ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L |
---|---|
管理番号 | 1361031 |
審判番号 | 不服2018-13099 |
総通号数 | 245 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-10-02 |
確定日 | 2020-03-19 |
事件の表示 | 特願2015-511325「配向膜形成用組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月16日国際公開、WO2014/168257〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、2014年(平成26年)4月10日(優先権主張平成25年4月11日)を国際出願日とする出願であって、平成29年9月21日付けで拒絶理由が通知され、平成30年1月24日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年6月25日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年10月2日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。 その後、令和元年10月4日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年11月29日に意見書の提出とともに手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされた。 2 本件発明 本願の請求項1?10に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明10」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される、次のとおりの発明である。 「 【請求項1】 ポリイミド、ポリアミド及びポリアミック酸から選ばれる少なくとも1種を含む配向膜形成用材料と、N-メチル-2-ピロリドンと、沸点が100?200℃の環状脂肪族炭化水素と、を含み、沸点が100?200℃の炭化水素の含有量が5質量%?20質量%であり、配向膜形成用組成物から形成される配向膜を、ノルボルネン系ポリマーからなる樹脂基材の表面に有する配向膜付樹脂基材。 【請求項2】 沸点が100?200℃の炭化水素が、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン及びプロピルシクロヘキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の配向膜付樹脂基材。 【請求項3】 配向膜形成用材料と、N-メチル-2-ピロリドンと、沸点が100?200℃の環状脂肪族炭化水素とを含む配向膜形成用組成物を、ノルボルネン系ポリマーからなる樹脂基材に塗布して乾燥する配向膜付樹脂基材の製造方法。 【請求項4】 請求項1?請求項3のいずれかに記載の配向膜付樹脂基材と光学異方性フィルムとを、樹脂基材、配向膜、光学異方性フィルムの順に有する積層体。 【請求項5】 JIS-K5600に則った密着性試験において、面積基準で、配向膜の80%以上が樹脂基材から剥離しない請求項4に記載の積層体。 【請求項6】 光学異方性フィルムが位相差フィルムである請求項4又は請求項5に記載の積層体。 【請求項7】 IPS(in-plane switching)液晶表示装置用の請求項4?請求項6のいずれかに記載の積層体。 【請求項8】 配向膜形成用材料と、N-メチル-2-ピロリドンと、沸点が100?200℃の環状脂肪族炭化水素とを含む配向膜形成用組成物を、ノルボルネン系ポリマーからなる樹脂基材に塗布することで配向膜付樹脂基材を製造し、配向膜付樹脂基材の配向膜表面にさらに重合性液晶化合物と光重合開始剤とを含む組成物を塗布し、光照射することを特徴とする、樹脂基材、配向膜、光学異方性フィルムをこの順に有する積層体の製造方法。 【請求項9】 請求項4?請求項7のいずれかに記載の積層体を有する偏光板。 【請求項10】 請求項4?請求項7のいずれかに記載の積層体を備えた表示装置。」 3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由は、本願の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり、概略以下のとおりである。 (1)ポリイミド、ポリアミド及びポリアミック酸に由来する構造を有さない光配向膜形成用材料などを含めた全ての配向膜形成用材料が「N-メチル-2-ピロリドン」に溶解するとは考え難く、ノルボルネン系ポリマーからなる樹脂基材と全ての配向膜形成材料との間において密着性を向上させることができると推認することはできないから、本願の請求項に係る発明は、「配向膜と樹脂基材との密着性を向上させる」という課題を解決できないものを含むことは明らかである。 (2)本願の明細書には、配向膜形成用組成物(1)?(5)を用いた実施例及び比較例が開示されているものの、全ての配向膜形成用組成物が、ブチルセロソルブ(2-ブトキシエタノール)を含んでいる。そして、ブチルセロソルブ(2-ブトキシエタノール)を含まない配向膜形成用組成物を用いた場合にも同様の効果を奏することが示されていない。 本願の明細書には、配向膜と樹脂基材との密着性が向上する作用機序について明確に記載されておらず、「ブチルセロソルブ(2-ブトキシエタノール)」を含まなくとも、ノルボルネン系ポリマーからなる樹脂基材と配向膜との密着性を向上させることができると推認することができない。 したがって、本願の請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる。 (3)請求人が、審判請求書の請求の理由において主張するように、「配向膜形成用組成物が、同じ構造を有する比較的高沸点の環状脂肪族炭化水素を更に含むことから、樹脂基材と配向膜形成用組成物との親和性が高くなり、これにより、高い密着性で配向膜を形成しうる」としても、親和性により密着性を向上させるにあたり、配向膜に含まれる環状脂肪族炭化水素が親和性を奏する下限値以上の含有量を有することが必要であることが技術常識であるといえる。含有量に関わらず、極微量もしくは大量に含む場合においても、実施例と同様の効果を奏すると考えることはできない。そうすると、出願時の技術常識に照らしても、本願の請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 4 判断 (1)本件発明3?10について ア 本件発明3は、配向膜付樹脂基材の製造方法に関する発明であって、「配向膜形成用材料と、N-メチル-2-ピロリドンと、沸点が100?200℃の環状脂肪族炭化水素とを含む配向膜形成用組成物」を、「ノルボルネン系ポリマーからなる樹脂基材に塗布」するという要件を備えたものである。また、本件発明8は、積層体の製造方法に関する発明であるが、本件発明3と同じ上記要件を備えたものである。 イ そして、本願の明細書における「基材と光学異方性フィルムとの密着性の向上が求められていた。」(段落[0004])及び「本発明の配向膜形成用組成物によれば、配向膜と樹脂基材との密着性を向上させることができ、さらに、樹脂基材と配向膜と光学異方性フィルムを有する積層体において、樹脂基材と配向膜と光学異方性フィルムとの密着性を向上させることができる。」(段落[0006])という記載に基づけば、本件発明3及び本件発明8が解決しようとする課題は、「配向膜と樹脂基材との密着性を向上させること」であると認められる。 ウ ここで、配向膜と樹脂基材との密着性が、樹脂基材の材質のみならず、配向膜の材質にも影響を受けることは、技術常識であるといえる。 ところが、本件発明3及び本件発明8は、「配向膜形成用材料」の材質を、何ら特定するものではない。加えて、本願の明細書には、配向膜形成用材料について、「配向膜形成用材料としては、例えば、配向性ポリマー及び光配向性ポリマーが挙げられ、好ましくは配向性ポリマーである。」(段落[0009])と記載されるにとどまり、段落[0010]及び段落[0011]に様々な配向膜形成材料が列挙されているものの、特に制限を設けていない。そして、段落[0100]?[0117]には、配向膜形成用組成物(1)?(5)を用いた実施例及び比較例が開示されているものの、全ての配向膜形成用組成物が、市販の配向性ポリマーである「サンエバーSE-610(日産化学工業株式会社製)」0.5質量%を配向膜形成用材料として含むものである。そして、「サンエバーSE-610(日産化学工業株式会社製)」以外の配向膜形成用材料を用いた場合にも同様の効果を奏することが示されていない。 エ 本願の明細書には、配向膜と樹脂基材との密着性が向上する作用機序について明確に記載されていないものの、「N-メチル-2-ピロリドンは、配向膜形成用材料を十分溶解させる傾向があり、沸点が100?200℃の炭化水素は、配向膜形成用組成物から形成される配向膜と樹脂基材との密着性を向上させる傾向がある。」(段落[0012])との記載がある(なお、請求人も、審判請求書の請求の理由において、「〔5〕このように、配向膜形成用組成物が沸点100℃?200℃の環状脂肪族炭化水素を含むこと〔要件(A)〕および樹脂基材がノルボルネン系ポリマーからなること〔要件(B)〕により、密着性が向上する理由は定かではないが、樹脂基材を構成するノルボルネン系ポリマーは、ノルボルネン構造、すなわち環状脂肪族炭化水素の構造を有するポリマーであるところ、配向膜形成用組成物が、同じ構造を有する比較的高沸点の環状脂肪族炭化水素を更に含むことから、樹脂基材と配向膜形成用組成物との親和性が高くなり、これにより、高い密着性で配向膜を形成しうるものと思料する。」と主張している。)。 上記記載等に基づけば、「環状脂肪族炭化水素」が、共通する環状脂肪族炭化水素の構造を有するノルボルネン系ポリマーからなる樹脂基材との密着性向上に寄与するものと推認することができるとしても、ポリイミド、ポリアミド及びポリアミック酸に由来する構造を有さない光配向膜形成用材料などを含めた全ての配向膜形成用材料が「N-メチル-2-ピロリドン」に溶解するとは考え難く、本件発明3及び本件発明8が、溶剤として「N-メチル-2-ピロリドン」を含んでいるとしても、ノルボルネン系ポリマーからなる樹脂基材と全ての配向膜形成材料との間において密着性を向上させることができると推認することはできない。 オ 以上のとおり、本件発明3及び本件発明8は、課題を解決できないものを含むことは明らかである。また、本件発明3及び本件発明8の記載を引用する本件発明4?7、9、10についても同様である。 よって、本件発明3?10は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 (2)本件発明1?10について ア 本件発明1は、配向膜付樹脂基材に関する発明であって、「ポリイミド、ポリアミド及びポリアミック酸から選ばれる少なくとも1種を含む配向膜形成用材料と、N-メチル-2-ピロリドンと、沸点が100?200℃の環状脂肪族炭化水素と、を含み、沸点が100?200℃の炭化水素の含有量が5質量%?20質量%であり、配向膜形成用組成物から形成される配向膜を、ノルボルネン系ポリマーからなる樹脂基材の表面に有する」という要件を備えたものである。また、本件発明1が解決しようとする課題は、前記(1)イに記載したとおりである。 イ 本願の明細書の段落[0100]?[0117]には、配向膜形成用組成物(1)?(5)を用いた実施例及び比較例が開示されているものの、全ての配向膜形成用組成物が、ブチルセロソルブ(2-ブトキシエタノール)を含んでいる。そして、ブチルセロソルブ(2-ブトキシエタノール)を含まない配向膜形成用組成物を用いた場合にも同様の効果を奏することが示されていない。 ウ 本願の明細書には、配向膜と樹脂基材との密着性が向上する作用機序について明確に記載されておらず、「配向膜形成用材料」と、「N-メチル-2-ピロリドン」と、「沸点が100?200℃の環状脂肪族炭化水素」とを含む配向膜形成用組成物から形成される配向膜であれば、「ブチルセロソルブ(2-ブトキシエタノール)」を含まなくとも、ノルボルネン系ポリマーからなる樹脂基材と配向膜との密着性を向上させることができると推認することができない。 エ 請求人は、令和元年11月29日付けの意見書において、本件明細書の段落[0012]及び段落[0017]の記載を引用し、「本願発明における当業者であれば、本願明細書の記載に基づき、N-メチル-2-ピロリドンと沸点100℃?200℃の環状脂肪族炭化水素との併用により、配向膜と樹脂基材との密着性が向上すること、そしてN-メチル-2-ピロリドン及び沸点100℃?200℃の炭化水素以外の溶剤は任意成分であることが、理解できるはずです。」と主張している。 しかしながら、N-メチル-2-ピロリドンが配向膜形成用材料を十分溶解させ、沸点が100?200℃の炭化水素が配向膜と樹脂基材との密着性を向上させる傾向があり、「樹脂基材を構成するノルボルネン系ポリマーは、ノルボルネン構造、すなわち環状脂肪族炭化水素の構造を有するポリマーであるところ、配向膜形成用組成物が、同じ構造を有する比較的高沸点の環状脂肪族炭化水素を更に含むことから、樹脂基材と配向膜形成用組成物との親和性が高くなり、これにより、高い密着性で配向膜を形成しうる」としても、密着性を向上させるためには、両者が十分に混和することが必要と考えられる。本件明細書には「ブチルセロソルブ(2-ブトキシエタノール)」を含まなくとも、ノルボルネン系ポリマーからなる樹脂基材と配向膜との密着性を向上させることが示されておらず、技術常識であることも示されていない。 したがって、N-メチル-2-ピロリドン及び沸点100℃?200℃の炭化水素以外の溶剤が任意成分であると理解することができない。 オ 以上のとおり、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる。また、本件発明2?10についても同様である。 よって、本件発明1?10は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 (3)本件発明3?10について ア 本件発明3及び本件発明8の要件は、前記(1)アに記載したとおりであり、本件発明3及び本件発明8は、N-メチル-2-ピロリドンおよび沸点が100?200℃の環状脂肪族炭化水素の含有量を特定していない。 また、本件発明3及び本件発明8が解決しようとする課題は、前記(1)イに記載したとおりである。 イ 本願の明細書の段落[0100]?[0117]には、配向膜形成用組成物(1)?(5)を用いた実施例及び比較例が開示されているものの、ノルボルネン系ポリマーからなる樹脂基材と配向膜との密着性が向上することが確認されているのは、サンエバーSE-610を0.5重量%、N-メチル-2-ピロリドンを66.3?72.3質量%、2-ブトキシエタノール(ブチルセロソルブ)を16.6?18.1質量%に、添加溶剤として、メチルシクロヘキサンを9.1質量%、エチルシクロヘキサンを9.1質量%又は16.6質量%、又は、プロピルシクロヘキサンを9.1%加えた溶液を配向膜形成用組成物とし、当該配向膜形成用組成物から形成される配向膜を、シクロオレフィンポリマーフィルム(ZF-14、日本ゼオン株式会社製)のコロナ処理を施した表面に有する配向膜付樹脂基材のみである。ここで、N-メチル-2-ピロリドンと環状脂肪族炭化水素との含有量比は、8:1又は4:1となっている。 ウ 仮に、請求人が、審判請求書の請求の理由において主張するように、「配向膜形成用組成物が、同じ構造を有する比較的高沸点の環状脂肪族炭化水素を更に含むことから、樹脂基材と配向膜形成用組成物との親和性が高くなり、これにより、高い密着性で配向膜を形成しうる」としても、親和性により密着性を向上させるにあたり、配向膜に含まれる環状脂肪族炭化水素が親和性を奏する下限値以上の含有量を有することが必要であることが技術常識であるといえる。また、このような環状脂肪族炭化水素は、ノルボルネン系ポリマーを溶解する溶媒として作用することも知られている。そうすると、配向膜形成用組成物が環状脂肪族炭化水素を多量に含有する場合、樹脂基材を溶解し、配向膜表面にノルボルネン系ポリマーが含まれることとなり、配向膜としての機能を阻害するとも考えられる。そうすると、含有量に関わらず、極微量もしくは大量に含む場合においても、実施例と同様の効果を奏すると考えることはできない。そうすると、出願時の技術常識に照らしても、本件発明3又は本件発明8の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 エ 以上のとおり、本件発明3及び本件発明8は、課題を解決できないものを含むと考えられる。また、環状脂肪族炭化水素の含有量が0.1質量%である場合や40質量%である場合においても、実施例と同様の効果を奏するとは考え難い。したがって、本件発明3及び本件発明8の記載を引用する本件発明4?7、9、10についても同様のことがいえる。 5 むすび 以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は、当審拒絶理由によって拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-01-10 |
結審通知日 | 2020-01-14 |
審決日 | 2020-01-27 |
出願番号 | 特願2015-511325(P2015-511325) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(C08L)
P 1 8・ 121- WZ (C08L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小西 隆 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
宮澤 浩 高松 大 |
発明の名称 | 配向膜形成用組成物 |
代理人 | 中山 亨 |
代理人 | 坂元 徹 |