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審決分類 審判 全部無効 発明者・出願人  A45D
審判 全部無効 2項進歩性  A45D
管理番号 1361368
審判番号 無効2017-800157  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-12-25 
確定日 2020-04-09 
事件の表示 上記当事者間の特許第5230864号発明「美肌ローラ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 本件特許の経緯
本件特許第5230864号(以下、単に「本件特許」という。)についての特許出願は、平成19年12月14日に出願した特願2007-324077号であって、平成25年3月29日に請求項1ないし7に係る発明についての特許が設定登録された。
本件請求項1ないし7に係る発明についての特許に対して、平成28年7月21日付けで無効審判請求人 ベノア・ジャパン株式会社より無効審判(無効2016-800085号、以下、「先の無効審判」という。)の請求がされ、平成29年4月18日付けで「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がされ、この審決は、審決取消訴訟の提起がないまま、平成29年5月29日に確定し、登録がされている。
さらに、本件請求項1ないし7に係る発明についての特許に対して、平成29年12月25日付けで先の無効審判請求人と同じベノア・ジャパン株式会社より無効審判(無効2017-800158号)の請求がされ、平成30年8月8日付けで「本件審判の請求を却下する。」との審決がされ、この審決は、平成30年9月18日に確定し、登録がされている。

第2 本件無効審判の経緯
本件無効審判の経緯は以下のとおりである。

平成29年12月25日 請求人 株式会社ファイブスターによる
本件無効審判請求
(無効2017-800157号)
平成29年12月26日 請求人による上申書提出
平成30年 7月30日 被請求人 株式会社MTGによる
審判事件答弁書
(以下単に「答弁書」という。)提出
平成30年 8月 8日付け 審理事項通知書
平成30年 8月27日 第1回口頭審理
平成30年10月15日 請求人による弁駁書提出
平成30年11月 5日付け 審理事項通知書
平成30年12月20日 被請求人による口頭審理陳述要領書提出
平成30年12月26日付け 審理事項通知書(2)
平成31年 1月10日 第2回口頭審理

なお、本審決において、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まない。また、特許法の条文を使用する際に「特許法」という表記を省略することがある。

第3 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、願書に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。(以下「本件特許発明1」などということがある。また、これらをまとめて単に「本件特許発明」ということがある。)
「【請求項1】
柄と、
前記柄の一端に導体によって形成された一対のローラと、
生成された電力が前記ローラに通電される太陽電池と、を備え、
前記ローラの回転軸が、前記柄の長軸方向の中心線とそれぞれ鋭角に設けられ、
前記一対のローラの回転軸のなす角が鈍角に設けられた、
美肌ローラ。
【請求項2】
導体によって形成された一対のローラと、
前記一対のローラを支持する把持部と、
生成された電力が前記ローラに通電される太陽電池と、を備え、
前記ローラの回転軸が、前記把持部の中心線とそれぞれ鋭角に設けられ、
前記一対のローラの回転軸のなす角が鈍角に設けられた、
美肌ローラ。
【請求項3】
前記ローラが金属によって形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の美肌ローラ。
【請求項4】
前記ローラが金属の酸化物によって形成されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の美肌ローラ。
【請求項5】
前記金属が、
プラチナ、チタン、ゲルマニウム、ステンレス
から1種類以上選ばれることを特徴とする、請求項3又は請求項4に記載の美肌ローラ。
【請求項6】
前記ローラが光触媒を含むことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の美肌ローラ。
【請求項7】
前記光触媒が酸化チタンであることを特徴とする、請求項6に記載の美肌ローラ。」

第4 請求人の主張
1 請求の趣旨
請求人の主張する請求の趣旨は、本件特許発明についての特許を無効とする、との審決を求めるものである。

2 証拠方法
請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開2005-66304号公報の写し
(以下、写しである旨の表記は省略する。)
甲第2号証:特開2002-65867号公報
甲第3号証:特開昭60-2207号公報
甲第4号証:特開昭61-73649号公報
甲第5号証:特開平4-231957号公報
甲第6号証:特開2004-321814号公報
甲第7号証の1:韓国意匠登録第30-0399693号公報
甲第7号証の2:韓国意匠登録第30-0399693号公報の翻訳文
甲第8号証の1:台湾実用新案公報M258730号公報
甲第8号証の2:台湾実用新案公報M258730号公報の翻訳文
甲第9号証:登録実用新案第3109896号公報
甲第10号証の1:韓国デザイン審査基準
甲第10号証の2:韓国デザイン審査基準の翻訳文
甲第11号証:ベノア・ジャパン株式会社の登記情報
甲第12号証:株式会社ファイブスターの登記情報
甲第13号証:訴訟告知書
甲第14号証:補助参加申出書
なお、以下において、甲第○号証を単に甲○ということがある。

(1)証拠方法の提出時期
以上の証拠方法のうち、甲第1号証ないし甲第10号証の2は、審判請求書(以下単に「請求書」ということがある。)に添付されたものであり、甲第11号証ないし甲第14号証は、平成30年10月15日提出の弁駁書に添付されたものである。

(2)文書の成立の真正
上記甲第1号証ないし甲第14号証の文書の成立について、当事者間に争いはない(第1回口頭審理調書の「被請求人」欄2、第2回口頭審理調書の「被請求人」欄2)。

(3)その他
なお、甲第1号証ないし甲第10号証の2は、先の無効審判における甲第1号証ないし甲第10号証の2と同一である。

3 請求の理由の要点
請求の理由は、請求人の主張の全趣旨を踏まえ、その要点は以下のとおりである。

(1)本件特許発明1ないし5は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された周知技術、及び甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証の1、又は甲第8号証の1のいずれかに記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)本件特許発明6及び7は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された周知技術、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証の1、又は甲第8号証の1のいずれかに記載された発明、及び甲第9号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

4 主張の概要
請求人の主張は、先の無効審判における主張と同様の主張の他、概要は以下のとおりである。

(1)進歩性(第29条第2項)違反の無効理由について
本件特許に関し、被請求人は、ベノア・ジャパン株式会社に対して、本件特許権に基づく特許権侵害訴訟(大阪地方裁判所平成28年(ワ)第4167号、以下「本件侵害訴訟」という。)を提起したが、本件無効審判と同一の証拠を用いたベノア・ジャパン株式会社による無効の抗弁が認められ、特許権が否定されている。
よって、同判決と同様、本件特許発明には、進歩性欠如の無効理由があり、本件審判請求には理由がある。(請求人の平成29年12月26日上申書)

(2)一事不再理(特許法第167条)について
ア 確定した先の審決における審判請求人は、ベノア・ジャパン株式会社である。よって、前件審決における当事者は、ベノア・ジャパン株式会社である。そして、ベノア・ジャパン株式会社と本件審判請求人であるところの株式会社ファイブスターとは、甲第11号証及び甲第12号証に示すように別法人である。ゆえに、株式会社ファイブスターは、先の審決における当事者ではない。(弁駁書第2ページ中段付近)

イ 被請求人は、ベノア・ジャパン株式会社と株式会社ファイブスターとが、物的・人的資源を混在していると主張しているが、その主張に関する証拠は何ら提示されていない。(弁駁書第2ページ下段付近?第3ページ上段付近)

ウ 本件侵害訴訟の控訴審(平成29年(ネ)第10086号)において、被請求人は、請求人に対して訴訟告知を行ない(甲第13号証)、それに対して、請求人は補助参加している(甲第14号証)。このように、本件特許民事訴訟の控訴審における知的財産高等裁判所での審理において、請求人とベノア・ジャパン株式会社とは、別法人として扱われている。(弁駁書第3ページ中段付近)

第5 被請求人の主張
1 要点及び証拠方法
これに対し被請求人は、主位的には、本件審判は、特許法第167条の規定により審判請求することができないものであるとして、本件審判の請求を却下するとの審決を求め、予備的に、本件各発明についての特許は、請求人が提示した証拠に基づいて無効にすることはできないとして、本件審判請求は成り立たないとの審決を求め、証拠方法として以下の乙第1号証?乙第6号証を提出している。

乙第1号証 本件特許の登録原簿の写し
(以下、写しである旨の表記は省略する)
乙第2号証 先の無効審判(無効2016-800085号事件)
の審判請求書
乙第3号証 無効2016-800085号の審決
乙第4号証 本件侵害訴訟の控訴審(知的財産高等裁判所
平成29年(ネ)第10086号)の
被控訴人(ベノア・ジャパン株式会社)準備書面(5)
乙第5号証 本件侵害訴訟の控訴審の被控訴人準備書面(7)
乙第6号証 本件侵害訴訟の控訴審の被控訴人の乙第54号証
(被控訴人代表者の陳述書)
なお、上記文書の成立について、当事者間に争いはない(第1回口頭審理調書の「請求人」欄2)。

2 主張の概要
被請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

(1)主位的答弁について
ア 確定特許無効審判の存在
本件特許については、先の無効審判が存在するところ、先の無効審判は、
平成29年4月18日に請求不成立審決がなされ、審決取消訴訟の提起がないまま、先の審決が確定した。(答弁書第3ページ上段付近)

イ 本件無効審判及び先の無効審判の「当事者」
(ア)先の無効審判の審判請求人は「ベノア・ジャパン株式会社」である。一方、本件無効審判の審判請求人は「株式会社ファイブスター」であり、形式的には本件審判の請求人は先の無効審判の請求人(当事者)ではない。しかし、先の無効審判の請求人と本件無効審判の請求人は実態が同一であり、本件無効審判の請求人は先の無効審判の請求人との関係で、特許法第167条にいう「当事者」に該当する。(答弁書第3ページ中段付近)

(イ)ベノア・ジャパン株式会社は、ベノア・ジャパン株式会社を被控訴人とする本件侵害訴訟の控訴審において、自ら、「被控訴人は、平成22年3月19日に設立されたが、同日ないし同年9月30日の事業年度分の税務申告を一度行った(乙第53号証)以降、一切税務申告を行っていない。」、「被控訴人は、訴外ファイブスターの化粧品部門を譲受けて、化粧品のみを扱う会社として設立されたが、当時、訴外ファイブスターが化粧品を納品していた取引先で、被控訴人との取引に移行することに協力したのは訴外株式会社八木兵(以下、「訴外八木兵」という。)だけに留まり、・・・平成23年9月30日までに廃業した(乙第54号証)。」、「ところで、被控訴人は、本件訴訟が提起された時点で実態のない存在であったところ、本件訴訟の対応は、平成28年3月18日に訴外ファイブスターの代表取締役に就任した浅野剛、及び訴外ファイブスターの経理担当社等が、保存されていた資料等を確認する方法により行っていた。」と主張しており、これらを前提とすれば、ベノア・ジャパン株式会社は、平成22年に設立されたが平成23年9月30日までには廃業しており、それ以降は形骸化した存在である。(答弁書第3ページ下段付近?第5ページ下段付近。(注)なお、この(イ)で摘示する乙号証は、本件侵害訴訟の控訴審における乙号証である。)

(ウ)このように、先の無効審判の審判請求人である、ベノア・ジャパン株式会社と本件無効審判の審判請求人である株式会社ファイブスターとは形式的には独立(別人格)であるものの、ベノア・ジャパン株式会社は先の無効審判請求時である平成28年7月21日よりもはるか以前の平成23年の時点で既に廃業し、形骸化していることからも、ベノア・ジャパン株式会社について株式会社ファイブスターとは別個に法人格の形式的独立性を認めることは妥当ではなく、ベノア・ジャパン株式会社と株式会社ファイブスターはそれぞれ別人格ではなく、同一視することができる。
したがって、前件請求人の「ベノア」と本件請求人の「ファイブスター」とは、実質的に同一であり、本件請求人である株式会社ファイブスターは先の無効審判の当事者である。(答弁書第6ページ中段付近)

(エ)先の無効審判では、本件特許の全請求項である本件請求項1ないし7に係る発明が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であると主張されたのに対して、本件無効審判も、本件請求項1ないし7に係る発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるという点で、先の無効審判と同じ無効理由である。(答弁書第9ページ中段付近)

(オ)先の無効審判と本件無効審判とは、同一の「主引用例」(特開2005-66304号公報)に記載の発明に基づいて本件特許発明の容易想到性を主張するものであり、かつ相違点においても、先の無効審判で使用した証拠と同一の証拠を用いている。
したがって、本件審判は、前件審判と「同一の事実及び同一の証拠」に基づく審判請求である。(答弁書第20ページ中段付近)。

(2)予備的答弁について
特許法第167条(一事不再理)を措くとしても、本件各請求項に係る発明についての特許は、請求人が提示した証拠に基づき無効にすることはできない。すなわち、上記(1)にて説明したとおり、本件審判において主張されている無効理由は、先の無効審判と同一の証拠及び同一の理由に基づくものであり、本件特許発明1と主引例発明との一致点、相違点及び相違点に対する副引例技術も同じである。
そして、先の無効審判ではその審決に示すとおり、本件各請求項に係る発明についての特許は、請求人が提示した証拠に基づき無効とされるものではない旨と判断された。本件無効審判は、その内容において先の無効審判と同一の証拠及び同一の理由に基づくものであるから、前件審決においてされた理由と同様の理由により、本件各請求項に係る発明についての特許は無効にすることはできない。(答弁書第22ページ中段付近?第23ページ上段付近)

第6 一事不再理についての当審の判断
被請求人の主位的答弁である一事不再理(特許法第167条)について以下検討する。

1 請求人とベノア・ジャパン株式会社の法人格の独立性について
(1)本件審判において提出された証拠及び当事者の主張の全趣旨からすれば、以下の事実が認められる。

ア ベノア・ジャパン株式会社は、平成22年3月19日に、化粧品販売等を目的として設立された会社で、役員は、代表取締役を務める浅野照雄1人である(甲第11号証)。同社の本店所在地は大阪市中央区北久宝寺町三丁目6番12号であるところ、実際の事務所は、同所在地にある和田ビル2階である(乙第2号証)。

イ 本件無効審判請求人である株式会社ファイブスターは、平成19年8月3日に、美容健康機器販売等を目的として設立された会社で、役員は、浅野順子、浅野剛、浅野力、浅野みず穂及び矢野次子の5人であり、このうち浅野剛が代表取締役を務めている(甲第12号証)。同社の本店所在地は大阪市中央区北久宝寺町三丁目6番12号にあるところ、実際の事務所は、同所在地にある和田ビル3階である(請求書)。

ウ ベノア・ジャパン株式会社は、平成30年6月27日、被請求人と請求人との間で係属している本件侵害訴訟の控訴審(知的財産高等裁判所 平成29年(ネ)第10086号 損害賠償請求控訴事件)において、請求人を補助するため訴訟参加申出を行い、補助参加が認められた(甲第14号証)。

(2)以上の事実関係のもとからすれば、請求人とベノア・ジャパン株式会社は、代表取締役や役員構成が異なるから、少なくとも法人としての意思決定の区別がないとはいえない。請求人とベノア・ジャパン株式会社は、本店所在地が同一であるものの、実際の事務所は、同じビルの2階と3階で異なっていることや、本件侵害訴訟の控訴審において別個の法人として行動していること等も考慮すれば、請求人とベノア・ジャパン株式会社とが全く同一の法人格とまでは認められない。
したがって、本件無効審判において、ベノア・ジャパン株式会社と請求人とを特許法167条における同一の「当事者」と解して一事不再理効を及ぼすことはできない。

2 被請求人の主張について
(1)被請求人は、ベノア・ジャパン株式会社が、ベノア・ジャパン株式会社を被控訴人とする本件侵害訴訟の控訴審において、税務申告、本件侵害訴訟の訴訟対応者、事業活動の有無等に関する事実につき、請求人とベノア・ジャパン株式会社とは実質的に同一の会社であることを認めていた旨を主張する。

(2)しかしながら、被請求人の主張を裏付けるに足りる証拠は提出されていない。本件の事実関係からすれば、請求人とベノア・ジャパン株式会社とが全く同一の法人格ではなく、別個の法人格であると解するのが合理的であると認められるのは、前記のとおりである。
さらに、被請求人の主張は、要は、一事不再理効についてもいわゆる法人格否認の法理が適用されるべきであるとの主張と解されるところ、仮に、請求人とベノア・ジャパン株式会社が実質的に同一の会社であるとしても、権利関係の公権的な確定を行い、手続の明確、安定を重んじる特許無効審判手続においては、その手続の性格上、同法理に基づき特許法167条における一事不再理効の範囲を拡張することは許されないものというべきである(最判昭和53年9月14日判時906号88参照) 。
そうすると、仮に、請求人とベノア・ジャパン株式会社が実質的に同一の会社であるとしても、本件無効審判において、ベノア・ジャパン株式会社と請求人とを特許法167条における同一の「当事者」と解して一事不再理効を及ぼすことはできない。

3 小括
以上の次第で、被請求人の一事不再理効に関する主張については理由がないから認められない。

第7 無効理由についての当審の判断
1 本件特許発明について
(1)本件特許請求の範囲及び明細書の記載事項
本件の特許請求の範囲及び明細書には、以下の記載がある。

ア「【特許請求の範囲】
【請求項1】
柄と、
前記柄の一端に導体によって形成された一対のローラと、
生成された電力が前記ローラに通電される太陽電池と、を備え、
前記ローラの回転軸が、前記柄の長軸方向の中心線とそれぞれ鋭角に設けられ、
前記一対のローラの回転軸のなす角が鈍角に設けられた、
美肌ローラ。
【請求項2】
導体によって形成された一対のローラと、
前記一対のローラを支持する把持部と、
生成された電力が前記ローラに通電される太陽電池と、を備え、
前記ローラの回転軸が、前記把持部の中心線とそれぞれ鋭角に設けられ、
前記一対のローラの回転軸のなす角が鈍角に設けられた、
美肌ローラ。
【請求項3】
前記ローラが金属によって形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の美肌ローラ。
【請求項4】
前記ローラが金属の酸化物によって形成されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の美肌ローラ。
【請求項5】
前記金属が、
プラチナ、チタン、ゲルマニウム、ステンレス
から1種類以上選ばれることを特徴とする、請求項3又は請求項4に記載の美肌ローラ。
【請求項6】
前記ローラが光触媒を含むことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の美肌ローラ。
【請求項7】
前記光触媒が酸化チタンであることを特徴とする、請求項6に記載の美肌ローラ。」

イ「【技術分野】
【0001】
本発明は、肌に押し付けてころがすことにより毛穴の中の汚れを押し出す美肌ローラに関する。」

ウ「【背景技術】
【0002】
・・・洗顔料や洗浄剤だけでは、毛穴の奥にたまった汚れまでは取り出すことはできないという問題点があった。・・・
【0004】
・・・効率よく毛穴の汚れを取り除けないという問題点があった。」

エ「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、効率よく毛穴の汚れを除去できる美肌ローラを提供することを目的とする。」

オ「【発明の効果】
【0008】
本発明の美肌ローラによれば、毛穴の汚れを効率的に除去できるという効果がある。」

カ「【0015】
・・・本実施形態の美肌ローラを肌に押し付け、図3に示す矢印Aの方向に押す。このとき肌は両脇に引っ張られ、毛穴が開く。これにより、毛穴の奥の汚れが毛穴の開口部に向けて移動する。
【0016】
さらに、本実施形態の美肌ローラを肌に押し付けたまま矢印Bの方向に引く。このとき、肌は一対のローラの間に挟み込まれ、毛穴は収縮する。これにより、毛穴の中の汚れが押し出される。
【0017】
この押し引きを繰り返すことにより、毛穴の奥の汚れまで効率的に除去することが可能となる。
【0018】
また、太陽電池30により生成した電流をローラ20に通電することにより、ローラ20が帯電し、毛穴の汚れを引き出し、さらに美肌効果をもたらす。・・・」

(2)本件特許発明について
ア 上記(1)のイ?エの記載によれば、本件特許発明は、「毛穴の奥にたまった汚れまでは取り出すことはできないという問題点を解決すべく、効率よく毛穴の汚れを除去できる美肌ローラの提供」を課題としており、上記(1)のカの記載を参酌すれば、本件特許発明の「美肌ローラ」は、「肌に押し付け」一方向に「押す」と「肌は両脇に引っ張られ、毛穴が開」き、「毛穴の奥の汚れが毛穴の開口部に向けて移動」し、他方向に「引く」と「肌は一対のローラの間に挟み込まれ、毛穴は収縮」し、「毛穴の中の汚れが押し出される」ものであり、さらに「太陽電池30により生成した電流をローラ20に通電することにより、ローラ20が帯電し、毛穴の汚れを引き出し、さらに美肌効果をもたらす」ものといえる。つまり、本件特許発明は、押し引きを繰り返すことで、毛穴の奥の汚れまで効率的に除去することが可能な「一対のローラ」という構成と、ローラを帯電させる「太陽電池」という構成が相俟って、「毛穴の汚れを効率的に除去する」という相乗効果を奏するものであると認められる。

2 刊行物の記載事項及び本件各特許発明との対比・判断
(1)刊行物の記載事項
(1-1)甲第1号証
甲第1号証には、「マッサージ器」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線部は当審にて付与した。

ア 「【技術分野】【0001】本発明は、皮膚の活性化を図るマッサージ器に関する。
【0002】女性にとって皮膚を美しくし、その美しい皮膚を長く保つことは古来からの願望であり、そのために多くの化粧品やマッサージ器等が発明されている。・・・」

イ 「【0014】かかるマッサージ器であると、直流電源の一方の端子(陽極)をローラに接続し、直流電源の他方の端子(陰極)を把持部の外周面に接続した場合には、皮膚の老廃物を浮きださせる効果があり、直流電源の端子の接続を切り替え、直流電源の他方の端子(陰極)ローラにを接続し、直流電源の一方の端子(陽極)を把持部に接続した場合には、皮膚にゲルマニウムを浸透させて皮膚の血流を良くするという効果がある。
【0015】また、前記ローラ支持部は二股になっており、2つのローラが離れて支持されていると、皮膚に与える機械的な刺激が大きくなるというメリットがある。」

ウ 「【0022】以下、本発明の実施の形態に係るマッサージ器について説明する。
【実施例1】【0023】まず、本発明の第1の実施の形態に係るマッサージ器について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係るマッサージ器の概略的断面図・・・である。
【0024】図1に示すマッサージ器は、外周面に金薄膜120が、さらにその上にゲルマニウム薄膜130がそれぞれ被着された略円柱状の永久磁石110であるローラ100と、先端部にローラ100が回転自在に取り付けられると共に当該ローラ100と電気的に接続された導電性を有するローラ支持部200と、このローラ支持部200の基端部を保持する一方、当該ローラ支持部200と電気的に絶縁された把持部300と、この把持部300の内部に収納される直流電源400とを備えている。以下、各部を詳しく説明する。
【0025】前記ローラ100は、図2に示すように、中央に貫通孔111が開設された永久磁石110と、この永久磁石110の外面に被着された金薄膜120と、この金薄膜120の上で、かつ永久磁石110の外周面に相当する部分に被着されたゲルマニウム薄膜130とを有している。前記永久磁石には、例えばフェライト磁石が使用される。
【0026】また、前記ローラ支持部200は、略T字形状に形成されており、その横軸部210(即ち、先端部)の2つの先端にそれぞれ前記ローラ100を回転可能に支持するようになっている。また、このローラ支持部200の縦軸部220(即ち、基端部)の下端は後述する直流電源400としての乾電池の一方の端子410(ここでは、陽極)又は他方の端子420(ここでは、陰極)の何れか一方の端子が接触するようになっている。なお、このローラ支持部200は、導電性を有する金属から構成されている。
【0027】さらに、前記把持部300は、このマッサージ器を使用する際に手で把持する部分であって、内部に直流電源400である乾電池を収納可能なように円筒形状になった把持部本体310と、この把持部本体310の下端縁部に取り付けられる蓋体320とを有している。・・・
【0029】かかる把持部300を構成する把持部本体310と蓋体320とは、導電性を有する金属から構成されている。・・・
【0031】把持部300とローラ支持部200とは、前記キャップ330を介して構造的に連結してはいるが、キャップ330が絶縁性を有する素材から構成されているために、電気的には絶縁されていることになる。」

エ 「【0032】次に、このように構成されたマッサージ器の使用方法について説明する。まず、皮膚から老廃物を浮きださせる場合の使用方法について説明する。この場合には、図1に示すように、ローラ100を直流電源400の一方の端子410に接続し、把持部300を直流電源400の他方の端子420に接続する。すなわち、直流電源400である乾電池の一方の端子410をローラ支持部200の縦軸部220の下端に接触させ、直流電源400である乾電池の他方の端子420を蓋体320の突起322に接触させるのである。この状態で、把持部300を把持し、ローラ100を皮膚に接触させると、ローラ100が接触している皮膚に含まれている老廃物、例えば油分等が皮膚から浮き上がる。
【0033】すなわち、直流電源400からの数μA程度の微弱な電流が、直流電源400→ローラ支持部200→ローラ100→人間の身体→把持部本体310→蓋体320→直流電源400のように流れる。この場合、ローラ100は正に帯電し、把持部300は負に帯電しているので、皮膚は正に帯電する。このため、皮膚に含まれる負に帯電した油分が皮膚から浮き上がるのである。
【0034】また、ゲルマニウムを肌に浸透させ、血流を良くする場合には、図3に示すように、乾電池である直流電源400を入れ換え、ローラ100を直流電源400の他方の端子420に接続し、把持部300を直流電源400の一方の端子410に接続する。すなわち、直流電源400である乾電池の他方の端子420をローラ支持部200の縦軸部220の下端に接触させ、直流電源400である乾電池の一方の端子410を蓋体320の突起322に接触させるのである。この状態で、把持部300を把持し、ローラ100を皮膚に接触させると、ローラ100が接触している皮膚にゲルマニウムが浸透し、皮膚の血流が良くなる。
【0035】すなわち、直流電源400からの数μA程度の微弱な電流が、直流電源400→蓋体320→把持部本体310→人間の身体→ローラ100→ローラ支持部200→直流電源400のように流れる。この場合、ローラ100は負に帯電し、把持部300は正に帯電しているので、皮膚は負に帯電する。このため、ローラ100のゲルマニウム薄膜130中のゲルマニウム原子GeがゲルマニウムイオンGe^(4+)となってローラ100から皮膚へ浸透するのである。
【0036】なお、ローラ100は2つあるので、ローラが1つのタイプのものより皮膚に与える機械的刺激が多くなるというメリットがある。
【0037】このようなマッサージ器は、把手部300直流電源400の一方の端子410を把持部300の外周面に、他方の端子420をローラ支持部200に、又は他方の端子420を把持部300の外周面に、一方の端子410をローラ支持部200に電気的に接続するように切り替えるための切替スイッチを設け、直流電源400の端子の切り替えを簡単にすることができる。」


オ 図1から「把持部300の上端縁部に設けたキャップ330を介して、T字形状のローラ支持部200の縦軸部220が把持部300にその長軸方向の中心線に合致するように接続されていること。」が看取できる。

カ また、図1から「一対のローラ100,100がT字形状のローラ支持部200の横軸部210の2つの先端に設けられていること。また、一対のローラ100,100は、ローラ支持部200の縦軸部220の縦軸方向の中心線と平行に、且つ等距離に配されていること。」が看取できる。

キ さらに、図1から「把持部300の内部に乾電池400を備え、乾電池の陽極410がローラ支持部200と接触し、乾電池の陰極が把持部の下端縁部に取り付けられた蓋体320の突起322と接触していること。」が看取できる。

ク 上記摘記事項アの「マッサージ器」は、上記摘記事項ウの「図1に示すマッサージ器は、外周面に金薄膜120が、さらにその上にゲルマニウム薄膜130がそれぞれ被着された略円柱状の永久磁石110であるローラ100と、先端部にローラ100が回転自在に取り付けられると共に当該ローラ100と電気的に接続された導電性を有するローラ支持部200と、このローラ支持部200の基端部を保持する一方、当該ローラ支持部200と電気的に絶縁された把持部300と、この把持部300の内部に収納される直流電源400とを備えている。」との記載、及び上記図1の看取事項オ?キの内容に照らせば、「把持部300」、「一対のローラ100,100」、「乾電池400」を備え、当該「一対のローラ100,100」は、「把持部300」の一端に設けられたローラ支持部200の「横軸部210」に回転自在に取り付けられているものと認められる。

ケ また、上記「一対のローラ100,100」は、上記摘記事項ウの「前記ローラ100は、・・・中央に貫通孔111が開設された永久磁石110と、この永久磁石110の外面に被着された金薄膜120と、この金薄膜120の上で、かつ永久磁石110の外周面に相当する部分に被着されたゲルマニウム薄膜130とを有している。」との記載を考慮すれば、導体によって形成されたものと認められ、上記認定事項クに基づき、「把持部300の一端に導体によって形成された一対のローラ100,100」であると認められる。

コ 上記摘記事項エの「直流電源400からの数μA程度の微弱な電流が、直流電源400→ローラ支持部200→ローラ100・・・のように流れる。」との記載、及び上記認定事項クに基づき、上記「乾電池400」が電力を生成し、その電力が上記「一対のローラ100,100」に通電されているものと認められる。

サ 上記摘記事項ウの「前記ローラ支持部200は、略T字形状に形成されており、その横軸部210(即ち、先端部)の2つの先端にそれぞれ前記ローラ100を回転可能に支持するようになっている。」との記載、及び上記図1の看取事項オ?キの内容に照らし、「ローラ100,100の回転軸である横軸部210が、把持部300の中心線とそれぞれ直角に設けられ、一対のローラ100,100の回転軸である横軸部210のなす角が180度である」と認められる。

以上から、甲第1号証には、次の発明が記載されている(以下、「甲1-1発明」という。)。
「把持部300と、
把持部300の一端に導体によって形成された一対のローラ100,100と、
生成された電力がローラ100,100に通電される乾電池400と、を備え、
ローラ100,100の回転軸である横軸部210が、把持部300の中心線とそれぞれ直角に設けられ、
一対のローラ100,100の回転軸である横軸部210のなす角が180度である、
マッサージ器。」

また、把持部300の一端に一対のローラ100,100が形成されているので、把持部300は一対のローラ100,100を支持しているといえる。そうすると、甲第1号証には、次の発明が記載されている(以下、「甲1-2発明」という。)。
「導体によって形成された一対のローラ100,100と、
一対のローラ100,100を支持する把持部300と、
生成された電力がローラ100,100に通電される乾電池400と、を備え、
ローラ100,100の回転軸である横軸部210が、把持部300の中心線とそれぞれ直角に設けられ、
一対のローラ100,100の回転軸である横軸部210のなす角が180度である、
マッサージ器。」

(1-2)甲第2号証
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
「【0018】本発明では生体に印加する電気エネルギー源として、特に交流を必要としないために、一般的な一次、二次、太陽電池などが使用できるものである。・・・
【0030】電池4としては、好ましくはボタン状のものを用いる。この形状の電池4は小型化、薄型化を図るのに適している。電池4としては、一次電池、二次電池または太陽電池等を用いることができる。・・・
【0038】本発明では生体に印加する電気エネルギー源として、一次電池、二次電池、太陽電池の電池4を使用するから、構造がシンブルで、形態が極めてコンパクトになり、常時身につけても特に負担とならず、邪魔にならない健康器具が得られる。・・・
【0063】本発明の具体的な用法としては、その他の物品と組み合わせて使用することを制限するものではない。その一例を記載すると、・・・マッサージ器・・・」(以下「甲2事項」という。)

(1-3)甲第3号証
甲第3号証には、以下の事項が記載されている(1頁右欄6行?8行を参照)。
「・・・歯ブラシの柄の部分に乾電池や太陽電池等を内蔵し、その各々の極から電気を導電性の導体で引き出して・・・」(以下「甲3事項」という。)

(1-4)甲第4号証
甲第4号証には、以下の事項が記載されている(1頁左欄4行?17行を参照)。
「2.特許請求の範囲
把握柄部の外周面に正電極を周設し、該把握柄部に連接する刷毛柄部の刷毛植設部に負電極を配設して、正電極と負電極の接続導線を把握柄部及び刷毛柄部に埋設した電子歯刷子において、刷毛柄部(2)の基部周面囲繞状に、1又は2以上の太陽電池(7)を受光面を外向させて配設すると共に、把握柄部(1)に化学電池(8)を内装して、該太陽電池(7)による起電力の減少時に補助電源たる化学電池(8)に切り換えるスイッチング回路(9)を、把握柄部(1)周設の正電極(4)と刷毛植設部(2a)配設の負電極(5)とを結線する接続導線(6)中に介在せしめたことを特徴とする、電子歯刷子。」(以下「甲4事項」という。)

(1-5)甲第5号証
甲第5号証には以下の事項が記載されている(段落【0003】、【0005】、【0008】、【0028】、【0031】、【0043】?【0050】、図3?図6を参照)。
「マッサージ装置は、皮膚の向上した弾力性とマッサージ処理後皮膚表面に存在する水分及び脂肪分の著しい減少とが得られるように、各ローラの軸線の方向間の斜角βを60°ないし170°、特に115°ないし125°とし、前記各ローラを、ショアA硬さ25ないし90のたわみ性材料、特にエラストマー又は熱可塑性エラストマーで作り、前記各ローラに、隆起した部分を設け、この隆起した部分に、皮膚に当てるのに適する接触端部を設け、これ等の接触端部を、前記ローラの軸線方向に又その周辺方向に互いに間隔を置いて配置し、ひだよせ/横揺れの作用のほかに皮膚に振動性の作用を及ぼし又は他方向では皮膚に弛緩作用を加えるものであることを特徴とする。具体的には、マッサージ装置を、皮膚が各ローラの大きい開口により定まる区域から各ローラの小さい開口により定まる出口区域に向かう方向に動かすと、各ローラは皮膚を押圧しわずかに皮膚内に入込み、皮膚上をこすりながら転動し滑動し、皮膚のひだよせ作用を生じ、一方、当該マッサージ装置を他方向に動かすときは、皮膚は同様なマッサージ作用を受けず、そのように装置の移動に伴う各ローラの転動作用により、皮膚は伸張し又は弛緩し、横揺れを生じ、皮膚から徐々に水分を放出するものである。」(以下「甲5事項」という。)

(1-6)甲第6号証
甲第6号証には以下の事項が記載されている(段落【0004】?【0006】、【0008】、【0012】、【0013】、【0017】、【0019】、【0020】、図1?4を参照)。
「ユニットであって、皮膚のマッサージと製品塗布、両方の働きをするように、製品を保持可能な、縦方向の軸Xを持つボトル(10)を備え、当該ボトルは、キャップ(20)によって開閉可能な製品分配孔(17)を第一端に備え、硬度が15ショアAないし90ショアDの柔軟な材料、特にエラストマー又は熱可塑性エラストマーから作られる少なくとも2つのローラ(41,42)を、自由に回転できるように当該第一端の反対側の第二端に備え、当該ローラ(41,42)は、回転軸(A1,A2)の周りを回転可能であり、2つの回転軸(A1,A2)の方向が、第一断面P1上で80度から140度、好ましくは100度から120度の角度αをなすよう配置され、当該ユニットを、皮膚がローラ間の大きい開きOSによって画定される領域からローラ間の小さい開きOEによって画定される領域に向かう方向に動かすと、この摩擦しながら摺動する動作によって皮膚は押し曲げられ、一方、当該ユニットを、他方向に動かすと、皮膚はわずかな伸縮又は弛緩しか受けないので同様のマッサージ動作を受けず、皮膚をマッサージした後、当該ユニットをひっくり返して当該キャップを開け、当該ボトルに収容されている製品をマッサージされたばかりの身体部分に塗布することを特徴とする。」(以下「甲6事項」という。)

(1-7)甲第7号証の1
甲第7号証の1には図面とともに以下の事項が記載されている(なお、甲第7号証の2として提出された翻訳文を参照した。)。
「意匠の対象となる物品」欄に「マッサージ器」と記載され、「意匠の説明」欄に「1.材質は合成樹脂材である。」と記載され、「意匠の創作内容の要点」欄に「本願マッサージ器は、人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐすマッサージ器であって、安定感と立体感を強調し、新しい美感を生じさせるようにしたことを創作内容の要点とする。」と記載されている。また、正面図及び背面図の記載から、「柄からY字状に伸びる2つの腕の先端に一対の球状物が配される」ことが窺える。(以下「甲7事項」という。)

(1-8)甲第8号証の1
甲第8号証の1には図面とともに以下の事項が記載されている(なお、甲第8号証の2として提出された翻訳文を参照した。)。
「請求項7」に「当該マッサージ球は、軽量化及びグリップ軸ロッドの操作コントロール性を高めるために、弾性材質を有するマッサージ球体が中空状を呈するとともに、表端面に複数の径方向軸板を有し、かつ、軸板間に複数の粒状凸起を設けることにより、転動マッサージ回数を増加させるとともに、軸ロッドがY字状を呈するように設置し、かつ、各球体が内向き偏心揺動角度を呈するようにして、2つのマッサージ球体をそれぞれ内向きの挟持角度を呈するようにグリップ軸ロッド上に設けることにより、マッサージ箇所における偏角挟持効果を増進させる、請求項1または4に記載のマッサージ球及びマッサージ器の新規構造。」と記載されている。(以下「甲8事項」という。)

(1-9)甲第9号証
甲第9号証には、以下の事項が記載されている。
「【0008】・・・ローラ本体の表面を被覆しているチタニア被膜による光触媒作用によって顔面やその他の皮膚面の有機物による汚れや細菌が分解除去され、皮膚の老化が抑制されて皮膚の活性化ひいては皺の発生や弛みが抑制されて皮膚の引締め作用が発揮される。・・・
【0009】・・・ローラ本体の表面のチタニア被膜の光触媒作用によって顔面やその他の皮膚面の有機物による汚れや細菌が分解除去されて皮膚の老化が抑制され、併せて皺や弛みを引き締めて活き活きとした美しい皮膚を保つことが可能になるという効果が奏される。・・・
【0012】・・・そのチタン粉体が大気中の酸素と反応して酸化されることによってチタン製主部の表面にチタニア被膜を生成するという性質を利用することによって作られている。・・・したがって、このローラ本体3に備わっているチタニア被膜は、その表面から内側に入るに従って酸素がわずかに欠乏気味となる酸素欠乏傾斜構造といわれる構造を呈し、この酸素欠乏傾斜構造が光触媒反応において紫外線に対してのみでなく、可視光線、赤外線、電波、X線などのあらゆる電磁波に応答して光触媒反応を起こす要因になると推定されている。
【0013】
そして、冒頭に掲げた先行例にも記載されているところから明らかなように、ローラ本体3の表面のチタニア被膜は脱臭、抗菌、防汚といった分解機能を有する光触媒として作用し、そのような光触媒作用がチタニア被膜に太陽光や蛍光灯などの光が照射されることによって発揮される。・・・
【0014】
したがって、図1に示した実施形態の美容ローラの把手1を手で掴んでそのローラ本体3を顔面や皮膚面上のその他の箇所で軽く転動させると、チタニア被膜による光触媒作用によって皮膚表面の微量の有機物でなる汚れや細菌が分解されて水(水蒸気)と二酸化炭素とに分解または還元されて無害化する。また、チタニア被膜による光触媒作用によって、シミや老化の原因になる活性酸素の働きを抑える抗酸化機能が発揮される。・・・」(以下「甲9事項」という。)

(2)本件特許発明1について
(2-1)対比
本件特許発明1と甲1-1発明とを対比すると、その構造または機能からみて、甲1-1発明の「把持部300」は、本件特許発明1の「柄」に相当し、同様に「把持部300の一端に導体によって形成された一対のローラ100,100」は「柄の一端に導体によって形成された一対のローラ」に相当する。
また、本件特許発明1の「太陽電池」と甲1-1発明の「乾電池400」とは、「電池」という点でのみ共通し、同様に前者の「美肌ローラ」と後者の「マッサージ器」とは、その機能からみて「ローラ器具」であるという点でのみ共通する。
そうすると、両者は、
「柄と、
前記柄の一端に導体によって形成された一対のローラと、
生成された電力が前記ローラに通電される電池と、を備えた
ローラ器具。」
で一致し、以下の各点で相違する。
(相違点1)
ローラに通電される電力に関して、本件特許発明1では、「太陽電池」によって生成するのに対し、甲1-1発明では、「乾電池400」によって生成する点。
(相違点2)
一対のローラと柄の関係に関して、本件特許発明1では、「ローラの回転軸が、柄の長軸方向の中心線とそれぞれ鋭角に設けられ、一対のローラの回転軸のなす角が鈍角に設けられ」ているのに対し、甲1-1発明では、「ローラ100,100の回転軸である横軸部210が、把持部300の中心線とそれぞれ直角に設けられ、一対のローラ100,100の回転軸である横軸部210のなす角が180度である」点。
(相違点3)
ローラ器具が、本件特許発明1は「美肌ローラ」であるのに対し、甲1-1発明は「マッサージ器」である点。

(2-2)判断
以下、上記相違点について検討する。なお、事案に鑑み、相違点2から検討する。
(2-2-1)相違点2について
ア 甲第1号証には、甲1-1発明の「一対のローラ100,100」について、以下の記載がある。
上記(1-1)の摘記事項エに「ローラ100を直流電源400の一方の端子410に接続し、把持部300を直流電源400の他方の端子420に接続する。・・・この状態で、把持部300を把持し、ローラ100を皮膚に接触させると、ローラ100が接触している皮膚に含まれている老廃物、例えば油分等が皮膚から浮き上がる。・・・すなわち、直流電源400からの数μA程度の微弱な電流が、直流電源400→ローラ支持部200→ローラ100→人間の身体→把持部本体310→蓋体320→直流電源400のように流れる。この場合、ローラ100は正に帯電し、把持部300は負に帯電しているので、皮膚は正に帯電する。このため、皮膚に含まれる負に帯電した油分が皮膚から浮き上がるのである。・・・また、ゲルマニウムを肌に浸透させ、血流を良くする場合には、・・・乾電池である直流電源400を入れ換え、ローラ100を直流電源400の他方の端子420に接続し、把持部300を直流電源400の一方の端子410に接続する。・・・この状態で、把持部300を把持し、ローラ100を皮膚に接触させると、ローラ100が接触している皮膚にゲルマニウムが浸透し、皮膚の血流が良くなる。・・・すなわち、直流電源400からの数μA程度の微弱な電流が、直流電源400→蓋体320→把持部本体310→人間の身体→ローラ100→ローラ支持部200→直流電源400のように流れる。この場合、ローラ100は負に帯電し、把持部300は正に帯電しているので、皮膚は負に帯電する。このため、ローラ100のゲルマニウム薄膜130中のゲルマニウム原子GeがゲルマニウムイオンGe^(4+)となってローラ100から皮膚へ浸透するのである。」と記載されている。
上記記載によれば、甲1-1発明の「一対のローラ100,100」は、(A)正又は負に帯電する(導電性を有する)ものであり、(B)直流電源400の極性を入れ換えることで、皮膚に含まれる負に帯電した油分を皮膚から浮き上がらせる効果と、ローラ100が接触している皮膚にゲルマニウムを浸透させ、皮膚の血流を良くする効果とを奏するものである。

イ 甲第5号証に関する容易想到性の検討
甲5事項はマッサージ装置に関し、甲1-1発明と発明の技術分野が共通するといえるが、甲5事項のローラは、「ショアA硬さ25ないし90のたわみ性材料、特にエラストマー又は熱可塑性エラストマーで作」られているので導電性を有さない。
一方、上記アにおいて示したとおり、その機能に鑑みると、甲1-1発明のローラ100,100が導電性を有することは欠くことのできない構成であるので、甲第5号証に接した当業者といえども、甲1-1発明のローラ100,100と回転軸である横軸部210の構成を、導電性を有しない甲5事項のローラとローラの軸線の構成に置き換える動機付けがあるとは認められない。
また、仮に甲1-1発明のローラ100,100を甲5事項のローラに置き換えたとしても、その場合には、上記アに示したローラが帯電することによる作用効果が失われることは明らかであり、甲1-1発明に甲5事項の構成を適用することには、阻害要因があると認められる。
さらに、甲5事項では、ローラの皮膚上の転動によってひだよせの作用を働かせ、さらに、ローラに隆起した部分を設けるのであるから、ローラと皮膚との接触において、上記アの(B)の作用効果が十分発揮できない状態になると認められ、この点においても、甲1-1発明に甲5事項の構成を適用することには、阻害要因があると認められる。
加えて、甲1-1発明の一対のローラ100,100の回転軸である横軸部210のなす角が180度であること、すなわちローラの開き角度が180であることに関し、甲第1号証には「【0015】 また、前記ローラ支持部は二股になっており、2つのローラが離れて支持されていると、皮膚に与える機械的な刺激が大きくなるというメリットがある。」との記載がある(上記2(1)(1-1)イ)。上記記載からすれば、甲1-1発明は、2つのローラを離して配置することにより、皮膚に与える機械的な刺激を大きくするというメリットを有するものと認められる。ここで、2つの物体たる2つのローラを支持する際において、その離間距離を最大化できるのはローラの開き角度を180度とした場合であることは幾何学上明らかである。そうすると、仮に、甲5事項から、ローラの材質や形状を捨象して、2つのローラの回転軸のなす角のみ取り出して甲1-1発明に適用することを試みるとしても、甲1-1発明において、ローラの開き角度を180度未満の鈍角とすることは、上記メリットを減殺することとなるから、やはり阻害事由があるというべきである。
してみると、甲第5号証に接した当業者といえども、甲1-1発明において、相違点2に係る本件特許発明1の構成を適用する動機付けがあるとはいえないし、適用することに阻害要因があると認められ、上記相違点2に係る本件特許発明1の構成を甲第1号証及び甲第5号証に記載された発明から想到することが容易になし得たとはいえない。
また、本件特許発明1は、上記相違点2に係る本件特許発明1の構成により、上記「1 本件特許発明について」の「(2)本件特許発明について」のアで示した毛穴の汚れを効率的に除去するという相乗効果を奏するものであり、甲第1号証及び甲第5号証に記載された発明から予測できない効果を奏する。

ウ 甲第6号証に関する容易想到性の検討
甲6事項は皮膚のマッサージを行う装置に関し、甲1-1発明と発明の技術分野が共通するといえるが、甲6事項のローラは、「硬度が15ショアAないし90ショアDの柔軟な材料、特にエラストマー又は熱可塑性エラストマーから作られ」ているので導電性を有さない。
一方、上記アにおいて示したとおり、その機能に鑑みると、甲1-1発明のローラ100,100が導電性を有することは欠くことのできない構成であるので、甲第6号証に接した当業者といえども、甲1-1発明のローラ100,100と回転軸である横軸部210の構成を、甲6事項のローラと回転軸の構成に置き換える動機付けがあるとは認められない。
また、仮に甲1-1発明のローラ100,100を甲6事項のローラに置き換えたとしても、その場合には、上記アに示したローラが帯電することによる作用効果が失われることは明らかであり、甲1-1発明に甲6事項の構成を適用することには、阻害要因があると認められる。
さらに、甲6事項では、ローラにより皮膚を押し曲げるのであるから、ローラと皮膚との接触において、上記アの(B)の作用効果が十分発揮できない状態になると認められ、この点においても、甲1-1発明に甲6事項の構成を適用することには、阻害要因があると認められる。
加えて、仮に、甲6事項から、ローラの材質や形状を捨象して、2つのローラの回転軸のなす角のみ取り出して甲1-1発明に適用することを試みるとしても、甲1-1発明において、ローラの開き角度を180度未満の鈍角とすることは、上記「イ 甲第5号証に関する容易想到性の検討」にて指摘したように甲1-1発明のメリットを減殺することとなるから、やはり阻害事由があるというべきである。
してみると、甲第6号証に接した当業者といえども、甲1-1発明において、相違点2に係る本件特許発明1の構成を適用する動機付けがあるとはいえないし、適用することに阻害要因があると認められ、上記相違点2に係る本件特許発明1の構成を甲第1号証及び甲第6号証に記載された発明から想到することが容易になし得たとはいえない。
また、本件特許発明1は、上記相違点2に係る本件特許発明1の構成により、上記「1 本件特許発明について」の「(2)本件特許発明について」アで示した毛穴の汚れを効率的に除去するという相乗効果を奏するものであり、甲第1号証及び甲第6号証に記載された発明から予測できない効果を奏する。

エ 甲第7号証の1に関する容易想到性の検討
甲7事項はマッサージ器に関し、甲1-1発明と発明の技術分野が共通するといえるが、甲7事項のマッサージ器の「材質は合成樹脂材である」ので、仮に「一対の球状物」を請求人の主張のとおり「一対のローラ」であったとしても、導電性を有さない。
一方、上記アにおいて示したとおり、その機能に鑑みると、甲1-1発明のローラ100,100が導電性を有することは欠くことのできない構成であるので、甲第7号証の1に接した当業者といえども、甲1-1発明のローラ100,100と回転軸である横軸部210の構成を、甲7事項の球状物とY字状に伸びる2つの腕の構成に置き換える動機付けがあるとは認められない。
また、仮に甲1-1発明のローラ100,100を甲7事項の球状物に置き換えたとしても、その場合には、上記アに示したローラが帯電することによる作用効果が失われることは明らかであり、甲1-1発明に甲7事項の構成を適用することには、阻害要因があると認められる。
さらに、甲7事項では、球状物により人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐすのであるから、球状物と皮膚との接触において、上記アの(B)の作用効果が十分発揮できない状態になると認められ、この点においても、甲1-1発明に甲7事項の構成を適用することには、阻害要因があると認められる。
加えて、仮に、甲7事項から、ローラの材質や形状を捨象して、2つのローラの回転軸のなす角のみ取り出して甲1-1発明に適用することを試みるとしても、甲1-1発明において、ローラの開き角度を180度未満の鈍角とすることは、上記「イ 甲第5号証に関する容易想到性の検討」にて指摘したように甲1-1発明のメリットを減殺することとなるから、やはり阻害事由があるというべきである。
してみると、甲第7号証の1に接した当業者といえども、甲1-1発明において、相違点2に係る本件特許発明1の構成を適用する動機付けがあるとはいえないし、適用することに阻害要因があると認められ、上記相違点2に係る本件特許発明1の構成を甲第1号証及び甲第7号証の1に記載された発明から想到することが容易になし得たとはいえない。
また、本件特許発明1は、上記相違点2に係る本件特許発明1の構成により、上記「1 本件特許発明について」の「(2)本件特許発明について」アで示した毛穴の汚れを効率的に除去するという相乗効果を奏するものであり、甲第1号証及び甲第7号証の1に記載された発明から予測できない効果を奏する。

オ 甲第8号証の1に関する容易想到性の検討
甲8事項はマッサージ器に関し、甲1-1発明と発明の技術分野が共通するといえるが、甲8事項のマッサージ球は、「軽量化」「を高める」「弾性材質を有する」ものであるので、導電性を有するものとは考え難い。
一方、上記アにおいて示したとおり、その機能に鑑みると、甲1-1発明のローラ100,100が導電性を有することは欠くことのできない構成であるので、甲第8号証の1に接した当業者といえども、甲1-1発明のローラ100,100と回転軸である横軸部210の構成を、甲8事項のマッサージ球とY字状の軸ロッドの構成に置き換える動機付けがあるとは認められない。
また、仮に甲1-1発明のローラ100,100を甲8事項のマッサージ球に置き換えたとしても、その場合には、上記アに示したローラが帯電することによる作用効果が失われることは明らかであり、甲1-1発明に甲8事項の構成を適用することには、阻害要因があると認められる。
さらに、甲8事項では、マッサージ球によりマッサージ箇所の偏角挟持効果を増進させ、さらに、マッサージ球に粒状凸起を設けるのであるから、マッサージ球と皮膚との接触において、上記アの(B)の作用効果が十分発揮できない状態になると認められ、この点においても、甲1-1発明に甲8事項の構成を適用することには、阻害要因があると認められる。
加えて、仮に、甲8事項から、ローラの材質や形状を捨象して、2つのローラの回転軸のなす角のみ取り出して甲1-1発明に適用することを試みるとしても、甲1-1発明において、ローラの開き角度を180度未満の鈍角とすることは、上記「イ 甲第5号証に関する容易想到性の検討」にて指摘したように甲1-1発明のメリットを減殺することとなるから、やはり阻害事由があるというべきである。
してみると、甲第8号証の1に接した当業者といえども、甲1-1発明において、相違点2に係る本件特許発明1の構成を適用する動機付けがあるとはいえないし、適用することに阻害要因があると認められ、上記相違点2に係る本件特許発明1の構成を甲第1号証及び甲第8号証の1に記載された発明から想到することが容易になし得たとはいえない。
また、本件特許発明1は、上記相違点2に係る本件特許発明1の構成により、上記「1 本件特許発明について」の「(2)本件特許発明について」アで示した毛穴の汚れを効率的に除去するという相乗効果を奏するものであり、甲第1号証及び甲第8号証の1に記載された発明から予測できない効果を奏する。

よって、上記ア?オで検討したとおり、相違点2を容易想到とすることはできない。
また、甲2?4事項は、太陽電池をマッサージ器や歯ブラシに適用する技術に関し、甲9事項は、光触媒作用を有するチタニア被膜をローラ表面に設ける技術に関し、何れの刊行物を参照しても、相違点2を容易想到とすることはできない。

(2-2-2)小括
上記(2-2-1)で検討したとおり、相違点2を容易想到とすることはできないので、相違点1及び相違点3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1-1発明、及び甲第1号証?甲第9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2-3)請求人の主張について
請求人は、弁駁書において次のように主張している。
ア 本件特許発明1には、ローラの回転軸と柄又は把持部の中心線との間の角度を89度の鈍角(当審注:正しくは「鋭角」)とし、一対のローラのなす角度を178度の鈍角とするような発明も包含されている。
イ そして、特許請求の範囲の記載において、本件特許発明1が、毛穴の汚れをローラにより毛穴を開かせることによりその開口部に移動させ、続いてローラにより毛穴を収縮させることによりその汚れを押し出させるという一連の機能を有するものに限定されることを根拠とする発明特定事項は含まれていないのであるから、本件特許発明1は、単に、肌を美しくする用途ないし作用を有するローラ器具を概念的に包含してしまっている。
ウ したがって、相違点2の容易想到性の議論に際しては、甲1-1発明における一対のローラの回転軸のなす角度である180度を、180度未満の鈍角に変形することが容易であったか否かに基づいて、判断がなされるべきである。甲第5号証ないし甲第8号証に記載のように、肌をマッサージして美容効果を得ようとするY又はV字状の器具は、周知であったわけであり、そのための一対のローラの支持軸の開き角度を180度未満の鈍角にする(支持軸の開き角度を180度未満の鈍角とすれば、中心軸に対して線対称であれば、中心軸と支持軸との間の角度は自ずと鋭角になる)ことが周知であったことを考慮すれば、甲1-1発明に対して、甲第5号証ないし甲第8号証に記載の支持軸の角度の関係をそれぞれ適用することには、十分な動機付けが存在すると言わざるを得ない。そして、甲1-1発明のローラ支持部200の開き角度を180度から、180度未満の鈍角に変更したところで、甲1-1発明のローラ支持部200の角度の関係を変更するだけに過ぎないのであるから、甲1-1発明のローラ100,100をそのまま使用する限り、導電性に起因する甲1-1発明における作用効果が失われることはない旨主張する。(弁駁書第4ページ上段付近?第6ページ上段付近)

これにつき検討するに、まず、上記イの主張に関し、本件特許発明1は、「毛穴の汚れをローラにより毛穴を開かせることによりその開口部に移動させ、続いてローラにより毛穴を収縮させることによりその汚れを押し出させるという一連の機能を有するもの」(以下「本件一連の機能」ということがある)を直接特定しているものではない。しかしながら、上記本件一連の機能は、上記1(1)カにて摘記したように、本件特許明細書に本件特許発明1の効果として記載されているところ、相違点2の容易想到性の判断においてその効果が考慮されることは当然であり、上記本件一連の機能が特許請求の範囲に特定されていないことをもって、想到容易であるとまではいえない。
次に、上記ウの主張については、上記(2-2)(2-2-1)「イ 甲第5号証に関する容易想到性の検討」にて指摘したように、甲1-1発明に対して、甲第5号証ないし甲第8号証に記載の支持軸の角度の関係をそれぞれ適用することには、甲1-1発明の上記メリットを減殺することとなるから、阻害事由があるというべきである。
よって請求人の主張には理由がない。

(3)本件特許発明2について
(3-1)対比
本件特許発明2と甲1-2発明とを対比すると、その構造または機能からみて、甲1-2発明の「把持部300」は、本件特許発明2の「把持部」に相当する。
また、本件特許発明2の「太陽電池」と甲1-2発明の「乾電池400」とは、「電池」という点でのみ共通し、同様に前者の「美肌ローラ」と後者の「マッサージ器」とは、その機能からみて「肌に適用するローラ」という点でのみ共通する。
そうすると、両者は、
「導体によって形成された一対のローラと、
前記一対のローラを支持する把持部と、
生成された電力が前記ローラに通電される電池と、を備えた
肌に適用するローラ。」
で一致し、以下の各点で相違する。
(相違点1′)
ローラに通電される電力に関して、本件特許発明2では、「太陽電池」によって生成するのに対し、甲1-2発明では、「乾電池400」によって生成する点。
(相違点2′)
一対のローラと把持部の関係に関して、本件特許発明2では、「ローラの回転軸が、把持部の中心線とそれぞれ鋭角に設けられ、一対のローラの回転軸のなす角が鈍角に設けられ」ているのに対し、甲1-2発明では、「ローラ100,100の回転軸である横軸部210が、把持部300の中心線とそれぞれ直角に設けられ、一対のローラ100,100の回転軸である横軸部210のなす角が180度である」点。
(相違点3′)
肌に適用するローラが、本件特許発明2は「美肌ローラ」であるのに対し、甲1-2発明は「マッサージ器」である点。

(3-2)判断
以下、上記相違点について検討する。なお、事案に鑑み、相違点2′から検討する。
(3-2-1)相違点2′について
甲1-2発明と甲1-1発明の違いは、「把持部300は一対のローラ100,100を支持している」か「把持部300の一端に一対のローラ100,100が形成されている」かの違いであり、甲1-2発明は、一対のローラを形成する位置において甲1-1発明の上位概念であるといえる。そうすると、上記「(2)本件特許発明1について」の(2-2-1)の検討において、「甲1-1発明」を「甲1-2発明」と読み替え、同様の理由により相違点2′を容易想到とすることはできない。

(3-2-2)小括
上記(3-2-1)のとおり、相違点2′を容易想到とすることはできないので、相違点1′及び相違点3′について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲1-2発明、及び甲第1号証?甲第9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件特許発明3?5について
本件特許発明3?5は、本件特許発明1又は本件特許発明2の構成をその構成の一部とするものであるから、上記した「(2)本件特許発明1について」及び「(3)本件特許発明2について」と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件特許発明6及び7について
本件特許発明6及び7は、本件特許発明1?5の構成をその構成の一部とするものであるから、上記「(2)本件特許発明1について」及び「(4)本件特許発明3?5について」において検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)小括
よって、請求人の主張する理由によっては、本件特許発明1?7は当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

第8 まとめ
以上のとおりであるから、本件審判請求は特許法第167条の規定に違反してされた不適法な審判請求で却下すべきものとはいえず、また、請求人の主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては本件特許発明1?7についての特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人らが負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-02-14 
結審通知日 2019-02-18 
審決日 2019-03-01 
出願番号 特願2007-324077(P2007-324077)
審決分類 P 1 113・ 15- Y (A45D)
P 1 113・ 121- Y (A45D)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 瀬戸 康平
長屋 陽二郎
登録日 2013-03-29 
登録番号 特許第5230864号(P5230864)
発明の名称 美肌ローラ  
代理人 小林 徳夫  
代理人 冨宅 恵  
代理人 ▲高▼山 嘉成  

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