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審決分類 審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A61K
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特174条1項  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1361452
異議申立番号 異議2018-700875  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-29 
確定日 2020-03-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6346121号発明「濃縮治療用リン脂質組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6346121号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-19〕について訂正することを認める。 特許第6346121号の請求項1、7ないし19に係る特許を維持する。 特許第6346121号の請求項2ないし6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6346121号の請求項1?19に係る特許についての出願は、2010年10月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年10月29日 米国(US))を国際出願日とする特願2012-535564号の一部を、平成27年4月10日に新たな特許出願としたものであり、平成30年6月1日にその特許権の設定登録がされ、同年6月20日にその特許公報が発行され、その後、その特許に対し、平成30年10月29日に川原 園生(以下「特許異議申立人」という。)により請求項1?19(全請求項)に対して特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯の概要は次のとおりである。

平成31年 2月28日付け 取消理由通知
令和 1年 5月30日 訂正請求書・意見書の提出
同年 6月10日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 7月10日 意見書の提出
令和 1年 8月23日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和 1年11月20日 訂正請求書・意見書の提出
令和 1年11月29日付け 訂正請求があった旨の通知
令和 1年12月25日 意見書の提出

第2 訂正の適否
特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である令和1年11月20日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?19について訂正(以下「本件訂正」という。)することを求めた。
(なお、令和1年5月30日付けの訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げたものとみなす。)

1 訂正の内容
(1)訂正事項1
請求項1に、
「濃縮治療用リン脂質抽出物を含む組成物であって、
前記濃縮治療用リン脂質抽出物が式I
【化1】

(式中、R_(1)及びR_(2)はそれぞれ独立してドコサヘキサエン酸(DHA)残基またはエイコサペンタエン酸(EPA)残基を表し、
各Xは、-CH_(2)CH_(2)NH_(3)、-CH_(2)CH_(2)N(CH_(3))_(3)、および
【化2】

から独立して選択され、
前記抽出物における全リン脂質の総量は、60%(w/w(リン脂質/抽出物))乃至99%(w/w(リン脂質/抽出物))の濃度である、組成物。」とあるのを、
「濃縮治療用リン脂質抽出物を含む組成物であって、
前記濃縮治療用リン脂質抽出物が式I
【化1】

(式中、R_(1)及びR_(2)はそれぞれ独立してドコサヘキサエン酸(DHA)残基またはエイコサペンタエン酸(EPA)残基を表し、
各Xは、-CH_(2)CH_(2)NH_(3)、-CH_(2)CH_(2)N(CH_(3))_(3)、および
【化2】

から独立して選択される)の化合物を含み、
前記抽出物における全リン脂質の総量は、66±5%(w/w(リン脂質/抽出物))の濃度であり、
前記抽出物における遊離EPA及び結合EPAの総量が15%(w/w)乃至25%(w/w)の濃度であり、
前記抽出物における遊離DHA及び結合DHAの総量が10%(w/w)乃至15%(w/w)の濃度である、組成物。」と訂正する(下線は訂正箇所。以下同様。)。

(2)訂正事項2
請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
請求項6を削除する。

(7)訂正事項7
請求項7に、「請求項1?6のいずれか1項」とあるのを、「請求項1」と訂正する。

(8)訂正事項8
請求項11に、「請求項1?10のいずれか1項」とあるのを、「請求項1、7?10のいずれか1項」と訂正する。

(9)訂正事項9
請求項13に、「請求項1?12のいずれか1項」とあるのを、「請求項1、7?12のいずれか1項」と訂正する。

(10)訂正事項10
請求項14に、「請求項1?13のいずれか1項」とあるのを、「請求項1、7?13のいずれか1項」と訂正する。

(11)訂正事項11
請求項15に、「請求項1?13のいずれか1項」とあるのを、「請求項1、7?13のいずれか1項」と訂正する。

(12)訂正事項12
請求項16に、「請求項1?13のいずれか1項」とあるのを、「請求項1、7?13のいずれか1項」と訂正する。

(13)訂正事項13
請求項17に、「請求項1?13のいずれか1項」とあるのを、「請求項1、7?13のいずれか1項」と訂正する。

(14)訂正事項14
請求項18に、「請求項1?13のいずれか1項」とあるのを、「請求項1、7?13のいずれか1項」と訂正する。

2 本件訂正の適否
(1)一群の請求項について
本件訂正は、請求項1?19についてのものであるところ、本件訂正前の請求項2?19はいずれも直接的、間接的に請求項1を引用するものであるから、請求項1?19は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。そして、本件訂正の請求は、請求項1?19についてされているから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(2)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1のうち、「前記濃縮治療用リン脂質抽出物が式I・・・(式中、・・・選択される)の化合物を含み、」と訂正する部分(以下「訂正事項1-1」という。)については、本件訂正前に、「前記濃縮治療用リン脂質抽出物が式I・・・(式中、・・・選択され、」とあり、「(」に対応する「)」が存在せず、また、「前記濃縮治療用リン脂質抽出物」に対応する述語が存在しないことにより、請求項1の記載が明瞭でない記載であったのを、本件訂正により、「(」に対応する「)」及び「前記濃縮治療用リン脂質抽出物」に対応する述語を明らかにすることで、明瞭な記載とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項1のうち、「前記抽出物における全リン脂質の総量は、66±5%(w/w(リン脂質/抽出物))の濃度であり、前記抽出物における遊離EPA及び結合EPAの総量が15%(w/w)乃至25%(w/w)の濃度であり、前記抽出物における遊離DHA及び結合DHAの総量が10%(w/w)乃至15%(w/w)の濃度である」と訂正する部分(以下「訂正事項1-2」という。)については、本件訂正前に、「前記抽出物における全リン脂質の総量は、60%(w/w(リン脂質/抽出物))乃至99%(w/w(リン脂質/抽出物))の濃度である」とあったのを、濃度の範囲を、本件訂正により、66±5%(w/w(リン脂質/抽出物))に減縮するものであり、また、本件訂正前に、前記抽出物における遊離EPA及び結合EPAの総量の濃度、及び前記抽出物における遊離DHA及び結合DHAの総量の濃度の限定がなかったのに対し、本件訂正により、それら濃度について限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加、特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
訂正事項1-1について、「)」を追加する点については、本件訂正前に、「(式中」の記載に続けて式Iの基の定義を記載していることが明らかであるところ、当該定義が、「選択され」で終了することも請求項1の記載から明らかであるから、「選択される)」と訂正することは、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項を追加するものではない。
「の化合物を含み、」と訂正する点については、本件明細書等には、「したがって、一態様では、濃縮治療用リン脂質組成物が開示され、該組成物は、式I・・・の化合物を含み」との記載がある(【0018】)から、濃縮治療用リン脂質組成物が式Iの化合物を含むことが記載されている。
また、本件明細書等には、「[濃縮治療用リン脂質組成物の製造方法] 濃縮治療用リン脂質組成物は、当業者に公知の任意の方法によって作製または製造することができる。例えば、・・・。あるいは、図1Aに概要を示すプロセスに従えば、バルク原料のオキアミ油が得られ、これをさらに処理することができる。さらに、これらの油を含むリン脂質を向流超臨界C0_(2)抽出を用いて(Lucien,F.P.ら,Australas Biotechnol.1993,3,143-147)処理して組成物を濃縮し、本明細書に記載する濃縮治療用脂質組成物を作り出すことができる(図1B参照)。例えば、70℃、30MPa、C0_(2)/油比72での向流超臨界C0_(2)抽出を用いて、バルク原料のオキアミ油から、遊離脂肪酸の一部とともに、トリグリセリドのような特定の生体分子をすべて除去することができる(図1B参照)。バルク原料オキアミ油からTGと遊離脂肪酸が除去されるにつれて、リン脂質の濃度が増加する。このプロセスによってトリグリセリド(TG)が除去された場合、リン脂質組成物は、約66%の濃度(w/w(リン脂質/組成物))となり、5%未満の遊離脂肪酸(w/w)を含むことになる。このプロセスによって遊離脂肪酸(FFA)がさらに除去された場合、濃縮リン脂質組成物は、約70%?約90%の濃度(w/w(リン脂質/組成物))となり、1%未満のTGおよび約0%のFFAを含むことになる。」(【0067】)との記載があり、「濃縮治療用リン脂質組成物」がオキアミ油から抽出等により得られることができることが記載されているから、「濃縮治療用リン脂質組成物」が抽出物であることが本件明細書等に記載されているといえる。
したがって、「の化合物を含み、」と訂正することは、本件明細書等に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項を追加するものではない。
訂正事項1-2について、「66±5・・・であり」と訂正する点については、本件明細書等には、「前記抽出物における全リン脂質が66%±5%(w/w(リン脂質/全抽出物))の濃度である」(【請求項2】)、「いくつかの事例では、上記の心血管代謝疾患/メタボリック症候群の治療または予防方法が、濃度が66%(w/w(リン脂質/全組成物))の濃縮治療用リン脂質組成物を使用し得る。」(【0047】)、「バルク原料オキアミ油からTGと遊離脂肪酸が除去されるにつれて、リン脂質の濃度が増加する。このプロセスによってトリグリセリド(TG)が除去された場合、リン脂質組成物は、約66%の濃度(w/w(リン脂質/組成物))となり」(【0067】)との記載があり、また、「用語「約」は、本明細書中で数値の記載とともに使用されるとき、記載される数値と当該数値の±5%を含めた大きさを意味する。」(【0057】)との記載もある。
したがって、「66±5・・・であり」と訂正することは、本件明細書等に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項を追加するものではない。
また、訂正事項1-2の、「前記抽出物における遊離EPA及び結合EPAの総量が15%(w/w)乃至25%(w/w)の濃度であり、前記抽出物における遊離DHA及び結合DHAの総量が10%(w/w)乃至15%(w/w)の濃度である」と訂正する点については、本件明細書等に、「【請求項4】更に遊離EPA及びDHAを含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の組成物。【請求項5】前記抽出物における遊離EPA及び結合EPAの総量が15%(w/w)乃至25%(w/w)の濃度である、請求項4に記載の組成物。【請求項6】前記抽出物における遊離DHA及び結合DHAの総量が10%(w/w)乃至15%(w/w)の濃度である、請求項4又は5に記載の組成物。」、「【0031】・・・いくつかの実施形態では、濃縮治療用リン脂質組成物におけるDHAの総量は、約10%と約15%との間である。」、「【0032】・・・いくつかの実施形態では、濃縮治療用リン脂質組成物におけるEPAの総量は、約15%と約25%との間である。」との記載があるから、本件明細書等に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項を追加するものではない。
さらに、訂正事項1による本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張ないし変更するものでもない。
よって、訂正事項1による本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項2?6について
訂正事項2?6による本件訂正は、それぞれ、請求項2?6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、当該訂正は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張ないし変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項7?14について
訂正事項7?14による本件訂正は、いずれも、訂正事項2?6による本件訂正により請求項2?6が削除されたのに伴い、請求項7、11、13?18において引用する請求項から請求項2?6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、当該訂正は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張ないし変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(5)まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1及び3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び6項の規定に適合する。
したがって、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?19〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項〔1?19〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1、7?19に係る発明は、令和1年11月20日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、7?19に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件発明1」などと、これらをあわせて「本件発明」ということがある。)である。

「【請求項1】
濃縮治療用リン脂質抽出物を含む組成物であって、
前記濃縮治療用リン脂質抽出物が式I
【化1】

(式中、R_(1)及びR_(2)はそれぞれ独立してドコサヘキサエン酸(DHA)残基またはエイコサペンタエン酸(EPA)残基を表し、
各Xは、-CH_(2)CH_(2)NH_(3)、-CH_(2)CH_(2)N(CH_(3))_(3)、および
【化2】

から独立して選択される)の化合物を含み、
前記抽出物における全リン脂質の総量は、66±5%(w/w(リン脂質/抽出物))の濃度であり、
前記抽出物における遊離EPA及び結合EPAの総量が15%(w/w)乃至25%(w/w)の濃度であり、
前記抽出物における遊離DHA及び結合DHAの総量が10%(w/w)乃至15%(w/w)の濃度である、組成物。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】
更に抗酸化物質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記抗酸化物質が、アスタキサンチン、カロテノイド、ビタミンAおよびビタミンEから選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記抗酸化物質がビタミンEである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記抗酸化物質がアスタキサンチンである、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
前記抽出物が海洋資源由来である、請求項1、7?10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記抽出物がオキアミ由来である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記抽出物がカプセルとして製剤化されている、請求項1、7?12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
心血管代謝疾患/メタボリック症候群の治療または予防のための請求項1、7?13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
認識力および/または認知の疾病、疾患または障害を治療、予防、または改善するための請求項1、7?13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
神経変性疾患の防止、予防、または治療のための請求項1、7?13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
心血管疾患の治療のための請求項1、7?13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
心血管代謝疾患/メタボリック症候群の治療または予防のための薬剤の製造における請求項1、7?13のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項19】
前記心血管代謝疾患/メタボリック症候群が、アテローム性動脈硬化症、脂質異常症、高トリグリセリド血症、高血圧、心不全、不整脈、低HDL血症、高LDL血症、安定狭心症、冠動脈性心疾患、急性心筋梗塞、二次心筋梗塞予防、心筋症、心内膜炎、2型糖尿病、インスリン抵抗性、耐糖能異常、高コレステロール血症、脳卒中、高脂血症、高リポタンパク血症、慢性腎臓病、間欠性跛行、高リン血症、オメガ3系脂肪酸欠乏、リン脂質欠乏、頸動脈アテローム性動脈硬化症、末梢動脈疾患、糖尿病性腎症、HIV感染における高コレステロール血症、急性冠症候群(ACS)、非アルコール性脂肪性肝疾患/非アルコール性脂肪性肝炎(NAFLD/NASH)、動脈閉塞性疾患、脳のアテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、脳血管障害、心筋虚血、血管内血栓形成に至る凝固障害、および糖尿病性自律神経障害から選択される、請求項18に記載の使用。」

第4 当審が平成31年2月28日付け及び令和1年8月23日付けで通知した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要
当審が平成31年2月28日付け及び令和1年8月23日付けで通知した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は次のとおりである。

1 当審が平成31年2月28日付けで通知した取消理由
[理由1]本件の請求項1?19に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
[理由2]本件の請求項1?19に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
[理由3]本件特許の請求項1、3?8、10?12に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当する。
よって、上記請求項に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
[理由4]本件特許の請求項1、3?8、10?13、15、16に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1及び2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、上記請求項に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

そして、刊行物1及び2として、以下の刊行物が挙げられている。
刊行物1:国際公開第2008/060163号(特許異議申立人が提出した甲第1号証に係る出願についての国際出願の国際公開パンフレット)
刊行物2:特開平2-215351号公報(特許異議申立人が提出した甲第2号証)

2 当審が令和1年8月23日付けで通知した取消理由
[理由a]本件発明1、7?19に係る特許は、下記の点で特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合しない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

3 特許異議申立人が申し立てた取消理由
[理由ア]平成30年2月9日付け手続補正書でした補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
よって、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1号の規定により取り消されるべきものである。
[理由イ]本件発明1?19について、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
[理由ウ]本件発明1?19について、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
[理由エ]本件特許の請求項1、3?8、10?12に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当する。
よって、上記請求項に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
[理由オ]本件特許の請求項1?13、15、16に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記甲第1号証又は甲第1号証及び下記甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、上記請求項に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

そして、甲第1号証及び甲第2号証として、以下の刊行物が挙げられている。
甲第1号証:特表2010-510208号公報
甲第2号証:特開平2-215351号公報

第5 当審が平成31年2月28日付け及び令和1年8月23日付けで通知した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた取消理由に対する当審の判断

1 当審が平成31年2月28日付けで通知した取消理由について
(1)理由1について
取消理由通知において、理由1について、具体的には、「請求項1の「前記濃縮治療用リン脂質抽出物が式I・・・(式中、・・・から独立して選択され、・・・の濃度である、組成物。」との記載について、「(」に対応する「)」が存在しないため、式の説明がどの部分までであるかが明確でない。また、請求項1において「前記濃縮治療用リン脂質抽出物が」に対応する述語が何であるかが明確でなく、請求項1において「前記濃縮治療用リン脂質抽出物」をどのように特定するものであるか明確でない。そして、それらの結果として、請求項1に記載された「組成物」が明確でない。」との指摘をしているところ、本件訂正により、当該記載は、「前記濃縮治療用リン脂質抽出物が式I・・・(式中、・・・から独立して選択される)の化合物を含み、・・・の濃度である、組成物。」と訂正されており、「(」に対応する「)」が存在することで、式の説明がどの部分までかが明確となり、「前記濃縮治療用リン脂質抽出物が」に対応する述語が「含み」であることが明確となった。
したがって、この点において、本件発明1について、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。
本件発明7?19についても同様である。

(2)理由2について
取消理由通知において、理由2について、具体的には、本件発明1の課題が「疾患を治療または予防するために有用な、新しい形態のオメガ3脂肪酸を含む、新規な濃縮治療用リン脂質組成物を含む組成物を提供すること」にあり、「上記した疾患等に対して有効であることが具体的に示されているのは、組成物3のみであり、当該組成物3は、リン脂質を濃縮治療用リン脂質組成物中に66.2g/100g含むものであり、かつ、オメガ3脂肪酸、EPA、DHAについても、それぞれ、39.8、21.7(22.6)、14.1(14.6)g/100gを含むものである」と認めた上で、「本件発明1は、濃縮治療用リン脂質抽出物が含有するオメガ3脂肪酸に相当するEPA及びDHAについて、その量を特定することなく、単に含有することを特定するに過ぎず、また、該抽出物の全リン脂質の総量が特定量であることを特定するに過ぎず、・・・すなわち、本件発明1が、疾患を治療または予防するために有用であると当業者が認識することができるとはいえない。また、本件発明1についての記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。してみると、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものということはできない。」との指摘がされている。
そこで、以下に検討する。

ア 発明の詳細な説明等の記載
本件明細書等には、以下の記載がある。

a)「【0002】
本発明は、濃縮治療用組成物に関する。本発明は、特に、疾病の治療または予防に有用な濃縮治療用リン脂質組成物に関する。」

b)「【0046】
一態様では、本発明はその一部において、濃縮治療用リン脂質組成物が、LDL-C値を上昇させることなく、血漿HDL-C値とともに血漿トリグリセチド値を調節するのに有用であるという予想外の驚くべき発見に基づいている。この予想外の驚くべき発見は、トリグリセチド値の上昇、LDL-C値の上昇、およびHLD-C値の低下に関連する疾患の治療または予防に有用である。そのような疾患または疾病としては、以下に限定されないが、心血管代謝疾患/メタボリック症候群(MetS)、神経変性疾患および神経発達障害、および炎症性疾患などが挙げられる。
・・・
【0052】
濃縮治療用リン脂質組成物は、代謝異常、心血管疾患、神経発達障害および神経変性疾患、および炎症性疾患の治療において驚くべき効果を発揮するという、予想外の発見がなされた。」

c)「【実施例】
【0098】
・・・
【0099】
[濃縮治療用リン脂質組成物]
・・・
【0100】
以下の方法は、濃縮治療用リン脂質組成物を作製するために用いることができる(図1Aおよび図1B)。
【0101】
[ステップ1]
冷凍オキアミを、機械的に粉砕し、アセトンと水との比9:1の溶媒とともに8℃で60-90分間インキュベートし、オキアミのバイオマスから異なる比率の脂質(PL、TG、およびFFA)を抽出する。脂質は、その後の圧力下で(50-60kPa)濾過することによりタンパク質およびオキアミ材料から分離する。固相は破棄する。水溶性抽出物は、減圧下で連続的に蒸留塔によって蒸発させ、溶媒(アセトン)を除去する。水性(水)画分の大部分は、デカンテーションによって脂質画分から分離され、残りの水は、減圧下で穏やかに加熱して蒸発させることによって除去する。それらの画分を添加し、分析し、ブレンドして中間物のオキアミ油製品を構成し、その中間物のオキアミ油製品を再解析して、所望の仕様、即ち±5%:EPA(15g/100g)、DHA(9g/100g)、総リン脂質(42g/100g)、およびアスタキサンチンの剤形(125mg/100g)を達成する。
【0102】
[ステップ2]
ステップ1からのオキアミ油の100.5gを、300ml抽出容器(ID=0.68”)に充填した。抽出器を密封し、55℃で予熱されたCO_(2)を底部から導入し、抽出器中の圧力は、ダイヤフラムCO_(2)ポンプを用いて5,000psiに維持した。C0_(2)の流れを抽出器を通して上昇流方向に継続し、圧力低減弁(PRV)を通して環境圧力に膨張させて、CO_(2)中の溶解物質を沈殿させフラスコに回収した。フラスコから出てくるCO_(2)の流量と容積を流量計と乾燥テストメーター(DTM)を用いて測定した。合計7200gのCO_(2)を抽出器に通し(溶媒/供給比、S/F=72)、34.1%の充填物をCO_(2)によって除去した。約25標準リットル/分のCO_(2)の流量を試験中に維持し、抽出の総時間は約160分であった。抽出器を分離し、C0_(2)を大気中に放出させた。抽出器を開き、未抽出物質(ラフィネート生成物)を容器から除去した。
【0103】
[ステップ3]
SC C0_(2)抽出により90+%のOM3:PSを製造。9.44gの油を、不活性パッキングと合わせて、抽出器に充填した。ステップ2に記載の手順と同様だが、より積極的な抽出条件(抽出器中の圧力と温度を10,000psiおよび70℃に維持)を用いた点が異なる手順を実行した。全S/F比は200を使用し、f;したがって約1900gのCO_(2)を抽出器を通して流した。CO_(2)の流量は約10標準リットル/分に維持し、したがってこの試験の総実行時間は105分であった。試験中に、合計で充填物の56.3%をこの油から抽出した。抽出器を分離し、C0_(2)を大気中に放出させ、抽出器を開き、得られたラフィネート生成物を不活性パッキングから掻き落とした。この未抽出材料を解析すると、91%OM3:PSであった。
・・・
【表3】

・・・
【0104】
[生物学的実施例]
[実施例1]
[3種のマウス表現型における脂質異常症の管理]
この試験の目的は、成熟度/性別をマッチさせた3種のマウスの表現型における組成物3の効果を検討することであった。3種のマウスの表現型は、(1)通常の健康な非肥満で正常血糖の対照(C57BL6)と、それに対する、(2)脂質異常症のLDL受容体遺伝子ノックアウトマウス(LDLr-/-)、または(3)ヒトapoA-Iトランスジェニックマウス(Jackson Labs)であり;これらは12週齢で、27.5±0.7g対25.6±0.7g対29.2±0.8群であり;n=7-10/群であって、通常の食餌対西洋型の食餌で給餌し、水は自由に摂取させ、地域および国の倫理規則に従って飼育した。データは、t検定(独立、両側)によって評価した統計、および平均±平均値の標準誤差(SEM)として提示する(GraphPad Prism V5使用)。
【0105】
上記の3種の未処理成熟雄マウスモデルにおける血漿脂質濃度(mg/dL)のプロファイルは、文献に報告されている通りであった。即ち、全コレステロール(TC):71.1±3.3対215.3±10.4対50.3±1.3;トリグリセリド(TG):59.5±4.5対65.1±3.8対53.0±12.9;低密度リポタンパク質(LDL):13.3±1.2対101.6±6.7対12.2±1.6;高密度リポタンパク質(HDL):53.4±3.2対88.8±3.6対24.8±2.6であった。C57BL6においては、組成物3で1日1回(QD)処置(104対208対417mg/kg(ヒト相当用量500、1,000、および2,000mg/日))を6週間行うと、血漿TGの有意な用量依存的な減少(最大60%)、LDLの上昇(最大28%)、HDLの減少(17%)が生じた、TCには影響しなかった(図2-12および表1を参照)。重症脂質異常症LDLr-KOマウスでは、組成物3により、血漿TGの用量依存的な減少、HDLのさらなる上昇が生じ、TCのわずかの上昇(投与中のみ)が生じたが、LDLには影響がなかった(図13-図17および表1を参照)。hApoA-Iトランスジェニックマウスでは、組成物3により、血漿TGの有意な低下、HDLの上昇が生じたが、TCには影響がなかった(図18および表1参照)。肝臓TC濃度は、3種の表現型すべてにおて同じであったが、TGは、対照C57BL6と比較して、LDLr-KOマウスで低下(19%;p<0.05)し、hApoA-Iで上昇(153%;p<0.01)した。組成物3による処置は、肝臓のTCおよびTG濃度を、C57BL6においてそれぞれ最大12%および27%上昇させ、LDLr-KOにおいてそれぞれ最大10%および36%上昇させ、hApo-Iマウスにおいては、肝臓TC濃度は最大10%上昇させたが、肝臓TG濃度についてはそれぞれ効果にばらつき(-13?+12%)があった(表2参照)。
【表8】

【表9】

【0106】
これらのデータから、組成物3は、主として血漿中のTGおよびLDLの低下とHDLの上昇に関して脂質代謝の効果的な調節因子であることがわかる。これらのデータから、いくつかの実施形態において、濃縮治療用リン脂質組成物は、中等度乃至重症の高トリグリセリド血症の治療法として有効であり得ることが判明した。いくつかの実施形態では、濃縮治療用リン脂質組成物は、他の抗脂質代謝異常薬と併用することにより、難治性の高トリグリセリド血症の治療に効果的であり得る。
【0107】
[実施例2]
[12週齢雄ズッカー糖尿病肥満ラットにおける高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)の循環血漿濃度の上昇および総コレステロール(TC)/HDL比の増加]
この試験の目的は、肥満症、高脂血症でインスリン抵抗性を有する2型糖尿病のズッカー糖尿病肥満ラットげっ歯類モデル(ZDF;Gmi-fa/fa)対、成熟度/性別をマッチさせた通常の健康な非肥満で正常血糖の低脂肪対照のSDラット(Charles River Labsより入手;12週目、359±17対439±13群;n=9-12/群)のそれぞれにおける濃縮治療用リン脂質組成物の効果を検討することであった。組成物3のQD処置(52対260mg/kg(体重)(ヒト相当用量(HED)500および2500mg))の後、地域および国の倫理規則(Formulab high fat 5008(ZDF)対normal 5001(SD)食餌レジメンおよび水の自由摂取)に従って飼育し、1および2か月経過前に、脂質プロファイル(総コレステロール(TC)、トリグリセリド(TG)、高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)、およびTC/HDL比)を評価した。データは、独立、両側のt検定によって計算した統計的差異、および平均±標準偏差(SD)(n=2-10)として提示する(GraphPad Prism V5使用)。12週目において、循環血漿中のTC、TG、HDL濃度、およびTC/HDL比は、それぞれ4.6±0.9、11.6±5.9、2.3±1.1mmol/Lおよび2.16±0.62であった。SDラットにおける脂質プロファイルは、それぞれ1.9±0.4、1.2±0.4、1.3±0.2mmol/Lおよび1.45±0.11で有意に低かった。60日間の毎日の低用量および高用量処置は、TCおよびTG濃度に影響を与えなかったが、「善玉の」HDLコレステロールを1.7?1.8倍(p0.01)増加させ、TC/HDL比を26-32%(p<0.01-0.05)低下させた。
【0108】
[実施例3]
[ズッカー糖尿病肥満ラットにおける組成物3投与後の耐糖能異常の改善]
この試験の目的は、高脂血症で肥満の2型糖尿病ラットモデルにおける組成物2の効果を検討することであった。ズッカー糖尿病肥満ラット(ZDF;Gmi-fa/fa)を、成熟度/性別をマッチさせた通常の健康な非肥満で正常血糖の低脂肪対照のSDラットに対して使用した(Charles River Labsより入手;12週目、359±17対439±13群;n=9-12/群)。組成物3の52対260mg/kg(ヒト相当用量(HED)500および2500mg)のQD強制投与による処置の前、およびその90日後に、耐糖能異常を、経口的ブドウ糖負荷試験(OGTT;夜間絶食の後、2g/kg(ラット体重)のグルコースを単回強制投与)を、180分間グルコメーターストリップ(Accu-Chek Aviva,Roche Diagnostics)を用いて行って評価した(モデルは、地域および国の倫理規則(Formulab high fat 5008(ZDF)対normal 5001(SD)食餌レジメンおよび水の自由摂取)に従って飼育した)。データは、独立、両側のt検定によって計算した統計的差異、および平均±標準偏差(SD)(n=2-10)として提示する(GraphPad Prism V5使用)。
【0109】
12週目において(T_(0))、グルコースの空腹時循環血漿濃度は、未処置ZDF対SDラットにおいて7.8±2.1対5.0±0.6mmol/L(p<0.0001)であった。非空腹時のZDFおよびSDラットグルコース値は、それぞれ22.0±4.2対8.6±0.6mmol/Lであった。1ヶ月後、ベースライン値は絶食ZDFで1.9倍(p<0.0001)増加したが、絶食SDでは変化がなかった。加齢は、非絶食ラットにおけるグルコース濃度に影響を及ぼさなかった。グルコース負荷は、未処置の絶食ZDFおよびSDにおける血漿グルコース濃度を、それぞれ30および60分後に最大2.5倍(p<0.0001)および1.6倍(p<0.0001)増加させ、180分後に概ね初期値に戻った。16週目において、30日の(T_(30))処置は、SDラットにおいてはグルコースのプロファイルにも最大上昇にも影響がなかったが、ZDFの処置は、血漿中グルコースの最大上昇を右側にシフトさせ(30分から60分に)、30分後の最大上昇を61-72%(p<0.02)低下させ、かつ組成物3の用量がいずれの場合でもAUCを50-60%(p<0.0001)低下させ、したがって、未処置のグルコース負荷SDラットにおいて測定されたAUCに戻った。20週目において、60日の処置は、いずれの用量でも、耐糖能異常をさらに低減させなかった。処置プロファイルのいずれも、非絶食ZDFまたはSDにおける血漿中および尿中のグルコース濃度(高血糖および糖尿)には影響を及ぼさなかった。これらのデータから、組成物3の短期および低用量長期投与は、重症高血糖症モデルにおける血糖値制御を有意に改善することが分かった。
【0110】
[実施例4]
[中等度高トリグリセリド血症の治療における濃縮治療用リン脂質組成物の安全性と効果の評価のための、無作為化、プラセボ対照、二重盲検、用量設定、および多施設治験]
・・・
【0111】
[実施例5]
[濃縮治療用リン脂質組成物単独の、またはスタチンとの併用時の、西洋型の食餌を給餌されたApoE欠損マウスにおける血中脂質濃度の調節およびアテローム性動脈硬化症病変の発達に対する影響]
それぞれApoetmlUnc変異について同型である、体重約18-20gの雄の成体マウス(n=135(15マウス/群)週齢5-6週目)に対して、ビヒクル(水または0.2%-0.5%カルボキシメチルセルロース);組成物3(1,000mg/日、HED);組成物3(2,000mg/日、HED);またはリピトール(20mg/日、HED);または組成物3(1,000mg/日、HED)+リピトール(20mg/日、HED)の(HOW)いずれかを投与する。0ヵ月目、3ヶ月目、または6ヵ月目において、次のものに対して以下の測定値の評価を行う:血中脂質:TC、TGを、LDL、HDL、非HDL、VLDL(0、3、6ヶ月)。(2)大動脈アテローム性動脈硬化症(0、3、6ヶ月):(a)胸部および腹部大動脈を、分離し、脂肪をトリミングし、撮影のためにブラックマトリクス上にレイアウトして固定し、スダンIVまたはオイルレッドOで染色する。(b)血管に対して、コンピュータ画像解析システム(Image ProPlusまたはNIHパッケージソフトウェア)を用いて表面の併発をイメージ化する。データを、群で計算して統計的に解析する。(c)脂質抽出:染色および形態解析の後、大動脈を抽出する(Bligh、Dyer)。(3)赤血球オメガ3指数(0、3、6ヶ月);(4)CRPの循環血漿濃度(0、3、6ヶ月)。
【0112】
[実施例6]
[オメガ3指数についての組成物3とLovaza(登録商標)との比較]
平均体重>375-425の雄の成体(14週)Sprague-Dawley(SD)ラットに、通常のラット固形飼料(diet5075-通常、標準ラット固形飼料)を与えた。被検体/群の数:n=56;n=8ラット/群。投与は、(i)ビヒクル、(ii)組成物352mpk 500mg/日、HED;(iii)組成物3、104mpk 1000mg/日、HED;(iv)組成物3、416mpk 4000mg/日、HED、(v)Lovaza(登録商標)416mpk 4000mg/日、HEDのいずれかで、12週にわたってQD(1日1回朝投与)で行った。結果を図35に示す。
【0113】
[実施例7]
[早期アルツハイマー病における高濃度リン脂質の単独療法試験]
・・・」

d)【図2】?【図18】、【図24】?【図35】は、組成物3に関する試験の結果を示すものである。

イ 判断
取消理由通知で述べたとおり、本件発明1の課題は、「疾患を治療または予防するために有用な、新しい形態のオメガ3脂肪酸を含む、新規な濃縮治療用リン脂質組成物を含む組成物を提供すること」であると認める。
本件訂正により、本件発明1は「前記抽出物における全リン脂質の総量は、66±5%(w/w(リン脂質/抽出物))の濃度であり、前記抽出物における遊離EPA及び結合EPAの総量が15%(w/w)乃至25%(w/w)の濃度であり、前記抽出物における遊離DHA及び結合DHAの総量が10%(w/w)乃至15%(w/w)の濃度である」と特定された。
一方、本件明細書等には、濃縮治療用リン脂質組成物は、代謝異常、心血管疾患、神経発達障害および神経変性疾患、および炎症性疾患の治療において驚くべき効果を発揮するという、予想外の発見がなされたこと、リン脂質、EPA、DHAをそれぞれ、66.2、21.7(22.6)、14.1(14.6)g/100g油含有する組成物3が、主として血漿中のTGおよびLDLの低下とHDLの上昇に関して脂質代謝の効果的な調節因子であることがわかること、濃縮治療用リン脂質組成物は、中等度乃至重症の高トリグリセリド血症の治療法として有効であり得ることが判明したこと、組成物3の投与が、重症高血糖症モデルにおける血糖値制御を有意に改善すること等が記載されている(摘示b、c)。
そして、上記組成物3の全リン脂質の総量、遊離EPA及び結合EPAの総量、遊離DHA及び結合DHAの総量の濃度はそれぞれ、66.2、21.7(22.6)、14.1(14.6)g/100g油であるところ、本件発明1で特定されるそれらの濃度の範囲は、組成物3におけるそれらの濃度を含み、組成物3におけるそれらの濃度と相当程度近い範囲のものであるから、当業者は、本件発明1の組成物が、組成物3と同様の性質を有する組成物であって、血漿中のTGおよびLDLの低下とHDLの上昇に関して脂質代謝の効果的な調節因子であると認識し、また、該組成物の投与が重症高血糖症モデルにおける血糖値制御を有意に改善することを認識できるといえる。
してみると、当業者は、本件発明1が上記課題を解決することができると認識できるものといえる。
したがって、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
よって、本件発明1について、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。
本件発明7?19についても同様である。

(3)理由3について
ア 刊行物1の記載事項
刊行物1には以下の事項が記載されている(訳文で示す。)。
1a)「1.
新鮮なオキアミから実質的にすべての脂質画分を抽出する方法であって,
a)オキアミ原材料の含水量を低下させ;そして
b)脂質画分を単離する,
の各工程を含む方法。
2.
工程a)は,1:0.5?1:5の重量比の,エタノール,メタノール,プロパノールまたはイソプロパノールを用いて洗浄することを含み,工程b)はアルコールから脂質画分を単離することを含む,請求項1記載の方法。
3.
工程a)は,オキアミ原材料をエタノールで洗浄することを含み;および
工程b)は,エタノールから脂質画分を単離することを含む,
請求項1または2に記載の方法。
4.
さらに,
a-1)工程a)からの含水量低下オキアミ原料を,エタノール,メタノール,プロパノールまたはイソプロパノールを含むCO_(2)で超臨界圧で抽出する,
の工程を含む,請求項1-3のいずれかに記載の方法。
・・・
15.
請求項1-14記載の方法により得られる,トリグリセリド,アスタキサンチンおよびリン脂質を含む実質的にすべての脂質画分。
・・・
17.
医薬品および/または栄養補助食品としての,請求項15または16に記載の総脂質画分。」(請求項1?4、15、17)

1b)「技術分野

本発明は,新鮮なオキアミから実質的にすべての脂質画分を製造するためのプロセス,およびリン脂質を他の脂質から分離するプロセスに関する。本発明はまた,高品質のオキアミミールを製造するプロセスに関する。

発明の背景

水産物リン脂質は,医療品,健康食品およびヒトの栄養として,ならびに,魚の餌として,およびタラ,オヒョウおよびターボット等の海産種の幼生魚および稚魚の生存率を増加させる手段として有用である。

海洋生物からのリン脂質は,オメガ-3脂肪酸を含む。水産物リン脂質に結合したオメガ-3脂肪酸は特に有用な特性を有すると想定される。」(1頁6?19行)

1c)「Euphausia superbaでは,新鮮なオキアミは,約10%までの脂質を含み,このうち約50%はリン脂質である。オキアミからのリン脂質は非常に高いレベルのオメガ-3脂肪酸を含み,そのうち,エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量は約40%を越える。南極オキアミの2つの主要な種からの脂質のおよその組成を表1に示す。

」(1頁32行?2頁表1)

1d)「これらの知見に反して,我々は,驚くべきことに,大量の凍結乾燥等の複雑かつ費用のかかる前処理を必要とせずに,新鮮なオキアミから実質的にすべての脂質画分を抽出するプロセスを見いだした。脂質画分はトリグリセリド,アスタキサンチンおよびリン脂質を含んでいた。加工前に原材料を乾燥または脱油する必要はなかった。Tanakaらとは異なり,我々は,海産物原材料を短時間加熱することは抽出収率を高めることを見いだした。また,オキアミを中程度の温度での短時間の加熱やモレキュラーシーブ等の固体乾燥剤との接触等によって前処理することにより,新鮮なオキアミからリン脂質を除去するのにエタノール洗浄のみでも十分であることが見いだされた。

発明の概要

新鮮なオキアミからアセトンなどの有機溶媒を用いずに実質的にすべての脂質画分を調製するプロセスを提供することが本発明の主な目的である。」(3頁17?31行)

1e)「オキアミの総脂質を含む生成物の製造に加えて,本発明は,リン脂質を他の脂質から分離するためにも用いることができる。本発明にしたがう超臨界圧における抽出により得られる総脂質を異なる種類の脂質に分離するためには,前記総脂質を純粋な二酸化炭素で抽出することにより,オメガ-3の豊富なリン脂質から非極性脂質を除去することができる。総脂質を5%未満のエタノールまたはメタノールを含む二酸化炭素で抽出することは別の選択肢である。

リン脂質は,有益なオメガ-3脂肪酸が他の種類の脂質よりはるかに多いため,本発明はオメガ-3脂肪酸の高濃縮物を製造するのに有用である。市販されている魚油は11-33%の総オメガ-3脂肪酸を含むが(Hjaltason,B and Haraldsson,GG(2006)Fish oils and lipids from marine sources,Modifying Lipids for Use in Food(FD Gunstone,ed),Woodhead Publishing Ltd,Cambridge,pp.56-79),オキアミのリン脂質はこれをはるかに高いレベルで含む(Ellingsen,TE(1982)Biokjemiske studier over antarktisk krill,PhD thesis,Norges tekniske hoyskole,Trondheim.English summary in Publication no.52 of the Norwegian Antarctic Research Expeditions(1976/77 and 1978/79)),表1も参照のこと。オメガ-3の豊富なリン脂質はそのまま用いてもよく,オメガ-3含有リン脂質に起因する種々のポジティブな生物学的効果を得ることができる。あるいは,エステル(典型的にはエチルエステル)または遊離脂肪酸,またはオメガ-3脂肪酸をさらに濃縮するのに適した他の誘導体を得るために,リン脂質をエステル交換するかまたは加水分解することができる。一例として,オキアミリン脂質のエチルエステルはEuropean Pharmacopoeia monographs no.1250(オメガ-3-酸エチルエステル90),2062(オメガ-3-酸エチルエステル60)および1352(オメガ-3-酸トリグリセリド)の基準に適合した濃縮物を製造するための中間体生成物として有益である。同時に,残りの脂質(アスタキサンチン,抗酸化剤,トリグリセリド,ワックスエステル)をそのまま,水産養殖の餌等の種々の用途に用いることができ,または脂質の種類をさらに分離することができる。

すなわち,本発明のさらに別の目的は,上述のように,リン脂質を他の脂質から分離するプロセスを提供することである。」(5頁12行?6頁5行)

1f)「実施例

実施例1
・・・
実施例1にしたがうプロセスが凍結乾燥オキアミについて用いられてきたか否かは不明である。これはY.Tanakaら,(2004)J.Oleo Sci.53,417-424から予期されたであろうと主張できるかもしれない。しかし,この従来技術においてはCO_(2)を10%エタノールとともに用いると,リン脂質のわずか30%しか抽出されなかった。リン脂質の80%を抽出するためには,20%エタノールを用いる必要があった。

本発明にしたがう実施例:

実施例2
・・・
実施例7
新鮮なE.superba(12kg)を80℃で数分間加熱した後,エタノール(26kg)で抽出した。これにより,0.82kg(7%)のエタノール抽出物が得られた。脂質の種類を分析したところ(HPLC;カラム:Alltima HPシリカ3μm;検出器:DEDL Sedere;溶媒:クロロホルム/メタノール)リン脂質含有量が58%であることが示された。GC(面積%)による分析は,24.0%EPAおよび11.4%DHA,EPA+DHAの合計=35.4%の含有量を示した。

残りのオキアミをエタノール(15kg)を含むCO_(2)(156kg)で280barおよび50℃で抽出した。これにより0.24kg(2%)の抽出物を得た。残留のオキアミは,黒色の眼を除き白色であった。脂質分類の分析は,19%のリン脂質含有量を示した。抽出物は8.9%EPAおよび4.8%DHA(合計13.7%)を含んでいた。残りのオキアミ原料の抽出(Folch法)は,わずか0.08kgの脂質含有量を示した(最初のオキアミ重量と比較して0.7%)。このことは,実質的に全ての脂質が抽出されたことを意味する。
・・・
本発明の方法により得られる脂質画分または脂質生成物は,既知のオキアミ油製品(慣用の方法により製造)と比較して,その品質に関してさらに別の利点を有する。例えば,Neptune Biotechnologies&Bioresourcesによる,日本産オキアミ(種は特定されていない)から抽出されたオキアミ油は下記の組成を有する。

総リン脂質 ≧40.0%(審決注:原文の「≧」の下
部は横線1本。以下同じ)
エステル化アスタキサンチン ≧1.0mg/g
ビタミンA ≧1.0IU/g
ビタミンE ≧0.005IU/g
ビタミンD ≧0.1IU/g
総オメガ-3 ≧30.0%
EPA ≧15.0%
DHA ≧9.0%

本発明にしたがう脂質生成物または画分は,
・加水分解および/または酸化された脂質が慣用の方法により製造される
脂質より実質的に少なく,
・慣用の方法よりオキアミ脂質抗酸化剤の劣化が少なく,
・非常に低いレベルの遊離脂肪酸を含み,および/または
・有機溶媒の痕跡を実質的に含まない,
ことが期待される。
・・・
さらに,本発明にしたがうプロセスにより得られる脂質組成物の例を下記の表に示す。

本発明にしたがえば,抽出物は,リン脂質の含量に関して濃縮することができる。いくつかの典型的な脂質組成物を表3-5に例示する。

(審決注:原文は表中の「=」は「≧」(下部は横線1本)。以下同じ。)
実施例7に見られるように,表3に記載される脂質組成物は,本発明の工程a)にしたがう抽出のみを適用することによっても得ることができる。

」(6頁35行?13頁表5)

イ 引用発明
刊行物1には、「新鮮なオキアミから実質的にすべての脂質画分を抽出する方法」についての記載があるところ、当該方法は、「a)オキアミ原材料の含水量を低下させ;そしてb)脂質画分を単離する,の各工程を含む」ものであり(摘示1a)、また、当該方法は新鮮なオキアミから実質的にすべての脂質画分を製造するためのプロセスである(摘示1b、1d)。そして、具体的な実施例として、新鮮なE.superba(12kg)を原料として、リン脂質含有量が58%であり、24.0%のEPA及び11.4%のDHA、EPA+DHAの合計=35.4%の含有量を示す抽出物が記載され(摘示1f、実施例7)、さらに、以下のものが典型的な脂質組成物として記載されている(摘示1f)。

(上述のとおり、表4及び表5における「=」は「≧」(下部は横線1本)である。なお、表3についても同様。)
なお、表4及び5において、EPA及びDHAについて「%」で表示されているが、表2等の刊行物1の記載からみて、当該「%」は「重量%」を意味すると認める(表3についても同様。)。
さらに、刊行物1には、リン脂質を他の脂質から分離するためにも用いることができること、総脂質を純粋な二酸化炭素で抽出することにより,オメガ-3の豊富なリン脂質から非極性脂質を除去することができること、総脂質を5%未満のエタノールまたはメタノールを含む二酸化炭素で抽出することは別の選択肢であることが記載され(摘示1e)、加えて、抽出物は,リン脂質の含量に関して濃縮することができることが記載されている(摘示1f)から、刊行物1には、リン脂質を濃縮できることが記載されているといえる。
また、刊行物1には、医薬品として用いることも記載されている(摘示1a、1b)。
してみれば、刊行物1には、具体的な脂質組成物として、
「新鮮なオキアミから抽出された、医薬品としての以下の表4又は表5に記載の組成を有する脂質組成物
表4
脂質組成物
リン脂質 ≧80重量%
EPA ≧20重量%
DHA ≧13重量%

表5
脂質組成物
リン脂質 ≧90重量%
EPA ≧23重量%
DHA ≧15重量%
」の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。

ウ 対比・判断
(ア)本件発明1について
本件発明1と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明の「脂質組成物」は、新鮮なオキアミから抽出されたものであるから、「抽出物」であって「濃縮」されたものであるといえ、「リン脂質」を含有するものである。
また、本件発明1は、「濃縮治療用リン脂質抽出物を含む組成物」であり、該抽出物自体も、抽出物が組成物(2種以上の成分を含有するもの)であれば、該抽出物を含む組成物であるといえるところ、刊行物1発明の脂質組成物は、抽出物を含む組成物ということもできる。
したがって、刊行物1発明の「脂質組成物」は「濃縮されたリン脂質抽出物を含む組成物」であるといえる。
また、刊行物1発明は、「医薬品」としての組成物であるから、「治療用」のものであるといえる。
したがって、刊行物1発明の脂質組成物は、本件発明1の「濃縮治療用リン脂質抽出物を含む組成物」に相当する。
よって、本件発明1と刊行物1発明とは、
「濃縮治療用リン脂質抽出物を含む組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
濃縮治療用リン脂質抽出物について、本件発明1が、「式I
【化1】

(式中、R_(1)及びR_(2)はそれぞれ独立してドコサヘキサエン酸(DHA)残基またはエイコサペンタエン酸(EPA)残基を表し、
各Xは、-CH_(2)CH_(2)NH_(3)、-CH_(2)CH_(2)N(CH_(3))_(3)、および
【化2】

から独立して選択される)の化合物を含み、」と特定するのに対し、刊行物1発明はそのような特定をするものではない点

<相違点2>
濃縮治療用リン脂質抽出物について、本件発明1が、「前記抽出物における全リン脂質の総量は、66±5%(w/w(リン脂質/抽出物))の濃度であり、前記抽出物における遊離EPA及び結合EPAの総量が15%(w/w)乃至25%(w/w)の濃度であり、前記抽出物における遊離DHA及び結合DHAの総量が10%(w/w)乃至15%(w/w)の濃度である」のに対し、刊行物1発明は、リン脂質が80重量%以上であり、EPAが20重量%以上であり、DHAが13重量%以上であるか、リン脂質が90重量%以上であり、EPAが23重量%以上であり、DHAが15重量%以上である点

そして、少なくとも上記相違点2については、実質的な相違点であるから、本件発明1は刊行物1発明ではない。
したがって、本件発明1は刊行物1に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

(イ)本件発明7、8、10?12について
本件発明7、8、10?12は、本件発明1を引用し、さらに技術的に特定するものであるから、本件発明1が刊行物1に記載された発明であるといえない以上、本件発明7、8、10?12も刊行物1に記載された発明とはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

(4)理由4について
ア 刊行物1及び2の記載事項
刊行物1には、上記(3)アで示したとおりの事項が記載されている。

刊行物2には、以下の事項が記載されている。
2a)「2.特許請求の範囲
(1)生オキアミを真空凍結乾燥法により脱水したうえ、エタノールで総脂質を抽出し、得られた総脂質を、エタノール系溶媒、アセトン系溶媒、またはヘキサン系溶媒のいずれかを溶離液となし、シリカゲルを充填剤として、吸着カラムクロマトグラフィーを用いてホスファチジルコリンとホスファチジルエタノールアミンを分画し、これをフラクションコレクターにより単離するようにしたことを特徴とするオキアミリン脂質の分取方法。
(2)オキアミより単離したホスファチジルコリンもしくはホスファチジルエタノールアミンまたはこれらの誘導体のうち少なくても一種以上を有効成分として食品基材に混入させるようにしたことを特徴とする脳機能改善効果を有する機能性食品。
(3)オキアミより単離したホスファチジルコリンもしくはホスファチジルエタノールアミンまたはこれらの誘導体のうち少なくても一種以上を有効成分として含有し構成させるようにしたことを特徴とする脳機能改善剤。」(特許請求の範囲)

2b)「「従来技術」
最近、高齢化社会を迎えて、老人性痴呆症が大きな社会問題になっている。老人性痴呆症は、神経系の障害を原因として起こるアルツハイマー型痴呆症と、脳血管障害を原因として起こる脳血管性痴呆症との二つの型に大別できる。前者のアルツハイマー型痴呆症の場合には、脳内の神経化学的な変化として、神経伝達物質であるアセチルコリンの生産が著しく低下していることが知られており、この病気の予防や治療法として、低下したコリン系の代謝を補給することにより生理機能を回復せんとすることが行なわれている。例えば、PCT特許出願公表昭56-500374号「レシチンを投与することにより病気を治療するための方法および組成物」、特開昭59-167514号「脳機能亢進剤組成物」、特開昭60-214734号「神経障害及び走化の治療組成物および治療方法」等がそれである。
即ち、コリン含有リン脂質であるホスファチジルコリンを摂取することにより、脳内にアセチルコリンを供給し、これによりアルツハイマー型痴呆症やその他の神経障害の予防と治療が期待されている。
また、リン脂質の一種であるホスファチジルエタノールアミンはS-アデノシルメチオンニンからのメチル基移転反応によりホスファチジルコリンに変換される。従って、当該ホスファチジルエタノールアミンもアルツハイマー型痴呆症やその他の神経障害の予防と治療剤としての利用が期待されている。
本発明者は、特に、グリセロリン脂質である、これらホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンといったリン脂質に注目し、これを食品や薬品の原料として利用が可能な状態で工業的に分取する方法を研究開発せんとしたものである。
従来、天然物からリン脂質を工業的に精製する場合の原料といえば大豆が一般的であり、大豆リン脂質は主に健康食品等として、商品化されている。従来の大豆リン脂質精製法は、まず原料大豆をクロロホルム・メタノール系の溶媒で総脂質を抽出し、次に当該総脂質をアセトンで分画し、可溶性区分と不溶性区分に分ける。当該アセトン可溶性区分には中性脂質、コレステロール、遊離脂肪酸等が分画されており、またアセトン不溶性区分にはリン脂質が分画されている。そこで、次に、アセトン不溶性区分を90%エタノールで処理して、アルコールに溶けるホスファチジルコリンと不溶性のホスファチジルエタノールアミンとを得る。
「発明が解決しようする問題点」
しかし、上記のような、大豆を原料としたリン脂質の精製法の場合には、得られるホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンとも純度が70%?80%程度であり、90%以上の高純度の精製物を得ることはなかなか困難であった。また、上記のように、クロロホルムメタノールを使用する方法は、いかに精製分画しても有害成分が残留している恐れがあるため、食品には使用しにくいという問題があった。
・・・
そこで本発明者は、未利用の水産資源であるオキアミを原料として、これから有用なリン脂質を高純度で得ることができれば、オキアミの有効利用法として非常に有益であると考え、その精製法の研究開発を進め、完成したのが本発明である。
即ち、本発明は、オキアミを原料として、総脂質を分画し、得られた総脂質から高純度のホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミン等を精製単離することを特徴とする分取方法と、そうして得られた生理活性物質を用いて脳機能改善効果を有する機能性食品及び脳機能改善剤として利用する技術である。
「問題点を解決する手段」
本発明は、上記問題点を解決するため、次のような手段を採用したものである。
本発明は、生オキアミを真空凍結乾燥法により脱水したうえ、エタノールで総脂質を抽出し、得られた総脂質を、エタノール系溶媒、アセトン系溶媒、またはヘキサン系溶媒のいずれかを溶離液となし、シリカゲルを充填剤として、吸着カラムクロマトグラフィーを用いてリン脂質を分画し、これをフラクションコレクターにより単離するようにしたことを特徴とするオキアミリン脂質の分取方法である。
第一工程:船内急速凍結生オキアミのブロック中には、90%以上が水分であるため、脱水方法が問題になる。そこで本発明では、吸着カラムクロマトグラフィーを用いた分取の前処理として、真空凍結乾燥装置を用いて脱水し乾燥オキアミとする。このとき水分含量が6%以下になるように脱水乾燥するのが望ましい。すると、水溶性蛋白質のエタノール抽出物への混入が抑制できるので、分別成分の純度を高めることができる。
第二工程:第一工程により得られた乾燥オキアミをエタノールでホモジナイズして総脂質を抽出する。
第三工程:次に総脂質からエタノールを出来るだけ除去したうえ、アセトン系溶媒、またはヘキサン系溶媒のいずれかを溶離液となし、可溶区分と不溶区分とに分画する。例えば、アセトン系溶媒の場合には、リン脂質の大部分は不溶区分にあるので、これから溶媒を洗浄すれば、粗リン脂質が得られる。
第四工程:この粗リン脂質をエタノール系溶媒、アセトン系溶媒、またはヘキサン系溶媒のいずれかを溶離液となし、吸着カラムクロマトグラフィーを用いてホスファチジルコリンやホスファチジルエタノールアミンに分画し、これからフラクションコレクターにより各リン脂質成分を90%以上95%前後の高純度にて単離する。
本発明は、以上のようにして高純度のホスファチジルコリンもしくはホスファチジルエタノールアミンなどのオキアミリン脂質を分取する方法である。
次は、上記の方法でオキアミより単離した高純度のホスファチジルコリンもしくはホスファチジルエタノールアミンがいずれも脳機能を改善する生理機能活性物質であるころに着目し、当該オキアミより単離した高純度のホスファチジルコリンもしくはホスファチジルエタノールアミンまたはこれらの誘導体のうち少なくとも一種以上を有効成分として食品基材に混入させるようにして脳機能改善効果を有する機能性食品とする。
また、オキアミより単離したホスファチジルコリンもしくはホスファチジルエタノールアミンまたはこれらの誘導体のうち少なくても一種以上を有効成分として含有させるようにして脳機能改善剤となす。ここで、脳機能改善剤は、錠剤、カプセル、顆粒、液状などの形態として、薬品化することができるものである。」(1頁右下欄下から2行?3頁左下欄18行)

2c)「「実施例」
以下、本発明を実施例に基ずき詳細に説明する。
<実施例1.>
船内急速凍結生オキアミ20Kgを真空乾燥装置を用いて水分含量4%前後になるまで乾燥させて乾燥オキアミ2.2Kgを得た。この原料である乾燥オキアミの脂質組成をイアトロスキャン法で分析した結果は、表1.の通りであった。
次に、こうして得た乾燥オキアミ2kgをエタノール40kgでホモジナイズして総脂質の抽出を行なった。その後、再抽出はエタノール20kgで同様に行なった。
抽出物である総脂質を濃縮して、できるだけエタノールを除去した後、当該総脂質をアセトンに溶解し、可溶区分と不溶区分に分画する。すると大部分のリン脂質は不溶区分に区画される。そこで、当該不溶区分に分画された物質にアセトン洗浄を数回繰り返して、粗リン脂質408gを得た。
表1.乾燥オキアミの脂質組成

次に、前記粗リン脂質400gをエタノールに2000mlに溶解し、全自動分取型高速液体クロマトグラフィーに装着した分取カラム(カラム長さ×カラム径:50cm×50mm、断面積19.6cm^(3))に粒径10μmの球状シリカゲル(吸着剤)を充填したものに、1バッチ当たり20mlを自動注入した。溶離液はエタノール100%を流速30ml/minで流し、カラム恒温槽は40℃で、ピーク検出は紫外部吸収検出器(205μm)を用いてモニターしたところ、第1図に示したクロマトグラムが得られたので、最初のピークの分画区分をAとなし、2番目の大きなピークの分画区分をBとしてフラクションコレクターを用いて分取した。分画区分Bのホスファチジルコリンの純度はイヤトロスキャン法で分析したところ98%以上であった。1バッチのサイクルタイムは30分で、原料溶液を30分毎に自動充填して100サイクルで約50時間要して、乾燥オキアミ2kgから高純度ホスファチジルコリンを約239g分取した。
また、分画区分Aから同様に純度95%以上の高純度のホスファチジルエタノールアミンを約45g分取した。
<実施例2.>
ウェクスラー方式の記憶ないし知能指数試験をしたところ記憶指数123であった記憶喪失にかかっている患者に、オキアミのから第1実施例にて分取した高純度ホスファチジルコリン(純度98%)を6週間に渡って1日3回食事毎に10gづつ食品に混入して経口投与した。
試験治療前と高純度ホスファチジルコリン摂取終了の6週間後に、患者からコリン測定用血液資料を採取しておき、血漿資料を分離し、凍結し、そしてそのコリン含量について慣用の放射性酵素法により分析した。その結果は、試験治療前採取した血液中の血漿コリン量が13.4±1.2ナノモル/mlであったのに対し、高純度ホスファチジルコリン投与から4時間後に得られた血液中の血漿コリン量が31.3±2.5ナノモル/mlに増加していた(P<0.01)。
しかも、高純度ホスファチジルコリン摂取の6週間後には、患者の記憶指数は、142に向上していた。
「効果」
第1請求項に係る保護を受けようとする発明は、未利用の水産資源であるオキアミを原料として、これから有用なホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンを90%以上という高純度で精製単離することができる分取方法である。この分取方法は、精製単離成分が高純度であるというだけでなく、その精製過程において、毒性を持った溶剤などが一切使用されていないので、安全性が高く、食品や薬品などにも安心して利用できる点に特徴がある。
また、第2請求項、第3請求項に係る特許を受けようとする発明は、そうして得られたオキアミリン脂質であるホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンには、アルツハイマー病の予防と治療が期待できる脳機能を改善するという生理機能を有しているので、これを利用して脳機能改善効果を有する機能性食品及び脳機能改善剤となすことができる。」(4頁左上欄1行?5頁左上欄18行)

イ 引用発明
(ア)刊行物1
刊行物1には、上記(3)イに示したとおりの刊行物1発明が記載されているといえる。

(イ)刊行物2
刊行物2には、オキアミリン脂質の分取方法、オキアミより単離したホスファチジルコリンもしくはホスファチジルエタノールアミンまたはこれらの誘導体のうち少なくても一種以上を有効成分として食品基材に混入させるようにしたことを特徴とする脳機能改善効果を有する機能性食品、オキアミより単離したホスファチジルコリンもしくはホスファチジルエタノールアミンまたはこれらの誘導体のうち少なくても一種以上を有効成分として含有し構成させるようにしたことを特徴とする脳機能改善剤についての記載があるところ(摘示2a)、具体例として、船内急速凍結生オキアミを原料として製造した、高純度ホスファチジルコリン(純度98%)及び純度95%以上の高純度のホスファチジルエタノールアミンについての記載がある(摘示2c)。
さらに、上記高純度ホスファチジルコリン(純度98%)を食品に混入して経口投与した場合に記憶指数が向上していたことが記載されている(摘示2c)。
してみれば、刊行物2には、
「オキアミより単離した、脳機能改善剤に用いられる純度98%の高純度ホスファチジルコリン又は純度95%以上の高純度のホスファチジルエタノールアミン」の発明(以下「刊行物2発明」という。)が記載されているといえる。

ウ 対比・判断
(ア)本件発明1について
a 刊行物1発明を主引用例とする場合
本件発明1と刊行物1発明との一致点、相違点は、上記(3)ウ(ア)に示したとおりである。

上記相違点1について検討する。
本件発明1は、オキアミ等を原料として、これを公知の方法によって製造するものであるところ、具体的には、アセトン-水による抽出、向流超臨界CO_(2)抽出等により製造するものである(【0067】、【0101】、【0102】 )。
一方、刊行物1発明の組成物の製造方法は、エタノール等による洗浄、エタノール等を含むCO_(2)で超臨界圧で抽出により製造されるものであり、製造方法が、水溶性有機溶剤を用いる洗浄ないし抽出及び超臨界CO_(2)による抽出である点で、本件発明1のものと同様の製造方法であるといえる。
してみると、両発明は同様の原料から同様の方法によりリン脂質を含有する組成物を製造しているから、同様の物質を含有する組成物であるといえる。
また、刊行物2にも記載のとおり(摘示2a、2b)、オキアミに含まれるリン脂質として、ホスファチジルコリン又はホスファチジルエタノールアミンがあることは本願優先日当時の技術常識であるから、当業者は、刊行物1発明に含まれるリン脂質がホスファチジルコリン又はホスファチジルエタノールアミンを含むと認識するといえ、それらはそれぞれ、本件発明1の式Iにおいて、Xが、-CH_(2)CH_(2)N(CH_(3))_(3)、-CH_(2)CH_(2)NH_(3)であるものに該当する。
さらに、刊行物1には、「・加水分解および/または酸化された脂質が慣用の方法により製造される脂質より実質的に少な」いこと、「・非常に低いレベルの遊離脂肪酸を含」むことが記載されている(摘示1f)ことに鑑みれば、刊行物1発明の組成物に含まれるEPA及びDHAのほとんどがリン脂質を構成する脂肪酸として存在すると当業者が認識するといえ、それらは、本件発明1の式Iにおいて、R_(1)又はR_(2)がエイコサペンタエン酸(EPA)残基又はドコサヘキサエン酸(DHA)残基であるものに相当する。
してみると、上記相違点1は実質的な相違点であるとはいえない。
仮に、上記相違点1が実質的な相違点であったとしても、刊行物2について上記したとおり、オキアミに含まれるリン脂質として、ホスファチジルコリン又はホスファチジルエタノールアミンがあることは本願優先日当時の技術常識であること、刊行物1には、「・加水分解および/または酸化された脂質が慣用の方法により製造される脂質より実質的に少な」いこと、「・非常に低いレベルの遊離脂肪酸を含」むことが記載されている(摘示1f)ことに鑑みれば、刊行物1発明の組成物に含まれるEPA及びDHAのほとんどがリン脂質を構成する脂肪酸として存在すると当業者が認識するといえること、を考慮すれば、刊行物1発明のリン脂質が式Iの化合物を含むものであるとすることは当業者が容易になし得た事項である。

次に、上記相違点2について検討する。
刊行物1には、刊行物1発明の脂質組成物以外に、リン脂質含量が58%、EPAが24.0%、DHAが11.4%であるエタノール抽出物(摘示1f、実施例7)、総リン脂質が40.0%以上、EPAが15.0%以上、DHAが9.0%以上であるオキアミ油(摘示1f)、リン脂質が30-40重量%より多く、EPAが5-15重量%より多く、DHAが5-15重量%より多い脂質組成物(摘示1f、表2)、リン脂質が50重量%以上、EPAが15重量%以上、DHAが10重量%以上である脂質組成物(摘示1f、表3)の記載もある。
しかし、実施例7のエタノール抽出物は、全リン脂質の総量の濃度が本件発明1の範囲内になく、上記オキアミ油は、全リン脂質の総量並びに遊離DHA及び結合DHAの総量の濃度が本件発明1の範囲内になく、表2及び表3の脂質組成物は、全リン脂質の総量、遊離EPA及び結合EPAの総量並びに遊離DHA及び結合DHAの総量の濃度の範囲がいずれも本件発明1の範囲とは異なる範囲のものである。
刊行物1には、「オメガ-3の豊富なリン脂質はそのまま用いてもよく,オメガ-3含有リン脂質に起因する種々のポジティブな生物学的効果を得ることができる。あるいは,エステル(典型的にはエチルエステル)または遊離脂肪酸,またはオメガ-3脂肪酸をさらに濃縮するのに適した他の誘導体を得るために,リン脂質をエステル交換するかまたは加水分解することができる。」との記載があるものの(摘示1e)、具体的に、全リン脂質の総量、遊離EPA及び結合EPAの総量並びに遊離DHA及び結合DHAの総量の濃度の全てを、相違点2に係る本件発明1の範囲とすること、及びその方法についての記載はない。
また、刊行物2にも、全リン脂質の総量、遊離EPA及び結合EPAの総量並びに遊離DHA及び結合DHAの総量の濃度の全てを、相違点2に係る本件発明1の範囲とすること、及びその方法についての記載はない。
そして、それらの事項が本件特許の優先日における技術常識であるともいえない。
してみると、刊行物1発明において、全リン脂質の総量、遊離EPA及び結合EPAの総量並びに遊離DHA及び結合DHAの総量の濃度を、本件発明1で特定されたものとすることが当業者が容易になし得た事項であるとすることはできない。

したがって、本件発明1は刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

b 刊行物2発明を主引用例とする場合
本件発明1と刊行物2発明とを対比する。
刊行物2発明は、「オキアミより単離した」、「純度98%の高純度ホスファチジルコリン又は純度95%以上の高純度のホスファチジルエタノールアミン」であるところ、刊行物2には、濃縮すること、抽出することが記載されているから(摘示2c)、本件発明1の「濃縮」、「抽出物」に該当する。また、上記「ホスファチジルコリン」、「ホスファチジルエタノールアミン」は、本件発明1の「式I
【化1】

(各Xは、-CH_(2)CH_(2)NH_(3)、-CH_(2)CH_(2)N(CH_(3))_(3)、および
【化2】

から独立して選択され)の化合物」に該当し、いずれもリン脂質であって、刊行物2発明は当該化合物を含むものである。
さらに、本件発明1は、「濃縮治療用リン脂質抽出物を含む組成物」であり、該抽出物自体も、抽出物が組成物(2種以上の成分を含有するもの)であれば、該抽出物を含む組成物であるといえるところ、刊行物2発明は、純度が100%ではなく、2種以上の成分を含有するといえるから、刊行物2発明は、本件発明1の「・・・抽出物を含む組成物」に相当する。
そして、刊行物2発明は、「脳機能改善剤に用いられる」ものであるところ、これは、本件発明1の「治療用」に相当する。
したがって、本件発明1と刊行物2発明とは、
「濃縮治療用リン脂質抽出物を含む組成物であって、
前記濃縮治療用リン脂質抽出物が式I
【化1】

(式中、各Xは、-CH_(2)CH_(2)NH_(3)、-CH_(2)CH_(2)N(CH_(3))_(3)、および
【化2】

から独立して選択される、組成物。」である点で一致し、
以下の2点で相違する。

<相違点3>
本件発明1は、式(I)において、「R_(1)及びR_(2)はそれぞれ独立してドコサヘキサエン酸(DHA)残基またはエイコサペンタエン酸(EPA)残基を表し」と特定するのに対し、刊行物2発明では、R_(1)及びR_(2)に相当する基が不明である点

<相違点4>
濃縮治療用リン脂質抽出物について、本件発明1が、「前記抽出物における全リン脂質の総量は、66±5%(w/w(リン脂質/抽出物))の濃度であり、前記抽出物における遊離EPA及び結合EPAの総量が15%(w/w)乃至25%(w/w)の濃度であり、前記抽出物における遊離DHA及び結合DHAの総量が10%(w/w)乃至15%(w/w)の濃度である」のに対し、刊行物2発明は、純度が98%又は95%以上とされているものの、抽出物における全リン脂質の総量、遊離EPA及び結合EPAの総量、並びに遊離DHA及び結合DHAの総量の濃度が不明である点

相違点3について検討する。
刊行物2発明は、オキアミを原料とするリン脂質であるといえるところ、刊行物1には、オキアミからのリン脂質は非常に高いレベルのオメガ-3脂肪酸を含むこと、そのうち、EPA及びDHAの含有量は40%を超えることが記載されており(摘示1c)、また、本願優先日当時、魚油がDHA又はEPAを含有することは周知の技術的事項であったと認められる。
そして、刊行物2発明は、脳機能改善剤に用いられるものであるところ、本件明細書等にも記載のとおり、DHA摂取が記憶能力を高めること、アルツハイマー病の認知障害の予防等に有効であることも本願優先日当時周知の技術的事項である。
してみると、当業者は、刊行物2発明が含有するといえるリン脂質を構成する脂肪酸には、DHA又はEPAが含まれると認識するといえるから、該脂肪酸がDHA又はEPAであることを特定すること、すなわち、上記R_(1)及びR_(2)に相当する基がDHA残基又はEPA残基とすることは当業者が容易に行うことである。そして、そのように特定することで本件発明1が当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するとはいえない。

上記相違点4について検討する。
刊行物2には、高純度ホスファチジルコリン又は高純度のホスファチジルエタノールアミンについて、その全リン脂質の総量、遊離EPA及び結合EPAの総量並びに遊離DHA及び結合DHAの総量の濃度の全てを、相違点4に係る本件発明1の範囲とすること、及びその方法についての記載はない。また、刊行物1にも、全リン脂質の総量、遊離EPA及び結合EPAの総量並びに遊離DHA及び結合DHAの総量の濃度の全てを、相違点4に係る本件発明1の範囲とすること、及びその方法についての記載はない。
そして、それらの事項が本件特許の優先日における技術常識であるともいえない。
してみると、刊行物2発明において、全リン脂質の総量、遊離EPA及び結合EPAの総量並びに遊離DHA及び結合DHAの総量の濃度を、本件発明1で特定されたものとすることが当業者が容易になし得た事項であるとすることはできない。

したがって、本件発明1は刊行物2及び刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

(イ)本件発明7、8、10?13、15、16について
本件発明7、8、10?13、15、16は、本件発明1を引用し、さらに技術的に特定するものであるから、本件発明1が刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明7、8、10?13、15、16も刊行物1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

2 当審が令和1年8月23日付けで通知した取消理由について
取消理由通知において、理由aについて、具体的には、「請求項1に、「前記抽出物における全リン脂質の総量は、60%(w/w(リン脂質/抽出物))乃至70±5%(w/w(リン脂質/抽出物))の濃度であり」との記載があるところ、「60%(w/w(リン脂質/抽出物))乃至70±5%(w/w(リン脂質/抽出物))」との記載は、前記抽出物における全リン脂質の総量の濃度の値の下限及び上限を、60及び70±5と特定したものと解される。しかし、上限の70±5については、±5との記載があるから、一定の範囲をもった値であるといえ、上限が当該範囲内のどの値であるかが不明である。したがって、「前記抽出物における全リン脂質の総量は、60%(w/w(リン脂質/抽出物))乃至70±5%(w/w(リン脂質/抽出物))の濃度であり」との記載により特定される本件発明1は明確でない。本件発明1を引用する本件発明7?19についても同様である。」との指摘をしているところ、本件訂正により、請求項1の「70±5」との記載は削除され、全リン脂質の総量は、66±5%(w/w(リン脂質/抽出物))の濃度であることが特定された。
したがって、この点において、本件発明1について、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。
本件発明7?19についても同様である。

3 特許異議申立人が申し立てた取消理由について
(1)理由アについて
特許異議申立書における、特許異議申立人の主張は、平成30年2月9日付けの手続補正により、
請求項1において、「前記組成物における全リン脂質の総量は、60%(w/w(リン脂質/組成物))乃至99%(w/w(リン脂質/組成物))の濃度である」が「前記抽出物における全リン脂質の総量は、60%(w/w(リン脂質/抽出物))乃至99%(w/w(リン脂質/抽出物))の濃度である」(下線は補正箇所。以下同様。)と補正された点、
請求項2において、「前記組成物における全リン脂質が66%±5%(w/w(リン脂質/全組成物))の濃度である」が「前記抽出物における全リン脂質が66%±5%(w/w(リン脂質/全抽出物))の濃度である」と補正された点、
請求項3において、「前記組成物における全リン脂質が80%(w/w(リン脂質/全組成物))乃至95%(w/w(リン脂質/全組成物))の濃度である」が「前記抽出物における全リン脂質が80%(w/w(リン脂質/全抽出物))乃至95%(w/w(リン脂質/全抽出物))の濃度である」と補正された点、
請求項5において、「前記組成物における遊離EPA及び結合EPAの総量が15%(w/w)乃至25%(w/w)の濃度である」が「前記抽出物における遊離EPA及び結合EPAの総量が15%(w/w)乃至25%(w/w)の濃度である」と補正された点、
請求項6において、「前記組成物における遊離DHA及び結合DHAの総量が10%(w/w)乃至15%(w/w)の濃度である」が「前記抽出物における遊離DHA及び結合DHAの総量が10%(w/w)乃至15%(w/w)の濃度である」と補正された点、
がいずれも新規事項の追加にあたるというものである。
そして、令和1年11月20日付けの訂正請求により、請求項1が訂正され、請求項2?6が削除されたため、特許異議申立人は、令和1年12月25日付けの意見書において、
(i)上記第2、2(2)で述べた訂正事項1-1によって、本件訂正前に「濃縮治療用リン脂質抽出物が」の述語がないために不明確であったものが、「濃縮治療用リン脂質抽出物が式Iの化合物を含む」ことが明確になったところ、この訂正により新規事項の異議理由が生じている、すなわち、平成28年10月5日付けの手続補正により、濃縮治療用リン脂質組成物に、式Iの化合物が含まれることが削除され、平成30年2月9日付けの手続補正により、「濃縮治療用リン脂質組成物」が「濃縮治療用リン脂質抽出物」に補正されているところ、本件に係る出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件当初明細書等」という。)には、濃縮治療用リン脂質組成物に式Iの化合物が、所定の濃度などで含まれることは記載されているが、濃縮治療用リン脂質組成物に0%を超えて100%の範囲で含まれることは開示されておらず、更に、本件発明1においては、「前記濃縮治療用リン脂質抽出物が式I・・・の化合物を含」むと規定されているが、段落〔0019〕及び段落〔0020〕には、濃縮治療用リン脂質抽出物に含まれる式Iの化合物の濃度は全く開示されておらず、新規事項の追加である旨、
(ii)上記第2、2(2)で述べた訂正事項1-2による訂正によっても、上記異議申立書において主張した新規事項追加の異議理由は解消しない旨、
主張する(なお、特許異議申立人は「新規事項(特許法第17条の2第3項)」と記載する一方で、訂正事項1-1が新規事項の追加であると主張しているが、上記各手続補正が新規事項の追加であると主張しているものとして以下検討する。)。
以下に検討する。
(i)について
本件当初明細書等には、「本明細書には、新規な濃縮治療用リン脂質組成物ならびにそれを含む医薬用組成物、およびそれらの使用方法が開示される。」(【0017】)、「例示的な医薬組成物は、錠剤、ゼラチンカプセルであって、濃縮治療用リン脂質組成物のニート組成物を含むものであり、または必要ならば、医薬上許容される担体を含む。」、「液剤、特に注射剤の組成物は、例えば、溶解、分散等により調製することができる。例えば、該濃縮治療用リン脂質組成物を、医薬上許容される溶媒(例えば、水、生理食塩水、水性デキストロース、グリセロール、エタノールなど)中に溶解、またはそれと混合し、注射可能な等張溶液または懸濁液を形成する。タンパク質(アルブミン、カイロミクロン粒子、または血清タンパク質など)を用いて、濃縮治療用リン脂質組成物を可溶化することができる。」、「他の例示的な局所投与用製剤としては、クリーム剤、軟膏、ローション剤、エアゾールスプレー剤、およびゲル剤などが挙げられ、この場合、濃縮治療用リン脂質組成物は約0.1%?約15%(w/wまたはw/v)の濃度範囲である。」(【0092】?【0094】)との記載があり、これらの記載から、本件当初明細書等には、濃縮治療用リン脂質組成物、すなわち、濃縮治療用リン脂質抽出物(上記(2)イを参照されたい。)が、組成物に含まれる成分とすることが記載されているといえる。
また、上記各手続補正は、濃縮治療用リン脂質抽出物に含まれる式Iの化合物の濃度を特定するものではない。
なお、上記各手続補正は、式Iの化合物が、「濃縮治療用リン脂質組成物に0%を超えて100%の範囲で含まれる」とする訂正ではない。
したがって、この点で平成28年10月5日付けの手続補正、平成30年2月9日付けの手続補正が新規事項を追加するものとはいえない。
(ii)について
上記請求項1?3、5及び6のうち、請求項1の濃度に関する事項については、本件訂正により、「66%±5%(w/w(リン脂質/抽出物))の濃度」であるとされており、請求項3は本件訂正により削除されており、請求項2、5及び6の濃度に関する事項が、実質的に、本件訂正により本件発明1の発明特定事項となっているから、上記請求項2、5及び6における上記手続補正が新規事項の追加にあたるかを検討する。
上記手続補正前の「組成物」は「濃縮治療用リン脂質組成物」であり、補正後の「抽出物」は「濃縮治療用リン脂質抽出物」であると認める。
本件当初明細書等には以下の記載がある。
「【0031】
いくつかの実施形態では、濃縮治療用リン脂質組成物におけるDHAの総量は、約5%と約20%との間である。いくつかの実施形態では、濃縮治療用リン脂質組成物におけるDHAの総量は、約10%と約15%との間である。いくつかの実施形態では、濃縮治療用リン脂質組成物におけるDHAの総量は、約14%である。
【0032】
いくつかの実施形態では、濃縮治療用リン脂質組成物におけるEPAの総量は、約10%と約30%との間である。いくつかの実施形態では、濃縮治療用リン脂質組成物におけるEPAの総量は、約15%と約25%との間である。いくつかの実施形態では、濃縮治療用リン脂質組成物におけるEPAの総量は、約22%である。」
「【0057】
用語「約」は、本明細書中で数値の記載とともに使用されるとき、記載される数値と当該数値の±5%を含めた大きさを意味する。」
「【0067】
[濃縮治療用リン脂質組成物の製造方法]
濃縮治療用リン脂質組成物は、当業者に公知の任意の方法によって作製または製造することができる。例えば、油を含むリン脂質を、天然の供給源から単離(米国特許出願公開第2004/0234587号、同第2009/0074857号、同第2008/0274203号を参照。これらの開示内容は引用によりその全体を本明細書の一部とする)し、次にそれを処理することができる。あるいは、図1Aに概要を示すプロセスに従えば、バルク原料のオキアミ油が得られ、これをさらに処理することができる。さらに、これらの油を含むリン脂質を向流超臨界C0_(2)抽出を用いて(Lucien,F.P.ら,Australas Biotechnol.1993,3,143-147)処理して組成物を濃縮し、本明細書に記載する濃縮治療用脂質組成物を作り出すことができる(図1B参照)。例えば、70℃、30MPa、C0_(2)/油比72での向流超臨界C0_(2)抽出を用いて、バルク原料のオキアミ油から、遊離脂肪酸の一部とともに、トリグリセリドのような特定の生体分子をすべて除去することができる(図1B参照)。・・・このプロセスによってトリグリセリド(TG)が除去された場合、リン脂質組成物は、約66%の濃度(w/w(リン脂質/組成物))となり、・・・」(下線は当審が付与。)
したがって、「濃縮治療用リン脂質組成物」はオキアミ油から抽出等により製造することができることが本件当初明細書等に記載されているといえるところ、抽出により得られた「濃縮治療用リン脂質組成物」は「濃縮治療用リン脂質抽出物」であるということができ、このことから、上記手続補正前の請求項2、5及び6に記載の「組成物」は「抽出物」であるといえる。
また、全リン脂質、EPA、DHAの総量の濃度も本件当初明細書等に記載された事項の範囲内である。
してみれば、請求項2、5及び6についての上記手続補正は、本件当初明細書等に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであるとはいえず、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとすることはできない。
なお、特許異議申立人は、【0067】及び実施例の記載を挙げて、本件当初明細書等には、濃縮治療用リン脂質組成物が濃縮治療用リン脂質抽出物であることは記載されていない旨を主張するが、本件当初明細書等の【0067】の記載から、濃縮治療用リン脂質組成物が濃縮治療用リン脂質抽出物であるといえることは、上で述べたとおりである。

(2)理由イについて
特許異議申立人の主張は、本件発明1?19は、組成物に含まれる抽出物の量が規定されていないため、微量のリン脂質を含む組成物も含まれ、そのようなリン脂質が濃縮されていない組成物によって、本件発明1?19の課題が解決できるものとは認められないため、本件発明1?19は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えたものであるというものである。
以下に検討する。
上記1(2)イに示したとおり、本件発明1の課題は、「疾患を治療または予防するために有用な、新しい形態のオメガ3脂肪酸を含む、新規な濃縮治療用リン脂質組成物を含む組成物を提供すること」であり、本件発明1は当該課題が解決できるといえる。
また、本件明細書等には、1(2)アに示したもののほか、以下の記載がある。
e)「【0087】
[併用療法]
いくつかの実施形態では、被検体に対して、有効量の濃縮治療用リン脂質組成物を投与する。他の実施形態において、治療には、濃縮治療用リン脂質組成物と、抗脂質代謝異常薬などの治療薬との併用が含まれる。抗脂質代謝異常薬としては、例えばアトルバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、およびシンバスタチンなどが挙げられるが、これらの限定されない。
【0088】
他の実施形態では、治療には、濃縮治療用リン脂質組成物と、コリンエステラーゼ阻害薬との併用が含まれる。コリンエステラーゼ阻害薬としては、メトリフォネート(不可逆性)、カルバメート、フィゾスチグミン、ネオスチグミン、ピリドスチグミン、アンベノニウム、デマルカリウム(demarcarium)、リバスチグミン、フェナントレン誘導体、ガランタミン、ピペリジン、ドネペジル、タクリン、エドロホニウム、フペルジンA、ラドスチギル、およびウンゲレミンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
いくつかの実施形態では、被検体には、ビタミン、ミネラル、シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤、ステロール類、フィブラート系薬剤、抗高血圧薬、インスリン、コレステロール消化阻害剤(例えばエゼチミブ)、脂肪酸、オメガ3脂肪酸、抗酸化物質、およびメチルフェニデートクラスの化合物(例えばリタリンなど)のなかの少なくとも1種類と、濃縮治療用リン脂質組成物との組みあわせが投与される。他の実施形態では、従来の長期治療(例えばスタチンによる長期治療)の間に欠乏した要素を、濃縮治療用リン脂質組成物と組み合わせ。例えば、いくつかの実施形態では、COX-2、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、マグネシウム、または亜鉛のなかの少なくとも1種類を含む、濃縮治療量リン脂質組成物が提供される。他の実施形態では、カリウムを、濃縮治療量リン脂質組成物とともに含む併用療法が提供される。カリウムは、通常、利尿薬の長期服用中に欠乏する。併用療法により、副作用のリスクが減少し、利益が増加し、溶解度が高められ、および/または生物学的利用能が高められる。
【0090】
[投与方法]
濃縮治療用リン脂質組成物の投与は、治療薬の投与方法のいずれかを利用して行うことができる。これらの投与方法には、経口、非経口、経皮、皮下、または局所投与など全身または局所投与方法が含まれる。
【0091】
[医薬製剤]
意図された投与方法に応じて、該組成物は、固体、半固体または液体の剤形、例えば注射剤、錠剤、丸剤、徐放性カプセル剤、エリキシル剤、チンキ剤、乳剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤などとすることができ、場合によっては、単位用量を含み従来の薬務に準拠する形に製することができる。同様に、該組成物を、静脈内投与(ボーラス投与および注射の両方)、腹腔内投与、皮下投与、または筋肉内投与用の剤形で投与することができ、これらの使用する剤形はすべて製薬分野の当業者によく知られている。
【0092】
例示的な医薬組成物は、錠剤、ゼラチンカプセルであって、濃縮治療用リン脂質組成物のニート組成物を含むものであり、または必要ならば、医薬上許容される担体を含む。そのような担体としては、(a)希釈剤、例えば、精製水、トリグリセリド油(例えば、水素化植物油もしくは部分的水素化された植物油またはそれらの混合物、トウモロコシ油、オリーブ油、ヒマワリ油、ベニバナ油)、ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、ナトリウム、サッカリン、グルコース、および/またはグリシンなど;(b)潤滑剤、例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸、そのマグネシウムまたはカルシウム塩、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、および/またはポリエチレングリコール;などが挙げられ、錠剤の場合にはさらに、(c)結合剤、例えば、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、デンプンペースト、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、炭酸マグネシウム、天然の糖(例えばグルコースまたはβ-ラクトース)、トウモロコシ甘味料、天然および合成ゴム(例えばアカシア、トラガカント、またはアルギン酸ナトリウムなど)、ワックス、および/またはポリビニルピロリドン;さらに必要に応じて(d)錠剤崩壊剤、例えば、でんぷん、寒天、メチルセルロース、ベントナイト、キサンタンガム、アルギン酸またはそのナトリウム塩、または発泡性混合物;(e)吸収剤、着色剤、香味剤、および甘味料;(f)乳化剤すなわち分散剤、例えば、Tween 80、Labrasol、HPMC、DOSS、Caproyl909、Labrafac、Labrafil、Peceol、Transcutol、Capmul MCM、Capmul PG-12、Captex355、Gelucire、ビタミンE TGPS、または他の許容される乳化剤;および/または(g)化合物の吸収を高める薬剤、例えばシクロデキストリン、ヒドロキシプロピルシクロデキストリン、PEG400、PEG200などが挙げられる。
【0093】
液剤、特に注射剤の組成物は、例えば、溶解、分散等により調製することができる。例えば、該濃縮治療用リン脂質組成物を、医薬上許容される溶媒(例えば、水、生理食塩水、水性デキストロース、グリセロール、エタノールなど)中に溶解、またはそれと混合し、注射可能な等張溶液または懸濁液を形成する。タンパク質(アルブミン、カイロミクロン粒子、または血清タンパク質など)を用いて、濃縮治療用リン脂質組成物を可溶化することができる。
【0094】
他の例示的な局所投与用製剤としては、クリーム剤、軟膏、ローション剤、エアゾールスプレー剤、およびゲル剤などが挙げられ、この場合、濃縮治療用リン脂質組成物は約0.1%?約15%(w/wまたはw/v)の濃度範囲である。
【0095】
[投薬]
濃縮治療用リン脂質組成物を利用した投薬レジメンは、タイプ、種、年齢、体重、性別、および被験体の病状;治療すべき症状の重症度;投与経路;被検体の腎機能または肝機能;および使用する特定の濃縮治療用リン脂質組成物などのさまざまな要因に応じて選択される。当分野で通常の知識を有する医師または獣医師であれば、病状の進行を防止、阻害、または阻止するために必要な有効な量の薬剤を容易に決定し、処方することができる。
【0096】
本発明の有効用量は、指定された効果のために使用される場合、濃縮治療用リン脂質組成物を1日あたり約20mg?から約10000mgの範囲となる。生体内または試験管内の用途のための用量には、濃縮治療用リン脂質組成物の約20、50、75、100、150、250、500、750、1000、1250、2500、3500、5000、7500、または10000mgが含まれ得る。被検体への投与後の濃縮治療用リン脂質組成物の有効な血漿中レベルは、1日につき体重1kgあたり約0.002mg?約100mgの範囲であり得る。濃縮治療用リン脂質組成物の適切な用量は、L.S.Goodman,ら,The Pharmacological Basis of Therapeutics,201-26(5th ed.1975)に記載のように決定することができる。」
この記載によれば、本件発明1の濃縮治療用リン脂質抽出物は、他の治療薬と併用したり、剤形に応じて希釈剤等の担体と合わせて組成物とすることができ、指定された効果のために使用される場合、所定の有効用量とすることができるといえ、濃縮治療用リン脂質抽出物自体の他、このような組成物も、濃縮治療用リン脂質抽出物を含む組成物であるといえる。
そして、上記1(2)イで述べたとおり、本件明細書等には、本件発明1で特定される全リン脂質の総量、遊離EPA及び結合EPAの総量、遊離DHA及び結合DHAの総量の濃度を有する組成物3が、主として血漿中のTGおよびLDLの低下とHDLの上昇に関して脂質代謝の効果的な調節因子であることがわかること、濃縮治療用リン脂質組成物は、中等度乃至重症の高トリグリセリド血症の治療法として有効であり得ることが判明したこと、組成物3の投与が、重症高血糖症モデルにおける血糖値制御を有意に改善すること等が記載されている。
してみれば、本件発明1で特定される濃縮治療用リン脂質抽出物自体が、
疾患を治療または予防するために有用な、新しい形態のオメガ3脂肪酸を含む抽出物であることは、当業者が認識できるといえ、当該抽出物を含む組成物が、当該抽出物の濃度に応じ、また、本件明細書等に記載された有効用量(【0096】)にしたがって投与すれば、疾患の治療又は予防作用を有する組成物であることもまた、当業者が認識できるといえる。
そして、通常、ある有効成分を疾患の治療、予防に用いる場合に、当該有効成分を当該疾患の治療、予防に有効な量で用いることは技術常識である。
したがって、本件発明1において組成物に含まれる抽出物の量を特定せずとも、当業者は、上記課題が解決することができることを認識できるといえる。
したがって、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものではないとすることはできず、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。
本件発明7?19についても同様である。
なお、特許異議申立人は、令和1年7月10日付けの意見書において、本件発明1の組成物における式Iの化合物、全リン脂質、EPA、DHAの総量が0%(w/w)を超えて特定の割合以下の濃度のものであるから、サポート要件を満たさない旨を主張し、令和1年12月25日付けの意見書においても同様の主張をしているが、上述のとおりであるから、かかる主張は採用できない。

(3)理由ウについて
特許異議申立人の主張は、上記理由1のうち、本件訂正前の請求項1に記載の「(」に対応する「)」が存在しないことを理由とするものと同様の理由についてのものであるところ、上記1(1)で述べたとおり、この点において、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

(4)理由エ及びオについて
ア 本件発明1、7、8、10?13、15、16について
特許異議申立人は、甲第1号証及び甲第2号証を証拠として新規性及び進歩性がないことを主張するが、甲第1号証は、上記刊行物1と実質的にその内容は同じであり、甲第2号証は上記刊行物2と同じ刊行物であって、上記1(3)及び(4)で述べたことから、刊行物1によって本件発明1、7、8、10?12の新規性を否定することはできず、刊行物1及び刊行物2によって本件発明1、7、8、10?13、15、16の進歩性を否定することはできないから、甲第1号証を根拠として、本件発明1、7、8、10?12の新規性を否定することはできず、甲第1号証及び甲第2号証を根拠として、本件発明1、7、8、10?13、15、16の進歩性を否定することもできない。
なお、特許異議申立人は、令和1年7月10日付けの意見書において、本件発明1の組成物における式Iの化合物、全リン脂質、EPA、DHAの総量が0%(w/w)を超えて特定の割合以下の濃度のものであるから、本件発明1は、刊行物1の表2及び表3に記載の組成物であり、また、刊行物1から容易に想到するものである旨主張するが、上記1(3)ウ(ア)で述べたことから、刊行物1には、本件発明1で特定される濃縮治療用リン脂質抽出物が記載されているとはいえず、また、上記1(4)ウ(ア)で述べたことから、該抽出物とすることが当業者が容易になし得た事項であるともいえないから、当該主張を採用することはできない。

イ 本件発明9について
特許異議申立人は、甲第1号証及び甲第2号証を証拠として進歩性がないことを主張する。
本件発明9は、本件発明1を引用し、さらに技術的に特定するものである。
したがって、本件発明1が刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない以上、本件発明9も甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない(なお、刊行物1及び刊行物2と甲第1号証及び甲第2号証の関係は上記アで述べたとおりである。)。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1、7?19に係る特許は、当審が平成31年2月28日付け及び令和1年8月23日付けで通知した取消理由並びに特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によって取り消すことができない。
また、他に本件発明1、7?19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項2?6は本件訂正により削除されているから、請求項2?6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃縮治療用リン脂質抽出物を含む組成物であって、
前記濃縮治療用リン脂質抽出物が式I
【化1】

(式中、R_(1)及びR_(2)はそれぞれ独立してドコサヘキサエン酸(DHA)残基またはエイコサペンタエン酸(EPA)残基を表し、
各Xは、-CH_(2)CH_(2)NH_(3)、-CH_(2)CH_(2)N(CH_(3))_(3)、および
【化2】

から独立して選択される)の化合物を含み、
前記抽出物における全リン脂質の総量は、66±5%(w/w(リン脂質/抽出物))の濃度であり、
前記抽出物における遊離EPA及び結合EPAの総量が15%(w/w)乃至25%(w/w)の濃度であり、
前記抽出物における遊離DHA及び結合DHAの総量が10%(w/w)乃至15%(w/w)の濃度である、組成物。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】
更に抗酸化物質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記抗酸化物質が、アスタキサンチン、カロテノイド、ビタミンAおよびビタミンEから選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記抗酸化物質がビタミンEである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記抗酸化物質がアスタキサンチンである、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
前記抽出物が海洋資源由来である、請求項1、7?10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記抽出物がオキアミ由来である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記抽出物がカプセルとして製剤化されている、請求項1、7?12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
心血管代謝疾患/メタボリック症候群の治療または予防のための請求項1、7?13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
認識力および/または認知の疾病、疾患または障害を治療、予防、または改善するための請求項1、7?13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
神経変性疾患の防止、予防、または治療のための請求項1、7?13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
心血管疾患の治療のための請求項1、7?13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
心血管代謝疾患/メタボリック症候群の治療または予防のための薬剤の製造における請求項1、7?13のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項19】
前記心血管代謝疾患/メタボリック症候群が、アテローム性動脈硬化症、脂質異常症、高トリグリセリド血症、高血圧、心不全、不整脈、低HDL血症、高LDL血症、安定狭心症、冠動脈性心疾患、急性心筋梗塞、二次心筋梗塞予防、心筋症、心内膜炎、2型糖尿病、インスリン抵抗性、耐糖能異常、高コレステロール血症、脳卒中、高脂血症、高リポタンパク血症、慢性腎臓病、間欠性跛行、高リン血症、オメガ3系脂肪酸欠乏、リン脂質欠乏、頸動脈アテローム性動脈硬化症、末梢動脈疾患、糖尿病性腎症、HIV感染における高コレステロール血症、急性冠症候群(ACS)、非アルコール性脂肪性肝疾患/非アルコール性脂肪性肝炎(NAFLD/NASH)、動脈閉塞性疾患、脳のアテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、脳血管障害、心筋虚血、血管内血栓形成に至る凝固障害、および糖尿病性自律神経障害から選択される、請求項18に記載の使用。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-02-19 
出願番号 特願2015-81001(P2015-81001)
審決分類 P 1 651・ 841- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 851- YAA (A61K)
P 1 651・ 113- YAA (A61K)
P 1 651・ 853- YAA (A61K)
P 1 651・ 55- YAA (A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲高▼岡 裕美金子 亜希  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 村上 騎見高
冨永 保
登録日 2018-06-01 
登録番号 特許第6346121号(P6346121)
権利者 アカスティ ファーマ インコーポレイテッド
発明の名称 濃縮治療用リン脂質組成物  
代理人 内藤 和彦  
代理人 北谷 賢次  
代理人 内藤 和彦  
代理人 江口 昭彦  
代理人 北谷 賢次  
代理人 大貫 敏史  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 大貫 敏史  
代理人 江口 昭彦  
代理人 稲葉 良幸  

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