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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1361288 |
審判番号 | 不服2018-16323 |
総通号数 | 245 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-12-06 |
確定日 | 2020-04-01 |
事件の表示 | 特願2015-550811「インジウムドープシリコンウェハおよびそれを用いた太陽電池セル」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月 3日国際公開、WO2014/106086、平成28年 2月 8日国内公表、特表2016-503964〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2013年(平成25年)12月27日(パリ条約による優先権主張 2012年12月31日、イタリア、2013年3月11日、欧州特許庁(2件))を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。 平成28年12月26日 :手続補正書の提出 平成29年12月 5日付け:拒絶理由通知書 平成30年 6月12日 :意見書、手続補正書の提出 平成30年 7月30日付け:拒絶査定(原査定) 平成30年12月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 平成30年12月6日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成30年12月6日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。 「 【請求項1】 チョクラルスキー法により成長させたインゴットからスライスされ、且つインジウムのみでドープされたインジウムドープ単結晶シリコンウェハを含み、絶対的エアマス1.5の下での前記インジウムドープ単結晶シリコンウェハの表面における太陽光の分光放射照度の変換効率が、少なくとも17%である太陽電池セル。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲の記載 本件補正前の、平成30年6月12日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「 【請求項1】 チョクラルスキー法により成長させたインゴットからスライスされたインジウムドープ単結晶シリコンウェハを含み、絶対的エアマス1.5の下での前記インジウムドープ単結晶シリコンウェハの表面における太陽光の分光放射照度の変換効率が、少なくとも17%である太陽電池セル。」 2 新規事項の追加について 本件補正の補正により、請求項1において「インジウムドープ単結晶シリコンウェハ」と記載されたものが、「インジウムのみでドープされたインジウムドープ単結晶シリコンウェハ」とされた。 インジウムドープ単結晶シリコンウェハに関し、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「出願当初の明細書等」という。)の明細書に、 「【0002】 本分野は概して単結晶シリコンウェハ上に作製された太陽電池セルの製造に関し、より具体的にはチョクラルスキー成長単結晶シリコンインゴットからスライスされたインジウムドープ単結晶シリコンウェハ上に作製された太陽電池セルに関する。」、 「【0021】 チョクラルスキー法により準備されたインゴットは一般的に酸素不純物を含み、酸素不純物は周囲の雰囲気および坩堝の壁からシリコン融液に入り得る。結晶成長の間、溶融シリコンが坩堝を構成する石英をエッチングまたは溶解し、それにより酸素ドーピングを生じる。酸素は結晶全体に亘って分散し、また集まる場合があり、析出物または錯体を形成する。単結晶シリコンインゴットおよびそこからスライスされた単結晶シリコンウェハは、約30ppma(parts per million atomic、ASTM規格 F-121-83、またはSEMI規格 M44)以下の酸素濃度を含む場合があり、一般的に約11ppmaと約20ppmaとの間のように約20ppmaより小さい。 【0022】 チョクラルスキー法により準備されたインゴットは不純物として炭素も含む場合がある。いくつかの実施形態において、単結晶シリコンインゴットおよびそこからスライスされた単結晶シリコンウェハは、約2ppma以下の濃度で炭素を含む場合がある。 【0023】 いくつかの実施形態において、本開示は、図6に示されるインゴットのような、インジウムでドープされ、チョクラルスキー法により準備された単結晶シリコンインゴットに関する。よりさらなる実施形態において、本開示は、そのようなインゴットを成長させる方法に関する。よりさらなる実施形態において、本開示は、そのようなインジウムドープチョクラルスキー成長インゴットからスライスされたセグメントおよびウェハに関する。いくつかの実施形態において、インジウムドープ単結晶シリコン基材は、2つの主要な略平行な面(一方が基材の前面であり、他方が基材の後面である)と、前面および後面に接続する周縁端と、前面と後面との間の中心面と、中心軸から周縁端に伸びる半径Rとを含むセグメント、例えばウェハを含む。いくつかの実施形態において、単結晶シリコン基材は円形状を有する単結晶シリコンウェハを含む。ウェハの直径は一般的に、当該技術分野において知られているように、均一な直径を有するインゴットを達成するために研削されるインゴットの一部を除いたチョクラルスキー成長単結晶シリコンインゴットの直径に類似する。インゴットは一般的にウェハの直径より大きい直径に成長させ、インゴットの外側の周縁端を滑らかにするために一般的に研削が行われ、成長させたばかりのインゴットと比較して直径が減少し得る。ウェハの直径は、少なくとも約150mm、約200mmであってよく、または205mm、250mm、300mm若しくはさらに450mmのように約200mmより大きくてよく、いくつかの実施形態において約150mmと約450mmとの間であってよい。いくつかの実施形態において、単結晶シリコンウェハは、約120μmと約240μmとの間のように約100μmと約1000μmとの間の厚さを有する。特定の実施形態において、厚さは約180μmまたは約200μmであってよい。厚さは、以上に列挙した厚さより約20μm薄くまたは厚く変化してよい。 【0024】 いくつかの実施形態において、中心軸と、中心軸に対して略垂直である前面および後面と、前面と後面との間にあり且つそれらに平行な中心面と、周縁端と、中心軸から周縁端に伸びる半径Rとを有するインジウムドープ単結晶シリコンインゴット(種結晶(または、種、seed)およびエンドコーンを取り除くために切断されている場合がある)またはそこからスライスされたインジウムドープ単結晶シリコンセグメント(例えば、ウェハ)は、少なくとも約5×10^(14)原子/cm^(3)(約0.01ppma)または少なくとも約1×10^(15)原子/cm^(3)(約0.02ppmaである)の平均インジウム濃度を含む。いくつかの実施形態において、平均インジウム濃度は、約1×10^(15)原子/cm^(3)(約0.02ppma)と約1×10^(18)原子/cm^(3)(約20ppma)との間である。いくつかの実施形態において、平均インジウム濃度は、約1×10^(15)原子/cm^(3)(約0.02ppma)と約1×10^(17)原子/cm^(3)(約2ppma)との間である。いくつかの実施形態において、平均インジウム濃度は、約1×10^(15)原子/cm^(3)(約0.02ppma)と約1×10^(16)原子/cm^(3)(約0.2ppma)との間である。」、 と記載されている(下線は、当審で付した。以下同様。)。 また、上記明細書の段落【0082】-【0094】の実施例1-4のバッチチョクラルスキー法により成長させたインジウムドープ単結晶シリコンインゴットは、所定のインジウム濃度、酸素濃度、炭素濃度であり、インジウム以外にも酸素、炭素が含まれている。 まず、「ドープ」とは、上記明細書の段落【0021】の「『チョクラルスキー法により準備されたインゴットは一般的に酸素不純物を含み、』『酸素ドーピングを生じる。』」といった記載からみても、意図的に不純物を添加することのみを意味するとはいえず、(望むか望まないにかかわらず)不純物が添加されることを意味するというべきである。 そうすると、インジウムドープ以外に酸素ドーピングなどによりドーピングされたインジウムドープ単結晶シリコンウェハについては、出願当初の明細書等に記載されているものの、インジウムドープ単結晶シリコンウェハにおいて、インジウムのみでドープされたこと(つまり、酸素を含まない)に関して、出願当初の明細書等には明示的な記載はない。 そして、インジウムのみでドープされたインジウムドープ単結晶シリコンウェハは、当業者にとって自明な事項とも認められず、本件補正は、出願当初の明細書等に記載した事項との関係において、インジウムドープ単結晶シリコンウェハについて、インジウムのみでドープされたという新たな技術的事項を導入するものである。 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしていないものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3 独立特許要件について 上記2で説示したとおり、本件補正は新規事項の追加により却下すべきものであるが、仮に、「ドープ」が、意図的に不純物を添加することのみを意味し、結果として、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるとして、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 原査定の拒絶の理由で引用された本願の最先の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2001-267610号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。 「【要約】 【課題】 裏面コンタクト型単結晶シリコン太陽電池あるいは両面受光型太陽電池の裏面受光特性に対し、光劣化を回避し、さらに発電量を増加させること。 【解決手段】 主たるドーパントがアルミニウム、ガリウム、インジウムのいずれかであるP型半導体基板、あるいは酸素含有割合が10ppm以下であるMCZ-P型半導体基板のいずれかの基板1と、前記基板の第1の主表面の少なくとも一部の領域にあるN型層2と、前記N型層の一部あるいは複数箇所にオーミック接合し、第1の主表面全体を覆わない第1の電極5と、前記N型層以外の領域の少なくとも一部の領域にオーミック接合した主表面全体を覆わない第2の電極6を太陽電池に配置する。 【効果】 上記構造で顕著に現れていた光劣化を完全に消滅させるだけでなく、同比抵抗の通常のボロンドープCZ基板から作製した太陽電池よりさらに高い変換効率を示す。」 「【請求項1】主たるドーパントがアルミニウム、ガリウム、インジウムのいずれかであるP型半導体基板、あるいは酸素含有割合が10ppm以下であるMCZ-P型半導体基板のいずれかの基板と、前記基板の第1の主表面の少なくとも一部の領域にあるN型層と、前記N型層の一部あるいは複数箇所にオーミック接合し、第1の主表面全体を覆わない第1の電極と、前記N型層以外の領域の少なくとも一部の領域にオーミック接合した主表面全体を覆わない第2の電極を有することを特徴とする太陽電池。」 「【0006】ボロンドープ低抵抗CZ基板から作製された太陽電池は光照射によって特性が劣化することが観測されている。上記文献内、Figure4に示されるように、基板比抵抗が1Ω・cmの基板から作製された図2に示すような通常タイプの太陽電池では、太陽光を数時間照射すると、劣化の割合は1割にも満たないが、変換効率は減少する。この原因はバルクライフタイムの減少と考えられている。これは生基板に光を照射した際、バルクライフタイムが減少することからも裏付けられている。バルクライフタイムの減少は格子間ボロンと通常のCZ基板には多く含まれている格子間酸素が結合することにより中間準位を形成するためと推察されている。よって、太陽電池の光劣化を低減するためには、酸素濃度の低い基板を利用するか、ドーパントにボロンを使用していない、あるいは使用量の少ない基板を用いるのがよいされる。通常タイプの太陽電池では基板比抵抗が2Ω・cm以上(ボロン濃度7.2×10^(15)cm^(3)以下)の基板を用いることにより対処することが可能である。」 「【0009】本発明の目的は、PN接合を受光面と反対側の面に備えることによって結果的に発電量が増加するといった利点を有するが、光照射によって特性劣化が顕著に誘起される太陽電池、例えば裏面コンタクト型単結晶シリコン太陽電池あるいは両面受光型太陽電池の裏面受光特性に対し、光劣化を回避し、さらに変換効率を増加させる。」 「【0012】つまり、本発明では裏面コンタクト型太陽電池や両面受光型太陽電池の裏面照射の場合といったPN接合がキャリヤの最も光生成する領域と反対側の面に存在するがゆえに高ライフタイムを要する構造に対して、光照射によって欠陥準位を誘起する酸素とボロンのペアを減らすこと、すなわち、少なくともボロンあるいは酸素のいずれかの元素を減らすことを目的とし、酸素濃度の低い基板を利用するか、ドーパントにボロンを使用していない基板を組み合わせる。」 「【0017】ここで示したボロン濃度が1.0×10^(15)cm^(-3)以下、比抵抗が10Ω・cm以下のP型CZ基板では、主たるドーパントとしてアルミニウム、ガリウム、インジウム等が用いられている。」 「【0019】 【発明の実施の形態】図3(a)に、従来のボロンドープ1Ω・cmCZ基板から作製した裏面コンタクト型太陽電池(三角印)と本発明であるガリウムドープ1Ω・cmCZ基板(丸印)から作製した裏面コンタクト型太陽電池の変換効率の光照射依存性を示す。ここで照射した光の強度は自然太陽光と同一である。上記従来技術では光照射前16%あった変換効率がわずか10時間の光照射後、8%以下へと大きく低減した。これに対し、本発明では光照射前20%の変換効率を示し、10時間の光照射後も変化を示さず、20%を維持した。よって、実用上重要と考えられる光照射後の変換効率で比較を行うと、本発明は従来技術の2.5(=20%÷8%)倍となる。これをワット当たりの発電コストに換算すると本発明は従来技術の2.5分の1になる。」 「【0025】ボロンドープ基板およびガリウムドープ基板から作製した太陽電池を25℃の雰囲気の中、 ソーラーシミュレータ(光強度:1kW/m^(2)、スペクトル:AM1.5)の下で電流電圧特性を測定し、光照射時間依存性を調べた結果を図3(a)に示す。ボロンドープCZ、P型1Ω・cm基板から作製された裏面コンタクト型太陽電池は予想をはるかに超え、100mW/cm^(2)の擬似太陽光下では10時間照射すると、変換効率換算で約5割以上低減した。ボロンドープCZ、P型2Ω・cm基板から作製した裏面コンタクト型太陽電池の場合でさえも、変換効率換算で約2割以上低減した。同タイプの基板(CZ、P型2Ω・cm)を用いた図2に示す構造の太陽電池では擬似太陽光下で10時間照射しても実質上問題となる光劣化は認められない。他方、ガリウムドープCZ、P型1Ω・cm基板から作製された裏面コンタクト型太陽電池は、若干の変換効率の変動が見られたが、特性の劣化にあたる変化は見られなかった。変換効率の変動は測定系のゆれを伴った誤差と考えられる。」 図3(a)の記載から、ボロンドープCZ、P型2Ω・cm基板から作製した裏面コンタクト型太陽電池は、光照射前18%の変換効率を示すことが見て取れる。 イ 上記アから、引用文献1には、次の発明及び技術的事項が記載されていると認められる。 「主たるドーパントがアルミニウム、ガリウム、インジウムのいずれかであるP型CZ基板を有し、 ドーパントにボロンを使用していない基板を用い、 同比抵抗の通常のボロンドープCZ基板から作製した太陽電池よりさらに高い変換効率を示す、 太陽電池。」(以下「引用発明」という。) 「ガリウムドープ1Ω・cmCZ基板から作製した裏面コンタクト型太陽電池は、AM1.5の下で、光照射前20%の変換効率を示す。」(以下「技術的事項1」という。) 「ボロンドープCZ、P型2Ω・cm基板から作製した裏面コンタクト型太陽電池は、AM1.5の下で、光照射前18%の変換効率を示す。」(以下「技術的事項2」という。) (3)対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「太陽電池」は、本件補正発明の「太陽電池セル」に相当する。 イ 引用発明のCZ(チョクラルスキー)基板は、チョクラルスキー法で生産されるものなので、通常、酸素や炭素が不純物として含まれ、ドープされているが、引用発明は「ドーパントにボロンを使用していない基板を用い」と特定されているので、ボロンではドープされていない。 そうすると、引用発明は「『主たるドーパントが』『インジウム』『であるP型CZ基板を有し、ドーパントにボロンを使用していない基板を用い』」は、本件補正発明の「チョクラルスキー法により成長させたインゴットからスライスされ、且つインジウムのみでドープされたインジウムドープ単結晶シリコンウェハを含み」に相当する。 ウ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「チョクラルスキー法により成長させたインゴットからスライスされ、且つインジウムのみでドープされたインジウムドープ単結晶シリコンウェハを含む太陽電池セル。」 【相違点】 太陽電池セルの変換効率が、本件補正発明では「絶対的エアマス1.5の下での前記インジウムドープ単結晶シリコンウェハの表面における太陽光の分光放射照度の変換効率が、少なくとも17%である」のに対し、引用発明ではそのようなものか明らかでない点。 (4)判断 以下、上記相違点について検討する。 ア 相違点について (ア)引用発明の太陽電池は「同比抵抗の通常のボロンドープCZ基板から作製した太陽電池よりさらに高い変換効率を示す」と特定されている。 (イ)そして、通常のボロンドープCZ基板から作製した太陽電池は、AM1.5の下で、光照射前18%の変換効率を示すことが、上記技術的事項2に記載されている。 (ウ)また、引用発明の「『主たるドーパントが』『ガリウム』『であるP型CZ基板を有し、』『同比抵抗の通常のボロンドープCZ基板から作製した太陽電池よりさらに高い変換効率を示す』」との特定に関し、高い変換効率は、具体的には、AM1.5の下で、光照射前20%の変換効率を示すことが、上記技術的事項1に記載されている。 (エ)そうすると、引用発明の「『主たるドーパントが』『インジウム』『であるP型CZ基板を有し、ドーパントにボロンを使用していない基板を用い、同比抵抗の通常のボロンドープCZ基板から作製した太陽電池よりさらに高い変換効率を示す、太陽電池』」においても、AM1.5の下で、光照射前18%よりさらに高い変換効率を示すようになすことは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。 イ そして、相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献1に記載された事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 ウ したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)審判請求人の主張について ア 本件審判請求人は、平成30年12月6日付けで提出された審判請求書において、 (ア)「このように、引用文献1には、ガリウム及びホウ素でドープされた基板が開示されていますが、本願の請求項1に係る発明のようにインジウムのみでドープされた基板は開示されておりません。」、 (イ)「ガリウムはインジウムと同じドーパントではなく、ガリウムをドーピングしたウェハは、インジウムをドーピングしたウェハと同じ性質を有しません。そのため、当業者であれば、引用文献1の実施例において単にドーパントをガリウムからインジウムに変更することはあり得ず、ガリウムをドーピングしたウェハがインジウムをドーピングしたウェハと同じ性質を有すると予期することはありません。」、 旨主張している。 イ 上記主張について以下検討する。 (ア)上記ア(ア)の「本願の請求項1に係る発明のようにインジウムのみでドープされた基板」について、「インジウムのみでドープされた」を文字通り解釈した場合には、上記2で検討したとおり、新たな技術的事項を導入するものである。 そして、引用文献1には「ガリウム及びホウ素でドープされた基板」以外にも、主たるドーパントがインジウムであるP型CZ基板を有し、ドーパントにボロンを使用していない基板を用いることが開示されている(上記3(2)ア)。 (イ)引用文献1の請求項1には「主たるドーパントがアルミニウム、ガリウム、インジウムのいずれかであるP型半導体基板」と記載され、引用文献1は、主たるドーパントとしてインジウムを用いることを想定している。 また、引用文献1の、主たるドーパントがアルミニウム、ガリウム、インジウムのいずれかであるP型半導体基板を有する太陽電池が、通常のボロンドープCZ基板から作製した太陽電池よりさらに高い変換効率を示すとの効果からして、主たるドーパントがインジウムであるP型CZ基板を有する太陽電池も、AM1.5(絶対的エアマス1.5)の下での変換効率が、上記技術的事項2に記載したように通常のボロンドープCZ基板から作製した太陽電池の変換効率が18%なので、少なくとも18%であるとの効果を有することは予期することができる。 以上から、請求人の上記主張は、採用することができない。 4 本件補正についてのむすび 本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 仮に、本件補正が、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるとしても、「本件補正発明」が、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであることは以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合しないものである。 したがって、本件補正は、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成30年12月6日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年6月12日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2の[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の下記の請求項に係る発明は、その最先の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その最先の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項1-15 ・引用文献等1 <引用文献等一覧> 1.特開2001-267610号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]3(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記第2の[理由]3で検討した本件補正発明から、「且つインジウムのみでドープされた」との限定事項を省いたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]3(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2019-11-01 |
結審通知日 | 2019-11-05 |
審決日 | 2019-11-18 |
出願番号 | 特願2015-550811(P2015-550811) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H01L)
P 1 8・ 561- Z (H01L) P 1 8・ 121- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 久則、原 俊文 |
特許庁審判長 |
瀬川 勝久 |
特許庁審判官 |
野村 伸雄 星野 浩一 |
発明の名称 | インジウムドープシリコンウェハおよびそれを用いた太陽電池セル |
代理人 | 山尾 憲人 |
代理人 | 江間 晴彦 |