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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1361370 |
審判番号 | 不服2018-15931 |
総通号数 | 245 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-11-30 |
確定日 | 2020-04-08 |
事件の表示 | 特願2014-245193「基板保持装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月20日出願公開、特開2016-111093〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年12月3日の出願であって、平成29年9月1日に手続補正書が提出され、平成30年5月9日付けで拒絶理由が通知され、同年7月11日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月29日付けで拒絶査定(原査定)がなされ、それに対して、同年11月30日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成31年1月29日に上申書が提出された。 第2 平成30年11月30日に提出された手続補正書による補正についての却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成30年11月30日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?2を、補正後の特許請求の範囲の請求項1?2と補正するとともに明細書を補正するものであり、補正前後の請求項1は、それぞれ次のとおりである。 (補正前) 「【請求項1】 a) 静電保持機構が内蔵された、上面が平坦である基板載置台と、 b) 前記基板載置台の前記上面に設けられた流体溝と、 c) 前記流体溝と合致する位置に、前記基板載置台を垂直に貫通するように設けられた少なくとも3個の流体孔と、 d) 前記流体孔内をそれぞれ昇降する、前記流体孔の内壁と少なくとも一部において接触しないリフトピンと、 e) 前記流体孔からのガスの吸引と、前記流体孔への流体の供給を切り替えることのできる切替バルブと を備えることを特徴とする基板保持装置。」 (補正後) 「【請求項1】 a) 静電保持機構が内蔵された、上面が平坦である基板載置台と、 b) 前記基板載置台の前記上面に設けられた流体溝と、 c) 前記流体溝と合致する位置に、前記基板載置台を垂直に貫通するように設けられた少なくとも3個の流体孔と、 d) 前記流体孔内をそれぞれ昇降する、前記流体孔の内壁と少なくとも一部において接触しないリフトピンと、 e) 前記基板載置台に載置された基板を吸引するための前記流体孔からのガスの吸引と、前記基板を冷却するための前記流体孔への流体の供給を切り替えることのできる切替バルブと を備えることを特徴とする基板保持装置。」 2 本件補正についての検討 (1)本件補正は、請求項1についての補正(以下「補正事項1」という。)を含むものであり、当該補正事項1は、補正前の請求項1について、「切替バルブ」を限定する補正であって、補正前の発明と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 したがって、当該補正事項1は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下において検討する。 (2)独立特許要件について ア 本件補正後の発明 本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、上記「1 本件補正の内容」の「(補正後)」に記載したとおりである。 イ 引用例の記載と引用発明 (ア)引用例1 a 引用例1の記載 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2004-134437号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに次の記載がある(下線は、当審による。以下、同じ。)。 (a)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、半導体装置の製造技術、特に、半導体ウエハ(半導体素子を含む集積回路が作り込まれたウエハ。以下、ウエハという。)を静電吸着保持する技術に関し、例えば、ドライエッチング技術に利用して有効なものに関する。」 (b)「【0011】 【発明の実施の形態】 以下、本発明の一実施の形態を図面に即して説明する。 【0012】 本実施の形態において、本発明に係る半導体装置の製造方法における基板が静電吸着部によって保持された状態で処理が施される工程は、GaAsウエハのシリコン酸化膜をエッチングするドライエッチング工程として構成されており、図1に示されたドライエッチング装置によって実施される。 【0013】 図1に示されたドライエッチング装置10は平行平板型リアクティブイオンエッチング装置として構成されており、約8Paの圧力に耐えるエッチング室12を構成した筐体11を備えている。筐体11の側壁には、シリコン酸化膜2が形成されたGaAsウエハ(以下、ウエハという。)1をエッチング室12に対して搬入搬出するためのウエハ搬入搬出口13が開設されており、ウエハ搬入搬出口13はゲートバルブ14によって開閉されるように構成されている。エッチング室12の内面には絶縁体15が全体的に内張りされている。筐体11の底壁には排気口16が開設されており、排気口16には真空ポンプ等からなる排気装置(図示せず)が接続されている。エッチング室12の上部にはエッチングガス吹出ヘッドを兼用する上部電極17が吊持されている。上部電極17は円盤形状の中空体に形成されており、下面壁には複数個の吹出口18がエッチングガスをシャワー状に吹き出すように開設されている。上部電極17の上面壁の中心線上にはエッチングガス20を供給する供給管19が接続されている。エッチング室12の下部には静電チャック30が組み込まれた下部電極21が上部電極17と対向されて設置されており、下部電極21と上部電極17との間には整合器23を有する高周波電源22から高周波電力(13.56MHz、最大出力1000W)が印加されるようになっている。 【0014】 静電チャック30が組み込まれた下部電極21は支持体31によって水平に支持されており、下部電極21には静電チャック用の直流電源32がローパスフィルタ回路33を介して高周波電源22と並列に接続されており、直流電源32は静電チャック30の給電板としての下部電極21に500V以下の直流電圧を印加するように構成されている。下部電極21はアルミニウム等の導電性が良好な金属が使用されて円盤形状に形成されており、その外径はウエハ1よりも若干小さめに設定されている。下部電極21に組み込まれた静電チャック30はウエハ1を静電吸着して保持する静電吸着部34を備えており、静電吸着部34は膜厚tが300μm程度の誘電体薄膜によって構成されている。本実施の形態に係る静電吸着部34は、下部電極21の上面にアルミナ(Al_(2 )O_(3 ))等のセラミック(絶縁体)の粉末に微量の導電体の粉末を混入させて溶射することによって形成された誘電体薄膜、である。 【0015】 静電吸着部34の保持面である上面には、冷媒としてのヘリウムガスを保持してウエハ1を強制的に冷却する溝(以下、冷却溝という。)35が全体的に敷設されて没設されており、図2に示されているように、冷却溝35は同心円に配置された複数条(図示例では3条)の環状溝36と、各環状溝36を連絡するように放射状に配置された複数条(図示例では4条)の連絡溝37とにより構成されている。下部電極21における連絡溝37の途中に対応する部位には、ヘリウムガスを冷却溝35に供給かつ排出する給排ポート38が冷却溝35の内部に連通するように接続されており、給排ポート38は下部電極21を厚さ方向に貫通する貫通孔によって構成されている。給排ポート38にはヘリウムガスを供給かつ排出するための給排路39が接続されており、給排路39にはヘリウムガス給排装置40が接続されている。ヘリウムガス給排装置40はヘリウムガス供給源41と、マスフローコントローラ(流量制御弁)42と、圧力計43と、可変流量制御弁44と、ポンプ45とを備えており、ヘリウムガス46を給排路39に供給し、かつ、排出し得るように構成されている。 【0016】 冷却溝35の深さDは、5μm?50μmに設定することが望ましく、本実施の形態に係る冷却溝35の深さDは10μmに形成されている。このように、冷却溝35の深さDは極浅いために、通常の研削加工によって形成するのは困難である。そこで、本実施の形態に係る冷却溝35は、静電吸着部34の表面をマスキングした状態でサンドブラスト加工することにより形成されている。 【0017】 本実施の形態においては、給排ポート38はウエハを昇降させるための昇降ピン24のガイド孔を兼用するように構成されている。すなわち、貫通孔からなる給排ポート38には昇降ピン24が摺動自在に挿通されている。したがって、給排ポート38は昇降ピン24によって略埋められた状態になっており、静電チャック30における給排ポート38の空白の影響が抑制されている。 【0018】 次に、前記構成に係るドライエッチング装置の作用を、本発明の一実施の形態である半導体装置の製造方法におけるウエハのシリコン酸化膜をエッチングするドライエッチング工程について説明する。なお、このドライエッチング工程に供給されるワークとしてのウエハ1は、アクティブエリア側の主面の上にシリコン酸化膜2が形成され、シリコン酸化膜の上にマスクとしてのレジスト膜(図示せず)がパターニングされている。 【0019】 ウエハ1はエッチング室12にウエハ搬入搬出口13から搬入されて、静電チャック30の上方に上昇した昇降ピン24の上に受け渡され、昇降ピン24が下降することにより、図1に示されているように、静電チャック30の静電吸着部34の上に移載される。ウエハ1が静電吸着部34に移載されると、直流電源32によって直流電力が下部電極21に印加される。この直流電力の印加によって、下部電極21を通じて静電吸着部34に負の静電気が発生するために、ウエハ1は静電吸着部34に静電吸着されて保持された状態になる。 【0020】 ウエハ1が静電チャック30によってチャックされると、ヘリウムガス46が給排ポート38にヘリウムガス給排装置40によって供給され、エッチング室12が所定の真空度(8Pa程度)に排気され、CHF_(3) (60ml/分)とCF_(4) (40ml/分)とがエッチングガス20として供給管19に供給され、高周波電力(13.56MHz、700W)が下部電極21と上部電極17との間に高周波電源22によって印加される。これにより、プラズマ25が高周波電力によって下部電極21と上部電極17との間に励起され、エッチングガス20の化学反応によってエッチング処理がウエハ1に施される。この際、プラズマ25に形成されたイオン26が下部電極21によって引き寄せられてウエハ1に衝突することにより、リアクティブイオンエッチングも引き起こされる。これにより、ウエハ1の上のシリコン酸化膜2がレジストパターンをマスクにしてエッチングされて、シリコン酸化膜2がパターニングされる。 【0021】 以上のエッチング処理においては、プラズマ25の熱がウエハに入射することにより、ウエハ1の温度がレジストの耐熱温度以上に上昇して、レジストが損傷してしまう現象が起こる。そこで、ヘリウムガス46を供給することにより、ウエハ1の温度を80?100℃に制御することが実施されている。すなわち、ヘリウムガス給排装置40から給排ポート38に供給されたヘリウムガス46は、冷却溝35に注入されて全体的に拡散し、ウエハ1の裏面に直接接触することにより、ウエハ1の熱を奪って冷却する。ちなみに、ヘリウムガス46の供給量は圧力計43の計測圧力に基づいて可変流量制御弁44が調整されることにより、制御される。また、冷却溝35や給排ポート38および給排路39のヘリウムガス46はポンプ45の排気力によって排気される。」 (c)図1は以下のとおりである。 ![]() (d)図2は以下のとおりであり、放射状に配置された4条の連絡溝37それぞれに、給排ポート38が接続されていることが見てとれる。 ![]() b 引用発明 したがって、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「静電チャック30が組み込まれた下部電極21を備え、 下部電極21に組み込まれた静電チャック30はウエハ1を静電吸着して保持する静電吸着部34を備えており、静電吸着部34は誘電体薄膜によって構成されており、 静電吸着部34の保持面である上面には、冷媒としてのヘリウムガスを保持してウエハ1を強制的に冷却する、冷却溝35が全体的に敷設されて没設されており、 下部電極21における4条の連絡溝37の途中に対応する部位それぞれには、ヘリウムガスを冷却溝35に供給かつ排出する給排ポート38が冷却溝35の内部に連通するように接続されており、給排ポート38は下部電極21を厚さ方向に貫通する貫通孔によって構成されており、 給排ポート38にはヘリウムガスを供給かつ排出するための給排路39が接続されており、給排路39にはヘリウムガス給排装置40が接続されており、 ヘリウムガス給排装置40はヘリウムガス供給源41と、マスフローコントローラ(流量制御弁)42と、圧力計43と、可変流量制御弁44と、ポンプ45とを備えており、ヘリウムガス46を給排路39に供給し、かつ、排出し得るように構成されており、 給排ポート38はウエハを昇降させるための昇降ピン24のガイド孔を兼用するように構成されている、 半導体ウエハ静電吸着保持装置。」 (イ)引用例2 a 引用例2の記載 同じく原査定に引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開平7-231034号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに次の記載がある。 (a)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、板状物の固定方法および装置ならびにプラズマ処理技術に関し、特に、半導体装置の製造工程における半導体ウェハの固定操作に適用して有効な技術に関する。」 (b)「【0008】そこで、本発明の目的は、外力や板状物の変形等に影響されることなく、また、発塵等の懸念を生じることなく、静電吸着による板状物の固定を確実に行うことが可能な板状物の固定技術を提供することにある。」 (c)「【0021】 【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。 【0022】図1は、本発明の一実施例である板状物の固定方法および装置ならびにプラズマ処理装置の一例を示す概念図であり、図2はその作用の一例を示すフローチャートである。 【0023】本実施例では、板状物の一例として、半導体装置の製造プロセスにおけるウェハに適用する場合について説明する。 【0024】プラズマ処理室3には、所望の処理ガスgを供給する処理ガス供給機構3aおよび当該プラズマ処理室3の内部を所望の真空度に排気する真空ポンプ等からなる排気機構3b、排気制御弁3cが設けられている。プラズマ処理室3の内部には、導体からなるチャック本体6および誘電体層7からなる静電チャック8が水平に設けられており、プラズマ処理室3の一部に設けられた図示しないロードロック機構を通じて出し入れされるウェハ5がチャック本体6から電気的に絶縁された状態で誘電体層7の上に載置される。この誘電体層7は、たとえば、セラミックス等の誘電体からなる。 【0025】静電チャック8のチャック本体6には、静電吸着用DC電源9が接続されており、たとえば負極性の直流電圧が印加可能にされている。 【0026】チャック本体6の内部には、温度制御用の流体通路6aが形成されており、所望の温度の熱媒体6bを流通させることによって、当該チャック本体6に載置されるウェハ5の温度を、たとえばマイナス数十度℃?プラス百数十度℃程度の温度範囲で制御することが可能になっている。 【0027】チャック本体6に対向する位置には、高周波電源1に接続されたプラズマ発生用電極2が配置されており、チャック本体6との間に高周波電力を印加することで、チャック本体6とプラズマ発生用電極2との間に処理ガスgのプラズマ4を形成する動作を行う。 【0028】この場合、静電チャック8を構成する誘電体層7におけるウェハ5の載置面には、当該ウェハ5によって隠蔽される領域に流体溝7aが刻設されている。この流体溝7aは、流体通路7bおよび吸引制御弁7c,ガス制御弁7dを介して、排気機構3bおよびガス供給機構7eに接続されている。 【0029】ガス供給機構7eは、熱伝導率の高い、たとえばヘリウムガス等の熱伝導用ガスg1を、ガス制御弁7dおよび流体通路7bを介して流体溝7aに随時、供給する動作を行う。 【0030】また、ガス制御弁7dを閉じた状態で吸引制御弁7cを開くことにより、随時、ウェハ5に隠蔽されることによって密閉空間となる流体溝7aの排気が行われる。 【0031】以下、本実施例の板状物の固定方法および装置ならびにプラズマ処理装置の作用の一例を図2のフローチャート等を参照しながら説明する。 【0032】まず、図示しないロードロック機構等を介してウェハ5をプラズマ処理室3の内部に搬入して静電チャック8に載置する(ステップ21)。この時、プラズマ処理室3の内部は、たとえば10^(-4)torr程度の真空度に排気されている。 【0033】その後、吸引制御弁7cを開いて、ウェハ5の裏面の下側に位置する流体溝7aの吸引操作を開始するとともに、プラズマ処理室3の内部をたとえば10^(-4)torr程度の所定の真空度に維持する排気操作を行う(ステップ22)。 【0034】次に、プラズマ処理室3の内部に、プラズマ処理室3の圧が、たとえば5?10^(-1)torr程度の圧となるように処理ガス供給機構3aから処理ガスgを供給する。この時、静電チャック8上のウェハ5は、裏面側の流体溝7aと、表面側のプラズマ処理室3の圧力差によって、誘電体層7に対して全面にわたって密着する状態に仮固定される(ステップ23)(第1の段階)。 【0035】この状態で、チャック本体6に対して静電吸着用DC電源9から、たとえば、300?500V程度の負極性の直流電圧を印加するともに、高周波電源1からプラズマ発生用電極2とチャック本体6との間に比較的低い高周波電力を印加することにより、プラズマ4を形成する。これにより、チャック本体6と、プラズマ4によって接地された状態となったウェハ5の間に介在する誘電体層7には電位差が生じ、ウェハ5は、負極性のチャック本体6に対してクーロン力によって静電吸着され、全面にわたって密着した状態となる(ステップ24)(第2の段階)。 【0036】その後、吸引制御弁7cを閉じるとともに、ガス制御弁7dを開き、熱伝導用ガスg1を、ウェハ5の裏面によって密閉された状態の流体溝7a、さらにはウェハ5の裏面と誘電体層7の微細な間隙等に充満させる(ステップ25)(第3の段階)。 【0037】こうして、静電チャック8に密着されたウェハ5は、裏面全域が熱的に均一に静電吸着8に結合された状態となり、ウェハ5は全体が静電チャック8の内部を流通する熱媒体6bの温度に均一かつ正確に制御され、この状態で、プラズマ4により、ウェハ5に対して所定の処理を施す(ステップ26)。 【0038】これにより、処理中におけるウェハ5の温度分布の偏り等の懸念がなく、均一かつ良好なプラズマ処理を行うことができる。 【0039】所定の時間だけステップ26の状態を維持してウェハ5に対する処理が完了すると(ステップ27)、流体溝7aに対する熱伝導用ガスg1の供給を停止し(ステップ28)、さらに、静電吸着用DC電源9から静電チャック8への直流電圧の印加を停止し(ステップ29)、さらに、高周波電源1の停止(ステップ30)、処理ガスgの供給停止(ステップ31)、の各操作を経てウェハ5の吸着状態を解除し、ウェハ5の搬出を行う(ステップ32)。 【0040】このように、本実施例の板状物の固定方法および装置ならびにプラズマ処理装置によれば、静電チャック8に対するウェハ5の静電吸着に先立って、ウェハ5の裏面を支持する静電チャック8の誘電体層7に形成された流体溝7aと、ウェハ5の表面側の空間との圧力差によって、ウェハ5を静電チャック8に対して全面にわたって密着させる仮固定を行い、その後、静電チャック8に直流電圧を印加することによる本来の静電吸着を行うので、ウェハ5の表面を治具等で機械的に押圧することに起因する発塵の懸念が全くない。 【0041】また、ウェハ5に裏面の平坦度の不良や、ソリ、歪み等の変形がある場合でも、静電吸着に先立って、これらの変形が確実に矯正され、ウェハ5の裏面が全面にわたって均一に誘電体層7に密着させられるので、静電吸着の不安定化や、静電吸着力の低下、静電吸着不良による誘電体層7の破損等の障害発生も未然に防止できるとともに、静電吸着によるウェハ5の固定操作の所要時間も短縮できる。」 (d)図1は以下のとおりである。 ![]() b 引用例2に記載の技術 引用例2には、以下の技術が記載されていると認められる。 「半導体ウエハの固定技術であって、 流体溝7aが刻設された静電チャック8を備え、 この流体溝7aは、流体通路7bおよび吸引制御弁7c,ガス制御弁7dを介して、排気機構3bおよびガス供給機構7eに接続されている、プラズマ処理装置において行われ、 吸引制御弁7cを開いて、ウェハ5の裏面の下側に位置する流体溝7aの吸引操作を開始するとともに、プラズマ処理室3の内部をたとえば10^(-4)torr程度の所定の真空度に維持する排気操作を行うステップ(ステップ22)と、 プラズマ処理室3の内部に、プラズマ処理室3の圧が、たとえば5?10^(-1)torr程度の圧となるように処理ガス供給機構3aから処理ガスgを供給するステップであって、この時、静電チャック8上のウェハ5は、裏面側の流体溝7aと、表面側のプラズマ処理室3の圧力差によって、誘電体層7に対して全面にわたって密着する状態に仮固定されるステップ(ステップ23)(第1の段階)と、 吸引制御弁7cを閉じるとともに、ガス制御弁7dを開き、ヘリウムガス等の熱伝導用ガスg1を、ウェハ5の裏面によって密閉された状態の流体溝7a、さらにはウェハ5の裏面と誘電体層7の微細な間隙等に充満させるステップ(ステップ25)(第3の段階)とを含み、 外力や半導体ウエハの変形等に影響されることなく、また、発塵等の懸念を生じることなく、静電吸着による半導体ウエハの固定を確実に行うことが可能な、半導体ウエハの固定技術。」 ウ 引用発明との対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明は、「下部電極21に組み込まれた静電チャック30はウエハ1を静電吸着して保持する静電吸着部34を備えており、静電吸着部34は誘電体薄膜によって構成されて」いる「半導体ウエハ静電吸着保持装置」であるところ、「ウエハ1」、「静電吸着部34」、「半導体ウエハ静電吸着保持装置」は、それぞれ本願補正発明の「基板」、「静電保持機構」、「基板保持装置」に相当する。 また、本願の明細書の段落【0015】には、「基板台20は、上方の誘電層31と下方の下部電極32とから成り」と記載されており、引用発明において、「静電チャック30」が備える「静電吸着部34は誘電体薄膜によって構成されて」いるから、引用発明の「『静電チャック30』と『下部電極21』」は、本願補正発明の「基板載置台」に相当するといえる。 したがって、本願補正発明と引用発明とは、「静電保持機構が内蔵された、上面が平坦である基板載置台」を備える「基板保持装置」である点で共通する。 (イ)引用発明は、「静電吸着部34の保持面である上面には、冷媒としてのヘリウムガスを保持してウエハ1を強制的に冷却する、冷却溝35が全体的に敷設されて没設されて」いるところ、「冷却溝35」は、本願補正発明の「流体溝」に相当するから、本願補正発明と引用発明とは、「前記基板載置台の前記上面に設けられた流体溝」を備える点で一致する。 (ウ)引用発明は、「下部電極21における4条の連絡溝37の途中に対応する部位それぞれには、ヘリウムガスを冷却溝35に供給かつ排出する給排ポート38が冷却溝35の内部に連通するように接続されており、給排ポート38は下部電極21を厚さ方向に貫通する貫通孔によって構成されて」いるところ、「給排ポート38」は「貫通孔」であり、また、「ヘリウムガス」は流体であるから、本願補正発明と引用発明とは、「前記流体溝と合致する位置に、前記基板載置台を垂直に貫通するように設けられた少なくとも3個の流体孔」を備える点で一致する。 (エ)引用発明は、「給排ポート38はウエハを昇降させるための昇降ピン24のガイド孔を兼用するように構成されている」ものである。 また、上記イ(ア)a(b)に摘記のように、引用文献1の段落【0017】には、「貫通孔からなる給排ポート38には昇降ピン24が摺動自在に挿通されている。したがって、給排ポート38は昇降ピン24によって略埋められた状態になっており、静電チャック30における給排ポート38の空白の影響が抑制されている。」と記載されており、段落【0019】?【0020】には、「【0019】ウエハ1はエッチング室12にウエハ搬入搬出口13から搬入されて、静電チャック30の上方に上昇した昇降ピン24の上に受け渡され、昇降ピン24が下降することにより、図1に示されているように、静電チャック30の静電吸着部34の上に移載される。ウエハ1が静電吸着部34に移載されると、直流電源32によって直流電力が下部電極21に印加される。この直流電力の印加によって、下部電極21を通じて静電吸着部34に負の静電気が発生するために、ウエハ1は静電吸着部34に静電吸着されて保持された状態になる。【0020】ウエハ1が静電チャック30によってチャックされると、ヘリウムガス46が給排ポート38にヘリウムガス給排装置40によって供給され」と記載されており、段落【0021】には、「以上のエッチング処理においては、プラズマ25の熱がウエハに入射することにより、ウエハ1の温度がレジストの耐熱温度以上に上昇して、レジストが損傷してしまう現象が起こる。そこで、ヘリウムガス46を供給することにより、ウエハ1の温度を80?100℃に制御することが実施されている。すなわち、ヘリウムガス給排装置40から給排ポート38に供給されたヘリウムガス46は、冷却溝35に注入されて全体的に拡散し、ウエハ1の裏面に直接接触することにより、ウエハ1の熱を奪って冷却する。ちなみに、ヘリウムガス46の供給量は圧力計43の計測圧力に基づいて可変流量制御弁44が調整されることにより、制御される。また、冷却溝35や給排ポート38および給排路39のヘリウムガス46はポンプ45の排気力によって排気される。」と記載されている。 そうすると、上記段落【0019】?【0020】の記載から、引用例1の図1(a)、(b)に示されるように、昇降ピン24が下降した状態で、ウエハ1がチャックされると、ヘリウムガス46が供給される。また、段落【0021】の記載から、このヘリウムガス46の供給・排気は、エッチング処理におけるウエハ1の温度制御のために行われる、すなわち、ウエハ1がチャックされた状態で行われることが明らかであるとともに、段落【0017】の記載からも、図1(b)に示すように、ウエハ1がチャックされている状態では、給排ポート38が昇降ピン24によって略埋められた状態であることは明らかである。 以上から、ヘリウムガスの供給・排気は、給排ポート38が昇降ピン24によって略埋められた状態で行われるといえるから、昇降ピン24は給排ポート38の内壁と少なくとも一部において接触しないことは明らかである。 したがって、本願補正発明と引用発明とは、「前記流体孔内をそれぞれ昇降する、前記流体孔の内壁と少なくとも一部において接触しないリフトピン」を備える点で一致する。 (オ)引用発明では、「静電吸着部34の保持面である上面には、冷媒としてのヘリウムガスを保持してウエハ1を強制的に冷却する、冷却溝35が全体的に敷設されて没設されて」いるものであるから、ヘリウムガス46はウエハ1を冷却するための流体であるといえる。 また、引用発明では、「給排ポート38にはヘリウムガスを供給かつ排出するための給排路39が接続されており、給排路39にはヘリウムガス給排装置40が接続されており」、「ヘリウムガス給排装置40」は「ヘリウムガス供給源41」を備えており、「ヘリウムガス46を給排路39に供給し」「得るように構成されており」から、ヘリウムガス給排装置40は、給排ポート38へのヘリウムガス46の供給をすることができる機構であるといえる。 したがって、本願補正発明と引用発明とは、「前記基板を冷却するための前記流体孔への流体の供給をすることのできる機構」を備える点で共通する。 (カ)以上のことから、本願補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「a) 静電保持機構が内蔵された、上面が平坦である基板載置台と、 b) 前記基板載置台の前記上面に設けられた流体溝と、 c) 前記流体溝と合致する位置に、前記基板載置台を垂直に貫通するように設けられた少なくとも3個の流体孔と、 d) 前記流体孔内をそれぞれ昇降する、前記流体孔の内壁と少なくとも一部において接触しないリフトピンと、 e)’前記基板を冷却するための前記流体孔への流体の供給をすることのできる機構と を備える基板保持装置。」 <相違点> 本願補正発明は、「前記基板載置台に載置された基板を吸引するための前記流体孔からのガスの吸引と、前記流体孔への流体の供給を切り替えることのできる切替バルブ」を備えるのに対し、引用発明は、「給排ポート38にはヘリウムガスを供給かつ排出するための給排路39が接続されており、給排路39にはヘリウムガス給排装置40が接続されており、ヘリウムガス給排装置40はヘリウムガス供給源41と、マスフローコントローラ(流量制御弁)42と、圧力計43と、可変流量制御弁44と、ポンプ45とを備えており、ヘリウムガス46を給排路39に供給し、かつ、排出し得るように構成されており」、流体孔(給排ポート38)への流体の供給をすることのできるヘリウムガス給排装置40を備えるものの、本願補正発明の上記のような構成は特定されていない点。 エ 判断 以下、相違点について検討する。 引用例2に記載の技術は、「流体溝7aが刻設された静電チャック8を備え、この流体溝7aは、流体通路7bおよび吸引制御弁7c,ガス制御弁7dを介して、排気機構3bおよびガス供給機構7eに接続されている、プラズマ処理装置において行われ」、「吸引制御弁7cを閉じるとともに、ガス制御弁7dを開き、ヘリウムガス等の熱伝導用ガスg1を、ウェハ5の裏面によって密閉された状態の流体溝7a、さらにはウェハ5の裏面と誘電体層7の微細な間隙等に充満させるステップ(ステップ25)(第3の段階)」を含み、「外力や半導体ウエハの変形等に影響されることなく、また、発塵等の懸念を生じることなく、静電吸着による半導体ウエハの固定を確実に行うことが可能な半導体ウエハの固定技術」であるから、静電保持機構が内蔵された静電チャック8と、静電チャック8に設けられた流体溝7aと、静電チャック8を貫通するように設けられた流体通路7bと、吸引制御弁7bとガス制御弁7dとを備え、ステップ25で、流体通路7bへのヘリウム等の熱伝導ガスg1の供給をすることのできる、半導体ウエハの固定技術であるといえる。 したがって、引用発明と引用例2に記載の技術は、静電保持機構が内蔵された、基板載置台と、基板載置台に設けられた流体溝と、基板載置台を貫通するように設けられた流体孔と、を備える基板保持装置ないし基板固定技術である点で共通する。 一方、引用発明は、「静電吸着部34」を備える「静電チャック30」が組み込まれた下部電極21を備える「半導体ウエハ静電吸着保持装置」であり、静電吸着によりウエハの固定を行うものであるから、当業者には、引用発明において、引用例2に記載の技術を採用することで、「外力や半導体ウエハの変形等に影響されることなく、また、発塵等の懸念を生じることなく、静電吸着による半導体ウエハの固定を確実に行うこと」を可能とする動機付けがあるといえる。 そして、引用例2に記載の技術は、ステップ22で、流体溝7aの吸引操作が開始されるから、当該ステップ22は、静電チャックに載置されたウエハを吸引するための流体通路7bからのガスの吸引をするステップであるといえる。また、吸引制御弁7bとガス制御弁7dとは、当該ガスの吸引とヘリウム等の熱伝導用ガスg1の供給を切り替えることのできる切替バルブであるといえる。 そうすると、引用発明において、基板(ウエハ1)の固定を確実に行うことを可能とするために、引用例2に記載の技術に基づき、ヘリウムガス給排装置40として、基板載置台に載置された基板を吸引するための流体孔(給排ポート38)からのガスの吸引と、流体孔への流体(ヘリウムガス)の供給を切り替えることのできる切替バルブを備えた構成のものを採用することは、当業者であれば容易になし得たことである。 以上のとおりであるから、引用発明において、相違点に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。 よって、本願補正発明は、引用発明において、引用例2に記載の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 オ 独立特許要件についてのまとめ よって、本件補正は、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しない。 3 補正の却下の決定についてのむすび 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?2に係る発明は、平成30年7月11日付けで手続補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、上記「第2 1 本件補正の内容」の「(補正前)」に記載したとおりである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、本願発明は、下記の引用文献A?Cに記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるというものである。 <引用文献等一覧> (1)引用文献A:特開2004-134437号公報(上記第2 2(2)イ(ア)の引用例1) (2)引用文献B:特開平7-231034号公報(周知技術を示す文献。上記第2 2(2)イ(イ)の引用例2) (3)引用文献C:特開2003-318160号公報(周知技術を示す文献) 3 引用例の記載と引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献A(引用例1、再掲)には、上記「第2 2(2)イ(ア)a 引用例1」に記載した事項が記載されており、引用例1には上記「第2 2(2)イ(ア)b 引用発明」に記載したとおりの引用発明が記載されている。また、原査定の拒絶の理由で提示された引用文献B(引用例2、再掲)には、上記「第2 2(2)イ(イ) 引用例2」に記載した事項が記載されている。 4 対比・判断 本願発明は、上記「第2 2 本件補正についての検討」で検討した本願補正発明における限定事項を省いたものである。 そうすると、上記「第2 2 本件補正についての検討」において検討したとおり、本願補正発明は、引用発明及び引用例2に記載の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び引用例2に記載の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-06-28 |
結審通知日 | 2019-07-02 |
審決日 | 2019-07-17 |
出願番号 | 特願2014-245193(P2014-245193) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 杢 哲次 |
特許庁審判長 |
深沢 正志 |
特許庁審判官 |
鈴木 和樹 恩田 春香 |
発明の名称 | 基板保持装置 |
代理人 | 特許業務法人京都国際特許事務所 |