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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B29C |
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管理番号 | 1361103 |
審判番号 | 不服2019-3202 |
総通号数 | 245 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-03-07 |
確定日 | 2020-03-26 |
事件の表示 | 特願2015- 68865「樹脂成形体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月12日出願公開、特開2015-199348〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年3月30日(優先権主張 平成26年3月31日)の出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。 平成30年 9月 7日付け:拒絶理由通知 平成30年11月 8日 :意見書、手続補正書の提出 平成30年12月 7日付け:拒絶査定 平成31年 3月 7日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 平成31年3月7日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成31年3月7日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について (1) 本件補正前の特許請求の範囲の記載 本件補正前の、平成30年11月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲のうち、請求項1の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 ポリカーボネート樹脂を用いて、樹脂射出成形体を製造する方法であって、 下記の要件1及び2を共に満たすことを特徴とする樹脂成形体の製造方法。 要件1:ポリカーボネート樹脂が下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含む樹脂であり、前記ポリカーボネート樹脂に着色剤が含まれる。 【化1】 要件2:キャビティ面の温度を60℃以上とした射出成形用金型にポリカーボネート樹脂を射出し、 前記射出成形用金型のキャビティ面温度が、該樹脂射出時の金型キャビティ面の温度より10℃以上低い状態で樹脂成形体の排出を行い、 該樹脂の射出から排出までの時間が2時間以内である。」 (2) 本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正における特許請求の範囲の補正は、請求項1についての次の補正事項を含む。(合議体注:下線部は、補正箇所である。) 「【請求項1】 ポリカーボネート樹脂を用いて、樹脂射出成形体を製造する方法であって、 下記の要件1及び2を共に満たすことを特徴とする樹脂成形体の製造方法。 要件1:ポリカーボネート樹脂が下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含む樹脂であり、前記ポリカーボネート樹脂に顔料を含む着色剤を含有する。 【化1】 要件2:キャビティ面の温度を60℃以上とした射出成形用金型にポリカーボネート樹脂を射出し、 前記射出成形用金型のキャビティ面温度が、該樹脂射出時の金型キャビティ面の温度より10℃以上低い状態で樹脂成形体の排出を行い、 該樹脂の射出から排出までの時間が2時間以内である。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「着色剤」について、「顔料を含む」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(2)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2012-67293号公報(平成24年4月5日出願公開。以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。 「【請求項1】 構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物に由来する構造単位とを含むポリカーボネート樹脂を射出成形することによる成形品の製造方法であって、射出成形時のシリンダー温度と金型温度との差が50℃?110℃であることを特徴とする成形品の製造方法。 【化1】 (但し、上記一般式(1)で表される部位が-CH_(2)-O-Hの一部である場合を除く。)」 「【請求項5】 構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の成形品の製造方法。 【化3】 (但し、上記一般式(1)で表される部位が-CH_(2)-O-Hの一部である場合を除く。) 【化4】 」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、外観、低光学歪み性、耐光性、透明性、色相、耐熱性、熱安定性、及び機械的強度に優れた樹脂成形品の製造方法に関する。」 「【0073】 その際、押出機において、残存モノマーの減圧脱揮や、通常用いられる熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、難燃剤等を添加、混練することもできる。 押出機における溶融混練温度は、樹脂のガラス転移温度や分子量に依存するが、通常150℃?300℃、好ましくは200℃?270℃、更に好ましくは230℃?260℃である。溶融混練温度が150℃より低いと、樹脂の溶融粘度が高くなって押出機への負荷が大きくなり、生産性が低下する。300℃より高いと、樹脂の熱劣化が激しくなり、分子量が低下して、ガスが発生したり、樹脂の着色や機械的強度が低下したりすることがある。」 「【0113】 以下の実施例の記載の中で用いた化合物の略号は次の通りである。 ISB:イソソルビド (ロケットフルーレ社製、商品名POLYSORB) CHDM:1,4-シクロヘキサンジメタノール (新日本理化株式会社製、SKY CHDM) DPC:ジフェニルカーボネート (三菱化学株式会社製) (酸化防止剤) イルガノックス1010:ペンタエリスリチル-テトラキス{3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASFジャパン株式会社製) イルガフォス168:トリス(2,4-ジ-tertブチルフェニル)ホスファイト(BASFジャパン株式会社製) (離型剤) NAA-180:ステアリン酸(日油株式会社製)【0114】 【0114】 [実施例1] 撹拌翼および還流冷却器を具備した重縮合反応装置に、ISBとCHDM、蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたDPCおよび酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でISB/CHDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.69/0.31/1.00/1.3×10^(-6)になるように仕込み、十分に窒素置換した(酸素濃度0.0005vol%?0.001vol%)。続いて熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始し、内温が100℃になるように制御しながら内容物を融解させ均一にした。その後、昇温を開始し、40分で内温を210℃にし、内温が210℃に到達した時点でこの温度を保持するように制御すると同時に、減圧を開始し、210℃に到達してから90分で13.3kPa(絶対圧力、以下同様)にして、この圧力を保持するようにしながら、さらに60分間保持した。重縮合反応とともに副生するフェノール蒸気は、還流冷却器への入口温度が100℃になるように制御された蒸気を冷媒として用いた還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を重合反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は続いて45℃の温水を冷媒として用いた凝縮器に導いて回収した。 【0115】 このようにしてオリゴマー化させた内容物を、一旦大気圧にまで復圧させた後、撹拌翼および上記同様に制御された還流冷却器を具備した別の重縮合反応装置に移し、昇温・減圧を開始して、60分で内温220℃、圧力200Paにした。その後、20分かけて内温228℃、圧力133Pa以下にして、所定の撹拌動力になった時点で復圧し、反応装置出口より溶融状態のポリカーボネート樹脂を得た。 【0116】 更に3ベントおよび注水設備を備えた二軸押出機に連続的に前記溶融状態のポリカーボネート樹脂を供給し、表1に示した組成となるように酸化防止剤として「イルガノックス1010」及び「イルガフォス168」、離型剤として「NAA-180」を所定の割合で連続的に添加するとともに、二軸押出機に具備された各ベント部にてフェノールなどの低分子量物を減圧脱揮したのち、ペレタイザーによりペレット化を行い、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。 【0117】 得られたポリカーボネート樹脂組成物のペレットを使って、株式会社名機製作所製の型締め力200トンの射出成形機にヒートアンドクール成形可能な金型急過熱/急冷却システム(株式会社シスコ製)を備えた150mm×200mmの投影面積で厚み3mmのプレートが得られる金型を装着して、シリンダー温度240℃、充填時の金型温度140℃(射出成形時のシリンダー温度と金型温度との差は100℃)、その後の冷却時の金型温度60℃で、射出速度20%(充填時間0.89秒)、冷却時間60秒で成形プレートを成形した。」 イ 引用文献1に記載された発明の認定 引用文献1の実施例1には、「ISBとCHDM、蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたDPCおよび酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でISB/CHDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.69/0.31/1.00/1.3×10-6になるように仕込み」、「ポリカーボネート樹脂を得た」こと、「株式会社名機製作所製の型締め力200トンの射出成形機」を用い、「充填時の金型温度140℃(射出成形時のシリンダー温度と金型温度との差は100℃)、その後の冷却時の金型温度60℃で、射出速度20%(充填時間0.89秒)、冷却時間60秒で成形プレートを成形した」ことが記載されている。 してみると、引用文献1には、 「ポリカーボネート樹脂を用いて、樹脂射出成形体を製造する方法であって、 ポリカーボネート樹脂が、ISBとCHDM、蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたDPCおよび酢酸カルシウム1水和物を含む樹脂であり、 射出成形機における充填時の金型温度が140℃、その後の冷却時の金型温度60℃で、射出速度20%(充填時間0.89秒)、冷却時間60秒である成形プレートの成形方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 (3) 対比・判断 本件補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「ISB」はイソソルビドであるから、本件補正発明の「一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物」に相当する。また、引用発明の「射出成形機における充填時の金型温度が140℃」、「冷却時の金型温度が60℃」であるから、本件補正発明の「キャビティ面の温度を60℃以上とした射出成形用金型にポリカーボネート樹脂を射出し、前記射出成形用金型のキャビティ面温度が、該樹脂射出時の金型キャビティ面の温度より10℃以上低い状態で樹脂成形体の排出を行」うとの特定事項を満たす。さらに、引用発明の「充填時間0.89秒」、「冷却時間60秒」との記載から見て、本件補正発明の「樹脂の射出から排出までの時間が2時間以内である」との特定事項を満たすことは明らかである。 してみると、本件補正発明と引用発明は、 「ポリカーボネート樹脂を用いて、樹脂射出成形体を製造する方法であって、 下記の要件1及び2を共に満たすことを特徴とする樹脂成形体の製造方法。 要件1:ポリカーボネート樹脂が下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含む樹脂である。 【化1】 要件2:キャビティ面の温度を60℃以上とした射出成形用金型にポリカーボネート樹脂を射出し、 前記射出成形用金型のキャビティ面温度が、該樹脂射出時の金型キャビティ面の温度より10℃以上低い状態で樹脂成形体の排出を行い、 該樹脂の射出から排出までの時間が2時間以内である。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> ポリカーボネート樹脂において、本件補正発明は「顔料を含む着色剤」を含有するのに対し、引用発明はそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 引用文献1の段落【0073】には、着色剤を添加できることが記載されている。また、イソソルビドを含むポリカーボネート樹脂に添加される着色剤として、顔料を含むものもよく知られている(必要であれば、特開2013-203932号公報(【請求項1】、【請求項2】、段落【0034】、【0051】】等)を参照されたい。)。そして、引用発明において着色剤を添加することは当業者であれば容易に想到し得るといえるところ、添加するにあたり、顔料を含むものを用い、本件補正発明の特定事項を満たすものとすることもまた、当業者であれば容易になし得ることである。 効果について検討するに、本件補正発明は、「特定構造を含むポリカーボネート樹脂と特定の成形条件を組み合わせること」で、「外観品質に優れ、表面硬度や耐傷つき性に優れた成形体を得る」(段落【0009】、【0010】)ことを解決課題とするものであるが、実施例・比較例を通じてみても、樹脂や成形条件を変更した際のスクラッチ摩擦係数、傷発生開始加重については検討されているものの、「顔料を含む着色剤」の有無が効果発現に影響することは何ら示されてはいない。してみれば、樹脂と成形条件がともに本件補正発明の特定事項を満たすものである引用発明においても、本件補正発明と同様の効果が当然奏されるといえ、本件補正発明の特定事項を満たすことによる格別の効果を見出すことはできない。 この点について、審判請求人は審判請求書において、「顔料を含む着色剤を含有した樹脂を用いた射出成形体は、その表面付近に固形物である顔料が存在するために外観や表面平滑性に劣る、ということは、出願時における当業者であれば、技術常識から当然に想到し得る。このため、本願発明が目的とする水準で外観や表面平滑性に優れた射出成形体を得ようとする場合、たとえ当業者であっても、引用文献1の発明に顔料を含む着色剤を用いることは想到しないと考えられる。」(第5頁第17-22行)と主張する。しかし、先に挙げた特開2013-203932号公報にも記載されているように、イソソルビドを含むポリカーボネート樹脂に、外観や色相、機械的強度などに優れた樹脂成形品を得るために顔料を加えたものが公知であることから見ても、審判請求人が主張するような技術常識があるものと認めることはできない。 したがって、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (4)本件補正についてのむすび したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成31年3月7日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成30年11月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2の1(1)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、との理由を含むものである。 引用文献1:特開2012-67293号公報 3 引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、上記第2の2(2)アに記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、本件補正発明の「着色剤」について、「顔料を含む」との限定を付加しないものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の2(3)で検討のとおり、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-01-24 |
結審通知日 | 2020-01-28 |
審決日 | 2020-02-10 |
出願番号 | 特願2015-68865(P2015-68865) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(B29C)
P 1 8・ 121- Z (B29C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 一宮 里枝、浅野 昭 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
加藤 友也 植前 充司 |
発明の名称 | 樹脂成形体の製造方法 |
代理人 | 北川 政徳 |
代理人 | 鎌田 文二 |
代理人 | 中谷 弥一郎 |
代理人 | 鎌田 直也 |