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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01M
管理番号 1361101
審判番号 不服2019-2046  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-13 
確定日 2020-03-26 
事件の表示 特願2018- 31074「松枯れ防止方法および松枯れ防止剤」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月29日出願公開、特開2019-141016〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年2月23日の出願であって、その後の手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 7月17日付け :拒絶理由通知書
同年 9月13日 :意見書、手続補正書の提出
同年10月31日付け :拒絶査定
平成31年 2月13日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年 3月28日 :審判請求書の手続補正書の提出
同年 4月25日 :上申書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1?3に係る発明は、平成31年2月13日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項3に係る発明は、

「【請求項3】
11月?2月に松に与えることによって、前記松が分泌する松ヤニの量を増加させて、前記松ヤニと前記松に寄生するマツノザイセンチュウの体液との浸透圧差および前記松ヤニのpHが7.5に近い値になることによってマツノザイセンチュウの侵入を防止または殺虫し、かつマツノザイセンチュウを媒介するマダラカミキリムシに卵を産ませないまたは産んだ卵を駆除することによって、前記松の松枯れを防止する松枯れ防止剤であって、フルボ酸鉄を含むかき殻にさらにフルボ酸鉄またはフミン酸鉄を添加してなることを特徴とする松枯れ防止剤。」
というものである(以下、「本願発明」という。)。


第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、以下のとおりのものと認める。

この出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された、下記の引用文献1に記載された発明と引用文献2及び電子的技術情報3に記載された周知の技術的事項とに基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献1:特開2003-226587号公報
引用文献2:特開2017-178629号公報
電子的技術情報3:「公共用地における樹木等の管理ガイドライン」、
さいたま市、[オンライン]、2016年4月1日(更新日付)、
インターネット
<URL:http://www.city.saitama.jp/001/010/019/001/p012111.html> p.1-2

引用文献2及び電子的技術情報3は、本願出願時の周知技術を示すものである。


第4 当審の判断
当審は、原査定の拒絶の理由のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内において頒布された、下記の刊行物1に記載された発明及び電子的技術情報3、5並びに8及び刊行物4、6、7並びに9?15に記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。
理由は以下のとおりである。



刊行物1:特開2003-226587号公報
電子的技術情報3:「公共用地における樹木等の管理ガイドライン」、
さいたま市、[オンライン]、2016年4月1日(更新日付)、
インターネット
<URL:http://www.city.saitama.jp/001/010/019/001/p012111.html>
p.1-2
刊行物4:「殻肥料で松林元気に」、
河北新報 朝刊、2009年11月17日
電子的技術情報5:「蛎太郎の独り言・松枯れ対策!蛎右衛門、
散布大作戦!」、株式会社グリーンマンBLOG、[オンライン]、
2010年12月23日付記事、[2019年5月7日検索]、
インターネット
<URL:http://www.greenman.co.jp/diarypro/diary.cgi?no=17>
刊行物6:「「カキ殻肥料」で松枯れ防止 岩沼市議ら実証=宮城」、
東京読売新聞 朝刊、2010年8月17日、第28頁、
日経テレコン、[オンライン]
刊行物7:「ショットワン・ツー液剤の施工方法について
井筒屋化学産業株式会社」、情報の四季、村上産業株式会社、
2015年1月1日、Vol.122,第19?24頁
電子的技術情報8:「植木屋問答(掲示板より抜粋)?病害虫編?
Q36」、有限会社木下庭園管理、2006年11月9日投稿、
[2019年6月3日検索]、インターネット
<URL:http://www.k-tk.co.jp/nougaki/kakomon/q&a_musi/musi036.html>
刊行物9 :特開2009-268453号公報
刊行物10:特開2013-249278号公報
刊行物11:特開2008-179626号公報
刊行物12:特開2007-176712号公報
刊行物13:特開2005-314227号公報
刊行物14:特開2017-144396号公報
刊行物15:特開2014-077310号公報

なお、電子的技術情報3、5並びに8及び刊行物4、6、7並びに9?15は、本願出願時の技術常識を示すための文献である。

1 引用刊行物の記載
(1)刊行物1:特開2003-226587号公報
原査定にて引用された、本願出願前に頒布された刊行物である上記刊行物1には、以下の記載がある。

(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
かき殻とフルボ酸鉄とを成分に含むことを特徴とするかき殻肥料。
【請求項2】
腐植土を含み、前記フルボ酸鉄は前記腐植土に含まれることを特徴とする請求項1記載のかき殻肥料。
【請求項3】
前記腐植土は前記フルボ酸鉄を鉄成分の重量で0.5重量%以上含み、前記腐植土の分量は前記かき殻に対し5重量%以上20重量%以下であることを特徴とする請求項2記載のかき殻肥料。
【請求項4】
前記腐植土はフルボ酸を含むことを特徴とする請求項3記載のかき殻肥料。
【請求項5】
さらに酸化チタンを含むことを特徴とする請求項1、2、3または4記載のかき殻肥料。
【請求項6】
砂鉄を含み、前記酸化チタンは前記砂鉄に含まれることを特徴とする請求項5記載のかき殻肥料。
【請求項7】
前記砂鉄は前記酸化チタンを0.3重量%以上含み、二酸化鉄を4重量%以上含み、前記砂鉄の分量は前記かき殻に対し10重量%以上40重量%以下であることを特徴とする請求項6記載のかき殻肥料。
【請求項8】
さらに、加熱かき殻を含み、前記砂鉄は加熱かき殻用かき殻とともに300℃乃至400℃の温度で加熱した浜砂鉄から成り、前記加熱かき殻は前記砂鉄とともに加熱された加熱かき殻用かき殻から成ることを特徴とする請求項6または7記載のかき殻肥料。
・・・」(下線は、当審にて追加した。以下同様。)

(1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、植物の成長を促進するためのかき殻肥料に関する。」

(1c)「【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明に係るかき殻肥料は、かき殻とフルボ酸鉄とを成分に含むことを特徴とする。本発明に係るかき殻肥料は、腐植土を含み、前記フルボ酸鉄は前記腐植土に含まれることが好ましい。しかしながら、フルボ酸鉄は、土壌などから抽出したものであってもよい。前記腐植土は前記フルボ酸鉄を鉄成分の重量で0.5重量%以上含み、前記腐植土の分量は前記かき殻に対し5重量%以上20重量%以下であることが好ましい。前記腐植土はフルボ酸を含むことが好ましい。本発明に係るかき殻肥料は、土壌などから抽出したフルボ酸を含んでいてもよい。本発明に係るかき殻肥料は、いかなる形態であってもよいが、土壌中に養分が浸透しやすい液状、粉状または細粒状であることが好ましい。腐植土とは、動植物が土の中で腐ってできた暗黒色の土である。」

(1d)「【0044】(松の枝折れと松枯れ回復のための毛細根生育の事例)
第6例(宮城県宮城郡利府町青山)
西斜面隣にこの団地造成の斜面、傾斜約40度に大小3本の松の苗を植えられた土留め用に植林された黒松であった。一本目の黒松は高さ6mものと2m。そして6mもので幹の太さは、それぞれ茎25cm10cm、25cmの松の生育状況になっていた。平成12(2002)12月末、この地方をおそった大雨と強風の影響で三本の黒松は根元から立ち上がりから40cm、22cm、47cmのところから分かれた枝が折れてしまった。平成13年六月中旬になって松の葉(緑の針葉)にいたるところに茶褐色になっていることをこの目で確かめ、松枯れ現象が全部に拡がっていることが分かった。そこで先ず枝折れ回復を図るため、幹の太い部分に丁字型の支柱をするため棒と縄で折れた枝を支える作業でその応急処置を終えた。次に松枯れ防止と回復をするため、三本の黒松樹生の総面積約20m^(2)に当かき殻肥料1袋分計20kgをこの面積地内に全面施用を試みた。ところが平成14年の春、この黒松の幹からどんどん新芽が出ることがここで確かめることが出来た。そして本年10月23日現在、松枯れが見事なくなり、回生したことを確かめることが出来た。一体、松の根の生えている地下組織といっても根の張る面積は丈の高さを半径としたところが栄養分を吸収する先端であるため約20m^(2)の面積全散布をした。
【0045】松枯れはペーハーは3?4の強酸性の土壌らなった段階で松枯れ現象が既に存在していた。即ち、松の根から吸収する松やにがなく、しかも酸性雨という二重に亙る原因で松の根の先端が毛細根が生育していることが地中内部で確認することが出来た。平成13年度、宮城県宮城郡松島町では仙台湾、松島湾の島々、湾岸周辺に樹生する数万?数十万本に及ぶ黒松。赤松の松枯れ防止のため木酢液と木炭を使用することでその回生を図ることができた。確かにこの物質は全面積に散布するのは一時的に予防は出来ても持続性はなくなることも明らかである。従って酸性雨にも対応出来、免疫性の高い当かき殻肥料の散布でその回生が間違いなく出来るということも分かった。日本全土に拡がる酸性雨にもよると考えられる松枯れ、枯れ防止に免疫力を高める物質、即ち、当かき殻肥料で解決出来る。」

(1e)「【0055】
【実施例】以下、本発明の実施例について説明する。本発明の実施例のかき殻肥料は、かき殻と腐植土と浜砂鉄と加熱かき殻とほっき貝殻とかき殻に付着する藻と松枝・松葉・松笠との混合物から成る。かき殻肥料1単位は、かき殻5kg、腐植土0.5kg、浜砂鉄1kg、加熱かき殻3kg、ほっき貝殻0.5kg、かき殻に付着する藻0.56kgと松枝・松葉・松笠0.1kgとから成る。かき殻肥料20kgが1つの袋に入れられて流通される。
【0056】腐植土は、フルボ酸鉄を鉄成分の重量で0.62重量%含むとともにフルボ酸を含む。腐植土の分量は、かき殻に対し10重量%である。浜砂鉄は、酸化チタンを0.38重量%含み、二酸化鉄を4.27重量%含む。浜砂鉄の分量は、かき殻に対し20重量%である。加熱かき殻は、炭酸ナトリウムを1.55重量%含む。加熱かき殻の分量は、砂鉄に対し300重量%(3倍)である。浜砂鉄は、加熱かき殻用かき殻とともに300℃乃至400℃の温度で加熱してある。なお、加熱かき殻用かき殻は、加熱しないで用いるかき殻と同種のものでよい。加熱かき殻は、砂鉄とともに加熱された加熱かき殻用かき殻から成る。ほっき貝殻は、300℃乃至400℃の温度で加熱してある。ほっき貝殻の分量は、加熱しないかき殻に対し10重量%である。藻の分量は、かき殻の重量に対し9分の1である。このかき殻肥料は、微粉状である。」


(2)電子的技術情報3:
原査定にて引用された上記電子的技術情報3には、以下の記載がある。

「1.1.2 生育のサイクル
樹木は生き物であり、四季の変化に対応した生育サイクルで成長を続けている。剪定等の作業にあたっては、樹木の生育サイクルを理解し、樹木の生育にダメージを与えないように配慮する。樹木の生育サイクルは、樹種やその年の気候などにもよるが、一般的には以下の通り。
(1)3?5月にかけて、萌芽し、枝葉が生長する。花木は開花を迎える。
(2)6?8月には、若葉は成葉になり、枝も伸長する。幹や根は肥大成長する。
(3)9?11月頃には結実し、養分は貯蔵される。
(4)12?2月にかけては休眠期となり、落葉樹は葉を落とし、常緑樹は葉色を薄くする。」(第2頁下から10行目?同頁最終行)(審決注:原文では丸数字:(1)?(4)と表記する。)


(3)刊行物4:
本願出願前に頒布された刊行物である上記刊行物4には、以下の記載がある。

「殻肥料で松林元気に
岩沼・松くい虫対策 3市議が散布(審決注:原文では縦書き。以下同様。)
松くい虫被害を食い止めようと、岩沼市議3人が岩沼市から市有地を借り、松枯れが進む松林にカキ殻肥料を散布、病害虫予防の実験を始めた。根の発育や土壌改良を促す肥料をまくことで、病害虫への抵抗力を高められるかどうか、来春まで経過を観察する。
・・・
実験を始めたのは、宍戸幸次、長田忠広、酒井信幸の3市議。6日に肥料開発者の飯沼勇義さん=仙台市宮城野区=の協力を得て、岩沼市寺島川向のクロマツの保安林1000平方メートルに肥料400キロをまいた。
・・・
同様の実験は、被害が深刻な秋田県三種町で昨年秋から続けられており、肥料を散布した松は、散布しなかった松より葉の枯れ具合が少ないとの報告もある。
・・・
宍戸市議は「無害な肥料を活用することで、伐採を避け、元気な松を後世に残せないか、可能性を見極めたい」と話している。」


(4)電子的技術情報5:
上記電子的技術情報5には、以下の記載がある。

「蛎太郎の独り言・松枯れ対策!蛎右衛門、散布大作戦!
弊社のある宮城県大崎市松山、町名の由来とも言われる松林が、
松枯れ被害にお悩みだと聞いて、グリーンマン出動!(笑)
蛎右衛門を散布してきました。
・・・
カキ殻肥料による松枯れ対策は、全国至る所で実施されており、実績も出ている様です。
・・・
松枯れ対策は、(1)伐倒駆除(2)空中散布(3)樹幹注入が主な方法ですが、カキ殻施肥は土壌の活性を促し樹勢を上げ、松が本来の持つ抵抗力を高める事を目的とします。
春には、新芽が勢い良く出て来る事と信じています。」(審決注:原文では丸数字:(1)?(3)と表記する。)


(5)刊行物6:
本願出願前に頒布された刊行物である上記刊行物6には、以下の記載がある。

「「カキ殻肥料」で松枯れ防止 岩沼市議ら実証=宮城
カキ殻入りの肥料によって、松食い虫による松枯れを止めることに岩沼市議らが成功した。カキ殻に含まれるミネラルが土壌を酸性からアルカリ性に変え、松の生育力を高めているとみられる。各地で広がる松食い虫被害に歯止めをかけるものと期待される。
岩沼市議の宍戸幸次さんらは市所有の松林1000平方メートルを借り、昨年11月から肥料をまいた。すると、110本のうち、症状が深刻化していた3本を除き、107本は松枯れが止まった。一方、隣接地では何本もの松が枯れていった。
肥料は、仙台市の元教諭、飯沼勇義さんが開発したもの。・・・
松枯れ対策を巡っては、南三陸町でもカキ殻肥料の成功例を参考にして、やはりアルカリ性の成分を含むホタテ貝殻の粉砕肥料で効果を実験中だ。」


(6)刊行物7:
本願出願前に頒布された刊行物である上記刊行物7には、以下の記載がある。

(7a)「ショットワン・ツー液剤の施工方法について
井筒屋化学産業株式会社
【施工者の皆様へ】
本剤は、マツノザイセンチュウを原因とする松枯れを防止する「樹幹注入剤」です。その効果を確実なものとし、かつ松に障害を与えないためには、正しい方法で施工することが必要です。」(第19頁見出し、上段第1行?第6行)

(7b)「【施工時期】
(1)時期:マツノマダラカミキリの成虫発生時期の二ヶ月前までに施工して下さい。通常十一月?三月が最適です。ただし暖かい地方では二月頃までに施工を完了させて下さい。寒い地方では四月頃でも施工可能です。」(第21頁上段第10行?第16行)(審決注:原文では丸数字:(1)と表記する。)


(7)電子的技術情報8:
上記電子的技術情報8には、以下の記載がある。

「Q:36-1 初めまして、突然ですが五葉松についての質問です。
土植えの五葉松があるのですが、幹から樹液のようなものが出ていて、下の方から枯れていっています。
これは木の何かの病気なのでしょうか?元のようにするにはどうしたら良いのでしょうか?
原因、手入れの仕方等教えていただけたらと思います。

A: 樹液のようなものは「松ヤニ」でしょうか?松ヤニが出ているとすれば幹に穴を空けられたかかじられたかですから病気ではなくカミキリムシなどによる被害だと思います。
樹勢が強ければ松ヤニによって幼虫の侵入、成長を阻止出来ますが、樹勢が弱って松ヤニがあまり出なくなると虫に冒されてしまう場合もあります。
・・・
また、1?2月に石灰硫黄合剤、4?6月に2?3回スミバインの散布などでマツノザイセンチュウ対策も併行したら良いと思います。」(第1頁上段)


(8)刊行物9:特開2009-268453号公報
本願出願前に頒布された刊行物である上記刊行物9には、以下の記載がある。

(9a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
松食い虫による松枯れの予防として、ヒガンバナ科に属する球根を圧搾した液体を使用する松枯れ防止液。
【請求項2】
枯れに起因するマツノザイセンチュウを殺虫して樹内進入及び増殖防止させ、松枯れを防止する為の請求項1に記載の樹幹注入液。」

(9b)「【0003】
松食い虫被害は、マツノマダラカミキリ(以下、カミキリと称す)によって伝播されるマツノザイセンチュウ(以下センチュウと称す)の2つの生き物が介在して起こる。カミキリは、産卵するための枯死木を提供してもらい、センチュウは生存圏の移動を助けてもらっている。特にカミキリは、弱っている松の木を識別する能力があり、弱っている木をいち早く見つけては飛び移り、センチュウが伝播する。その為、松枯れの木が一本でも発生すると、そこから大量に松食い虫による松枯れが広がるという悪循環に陥るので、それを防ぐために松枯れ木を伐採していかなければならない。」

(9c)「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、松食い虫による松枯れの予防として、ヒガンバナ科植物の球根を圧搾した液体を使用することを特徴とした松食い虫松枯れ防止剤である。その防止剤を樹幹注入剤として使用する時は、センチュウが松木に進入する前の12月?1月頃に松木に樹幹注入してセンチュウの進入及び増殖防止をする。」


(9)刊行物10:特開2013-249278号公報
本願出願前に頒布された刊行物である上記刊行物10には、以下の記載がある。

(10a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
キク科センダングサ属植物の抽出物を有効成分として含むマツ材線虫病の防除剤。」

(10b)「【0002】
マツ材線虫病(松枯れ)の原因であるマツノザイセンチュウ(線形動物門、幻器綱、アフェレンコイデス目、アフェレンコイデス科、Bursaphelenchus xylophilus (Steiner & Buhrer) Nickle)およびその媒介虫であるマツノマダラカミキリ(節足動物門、昆虫綱、コウチュウ目、カミキリムシ科、Monochamus alternatus Hope)は、1905年に造船材料として北米から輸入された木材によって長崎に侵入し、その後、北海道、青森を除く全地域に拡大し、平成22年度の松枯れ病の被害量は約58万立方メートル(被害材積量)に及ぶ。日本に分布するアカマツやクロマツ、南西諸島の固有種であるヤクタネゴヨウ(絶滅危惧種)やリュウキュウマツが甚大な被害を受けており、日本各地に存在する松原が本病の脅威にさらされている。特に琉球列島に分布するリュウキュウマツは他の種に比べて本病に対する感受性が高く、大きな被害を被っている。本病害は日本のみならず、中国、台湾、韓国、ヨーロッパ地域においても発生しており、上記の種に加えてタイワンアカマツ、チョウセンゴヨウ、ヨーロッパアカマツ、フランスカイガンショウなどを含むマツ属(Pinus)植物(以下、単に「マツ」と称することもある)が本病に感受性である。ヨーロッパ諸国では感染拡大を防止するためマツ材の輸入に関して検疫を行っている。
【0003】
マツ材線虫病は、5?7月に枯れた松の幹から羽化・脱出したマツノマダラカミキリ(マツノザイセンチュウを体内に保持、一般的には8千?数万頭)が性成熟のためにマツの若枝に飛来し、表皮を摂食する。表皮が剥がれた部位からマツノザイセンチュウを誘引するβミルセンやエタノールなどの化学物質が揮発し、マツノザイセンチュウに対して正の走化性を示すと考えられている。これによりマツノザイセンチュウがマツ組織内に寄生を果たす(6?9月)。寄生後、速い場合では2?3週間程度で松枯れ症状を呈する。7?8月に枯死したマツにマツノマダラカミキリ雌成虫が飛来し、マツの樹皮下に産卵する。孵化したマツノマダラカミキリ幼虫は、樹皮下を摂食しながら成長し、11?5月に蛹室を形成して蛹となり、5?6月に羽化に至る。」


(10)刊行物11:特開2008-179626号公報
本願出願前に頒布された刊行物である上記刊行物11には、以下の記載がある。

(11a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
O-エチル-S-プロピル[(2E)-2-(シアノイミノ)-3-エチル-1-イミダゾリジニル]ホスホノチオエートを有効成分として含有する樹木寄生性有害生物防除組成物。
【請求項2】
O-エチル-S-プロピル[(2E)-2-(シアノイミノ)-3-エチル-1-イミダゾリジニル]ホスホノチオエートを有効成分として使用する樹木寄生性有害生物の防除方法。
【請求項3】
松に寄生する線虫類及び/又は穿孔性害虫を防除する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
松に寄生するマツノザイセンチュウ及び/又はマツノマダラカミキリを防除する請求項2に記載の方法。
【請求項5】
有効成分を樹冠下土壌に処理し、松に寄生する線虫類及び/又は穿孔性害虫を防除する請求項2に記載の方法。」

(11b)「【0010】
本発明の組成物は、線虫類と穿孔性害虫の双方を防除することができるので、極めて効率的に樹木を有害生物の被害から守ることができる。例えば、松の木に松枯れが発生する問題においては、マツノザイセンチュウが松に寄生し、松の生理異常を引き起こすことがその主たる要因であるので、その防除を行えば松枯れは防げるはずであるが、マツノザイセンチュウはマツノマダラカミキリと共生しており、マツノマダラカミキリがマツノザイセンチュウを媒介することによりその寄生範囲が広範囲に及ぶことから、松枯れの主たる要因であるマツノザイセンチュウの防除のみでは根本的な解決には至らない。したがって、松枯れのような樹木の成育阻害の主たる要因を排除(例えばマツノザイセンチュウを防除)でき、且つ、二次的な要因を排除(例えば媒介虫であるマツノマダラカミキリも防除)することが可能な本発明の組成物は、少ない処理量で、広範囲にわたって効果を奏するので、極めて有用かつ実用的である。」


(11)刊行物12:特開2007-176712号公報
本願出願前に頒布された刊行物である上記刊行物12には、以下の記載がある。

(12a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝殻内から貝柱を残して身を取り出す工程と、貝殻を水で洗浄する工程と、洗浄後の貝殻を温風乾燥する工程と、乾燥後の貝殻を粉・粒状に破砕処理する工程とを有する貝殻類を使用した肥料・土壌改良材・飼料の製造方法。」

(12b)「【0018】
この工程Aで処理される例えばカキ等の貝殻には、酸化チタン41ppm、カルシウム45重量%、鉄6200ppm、亜鉛43.41ppm、マンガン1400ppm、カリウム320ppm、リン1600ppm、マグネシウム5200ppm、セレン52200ppm、モリブデン2748ppm、珪素7100ppm、銅8.61ppm、ナトリウム1.55重量%、ゲルマニウム5ppm未満、クロム1ppm未満、コバルト44重量%、ニッケル1ppm未満、リチウム2ppm未満、バナジウム2ppm未満、キチン質、炭素、ラミナリン、コンキオリン有機窒素15重量%、酸素、水素、硫黄、ヨウ素、フルボ酸等のように、植物の成長に有用なミネラル類が含まれている。」


(12)刊行物13:2005-314227号公報
本願出願前に頒布された刊行物である上記刊行物13には、以下の記載がある。

(13a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
かき殻とフルボ酸鉄と松枝、松葉および松笠のうち少なくとも1種以上とを成分に含むことを特徴とするかき殻肥料。」

(13b)「【0004】
かき殻には、酸化チタン41ppm、カルシウム45重量%、鉄6200ppm、亜鉛43.41ppm、マンガン1400ppm、カリウム320ppm、リン1600ppm、マグネシウム5200ppm、セレン52200ppm、モリブデン2748ppm、珪素7100ppm、銅8.61ppm、ナトリウム1.55重量%、ゲルマニウム5ppm未満、クロム1ppm未満、コバルト44重量%、ニッケル1ppm未満、リチウム2ppm未満、バナジウム2ppm未満、キチン質、炭素、ラミナリン、コンキオリン有機窒素15重量%、酸素、水素、硫黄、ヨウ素、フルボ酸などが含まれる。」


(13)刊行物14:特開2017-144396号公報
本願出願前に頒布された刊行物である上記刊行物14には、以下の記載がある。

「【0022】
フルボ酸は、酸によって沈殿しない無定形高分子有機酸であり、分子内にカルボキシル基、フェノール性水酸基を多く含んだ多価有機酸である。フルボ酸の組成例としては、炭素35?45%、水素2?8%、窒素1?2%、硫黄0.1?1.0%である。フルボ酸は多くの金属と錯体を形成する。例えば、鉄との錯体はフルボ酸鉄となり、自然界では陸地から海洋への鉄分の移動の主な要因である。」


(14)刊行物15:特開2014-077310号公報
本願出願前に頒布された刊行物である上記刊行物15には、以下の記載がある。

「【0023】
また、フルボ酸には、生理活性物質としての機能があり、菌根菌を含む土壌菌の増殖を助ける働きもある。この土壌菌が中和剤のアミノ酸を分解して、植物が直接吸収可能なより低分子の有機酸やアンモニアなどに分解することによって、芝生の生育を助長する。同様に、リン酸や窒素を吸収して植物に供給し、芝生の生育を助長する。更に、フルボ酸は、鉄と錯体を作りフルボ酸鉄となり、これが植物性プランクトンを含む植物の生長を促進する効果があることも分かっている。」


2 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、摘記(1a)の請求項4に、「かき殻」と、「フルボ酸鉄」を含む「腐植土」「とを成分に含む」「かき殻肥料」であって、「前記腐植土はフルボ酸鉄を鉄成分の重量で0.5重量%以上含み」、「前記腐植土の分量は前記かき殻に対し5重量%以上20重量%以下であることを特徴とする」「かき殻肥料」が記載されている。
さらに特許請求の範囲に対応したかき殻肥料を施用した具体例として、摘記(1d)に当該「かき殻肥料」を「松枯れ防止と回復をするため」に「黒松」に対して施用し、松枯れが見事なくなり、回生したことが確認されたことが記載されている。
そして、摘記(1e)には、「かき殻肥料」の具体的実施態様として「かき殻肥料1単位」が「かき殻5kg、腐植土0.5kg、浜砂鉄1kg、加熱かき殻3kg、ほっき貝殻0.5kg、かき殻に付着する藻0.56kgと松枝・松葉・松笠0.1kgとから成」り、「腐植土は、フルボ酸鉄を鉄成分の重量で0.62重量%含むとともにフルボ酸を含む」ことが記載されている。

そうすると、刊行物1には、具体的実施態様に係る発明として、以下の発明が記載されているといえる。
「かき殻5kg、腐植土0.5kg、浜砂鉄1kg、加熱かき殻3kg、ほっき貝殻0.5kg、かき殻に付着する藻0.56kgと松枝・松葉・松笠0.1kgとから成るかき殻肥料であって、該腐植土はフルボ酸鉄を鉄成分の重量で0.62重量%含み、黒松の松枯れの防止と回復のために用いられるかき殻肥料」(以下、「引用発明1」という。)。


3 対比・判断
(1)本願発明と引用発明1との対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1では、かき殻に、フルボ酸鉄を含有する腐植土を混合しているので、かき殻にフルボ酸鉄が添加されていることになるから、本願発明の「かき殻にさらにフルボ酸鉄を添加してなる」に該当する。

そうすると本願発明と引用発明1とは、「かき殻にさらにフルボ酸鉄を添加してなる松に投与される組成物」である点において一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
組成物について、本願発明では、「松枯れ防止剤」と特定されているのに対して、引用発明1では、「黒松の松枯れの防止と回復のために用いられるかき殻肥料」と特定されている点

<相違点2>
組成物を松に与える時期について、本願発明では、11月?2月と特定されているのに対して、引用発明1では、投与の時期の特定がない点

<相違点3>
かき殻について、本願発明では、「フルボ酸鉄を含むかき殻」と特定されているのに対して、引用発明1では、かき殻にフルボ酸鉄を含むとの特定がない点

<相違点4>
本願発明では、「前記松が分泌する松ヤニの量を増加させて、前記松ヤニと前記松に寄生するマツノザイセンチュウの体液との浸透圧差および前記松ヤニのpHが7.5に近い値になることによってマツノザイセンチュウの侵入を防止または殺虫し、かつマツノザイセンチュウを媒介するマダラカミキリムシに卵を産ませないまたは産んだ卵を駆除することによって」松枯れを防止すると特定されているのに対して、引用発明1では、「松枯れの防止と回復のため」と特定されている点


(2)相違点の検討
ア 相違点1について
(ア)本願発明は、松枯れ防止「剤」であり、松枯れ防止効果を有するあらゆる形態の組成物を包含するものといえるところ、引用発明1は、「黒松の松枯れの防止と回復のために用いられるかき殻肥料」であり、松枯れの防止を図ること及び松枯れが一旦発生した際の回復を図ることを意図して用いられる肥料であり、結局のところ「松枯れ防止剤」としての作用を少なくとも有しているものである。
したがって相違点1は実質的な相違点ではない。

(イ)また仮に、当該点が実質的な相違点であるとしても、後に述べるとおり、松枯れ防止の作用機序が周知であるのだから、引用発明1において、「松枯れ防止剤」と特定することは、当業者が当然になし得る事項に過ぎない。

イ 相違点2について
(ア)刊行物3には、一般的な樹木の生育のサイクルとして、3?5月にかけて萌芽・生長することが記載されていることから、当該事項は技術常識であるといえるところ、樹木の枯れを防止する薬剤を投与するにあたって、当該技術常識を考慮し、樹木が生長する時期より前に投与時期を設定するのは、当業者が容易になし得た技術的事項であるといえる。

(イ)そして、刊行物4?6には、松枯れ対策として、刊行物4には11月6日に、刊行物5には12月23日に、刊行物6には11月に、それぞれ、松にカキ殻肥料を投与したことが記載されているから、相違点2に係る本願発明の構成に該当する時期にカキ殻肥料を投与することは、広く知られた技術的事項であるといえる。

(ウ)また、松枯れの主たる原因虫であることが広く知られているマツノザイセンチュウ及びそれを媒介するマツノマダラカミキリ(刊行物9:摘記(9b)、刊行物10:摘記(10b)、刊行物11:摘記(11b))への対策としては、これらの害虫に対して防止効果を有する薬剤を、11月?2月の間に投与すること自体が、技術常識であるといえる(刊行物7:摘記(7b)、刊行物8、刊行物9:摘記(9c))。

(エ)したがって、引用発明1のかき殻肥料を投与する時期も同様に、松枯れ対策の各種薬剤を通常投与する時期である11月?2月とすることは、当業者が容易になし得た技術的事項といえる。

ウ 相違点3について
刊行物1には、かき殻がフルボ酸鉄を含むか否かについて明示的な記載はないものの、刊行物12の摘記(12b)及び刊行物13の摘記(13b)に記載されているように、通常のかき殻には、フルボ酸と鉄とが含まれるものである。そして、刊行物14及び刊行物15に記載されているように、自然界においては、フルボ酸と鉄は錯体を形成しフルボ酸鉄となることも技術常識であるといえる。
したがって、引用発明1のかき殻にも、当然フルボ酸鉄が含まれているといえる。

このことは、本願の発明の詳細な説明の段落【0025】に、実施例として、松島産のかき殻を乾燥させただけのものに、フミン酸を添加するのみで、フルボ酸鉄を別途添加せずとも、フルボ酸鉄が含有された松枯れ防止剤を得たことが記載されていることとも符合している。
したがって相違点3は、実質的な相違点ではない。

エ 相違点4について
(ア)本願発明の松枯れ防止剤が有する「松が分泌する松ヤニの量を増加させて、前記松ヤニと前記松に寄生するマツノザイセンチュウの体液との浸透圧差および前記松ヤニのpHが7.5に近い値になることによってマツノザイセンチュウの侵入を防止または殺虫し、かつマツノザイセンチュウを媒介するマダラカミキリムシに卵を産ませないまたは産んだ卵を駆除する」との特定事項は、フルボ酸鉄を含有するかき殻にフルボ酸鉄をさらに添加することによって得られた松枯れ防止剤が有する性質であり、その作用機序を示したに過ぎないといえるから、引用発明1も当然具備しているものである。
したがって相違点4についても実質的な相違点ではない。

(イ)仮に相違点4が実質的な相違点であったとしても、当該作用機序についてみるに、上記イ(ウ)で述べたとおり、松枯れが主にマツノザイセンチュウとそれを媒介するマツノマダラカミキリに起因して発生するものであることが広く知られていたから、引用発明1のかき殻肥料の松枯れ防止効果も、これらの虫に何らかの作用を及ぼした結果であると考えられる。
また引用発明1のかき殻肥料は、植物の生長促進効果を有するものであるから、松ヤニの分泌が当然促進されるし、かき殻は酸化カルシウムを主成分とするものであり、水に溶解した場合にアルカリ性を示すから、施用された土壌のpHが高まり、結果的に松ヤニのpHも高くなると考えられる。
そして、松ヤニのような高濃度の液状物質が昆虫の表面と接触した際には、浸透圧の差によって水分が移動するため、松ヤニのpHの上昇と相まって害虫が生存しにくい環境を生み出されることが化学的常識から理解できる。
そうすると、上記作用機序自体も、当業者が予測し得たことである。

(ウ)したがって、仮に相違点4が実質的な相違点であったとしても、相違点4に係る本願発明の構成は、上記技術常識を考慮すれば、当業者が容易に想到し得た技術的事項に過ぎない。


(3)効果について
本願発明の効果について検討する。
本願発明の効果は「短期間で効果的に、かつ人畜や環境への影響も全くなく、本来あるべき自然環境に戻し、松枯れを防止できる」(段落【0010】)というものであるが、刊行物1の摘記(1d)には、黒松の松枯れ防止と回復のために、引用発明1のかき殻肥料を施用したところ、翌年の春には、施用された黒松からどんどん新芽が出ることが確かめられたとされており、当該効果が観察されるまでの期間は、本願の発明の詳細な説明の段落【0028】及び【0029】に記載されている期間とほぼ同じであるから、十分に“短期間で効果的である”といえるし、引用発明1において用いられているかき殻その他の材料は全て天然由来のものであるからには、人畜や環境への影響も少ないことも明らかである。
したがって、本願発明の効果はいずれも当業者であれば予測可能である。


(4)請求人の主張について
ア 請求人は、平成31年3月28日付けの手続補正書の第2頁において、本願発明は、11月?2月に松枯れ防止剤を撒布することによって、ザイセンチュウがカミキリムシから松にすりつけられる6月頃のタイミングで松ヤニの濃度とpHが最大になり、侵入を効果的に防止できるもので、ザイセンチュウの繁殖のメカニズムに着目してなされたものである旨主張する。
しかしながら、上記(2)イ(イ)及び(ウ)で述べたとおり、松枯れ対策として、11月?2月に松林にかき殻肥料を施用することは、広く知られた技術的事項であるし、松枯れの原因であるマツノザイセンチュウ及びそれを媒介するマツノマダラカミキリに対して効果がある薬剤を、11月?2月に投与すること自体も技術常識であり、そのような時期に松枯れ防止成分が施用されれば、数ヶ月後にその効果が発揮されることは、当業者であれば予測し得たことである。さらに上記(2)エで述べたとおり、引用発明1のかき殻肥料は、植物の生長促進効果を有するもので、松に施用すれば松ヤニの分泌を促されるし、かき殻は、水に溶解した際にアルカリ性を示すため、これを土壌に散布すれば、結果的に松ヤニのpHが高まること、及び、松ヤニは高濃度であり、そのような液状物質が昆虫の表面と接触すれば、浸透圧の差によって水分移動が生じ得ること、はいずれも技術常識であり、これらによって害虫が生存しにくい環境が生じることは当業者であれば当然予測し得たことである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

イ また請求人は同手続補正書の第2頁において、本願発明によって松枯れを防止することは、薬剤の散布等を行わず、松の木が自ら分泌する松ヤニによるものであるため、産業上きわめてメリットが大きく、かつ自然環境への負荷を防止するうえでも極めて優れている旨主張する。
しかしながら、そのような点は、引用発明1においても、かき殻を利用して松枯れの防止と松の回復をしているのであるから、薬剤の散布等を行わず、松自らの回復力を利用していることに変わりなく、当該効果自体も、フルボ酸鉄を含有するかき殻にフルボ酸鉄をさらに添加することによって得られた松枯れ防止剤が有する性質であるといえるから、引用発明1もそのような効果を有しているものといえる。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

ウ さらに請求人は、同手続補正書の第4頁において、本願発明に係る松枯れ防止剤には、枯れた松に生える苔の発生も防止できるという効果もある旨主張する。
しかしながら、本願の当初明細書の発明の詳細な説明には、苔の発生を防止する効果について何ら言及がないから、当該効果に関する主張は、当初明細書の記載に基づかない主張である。仮にそのような効果が存在していたとしても、当該効果は、フルボ酸鉄を含有するかき殻にフルボ酸鉄をさらに添加することによって得られた松枯れ防止剤が有するものであるといえるから、引用発明1もそのような効果を有しているものといえる。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。


第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び電子的技術情報3、5並びに8及び刊行物4、6、7並びに9?15に記載された技術常識に基いて、本願出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-01-15 
結審通知日 2020-01-21 
審決日 2020-02-12 
出願番号 特願2018-31074(P2018-31074)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 裕之高森 ひとみ早乙女 智美  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 関 美祝
中島 芳人
発明の名称 松枯れ防止方法および松枯れ防止剤  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
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