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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01G 審判 全部申し立て 2項進歩性 C01G 審判 全部申し立て 特174条1項 C01G |
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管理番号 | 1361492 |
異議申立番号 | 異議2020-700039 |
総通号数 | 245 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-05-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-01-24 |
確定日 | 2020-03-31 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6547749号発明「酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウム分散液、酸化ジルコニウム含有組成物、塗膜、および表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6547749号の請求項1?6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6547749号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、2015年(平成27年) 7月10日(優先権主張 平成26年 7月14日 日本国(JP))を国際出願日とするものであって、令和 1年 7月 5日にその請求項1?6に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年 7月24日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、令和 2年 1月24日付けで特許異議申立人 西林 博(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明6」といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 硫酸イオンとナトリウムとを含み、硫酸イオンの含有量と、ナトリウムの含有量との比である(硫酸イオンの含有量(mg/kg))/(ナトリウムの含有量(mg/kg))が6以下であり、前記硫酸イオンの含有量が1ppm以上かつ250ppm以下であり、比表面積が75m^(2)/g以上かつ90m^(2)/g以下であることを特徴とする酸化ジルコニウム。 【請求項2】 請求項1に記載の酸化ジルコニウムが、分散媒に分散されてなることを特徴とする酸化ジルコニウム分散液。 【請求項3】 前記酸化ジルコニウムの含有率を30質量%とし、かつ光路長を2mmとしたときの液ヘーズ値が50%以下であることを特徴とする請求項2に記載の酸化ジルコニウム分散液。 【請求項4】 請求項2または3に記載の酸化ジルコニウム分散液と、バインダー成分とを含有してなることを特徴とする酸化ジルコニウム含有組成物。 【請求項5】 請求項4に記載の酸化ジルコニウム含有組成物を用いて形成されたことを特徴とする塗膜。 【請求項6】 請求項5に記載の塗膜を備えたことを特徴とする表示装置。」 第3 異議申立理由の概要 申立人は、証拠として甲第1号証?甲第5号証を提出し、以下の異議申立理由によって、本件発明1?6に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。 1 特許法第29条第2項(進歩性)について 甲第1号証:特開2003-206137号公報 甲第2号証:特開2001-253714号公報 甲第3号証:特開2009-53691号公報 甲第4号証:特開2010-195967号公報 甲第5号証:特開2014-62221号公報 本件発明1は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証に記載された技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件発明2?6は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証に記載された技術常識及び甲第3?5号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件発明1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 2 特許法第17条の2第3項(新規事項)について 平成31年 3月11日付け手続補正書により、特許請求の範囲の請求項1に「比表面積が75m^(2)/g以上かつ90m^(2)/g以下である」との事項を追加する補正がなされた。 ところが、酸化ジルコニウムの「比表面積」に関して、本件特許の出願当初の明細書における発明の詳細な説明には、「比表面積」の上限値を「90m^(2)/g」とすることは記載も示唆もされていないから、前記手続補正書による補正は、その数値限定が新たな技術事項を追加するものである。 したがって、前記手続補正書でした補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 3 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について 酸化ジルコニウムの「比表面積」に関して、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「比表面積」の上限値を「90m^(2)/g」とすることは記載も示唆もされていないので、本件発明1における「比表面積が75m^(2)/g以上かつ90m^(2)/g以下である」との発明特定事項は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載も示唆もされたものでないから、本件発明1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである(当審注:申立人は、本件発明1における「比表面積が75m^(2)/g以上かつ90m^(2)/g以下である」との発明特定事項が本件特許の出願当初の明細書の発明の詳細な説明に記載されていない旨を主張しているが、主張内容に鑑みて、前記主張は、前記発明特定事項が本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていないことをいうものと認める。)。 第4 異議申立理由についての判断 1 特許法第29条第2項(進歩性)について (1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明 甲第1号証には以下の(1a)?(1e)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。 (1a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 イットリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムおよび希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の安定化元素を含有し、結晶子径が50nm以下、嵩密度が0.80g/cm^(3)以上、タップ密度が1.30g/cm^(3)以上、正方晶率が90%以上、アルカリ金属含有量が100ppm以下、硫酸根含有量が250ppm以下であることを特徴とする部分安定化または安定化ジルコニア微粉体。」 (1b)「【0005】このような諸問題に関し、先に、主として前記(1)の方法の改善を図り、粉砕を行わずとも易焼結性の微粉を得る経済的なジルコニア微粉体、特に部分安定化または安定化ジルコニア微粉体の製造方法が開発され、特公平2-38527公報において開示されている。・・・ 【0006】 【発明が解決しようとする課題】上記の方法においては、ジルコニウム塩基性硫酸塩の沈殿に安定化元素を共沈せるためのアルカリ性物質としては、専らアンモニア水やアンモニアガスが使用されていた。・・・前記の従来方法は特別の設備を必要とせず、容易に平均粒径が小さく且つ安定化剤が均一に分散配合されたジルコニア微粉体が得られる経済的な方法であって極めて有意義なものであるが、工業排水中に含まれる窒素分の規制がさらに厳しくなった近年の環境問題から、アルカリ性物質として多量のアンモニア水やアンモニアガスを用いることは極めて困難な状況になりつつあり、窒素含有排水量の低減が求められている。 【0007】以上の状況に鑑み、本発明は従来の中和法に見られるような強粉砕処理を行わずとも易焼結性の微粉体が得られ、且つ、環境への窒素負荷を大幅に低減できる環境にやさしく、経済的な安定化ジルコニア微粉体の製造方法の提供を目的とするものである。」 (1c)「【0018】前駆体である前記水酸化物は900℃以上、好ましくは1000?1200℃で焙焼する。この焙焼によって得られるジルコニア粉体も前記水酸化物の特性に従って優れた特性を有するものとなる。このジルコニア粉体は凝集粒の中心径が3?30μmと大きく、簡単な粉砕操作により容易に1μm以下の微粉体とすることができる。・・・また、BET比表面積(BET1点法による。以下同じ。)は10m^(2)/g以下であり、正方晶率(X線回折法による。)は90%以上で安定化率が高い。さらに、成形密度は目標値の2.50g/cm^(3)以上で、焼結密度は6.05g/cm^(3)以上でそれぞれ目標値をクリアでき、また焼結体の曲げ強度も従来品と同等以上のものである。」 (1d)「【0019】 【実施例】部分安定化ジルコニアの製造の実施例を記載する。ジルコニウム溶液としてオキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl_(2)・8H_(2)O)を純水に溶解してZrO_(2)濃度で300g/Lとした水溶液を、安定化剤溶液として酸化イットリウム(Y_(2)O_(3)99%)を塩酸で溶解してY_(2)O_(3)濃度で180g/Lとした水溶液を、また、硫酸根調整剤として無水硫酸ナトリウム粉末(Na_(2)SO_(4) 99.5%)を、それぞれ用意した。 ・・・ 【0023】次いで、前記水酸化物を電気炉により大気下の1000℃で焙焼を行った。得られた焙焼物は部分安定化ジルコニアで、その物性値を表1に示した。・・・ ・・・ 【0026】 【表1】 」 (1e)「【0027】・・・また、焙焼して得られた部分安定化ジルコニアは、前駆体の水酸化物の場合と同様に、凝集粒径が大で、嵩密度やタップ密度が高く、比表面積も低めである。結晶子径はやや大きめであるが大差なく、正方晶率は同等レベルで着実に90%以上を示している。・・・さらに成形密度は目標の2.50g/cm^(3)以上、焼結密度も目標とする6.05g/cm^(3)以上をクリアしている。さらに、湿式反応工程および濾過洗浄工程における窒素負荷の問題も、十分に低減することが可能となっている。」 (ア)前記(1a)によれば、甲第1号証には「部分安定化または安定化ジルコニア微粉体」が記載されており、当該「部分安定化または安定化ジルコニア微粉体」は、イットリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムおよび希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の安定化元素を含有し、結晶子径が50nm以下、嵩密度が0.80g/cm^(3)以上、タップ密度が1.30g/cm^(3)以上、正方晶率が90%以上、アルカリ金属含有量が100ppm以下、硫酸根含有量が250ppm以下であるものである。 具体的には、前記(1d)の実施例に注目すると、マイクロトラック法(D50径)による凝集粒径が8.5μmであり、嵩密度計による嵩密度が1.02g/ccであり、1000回タッピングによるタップ密度が1.63g/ccであり、BET-1点法による比表面積が7.7m^(2)/gであり、X線回折法による結晶子径が37.2nmであり、X線回折法による正方晶率が95.4%であり、原子吸光法によるNaの含有量が13ppmであり、ICP法によるSO_(4)の含有量が50ppmであり、1t/cm^(2)の一軸成形による成形密度が2.89g/ccであり、大気下電気炉1500℃による焼結密度が6.07g/ccであるものである。 (イ)そうすると、甲第1号証には以下の発明が記載されているといえる。 「イットリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムおよび希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の安定化元素を含有し、結晶子径が50nm以下、嵩密度が0.80g/cm^(3)以上、タップ密度が1.30g/cm^(3)以上、正方晶率が90%以上、アルカリ金属含有量が100ppm以下、硫酸根含有量が250ppm以下である部分安定化または安定化ジルコニア微粉体であって、 マイクロトラック法(D50径)による凝集粒径が8.5μmであり、嵩密度計による嵩密度が1.02g/ccであり、1000回タッピングによるタップ密度が1.63g/ccであり、BET-1点法による比表面積が7.7m^(2)/gであり、X線回折法による結晶子径が37.2nmであり、X線回折法による正方晶率が95.4%であり、原子吸光法によるNaの含有量が13ppmであり、ICP法によるSO_(4)の含有量が50ppmであり、1t/cm^(2)の一軸成形による成形密度が2.89g/ccであり、大気下電気炉1500℃による焼結密度が6.07g/ccである、部分安定化または安定化ジルコニア微粉体。」(以下、「甲1発明」という。) (2)対比・判断 (2-1)本件発明1について ア 対比 (ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「部分安定化または安定化ジルコニア微粉体」は、本件発明1にける「酸化ジルコニウム」に相当する。 また、甲1発明において、「原子吸光法によるNaの含有量が13ppmであり、ICP法によるSO_(4)の含有量が50ppmであ」ることは、本件発明1において、「硫酸イオンとナトリウムとを含む」ことに相当し、更に、本件発明1において、「硫酸イオンの含有量が1ppm以上かつ250ppm以下であ」ることに合致する。 (イ)前記(ア)によれば、本件発明1と甲1発明とは、 「硫酸イオンとナトリウムとを含み、前記硫酸イオンの含有量が1ppm以上かつ250ppm以下である、酸化ジルコニウム。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 相違点1:本件発明1は、「酸化ジルコニウム」における「硫酸イオンの含有量と、ナトリウムの含有量との比である(硫酸イオンの含有量(mg/kg))/(ナトリウムの含有量(mg/kg))が6以下であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は「原子吸光法によるNaの含有量が13ppmであり、ICP法によるSO_(4)の含有量が50ppmであ」る点。 相違点2:本件発明1は、「酸化ジルコニウム」における「比表面積が75m^(2)/g以上かつ90m^(2)/g以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は「BET-1点法による比表面積が7.7m^(2)/gであ」る点。 イ 判断 (ア)事案に鑑み、前記ア(イ)の相違点2から検討すると、甲1発明における「比表面積」はBET-1点法によるのに対して、本件発明1における「比表面積」は、本件特許明細書の【0080】(下記3(1)(c)参照。)によればBET多点法により測定したものであるが、BET比表面積は、1点法によっても多点法によっても測定値が有意に異なるものではないことは技術常識であり、「比表面積が75m^(2)/g以上かつ90m^(2)/g以下である」本件発明1と、「BET-1点法による比表面積が7.7m^(2)/gであ」る甲1発明とは、明らかに「比表面積」が異なるから、前記相違点2は実質的な相違点である。 (イ)ここで、前記(1)(1b)によれば、甲1発明は、部分安定化または安定化ジルコニア微粉体の製造方法において、アルカリ性物質として多量のアンモニア水やアンモニアガスを用いることは極めて困難な状況になりつつあり、窒素含有排水量の低減が求められている、という課題を解決するものである。 そして、前記(1)(1c)、(1e)によれば、甲1発明に係る「酸化ジルコニウム」は、「比表面積」が10m^(2)/g以下と低めであり、正方晶率が90%以上で安定化率が高く、さらに、成形密度が目標値の2.50g/cm^(3)以上、焼結密度が6.05g/cm^(3)以上でそれぞれ目標値をクリアでき、また焼結体の曲げ強度も従来品と同等以上のものである、という優れた特性を有するものである。 (ウ)前記(イ)によれば、甲1発明は、前記(イ)に記載される課題を解決しつつ、「比表面積」が10m^(2)/g以下と低めである、といった、従来品と同等以上の優れた特性を有する「酸化ジルコニウム」を得るものである。 そして、甲1発明において、「比表面積」を、前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項である「75m^(2)/g以上かつ90m^(2)/g以下」とすることは、「比表面積」が10m^(2)/g以下と低めであり、従来品と同等以上の優れた特性を有する「酸化ジルコニウム」を得る、という甲1発明の特長を損なうものとなるから、阻害要因を有するものであり、これは、甲第2号証に記載される技術常識に左右されるものではない。 (エ)申立人は、甲1発明における「酸化ジルコニウム」は、「比表面積」が10m^(2)/g以下と小さくなっているが、これは、「酸化ジルコニウム」を作製する際の熱処理温度が高くなっているからであり、熱処理をして「酸化ジルコニウム」を作製する際に、熱処理温度と「酸化ジルコニウム」の「比表面積」とが負の相関関係にあることは、甲第2号証の【図2】に示されるとおり技術常識であって、本件発明1における「比表面積が75m^(2)/g以上かつ90m^(2)/g以下である」、との発明特定事項は、前記技術常識から自ずと導き出せるものであり、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない旨を主張している。 しかしながら、甲1発明は、前記(イ)に記載される課題を解決しつつ、「比表面積」が10m^(2)/g以下と低めである、といった、従来品と同等以上の優れた特性を有する「酸化ジルコニウム」を得るものであることは、前記(ウ)に記載のとおりであって、甲1発明において、熱処理温度を変えて、「酸化ジルコニウム」の「比表面積」を10m^(2)/gよりも有意に大きい「75m^(2)/g以上かつ90m^(2)/g以下」とする動機付けは存在しない。 そして、このことは、「酸化ジルコニウム」の熱処理温度と「比表面積」とが負の相関関係にあることが技術常識であることに左右されないから、申立人の前記主張は採用できない。 (オ)してみれば、甲1発明において、「酸化ジルコニウム」を、「比表面積が75m^(2)/g以上かつ90m^(2)/g以下である」、との前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2号証に記載される技術常識に基づいて当業者が容易になし得るものではないから、本件発明1を、甲1発明及び甲第2号証に記載される技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2-2)本件発明2?6について (ア)本件発明2?6は、直接的又は間接的に本件発明1を引用するものであり、本件発明2?6のいずれかと甲1発明を対比した場合、いずれの場合であっても、少なくとも前記(2-1)ア(イ)の相違点2と同じ点で相違する。 (イ)そして、甲1発明において、「比表面積」を、前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項である「75m^(2)/g以上かつ90m^(2)/g以下」とすることが阻害要因を有することは、前記(2-1)イ(ウ)に記載のとおりであり、また、甲1発明において、熱処理温度を変えて、「酸化ジルコニウム」の「比表面積」を10m^(2)/gよりも有意に大きい「75m^(2)/g以上かつ90m^(2)/g以下」とする動機付けは存在しないことは、同(エ)に記載のとおりであり、これは、甲第3?5号証の記載事項にも左右されるものではない。 (ウ)してみれば、前記(2-1)イ(ウ)、(エ)に記載したのと同様の理由により、甲1発明において、「酸化ジルコニウム」を、「比表面積が75m^(2)/g以上かつ90m^(2)/g以下である」、との前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2号証に記載される技術常識及び甲第3?5号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないから、本件発明1を、甲1発明、甲第2号証に記載される技術常識及び甲第3?5号証に記載される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (3)小括 以上のとおりであるので、前記第3の1の異議申立理由はいずれも理由がない。 2 特許法第17条の2第3項(新規事項)について 本件特許に係る出願の国際出願日における請求の範囲の請求項2には、 「[請求項2]比表面積が75m^(2)/g以上かつ90m^(2)/g以下であることを特徴とする請求項1に記載の酸化ジルコニウム。」 と記載されており、「比表面積」の上限の値として「90m^(2)/g」が記載されているから、平成31年 3月11日付け手続補正書による、特許請求の範囲の請求項1に「比表面積が75m^(2)/g以上かつ90m^(2)/g以下である」との事項を追加する補正は、本件特許に係る出願の国際出願日における明細書、請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものである。 したがって、前記手続補正書でした補正は特許法第17条の2第3項の規定に適合するので、前記第3の2の異議申立理由は理由がない。 3 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について (1)本件特許明細書の記載事項 本件特許明細書には、以下の記載(a)?(c)がある。 (a)「【0008】 特許文献1?4に記載されている、塩基性硫酸ジルコニウムを中和して酸化ジルコニウムを得る方法は、分散性に優れた微小粒径の酸化ジルコニウムの製造に適した方法である。しかしながら、技術の進歩に伴い、特に光学関連用途では、酸化ジルコニウムには、溶媒に対する分散性だけでなく、溶媒に分散したときの透明性が高いことが求められている。 また、分散液中に酸化ジルコニウムの粗大粒子が存在すると、分散液のヘーズ値(曇りの度合)が高くなるという課題がある。分散液のヘーズ値が高いと、分散液を用いて作製した塗料や塗膜のヘーズ値が悪化するため、特に光学関連用途では、より透明性が高く、曇りのない分散液が求められている。 【0009】 本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、透明性が高く、経時安定性に優れる分散液を得ることができる酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウム分散液、酸化ジルコニウム含有組成物、塗膜、表示装置を提供することを目的とする。」 (b)「【0028】 酸化ジルコニウムの比表面積は、特に限定されないが、75m^(2)/g以上かつ95m^(2)/g以下であることが好ましく、80m^(2)/g以上かつ95m^(2)/g以下であることがより好ましく、87m^(2)/g以上かつ92m^(2)/g以下であることがさらに好ましい。 酸化ジルコニウムの比表面積が75m^(2)/g以上であれば、適度な酸化ジルコニウムの一次粒子径が得られ、より透明な分散液を得ることができる。一方、酸化ジルコニウムの比表面積が95m^(2)/g以下であれば、分散液を作製する場合に必要となる、分散剤やシランカップリング剤等の表面処理剤の量を少なくすることができる。得られた分散液を樹脂中に分散した場合、樹脂の物性値を低下させるおそれがなく、その分散液を用いて作製した塗膜等が容易に所望の屈折率を得ることができる。」 (c)「【実施例】 【0078】 以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。 ・・・ 【0080】 「酸化ジルコニウムの評価」 得られた酸化ジルコニウムのBET比表面積を、比表面積計(BelsorpII、日本ベル社製)を用いて、窒素吸着法によるBET多点法により測定した。結果を表1に示す。・・・ ・・・ 【0088】 【表1】 」 (ア)前記(a)によれば、本件発明は、酸化ジルコニウムには、溶媒に対する分散性だけでなく、溶媒に分散したときの透明性が高いことが求められており、また、分散液中に酸化ジルコニウムの粗大粒子が存在すると分散液のヘーズ値(曇りの度合)が高くなり、分散液のヘーズ値が高いと当該分散液を用いて作製した塗料や塗膜のヘーズ値が悪化するため、特に光学関連用途では、より透明性が高く、曇りのない分散液が求められている、といった課題を解決するものである。 (イ)そして、前記(b)によれば、本件発明における酸化ジルコニウムの「比表面積」は75m^(2)/g以上かつ95m^(2)/g以下であることが好ましく、「比表面積」が75m^(2)/g以上であれば、適度な酸化ジルコニウムの一次粒子径が得られ、より透明な分散液を得ることができ、一方、「比表面積」が95m^(2)/g以下であれば、分散液を作製する場合に必要となる分散剤やシランカップリング剤等の表面処理剤の量を少なくすることができ、得られた分散液を樹脂中に分散した場合、樹脂の物性値を低下させるおそれがなく、その分散液を用いて作製した塗膜等が容易に所望の屈折率を得ることができるものである。 また、前記(c)によれば、本件特許明細書には、実施例1?4のBET比表面積として、88.5m^(2)/g(実施例1)、87.7m^(2)/g(実施例2)、88.0m^(2)/g(実施例3)、91.0m^(2)/g(実施例4)が記載されている。 (ウ)前記(イ)によれば、「90m^(2)/g」が、前記(ア)の課題を解決するに際して好ましいとされる「比表面積」の範囲に含まれることは明らかであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、「比表面積」として「90m^(2)/g」が直接記載されていないとしても、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明において、本件発明の課題を解決できる「比表面積」の上限の境界値を「90m^(2)/g」とすることを理解できるものである。 (ウ)したがって、本件発明1は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明というべきであり、このことは、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明2?6についても同様であるから、本件特許に係る出願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するので、前記第3の3の異議申立理由は理由がない。 第5 むすび 以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-03-19 |
出願番号 | 特願2016-534408(P2016-534408) |
審決分類 |
P
1
651・
55-
Y
(C01G)
P 1 651・ 121- Y (C01G) P 1 651・ 537- Y (C01G) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 村岡 一磨 |
特許庁審判長 |
菊地 則義 |
特許庁審判官 |
後藤 政博 金 公彦 |
登録日 | 2019-07-05 |
登録番号 | 特許第6547749号(P6547749) |
権利者 | 住友大阪セメント株式会社 |
発明の名称 | 酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウム分散液、酸化ジルコニウム含有組成物、塗膜、および表示装置 |
代理人 | 佐藤 彰雄 |
代理人 | 萩原 綾夏 |
代理人 | 西澤 和純 |