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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61N
管理番号 1361336
審判番号 不服2018-1592  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-05 
確定日 2020-04-08 
事件の表示 特願2016-100770号「医療処置のための磁気コア」拒絶査定不服審判事件〔平成28年8月12日出願公開、特開2016-144757号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2006年7月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年7月27日、米国(US))を国際出願日とする特願2008-524159号の一部を平成25年2月7日に新たな特許出願とした特願2013-22564号の一部を、平成26年6月4日に新たな特許出願とした特願2014-116247号の一部を、さらに平成28年5月19日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成29年 5月22日付け:拒絶理由通知
同年 8月30日提出:意見書
同年 9月22日付け:拒絶査定
平成30年 2月 5日提出:審判請求書及び同時の手続補正書
平成31年 4月15日付け:拒絶理由通知
令和 元年10月16日提出:意見書及び手続補正書

第2 本願発明
令和元年10月16日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「患者を治療するための装置であって、
高い飽和性の磁性材料を含む磁気コアを含み、前記磁気コアは、分散された間隙を有するコア構造を含み、前記分散された間隙のコア構造は、強磁性粒子が絶縁結合材を介して互いに実質電気的に絶縁されるように理論密度の90%以上に前記絶縁結合材とともに圧縮された前記強磁性粒子を含み、前記磁気コアは、精神病の治療のための経頭蓋磁気刺激(TMS)に関連する使用に適合しており、前記磁気コアは、前記絶縁結合材により強磁性粒子間に電流が流れるのを阻止して前記磁気コアに流れる電流による渦電流が抑制されるように構成され、前記磁気コアは、
第1の端部および第2の端部を有する第1の磁気コアセクションと、
第1の端部および第2の端部を有する第2の磁気コアセクションであって、当該第1の端部は、第1の角度で前記第1の磁気コアセクションの前記第1の端部に接続される、第2の磁気コアセクションと、
第1の端部および第2の端部を有する第3の磁気コアセクションであって、当該第1の端部は、第2の角度で前記第2の磁気コアセクションの前記第2の端部に接続される、第3の磁気コアセクションと、
前記磁気コアの少なくとも或る部分に巻回されたTMS導電体であって、前記TMS導電体が前記患者のTMS治療中にパルス印加された場合に、前記磁気コアは、TMS治療のための磁場を生成し、前記装置は、前記磁気コアにおける渦電流による熱が実質抑制できるよう、前記患者の脳の部分に前記磁場を周期的にかつ断続的に印加するようになされ、前記磁場が周期的にかつ断続的に印加された場合に、前記TMS導電体と、前記磁気コアの前記第1、第2および第3の磁気セクションは、刺激することになる前記患者の脳の前記部分に前記磁場を集束させるように構成されている
ことを特徴とする装置。」

第3 拒絶の理由
平成31年4月15日付けで当審が通知した拒絶理由のうち理由2は、概略、次のとおりのものである。
本願請求項1に係る発明は、その出願(優先日)前日本国内において頒布された下記引用文献1?3に記載された発明に基いて、その出願(優先日)前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献一覧:
1.特開2005-95591号公報
2.特開2003-303711号公報
3.特開昭60-1816号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1.引用文献1の記載
引用文献1には、図面と共に、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下、同様。)。
(1)「本発明の目的は、経頭蓋骨磁気脳刺激のための改善された装置を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、脳機能の部位および特性の特定のための改善された方法を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、発語停止の部位および特性の特定のための改善された方法を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、鬱病治療のための改善された方法を提供することにある。
以下に詳述する如く、装置は経頭蓋骨脳刺激における使用を目的としている。この装置は、関心と重要性の有る脳の所定サイトに導かれる集束された磁界を発生するように設計されている。装置は少なくともひとつ、理想的には4つの磁気コイルより構成される。このコアは理想的には強磁性の素材で構成されている。コアは、外径が約2から7インチの間であり、内径が約0.2から1.5インチの間である。コアの素材は、少なくとも0.5テスラ、理想的には少なくとも1.5テスラ、もしくはさらに2.0テスラ以上の磁気飽和度を有している。好適実施例においては、前記コアは効力を向上するために頭部の形状に合う構造に成形してある。刺激装置の頭部への正確な位置付けと正確な印付けを容易にするために、目視用および位置決め用の開口部が設けられている。」(段落【0013】?【0017】)

(2)「図1と図2に示されているように、磁気神経刺激器のためのコアが脳の刺激のために備えられている。刺激器コア27は、磁性材料、できれば強磁性体から作る。本実施例においては、コアの材料には少なくとも0.5テスラの磁気飽和度がある。より高い磁気飽和度が望まれるが、最低1 5テスラかそれ以上、もしくは2.0テスラかそれ以上もまた、好適実施例において勧められる。コア用に好ましい材質にはバナジウムパーメンジュール、もしくは3%の粒子配列鋼が有る。
図1に示されているように、本実施例においては、コア27は、2ミルバナジウムパーメンジュールの巻回楕円体から切り離される。実際に、楕円体の各側からひとつのコアを切り離す事によって、単一の巻回楕円体から2つのコアを切り取る事が可能である。図1では、説明のため単一のコアだけ示している。
このようなコアの制作方法は、本出願の親出願である1994年11月28日に提出した我々の先の出願、米国特許出願08/345,572において述べている。最良のコアは薄い積層版で、高い飽和度の材料(0.5テスラの飽和度の低い材料や、飽和度の高い
材料も同様に使われるが、すなわち、最低1.5?2.0テスラの飽和度の材料である。)から制作される。」(段落【0023】?【0025】)

(3)「典型的なコアは、2ミルストック(mil stock)のバナジウムパーメンジュールを使って巻回することができる。このような材料の長いリボンが芯金に(たとえば木製やプラスチック製の芯金)望ましい半径、厚み、また深さを得るために巻回されている。当該リボンの各面は、リボンを廻りから電気絶縁するために薄い絶縁被覆で覆われている。巻回楕円体全体からコアを切り離すと、図1、図2、及び図8に示されるように、適したコアは大よそ208度、もしくは205度から215度の範囲に及ぶ。他の角度も考えられるが、下記に述べるように好ましくは無い。
いったんリボンが芯金に巻かれ、所望の大きさになったら、位置を固定するために巻回リボン全体をエポキシ樹脂に浸す。エポキシ樹脂の乾燥後、芯金が取り外されて、コアが所望の角度に切断される。ここで、切断によって隣接する積層の電気絶縁が壊されることが有る。各断面を微細にすりつぶして滑らかにした後、深いエッチングを形成する。深いエッチングは、各断面を酸浴槽に浸すことによって形成する。これによって断面はかすかに離層され、積層間の電気絶縁が保たれる。この段階で深いエッチングを行うのに失敗すると、その結果コアの断面に相当な渦電流損と加熱が生じる。深いエッチング形成に続いて、コアの形と構造的完全さを保つために、ブラシで端にエポキシ樹脂を塗る。制作の最終段階は、コアの廻りに絶縁電線のコイルを巻く事である。このタイプのコアに対する典型的なインダクタンスは、約20μHである。しかしながら本発明では、要望されれば他のインダクタンス、もしくは磁界強度で実施されても良い。」(段落【0026】?【0027】)

(4)「コアをひとつの完全な断片に切断するための一案として、コアを半円形断片に切断することが出来る。この製作方法で、次にコアの底部へ取り付ける小さな三角断片34が別個に切断されて、図に示す如く、前記半円形断片に取り付けられる。望ましくは、この小さい三角形断片もまたバナジウムパーメンジュールより作る。しかしながら、必要であればこの三角形断片はどんな材料でも、もしくは最低0.5テスラの飽和度を持つ合金でも良く、それは、当業者によって制作することができる。三角形断片用の適切な合金は、例えば2ミル50%ニッケル合金である。」(段落【0028】)

(5)「本実施例においては、刺激装置を形成するために、4つのコアがほぼ並べて配置され、完全な磁気刺激器を形成する。4つ以上のコアも、4つ以下のコアでも可能であるが、4つが好ましい。図3及び図4で示す如く、頭上に置くため設計された半球体を作るため、2組のコアが並べて配置される。組み合わせたコアは一巻きのワイヤで巻かれる。本実施例では、おおよそ9から10巻きのワイヤが使われる;図1のコアにより構成する大きめの刺激装置では、約9巻のワイヤ巻回が好ましく、図2のコアにより構成する小さめの刺激装置では約10巻のワイヤ巻回が施されている。図3及び図4に示すように、ほぼ4?5巻きのワイヤが各刺激装置の半分に巻回されている。すなわち、約4?5巻きが刺激装置の第1の側面に巻かれていて、他の4?5巻きが刺激装置の第2の側面に巻かれている。
本発明によれば、刺激装置は、刺激装置の頭部への正確な位置付けと正確な印付けを容易にするために、目視用および位置決め用の開口部が設けられていることが好ましい。本発明においては、2組のコアの間には中央開口部62を形成するための空間が開けられている。(図3参照)中央開口部62は、図3に示されるように、刺激装置の頂上から患者の頭の表面につながっている。所定長さのプラスチックまたは銅のチューブが、前記開口部を形成するためにこの範囲に差し込まれることが望ましい。開口部62は十分に直径が大きいので、ペンやフエルトマーカーなどの筆記具は、刺激装置を通して頭の表面(もしくは頭にかぶせてある帽子)に印をつけるため、開口部62へ差し込む事ができる。このように、開口部62の構成の例として、ペーパーメート(登録商標)等のスタンダードな筆記具から、インクの入った内部シリンダーを取り除き、同ペンの外部のプラスチック管部分を空にする。この管部分を、前記開口部の管として使用するために2組のコアの間に差し込むことができる。ペンの内部のインクを有している部分は、後に開口部を介して患者の頭に印を付けるために、この開口部に差し込む事ができる。相応する管ならいかなるものでも、また管より直径が小さいマーカーならいかなるものでも使用可能であり、本実施例は制限を加えるものでは無い。
開口部62には、頭部のどこに刺激装置が位置しているのかの正確な印付けと、刺激装置の正確な位置決めの両手段として重要性がある。刺激装置が頭に設置されるとき、印をつける装置やペンは開口部より下方に挿入され、刺激装置を介して患者の頭部に印をつける事ができる。この印は、刺激装置が配置された場所を正確に示す効果的な表示となる。これは後の参照において、刺激装置の場所を正確に記録する便利で効果的な手段である。
同様に、もし刺激装置を頭部の特定の部位を中心にして設置したければ、最初に頭部の所定位置に印を付けておくことができる。もしくは、もし刺激装置を連続したセッションにおいて繰り返し同じ位置に置きたければ、最初に配置をした後、印を頭上に残しておくことができる。いずれの場合でも、刺激装置の開口部を除いて見る事で、印をつけた部分が開口部を通して見えるまで、刺激装置を頭上で移動することができる。こうして、刺激装置は、所望の位置に正確に配置する事が出来る。」(段落【0034】?【0037】)

(6)「鬱病治療用磁気脳刺激
本発明により、本装置は鬱病治療にも使用できる。径頭蓋骨磁気脳刺激は、精神的鬱状態にある患者や薬物拒絶反応のある患者を含む多様な患者の治療に効果があることが発見された。磁気またはより望ましくは強磁気素材を核にもつ本発明装置を使用する重度鬱病の治療は、これまでの論文に発表された他の考案装置を使用するよりもさらに効果的である。左前頭葉前部の高周波経頭蓋骨磁気刺激の使用は本理解を基礎にすることがより好ましいが、他の刺激形式もさらなる研究により使用できる可能性はある。
本発明により、右手運動野と運動野休息閾はまず左脳半球において特定される(例えば、Epstein CM、Lah JK、Meador K、Weissman JD、Gaitan LE、Dihenia B共著、Optimized stimulus parameters for lateralized suppression of speech with magnetic brain stimulation,Neurology,1996,47:1590?1593を参照。同記載内容は本文章でも参照しつつ取り入れている。)。1ヘルツ単位の刺激投与の間、磁気コイルは左中央部位を通り移動し、刺激出力はその地点での磁気域地に従い強度がより低い活動へと徐々に調整される。この位置は油性マーカーにより印が付けられる。運動野休息閾を決定するのには初回治療セッションで5-10分くらいを要するのみであり、すでに位置が明示されている2回目以降のセッションはそれより短時間で済む。標識明示位置は中央開口部62により容易に得られる。
高周波経頭蓋骨磁気刺激治療サイトは矢状面並行線(parasagittal line)上の手運動野から前方5cmと測定される(例えば、George MS、Wasserman EM、Williams W.,et al.共著,Changes in mood and hormone levels after rapidrate transcranial magnetic stimulation of the prefrontal cortex,J.Neuropsychiatry Clin.Neurosci.1996;8:172?180を参照。同記載内容は本文章でも参照しつつ取り入れている。)。高周波経頭蓋骨磁気刺激(rTMS)による各治療において、刺激出力は運動野休息閾の110%および10Hz単位の反復に設定する。刺激は各五秒間に10トレインにて伝達され、各トレイン間は30秒の間隔をあける。コイルは磁界が矢状面に沿って誘導されるように標定されている。被験者は耳保護装置を終始装着する。
治療目的での本装置使用中、すべての治療は1日1度、5日間連続して行われた。患者は仰向けになり頭を枕に載せて横たわった。心電図モニターによる連続検査が行われ、刺激投与の間、血圧は60秒毎に測定された。高周波経頭蓋骨磁気刺激(rTMS)が、減衰したコサインパルスおよび本書にて記載した強磁気核刺激装置を用いて実施される。」(段落【0061】?【0064】)

2.引用発明
(1)上記1.(1)の「本発明の目的は、経頭蓋骨磁気脳刺激のための改善された装置を提供することにある。」及び「本発明のさらなる目的は、鬱病治療のための改善された方法を提供することにある。」の記載並びに上記1.(6)の「本装置は鬱病治療にも使用できる。」の記載からすれば、引用文献1記載の装置は、鬱病治療のための装置といえる。

(2)上記1.(2)の「刺激器コア27は、磁性材料、できれば強磁性体から作る。本実施例においては、コアの材料には少なくとも0.5テスラの磁気飽和度がある。より高い磁気飽和度が望まれるが、最低1 5テスラかそれ以上、もしくは2.0テスラかそれ以上もまた、好適実施例において勧められる。」の記載からすれば、引用文献1記載の(刺激器)コアは、高い磁気飽和度の強磁性体から作られたものといえる。

(3)上記1.(6)の「高周波経頭蓋骨磁気刺激(rTMS)が、減衰したコサインパルスおよび本書にて記載した強磁気核刺激装置を用いて実施される。」の記載からすれば、引用文献1記載の装置のコアは、鬱病治療のための高周波経頭蓋骨磁気刺激(rTMS)に使用するものであるといえる。

(4)上記1.(4)の「コアを半円形断片に切断することが出来る。」の記載及び図1,2,4の記載からすれば、引用文献1記載のコアは半円形である。

(5)上記1.(5)の「刺激装置を形成するために、4つのコアがほぼ並べて配置され、完全な磁気刺激器を形成する。」及び「組み合わせたコアは一巻きのワイヤで巻かれる。本実施例では、おおよそ9から10巻きのワイヤが使われる」の記載からすれば、引用文献1記載のワイヤはコアを巻回してコイルを形成しており、上記1.(5)の「開口部62には、頭部のどこに刺激装置が位置しているのかの正確な印付けと、刺激装置の正確な位置決めの両手段として重要性がある。」及び上記1.(6)の「左前頭葉前部の高周波経頭蓋骨磁気刺激の使用は本理解を基礎にすることがより好ましい」及び「高周波経頭蓋骨磁気刺激(rTMS)による各治療において、刺激出力は運動野休息閾の110%および10Hz単位の反復に設定する。刺激は各五秒間に10トレインにて伝達され、各トレイン間は30秒の間隔をあける。」の記載からすれば、当該コイルには、運動野休息閾の110%および10Hz単位の反復したパルスが印加され、各五秒間に10トレインにて伝達され、各トレイン間は30秒の間隔をあけた刺激を投与するように構成されているものと認められる。

(6)上記記載事項及び図1?4の図示内容を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「鬱病治療のための装置であって、高い磁気飽和度の強磁性体から作られたコアを含み、前記コアは、鬱病治療のための高周波経頭蓋骨磁気刺激(rTMS)に使用するものであり、前記コアは半円形であり、前記コアに巻回されたワイヤであって、前記ワイヤには、運動野休息閾の110%および10Hz単位の反復したパルスが印加され、各五秒間に10トレインにて伝達され、各トレイン間は30秒の間隔をあけた刺激を投与するように構成されている装置。」

3.引用文献2の記載
引用文献2には、図面と共に、以下の事項が記載されている。
(1)「従来、スイッチング電源のリアクトル、チョークコイルやノイズフィルタには、電磁鋼板鉄心、ソフトフェライトコア、圧粉磁心などが利用されている。電磁鋼板鉄心は、飽和磁束密度が高く、比較的安価であるという特徴を有するが、動作周波数が高くなるにしたがって鋼板内部での渦電流が急激に増大し、それに伴って鉄心の発熱や、磁心損失いわゆる鉄損が、急激に増大するという問題があった。一方、ソフトフェライトコアは、鉄損は小さいが、飽和磁束密度が低いという問題があった。」(段落【0005】)

(2)「このような渦電流損失の低減とヒステリシス損失の低減の両立を目的として、耐熱性に優れた絶縁性物質と金属粉末を混合する方法がいくつか提案されている。例えば、特開平6-260319号公報には、軟磁性粉末と、P、Mg、B、Feを必須元素とするガラス状絶縁剤とを混合するとともに乾燥させて水分を除去し、ついで固化成形し、焼鈍する高周波用圧粉磁心の製造方法が記載されている。特開平6-260319号公報に記載された技術で製造された圧粉磁心は、400?600℃までの温度で焼鈍して歪みを解放するとされる。しかし、この技術により作製された絶縁処理粉末は、588MPa(6000kg/cm^(2))以上の圧力で加圧成形すると絶縁被覆が破壊されてしまうため、成形圧力を高くして圧粉体密度を向上させ、飽和磁束密度を上昇させることができないという問題があった。」(段落【0010】)

(3)「【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記した課題を達成するため、ヒステリシス損失低減を目的とした焼鈍を経ても絶縁が保持され、渦電流損失の増大が起きないように、絶縁被膜の耐熱性向上について鋭意検討した。その結果、鉄を主成分とする原料粉末にシリコーン樹脂と顔料とを組み合わせて添加した場合に初めて、粉末表面に優れた耐熱性絶縁被覆が形成されることを見出した。さらに、顔料として金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、鉱物、ガラスなどの材料を用いると、焼鈍後も著しく絶縁性に優れ、しかも成形体強度、焼鈍体強度にも優れる、耐熱性絶縁被覆を有する鉄基粉末が得られることを見出した。また、本発明者らは、鉄を主成分とする原料粉末を、予め表面に、シリコン化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物、リン化合物およびクロム化合物のうちから選ばれた1種または2種以上の物質を含む被膜を形成してなる粉末とし、該被膜上に上記した耐熱性絶縁被覆を形成することにより、さらに焼鈍後の絶縁性に優れた鉄基粉末が得られることを見いだした。」(段落【0015】)

(4)「鉄を主成分とする原料粉末に、シリコーン樹脂と顔料とを含有する塗料を添加し攪拌・混合するか、あるいは流動状態の鉄を主成分とする原料粉末に上記したシリコーン樹脂と顔料とを含有する塗料を噴霧したのち、溶剤を除去する乾燥処理を施すことが好ましい。これにより、鉄を主成分とする原料粉末表面にシリコーン樹脂と顔料を含有する被膜が形成される。」(段落【0020】)

(5)「また、鉄を主成分とする原料粉末には、圧縮性や圧粉磁心の磁気特性などに悪影響を及ぼさない範囲で、含有元素の調整を行ったものを用いても良い。上記した方法によって製造された鉄基粉末は、必要に応じて潤滑剤などが添加された後、金型などを用いて加圧成形され、圧粉体(圧粉磁心)とすることができる。この加圧成形の際、たとえば成形圧力を980MPa以上の高圧としたり、いったん粉末を加圧成形あるいはそれ以外の方法により予備成形体とした上で、その予備成形体を冷間で鍛造するいわゆる粉末鍛造法、粉末および必要に応じて金型を加熱して所定の温度で加圧成形するいわゆる温間成形法、潤滑剤を粉末ではなく金型表面に塗布することで潤滑剤を添加していない粉でも金型のかじりなどを起こさずに成形できる方法である金型潤滑法、さらに金型潤滑法と温間成形法を組み合わせた温間金型潤滑成形法などを適用することにより、圧粉磁心の密度が真密度(原料粉末を構成する強磁性金属の理論密度)の95%以上となる、高密度(純鉄粉を用いた場合は圧粉磁心の密度が7.47Mg/m^(3)以上)の圧粉磁心を製造することができる。」(段落【0066】)

4.引用文献3の記載
引用文献3には、図面と共に、以下の事項が記載されている。
(1)「発明の概要
本発明の目的は、慣例の積層鋼板コアと同等の高い透磁率と低い鉄損を有する圧縮成形鉄粉磁気コアを提供すること、そしてそのようなコアを製造する実用的かつ経済的な方法を提供することにある。さらに具体的には、分布した空気ギャップが3%以下、好ましくは約2%以下であり、鉄損が慣例のコアの鉄損と同等である鉄粉コアを目的としている。これによりコアが放電ランプ安定器用として実用可能となる。勿論、鉄損をもっと低くし、積層コアを用いたものよりも一層経済的な、鉄および銅またはアルミニウム導体を用いた安定器構成を提供するのが望ましい。
本発明の付随的な目的は、都合のよい経済的な方法で容易に圧縮成形し焼鈍して上記のようなコアを製造することができる処理鉄粉を提供することにある。
本発明を実施してプレス成形コアを製造するには、適当な粒度、通常は直径で0.05インチより小さい粒度の粒子よりなる鉄粉を用いる。まず最初に連続的な珪素質無機膜を設ける。好適実施例では、アルカリ金属珪酸塩の水溶液を鉄粉と混合し、この鉄粉を室温より高い温度で乾燥して水分をすべてとばすとともに、粒子をガラス質無機被膜で被覆する。次にある程度の弾性をもち加圧下で流動し得る耐熱重合体の外被膜を設ける。好適例では、シリコーン樹脂の有機溶剤での希釈液を鉄粉と混合し、空気乾燥することによって、シリコーン樹脂の外被膜を設けることができる。
次に鉄粉を約25トン/平方インチ以上の圧力で、磁気回路部品として望ましい形状に圧縮成形する。次に圧縮成形コアを500℃以上で焼鈍して、圧縮成形操作中に鉄粒子内に誘起された応力を解除する。焼鈍はヒステリシス損を少なくするが、同時にうず電流損が増加し始めるので、焼鈍を適切に制御しなければならない。シリコーン樹脂の外被膜により、うず電流損を不当に増すことなく、上記のような高い温度で焼鈍を行うことが可能になる。本発明は慣例の積層コアと同等の総合損失を有するコアを製造し、こうして本発明の目的を達成する。総合損失が慣例の積層コアより少ないコアも製造できる。」(4頁左上欄1行?同左下欄2行)

(2)「コア製作
本発明を具体化するコアを製造するために、上述した通りに処理した鉄粉を、25トン/平方インチ以上、好ましくは50?100トン/平方インチの圧力で、目的とする磁気部品に望ましい形状に、圧縮成形する。プレス成形を室温で行い、これにより理論密度の約93?95%を達成する。
プレス成形中、鉄粒子は粒子間の隙間を埋めて最終密度を達成するために必然的に変形される。この結果生じる歪により粒子に応力が導入され、これがヒステリシス損を増加させる。本発明によれば、プレス成形部品を焼鈍して応力を解除し、ヒステリシス損を少なくする。500℃以上の温度が必要であることを確かめた。しかし、余りに高い焼鈍温度はうず電流損を増す原因となる。全体的損失が最小となる温度、即ち上述した好適なコーティングおよびオーバーコーティングについては約600℃で焼鈍する。例えば、安定器リアクトル用コアのサンプルを磁束密度13キロガウスおよび電力線周波数60サイクル/秒で測定した全損失は、焼鈍前には、9ワット/ポンドであった。
600℃に焼鈍すると損失が5.0ワット/ポンドに低下した。同様のサンプルを650℃に焼鈍すると、損失は6.2ワット/ポンドであった。
本発明に従って珪酸塩被膜上にシリコーン外被膜を設けることによる驚くべき効果が、焼鈍後の材料の抵抗率を比較することにより明白になる。鉄粉を圧縮成形した直径1/2インチのスラグ・サンプルをつくった。サンプルは珪酸塩被膜だけで被覆した鉄粉、シリコーン樹脂だけで被覆した鉄粉、そして珪酸塩被膜とシリコーン外被膜で被覆した粉末からそれぞれつくった。スラグを600℃で焼鈍した。珪酸塩だけで被覆したサンプルは抵抗約500ミリオーム/インチを示した。シリコーン樹脂だけで被覆したサンプルは焼鈍すると必ず被膜が分解し、うず電流損が過大に増大した。珪酸塩被膜とシリコーン外被膜両方を有するサンプルは測定された抵抗が約10,000ミリオーム/インチであり、珪酸塩だけの場合と較べて20倍の顕著な増加を示した。
外被膜にシリコーン樹脂を用いることの1つの利点は、焼鈍中の樹脂の分解により残される残留物が珪素を酸化物または他の絶縁性の形態で含有することにあると思われる。焼鈍を好ましくは酸化性雰囲気中で、もっとも好都合には空気中で行うべきであることを確かめた。水素のような還元性雰囲気はうず電流損を高める原因となり、避けなければならない。」

5.引用文献2及び3の記載から導き出せる周知技術
上記3.および4.の特に下線部の記載からすれば、渦電流を抑制するために、鉄(強磁性粒子)を絶縁性物質(絶縁結合材)で被覆した後、理論密度の90%以上に絶縁結合材とともに圧縮・焼鈍されたコアは、本願出願(優先日)前に周知技術であったといえる。
なお、当該周知技術に係るコアも、強磁性粒子を絶縁結合材で被覆した後、圧縮・焼鈍している以上、強磁性粒子は絶縁結合材を介して互いに実質電気的に絶縁される分散された間隙のコア構造を有すること、および、渦電流を抑止することにより熱が実質抑制できるように構成されていることは、自明のことである。

第5 対比
(1)鬱病治療も患者の治療にあたるから、引用発明の「鬱病治療のための装置」は、本願発明の「患者を治療するための装置」に相当する。

(2)引用発明の「コア」は強磁性体から作られているから本願発明の「磁気コア」に相当し、当該強磁性体は高い磁気飽和度を有しているのであるから、高い飽和性であると言えるので、引用発明の「高い磁気飽和度の強磁性体から作られたコア」は、本願発明の「高い飽和性の磁性材料を含む磁気コア」に相当する。

(3)鬱病は精神病の一種であり、また、高周波経頭蓋骨磁気刺激(rTMS)は経頭蓋磁気刺激(TMS)の一種であるから、引用発明の「コアは、鬱病治療のために高周波経頭蓋骨磁気刺激(rTMS)を使用するものであ」る点は、本願発明の「磁気コアは、精神病の治療のための経頭蓋磁気刺激(TMS)に関連する使用に適合して」いる点に相当する。

(4)引用発明の「ワイヤ」は、機能、構成上、本願発明の「TMS導電体」に相当する。
以下同様に、「左前頭葉前部」は「患者の脳の部分」に、ワイヤへの「運動野休息閾の110%および10Hz単位の反復したパルスが印加」は、「磁場を周期的にかつ断続的に印加」することに、それぞれ相当する。
そして、引用発明もTMS治療を行うものである以上、各五秒間に10トレインにて伝達され、各トレイン間は30秒の間隔をあけた刺激を投与するにあたって、磁場を集束させるように構成されているものと認められる。
よって、引用発明の「前記コアに巻回されたワイヤであって、前記ワイヤには、運動野休息閾の110%および10Hz単位の反復したパルスが印加され、各五秒間に10トレインにて伝達され、各トレイン間は30秒の間隔をあけた刺激を投与するように構成されている」点は、本願発明の「前記磁気コアの少なくとも或る部分に巻回されたTMS導電体であって、前記TMS導電体が前記患者のTMS治療中にパルス印加された場合に、前記磁気コアは、TMS治療のための磁場を生成し、前記装置は、」「前記患者の脳の部分に前記磁場を周期的にかつ断続的に印加するようになされ、前記磁場が周期的にかつ断続的に印加された場合に、前記TMS導電体と、前記磁気コア」「は、刺激することになる前記患者の脳の前記部分に前記磁場を集束させるように構成されている」点に相当する。

上記(1)?(4)からすると、本願発明と引用発明は、以下の一致点及び相違点を有する。

【一致点】
患者を治療するための装置であって、
高い飽和性の磁性材料を含む磁気コアを含み、前記磁気コアは、精神病の治療のための経頭蓋磁気刺激(TMS)に関連する使用に適合しており、前記磁気コアの少なくとも或る部分に巻回されたTMS導電体であって、前記TMS導電体が前記患者のTMS治療中にパルス印加された場合に、前記磁気コアは、TMS治療のための磁場を生成し、前記装置は、前記患者の脳の部分に前記磁場を周期的にかつ断続的に印加するようになされ、前記磁場が周期的にかつ断続的に印加された場合に、前記TMS導電体と、前記磁気コアは、刺激することになる前記患者の脳の前記部分に前記磁場を集束させるように構成されていることを特徴とする装置。

【相違点】
1.本願発明は、「磁気コアは、分散された間隙を有するコア構造を含み、前記分散された間隙のコア構造は、強磁性粒子が絶縁結合材を介して互いに実質電気的に絶縁されるように理論密度の90%以上に前記絶縁結合材とともに圧縮された前記強磁性粒子を含み、」「前記磁気コアは、前記絶縁結合材により強磁性粒子間に電流が流れるのを阻止して前記磁気コアに流れる電流による渦電流が抑制されるように構成され、」「前記磁気コアにおける渦電流による熱が実質抑制できるよう、」構成されているのに対し、引用発明はコアがそのように構成されていない点

2.本願発明は、「磁気コアは、第1の端部および第2の端部を有する第1の磁気コアセクションと、第1の端部および第2の端部を有する第2の磁気コアセクションであって、当該第1の端部は、第1の角度で前記第1の磁気コアセクションの前記第1の端部に接続される、第2の磁気コアセクションと、第1の端部および第2の端部を有する第3の磁気コアセクションであって、当該第1の端部は、第2の角度で前記第2の磁気コアセクションの前記第2の端部に接続される、第3の磁気コアセクションと、」から構成されているのに対し、引用発明はコアが半円形に構成されている点

第6 判断
1.相違点1について
上記第4の1.(3)の記載からすれば、引用発明は本願発明の従来例(本願明細書の段落【0012】?【0018】参照。)同様、積層によりコアを形成しているものと認められ、積層コアが渦電流を防止できることは技術常識であるから、当業者であれば、引用発明が渦電流の抑制を課題とした発明であることは容易に予測できる。加えて、引用文献1の段落【0027】には「深いエッチングを行うのに失敗すると、その結果コアの断面に相当な渦電流損と加熱が生じる。」の記載があり、この記載からも、引用発明がコアでの渦電流の発生及びそれによる発熱の抑制を課題としているものと認められる。
してみれば、引用発明において、渦電流の発生によるコアの発熱防止という課題を克服するための具体的手段として、上記第4の5.記載の周知技術に係る渦電流を抑制するためのコアを採用して、本願発明の相違点1に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことと認められる。
なお、引用文献2及び3に係る周知技術は、TMS治療用コイルのコアに係るものではないが、コイルコアにおける渦電流の発生はTMS治療用コイル特有の課題ではなく、コイルコア一般の課題であるから、当該周知技術の採用を当業者は容易に想到できることと認められる。

2.相違点2について
本願発明の相違点2に係る第1ないし第3の磁気コアセクションはそれぞれ格別の特徴を備えるものではない。
そして、引用発明のコアは半円形であるが、円周方向の2箇所でセクション分けすれば、それぞれのセクションは所定の角度で接続されたものとなり、本願発明の相違点2に係る構成となる。
よって、本願発明の相違点2に係る構成を実質的な相違点とすることはできない。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものであって、格別のものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-11-06 
結審通知日 2019-11-12 
審決日 2019-11-26 
出願番号 特願2016-100770(P2016-100770)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61N)
P 1 8・ 537- WZ (A61N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石川 薫  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 関谷 一夫
井上 哲男
発明の名称 医療処置のための磁気コア  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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