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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B26B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B26B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  B26B
管理番号 1361465
異議申立番号 異議2019-700701  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-05 
確定日 2020-03-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6481985号発明「電気かみそり」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6481985号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 特許第6481985号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6481985号の請求項1に係る特許についての出願は、平成23年10月21日を出願日とする特願2011-231530号の一部を平成27年12月25日に新たな出願とした特願2015-254220号の一部を、平成29年9月26日に新たな特許出願としたものであって、平成31年2月22日にその特許権の設定登録がされ、同年3月13日に特許掲載公報が発行された。その後の、本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 1年 9月 5日 : 特許異議申立人渡辺麻紀(以下「特許異議申立人」という)による請求項1に対する特許異議の申立て

令和 1年10月31日付け: 取消理由通知書

令和 1年12月20日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出

令和 2年 1月27日 : 特許異議申立人による意見書の提出


2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のア、イのとおりである。
ア 訂正事項1
請求項1に係る「前記フレーム取付台の天壁部が前記グリップ部の延在方向に対して傾斜し、」を「前記フレーム取付台の天壁部が、前記グリップ部の延在方向に対して傾斜するとともに、前記外刃が延在する方向に直角な方向に傾斜し、」(下線部は、特許権者が訂正事項について付したものである。下記イの下線部についても同様。)に訂正する。
イ 訂正事項2
請求項1に係る「前記ヘッド部は、前記外刃の刃穴から導入した洗浄水を排出し得る開口窓を有し、」を「前記ヘッド部は、前記外刃の刃穴から導入した洗浄水を排出し得る開口窓を、前記外刃が延在する方向に直角な方向側に有し、」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
上記訂正事項1に係る訂正は、請求項1の「フレーム取付台の天壁部」の傾斜方向を、「前記外刃が延在する方向に直角な方向」であることを付加して特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、「フレーム取付台の天壁部」の傾斜方向を特定したことにより、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
さらに、新規事項の有無について検討すると、上記訂正事項1に関連して、明細書段落【0012】に、「以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下では、複数の外刃が並設される方向を前後方向X、各外刃が延在する方向を左右方向Y、外刃が上方を向くようにヘッド部を配置した状態(フレーム取付台の天壁部が上を向くように電気かみそりを立てた状態)における上下方向を上下方向Zとして説明する。」と記載されているから、本願図面において、「外刃が延在する方向」は、「Y軸」として説明されていることが記載されている。また、本願の図面から、フレーム取付台の天壁部37が、グリップ部2の延在方向であるZ軸に対して傾斜している(図3、7を参照。)とともに、Y軸に沿って延在し(図5-6を参照。)、Y軸に直角な方向であるXZ平面上の方向に傾斜している(図3-4、7-8を参照。図3を参酌すると、X軸方向に対して概ね30°程度傾斜している)ことが看取される。(便宜上、本願の図3、5のみを下記に添付する。また、理解のために、当審において、図3における、「フレーム取付台の天壁部37の傾斜している方向であるXZ平面上の方向」を記入した。)
そして、上記訂正事項1により付加された、「フレーム取付台の天壁部」が、「外刃が延在する方向に直角な方向に傾斜」するとの事項は、「フレーム取付台の天壁部」が、「外刃が延在する方向」には傾斜せず、「外刃が延在する方向」に沿って延在することを特定するとともに、「外刃が延在する方向に直角な方向に傾斜」すること、すなわち、外刃が延在する方向に垂直な平面上の特定方向に傾斜することを特定するものである。
してみると、上記のとおり、本願の図3-8から、フレーム取付台の天壁部37が、グリップ部2の延在方向であるZ軸に対して傾斜しているとともに、Y軸に沿って延在し、Y軸に直角な方向であるXZ平面上の方向に傾斜していることが看取され、該「Y軸」は「外刃が延在する方向」であり、該「XZ平面上の方向」は「外刃が延在する方向に直角な方向」であるから、上記訂正事項1は、明細書及び図面に記載されている事項の範囲内のものであり、新規事項の追加に該当しないといえる。

[図3]


[図5]


イ 訂正事項2について
上記訂正事項2は、請求項1の「ヘッド部」が有する「開口窓」の配置位置について、「前記外刃が延在する方向に直角な方向側」であることを付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、「ヘッド部」が、「開口窓」を「前記外刃が延在する方向に直角な方向側に有」することを特定したことにより、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
さらに、新規事項の有無について検討すると、上記訂正事項2に関連して、明細書の段落【0049】には、「そのため、電気かみそり1のグリップ部2を真っ直ぐに立てた状態で保管した場合に、洗い残った洗浄水や体毛などを傾斜して下がった側にある開口窓25から容易に排出することができる。」と記載され、図3から、ヘッド部3が、開口窓25を、上記アで示した、フレーム取付台の天壁部37が傾斜している「XZ平面上の方向」側に有することが看取される。
そして、訂正事項2により付加された、「ヘッド部」が、「開口窓」を「前記外刃が延在する方向に直角な方向側に有」するとの事項において、「外刃が延在する方向に直角な方向側」とは、上記訂正事項1の「外刃が延在する方向に直角な方向」側、すなわち、上記アで示した「XZ平面上の方向」側であると理解できる。
そうすると、本願の図3から、ヘッド部3が、開口窓25を、フレーム取付台の天壁部37が傾斜している「XZ平面上の方向」側に有することが看取されるから、上記訂正事項2は、明細書及び図面に記載されている事項の範囲内のものであり、新規事項の追加に該当しない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。


3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

<本件発明>
「グリップ部とヘッド部とを有し、
前記ヘッド部は、
複数の刃穴が設けられた外刃を有する外刃フレームと、
前記外刃フレームが装着されるフレーム取付台と、前記外刃と前記フレーム取付台との間に配置され、前記刃穴に挿入された体毛を切断する内刃と、を含む電気かみそりであって、
前記フレーム取付台の天壁部が、前記グリップ部の延在方向に対して傾斜するとともに、前記外刃が延在する方向に直角な方向に傾斜し、
前記ヘッド部は、前記外刃の刃穴から導入した洗浄水を排出し得る開口窓を、前記外刃が延在する方向に直角な方向側に有し、
前記ヘッド部は、前記開口窓を開閉可能に覆うスライド自在なシャッターを有し、
前記開口窓は、傾斜した前記天壁部よりも下方、かつ、前記グリップ部を立てた状態における前記天壁部の下端側に設けられ、前記開口窓を開けた状態かつ前記グリップ部を立てた状態で、洗浄水や体毛が、傾斜した前記天壁部からその下方に位置する前記開口窓を通じて排出し得るように形成されたことを特徴とする電気かみそり。」


4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1に係る特許に対して、当審が令和1年10月31日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア 請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。よって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
イ 請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。よって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)甲号証の記載
甲第1号証(特開昭57-209075号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「本発明は電気かみそりに関するものであり、その目的とするところは、ひげ屑の掃除を容易にできる電気かみそりを提供することにある。」(第1ページ右下欄第4-6行)

イ 「外刃9は多数の刃穴10を有する外刃板11と、該外刃板11を取付ける外刃基台12とで構成され、本体ケース1の上部に着脱自在に取付けられている。」(第2ページ左上欄第3-6行)

ウ 「電気かみそり本体Aは本体ケース1とモータ2と変換装置8と内刃5と外刃9と電源スイッチ13とで構成されている。ひげ溜め室21は本体ケース1の上面と外刃9とで電気かみそり本体Aの内部に形成されており、外刃基台12の側壁の下端縁を切欠してひげ溜め室21を外部と連通させる開孔部22を本体ケース1と外刃基台12との間に形成している。本体ケース1の上面はひげ溜め室21の底面に形成した開孔部22に向って傾斜しており、水が流れやすくなっている。スイッチハンドル14にはコ字型で両端がスイッチハンドル14の摺動方向に延出して開孔部22を開閉自在にする蓋部23が一体的に形成されている。蓋部23の摺動を案内するガイド溝24が本体ケース1の正面と側面、及び外刃基台12の側壁に連接して形成されている。」(第2ページ左上欄第19行-右上欄第14行)

エ 「第4図は電源スイッチ13をオフにした第1のオフ状態の図であり、開孔部22が開孔しているので外刃9から入った水道水は本体ケース1の上面が開孔部22に向って傾斜しているのでスムーズに開孔部22から流出し、外刃9・内刃5、ひげ溜め室21に付着したひげ屑を水で洗い流すことができる。」(第2ページ左下欄第2-8行)

オ 第1、3図から、甲第1号証の電気かみそり本体Aが、使用者が手で把持するグリップ部と、グリップ部よりも横幅の広い部分であり、グリップ部に支持されるヘッド部とで構成されることが看取される。

カ 第2-4図から、甲第1号証の電気かみそり本体Aは、外刃板11と本体ケース1の上部との間に内刃5が配置されていることが看取される。

キ 上記ウ、エの記載事項及び第3-4図から、本体ケース1の上部の上面は、外刃板11が延在する方向に、両側方に向けて傾斜していることが理解される。

ク 上記ウの記載事項及び第1、3-4図から、ヘッド部が、開孔部22を、外刃板11が延在する方向である両側方側に有すること、及び、開孔部22は、傾斜した本体ケース1の上部の上面と同じ高さ、かつ、グリップ部を立てた状態における本体ケース1の上部の上面の下端側に設けられ、開孔部22を開けた状態でかつグリップ部を立てた状態で、水道水やひげが、傾斜した本体ケース1の上部の上面から同じ高さに位置する開孔部22を通じて排出されることが理解される。

[第1図]


[第2図]


[第3図]


[第4図]


したがって、上記甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲1発明>
グリップ部とヘッド部とを有し、
前記ヘッド部は、
多数の刃穴10が設けられた外刃板11を有する外刃基台12と、
前記外刃基台12が装着される本体ケース1の上部と、前記外刃板11と前記本体ケース1の上部との間に配置され、前記刃穴10に挿入されたひげを切断する内刃5と、を含む電気かみそり本体Aであって、
前記本体ケース1の上部の上面が前記グリップ部の延在方向に対して傾斜するとともに、前記外刃板11が延在する方向に、両側方に向けて傾斜し、
前記ヘッド部は、前記外刃板11の刃穴10から導入した水道水を排出し得る開孔部22を、前記外刃板11が延在する方向である両側方側に有し、
前記ヘッド部は、前記開孔部22を開閉可能に覆う上下に摺動可能な蓋部23を有し、
前記開孔部22は、傾斜した前記本体ケース1の上部の上面と同じ高さ、かつ、前記グリップ部を立てた状態における前記本体ケース1の上部の上面の下端側である両側方側に設けられ、前記開孔部22を開けた状態でかつ前記グリップ部を立てた状態で、水道水やひげが、傾斜した前記本体ケース1の上部の上面から同じ高さに位置する前記開孔部22を通じて排出し得るように形成された電気かみそり本体A。

(3)本件発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「多数の刃穴10」は、本件発明の「複数の刃穴」に相当し、以下同様に、「外刃板11」は「外刃」に、「外刃基台12」は「外刃フレーム」に、「本体ケース1の上部」は「フレーム取付台」に、「ひげ」は「体毛」に、「内刃5」は「内刃」に、「電気かみそり本体A」は「電気かみそり」に、「本体ケース1の上部の上面」は「フレーム取付台の天壁部」に、「水道水」は「洗浄水」に、「蓋部23」は「シャッター」に、「上下に摺動可能な」は「スライド自在な」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「水道水やひげが、傾斜した前記本体ケース1の上部の上面から同じ高さに位置する前記開孔部22を通じて排出し得る」は、本件発明の「洗浄水や体毛が、傾斜した前記天壁部からその下方に位置する前記開口窓を通じて排出し得る」と、「洗浄水や体毛が、傾斜した前記天壁部から前記開口窓を通じて排出し得る」点では共通している。

そうすると、本件発明と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
「グリップ部とヘッド部とを有し、
前記ヘッド部は、
複数の刃穴が設けられた外刃を有する外刃フレームと、
前記外刃フレームが装着されるフレーム取付台と、前記外刃と前記フレーム取付台との間に配置され、前記刃穴に挿入された体毛を切断する内刃と、を含む電気かみそりであって、
前記フレーム取付台の天壁部が、前記グリップ部の延在方向に対して傾斜し、
前記ヘッド部は、前記外刃の刃穴から導入した洗浄水を排出し得る開口窓を有し、
前記ヘッド部は、前記開口窓を開閉可能に覆うスライド自在なシャッターを有し、
前記開口窓は、前記グリップ部を立てた状態における前記天壁部の下端側に設けられ、前記開口窓を開けた状態かつ前記グリップ部を立てた状態で、洗浄水や体毛が、傾斜した前記天壁部から前記開口窓を通じて排出し得るように形成された電気かみそり。」

<相違点>
(相違点1)
本件発明は、「前記フレーム取付台の天壁部が前記グリップ部の延在方向に対して傾斜するとともに、前記外刃が延在する方向に直角な方向に傾斜」しているのに対し、甲1発明は、「本体ケース1の上部の上面(フレーム取付台の天壁部)がグリップ部の延在方向に対して傾斜するとともに、外刃板11が延在する方向に、両側方に向けて傾斜」している点、すなわち、本件発明と甲1発明とでは、天壁部の傾斜方向が異なる点。
(相違点2)
本件発明は、「前記ヘッド部は、前記外刃の刃穴から導入した洗浄水を排出し得る開口窓を、前記外刃が延在する方向に直角な方向側に有し、・・・前記開口窓は、傾斜した前記天壁部よりも下方、かつ、前記グリップ部を立てた状態における前記天壁部の下端側に設けられ、前記開口窓を開けた状態かつ前記グリップ部を立てた状態で、洗浄水や体毛が、傾斜した前記天壁部からその下方に位置する前記開口窓を通じて排出し得るように形成され」ているのに対し、甲1発明では、「前記ヘッド部は、前記外刃板11の刃穴10から導入した水道水を排出し得る開孔部22を、前記外刃板11が延在する方向である両側方側に有し、・・・前記開孔部22は、傾斜した前記本体ケース1の上部の上面と同じ高さ、かつ、前記グリップ部を立てた状態における前記本体ケース1の上部の上面の下端側である両側方側に設けられ、前記開孔部22を開けた状態でかつ前記グリップ部を立てた状態で、水道水やひげが、傾斜した前記本体ケース1の上部の上面から同じ高さに位置する前記開孔部22を通じて排出し得るように形成され」ている点、すなわち、本件発明と甲1発明とでは、開口窓の位置が異なる点。

(4)当審の判断
ア 特許法第29条第1項について
本件発明と甲1発明とは、上記(3)の相違点1、2で相違するから、本件発明が甲1発明と同一であるとはいえず、本件発明は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。

イ 特許法第29条第2項について
(ア)本件発明と甲1発明とを対比すると、両発明は上記(3)の相違点1、2で相違するから、該相違点1、2について検討する。
(イ)相違点1、2に係る構成は、共に外刃フレーム内の体毛を洗浄水を用いて開口窓から排出させるものであるから、両者を併せて検討すると、外刃フレーム内の体毛を洗浄水によって開口窓から排出させる電気かみそりについて、「前記フレーム取付台の天壁部が前記グリップ部の延在方向に対して傾斜するとともに、前記外刃が延在する方向に直角な方向に傾斜」する構成であって、「開口窓」を、「傾斜した前記天壁部よりも下方、かつ、前記グリップ部を立てた状態における前記天壁部の下端側に設け」た構成は、上記甲第1号証、甲第2号証(特開昭58-36584号公報)、特許異議申立人が意見書とともに提示した特開昭59-82886号公報(以下、「文献A」という。)、実願昭57-124745号(実開昭59-27779号)のマイクロフィルム(以下、「文献B」という。)のいずれにも開示されていない。
そして、本件発明は、相違点1、2に係る構成を備えることによって、電気かみそりのグリップ部を立てた状態で保管した場合に、洗い残った洗浄水や体毛などを開口窓から容易に排出することができるとともに、開口窓を介して導入する洗浄水の量あるいは開口窓を介して排出する洗浄水の量を増やすことができるという機能、効果を有するものであって、このような構成が設計的事項ということもできない。

(ウ)よって、本件発明は、甲1発明、甲第2号証、文献A及び文献Bに記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 特許異議申立人の意見について
(ア)特許異議申立人は、令和2年1月27日に提出した意見書の4.(3)において、訂正事項1の「前記フレーム取付台の天壁部が、前記グリップ部の延在方向に対して傾斜するとともに、前記外刃が延在する方向に直角な方向に傾斜し、」とは、フレーム取付台の天壁部が、グリップの延在方向である上下方向(Z方向)に対して傾斜するとともに、外刃が延在する方向に直角な方向である上下方向(Z方向)に傾斜していることをも含む概念、換言すれば、フレーム取付台の天壁部が、上下方向(Z方向)に対して傾斜していることを含む概念である旨を主張している。
しかしながら、まず、「上下方向(Z方向)に対して傾斜する」ことと「上下方向(Z方向)に傾斜」(下線部は、当審が付した。)こととは異なるものであり、フレーム取付台の天壁部が、グリップの延在方向である上下方向(Z方向)に対して傾斜するとともに、外刃が延在する方向に直角な方向である上下方向(Z方向)に傾斜していることが、換言すれば、フレーム取付台の天壁部が、上下方向(Z方向)に対して傾斜していることである旨の特許異議申立人の主張は採用できない。さらに、「外刃が延在する方向に直角な方向である上下方向(Z方向)に傾斜している」との解釈は、Z方向は垂直方向であることに鑑みると、「傾斜」しているとはいえないから、その点でも採用できない。
(イ)特許異議申立人は、上記意見書の4.(3)において、「左右方向(Y方向)に直角な方向側」つまり「外刃が延在する方向に直角な方向側」には、「左右の側面の側」も含まれる旨及び訂正事項2の「前記ヘッド部は、前記外刃の刃穴から導入した洗浄水を排出し得る開口窓を、前記外刃が延在する方向に直角な方向側に有し、」とは、ヘッド部が開口窓を、当該ヘッド部の左右の側面の側に有する構成をも含むものである旨の主張をしている。
しかしながら、ヘッド部が開口窓を、当該ヘッド部の左右の側面の側に有することは、ヘッド部が開口窓を、当該ヘッド部の外刃が延在する方向側(Y軸方向側)に有することであり、外刃が延在する方向(Y軸方向)に直角な方向側に有することではないため、特許異議申立人の主張は採用できない。
(ウ)特許異議申立人は、上記意見書の4.(6)において、仮に「外刃が延在する方向に直角な方向」を前後方向(X方向)であると解した場合には、フレーム取付台の天壁部が、上下方向(グリップの延在方向)に対して傾斜するとともに、当該天壁部が前後方向(外刃が延在する方向に直角な方向)に傾斜する構成は、特開昭59-82886号公報(文献A)の第1図、或いは実願昭57-124745号(実開昭59-27779号)のマイクロフィルム(文献B)の第1図などに開示された公知技術であるから、「外刃が延在する方向に直角な方向」を前後方向(X方向)であると解した場合であっても、訂正事項に係る構成は新規性肯定や進歩性肯定の根拠になり得ない旨の主張をしている。
しかしながら、上記文献A及び上記文献Bの技術的事項を考慮しても、本件発明が容易になし得るものではないことは、上記イ(イ)に示したとおりである。
(エ)特許異議申立人は、上記意見書の4.(7)において、水道水等の洗浄水が開口窓から内部に直接導入されることから、洗浄水は水圧が高い状態を維持でき、その結果、内刃における隣接した刃片の間に堆積したひげ屑を十分に除去することができるとの被申立人が意見書の中で主張する作用効果は進歩性を肯定するような有利な作用効果とはなり得ないし、元より、該作用効果は、出願当初明細書に全く記載のない新規な作用効果であって、明細書及び図面全体を総合しても予測することができないものである旨を主張している。
しかしながら、本願の明細書段落【0038】には、「これにより、スリット29とフレーム取付台31の天壁部37上とを連通するスペースを広げることができるので、開口窓25を介して導入する洗浄水の量、あるいは開口窓25を介して排出する洗浄水の量を増やすことができる。」(下線部分は、当審が付した。)と記載されており、洗浄水の量を増やすことができることは、洗浄水の水圧を高い状態に維持できることと同義であるし、本願の図5-6を参酌すれば、開口窓25と外刃の刃穴との間を流れる洗浄水により、内刃における隣接した刃片の間に堆積したひげ屑を十分に除去できることは明らかであるから、特許権者が主張する作用効果が明細書及び図面全体を総合して予測することができないとはいえない。さらに、上記ア、イで述べたとおり、当審は、相違点1、2に係る構成が容易想到でないと判断したものであって、本件発明が甲1発明に対して予測し得ないような格別顕著な作用効果を奏することに基づいて、新規性及び進歩性を有するとは判断していない。
したがって、特許権者が意見書で主張する作用効果が明細書及び図面に記載されていないとしても、当審の新規性及び進歩性についての判断に影響を与えるものではない。


5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリップ部とヘッド部とを有し、
前記ヘッド部は、
複数の刃穴が設けられた外刃を有する外刃フレームと、
前記外刃フレームが装着されるフレーム取付台と、前記外刃と前記フレーム取付台との間に配置され、前記刃穴に挿入された体毛を切断する内刃と、を含む電気かみそりであって、
前記フレーム取付台の天壁部が、前記グリップ部の延在方向に対して傾斜するとともに、前記外刃が延在する方向に直角な方向に傾斜し、
前記ヘッド部は、前記外刃の刃穴から導入した洗浄水を排出し得る開口窓を、前記外刃が延在する方向に直角な方向側に有し、
前記ヘッド部は、前記開口窓を開閉可能に覆うスライド自在なシャッターを有し、
前記開口窓は、傾斜した前記天壁部よりも下方、かつ、前記グリップ部を立てた状態における前記天壁部の下端側に設けられ、前記開口窓を開けた状態かつ前記グリップ部を立てた状態で、洗浄水や体毛が、傾斜した前記天壁部からその下方に位置する前記開口窓を通じて排出し得るように形成されたことを特徴とする電気かみそり。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-02-27 
出願番号 特願2017-184524(P2017-184524)
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (B26B)
P 1 651・ 113- YAA (B26B)
P 1 651・ 121- YAA (B26B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小川 真  
特許庁審判長 見目 省二
特許庁審判官 栗田 雅弘
大山 健
登録日 2019-02-22 
登録番号 特許第6481985号(P6481985)
権利者 パナソニックIPマネジメント株式会社
発明の名称 電気かみそり  
代理人 伊藤 正和  
代理人 伊藤 正和  

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