• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B05D
管理番号 1361446
異議申立番号 異議2018-701048  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-25 
確定日 2020-02-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6348107号発明「Zn-Al-Mgコーティングを有するプレラッカー塗装された金属シートを製造する方法および対応する金属シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6348107号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-25]について訂正することを認める。 特許第6348107号の請求項9ないし12に係る特許を維持する。 特許第6348107号の請求項1-8及び13-25に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 主な手続の経緯等

特許第6348107号(設定登録時の請求項の数は25。以下、「本件特許」という。)は、2013年(平成25年)4月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年(平成24年)4月25日 フランス共和国)を国際出願日とする特許出願である特願2015-507653号に係るものであって、平成30年6月8日に設定登録され、特許掲載公報が同年同月27日に発行された。
特許異議申立人 伊東多永子(以下、単に「申立人」という。)は、平成30年12月25日に本件特許の請求項1ないし25に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。
当審において、平成31年3月7日付けで取消理由を通知したところ、特許権者から、令和1年6月10日に訂正請求書及び意見書が提出され、同年6月20日付けで申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、申立人から、同年7月25日付けで意見書が提出された。
さらに、当審において、令和1年8月28日付けで取消理由<決定の予告>を通知したところ、特許権者から、同年11月29日に訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)及び意見書が提出されたものである。
なお、令和1年6月10日に提出された訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされる。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1ないし3である。ここで、訂正事項1ないし3は、訂正前の請求項1?25という一群の請求項を訂正するものである。また、下線については訂正箇所に当審が付したものである。

訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1?8を削除する。

訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項9に

「以下の一連の工程」
とあるのを、
「以下の一連のこの順序での工程」
に訂正する。
請求項9を直接又は間接的に引用する請求項10?12についても同様の訂正を行う。

訂正事項3
特許請求の範囲の請求項13?25を削除する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1?8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項9においての「以下の一連の工程」との記載が、工程の順が必ずしも明りょうではなかったものを、「以下の一連のこの順序での工程」に訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項2の請求項9の訂正に伴って訂正される請求項10ないし12についても同様である。

(3) 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項13?25を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-25]について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし25に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明25」のようにいう。)は、令和1年11月29日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし25に記載された事項により特定される以下に記載のとおりのものである。

「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
金属シート(1)を製造する方法であって、以下の一連のこの順序での工程:
-鋼基板(3)を浴に浸し、冷却することにより得られる金属コーティング(7)でそれぞれコーティングされた2つの面(5)を有する鋼基板(3)を用意する工程であって、
当該浴は、マグネシウムおよびアルミニウム、および場合によりSi、Sb、Pb、Ca、Mn、Sn、La、Ce、Cr、Ni、Zr及びBiから選択される、それぞれ最大0.3重量%までの任意の添加元素、および場合により最大5重量%までの鉄からなる溶融亜鉛浴からなり、
各金属コーティング(7)は、亜鉛、0.1から20重量%のアルミニウム、および0.1から10重量%のマグネシウムを含み、このようにコーティングされた基板(3)は、スキンパス工程を施されている工程、
-金属コーティング(7)の外面(15)を脱脂する工程、
-金属コーティング(7)の外面(15)をすすぎ、乾燥させる工程、
-金属コーティング(7)の外面(15)に、クロムを含有しない酸性変換溶液を塗布する工程であって、変換溶液が、1から2のpHを有する工程、
-金属コーティング(7)の外面(15)を乾燥させる工程、
-金属コーティング(7)の外面(15)を塗装して、電気泳動塗料を除く、メラミン架橋ポリエステル、イソシアネート架橋ポリエステル、ポリウレタンおよびビニルポリマーのハロゲン化誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのポリマーを含む塗膜(9、11)で各外面を被覆する工程
からなる方法。
【請求項10】
0.2秒から30秒の時間の間、金属コーティング(7)の外面(15)に酸性変換溶液が塗布される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
0.2秒から15秒の時間の間、金属コーティング(7)の外面(15)に酸性変換溶液が塗布される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
0.5秒から15秒の時間の間、金属コーティング(7)の外面(15)に酸性変換溶液が塗布される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
(削除)
【請求項15】
(削除)
【請求項16】
(削除)
【請求項17】
(削除)
【請求項18】
(削除)
【請求項19】
(削除)
【請求項20】
(削除)
【請求項21】
(削除)
【請求項22】
(削除)
【請求項23】
(削除)
【請求項24】
(削除)
【請求項25】
(削除)」

第4 特許異議申立書に記載した申立理由の概要

平成30年12月15日に申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(特許法第29条第2項:甲1に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載の技術事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(特許法第29条第2項:甲3に基づく進歩性)
本件特許の請求項9ないし12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲第3号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第4号証に記載の技術事項に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

3 申立理由3(特許法第29条第2項:甲1に基づく進歩性)
本件特許の請求項13ないし25に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載の技術事項に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

4 証拠方法
甲第1号証:特開2011-206646号公報
甲第2号証:特開2001-348678号公報
甲第3号証:国際公開第00/71773号
甲第4号証:特開2006-22363号公報
以後、甲第1号証から甲第4号証については、それぞれ「甲1」から「甲4」という。

第5 取消理由<決定の予告>の概要

令和1年8月28日付けで通知した取消理由<決定の予告>の概要は、
次のとおりである。

1 取消理由3(明確性)
本件特許の請求項1ないし12及び17ないし24についての特許は、下記の理由で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
・・・
2 取消理由1(進歩性)
本件特許の請求項1ないし8及び13ないし24に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許の請求項1ないし8及び13ないし24についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・・・

・・・
刊行物
特開2011-206646号公報(特許異議申立書の証拠方法である甲1)
特開2001-348678号公報(特許異議申立書の証拠方法である甲2)
・・・
なお、当審からの取消理由<決定の予告>の取消理由1(進歩性)は、特許異議申立書に記載の申立理由1及び3と同趣旨である。

第6 取消理由<決定の予告>についての当審の判断

取消理由1(進歩性)についての対象となる請求項1ないし8、13ないし24は、本件訂正請求により削除されたので、取消理由1(進歩性)は解消された。
取消理由3(明確性)については、本件訂正請求により、一部対象となる請求項が削除されると共に、訂正前の請求項9の「以下の一連の工程」との記載が「以下の一連のこの順序での工程」に訂正されることで明りょうとなったので、取消理由3(明確性)も解消された。

第7 取消理由<決定の予告>で採用しなかった特許異議申立書に記載の申立理由について

当審からの取消理由<決定の予告>で採用しなかった特許異議申立書に記載の申立理由は、訂正前の請求項9?12に対する申立理由2(甲3に基づく進歩性)であるので、当該申立理由2についての判断を以下に示す。
なお、申立理由3のうち請求項25に係る特許に対するものは、上述のとおり本件訂正請求により請求項25が削除されたので、理由がないことが明らかである。

1 甲3の記載事項
甲3には、以下の記載がある。
(1) 「本発明の塗装鋼板は下地処理したZn-Mg-Al-Si合金めっき鋼板の上に有機被覆層を有することを特徴としている。有機被膜としてはポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素系樹脂、ブチラール樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノール樹脂などである。これらの混合物や共重合物も使用できる。また、これらにイソシアネート樹脂、アミノ樹脂、シランカップリング剤あるいはチタンカップリング剤等を補助成分として併用することができる。本発明による塗装鋼板は加工後に補修をされずにそのまま使用されるケースが多いので、厳しい加工が施される用途では、ポリエステル樹脂をメラミンで架橋する樹脂系、ポリエステル樹脂をウレタン樹脂(イソシアネート、イソシアネート樹脂)で架橋する樹脂系、塩化ビニル樹脂系、フッ素樹脂系(溶剤可溶型、 アクリル樹脂との分散混合型)が望ましい。」(第26頁第13行?第26行)

(2) 「(実施例14)
厚さ0.8mmの冷延鋼板を準備し、これに450℃のZn?3%Mg-11%Al-0.2%Si系めっき浴で3秒溶融めっきを行い、N_(2)ワイピングでめっき付着量を135g/m^(2)に調整した。なお、下層にはNiプレめっき層を施した。得られためっき鋼板のめっき層中組成は、Mg3%、A15%、Si0.15%であった。
めっき鋼板は、脱脂剤として日本パーカライジング(株)製FC-364Sを使用し、2重量%の水溶液とし、60℃、10秒間浸潰し、その後、水洗、乾燥の工程で脱脂処理を行った。次いで、表21に示す組成の下地処理材を塗布し熱風乾燥炉で乾燥した。乾燥時の到達板温は150℃とした。タンニン酸としては「タンニン酸AL」富士化学工業(株)製、「BREWTAN」(オムニケム社製)、TANAL1 (オムニケム社製)を使用した。シリカとしては「スノーテックスN、表中ではST?Nと記載」(日産化学工業(株)製)を使用した。
次に、下塗り塗装として日本ペイント(株)製P641プライマー塗料(ポリエステル樹脂系、表中の樹脂種はポリエステルとした)、日本ペイント(株)製P108ブライマー(エポキシ樹脂系、表中の樹脂種はエポキシとした)、日本ペイント製P304プライマー(ウレタン樹脂系、表中の樹脂種はウレタンとした)の防錆顔料を表21に記載した防錆顔料(亜リン酸亜鉛、カルシウムシリケート、バナジン酸/リン酸混合系、モリブデン酸系)に変更したものをバーコーダーで塗布し、熱風乾燥炉で最高到達板温が220℃となる条件で焼き付けて膜厚を15μmになるように調整した。下塗り塗装の上に、上塗り塗装として、日本ペイント(株)製FL100HQ (ポリエステル樹脂系)をバーコーターで塗布し、熱風乾燥炉で到達板温が220℃となる条件で焼き付けて膜厚を15μmに調整した。」(第67頁第1行?第26行)

(3)「

」(第69頁)

2 甲3に記載された発明
上記1(2)及び(3)の記載から、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

<甲3発明>
「塗装鋼板の製造方法であって、以下の一連のこの順序での工程、
鋼板を浴に浸し、めっき層を形成し、両面にめっき層を有するめっき鋼板を用意する工程、
前記浴は、溶融Zn-3%Mg-11%Al-0.2%Si系合金めっき浴であり
めっき層は、亜鉛、3%マグネシウム、5%のアルミニウムを含み、
各めっき層の外面を脱脂する工程、
各めっき層の外面を水洗、乾燥させる工程、
めっき層の外面にタンニン酸を含む溶液を塗布する工程、
めっき層の外面を乾燥させる工程、
めっき層の外面に、日本ペイント(株)製FL100HQ(ポリエステル樹脂系)を塗布し、外面を被覆する工程、
からなる方法。」

3 甲2の記載の記載事項
甲2には、以下の記載がある。
(1)「【0014】めっき層表面を酸等でエッチングすると、酸に溶解しやすいZn_(2)Mg相が優先的にエッチングされ、めっき層表面に微細な凹凸が形成される。他方、Ti-B系,Ti-Al系,Al-B系析出物はエッチング後のめっき層表面に残るため、めっき層表面の硬度が上昇する。エッチングに使用される酸には、塩酸,硝酸等がある。機械的な方法、たとえばブラッシング,ダル加工,ブラスティング等の方法でめっき層表面に凹凸をつけることもできる。この場合、軟らかいAl相,Zn相が優先的に除去され、或いは軟らかいAl相,Zn相がダルロール等で圧下され、Ti-B系,Ti-Al系,Al-B系の硬質析出物が残るためめっき層表面が硬質化する。めっき層表面の凹凸は、他のめっき材と同様にダルロールの表面粗さや研磨剤又は研掃剤の材質及び粒径によって変えることができる。」

(2)「【0035】
【実施例4】研削ベルトを用いたブラッシング,ダルロールによる圧延及びブラスティングによりめっき層を粗面化し、めっき層表面に凹凸を付けた溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。得られた溶融亜鉛めっき鋼板の表面を観察したところ、表7に示されるように、Al相やZn相が研削ベルトやスチールショットで機械的に除去された跡又はダルロールによる圧下跡が検出された試験番号1?7では、表面粗さがRa1.9?4.4μmの微細な凹凸がめっき層表面に付けられており、Ti-B系,Ti-Al系,Al-B系の硬質析出物も検出された。他方、めっき組成の異なる試験番号8?11では、表面粗さRa1.1μmの微細な凹凸が検出されたものの、軟らかいZn相だけでTi-B系,Ti-Al系,Al-B系の硬質析出物が検出されなかった。」

(3)「【0037】



4 甲4の記載の技術事項
甲4には、以下の記載がある。
(1)「【実施例3】
【0117】
まず、表2に示すめっき鋼板を準備し、これらのめっき鋼板を脱脂した後、表4に示す薬剤を用いて表5?7に示す組成の下地処理剤を塗布し熱風乾燥炉で乾燥した。乾燥時の到達板温は150℃とした。」

(2)「【0129】


(3)「【0131】



5 本件発明9と甲3発明との対比・判断
甲3発明の「塗装鋼板」、「鋼板」、「めっき層」、「両面」、「水洗」は、それぞれ、本件発明9の「金属シート(1)」、「鋼基板(3)」、「金属コーティング(7)」、「2つの面(5)」、「すすぎ」に相当する。
甲3発明の「浴」の組成からみて、甲3発明の「浴」は、本件発明9の「当該浴は、マグネシウムおよびアルミニウム、および場合によりSi、Sb、Pb、Ca、Mn、Sn、La、Ce、Cr、Ni、Zr及びBiから選択される、それぞれ最大0.3重量%までの任意の添加元素、および場合により最大5重量%までの鉄からなる溶融亜鉛浴からなり」に相当する。
また、甲3発明の「めっき層」は、「亜鉛、3%マグネシウム、5%のアルミニウムを含」むものであることから、甲3発明の「めっき層」は、本件発明9の「各金属コーティング(7)は、亜鉛、0.1から20重量%のアルミニウム、および0.1から10重量%のマグネシウムを含み」を満足している。
甲3発明の「めっき層の外面にタンニン酸を含む溶液を塗布する工程」は、本件発明9の「-金属コーティング(7)の外面(15)に、クロムを含有しない変換溶液を塗布する工程」に相当する。
甲3発明の「めっき層の外面に、日本ペイント(株)製FL100HQ(ポリエステル樹脂系)を塗布し、外面を被覆する工程」部分は、本件発明9の「金属コーティング(7)の外面(15)を塗装して、電気泳動塗料を除く、ポリエステルを含む塗膜(9、11)で各外面を被覆する工程」に相当する。

そうすると、本件発明9と甲3発明とは、
「金属シート(1)を製造する方法であって、以下の一連のこの順序での工程:
-鋼基板(3)を浴に浸し、冷却することにより得られる金属コーティング(7)でそれぞれコーティングされた2つの面(5)を有する鋼基板(3)を用意する工程であって、
当該浴は、マグネシウムおよびアルミニウム、および場合によりSi、Sb、Pb、Ca、Mn、Sn、La、Ce、Cr、Ni、Zr及びBiから選択される、それぞれ最大0.3重量%までの任意の添加元素、および場合により最大5重量%までの鉄からなる溶融亜鉛浴からなり、
各金属コーティング(7)は、亜鉛、0.1から20重量%のアルミニウム、および0.1から10重量%のマグネシウムを含み、
-金属コーティング(7)の外面(15)を脱脂する工程、
-金属コーティング(7)の外面(15)をすすぎ、乾燥させる工程、
-金属コーティング(7)の外面(15)に、クロムを含有しない酸性変換溶液を塗布する工程
-金属コーティング(7)の外面(15)を乾燥させる工程、
-金属コーティング(7)の外面(15)を塗装して、電気泳動塗料を除く、ポリエステルポリマーを含む塗膜(9、11)で各外面を被覆する工程
からなる方法。」

の点で一致し、下記の相違点1ないし3で相違する。

<相違点1>
脱脂する工程の前に、本件発明9は、「このようにコーティングされた基板(3)は、スキンパス工程を施されている工程」を有することを特定するのに対し、甲3発明は、この点を特定しない点。

<相違点2>
「金属コーティング(7)の外面にクロムを含有しない酸性変換溶液を塗布する工程」に関し、本件発明9における「変換溶液」は、「1から2のpHを有する」と特定するのに対し、甲3発明における「変換溶液」は、pHが特定されていない点。

<相違点3>
「金属コーティング(7)の外面(15)を塗装して、電気泳動塗料を除く、ポリエステルポリマーを含む塗膜(9、11)で各外面を被覆する工程」に関し、本件発明9は、「メラミン架橋ポリエステル、イソシアネート架橋ポリエステル」と特定するのに対し、甲3発明は、「日本ペイント(株)製FL100HQ(ポリエステル樹脂系)」である点。

事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
甲3発明の酸性変換溶液である「タンニン酸」は弱酸であるから、そのpHが1?2ではない。また、甲3のいずれの記載をみても、酸性変換溶液としてpH1?2のものを利用することについての記載も示唆もない。そして、甲2及び甲4においても、酸性変換溶液として、そのpHが1?2のものを利用することについての記載はない。なお、甲4において、タンニン酸と同列に記載されているのは、弱酸である没食子酸のみである。
してみれば、甲3発明の酸性変換溶液の発明特定事項として、相違点2に係る構成とすることは、当業者においても想到容易でない。

申立人は、申立人の申立理由2に係る上記相違点2に関し、特許異議申立書の43頁において、「酸性変換溶液が1から2のpHを有する」具体的な溶液は、本件特許明細書の段落【0034】によれば「ヘキサフルオロチタン酸」又は「ヘキサフルオロジルコン酸」といえることを前提として、甲4には、「ヘキサフルオロチタン酸」又は「ヘキサフルオロジルコン酸」をタンニン酸と併用することが記載されているので、甲3発明のタンニン酸に代えて、「ヘキサフルオロチタン酸」又は「ヘキサフルオロジルコン酸」を利用することは容易であるから、相違点2は容易である旨主張(以下、「主張1」という。)する。
また、申立人は、上記相違点2について、令和1年7月25日提出の意見書の9頁において、変換溶液が1から2のpHを有することは、当業者の技術常識であり、甲4にpHが1から2の変換溶液が示されている旨主張(以下、「主張2」という。)する。
主張1について検討するに、本件特許明細書の段落【0034】をみても、「ヘキサフルオロチタン酸」又は「ヘキサフルオロジルコン酸」のpHが1から2であるとはいえず、「ヘキサフルオロチタン酸」又は「ヘキサフルオロジルコン酸」のpHが1から2であることを示す証拠もないから、申立人の主張は、その前提において誤りである。さらにいえば、甲4において、ポリフェノール化合物(f)として「タンニン酸」と同列に記載されているのは弱酸である「没食子酸」のみであって、「ヘキサフルオロチタン酸」又は「ヘキサフルオロジルコン酸」は別の分類項目である「リン酸、ヘキサフルオロ金属酸(g)」として記載されているものであるから、甲4の記載をみても、相違点2が想到容易ということはできない。
次に、主張2について検討すると、申立人の提示した証拠には、「変換溶液」が1から2のpHを有することについての記載はなく、甲4にも、pHが1から2の変換溶液の記載はないから、当該主張2も失当であって採用できない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明9は、甲3発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6 本件発明10ないし12と甲3発明との対比・判断
請求項10ないし12は請求項9を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明10ないし12は、本件発明9をさらに限定したものであるから、本件発明9と同様に、甲3発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

7 まとめ
よって、本件発明9ないし12に対する特許異議申立書に記載の申立理由2は、理由がない。

第8 むすび

以上のとおりであるから、当審において通知した取消理由<決定の予告>及び特許異議申立書に記載の申立理由によっては、本件特許の請求項9ないし12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項9ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の請求項1?8及び13?25に係る特許は、上記第2のとおり、本件訂正請求により削除された。これにより、請求項1?8及び13?25に係る特許に対する申立人による特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
金属シート(1)を製造する方法であって、以下の一連のこの順序での工程:
-鋼基板(3)を浴に浸し、冷却することにより得られる金属コーティング(7)でそれぞれコーティングされた2つの面(5)を有する鋼基板(3)を用意する工程であって、
当該浴は、マグネシウムおよびアルミニウム、および場合によりSi、Sb、Pb、Ca、Mn、Sn、La、Ce、Cr、Ni、Zr及びBiから選択される、それぞれ最大0.3重量%までの任意の添加元素、および場合により最大5重量%までの鉄からなる溶融亜鉛浴からなり、
各金属コーティング(7)は、亜鉛、0.1から20重量%のアルミニウム、および0.1から10重量%のマグネシウムを含み、このようにコーティングされた基板(3)は、スキンパス工程を施されている工程、
-金属コーティング(7)の外面(15)を脱脂する工程、
-金属コーティング(7)の外面(15)をすすぎ、乾燥させる工程、
-金属コーティング(7)の外面(15)に、クロムを含有しない酸性変換溶液を塗布する工程であって、変換溶液が、1から2のpHを有する工程、
-金属コーティング(7)の外面(15)を乾燥させる工程、
-金属コーティング(7)の外面(15)を塗装して、電気泳動塗料を除く、メラミン架橋ポリエステル、イソシアネート架橋ポリエステル、ポリウレタンおよびビニルポリマーのハロゲン化誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのポリマーを含む塗膜(9、11)で各外面を被覆する工程
からなる方法。
【請求項10】
0.2秒から30秒の時間の間、金属コーティング(7)の外面(15)に酸性変換溶液が塗布される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
0.2秒から15秒の時間の間、金属コーティング(7)の外面(15)に酸性変換溶液が塗布される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
0.5秒から15秒の時間の間、金属コーティング(7)の外面(15)に酸性変換溶液が塗布される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
(削除)
【請求項15】
(削除)
【請求項16】
(削除)
【請求項17】
(削除)
【請求項18】
(削除)
【請求項19】
(削除)
【請求項20】
(削除)
【請求項21】
(削除)
【請求項22】
(削除)
【請求項23】
(削除)
【請求項24】
(削除)
【請求項25】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-10 
出願番号 特願2015-507653(P2015-507653)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B05D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 横島 隆裕  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大島 祥吾
植前 充司
登録日 2018-06-08 
登録番号 特許第6348107号(P6348107)
権利者 アルセロルミタル・インベステイガシオン・イ・デサロジヨ・エセ・エレ
発明の名称 Zn-Al-Mgコーティングを有するプレラッカー塗装された金属シートを製造する方法および対応する金属シート  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ