ)光学積層体
引用発明の「光処理フィルム」は、上記「反射偏光子」及び上記「偏光制御層」を含むものである。そうすると、引用発明の「光処理フィルム」は、本件発明1の「屈折率異方性が異なる複数の薄膜で構成される多層積層体を延伸してなる反射型偏光板、及び前記反射型偏光板の上に積層される位相差板を含む光学積層体」に相当する。

(エ)吸収型偏光板
引用発明の「上側吸収偏光子」及び「下側吸収偏光子」のうち、「照明アセンブリ」側に配置される「吸収偏光子」は、「反射偏光子」を含む「光処理フィルム」側に配置されているといえる。そうすると、引用発明の「下側吸収偏光子」は、本件発明1の「前記光学積層体における前記反射型偏光板側に配置される吸収型偏光板」に相当する。

(オ)複合偏光板
引用発明の上記「照明アセンブリ」側に配置される「吸収偏光子」及び上記「反射偏光子」を含む「光処理フィルム」は、一体として偏光子の複合体として機能するものである。そうすると、引用発明の「照明アセンブリ」側に配置される「吸収偏光子」及び「光処理フィルム」は、本件発明1の「複合偏光板」を構成しているといえる。
そして、引用発明の「吸収偏光子」と「反射偏光子」とは、本件発明1における「積層され」るとする要件を満たしており、引用発明の「偏光制御層」は、本件発明1の「反射型偏光板の上に」「積層される」とする要件を満たしている。

(カ)一致点及び相違点
以上より、本件発明1と引用発明とは、
「屈折率異方性が異なる複数の薄膜で構成される多層積層体を延伸してなる反射型偏光板、及び前記反射型偏光板の上に積層される位相差板を含む光学積層体と、
前記光学積層体における前記反射型偏光板側に配置される吸収型偏光板と、
を含む複合偏光板であって、
前記位相差板は、波長590nmにおける面内位相差値が90?200nmであり、
前記吸収型偏光板と前記反射型偏光板とは積層され、
前記位相差板は、前記反射型偏光板の上に積層される、複合偏光板。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]反射型偏光板が、本件発明1は「波長530nmにおける直交透過率Tx(530)及び波長590nmにおける直交透過率Tx(590)がいずれも5%以下」であるのに対し、引用発明は直交透過率Tx(530)及びTx(590)の範囲を特定していない点。
[相違点2]位相差板が、本件発明1は厚み方向位相差値が「70?200nm」であるのに対し、引用発明は厚み方向位相差値を特定していない点。
[相違点3]本件発明1は、吸収型偏光板と反射型偏光板とが「粘着剤又は接着剤のみを介して」積層され、位相差板が、反射型偏光板の上に「粘着剤層又は接着剤層のみを介して」積層されるのに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑みて、上記[相違点2]について検討する。
引用文献1には、「偏光制御層」について、「偏光制御層144は、反射偏光子142を透過するリサイクリング光の一部が増えるように反射偏光子142から反射される光の偏光を変化させるために使用されてもよい。」(段落【0060】)と記載されており、偏光制御層の例として、「4分の1波長の遅延層」の他に「液晶偏光回転層などの偏光回転層」も挙げられている。上記記載に基づけば、引用発明における「偏光制御層」は、光の偏光の向きを回転させ、反射偏光子を透過することができるようにするための部材であるといえる。そうすると、偏光の向きを回転させるために、面内位相差値を調整することが自明であるといえるものの、厚み方向位相差値について特定の範囲に調整する動機付けがあるということができない。
引用文献1には、「本明細書で使用されるとき、用語「許容可能な空間均一性」とは、全体的な強度とカラーの両方の許容可能な均一性を指す。」(段落【0041】)との記載があり、「カラー」の均一性も、解決しようとする課題の一つであるということができるとしても、上記「均一性」はバックライトから出射される光の「均一性」であるから、偏光板を斜め方向から視認する場合の色味変化を含むものと理解することはできない。
また、引用文献3及び引用文献4の記載から、表示装置を斜めから見た時の色相の劣化や輝度の低下を防ぐため、λ/4位相差板の厚み方向位相差を調整することが周知技術であったといえるかもしれない。しかしながら、引用文献3には、液晶パネル52を構成する「2枚の基板61・62」について、「外側(液晶層63とは反対側)には、偏光板(図示せず)がクロスニコル状態で配置」(段落[0048])され、「2枚の基板61・62は、それぞれ上記の位相差機能付きガラス3で構成されている」(段落[0049])ことが記載されており、引用文献4には、「表面に透明導電膜が形成された2つの基板を透明導電膜が対向するように所定の間隔をあけて配置してなる。少なくとも一方の基板が、ノルボルネンとエチレンとの共重合比率が80:20?90:10、MVR(メルトボリュームレート)が0.8?2.0cm^(3)/10分である、ガラス転移温度が150℃以上の環状オレフィンの付加(共)重合体よりなる面内位相差がπ/2(90°)、Nz係数が1.4?1.7である位相差フィルム」を用いた「斜め方向からディスプレイを見た際に輝度の低下が少ない円偏光型の低反射タッチパネル」(段落【0018】)が記載されているに留まり、いずれも、本件発明1の「前記位相差板は、前記反射型偏光板の上」に「積層される」という層構成を有していないことから、偏光状態を変えながら繰り返し位相差板を透過するものではない。これに対して、本件発明1は、上記層構成を有する複合偏光板とすることにより、「輝度、とりわけ斜め方向から見たときの輝度が高く、また色味変化が抑制されている。」(段落【0016】)という効果を奏するものといえる。
そうすると、反射型偏光板の上に積層される位相差板の厚み方向位相差値を70?200nmの範囲とすることが周知技術であったということができず、また、厚み方向位相差値が70?200nmの位相差板を反射型積層板の上に積層した複合偏光板としたことによる効果を当業者が予測し得たということもできない。
したがって、当業者であっても、引用発明の偏光制御層の厚み方向位相差値を70?200nmの範囲とすることが容易になし得たということはできない。

ウ むすび
以上のとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたということはできない。

(2)本件発明2?8について
本件発明2?8は、いずれも、本件発明1と同じ、位相差板の厚み方向位相差値が「70?200nm」であるとする要件を具備している。そうすると、本件発明2?8も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたということはできない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1?8は、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。


6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-03-24 
出願番号 特願2015-167750(P2015-167750)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 沖村 美由清水 督史井上 徹吉川 陽吾  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 宮澤 浩
井口 猶二
発明の名称 光学積層体、複合偏光板及び液晶表示装置  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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