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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C02F
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C02F
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  C02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
審判 全部申し立て 発明同一  C02F
管理番号 1361455
異議申立番号 異議2019-700281  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-10 
確定日 2020-02-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6416426号発明「気泡混合土砂の改質処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6416426号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 特許第6416426号の請求項2ないし3に係る特許を維持する。 特許第6416426号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6416426号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成30年 5月18日を出願日とするものであって、平成30年10月12日にその請求項1?3に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年10月31日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、平成31年 4月10日付けで特許異議申立人出川 栄一郎(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和 1年 7月 8日付けで当審より取消理由が通知され、その指定期間内である同年 9月 9日付けで特許権者より意見書(以下、「特許権者意見書」という。)の提出並びに訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年10月23日付けで申立人より意見書(以下、「申立人意見書」という。)が提出され、同年12月 4日付けで当審より特許権者に対して審尋が通知され、令和 2年 1月10日付けで特許権者より回答書(以下、「回答書」という。)が提出されたものである。

第2 本件訂正の請求による訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる(当審注:下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に
「前記気泡混合土砂が、アニオン性界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の気泡混合土砂の改質処理方法。」
と記載されているのを、
「気泡混合土砂の改質処理方法において、前記気泡混合土砂が、アニオン性界面活性剤を含有し、該気泡混合土砂に、アニオン部が20モル%?40モル%、カチオン部が2モル%?20モル%の両性高分子凝集剤を添加撹拌し、イオンコンプレックスによって水不溶性物質を生成させることで、気泡混合土砂を自立性を有する土砂に改質することを特徴とする気泡混合土砂の改質処理方法。」
に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に
「請求項1又は2に記載の気泡混合土砂の改質処理方法。」
と記載されているのを、
「請求項2記載の気泡混合土砂の改質処理方法。」
に訂正する。

本件訂正前の請求項2?3は、請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項2によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1?3は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。そして、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?3〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項2が請求項1を引用する記載であったのを、引用関係を解消して独立形式に改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する請求項間の引用関係の解消を目的とするものである。
また、訂正事項1による訂正は、「両性高分子凝集剤」の構成を、「アニオン部が20モル%?40モル%、カチオン部が2モル%?20モル%の両性高分子凝集剤」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮も目的とするものである。
そして、本件特許明細書の【0017】(下記第6の1(1)(ア)(b)参照。)によれば、本件特許明細書には、「両性高分子凝集剤」を「アニオン部が20モル%?40モル%カチオン部が0.1モル%?20モル%の範囲において選択的に用いる」ことが記載され、【0020】【表1】(下記第6の1(1)(ア)(c)参照。)によれば、本件特許明細書には、更に「アニオン:40モル%/カチオン:2モル%」の「両性高分子凝集剤A」が記載されているから、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではないこと、及び、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、訂正事項2による請求項1の削除に合わせて、選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3による訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

なお、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
前記第2に記載したとおり、本件訂正は認められるから、特許第6416426号の請求項2?3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明2」?「本件発明3」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項2?3に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
気泡混合土砂の改質処理方法において、前記気泡混合土砂が、アニオン性界面活性剤を含有し、該気泡混合土砂に、アニオン部が20モル%?40モル%、カチオン部が2モル%?20モル%の両性高分子凝集剤を添加撹拌し、イオンコンプレックスによって水不溶性物質を生成させることで、気泡混合土砂を自立性を有する土砂に改質することを特徴とする気泡混合土砂の改質処理方法。
【請求項3】
前記気泡混合土砂が、アニオン性増粘剤及び/又はベントナイトを含有することを特徴とする請求項2記載の気泡混合土砂の改質処理方法。」

第4 異議申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証?甲第12号証を提出し、以下の異議申立理由1?3によって、訂正前の本件発明1?3の特許を取り消すべきものである旨を主張している。

甲第1号証:特願2018-27746号(特開2019-42727号公報)
甲第2号証:特開2017-51884号公報
甲第3号証:特開2008-229497号公報
甲第4号証:特開2000-225400号公報
甲第5号証:特開昭60-188595号公報
甲第6号証:特開平2-49893号公報
甲第7号証:特開昭55-45936号公報
甲第8号証:特開昭57-187498号公報
甲第9号証:特開平3-100295号公報
甲第10号証:特開昭61-83797号公報
甲第11号証:特開2018-62760号公報
甲第12号証:独立行政法人土木研究所編著、「建設汚泥再生利用マニュアル」、第1版第1刷、株式会社大成出版社、平成20年12月10日、p.13-15

1 異議申立理由1(特許法第29条の2)
訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書」という。)に記載された発明(以下、「先願発明」という。)と、甲第12号証の記載事項及び甲第3?4号証に記載される周知技術から明らかな事項により、先願発明と実質的に同一である。
訂正前の請求項2に係る発明は、先願発明と、甲第12号証の記載事項及び甲第3?4号証に記載される周知技術から明らかな事項に、甲第5?8号証に記載される周知技術を付加したものであって、新たな効果を奏するものでもないから、先願発明と実質的に同一である。
訂正前の請求項3に係る発明は、先願発明と、甲第12号証の記載事項及び甲第3?4号証に記載される周知技術から明らかな事項に、甲第6、9?11号証に記載される周知技術を付加したものであって、新たな効果を奏するものでもなく、又は、先願発明と、甲第12号証の記載事項及び甲第3?4号証に記載される周知技術から明らかな事項に、甲第5?8号証に記載される周知技術と、甲第6、9?11号証に記載される周知技術を付加したものであって、新たな効果を奏するものでもないから、先願発明と実質的に同一である。

2 異議申立理由2(特許法第29条第2項)
訂正前の請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と、甲第3?4、12号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
訂正前の請求項2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と、甲第3?4、7?8、12号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
訂正前の請求項3に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と、甲第3?4、6、9?12号証の記載事項に基づいて、又は、甲第2号証に記載された発明と、甲第3?4、6?12号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、異議申立書の6頁10行?16行においては、特許法第29条第2項についての申立理由として、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第2?6、12号証に記載された発明から想到容易とされ、訂正前の請求項2に係る発明は、甲第2?10号証に記載された発明から想到容易とされ、訂正前の請求項3に係る発明は、甲第2?11号証に記載された発明から想到容易とされているが、これらの記載からは具体的な申立理由が明らかでないので、特許法第29条第2項についての申立理由は、異議申立書の21頁4行?24頁最終行に記載される、具体的な申立理由に基づいて認定する。

3 異議申立理由3(特許法第36条第6項第1号)
訂正前の請求項3に係る発明は、気泡混合土砂がベントナイトのみを含有する場合を含んでいるが、本件特許明細書には、気泡混合土砂がベントナイトのみを含有する場合の具体的な実施例は記載されていないし、その場合の作用効果について記載も示唆もされていない。
したがって、本件特許明細書に記載された具体例を、気泡混合土砂がベントナイトのみを含有する場合を含む訂正前の請求項3まで拡張ないし一般化することはできない。

第5 取消理由及び審尋の概要
1 取消理由の概要
(1)取消理由1(特許法第36条第6項第1号)
(1-1)両性高分子凝集剤のカチオンモル%とアニオンモル%について
(ア)本件特許明細書の【0004】?【0008】によれば、本件特許に係る発明は、泥土の改質処理において、シールド工事等で用いられる掘削添加材が多量に含まれる掘削土等では、アニオン性高分子凝集剤のみでは十分な改質ができず、搬送が可能な「自立性を有する土砂」への改質が困難な場合があり、また、アニオン性高分子凝集剤に代えて、カチオン価の高いカチオン性高分子凝集剤を用いることによって改質を行うことができることが知られているが、カチオン価が高く、分子量の大きいカチオン性高分子凝集剤は、魚毒性が高く、改質後の土砂を再利用する場合にカチオン性高分子凝集剤が溶出する、といった従来技術の問題点を課題(以下、「本件課題」という。)とするものである。

(イ)そして、本件特許明細書の【0017】によれば、本件課題を解決し得る両性高分子凝集剤は、pH中性域においてカチオンモル%がアニオンモル%を下回る重合比であればよく、より具体的には、アニオン部が20モル%?40モル%カチオン部が0.1モル%?20モル%の範囲において選択的に用いることが可能であるものである。

(ウ)ところが、本件特許明細書の【0019】?【0020】において、カチオンモル%とアニオンモル%が特定された両性高分子凝集剤の具体例として示されたものは、「両性高分子凝集剤A」及び「B」のみであり、気泡混合土砂に両性高分子凝集剤を添加攪拌しても、当該両性高分子凝集剤のカチオンモル%とアニオンモル%が適切でない場合、本件発明における「自立性を有する土砂」とはならないから、本件課題を解決できないものである。

(エ)これに対して、訂正前の請求項1に係る発明においては、両性高分子凝集剤のカチオンモル%及びアニオンモル%が特定されていないので、訂正前の請求項1に係る発明は、両性高分子凝集剤のカチオンモル%及びアニオンモル%が適切でなく、本件課題を解決しないものも包含するから、訂正前の請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、訂正前の請求項1に係る発明を直接的又は間接的に引用する訂正前の請求項2?3に係る発明についても同様である。

(オ)なお、前記(ウ)の「両性高分子凝集剤A」は、アニオン:40モル%、カチオン:2モル%であり、アニオン部が20モル%?40モル%、カチオン部が0.1モル%?20モル%の範囲を満足するにも関わらず、ミニスランプ試験の結果が1.0cm以下とはならないから、本件課題を解決する両性高分子凝集剤のカチオンモル%とアニオンモル%の範囲について、本件特許明細書の【0017】と【0019】?【0020】との間で記載が整合していない。

(1-2)気泡混合土砂の含有物について
(ア)本件特許明細書の【0016】によれば、本件発明におけるイオンコンプレックスは、専ら、両性高分子凝集剤のカチオンと、界面活性剤のアニオン電荷や増粘剤などのアニオン電荷とがイオン結合することにより形成されるものといえる。

(イ)これに対して、訂正前の請求項1に係る発明は、気泡混合土砂が、アニオン性界面活性剤やアニオン性増粘剤を含有しない場合を包含し、また、訂正前の請求項1に係る発明を引用する訂正前の請求項3に係る発明は、気泡混合土砂が、アニオン性界面活性剤やアニオン性増粘剤を含有せず、ベントナイトのみを含有する場合を包含するものであり、この場合、気泡混合土砂中に、界面活性剤や増粘剤などのアニオン電荷が有意には存在しないから、両性高分子凝集剤のカチオンとのイオンコンプレックスが十分に形成されず、本件課題を解決できない蓋然性が高いものである。

(ウ)そうすると、訂正前の請求項1及び3に係る発明は、本件課題を解決しないものも包含するから、訂正前の請求項1及び3に係る発明が発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。

(2)取消理由2(特許法第29条の2)
訂正前の請求項1?3に係る発明は、先願明細書に記載される先願発明と同一又は実質的に同一であるから、訂正前の請求項1?3に係る発明に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

2 審尋の概要
(1)「気泡混合土砂」について
(ア)本件特許明細書の【0019】?【0020】によれば、アニオン:40モル%、カチオン:2モル%の「両性高分子凝集剤A」を用いた、「アニオン性増粘剤(カルボキシメチルセルロース塩)入り起泡剤(ラウリルエーテル硫酸塩)1%水溶液」、「乾燥川砂」、「加水15%(耐乾燥川砂1Lに150ml)」、「気泡注入20%(加水川砂1Lに300mlの気泡を注入)」の土砂の処理におけるミニスランプ試験の結果は、1.0kg/m^(3)の添加量で2.5cmであり、1.0cm以下とはならないから、前記処理は、本件課題を解決するものではない。

(イ)これに対して、特許権者は、特許権者意見書(4頁下から4行目?5頁9行)において、「両性高分子凝集剤A」を用いた、「起泡剤(ラウリルエーテル硫酸塩)1%水溶液」、「模擬土砂:川砂60%、粘土40%、含水比30%」、「気泡注入率:30%(模擬土砂1Lに300mlの気泡(10倍発泡)を注入)」の、粘土を含む一般的な土壌の処理に係る追加試験(以下、「追加試験」という。)におけるミニスランプ試験の結果は、1.0kg/m^(3)の添加量で1.0cm以下となることを主張している。
しかし、前記主張によっても、前記(ア)の処理が本件課題を解決しないことに変わりはない。

(ウ)ここで、本件発明の「気泡混合土砂」が粘土を含む一般的な土壌を意味し、前記(ア)の処理の土砂が本件発明の「気泡混合土砂」に該当しないのであれば、当業者は、前記(ア)の処理の技術的意義を理解することができる。
そして、本件特許明細書の【0002】によれば、本件発明の「気泡混合土砂」として、「シールド工事、推進工事のような建設工事等で発生する泥土」が示されている。

(エ)しかしながら、本件特許明細書の記載は、本件発明の「気泡混合土砂」が、粘土を含まない「乾燥川砂」を包含するものであるか否かを明らかにするものではない。

(オ)ついては、前記(ア)?(エ)の指摘に対し、特許権者としての意見を示されたい。

(2)「起泡剤」について
(ア)本件特許明細書の【0016】によれば、本件発明においては、気泡混合土砂に、両性高分子凝集剤を添加、撹拌した場合、概ねpHが中性域ではカチオン部とアニオン部のどちらもイオン解離し、カチオンは界面活性剤のアニオン電荷や増粘剤などのアニオン電荷とイオン結合し、場合によっては自身のアニオン部とイオン結合してイオンコンプレックスを作りながら水不溶性物質となることで、本件課題を解決するものである。

(イ)これに対して、本件特許明細書の【0019】?【0020】の試験、【0021】?【0022】の試験及び「追加試験」においては、「起泡剤」として「ラウリルエーテル硫酸塩」を用いるものしか記載されていない。
そこで、「ラウリルエーテル硫酸塩」以外のアニオン性の「起泡剤」を用いた場合であっても、本件課題を解決できることについての説明をされたい。

第6 取消理由及び審尋についての判断
1 取消理由1(特許法第36条第6項第1号)について
(1)両性高分子凝集剤のカチオンモル%とアニオンモル%について
(ア)本件特許明細書には以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(a)「【0002】
従来、シールド工事、推進工事のような建設工事等で発生する泥土、すなわち、高含水比の軟弱な土砂は、産業廃棄物として脱水処理した後、最終処分場に埋立てて廃棄処理されている。こうした泥土の処理は、脱水処理に経費がかかる上、脱水処理した泥土も、産業廃棄物として再利用することなく廃棄しなければならないため、著しく非経済的である。・・・」

(b)「【0014】
本発明の気泡混合土砂の改質処理方法は、気泡混合土砂に、両性高分子凝集剤を添加撹拌し、イオンコンプレックスによって水不溶性物質を生成させることで、アニオン性界面活性剤又はアニオン性増粘剤やベントナイト等を含有する気泡混合土砂を自立性を有する土砂に改質することができ、併せて、水不溶化により、カチオン成分の溶出を抑制し、起泡剤を構成するアニオン性界面活性剤の溶出に伴う二次的問題やカチオン性高分子凝集剤の使用による魚毒性の問題を解消するようにしたものである。
【0015】
ここで、「自立性を有する土砂」とは、ダンプトラックを使用して土砂を改質処理現場から再利用先へと直接搬送することが可能な程度の土砂を意味し、より具体的には、ミニスランプ試験によるスランプ値が1.0cm以下の土砂を意味する。
【0016】
ところで、気泡混合土砂に、両性高分子凝集剤を添加、撹拌した場合、概ねpHが中性域ではカチオン部とアニオン部のどちらもイオン解離し、カチオンは界面活性剤のアニオン電荷や増粘剤などのアニオン電荷とイオン結合し、場合によっては自身のアニオン部とイオン結合してイオンコンプレックスを作りながら水不溶性物質となる。
このとき、水不溶解性物質中に起泡剤を構成するアニオン性界面活性剤やアニオン性増粘剤が水不溶性物質となることによって、気泡を構成する界面活性剤の溶出に伴う二次的問題を解消することができる。
【0017】
この場合、両性高分子凝集剤は、重合させるアニオン性材料やカチオン性材料に限定はなく、pH中性域においてカチオンモル数がアニオンモル数を下回る重合比であればよく、より具体的には、分子量500万?2500万の範囲において、アニオン部が20モル%?40モル%カチオン部が0.1モル%?20モル%の範囲において選択的に用いることが可能であり、アニオン部とカチオン部の対比においては用いられる掘削添加剤のアニオン価に応じて、カチオン価を増減(掘削添加剤のアニオン価が高い場合はカチオン価を高めに、低い場合はカチオン価を低めに)することができる。」

(c)「【0018】
以下、以下の条件で、アニオン性高分子凝集剤と両性高分子凝集剤をそれぞれ用いて気泡混合土砂の改質処理の比較試験を行った結果を、表1及び表2に示す。
【0019】
アニオン性増粘剤(カルボキシメチルセルロース塩)入り起泡剤(ラウリルエーテル硫酸塩)1%水溶液
乾燥川砂
加水15%(耐乾燥川砂1Lに150ml)
気泡注入20%(加水川砂1Lに300mlの気泡を注入)
【0020】
【表1】

【0021】
起泡剤(ラウリルエーテル硫酸塩)1%水溶液
乾燥川砂
加水15%(耐乾燥川砂1Lに150ml)
気泡注入30%(加水川砂1Lに300mlの気泡を注入)
【0022】
【表2】

【0023】
上記の比較試験の結果から、両性高分子凝集剤は、アニオン性高分子凝集剤と比較して、気泡混合土砂の改質処理において良好な改質性を発揮することを確認した。」

(イ)前記(ア)(c)(【0019】?【0020】)によれば、乾燥川砂に15%加水したものに対して、アニオン:20モル%、カチオン:15モル%の「両性高分子凝集剤B」を1.0kg/m^(3)添加撹拌したものは、ミニスランプ試験の結果が0.5cmとなり、本件課題を解決できるものである。
一方、同【0019】?【0020】によれば、乾燥川砂に15%加水したものに対して、アニオン:40モル%、カチオン:2モル%の「両性高分子凝集剤A」を1.0kg/m^(3)添加撹拌したものは、ミニスランプ試験の結果が2.5cmとなり、本件課題を解決できないのである。
ここで、前記(ア)(a)の記載と、回答書における『本件発明の「気泡混合土砂」が、粘土を含まない「乾燥川砂」を包含せず、粘土を含む一般的な土壌を意味していることは明らかである』(2頁8行?9行)との主張によれば、本件発明は、粘土を含む土壌を「気泡混合土砂」とするものであって、前記(ア)(c)の「乾燥川砂」に加水したものは「気泡混合土砂」ではないことが明らかとなった。
そして、本件発明が、粘土を含む土壌を「気泡混合土砂」とするものであれば、技術常識に照らし、前記(1)(ア)(b)のとおり、本件課題を解決できるものといえ、そのことは「追加試験」によっても確認できるものである。

(2)気泡混合土砂の含有物について
本件発明2は、「気泡混合土砂が、アニオン性界面活性剤を含有」する、との発明特定事項を有するものであり、このことと前記(1)(ア)(b)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「気泡混合土砂」に「アニオン性界面活性剤」が含有されていれば、「両性高分子凝集剤」を添加撹拌したとき、「アニオン性界面活性剤」と「両性高分子凝集剤」のカチオンとのイオンコンプレックスが形成されることを十分に理解でき得るというべきである。

(3)まとめ
前記(1)、(2)によれば、「気泡混合土砂が、アニオン性界面活性剤を含有し、該気泡混合土砂に、アニオン部が20モル%?40モル%、カチオン部が2モル%?20モル%の両性高分子凝集剤を添加撹拌」する、との発明特定事項を有する本件発明2は本件課題を解決するものといえるので、本件発明2は発明の詳細な説明に記載された発明というべきである。
そして、このことは、本件発明2を引用する本件発明3についても同様である。

(4)申立人意見書について
(ア)申立人は、申立人意見書において、「追加試験」に基づく特許権者の説明によれば、本件課題を解決を解決すべく、ミニスランプ値が1.0cm以下を達成するためには、「気泡混合土砂」が粘土を含むことが必要であるのに、本件発明2は「気泡混合土砂」が粘土を含まない場合を包含するから、本件課題を解決できないものを含んでいる旨を主張している。

(イ)ところが、本件発明は、粘土を含む土壌を「気泡混合土砂」とするものであって、「乾燥川砂」に加水したものは「気泡混合土砂」ではないことが明らかとなったことは、前記(1)(イ)に記載のとおりであるから、本件発明2は「気泡混合土砂」が粘土を含まない場合を包含するものではない。
したがって、申立人の前記(ア)の主張は妥当性を欠くものとなったということができる。

(ウ)また、申立人は、申立人意見書において、乾燥川砂に15%加水した「気泡混合土砂」に「両性高分子凝集剤B」を0.5kg/m^(3)添加撹拌した場合、ミニスランプ試験の結果は7.0cmであり、1.0cm以下とはならず、「追加試験」においても、川砂60%、粘土40%、含水比30%の「気泡混合土砂」に「両性高分子凝集剤A」を0.5kg/m^(3)添加撹拌したとき、ミニスランプ試験の結果は1.0cm以下とはならず、「追加試験」を参酌しても、「気泡混合土砂を自立性を有する土砂に改質する」には、1.0kg/m^(3)以上の量で「両性高分子凝集剤」を添加する必要があることは明らかであるのに対して、本件発明2においては「両性高分子凝集剤」の添加量が特定されていないから、本件課題を解決を解決できないものを含んでいる旨を主張している。

(エ)ところが、「気泡混合土砂を自立性を有する土砂に改質する」際の「両性高分子凝集剤」の添加量は、「気泡混合土砂」を構成する粘土、砂といった各成分の割合や含水率などに左右されることは明らかであるから、「両性高分子凝集剤」の添加量の特定に必然性があるとまではいい難い。
したがって、申立人の前記(ウ)の主張は妥当性を欠くものである。

(オ)前記(イ)、(エ)によれば、申立人の前記(ア)、(ウ)の主張はいずれも採用できない。

(5)小括
以上のとおりであるので、前記第5の1(1)の取消理由1はいずれも理由がない。

2 取消理由2(特許法第29条の2) について
(1)先願明細書の記載事項及び先願発明
先願明細書には以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は省略を表す。以下、同様である。)。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
泥土圧シールド工法で発生する泥土に、両性高分子凝集剤を混合し、泥土を凝集させることを特徴とする、泥土の処理方法。」

(1b)「【実施例】
・・・
【0035】
1.両性高分子凝集剤による流動性の低減
(1)試料土としては、関東ローム(八王子で採取)を9.5mm以下に粒度調整したものを用いた。自然含水比は約117?124%である。
【0036】
(2)上記試料土を、体積比で8%または12%加水し、パン型ミキサーにて15秒の撹拌を2回行って混合した。加水量が8%か12%かのいずれかについては、表1中で明示する。(下記の注入率等についても同様とする)
【0037】
(3)掘進用添加材として、気泡材を使用した。具体的には、起泡材レオフォームOL-10(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を0.5重量%濃度に希釈し、発泡機にて発泡倍率10倍となるように調整した気泡材を用いた。なお、ここで「発泡倍率」とは、希釈した溶液の体積に対する発泡後の気泡材体積の体積比をさすものとする。
【0038】
(4)この気泡材を必要量(注入率20%または40%)計量したものを前記(2)で得られた土に添加し、15秒の撹拌を2回行って混合した。なお、ここで「注入率」とは、土砂体積に対する添加気泡材体積の割合をさすものとする。・・・
【0039】
(5)両性高分子凝集剤を必要量計算し、前記(4)で得られた土に添加後、60秒の攪拌を1回行って混合した。なお、比較例では、両性高分子凝集剤の代わりにアニオン性(比較例1-1)、アニオン性&カチオン性(比較例1-2)の凝集剤を添加した。添加方法は上記実施例と同様である。
【0040】
両性高分子凝集剤として、DP/A-350E(株式会社SNF社製)を用いた。
【0041】
両性高分子凝集剤DP/A-350Eの構造を下記化1に示す。構造式の通り、アクリルアミドとジメチルアミノエチルメタクリレートとジメチルアミノエチルアクリレートとアクリル酸との共重合物である。
(なお、m、n、p、およびqは、m+n+p+q=100%とした組成比を表す)
・・・
【0047】
(6)前記(5)で得られた土をビニール袋に入れ、1時間後、土のコーン指数(JISA 1228に準拠)を計測した。1時間後のコーン指数により噴発防止効果を評価する。」

(1c)「【0052】
上記1.の結果を表1に、2.の結果を表2に、それぞれ示す。
【0053】
【表1】



(ア)前記(1a)によれば、先願明細書には「泥土の処理方法」に係る発明が記載されており、当該「泥土の処理方法」は、泥土圧シールド工法で発生する泥土に、両性高分子凝集剤を混合し、泥土を凝集させるものである。
具体的には、前記(1b)、(1c)の実施例1-1に注目すれば、関東ロームを9.5mm以下に粒度調整した自然含水比が約117?124%の試料土を、体積比で8%加水し、パン型ミキサーにて15秒の撹拌を2回行って混合し、掘進用添加材として、起泡材レオフォームOL-10(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を0.5重量%濃度に希釈し、発泡機にて発泡倍率10倍となるように調整した気泡材を注入率40%となるように計量したものを前記土に添加し、15秒の撹拌を2回行って混合し、アクリルアミドとジメチルアミノエチルメタクリレートとジメチルアミノエチルアクリレートとアクリル酸との共重合物である両性高分子凝集剤DP/A-350E(株式会社SNF社製)を得られた土に添加量3kg/m^(3)で添加後、60秒の攪拌を1回行って混合するものであり、得られた土をビニール袋に入れ、1時間後、土のコーン指数(JISA 1228に準拠)を計測した場合のコーン指数が343kN/m^(2)となるものである。

(イ)前記(ア)によれば、先願明細書には、以下の先願発明が記載されているといえる。
「泥土圧シールド工法で発生する泥土に、両性高分子凝集剤を混合し、泥土を凝集させる泥土の処理方法であって、
関東ロームを9.5mm以下に粒度調整した自然含水比が約117?124%の試料土を、体積比で8%加水し、パン型ミキサーにて15秒の撹拌を2回行って混合し、
掘進用添加材として、起泡材レオフォームOL-10(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を0.5重量%濃度に希釈し、発泡機にて発泡倍率10倍となるように調整した気泡材を注入率40%となるように計量したものを前記土に添加し、15秒の撹拌を2回行って混合し、
アクリルアミドとジメチルアミノエチルメタクリレートとジメチルアミノエチルアクリレートとアクリル酸との共重合物である両性高分子凝集剤DP/A-350E(株式会社SNF社製)を得られた土に添加量3kg/m^(3)で添加後、60秒の攪拌を1回行って混合し、
得られた土をビニール袋に入れ、1時間後、土のコーン指数(JIS A 1228に準拠)を計測した場合のコーン指数が343kN/m^(2)である、方法。」

(2)本件発明2について
(ア)本件発明2と先願発明とを対比すると、先願発明における「泥土圧シールド工法で発生する泥土」は、関東ロームに加水した試料土に、「起泡材レオフォームOL-10(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)」を添加した土であるから、本件発明2における「気泡混合土砂」に相当し、先願発明における「泥土圧シールド工法で発生する泥土の処理方法」は、本件発明2における「気泡混合土砂の改質処理方法」に相当し、先願発明において「アクリルアミドとジメチルアミノエチルメタクリレートとジメチルアミノエチルアクリレートとアクリル酸との共重合物である両性高分子凝集剤DP/A-350E(株式会社SNF社製)を得られた土に添加量3kg/m^(3)で添加後、60秒の攪拌を1回行って混合」することは、本件発明2において、「前記気泡混合土砂に」、「両性高分子凝集剤を添加撹拌」することに相当する。

(イ)すると、本件発明2と先願発明とは、
「気泡混合土砂の改質処理方法において、前記気泡混合土砂に、両性高分子凝集剤を添加撹拌する、気泡混合土砂の改質処理方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1:本件発明2は、「気泡混合土砂が、アニオン性界面活性剤を含有」する、との発明特定事項を備えているのに対して、先願発明は、「起泡材レオフォームOL-10(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)」を含有する点。

相違点1-2:本件発明2は、「両性高分子凝集剤」が「アニオン部が20モル%?40モル%、カチオン部が2モル%?20モル%の両性高分子凝集剤」である、との発明特定事項を有するのに対して、先願発明は前記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。

相違点1-3:本件発明2は、「イオンコンプレックスによって水不溶性物質を生成させることで、気泡混合土砂を自立性を有する土砂に改質する」との発明特定事項を備えているのに対して、先願発明は、「得られた土をビニール袋に入れ、1時間後、土のコーン指数(JISA 1228に準拠)を計測した場合のコーン指数が343kN/m^(2)である」ものの、前記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。

(ウ)事案に鑑み、前記(イ)の相違点1-2から検討すると、先願明細書には、先願発明における「両性高分子凝集剤」が「アニオン部が20モル%?40モル%、カチオン部が2モル%?20モル%の両性高分子凝集剤」であることが記載も示唆もされるものではないし、更にこのことを示す技術常識が存在するものでもないから、前記相違点1-2は実質的な相違点である。
してみれば、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2が先願発明と同一又は実質的に同一であるとはいえない。

(3)本件発明3について
本件発明3は本件発明2を引用するものであって、本件発明3と先願発明とを対比すると、少なくとも前記(2)(イ)の相違点1-2の点で相違する。
そして、前記相違点1-2が実質的な相違点であることは前記(2)(ウ)に記載のとおりであるから、本件発明3が先願発明と同一又は実質的に同一であるとはいえない。

(4)小括
したがって、前記第5の1(2)の取消理由2は理由がない。

3 審尋について
(1)「気泡混合土砂」について
前記1(1)(ア)(a)の記載と回答書の主張によれば、本件発明は、粘土を含む土壌を「気泡混合土砂」とするものであって、「乾燥川砂」に加水したものは「気泡混合土砂」ではないことが明らかとなったことは、前記1(1)(イ)に記載のとおりであり、本件発明の「気泡混合土砂」が粘土を含まない「乾燥川砂」を包含しないことが明らかとなった。

(2)「起泡剤」について
回答書における主張によれば、前記1(1)(ア)(b)(【0016】)に記載される事項は、アニオン性界面活性剤に普遍的にいえるものであって、本件課題を解決できるアニオン性界面活性剤としては、ラウリルエーテル硫酸塩のほかに、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩が挙げられることが明らかとなった。

(3)小括
したがって、前記第5の2の審尋に記載された事項は全て明らかとなった。

第7 取消理由通知で採用しなかった異議申立理由について
前記第4の1及び3の異議申立理由1及び3は、それぞれ、前記第5の1(2)及び(1)(1-2)の取消理由と同じであり、これらについては前記第6の2及び1(2)で検討したので、以下、前記第4の2の異議申立理由2について検討する。
1 異議申立理由2(特許法第29条第2項)について
(1)甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載される発明
甲第2号証には、以下の記載がある。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)気泡シールド工法で発生する泥土に、アニオン性高分子凝集剤100質量部およびカチオン性高分子凝集剤0.05?50質量部を含む高分子凝集剤を添加して、該高分子凝集剤を添加した泥土について、粉砕および混合の処理を行ない、高分子凝集剤を含む泥土を得る凝集剤添加工程、および、
(B)上記高分子凝集剤を含む泥土に、マグネシウム成分および金属硫酸塩と金属塩化物の中から選ばれる少なくとも1種からなる金属塩を含む固化不溶化材を添加して混合し、処理済みの泥土を形成させる固化不溶化材添加工程、
を含むことを特徴とする気泡シールド工法で発生する泥土の処理方法。」

(2b)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、気泡シールド工法で発生する泥土が、含水比が大きい粘性土であっても、400kN/m^(2)以上のコーン指数を有する固化体(処理済みの泥土)を形成させることができる泥土の処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、処理対象物である泥土に対して、特定の2種の高分子凝集剤を特定の量で添加して、特定の処理を行なった後、得られた処理後の泥土に対して、さらに、特定の固化不溶化材を添加して混合すれば、本発明の目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。」

(2c)「【0011】
[(A)凝集剤添加工程]
本発明の処理対象物は、気泡シールド工法で発生する泥土である。
気泡シールド工法とは、土圧式シールド工法の一種であり、切羽あるいはチャンバ内に、特殊起泡材により作られた気泡を注入しながら、掘進する工法をいう。
・・・」

(2d)「【実施例】
【0023】
[実施例]
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)泥土
泥土としては、表1に示すNo.1?No.3の泥土を使用した。
【表1】

【0024】
(2)高分子凝集剤
高分子凝集剤としては、表2に示すNo.A?No.Hの凝集剤を使用した。表2中の凝集剤の質量部の値は、いずれも、液体での質量部を表す。
【表2】

【0025】
(3)固化不溶化材
固化不溶化材としては、表3に示すNo.a?No.dの固化不溶化材を使用した。
・・・
【表3】

【0026】
(4)試験方法
泥土(No.1?No.3)に高分子凝集剤(アニオン性高分子凝集剤とカチオン性高分子凝集剤を予め混合してなるもの)を添加し、竪型3軸クラッシャ-を使用して、1?3秒間、粉砕および混合の処理を行なった。
処理後の高分子凝集剤を含む泥土に、固化不溶化材を添加し、2軸パドルミキサを使用して、1分間混合した。
なお、固化不溶化材a?cは、各材料を事前に混合しておき、該混合物を泥土に添加することによって用いた。固化不溶化材dは、硫酸アルミニウムとマグネシア類を事前に混合しておき、該混合物とポリ塩化アルミニウムをそれぞれほぼ同時に泥土に添加することによって用いた。
混合後の処理済みの泥土(固化体)について、上述の方法を用いて、コーン指数(工程(B)の終了から6時間後の値)、有害物質(ふっ素、砒素、または鉛)の土壌溶出量、および、溶出検液のpHを測定した。
結果を表4に示す。
【0027】
【表4】



(ア)前記(2a)によれば、甲第2号証には「気泡シールド工法で発生する泥土の処理方法」に係る発明が記載されており、当該「気泡シールド工法で発生する泥土の処理方法」は、(A)気泡シールド工法で発生する泥土に、アニオン性高分子凝集剤100質量部およびカチオン性高分子凝集剤0.05?50質量部を含む高分子凝集剤を添加して、該高分子凝集剤を添加した泥土について、粉砕および混合の処理を行ない、高分子凝集剤を含む泥土を得る凝集剤添加工程、および、(B)上記高分子凝集剤を含む泥土に、マグネシウム成分および金属硫酸塩と金属塩化物の中から選ばれる少なくとも1種からなる金属塩を含む固化不溶化材を添加して混合し、処理済みの泥土を形成させる固化不溶化材添加工程を含むものである。
具体的には、前記(2d)(【0027】【表4】)の実施例3に注目すれば、泥土として、No.2の含水比65%、湿潤密度1.51g/cm^(3)、起泡剤注入率35%、コーン指数35kN/m^(2)の粘性土を使用し、アニオン性高分子凝集剤及びカチオン性高分子凝集剤として、No.Bの、逆相エマルション型アニオン性ポリアクリルアミド:SP-α(商品名、有効成分約45質量%、太平洋シールドメカニクス社製)100重量部、及びポリアルキレン・ポリアミン:アコフロックC-30(商品名、有効成分約50質量%、MTアクアポリマー社製)5重量部を使用し、凝集剤の添加量が5kg/m^(3)であり、固化不溶化材として、No.aの、硫酸第一鉄:硫酸第一鉄・1水塩(富士チタン工業社製)100重量部、マグネシア類:特許第5757613号公報に記載されている実施例のマグネシア類(B)33重量部からなる固化不溶化材を使用し、固化不溶化材の添加量が130kg/m^(3)であり、泥土に高分子凝集剤(アニオン性高分子凝集剤とカチオン性高分子凝集剤を予め混合してなるもの)を添加し、竪型3軸クラッシャ-を使用して、1?3秒間、粉砕および混合の処理を行ない、処理後の高分子凝集剤を含む泥土に、固化不溶化材を添加し、2軸パドルミキサを使用して、1分間混合し、混合後の処理済みの泥土(固化体)について、コーン指数を測定すると、462kN/m^(2)となるものである。

(イ)前記(ア)によれば、甲第2号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「(A)気泡シールド工法で発生する泥土に、アニオン性高分子凝集剤100質量部およびカチオン性高分子凝集剤0.05?50質量部を含む高分子凝集剤を添加して、該高分子凝集剤を添加した泥土について、粉砕および混合の処理を行ない、高分子凝集剤を含む泥土を得る凝集剤添加工程、および、
(B)上記高分子凝集剤を含む泥土に、マグネシウム成分および金属硫酸塩と金属塩化物の中から選ばれる少なくとも1種からなる金属塩を含む固化不溶化材を添加して混合し、処理済みの泥土を形成させる固化不溶化材添加工程を含む、気泡シールド工法で発生する泥土の処理方法であって、
泥土として、含水比65%、湿潤密度1.51g/cm^(3)、起泡剤注入率35%、コーン指数35kN/m^(2)の粘性土を使用し、アニオン性高分子凝集剤及びカチオン性高分子凝集剤として、逆相エマルション型アニオン性ポリアクリルアミド:SP-α(商品名、有効成分約45質量%、太平洋シールドメカニクス社製)100重量部、及びポリアルキレン・ポリアミン:アコフロックC-30(商品名、有効成分約50質量%、MTアクアポリマー社製)5重量部を使用し、凝集剤の添加量が5kg/m^(3)であり、固化不溶化材として、硫酸第一鉄:硫酸第一鉄・1水塩(富士チタン工業社製)100重量部、マグネシア類:特許第5757613号公報に記載されている実施例のマグネシア類(B)33重量部からなる固化不溶化材を使用し、固化不溶化材の添加量が130kg/m^(3)であり、
泥土に高分子凝集剤(アニオン性高分子凝集剤とカチオン性高分子凝集剤を予め混合してなるもの)を添加し、竪型3軸クラッシャ-を使用して、1?3秒間、粉砕および混合の処理を行ない、処理後の高分子凝集剤を含む泥土に、固化不溶化材を添加し、2軸パドルミキサを使用して、1分間混合し、混合後の処理済みの泥土(固化体)について、コーン指数を測定すると、462kN/m^(2)となる、方法。」(以下、「甲2発明」という。)

(2)本件発明2について
(ア)本件発明2と甲2発明とを対比すると、前記(1)(2c)によれば、気泡シールド工法とは、切羽あるいはチャンバ内に、特殊起泡材により作られた気泡を注入しながら掘進する工法をいうから、甲2発明における「気泡シールド工法で発生する泥土」は、本件発明2における「気泡混合土砂」に相当し、甲2発明における「気泡シールド工法で発生する泥土の処理方法」は、本件発明2における「気泡混合土砂の改質処理方法」に相当する。

(イ)すると、本件発明2と甲2発明とは、
「気泡混合土砂の改質処理方法。」
の点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。

相違点2-1:本件発明2は、「気泡混合土砂に、アニオン部が20モル%?40モル%、カチオン部が2モル%?20モル%の両性高分子凝集剤を添加撹拌し、イオンコンプレックスによって水不溶性物質を生成させることで、気泡混合土砂を自立性を有する土砂に改質する」、との発明特定事項を備えているのに対して、甲2発明は前記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。

(ウ)以下、前記(イ)の相違点2-1について検討すると、甲2発明の「アニオン性高分子凝集剤」及び「カチオン性高分子凝集剤」はいずれも「両性高分子凝集剤」とはいえず、これらを予め混合してなるものも「両性高分子凝集剤」とはいえない。
更にいうと、甲2発明は、泥土に高分子凝集剤(アニオン性高分子凝集剤とカチオン性高分子凝集剤を予め混合してなるもの)を添加し、粉砕および混合の処理を行ない、処理後の高分子凝集剤を含む泥土に、固化不溶化材を添加し、混合し、混合後の処理済みの泥土(固化体)とするものであって、イオンコンプレックスによって水不溶性物質を生成させるものではないから、前記相違点2-1は実質的な相違点である。
そして、前記(1)(2b)によれば、甲2発明は、気泡シールド工法で発生する泥土が、含水比が大きい粘性土であっても、400kN/m^(2)以上のコーン指数を有する固化体(処理済みの泥土)を形成させることができる泥土の処理方法を提供するために、処理対象物である泥土に対して、特定の2種の高分子凝集剤である、「アニオン性高分子凝集剤」及び「カチオン性高分子凝集剤」を特定の量で添加して特定の処理を行った後、更に、特定の「固化不溶化材」を添加して混合することで泥土を固化体とするものであり、そのような甲2発明において、イオンコンプレックスを形成する「両性高分子凝集剤」を添加する動機付けは存在しない。
そして、このことは、以下の(エ)で示すように、甲第3?4、7?8、12号証の記載事項に左右されるものではないから、甲2発明において、「気泡混合土砂の改質処理方法」を、「気泡混合土砂に、アニオン部が20モル%?40モル%、カチオン部が2モル%?20モル%の両性高分子凝集剤を添加撹拌し、イオンコンプレックスによって水不溶性物質を生成させることで、気泡混合土砂を自立性を有する土砂に改質する」、との前記相違点2-1に係る本件発明2の発明特定事項を有するものとすることを、甲第3?4、7?8、12号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではない。

(エ)甲第3号証(特許請求の範囲、【0024】?【0025】)には、両性高分子凝集剤と、アニオン性又はノニオン性高分子凝集剤と、水溶性塩とを含有する土建汚泥処理用の脱水剤により建設汚泥を処理するとき、脱水剤が土建汚泥に添加されると、両性高分子凝集剤中のアニオン性基が乖離し、両性高分子凝集剤は両性挙動を示し、このとき別途混合されたアニオン性又はノニオン性高分子凝集剤が土建汚泥中に存在するが、アニオン性基同士の反発によって、両性高分子凝集剤はアニオン性又はノニオン性高分子凝集剤と結合するより先に、土建汚泥中の固形物と反応し、微細なフロックを生成し、その後、さらにシェアーを掛けると、両性高分子凝集剤内の余剰カチオン基が、両性高分子凝集剤のアニオン性基及びアニオン性又はノニオン性高分子凝集剤との間でイオンコンプレックスを形成することで、微細なフロック同士が結合し、強固で疎水性の高いフロックが得られることで、従来の脱水剤より優れた脱水性能を得ることができることが記載されている。
また、甲第4号証(特許請求の範囲、【0020】)には、有機性汚泥又は排水中に、縮合型ポリアミンカチオン性高分子凝集剤を添加した後、両性高分子凝集剤を添加混合するか、もしくは縮合型ポリアミンカチオン性高分子凝集剤と両性高分子凝集剤との混合凝集剤を添加攪拌し、該有機性汚泥又は排水中に含まれる懸濁粒子を凝集せしめたのち固液分離する懸濁粒子の凝集分離方法により汚泥を処理する場合、縮合型ポリアミンカチオンポリマーによる部分的な荷電中和が終わった後に両性ポリマーを添加すると、両性ポリマーの分子内のアニオン基が、汚泥に吸着した両性ポリマーカチオン基とイオン結合して、汚泥粒子を介して不溶性の複合体(カチオン・アニオンコンプレックス)を形成し、著しく強度及びフロック径の大きな凝集フロックを形成し、強度が大きく汚泥束縛水が少ないフロックは、脱水性が優秀であり、機械脱水すると従来よりも脱水ケーキ水分が減少することが記載されている。
ところが、甲第3号証及び甲第4号証には、建設汚泥や有機性汚泥を脱水処理する場合に、両性高分子凝集剤とアニオン性又はノニオン性高分子凝集剤を組み合わせることにより、または、両性高分子凝集剤と縮合型ポリアミンカチオン性高分子凝集剤を組み合わせることにより、イオンコンプレックスを形成して、優れた脱水性能を得ることができることが記載されているに過ぎず、「気泡混合土砂に、アニオン部が20モル%?40モル%、カチオン部が2モル%?20モル%の両性高分子凝集剤を添加撹拌し、イオンコンプレックスによって水不溶性物質を生成させることで、気泡混合土砂を自立性を有する土砂に改質する」ことが記載も示唆もされるものではない。
更に、甲第7号証(2頁左上欄14行?20行、3頁右上欄10行?18行)、甲第8号証(1頁左下欄17行?19行、2頁左下欄6行?13行)には、土圧シールドや土圧系シールド工の起泡剤としてアニオン系界面活性剤の高級アルキル硫酸エステル塩などが使用されることが記載され、甲第12号証(13頁左欄下から16行?下から3行、14頁の図3-1)には、泥土の状態とは、標準仕様ダンプトラックに山積みができず、その上を人が歩けない状態をいい、この状態のコーン指数はおおむね200kN/m^(2)以下であることが記載されているに過ぎず、「気泡混合土砂に、アニオン部が20モル%?40モル%、カチオン部が2モル%?20モル%の両性高分子凝集剤を添加撹拌し、イオンコンプレックスによって水不溶性物質を生成させることで、気泡混合土砂を自立性を有する土砂に改質する」ことが記載も示唆もされるものではない。

(オ)前記(ウ)、(エ)によれば、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2を、甲2発明及び甲第3?4、7?8、12号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本件発明3について
(ア)本件発明3は本件発明2を引用するものであって、本件発明3と甲2発明とを対比すると、少なくとも前記(2)(イ)の相違点2-1の点で相違する。

(イ)そして、本件発明2を、甲2発明及び甲第3?4、7?8、12号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、前記(2)(オ)に記載のとおりであり、加えて、甲第6、9?11号証も、甲第3?4、7?8、12号証と同じく、「気泡混合土砂に、アニオン部が20モル%?40モル%、カチオン部が2モル%?20モル%の両性高分子凝集剤を添加撹拌し、イオンコンプレックスによって水不溶性物質を生成させることで、気泡混合土砂を自立性を有する土砂に改質する」ことが記載も示唆もされるものではないから、本件発明3を、甲2発明及び甲第3?4、6?12号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)小括
したがって、前記第4の2の異議申立理由2は理由がない。

第8 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明2?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明2?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件発明1に係る特許に対して特許異議申立人出川 栄一郎がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
気泡混合土砂の改質処理方法において、前記気泡混合土砂が、アニオン性界面活性剤を含有し、該気泡混合土砂に、アニオン部が20モル%?40モル%、カチオン部が2モル%?20モル%の両性高分子凝集剤を添加撹拌し、イオンコンプレックスによって水不溶性物質を生成させることで、気泡混合土砂を自立性を有する土砂に改質することを特徴とする気泡混合土砂の改質処理方法。
【請求項3】
前記気泡混合土砂が、アニオン性増粘剤及び/又はベントナイトを含有することを特徴とする請求項2記載の気泡混合土砂の改質処理方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-02-13 
出願番号 特願2018-91493(P2018-91493)
審決分類 P 1 651・ 161- YAA (C02F)
P 1 651・ 857- YAA (C02F)
P 1 651・ 851- YAA (C02F)
P 1 651・ 121- YAA (C02F)
P 1 651・ 537- YAA (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菊地 寛  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 小川 進
金 公彦
登録日 2018-10-12 
登録番号 特許第6416426号(P6416426)
権利者 テクニカ合同株式会社
発明の名称 気泡混合土砂の改質処理方法  
代理人 森 治  
代理人 森 治  

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