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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
管理番号 1361003
審判番号 不服2018-2715  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-27 
確定日 2020-03-18 
事件の表示 特願2015-502503「個々のピクセルもしくはボクセルに組織固有のPET減衰値を割り当てるMRI方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月 3日国際公開、WO2013/144799、平成27年 6月11日国内公表、特表2015-516194〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)3月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年3月29日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年2月23日付けの拒絶理由が通知され、同年5月2日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年10月23日付けで拒絶査定がなされたのに対し、平成30年2月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に誤訳訂正書が提出されたものである。
そして、当審において平成30年12月20日付けの拒絶理由(以下「当審拒絶理由」)が通知され、これに対し令和元年6月25日に意見書(以下「意見書」という。)が提出されるとともに手続補正がなされたが、その意見書の内容を検討しても、当審拒絶理由について解消していない事項があることから、請求人(代理人)に連絡した(初回応対令和1年7月10日の応対記録参照)上で、その解消していない事項について説明を求めるべく同年7月10日付けの審尋を通知し、それに対し同年9月13日に回答書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?15に係る発明は、令和元年6月25日になされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1及び2に係る発明は、以下のとおりのものである。なお、下線は当審において付与したものであり、下記の第3?第7で記載することに特に関与する部分である。
「【請求項1】
検査体積を画定する磁気共鳴(MR)スキャナと;
少なくとも一つのプロセッサとを有するシステムであって、前記少なくとも一つのプロセッサは:
前記検査体積に一連のエコー時間(TE)を用いる撮像シーケンスを適用するよう前記MRスキャナを制御し;
前記撮像シーケンスに従って前記一連のエコー時間の各エコー時間に収集されるMRデータから個々のMR位相画像データを取得し;
前記MR位相画像データの各ピクセルまたはボクセルの値の時間的変化の特性に応じて、そのピクセルまたはボクセルの組織および/または物質型を識別するようプログラムされている、
システム。
【請求項2】
前記少なくとも一つのプロセッサがさらに:
前記MR位相画像データの位相をアンラップし;
位相アンラップされたMR位相画像データから前記一連のTEに対応する一連の位相累積マップを生成するようプログラムされており、前記MR位相画像データの各ピクセルまたはボクセルの値の前記時間的変化の特性は前記一連の位相累積マップに基づいて導出される、
請求項1記載のシステム。」

なお、下記の第3で記載している請求項8及び9は、上記請求項1及び2のシステムの発明を方法の発明として記載したものであり、請求項3?7は請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、請求項10?15は請求項8を直接又は間接的に引用するものである。

第3 当審拒絶理由について
平成30年4月27日付けで当審が通知した拒絶理由は、次のとおりのものである。
1.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
2.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
3.(産業上の利用可能性)この出願の下記の請求項に係る発明は、下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。

●理由1(実施可能要件)について
・請求項1?15
請求項1及び8に係る発明において「MR位相データの時間的変化の特性に応じて、前記検査体積内の個々の空間領域の組織および/または物質型を識別する」と特定されているが、「MR位相データの時間的変化の特性」と「組織および/または物質型」との関係が、発明の詳細な説明に記載されていないことから、当業者といえども「前記MR位相データの時間的変化の特性に応じて、前記検査体積内の個々の空間領域の組織および/または物質型を識別する」ことはできない。
さらに、請求項2及び9に係る発明において「MR位相データの時間的変化の特性」は、「位相アンラップされたMR位相データから前記一連のTEに対応する一連の位相累積マップを生成」し、「前記一連の位相累積マップに基づいて導出される」と特定されているが、「MR位相データの時間的変化の特性」を「一連の位相累積マップに基づいて」どのように「導出」するのかも不明である。

この点、詳細に検討すると以下のとおりである。
(1)「組織および/または物質型を識別する」ことについて
本願明細書には、
「さまざまなシーケンスが、さまざまな機能的、生理的および解剖学的検査を最適化するために開発されている。脂質と軟組織を区別するため、軟組織と瘢痕(はんこん)組織を区別するため、癌性組織と非癌性組織を区別するため、さまざまな器官または組織型を区別するため、灌流を測定するため、骨を撮像または同定するため、金属を撮像または位置特定するためのシーケンスおよび他の多くのシーケンスが開発されている。・・・たとえば、患者が、金属クリップ、ねじ、ステントなどが埋め込まれた手術を受けていた場合、金属を同定するためのシーケンスが選択される。患者治療の性質が、軟組織と瘢痕組織の放射減衰の間の区別をすることを求める場合には、瘢痕組織を同定するためのシーケンスも取り出される。」(【0023】)、
「よって、各撮像シーケンスは、二つ以上の組織および/または物質型の間の区別をする、あるいは被験体12の各ピクセルまたはボクセル体積内の組織および/または物質型を識別するMRデータを与える。組織および/または物質型は、空気、骨、肺、金属、脂肪、水、プラスチックなどの一つまたは複数を含む。」(【0024】)
「組織および/または物質型はそれぞれ既知の放射減衰および/または密度値を有する。」(【0028】)
と記載されていることから、識別する「組織および/または物質型」は、脂質と軟組織、軟組織と瘢痕(はんこん)組織、癌性組織と非癌性組織、骨、金属、さらには、空気、肺、脂肪、水、プラスチック等と理解される。

(2)「MR位相データの時間的変化の特性」について
本願明細書には、
「再構成プロセッサ42はMR位相データを解析して、(1)折りたたまれた位相を復元し、(2)次いで一連の画像の強度を時間の関数としてマッピングし、それにより一連の位相累積マップ(phase accumulation map)を生成する。位相復元はたとえば、非特許文献1に開示されているアルゴリズムに従って実行できる。」(【0035】)
「時間を追った(すなわち、種々のTEにわたる)位相の変化は、組織型に線形に相関していることが知られている。MR位相の既知の使用とは異なり、MR位相はACプロセッサ64によって、すべての組織型について定量的なマップの生成を許容するために使われる。各ピクセルまたはボクセルについての時間を追った位相の変化は、該時間を追った位相の変化についての既知の組織型を見出すために使われる。」(【0036】)
と記載されており、「MR位相データの時間的変化の特性」とは、時間を追った位相の変化であり、MR位相データについて位相を復元し次いで一連の画像の強度を時間の関数として表されたものといえるかもしれないが、それが技術的にどのようなもので、いかなる値として表されるものであるのか明かではない。
さらに、「MR位相データの時間的変化の特性」を「一連の位相累積マップに基づいて導出する」ことについて、本願明細書には「MR位相データを解析して、(1)折りたたまれた位相を復元し、(2)次いで一連の画像の強度を時間の関数としてマッピングし、それにより一連の位相累積マップ(phase accumulation map)を生成する」としか記載されておらず、「MR位相データの時間的変化の特性」を「一連の位相累積マップに基づいて」どのように「導出」するのか不明である。

(3)実施例について
特に、本願明細書には、脂質と軟組織、軟組織と瘢痕(はんこん)組織、癌性組織と非癌性組織、骨、金属、さらには、空気、肺、脂肪、水、プラスチック等を、「MR位相データの時間的変化の特性」によって識別した実施例が一例も記載されていない。

(4)小括
してみれば、「MR位相データの時間的変化の特性に応じて、前記検査体積内の個々の空間領域の組織および/または物質型を識別する」とは、脂質と軟組織、軟組織と瘢痕(はんこん)組織、癌性組織と非癌性組織、骨、金属、さらには、空気、肺、脂肪、水、プラスチック等を、「MR位相データの時間的変化の特性」によって識別することではあるが、「MR位相データの時間的変化の特性」が技術的に何を表しているのか、そして、どのように導出するのかも不明であり、脂質と軟組織、軟組織と瘢痕(はんこん)組織、癌性組織と非癌性組織、骨、金属、さらには、空気、肺、脂肪、水、プラスチック等について「MR位相データの時間的変化の特性」がどのような値になるのかも記載されていないのであるから、当業者といえども「前記MR位相データの時間的変化の特性に応じて、前記検査体積内の個々の空間領域の組織および/または物質型を識別する」ことはできない。

(5)まとめ
以上、発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項1及び2並びにそれらに従属する請求項3?7、請求項8及び9並びにそれらに従属する請求項10?15に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。

●理由2(明確性)について
(略)
●理由3(産業上の利用可能性)について
(略)
●付記
上記理由1の(3)で指摘したとおり、本願明細書には実施例が記載されていないこともあり、意見書による釈明だけでは、上記理由1及び2を解消するだけの説明ができない恐れがありますので、当審では面接による技術説明を受ける用意があります。
また、例えば、国際公開2010/073923号、特表2008-508070号公報等にも示されているように、MR位相データを用いて解析を行うことはすでに周知のことでありますが、「MR位相データの時間的変化の特性に応じて、前記検査体積内の個々の空間領域の組織および/または物質型を識別する」ことまでは周知技術とはいえないので、上記理由1及び2を解消すべく説明する必要があります。
(当審注:請求人(代理人)は面接による技術説明の要請には応じなかった(上記第1の応対記録参照)。)

第4 意見書の内容について
意見書では、上記理由1(実施可能要件)の指摘について、以下の説明をしている。
「(2)「MR位相データの時間的変化の特性」について、・・・。
「時間的変化の特性」を説明するにあたり図3A及び図3Bのより鮮明な図面を参考図として以下に示します。

各ピクセルまたはボクセルの値の「時間的変化の特性」は、一実施形態として、段落0032、0033、図3A、図3Bに示すように、頭部位相画像(図3A)の行81、列61の位置の値を、各TEについて時間を追って複数の白丸(図3B)で示し、それら白丸のデータ点に対し線形フィットを行うことにより直線を得る、という演算を各ピクセルまたはボクセルの値について行うことにより導出することができます。
よって、「MR位相画像データの各ピクセルまたはボクセルの値の時間的変化の特性」が技術的にどのようなもので、いかなる値として表わされるものであるのか、当業者には理解できると考えます。」

上記説明の次に「MR位相画像データの時間的変化の特性」が「一連の位相累積マップ」に基づいて導出される」(請求項2)ことについて説明されている部分は、下記第6の回答書のとおり、その内容が変更されたため、その部分は削除する。

「(3)(4)出願人は「どのような値になるか」等の具体例を用意することはできませんでしたが、上記(2)で説明したように、「MR位相画像データの各ピクセルまたはボクセルの値の時間的変化の特性」が技術的にどのようなもので、どのように導出するのかは不明ではありません。
さらに、0032は「MR位相撮像は、時間を追った組織依存の位相累積の線形当てはめ〔フィット〕をもち」と記載しています(下線を付した)。当業者は、この記載から、アンラップされた位相を図3Bのような時間の関数で表わしたときに、それが線形関数で近似〔当てはめ、フィット〕でき、そのような近似〔当てはめ、フィット〕が「組織依存」であるという事項を把握できます。よって、当業者は「前記MR位相画像データの各ピクセルまたはボクセルの値の時間的変化の特性に応じて、そのピクセルまたはボクセルの組織および/または物質型を識別する」ことができると考えます。」

第5 審尋について
令和元年7月10日付けで当審が通知した審尋は、次のとおりのものである。
(審尋1)
意見書(下線は当審において付与した。以下同じ。)の「各ピクセルまたはボクセルの値の「時間的変化の特性」は、一実施形態として、段落0032、0033、図3A、図3Bに示すように、頭部位相画像(図3A)の行81、列61の位置の値を、各TEについて時間を追って複数の白丸(図3B)で示し、それら白丸のデータ点に対し線形フィットを行うことにより直線を得る、という演算を各ピクセルまたはボクセルの値について行うことにより導出することができます。よって、「MR位相画像データの各ピクセルまたはボクセルの値の時間的変化の特性」が技術的にどのようなもので、いかなる値として表わされるものであるのか、当業者には理解できると考えます。」と説明しているが、
「時間的変化の特性」の「値」とは、直線を得るという演算から、どのように導出した「値」なのか不明である(例えば、直線の傾き等のことか)。

(審尋2)
意見書の「MR位相画像データの時間的変化の特性」が「一連の位相累積マップ」に基づいて導出される」(請求項2)ことについては、各TEについて取得したMR位相画像データの位相をアンラップし(段落0035)、位相アンラップしたMR位相画像データの各ピクセルまたはボクセルの値を、図3Bに白丸で示すように時間を追ってプロットして一連の位相累積マップを得(段落0035、0033)、各ピクセルまたはボクセルごとにデータ点に線形フィットを行う(段落0033)ことにより各ピクセルまたはボクセルの値の時間的変化の特性、すなわち、「MR位相画像データの時間的変化の特性」を得ることができることが理解できます。」と説明しているが、
図3Bの白丸は、上記審尋1で摘記した部分に記載されているとおり、線形フィットを行うことにより直線を得るためのものであるが、これから、なぜ「位相」の「累積」ができ、そして、線形フィットを行うことにより直線を得るための白丸から、どのようにして「マップ」が描けるのか不明である。どのようなマップであるのか提示して下さい。
してみれば、そもそも「位相累積マップ」が不明であるから、「一連の位相累積マップに基づいて導出される」とはいかなることを行うのかも不明であり、「一連の位相累積マップに基づいて導出される」とされている「MR位相画像データの各ピクセルまたはボクセルの値の前記時間的変化の特性」も不明である。

(審尋3)
意見書の「出願人は「どのような値になるか」等の具体例を用意することはできませんでした」については、具体例を用意して下さい。
上記拒絶理由通知書でも記載したように、脂質と軟組織、軟組織と瘢痕(はんこん)組織、癌性組織と非癌性組織、骨、金属、さらには、空気、肺、脂肪、水、プラスチック等について、「MR位相画像データの各ピクセルまたはボクセルの値の時間的変化の特性」がどのような値になるのか記載されていないのであるから、その「時間的変化の特性」に応じて、組織および/または物質型を「識別する」ことはできないといえる。特に、癌性組織と非癌性組織等、組織的に識別しずらいものを「時間的変化の特性」(値)に応じて識別できるようになるとの特徴があるのであろうが、それについて具体例がなく、識別できているのかどうかも不明である。

第6 回答書の内容について
回答書では、上記審尋の指摘について、以下の説明をしている。
「(審尋1)
審尋では、「時間的変化の特性」の「値」とは、直線を得るという演算から、どのように導出した「値」なのか不明である、として、例えば直線の傾き等のことか、とされていますが、ご推察のとおり、直線の傾きが典型例として想定されます。組織がもつ磁化率等の違いにより局所磁場不均一性が生じるので、時間を追って位相をプロットしたときの傾きが組織特有の傾きになります。

(審尋2)
「MR位相画像データの時間的変化の特性」が「一連の位相累積マップに基づいて導出される」(請求項2)ことについて、審尋で引用されている意見書での説明を下記にて補足・修正します。意見書での説明を下記のとおり読み替えてくださいますよう、お願い申し上げます。
まず、審判請求の理由の(e)で説明済みですが、「位相累積」、「位相累積マップ」について確認しておきます。位相累積は、マルチエコーシーケンスにおいて1つの90度パルスから次の90度パルスまでの繰り返し時間(TR)の間の位相変化の累積(あるいは蓄積)を意味しています。具体的には、1つのTR期間中にTEの増加と共に、位相変化が進んでいくことを位相累積と呼んでいます。例えば、最初のTE1で取得した位相画像1があり、次のTE2で取得した位相画像2があり、その次のTE3で取得した位相画像3があります。位相アンラップ後には、最初のTE1に対応する位相累積マップ1があり、次のTE2に対応する位相累積マップ2があり、その次のTE3に対応する位相累積マップ3となります。
「MR位相画像データの時間的変化の特性」が「一連の位相累積マップに基づいて導出される」(請求項2)ことについて、上記の例の位相累積マップ1?3を経時的に関連付けて並べると一連の位相累積マップになり、特定のボクセルを経時的に見てみると、図3Bのような線形フィットが得られます。これから上記のように傾きを求めることで、「MR位相画像データの時間的変化の特性」が得られます。
このように、MR位相画像データの各ピクセルまたはボクセルの値の時間的変化の特性を「一連の位相累積マップに基づいて」どのように「導出」するのかは、本願に接した当業者には理解できると考えます。

(審尋3)
意見書で「出願人は「どのような値になるか」等の具体例を用意することはできませんでした」と述べた点について、審尋では、「具体例を用意して下さい」とされました。出願人は例を確認すべく努力しましたが、みつけることができませんでした。しかしながら、「どのような値になるか」の具体例がないことをもって、「拒絶理由通知書の特に理由1(実施可能要件)について解消したとはいえない」と結論することはできないと思料しております。
(審尋2)について上記したように一連の位相累積マップに対して線形フィットを行なって傾きを得ることで「MR位相画像データの時間的変化の特性」を得ることは、当業者が実施できると考えます。
たとえば皮質骨は通常の強度画像(水素原子の密度に依存)では低信号であるため識別が困難ですが(0032)、組織特有の磁化率を反映する(0034)位相画像を用いて一連の位相累積マップを生成することで(0035)、皮質骨も識別可能になります。
このように、「どのような値になるか」がなくても本願発明は実施可能であると思料しています。」

第7 当審の判断
1 時間的変化の特性について
(1)請求人の説明について
請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の「MR位相画像データの各ピクセルまたはボクセルの値の時間的変化の特性」について、本願明細書及び図面(図3については、上記第4の意見書において、その図3に相当する鮮明なものが記載されているのでそれを参照する)、意見書(上記第4で述べたように意見書の当該部分に関する説明は回答書における説明に変更されたので参照しないこととする)及び回答書の記載を踏まえ、特に回答書における記載を参照すると、以下のように説明されている。
1つのTR期間中にTEの増加と共に位相変化が進んでいくことが位相累積であり、最初のTE1で取得した位相画像1があり、次のTE2で取得した位相画像2があり、その次のTE3で取得した位相画像3があり、位相アンラップ後には、最初のTE1に対応する位相累積マップ1があり、次のTE2に対応する位相累積マップ2があり、その次のTE3に対応する位相累積マップ3となり、位相累積マップ1?3を経時的に関連付けて並べると一連の位相累積マップになり、特定のボクセルを経時的に見てみると、上記図3Bのような線形フィットが得られ、これから上記のように傾きを求めることで、「MR位相画像データの時間的変化の特性」(値)がえられるということである。
ここで、本願明細書の図3の説明である、
「図3のAおよびBを参照するに、MR位相の線形性が示されている。図3のAは、MR位相画像の矢状面を示している。MR位相画像において、縦軸は行に対応し、横軸は列に対応する。図3のBは、MR位相画像の行81、列61についてMR位相画像の生成の間に捕捉されるデータ点を示している。縦軸は信号強度に対応し、横軸はマイクロ秒単位でのエコー時間に対応する。線形性を示すために、第一の直線がデータ点に当てはめされている。第二の線が、信号強度の非線形性を示すために、信号強度についてのデータ点(不可視)に当てはめされている。」(【0033】)を参照すると、「縦軸は信号強度」(図3Bでは「signal」と記載)で「横軸はマイクロ秒単位でのエコー時間」(図3Bでは「TE(us)」と記載)である。

(2)時間的変化の特性に対する判断
上記請求人の説明によれば、図3Bにおける「○Data」は、TE(横軸)とそれに対応する位相累積マップ(縦軸)すなわち(TE1,位相累積マップ1)、(TE2,位相累積マップ2)、(TE3,位相累積マップ3)をプロットしたものといえるが、「マップ」がいかに「信号強度(signal)」となるのか依然として明確でない。ある範囲の位相において折り畳まれている(ラップ)ものをアンラップすることにより変動量の絶対値として得ることは物理的計算手法として本願優先日前に知られているところではあるが、位相アンラップしたものが「マップ」であり、その「マップ」がいかなる技術的根拠のもとに「信号強度(signal)」であるといえるのか当業者といえども明確に理解できるものではない。
してみれば、図3Bにおける「○Data」は、どのようにしてプロットしたものか、請求人の説明を参照しても明確に把握できるものといえないのであるから、それに対する線形フィットもできず、そして、線形フィットができないから、その「傾き」も求めることはできない。
したがって、明細書及び図面、意見書並びに回答書の請求人の説明を参酌しても、本願発明の「MR位相画像データの各ピクセルまたはボクセルの値の時間的変化の特性」(値)を得ることができるとはいえない。

2 組織および/または物質型の識別について
上記1で述べたとおり、「MR位相画像データの各ピクセルまたはボクセルの値の時間的変化の特性」(値)を得ることができないのであるから、「MR位相画像データの各ピクセルまたはボクセルの値の時間的変化の特性に応じて、そのピクセルまたはボクセルの組織および/または物質型を識別する」こともできるといえないが、仮に(TE,位相累積マップ)が上記図3Bのようにプロットされ、その傾きとしての「MR位相画像データの各ピクセルまたはボクセルの値の時間的変化の特性」(値)が得られたとして、以下検討する。

(1)組織および/または物質型の識別の技術的意味について
本願発明の「組織および/または物質型を識別する」ことにおける「識別する」とは、日本語の意味としては種類や性質などを見分けることともされているが、国際出願の明細書及び特許請求の範囲の原文において「identify」と記載されていることを考慮すると、「識別する」とは特定する、同定するという意味でもあるといえる。
そして、「組織および/または物質型」とは、上記第3の当審拒絶理由の理由1で述べたとおり、本願明細書の記載から、脂質と軟組織、軟組織と瘢痕(はんこん)組織、癌性組織と非癌性組織、骨、金属、さらには、空気、肺、脂肪、水、プラスチック等と理解される。特に、上記第5の審尋の(審尋3)で「癌性組織と非癌性組織等、組織的に識別しずらいものを「時間的変化の特性」(値)に応じて識別できるようになるとの特徴がある」と述べたように、従来のMRI(あるいはその他の医用画像診断手段)においては識別が困難であった癌性組織と非癌性組織等を識別することもその範疇に入るものといえる。

(2)組織および/または物質型の識別に対する判断
ア 具体例について
上記図3Bの線形フィットした直線の傾きを「MR位相画像データの各ピクセルまたはボクセルの値の時間的変化の特性」(値)とすると、それ「に応じて」、例えば、癌性組織と非癌性組織を識別するためには、癌性組織、非癌性組織の各々について上記図3Bの線形フィットした直線の傾きの値が必要であることろ、本願明細書及び図面には、その傾きの値について記載されておらず、そのような値が本願優先日前に周知であるともいえず、そもそも、癌性組織と非癌性組織について(TE,位相累積マップ)プロットしたものを線形フィットした時に「直線の傾き」の値として違いが生じるのかも不明である。このことは癌性組織と非癌性組織に限らず、その他の組織さらには物質型についても、それらの「直線の傾き」の値が本願優先日前に周知であるともいえず、それらの「直線の傾き」の値を求めたところで、その「傾きの値」から組織、物質型を識別できるとはいえない。
そこで、当審においては、本願明細書に時間的変化の特性に応じて組織を識別した実施例が1つも記載されていないことから、当審拒絶理由及び審尋において、請求人に具体例の提示を求めたが、請求人からは「出願人は「どのような値になるか」等の具体例を用意することはできませんでした」、「例を確認すべく努力しましたが、みつけることができませんでした」とのことで、具体例は提示されなかった。

イ 具体例のない状況での検討
(ア)請求人から具体例は提示されなかったが、請求人は、上記第6の回答書で「たとえば皮質骨は通常の強度画像(水素原子の密度に依存)では低信号であるため識別が困難ですが(0032)、組織特有の磁化率を反映する(0034)位相画像を用いて一連の位相累積マップを生成することで(0035)、皮質骨も識別可能になります。このように、「どのような値になるか」がなくても本願発明は実施可能であると思料しています。」と主張しているので、これについて検討する。

(イ)検討
上記請求人の指摘する本願明細書の【0034】には「MR位相撮像は一般に、(1)典型的には半定量的でしかなく、MR大きさ信号からの情報に依存する「磁化率強調撮像(susceptibility weighted imaging)」および(2)ある種の幾何構造についてある種の造影剤の定量に限定される。」と記載されている。
当該記載の「MR位相撮像は一般に、・・・MR大きさ信号からの情報に依存する「磁化率強調撮像(susceptibility weighted imaging)・・・に限定される。」との記載から、MR位相撮像は磁化率を反映したものであることを説明しているといえる。「物質」の磁化率の違いによってMR位相画像上のコントラストは位相差で現れることは、例えば、当審拒絶理由の付記で記載した国際公開2010/073923号にも示されているように既に本願優先日前に知られていることを考慮すると、上記(ア)で記載した請求人の主張のうち、「磁化率を反映する位相画像」という部分については、技術的に適当なものとして受け入れられる。
しかしながら、「組織特有の磁化率を反映する位相画像を用いて一連の位相累積マップを生成することで、皮質骨も識別可能になります」との主張については、例えば、癌性組織と非癌性組織とで磁化率が変化するのかも不明であり、異なる「組織」毎に磁化率を示すことなどをして、「組織」に「特有の磁化率」があることを明らかにしていない。さらに、「組織」に「特有の磁化率」があるとして、それを反映する位相画像を用いて一連の位相累積マップを生成できたとしても、どのようにして(TE,位相累積マップ)をプロットするのか不明であり、それに対する線形フィットもできず、その直線の傾きの値を求めることはできないことは、上記1(2)で述べたとおりである。
そして、請求人は、上記主張する「皮質骨」についてすら、直線の傾きの「具体的な値」を明らかにしてこなかったことから、「皮質骨も識別可能になります」との主張を受け入れることはできない。
してみれば、上記請求人の主張は、具体例のない状況を補い、直線の傾きの値から組織を識別できることを明確かつ十分に説明したものではないことから、当業者といえども直線の傾きの値から組織を識別できるものとはいえない。

(3)小括
したがって、仮に、ある組織について「直線の傾き」の「値」すなわち「MR位相画像データの各ピクセルまたはボクセルの値の時間的変化の特性」(値)が得られたとしても、それにより癌性組織と非癌性組織の識別、あるいは、皮質骨など具体的にその他の組織についても識別できるといえないのであるから、「組織および/または物質型を識別する」ことが実施できるとはいえない。

3 まとめ
上記1及び2で説示したとおり、本願明細書及び図面、意見書並びに回答書の記載を参照しても、本願発明の「前記MR位相画像データの各ピクセルまたはボクセルの値の時間的変化の特性に応じて、そのピクセルまたはボクセルの組織および/または物質型を識別する」ことが実施できるとはいえない。
よって、発明の詳細な説明は、「前記MR位相画像データの各ピクセルまたはボクセルの値の時間的変化の特性に応じて、そのピクセルまたはボクセルの組織および/または物質型を識別する」点において、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないことから、少なくとも当審拒絶理由の理由1について解消されたとはいえない。

第8 むすび
以上のことから、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないことから、少なくとも特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり、審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-10-17 
結審通知日 2019-10-23 
審決日 2019-11-06 
出願番号 特願2015-502503(P2015-502503)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 順也荒井 隆一  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
三崎 仁
発明の名称 個々のピクセルもしくはボクセルに組織固有のPET減衰値を割り当てるMRI方法  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  
代理人 大貫 進介  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  
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