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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B |
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管理番号 | 1361119 |
審判番号 | 不服2018-8629 |
総通号数 | 245 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-06-25 |
確定日 | 2020-03-27 |
事件の表示 | 特願2015- 15165「低後方反射の光ファイバ成端」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月27日出願公開、特開2015-156019〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年1月29日(パリ条約による優先権主張2014年1月31日、米国)の出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。 平成28年 2月24日付け:拒絶理由通知書 平成28年 9月 1日 :意見書・手続補正書 平成28年12月19日付け:拒絶理由通知書(最後) 平成29年 7月28日 :意見書 平成29年10月20日付け:拒絶理由通知書(最初) 平成30年 1月24日 :意見書 平成30年 2月19日付け:拒絶査定 平成30年 6月25日 :審判請求書 平成31年 2月19日付け:拒絶理由通知書(最初、当審がしたもの) 令和 元年 8月21日 :意見書・手続補正書 第2 平成31年2月19日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶理由 上記拒絶理由は、要旨、次のとおりのものを含む。 1 平成28年9月1日提出の手続補正書により補正された請求項4に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2 平成28年9月1日提出の手続補正書により補正された請求項4に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 3 平成28年9月1日提出の手続補正書により補正された請求項4に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 引用文献1:特開平3-12608号公報 引用文献2:米国特許第6208783号明細書 第3 当審の判断 1 本願発明の認定 本願の請求項に係る発明は、令和元年8月21日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「コアと周囲のクラッドとを有する光ファイバのための成端構造体であって、 ファイバ軸に対して選択した角度を有する、ファイバ先端部に形成された端面と、 傾斜された前記端面上に堆積されて、傾斜反射表面を形成する反射材料と を有し、 前記傾斜反射表面は、導波路に沿って前記ファイバ先端部まで伝搬する光が反射されて前記光ファイバに戻るように構成され、 前記傾斜反射表面は、後方反射光の前記コアへの結合を防止するように構成され、 それによって、前記後方反射光が光ファイバ・セグメントの長さに沿って消散できるようにし、 傾斜された前記端面が前記ファイバ軸に垂直な面に対して角度θを有するように構成され、前記傾斜反射表面の方に前記導波路に沿って進む光が反射されて角度2θで前記光ファイバ・セグメントに戻り、前記コアに結合する前記反射光の割合は関係式 【数3】 に従って得られ、ここで、Rが-40dBから-80dBに及ぶ最大レベルを有し、nは前記コアのコア屈折率であり、ωはスポットサイズであり、λは伝送光の波長である、光ファイバのための成端構造体。」 2 引用文献に記載された事項の認定 (1)引用文献1(特開平3-12608号公報) ア 当審がした平成31年2月19日付け拒絶理由通知書で引用された、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1には、次の記載がある(下線は当審が付した。以下同じ。)。 (ア)「第1図は本発明の誘電体多層膜付き光ファイバの第一の実施例を示す。 図において、13はコア径10μm、クラッド径125μmのファイバ、12はファイバ13を被覆するアルミニウムを示す。アルミニウムを被覆した全外径は180μmである。19は外径2.5mmφのフェルール、17は端面に直接蒸着した誘電体多層膜フィルタである。誘電体多層膜フィルタ7にはTiO_(2)とSiO_(2)が交互に23層積層された長波長通過形のもの(カットオフ波長約1.45μm)が用いられている。 23層の厚さは数ミクロンでカットオフの波長、すなわち1/4波長に対し波長が長ければ厚く、短かければ薄くてよい。 本発明の誘電体多層膜付き光ファイバの製造方法について説明する。 ファイバ端末部を成端するため、フェルール孔に挿入するファイバ部分のアルミコート部をエッチングした後、これをエポキシ系接着剤で充填されたフェルール孔に挿入し、100℃で硬化させ、さらに端面を研磨した。端面への誘電体多層膜蒸着は、前記フェルールで成端されたアルミコートファイバを蒸着装置内に固定し、イオンアシスト蒸着法により無加熱で形成した。イオン化ガスにはアルゴンと酸素による混合ガスを使用した。 蒸着作業中、残留ガスによる真空度の低下は認められなかった。また、形成した多層膜に剥離やクラックは無かった。このようにして得られた誘電体多層膜フィルタ付き光ファイバの波長特性を第2図に示す。 1.55μm帯の光を通過させ、1.3μm帯の光を反射する設計どうりの特性が得られた。なお、測定は誘電体多層膜付き光ファイバに端面発光LEDを入力し、その出力スペクトラムから光源スペクトラムを差し引いた。これから、本実施例による誘電体多層膜付きファイバの選択透過特性が確認できた。」(第3頁左上欄第10行?左下欄第7行) (イ)「第3図は本発明の第2の実施例を示すもので、第1の実施例とはファイバ端面が斜めに研磨されている点が異なっている。平面で斜めに軸線に対し8°に研磨することによって、誘電体多層膜27での反射光をファイバ13のクラッド中に逃がし、光源方向に戻さないようにしたものである。 なお、以上の実施例においては蒸着中に被覆から出るガスの問題を回避する手段として被覆材にアルミニウムを使用したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、例えばAg、Pb、Sb、Zn等他の金属を用いた場合にもこの目的が達成される。」(第3頁左下欄第8行?第20行) (ウ)第1図及び第3図は次のとおりである。 イ 上記アによれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「ファイバ端面の構造であって、 ファイバは、コア径10μmのコアとクラッド径125μmのクラッドからなり、 端面に、誘電体多層膜フィルタが直接蒸着されており、 ファイバ端面が斜めに研磨されており、平面で斜めに軸線に対し8°に研磨することによって、誘電体多層膜27での反射光をファイバ13のクラッド中に逃がし、光源方向に戻さないようにした、 ファイバ端面の構造。」 (2)引用文献2(米国特許第6208783号明細書) ア 当審がした平成31年2月19日付け拒絶理由通知書で引用された、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2には、次の記載がある。 (ア)「The term "waveguide" is used herein to refer to an optical structure having the ability to transmit light in a bound propagation mode along a path parallel to its axis, and to contain the energy within or adjacent to its surface. In many optical applications it is desirable to filter light that is propagating within a waveguide, perhaps an optical fiber, in order to eliminate or redirect light of certain wavelengths or to pass only light of certain wavelengths.」(第1欄第19行?第26行) (当審仮訳:「光導波路」という用語は、ここで、その軸に平行な進行方向に沿って境界伝搬モードにおいて光を伝達する機能を有する光学構造のことをいい、その表面内あるいはこれに近接するエネルギーを含むものである。多くの光学応用において、光ファイバであり得る光導波路内を伝搬する光を、ある波長の光を除くか、その方向を変えるか、ある波長の光のみを通過させるためにフィルタすることが望ましいことがある。) (イ)「In another embodiment the filter can be placed at an oblique angle with respect to the longitudinal axis of the second waveguide section, which has a number of beneficial effects including reducing back-reflection of light.」(第3欄第54行?第57行) (当審仮訳:別の実施形態では、フィルタは、第2の導波路セクションの長軸に対して斜めの角度で配置されることができ、これは、光の後方反射の低減を含む多くの有益な効果を有する。) (ウ)「The filter can be included in the device by a number of methods. The filter can be coated onto the end surface of the second waveguide section, or it can be coated onto a substrate that is transparent to relevant wavelengths and the substrate mounted in optical communication with the second waveguide section.」(第3欄第58行?第63行) (当審仮訳:デバイスに含まれるフィルタは、多くの方法で含まれるようにすることができる。フィルタは、第2光導波路部の端面にコーティングされるか、関係する波長において透明な基板の上にコーティングされ、その基板が第2光導波路部と光学結合されるようにマウントされ得る。) (エ)「As illustrated in FIG. 13, in another embodiment 300k the filter 301 can be placed at an oblique angle ψ with respect to the longitudinal axis 307 of the second waveguide section 303. Generally, light that is not passed by an interference filter will be reflected by the filter. By angling the filter 301, the back-reflected light 1304 is rejected outside of the angular propagation limit of either the second waveguide section 303 or the first waveguide section 302. There is a correlation between the extent of ray straightening that will occur in the second waveguide section 303 and the filter angle ψ that is required in order to preclude or reduce back propagation of reflected light 1304 to an acceptable level.」(第10欄第29行?第40行) (当審仮訳:図13に示されているように、他の実施例300kにおいて、フィルタ301は、第2光導波路部303の長軸307に対して傾斜角ψで配置され得る。一般的に、干渉フィルタを通過しない光はフィルタによって反射される。フィルタ301を傾斜させることにより、後方反射光1304は、第2光導波路部303又は第1光導波路部302の伝搬臨界角を超える角度に排除される。第2光導波路部303において生じる直進光の程度とフィルタ角ψとの間には相関があり、フィルタ角ψは、後方反射光1304の後方伝搬を受け入れ可能なレベルにまで除くか減らすために求められる。) (オ)Fig.13は、次のとおりである。 (カ)Fig.13から、第2光導波路部303の端面が、平坦であることが見て取れる。 イ 上記アによれば、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「第1光導波路部302及び第2光導波路部303を有する導波路の端部の構造であって、 導波路は、光ファイバであり得るものであり、 フィルタは、第2光導波路部の端面にコーティングされており、 第2光導波路部303の端面は、平坦であり、 フィルタ301は、第2光導波路部303の長軸307に対して傾斜角ψで配置され得るものであり、 フィルタを通過しない光はフィルタによって反射され、 フィルタ301を傾斜させることにより、後方反射光1304は、第2光導波路部303又は第1光導波路部302の伝搬臨界角を超える角度に排除される、 導波路の端部の構造。」 3 引用発明1に基づく新規性欠如及び進歩性欠如 (1)本願発明と引用発明1との対比 ア 本願発明の「コアと周囲のクラッドとを有する光ファイバのための成端構造体であって、」との特定事項について (ア)引用発明1の「コア」及び「クラッド」が本願発明の「コア」及び「周囲のクラッド」にそれぞれ相当することは、明らかである。 (イ)引用発明1の「ファイバ」が本願発明の「光ファイバ」に相当することは、明らかである。そして、当該「ファイバ」は、上記(ア)にも照らせば、本願発明でいう「コア」及び「周囲のクラッド」を有する。 (ウ)引用発明1の「ファイバ端面の構造」は、本願発明の「光ファイバのための成端構造体」に相当する。 (エ)よって、引用発明1は、本願発明の上記特定事項を備える。 イ 本願発明の「ファイバ軸に対して選択した角度を有する、ファイバ先端部に形成された端面と、」との特定事項について (ア)引用発明1の「ファイバ端面」ないし「端面」は、本願発明の「ファイバ先端部に形成された端面」に相当する。 (イ)引用発明1の「ファイバ端面」は、「斜めに研磨されており、平面で斜めに軸線に対し8°に研磨」されているから、本願発明でいう「ファイバ軸に対して選択した角度を有する」ものといえる。 (ウ)よって、引用発明1は、本願発明の上記特定事項を備える。 ウ 本願発明の「傾斜された前記端面上に堆積されて、傾斜反射表面を形成する反射材料と」との特定事項について (ア)引用発明1の「誘電体多層膜フィルタ」ないし「誘電体多層膜27」は、フィルタではあるけれども、「誘電体多層膜27での反射光をファイバ13のクラッド中に逃がし、光源方向に戻さないようにした」ものであるから、「反射」作用がある。よって、引用発明1の「誘電体多層膜フィルタ」ないし「誘電体多層膜27」は、本願発明でいう「反射材料」であるといえる。 (イ)引用発明1の「誘電体多層膜」は、「端面に、」「直接蒸着されて」いるから、本願発明でいう「前記端面上に堆積され」たものである。そして、当該「端面」は、上記イによれば、傾斜されているといえる。 よって、引用発明1の「誘電体多層膜」は、本願発明でいう「傾斜された前記端面上に堆積され」たものである。 (ウ)上記(ア)及び(イ)によれば、引用発明1の「誘電体多層膜」は、本願発明でいう「傾斜反射表面を形成」しているといえる。 (エ)よって、引用発明1は、本願発明の上記特定事項を備える。 エ 本願発明の「前記傾斜反射表面は、導波路に沿って前記ファイバ先端部まで伝搬する光が反射されて前記光ファイバに戻るように構成され、」との特定事項について (ア)引用発明1は、「ファイバ端面が斜めに研磨されており、平面で斜めに軸線に対し8°に研磨することによって、誘電体多層膜27での反射光をファイバ13のクラッド中に逃が」すものであるから、上記イ及びウにも照らせば、引用発明1は、本願発明でいう「前記傾斜反射表面は、導波路に沿って前記ファイバ先端部まで伝搬する光が反射されて前記光ファイバに戻るように構成され」たものといえる。 (イ)よって、引用発明1は、本願発明の上記特定事項を備える。 オ 本願発明の「前記傾斜反射表面は、後方反射光の前記コアへの結合を防止するように構成され、」との特定事項について (ア)引用発明1は、「ファイバ端面が斜めに研磨されており、平面で斜めに軸線に対し8°に研磨することによって、誘電体多層膜27での反射光をファイバ13のクラッド中に逃がし、光源方向に戻さないようにした」ものであるから、上記ア及びウにも照らせば、引用発明1は、本願発明でいう「前記傾斜反射表面は、後方反射光の前記コアへの結合を防止するように構成され」たものといえる。 (イ)よって、引用発明1は、本願発明の上記特定事項を備える。 カ 本願発明の「それによって、前記後方反射光が光ファイバ・セグメントの長さに沿って消散できるようにし、」との特定事項について (ア)引用発明1は、「ファイバ端面が斜めに研磨されており、平面で斜めに軸線に対し8°に研磨することによって、誘電体多層膜27での反射光をファイバ13のクラッド中に逃が」すものであるから、上記イ?オにも照らせば、引用発明1は、本願発明でいう「それによって、前記後方反射光が光ファイバ・セグメントの長さに沿って消散できるようにし」たものといえる。 (イ)よって、引用発明1は、本願発明の上記特定事項を備える。 キ 本願発明の「傾斜された前記端面が前記ファイバ軸に垂直な面に対して角度θを有するように構成され、前記傾斜反射表面の方に前記導波路に沿って進む光が反射されて角度2θで前記光ファイバ・セグメントに戻り、」との特定事項について (ア)引用発明1は、「ファイバ端面が斜めに研磨されており、平面で斜めに軸線に対し8°に研磨」されているところ、引用文献1の図3にも照らせば、この「8°」が、本願発明の「前記ファイバ軸に垂直な面に対」する「角度θ」に相当する。 よって、上記ウにも照らせば、引用発明1は、本願発明でいう「傾斜された前記端面が前記ファイバ軸に垂直な面に対して角度θを有するように構成され」ている。 (イ)引用発明1は、「誘電体多層膜27での反射光をファイバ13のクラッド中に逃が」すのであるから、上記ウ及びエにも照らせば、引用発明1は、本願発明でいう「前記傾斜反射表面の方に前記導波路に沿って進む光が反射されて」「前記光ファイバ・セグメントに戻」るものといえる。 (ウ)引用発明1は、「ファイバ端面が斜めに研磨されており、平面で斜めに軸線に対し8°に研磨」されているから、ファイバ端面は平面である。そして、引用発明1は、「端面に、誘電体多層膜が直接蒸着されて」いる。 そうすると、引用発明1は、本願発明でいう「前記傾斜反射表面の方に前記導波路に沿って進む光が反射されて」「前記光ファイバ・セグメントに戻」る「角度」が、16°になっているといえる。そして、上記(ア)のとおり、「8°」が本願発明の「角度θ」に相当するから、当該「16°」は本願発明の「角度2θ」に相当する。 (エ)よって、引用発明1は、本願発明の上記特定事項を備える。 ク 本願発明の「前記コアに結合する前記反射光の割合は関係式 【数3】 に従って得られ、ここで、Rが-40dBから-80dBに及ぶ最大レベルを有し、nは前記コアのコア屈折率であり、ωはスポットサイズであり、λは伝送光の波長である、」との特定事項について 引用発明1が、本願発明の上記特定事項を備えているのかは、不明である。 ケ 本願発明の「光ファイバのための成端構造体」との特定事項について 上記アのとおり、引用発明1は、本願発明の上記特定事項を備える。 (2)一致点及び相違点の認定 上記(1)によれば、本願発明と引用発明1とは、 「コアと周囲のクラッドとを有する光ファイバのための成端構造体であって、 ファイバ軸に対して選択した角度を有する、ファイバ先端部に形成された端面と、 傾斜された前記端面上に堆積されて、傾斜反射表面を形成する反射材料と を有し、 前記傾斜反射表面は、導波路に沿って前記ファイバ先端部まで伝搬する光が反射されて前記光ファイバに戻るように構成され、 前記傾斜反射表面は、後方反射光の前記コアへの結合を防止するように構成され、 それによって、前記後方反射光が光ファイバ・セグメントの長さに沿って消散できるようにし、 傾斜された前記端面が前記ファイバ軸に垂直な面に対して角度θを有するように構成され、前記傾斜反射表面の方に前記導波路に沿って進む光が反射されて角度2θで前記光ファイバ・セグメントに戻る、 光ファイバのための成端構造体。」である点で一致し、次の点で一応相違する。 [相違点1] 本願発明は、「前記コアに結合する前記反射光の割合は関係式 【数3】 に従って得られ、ここで、Rが-40dBから-80dBに及ぶ最大レベルを有し、nは前記コアのコア屈折率であり、ωはスポットサイズであり、λは伝送光の波長である」のに対し、引用発明1は、そうであるのかは不明である点。 なお、以下、【数3】の式を「本件数式」ということにする。 (3)相違点1に対する判断 ア まず、相違点1に係る本願発明の特定事項によって、どのような構成が特定されたことになるのかを検討する。 (ア)相違点1に関して、本願明細書及び図面には、次の記載がある。 a 「上述で説明したように、センサ・ファイバ先端部からの強い後方反射は、分布後方反射を検出するのに使用される検出器を不利に飽和させ、その結果、センシング精度および分解能を損なうことがある。センサがファイバ・ブラッグ回折格子またはレーリー散乱を分布後方反射の手段として利用するかどうかに応じて、センサ先端部からの後方反射は、-40dBから-80dBに及ぶ特定の最大レベルを超えないように抑制する必要がある。以下で説明するように、本明細書で説明する構造体および技法は、後方反射をこれらのレベルにおよびさらに一層減少させることができる。」(【0016】) b 「反射表面の角度の選択 次に、好適な研磨角度θを計算するための本発明の一態様による技法を説明する。好適な研磨角度θは、経験的に、すなわち、試行錯誤手法によって、または解析的手法と経験的手法との組合せによって到達することもできることに留意されたい。」(【0035】)、 「光ファイバが、角度θ(ファイバ軸に垂直な面に対して)で研磨または劈開され、好適な材料で被覆されて、反射表面が形成される場合、ファイバ軸に沿って伝搬する光は、2θの角度(ファイバ軸に対して)で反射される。コアに結合する反射光の割合は、次の式(1)から得ることができる。」(【0036】)、 「【数1】 ここで、 θはファイバ軸に対する端面角度であり、 nはコアの屈折率であり、 ωはスポットサイズであり、 λは光の波長である。」(【0037】)、 「図9は、以下のパラメータを有する光ファイバについての後方反射(dB単位)と端面角度θとの関係を示すグラフ60を示す。 n=1.467、 λ=1.55μm、 ω=5.2μm。」(【0038】)、 「プロット61は、被覆端面が100%に近い反射率を有する場合でさえ、コアによって実際に導波される後方反射光の量は、端面角度に応じて非常に小さくなり得る(すなわち、入射光よりも何十dBも低い)ことを示している。所与の用途の要求条件に応じて、数度から数十度に及ぶ端面角度は、後方反射を十分に抑制するのに十分であることになる。」【0039】 (イ)上記(ア)によれば、相違点1に係る構成は、ファイバ先端部からの後方反射が所定のレベルを超えないようにするという技術的意義をもつと解される。そして、当該構成は、実質的には、ファイバ先端部からの後方反射が所定のレベルを超えていないところの、角度θ(「傾斜された前記端面が前記ファイバ軸に垂直な面に対」する角度)を備えた光ファイバの構造を特定しているものと解される。 ここで、本願明細書の【0038】に記載されたパラメータを満たす光ファイバについてみると、本件数式を計算することにより、Rが-40dBのときは、θが5.6°強であり、Rが-80dBのときは、θが7.9°強であると認められる。 そして、R(dB単位)とθとの関係は、本件数式からみて、θが0°から45°にかけて大きくなるにつれて、R(dB単位)が単調に減少していく(絶対値は単調に増加していく)ものと認められる。 そうすると、相違点1に係る構成は、本願明細書の【0038】に記載されたパラメータを満たす光ファイバにおいては、角度θが5.6°強(ただし、45°以下)であれば満たされることになる。 イ 他方、引用発明1は、角度θが8°となっているところ(上記(1)キ(ア))、この値は、上記した5.6°強という値よりも相当程度大きい。 そして、本願明細書の【0038】で記載されたパラメータ(n=1.467、λ=1.55μm、ω=5.2μm)を満たす光ファイバは、そのパラメータの値からみて、通常のものと考えられるところ、引用発明1のファイバも、コア径が10μmのものであるから、通常のものと考えられる。 そうすると、引用発明1においても、相違点1に係る構成を満たしていると推認できる。 よって、相違点1は、実質的ではない。 ウ 仮に、相違点1が実質的であるとしても、以下のとおり、引用発明1において相違点1に係る構成を満たすようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。 すなわち、引用発明1は、「ファイバ端面が斜めに研磨されており、平面で斜めに軸線に対し8°に研磨する」ものであり、そのことによって、「誘電体多層膜27での反射光をファイバ13のクラッド中に逃がし、光源方向に戻さないようにした」ものである。そして、「ファイバ端面が」「平面で斜めに軸線に対し」「研磨」した角度(本願発明における「角度θ」に相当する。)である「8°」(上記(1)キ(ア))は、「誘電体多層膜27での反射光をファイバ13のクラッド中に逃がし、光源方向に戻さないように」するために選択されている。しかるに、その角度が大きくなれば、当該反射光の進行方向がコアの長手方向からより外れていくことになるから、光源方向に当該反射光がより戻りにくくなることになるのであり、そのことは、当業者にとって明らかである。 よって、当業者であれば、引用発明1において、誘電体多層膜27での反射光を、より光源方向に戻さないようにするために、角度θの値を大きくしたファイバを適宜採用し、相違点1に係る構成を得ることは、適宜なし得たことである。 そして、相違点1のように構成したことによる効果は、当業者が予測し得たことにすぎない。 エ 請求人は、令和元年8月21日提出の意見書において、引用文献1は、「Rの関係式」と「-40dBから-80dBの範囲のRの最大レベル」を開示してもいなければ、示唆してもいない旨主張する。 しかしながら、引用文献1が請求人のいう「Rの関係式」及び「-40dBから-80dBの範囲のRの最大レベル」それ自体を開示していないことは、上記の判断を左右しない。なぜならば、本願発明は、「光ファイバのための成端構造体」という物の発明に係るものであるところ、その発明の範囲に含まれるあらゆる態様の成端構造体のうち、少なくともいずれか1つの態様の成端構造体が新規性ないし進歩性を欠如すれば、本願発明の新規性ないし進歩性が否定されることになるからである。そして、上記でいう少なくともいずれか1つの態様の成端構造体が新規性ないし進歩性を欠如していることは、上記ア?ウで説示したとおりである。請求人の主張は、本願発明の新規性ないし進歩性を否定するためには、その発明の範囲に含まれるあらゆる態様の成端構造体の新規性ないし進歩性を否定する必要があると主張しているに等しく、採用できるものではない。 オ 以上のとおり、相違点1は、実質的でないし、仮に、実質的であるとしても、格別なものではない。 (4)引用発明1に基づく新規性欠如及び進歩性欠如の小括 したがって、本願発明は、引用発明1であるし、仮に、そうではないとしても、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 引用発明2に基づく進歩性欠如 (1)本願発明と引用発明2との対比 ア 本願発明の「コアと周囲のクラッドとを有する光ファイバのための成端構造体であって、」との特定事項について (ア)引用発明2の「光ファイバ」は、本願発明の「光ファイバ」に相当する。そして、光ファイバが本願発明でいう「コア」と「周囲のクラッド」を有することは明らかである。 (イ)引用発明2の「導波路の端部の構造」は、本願発明の「成端構造体」に相当する。 (ウ)よって、引用発明2は、本願発明の上記特定事項を備える。 イ 本願発明の「ファイバ軸に対して選択した角度を有する、ファイバ先端部に形成された端面と、」との特定事項について (ア)引用発明2の「第2光導波路部の端面」は、上記アにも照らせば、本願発明の「ファイバ先端部に形成された端面」に相当する。 (イ)引用発明2は、「フィルタは、第2光導波路部の端面にコーティングされており、 第2光導波路部303の端面は、平坦であり、 フィルタ301は、第2光導波路部303の長軸307に対して傾斜角ψで配置され得るものであ」るから、引用発明2における(本願発明でいう)「ファイバ先端部に形成された端面」は、本願発明でいう「ファイバ軸に対して選択した角度を有する」といえる。 (ウ)よって、引用発明2は、本願発明の上記特定事項を備える。 ウ 本願発明の「傾斜された前記端面上に堆積されて、傾斜反射表面を形成する反射材料と」との特定事項について (ア)引用発明2の「フィルタ」は、「フィルタを通過しない光はフィルタによって反射され」るものであるから、「反射」作用がある。よって、引用発明2の「フィルタ」は、本願発明でいう「反射材料」であるといえる。 (イ)引用発明2の「フィルタ」は、「第2光導波路部の端面にコーティングされて」いるから、上記イにも照らせば、本願発明でいう「前記端面上に堆積され」たものである。そして、当該「端面」は、上記イによれば、傾斜されているといえる。 よって、引用発明2の「フィルタ」は、本願発明でいう「傾斜された前記端面上に堆積され」たものである。 (ウ)上記(ア)及び(イ)によれば、引用発明2の「フィルタ」は、本願発明でいう「傾斜反射表面を形成」しているといえる。 (エ)よって、引用発明2は、本願発明の上記特定事項を備える。 エ 本願発明の「前記傾斜反射表面は、導波路に沿って前記ファイバ先端部まで伝搬する光が反射されて前記光ファイバに戻るように構成され、」との特定事項について (ア)引用発明2は、「フィルタを通過しない光はフィルタによって反射され、 フィルタ301を傾斜させることにより、後方反射光1304は、第2光導波路部303又は第1光導波路部302の伝搬臨界角を超える角度に排除される」ものであるから、上記イ及びウにも照らせば、引用発明2は、本願発明でいう「前記傾斜反射表面は、導波路に沿って前記ファイバ先端部まで伝搬する光が反射されて前記光ファイバに戻るように構成され」るものといえる。 (イ)よって、引用発明2は、本願発明の上記特定事項を備える。 オ 本願発明の「前記傾斜反射表面は、後方反射光の前記コアへの結合を防止するように構成され、」との特定事項について (ア)引用発明2は、「フィルタ301を傾斜させることにより、後方反射光1304は、第2光導波路部303又は第1光導波路部302の伝搬臨界角を超える角度に排除される」ものであるから、上記ア及びウにも照らせば、引用発明2は、本願発明でいう「前記傾斜反射表面は、後方反射光の前記コアへの結合を防止するように構成され」たものといえる。 (イ)よって、引用発明2は、本願発明の上記特定事項を備える。 カ 本願発明の「それによって、前記後方反射光が光ファイバ・セグメントの長さに沿って消散できるようにし、」との特定事項について (ア)引用発明2は、「フィルタ301を傾斜させることにより、後方反射光1304は、第2光導波路部303又は第1光導波路部302の伝搬臨界角を超える角度に排除される」ものであるから、上記イ?オにも照らせば、引用発明2は、本願発明でいう「それによって、前記後方反射光が光ファイバ・セグメントの長さに沿って消散できるようにし」たものといえる。 (イ)よって、引用発明2は、本願発明の上記特定事項を備える。 キ 本願発明の「傾斜された前記端面が前記ファイバ軸に垂直な面に対して角度θを有するように構成され、前記傾斜反射表面の方に前記導波路に沿って進む光が反射されて角度2θで前記光ファイバ・セグメントに戻り、」との特定事項について (ア)引用発明2は、「フィルタ301は、第2光導波路部303の長軸307に対して傾斜角ψで配置され得るものであ」るところ、この「傾斜角ψ」が、本願発明の「前記ファイバ軸に垂直な面に対」する「角度θ」に相当する。 よって、上記ウにも照らせば、引用発明2は、本願発明でいう「傾斜された前記端面が前記ファイバ軸に垂直な面に対して角度θを有するように構成され」ている。 (イ)引用発明2は、「後方反射光1304は、第2光導波路部303又は第1光導波路部302の伝搬臨界角を超える角度に排除される」のであるから、上記ウ及びエにも照らせば、引用発明2は、本願発明でいう「前記傾斜反射表面の方に前記導波路に沿って進む光が反射されて」「前記光ファイバ・セグメントに戻」るものといえる。 (ウ)引用発明2は、「第2光導波路部303の端面は、平坦であ」る。そして、引用発明2は、「フィルタは、第2光導波路部の端面にコーティングされて」いる。 そうすると、引用発明2は、本願発明でいう「前記傾斜反射表面の方に前記導波路に沿って進む光が反射されて」「前記光ファイバ・セグメントに戻」る「角度」が、2ψになっているといえる。そして、上記(ア)のとおり、「ψ」が本願発明の「角度θ」に相当するから、当該「2ψ」は本願発明の「角度2θ」に相当する。 (エ)よって、引用発明2は、本願発明の上記特定事項を備える。 ク 本願発明の「前記コアに結合する前記反射光の割合は関係式 【数3】 に従って得られ、ここで、Rが-40dBから-80dBに及ぶ最大レベルを有し、nは前記コアのコア屈折率であり、ωはスポットサイズであり、λは伝送光の波長である、」との特定事項について 引用発明2が、本願発明の上記特定事項を備えているのかは、不明である。 ケ 本願発明の「光ファイバのための成端構造体」との特定事項について 上記アのとおり、引用発明2は、本願発明の上記特定事項を備える。 (2)一致点及び相違点の認定 上記(1)によれば、本願発明と引用発明2とは、 「コアと周囲のクラッドとを有する光ファイバのための成端構造体であって、 ファイバ軸に対して選択した角度を有する、ファイバ先端部に形成された端面と、 傾斜された前記端面上に堆積されて、傾斜反射表面を形成する反射材料と を有し、 前記傾斜反射表面は、導波路に沿って前記ファイバ先端部まで伝搬する光が反射されて前記光ファイバに戻るように構成され、 前記傾斜反射表面は、後方反射光の前記コアへの結合を防止するように構成され、 それによって、前記後方反射光が光ファイバ・セグメントの長さに沿って消散できるようにし、 傾斜された前記端面が前記ファイバ軸に垂直な面に対して角度θを有するように構成され、前記傾斜反射表面の方に前記導波路に沿って進む光が反射されて角度2θで前記光ファイバ・セグメントに戻る、 光ファイバのための成端構造体。」である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点2] 本願発明は、「前記コアに結合する前記反射光の割合は関係式 【数3】 に従って得られ、ここで、Rが-40dBから-80dBに及ぶ最大レベルを有し、nは前記コアのコア屈折率であり、ωはスポットサイズであり、λは伝送光の波長である」のに対し、引用発明2は、そうであるのかは不明である点。 (3)相違点2に対する判断 ア 引用発明2は、「フィルタ301は、第2光導波路部303の長軸307に対して傾斜角ψで配置され得るものであ」るとともに、「フィルタ301を傾斜させることにより、後方反射光1304は、第2光導波路部303又は第1光導波路部302の伝搬臨界角を超える角度に排除される」ものである。そして、傾斜角ψ(本願発明における「角度θ」に相当する。)は、「後方反射光1304は、第2光導波路部303又は第1光導波路部302の伝搬臨界角を超える角度に排除される」ために選択されている。しかるに、その角度が大きくなれば、後方反射光の後方伝搬がより低減されることになるのであり、そのことは、当業者にとって明らかである。 よって、当業者であれば、引用発明2において、後方反射光の後方伝搬をより減らすために、ψの値を大きくしたファイバを適宜採用することができるといえる。 イ そして、上記3(3)ア(イ)のとおり、本願明細書の【0038】に記載されたパラメータを満たす光ファイバについては、「角度θ」(引用発明2でいう「傾斜角ψ」)が5.6°強であれば本件数式を満たすのである。そうすると、引用発明2において、ψの値をさほど大きくしていないファイバを採用しても、相違点2に係る構成に至ることになるのであり、そこに格別の困難性はないというべきである。 そして、相違点2のように構成したことによる効果は、当業者が予測し得たことにすぎない。 ウ 請求人が令和元年8月21日提出の意見書においてした主張は、上記3(3)エと同様に採用できない。 エ 以上のとおり、相違点2は、格別なものではない。 (4)引用発明2に基づく進歩性欠如の小括 したがって、本願発明は、引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、本願発明は、特許法第29第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2019-11-01 |
結審通知日 | 2019-11-05 |
審決日 | 2019-11-18 |
出願番号 | 特願2015-15165(P2015-15165) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WZ
(G02B)
P 1 8・ 121- WZ (G02B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 野口 晃一、河原 正 |
特許庁審判長 |
井上 博之 |
特許庁審判官 |
山村 浩 瀬川 勝久 |
発明の名称 | 低後方反射の光ファイバ成端 |
代理人 | 岡部 讓 |