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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B01D
管理番号 1361496
異議申立番号 異議2019-700935  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-22 
確定日 2020-04-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6518233号発明「三成分または多成分混合物の蒸留による分離のための方法および装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6518233号の請求項1?5、7?9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6518233号の請求項1?9に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)3月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年4月22日(DE)ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成31年4月26日にその特許権の設定登録がされ、令和1年5月22日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1?5、7?9に係る特許について、令和 1年11月22日に特許異議申立人 星 正美(以下、「申立人」という。) により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6518233号の請求項1?5、7?9の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5、7?9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
(以下、請求項1?5、7?9の特許に係る発明を、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」、「本件発明7」?「本件発明9」という)。

「【請求項1】
少なくとも1つの低沸点分、少なくとも1つの中沸点分、および少なくとも1つの高沸点分を含む3つ以上の成分の混合物の蒸留分離のためのプロセスであって、
ここで、前記3つ以上の成分の混合物は、第一の蒸留カラムへ供給され、それによって、前記少なくとも1つの高沸点分は、塔底留分として除去され、塔頂留分は、蒸気の形態で第二の蒸留カラムの塔底部へ直接供給され、 ここで、前記第二の蒸留カラムにおいて、前記少なくとも1つの中沸点分は、側流取り出し部(sidestream takeoff)を介して除去され、前記少なくとも1つの低沸点分は、塔頂留分として除去され、さらには、前記第二の蒸留カラムからの塔底取り出し流は、前記第一の蒸留カラムへ還流として戻され、
ここで、両蒸留カラム共に、垂直分割壁を有し、
前記垂直分割壁が、第一の蒸留カラムにおいては、前記蒸留カラム内部の上端部に達しており、前記第二の蒸留カラムにおいては、前記蒸留カラム内部の下端部に達し、 前記第一の蒸留カラムの塔底流を蒸発器システムにより、部分的または完全に蒸発させ、気体流の形態、または、気体流および液体流の形態にすることを特徴とする、3つ以上の成分の混合物の蒸留分離のためのプロセス。
【請求項2】
前記蒸留カラムが、-1から+10バールのオフガス圧力、および-20から+200℃の沸騰温度範囲で運転される、請求項1に記載のプロセス。【請求項3】
前記蒸留カラムが、運転物質としての水蒸気または熱オイルを用いる1つ以上の蒸発器システムを含む、請求項1または請求項2に記載のプロセス。【請求項4】
前記蒸留カラムが、運転物質としての冷却水または冷却ブラインを用いる1つ以上の凝縮システムを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記第二の蒸留カラムに取り付けられた凝集システムにおいて、第一の凝縮器において凝縮されない塔頂流成分が、さらなる凝縮器へ供給される、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロセス。」

「【請求項7】
3つ以上の成分の混合物の蒸留分離のための装置であって、物質移動を可能とするように互いに結合された2つの蒸留カラムを含み、
ここで、第一の蒸留カラムの蒸気は、第二の蒸留カラムの塔底部と通流可能に接続され、前記第二の蒸留カラムの塔底取り出し流は、前記第一の蒸留カラムの還流セクションに通流可能に接続され、
ここで、両蒸留カラムは、垂直分割壁を有し、
前記垂直分割壁が、第一の蒸留カラムにおいては、前記蒸留カラム内部の上端部に達しており、前記第二の蒸留カラムにおいては、前記蒸留カラム内部の下端部に達しており、
ここで、前記第二の蒸留カラムは、塔頂取り出し部よりも下、および塔底取り出し部よりも上に、1つ以上の側流取り出し部を有し、
前記第一の蒸留カラムが、前記蒸留カラムの液体塔底流を蒸発させる1つ以上の蒸発器を含むことを特徴とする、3つ以上の成分の混合物の蒸留分離のための装置。
【請求項8】
両方の蒸留カラムが、1?200の理論段数を有する、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記第二の蒸留カラムが、該蒸留カラムの塔頂取り出し部からの蒸気流を凝縮させる1つ以上の凝縮器を含む、請求項7または8に記載の装置。」


第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書において、証拠として甲第1号証?甲第6号証(以下、それぞれ「甲1」?「甲6」という。)を提出し、請求項1?5、7?9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである旨主張している。
(証拠方法)
甲1:特公昭62-51958号公報
甲2:特開2006-36659号公報
甲3:特許第4868717号公報
甲4:特表2003-532720号公報
甲5:特開2009-6240号公報
甲6:緑 静男 外2名、”垂直分割型抽出蒸留塔に関する解析”、化学工学 論文集、p.627-632、第26巻、第5号、2000


第4 当審の判断
1 甲1?6の記載事項
(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
1a「17 (a) 不純物としてホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒド
よりなる群から選ばれる少なくとも1種類のアルデヒドを含有する酸化エ
チレン水溶液を原料流として、原料流の上部に少なくとも1段の気液接触
理論段数を有する第一分留部を内部に配列し、また原料流の下部に少なく
とも1段の気液接触理論段数を有する第五分留部を内部に配列した第一多
段向流蒸留帯に装入し、
(b) 第五分留部の下部から第一蒸留帯にストリツプ用蒸気を導入し、
(c) 第一蒸留帯の上部から第一塔頂生成物を取出し、第一塔頂生成物を原
料として、原料流の上部に、
(イ) 少なくとも1段の気液接触理論段数を有する第二分留部と、
(ロ) 少なくとも5段の気液接触理論段数を有する第三分留部と、
(ハ) 少なくとも1段の気液接触理論段数を有する第四分留部と
を内部に配列した第二多段向流蒸留帯の下部に導入し、
(d) 第二向流蒸留帯の低部から第一塔底生成物を取り出して、第一塔底生
成物を第一向流蒸留帯の上部の第一分留部に導入し、
(e) 酸化エチレンを実質的に含有しない水溶液よりなる第二塔底生成物を
第一蒸留帯の底部から取出し、
(f) 第三分留部から下降し、アセトアルデヒドを多量に含有する酸化エチ
レン流よりなる液の少なくとも一部を第一側流として第二蒸留帯から取出
し、
(g) 第四分留部から下降し、アルデヒド性不純物および水を実質的に含有
しない酸化エチレンよりなる液の少なくとも一部を第二側流として第二蒸
留帯から取出し、
(h) 第二蒸留帯の第四分留部の上部からホルムアルデヒド含有蒸気を取出
し、取出した蒸気の少なくとも一部を凝縮させ、生物凝縮液の少なくとも
一部を還流液として第二蒸留帯の第四分留部の上部へ、式
R=L/ P+F
で示される内部還流液比(式中Rは内部還流液比であり、Lは第四分留部
から第三分留部へ下降する液量、モル/時であり、Pは第二側流として取
出される液量、モル/時であり、Fは凝縮液として第二蒸留帯に還流され
ない取出された蒸気量、モル/時である)が少なくとも約1.35:1となる
のに十分な量で還流され、還流されない凝縮液の部分を、ホルムアルデヒ
ドを多量に含有する酸化エチレン流として取出すことよりなる、アルデヒ
ド性不純物および水を実質的に含有しない酸化エチレンを得る不純物含有
酸化エチレン水溶液の処理法。」(特許請求の範囲 請求項17)

1b「 本発明は酸化エチレンを含有する水溶液からの酸化エチレンの回収、特にアルデヒド性不純物を含有する不純水溶液から酸化エチレンを分離する改良回収法に関する。」(8欄13?16行)

1c「意外にも、本発明の方法は、加熱費および冷却費のような運転費ならびに装置費のような固定費でかなりのコスト節約を果すと同時にこのようなアルデヒド性不純物を迅速効率的に除去することが判明した。」(11欄19行?23行)

1d「第2図の方法で、通常のストリツパ(図示せず)から得られる酸化エチレン、CO_(2)、ガス状不純物、水およびアルデヒド性不純物を含有する気液混合物を管12によつて再吸収装置10に供給し、こゝで管19によつて再吸収装置に導入される水性媒と向流接触することによつて再吸収液を作り、管13から取出す。二酸化炭素を含有する吸収されなかつたガスは再吸収装置10の上部から管14によつて取出される。管13によつて再吸収装置10から取出される塔底液は二酸化炭化炭素ストリツプ塔30の上部に装入され、そこで塔底液は水蒸気またはN_(2)等のストリツプ用流体と向流接触し、二酸化炭素を含む吸収ガスを蒸発させ、ストリツプ塔30の上部から取出し、管11によつて再吸収装置10に循環してこれらのガス中に残存する酸化エチレンを吸収させる。管11を通つて再吸収装置10に装入されても吸収されない二酸化炭素のようなガスは管14を通つて再吸収装置から取出される。 ・・・・・
ストリツプ塔30から管32を通つて取出される塔底液は不純物を含有する酸化エチレン水溶液よりなり、これを次に蒸留塔50へ蒸留原料として供給し、さらに詳細に下記するように水およびアルデヒド性不純物を分離する。図示のように、蒸留塔50から管56を通つて取出される水性塔底液の一部は管4および19を通つて再吸収装置に循環してさらに酸化エチレンを吸収させることもできる。第1図と同様に管29から循環塔底液から一部をパージして、再吸収装置10へ供給される供給液中に存在する水およびホルムアルデヒド、ならびに後続処理工程で生成されるグリコールを除去する。」
(12欄39行?13欄30行)

1e「第2図および第3図において、アルデヒド性不純物を含有する酸化エチレン水溶液は管32によつて全体として50で示される多段蒸留塔すなわち本発明のアルデヒド除去塔へ供給される。・・・・・ しかしながら一般にこの水溶液は約2?25重量%、普通約8?12重量%の酸化エチレン、約75?98重量%、普通約88?92重量%の水、約0.001?0.2重量%、普通約0.05?0.02重量%のアルデヒド性不純物(この用語はあとで定義される)を含有する。
・・・・・
本明細書でいうアルデヒド性不純物という用語はホルムアルデヒド、アセトアルデヒドおよびそれらの混合物よりなる群の中のメンバーを意味するものとする。 ・・・・・
不純物を含有する酸化エチレン水溶液は、この種の液体の場合に共通して使用される通常の任意の液体分配ヘツドよりなる分配メンバー77を通つてアルデヒド蒸留塔50に導入される。蒸留塔50には、管32の上に下から上へ順番に少なくとも1段、好ましくは1?20段、さらに好ましくは2?10段の気液接触理論段数を有する第一分留部78、少なくとも1段、好ましくは1?15段、さらに好ましくは2?6段の気液接触理論段数を有する第二分留部80、少なくとも5段、好ましくは10?60段、さらに好ましくは15?50段の気液接触理論段数を有する第三分留部82、および少なくとも1段、好ましくは1?20段、さらに好ましくは2?10段の気液接触理論段数を有する第四分留部84が設けられている。また管32の下の蒸留塔50には少なくとも1段、好ましくは1?20段、さらに好ましくは3?12段の気液接触理論段数を有する第五分留部76が設けられる。」(14欄1行?15欄7行)

1f「蒸留塔50は運転するとき、各分留部内で上昇蒸気と下降液体とが向流接触する。好ましくは蒸留塔50の直径方向にほぼ均一に分配されて導入される蒸留原料液の少なくとも一部は蒸留塔中で蒸発する。蒸留塔50の下部に集液される液体は管56から塔底液として取出され、一般に約0.1重量%以下、好ましくは約0.01重量%の酸化エチレン、一般に約0.1重量%以下のホルムアルデヒド、一般に約0.001重量%以下のアセトアルデヒドおよび約0.5?20重量%、好まさしくは約1?5重量%ののエチレングリコールを含有し、最適には実質的に酸化エチレンを含まない水溶液、すなわち約0.001重量%以下の酸化エチレンを含有する水溶液よりなる。 ・・・・・
スチームまたは他の適当な不活性熱媒よりなるストリツプ用蒸気を管58から蒸留塔50の第五分留部の下に導入する。好ましくは取出された塔底液の一部を管58およびリボイラ59を通つて蒸留塔へ循環し、蒸留塔の運転に必要なストリツプ用蒸気を供給する。」(15欄22行?15欄44行)

1g「水とアルデヒド性不純物の濃度を所望通り低下させた第四分留部84から下降する酸化エチレン生成物よりなる下降液体の一部を管85によつて蒸留塔50から取出す。・・・・・ 管85から取出される酸化エチレンの製品流は実質的にアルデヒド性不純物および水を含まず、一般に約20ppm以下、普通約5ppm以下のホルムアルデヒド、一般に約50ppm以下、普通約5ppm以下のアセトアルデヒド、および一般に約300ppm以下、普通約100ppm以下の水しか含有していない。
蒸留塔50の上部から蒸気が管54によつて取出され、好ましくは部分凝縮器よりなる凝縮器89に装入される。凝縮器89からの流出物は気液分離器52に装入され、分離器から管86によつて液体を取出す。酸化エチレンを多量に含有するホルムアルデヒド含有流よりなるこの液体の一部を管81および分配管メンバー93によつて蒸留塔50の第四分留部84の上部へ還流液として循環させる。ホルムアルデヒドを多量に含有する酸化エチレン流よりなる残りの凝縮液は管87によつて取出される。管87を通つて取出される液体の精密な組成は大幅に変り得るが、一般に少なくとも約99.5重量%の酸化エチレンおよび約0.005?0.05重量%、普通約0.1?0.3重量%のホルムアルデヒドを含有する。この液体は一般に実質的にアセトアルデヒドを含有せず、一般に約50ppm以下しかアセトアルデヒドを含有せず、また一般に実質的に水を含有せず、普通約300ppm以下しか水を含有していない。このホルムアルデヒドを多量に含む酸化エチレン流の酸化エチレン含有量は前述の如く大幅に変化させることができるが、一般に管32によつて塔50へ供給される酸化エチレンの約25重量%まで、好ましくは約15重量%まで、最適には約10重量%までの酸化エチレンを含有する。
管81によつて蒸留塔50へ還流液として循環させる凝縮液の量、管87によつてホルムアルデヒド含有流として取出される液体の量および管85によつて取出される酸化エチレン製品流の量は大幅に変化させることができるが、最も効率のよい運転をするためには、蒸留塔50の内部液体還流比は少なくとも1.35:1、好ましくは1.35:1?10:1、さらに好ましくは3.5:1?7.5:1、最適には約4.0:1?6.0:1とする。こゝでいう内部液体還流比とは式
R=L/ P+F (I)
(式中Rは内部液体還流比であり、Lは第四分留部、すなわち第2図の第四分留部84から下降する液体、すなわち酸化エチレン製品流として第2図で管85から取出されなかつた液体の量、モル/時でありPは酸化エチレン製品流として第2図の管85から取出される液体の量、モル/時であり、Fは第2図の管87からホルムアルデヒド含有流として取出される液体の量、モル/時である)で定義される。」(17欄17行?18欄32行)

1h「

」(第2図)

1i「

」(第3図)

1j「 第4図は本発明の方法の好ましい態様を例示する。この態様では、側流リボイラ69は管56によつて蒸留塔50から取出され、管57および63によつてリボイラ69に装入される塔底液の一部によつて加熱される。リボイラ69から取出される冷却された液体は管67を通つて管66に導かれる。管66中の塔底液は熱交換器54に装入されて、管32中に含まれている液体原料を予熱し、管68を通つて熱交換器64から取出される冷却された塔底液は再吸収装置に循環させるのに適する程度までさらに冷却され、第3図に関して前述したようにさらに酸化エチレンの吸収に使用される。」
(20欄10行?22行)

1k「

」(第4図)

1l「第5図では、第4図の態様の構造に対応する構造の部品番号に500番代の識別番号を先行させている。第5図には第4図の蒸留塔50内で実施される多段向流蒸留を2基の別個の蒸留塔すなわちアルデヒド除去塔205および206で実施する本発明の方法の態様が示されている。この態様で、処理しようとする不純物含有酸化エチレン液は管532によつて第一蒸留塔205に分配メンバー577を使用して導入される。第一蒸留塔205中には上部蒸留帯578および下部蒸留帯576が設置される。塔頂生成物は管201によつて第一蒸留塔205から取出され、分配メンバー203を通り、第二蒸留塔の下部に蒸留原料として導入される。管556によつて第一蒸留塔205から取出される塔底生成物の第一の部分は好ましくは管566、熱交換器564および管568を通り、前述の如く、たとえば第2図の方法の再吸収装置10のような再吸収装置に循環される。取出された塔底生成物の第二の部分はリボイラ559、管558および分配器メンバー572を通り第一蒸留塔205の下部の下部蒸留帯576に循環される。
第二蒸留塔206の供給管の上部に下から上へ順番に蒸留帯580,582および584を設けられる。塔頂生成物は管554によつて第二蒸留塔206から取出され、凝縮器589で凝縮させ、生成する流出物を気液分離器552に供給する。分離器552から管586によつて取出された液の一部は管586および581を通り第二蒸留塔206の上部へ還流液として循環される。ホルムアルデヒド含有酸化エチレン流よりなるこの液の残りの部分は管587によつて取出される。実質的にアルデヒド性不純物を含有しない酸化エチレン製品流は、第2図ないし第4図の蒸留塔50の運転について前述したように、蒸留帯584から下降する液体の一部から管585によつて側流として取出される。同様に蒸留帯582から下降する液体の一部をなすアセトアルデヒド含有酸化エチレン流を管583によつて取出す。
・・・・・
管202を通り第二蒸留塔206から取出される塔底液の一部を分配器メンバー292を通つて第一蒸留塔205の上部に循環させ、蒸留帯578を下降させる。第二蒸留塔206から取出される塔底液の第二の部分を、管204、リボイラ569管562および分配器メンバー592を通り第二蒸留塔に循環させる。 ・・・・・
前述の説明から明らかなように、蒸留帯578は少なくとも1段、好ましくは1?20段、さらに好ましくは2?10段の気液接触理論段数を有する第一分留部をなし、蒸留帯580は少なくとも1段、好ましくは1?15段、さらに好ましくは2?6段の気液接触理論段数を有する第二分留部となす。同様に蒸留帯582は少なくとも5段、好ましくは10?60段、さらに好ましくは15?50段の気液接触理論段数を有する第3分留部をなし、蒸留帯584は少なくとも1段、好ましくは1?20段、さらに好ましくは2?10段の気液接触理論段数を有する第四分留部をなす。最後に蒸留帯576は少なくとも1段、好ましくは1?20段、さらに好ましくは3?12段の気液接触理論段数を有する第五分留部をなす。
第2図ないし第4図の態様の如く、第5図の態様の最も効率的な運転は蒸留塔206に対する内部液体還流比を少なくとも1.35:1、好ましくは1.35:1?10:1、さらに好ましくは3.5:1?7.5:1、最撤には4.0:1?6.0:1としなければならない。こゝにいう内部液体還流比は前述の式(I)を第5図の態様で同様に示される蒸留帯および流れにあてはめた値で定義される。」(20欄37行?22欄34行)

1m「


(第5図)

(2)甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
2a「【0003】
図2は従来の蒸留装置の例を示す図である。
【0004】
図において、11は50段の抽出蒸留塔、12は50段の精留塔、13は15段の脱酒精塔、14は49段の精製塔、15は59段の脱メタノール塔、16は55段の減圧蒸留塔である。前記抽出蒸留塔11、精留塔12、脱酒精塔13、精製塔14、脱メタノール塔15及び減圧蒸留塔16は、いずれも棚段塔から成る蒸留塔であり、段数は実段数で下から数えたものである。
・・・・・
【0015】
このように、従来の粗エタノールMから精製エタノールを得るエタノールの蒸留方法の工程は、6基の蒸留塔で構成される。工程全体の物質収支において、粗エタノールMが抽出蒸留塔11に供給され、スチームSが、抽出蒸留塔11、脱酒精塔13及び脱メタノール塔15の各塔底に直接供給される。そして、脱酒精塔13の塔底から熱水が、精製塔14の塔底から精製エタノールが、脱メタノール塔15の塔頂からメチロンが、減圧蒸留塔16の塔サイドからフーゼル油成分が、減圧蒸留塔16の塔底から熱水が排出される ・・・・・ 。」

2b「


(図2)

2c「【0016】
しかしながら、前記従来のエタノールの蒸留方法においては、前記抽出蒸留塔11、精留塔12、脱酒精塔13、精製塔14、脱メタノール塔15及び減圧蒸留塔16の6基の蒸留塔が配設され、各蒸留塔において加熱及び冷却をそれぞれ繰り返す必要があるので、凝縮器H1?H10、再沸器M1?M3、ポンプ等の付帯機器及び計装品を6系列分配設する必要がある。したがって、消費されるエネルギーが多くなるだけでなく、蒸留装置が大型化するとともに、蒸留装置のコスト、及びエタノールを蒸留するためのコストが高くなってしまう。
【0017】
本発明は、前記従来のエタノールの蒸留方法の問題点を解決して、消費されるエネルギーを少なくすることができ、蒸留装置を小型化することができ、蒸留装置のコスト、及びエタノールを蒸留するためのコストを低くすることができるエタノールの蒸留方法及び蒸留装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
・・・・・
【0019】
一つの蒸留方法においては、塔頂から下方に向けて形成された第1のカラム、中仕切りを介して前記第1のカラムと隣接させて形成された第2のカラム、及び塔底から上方に向けて形成され、前記第1、第2のカラムと連通する第3のカラムを備えた蒸留塔を使用する。
・・・・・
【0022】
そして、塔底から上方に向けて形成された第1のカラム、中仕切りを介して前記第1のカラムと隣接させて形成された第2のカラム、及び塔頂から下方に向けて形成され、前記第1、第2のカラムと連通する第3のカラムを備えた第2の蒸留塔を使用する。」

2d「【発明の効果】
・・・・・
【0033】
一つの蒸留方法においては、塔頂から下方に向けて形成された第1のカラム、中仕切りを介して前記第1のカラムと隣接させて形成された第2のカラム、及び塔底から上方に向けて形成され、前記第1、第2のカラムと連通する第3のカラムを備えた蒸留塔を使用する。
【0034】
この場合、好ましくは3基の蒸留塔を配設するだけでよく、しかも、付帯機器及び計装品を3系列分配設するだけでよい。したがって、消費されるエネルギーを少なくすることができるだけでなく、蒸留装置を小型化することができ、蒸留装置のコスト、及びエタノールを蒸留するためのコストを低くすることができる。」

2e「【0036】
図1は本発明の第1の実施の形態における蒸留装置を示す図である。
【0037】
図において、21はエタノールの精製を行う第1の蒸留塔、22はエタノールの精製及びメタノールの分離を行う第2の蒸留塔、23はフーゼル油成分の濃縮分離を行う第3の蒸留塔であり、前記第1?第3の蒸留塔21?23は、順に並べて配設され、操作される。
【0038】
前記第1の蒸留塔21においては、缶体としての塔本体25内において塔頂から下方に向けて所定の箇所まで延在する中仕切り26を備え、該中仕切り26によって画成された室により、互いに隣接する各室に、第1、第2のカラム27、28が形成される。そして、該第1、第2のカラム27、28より下方に、該第1、第2のカラム27、28と連通させて、塔底から上方に向けて第3のカラム29が形成される。
【0039】
同様に、前記第2の蒸留塔22においては、缶体としての塔本体31内において塔底から上方に向けて所定の箇所まで延在する中仕切り32を備え、該中仕切り32によって画成された室により、互いに隣接する各室に、第1、第2のカラム33、34が形成される。そして、該第1、第2のカラム33、34より上方に、該第1、第2のカラム33、34と連通させて、塔頂から下方に向けて第3のカラム35が形成される。
【0040】
また、37は第3の蒸留塔23の缶体としての塔本体、36は第3の蒸留塔23のカラムである。
【0041】
前記第1?第3の蒸留塔21?23において、第1?第3のカラム27?29、33?35及びカラム36は、いずれも充填物を充填する場合、従来の蒸留装置における前記抽出蒸留塔11(図2参照)、精留塔12、脱酒精塔13、精製塔14、脱メタノール塔15及び減圧蒸留塔16の各棚段数に段効率を乗算することによって算出される理論段数に相当する高さを有するものとする。」

2f「


(図1)

(3)甲3の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
3a「【請求項1】
蒸留が少なくとも一段階で行われ、垂直分割型カラムが少なくとも一蒸留
段階において用いられる、2,2’-ジイソシアナトジフェニルメタン、2
,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン及び4,4’-ジイソシアナトジ
フェニルメタンを含む異性体のジイソシアナトジフェニルメタンの混合物の蒸留方法であって、
当該垂直分割型カラムは、仕切りを有し、仕切りの領域における、多成分のストリームが供給される前分留領域と、中間生成物が抜き出される主分留領域と、缶出生成物が抜き出される缶出領域(排出領域)と、塔頂生成物が抜き出される精留領域(塔頂領域)と、を有し、
(a)少なくとも98質量%の純度を有する4、4’-ジイソシアナトジフェニルメタンの缶出生成物が、垂直分割型カラムにおいて得られ、
(b)(i)50?60質量%の2,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、及び(ii)40?50質量%の4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタンの混合物が垂直分割型カラムにおいてサイドストリームに抜き出される蒸留方法。
・・・・・
【請求項3】
第二蒸留段階で垂直分割型カラムを用いる、二段階で蒸留が行われる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第一蒸留段階からの塔頂生成物が第二蒸留段階の垂直分割型カラムに導入される請求項3に記載の方法。
・・・・・
【請求項6】
蒸留が二段階で行われ、垂直分割型カラムが各蒸留段階において用いられる請求項1に記載の方法。」

3b「【実施例4】
【0043】
二段階蒸留を図3で示すように、2つの垂直分割型カラムH及びJを用いて行った。0.5重量%の2,2’-MDI、11.1重量%の2,4’-MDI及び88.4重量%の4,4’-MDIの組成を有する異性体混合物を、仕切り領域において第一カラムHに導入した(ストリームH-I,6.33kg/h)。不純物を含む非常に濃縮された4,4’-MDI(異性体純度99%)を缶出生成物H-III(0.4kg/h)として得た。サイドストリームの排出物H-IV(4.38kg/h)中の4,4’-MDIの含有量は98.8重量%であった。導入した4,4’-MDIの77重量%がH-IVと共に排出された。」

3c「

」(図3)

(4)甲4の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
4a「【0021】
分離壁塔は、熱的に結合された慣用の蒸留塔よりも装置的に簡単に構成されているので、これらは一般に低い投資費用の利点を有する。
【0022】
本発明による方法において、従って分離壁塔の使用は熱的に結合された慣用の蒸留塔に対して有利であり、新しいプラントを構築する際に有利である。」

4b「【0032】
(a) 分離壁塔(又は熱的に結合された慣用の蒸留塔)/分離壁塔(又は熱的に結合された蒸留塔)
第1の有利な装置において蒸留ブロック(B1)は2つの分離壁塔及び/又は熱的に結合された慣用の蒸留塔の1つの相応の装置を有し、その際
(i)第1の分離壁塔又は熱的に結合された慣用の蒸留塔の相応の装置(K1a)において少なくとも3つのフラクションへの分離が行われ、
(ii)テトラヒドロフランが濃縮された得られる中沸点フラクションを第2の分離壁塔又は熱的に結合された慣用の蒸留塔の相応の装置(K1b)において少なくとも3つのフラクションに分離し、その際、中沸点フラクションとしてテトラヒドロフランが得られ、かつ低沸点フラクションを(K1a)に戻す。
【0033】
有利な配置の図示は図4に挙げられる。 ・・・・・ 」

4c「

」(図4)

(5)甲5の記載事項
甲5には、以下の事項が記載されている。
5a「【課題】熱効率、蒸留効率、設備費の大幅な節減効果に優れ、かつ安全性が向上した内部熱交換型蒸留装置を提供すること。
【解決手段】3またはそれ以上の成分を含む多成分含有液の蒸留装置は、上流から下流に向けて連続的に配置された少なくとも2塔から構成され、第1塔は該多成分含有液を蒸気として、隣接する下流の塔に供給し得る塔であり、第2塔から最下流の塔までの下流の塔はいずれも圧縮機を必要としない内部熱交換型蒸留塔であり、それぞれの塔が独立した濃縮部および回収部を備えており、該回収部の塔頂に回収部凝縮器が、そして該回収部の塔底にはリボイラーが配設されている。この装置においては、第1塔からの多成分を含有する蒸気は、加圧された状態で下流の塔の濃縮部に順次供給され、回収部塔頂からの蒸気は凝縮されて、回収部および隣接する上流側の濃縮部に還流するように構成されており、一方、各塔の回収部塔底から、高沸点の成分から順に回収するという、従来とは全く異なるフローが提供される。
【選択図】図8」(要約)

5b「

」(図8)

(6)甲6の記載事項
甲6には、以下の事項が記載されている。
6a「垂直分割型カラムの発想の原点は従来の2塔蒸留方式の代わりに1本の塔の中間に垂直仕切板を設置することで,省スペース,省エネルギーで,3成分を分離することにある.」(627ページ右欄5?7行)

2 甲1に記載された発明
記載事項1a?1mによると、甲1には、ホルムアルデヒド、水、酸化エチレンなどを含む酸化エチレン水溶液からなる原料流を、互いに接続された2基の蒸留塔205、206によって蒸留し分離して酸化エチレン製品を得るようにした蒸留方法及び蒸留装置が記載されているといえる。
次に、記載事項1l、1m(第5図)の蒸留方法及び蒸留装置に着目すると、酸化エチレン原料流は、管532によって第一蒸留塔205に分配メンバー577を使用して導入され、第一蒸留塔の塔底生成物として管556によってエチレングリコールを含有する水溶液が取出され、第一蒸留塔の塔頂生成物は、管201によって第一蒸留塔205から取出され、分配メンバー203を通り、第二蒸留塔の下部に蒸留原料として導入される。
記載事項1m(第5図)からすると、上記蒸留原料は、蒸気であるといえる。
第一蒸留塔205から取出される塔底生成物の第一の部分は、再吸収装置に循環され、塔底生成物の第二の部分は、リボイラ559、管558及び分配器メンバー572を通り、第一蒸留塔の下部に循環される。
また、第二蒸留塔206では、酸化エチレン製品流が第二蒸留塔206から管585によって側流として取出され、塔頂生成物は、管554によって取出され、凝縮器589で凝縮され、生成する流出物は、気液分離器552に供給され、気液分離部552から管586によって取出された液の一部は、還流液として第二蒸留塔206の上部へ循環され、ホルムアルデヒド含有酸化エチレン流からなるこの液の残りの部分は、管587から取出される。
そして、第二蒸留塔206から取出される塔底液の一部は、管202を通り、分配器メンバー292を通って第一蒸留塔205の上部に循環される。

これらのことから、甲1には、
「ホルムアルデヒド、水、酸化エチレンなどを含む酸化エチレン水溶液を蒸留分離する方法であって、
前記酸化エチレン水溶液は、第一蒸留塔に導入され、エチレングリコールを含む水溶液は、塔底生成物として取出され、塔頂生成物は、蒸気として第二蒸留塔の下部に導入され、
前記第二蒸留塔において、酸化エチレン製品流は側流として取出され、ホルムアルデヒド含有酸化エチレン流は、塔頂生成物として取出され、前記第二蒸留塔から取出される塔底液の一部は、前記第一蒸留塔の上部に循環され、
前記第一蒸留塔から取出される塔底生成物の一部分は、リボイラを通すようにした、ホルムアルデヒド、水、酸化エチレンなどを含む酸化エチレン水溶液の蒸留分離方法。」
の発明(以下、「甲1-1発明」という。)が記載されていると認められる。
また、甲1には、
「ホルムアルデヒド、水、酸化エチレンなどを含む酸化エチレン水溶液の蒸留分離のための装置であって、互いに接続された2基の蒸留塔を含み、
第一蒸留塔の塔頂生成物の蒸気は、第二蒸留塔の下部に導入され、
前記第二蒸留塔から取出される塔底液の一部は、前記第一蒸留塔の上部に循環され、
前記第二蒸留塔は、酸化エチレン製品流が側流として取出され、
前記第一蒸留塔が、前記第一蒸留塔から取出される塔底生成物の一部分を通すリボイラーを含む、ホルムアルデヒド、水、酸化エチレンなどを含む酸化エチレン水溶液の蒸留分離のための装置。」
の発明(以下、「甲1-2発明」という。)が記載されていると認められる。

3 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 発明の対比
本件発明1と甲1-1発明とを対比する。
甲1-1発明の「酸化エチレン水溶液」において、ホルムアルデヒドは低沸点分、酸化エチレンは中沸点分、水は高沸点分であることは、明らかである。
そうすると、甲1-1発明の「ホルムアルデヒド、水、酸化エチレンなどを含む酸化エチレン水溶液」は、本件発明1の「少なくとも1つの低沸点分、少なくとも1つの中沸点分、および少なくとも1つの高沸点分を含む3つ以上の成分の混合物」に相当する。
また、甲1-1発明の「方法」は、本件発明1の「プロセス」に相当する。
次に、甲1-1発明の第一蒸留塔のエチレングリコールを含む水溶液が、塔底生成物として取出されることで、高沸点分の水が除去されることは明らかである。
そうすると、甲1-1発明の「第一蒸留塔」は、本件発明1の「第一の蒸留カラム」に相当するから、
甲1-1発明の「酸化エチレン水溶液は、第一蒸留塔に導入され」は、本件発明1の「3つ以上の成分の混合物は、第一の蒸留カラムへ供給され」に、
甲1-1発明の「エチレングリコールを含む水溶液は、塔底生成物として取出され」は、本件発明1の「少なくとも1つの高沸点分は、塔底留分として除去され」に、
甲1-1発明の「塔頂生成物は、蒸気として」は、本件発明1の「塔頂留分は、蒸気の形態で」に、
それぞれ相当する。
また、甲1-1発明の第二蒸留塔において、ホルムアルデヒド含有酸化エチレン流が塔頂生成物として取出されることで、低沸点分であるホルムアルデヒドが除去され、酸化エチレン製品流が側流として取出されることで、中沸点分である酸化エチレンが除去されることは明らかである。
そうすると、甲1-1発明の「第二蒸留塔」は、本件発明1の「第二の蒸留カラム」に相当するから、
甲1-1発明の「第二蒸留塔の下部に導入され」は、本件発明1の「第二の蒸留カラムの塔底部へ直接供給され」に、
甲1-1発明の「酸化エチレン製品流は側流として取出され」は、本件発明1の「少なくとも1つの中沸点分は、側流取出し部(sidestream takeoff)を介して除去され」に、
甲1-1発明の「ホルムアルデヒド含有酸化エチレン流は、塔頂生成物として取出され」は、本件発明1の「少なくとも1つの低沸点分は、塔頂留分として除去され」に、
甲1-1発明の「第二蒸留塔から取出される塔底液の一部」は、本件発明1の「第二の蒸留カラムからの塔底取り出し流」に、
甲1-1発明の「第一の蒸留塔の上部に循環され」は、本件発明1の「第一の蒸留カラムへ還流として戻され」に、
それぞれ相当する。
さらに、甲1-1発明の「第一蒸留塔から取出される塔底生成物の一部分は、リボイラを通す」ことは、リボイラが塔底生成物を蒸発させることは明らかであることからすると、本件発明1の「第一の蒸留カラムの塔底流を蒸発器システムにより、部分的または完全に蒸発させ、気体流の形態、または、気体流および液体流の形態にする」に相当する。

以上のことから、本件発明1と甲1-1発明とは、
「少なくとも1つの低沸点分、少なくとも1つの中沸点分、および少なくとも1つの高沸点分を含む3つ以上の成分の混合物の蒸留分離のためのプロセスであって、
ここで、前記3つ以上の成分の混合物は、第一の蒸留カラムへ供給され、それによって、前記少なくとも1つの高沸点分は、塔底留分として除去され、塔頂留分は、蒸気の形態で第二の蒸留カラムの塔底部へ直接供給され、
ここで、前記第二の蒸留カラムにおいて、前記少なくとも1つの中沸点分は、側流取り出し部(sidestream takeoff)を介して除去され、前記少なくとも1つの低沸点分は、塔頂留分として除去され、さらには、前記第二の蒸留カラムからの塔底取り出し流は、前記第一の蒸留カラムへ還流として戻され、
ここで、前記第一の蒸留カラムの塔底流を蒸発器システムにより、部分的または完全に蒸発させ、気体流の形態、または、気体流および液体流の形態にすることを特徴とする、3つ以上の成分の混合物の蒸留分離のためのプロセス。」
の点で一致し、以下の点で両者は相違している。

相違点1-1
本件発明1は、「両蒸留カラム共に、垂直分割壁を有し、前記垂直分割壁が、第一の蒸留カラムにおいては、前記蒸留カラム内部の上端部に達しており、前記第二の蒸留カラムにおいては、前記蒸留カラム内部の下端部に達し」という各蒸留カラムの垂直分割壁構造が特定事項とされているのに対して、甲1-1発明は、そのような構造の蒸留塔ではない点。

相違点の判断
記載事項2d,2eを参照すると、甲2に記載されている「第1の蒸留塔」、「第2の蒸留塔」、「中仕切り」は、本件発明1の「第一の蒸留カラム」、「第二の蒸留カラム」、「垂直分割壁」に相当し、甲2に記載されている「中仕切り」が「第1の蒸留塔において、塔頂から下方に向けて所定の箇所まで延在」することは、本件発明1の「垂直分割壁」が「第一の蒸留カラムにおいては、蒸留カラム内部の上端部に達し」という特定事項に相当し、甲2に記載されている「中仕切り」が「第2の蒸留塔において、塔底から上方に向けて所定の箇所まで延在する」ことは、本件発明1の「垂直分割壁」が「第二の蒸留カラムにおいては、前記蒸留カラム内部の下端部に達し」という特定事項に相当する。
そうすると、上記相違点1-1に係る本件発明1の特定事項は、甲2に記載されているといえる。
そして、申立人は、特許異議申立書において、上記相違点1-1(なお、特許異議申立書では、相違点1(垂直分割壁を設ける点)及び相違点2(垂直分割壁の形状)の2つの相違点としている。)については、甲2に記載されたものであり、甲1発明に甲2に記載された事項を結びつける動機があるから、本件発明1は、当業者が容易に想到し得たことであると主張している。
そこで、甲1-1発明において、甲2に記載の蒸留装置の中仕切りの構造を組み合わせることを、当業者が容易に想到し得るものであるのかについて以下に検討する。

甲2の記載事項2c、2dによると、従来は6基の蒸留塔が配設されて、各蒸留塔において加熱及び冷却をそれぞれ繰り返す必要があるので、消費されるエネルギーが大きくなるだけでなく、蒸留装置が大型化するとともに、蒸留装置のコストが高くなるという課題があったところ、甲2に記載の蒸留装置は、それぞれが中仕切りを備えた第1の蒸留塔及び第2の蒸留塔を配設することにより、配設する蒸留塔の数を減らすことができ、付帯機器及び計装品も少なくすることができ、消費されるエネルギーコストを少なくすることができるだけでなく、蒸留装置を小型化することができ、蒸留装置のコストなどを低くすることができるというものである。
具体的には、記載事項2eによると、甲2に記載の蒸留装置において、従来の蒸留装置における抽出蒸留塔11、精留塔12、脱酒精塔13は、エタノールの精製を行う第1蒸留塔の第1?第3のカラム27?29に対応させ、従来の蒸留装置における精製塔14及び脱メタノール塔15は、エタノールの精製及びメタノールの分離を行う第2蒸留塔の第1?第3のカラム33?35に対応させて、エタノールの蒸留装置における蒸留塔の数を少なくしたものである。
そうすると、甲2に記載の蒸留装置は、従来、複数の蒸留塔が使用されていたところ、1つの蒸留塔において、中仕切りを備えることにより各蒸留塔に対応した蒸留を行う蒸留カラムを蒸留塔内で連結した構造として、消費されるエネルギーを少なくし、蒸留装置のコスト等を低くすることを具体化したものであるから、もともと単一の蒸留塔で行っていた蒸留工程を、中仕切りにより分割して単一の蒸留塔内で蒸留を行うことを動機付けるものではない。
そして、複数の蒸留塔を備える蒸留装置において消費されるエネルギーを少なくすること等が周知の課題であるとはいえるものの、甲2の記載事項を根拠として、甲1-1発明において、第一蒸留塔及び第二蒸留塔のそれぞれに、甲2に記載の蒸留装置の中仕切りの構造を組み合わせることは想定できない。
よって、甲1-1発明において、上記相違点1-1に係る本件発明1の特定事項である垂直分割壁の構造を設けることは、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

なお、申立人は、特許異議申立書において、甲2?甲6に記載されているように、多成分混合物を分離するために2つもしくはそれ以上の垂直分割型蒸留塔又は内部熱交換型蒸留塔を連結して使用することは、従来からよく知られたプロセスであり、また、甲6の記載からすると、甲1の図5に示される態様において、2つの精留塔をそれぞれ垂直分割型カラムに代替することにより格別の効果が得られたものとはいえないと主張する。
しかし、甲2?甲6の記載事項からは、垂直分割型蒸留塔又は内部熱交換型蒸留塔は周知技術であることがいえるにとどまり、また、甲6は、2塔の蒸留塔を1本の塔の中間に垂直分離壁を設置することで、省スペース、省エネルーの効果が得られるという甲2と同様の効果について記載しているにすぎないから、これらの記載事項をみても、甲1-1発明において、甲2に記載の蒸留装置の中仕切りの構造を組み合わせることの動機付けが存在するとはいえない。

以上のことから、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2?甲6に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様に、甲1に記載された発明及び甲2?甲6に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明7について
ア 発明の対比
本件発明7と甲1-2発明とを、本件発明1と甲1-1発明との対比と同様にして対比すると、
甲1-2発明の「ホルムアルデヒド、水、酸化エチレンなどを含む酸化エチレン水溶液」は、本件発明7の「3つ以上の成分の混合物」に、
甲1-2発明の「互いに接続された2基の蒸留塔」は、本件発明7の「物質移動を可能とするように互いに結合された2つの蒸留カラム」に、
甲1-2発明の「第一蒸留塔の塔頂生成物の蒸気」は、本件発明7の「第一の蒸留カラムの蒸気」に、
甲1-2発明の「第二蒸留塔の下部に導入」されることは、本件発明7の「第二の蒸留カラムの塔底部と通流可能に接続」されることに、
甲1-2発明の「第二蒸留塔から取出される塔底液の一部」は、本件発明7の「第二の蒸留カラムの塔底取り出し流」に、
甲1-2発明の「第一蒸留塔の上部に循環」は、本件発明7の「第一の蒸留カラムの還流セクションに通流可能に接続」に、
甲1-2発明の「第二蒸留塔は、酸化エチレン製品流が側流として取出され」ることは、本件発明7の「第二の蒸留カラムは、塔頂取り出し部よりも下、および塔底取り出し部よりも上に、1つ以上の側流取り出し部を有」することに、
甲1-2発明の「第一蒸留塔が、前記第一蒸留塔から取出される塔底生成物の一部分を通すリボイラーを含む」は、本件発明7の「第一の蒸留カラムが、前記蒸留カラムの液体塔底流を蒸発させる1つ以上の蒸発器を含む」ことに、それぞれ相当する。

以上のことから、本件発明7と甲1-2発明とは、
「3つ以上の成分の混合物の蒸留分離のための装置であって、物質移動を可能とするように互いに結合された2つの蒸留カラムを含み、
ここで、第一の蒸留カラムの蒸気は、第二の蒸留カラムの塔底部と通流可能に接続され、前記第二の蒸留カラムの塔底取り出し流は、前記第一の蒸留カラムの還流セクションに通流可能に接続され、
ここで、前記第二の蒸留カラムは、塔頂取り出し部よりも下、および塔底取り出し部よりも上に、1つ以上の側流取り出し部を有し、
前記第一の蒸留カラムが、前記蒸留カラムの液体塔底流を蒸発させる1つ以上の蒸発器を含むことを特徴とする、3つ以上の成分の混合物の蒸留分離のための装置。」
の点で一致し、以下の点で両者は相違している。

相違点1-2
本件発明7は、「両蒸留カラムは、垂直分割壁を有し、前記垂直分割壁が、第一の蒸留カラムにおいては、前記蒸留カラム内部の上端部に達しており、前記第二の蒸留カラムにおいては、前記蒸留カラム内部の下端部に達しており」という各蒸留カラムの垂直分割壁構造が特定事項とされているのに対して、甲1-2発明は、そのような構造の蒸留塔ではない点。

相違点の判断
本件発明7と甲1-2発明との上記相違点1-2は、本件発明1と甲1-1発明との上記相違点1-1と共通するものであるから、当該相違点1-2についての判断は、上記「(1)イ 相違点の判断」に記載した上記相違点1-1の判断と同様であり、本件発明7は、甲1に記載された発明及び甲2?甲6に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明8、9について
本件発明8、9は、本件発明7を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明7と同様に、甲1に記載された発明及び甲2?甲6に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1?5、7?9に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?5、7?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-03-31 
出願番号 特願2016-509350(P2016-509350)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 神田 和輝  
特許庁審判長 服部 智
特許庁審判官 小川 進
後藤 政博
登録日 2019-04-26 
登録番号 特許第6518233号(P6518233)
権利者 ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
発明の名称 三成分または多成分混合物の蒸留による分離のための方法および装置  
代理人 浅野 真理  
代理人 朝倉 悟  
代理人 柏 延之  
代理人 永井 浩之  
代理人 中村 行孝  
代理人 末盛 崇明  
代理人 宮嶋 学  

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