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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01B
管理番号 1361494
異議申立番号 異議2019-701028  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-17 
確定日 2020-04-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6533371号発明「積層セラミックコンデンサ内部電極用ペースト及びその製造方法、並びに積層セラミックコンデンサ内部電極用ペーストにより得られた導電膜」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6533371号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6533371号(設定登録時の請求項の数は5。以下「本件特許」という。)は、平成26年7月31日になされた特許出願に係るものであって、令和1年5月31日にその特許権が設定登録され、本件特許に係る特許掲載公報が令和1年6月19日に発行されたところ、特許異議申立人 戸原和雄(以下、単に「異議申立人」という。)は、同年12月17日、本件特許の請求項1?5に係る特許に対して特許異議の申立てを行ったものである。


第2 本件発明
本件特許の請求項1?5の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項の番号に応じて各発明を「本件発明1」などといい、これらを併せて「本件発明」という場合がある。)。

「【請求項1】
ニッケル粉末とビヒクルと分散剤と誘電体粉末からなる積層セラミックコンデンサ内部電極用ペーストであって、
前記分散剤を構成する有機化合物X_(1),X_(2),・・・,X_(n)(nは1以上の自然数)の酸価をX_(i-ac)、該有機化合物のアミン価をX_(i-am)、前記ニッケル粉末100質量部に対する該有機化合物の質量部をw_(i)(i=1?n)とした場合に下記式(I)及び(II)を満たし、
前記分散剤の含有量(Σw_(i))が前記ニッケル粉末100質量部に対して合計で2.0質量部以下であることを特徴とする積層セラミックコンデンサ内部電極用ペースト。
【数1】

【数2】

【請求項2】
前記ニッケル粉末の平均粒径は、0.05μm?1.0μmであることを特徴とする請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ内部電極用ペースト。
【請求項3】
前記ニッケル粉末の平均粒径は、0.05μm?0.5μmであり、下記式(III)を満たすことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の積層セラミックコンデンサ内部電極用ペースト。
【数3】

【請求項4】
積層セラミックコンデンサ内部電極用ペーストの製造方法であって、
前記ビヒクルに、前記ニッケル粉末と前記分散剤とを添加し、これらの混合物を混練することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の積層セラミックコンデンサ内部電極用ペーストの製造方法。
【請求項5】
分散剤を吸着したニッケル粉末と、誘電体粉末からなる導電膜であって、 前記分散剤を構成する有機化合物X_(1),X_(2),・・・,X_(n)(nは1以上の自然数)の酸価をX_(i-ac)、該有機化合物のアミン価をX_(i-am)、前記ニッケル粉末100質量部に対する該有機化合物の質量部をw_(i)(i=1?n)とした場合に下記式(I)及び(II)を満たし、
前記分散剤の含有量(Σw_(i))が前記ニッケル粉末100質量部に対して合計で2.0質量部以下であり、
導電膜密度が4.5g/cm^(3)以上であることを特徴とする導電膜。
【数4】

【数5】




第3 申立理由の概要
1 異議申立人が提出した特許異議申立書において主張する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。

(1)申立理由1(甲1を根拠とする新規性欠如)
本件発明1?5は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)申立理由2(甲1を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1?5は、甲1に記載された発明を主たる引用発明とし、それに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)申立理由3(サポート要件違反)
本件特許の請求項1?4についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)申立理由4(明確性要件違反)
本件特許の請求項1?5についての特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(5)申立理由5(実施可能要件違反)
本件特許の請求項5についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 証拠方法
異議申立人は、証拠として、以下の文献等を提出する。以下、甲各号証の番号に応じて、甲第1号証を「甲1」などという。
・甲第1号証:特開2004-200450号公報
・甲第2号証:特開2007-27081号公報
・甲第3号証:特開2012-174797号公報
・甲第4号証:実験報告書 令和1年11月19日 戸原和雄作成


第4 文献等の記載事項及び文献等に記載された発明
1 甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体が記した。以下同様。

(1)「【請求項1】
積層セラミックコンデンサの誘電体層であるグリーンシートに内部電極層を形成するための、少なくとも導電性金属粒子、共材、樹脂、有機溶剤、有機添加剤を含有する導電性ペーストにおいて、共材がグリーンシートの主要構成材料からなり、樹脂として少なくともポリビニルブチラールを含み、有機添加剤が、酸価を示す官能基とアミン価を示す官能基とを有する化合物、または/および酸価を示す官能基を有する化合物とアミン価を示す官能基を有する化合物との混合物であることを特徴とする積層セラミックコンデンサ内部電極用導電性ペースト。
【請求項2】
該有機添加剤は、酸価とアミン価との比率(アミン価/酸価)が0.2?5.0であることを特徴とする請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ内部電極用導電性ペースト。
【請求項3】
ペースト中における請求項2に記載の有機添加剤の量が0.001?5.0重量%であることを特徴とする積層セラミックコンデンサ内部電極用導電性ペースト。」

(2)「【0002】
【従来の技術】
・・・(略)・・・
【0003】
積層セラミックコンデンサは一般に次の工程を経て製作される。すなわち、チタン酸バリウム(BaTiO_(3))等で代表される誘電体粉末とポリビニルブチラール、アクリル等の有機バインダからなる誘電体グリーンシートに導電性金属粒子を含有する内部電極用導電性ペーストをスクリーン印刷し、これを乾燥する。
【0004】
乾燥したグリーンシート/導電性ペーストは、グリーンシートと内部電極が交互に重なるように所定の枚数に重ねられ、熱水による静水圧で熱圧着された後、目的の大きさのグリーンチップに切断される。続いてこのグリーンチップは脱バインダを目的としてバッチ式もしくはベルト式電気炉にて所定の温度および雰囲気で加熱される。その後、誘電体と内部電極とをそれぞれ焼結させるために約1300℃に焼成される。こうして得られた焼成体は外部電極用導電性ペーストが塗布され、ペースト中に含まれる有機分の脱バインダと焼成が行われる。そして外部電極が取り付けられた焼成チップには半田濡れ性向上のために、外部電極部にニッケルメッキとスズメッキとが施され、積層セラミックコンデンサが完成する。」

(3)「【0014】
本発明の積層セラミックコンデンサ内部電極用導電性ペーストは、有機添加剤の酸価とアミン価との比率(アミン価/酸価)が0.2?5.0で適切に実施できる。
有機添加剤として一分子内に酸価を示す官能基とアミン価を示す官能基とを有するものを用いることでペーストの粘性を調節する。酸価を示す官能基を有する化合物とアミン価を示す官能基を有する化合物との混合物であっても、この粘性調節ができる。アミン価/酸価が0.2を下回ると酸性が強まり、フリーの有機添加剤高分子中の酸部分が樹脂と樹脂との間の水素結合を切り離すためペーストの粘性が著しく低くなる場合がある。アミン価/酸価が5.0を超えると粘度比に改善はもたらすものの、粘度が経時変化により増す支障を来たす。
【0015】
この有機添加剤(アミン価/酸価=0.2?5.0)の好ましい量は、0.001?5.0重量%である。
添加量が0.001重量%を下回ると添加剤添加の効果が発現せず、10rpm粘度値と100rpm粘度値の粘度比(10/100)が4を超え、印刷かすれ等が発生しやすくなる。添加量が5.0重量%を上回るとペーストの粘度が下がりすぎて印刷時に「にじみ」や「だれ」等が発生しやすくなる。」

(4)「【0025】
【実施例】
以下、本発明を適用する積層セラミックコンデンサ内部電極用導電性ペーストの実施例を詳細に説明する。
【0026】
実施例1?4: 共材量の効果
(導電性ペーストの製造)
内部電極用導電性ペーストに使用される有機バインダの製造は、有機溶剤(ターピネオールα、β、γ混合体)を70℃まで加熱し、インペラー(羽根車)で攪拌しながら樹脂としてエチルセルロース(EC)とポリビニルブチラール(PVB)とを所定量まで徐々に加えて得た。使用したエチルセルロースはトルエン80%・エタノール20%溶液に5重量%溶解したときの粘度が約40?300cpsの範囲にある1グレードの市販品であり、ポリビニルブチラールはトルエン50%・エタノール50%溶液に10%溶解したときの粘度が20?300cpsの範囲にある1グレードの市販品である。
【0027】
導電性金属粉末としては乾式法で作製され、走査電子顕微鏡(SEM)写真観察で求めた平均粒径が0.4μmの、市販のNi粉末を用いた。また、共材としては市販のSEM観察で求めた平均粒径が0.1μmのBaTiO_(3)を用いた。Ni粉末と、共材と、上記有機バインダと、有機添加剤としてアミン価/酸価が2.0のものを混合し、スリーロールミルで完全分散させ、実施例1?4の導電性ペーストの試料を得た。得られた試料の組成を表1に示した。なお、粘度は全てブルックフィールド(株)社製B型粘度計HBTスピンドルNo.14を用い10rpm粘度が20?50Pa・sになるよう調整した。
【0028】
(密着性評価結果および粘度特性評価)
得られた導電性ペースト試料の乾燥膜とその上部誘電体グリーンシートとの密着性評価は、積層チップの圧壊強度、および断面の電極アラインメントを確認することによりおこなった。その方法としては、まず1インチ角に切断された厚さ10μmのBaTiO_(3)系誘電体グリーンシートにペーストを、ウェット厚さ約3μmとなるようスクリーン印刷し、次にそのシートを80℃、3分乾燥した。続いてこのシートを20層積層し、80℃、100kg/cm^(2)で3分間熱圧着し、3mm×5mmに切断してグリーンチップを作製した。
【0029】
圧壊強度についてはチップの5mm辺が加圧方向と一致する向きに5チップ立ててセットし、上下から常温5kg/cm^(2)で加圧し、この試験チップが電極と誘電体の間で剥離するかどうかを確認した。表1中、判定は全チップOKであれば○、5チップ中4個OKであれば△、それ以外を×とした。
【0030】
電極アラインメントについてはグリーンチップ断面を切断、研磨し、光学顕微鏡観察により確認した。表1中、判定は全チップとも現状より上回っていれば○、5チップ中4個が現状より上回っていれば△、それ以外を×とした。
なお、ペースト粘度特性評価は10rpm粘度と100rpm粘度の比が1?4の範囲内にあるかどうかをもって合否判定した。結果は表1に示す通りである。
【0031】
【表1】

・・・(略)・・・
【0039】
実施例19?22: 有機添加剤のアミン価/酸価の効果
(導電性ペーストの製造)
有機添加剤のアミン価/酸価の値を変化させた以外は実施例1と同様にして実施例1?4の導電性ペーストの試料を得た。試料の組成を表5に示した。なお、粘度は全てブルックフィールド(株)社製B型粘度計HBTスピンドルNo.14を用い10rpm粘度が20?50Pa・sになるよう調整した。なお、アミン価/酸価の値は市販品より適宜選択して調整した。
(密着性評価結果および粘度特性評価)
実施例1と同様にして圧壊強度と、電極アラインメントと、ペースト粘度特性とを求め結果を表5に示した。
【0040】
【表5】



2 甲1に記載された発明
甲1には、特に実施例19の記載を、請求項の記載に沿って整理すると、次のとおりの発明が記載されていると認める。

・「積層セラミックコンデンサの誘電体層であるグリーンシートに内部電極層を形成するための、導電性金属粒子、共材、樹脂、有機溶剤、有機添加剤を含有する導電性ペーストにおいて、
導電性金属粒子として、平均粒径が0.4μmのNi粉末、
共材として、平均粒径0.1μmのBaTiO_(3)、
樹脂として、エチルセルロース(EC)とポリビニルブチラール(PVB)、有機溶剤として、ターピネオールα、β、γ混合体から製造された有機バインダ、
有機添加剤としてアミン価/酸価が0.2のものを、1.0重量%含有する、
積層セラミックコンデンサ内部電極用導電性ペースト。」(以下「甲1発明」という。)

・「積層セラミックコンデンサの誘電体層であるグリーンシートに内部電極層を形成するための、導電性金属粒子、共材、樹脂、有機溶剤、有機添加剤を含有する導電性ペーストの製造方法において、
導電性金属粒子として、平均粒径が0.4μmのNi粉末と、
共材として、平均粒径0.1μmのBaTiO_(3)と、
樹脂として、エチルセルロース(EC)とポリビニルブチラール(PVB)、有機溶剤として、ターピネオールα、β、γ混合体から製造された有機バインダと、
有機添加剤としてアミン価/酸価が0.2のものを1.0重量%含有するように混合し、スリーロールミルで完全分散させる、積層セラミックコンデンサ内部電極用導電性ペーストの製造方法。」(以下「甲1製造方法発明」という。)

また、甲1には、特に、積層セラミックコンデンサの製作工程に係る従来技術の記載(上記1(2))及び実施例19の記載から、次のとおりの発明が記載されていると認める。

「導電性金属粒子として、平均粒径が0.4μmのNi粉末と、
共材として、平均粒径0.1μmのBaTiO_(3)と、
樹脂として、エチルセルロース(EC)とポリビニルブチラール(PVB)、有機溶剤として、ターピネオールα、β、γ混合体から製造された有機バインダと、
有機添加剤としてアミン価/酸価が0.2のものを1.0重量%含有する導電性ペーストを、グリーンシートにスクリーン印刷、乾燥、積層し、熱圧着の後に切断してグリーンチップを作製し、
脱バインダを目的としてバッチ式もしくはベルト式電気炉にて所定の温度および雰囲気で加熱して得られた積層セラミックコンデンサの内部電極。」
(以下「甲1導電膜発明」という。)


第5 当合議体の判断
当合議体は、以下述べるように、申立理由1?5には、いずれも理由はないと判断する。

1 申立理由1(新規性)及び2(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、本件発明1の「誘電体粉末」は、本件特許明細書の【0065】にあるように、「共材とも言われ」るものであるから、甲1発明の「共材」は、本件発明1の「誘電体粉末」に相当し、甲1発明の「樹脂」と「有機溶剤」の混合物である「有機バインダ」は、本件発明1の「ビヒクル」に相当する。
また、甲1発明の「有機添加剤」は、「ペーストの粘性を調節する」目的で用いるものであり(上記第4 1(3))、粘性調整によっても分散液の分散性が制御できることは、一般に知られていることから、甲1発明の「有機添加剤」は、分散調整機能を有する限りにおいて、本件発明1の「分散剤」に相当する。
さらに、甲1発明の「有機添加剤」量は、1.0重量%であり、Ni含有量は、50.0重量%であることから、有機添加剤の含有量は、Ni粉末100質量部に対して合計で2.0重量%となる。そうすると、甲1発明の「有機添加剤」の量は、本件発明1の、「分散剤の含有量(Σw_(i))が前記ニッケル粉末100質量部に対して合計で2.0質量部以下」という特定事項のうち、2.0質量部という点において一致する。

そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。

(ア)一致点
ニッケル粉末とビヒクルと分散剤と誘電体粉末からなる積層セラミックコンデンサ内部電極用ペーストであって、
前記分散剤の含有量(Σw_(i))が前記ニッケル粉末100質量部に対して合計で2.0質量部である積層セラミックコンデンサ内部電極用ペースト。

(イ)相違点1
分散剤の特定において、本件発明1は、「分散剤を構成する有機化合物X_(1),X_(2),・・・,X_(n)(nは1以上の自然数)の酸価をX_(i-ac)、該有機化合物のアミン価をX_(i-am)、前記ニッケル粉末100質量部に対する該有機化合物の質量部をw_(i)(i=1?n)とした場合に下記式(I)及び(II)を満た」すのに対し(式(I)及び(II)は省略)、甲1発明の有機添加剤は、そのような特定事項を満たすか否か不明である点。

イ 相違点1についての検討
(ア)新規性に関する検討
甲1発明は、有機添加剤としてアミン価/酸価が0.2のものを、1.0重量%含有することが特定されているが、有機添加剤成分の単位重量あたりの酸価及びアミン価が特定されていないため、相違点1に係る、上記式(I)及び(II)が充足されているか否かは不明である。
甲1発明の有機添加剤は、上記アで述べたように、分散液に対する分散剤としての機能は有するものの、粘度調整剤として添加するものであり、一般的な粘度調整剤を選択したときに、自ずと本件発明1における式(I)及び(II)を満たすわけでもない。
よって、相違点1は、実質的な相違点であるといえる。

(イ)進歩性に関する検討
甲1発明の有機添加剤は、上記(ア)でも述べたように、粘度調整剤として添加するものである。そして、甲1は、粘性調節を、アミン価/酸価の調整によって行うことで、粘度の経時変化と印刷時の「にじみ」や「だれ」等の発生を防止する効果を得るもの(上記第4 1(3))であって、分散性を調整することを主たる目的としたものではない。
そして、導電性粉末の分散性を高めるために、塩基に対する反応性を有する酸性の有機化合物と、酸に対する反応性を有する塩基性の有機化合物の総量に着目すること、及び、その大小関係を設定することは、いずれの甲号証にも記載も示唆もされていないから、当業者であっても、本件発明1における式(I)及び(II)を満たす関係を、提出された証拠及び技術常識から導き出すことは、容易になし得ることとはいえない。

(ウ)異議申立人の主張の検討
異議申立人は、特許異議申立書において、有機添加剤として、オレイルアミンとオレイン酸の混合物を使用した場合を想定した場合、甲1の実施例19に適用すると本件発明1における式(I)及び(II)を満たすから、本件発明1は、いわゆる新規性を有しないこと、また、オレイルアミンとオレイン酸の混合物は、導電性ペーストにおける有機添加剤として周知技術であるから、甲1発明における有機添加剤を該周知技術に置換することは、当業者が実施しうる設計変更の範囲内であることを主張している(特許異議申立書第19?21ページ)。
しかしながら、上記(イ)で述べたように、甲1における有機添加剤は、粘度調整を目的としているものであって、その目的は本件発明1と異なるものであり、また仮に、オレイルアミンとオレイン酸の混合物が、導電性ペーストにおける分散剤として周知技術であったとしても、甲1発明における有機添加剤として、オレイルアミンとオレイン酸という特定の2つの物質を選択する必然性もない。
よって、異議申立人の上記主張には理由がない。

ウ 本件発明1についての小括
そうすると、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2?3について
本件発明1が、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記(1)のとおりであるから、本件発明1の特定事項をすべて有し、更に限定する本件発明2?3についても同様に、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明4について
本件発明4と、甲1製造方法発明を対比すると、甲1製造方法発明の「有機バインダ」及び「スリーロールミルで完全分散させる」操作は、本件発明4の「ビヒクル」及び「混練する」操作にそれぞれ相当し、甲1製造方法発明の「有機添加剤」は、分散調整機能を有する限りにおいて、本件発明4の「分散剤」に相当する。
そして、甲1製造方法発明で用いる「有機添加剤」の量は、「分散剤の含有量(Σw_(i))が前記ニッケル粉末100質量部に対して合計で2.0質量部以下」という特定事項のうち、2.0質量部という点において一致し、甲1製造方法発明の「共材」は、本件発明4の「誘電体粉末」に相当する。

そうすると、本件発明4と甲1製造方法発明との一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。

(ア)一致点
ビヒクルに、ニッケル粉末と分散剤とを添加し、これらの混合物を混練する、積層セラミックコンデンサ内部電極用ペーストの製造方法であって、
積層セラミックコンデンサ内部電極用ペーストは、ニッケル粉末とビヒクルと分散剤と誘電体粉末からなり、
前記分散剤の含有量(Σw_(i))が前記ニッケル粉末100質量部に対して合計で2.0質量部である積層セラミックコンデンサ内部電極用ペーストである、積層セラミックコンデンサ内部電極用ペーストの製造方法。

(イ)相違点2
分散剤の特定において、本件発明4は、「分散剤を構成する有機化合物X_(1),X_(2),・・・,X_(n)(nは1以上の自然数)の酸価をX_(i-ac)、該有機化合物のアミン価をX_(i-am)、前記ニッケル粉末100質量部に対する該有機化合物の質量部をw_(i)(i=1?n)とした場合に下記式(I)及び(II)を満た」すのに対し(式(I)及び(II)は省略)、甲1導電膜発明は、そのような特定事項を満たすか否か不明である点。

相違点2は、相違点1と同旨であるから、上記(1)の検討と同様に、本件発明4も、甲1に記載された発明とはいえないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明5について
ア 対比
本件発明5と、甲1導電膜発明を対比すると、甲1導電膜発明の「共材」は、本件発明5の「誘電体粉末」に相当する。
甲1導電膜発明の「有機添加剤」は、分散調整機能を有する限りにおいて、本件発明5の「分散剤」に相当し、その量は、本件発明5の「分散剤の含有量(Σw_(i))が前記ニッケル粉末100質量部に対して合計で2.0質量部以下」という特定事項のうち、2.0質量部という点において一致する。
また、甲1導電膜発明における有機添加剤は、アミン価/酸価が0.2であることから、Ni粉末と有機添加剤を混合した際に、Ni粉末の表面の塩基性反応点及び酸性反応点に有機添加剤が吸着されていると認められる。
そして、甲1導電膜発明の有機バインダは、加熱されて脱バインダされているものと認められるから、「積層セラミックコンデンサの内部電極」は、「導電膜」と呼べるものである。

そうすると、本件発明5と甲1導電膜発明との一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。

(ア)一致点
分散剤を吸着したニッケル粉末と、誘電体粉末からなる導電膜であって、
前記分散剤の含有量(Σw_(i))が前記ニッケル粉末100質量部に対して合計で2.0質量部である導電膜。

(イ)相違点3
分散剤の特定において、本件発明5は、「分散剤を構成する有機化合物X_(1),X_(2),・・・,X_(n)(nは1以上の自然数)の酸価をX_(i-ac)、該有機化合物のアミン価をX_(i-am)、前記ニッケル粉末100質量部に対する該有機化合物の質量部をw_(i)(i=1?n)とした場合に下記式(I)及び(II)を満た」すのに対し(式(I)及び(II)は省略)、甲1導電膜発明は、そのような特定事項を満たすか否か不明である点。

(ウ)相違点4
本件発明5は、「導電膜密度が4.5g/cm^(3)以上である」のに対して、甲1導電膜発明は、そのような特定を有しない点。

イ 相違点についての検討
(ア)新規性及び進歩性に関する検討
相違点3は、相違点1と同旨であるから、上記(1)イ(イ)の、相違点1についての検討と同様に、実質的な相違点であるといえ、また、甲1導電膜発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、相違点4について判断するまでもなく、甲1に記載された発明に対して、いわゆる新規性及び進歩性を有するものである。

(6)まとめ
よって、本件発明1?5は、甲1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないとする申立理由1には、理由がない。
また、本件発明1?5は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから同法同条第2項の規定により特許を受けることができないとする申立理由2は、理由がない。

2 申立理由3(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)検討
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、高い導電膜密度が得られる導電性ペースト及びその製造方法、並びに導電性ペーストにより得られた導電膜に関する。特に、積層セラミックコンデンサの内部電極を形成するために用いられる導電性ペースト及びその製造方法、並びに高い導電膜密度を有する導電膜に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで本発明は、薄膜化された積層セラミックコンデンサの内部電極層の形成に用いれば、緻密で連続性の高い内部電極層が得られ、クラック等の構造欠陥や容量不足のない積層セラミックコンデンサとなる導電性ペースト及びその製造方法、並びに高い導電膜密度を有する導電膜を提供することを目的とする。」

(イ)「【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明を適用した具体的な実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)について、以下の項目に沿って詳細に説明する。
・・・
【0037】
(1-3.分散剤)
分散剤としては、少なくとも塩基に対する反応性を有する酸性の有機化合物と、酸に対する反応性を有する塩基性の有機化合物とを必要とする。
【0038】
上述の通り、導電性粉末は、その平均粒径が1μm以下と小粒径であるため、表面の反応性が高い。そのため、従来から導電性粉末の分散性を高めるために、塩基に対する反応性を有する酸性の有機化合物からなる分散剤が、主として用いられてきた。
【0039】
ところが、導電性粉末の表面は、酸と反応する塩基性反応点と塩基と反応する酸性反応点の両方を有している。従って、塩基に対して反応性を有する酸性の分散剤に、酸に対して反応性を有する塩基性の分散剤を共存して用いることで、導電性粉末の表面の塩基性反応点だけでなく、酸性反応点にも分散剤を吸着させることができる。この作用により、導電性ペーストをセラミックグリーンシートに印刷後に溶剤が蒸発する過程で、導電性粉末やバインダ等の不揮発成分の凝集が防止され、導電膜密度が高くなるという効果がある。
・・・
【0047】
酸価及びアミン価を用いれば、分散剤としてn種類(nは1以上の自然数)の有機化合物を使用していたとして、それぞれの有機化合物X_(1),X_(2),・・・,X_(n)の酸価をX_(i-ac)、アミン価をX_(i-am)、導電性粉末100質量部に対する質量部をw_(i)(i=1?n)とした場合、例えば、塩基に対する反応性の総量は、導電性粉末の質量に対して、Σ(X_(i-ac)・w_(i))と表される。よって、分散剤としては、下記式(I)及び式(II)の関係式を満たすものを用いる。
・・・
【0064】
(1-4.他の構成成分)
導電性ペーストにおいては、上述した分散剤の他に、その用途に応じて、誘電体粉末、粘度調整剤、難燃剤、沈降防止剤等を添加することもできる。
【0065】
誘電体粉末は共材とも言われ、焼成時に内部電極層の焼結挙動をセラミックグリーンシートの焼結挙動に合わせる目的で導電性ペーストに含有させることがある。誘電体粉末を含有させる場合には、その構成、粒径及び含有量は、対象となるセラミックグリーンシートや導電性粉末の平均粒径等により適宜選択される。」

(ウ)「【0075】
積層セラミックコンデンサにおいては、セラミックグリーンシート上に導電性ペーストを印刷し、乾燥させた導電膜においても、その密度(導電膜密度)が高いことが要求されている。その理由は、導電膜密度が、積層セラミックコンデンサ製造時における電極のクラックの発生に大きな影響を与えるためである。
【0076】
そこで、本実施の形態に係る導電性ペーストにおいては、セラミックグリーンシート上に形成された導電膜の導電膜密度を、4.5g/cm^(3)以上とすることができる。積層セラミックコンデンサの内部電極層において、導電膜密度が4.5g/cm^(3)未満の低密度である場合には、その後の焼成工程において、焼結の際にニッケル粉末間の空隙を埋めるべく収縮量が大きくなる。
【0077】
その結果として、誘電体層(セラミックグリーンシート)との収縮量の大きなミスマッチが生じ、クラック等の構造欠陥が多発してしまうという問題が生じることがある。また、内部電極層中に多数の空隙が存在することにより、焼結の際の収縮で内部電極層が途切れて、積層セラミックコンデンサの容量が不足するという問題も生じることがある。従って、特に薄層化された内部電極層では、導電膜密度は、4.5g/cm^(3)以上の高密度であることが要求される。」

(エ)「【0090】
(導電性ペーストの導電膜密度の測定)
実施例1では、得られた導電性ペーストについて、厚さ100μmのPETフィルム上に、200μmの膜厚で導電性ペーストをアプリケーターにより10cm角のサイズに塗布し、真空中、120℃で1時間乾燥した。この導電膜をPETフィルムから剥がし、更に1.5cm角に切り出し、その切り出した膜の重量(g)及び膜厚(cm)を測定し、下記計算式を用いて測定された重量及び膜厚から導電膜密度(g/cm^(3))を算出し、4.5g/cm^(3)以上のものを合格とした。
【0091】
導電膜密度(g/cm^(3))
=導電性ペーストの導電膜重量(g)/導電膜の体積(cm^(3))」

イ 検討
本件特許明細書の、発明の詳細な説明の記載であって、特に段落【0001】、【0016】及び【0075】?【0077】によると、本件発明の解決しようとする課題は、以下のとおりである。
「薄膜化された積層セラミックコンデンサの内部電極層の形成に用いれば、緻密で連続性の高い内部電極層が得られ、クラック等の構造欠陥や容量不足のない積層セラミックコンデンサとなる導電性ペースト及びその製造方法、並びに高い導電膜密度を有する導電膜を提供すること。」
また、特許請求の範囲の請求項1?4の記載は、上記第2のとおりである。

そこで、発明の詳細な説明の段落【0027】?【0065】には、本件発明の導電ペーストにおける、導電膜密度を向上に係る作用機序、及び、特に分散剤に用いる有機化合物に関し、本件発明1における式(I)及び(II)の要件と導電膜密度との関係が記載されており、さらに実施例の記載(段落【0087】?【0105】)を参照することで、当業者は、本件発明1に特定される関係を満たす導電性ペーストは、本件発明1の発明の課題を解決するものと理解できる。
また、本件発明1で特定する事項をすべて含み、更に請求項2?4に記載されている事項でさらに発明特定事項を特定するものである本件発明2?4についても、同様に発明の課題を解決できると認識できる。

ウ 異議申立人の主張
異議申立人は、本件特許明細書の実施例には、ニッケル粉末100質量部に対して、平均粒径0.07μmのBaTiO_(3)粉末を25質量部添加した導電性ペーストしか開示されていないこと及び甲4に示される実験において、本件特許明細書の実施例から粒径をわずかに小さくした誘電体粉末(平均粒径0.05μmのBaTiO_(3)粉末)を使用しただけで、目的とする導電膜密度が4.5g/cm^(3)以上の導電膜を形成できなくなることが確認されていることから、本件発明に係る導電性ペーストは、平均粒径0.07μmのBaTiO_(3)粉末使用した場合にのみ、4.5g/cm^(3)以上という高密度の導電膜を形成し、クラック等の構造欠陥や容量不足を防止できるという課題を解決できるものであることを述べ、誘電体粉末の構成、粒径および含有量について何ら限定されない本件特許の請求項1に係る発明には、本件発明の課題が解決できない場合が存在するから、本件発明はいわゆるサポート要件を満たしていない旨主張する(異議申立書第23?24ページ)。
しかし、誘電体粉末の選定条件については、本件特許明細書の段落【0065】に「焼成時に内部電極層の焼結挙動をセラミックグリーンシートの焼結挙動に合わせる目的で導電性ペーストに含有させることがある。誘電体粉末を含有させる場合には、その構成、粒径及び含有量は、対象となるセラミックグリーンシートや導電性粉末の平均粒径等により適宜選択される」と記載されるように、セラミックグリーンシートの熱収縮率等の焼結挙動に合わせるべく、同一又は類似する組成の誘電体材料を選択し、粒径及び含有量を適宜試行することで、クラック等の構造欠陥の発生を防止するものであると当業者であれば容易に理解できる。

また、本件特許明細書の段落【0077】には、「特に薄層化された内部電極層では、導電膜密度は、4.5g/cm^(3)以上の高密度であることが要求される」ことが記載されており、実施例において、4.5g/cm^(3)以上のものを合格する旨が記載されている(段落【0106】)。
しかし、導電膜密度の下限値については、段落【0077】に記載されるように、「特に薄層化された」場合の内部電極層を有する積層セラミックコンデンサに本件発明の導電ペーストを用いる際の好ましい導電膜密度として、「4.5g/cm^(3)以上」を判断基準として実施例において評価しているに過ぎず、本件発明1?4は、分散剤を構成する有機化合物が、本件発明の1?4の特定事項の条件を充足することで、導電膜密度が、より高密度の導電膜を形成し、クラック等の構造欠陥や容量不足を防止できるという課題を解決できるようにするものである。

エ 小括
よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4の記載は、いわゆるサポート要件を満たすと判断されるから、異議申立人が主張する申立理由3には理由がない。

3 申立理由4(明確性要件違反)について
異議申立人は、本件特許の請求項の記載は、「誘電体粉末の構成、粒径および含有量」が考慮されておらず、導電膜密度が4.5g/cm^(3)以上の導電膜を得るための分散剤を規定する条件として不十分であって、本件発明1中の分散剤は、高い膜密度向上効果を発揮できない分散剤を包含しているため、いわゆる明確性要件を満たしていない旨主張する(異議申立書第24?25ページ)。
特許請求の範囲の記載が明確であるか否かは、その記載によって特定される発明の範囲が明確であることが要件とされるところ、本件発明の分散剤を構成する有機化合物は、酸価、アミン価及び含有量の関係が、請求項1及び5の式(I)及び(II)を満たすものであると明確に特定されている。
よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、いわゆる明確性要件を満たすと判断されるから、異議申立人が主張する申立理由4には理由がない。

4 申立理由5(実施可能要件違反)について
異議申立人は、本件発明5に係る導電膜は、「導電膜密度が4.5g/cm^(3)以上である」ことを特定事項にするが、誘電体粉末の構成、粒径および含有量について何ら限定しない。そして、本件特許明細書の実施例には、ニッケル粉末100質量部に対して、平均粒径0.07μmのBaTiO_(3)粉末を25質量部添加し、かつ、請求項5中の式(I)および(II)を満たす分散剤を使用することによって、導電膜密度が導電膜密度が4.5g/cm^(3)以上の導電膜を製造する方法しか開示していないし、甲4によると、平均粒径0.05μmのBaTiO_(3)以外の材料を誘電体粒子として使用すると、4.5g/cm^(3)以上の導電膜を製造できなくなる可能性があるから、「誘電体粉末」と解釈され得るいかなる材料を用いた場合でも、導電膜密度が4.5g/cm^(3)以上の導電膜を製造する方法を開示していない本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項5に係る発明を実施できる程度に、当該発明を明確かつ十分に記載したものではない旨を主張する(異議申立書第25ページ)。

本件特許明細書の発明の詳細な説明には、平均粒径0.05μmのBaTiO_(3)以外の材料を誘電体粒子として使用した具体例の記載はないが、本件特許明細書の段落【0065】の「焼成時に内部電極層の焼結挙動をセラミックグリーンシートの焼結挙動に合わせる目的で導電性ペーストに含有させることがある。誘電体粉末を含有させる場合には、その構成、粒径及び含有量は、対象となるセラミックグリーンシートや導電性粉末の平均粒径等により適宜選択される」という記載に照らし、セラミックグリーンシートの熱収縮率等の焼結挙動に合わせるべく、同一又は類似する組成の材料選択、粒径及び含有量を適宜試行するなど、クラック等の構造欠陥の発生を防止することにより、導電膜密度を4.5g/cm^(3)以上とすることは、当業者にとって過度の試行錯誤を要することではなく、その生産及び使用をすることができるものといえる。
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明5について、いわゆる実施可能要件を満たすと判断されるから、異議申立人が主張する申立理由5には理由がない。


第6 むすび
したがって、異議申立人の主張する特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-03-27 
出願番号 特願2014-157034(P2014-157034)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01B)
P 1 651・ 536- Y (H01B)
P 1 651・ 113- Y (H01B)
P 1 651・ 121- Y (H01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 青鹿 喜芳  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 大畑 通隆
植前 充司
登録日 2019-05-31 
登録番号 特許第6533371号(P6533371)
権利者 住友金属鉱山株式会社
発明の名称 積層セラミックコンデンサ内部電極用ペースト及びその製造方法、並びに積層セラミックコンデンサ内部電極用ペーストにより得られた導電膜  
代理人 小池 晃  
代理人 河野 貴明  
代理人 村上 浩之  
代理人 北原 宏修  

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