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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G01N
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01N
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  G01N
管理番号 1361422
審判番号 無効2019-800059  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-08-15 
確定日 2020-04-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第4359336号発明「過カルボン酸濃度測定方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4359336号の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4359336号に係る出願は、2008年(平成20年)4月25日(優先権主張、平成19年4月25日)を国際出願日とする出願であって、平成21年8月14日にその特許権の設定登録がされた。
これに対し、令和元年8月15日に請求人より本件無効審判が請求され、審判請求書の副本を被請求人に送達し、期間を指定して、答弁書を提出する機会を与えたが、被請求人からは、答弁書の提出はなかった。
被請求人代理人は、令和元年10月16日付け代理人受任届の特記事項において、被請求人は、本件について争わず、答弁書の提出および訂正請求を行わないこと、及び、審理は、書面審理によることを述べている。
当審は、上記経緯に鑑み、令和元年11月13日付けで、本件の審理を職権により書面審理とする旨、通知した。
そして、令和元年11月22日付けで審決の予告をしたが、被請求人及び請求人からは応答がなかった。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下「本件発明1?6」といい、これらを総称したものを「本件発明」という)は、本件特許第4359336号の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された以下のとおりのものである。

「【請求項1】
過カルボン酸と過酸化水素を含む平衡混合物において過カルボン酸濃度のみを測定する方法であって、a)平衡混合物にヨウ化カリウムを加えてヨウ素を発生させて測定試料とし、b)これを透過する光量を測定することにより、過カルボン酸濃度のみを測る、ことを特徴とする測定方法。
【請求項2】
上記測定試料中の過カルボン酸濃度が0.01?50ppmである、ことを特徴とする請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
上記測定試料のpH値が1<pH<6の範囲である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の測定方法。
【請求項4】
上記測定試料中のヨウ化カリウム量が過カルボン酸モル数の2?60倍である、ことを特徴とする請求項1?3の何れかに記載の測定方法。
【請求項5】
上記測定に用いる光の波長範囲が440?600nmである、ことを特徴とする請求項1?4の何れかに記載の測定方法。
【請求項6】
過カルボン酸が特に過酢酸である、ことを特徴とする請求項1?5の何れかに記載の測定方法。」

本件発明1を便宜上分説すると、以下のとおりである。
A 過カルボン酸と過酸化水素を含む平衡混合物において過カルボン酸濃度のみを測定する方法であって、
B a)平衡混合物にヨウ化カリウムを加えてヨウ素を発生させて測定試料とし、
C b)これを透過する光量を測定することにより、
D 過カルボン酸濃度のみを測る、ことを特徴とする測定方法。

第3 請求人の主張の概要及び証拠方法
請求人は、「特許第4359336号の請求項1乃至6に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、無効理由の概要は以下のとおりであると主張している。

1 無効理由1(甲第1号証に記載された発明を主たる引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如)
本件特許の請求項1?3、5、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、同請求項4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号あるいは同第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

2 無効理由2(甲第2号証に記載された発明を主たる引用例とする進歩性欠如)
本件特許の請求項1?6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明および周知技術に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

3 無効理由3(実施可能要件違反)
本件特許の請求項1の構成要件Cにおける「光量」とは、通常、「光源から放出される前放射エネルギー」を意味し、「ルーメン時」または「ルーメン秒」を単位として測定されるものである。しかるところ、本件明細書の発明の詳細な説明には、このような「光量」を測定することにより、過カルボン酸濃度のみを測定する方法については一切記載されていない。よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たしていない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件特許の請求項1?6に係る発明が、当業者が実施することができる程度に記載されていないから、同発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項の規定を満たさないものである。
したがって、その特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

4 証拠方法
請求人は、証拠方法として、以下の甲第1号証?甲第7号証(以下「甲○号証」を「甲○」のように表記する。)を提出している。
(1)甲1:米国特許第5,756,358号明細書
また、請求人は、甲1の抄訳を提出している。
(2)甲2:特開平6-130051号公報
(3)甲3:平野 四蔵編、「無機 応用比色分析3(全6巻)」、初版、共立出版株式会社、昭和49年(1974年)9月5日、p.1-2、51
(4)甲4:杉前 昭好、「(第21講)オキシダント」、環境技術、1981年、Vol.10、No.9、p.716-721
(5)甲5:大西 寛、束原 巌著、「機器分析実技シリーズ 吸光光度法?無機編?」、初版第2刷、共立出版株式会社、1988年6月10日、p.9、21、30
(6)甲6: 「吸光光度分析通則 K0115:2004」、JISハンドブック 49 分析化学、2015年、p.887
(7)甲7:マグローヒル科学技術用語大辞典編集委員会編、「マグローヒル 科学技術用語大辞典 第2版」、株式会社日刊工業新聞社、昭和60年3月25日、p.522、1761

第4 当審の判断
1 無効理由1(甲1に記載された発明を主たる引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如)
(1)甲1(米国特許第5,756,358号明細書)の記載内容
甲1には、以下の記載がされている(なお、原文の後に当審訳を付す。)。

ア.「 1. Colorimetric process for a determination, by formation of iodine from an excess iodide, of a content of peracid in the presence of hydrogen peroxide in an at least partly aqueous solution, in which a molar ratio between a concentration of hydrogen peroxide and a concentration of peracid does not exceed about comprising the steps of:
adjusting pH of the solution at a time of the determination to a value from 5 to 6.5;
reading a value of an intensity of an iodine color developed after a predetermined time gap following an addition of excess iodide; and
determining the content of peracid from the value read, by means of a system of calibration, wherein the determination is made at a temperature ranging from 5.degree. C. to 50.degree. C., wherein the concentration of peracid during the determination is lower than about 100 ppm by weight.」(請求項1)
「1.過剰ヨウ化物からのヨウ素形成による、少なくとも部分的に水性である溶液中の過酸化水素存在下における過酸の含有量の判定を行うための比色分析プロセスであって、過酸化水素の濃度と過酸の濃度との間のモル比が約を超過することはなく、
判定時の前記溶液のpHを5?6.5の値に調整するステップと、
過剰ヨウ化物の添加に続く所定の時間間隔の後に発色されたヨウ素の色の強さの値を読み取るステップと、
較正システムにより読み取った値から過酸の含有量を判定するステップとを備え、前記判定は、5℃?50℃の温度で行われ、前記判定中の過酸の濃度は、重量で約100ppm未満であるプロセス。」
なお、上記「モル比が約を超過することはなく」は、明細書の他の記載(第3欄27行、40行、第4欄50行)を参照するに「モル比が約100を超過することはなく」の誤記と認められる。

イ.「2. Process according to claim 1, wherein the peracid is peracetic acid.」(請求項2)
「2.前記過酸は、過酢酸である請求項1に記載のプロセス。」

ウ.「5. Processing according to claim 1, wherein the iodide is potassium iodide.」(請求項5)
「5.前記ヨウ化物は、ヨウ化カリウムである請求項1に記載の処理。」

エ.「7. Process according to claim 1, wherein the concentration of peracid during the determination is lower than 50 ppm (parts permillion) by weight.」(請求項7)
「7.判定中の過酸の濃度は、重量で、50ppm(100万分の1)未満である請求項1に記載のプロセス。」

オ.「On the other hand, it is known that at room temperature,peracetic acid reacts nearly instantaneously with iodides to give iodine, while under these conditions, hydrogen peroxide reacts only very slowly, if at all.This reaction, charateristic of the peracids with the iodides, gave rise to different studies reported in the literature. Recently, D. Martin Davies and Michael E. Deary have proposed, in Analyst (London), September1988, vol. 113, p 1477-1479, a spectrophotometric method for the determination of peracids in the presence of a large excess of hydrogen peroxide which utilizes this characteristic. This method, presented as being simple and fast,is in fact complicated since it implies, to determine each concentration of peracid, the formation of a curve of absorption as a function of time, afteraddition of the iodide to the sample, and the concentration in question is obtained by linear extrapolation at time t=0 when the iodide is added.」(第2欄61行?第3欄10行)
「一方、過酢酸は、室温ではヨウ化物とほぼ瞬時に反応してヨウ素を生じることが知られているが、室温という条件では、過酸化水素は、反応するとすれば、非常にゆっくり反応するという報告もある。この反応は、ヨウ化物に対する過酸の特性であるが、参考文献に報告される別の研究に繋がっている。最近では、D.Martin Davies及びMichael E.Dearyが、Analyst(London)、1988年9月、第113巻、1477?1479頁中で、この特性を利用した、過剰の過酸化水素の存在下において過酸を判定する分光光度測定法について提案している。この方法は、簡単且つ迅速なものとして記されているが、実際のところ、過酸の各濃度を判定するために、サンプルへのヨウ化物の添加後、時間の関数として吸収曲線を形成することを含み、且つ、当該濃度は、ヨウ化物添加時の時間t=0における線形外挿法によって得られるため、複雑である。」

カ.「the pH of the solution at the time of its determinationis adjusted at a value lower than or equal to 6.5,」(第3欄43行?44行)
「その判定時の溶液のpHは、6.5以下の値に調整され、」

キ.「On the other hand, to give accurate measurements, it isdesirable that the iodine color formed not be too intense. To do this, it isrecommended that the weight concentration of the peracid in the medium duringthe determination be lower than 100 ppm (parts permillion), preferablylower than 50 ppm.」(第4欄23行?28行)
「一方、正確に測定を行うため、形成されたヨウ素の色が過剰に強過ぎないことが望ましい。このために、判定中の媒体における過酸の重量濃度が、100ppm(100万分の1)未満であることが推奨され、50ppm未満であることが好ましい。」

ク.「The range of wavelengths used for the measurement,generally between 370 and 500 nm, essentially depends on the concentration of peracid in the medium during the determination.」(第4欄33行?36行)
「測定に使用される波長範囲は、通常、370?500nmであり、基本的に、判定中の媒体における過酸の濃度に応じて決まる。」

ケ.「the cells of the photometer are connected to a measuring unit which compares the intensity of the iodine color formed in the measuring vat by reference to the reference vat and transfers the difference to aregulator, which regulator operates, if necessary, a pump for the injection of a solution of peracid into the medium to be controlled.」(第5欄1行?6行)
「測光器のセルは、測定バットに形成されたヨウ素の色の強さを参照バットと比較し、この差異を調整器に送る測定部に接続されるが、この調整器は必要に応じて、過酸の溶液を制御対象の媒体に注入するためのポンプを作動する。」

コ.「on the other hand, the intensity of the iodine colorformed (yellow to red) in theanalyzing vat 8 is measured and compared to the reference in vat 7. Thedifference is transformed into current (4-20 mA) in themeasuring unit 14, then this current is transmitted at 15 to a regulator 16where it is transformed into information on a liquid crystal display 17. 」(第6欄29行?35行)
「一方、分析バット8内に形成されたヨウ素の色(黄色から赤)の強さを測定し、バット7内の参照と比較する。この差異は、測定部14において電流(4?20mA)に変換された後、この電流が15にて調整器16に送信され、ここで、液晶表示17上に表示する情報に変換される。」

サ.「The regulator 16 may be calibrated on the basis of two measuring points, namely zero and the concentration of a standard or caliber22. Indeed, the concentration of peracetic acid in the measuring flow 10 is adjusted so that the intensity of the iodine color formed is proportional to the concentration of peracetic acid. 」(第6欄41行?46行)
「調整器16は、2つの測定点、すなわち、0と標準又はキャリバ22の濃度に基づいて較正されてもよい。実際のところ、測定フロー10における過酢酸の濃度は、形成されるヨウ素の色の強さが、過酢酸の濃度と比例するよう調整される。」


シ.「In a first experiment, the filter used had a pass band of 430-470 nm.」(第7欄53?54行)
「第1の実験において、使用したフィルタは、430?470mmのパスバンドを有するものであった。」

ス.「A second experiment was carried out by utilizing the same apparatus, except that a filter having a pass band of 460 to 500 nm and the same solution as before, except at 0.7% instead of 0.4%, were used. Calibrationwas again carried out with the same solution at a concentration of 0.5%.」(第8欄14行?18行)
「第2の実験は、460?500nmのパスバンドのフィルタであること以外は同一の装置を利用し、且つ、0.4%ではなく、0.7%であること以外以前と同一の溶液を使用して、実施した。0.5%の濃度の同一の溶液により、較正を再度実施した。」

セ.図


上記記載からすると、甲1には、過酢酸がヨウ化物とほぼ瞬時に反応してヨウ素を生じるのに対し、過酸化水素は非常にゆっくり反応するという性質を利用して、分光光度測定法に基づいて過酸の量を判定するという従来技術(上記オ)をさらに改良した発明が記載されている。また、上記ケ、コ及びセ(図)から、「光源からの光は、測定バット8及び参照バット7を透過し、それぞれ測光器のセルに入射」することが読み取れる。
よって、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考のために引用した記載事項の箇所を括弧内に表記する。

「過剰ヨウ化カリウムからのヨウ素形成による、少なくとも部分的に水性である溶液中の過酸化水素存在下における過酢酸の含有量の判定を行うための比色分析プロセスであって、
過酸化水素の濃度と過酢酸の濃度との間のモル比が約100を超過することはなく、
判定時の前記溶液のpHを5?6.5の値に調整するステップと、
過剰ヨウ化カリウムの添加に続く所定の時間間隔の後に発色されたヨウ素の色の強さの値を読み取るステップと、
較正システムにより読み取った値から過酢酸の含有量を判定するステップとを備え、前記判定は、5℃?50℃の温度で行われ、前記判定中の過酢酸の濃度は、重量で50ppm(100万分の1)未満であり、(ア、イ、ウ、エ)
測定に使用される波長範囲は、通常、370?500nmであり、(ク)
光源からの光は、測定バット8及び参照バット7を透過し、それぞれ測光器のセルに入射し、(ケ、コ及びセ(図))
測定部は、測定バットに形成されたヨウ素の色の強さを参照バットと比較し、この差異を調整器に送り、(ケ)
調整器16は、形成されるヨウ素の色の強さが、過酢酸の濃度と比例するよう調整(較正)されている(サ)
プロセス。」

(2)本件発明1について
ア.「A 過カルボン酸と過酸化水素を含む平衡混合物において過カルボン酸濃度のみを測定する方法」について
甲1発明の「過剰ヨウ化カリウムからのヨウ素形成による、少なくとも部分的に水性である溶液中の過酸化水素存在下における過酢酸の含有量の判定を行うための比色分析プロセス」との記載において、過酢酸は、「過カルボン酸」に含まれるものであり、過酸化水素存在下における過酢酸の水溶液は、平衡反応状態の溶液である(例えば、下記2(1)イで摘記する甲2【0003】参照。)。
また、甲1には、過酢酸がヨウ化物とほぼ瞬時に反応してヨウ素を生じるのに対し、過酸化水素は非常にゆっくり反応するという性質を利用して、分光光度測定法に基づいて過酸の量を判定するという従来技術(上記(1)オ参照。)をさらに改良した発明が記載されていることを踏まえると、ヨウ化物(ヨウ化カリウム)と、(過酸化水素ではなく)過酢酸のみの反応を利用して過酢酸の含有量の判定をしているといえる。
よって、甲1発明は、本件発明1の構成要件Aを有しているといえる。

イ.「B a)平衡混合物にヨウ化カリウムを加えてヨウ素を発生させて測定試料とし」について
甲1発明は、上記アを踏まえると、平衡反応状態である溶液に「過剰ヨウ化カリウムの添加」し、「後に発色されたヨウ素の色の強さの値を読み取る」ものであるから、甲1発明は、本件発明1の構成要件Bを有しているといえる。

ウ.「C b)これを透過する光量を測定することにより、」「D 過カルボン酸濃度のみを測る」について
甲1発明の「測光器のセル」は、「測定バット8及び参照バット7を透過し」た「光源からの光」を、「色の強さ」として測定するものであり、本件発明1の構成要件Cの「透過する光量を測定する」ものに相当する。
また、甲1発明の「調整器」は、「形成されるヨウ素の色の強さが、過酢酸の濃度と比例するよう調整(較正)されている」から、甲1発明の、「過酢酸の含有量の判定を行う」ことは、光源からの光を、色の強さとして測定することにより過酢酸の濃度を判定していることであるといえる。
よって、甲1発明は、本件発明1の構成要件C及びDを有しているといえる。
そうすると、本件発明1と甲1発明には異なるところはない。
したがって、本件発明1は甲1発明である。

(3)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、さらに測定試料中の過カルボン酸濃度を0.01?50ppmに限定したものである。
この点、甲1発明は、「判定中の過酢酸の濃度は、重量で50ppm(100万分の1)未満であ」るから、本件発明2は、甲1発明である。

(4)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1または2を引用し、さらに、測定試料のpH値を1<pH<6の範囲に限定したものである。
この点、甲1発明は、「判定時の前記溶液のpHを5?6.5の値に調整する」ものであるから、本件発明3は、甲1発明である。

(5)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1?3の何れかを引用し、さらに測定試料中のヨウ化カリウム量を過カルボン酸モル数の2?60倍に限定するものである。ここで、当該数値範囲の下限値を「2倍」としているのは、2倍より少なければ、過カルボン酸と反応する必要量に不足するからである(段落【0012】)。
この点、甲1発明においては、ヨウ素については、「過剰」の添加をすると記載されているに留まるが、甲1発明においても、いわゆるヨウ化カリウム法によって、ヨウ素を発生させていることに鑑みれば、当該「過剰」とは、過酢酸と反応する必要量を超えることを意味していると理解される。そうすると、甲1発明においても、過カルボン酸モル数の2?60倍の範囲とすることは、技術常識に基づいて、適宜選択しうる範囲であると理解される。よって、ヨウ化カリウム量を過カルボン酸モル数の2?60倍とすることは、技術常識に基づいて当業者が容易になしうるものである。
したがって、本件発明4は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)本件発明5について
本件発明5は、本件発明1?4の何れかを引用し、さらに測定に用いる光の波長範囲を440?600nmに限定するものである。
この点、甲1発明は、「測定に使用される波長範囲は、通常、370?500nmであ」り、甲1には、430?470nm(上記(1)シ)、460?500nm(上記(1)ス)を用いることも記載されている。
してみると、本件発明5は甲1発明である。

(7)本件発明6について
本件発明6は、本件発明1?5の何れかを引用し、さらに過カルボン酸が過酢酸であることを限定するものである。
この点、甲1発明は、「過酢酸」の含有量の判定を行うための比色分析プロセスであるから、本件発明6は甲1発明である。

(8)小括
以上のとおりであるから、本件発明1?3、5、6は、甲1発明である。また、本件発明4は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 無効理由2(甲2に記載された発明を主たる引用例とする進歩性欠如)
(1)甲2(特開平6-130051号公報)の記載内容
甲2には、以下の記載がされている。

ア.「【請求項1】過酢酸、過酸化水素、酢酸混合水溶液中の過酢酸と過酸化水素の分別定量方法において、先ず、
(1)過酢酸に対して少過剰当量のヨウ化カリウム水溶液を混合水溶液に添加し、遊離したヨードをチオ硫酸ナトリウム標準液で滴定して過酢酸濃度を測定し、
次いで、
(2)過酸化水素に対して大過剰のヨウ化カリウム水溶液、希硫酸、およびモリブデン酸アンモニウム水溶液を添加し、再度遊離したヨードをチオ硫酸ナトリウム標準液で滴定して過酸化水素濃度を測定する
ことを特徴とする過酢酸、過酸化水素、酢酸混合水溶液中の過酢酸と過酸化水素の分別定量方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は過酢酸、過酸化水素、酢酸混合水溶液中の過酢酸(以下、PAAと略称する。)と過酸化水素(以下、H_(2)O_(2) と略称する。)を分別定量する方法に関する。PAAは種々の目的に使用される有用な薬剤である。例えば漂白剤、重合開始剤、殺菌剤、酸化剤として使用されている。」

イ.「【0003】重合開始剤や酸化剤等反応原料となる用途のPAAは、主にアセトアルデヒドより合成されるが、殺菌剤等比較的低濃度で使用される用途のPAAは、H_(2)O_(2)と酢酸とから合成される場合が多い。H_(2)O_(2)と酢酸からPAAと水ができる反応は平衡反応であるため、PAA水溶液中には常に数パーセント以上のH_(2)O_(2)と酢酸が存在する。このPAA使用時のPAA、H_(2)O_(2)の濃度管理は重要であり、手分析、機器分析等により工程中のPAA、H_(2)O_(2)の濃度を把握し、消費された分を追加注入することにより一定の濃度に保つことが望ましい。」

ウ.「【0012】従来の分析方法は、以上のような種々問題点がある。尚、(A)?(C)の方法は、PAA、H_(2)O_(2)の濃度を求めるためにいずれか一方だけを直接分析し、他は計算値として算出しているに過ぎないし、また、いずれの方法もPAA、H_(2)O_(2)の濃度を求めるために2回サンプリングしなければならない。本発明者等は、上記の欠点のない1回のサンプリングで直接PAA、H_(2)O_(2)を正確に分析できる方法を鋭意研究した結果、本発明を完成させた。」

エ.「【0014】PAA、H_(2)O_(2)が酸性下でヨウ化カリウムからヨウ素を遊離する反応は以下の式で示される。
CH_(3)COOOH+ 2I^(-) + 2H^(+) = CH_(3)COOH+H_(2)O +I_(2)
_( )H_(2)O_(2) + 2I^(-) + 2H^(+) = 2H_(2)O+I_(2)
これらの2つの反応は一般に硫酸酸性下で行われるが、酢酸酸性下でも反応は進行する。両者の反応速度は異なり、PAAとヨウ化カリウムとの反応は速く、H_(2)O_(2)とヨウ化カリウムとの反応は遅い。特に酢酸酸性下で硫酸が存在しない場合はこの差が大きくなる。しかし、大過剰当量のヨウ化カリウムが存在するとH_(2)O_(2)との反応も徐々に進み、PAAとH_(2)O_(2)を分別して測定することは難しかった。」

オ.「【0015】ところが、硫酸の非存在下で、PAAに対して少過剰当量のヨウ化カリウムを添加したところ、PAAのみがヨウ化カリウムと反応し、ヨードを遊離することが分かった。このヨードをチオ硫酸ナトリウム標準液で滴定することによって、H_(2)O_(2)の影響を全く受けずにPAAを定量することができる。また、このPAAを測定した後の液に希硫酸、過酸化水素に対して過剰当量のヨウ化カリウム溶液、及び反応触媒としてモリブデン酸アンモニウム液を添加して、再度ヨードを遊離させ、そのヨードをチオ硫酸ナトリウム標準液で滴定することによってH_(2)O_(2)を定量することができる。」

カ.「【0016】
【実勢例】以下に実施例をあげて本発明を詳細に説明する。
実施例1
市販PAA、H_(2)O_(2)、酢酸混合水溶液(商品名オキシペール060(PAA6%品),日本パーオキサイド株式会社製)を200ml三角フラスコに約0.3g精秤し、純水100mlと1Mヨウ化カリウム溶液を0.6?1.0ml(6%PAA 0.3gと0.48mlが反応当量)加え、遊離したヨードを0.1Nチオ硫酸ナトリウム標準溶液により無色になるまで滴定した。(Aml) さらに、(1+9)硫酸10ml、1Mヨウ化カリウム溶液10ml、5%モリブデン酸アンモニウム溶液1滴を加え、再度遊離したヨードを0.1Nチオ硫酸ナトリウム標準溶液で滴定し、液が淡黄色になった時に0.5%デンプン溶液を1ml加え滴定を続け、無色となった点を終点とした。(Bml)
PAA、H_(2)O_(2)濃度は下記の式により計算した。
PAA(%)=0.38×f×A/S
H_(2)O_(2)(%)=0.17×f×B/S
f : 0.1Nチオ硫酸ナトリウム標準液のファクター
S : 試料採取量(g)
1Mヨウ化カリウム溶液の添加量を0.6ml、0.8ml、1.0mlとし、それぞれ3回ずつ分析したときのPAA、H_(2)O_(2)濃度(%)は下記の表のようになった。」

キ.「【0018】実施例2
市販PAA、H_(2)O_(2) 、酢酸混合水溶液(商品名オキシペール150(PAA15%品),日本パーオキサイド株式会社製)を200ml三角フラスコに約0.1g精秤し、純水100mlと1Mヨウ化カリウム溶液1mlを加え、実施例1と同様にしてPAA、H_(2)O_(2) 濃度(%)を3回測定した。」

ク.「【0020】実施例3 オキシペール150 0.1102gを200mlビーカーに秤り取り、これに純水100mlと1Mヨウ化カリウム溶液1mlを加えた後、酸化還元電位計の電極を入れ、0.1Nチオ硫酸ナトリウム標準溶液(f=1.012)を滴下しながら電位を測定した。電位が急激に低下したところで(1+9)硫酸10mlと1Mヨウ化カリウム溶液10ml、5%モリブデン酸アンモニウム溶液1滴を加えて、さらに測定を続けたときの0.1Nチオ硫酸ナトリウム標準溶液滴下量と電位との関係は次の通りであった。」

上記アから、甲2には、「過酢酸、過酸化水素、酢酸混合水溶液中の過酢酸と過酸化水素を分別定量する方法に関する」(【0001】)発明として、請求項1に

「過酢酸、過酸化水素、酢酸混合水溶液中の過酢酸と過酸化水素の分別定量方法において、先ず、
(1)過酢酸に対して少過剰当量のヨウ化カリウム水溶液を混合水溶液に添加し、遊離したヨードをチオ硫酸ナトリウム標準液で滴定して過酢酸濃度を測定し、
次いで、
(2)過酸化水素に対して大過剰のヨウ化カリウム水溶液、希硫酸、およびモリブデン酸アンモニウム水溶液を添加し、再度遊離したヨードをチオ硫酸ナトリウム標準液で滴定して過酸化水素濃度を測定する
過酢酸、過酸化水素、酢酸混合水溶液中の過酢酸と過酸化水素の分別定量方法。」(以下「甲2発明」という。)が記載されている。

(2)本件発明1、6について
ア 「A 過カルボン酸と過酸化水素を含む平衡混合物において過カルボン酸濃度のみを測定する方法」について
本件発明6は、本件発明1を引用し、さらに過カルボン酸が過酢酸であることを限定するものであるから、甲2発明の「過酢酸濃度を測定」することと、本件発明1、6の「過カルボン酸(過酢酸)濃度のみを測定する」こととは、「過カルボン酸(過酢酸)濃度を測定する」点で共通する。
また、甲2発明の「過酢酸、過酸化水素、酢酸混合水溶液」は、「H_(2)O_(2)と酢酸からPAAと水ができる反応は平衡反応である」(【0003】)から、本件発明1、6の「過カルボン酸(過酢酸)と過酸化水素を含む平衡混合物」に相当する。
よって、甲2発明と本件発明1、6とは、構成要件Aのうち「過カルボン酸(過酢酸)と過酸化水素を含む平衡混合物において過カルボン酸(過酢酸)濃度を測定する方法」で共通する。

イ 「B a)平衡混合物にヨウ化カリウムを加えてヨウ素を発生させて測定試料とし」について
上記アを踏まえると、甲2発明の「過酢酸に対して少過剰当量のヨウ化カリウム水溶液を混合水溶液に添加し」、「ヨード」を「遊離し」て、滴定による測定の試料としているから、甲2発明は、本件発明1、6とは、構成要件Bを備えているといえる。

ウ 「C b)これを透過する光量を測定することにより、」「D 過カルボン酸濃度のみを測る」について
甲2発明の「遊離したヨードをチオ硫酸ナトリウム標準液で滴定して過酢酸濃度を測定」ことと、本件発明1、6の、構成要件C,Dのうち「C これを測定することにより、」「D 過カルボン酸濃度(過酢酸)を測る」点で共通する。

エ 一致点、相違点
以上のことから、本件発明1、6と甲2発明は、以下の一致点及び相違点を有していると認められる。(一致点)
「過カルボン酸(過酢酸)と過酸化水素を含む平衡混合物において過カルボン酸(過酢酸)濃度を測定する方法であって、
a)平衡混合物にヨウ化カリウムを加えてヨウ素を発生させて測定試料とし、
b)これを測定することにより、
過カルボン酸濃度を測る測定方法。」

(相違点1)
本件発明1、6は、測定試料を透過する光量を測定するのに対して、甲2発明は、測定試料における遊離したヨードをチオ硫酸ナトリウム標準液で滴定する点。
(相違点2)
本件発明1、6は、過カルボン酸(過酢酸)濃度のみを測定するのに対し、甲2発明は、過酢酸と過酸化水素の分別定量であって、過酢酸濃度だけでなく、過酸化水素濃度も測定する点。

オ 判断
事案に鑑み、相違点1と相違点2をまとめて検討する。

ヨウ化カリウムとの反応により発生したヨウ素の量を定量することによって目的物の濃度や量を求める方法(一般に「ヨウ化カリウム法」とも称される)において、当該ヨウ素の定量を吸光光度法によって行うことは、例えば、甲3の51頁表23.1や甲4の717頁に記載されているとおり、本件出願時において周知である。
よって、甲2発明の(1)の過酢酸濃度の測定において、ヨウ素の定量を、チオ硫酸ナトリウムの滴定法に換えて、吸光光度法により行うことが、当業者にとって容易になしうるものであるか否か以下検討する。

甲2発明は、先ず(1)の過酢酸濃度を測定し、次いで、(2)の過酸化水素濃度を測定する方法の発明である。
また、甲2には、【0015】に、「硫酸の非存在下で、PAAに対して少過剰当量のヨウ化カリウムを添加したところ、PAAのみがヨウ化カリウムと反応し、ヨードを遊離することが分かった。このヨードをチオ硫酸ナトリウム標準液で滴定することによって、H_(2)O_(2)の影響を全く受けずにPAAを定量することができる。」ことが記載されている。
このことから、甲2発明の(1)の過酢酸濃度を測定することは、「H_(2)O_(2)の影響を全く受けずにPAAを定量する」ものであるから、甲2発明の(1)の工程では、過酢酸濃度「のみ」を測定しているといえる。

しかしながら、甲2発明において、(2)の過酸化水素濃度の測定は、(1)の過酢酸濃度の測定で「遊離したヨードをチオ硫酸ナトリウム標準液で滴定」した後に行われるものであるところ、(1)の過酢酸濃度の測定(ヨウ素の定量)に吸光光度法を採用した場合、滴定反応が無い状態、つまり、遊離したヨードが残った状態で(2)の過酸化水素濃度の測定をすることになる。この場合、(2)のヨウ素の定量を、チオ硫酸ナトリウムの滴定法で行うか、吸光光度法で行うかにかかわらず、過酸化水素の濃度を直接測定することができなくなる。
甲2の【0012】に、「従来の分析方法は、以上のような種々問題点がある。尚、(A)?(C)の方法は、PAA、H_(2)O_(2)の濃度を求めるためにいずれか一方だけを直接分析し、他は計算値として算出しているに過ぎないし、また、いずれの方法もPAA、H_(2)O_(2)の濃度を求めるために2回サンプリングしなければならない。本発明者等は、上記の欠点のない1回のサンプリングで直接PAA、H_(2)O_(2)を正確に分析できる方法を鋭意研究した結果、本発明を完成させた。」と記載されているように、甲2発明は、1回のサンプリングで直接PAA、H_(2)O_(2)を正確に分析できる方法であることを踏まえると、甲2発明において、ヨウ素の定量を、チオ硫酸ナトリウムの滴定法に換えて、吸光光度法により行うことは、直接過酸化水素(H_(2)O_(2))の濃度を求めることができなくなるため、阻害要因があるといえる。

したがって、本件発明1、6は、甲2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明3ないし5について
本件発明3ないし5も、本件発明1の構成を全て備え、さらに限定したものであるから、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1?6は、甲2発明、周知技術および技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 無効理由3(実施可能要件違反)
請求項1には、「過カルボン酸と過酸化水素を含む平衡混合物において過カルボン酸濃度のみを測定する方法であって、a)平衡混合物にヨウ化カリウムを加えてヨウ素を発生させて測定試料とし、b)これを透過する光量を測定することにより、過カルボン酸濃度のみを測る、ことを特徴とする測定方法。」という発明が記載されている。

無効理由3は、この請求項1の「光量」とは、通常、「光源から放出される前放射エネルギー」を意味し、「ルーメン時」または「ルーメン秒」を単位として測定されるものである。しかるところ、本件明細書の発明の詳細な説明には、このような「光量」を測定することにより、過カルボン酸濃度のみを測定する方法については一切記載されておらず、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たしていないというものである。

そこで、「(測定試料を)透過する光量を測定することにより、過カルボン酸濃度のみを測る」ことについて、発明の詳細な説明の記載を検討するに、
「【0020】
図8は本実施形態に係る過カルボン酸濃度の測定に用いる測定装置の全体斜視図、また、図9は該測定装置の要部を概略的に示す説明図である。
これらの図に示すように、本実施形態に係る測定装置10は、その主要な構成要素として、電源20を備えた(又は外部電源に接続される)動力部11と、測定試料(過カルボン酸と過酸化水素を含む平衡混合物)を注入する注入部12bを備えた計量部12と、動力部11および計量部12を制御すると共に測定試料の濃度を定量する制御分析ユニット13と、を備えている。
【0021】
計量部12は、上記注入部12bから注入された測定試料を収容する例えば筒状の試料収容部30と、該試料収容部30の一側(図9では左側)に配置された発光部21と、試料収容部30を挟んで上記発光部21と対向配置された受光部31とを備えている。」

「【0028】
<実施例1>
実施例1では、サラヤ(株)製の過酢酸6%消毒液(商品名:アセサイド)を蒸留水で20倍に希釈したものを試験液として用いた。試験液の過酢酸濃度をヨウ素滴定法により求めたところ、過酢酸0.356%となった。この試験液0.1?0.2mL(ミリ・リットル)に240mg/Lのヨウ化カリウム溶液を加えて、全量を20mLとした(測定試料)。これを混合させた後、波長がそれぞれ430nm,440nm,470nm,600nmの光を用いて吸光度を測定した。その測定結果を図1に示す。この吸光度は、公知の紫外可視分光光度計にて測定したものである。
また、上記測定装置10において波長470nmの発光素子25(LED)を光源とし、測定試料を透過する光を受光素子32(フォトダイオード)で受光した時に発生する電圧を測定した結果を、図2に示す。
【0029】
・・・ 以上のように、図1の測定結果に対応する回帰式の相関係数R2は、波長440nmの場合で0.9927、波長470nmの場合で0.9978、波長600nmの場合で0.9980となり、これらの場合には優れた直線性が得られることが分かるが、波長430nmの場合にはR2=0.9758となり、直線性が低下した。
【0030】
一方、図2に示す通り、発光素子25(LED)と受光素子32(フォトダイオード)を用いた本実施形態の測定装置10においても、測定結果に対応する回帰式の相関係数R2=0.9950となり、測定試料中の過酢酸濃度と測定結果の間には、吸光度の場合(図1参照)と同様に、優れた直線関係が得られることが確認できた。」(なお、下線は、当審が付与した。)
との記載がある。

この発明の詳細な説明の記載から、試料収容部を挟んで発光部と対向配置された受光部とを備える計量部の構成が理解され、測定試料を透過する光から分光光度計にて吸光度を測定した測定結果(図1)、測定試料を透過する光を受光素子(フォトダイオード)で受光した時に発生する電圧を測定した測定結果(図2)から、測定試料中の過酢酸濃度と測定結果の間に、直線関係が得られることが確認されている。
ここで、分光光度計又は受光素子による測定は、光量を測定しているといえ、また、分光光度計又は受光素子による測定結果と測定試料中の過酢酸濃度との間に直線関係があることから、光量を測定することにより、過酢酸濃度を測定することは可能である。
よって、発明の詳細な説明には、「(測定試料を)透過する光量を測定することにより、過カルボン酸濃度のみを測る」ことが、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明に記載されているといえる。

なお、請求人も、「「透過する光量を測定」する点については、明細書中に明確な定義がされていないが、明細書の記載からすると、分光光度計によって吸光度を測定する方法が、この測定に含まれるとの一応の理解が可能である」(請求書第14頁第1?5行)としている。

したがって、請求人が主張する無効理由3(実施可能要件違反)によって本件請求項1?6に係る特許を無効にすることはできない。

第5 むすび
本件発明1?3、5、6は、甲1発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、また、本件発明4は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、これらの特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-02-12 
結審通知日 2020-02-17 
審決日 2020-02-28 
出願番号 特願2009-511913(P2009-511913)
審決分類 P 1 113・ 113- Z (G01N)
P 1 113・ 536- Z (G01N)
P 1 113・ 121- Z (G01N)
最終処分 成立  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 森 竜介
福島 浩司
登録日 2009-08-14 
登録番号 特許第4359336号(P4359336)
発明の名称 過カルボン酸濃度測定方法  
代理人 箱田 満  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 吉田 環  
代理人 田村 啓  
代理人 小林 浩  

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