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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1361038 |
審判番号 | 不服2019-4068 |
総通号数 | 245 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-03-28 |
確定日 | 2020-03-19 |
事件の表示 | 特願2016-222129「円偏光板」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月 9日出願公開、特開2017- 49604〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年3月26日に出願された特願2012-68785号の一部を平成28年11月15日に新たな特許出願としたものである。本願は、特許法44条2項の規定により、特願2012-68785号の出願の時に出願したものとみなされるところ、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成28年11月28日 :手続補正書の提出 平成29年8月22日付け :拒絶理由通知書 平成29年10月12日 :意見書、手続補正書の提出 平成30年3月28日付け :拒絶理由通知書 平成30年7月6日 :意見書、手続補正書の提出 平成30年12月26日付け :拒絶査定(以下「原査定」という。) 平成31年3月28日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成31年3月28日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正 (1)本件補正前の特許請求の範囲の記載 本件補正前の、平成30年7月6日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。 「防湿層、光硬化性接着剤層、偏光子層及び位相差層がこの順で積層され、 前記防湿層の透湿度は、200g/m^(2)/24hrs以下であり、 前記防湿層の面内の位相差値は、100nm以上10000nm以下であり、 前記偏光子層の吸収軸に対する前記防湿層の遅相軸の角度θは、20度以上70度以下であり、 前記偏光子層は、二色性色素が吸着配向したポリビニルアルコール系樹脂から形成され、 前記偏光子層の厚みは、7μm以下であり、 前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、90.0モル%?99.5モル%の範囲であり、 前記位相差層における前記偏光子層とは反対側の面に設けられている粘着剤層とを有し、 前記粘着剤層は、円偏光板を画像表示ユニットに貼合するためのものである粘着剤層付き円偏光板。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。 「防湿層、光硬化性接着剤層、偏光子層及び位相差層がこの順で積層され、 前記防湿層の透湿度は、110g/m^(2)/24hrs以上150g/m^(2)/24hrs以下であり、 前記防湿層の面内の位相差値は、100nm以上10000nm以下であり、 前記偏光子層の吸収軸に対する前記防湿層の遅相軸の角度θは、20度以上70度以下であり、 前記偏光子層は、二色性色素が吸着配向したポリビニルアルコール系樹脂から形成され、 前記偏光子層の厚みは、7μm以下であり、 前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、90.0モル%?99.5モル%の範囲であり、 前記位相差層における前記偏光子層とは反対側の面に設けられている粘着剤層とを有し、 前記粘着剤層は、円偏光板を画像表示ユニットに貼合するためのものである粘着剤層付き円偏光板。」 2 補正の適否(新規事項違反) 本件補正は、「粘着剤層付き円偏光板」における「防湿層」の「透湿度」について、「200g/m^(2)/24hrs以下」であることから、「110g/m^(2)/24hrs以上150g/m^(2)/24hrs以下」であることに補正すること、すなわち、「透湿度」の下限値を「110g/m^(2)/24hrs」とし、上限値を「200g/m^(2)/24hrs」から「150g/m^(2)/24hrs」とする補正事項を含むものである。 この点に関して、本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)には、「防湿層1の透湿度は、得られる偏光板の耐熱性、耐湿性の観点から、2g/m^(2)/24hrs以上、150g/m^(2)/24hrs以下であることが好ましい。」(段落【0024】)と記載され、また、実施例として、ポリエチレンテレフタレートフィルム又はシクロオレフィンポリマーからなるフィルムを防湿層として用いる実施例1?3が開示され(段落【0113】?【0121】)、それらの実施例についての耐熱、耐湿性試験の試験結果等が、以下に示す表1として開示されている。 【表1】 前記補正事項における透湿度の下限値について検討すると、当初明細書等には、「偏光板の耐熱性、耐湿性の観点から」、「2g/m^(2)/24hrs」を下限値とする事項は記載されているものの、「110g/m^(2)/24hrs」を下限値とする事項は記載されていない。また、実施例3は「透湿度」が「200g/m^(2)/24hrs以下」の範囲内、あるいは好ましい範囲である「2g/m^(2)/24hrs以上、150g/m^(2)/24hrs以下」の範囲内の実施例として開示されるものにすぎず、「透湿度」の下限を決めるものとして開示されていると認めるに足る記載は当初明細書等にはないことから、実施例3に基づいて「透湿度」の下限を「110g/m^(2)/24hrs」とすることが、当初明細書等に記載されていると認めることはできない。 また、実施例1?3を比較すると、耐熱、耐湿性試験の試験結果として「ΔPy」の値が、実施例1に比べて実施例2及び3は低い値となっている。しかしながら、実施例1?3は、防湿層の種類及び厚みが異なっており、これらの違いが「ΔPy」の差の要因となっている可能性もあることから、実施例1?3のみから、透湿度が「110g/m^(2)/24hrs」を下回ることにより、「ΔPy」が大きくなるという事項が当初明細書等に記載されていると認めることはできない。 当初明細書等のその他の記載を考慮しても、前記補正事項は当初明細書等の記載から自明な事項と認めることはできない。したがって、前記補正事項は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるということはできない。 以上より、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内でしたものであるということができず、特許法17条の2第3項の規定に違反してされたものである。 ところで、本件補正は、上記のように、「防湿層の透湿度」について、「200g/m^(2)/24hrs以下」から、「110g/m^(2)/24hrs以上150g/m^(2)/24hrs以下」に限定するものであり、特許法17条の2第5項2号に掲げる事項を目的とする補正ということができる。 そこで、本件補正後の請求項に係る発明が、同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 3 補正の適否(独立特許要件違反?実施可能要件及びサポート要件違反) 本件補正後の請求項4に係る発明における「防湿層」の「透湿度は、110g/m^(2)/24hrs以上150g/m^(2)/24hrs以下」であり、「防湿層の面内の位相差値は、100nm以上10000nm以下」である。また、本件補正後の請求項4には「ポリエステル系樹脂フィルムまたは環状ポリオレフィン系樹脂フィルムから形成される」との記載があることから、本件補正後の請求項4に係る発明における「防湿層」には、「環状ポリオレフィン系樹脂フィルム」から形成されるものも含まれる。 ここで、「環状ポリオレフィン系樹脂フィルム」の一である「ゼオノアフィルム」について検討すると、一般的にゼオノアフィルムの透湿度は極めて低く(特開2009-294649号公報段落【0096】によれば、厚み40μmで透湿度が5g/m^(2)/24hrsとなっている。)、1/4波長程度の位相差を有するゼオノアフィルムとして膜厚が28μmのものが公知(特開2010-139830号公報段落【0107】参照。)であるものの、当該膜厚のゼオノアフィルムの透湿度としては、110g/m^(2)/24hrsより低くなると推測され、上記「110g/m^(2)/24hrs以上150g/m^(2)/24hrs以下」を満たすものとは認められない。また、本願の発明の詳細な説明には、「透湿度」が「110g/m^(2)/24hrs以上150g/m^(2)/24hrs以下」であり、なおかつ「防湿層の面内の位相差値」が「100nm以上10000nm以下」となる「環状ポリオレフィン系樹脂フィルム」をどのように作成するのかについての具体的な記載はない。 このように、本件補正後の請求項4に係る発明における「防湿層」に含まれる「環状ポリオレフィン系樹脂フィルム」として、「透湿度」が「110g/m^(2)/24hrs以上150g/m^(2)/24hrs以下」であり、なおかつ「防湿層の面内の位相差値」が「100nm以上10000nm以下」となる「環状ポリオレフィン系樹脂フィルム」を、本願出願時において当業者が作成できるのか、本願の発明の詳細な説明の記載から不明であると認められる。 (当合議体注:例えば、環状ポリオレフィン系樹脂フィルムの中には、概ね20μm以下の厚さにおいて透湿度が110g/m^(2)/24hrs以上になる材質のものもあると認められる。他方、20μmで10000nmの面内位相差を発現させるためには、Δn=0.5である環状ポリオレフィン系樹脂フィルムを得る必要がある。しかしながら、発明の詳細な説明には、このような環状ポリオレフィン系樹脂フィルムを製造する方法は開示されていないし、また、これが当業者における技術常識であったということもできない。この点は、ポリエステル系樹脂フィルムにおいても、同様である。) あるいは、このような極めて高いΔnを具備する環状ポリオレフィン系樹脂フィルムやポリエステル系樹脂フィルムを具備してなる「円偏光板」の発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるということができない。 したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができないから、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。あるいは、本件補正後の請求項4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから、本願は、特許請求の範囲の記載が同条6項1号に規定する要件を満たしていない。 以上より、本件補正後の請求項4に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4 補正の適否(独立特許要件違反?進歩性) (1)本件補正後発明 本件補正後発明は、前記1(2)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由において引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特許第4804589号公報(平成23年11月2日発行、以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、偏光膜、偏光膜を含む光学フィルム積層体、及び、偏光膜を含む光学フィルム積層体の製造に用いるための延伸積層体、並びにそれらの製造方法、並びに偏光膜を有する有機EL表示装置に関する。特に、本発明は、二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる、厚みが10μm以下の偏光膜、そのような偏光膜を含む光学フィルム積層体、及び、そのような偏光膜を含む光学フィルム積層体の製造に用いるための延伸積層体、並びにそれらの製造方法、並びにそのような偏光膜を有する有機EL表示装置に関する。」 イ 「【背景技術】 【0002】 フィルム状に製膜したポリビニルアルコール系樹脂(以下、「PVA系樹脂」という。)の単層体に染色処理及び延伸処理を施すことにより、PVA系樹脂の分子が延伸方向に配向され、該PVA系樹脂内に二色性物質が配向状態で吸着された、PVA系樹脂層からなる偏光膜の製造方法はよく知られている。このPVA系樹脂単層膜を使用する従来の方法により得られる偏光膜の厚みは、ほぼ15?35μmである。この方法によれば、単体透過率が42%以上で、偏光度が99.95%以上の光学特性を有する偏光膜を得ることができ、この方法で製造された偏光膜は、現在では、テレビ、携帯電話機、携帯情報端末その他の光学的表示装置に使用されている。 【0003】 しかし、PVA系樹脂は親水性であり、高い吸湿性を有するため、PVA系樹脂を用いて製造された偏光膜は、温度や湿度の変化に敏感であり、周囲の環境変化により伸縮を生じ易く、そのためクラックが発生し易い、という傾向がある。また、使用中の環境変化によって生じる伸縮は、該偏光膜が接合される隣接部材に応力を生じさせ、該隣接部材に反り等の変形を生じることになる。 【0004】 したがって、偏光膜の伸縮を抑制し、温度や湿度の影響を軽減するために、通常は、テレビ、携帯電話機、携帯情報端末等の光学的表示装置用の偏光フィルムとしては、偏光膜の両面に、保護フィルムとして40?80μmのTAC(トリアセチルセルロース系)フィルムが貼り合された積層体が用いられる。そのような構成によっても、単層体による偏光膜を用いる場合には、偏光膜の薄膜化に限界があるので、伸縮力は無視できず、伸縮の影響を完全に抑制することは困難であり、偏光膜を含む光学フィルム積層体にある程度の伸縮を生じるのは避けられない。 ・・・(省略)・・・ 【0005】 上述した課題が存在するために、十分な程度までの薄膜化を達成できない、従来のPVA系樹脂単層体を使用する偏光膜の製造方法に代わる、偏光膜の製造方法が求められている。しかしながら、フィルム状に製膜したPVA系樹脂の単層体を使用する従来の方法では、厚みが10μm以下の偏光膜を製造することは事実上不可能である。その理由は、フィルム状のPVA系樹脂単層体による偏光膜の製造においては、PVA系樹脂単層体の厚みが薄くなり過ぎると、染色工程及び/又は延伸工程において、PVA系樹脂層に溶解及び/又は破断を生じる恐れがあるため、均一な厚みの偏光膜を形成することができなくなるからである。 【0006】 この問題に対処するため、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を塗布形成し、この樹脂基材上に形成されたPVA系樹脂層を樹脂基材とともに延伸し、染色処理を施すことにより、従来の方法により得られる偏光膜に比べて非常に薄い偏光膜を製造する製造方法が提案されている。この熱可塑性樹脂基材を用いた偏光膜の製造方法は、PVA系樹脂の単層体による偏光膜の製造方法に比べて、偏光膜をより均一に製造できる点で注目される。」 ウ 「【発明が解決しようとする課題】 【0014】 熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を塗工形成し、該PVA系樹脂層と熱可塑性樹脂基材とともに延伸して偏光膜を製造する方法は、特許文献1?5に記載されているように既に知られている。しかし、厚みが非常に薄い10μm以下の偏光膜であって、有機EL表示装置用の偏光膜として求められる、単体透過率42.5以上かつ偏光度99.5以上、好ましくは単体透過率43.0以上かつ偏光度99.5以上の光学特性を満たす高機能の偏光膜は、これまでのところ実現されていない、ないしは安定的な生産が実現されていない。 【0015】 したがって、本発明は、従来の偏光膜に比べて非常に薄く、しかも必要とされる光学特性を備えた偏光膜、そのような偏光膜を含む光学フィルム積層体、及び、そのような偏光膜を含む光学フィルム積層体の製造に用いるための延伸積層体、並びにそれらの製造方法、並びにそのような偏光膜を有する有機EL表示装置を提供し、ないしは安定的に提供することを目的とする。」 エ 「【課題を解決するための手段】 【0016】 本発明者らは、非晶性熱可塑性樹脂基材と、その上に塗布形成されたPVA系樹脂層とを一体に、空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段延伸工程で延伸することと、該PVA系樹脂層に二色性色素による染色処理を施すこととによって、厚みが10μm以下であり、単体透過率T及び偏光度Pによって表される光学特性が、光学的表示装置に使用される偏光膜に要求される特性を満足させることができる、従来にない偏光膜を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。本発明者らは、有機EL表示装置に使用される偏光膜に要求される光学的特性として、単体透過率をTとし、偏光度をPとしたとき、 T≧42.5、およびP≧99.5 で表される条件を設定した。本発明は、上述の延伸と染色とによって、厚みが10μm以下であり、単体透過率T及び偏光度Pによって表される光学特性が、上記の条件を満足するものとされた偏光膜を用いる有機EL表示装置を提供するものである。 【0017】 詳細に述べると、本発明の1つの態様は、二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる連続ウェブの有機EL表示装置用偏光膜であって、 非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜された前記ポリビニルアルコール系樹脂層を含む積層体が空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段延伸工程で延伸されることにより、10μm以下の厚みにされたものであり、かつ、 単体透過率をT、偏光度をPとしたとき、 T≧42.5、およびP≧99.5 の条件を満足する光学特性を有するようにされたものに関する。単体透過率Tは、T≧43.0の条件を満足することがより好ましい。非晶性熱可塑性樹脂基材は、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材とすることができる。二色性物質は、ヨウ素またはヨウ素と有機染料の混合物のいずれでもよい。 ・・・(省略)・・・ 【0019】 1つの実施態様において、前記有機EL表示装置用偏光膜の連続ウェブの一方の面に光学機能フィルムを貼り合せ、他方の面には粘着剤層を形成し、前記粘着剤層を介して前記偏光膜にセパレータを剥離自在に積層するようにした光学機能フィルム積層体を生成することができる。この場合、光学機能フィルムはTAC(トリアセチルセルロース系)フィルムとすることが好ましい。 ・・・(省略)・・・ 【0023】 別の実施態様において、前記有機EL表示装置用偏光膜の連続ウェブの一方の面に保護層を貼り合せ、他方の面に前記有機EL表示装置用偏光膜と共に用いられて円偏光を生成するための位相差層を貼り合せて生成された積層体の一方の面に、粘着剤層を介してセパレータを剥離自在に積層するようにした光学機能フィルム積層体をさらに、生成することができる。 ・・・(省略)・・・ 【0024】 保護層の材料としては、一般的に、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れる熱可塑性樹脂が用いられる。このような熱可塑性樹脂の具体例としては、トリアセチルセルロース等のセルロース樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂(ノルボルネン系樹脂)、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、およびこれらの混合物があげられる。 【0025】 保護層の偏光膜を接着させない面には、表面処理層として、ハードコート処理や反射防止処理、拡散ないしアンチグレアを目的とした処理を施した層を設けてもよい。また、表面処理層には紫外線吸収剤が含有していても良い。更に、表面処理層は偏光膜の加湿耐久性を向上させる目的で透湿度の低い層であることが好ましい。ハードコート処理は偏光膜表面の傷付き防止などを目的に施されるものであり、例えばアクリル系、シリコーン系などの適宜な紫外線硬化型樹脂による硬度や滑り特性等に優れる硬化皮膜を透明保護膜の表面に付加する方式などにて形成することができる。 ・・・(省略)・・・ 【0032】 別の実施態様において、前記光学フィルム積層体に含まれる有機EL表示装置用偏光膜の非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜されていない面に光学機能フィルムを貼り合せ、該光学機能フィルムの上に粘着剤層を形成し、該粘着剤層を介してセパレータを剥離自在に積層するようにした光学機能フィルム積層体を生成することができる。この場合、光学機能フィルムを、偏光膜の視認側から内部に入射した光が内部反射して視認側に射出されることを防止するために、偏光膜とともに用いられて円偏光を生成するための位相差層とすることが好ましい。 【0033】 ここでいう円偏光としては、実質的に反射防止機能を発現する範囲であれば楕円偏光も包含される。位相差層の正面位相差としては、代表的に1/4波長位相差の層が使用されるが、実質的に反射防止機能を発現する位相差であれば1/4波長位相差に限定されず例えば1/5波長位相差や1/6波長位相差の層なども使用することが出来る。ここでいう正面位相差とは位相差層の遅相軸方向の屈折率をnx、遅相軸と垂直方向の屈折率をnyとし、位相差膜の厚みをd(nm)としたときに、「(nx-ny)×d」によって求めることができる数値のことである。位相差層の配置角度は、代表的には、直線偏光膜と位相差層とを、それらの光軸が45度又は135度で交差するように積層して形成されるが、実質的に反射防止機能を発現する角度であれば、45度又は135度に限定されず使用することができる。 ・・・(省略)・・・ 【0041】 本実施態様において、薄型高機能偏光膜厚みは、好ましくは10μm以下である。厚みが3?10μm以下の薄型高機能偏光膜であれば、薄型偏光膜の偏光性能を表す図2のT-Pグラフによって示されたように、3μm、8μm、10μmの各々の偏光性能に有意差はなく、上記不等式を満たす光学特性を有することが確認できる。図2は、少なくとも、厚みが10μmを越えない薄型高機能偏光膜は、クラック耐久性の問題を懸念することなく、要求性能を満たす光学特性を得ることを示すものである。 ・・・(省略)・・・ 【0046】 1つの実施態様において、染色液に浸漬する前に、予め延伸積層体を不溶化しておくことが好ましい。具体的には、この工程は、限定されるものではないが、延伸中間生成物を液温30℃のホウ酸水溶液に30秒間浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA分子が配向されたPVA系樹脂層を不溶化する工程である。本工程のホウ酸水溶液は、水100重量%に対してホウ酸を3重量%含む。この不溶化工程に求められる技術的課題は、少なくとも染色工程において、延伸積層体に含まれるPVA系樹脂層を溶解させないようにすることである。これを第1不溶化とすると、二色性物質を配向させたPVA系樹脂層を含む着色積層体をホウ酸水中延伸前に、該着色積層体を40℃のホウ酸水溶液に60秒間浸漬することによって架橋処理を施すことにより不溶化する工程を第2不溶化と位置付けることができる。第1および第2の不溶化は、いずれも本発明の実施態様においては、最終的に製造される光学フィルム積層体に含まれる有機EL表示装置用偏光膜の光学特性にも影響を与える。 ・・・(省略)・・・ 【0054】 ・・・(省略)・・・ 保護層は、前記偏光膜と共に用いられて円偏光を生成するための第2の位相差層として構成されることができる。この構成により、偏光膜から射出される直線偏光が円偏光に変換されるので、例えば視聴者が偏光サングラスを着用している場合にも、視認に支障がなくなる、という利点がもたらされる。」 オ 「【発明の効果】 【0060】 本発明によれば、従来の偏光膜に比して大幅に薄膜化され、しかも必要とされる光学特性を備えた偏光膜、そのような偏光膜を含む光学フィルム積層体、及び、そのような偏光膜を含む光学フィルム積層体の製造に用いるための延伸積層体、並びに従来の偏光膜に比して大幅に薄膜化された偏光膜を使用し、しかも必要とされる光学特性を備えた有機EL表示装置を得る、ないしは安定的に得ることができる。すなわち、二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなり、厚みが10μm以下であって、所要の光学的特性を備えた偏光膜、そのような偏光膜を含む光学フィルム積層体、及び、そのような偏光膜を含む光学フィルム積層体の製造に用いるための延伸積層体、並びにそれらの製造方法、並びにそのような偏光膜を使用する有機EL表示装置を得る、ないしは安定的に得ることができる。」 カ 「【0085】 [実施例1] ・・・(省略)・・・ 【0086】 厚み200μmの非晶性PET基材と、重合度1000以上、ケン化度99%以上のPVA粉末を水に溶解した4?5%濃度のPVA水溶液とを準備した。ここで、濃度とは、全溶液量に対する配合割合のことをいう。本明細書の以下においても、濃度という用語は同様の意味で用いる。次に、上記した厚み200μmの非晶性PET基材にPVA水溶液を塗布し、50?60℃の温度で乾燥し、非晶性PET基材上に厚み7μmのPVA層を製膜した。以下、これを「非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体」又は「7μm厚のPVA層を含む積層体」又は単に「積層体」という。 ・・・(省略)・・・ 【0093】 光学フィルム積層体の製造に必須の工程ではないが、洗浄工程によって、光学フィルム積層体をホウ酸水溶液から取り出し、非晶性PET基材に製膜された3μm厚のPVA層の表面に付着したホウ酸をヨウ化カリウム水溶液で洗浄した。しかる後に、洗浄された光学フィルム積層体を60℃の温風による乾燥工程によって乾燥した。なお洗浄工程は、ホウ酸析出などの外観不良を解消するための工程である。 【0094】 次に、貼合せ及び/又は転写工程によって、非晶性PET基材に製膜された3μm厚のPVA層の表面に接着剤を塗布しながら、80μm厚のTAC(トリアセチルセルロース系)フィルムを貼合せた後、非晶性PET基材を剥離し、3μm厚のPVA層を80μm厚のTAC(トリアセチルセルロース系)フィルムに転写した。 ・・・(省略)・・・ 【0104】 [実施例4] 実施例4は、実施例1の製造工程に実施例3の不溶化工程と実施例2の架橋工程を加えた製造工程によって生成した光学フィルム積層体である。まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を生成し、次に、7μm厚のPVA層を含む積層体を空中補助延伸によって延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸に延伸した延伸積層体を生成した。実施例4は、実施例3の場合と同様に、生成された延伸積層体を液温30℃のホウ酸不溶化水溶液に30秒間浸漬する不溶化工程によって、延伸積層体に含まれるPVA分子が配向されたPVA層を不溶化した。実施例4はさらに、不溶化されたPVA層を含む延伸積層体を、実施例3の場合と同様に、液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによってヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を生成した。 【0105】 実施例4は、実施例2の場合と同様に、生成された着色積層体を40℃のホウ酸架橋水溶液に60秒間浸漬する架橋工程によって、ヨウ素を吸着させたPVA層のPVA分子同士を架橋した。実施例4はさらに、架橋された着色積層体を、実施例1の延伸温度65℃より高い75℃のホウ酸水中延伸浴に5?10秒間浸漬し、実施例2の場合と同様に、延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸し、光学フィルム積層体を生成した。また実施例4の洗浄工程、乾燥工程、貼合せ及び/又は転写工程は、いずれも実施例1から3の場合と同様である。 【0106】 また実施例4は、実施例3の場合と同様に、染色液のヨウ素濃度を0.12?0.25重量%であっても、PVA層は溶解することはない。実施例4においては、延伸積層体の染色液への浸漬時間を一定にし、染色液のヨウ素濃度及びヨウ化カリウム濃度を実施例1に示した一定範囲内で変化させることによって、最終的に生成される偏光膜の単体透過率を40?44%になるようにヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする着色積層体を種々生成した。 【0107】 以上のように実施例4は、まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を生成し、次に、7μm厚のPVA層を含む積層体を空中補助延伸によって延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸に延伸した延伸積層体を生成した。生成された延伸積層体を液温30℃のホウ酸不溶化水溶液に30秒間浸漬することによって延伸積層体に含まれるPVA層を不溶化した。不溶化されたPVA層を含む延伸積層体を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによって不溶化されたPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体を生成した。ヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を40℃のホウ酸架橋水溶液に60秒間浸漬することによって、ヨウ素を吸着させたPVA層のPVA分子同士を架橋した。架橋されたPVA層を含む着色積層体をホウ酸とヨウ化カリウムを含む液温75℃のホウ酸水中延伸溶に5?10秒間浸漬し、しかる後に、ホウ酸水中延伸によって倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸した光学フィルム積層体を生成した。 【0108】 実施例4は、このように空中高温延伸及びホウ酸水中延伸からなる2段延伸と染色浴への浸漬に先立つ不溶化及びホウ酸水中延伸に先立つ架橋からなる前処理とによって、非晶性PET基材に製膜されたPVA層のPVA分子が高次に配向され、染色によってPVA分子に確実に吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された偏光膜を構成する3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を安定的に生成することができた。 ・・・(省略)・・・ 【0143】 実施例4、8、12、19?25及び比較例1、4の製造方法により得られた偏光膜のうちの特定の偏光膜を選び、各偏光膜について、以下に示すようにして各種評価を行った。評価の対象とした偏光膜の光学特性を図30に、光学特性を含む各種特性と評価結果を表2に示す。ここで、各偏光膜の実施例の番号は、製造方法の実施例番号に枝番を付す形とした。 【0144】 【表2】 【0145】 まず、各評価に共通の構成である円偏光板の構成について説明する。 ・・・(省略)・・・ 【0147】 各実施例及び比較例1-1、1-2に係る偏光膜については、比較例4-1と異なり、偏光膜の片面のみにTAC(トリアセチルセルロース系)フィルム(厚み40μm)を接合した。すなわち、非晶性PET基材に製膜されたPVA層の表面に接着剤を介して、ハードコート(HC)処理のされたTAC(トリアセチルセルロース系)フィルム(厚み45μm)を貼合せて、光学フィルム積層体を作製した。更に、光学フィルム積層体から非晶性PET基材を剥離し、PVA層を45μm厚のHC処理TAC(トリアセチルセルロース系)フィルムに転写して光学機能フィルム積層体を作製した。得られた光学機能フィルム積層体と1/4波長位相差膜(帝人化成社製 商品名「ピュアエースWR(S-148)」)を貼り合わせて円偏光板を作製した。具体的には、光学機能フィルム積層体の偏光膜面と1/4波長位相差膜を、1/4波長位相差膜の遅相軸と偏光膜の吸収軸が45度となるように、アクリル系粘着剤(20μm)を介して貼り合わせることにより円偏光板を作成した。 【0148】 (反射率) 各々の円偏光板の1/4波長位相差膜面を、アクリル系粘着剤(20μm)を介して有機EL表示装置(サムスン電子社製 商品名「GALAXY S」)の有機表示ELパネルに貼合せて反射率を測定した。測定された反射率から積層体の表面の反射率(4.5%)を差し引いて比較評価を行った。なお、評価に用いた有機表示ELパネルは、表面に貼り合わされてある反射防止フィルムをあらかじめ剥離してから使用した。 ・・・(省略)・・・ 【0152】 表2に示されるように、偏光度が99.5未満の比較例1-1の偏光膜については反射率が大きくなってしまっており、有機EL表示装置の反射防止用円偏光板に用いられる偏光膜としては適さないことが分かった。一方、偏光度が99.5以上の各実施例については反射率が小さく抑えられており、有機EL表示装置の内部反射防止用円偏光板に用いられる偏光膜として、優れた特性を有していることが分かった。」 キ 「【0246】 〔発明の実施の形態〕 図10a?12bに、上述の偏光膜を使用した本発明による有機EL表示装置の幾つかの実施形態を示す。 【0247】 図10aは、本発明の有機EL表示装置の最も基本的な実施形態を示す断面図であり、この有機EL表示装置200は、有機EL表示パネル201を備え、該有機EL表示パネル201の一方の面に、光学的に透明な粘着剤層202を介して、偏光膜203と第1の位相差層204とを含む積層体205が接合される。偏光膜203と第1の位相差層204は、偏光膜203の視認側から内部に入射した光が内部反射して視認側に射出されることを防止するために円偏光を生成するためのものである。該偏光膜203の外側の面には、光学的に透明な樹脂材料からなる保護層206が接着される。 【0248】 任意ではあるが、図10bに示すように、偏光膜203と第1の位相差層204は接合されていてもよいし、第1の位相差層204と粘着剤層202は接合されていてもよい。なお、これ以降は簡単のために、偏光膜203と第1の位相差層204とを含む積層体205は、偏光膜203と第1の位相差層204のみからなり、第1の位相差層204と粘着材層202が接合されているものについて例として図示をする。 ・・・(省略)・・・ 【0253】 図10fに示す光学的表示装置は、基本的に図10a?cに示すものと同一であるが、偏光膜203は、接着を容易にする易接着層209を介して接着剤により保護層206に接着される。易接着層として用いられる材料は、当業者間で周知である。 ・・・(省略)・・・ 【0255】 図10hに示す光学的表示装置200においては、図10gに示す有機EL表示装置の構成において、保護層206と帯電防止層210との間に、例えば、1/4波長位相差膜といった偏光膜と共に用いられて円偏光を生成するための第2の位相差層211が配置される。この構成によれば、偏光膜206よりも視認側に、偏光膜と共に用いられて円偏光を生成するための位相差層が配置されているため、有機EL表示パネル201から偏光膜206を経て出射する光は、第2の位相差層211を出るときに円偏光に変換される。この構成の有機EL表示装置は、例えば視聴者が偏光サングラスを着用している場合にも、視認に支障がなくなる、という利点をもたらす。」 (3)引用発明 前記(2)より、実施例4の製造方法により得られた偏光膜であって、【0144】の表2に示された光学特性を有する「実施例4-1」の偏光膜を用いて作成した円偏光板についての発明を把握することができるところ、この円偏光板は、その製造工程からみて、「HC処理TACフィルム」、「接着剤」、「偏光膜」及び「1/4波長位相差膜」がこの順で積層されたものである。また、前記表2から、「実施例4-1」の偏光膜の「偏光膜厚(μm)」、「単体透過(%)」及び「偏光度(-)」の値がそれぞれ「3」、「43.5」及び「99.97」であることが看取されるから、前記円偏光板についての発明の構成は次のとおりである。(なお、引用文献1では、「光学フィルム積層体」という文言が、架橋された着色積層体を、75℃のホウ酸水中延伸浴に5?10秒間浸漬し、延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸することにより生成された積層体(【0105】)と、非晶性PET基材上に積層された実施例4-1の偏光膜の表面にHC処理TACフィルムを貼合せることにより作製される積層体(【0147】)の両者に対して用いられているが、混乱を避けるため、前者については「偏光膜積層体」と表現して、引用発明を認定した。また、「アクリル系粘着剤」という文言が、偏光膜と1/4波長位相差膜とを貼りあわせるもの及び円偏光板と有機EL表示装置の有機表示ELパネルとを貼りあわせるものに用いられており、混乱を避けるため、前者について「アクリル系粘着剤1」と後者について「アクリル系粘着剤2」と表現して、引用発明を認定した。) 「HC処理TACフィルム、接着剤、偏光膜及び1/4波長位相差膜がこの順で積層された円偏光板であって、 非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を生成し、当該積層体を空中補助延伸によって延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸に延伸した延伸積層体を生成し、当該延伸積層体を液温30℃のホウ酸不溶化水溶液に30秒間浸漬する不溶化工程によって、延伸積層体に含まれるPVA分子が配向されたPVA層を不溶化し、さらに、不溶化されたPVA層を含む延伸積層体を、液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによってヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を生成し、当該着色積層体を40℃のホウ酸架橋水溶液に60秒間浸漬する架橋工程によって、ヨウ素を吸着させたPVA層のPVA分子同士を架橋し、さらに、架橋された着色積層体を、75℃のホウ酸水中延伸浴に5?10秒間浸漬し、延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸して、偏光膜積層体を生成し、当該偏光膜積層体をホウ酸水溶液から取り出し、非晶性PET基材に製膜された3μm厚のPVA層の表面に付着したホウ酸をヨウ化カリウム水溶液で洗浄し、しかる後に、当該偏光膜積層体を60℃の温風による乾燥工程によって乾燥することによって、前記非晶性PET基材上に積層された、膜厚が3μmで、単体透過率が43.5%で、偏光度が99.97の偏光膜を得、 当該偏光膜の表面に接着剤を介して、ハードコート(HC)処理のされた45μm厚のHC処理TACフィルムを貼合せて、光学フィルム積層体を作製し、 当該光学フィルム積層体から前記非晶性PET基材を剥離して光学機能フィルム積層体を作製し、当該光学機能フィルム積層体の偏光膜面に1/4波長位相差膜(帝人化成社製 商品名「ピュアエースWR(S-148)」)を、1/4波長位相差膜の遅相軸と偏光膜の吸収軸が45度となるように、アクリル系粘着剤1(20μm)を介して貼り合わせることにより作成された円偏光板であり、 円偏光板の1/4波長位相差膜面は、アクリル系粘着剤2(20μm)を介して有機EL表示装置の有機表示ELパネルに貼合せられるものである 円偏光板。」(以下、「引用発明」という。) (4)引用文献2 ア 引用文献2の記載 原査定の拒絶の理由において引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2012-53078号公報(平成24年3月15日公開、以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 「【0023】 <偏光板> 図2は、本発明の一実施形態における偏光板を示す図面である。この図に示すように、偏光板20は、偏光フィルム21と、この偏光フィルム21の片面に貼合された内側フィルム23と、偏光フィルム21の他面に貼合された外側フィルム25と、外側フィルム25のうち偏光フィルム21の貼合面とは反対側に貼合されたプロテクトフィルム26と、が積層された層構成を有している。さらに、本実施形態の偏光板20は、内側フィルム23のうち偏光フィルム21の貼合面とは反対側の面に積層された粘着剤層27と、この粘着剤層27の表面に剥離可能の貼合されたセパレートフィルム28とを備えている。 【0024】 通常、偏光板20は、ロール状に巻かれた状態で搬送や保管される。ロール状の偏光板20の巻き回し方向は、特には限定されないが、例えばプロテクトフィルム26が内側になるように巻き回すことができる。 【0025】 偏光板20は、図示しない液晶セルに貼合され、画像表示装置等の偏光板として機能する。液晶セルに貼合する際には、ロール状に巻かれた偏光板20から長尺状の偏光板20が繰り出され、液晶セルの長辺又は短辺のサイズに応じて適宜チップカットされる。そして、セパレートフィルム28を剥離して粘着剤層27を露出させ、この粘着剤層27を介して液晶セルに貼合される。以下に、偏光板20を構成するフィルムについて説明する。 【0026】 (1)偏光フィルム21 偏光フィルム21は、自然光を直線偏光に変換する機能を有する部材である。偏光フィルム21としては、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させたものを用いることができる。 ・・・(省略)・・・ 【0040】 (2)内側フィルム23 内側フィルム23は、偏光フィルム21の表面に貼合されるフィルムであり、液晶パネルや液晶表示装置に要求される特性に応じて種々の性質を有するフィルムを採用することができる。内側フィルム23の例としては、偏光板20が楕円偏光板として使用される場合には、例えば1/4波長板を備える位相差層が挙げられる。また、偏光板20が直線偏光板として使用される場合には、例えば光学補償機能を有する二軸性位相差フィルムや、表面保護機能を有する無配向性フィルムなどを挙げることができる。 【0041】 内側フィルム23を構成する樹脂材料は特に限定されない。このような樹脂材料の例としては ・・・(省略)・・・ 【0063】 (3-1)1/4波長板(位相差層) 内側フィルム23の例としては、1/4波長板を少なくとも1枚含む位相差層が挙げられる。1/4波長板は、可視光の波長領域(380?780nm)のいずれかの光に対してほぼ1/4波長(90°)の位相差を示す位相差フィルムであり、直線偏光と円偏光を相互に変換する機能を有するとともに、液晶セルの視野角を補償する機能を有している。 ・・・(省略)・・・ 【0067】 (1/4波長板の製造方法) 1/4波長板は、樹脂材料をフィルム状に成形して未延伸フィルムに製膜し、この未延伸フィルムに一軸延伸、二軸延伸など公知の延伸方向で延伸処理を施すことで製造することができる。未延伸フィルムの製膜方法としては、上述した押出成形法や溶剤キャスト法などが挙げられる。また、延伸方向としては、斜め延伸が好ましい。以下、1/4波長板の製造方法について説明する。 ・・・(省略)・・・ 【0114】 (3)外側フィルム25 外側フィルム25は、偏光フィルム21のうち内側フィルム23とは反対側の表面に貼合されるフィルムであり、液晶パネルや液晶表示装置に要求される特性に応じて種々の性質を有するフィルムを採用することができる。内側フィルム23の例としては、偏光フィルム21の表面を保護する機能を有する保護フィルム、防眩性フィルムなどが挙げられる。 【0115】 外側フィルム25としての保護フィルムは、透明樹脂で形成されるフィルムであれば特に限定されない。透明樹脂の例としては、メタクリル酸メチル系樹脂等の(メタ)アクリル系樹脂(メタクリル系樹脂とアクリル系樹脂を含む)、オレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、スチレン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系共重合樹脂、アクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリブチレンテフタレート系樹脂、ポリエチレンテフタレート系樹脂に代表されるポリエステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、オキセタン系樹脂等が挙げられる。 ・・・(省略)・・・ 【0121】 外側フィルム25としては、上述した保護フィルムや防眩性フィルムに限定されず、他の機能性フィルムであってもよい。このような機能性フィルムとしては、例えば、反射防止、低反射、防汚、帯電防止などの機能を有するフィルムが挙げられる。これらの機能性フィルムについても公知の物を採用することができるため、詳細な説明は省略する。その他、立体画像表示装置や偏光サングラスに対応する目的で、外側フィルム25として1/4波長板を設けるようにしてもよい。このような1/4波長板としては、斜め延伸フィルムを用いることが好ましい。 ・・・(省略)・・・ 【0123】 (4)プロテクトフィルム26 プロテクトフィルム26は、外側フィルム25の表面を損傷、摩損などから保護するための部材である。プロテクトフィルム26は、透明樹脂からなる基材フィルム26aと、この基材フィルム26aの表面に積層された弱い接着性を有する粘着剤層26bと、により構成される。プロテクトフィルム26は、偏光板20の使用時まで外側フィルム25に貼合されており、使用時においては外側フィルム25から剥離される。 ・・・(省略)・・・ 【0149】 (7)接着剤層(不図示) 偏光フィルム21への外側フィルム25及び内側フィルム23の貼合、積層は、通常、接着剤層を介してなされる。偏光フィルム21の両面に設けられる接着剤層を形成する接着剤は、同種であってもよく、異種であってもよい。 【0150】 接着剤としては、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、シアノアクリレート系樹脂、アクリルアミド系樹脂などを接着剤成分とする接着剤を用いることができる。本発明において好ましく用いられる接着剤の1つは、無溶剤型の接着剤である。無溶剤型の接着剤は、有意量の溶剤を含まず、活性エネルギー線(例えば、紫外線、可視光、電子線、X線等)の照射により反応硬化する硬化性化合物(モノマー又はオリゴマーなど)を含み、当該硬化性化合物の硬化により接着剤層を形成するものであり、典型的には、活性エネルギー線の照射により反応硬化する硬化性化合物と、重合開始剤とを含む。特に、上述したとおり外側フィルム25は透湿度が低いため、水系接着剤を使用した場合に水抜けが悪く、接着剤の水分によって偏光フィルム21の損傷や偏光性能の劣化などを引き起こす場合がある。したがって、このような透湿度の低い樹脂フィルムを接着する場合には、無溶剤系の接着剤が好ましい。 【0151】 速硬化性及びこれに伴う偏光板20の生産性向上の観点から、接着剤層を形成する好ましい接着剤の例として、活性エネルギー線の照射で硬化する活性エネルギー線硬化性接着剤を挙げることができる。このような活性エネルギー線硬化性接着剤の例として、例えば、紫外線や可視光などの光エネルギーで硬化する光硬化性接着剤が挙げられる。光硬化性接着剤としては、反応性の観点から、カチオン重合で硬化するものが好ましく、特に、エポキシ化合物を硬化性化合物とする無溶剤型のエポキシ系接着剤は、偏光フィルム21と外側フィルム25や内側フィルム23との接着性に優れているためより好ましい。」 イ 引用文献2に記載された技術事項 前記アで摘記した記載から、引用文献2には、次の技術事項が記載されていると認められる。 「一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させた偏光フィルム21と、この偏光フィルム21の片面に貼合された内側フィルム23と、偏光フィルム21の他面に貼合された外側フィルム25とを有し、画像表示装置等の偏光板として機能する偏光板20において、 偏光サングラスに対応する目的で、前記外側フィルム25として可視光の波長領域(380?780nm)のいずれかの光に対してほぼ1/4波長の位相差を示す1/4波長板を設けるようにしてもよく、このような1/4波長板としては、斜め延伸フィルムを用いることが好ましく、 前記偏光フィルム21へ前記外側フィルム25を貼合する接着剤としては、外側フィルム25は透湿度が低いため、水系接着剤を使用した場合に水抜けが悪く、接着剤の水分によって前記偏光フィルム21の損傷や偏光性能の劣化などを引き起こす場合があるため、無溶剤系の接着剤が好ましく、その中で、速硬化性及びこれに伴う偏光板20の生産性向上の観点から、光硬化性接着剤が好ましい。」(以下、「引用文献2記載事項」という。) (5)対比 本件補正後発明と引用発明とを対比する。 ア 防湿層 引用発明の「HC処理TACフィルム」は、保護層として設けられたものであることは明らかであるところ、保護層の作用機能の一つが、水分遮断性であることは、引用文献1の【0004】及び【0024】の記載や技術常識から自明である。したがって、引用発明の「HC処理TACフィルム」は、本件補正後発明における「防湿層」に相当する。 イ 偏光子層 引用発明の「偏光膜」は、延伸することによってPVA分子が「配向」された「PVA層」に「ヨウ素」を「吸着」させ、これをさらに延伸することにより作成したものである。また、引用発明における「PVA」は「ポリビニルアルコール」であり、ヨウ素は「二色性色素」に相当するものであることから、引用発明における「偏光膜」は、「二色性色素が吸着配向したポリビニルアルコール系樹脂から形成され」た「層」である。したがって、引用発明の「偏光膜」は、本件補正後発明における「偏光子層」に相当し、「二色性色素が吸着配向したポリビニルアルコール系樹脂から形成され」るという要件を満たすものである。 ウ 偏光子層の厚み 引用発明の「偏光膜」は、「膜厚が3μm」であり、本件補正後発明における「偏光子層の厚みは、7μm以下であり」という要件を満たすものである。 エ 位相差層 引用発明の「1/4波長位相差膜」は、その文言が意味するとおり、位相差を有するものであり、本件補正後発明における「位相差層」に相当する。 オ 粘着剤層 引用発明における「アクリル系粘着剤2」は、「円偏光板の1/4波長位相差膜面」を「有機EL表示装置の有機表示ELパネルに貼合せ」るものであることから、「アクリル系粘着剤2」は「1/4波長位相差膜」の「偏光膜」とは反対の面に設けられたものであることが明らかである。したがって、引用発明における「アクリル系粘着剤2」は、本件補正後発明における「前記位相差層における前記偏光子層とは反対側の面に設けられている」という要件及び「円偏光板を画像表示ユニットに貼合するためのものである」という要件を満たすものであり、本件補正後発明の「粘着剤層」に相当する。 カ 粘着剤層付き円偏光板 前記オに記載のように、引用発明は「アクリル系粘着剤2」を有する円偏光板であることから、引用発明における「アクリル系粘着剤2」を有する「円偏光板」は、本件補正後発明における「粘着剤層付き円偏光板」に相当する。 キ 円偏光板の積層順 引用発明の「円偏光板」は、「HC処理TACフィルム、接着剤、偏光膜及び1/4波長位相差膜がこの順で積層された」ものであることから、引用発明における積層順は、本件補正後発明における積層順と同じであると認められる。 (6)一致点及び相違点 ア 一致点 以上のことから、本件補正後発明と引用発明とは、次の構成で一致する。 「防湿層、偏光子層及び位相差層がこの順で積層され、 前記偏光子層は、二色性色素が吸着配向したポリビニルアルコール系樹脂から形成され、 前記偏光子層の厚みは、7μm以下であり、 前記位相差層における前記偏光子層とは反対側の面に設けられている粘着剤層とを有し、 前記粘着剤層は、円偏光板を画像表示ユニットに貼合するためのものである粘着剤層付き円偏光板。」 イ 相違点 本件補正後発明と引用発明とは、以下の点で相違する。 (ア)相違点1 本件補正後発明における「防湿層」は、その「透湿度」が「110g/m^(2)/24hrs以上150g/m^(2)/24hrs以下」であるのに対して、引用発明は、このように特定されたものではない点。 (イ)相違点2 本件補正後発明における「防湿層」は、その「面内の位相差値」が「100nm以上10000nm以下」であり、さらに、「偏光子層の吸収軸」に対する「防湿層の遅相軸の角度θ」が、「20度以上70度以下」であるのに対して、引用発明は、このように特定されたものではない点。 (ウ)相違点3 本件補正後発明では、「防湿層」と「偏光子層」との間の接着剤層が「光硬化性接着剤層」であるのに対して、引用発明における「HC処理TACフィルム」と「偏光膜」との間の「接着剤」が、「光硬化性接着剤層」であるとの特定がなされていない点。 (エ)相違点4 本件補正後発明における「ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度」が「90.0モル%?99.5モル%の範囲」であるのに対して、引用発明は、このように特定されたものではない点。 (7)判断 ア 相違点1?3について 相違点1及び2については「防湿層」の物性に関するものであり、また、相違点3についても「防湿層」の物性に関連するものであることから、相違点1?3についてまとめて判断することとする。 引用文献1の段落【0024】には、「保護層の材料としては、一般的に、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れる熱可塑性樹脂が用いられる。」と記載されており、引用文献1には保護層として水分遮蔽性に優れたもの、すなわち、透湿度が低いものとすることが示唆されており、また、その具体例として種々の熱可塑性樹脂が挙げられている。 引用文献1の段落【0054】には「保護層は、前記偏光膜と共に用いられて円偏光を生成するための第2の位相差層として構成されることができる。この構成により、偏光膜から射出される直線偏光が円偏光に変換されるので、例えば視聴者が偏光サングラスを着用している場合にも、視認に支障がなくなる、という利点がもたらされる。」と記載されており、引用文献1には保護層として、偏光サングラスを着用している場合であっても視認に支障がなくなるという利点から、保護層を、直線偏光から円偏光に変換するための第2の位相差層とすることが示唆されている。 引用文献2記載事項によれば、引用文献2には、偏光サングラスに対応する目的で、外側フィルムとして1/4波長板とすることが開示されており、さらに、引用文献2には、偏光フィルムと外側フィルムとを貼合する接着剤として、外側フィルムは透湿度が低いことから、無溶剤系の接着剤が好ましく、速硬化性及びこれに伴う偏光板の生産性向上の観点から光硬化性接着剤が好ましいことが記載されている。また、直線偏光から円偏光を得るための構成として、1/4波長板の位相差を可視光の波長域に対応する100nm?200nm程度のものとすること及びその遅相軸と偏光膜の吸収軸とがなす角度が45°程度になるように配置することは、技術常識であることから、引用文献2記載事項における1/4波長板は、その位相差が100nm?200nm程度のものであり、その遅相軸と偏光膜の吸収軸とがなす角度が45°程度になるように配置されていると認められる。 前記引用文献1における示唆及び引用文献2記載事項によれば、引用発明において保護層として設けられた「HC処理TACフィルム」について、透湿度が低く、また、偏光サングラスを着用している場合であっても視認に支障がなくなるという利点から、直線偏光を円偏光に変換を生成するために1/4波長に相当する位相差を有する熱可塑性樹脂とし、その配置として遅相軸と偏光膜の吸収軸とがなす角度が45°程度になるように配置すること、並びに、引用発明における「接着剤」として、透湿度の低さ及び生産性向上の観点から光硬化性接着剤を用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。 その際に、偏光板の保護層として、その透湿度が110g/m^(2)/24hrs以上150g/m^(2)/24hrs以下の範囲内であり、その面内の位相差値が100nm以上10000nm以下の範囲内のものは、周知技術であるところ(例えば、特開2008-107499号公報段落【0477】におけるB-104?B106等参照。あるいは、厚さ23μmの市販の環状ポリオレフィンフィルム(アートン等)を1.5?2倍程度延伸してなる1/4波長板は、ちょうどこの範囲の透湿度になると推認される。)、透湿度及び位相差を本件補正後発明の範囲内のものとすることは、技術の具体的適用に伴い当業者が適宜行う設計変更にすぎないことである。 イ 相違点4について 偏光板におけるポリビニルアルコール系樹脂のケン化度として、強度や染色速度等を考慮して、90.0モル%?99.5モル%の範囲のものとすることは周知技術であり(例えば、特開2011-227450号公報段落【0026】?【0027】等参照)、引用発明における「PVA層」のケン化度について、当該周知技術に基づき、強度や染色速度等を考慮して、90.0モル%?99.5モル%の範囲のものとすることは当業者が容易に想到し得ることである。 (8)発明の効果について 本件補正後発明が有する効果として、本願の明細書段落【0015】には「全体の層数及び厚みを抑え、偏光サングラスを掛けた際の視認性を確保しながら、高温高湿下での耐熱性及び耐湿性に優れる円偏光板を提供することができる。また、この円偏光板に粘着剤層を設けて、粘着剤層付き円偏光板とすることができ、さらに、該粘着剤層を介して画像表示ユニットに貼合して画像表示装置とすることができる」と記載されている。しかしながら、このような効果については、前記(7)アで述べたとおり容易推考する当業者が期待する効果を超えるものではなく、格別顕著なものということはできない。 (9)請求人の主張について 請求人は、審判請求書において、「透湿度が本願発明で規定する範囲を下回るとΔPyは大きくなってしまう〔実施例1(比較)の透湿度33g/m^(2)/24hrsではΔPyは-1.36%〕。上回ってもΔPyは大きくなってしまう〔比較例1の透湿度827g/m^(2)/24hrsではΔPyは-28.6%〕。 そして、このように本願発明で規定する透湿度の範囲で優れた耐熱性および耐湿性を示すことは、本願発明者が初めて見出したことである。」、「引用文献1および引用文献2に記載の発明を組合せたとしても、防湿層の透湿度を110g/m^(2)/24hrs以上150g/m^(2)/24hrs以下として、本願発明に想到する言ことは、決して容易ではない。 よって、本願発明は、決して特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。」と主張する。 しかしながら、(7)アにおいて記載したように、保護層として透湿度の低いものとすることは引用文献1に示唆されており、また、透湿度が110g/m^(2)/24hrs程度の保護層は周知技術であることから、引用発明における保護層として、110g/m^(2)/24hrs以上150g/m^(2)/24hrs以下の数値範囲に含まれるものを用いることは、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。なお、前記「2 補正の適否(新規事項違反)」において指摘したように、実施例1?3のみから、透湿度が、本件補正後発明における下限値である「110g/m^(2)/24hrs」を下回ると「ΔPy」が大きくなることが、当初明細書等に記載されているものとは認められないから、本件補正後発明において、透湿度の下限値を「110g/m^(2)/24hrs」と設定することについて格別の技術的な意義を有するものであるとは認められない。 したがって、請求人の主張を採用することはできない。 (10)小括 本件補正後発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 5 まとめ 本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に違反してされたものであり、また、同条第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、前記[補正の却下の決定の結論]に記載のとおり、決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 以上のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年7月6日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、本願発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2に記載された事項及び周知技術に基づいて、本願出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 3 引用文献1の記載及び引用発明 引用文献1の記載及び引用発明は、前記「第2」[理由]4(2)及び(3)に記載したとおりである。 4 対比、判断 本願発明は、前記「第2」[理由]4で検討した本件補正後発明から、「防湿層の透湿度」について、下限値である「110g/m^(2)/24hrs以上」とすることを削除し、また、上限値を「150g/m^(2)/24hrs」より大きい「200g/m^(2)/24hrs」とするものである。 そうしてみると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに「防湿層の透湿度」の数値範囲が本願発明より限定されたものである本件補正後発明が、前記「第2」[理由]4に記載したとおり、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-01-15 |
結審通知日 | 2020-01-21 |
審決日 | 2020-02-04 |
出願番号 | 特願2016-222129(P2016-222129) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G02B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小西 隆 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
関根 洋之 早川 貴之 |
発明の名称 | 円偏光板 |
代理人 | 中山 亨 |
代理人 | 坂元 徹 |