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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
管理番号 1361195
審判番号 不服2018-4179  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-27 
確定日 2020-03-25 
事件の表示 特願2015-522196「局部収縮測定」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月23日国際公開、WO2014/013374、平成27年 9月10日国内公表、特表2015-526149〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)7月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年7月18日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年3月10日付けの拒絶理由が通知され、同年6月13日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年11月20日付けで拒絶査定がなされたのに対し、平成30年3月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされ、そして、当審において平成31年3月1日付けの拒絶理由(以下「当審拒絶理由」)が通知され、これに対し、令和元年9月5日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?10に係る発明は、令和元年9月5日になされた手続補正(以下「補正」という。)によって補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
心筋収縮能を定量化するシステムであって、
少なくとも1つのプロセッサであって、
複数の心臓フェーズにわたる、左室の、時間にわたる一連の3次元画像を含む4次元画像を受け取り、
ユーザインターフェースから画像中の左室の心筋壁の表面上の選択された位置を受け取り、
前記選択された位置における心筋壁の厚さ及び変位を決定し、
決定された厚さ及び変位を表示するようにディスプレイ装置を制御するようにプログラムされている
プロセッサを有し、
前記少なくとも1つのプロセッサは、さらに、
前記選択された位置と前記左室に適合する円の中心とを通り、前記心筋壁に実質的に垂直な線を引き、
前記左室の血液プールと前記心筋壁の表面との間で1つ以上の遷移点を決定し、決定された遷移点と前記選択された位置との間の前記線に沿った距離を決定することにより、前記選択された位置における前記心筋壁の厚さ及び変位を決定するようにプログラムされている、システム。」(下線は補正箇所を示す。)

そして、以下、その記載を省略するが、請求項2?4に係る発明は、請求項1を引用するシステムの発明であり、請求項5に係る発明は、請求項1をシステムの作動方法の発明として記載した発明であり、請求項6?8に係る発明は請求項5を引用するシステムの作動方法の発明であり、請求項9に係る発明は請求項5?8のいずれかを引用したプロセッサの発明であり、請求項10に係る発明は請求項5?8のいずれかを引用したコンピュータ読み取り可能媒体の発明である。

第3 当審拒絶理由について
平成31年3月1日付けで当審が通知した拒絶理由は、次のとおりのものである。
1.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

●理由1(明確性)について
・請求項1?15
(1)請求項1について
ア 請求項1の記載の判断
(ア)(略)

(イ)請求項1の「前記選択された位置から、心筋壁に垂直な線または左室の重心を通る線のうち少なくとも一方の線を引き、前記左室の血液プールと前記心筋壁の表面との間と、前記選択された位置との、前記線に沿った距離を決定することにより、前記選択された位置における前記心筋壁の厚さを決定する」について、以下の点が不明確である。
a「左室の重心」とあるが、「重心」は物理学的に質量分布によってその位置が決定されるが、左室において心臓の動き、血液の状態などによって重心の位置は変化するといえ、「左室の重心」とは物理学的な質量分布によって求まる値として1つに決めることができず、「左室の重心」が示す技術事項は不明確である。

b「前記選択された位置における前記心筋壁の厚さ」は1つの値として決定されるものと理解されるところ、「選択された位置から、心筋壁に垂直な線または左室の重心を通る線のうち少なくとも一方の線」(重心は上記aで述べたとおり不明確である)との記載では、「心筋壁に垂直な線」と「左室の重心を通る線」との両方を含む、すなわち2つの「線に沿った」2つの「距離」が「決定」されることになるから、技術的に不明確である。

c「前記左室の血液プールと前記心筋壁の表面との間」とは、どこの場所を特定しているのか不明確であり、「前記左室の血液プールと前記心筋壁の表面との間」と「前記選択された位置」(この位置も上記アで述べたとおり不明確である)との「前記線」(この線も上記bで述べたとおり不明確である)「に沿った距離」とは、どこの距離を特定しているのか不明確である。

d「前記線に沿った距離を決定することにより、前記選択された位置における前記心筋壁の厚さを決定する」と記載されているが、上記cで述べたとおり、「距離」が不明確であるから、その「距離を決定すること」が「前記選択された位置における前記心筋壁の厚さを決定する」とはいえず、技術的に不明確である。

(ウ)請求項1は「心筋収縮能を定量化するシステムであって」「前記心筋壁の厚さを示す、システム。」と特定されているが、「心筋壁の厚さ」によってどのように「心筋収縮能を定量化」するのか特定されておらず、両者の技術的関係が不明確である。

イ 明細書の記載を踏まえた判断
心筋壁の厚さの求め方について、本願明細書及び図面には、以下の記載がある。
「【0022】
局部収縮能を定量化するため、測定装置16は図4の方法を用いる。方法50により、ユーザは、ステップ52において、受け取った画像上の心筋の位置を指示する。ステップ54において、指示された位置から心筋壁に垂直な、またはLV血液プールの重心への線が、選択された場所を通して描かれる(cast)。ステップ56において、全ての心臓フェーズにおいて、その光線に沿って、時空間再フォーマットがサンプリング(sample)される。ステップ58において、時空間再フォーマットにより最小コストパスを計算し、心筋壁厚と運動を決定する。ステップ60において、心筋壁厚と壁運動を時間の経過にわたり表示する。
【0023】
図3を参照して、ステップ52においてユーザが受け取り画像18上の心筋の位置62を選択すると、測定装置16が自動的にLVの重心を決定し、その重心64からステップ52で選択された点62を通る直線66を描く。これは、直線66がLV壁に対し垂直であることを保証するためである。これを実現するため、測定アプリケーション22はLVの最適合円を用いて、重心64の最も正確な場所を決定する。このように、この線は重心とLV壁との間の半径と同じ距離に位置づけられる。ステップ56において重心64から選択点62を通るライン66が描かれると、様々な心臓フェーズにわたり、血液プールとLV壁との間に一以上の遷移点が決定される。例えば、トラッキングアルゴリズムやロケーショントラッキングを用いて、3次元シネ画像の複数の心臓フェーズにわたる選択点62と重心64の場所を決定する。ステップ58において、血液プールとLV壁とLVの心臓壁の外側との間の遷移点が自動的に決定され、それらの間の距離が自動的に計算される。様々な心臓フェーズにわたる距離が記憶され、心筋収縮能の量(quantification)を決定するために用いられる。シネ画像中の選択点(内側LV壁、外壁、壁の中心点など)の場所、及び(例えば重心に対する)最大LV変位、LV最小変位、壁運動などが決定される。心筋収縮能の定量化には、LV壁厚、LV最大変位、LV最小変位、壁運動などが含まれる。このように、完全に自動化された心筋収縮能の評価ができる。測定点の自動的選択も想定している。例えば、端壁の厚さがRVの2つの端点において、すなわち心室中隔の中央レベルなど間の点と、(LV中隔の中央から血液プールを通る)水平自由壁(lateral free wall)中の点とにおいて、測定される。
【0024】
図3と図4の実施形態は、ステップ68において、LV重心を超えて対向するLV壁上の心筋に引いた線を延長することにより、局部非同期評価(local dyssynchrony assessment)に適合することができることも想定すべきである。対向する心筋の最小コストパスの計算を繰り返すことにより、基準収縮曲線(reference contraction curve)が得られる。これはステップ70において、例えば中隔と自由水平壁(free lateral wall)との間の収縮遅延(contraction delay)を決定するために用いられる。さらに、図3と図4の実施形態は、ステップ72における、選択された複数の位置における局部収縮能の分析と、それに続くコンテキストモデル(context model)を用いた素早くロバストなランドマーク検出を自動的に実行するように適合できる。例えば、中心点への距離が同じである2つのT字の接合部分を用いて、RV屈曲点(RV inflections)を特定できる。同時に、ステップ74において、これらの点を用いて、RV屈曲点及び水平自由壁上の点における壁厚を測定できる。
【0025】
心筋収縮能の定量化後、測定装置16はステップ76において定量化結果(quantification)を表示する。一実施形態では、定量化結果は、図1に示した従来のブルズアイビューで表示される。他の一実施形態では、定量化結果は、図3の右側に示したようにグラフィカルに表示される。上のグラフ78において、定量化結果(quantification)は心筋の壁厚を示す。2つのインジケータ80、82は、心筋の内壁及び外壁を示す。下のグラフ84は、時間90の経過にともなう心筋の最大変位86と最小変位88を示す。心筋収縮の定量化結果が表示画像18上に示された数値として表示されることも想定している。言うまでもなく、ユーザが表示画像18上で様々な点やエリアを選択すると、測定装置16は、心筋収縮能の定量化結果の一以上のインジケータを表示する。」と記載され、図3として以下の図面が記載されている。
【図3】

(ア)(略)

(イ)について
aについて
「左室の重心」について、上記明細書で「測定アプリケーション22はLVの最適合円を用いて、重心64の最も正確な場所を決定する」(実施可能要件を満たしていないことについては下記の理由2で述べる)と記載されており、「LVの最適合円」が不明であり、「左室の重心」はどのような位置を特定しているのか不明確である。

bについて
「心筋壁に垂直な線または左室の重心を通る線」について、上記明細書には「測定装置16が自動的にLVの重心を決定し、その重心64からステップ52で選択された点62を通る直線66を描く。これは、直線66がLV壁に対し垂直であることを保証するためである。」と記載され、「左室の重心を通る線」が「心筋壁に垂直な線」を保証していることになっている(この点、下記の理由2で述べるように実施可能要件を満たしていないともいえる)が、「保証」が「左室の重心を通る線」と「心筋壁に垂直な線」とは同じ線のことをいっているのか、両者が別の線のことをいっているのか不明確であり、別の線とすると「心筋壁に垂直な線」と「左室の重心を通る線」との2つの「線に沿った」2つの「距離」が「決定」されることになり、技術的に不明確である。

cについて
「前記左室の血液プールと前記心筋壁の表面との間」について、上記明細書には「血液プールとLV壁との間に一以上の遷移点が決定される。」との記載もあるが、これを参照しても、前記記載は不明確であり、「前記左室の血液プールと前記心筋壁の表面との間」と「前記選択された位置」(この位置も上記(ア)で述べたとおり本願明細書を参照しても不明確である)との「前記線に沿った距離」はどこの距離を特定しているのか不明確である。

dについて
上記cで述べたとおり、「距離」が本願明細書を参照しても不明確であるから、その「距離を決定すること」が、本願明細書を参照しても「前記選択された位置における前記心筋壁の厚さを決定する」ことにならず、技術的に不明確である。

(ウ)について
「心筋収縮能を定量化する」ことについて、上記明細書には「心筋収縮能の定量化には、LV壁厚、LV最大変位、LV最小変位、壁運動などが含まれる。」「定量化結果は、図3の右側に示したようにグラフィカルに表示される。上のグラフ78において、定量化結果(quantification)は心筋の壁厚を示す。2つのインジケータ80、82は、心筋の内壁及び外壁を示す。」と記載されているが、ある選択された位置におけるLV壁厚から、どのように心筋収縮能を定量化するのか不明(実施可能要件を満たしていないことについては下記の理由2で述べる)であり、「心筋壁の厚さ」によってどのように「心筋収縮能を定量化」するのか両者の技術的関係が不明確である。

ウ 小括
よって、上記点において、請求項1の記載は不明確である。

(2)請求項3について
ア 請求項の記載の判断
請求項3は請求項1を引用して「前記心筋壁の動きを繰り返し測定し」「測定された動きとに基づいて心筋収縮能を計算する」ことを特定しているが、請求項1の「選択された位置」で「心筋壁の厚さを決定」することとの関係が不明確である。すなわち、「心筋壁の厚さ」の変化を「動き」といっているのか、あるいは、それ以外の「動き」のことをいっているのか、さらには、「選択された位置」のみでの「動き」であるのか、それ以外の位置での「動き」であるのか不明確である。

イ 明細書の記載を踏まえた判断
「動き」については、上記明細書に「全ての心臓フェーズにおいて、その光線に沿って、時空間再フォーマットがサンプリング(sample)される。ステップ58において、時空間再フォーマットにより最小コストパスを計算し、心筋壁厚と運動を決定する。ステップ60において、心筋壁厚と壁運動を時間の経過にわたり表示する。」(当該記載が実施可能要件を満たしていないことについては下記の理由2で述べる)と記載されているが、これを参照しても不明である。

ウ 小括
よって、上記点において、請求項3の記載は不明確である。

(3)請求項5について
請求項5は、請求項1のシステムに対応する「作動方法」の発明であり、上記(1)で指摘した事項は該当し、以下ではそれ以外のことを指摘する。ア 請求項の記載の判断
「前記心筋壁の変位を決定するするステップと、決定された厚さと変位とに基づいて、前記選択された位置における心筋収縮能の定量化結果を決定するステップ」と記載されているが、「心筋壁の変位を決定する」ことと、「選択された位置」で「心筋壁の厚さを決定」することとの関係が不明確である。すなわち、「心筋壁の厚さ」の変化を「変位」といっているのか、あるいは、それ以外の「変位」のことをいっているのか、さらには、「選択された位置」のみでの「変位」であるのか、それ以外の位置での「変位」であるのか不明確である。

イ 明細書の記載を踏まえた判断
「変位」については、上記明細書に「定量化結果は、図3の右側に示したようにグラフィカルに表示される。上のグラフ78において、定量化結果(quantification)は心筋の壁厚を示す。2つのインジケータ80、82は、心筋の内壁及び外壁を示す。下のグラフ84は、時間90の経過にともなう心筋の最大変位86と最小変位88を示す。心筋収縮の定量化結果が表示画像18上に示された数値として表示されることも想定している。」と記載されているが、上記図3のグラフ84(このグラフ自体も下記の理由2で述べるとおり何を表しているのか不明である)を参照しても、上記アで指摘した点については不明である。

ウ 小括
よって、上記点及び上記(1)で指摘した点において、請求項5の記載は不明確である。

(4)請求項6について
ア 請求項の記載の判断
「(b)前記心筋壁の外側における移行点を決定するステップ」について、「心筋壁の外側における移行点」とは、どのような点のことを特定しようとしているのか不明確である。

イ 明細書の記載を踏まえた判断
本願明細書には、(1)イで摘記した部分に「様々な心臓フェーズにわたり、血液プールとLV壁との間に一以上の遷移点が決定される。例えば、トラッキングアルゴリズムやロケーショントラッキングを用いて、3次元シネ画像の複数の心臓フェーズにわたる選択点62と重心64の場所を決定する。ステップ58において、血液プールとLV壁とLVの心臓壁の外側との間の遷移点が自動的に決定され、それらの間の距離が自動的に計算される。」と、「遷移点」との記載はあるものの、「移行点」との記載はなく、「遷移点」と「移行点」との関係も不明であるから、本願明細書を参照しても、「心筋壁の外側における移行点」との記載は不明確である。

ウ 小括
よって、上記点において、請求項6の記載は不明確である。

(5)(略)

(6)請求項8について
ア 請求項の記載の判断
「一連の3次元画像にわたる最小コストパスを計算するステップ」における「最小コストパス」とは何を特定しようとしているのか不明確である。

イ 明細書の記載を踏まえた判断
「最小コストパス」については、上記明細書で「ステップ56において、全ての心臓フェーズにおいて、その光線に沿って、時空間再フォーマットがサンプリング(sample)される。ステップ58において、時空間再フォーマットにより最小コストパスを計算し、心筋壁厚と運動を決定する。」(当該記載が実施可能要件を満たしていないことについては下記の理由2で述べる)と記載されるのみで、本願明細書を参照しても不明である。

ウ 小括
よって、上記点において、請求項8の記載は不明確である。

(7)まとめ
以上、上記で指摘した請求項及びそれに従属する請求項の記載は不明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

●理由2(実施可能要件)について
請求項1?15に係る発明は、理由1で指摘したとおり、明細書の記載を踏まえても不明確であることから、どのような発明を実施しようとしているのか明確なものではないが、本願明細書及び図面は、以下の点で不明であるから、請求項1?15に係る発明(以下、まとめて「本願発明」という。)を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。
(1)時空間再フォーマット、最小コストパスについて
上記理由1の(1)イで摘記した【0022】に「ステップ56において、全ての心臓フェーズにおいて、その光線に沿って、時空間再フォーマットがサンプリング(sample)される。ステップ58において、時空間再フォーマットにより最小コストパスを計算し、心筋壁厚と運動を決定する。」と記載されているが、「光線」は意味不明であり、「時空間再フォーマットがサンプリング(sample)され」、「時空間再フォーマットにより最小コストパスを計算し、心筋壁厚と運動を決定する」について、「時空間再フォーマット」及び「最小コストパス」が技術用語として知られているものでもなく、何を表しているのか不明であるから、「全ての心臓フェーズにおいて、その光線に沿って、時空間再フォーマットがサンプリング(sample)され」、「時空間再フォーマットにより最小コストパスを計算」することが実施できず、「心筋壁厚と運動を決定する」ことができない。
なお、原文では「時空間再フォーマット」及び「最小コストパス」は「spatio-temporal reformat」及び「minimal cost paths」と記載されているが、これを参照しても、不明である。

(2)LV血液プールの重心について
上記理由1の(1)イで摘記した【0022】に「指示された位置から心筋壁に垂直な、またはLV血液プールの重心への線が、選択された場所を通して描かれる(cast)」と記載されており、「LV血液プールの重心」について、【0023】に「測定アプリケーション22はLVの最適合円を用いて、重心64の最も正確な場所を決定する。」と記載されている。
しかし、例えば、正多角形の場合には外接円/内接円の中心が重心ともなろうが、重心を求めるために「LV」においてどのような円を描くことを「LVの最適合円」と特定しているのか不明であり、特に、円を描くことで、血液で満たされ心筋壁が複雑に動く「LV血液プール」の「重心64の最も正確な場所を決定」できるとはいえない。
なお、原文では「a best fitting circle of the LV」と記載されているが、これを参照しても不明である。

(3)心筋壁に垂直な線、左室の重心を通る線について
上記理由1の(1)イで摘記した【0023】に「測定装置16が自動的にLVの重心を決定し、その重心64からステップ52で選択された点62を通る直線66を描く。これは、直線66がLV壁に対し垂直であることを保証するためである。」と記載されており、「保証」について不明確であることは、上記理由1の(1)イ(イ)bで述べたとおりである。そして、仮に「保証」が「左室の重心を通る線」と「心筋壁に垂直な線」とは同じ線のことをいってるとしても、上記(2)で述べたとおり「重心」をどのように決定するのか不明であるから、「左室の重心を通る線」は引けず、引いたとしても、心筋壁という複雑な動きをする図形において、その線が「心筋壁に垂直な線」となる幾何学的な根拠はない。

(4)遷移点について
上記理由1の(1)イで摘記した【0023】に「様々な心臓フェーズにわたり、血液プールとLV壁との間に一以上の遷移点が決定される。例えば、トラッキングアルゴリズムやロケーショントラッキングを用いて、3次元シネ画像の複数の心臓フェーズにわたる選択点62と重心64の場所を決定する。ステップ58において、血液プールとLV壁とLVの心臓壁の外側との間の遷移点が自動的に決定され、それらの間の距離が自動的に計算される。」との記載があり、当該記載を参照するに、心筋壁の厚さを決定する際には、選択点、重心以外にも「遷移点」と称されるものも関与するようではあるが、「遷移点」とはどのように決定され、心筋壁の厚さを決定する際にどのように関与するのか明確に記載されていない。

(5)(略)

(6)心筋収縮能の定量化について
「心筋収縮能を定量化する」ことについて、上記理由1の(1)イで摘記した【0025】に「心筋収縮能の定量化には、LV壁厚、LV最大変位、LV最小変位、壁運動などが含まれる。」「定量化結果は、図3の右側に示したようにグラフィカルに表示される。上のグラフ78において、定量化結果(quantification)は心筋の壁厚を示す。2つのインジケータ80、82は、心筋の内壁及び外壁を示す。下のグラフ84は、時間90の経過にともなう心筋の最大変位86と最小変位88を示す。心筋収縮の定量化結果が表示画像18上に示された数値として表示されることも想定している。」と記載されているが、上記図3に定量化結果であるグラフ78及び88(これらのグラフ自体も何を表しているのか不明であることは下記の(6)で述べる)から、「心筋壁の厚さ」によってどのように「心筋収縮能を定量化」するのか理解できない。
してみれば、ある選択された位置におけるLV壁厚から、どのように心筋収縮能を定量化するのか不明である。

(7)図3について
ア 画像18について
本願明細書に「画像18は、一般的に、磁気共鳴及び/またはコンピュータ断層撮影のモダリティから受け取られる。」と記載されているものの、図3の画像18は、いわゆるサジタル、アキシャル、コロナルの体のどの向きの断面を示しているのか記載されていない。また、64が重心、62が選択された位置を示しているが、62が左室心筋のどの部分(心筋壁の内側の表面、心筋壁の外側の表面)を選択しているのか読み取れない。

イ グラフ78について
図3のグラフ78は、画像18からどのようにして得られたものなのか不明である。特に、本願明細書に「2つのインジケータ80、82は、心筋の内壁及び外壁を示す」と記載されているが、選択された点62、重心64及びこれらを結んだ直線66との関係において、インジケータである「80、82」をどのようなものとして把握すればよいのか不明である。

ウ グラフ84
図3のグラフ84は、画像18からどのようにして得られたものなのか不明である。特に、「グラフ84は、時間90の経過にともなう心筋の最大変位86と最小変位88を示す」と記載されているが、ある時間における変位の値は一義的に決まるものであるが、ある時間において最大変位と最小変位と2つの変位の値があるとは、どのように理解すればよいのか不明である。
(8)まとめ
以上の点において、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないことから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 当審の判断
1 理由1(明確性)について
(1)請求項1について
上記第3で記載した当審拒絶理由においては、「ア 請求項1の記載の判断」 と「イ 明細書の記載を踏まえた判断」とに分けて指摘したが、ここでは、両者を合わせて判断することとする。
なお、項目符号については、どの指摘に対する判断であるのか分かりやすいように、上記第3で記載した当審拒絶理由の項目符号と同じように付している(以下同様)。

(イ)について
aについて
補正により「左室の重心」は「左室に適合する円の中心」と補正されたが、「左室に適合する円」とは、左室にどのように引いた円を特定しているのか不明確である。この点、本願明細書(上記第3の理由1のイで摘記。以下同様。)の 【0023】に「測定アプリケーション22はLVの最適合円を用いて、重心64の最も正確な場所を決定する。」と記載されるのみであり、本願明細書を参照しても不明確である。

bについて
補正により「前記選択された位置から、心筋壁に垂直な線または左室の重心を通る線のうち少なくとも一方の線を引き」は「前記選択された位置と前記左室に適合する円の中心とを通り、前記心筋壁に実質的に垂直な線を引き」と補正されたところ、「左室に適合する円の中心」が不明確であることは上記aで述べたとおりであるが、仮に、「左室に適合する円の中心」が一義的に定まるとしても、「左室の心筋壁の表面上の選択された位置」「と左室に適合する円の中心とを通」る線が、「前記心筋壁に実質的に垂直な線」となるとは限らず、また逆に、「前記左室に適合する円の中心とを通り、前記心筋壁に実質的に垂直な線を引」くためには、「左室の心筋壁の表面上の選択された位置」をどのように選択すればいいのか特定されておらず不明確である。この点、本願明細書を参照しても明らかになるものではない。

cについて
補正により「前記左室の血液プールと前記心筋壁の表面との間と、前記選択された位置との、前記線に沿った距離」は「前記左室の血液プールと前記心筋壁の表面との間で1つ以上の遷移点を決定し、決定された遷移点と前記選択された位置との間の前記線に沿った距離」と補正され、新たに「遷移点」との用語を用いて特定している。
しかしながら、「遷移点」との用語を用いて特定したとしても不明確であることは、すでに上記第3の当審拒絶理由の理由1のイ(イ)cで指摘しており、本願明細書の【0023】に「ステップ56において重心64から選択点62を通るライン66が描かれると、様々な心臓フェーズにわたり、血液プールとLV壁との間に一以上の遷移点が決定される。例えば、トラッキングアルゴリズムやロケーショントラッキングを用いて、3次元シネ画像の複数の心臓フェーズにわたる選択点62と重心64の場所を決定する。ステップ58において、血液プールとLV壁とLVの心臓壁の外側との間の遷移点が自動的に決定され、それらの間の距離が自動的に計算される。」と記載されているが、当該記載を参照しても、「遷移点」がどのような点として特定されるのか明確とはいえない。
よって、依然として「前記左室の血液プールと前記心筋壁の表面との間で1つ以上の遷移点を決定し、決定された遷移点と前記選択された位置との間の前記線に沿った距離」が明確に特定できるものではない。

dについて
上記cで述べたとおり、「距離」が不明確であるから、「距離を決定することにより、前記選択された位置における前記心筋壁の厚さ及び変位を決定する」と特定されるところの「前記選択された位置における前記心筋壁の厚さ及び変位」は明確に特定できない。

(ウ)について
「心筋収縮能を定量化するシステム」について、補正により「前記選択された位置における前記心筋壁の厚さを決定するようにプログラムされ」は「前記選択された位置における前記心筋壁の厚さ及び変位を決定するようにプログラムされ」と補正され、心筋壁の「厚さ」が「厚さ及び変位」とされたが、「心筋壁の厚さ」(値)及び心「筋壁の変位」(値)から、どのように「心筋収縮能を定量」化するのか特定されていない。
この点、本願明細書の【0023】に「心筋収縮能の定量化には、LV壁厚、LV最大変位、LV最小変位、壁運動などが含まれる。」、【0025】に「定量化結果は、図3の右側に示したようにグラフィカルに表示される。上のグラフ78において、定量化結果(quantification)は心筋の壁厚を示す。2つのインジケータ80、82は、心筋の内壁及び外壁を示す。」(なお、上記図3について、上記第3の当審拒絶理由の理由2(7)で説明を求めたが、それについて意見書でほとんど回答していない。)と記載されているにとどまり、「心筋壁の厚さ」(値)及び心「筋壁の変位」(値)から、どのように「心筋収縮能を定量」化するのか、本願明細書を参照しても明確になるものではない。

ウ 小括
よって、請求項1の記載は依然として明確ではない。

(2)請求項3について
意見書の「請求項3が従属する請求項1に係る本願発明を補正しましたので、請求項3に係る本願発明も明確であると思料します。」との説明では、上記当審拒絶理由での指摘は解消しない。

(3)請求項5について
意見書の「請求項1に係る本願発明と同様に、請求項5に係る本願発明も明確であると思料します。」との説明では、上記当審拒絶理由での指摘は解消しない。

(4)請求項6について
補正により「移行点」は「遷移点」と補正されたが、「遷移点」が不明確であることは、上記(1)(イ)cで述べたとおりである。

(6)請求項8について
補正により「前記一連の3次元画像にわたる最小コストパスを計算するステップ」は「前記一連の3次元画像にわたる反復的なコストの最小化に基づいて決定される」と補正されたが、「反復的なコストの最小化に基づいて決定される」とは、どのようなことを特定しているのか不明確である。
この点、本願明細書の「【0022】に「ステップ58において、時空間再フォーマットにより最小コストパスを計算し、心筋壁厚と運動を決定する。」と記載されており、当該記載を参照しても明確になるものではない。

(7)まとめ
以上、上記で指摘した請求項の記載は依然として不明確であるから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2 理由2(実施可能要件)について
(1)について
補正により「光線」は「線」に補正し、意見書で「段落[0022]における「光線」を「線」に訂正しました。」と記載するのみで、上記当審拒絶理由に対して、何ら説明していない。
よって、当審拒絶理由の理由2の(1)で指摘した事項は解消されない。

(2)及び(3)について
補正により「左室の重心」は「左室に適合する円の中心」に、「前記選択された位置から、心筋壁に垂直な線または左室の重心を通る線のうち少なくとも一方の線を引き」は「前記選択された位置と前記左室に適合する円の中心とを通り、前記心筋壁に実質的に垂直な線を引き」と補正されたが、上記理由1の(イ)a及びbで述べたように、本願明細書には、「左室に適合する円の中心」をどのように決めるのか、そして、「前記左室に適合する円の中心とを通り、前記心筋壁に実質的に垂直な線を引」くためには、「左室の心筋壁の表面上の選択された位置」をどのように決めるのか記載されておらず、意見書において「(2,3)重心 補正後の請求項1に係る本願発明では、「重心」という表現を削除し、「前記選択された位置と前記左室に適合する円の中心とを通り、前記心筋壁に実質的に垂直な線を引き、前記左室の血液プールと前記心筋壁の表面との間で1つ以上の遷移点を決定し、決定された遷移点と前記選択された位置との間の前記線に沿った距離を決定することにより、前記選択された位置における前記心筋壁の厚さ及び変位を決定」しています。」と説明するのみである。
よって、当審拒絶理由の理由2の(2)及び(3)で指摘した事項は解消されない。

(4)について
意見書で「遷移点は、典型的には心筋壁の内外の境目のような点であり、画像の中で心筋壁の境目を判定する技術自体は周知であると思料します。」と説明しているが、「遷移点は心筋壁の内外の境目」、「画像の中で心筋壁の境目を判定」のいずれも、請求項1の「前記左室の血液プールと前記心筋壁の表面との間で1つ以上の遷移点を決定し、決定された遷移点と前記選択された位置との間の前記線に沿った距離を決定することにより、前記選択された位置における前記心筋壁の厚さ及び変位を決定する」ことにおける「遷移点」とは整合してない。
よって、当審拒絶理由の理由2の(4)で指摘した事項は解消されない。

(6)について
上記理由1の(ウ)で述べたように、補正により心筋壁の「厚さ」が「厚さ及び変位」と補正されたが、本願明細書には、「心筋壁の厚さ」(値)及び心「筋壁の変位」(値)から、どのように「心筋収縮能を定量」化するのか、記載されていない。そして、意見書で「定量化は壁厚だけでなく、変位も考慮して行うことも可能です。」と説明するのみである。
よって、当審拒絶理由の理由2の(6)で指摘した事項は解消されない。

(7)について
上記当審拒絶理由の理由2の(7)ア?ウとして図3についての説明を求めたが、意見書で「図3の(80)、(82)は心筋壁の外側及び内側の輪郭に関連しており、最大変位(86)は外側の輪郭の変位であり、最小変位(88)は内側の輪郭の変位であり、それらの間の差分が心筋壁の厚さに関連します。」と説明するにとどまり、依然としてア及びイについて不明であるから、それを踏まえたウも不明である。

(8)まとめ
以上の点において、依然として、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないことから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 むすび
以上のことから、請求項1、3、5、6及び8並びにそれらに従属する請求項の記載は不明確であり、そして、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないことから、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、かつ、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり、審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-10-24 
結審通知日 2019-10-29 
審決日 2019-11-11 
出願番号 特願2015-522196(P2015-522196)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (A61B)
P 1 8・ 537- WZ (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門田 宏山口 裕之佐藤 高之福田 千尋  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 三崎 仁
東松 修太郎
発明の名称 局部収縮測定  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

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