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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
管理番号 1361458
異議申立番号 異議2018-700884  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-06 
確定日 2020-02-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6318465号発明「樹脂フィルム、それを用いた偏光板及び樹脂フィルムの切断加工方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6318465号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7、8〕、9、10について訂正することを認める。 特許第6318465号の請求項1ないし4、6、7、9、10に係る特許を取り消す。 特許第6318465号の請求項5、8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第6318465号の請求項1-9に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(特願2013-63495号)は、平成25年3月26日に特許出願され、平成30年4月13日にその特許権の設定登録がされた。
本件特許について、平成30年5月9日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である平成30年11月6日に、特許異議申立人柴田留理子から全請求項に対して特許異議の申立て(以下、「特許異議申立1」という。)がされ、また、同じく6月以内である平成30年11月9日に、特許異議申立人星正美から全請求項に対して特許異議の申立て(以下、「特許異議申立2」という。)がされた。
特許異議申立1及び特許異議申立2は、特許法120条の3第1項の規定により、異議2018-700884号事件として併合して審理されることとなったところ、その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成31年 1月15日付け:取消理由通知書
平成31年 3月12日付け:意見書(特許権者)
平成31年 3月12日付け:訂正請求書
平成31年 4月18日付け:意見書(特許異議申立人星正美)
平成31年 4月19日付け:意見書(特許異議申立人柴田留理子)
令和 元年 6月 5日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 元年 8月 6日付け:意見書(特許権者)
令和 元年 8月 6日付け:訂正請求書(この訂正請求書による訂正の
請求を、以下「本件訂正請求」という。)
令和 元年 8月21日付け:訂正拒絶理由通知書
令和 元年 9月10日付け:意見書(特許権者)
令和 元年 9月10日付け:手続補正書
令和 元年10月16日付け:意見書(特許異議申立人星正美)
令和 元年10月17日付け:意見書(特許異議申立人柴田留理子)

なお、平成30年3月12日付け訂正請求書による訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6318465号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-10について訂正することを求める、というものである。

2 本件訂正請求について
本件訂正請求は、一群の請求項〔1-6〕、〔7、8〕、9に対して請求されたものである。
また、特許権者から、請求項10について訂正が認められるときは、請求項10は請求項1-6と別の訂正単位とする求めがあった。

3 請求項1-6についての訂正
(1)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める請求項1-6についての訂正は、以下のとおりである。なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。以下、「第2」において同じ。

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物からなる添加剤」と記載されているのを、「前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物のみからなる添加剤」に訂正する。
請求項1の記載を引用して記載された、請求項2-6についても、同様に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「添加剤が配合された」と記載されているのを、「添加剤が前記高分子材料100重量部に対して1?10重量部配合された」に訂正する。
請求項1の記載を引用して記載された、請求項2-6についても、同様に訂正する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「形成されて」と記載されているのを、
「形成されており、
前記発振波長範囲における前記高分子材料の吸収及び前記有機化合物の吸収は、フーリエ変換赤外分光光度計で吸収スペクトルを測定することで確認するものであり、」に訂正する。
請求項1の記載を引用して記載された、請求項2-6についても、同様に訂正する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「いることを特徴とする」と記載されているのを、「厚さが1?80μmであることを特徴とする」に訂正する。
請求項1の記載を引用して記載された、請求項2-6についても、同様に訂正する。

オ 訂正事項5
請求項5を削除する。

カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5のいずれかに記載」と記載されているのを、「請求項2?4のいずれかに記載」に訂正する。

キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に続けて、次の請求項10を加入する。
「【請求項10】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に、
炭酸ガスレーザーにより切断加工される樹脂フィルムであって、切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない高分子材料に、前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物のみからなる添加剤が前記高分子材料100重量部に対して1?10重量部配合された組成物から形成されており、前記発振波長範囲における前記高分子材料の吸収及び前記有機化合物の吸収は、フーリエ変換赤外分光光度計で吸収スペクトルを測定することで確認するものであり、厚さが1?80μmである樹脂フィルムが保護フィルムとして貼合されていることを特徴とする偏光板。」

(2)訂正の適否
ア 訂正事項1
訂正事項1による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書及び図面の【0062】、【0067】、図2及び図3の記載に基づいて、特許請求の範囲の請求項1の「前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物からなる添加剤」を、「前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物のみからなる添加剤」に限定する訂正である。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項2-6についてみても、同じである。

イ 訂正事項2
訂正事項2による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0059】、【0063】及び【0069】【表1】の記載に基づいて、特許請求の範囲の請求項1の「添加剤が配合された」を、「添加剤が前記高分子材料100重量部に対して1?10重量部配合された」に限定する訂正である。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項2-6についてみても、同じである。

ウ 訂正事項3
訂正事項3による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0023】及び【0060】の記載に基づいて、特許請求の範囲の請求項1の「高分子材料の吸収」及び「有機化合物の吸収」の確認方法を明確にする訂正である。
したがって、訂正事項3による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項2-6についてみても、同じである。

エ 訂正事項4
訂正事項4による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0032】の記載に基づいて、特許請求の範囲の請求項1の「樹脂フィルム」の「厚さが1?80μmである」と限定する訂正である。
したがって、訂正事項4による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項4による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項2-6についてみても、同じである。

オ 訂正事項5
訂正事項5による訂正は、特許請求の範囲の請求項5を削除する訂正である。
したがって、訂正事項5による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項5による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

カ 訂正事項6
訂正事項6による訂正は、特許請求の範囲の請求項6が請求項1及び5を引用しないようにする訂正である。
したがって、訂正事項6による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項6による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

キ 訂正事項7
訂正事項7による訂正は、特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項6の記載を請求項1の記載を引用しないものとして請求項10とし、前記訂正事項1-4による訂正と同様の訂正をするものである。
したがって、訂正事項7による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、同3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」及び同4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項7による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正(訂正事項1-7による訂正)は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。

4 請求項7、8についての訂正
(1)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める請求項7についての訂正は、以下のとおりである。

ア 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項7に「前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物からなる添加剤」と記載されているのを、「前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物のみからなる添加剤」に訂正する。

イ 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項7に「添加剤が配合された」と記載されているのを、「添加剤が前記高分子材料100重量部に対して1?10重量部配合された」に訂正する。

ウ 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項7に「樹脂フィルムを有す」と記載されているのを、「樹脂フィルムを有し、
前記積層フィルムは、前記組成物から形成された樹脂フィルムが、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に貼合された偏光板であり、」に訂正する。

エ 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項7に「ることを特徴とする」と記載されているのを、「前記発振波長範囲における前記高分子材料の吸収及び前記有機化合物の吸収は、フーリエ変換赤外分光光度計で吸収スペクトルを測定することで確認するものであり、
前記樹脂フィルムは、厚さが1?80μmであることを特徴とする」に訂正する。

オ 訂正事項12
請求項8を削除する。

(2)訂正の適否
ア 訂正事項8
訂正事項8による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書及び図面の【0062】、【0067】、図2及び図3の記載に基づいて、特許請求の範囲の請求項7の「前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物からなる添加剤」を、「前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物のみからなる添加剤」に限定する訂正である。
したがって、訂正事項8による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項8による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項9
訂正事項9による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0059】、【0063】及び【0069】【表1】の記載に基づいて、特許請求の範囲の請求項1の「添加剤が配合された」を、「添加剤が前記高分子材料100重量部に対して1?10重量部配合された」に限定する訂正である。
したがって、訂正事項9による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項9による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ウ 訂正事項10
訂正事項10による訂正は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項8の記載に基づいて、特許請求の範囲の請求項7の「積層フィルム」が、「前記組成物から形成された樹脂フィルムが、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に貼合された偏光板であり」と限定する訂正である。
したがって、訂正事項10による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項10による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

エ 訂正事項11
訂正事項11による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0023】及び【0060】の記載に基づいて、特許請求の範囲の請求項7の「高分子材料の吸収」及び「有機化合物の吸収」の確認方法を明確にし、また、本件特許の願書に添付した明細書の【0032】の記載に基づいて、特許請求の範囲の請求項7の「樹脂フィルム」の「厚さが1?80μmである」と限定する訂正である。
したがって、訂正事項11による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び同3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項11による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

オ 訂正事項12
訂正事項12による訂正は、特許請求の範囲の請求項8を削除する訂正である。
したがって、訂正事項12による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項12による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正(訂正事項8-12による訂正)は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。

5 請求項9についての訂正
(1)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める請求項9についての訂正は、以下のとおりである。

ア 訂正事項13
特許請求の範囲の請求項9に「前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物からなる添加剤」と記載されているのを、「前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物のみからなる添加剤」に訂正する。

イ 訂正事項14
特許請求の範囲の請求項9に「添加剤が配合された」と記載されているのを、「添加剤が前記高分子材料100重量部に対して1?10重量部配合された」に訂正する。

ウ 訂正事項15
特許請求の範囲の請求項9に「形成されて」と記載されているのを、
「形成されており、
前記発振波長範囲における前記高分子材料の吸収及び前記有機化合物の吸収は、フーリエ変換赤外分光光度計で吸収スペクトルを測定することで確認するものであり、」に訂正する。

エ 訂正事項16
特許請求の範囲の請求項9に「いることを特徴とする」と記載されているのを、「前記樹脂フィルムは、厚さが1?80μmであることを特徴とする」に訂正する。

(2)訂正の適否
ア 訂正事項13
訂正事項13による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書及び図面の【0062】、【0067】、図2及び図3の記載に基づいて、特許請求の範囲の請求項9の「前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物からなる添加剤」を、「前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物のみからなる添加剤」に限定する訂正である。
したがって、訂正事項13による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項13による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項14
訂正事項14による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0059】、【0063】及び【0069】【表1】の記載に基づいて、特許請求の範囲の請求項9の「添加剤が配合された」を、「添加剤が前記高分子材料100重量部に対して1?10重量部配合された」に限定する訂正である。
したがって、訂正事項14による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項14による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ウ 訂正事項15
訂正事項15による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0023】及び【0060】の記載に基づいて、特許請求の範囲の請求項9の「高分子材料の吸収」及び「有機化合物の吸収」の確認方法を明確にする訂正である。
したがって、訂正事項15による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項15による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

エ 訂正事項16
訂正事項16による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0032】の記載に基づいて、特許請求の範囲の請求項9の「樹脂フィルム」の「厚さが1?80μmである」と限定する訂正である。
したがって、訂正事項16による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項16による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正(訂正事項13-16による訂正)は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。

6 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正(訂正事項1-16による訂正)は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。

第3 本件特許発明
前記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。
したがって、本件特許の請求項1-4、6、7、9及び10に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」などという。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1-4、6、7、9及び10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
炭酸ガスレーザーにより切断加工される樹脂フィルムであって、
切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない高分子材料に、前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物のみからなる添加剤が前記高分子材料100重量部に対して1?10重量部配合された組成物から形成されており、
前記発振波長範囲における前記高分子材料の吸収及び前記有機化合物の吸収は、フーリエ変換赤外分光光度計で吸収スペクトルを測定することで確認するものであり、
厚さが1?80μmであることを特徴とする樹脂フィルム。
【請求項2】
前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲が9.1?9.5μmである、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
前記炭酸ガスレーザーが波長9.4μmのものである、請求項2に記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
前記高分子材料がシクロオレフィン系樹脂である、請求項1?3のいずれかに記載の樹脂フィルム。」
「【請求項6】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に、請求項2?4のいずれかに記載の樹脂フィルムが保護フィルムとして貼合されていることを特徴とする偏光板。
【請求項7】
炭酸ガスレーザーにより積層フィルムを切断加工する方法であって、
前記積層フィルムは、切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない高分子材料に、前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物のみからなる添加剤が前記高分子材料100重量部に対して1?10重量部配合された組成物から形成された樹脂フィルムを有し、
前記積層フィルムは、前記組成物から形成された樹脂フィルムが、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に貼合された偏光板であり、
前記発振波長範囲における前記高分子材料の吸収及び前記有機化合物の吸収は、フーリエ変換赤外分光光度計で吸収スペクトルを測定することで確認するものであり、
前記樹脂フィルムは、厚さが1?80μmであることを特徴とする積層フィルムの切断加工方法。」
「【請求項9】
炭酸ガスレーザーにより樹脂フィルムを切断加工する方法であって、
前記樹脂フィルムは、切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない高分子材料に、前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物のみからなる添加剤が前記高分子材料100重量部に対して1?10重量部配合された組成物から形成されており、
前記発振波長範囲における前記高分子材料の吸収及び前記有機化合物の吸収は、フーリエ変換赤外分光光度計で吸収スペクトルを測定することで確認するものであり、
前記樹脂フィルムは、厚さが1?80μmであることを特徴とする樹脂フィルムの切断加工方法。
【請求項10】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に、
炭酸ガスレーザーにより切断加工される樹脂フィルムであって、切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない高分子材料に、前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物のみからなる添加剤が前記高分子材料100重量部に対して1?10重量部配合された組成物から形成されており、前記発振波長範囲における前記高分子材料の吸収及び前記有機化合物の吸収は、フーリエ変換赤外分光光度計で吸収スペクトルを測定することで確認するものであり、厚さが1?80μmである樹脂フィルムが保護フィルムとして貼合されていることを特徴とする偏光板。」

第4 取消しの理由の概要
令和元年6月5日付けで特許権者に通知した取消の理由は、概略、
理由1:本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、
理由2:本件特許の請求項1-9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記の引用文献1-6に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1-9に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである、
というものである。

・引用文献1:特開2010-76181号公報(特許異議申立人星正美の
甲第1号証、特許異議申立人柴田留理子の甲第3号証)
・引用文献2:レーザー学会編、「レーザーハンドブック」、第2版、株式
会社オーム社、平成17年4月25日発行、p.911
(特許異議申立人柴田留理子の甲第2号証)
・引用文献3:特開2010-90350号公報(特許異議申立人星正美の
甲第3号証、特許異議申立人柴田留理子の甲第4号証)
・引用文献4:特開2011-53673号公報(特許異議申立人星正美の
甲第6号証、特許異議申立人柴田留理子の甲第1号証)
・引用文献5:特開2010-277018号公報(特許異議申立人星正美
の甲第7号証)
・引用文献6:特開2012-76143号公報(特許異議申立人星正美の
甲第8号証)

第5 当合議体の判断
1 理由1について
(1)特許請求の範囲の請求項1、7、9及び10に「切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない高分子材料」と記載され、この「切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない」の意味につき、本件特許明細書の【0023】に「用いるレーザーの発振波長範囲に吸収を持たないとは、発振波長範囲内に吸収ピークを持たないこと、また、発振波長範囲外の吸収ピークによる吸収が発振波長範囲内まで及ばないことを意味する」と記載されている。
しかしながら、「吸収ピーク」の判定基準が不明であり、どのようなピークを「吸収ピーク」とするのかが不明である。例えば、本件特許図面【図1】のゼオノアフィルム自体の吸収スペクトルにおいて、9.1?9.5μmに微小なピークがないとはいえず、この微小なピークを「吸収ピーク」とするのか否かが明らかでない。また、「発振波長範囲外の吸収ピークによる吸収が発振波長範囲内まで及ばない」とする判定基準が不明であり、どのような場合に及ばないとするのかが不明である。例えば、本件特許図面【図1】のゼオノアフィルム自体の吸収スペクトルにおいて、7μm付近の吸収ピークによる吸収が9.1?9.5μmに及ばないとするのか否かが明らかでない。
そうすると、「切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない」の意味が不明であるため、「切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない高分子材料」にどのような高分子材料が含まれるのかが不明であるから、特許請求の範囲の請求項1、7、9及び10に係る発明は明確であるとはいえない。また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2-4及び6に係る発明も明確であるとはいえない。

(2)特許権者は、令和元年8月6日付け意見書6頁?7頁において、「これらの見解に関し、本件訂正特許発明では「前記発振波長範囲における前記高分子材料の吸収及び前記有機化合物の吸収は、フーリエ変換赤外分光光度計で吸収スペクトルを測定することで確認する」ものであること、及び、樹脂フィルムの厚さが「1?80μm」であることが規定されている。吸収スペクトルの測定方法について、本件特許明細書には以下の記載がある。 「【0060】[吸収スペクトルの測定法] BRUKER社製のフーリエ変換赤外分光光度計“Vertex 70”を使用し、分解能を4cm^(-1)に設定して試料の吸収スペクトルを求めた。高分子材料(フィルム)は、入射角を37°とし、ゲルマニウム(Ge)プリズムを用いたATR(attenuated total reflection :全反射)法で測定を行った。また添加剤は、乳鉢を用いて臭化カリウム(KBr)と混合し、粉末状とした後、錠剤成型器でペレット状に成型したものを試料とし、透過法で測定を行った。」 今回提出した乙第2号証(泉美治ら監修、『機器分析のてびき(増補改訂版)』、化学同人編、1986年発行)の1?20頁には、赤外線吸収スペクトル法について説明されている。ここではフーリエ変換赤外分光光度計の特徴として、「コンピュータとの接続により、S/N比の積算による向上、スペクトル解析、および自動測定が可能である。」と記載されている(19頁(3))。また、今回提出した乙第3号証は、本件特許明細書にて使用されている「BRUKER社製のフーリエ変換赤外分光光度計“Vertex 70”」(段落【0060】)のマニュアルである。このマニュアルには、“Vertex 70”でのS/N比は標準的な感度試験では、最低でも7000程度になることが記載されている。このように、フーリエ変換赤外分光光度計を用いれば、その高いS/N比によって吸収ピークを捉えることが容易である。以上の本件特許明細書、乙第2号証、乙第3号証の記載によれば、当業者であれば、フーリエ変換赤外分光光度計を用いた測定であれば、シグナルとノイズとの区別を明確につけることができることが分かり、吸収ピークの判定を容易に行うことができることが分かる。また、フーリエ変換赤外分光光度計を用いる測定では、ハンドリングの都合から、樹脂フィルムの厚さは1?80μmであることが適当であることを当業者であれば明確に認識することができる。また、仮に、スペクトルの形状が悪く吸収ピークか否かの判別がしにくい場合は、例えば乙第2号証の11頁の「1.7.2 スペクトルの判定」及び「図1-18 良いスペクトルと悪いスペクトルの例」に示されているとおり、当業者であれば試料の準備が不適当であると判断し、試料を準備し直し再測定することは技術常識であるといえる。以上のことから、フーリエ変換赤外分光光度計を用いた測定によれば、炭酸ガスレーザーの発振波長範囲における吸収の有無について容易に判定することができるといえる。」と主張する。
しかしながら、特許請求の範囲の請求項1、7、9及び10において、「前記発振波長範囲における前記高分子材料の吸収及び前記有機化合物の吸収は、フーリエ変換赤外分光光度計で吸収スペクトルを測定することで確認する」ものであること、及び、樹脂フィルムの厚さが「1?80μm」であることが規定されても、これらの事項と「吸収ピーク」の判定基準及び「発振波長範囲外の吸収ピークによる吸収が発振波長範囲内まで及ばない」とする判定基準との関連が不明であるから、依然として、両判定基準が不明である。また、本件特許明細書【0060】、乙第2号証及び乙第3号証の記載を参酌しても、これらの記載と「吸収ピーク」の判定基準及び「発振波長範囲外の吸収ピークによる吸収が発振波長範囲内まで及ばない」とする判定基準との関連が不明であるから、依然として、両判定基準が不明である。
したがって、前記主張は採用できない。

2 理由2について
(1)前記1で述べたように、「切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない」の意味は不明であるが、その意味を「切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲におけるレーザー光の平均吸収率が(1?2%程度の)一定値以下である」として、以下、検討する。

(2)引用文献の記載・引用発明
ア 引用文献1
令和元年6月5日付けで特許権者に通知した取消しの理由で引用された引用文献1(特開2010-76181号公報)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものである。以下、同じ。

(ア)「【請求項1】
レーザー光の波長を吸収する化合物を含有する光学フィルムに、前記レーザー光を照射して、前記光学フィルムを加工する工程を有することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記工程は、前記光学フィルムを切断する工程であることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
・・・(中略)・・・
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法により作製されたことを特徴とする光学フィルム。
【請求項8】
請求項7に記載の光学フィルムを少なくとも偏光子の片側に配置したことを特徴とする偏光板。」

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム、及びその製造方法、特に、液晶表示装置(LCD)等に用いられる偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、プラズマディスプレイに用いられる反射防止フィルムなどの各種機能フィルムまた有機ELディスプレイ等で使用される各種機能フィルム等にも利用することができる光学フィルム、及びその製造方法、偏光板に関するものである。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、適正なレーザー強度に制御することが難しく、適正なレーザー強度から少しずれるだけで、切断面が乱れ、切断部の膜厚ムラが生じて、切断後のフィルム搬送ムラや巻き取り時のフィルムの歪みの原因となって、平坦なフィルムを得ることができないという問題が発生した。
・・・(中略)・・・
【0010】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、フィルム端部の切断加工において、レーザー強度が多少変動しても、切断面が乱れず、また、フィルム端部の表面へのエンボス加工においても、フィルムの膜厚に応じて、エンボス部の凹凸の高さを変化させる調整に時間を要することなく、フィルムの生産性に優れており、しかもフィルム表面の傷の発生を抑制した、光学フィルムの製造方法、該製造方法を用いて製造した光学フィルム及び該光学フィルムを用いた偏光板を提供することにある。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、フィルムがレーザー光の波長を吸収する化合物を含有しているので、過剰なレーザー強度を不要とし、またレーザー強度が多少変動しても、切断面が乱れず、また、フィルム端部の表面へのエンボス加工においても、過剰なレーザー強度を不要とし、フィルムの膜厚に応じて、エンボス部の凹凸の高さを変化させる調整に時間を要することなく、生産性に優れ、フィルム表面の傷の発生を抑制した、光学フィルムの製造方法、該製造方法を用いて製造した光学フィルム及び該光学フィルムを用いた偏光板を提供できる。」

(ウ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
・・・(中略)・・・
【0022】
本発明による光学フィルムの製造方法は、レーザー光の波長を吸収する化合物を含有する光学フィルムに、レーザー光を照射して、光学フィルムを加工する工程を有することを特徴とするものである。
【0023】
この本発明の光学フィルムの製造方法を用いることにより、例えば、レーザー加工工程(レーザー光を照射して光学フィルムを加工する工程、以下単にレーザー加工と称する場合もある。)が、フィルムの幅方向端部を切断する工程の場合、フィルムがレーザー光の波長を吸収する化合物を含有しているので、レーザー光の吸収効率が向上し、過剰なレーザー強度を不要とし切断部溶融、切断部外観不良などのフィルムへのダメージが少なく、またレーザー強度が多少変動しても、切断部の形状が乱れることがない。
・・・(中略)・・・
【0025】
また、本発明において、レーザー加工工程におけるレーザー光が遠赤外線領域の光である場合は、フィルムに含有している化合物は、4?25μmの波長領域の光を吸収する化合物である。例えば、レーザー光がCO_(2)レーザーである場合は、レーザー光の波長が9.3?10.6μmであるので、この範囲の波長を吸収する化合物が好ましい。
・・・(中略)・・・
【0032】
本発明による光学フィルムは、フィルム基材(高分子化合物)が、セルロースエステル系樹脂、ノルボルネン樹脂、シクロオレフィン系樹脂、及びオレフィン系樹脂よりなる群の中から選ばれた樹脂であるのが、好ましい。
・・・(中略)・・・
【0041】
本発明の光学フィルムには、光学フィルムの製造工程において、搬送するフィルムに、遠赤外線領域のレーザー光を照射するレーザー加工工程を有する場合、4?25μmの波長領域の光を吸収する化合物が含有されている。4?25μmの波長領域の光を吸収する化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、周期律表1A族、2A族に属する金属を有する無機金属酸化物、周期律表1A族、2A族、3A族に属する金属を少なくとも2種有する無機金属複合酸化物、金属を少なくとも3種有する無機金属複合酸化物、金属を少なくとも1種有する水酸化化合物、硫酸塩化合物、リン酸塩化合物、ハイドロタルサイト類化合物、金属を少なくとも2種有する金属複合塩化合物が好ましく、例えば、特開2004-344074号公報に記載されている、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、燐酸リチウム、アルミン酸カルシウム、アルミン酸マグネシウム、マイカ、ゼオライト、ハイドロタルサイト類化合物、リチウム・アルミニウム複合水酸化物、アルミニウム・リチウム・マグネシウム複合炭酸塩化合物、複数種アニオンを含有する金属複合水酸化物塩等が挙げられる。また、特開2001-172608号公報、特開2008-31375号公報に遠赤外線吸収剤として記載された化合物も使用可能である。
【0042】
これらの化合物は光学フィルムに0.001質量%以上10質量%以下で含有されることが好ましく、0.05質量%以上5質量%以下で含有されることが更に好ましく、0.01質量%以上1質量%以下で含有されることが特に好ましい。0.001質量%以下の含有量では本発明の効果が見られず、10質量%以上の含有量ではフィルムの透明性が損なわれるために好ましくない。
・・・(中略)・・・
【0098】
光学フィルムの膜厚は、使用目的によって異なるが、仕上がりのフィルムとして、本発明において使用される膜厚範囲は30?200μmで、最近の薄手傾向にとっては40?120μmの範囲が好ましく、特に40?100μmの範囲が好ましい。」
・・・(中略)・・・
【0104】
本発明に係る4?25μmの波長領域の光を吸収する化合物や0.2?0.4μmの波長領域の光を吸収する化合物、酸化防止剤、可塑剤などの添加剤は、あらかじめ樹脂と混合しておいてもよいし、押し出し機の途中で練り込んでもよい。均一に添加するために、スタチックミキサーなどの混合装置を用いることが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0111】
本発明の方法によって製造される光学フィルムは、液晶表示用部材、詳しくは偏光板用保護フィルムに用いられるのが好ましい。特に、透湿度と寸法安定性に対して共に厳しい要求のある偏光板用保護フィルムにおいて、本発明の光学フィルムは好ましく用いられる。
【0112】
偏光板に用いる偏光子は、従来から使用されている、例えば、ポリビニルアルコールフィルムの如きの延伸配向可能なフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して縦延伸したものである。偏光子自身では、十分な強度、耐久性がないので、少なくとも偏光子の片側に本発明の光学フィルムを配置して用いることができる。好ましくは、その両面に保護フィルムとして本発明の光学フィルムを接着して偏光板としている。
・・・(中略)・・・
【0117】
本発明の光学フィルムには、ハードコート層、防眩層、反射防止層、防汚層、帯電防止層、導電層、光学異方層、液晶層、配向層、粘着層、接着層、下引き層等の各種機能層を付与することができる。これらの機能層は塗布あるいは蒸着、スパッタ、プラズマCVD、大気圧プラズマ処理等の方法で設けることができる。」

イ 引用発明
(ア)引用文献1の請求項1、2、7、【0025】、【0032】の記載によると、引用文献1には、
「CO_(2)レーザー光の波長を吸収する化合物を含有し、前記CO_(2)レーザー光を照射して切断加工されるシクロオレフィン系樹脂フィルム。」 (以下、「引用発明1」という。)
が記載されていると認められる。

(イ)引用文献1の請求項1、2、7、8、【0025】、【0032】、【0111】、【0112】の記載によると、引用文献1には、
「引用発明1のシクロオレフィン系樹脂フィルムが保護フィルムとして、ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光子の少なくとも片側に配置された偏光板。」 (以下、「引用発明2」という。)
が記載されていると認められる。

(ウ)引用文献1の請求項1、2、【0025】、【0032】、【0117】の記載によると、引用文献1には、
「機能層が付与され、CO_(2)レーザー光の波長を吸収する化合物を含有するシクロオレフィン系樹脂フィルムに、前記CO_(2)レーザー光を照射して、前記フィルムを切断加工する、フィルムの製造方法。」 (以下、「引用発明3」という。)
が記載されていると認められる。

(エ)引用文献1の請求項1、2、【0025】、【0032】の記載によると、引用文献1には、
「CO_(2)レーザー光の波長を吸収する化合物を含有するシクロオレフィン系樹脂フィルムに、前記CO_(2)レーザー光を照射して、前記フィルムを切断加工する、フィルムの製造方法。」 (以下、「引用発明4」という。)
が記載されていると認められる。

(オ)なお、引用文献1の【0025】に加工(切断)のためのレーザーとしてCO_(2)レーザーのみが例示され、また、【0032】に好ましいフィルム基材の樹脂としてシクロオレフィン系樹脂が挙げられている以上、引用文献1には引用発明1-4も記載されているといえる。

ウ 引用文献2
令和元年6月5日付けで特許権者に通知した取消しの理由で引用された引用文献2(レーザー学会編、「レーザーハンドブック」、第2版、株式会社オーム社、平成17年4月25日発行、p.911)には、以下の記載がある。

「36・4・1 ポリマーのレーザー光化学の基礎
〔1〕 光化学過程と光熱過程
光反応は,物質に光が吸収されることにより始まる.一般にポリマーをはじめとする有機固体は紫外,遠紫外部に強い吸収帯を持つ.エキシマレーザーの発振波長はこの領域にあるため,加工・表面改質に最適である.ポリマー自体に吸収のない波長のレーザー光でも,光を吸収する分子を増感剤として添加したり,高強度のレーザー照射による多光子吸収を利用することにより,表面あるいは内部変化を起こすことができる.」

エ 引用文献3
令和元年6月5日付けで特許権者に通知した取消しの理由で引用された引用文献3(特開2010-90350号公報)には、以下の記載がある。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー焼結積層造形用樹脂粉末に関する。より詳しくは、他材料との密着性や接着性が良好で、高透明であり、さらに高耐熱性である環状オレフィン系(共)重合体と遠赤外線吸収剤を含有してなり、光拡散剤、粉体塗料、トナー用材料、潤滑剤成分、立体物造形用粉末等として有用なレーザー焼結積層造形用樹脂粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遠赤外線レーザーを用いた彫刻、切削、マーキング、立体物造形等が盛んに検討されている。これらのレーザー加工法はレーザー照射部分を削って表面形状を変化させたり、レーザー照射により発色または退色する性質を利用したり、レーザー光吸収による発熱を利用して変形または融着させて印刷または加工するものであり各種材料が提案されている。
特に粉末焼結造形法による立体物造形は成型物開発の期間および費用短縮に効果的である事から近年ポリアミド樹脂粒子を中心としてその需要が拡大している。粉末焼結造形法はレーザーを任意の断面形状に走査照射してその熱源により樹脂を融着積層する技術であり、例えば特許文献1および2にその技術が開示されている。
一方、環状オレフィン系樹脂は、ガラス転移温度、光線透過率が高く、しかも屈折率の異方性が小さいことによる従来の光学フィルムに比べ低複屈折性を示すなどの特長を有しており、耐熱性、透明性、光学特性に優れた透明熱可塑性樹脂として注目されている(特許文献3?8)。
【0003】
このように優れた性質を有する環状オレフィン系樹脂からなる粒子を粉末焼結造形に応用すれば従来の光硬化反応を利用した光造形法では製造困難であった高耐熱、高透明、且つ高強度な造形物が得られることが期待される。しかしながら環状オレフィン系樹脂は非晶性であるため透明性に優れる反面、温度や時間に対する溶融粘度の低下度合いがナイロン等の結晶性材料と比べて小さいため粉末造形には不適であるとされてきた(特許文献2)。そのため遠赤外線レーザーに対する感度が高く、レーザー加工性が良好なレーザー焼結積層造形用樹脂粉末の開発が強く望まれていた。
・・・(中略)・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、遠赤外線レーザーを用いた彫刻、切削、マーキング、立体物造形等に好適に使用できる環状オレフィン系(共)重合体と遠赤外線吸収剤を含有してなるレーザー焼結積層造形用樹脂粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意検討した結果、下記一般式(I)で表される環状オレフィン系単量体から誘導される下記(1)?(6)の何れかの環状オレフィン系(共)重合体(A)と遠赤外線吸収剤(B)とを含有する樹脂組成物であって、(共)重合体(A)と遠赤外線吸収剤(B)との重量比が(共)重合体A:赤外線吸収剤(B)=99.99:0.01?70:30であるレーザー焼結積層造形用樹脂粉末が遠赤外線レーザーを用いた彫刻、切削、マーキング、立体物造形等に好適に使用できることを見出し、本発明を完成するに至った。」

(イ)「【0057】
〔赤外線吸収剤(B)〕
遠赤外線吸収剤(B)は遠赤外線の波長領域に吸収を有するものであればその種類に限定は無く、有機染料、有機顔料、無機染料、無機顔料、その他の有機物または無機物等の何れをも使用することが出来る。また、これらの遠赤外線吸収剤は本発明の効果を損なわない範囲で着色した物でもよく、無色の物でも良い。遠赤外線吸収剤(B)は使用目的により色や吸収特性を適宜選択するが好ましい。この様な遠赤外線吸収剤(B)としては無機粒子または含リン化合物を挙げることができる。
特に好ましい遠赤外線吸収剤(B)としては珪酸塩鉱物またはリン酸エステル化合物を挙げることができる。
【0058】
無機粒子の多くは熱的に安定であり、また環状オレフィン系(共)重合体(A)のガラス転移温度等の耐熱特性を損なわず、さらに、その粒径・形状等が多様であり各種目的を満足し得るため好ましい。具体的には炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、等の炭酸塩類、珪酸塩白土、雲母、カオリン鉱物、雲母粘土鉱物、スメクタイト、蛇紋石鉱物、タルク、緑泥石、バーミキュライト、等の粘度鉱物・珪酸塩鉱物を挙げることができる。
【0059】
これらのうち珪酸塩鉱物が好ましく、特に好ましくは雲母類である。無機粒子の形状は特に限定されず、球形、針状、その他の不定形であっても良い。粒径は一次体積平均粒径として通常0.1?30μm、好ましくは0.3?28μm、特に好ましくは0.5?25μmである。平均粒子系が30μmよりも大きいと環状オレフィン系(共)重合体(A)が有する透明性を著しく損なうため好ましくない。
リン原子含有化合物としてはリン酸、リン酸エステル類、ポリリン酸、亜リン酸、亜リン酸エステル、ホスホン酸エステル類を挙げることができる。これらのうち、リン酸エステル類、亜リン酸エステル類、ホスホン酸エステルが腐食性が低く、環状オレフィン系(共)重合体(A)への相溶性に優れるため好ましいく、リン酸エステル類が特に好ましい。
【0060】
具体例としては、(RO-)_(3)P、(RO-)_(3)P=O、またはR(RO-)_(2)P=O構造(但し、同一分子内に存在する複数のRは同一でも異なっても良い)を有する化合物であればよく、例えば、トリフェニルホスファイト、フェニルホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジメチル、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、クレジルビス(ジ-2,6-キシレニル)ホスフェート、ジー2-エチルヘキシルホスフェート、レゾルシノールビス(ジー2,6-キシレニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジクレジル)ホスフェート、4,4‘-ビフェノールビス(ジフェニル)ホスフェート等が挙げられる。
【0061】
これらの中でもクレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、クレジルビス(ジ-2,6-キシレニル)ホスフェート、レゾルシノールビス(ジー2,6-キシレニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジクレジル)ホスフェート、4,4‘-ビフェノールビス(ジフェニル)ホスフェートが低揮発性であるため好ましく、レゾルシノールビス(ジー2,6-キシレニル)ホスフェート、4,4‘-ビフェノールビス(ジフェニル)ホスフェートは固形でありドライブレンドプロセスに適していることから特に好ましい。
無機化合物とリン酸エステル化合物とは耐熱性や透明性等の要求される品質レベルに応じて選択することができ、それぞれについて単独または複数種用いても良く、更に無機化合物とリン酸エステル化合物を複合的に用いても良い。
【0062】
本発明に用いられる樹脂組成物は赤外線吸収剤(B)を必須の成分として含有するが、その添加量は環状オレフィン系(共)重合体(A)と赤外線吸収剤(B)との重量比として環状オレフィン系(共)重合体(A):赤外線吸収剤(B)=99.99:0.01?70:30の範囲であり、好ましくは99.95:0.05?75:25、特に好ましくは99.9:0.1?80:20である。赤外線吸収剤(B)添加量がこの範囲よりも多いと環状オレフィン系(共)重合体(A)が本来有する透明性や耐熱性性を損ない、また、この範囲よりも少ないと遠赤外線エネルギーの利用効率が低下するため好ましくない。
・・・(中略)・・・
【0065】
このようなレーザー焼結積層造形用樹脂粉末は、公知のレーザー焼結積層造形用樹脂粉末の用途として使用することができるが、例えば特許第3621703号公報に記載の炭酸ガスレーザーを用いた粉末造形用途として特に好ましく用いることができる。
レーザー焼結積層造形用樹脂粉末の体積平均粒径は1?200μmであることが好ましく、5?180μmがより好ましく、10?150μmが特に好ましい。粒子径がこの範囲よりも小さいと粒子を加工する際に粒子が舞いやすく作業性が悪化することがあり、またこの範囲よりも大きいと粉末造形用途等に使用する際に加工物の寸法精度が悪化するので好ましくない。」

(3)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明1を対比する。
(ア)引用発明1の「CO_(2)レーザー」は、「炭酸ガスレーザー」に相当する。また、引用発明1の「シクロオレフィン系樹脂フィルム」は、炭酸ガスレーザー光である「CO_(2)レーザー光を照射して切断加工される」「樹脂フィルム」である。
そうすると、引用発明1の「シクロオレフィン系樹脂フィルム」は、本件特許発明1の「樹脂フィルム」に相当する。

(イ)引用発明1の「CO_(2)レーザー光の波長を吸収する化合物」は、「シクロオレフィン系樹脂フィルム」に「含有」されるから、添加剤としてシクロオレフィン系樹脂に配合されているといえる。また、「シクロオレフィン系樹脂」は「高分子材料」といえる。
そうすると、本件特許発明1の「樹脂フィルム」と引用発明1の「シクロオレフィン系樹脂フィルム」は、「高分子材料に」「炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ」「化合物」「からなる添加剤が配合された組成物から形成されている」点で共通する。

イ 一致点及び相違点
(ア)一致点
本件特許発明1と引用発明1は、以下の構成で一致する。
(一致点)
「炭酸ガスレーザーにより切断加工される樹脂フィルムであって、
高分子材料に、前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ化合物からなる添加剤が配合された組成物から形成されている樹脂フィルム。」

(イ)相違点
本件特許発明1と引用発明1は、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件特許発明1の「高分子材料」は、「切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない」のに対し、引用発明1の「シクロオレフィン系樹脂」は、CO_(2)レーザーの発振波長範囲に吸収を持たないのかが明らかでない点。

(相違点2)
本件特許発明1の「添加剤」は、「炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物のみからなる」のに対し、引用発明1の「化合物」は、有機化合物のみからなるのかが明らかでない点。

(相違点3)
本件特許発明1の「添加剤」は、「前記高分子材料100重量部に対して1?10重量部配合され」ているのに対し、引用発明1の「化合物」は、その配合量が明らかでない点。

(相違点4)
本件特許発明1は、「前記発振波長範囲における前記高分子材料の吸収及び前記有機化合物の吸収は、フーリエ変換赤外分光光度計で吸収スペクトルを測定することで確認するものであ」るのに対し、引用発明1は、そのような特定がされていない点。

(相違点5)
本件特許発明1の「樹脂フィルム」は、「厚さが1?80μmである」のに対し、引用発明1の「シクロオレフィン系樹脂フィルム」は、その厚さが明らかでない点。

ウ 判断
(ア)相違点1について
a シクロオレフィン系樹脂には、「切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない」ものと「切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持」つものがある。
一方、引用文献2に記載(前記(2)ウ)のように、ポリマー自体に吸収のない波長のレーザー光でも、光を吸収する分子を増感剤として添加することにより、表面あるいは内部変化を起こすことができることは、周知である。そして、光を吸収する分子を増感剤として添加するのは、ポリマー自体にレーザー光の吸収がないか又はポリマー自体のレーザー光の吸収率が必要とされる値よりも小さいからであり、レーザー光の吸収率が必要とされる値よりも大きいポリマーに対して光を吸収する分子を増感剤として添加する必要性は大きくないともいえる。
そうすると、レーザー光の波長を吸収する化合物を含有する引用発明1のシクロオレフィン系樹脂として、「切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない」ものを選択することは、当業者が容易になし得たことである。
b 特許権者は、令和元年8月6日付け意見書10頁において、「引用文献1には、切断加工に用いるレーザー光の発振波長範囲に吸収を持たないフィルム基材(高分子化合物)を用いるという技術的思想が開示されているとはいえない」旨と主張している。
しかしながら、引用文献1に前記技術的思想が開示されているとはいえないとしても、引用発明1は、シクロオレフィン系樹脂として「切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない」ものを選択することを妨げていないから、前記主張は、前記aの議論を左右するものではない。

(イ)相違点2について
切削等にも使用する樹脂に含有される遠赤外線吸収剤として、炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物のみからなるものを用いることは、引用文献3に記載されている(前記(2)エ(ア)の【0005】、同(イ)の【0057】、【0059】、【0061】、【0062】、【0065】を参照のこと。特に、【0065】には「このようなレーザー焼結積層造形用樹脂粉末は、」「炭酸ガスレーザーを用いた粉末造形用途として特に好ましく用いることができる」と記載されている。なお、下線は当合議体が付した。)。そして、引用発明1の、切断加工に使用するシクロオレフィン系樹脂に含有され、CO_(2)レーザー(炭酸ガスレーザー)光の波長を吸収する化合物の選択は、当業者が適宜なし得る事項であるところ、引用発明1において、引用文献3に記載されているようなものを用いることは、当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項である。

(ウ)相違点3について
引用文献1の【0042】には「これらの化合物は光学フィルムに0.001質量%以上10質量%以下で含有されることが好ましく、0.05質量%以上5質量%以下で含有されることが更に好ましく、0.01質量%以上1質量%以下で含有されることが特に好ましい。0.001質量%以下の含有量では本発明の効果が見られず、10質量%以上の含有量ではフィルムの透明性が損なわれるために好ましくない」と記載されており、引用発明1の化合物の配合量は、必要とされる切断加工性やフィルムの品質に応じて、当業者が適宜決定すべき事項であるといえる。そうすると、引用発明1において、「化合物」の配合量をシクロオレフィン系樹脂100重量部に対して1?10重量部程度とすることは、当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項である。

(エ)相違点4について
フーリエ変換赤外分光光度計で吸収スペクトルを測定することで物質の吸収を確認することは、周知慣用技術であるから、引用発明1において、当該周知慣用技術を採用することは、当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項である。

(オ)相違点5について
引用文献1の【0098】には「光学フィルムの膜厚は、使用目的によって異なるが、仕上がりのフィルムとして、本発明において使用される膜厚範囲は30?200μmで、最近の薄手傾向にとっては40?120μmの範囲が好ましく、特に40?100μmの範囲が好ましい」と記載されており、引用発明1の「シクロオレフィン系樹脂フィルム」の厚さは、使用目的、薄型化の観点等に応じて、当業者が適宜決定すべき事項であるといえる。そうすると、引用発明1において、「シクロオレフィン系樹脂フィルム」の厚さを1?80μm程度とすることは、当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項である。

エ 小括
したがって、本件特許発明1は、当業者が引用発明1、引用文献1-3に記載された事項、及び周知慣用技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(4)本件特許発明2について
ア 対比・一致点及び相違点
本件特許発明2と引用発明1とを対比すると、両者は、前記相違点1-5に加え、次の相違点6で相違し、その余の構成においては一致する。

(相違点6)
本件特許発明2では、「炭酸ガスレーザーの発振波長範囲が9.1?9.5μmである」のに対し、引用発明1では、CO_(2)レーザーの発振波長範囲が明らかでない点。

イ 判断
(ア)前記相違点1-5については、上述したとおりである。
(イ)相違点6について検討する。
切断加工に、波長9.4μmの炭酸ガスレーザーを用いる(発振波長範囲は9.1?9.5μm程度になることが多い)ことは、周知技術である(引用文献4(特開2011-53673号公報)の【0044】、【0051】、引用文献5(特開2010-277018号公報)の【0058】、引用文献6(特開2012-76143号公報)の【0052】-【0056】等を参照のこと。)。
そして、切断加工性を良好にするなどのために、引用発明1において前記周知技術を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

ウ 小括
したがって、本件特許発明2は、当業者が引用発明1、引用文献1-3に記載された事項、周知慣用技術及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(5)本件特許発明3について
ア 対比・一致点及び相違点
本件特許発明3と引用発明1とを対比すると、両者は、前記相違点1-6に加え、次の相違点7で相違し、その余の構成においては一致する。

(相違点7)
本件特許発明3では、「炭酸ガスレーザーが波長9.4μmのものである」のに対し、引用発明1では、CO_(2)レーザーが波長9.4μmのものであるのかが明らかでない点。

イ 判断
(ア)前記相違点1-6については、上述したとおりである。
(イ)相違点7について検討する。
切断加工に、波長9.4μmの炭酸ガスレーザーを用いることは、周知技術である(引用文献4(特開2011-53673号公報)の【0044】、【0051】、引用文献5(特開2010-277018号公報)の【0058】、引用文献6(特開2012-76143号公報)の【0052】-【0056】等を参照のこと。)。
そして、切断加工性を良好にするなどのために、引用発明1において前記周知技術を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

ウ 小括
したがって、本件特許発明3は、当業者が引用発明1、引用文献1-3に記載された事項、周知慣用技術及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(6)本件特許発明4について
ア 対比・一致点及び相違点
本件特許発明4と引用発明1とを対比すると、両者は、既に述べた相違点で相違し、その余の構成においては一致する。

イ 判断
既に述べた相違点については、上述したとおりである。

ウ 小括
したがって、本件特許発明4は、当業者が引用発明1、引用文献1-3に記載された事項、周知慣用技術及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(7)本件特許発明6について
ア 対比・一致点及び相違点
本件特許発明6と引用発明2とを対比すると、両者は、既に述べた相違点と同様の相違点で相違し、その余の構成においては一致する。

イ 判断
既に述べた相違点と同様の相違点については、上述したとおりである。

ウ 小括
したがって、本件特許発明6は、当業者が引用発明2、引用文献1-3に記載された事項、周知慣用技術及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(8)本件特許発明7について
ア 対比
本件特許発明7と引用発明3を対比する。
(ア)引用発明3の「CO_(2)レーザー」は、「炭酸ガスレーザー」に相当する。

(イ)「機能層」は、通常、フィルム状に構成されているから、引用発明3の「機能層が付与され」た「シクロオレフィン系樹脂フィルム」は、積層されたフィルムであるといえる。そうすると、引用発明3の「機能層」及び「シクロオレフィン系樹脂フィルム」は、本件特許発明7の「積層フィルム」に相当する。

(ウ)引用発明3は、炭酸ガスレーザー光である「CO_(2)レーザー光を照射して、」「機能層が付与され」た「シクロオレフィン系樹脂フィルム」を「切断加工」して、フィルムを製造するものである。そうすると、引用発明3の「フィルムの製造方法」は、本件特許発明7の「積層フィルムの切断加工方法」に相当する。

(エ)引用発明3の「CO_(2)レーザー光の波長を吸収する化合物」は、「シクロオレフィン系樹脂フィルム」に「含有」されるから、添加剤としてシクロオレフィン系樹脂に配合されているといえる。また、「シクロオレフィン系樹脂」は「高分子材料」といえる。そうすると、本件特許発明7の「積層フィルム」と引用発明3の「機能層」及び「シクロオレフィン系樹脂フィルム」は、「高分子材料に」「炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ」「化合物」「からなる添加剤が配合された組成物から形成された樹脂フィルムを有する」点で共通する。

イ 一致点及び相違点
(ア)一致点
本件特許発明7と引用発明3は、以下の構成で一致する。
(一致点)
「炭酸ガスレーザーにより積層フィルムを切断加工する方法であって、
前記積層フィルムは、高分子材料に、前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ化合物からなる添加剤が配合された組成物から形成された樹脂フィルムを有する積層フィルムの切断加工方法。」

(イ)相違点
本件特許発明7と引用発明3は、前記相違点1-5と同様の相違点に加え、次の相違点8で相違する。

(相違点8)
本件特許発明8では、「前記積層フィルムは、前記組成物から形成された樹脂フィルムが、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に貼合された偏光板である」のに対し、引用発明3では、積層されたフィルムが、「機能層」及び「シクロオレフィン系樹脂フィルム」からなる点。

ウ 判断
(ア)前記相違点1-5と同様の相違点については、上述したとおりである。

(イ)相違点8について検討する。
樹脂フィルムである保護フィルムがポリビニルアルコールフィルムからなる偏光子に接着された偏光板を炭酸ガスレーザーによる切断加工の対象することは、周知技術である(引用文献5(特開2010-277018号公報)の【0055】-【0058】、引用文献6(特開2012-76143号公報)の【0052】-【0056】等参照のこと。)。
そして、シクロオレフィン系樹脂フィルムは、ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光子の保護フィルムとなるという技術常識及び前記周知技術を考慮すると、引用発明3において、切断加工の対象を、シクロオレフィン系樹脂フィルムにポリビニルアルコールフィルムからなる偏光子が接着された偏光板とすることは、当業者が容易になし得たことである。

エ 小括
したがって、本件特許発明7は、当業者が引用発明3、引用文献1-3に記載された事項、周知慣用技術及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(9)本件特許発明9について
ア 対比
本件特許発明9と引用発明4を対比する。
(ア)引用発明4の「CO_(2)レーザー」は、「炭酸ガスレーザー」に相当する。

(イ)引用発明4の「シクロオレフィン系樹脂フィルム」は、本件特許発明9の「樹脂フィルム」に相当する。

(ウ)引用発明4は、炭酸ガスレーザー光である「CO_(2)レーザー光を照射して、」「シクロオレフィン系樹脂フィルム」を「切断加工」して、フィルムを製造するものである。そうすると、引用発明4の「フィルムの製造方法」は、本件特許発明9の「樹脂フィルムの切断加工方法」に相当する。

(エ)引用発明4の「CO_(2)レーザー光の波長を吸収する化合物」は、「シクロオレフィン系樹脂フィルム」に「含有」されるから、添加剤としてシクロオレフィン系樹脂に配合されているといえる。また、「シクロオレフィン系樹脂」は「高分子材料」といえる。そうすると、本件特許発明9の「樹脂フィルム」と引用発明4の「シクロオレフィン系樹脂フィルム」は、「高分子材料に」「炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ」「化合物」「からなる添加剤が配合された組成物から形成されている」点で共通する。

イ 一致点及び相違点
(ア)一致点
本件特許発明9と引用発明4は、以下の構成で一致する。
(一致点)
「炭酸ガスレーザーにより樹脂フィルムを切断加工する方法であって、
前記樹脂フィルムは、高分子材料に、前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ化合物からなる添加剤が配合された組成物から形成されている樹脂フィルムの切断加工方法。」

(イ)相違点
本件特許発明9と引用発明4は、前記相違点1-5と同様の相違点で相違する。

ウ 判断
前記相違点1-5と同様の相違点については、上述したとおりである。

エ 小括
したがって、本件特許発明9は、当業者が引用発明4、引用文献1-3に記載された事項、及び周知慣用技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(10)本件特許発明10について
ア 対比・一致点及び相違点
本件特許発明10と引用発明2とを対比すると、両者は、前記相違点1-5と同様の相違点で相違し、その余の構成においては一致する。

イ 判断
前記相違点1-5と同様の相違点については、上述したとおりである。

ウ 小括
したがって、本件特許発明10は、当業者が引用発明2、引用文献1-3に記載された事項、及び周知慣用技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
1 本件特許発明1-4、6、7、9及び10は、いずれも、明確であるとはいえないから、請求項1-4、6、7、9及び10に係る特許は、いずれも、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、請求項1-4、6、7、9及び10に係る特許は、いずれも、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 本件特許発明1-4、6、7、9及び10は、当業者が引用文献1に記載された発明、引用文献1-3に記載された事項、周知慣用技術及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1-4、6、7、9及び10についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1-4、6、7、9及び10についての特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。

3 本件特許の請求項5及び8は、本件訂正請求による訂正で削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、本件特許の請求項5及び8に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

4 よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ガスレーザーにより切断加工される樹脂フィルムであって、
切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない高分子材料に、前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物のみからなる添加剤が前記高分子材料100質量部に対して1?10重量部配合された組成物から形成されており、
前記発振波長範囲における前記高分子材料の吸収及び前記有機化合物の吸収は、フーリエ変換赤外分光光度計で吸収スペクトルを測定することで確認するものであり、
厚さが1?80μmであることを特徴とする樹脂フィルム。
【請求項2】
前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲が9.1?9.5μmである、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
前記炭酸ガスレーザーが波長9.4μmのものである、請求項2に記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
前記高分子材料がシクロオレフィン系樹脂である、請求項1?3のいずれかに記載の樹脂フィルム。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に、請求項2?4のいずれかに記載の樹脂フィルムが保護フィルムとして貼合されていることを特徴とする偏光板。
【請求項7】
炭酸ガスレーザーにより積層フィルムを切断加工する方法であって、
前記積層フィルムは、切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない高分子材料に、前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物のみからなる添加剤が前記高分子材料100質量部に対して1?10重量部配合された組成物から形成された樹脂フィルムを有し、
前記積層フィルムは、前記組成物から形成された樹脂フィルムが、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に貼合された偏光板であり、
前記発振波長範囲における前記高分子材料の吸収及び前記有機化合物の吸収は、フーリエ変換赤外分光光度計で吸収スペクトルを測定することで確認するものであり、
前記樹脂フィルムは、厚さが1?80μmであることを特徴とする積層フィルムの切断加工方法。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
炭酸ガスレーザーにより樹脂フィルムを切断加工する方法であって、
前記樹脂フィルムは、切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない高分子材料に、前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物のみからなる添加剤が前記高分子材料100質量部に対して1?10重量部配合された組成物から形成されており、
前記発振波長範囲における前記高分子材料の吸収及び前記有機化合物の吸収は、フーリエ変換赤外分光光度計で吸収スペクトルを測定することで確認するものであり、
前記樹脂フィルムは、厚さが1?80μmであることを特徴とする樹脂フィルムの切断加工方法。
【請求項10】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に、
炭酸ガスレーザーにより切断加工される樹脂フィルムであって、切断加工に用いる炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持たない高分子材料に、前記炭酸ガスレーザーの発振波長範囲に吸収を持つ有機化合物のみからなる添加剤が前記高分子材料100質量部に対して1?10重量部配合された組成物から形成されており、前記発振波長範囲における前記高分子材料の吸収及び前記有機化合物の吸収は、フーリエ変換赤外分光光度計で吸収スペクトルを測定することで確認するものであり、厚さが1?80μmである樹脂フィルムが保護フィルムとして貼合されていることを特徴とする偏光板。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-12-25 
出願番号 特願2013-63495(P2013-63495)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (G02B)
P 1 651・ 537- ZAA (G02B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 小西 隆  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 宮澤 浩
関根 洋之
登録日 2018-04-13 
登録番号 特許第6318465号(P6318465)
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 樹脂フィルム、それを用いた偏光板及び樹脂フィルムの切断加工方法  
代理人 福山 尚志  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 吉住 和之  
代理人 清水 義憲  
代理人 吉住 和之  
代理人 福山 尚志  
代理人 三上 敬史  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 清水 義憲  
代理人 三上 敬史  

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