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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1361264
審判番号 不服2019-5390  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-23 
確定日 2020-03-30 
事件の表示 特願2014-262937「複合容器およびその製造方法、複合プリフォームおよびその製造方法、ならびにプラスチック製部材」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月 7日出願公開、特開2016-120689〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年12月25日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 9月 7日付け:拒絶理由通知
平成30年11月 9日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 1月22日付け:拒絶査定
平成31年 4月23日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成31年4月23日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年4月23日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成31年4月23日付けの手続補正の内容
平成31年4月23日に提出された手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正により補正される前の(すなわち、平成30年11月9日に提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1の記載である、
「【請求項1】
複合容器の製造方法において、
プラスチック材料製のプリフォームを準備する工程と、
前記プリフォームの外側に、熱収縮チューブであるプラスチック製部材を設ける工程と、
前記プラスチック製部材の温度が100?150℃となるように少なくとも前記プラスチック製部材を、2?10秒間加熱し、前記プラスチック製部材を前記プリフォームに接着させることなく、密着させる工程と、
前記プリフォームおよび前記プラスチック製部材を加熱するとともにブロー成形金型内に挿入する工程と、
前記ブロー成形金型内で前記プリフォームおよび前記プラスチック製部材に対してブロー成形を施すことにより、前記プリフォームおよび前記プラスチック製部材を一体として膨張させる工程とを備えたことを特徴とする複合容器の製造方法。」
を、
「【請求項1】
複合容器の製造方法において、
プラスチック材料製のプリフォームを準備する工程と、
前記プリフォームの外側に、熱収縮チューブであるプラスチック製部材を設ける工程と、
前記プラスチック製部材の温度が100?150℃となるように少なくとも前記プラスチック製部材を、2?10秒間加熱し、前記プラスチック製部材を前記プリフォームに接着させることなく、密着させる工程と、
前記プリフォームおよび前記プラスチック製部材を加熱するとともにブロー成形金型内に挿入する工程と、
前記ブロー成形金型内で前記プリフォームおよび前記プラスチック製部材に対してブロー成形を施すことにより、前記プリフォームおよび前記プラスチック製部材を一体として膨張させる工程とを備え、
前記プリフォームが、多層構造を有し、ガスバリア性樹脂を含む中間層を備えることを特徴とする複合容器の製造方法。」
と補正する事項を含むものである(なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。)。

2 本件補正の目的
請求人は,請求項1についての本件補正は、いわゆる限定的減縮を目的とする旨主張するので、以下検討する。
請求項1についての本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明の「プリフォーム」について、「多層構造を有し、ガスバリア性樹脂を含む中間層を備える」と更に限定するものであるから、本件補正前後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野は同一であるといえる。
一方、本件補正前の請求項1に記載された発明の課題として、本願明細書の段落【0004】には、「容器に対して様々な機能や特性(バリア性や保温性等)を持たせる場合、例えばプリフォームを構成する材料を変更する等、その手段は限定されてしまう。とりわけ、容器の部位(例えば胴部や底部)に応じて、異なる機能や特性を持たせることは難しい」ことが挙げられている。
そして、この課題の解決手段として、本件補正前の請求項1に係る発明は、「プリフォーム」と「プラスチック製部材」とを別部材から構成し、「プラスチック製部材40の種類や形状を適宜選択することにより、複合容器10Aに様々な機能や特性を自在に付与することができる」(段落【0078】参照)ようにしたものと認められる。
そうすると、本件補正によって、補正前の「プリフォームを構成する材料を変更する等、その手段は限定されてしまう」という課題が、本件補正後には、プリフォームの材料の変更も辞さない程に「極めて高いガスバリア性を有する容器を提供する」(審判請求書の「3.本願が特許されるべき理由」)との課題に変更されたということができる。
したがって、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の解決しようとする課題が同一であるとはいえない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮(いわゆる限定的減縮)を目的とするものであるということはできない。
また、本件補正が、同項各号掲記の他の事項を目的とするものであるということもできない。

3 独立特許要件違反の有無について
本件補正は、上記2で述べたことを理由として却下すべきものであると判断されるが、仮に請求項1についての補正が限定的減縮を目的とするものであるといえるとしたときには、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、要するに、本件補正が特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合するものであるか(いわゆる独立特許要件違反の有無)についての検討がなされるべきところ、以下述べるように、本件補正は当該要件に違反するといえる。
すなわち、本件補正発明は、本願の出願日前に頒布された刊行物である下記引用文献1又は2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(なお、引用文献1及び2は、それぞれ原査定の理由で引用された「引用文献1」及び「引用文献2」と同じである。)。
・引用文献1 特表2004-532147号公報
・引用文献2 特開昭59-91038号公報

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1に記載したとおりのものである。

(2)引用文献に記載された事項等
ア 引用文献1に記載された事項
引用文献1には、「延伸ブロー成形法を用いたラベル付き容器の製造方法」に関して、おおむね次の記載がある。
なお、下線は当審で付したものである。以下同様。

・「【請求項1】
プレフォームの外面の少なくとも一部の上にラベルスリーブを配置してスリーブ付きプレフォームを製造せしめ;
そして前記スリーブ付きプレフォームをブロー成形してラベル付き容器を製造することを含んでなる、ブロー成形プロセスを用いてラベル付き容器を製造する方法。」

・「【0017】
本発明において有用な好ましいラベルスリーブは、容器を製造するためのプレフォームのブロー成形前にプレフォームの上にフィットするように作られたゆがみ印刷ラベルスリーブである。このラベルスリーブは、インフレート用プレフォームと共に膨張する配向又は非配向(unoriented)ポリマーフィルム原料から製造する。」

・「【0027】
本発明において使用するプレフォームは、ポリエステル、ポリオレフィン及びポリカーボネートのような従来の成形用ポリマーから形成する。ポリマーは単層又は多層であることができる。他のポリマーを使用して、多層容器の一部の層を形成することもできる。このようなポリマーは当業界で公知であり、リサイクルポリマー、例えばポリエステル、機能性ポリマー(performance polymers)、例えばEVOH及びポリアミド、全芳香族ポリエステル、ポリエーテル、ブレンド並びにそれらのコポリマーを含む。」

・「【0043】
例3
IR加熱前にスリーブを加える、PETを用いた1.5リットルの詰め替え可能ボトル用輪郭ラベリング
例1に使用したPETスリーブを、呼称外径1.25インチの1.5リットル用プレフォームに適用した。・・・(略)・・・プレフォームスリーブは、赤外線加熱工程を始開始し且つスリーブが加熱及びブロー成形プロセス全体を経る前にプレフォームの上に配置した。スリーブにはまた、黒のマジックインキでグリットを描いた。加熱工程の間に、スリーブはプレフォームの周囲で下に向かってわずかに収縮し、それによってスリーブとプレフォームとの密着が増したことが観察された。ブロー成形工程の間に、スリーブはうまく延伸し、グリッドは均一にゆがみ、見栄えがする形態にフィットするラベルを形成した。」

イ 引用文献1に記載された発明
引用文献1の段落【0043】の「例3」の記載を、請求項1に沿って整理する。例3において、プレフォームを準備する工程は、必然的に存在し、その材料はプラスチックであることは明らかであるから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

「ラベル付き容器の製造方法において、
プラスチック材料製のプレフォームを準備する工程と、
赤外線加熱工程前に、プレフォームの上にPETスリーブを配置する工程と、
赤外線加熱工程の間に、PETスリーブをプレフォームの周囲で下に向かってわずかに収縮させ、スリーブ付きプレフォームを製造する工程と、
前記スリーブ付きプレフォームをブロー成形してラベル付き容器を製造するブロー成形工程と
を有するラベル付き容器の製造方法。」

ウ 引用文献2に記載された事項
引用文献2には、「ボトルの製造方法」に関して、おおむね次の記載がある。

・「2.特許請求の範囲
(1) ポリエチレンテレフタレートよりなる有底パリソンの少なくとも胴壁部外面に、ガスバリヤー性プラスチックフィルムを装着した後、加熱、2軸延伸-吹込成形を行なうことを特徴とする、少なくとも肩部および胴部外面に該ガスバリヤー性プラスチックフィルムが被着したポリエチレンテレフタレートボトルの製造方法。」(第1ページ左下欄第4?11行)

・「第1図において1はポリエチレンテレフタレートよりなる有底パリソンであって、通常射出成形によって形成される。2はガスバリヤー性プラスチックフィルム・・・(中略)・・・よりなるチューブであって、例えばインフレーション法によって形成された継目無しの長尺チューブを、パリソン1の胴壁部1aの高さにほぼ等しい長さに切断したものである。その内径は胴壁部1aの外径より若干大きい。
第1図はチューブ2を倒立したパリソン1の胴壁部1aの外面側に緩挿し、ネックリング1b上に載置した状態を示す。次にこのパリソン1を延伸-吹込成形のため約80?100℃の範囲内の所定温度に、赤外線照射あるいはオーブン通過等によって加熱する。このさいチューブ2は熱収縮して、第2図に示すように、パリソン1の胴壁部1aの外面に密着する。次いで常法により、このチューブ2が密着したパリソン1を2軸延伸-吹込成形を行なって、第3図に示すようなボトル3を形成する。
そのさいチューブ2も同時に変形し、チューブ2を形成するプラスチックフィルム2’が、ボトル3の比較的薄肉の(通常約0.2?0.3mm)胴部3aおよび肩部3bに密着した状態で該部を被覆する。」(第2ページ左上欄第14行?左下欄第1行)

・「



エ 引用文献2に記載された発明
引用文献2の実施例の記載を特許請求の範囲の記載に沿って整理すると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認める。

「ポリエチレンテレフタレートボトルの製造方法であって、
通常射出成形によって形成されるポリエチレンテレフタレートよりなる有底パリソンを準備する工程、
有底パリソンの胴壁部の外面側に、ガスバリヤー性プラスチックフィルムよりなるチューブを緩挿する工程、
パリソンを約80?100℃の範囲内の所定温度に、赤外線照射あるいはオーブン通過等によって加熱し、チューブを熱収縮させてパリソンの胴壁部の外面に密着させる工程、
次いで常法により、このチューブが密着したパリソンを2軸延伸-吹込成形を行なって、チューブを形成するプラスチックフィルムが、ボトルの胴部および肩部に密着した状態で該部に被着させる工程
を有するポリエチレンテレフタレートボトルの製造方法。」

(3)対比・判断
(3-1)引用発明1を主引用発明とする場合
ア 本件補正発明と引用発明1の対比
引用発明1における、PETスリーブは、プレフォームの上に、単に「配置」されること、そして、引用文献1の段落【0043】の「加熱工程の間に、スリーブはプレフォームの周囲で下に向かってわずかに収縮し、それによってスリーブとプレフォームとの密着が増したことが観察された。」との記載及び段落【0017】の「本発明において有用な好ましいラベルスリーブは、容器を製造するためのプレフォームのブロー成形前にプレフォームの上にフィットするように作られたゆがみ印刷ラベルスリーブである。」との記載から、引用発明1において、「プレフォーム」と「PETスリーブ」は、接着せずに、加熱によって「熱収縮」してフィットし密着するものといえる。そうすると、引用発明1の「PETスリーブ」は、その形状や熱収縮する性質から、本件補正発明の「熱収縮チューブ」であって「プラスチック製部材」に相当する。
よって、引用発明1の「プレフォーム」及び「ラベル付き容器」は、本件補正発明の「プリフォーム」及び「複合容器」に、それぞれ相当する。

さらに、本件補正発明の「前記プリフォームおよび前記プラスチック製部材を加熱するとともにブロー成形金型内に挿入する工程」に関し、ブロー成形は、通常、金型内で行うものであるから、引用発明1の「プレフォーム」及び「PETスリーブ」も、ブロー金型内に挿入する工程を有するといえ、本件補正発明において、この「加熱するとともにブロー成形金型内に挿入する」際の「加熱」は、本願の明細書の段落【0062】?【0065】及び【図6】の記載から、「プラスチック製部材」の熱収縮の際の加熱も含むと解される。
そうすると、引用発明1の「赤外線加熱工程」と「ブロー成形工程」との連続する工程には、本件補正発明の「前記プリフォームおよび前記プラスチック製部材を加熱するとともにブロー成形金型内に挿入する工程」が包含されるといえる。

したがって、本件補正発明と引用発明1は、
「複合容器の製造方法において、
プラスチック材料製のプリフォームを準備する工程と、
前記プリフォームの外側に、熱収縮チューブであるプラスチック製部材を設ける工程と、
前記プラスチック製部材を加熱し、前記プラスチック製部材を前記プリフォームに接着させることなく、密着させる工程と、
前記プリフォームおよび前記プラスチック製部材を加熱するとともにブロー成形金型内に挿入する工程と、
前記ブロー成形金型内で前記プリフォームおよび前記プラスチック製部材に対してブロー成形を施すことにより、前記プリフォームおよび前記プラスチック製部材を一体として膨張させる工程とを備える複合容器の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件補正発明は、「プラスチック製部材の温度が100?150℃となるように少なくとも前記プラスチック製部材を、2?10秒間加熱」して、プリフォームに密着させるのに対し、引用発明1は、PETスリーブを加熱する温度及び時間を特定しない点。

<相違点2>
本件補正発明は、「プリフォーム」が、「多層構造を有し、ガスバリア性樹脂を含む中間層を備える」とされているのに対し、引用発明1の「プレフォーム」には、そのような特定がなされない点。

イ 相違点についての判断
そこで、上記相違点について、以下に検討する。
(ア)相違点1について
引用発明1において、PETスリーブの熱収縮のための加熱温度や時間は、プレフォーム及びスリーブに用いられる樹脂の材質やその寸法から当業者が適宜設定し得る事項である。
また、引用発明1で用いるスリーブの材質であるPETの収縮性を鑑みると、当業者にとって、100?150℃程度の温度設定や2?10秒間の時間に試行し設定することに格別の困難性も認められない。

(イ)相違点2について
ブロー成形で製造される樹脂製ボトルにおけるガスバリア性の向上手段として、プリフォームをガスバリア性樹脂を含む中間層を備えた多層構造とすることは、当業者にとって周知技術である(必要であれば、下記(イ-1)及び(イ-2)等を参照。以下、「周知技術1」という。)。
そこで、引用発明1において、上記周知技術1を採用することは、ブロー成形で製造される樹脂製ボトルにおけるガスバリア性の向上が、当業者にとって当然考慮されるありふれた自明な課題であることから(例えば、引用文献1の段落【0027】には、プレフォームを「他のポリマーを使用して、多層容器の一部の層を形成する」こと及び該ポリマーとして樹脂容器製造におけるガスバリア樹脂材料として周知慣用の素材である「EVOH」の例示を参照。)、当業者が容易に想到しうることである。

(イ-1)特表2007-522049号公報の記載
本願の出願前に日本国内において、頒布された刊行物である特表2007-522049号公報には、「バリア性を有する容器及びその製造方法」における従来技術に関して、次の記載がある。

・「【0012】
バリア性の材料だけから商業的に有用なプラスチック容器を製造することは、それらの高いコスト、不安定な構造特性及び他の欠点により、困難である。例えば、EVOHは優れた酸素バリア特性を有しているが、そのポリマー条の多数の水酸基のために、水蒸気の問題に苦しめられる。他のバリア性の材料は、そのような材料のみで製造された容器が手が出せないほどの値段となり、十分に高価である。従って、多層構造体を製造することが常識となっており、これにより、高価又は敏感なバリア性の材料の量を薄い層に減少させ、高価でないポリマーがそのバリア層の一方又は両側に構造層として配置されている。」

(イ-2)特開平1-255520号公報の記載
本願の出願前に日本国内において、頒布された刊行物である特開平1-255520号公報には、「ラベル付中空成形容器の製法」に関して、次の記載がある。

・「中空成形容器は、単層又は多層の層構成を有することができ、例えばポリオレフィンやポリエチレンテレフタレートの単層から成る容器や、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートを内外層とし、これらの間にガスバリヤ-性熱可塑性樹脂を中間層として設けた多層容器が挙げられる。」(第4頁左上欄第17行-第4頁右上欄第2行)

(ウ)効果について
相違点1に係る、熱収縮温度及び時間の数値限定に基づく、「プリフォーム自体に余計な熱をかけずに収縮を充分に行うことができる」とする効果は、樹脂成形品の塑性加工前の余計な加熱により、加工後の樹脂成形品に悪影響が出ることは当業者にとってよく知られた通常考慮すべき課題であり、本件補正発明における熱収縮温度及び時間の具体的な数値範囲についても、プリフォーム及びプラスチック製部材の材料を特定しない本件補正発明において、格別顕著なものとはいえない。
また、相違点2に係る、ガスバリア性を向上せる効果も、引用発明1が、ガスバリア性を当初から意図してガスバリア性樹脂を材料選択していることからみて、当業者が予想し得るものであるし、プリフォーム及びプラスチック製部材の材料を特定しない本件補正発明において、格別顕著なものとはいえない。

(エ)審判請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、引用文献1に関し「プレフォームの外側にラベルスリーブを形成し、ラベルスリーブが、23-110℃の温度においてブロー成形の前に加熱され、ブロー成形されておりますが、ブロー成形前のラベルスリーブは、樹脂は配向しておらず、収縮性を有するものではないため、プリフォームのブロー成形における加熱によりフィルムが熱収縮性しているという認定は失当であると考えます。」と主張する。

しかしながら、引用文献1の段落【0043】の「加熱工程の間に、スリーブはプレフォームの周囲で下に向かってわずかに収縮し、それによってスリーブとプレフォームとの密着が増した」との記載から、引用発明1のスリーブは、加熱工程の間に熱収縮されているものと認められる。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

ウ 小括
したがって、本件補正発明は、引用発明1及び周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3-2)引用発明2を主引用発明とする場合
ア 本件補正発明と引用発明2の対比
引用発明2の「有底パリソン」、熱収縮する「チューブ」及び「プラスチックフィルムが、ボトルの胴部および肩部に密着した状態で該部に被着」した「ポリエチレンテレフタレートボトル」は、本件補正発明の「プリフォーム」、「プラスチック製部材」及び「複合容器」に、それぞれ対応する。
引用発明2において、「チューブ」は、「有底パリソン」に「緩挿」された後に、加熱によって有底パリソンの胴壁部の外面に密着されるから、「接着させることなく、密着させ」られているといえる。

さらに、本件補正発明の「前記プリフォームおよび前記プラスチック製部材を加熱するとともにブロー成形金型内に挿入する工程」に関し、ブロー成形は、通常、金型内で行うものであるから、引用発明2の「有底パリソン」及び「チューブ」は、ブロー金型内に挿入される工程を有するといえ、そして、本件補正発明において、この「加熱するとともにブロー成形金型内に挿入する」際の「加熱」は、本願の明細書の段落【0062】?【0065】及び【図6】の記載から、「プラスチック製部材」の熱収縮の際の加熱も含むと解される。
そうすると、引用発明2の「パリソンを・・・(略)・・・加熱し、チューブを熱収縮させてパリソンの胴壁部の外面に密着させる工程」と「チューブが密着したパリソンを2軸延伸-吹込成形を行なって、チューブを形成するプラスチックフィルムが、ボトルの胴部および肩部に密着した状態で該部に被着させる工程」との連続する工程には、本件補正発明の「前記プリフォームおよび前記プラスチック製部材を加熱するとともにブロー成形金型内に挿入する工程」が包含されるといえる。

したがって、本件補正発明と引用発明2は、
「複合容器の製造方法において、
プラスチック材料製のプリフォームを準備する工程と、
前記プリフォームの外側に、熱収縮チューブであるプラスチック製部材を設ける工程と、
前記プラスチック製部材を加熱し、前記プラスチック製部材を前記プリフォームに接着させることなく、密着させる工程と、
前記プリフォームおよび前記プラスチック製部材を加熱するとともにブロー成形金型内に挿入する工程と、
前記ブロー成形金型内で前記プリフォームおよび前記プラスチック製部材に対してブロー成形を施すことにより、前記プリフォームおよび前記プラスチック製部材を一体として膨張させる工程とを備える複合容器の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3>
本件補正発明は、「プラスチック製部材の温度が100?150℃となるように少なくとも前記プラスチック製部材を、2?10秒間加熱」して、プリフォームに密着させるのに対し、引用発明2は、「チューブ」を加熱する温度及び時間を特定しない点。

<相違点4>
本件補正発明は、「プリフォーム」が、「多層構造を有し、ガスバリア性樹脂を含む中間層を備える」のに対し、引用発明2の「有底パリソン」には、そのような特定がなされない点。

イ 相違点についての判断
そこで、上記相違点について、以下に検討する。
(ア)相違点3について
上記(3-1)イ(ア)において、相違点1について述べたのと同様に、引用発明2におけるチューブの熱収縮温度及び時間は、当業者が適宜設定し得る事項である。

(イ)相違点4について
上記(3-1)イ(イ)において、相違点2について述べたのと同様に、引用発明2において、上記周知技術1を採用することは、引用発明2において、ガスバリア性向上を課題とすることからも、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)効果について
相違点3及び4に係る効果は、上記(3-1)ウにおいて、相違点1及び2に係る効果について述べたのと同様に、格別顕著なものとはいえない。

(エ)審判請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、引用文献2に関し「引用文献2の2ページ左下7?8には、ガスバリア性プラスチック製フィルムを多層のものにしてよい旨記載されておりますが、ポリエチレンテレフタレートボトルを多層にできる旨の記載はなく、また、ポリエチレンテレフタレートボトルを、ガスバリア性樹脂を含む中間層を備える多層構造のものに変更する動機となりうる記載は存在しません。」及び「引用文献2の発明が解決しようとする課題は、ガスバリア性に優れるポリエチレンテレフタレートボトルの提供であり、この課題を解決すべく、ガスバリア性プラスチック製フィルムをポリエチレンテレフタレートボトルの周囲に設けており、そして、請求項1において、容器本体は、ポリエチレンテレフタレートボトルに限定されております。そのため、引用文献2の容器が備えるポリエチレンテレフタレートボトルを、ガスバリア性樹脂を含む中間層を備える多層構造のボトルへ変更しようとは決して考えないものと思料いたします。」と主張している。

しかしながら、引用文献2には「有底パリソンより2軸延伸-吹込成形により形成されたポリエチレンテレフタレートボトル(・・・(略)・・・)は、ガスバリヤー性、透明性、耐衝撃性等の容器特性に優れており、最近各種の内容物の収納用に実用化されつつある。しかしビールや炭酸飲料等の加圧炭酸ガスを含有する内容物を充填、密封した場合、経時につれて炭酸ガスが、若干であるが薄肉の肩部や胴部の壁部を透過して失われ、一方酸素が、僅かであるが上記壁部を透過して侵入して、内容物のフレーバが損ぜられ易い。」(第1ページ左下欄第17行?右下欄第10行)と記載されているように、引用文献2には、既にガスバリア性を有するポリエチレンテレフタレート製ボトルに対して、更にガスバリア性を向上させる課題が示されている。よって、この課題解決のために、周知のガスバリア性樹脂を含む中間層を備える多層構造の技術を採用する動機付けは存在するといえる。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

ウ 小括
したがって、本件補正発明は、引用発明2及び周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)独立特許要件の検討のまとめ
上述のとおり、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

4 本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項各号掲記のいずれかの事項を目的とするものであるということができず、また、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定にも違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたため、本願の請求項1?3に係る発明は、平成30年11月9日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲のとおりであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1に摘記したとおりである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?3に係る発明は、本願の出願日前に頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

・引用文献1 特表2004-532147号公報
・引用文献2 特開昭59-91038号公報

3 引用文献1及び2の記載事項並びに引用発明1及び2
引用文献1及び2の記載事項並びに引用発明1及び2は、上記第2[理由]3(2)のとおりである。

4 対比・判断
上記第2[理由]3で検討したように、本件補正発明は、本願発明の発明特定事項に、「プリフォームが、多層構造を有し、ガスバリア性樹脂を含む中間層を備える」という限定を加えたものである。そして、本願発明の発明特定事項に上記限定を加えた本件補正発明が、上記第2[理由]3のとおり、引用発明1又は2及び周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記限定のない本願発明もまた、引用発明1又は2から当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
したがって、本願発明は、引用発明1又は2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 結語
上記第3のとおり、本願発明、すなわち請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-02-04 
結審通知日 2020-02-07 
審決日 2020-02-18 
出願番号 特願2014-262937(P2014-262937)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29C)
P 1 8・ 57- Z (B29C)
P 1 8・ 575- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 理絵  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 加藤 友也
大畑 通隆
発明の名称 複合容器およびその製造方法、複合プリフォームおよびその製造方法、ならびにプラスチック製部材  
代理人 浅野 真理  
代理人 末盛 崇明  
代理人 永井 浩之  
代理人 中村 行孝  
代理人 朝倉 悟  

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