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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1361497
異議申立番号 異議2020-700048  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-01-30 
確定日 2020-04-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6552905号発明「調味肉の製造方法及び食肉製品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6552905号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6552905号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成27年7月29日の出願であって、令和1年7月12日に特許権の設定登録がされ、同年同月31日にその特許公報が発行され、その後、令和2年1月30日に、特許異議申立人 三浦 統生(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年同月31日に異議申立書の手続補正書が提出されたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
本件特許請求の範囲の記載は以下のとおりであり、請求項1?8に係る特許発明をそれぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明8」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。
【請求項1】
冷凍状態の原料肉断片を調味液中に浸漬し、前記原料肉断片を解凍する工程を含む、調味肉の製造方法であって、
前記原料肉断片が、前記原料肉のスライス片又は前記原料肉の挽肉であり、
浸漬後の原料肉断片の重量/浸漬前の原料肉断片の重量×100で定義される前記原料肉断片の重量増加率が110%以上となるまで、前記原料肉断片を前記調味液中に浸漬する、前記製造方法。
【請求項2】
前記原料肉断片が、前記原料肉のスライス片であり、前記スライス片の厚さが、15mm以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記原料肉断片が、前記原料肉のスライス片であり、前記スライス片の厚さが、7.5mm以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
冷凍状態の原料肉を切断して前記原料肉断片を調製する工程を含む、請求項1?3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記浸漬の開始直前における前記調味液の液温が0℃以上である、請求項1?4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記浸漬の開始直前における前記原料肉断片の肉温が-10℃?-3℃であって、前記浸漬の開始直前における前記調味液の液温が2℃?15℃である、請求項1?4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記浸漬の開始直前における前記調味液のブリックス値が8以上である、請求項1?6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1?7のいずれか一項に記載の製造方法により調味肉を製造する工程、及び、前記調味肉を食肉製品に加工する工程を含む、食肉製品の製造方法。

第3 特許異議申立人が申し立てた申立理由
特許異議申立人が申し立てた申立理由の概要は以下のとおりである。

理由1 請求項1,4,5,7,8に係る特許は、当該請求項に係る発明が、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された下記甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するため、同法同条第1項に違反してされたものである。

理由2 請求項1?8に係る特許は、当該請求項に係る発明が、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された下記甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

理由3 請求項1?8に係る特許は、「原料肉に物理的ダメージが加わりにくい調味肉」をどのように製造すればよいかが不明であり、出願時の技術常識に照らしても本件特許発明の課題を解決するための手段が特許請求の範囲に反映されているとは認められないし、実施例で用いた厚み等の大きさのスライス片以外は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているから、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由4 請求項1?8に係る特許は、「浸漬後の原料肉断片の重量」は、浸漬後のどの状態の原料肉断片の重量を意味するかが不明であるし、「スライス片」の文言の定義がなく包含する範囲が不明確であるので、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由5 請求項1?8に係る特許は、「原料肉に物理的ダメージが加わりにくい調味肉」をどのように製造すればよいかが不明であり、実施例に開示された所定厚みのスライス片以外の原料肉断片を用いて本件特許発明に規定される調味肉を製造できるように記載されておらず、実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。


甲第1号証:宮原晃義 外4名,日本食品科学工学会誌,2011年2月,第58巻,第2号,62?66頁
甲第2号証:青木三恵子編,エキスパート管理栄養士養成シリーズ11 調理学(第2版),2006年3月31日,(株)化学同人,84頁
甲第3号証:特開平2-268662号公報
甲第4号証:特開昭60-224443号公報
甲第5号証:特開2010-154797号公報
甲第6号証:特開昭59-151871号公報
甲第7号証:新村 出編,広辞苑第四版,株式会社岩波書店,1991年,第1398頁
甲第8号証:平成31年3月12日付け意見書の写し

なお、甲第7号証は「スライス」の通常の意味を示すために申立人が理由4に関して提出した証拠であり、甲第8号証は、特許権者の主張を引用するために理由3,理由5に関して提出した証拠である。

第4 当審の判断
当審は、請求項1?8に係る特許は、特許異議申立人が申し立てた申立理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
理由は以下のとおりである。

1 理由1及び理由2について
特許法第29条第1項第3号(新規性)及び特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)甲号証の記載
(1-1)甲第1号証
本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる甲第1号証には以下の記載がある。
(1a)「本研究では,凍結状態の豚ロース肉を解凍せずに塩漬液に直接投入して塩漬液の中で解凍を行い,そのまま4℃の解凍庫に10日間保存・熟成させた後,通常の方法でロースハムを製造した場合,肉質や製品にどのような影響があるかについて検討した.」(62頁右欄3?7行)

(1b)「実験方法
1.実験材料
凍結状態のカナダ産豚ロース肉を4分割し,その凍結状態のロース肉2個にドリルで中心部と表面部に穴を開け,温度センサーを取り付け-20℃の冷凍庫で肉の温度が安定するまで1日放置した.その後(株)T and D社製 TR-71U,Thermo Recorder(おんどとり)を装着して解凍時の温度を測定した.また,4分割しない凍結豚ロース肉3本(12kg)のうちの1本に上記と同様にセンサーを取り付けて解凍時の温度を測定した.
2.塩漬液
1)塩漬液は,水道水に食塩,砂糖,・・・を配合して調製した.この配合率を表1に示した.塩漬液の量は肉重量とほぼ同量とした.
2)4分割しない凍結豚ロース肉3本(12kg)の塩漬解凍では,塩漬液の配合は表1の3の割合で配合した.塩漬液量は肉重量の1/2を用いて塩漬解凍を行った.
3.解凍温度の測定
温度センサーを取り付けた凍結肉の温度が-20℃に安定した後,解凍庫と塩漬液に移し,解凍時の温度を測定した.空気解凍法では5℃の解凍庫・・・で解凍した.解凍したロース肉は調製ずみの塩漬液(5℃)に漬けた後,4℃の塩漬室で13日間塩漬した.塩漬解凍法では温度センサーを付けた凍結肉を塩漬液に漬けて塩漬室に保存した.解凍温度は塩漬液が漬け込み直前に約20℃であり,凍結肉を投入すると約5分後には約2℃となった.4℃の塩漬室の冷却ON:OFFは5℃:3℃設定とした.
4.ロースハムの製造工程
解凍および塩漬が終了したロース肉塊の遊離水を布で軽く拭き取り,それぞれの重量を測定した.・・・

」(63頁左欄)

(1c)「5.重量の測定
重量は凍結肉を4分割した後に測定した.また,解凍後の肉重量は容器から取り出し肉に付着している遊離水を布で軽く拭き取ってから計測した.塩漬後の肉重量は塩漬液から取り出し,布で軽く拭き取ってから測定した.製品の重量測定は蒸煮し冷却後に行い歩留を算出した.歩留りは凍結肉重量を100として計算した.」(63頁右欄1?7行)

(1d)「実験結果と考察
1.解凍時の温度変化
空気解凍法と塩漬解凍法の温度変化を図1に示した.
温度測定を開始するまでに記録計の準備やセンサーのセットをする間に冷凍庫から取り出した肉塊を室温に放置していたため,-20℃で安定していた肉塊の温度が上昇し,図1の解凍曲線が0時に-16℃と-18℃になったが,凍結肉の中心部が0℃に達する時間は,いずれの解凍法も14から15時間で差が見られなかった.表面部が0℃を通過する時間は,空気解凍法が10時間であるのに対して塩漬解凍法は7時間であった.
また,凍結豚ロース肉(3本,約12kg)を塩漬解凍した時のそれぞれの温度変化を図2に示した。
・・・
3.解凍・塩漬中の重量変化とロースハムの歩留り
空気解凍と塩漬解凍中の重量変化比を図4に示した.空気解凍法では凍結肉を100とすると解凍後は94となり,塩漬2日目にほぼ100となり,塩漬13日目には104.8に達した.これは空気解凍によって凍結肉の水分がドリップとして6%流失したことになる.一方,塩漬解凍法では解凍後重量減少は見られず塩漬3日目に106となり14日後は111に達した.塩漬液の食塩濃度と塩漬日数を変えてもこの傾向はほぼ同じであった.塩漬解凍法ではなぜドリップの流失が無いのかについては今後検討したい.
塩漬終了後通常の方法で製造したロースハム製品歩留りは空気解凍法では87.9%であるのに対して塩漬解凍法では93?97%と高くなる傾向を示した(表4).また,凍結ロース3本(12kg)を12個に切断して塩漬10日後に製造したロースハムの重量変化と製品歩留り(表5)を検討した。」(63頁右欄19行?66頁左欄1行)

(1e)「

」(64頁 図1、図2)

(1f)「

」(65頁 図4)

(1g)「

」(65頁 表5)

(1-2)甲第2号証
本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる甲第2号証には以下の記載がある。
(2a)「(5)切る(切断)
切る目的は,(1)(決定注:原文では丸数字。以下同様。)食品の不可食部分を除く,(2)大きさを整え外観をよくする,(3)表面積を大きくして火のとおりや調味成分の浸透を速める,(4)飲み込みやすく消化吸収を容易にする,などである.」(84頁下から12?9行)

(1-3)甲第3号証
本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる甲第3号証には以下の記載がある。
(3a)「2)畜肉を2?10mm程度の厚みに薄切りし、みりんを含む調味液にその薄切りしたスライスを15?48時間浸漬した後に乾燥し、その乾燥後蒸気で蒸し、さらに乾燥してからみりんを噴霧することを特徴とする畜肉のみりん干しの製造方法。」(特許請求の範囲2))

(3b)「〔作 用〕
この発明は上記のような構成であるから、次のような作用を呈する。
・・・
2)畜肉のみりん干しの製造方法については、薄切りスライスに調味液の浸透性が良好であることは勿論、乾燥後に蒸気で蒸すので、特に調味液との調和が良好となり、また、肉質が軟かくなり、味もあっさりした淡泊なものとなる。しかも、さらに乾燥するので、肉質が引き締まり風味がさらに増大する。また、みりんを噴霧するので、香りが良くなり、艶も発生し、保存性も良好となる。
スライスの厚みについては、2mmよりも少ないと乾燥により肉質が硬くなり過ぎるし、10mmより多いと調味液の浸透性が不良となり、所望の風味が期待できない。」(2頁右上欄8行?左下欄8行)

(1-4)甲第4号証
本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる甲第4号証には以下の記載がある。
(4a)「2.肉繊維が略一定方向に配列するように鳥獣肉の生肉塊を調整、凍結し、-4?-8℃において肉繊維に平行に厚さ0.1?0.5mm、好ましくは0.1?0.3mmのシート状にスライスし、所望によりこのシート状生肉に調味液を含浸させたのち、望ましくはシートを広げた状態で、加熱、乾燥して水分20?30%、好ましくは26?28%とすることを特徴とする薄いシート状の乾燥鳥獣肉の製造法。」(特許請求の範囲 請求項2)

(4b)「本発明に用いる生肉としては、家畜、家禽の鳥獣肉が好ましく、特に牛肉、豚肉、鶏肉が好ましい。これらの肉塊から、望ましくは皮、脂肪、筋膜等を除去して赤身肉とする。次いでこの赤身肉を肉繊維が柱面に略平行にかつ略長さ方向に配列する角柱状に切断する。繊維の方向を揃えたブロック肉を角柱状に整形してもよい。角柱の大きさは、例えば縦横各2?3cm、長さ10?15cm程度とし、長手方向に繊維が平行するようにすることが好ましい。この角柱状赤身肉を-4?-8℃にて凍結したあと、柱面に平行に厚さ0.1?0.5mm、好ましくは0.1?0.3mmに薄くスライスする。スライスは繊維の方向に沿って行なうのがよく、例えばかんなで削ってもよい。スライスするとき、スライス刃と肉塊との接触部が温度上昇しやすいので、この接触部付近も-4?-8℃に温度調整する必要がある。温度が-4℃より高ければ肉塊が柔かくて薄くスライスするのが難しく、-8℃より低ければ肉塊が硬すぎて割れるおそれがある。
このようにして得られたシート状生肉に、所望により別途調製した調味液を含浸させることができる。含浸は例えはシート状肉を調味液中に分散浸漬させ、攪拌混合して行なわれる。」(2頁左下欄9行?右下欄11行)

(1-5)甲第5号証
本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる甲第5号証には以下の記載がある。
(5a)「【請求項1】
塩漬工程、整形工程及び熟成乾燥工程を備えた非加熱食肉製品の製造方法において、凍結状態の原料肉に塩漬調味料を直接接触させ、塩漬調味料中の塩による氷点降下作用を利用して、マイナス温度帯で原料肉を解凍しながら塩漬調味料を原料肉中に浸透させる塩漬工程を採用することを特徴とする非加熱食肉製品の製造方法。
【請求項2】
原料肉のマイナス温度帯が-20.0℃?-1.0℃であることを特徴とする請求項1記載の非加熱食肉製品の製造方法。
【請求項3】
原料肉のマイナス温度帯が-6.0℃?-3.0℃であることを特徴とする請求項2記載の非加熱食肉製品の製造方法。
【請求項4】
塩漬工程が、凍結状態の原料肉に固体状の塩漬調味料を塗布することにより直接接触させる乾塩漬工程であることを特徴とする請求項1?3のいずれか記載の非加熱食肉製品の製造方法。
【請求項5】
塩漬工程が、凍結状態の原料肉を液体状の塩漬調味料に浸漬することにより直接接触させる湿塩漬工程であることを特徴とする請求項1?3のいずれか記載の非加熱食肉製品の製造方法。」(【特許請求の範囲】請求項1?5)

(5b)「【0009】
水は0℃で凍結するが、塩類の濃度が高くなるにつれて氷点は徐々に降下していく氷点降下作用はよく知られており、塩(NaCl)の場合は飽和濃度との関係で約-21℃まで氷点が降下する。本発明者は、凍結食肉原料を用いて、塩漬工程等を含む生ハム等の非加熱食肉製品の製造方法において、従来のように凍結食肉原料を水により又は空気中で完全に解凍することはせず、凍結状態の原料肉に塩漬調味料を直接接触させ、塩漬調味料中の塩による氷点降下作用を利用して、マイナス温度帯で原料肉を解凍していくと、肉中の氷結晶に塩が直接接触し、マイナス温度でも氷を溶かしながら、塩分が肉中に浸透し、氷結晶により肉中にできた氷の導管を通り、肉組織中に復水しながら塩漬剤が浸透し塩漬が促進するという知見を偶然に見いだし、その結果、所望の生ハム類を短期間に製造することができることを確認し、本発明を完成するに至った。」

(5c)「【0017】
塩漬工程に乾塩漬法を適用した乾塩漬工程は、凍結状態の原料肉に固体状の塩漬調味料を塗布することにより直接接触させることによって、塩による氷点降下作用を利用し、マイナス温度帯でも肉を解凍しながら塩漬調味料を原料肉中に迅速に浸透させる工程である。例えば、生ハムの製造に乾塩漬法を適用すると、ハム原木1本毎の塩漬となるため、塩漬調味料(塩漬剤)をハム原木1本単位で計量して塩漬剤を塗布し、ハム原木1本単位でシートに包んで塩漬することができ、生ハム製品中の塩分のバラツキが軽減される。加えて、肉繊維を考慮した塩漬(例えば、ロースモモ側は肉線維が縦方向に配置しているため塩がロース肩側に比べて浸透しやすい)も可能となり、生ハム製品中の塩分のバラツキを抑制することができる。その結果、約1週間で脂肪に近い赤肉部分まで塩漬剤を浸透させることができ、脂肪部分も塩漬剤とドリップからできたピックル液で塩漬される上に、従前の乾塩漬法では解凍時に流出する肉中成分が肉中に保持される結果、新鮮な肉色が維持され、肉の旨みや甘みが引き出され、塩馴れ効果も促進される。
【0018】
上記乾塩漬工程における具体的な操作について説明する。先ず、-25℃前後の凍結原料肉塊(例えば豚肩ロース)を冷蔵庫内で調温し、前記肉塊の温度を-10.0℃?-3.0℃(例えば、-5.0℃±1.0℃)に温度コントロールする。次に、前記豚肩ロース原木1本毎に例えば手により、予め肉塊の重量に応じて計量しておいた塩漬調味料の摺り込みを開始する。豚肩ロースに塩漬調味料が均一に浸透するように盛り塩量を部分的に変えながら、例えば、両端は約5cm塗布せず、厚み一定でモモ側から肩側にかけて幅を少しずつ狭くしながら盛り塩する。盛り塩した後、シートで包み一部開放しておき、低温で4?7日間静置する。この間、マイナス温度帯にある肉中においては、氷結晶に塩が触れ、マイナス温度でも氷を溶かしながら、塩分が肉中に浸透していく。氷結晶により肉中にできた氷の導管を通り、肉組織中に復水しながら塩漬剤が浸透し塩漬が進む。シートの一部開放した部分から肉より浸出したドリップを落下させ、塩漬を完了する。
【0019】
次に、肉塊の形状安定のため、モールド充填(整形工程)し、湿度の高い乾燥室に保管し、さらにスモークハウスで冷燻スモークする。スモーク後さらに乾燥室で、1?3日間熟成促進を行う。
【0020】
塩漬工程に湿塩漬法を適用した湿塩漬工程は、凍結状態の原料肉を液体状の塩漬調味料に浸漬することにより直接接触させることによって、塩による氷点降下作用を利用し、マイナス温度帯でも肉を解凍しながら塩漬調味料を原料肉中に迅速に浸透させる工程である。例えば、生ハムの製造に湿塩漬法を適用する場合、凍結状態から徐々に塩漬調味料(ピックル液)を肉中に浸透させることによって、生ハム製品中の塩分のバラツキが軽減される。その結果、約1週間で脂肪に近い赤肉部分まで塩漬剤を浸透させることができ、脂肪部分も塩漬剤とドリップからできたピックル液で塩漬される上に、従前の湿塩漬法では解凍時に流出する肉中成分が肉中に保持される結果、新鮮な肉色が維持され、肉の旨みや甘みが引き出され、塩馴れ効果も促進される。
【0021】
上記湿塩漬工程における具体的な操作について説明する。先ず、-25℃前後の凍結原料肉塊(例えば豚肩ロース)を冷蔵庫内で調温する。前記肉塊の肉中心部の温度を-10.0℃?-3.0℃(例えば、-4.0℃±0.5℃)に温度コントロールする。次に、豚ロース原木が50本前後収容できる程度の容器に、氷結晶による結合防止のため1本毎に仕切られた2段の仕切り枠に、肩側を上にして縦に吊るして入れ、塩漬溶液を豚ロースの肩口に掛けながらロース肩側がピックル液に浸る水位まで塩漬溶液を入れる。この状態で静置し、この間マイナス温度帯で塩漬熟成させる。該熟成により肉の旨味、甘味を引き出し、塩馴れ効果を促進させる。10日前後の後に、塩漬溶液を抜き、約24時間静置し、上記乾塩漬工程と同様にモールド充填、冷燻、乾燥する。
【0022】
塩漬工程において、塩漬処理のための塩漬調味剤は、通常の食塩の他に、発色剤(亜硝酸ナトリウム等)、調味料(例えばアミノ酸)、香辛料(例えばブラックペッパー、ガーリック)、糖類(例えばビートグラニュ糖)、酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸、その塩)等を含んでいることが好ましい。また、塩漬調味料の必須成分である食塩は、天然天日塩、海洋深層水塩、精製塩等を使用することができるが、ミネラル成分を含み見かけ比重の小さい湿った海洋深層水塩等を一部利用するか又はその全てを用いることが好ましい。」

(5d)「【実施例2】
【0029】
[湿塩漬法]
(塩漬工程)
-25℃前後に凍結した豚ロースを冷蔵庫内(+1.5℃±1℃)で6日間静置し、調温し、湿塩漬時の肉温を、-4℃±0.5℃に温度コントロールする。浸漬方法は、400リットルの大型容器(以下、「ジャンボックス」という)を用いて、複数本の豚ロース原木が氷温による結合防止のため個別に嵌入しうるように2段の仕切り枠をジャンボックスに取りはずし可能に設置しておく。ジャンボックスに棒状の豚ロース原木55本を収容し、豚ロースの量に応じて塩漬液(以下、「ピックル液」という)を必要量ジャンボックスに注いだ。このときの肉温は、-3.9±0.5℃を示した。ピックル液の組成は、水1リットル中に塩(海洋深層水塩) 17重量%、香辛料 1重量%、糖類 20重量%、L-アスコルビン酸ナトリウム 0.1重量%、亜硝酸Na 0.2重量%含有する溶液を用いた。浸漬3日目で、肉温中心-4.1℃±0.3℃を示し、5日目で肉温モモ側-3.5℃、中心-3.8℃、肩側-3.9℃、ピックル液-3.5℃を示し、6日目で、肉、ピックル液ともに-3.0℃?-3.5℃のため、5℃の室内に9時間静置した。次いで7日目は、室温0℃にて静置し、8日目では、肉、ピックル液とも-2.5℃?-3.2℃とマイナス温度を示したが肉全体氷結晶の硬さは見られなかった。10日目でピックル液をジャンボックスから抜き、枠を底部に敷きその上に豚ロースを並べ重ね、シートを被せて静置し、11日目も、同様に静置した。」

(1-6)甲第6号証
本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる甲第6号証には以下の記載がある。
(6a)「(1)生鮮野菜類、果実類、食肉類、水産魚介藻類又はこれらの冷凍品もしくは加工品を調味料液に浸漬し、もしくはこれらに塩、その他の調味料を散布添加することを含む上記食品類の漬け込み加工方法において、上記被漬け込み品を漬け込み加工中に帯電させることを特徴とする、上記食品の漬け込み加工方法。」(特許請求の範囲(1))

(6b)「a)ピックル液の調製
室温の下で、水1l中にまず食塩(鮭では50g;豚肉の場合は70g)を添加し、完全に溶解した後他の成分酒又は味醂30?50g、化学調味料3?5g、砂糖20?30g(以上は配合の例である)を攪拌しつつ順次添加し、冷却しつつ約l晩放置した。その結果はほぼ透明なピックル液が得られた。
b)かくして得たピックル液を使用して、以下のものを被漬け込み原料として用い、漬け込んだ。
・・・
支持体として絶縁性プラスチックプラコンを使用し、・・・電極はアルミ製・・・のものを使用した。ピックル液は+2℃であった。鮭は3日間、豚肉は一週間漬け込みを行った。」(4頁左下欄13行?右下欄14行)

(1-7)甲第7号証
本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる甲第7号証には以下の記載がある。
(7a)「スライス・・・
(1)(決定注:原文は丸数字。)薄く切ること。・・・」(1398頁「スライス」の項目)

(1-8)甲第8号証
(8a)「(進歩性)
上記の通り、本願発明は、冷凍状態の原料肉断片を調味液中に浸漬し、原料肉断片を解凍する工程において、冷凍状態の原料肉断片として、原料肉のスライス片又は原料肉の挽肉を使用し、浸漬後の原料肉断片の重量/浸漬前の原料肉断片の重量×100で定義される原料肉断片の重量増加率が110%以上となるまで、原料肉断片を調味液中に浸漬する、という特徴を有します。
そして、本願発明によれば、単位時間あたりに原料肉断片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)、及び、原料肉断片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加し、これにより、110%以上という原料肉断片の重量増加率を、解凍状態の原料肉断片を調味液中に浸漬する場合と比較して顕著に短時間で実現することができます(本願明細書の段落0023等)。
かかる本願発明の効果は、本願明細書の実施例及び比較例で裏付けられています。」(2頁13?24行)

(2)甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証は、「凍結状態の豚ロース肉を解凍せずに塩漬液に直接投入して塩漬液の中で解凍を行い,そのまま4℃の解凍庫に10日間保存・熟成させた後,通常の方法でロースハムを製造した場合,肉質や製品にどのような影響があるかについて検討した」文献であって(摘記(1a))、実験方法として、摘記(1b)には、カナダ産豚ロース肉を4分割した凍結状態のロース肉と4分割しない凍結豚ロース肉が実験材料として用いられたことが記載され、塩漬液としては、表1も含めて、水道水、食塩、砂糖、ニュー硝素、化学調味料、香辛料抽出液が特定の組成で配合されたものを用いたこと、塩漬解凍法では温度センサーを付けた凍結肉を塩漬液に漬けて塩漬室に保存したことが記載されている。
そして、実験結果として、摘記(1d)摘記(1e)には、カナダ産豚ロース肉を4分割した凍結状態のロース肉が-20℃から最終的に表面及び中心ともに0℃以上に達したことが示されている。
さらに、摘記(1d)摘記(1f)摘記(1g)には、凍結肉を塩漬解凍法で解凍することで、重量変化比として、凍結肉100とすると14日後に111に達したこと(図4)、凍結ロース3本(12kg)を12個に切断したもの一つの1003gの凍結肉が塩漬後1125g(表5の2段目)となったことが示されている。

したがって、甲第1号証には、「凍結状態の豚ロース肉を解凍せずに塩漬液に直接投入して塩漬液の中で解凍を行う塩漬解凍法において、カナダ産豚ロース肉を4分割した凍結状態のロース肉を、水道水、食塩、砂糖、ニュー硝素、化学調味料、香辛料抽出液が配合された塩漬液に漬け、塩漬室に保存した結果、該4分割した凍結状態のロース肉が-20℃から表面及び中心ともに0℃以上になり、重量変化比として、塩漬前の凍結肉を100をとすると14日後に111となった結果、又は凍結ロース12kgを切断した1003gの凍結肉が塩漬後1125gとなった結果を得た方法」(以下、「引用発明1」という。)が開示されているといえる。

イ また、甲第1号証には、以下の発明も記載されているといえる。
「凍結状態の豚ロース肉を解凍せずに塩漬液に直接投入して塩漬液の中で解凍を行う塩漬解凍法によって、カナダ産豚ロース肉を4分割した凍結状態のロース肉を、水道水、食塩、砂糖、ニュー硝素、化学調味料、香辛料抽出液が配合された塩漬液に漬け、塩漬室に保存した結果、該4分割した凍結状態のロース肉が-20℃から表面及び中心ともに0℃以上になり、重量変化比として、塩漬前の凍結肉を100をとすると14日後に111となった結果、又は凍結ロース12kgを切断した1003gの凍結肉が塩漬後1125gとなった結果を得て塩漬、解凍が終了後、通常の方法で製造したロースハム製品の製造方法」(以下、「引用発明2」という。)

ウ 特許異議申立人は、特許異議申立書19頁下から8行?20頁7行において、甲第1号証から「甲1発明」を認定しているが、「カナダ産豚ロース肉を4分割した凍結状態のロース肉」を「分割片」と認定している点や開示された図1、図4、表5の結果を本件特許発明1のパラメータに相当するものとして計算した結果を用いて発明を認定している点等、正確に記載された又は記載されているに等しい発明といえないものであるため、特許異議申立人の認定した「甲1発明」を本件特許発明の対比の対象として、採用することはできない。

(3)対比・判断
(3-1)本件特許発明1について
ア 引用発明1との対比
本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、
引用発明1の「凍結状態」「豚ロース肉」「水道水、食塩、砂糖、ニュー硝素、化学調味料、香辛料抽出液が配合された塩漬液」は、それぞれ本件特許発明1の「冷凍状態」「原料肉」「調味液」に相当又は該当し、引用発明1の「凍結状態のロース肉が-20℃から表面及び中心ともに0℃以上にな」ることは、本件特許発明1の「原料肉」の「解凍」に相当するので、引用発明1の「凍結状態の豚ロース肉を解凍せずに」「水道水、食塩、砂糖、ニュー硝素、化学調味料、香辛料抽出液が配合された」「塩漬液に直接投入して塩漬液の中で解凍を行う」ことは、本件特許発明1の「冷凍状態の原料肉」「を調味液中に浸漬し、」「前記原料肉」「を解凍する工程」である限りにおいて共通する。

したがって、本件特許発明1と引用発明1とは、「冷凍状態の原料肉を調味液中に浸漬し、前記原料肉を解凍する工程を含む方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:原料肉の浸漬時の形態に関して、本件特許発明1は、「冷凍状態の原料肉断片を調味液中に浸漬し」「、前記原料肉断片を解凍する」と特定され、さらに「前記原料肉断片が、前記原料肉のスライス片又は前記原料肉の挽肉であ」ると特定されているのに対して、引用発明1は、「カナダ産豚ロース肉を4分割した凍結状態のロース肉」であると特定されている点

相違点2:本件特許発明1は、「浸漬後の原料肉断片の重量/浸漬前の原料肉断片の重量×100で定義される前記原料肉断片の重量増加率が110%以上となるまで、前記原料肉断片を前記調味液中に浸漬する」「調味肉の製造方法」であるのに対して、引用発明1は、カナダ産豚ロース肉を4分割した凍結状態のロース肉を、水道水、食塩、砂糖、ニュー硝素、化学調味料、香辛料抽出液が配合された塩漬液に漬け、塩漬室に保存した結果、該4分割した凍結状態のロース肉が重量変化比として、塩漬前の凍結肉を100をとすると14日後に111となった結果、又は凍結ロース12kgを切断した1003gの凍結肉が塩漬後1125gとなった結果を得た豚ロース肉の塩漬解凍法である点

イ 相違点1の判断
引用発明1の「カナダ産豚ロース肉を4分割した凍結状態のロース肉」は、甲第1号証の摘記(1b)の「4分割しない凍結豚ロース肉3本(12kg)」との記載からみて、1kgもの重量を有するものであり、本件特許発明1の「原料肉断片」とはいえないし、ましてや「原料肉のスライス片又は前記原料肉の挽肉」に相当しないのはあきらかである。
したがって、相違点1は、実質的相違点であり、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明とはいえない。

また、甲第1号証は、「凍結状態の豚ロース肉を解凍せずに塩漬液に直接投入して塩漬液の中で解凍を行い,そのまま4℃の解凍庫に10日間保存・熟成させた後,通常の方法でロースハムを製造した場合,肉質や製品にどのような影響があるかについて検討した」文献であって(摘記事項(1a))、「4分割しない凍結豚ロース肉3本(12kg)」をも実験材料として用いていることからも明らかなように、豚ロース肉を分割しているのは、単に実験条件の異なる実験に用いる材料を用意するために行っているものであるといえる。
したがって、引用発明1において、引用発明1の「カナダ産豚ロース肉を4分割した凍結状態のロース肉」をさらに、「原料肉のスライス片又は挽肉」にすることは想定されていないといえる。
そして、引用発明1の「カナダ産豚ロース肉を4分割した凍結状態のロース肉」を本件特許発明1のような原料肉のスライス片又は挽肉を対象としたものに変更する動機付けがない以上、甲第2号証、甲第3号証において、切断又は薄切りを行うことで、調味液等の浸透性を向上することや、甲第4号証に生鳥獣肉を薄く切断するためにスライス刃と肉塊との接触部が温度上昇しやすいため低温に温度調整していることが開示されているからといって、いずれも凍結状態の原料肉断片の調味液中への浸漬を前提とした技術ではないことから、上記証拠を考慮したとしても、引用発明1において、「冷凍状態の原料肉断片を調味液中に浸漬し」「、前記原料肉断片を解凍する」ことについて特定し、本件特許発明1の相違点1に係る構成をなすことは当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
また、甲第5号証は、凍結状態の原料肉に塩漬調味料を直接接触させる方法ではあるが(摘記(5a))、原料肉としてはハム原木1本(肉塊)を対象としたものであり、手による摺り込みをも行うことを前提とした方法であり(摘記(5c))、甲第6号証は、食品類の漬け込み加工方法において、被漬け込み品を漬け込み加工中に帯電させることを前提としたものであるから、上記証拠を考慮したとしても、引用発明1において、「冷凍状態の原料肉断片を調味液中に浸漬し」「、前記原料肉断片を解凍する」と特定し、さらに「前記原料肉断片が、前記原料肉のスライス片又は前記原料肉の挽肉であり」と特定することで、本件特許発明1の相違点1に係る構成をなすことは当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

特許異議申立人は、特許異議申立書21頁11?26行において、本件特許発明の「スライス片」の意味を本件特許明細書【0010】の「スライス片の厚さ・・・は特に限定されない。」との記載を根拠に、肉塊から切り落とされた任意の厚みの断片を広く包含する意味で用いられている旨主張しているが、【0010】には、正確には、「原料肉断片がスライス片である場合、スライス片の厚さ(スライス厚)は特に限定されない。」と記載されているのであって、スライス片であることを前提とした厚さ範囲の記載であるといえる。
また、特許異議申立人自身が認めるとおり、通常は、甲第3号証、甲第4号証、技術常識としての甲第7号証に示されるように「スライス片」とは、薄く切られた薄片を意味することが理解できるので、スライス片の厚さが数値として特定のものに限定されない記載があることを理由に、「断片」であることすら直接には記載のない引用発明1の「カナダ産豚ロース肉を4分割した凍結状態のロース肉」が、「スライス片」に該当するとはいえないことは、上述のとおりであり、特許異議申立人の上記主張は採用することはできない。

ウ 相違点2の判断
引用発明1は、「カナダ産豚ロース肉を4分割した凍結状態のロース肉を、水道水、食塩、砂糖、ニュー硝素、化学調味料、香辛料抽出液が配合された塩漬液に漬けた結果、該4分割した凍結状態のロース肉が重量変化比として、塩漬前の凍結肉を100をとすると14日後に111となった結果、又は凍結ロース12kgを切断した1003gの凍結肉が塩漬後1125gとなった結果を得た豚ロース肉の塩漬解凍法」であって、重量変化比を求める塩漬液を漬ける対象が、カナダ産豚ロース肉を4分割した凍結状態のロース肉であるから、上記イの相違点1の判断で述べたとおり、本件特許発明1の調味液浸漬の対象である凍結状態の原料肉断片であるスライス片又は挽肉ではないので、その点で、相違点2は実質的相違点である。
また、引用発明1において、塩漬前後の重量変化比の値が、図1や表4、表5の値を用いた計算によって、たまたま本件特許発明1の「重量増加率が110%以上」の数値範囲自体に該当するプロットが存在するだけであって(摘記(1d),摘記(1e),摘記(1f),摘記(1g)表5の2段目の結果)、表5には該当しない塩漬解凍法の結果も示されている(摘記(1g)表5の3段目の結果、4段目の結果)。
引用発明1は、空気解凍法と塩漬解凍法の比較において、豚ロース肉を塩漬室で保存して塩漬中の重量変化比から各解凍法の分析を行っていることを前提とする方法にすぎないのであるから、その点でも、「浸漬後の原料肉断片の重量/浸漬前の原料肉断片の重量×100で定義される前記原料肉断片の重量増加率」を用いて調味液の浸透速度と最大浸透量に着目して、「110%以上となるまで、」「前記原料肉断片を前記調味液中に浸漬する」「調味肉の製造方法である」ことを特定した本件特許発明1との間の相違点2は実質的相違点であるといえる。

また、分析のために豚ロース肉を用いている引用発明1の塩漬解凍法を、「浸漬後の原料肉断片の重量/浸漬前の原料肉断片の重量×100で定義される前記原料肉断片の重量増加率が110%以上となるまで、前記原料肉断片を前記調味液中に浸漬する」「調味肉の製造方法」と重量比変化の対象を変更する動機付けはなく、甲第2号証?甲第6号証を考慮しても、本件特許発明1の相違点2に係る構成をなすことは当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

特許異議申立人は、特許異議申立書21頁最終行?22頁3行目において、相違点1に係る本件特許発明1の「スライス片」が「甲1発明」の「分割片」に相当することを前提として、重量増加率が110%を超えている旨主張し、本件特許発明1の相違点2の構成と一致している旨主張している。
しかしながら、上述のとおり、引用発明1の「カナダ産豚ロース肉を4分割した凍結状態のロース肉」は、本件特許発明1の浸漬前のスライス片又は挽肉である原料肉断片ではないのであるから、重量増加率の求める対象が相違している上に、スライス片又は挽肉を対象としていないものとしてのたまたま塩漬解凍法の他の手法との比較分析された結果から、冷凍状態の原料肉断片を調味液中に浸漬する調味肉の製造方法を前提とした重量増加率の特定が動機付けられないことは上述のとおりである。
したがって、上記特許異議申立人の主張を採用することはできない。

エ そして、本件特許発明1は、「冷凍状態の原料肉断片を調味液中に浸漬し、前記原料肉断片を解凍する工程を含」み、「前記原料肉断片が、前記原料肉のスライス片又は前記原料肉の挽肉であり、」「浸漬後の原料肉断片の重量/浸漬前の原料肉断片の重量×100で定義される前記原料肉断片の重量増加率が110%以上となるまで、前記原料肉断片を前記調味液中に浸漬する」「調味肉の製造方法」という構成を採用することで、【表3】?【表15】を含めた実施例の結果を得て、原料肉に物理的ダメージが加わらず、肉本来の食感を失わず、調味液の浸透速度と最大浸透量を増加させるという顕著な効果を奏している。

上述のとおり、相違点1に係る調味液浸漬対象である原料肉の形態と相違点2に係る原料肉の重量増加率の特定は、相互に有機的に関係しており、個々の相違点だけを個別に変更することは通常考えられず、動機付けもない。
したがって、引用発明1において、凍結状態の原料肉をスライス片又は挽肉とした上で、「浸漬後の原料肉断片の重量/浸漬前の原料肉断片の重量×100で定義される前記スライス片又は挽肉である前記原料肉断片の重量増加率が110%以上となるまで、前記原料肉断片を前記調味液中に浸漬する」「調味肉の製造方法」とすることは、当業者といえども、容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

オ 小括
本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証?甲第6号証に記載された技術的事項及び技術常識から当業者が容易に発明することができたものともいえない。

(3-2)本件特許発明2?8について
ア 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1において、前記第2のとおり、「原料肉断片が、前記原料肉のスライス片であり、前記スライス片の厚さが、15mm以下である」ことをさらに技術的に限定した発明であり、本件特許発明1について検討したのと同様に、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証?甲第6号証に記載された技術的事項及び技術常識から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

イ 本件特許発明3について
本件特許発明3は、前記第2のとおり、本件特許発明1を「原料肉断片が、前記原料肉のスライス片であり、前記スライス片の厚さが、7.5mm以下である」ことをさらに技術的に限定したものであり、本件特許発明1について検討したのと同様に、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証?甲第6号証に記載された技術的事項及び技術常識から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

ウ 本件特許発明4、5について
前記第2のとおり、本件特許発明4は、本件特許発明1?3において「冷凍状態の原料肉を切断して前記原料肉断片を調製する工程を含む」ことをさらに技術的に限定したものであり、本件特許発明5は、本件特許発明1?4において「前記浸漬の開始直前における前記調味液の液温が0℃以上である」ことをさらに技術的に限定したものである。
したがって、甲第1号証の摘記(1b)に「塩漬液が漬け込み直前に約20℃」である記載があるものの、本件特許発明4、5は、上記のとおり、本件特許発明1の特定事項をさらに限定したものであるから、本件特許発明1について検討したのと同様に、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証?甲第6号証に記載された技術的事項及び技術常識から当業者が容易に発明することができたものともいえない。

エ 本件特許発明6、7について
前記第2のとおり、本件特許発明6は、本件特許発明1?4において「浸漬の開始直前における前記原料肉断片の肉温が-10℃?-3℃であって、前記浸漬の開始直前における前記調味液の液温が2℃?15℃である」ことをさらに技術的に限定したものであり、本件特許発明7は、本件特許発明1?6において「浸漬の開始直前における前記調味液のブリックス値が8以上である」ことをさらに技術的に限定したものである。
したがって、甲第1号証摘記(1b)に「塩漬液が漬け込み直前に約20℃」である記載があり、甲第4号証摘記(4a)では、「鳥獣肉の生肉塊を調整、凍結し、-4?-8℃」とすることの記載、甲第5号証摘記(5a)では、「原料肉のマイナス温度帯が-20.0℃?-1.0℃であること」の記載、甲第6号証摘記(6b)ではピックル液の温度として「ピックル液は+2℃であった。」との記載があるものの、個々の構成において、たまたま温度の記載があるだけで、本件特許発明における発明特定事項の技術的意義と関連するものではないし、引用発明1において、その条件を採用することの動機付けとなるものではないので、本件特許発明1について検討したのと同様に、本件特許発明6は、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証?甲第6号証に記載された技術的事項及び技術常識から当業者が容易に発明することができたものとはいえないし、本件特許発明7は、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証?甲第6号証に記載された技術的事項及び技術常識から当業者が容易に発明することができたものともいえない。

オ 本件特許発明8について
前記第2のとおり、本件特許発明8は、本件特許発明1?7の製造方法により調味肉を製造する工程に加えて前記調味肉を食肉製品に加工する工程をさらに含むことを特定した「食肉製品の製造方法」であるので、引用発明2と対比する。
本件特許発明8と引用発明2との対比において、調味肉の製造方法である本件特許発明1と引用発明1との対比において検討したのと同様に、冷凍状態の原料肉を調味液中に浸漬し、前記原料肉を解凍する工程を含む方法である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1’:原料肉の浸漬時の形態に関して、本件特許発明8は、冷凍状態の原料肉断片を調味液中に浸漬し、前記原料肉断片を解凍すると特定され、さらに前記原料肉断片が、前記原料肉のスライス片又は前記原料肉の挽肉であると特定されているのに対して、引用発明2は、「カナダ産豚ロース肉を4分割した凍結状態のロース肉」であると特定されている点

相違点2’:本件特許発明8は、浸漬後の原料肉断片の重量/浸漬前の原料肉断片の重量×100で定義される前記原料肉断片の重量増加率が110%以上となるまで、前記原料肉断片を前記調味液中に浸漬する、調味肉を製造する工程と「前記調味肉を食肉製品に加工する工程を含む」食肉製品の製造方法であるのに対して、引用発明2は、カナダ産豚ロース肉を4分割した凍結状態のロース肉を、水道水、食塩、砂糖、ニュー硝素、化学調味料、香辛料抽出液が配合された塩漬液に漬け、塩漬室に保存した結果、該4分割した凍結状態のロース肉が重量変化比として、塩漬前の凍結肉を100をとすると14日後に111となった結果、又は凍結ロース12kgを切断した1003gの凍結肉が塩漬後1125gとなった結果を得た豚ロース肉の塩漬、解凍が終了後、通常の方法で製造したロースハム製品の製造方法である点

本件特許発明8は、本件特許発明1?7の調味肉の製造方法を、調味肉製造後の食肉製品加工工程の特定を追加し、食肉製品の製造方法としたものにすぎないから、相違点1’及び相違点2’は、上記(3-1)で検討したのと同様に判断することができる。
したがって、本件特許発明1?7で検討したのと同様に、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証?甲第6号証に記載された技術的事項及び技術常識から当業者が容易に発明することができたものともいえない。

カ 小括
本件特許発明4,5,7,8は、甲第1号証に記載された発明とはいえない。
また、本件特許発明2?8は、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証?甲第6号証に記載された技術的事項及び技術常識から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(4)以上のとおり、特許異議申立人の特許法第29条第1項第3号(新規性)及び特許法第29条第2項(進歩性)の特許異議申立理由には理由がない。

2 理由3について
特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)本件特許発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)特許請求の範囲の記載
請求項1には、「調味肉の製造方法」として、「冷凍状態の原料肉断片を調味液中に浸漬し、前記原料肉断片を解凍する工程を含む」こと、「前記原料肉断片が、前記原料肉のスライス片又は前記原料肉の挽肉であ」ること、「浸漬後の原料肉断片の重量/浸漬前の原料肉断片の重量×100で定義される前記原料肉断片の重量増加率が110%以上となるまで、前記原料肉断片を前記調味液中に浸漬する」ことを特定した方法の発明が記載されている。
また、請求項2、3には、請求項1において、それぞれ、「原料肉断片が、前記原料肉のスライス片であり、前記スライス片の厚さが、15mm以下である」こと「原料肉断片が、前記原料肉のスライス片であり、前記スライス片の厚さが、7.5mm以下である」ことをさらに特定した方法の発明が記載されている。
さらに、請求項4には、請求項1?3において、「冷凍状態の原料肉を切断して前記原料肉断片を調製する工程を含む」こと、請求項5には、請求項1?4において、「浸漬の開始直前における前記調味液の液温が0℃以上である」こと、請求項6には、請求項1?4において、「浸漬の開始直前における前記原料肉断片の肉温が-10℃?-3℃であって、前記浸漬の開始直前における前記調味液の液温が2℃?15℃である」ことを、請求項7には、請求項1?6において、「浸漬の開始直前における前記調味液のブリックス値が8以上である」ことを、それぞれ、さらに限定した方法の発明が記載されている。
そして、請求項8には、「食肉製品の製造方法」として、請求項1?7の「製造方法により調味肉を製造する工程、及び、前記調味肉を食肉製品に加工する工程を含む」ことを特定した方法の発明が記載されている。

(3)発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には、請求項にかかる発明に関する記載として、特許請求の範囲の実質的繰り返し記載を除いて以下の記載がある。

(3-1)本件特許発明の背景技術、課題について
「【背景技術】
【0002】
従来、原料肉を調味液で調味する際、インジェクション(多数の針を使用して、原料肉に調味液を機械的に注入する処理)、タンブリング(減圧下でマッサージして、原料肉に調味液を浸透させる処理)、ミキシング(原料肉に調味液を加え、ミキサーで揉みほぐす処理)等が使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これらの処理では、原料肉に物理的ダメージが加わりやすい。原料肉に物理的ダメージが加わると、塩溶性蛋白が溶出しやすくなるため、肉本来の食感が失われるおそれがある。
【0004】
そこで、本発明は、原料肉に物理的ダメージが加わりにくい調味肉の製造方法、並びに、該製造方法により製造された調味肉を使用した食肉製品の製造方法を提供することを目的とする。」(下線は当審にて追加。以下同様。)

(3-2)スライス片の厚さ及び原料肉断片の調製について
「【0010】
原料肉断片がスライス片である場合、スライス片の厚さ(スライス厚)は特に限定されない。本発明に係る調味肉の製造方法は、冷凍状態の原料肉断片が調味液中で解凍される際、調味液が原料肉断片に浸透する現象を利用するので、冷凍状態の原料肉断片を解凍するのに要する時間が短いほど、原料肉断片へ調味液を浸透させるのに要する時間が短い。この点、スライス片の厚さが小さいほど、冷凍状態の原料肉断片を解凍するのに要する時間が短く、原料肉断片へ調味液を浸透させるのに要する時間が短い。したがって、原料肉断片へ調味液を浸透させるのに要する時間を短くする点から、スライス片の厚さは、15mm以下であることが好ましく、7.5mm以下であることがさらに好ましい。スライス片の厚さの下限値は特に限定されない。スライス片の厚さの下限値は、通常、スライサーの限界値である。スライス片の断面の面積は特に限定されない。
・・・
【0013】
冷凍状態の原料肉断片は、冷凍状態の原料肉を切断することにより調製することが好ましい。すなわち、本発明に係る調味肉の製造方法は、冷凍状態の原料肉を切断して、冷凍状態の原料肉断片を調製する工程を含むことが好ましい。
【0014】
肉温が0℃以上である原料肉を切断して、肉温が0℃以上の原料肉断片を製造した後、これを冷凍することにより、冷凍状態の原料肉断片を調製することもできるが、冷凍状態の原料肉を切断して冷凍状態の原料肉断片を製造する場合の方が、冷凍状態の原料肉断片が調味液中で解凍される際、原料肉断片に調味液が浸透しやすいと考えられる。すなわち、冷凍状態の原料肉を切断する際に生じた、原料肉断片の裂け目(隙間)に起因して、原料肉断片に調味液が浸透しやすくなると考えられる。なお、原料肉断片の裂け目(隙間)は、切断の際の力によって生じるだけでなく、原料肉断片が原料肉の残部から切り離されるときに、原料肉断片が湾曲することによっても生じる。原料肉断片のサイズ(例えば、原料肉断片がスライス片である場合、スライス片の厚さ、スライス片の断面の面積、スライス片の断面における幅と高さの比率等)は、このような湾曲が生じるように調整することが好ましい。」

(3-3)調味液のブリックス値、調味液の温度、浸漬の開始直前における原料肉断片の肉温の絶対値と、浸漬の開始直前における調味液の液温の絶対値との和、調味液の量、浸漬時間と原料肉断片の重量増加率、効果について
「【0016】
調味液のブリックス値は、特に限定されない。調味液のブリックス値が8以上であると、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)が、調味液のブリックス値が8未満である場合と比較して顕著に増加する。したがって、調味液のブリックス値は、好ましくは8以上である。調味液のブリックス値の上限値は特に限定されないが、好ましくは30、さらに好ましくは20である。
【0017】
ブリックス(Brix)値は、調味液中に含まれる可溶性固形分の総濃度を表す指標であり、20℃で測定された当該溶液の屈折率を、ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)の換算表を使用して、純ショ糖溶液の質量/質量%に換算した値である。ブリックス値の測定は、市販のブリックス計(例えば、ASONE製IN-1_(α))を使用して行うことができる。
【0018】
解凍工程は、例えば、冷凍状態の原料肉断片を調味液中に浸漬することにより行うことができる。浸漬の開始直前における原料肉断片の温度は0℃未満である。浸漬の開始直前における調味液の温度は、冷凍状態の原料肉断片を解凍可能である限り特に限定されないが、0℃以上であることが好ましい。「調味液の液温が所定温度(例えば、0℃以上)である」とは、調味液を撹拌しながら調味液の液温を測定した場合、調味液の温度が所定温度であることを意味する。調味液の液温は、市販の温度計(例えば、SATO製 SK-250WPII-R)を使用して測定することができる。例えば、浸漬の開始直前における原料肉断片の温度が-10℃?-3℃である場合、浸漬の開始直前における調味液の液温を2℃?15℃とすることができる。これにより、調味液が原料肉断片の表面で凍結して原料肉断片の表面に付着することを防止することができる。調味液が凍結した状態で原料肉断片の表面に付着すると、原料肉断片の内部への調味液の浸透が妨げられるので、調味液が凍結した状態で原料肉断片の表面に付着しないことは、原料肉断片の内部へ調味液を浸透させる上で重要である。
【0019】
浸漬を行う際、浸漬の間を通じて、調味液を0℃未満に強制的に冷却しないことが好ましい。これにより、冷凍状態の原料肉断片が解凍されるまでの時間、ひいては、原料肉断片へ調味液を浸透させるのに要する時間を短くすることができる。調味液を0℃未満に強制的に冷却しない場合としては、例えば、浸漬を、常温及び常圧の雰囲気下で行う(原料肉断片を浸漬させた調味液を常温及び常圧の雰囲気下で放置する)場合、調味液の温度が0℃以上に維持されるように調味液を強制的に加熱又は冷却する場合等が挙げられる。
【0020】
浸漬の開始直前における原料肉断片の肉温の絶対値と、浸漬の開始直前における調味液の液温の絶対値との和(原料肉断片の肉温の絶対値+調味液の液温の絶対値)が大きくなるほど、原料肉断片への調味液の浸透速度が増加する。したがって、浸漬の開始直前における原料肉断片の肉温の絶対値が大きいほど(すなわち、浸漬の開始直前における原料肉断片の肉温が低いほど)、原料肉断片への調味液の浸透速度が増加する。かかる点から、浸漬の開始直前における原料肉断片の肉温は、例えば、-3℃以下、-5℃以下、-10℃以下、-15℃以下又は-20℃以下であることが好ましい。同様に、浸漬の開始直前における調味液の液温の絶対値が大きいほど(すなわち、浸漬の開始直前における調味液の液温が高いほど)、原料肉断片への調味液の浸透速度が増加する。かかる点から、浸漬の開始直前における調味液の液温は、例えば、2℃以上、5℃以上、10℃以上又は15℃以上であることが好ましい。
【0021】
浸漬の開始直前における原料肉断片の肉温の絶対値と、浸漬の開始直前における調味液の液温の絶対値との差(原料肉断片の肉温の絶対値-調味液の液温の絶対値)が大きくなるほど、調味液が原料肉断片の表面で凍結して原料肉断片の表面に付着しやすくなる。例えば、浸漬の開始直前における原料肉断片の肉温が-15℃以下である場合、浸漬の開始直前における調味液の液温が5℃未満であると、調味液が原料肉断片の表面で凍結して原料肉断片の表面に付着しやすくなる。調味液が凍結した状態で原料肉断片の表面に付着すると、原料肉断片の内部への調味液の浸透が妨げられるので、調味液が凍結した状態で原料肉断片の表面に付着することを防止することが好ましい。かかる点から、浸漬の開始直前における原料肉断片の肉温の絶対値と、浸漬の開始直前における調味液の液温の絶対値との差(原料肉断片の肉温の絶対値-調味液の液温の絶対値)は小さいこと(例えば、10以下、8以下、5以下又は3以下であること)が好ましい。例えば、浸漬の開始直前における原料肉断片の肉温が-15℃以下である場合、浸漬の開始直前における調味液の液温は5℃以上であることが好ましい。なお、浸漬の開始直前における原料肉断片の肉温の絶対値と、浸漬の開始直前における調味液の液温の絶対値との差(原料肉断片の肉温の絶対値-調味液の液温の絶対値)は、マイナスの値であってもよい。
【0022】
原料肉断片を調味液に浸漬する際、調味液の量は、原料肉断片の全体が調味液中に浸漬する量に調整することが好ましい。浸漬時間は、冷凍状態の原料肉断片が調味液中で解凍される限り特に限定されない。浸漬時間は、浸漬後の原料肉断片の重量/浸漬前の原料肉断片の重量×100で定義される原料肉断片の重量増加率が110%以上となるように調整することが好ましい。原料肉断片を調味液に浸透させる際、調味液にエアレーション、振動等を付与して、原料肉断片への調味液の浸透を助長してもよい。
【0023】
冷凍状態の原料肉断片を調味液中で解凍することにより、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)と、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加する。したがって、解凍状態の原料肉断片を調味液中に浸漬する場合と比較して、短時間で多量の調味料を原料肉断片に浸透させることができる。冷凍状態の原料肉断片を調味液中で解凍することにより、原料肉断片に調味液が浸透してなる調味肉が製造される。」

(3-4)実施例、比較例について
実施例1?43及び比較例1?12において、本件特許発明の構成を有することによって、スライス片への調味液の浸透速度(単位時間あたりの浸透量)と最大浸透量に関しての実施例と比較例との比較結果が示されている。

(4)対比・判断
(4-1)本件特許発明の課題について
上記(3)(3-1)の記載及び本件特許明細書全体を参酌して、本件特許発明1?7の課題は、原料肉に物理的ダメージが加わらず、肉本来の食感を失わず、調味液の浸透速度と最大浸透量を増加させる調味肉の製造方法を提供することにあり、本件特許発明8の課題は、原料肉に物理的ダメージが加わらず、肉本来の食感を失わず、調味液の浸透速度と最大浸透量を増加させる食肉製品の製造方法の提供にあるものと認められる。

(4-2)判断
ア 上記(2)に記載のように、本件特許発明1においては、「調味肉の製造方法」として、「冷凍状態の原料肉断片を調味液中に浸漬し、前記原料肉断片を解凍する工程を含む」こと、「前記原料肉断片が、前記原料肉のスライス片又は前記原料肉の挽肉であ」ること、「浸漬後の原料肉断片の重量/浸漬前の原料肉断片の重量×100で定義される前記原料肉断片の重量増加率が110%以上となるまで、前記原料肉断片を前記調味液中に浸漬する」ことを特定した方法の発明が記載されている。

イ 一方、発明の詳細な説明には、上記(3)(3-2)(3-3)のとおり、冷凍状態の原料肉を切断して冷凍状態の原料肉断片を製造する場合の方が、冷凍状態の原料肉断片が調味液中で解凍される際、原料肉断片に調味液が浸透しやすいと考えられ、冷凍状態の原料肉を切断する際に生じた、原料肉断片の裂け目(隙間)に起因して、原料肉断片に調味液が浸透しやすくなると考えられることが記載され(【0014】)、原料肉断片を調味液に浸漬する際、調味液の量は、原料肉断片の全体が調味液中に浸漬する量に調整することが好ましく、浸漬時間は、浸漬後の原料肉断片の重量/浸漬前の原料肉断片の重量×100で定義される原料肉断片の重量増加率が110%以上となるように調整することが好ましいことが記載され(【0022】、調味液の温度が0℃以上であることが好ましく、浸漬の開始直前における調味液の液温を2℃?15℃とすることにより、調味液が原料肉断片の表面で凍結して原料肉断片の表面に付着することを防止することができ、調味液が凍結した状態で原料肉断片の表面に付着すると、原料肉断片の内部への調味液の浸透が妨げられるので、調味液が凍結した状態で原料肉断片の表面に付着しないことは、原料肉断片の内部へ調味液を浸透させる上で重要であることが記載され(【0018】)、浸漬の開始直前における原料肉断片の肉温の絶対値と、浸漬の開始直前における調味液の液温の絶対値との和(原料肉断片の肉温の絶対値+調味液の液温の絶対値)が大きくなるほど、原料肉断片への調味液の浸透速度が増加することも記載され(【0020】)、調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)が、ブリックス値が8以上の場合8未満である場合と比較して顕著に増加することも記載されている(【0016】)。
そして、【0023】には、冷凍状態の原料肉断片を調味液中で解凍することにより、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)と、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加するので、解凍状態の原料肉断片を調味液中に浸漬する場合と比較して、短時間で多量の調味料を原料肉断片に浸透させることができ、冷凍状態の原料肉断片を調味液中で解凍することにより、原料肉断片に調味液が浸透してなる調味肉が製造できるとの技術的意義が明らかにされている。
さらに、そのことは、上記(3-4)の実施例、比較例において、具体的に示されているといえる。

したがって、上記一般的な記載及び具体的評価結果を考慮すると、上記(3-1)の背景技術に記載されたインジェクション(多数の針を使用して、原料肉に調味液を機械的に注入する処理)、タンブリング(減圧下でマッサージして、原料肉に調味液を浸透させる処理)、ミキシング(原料肉に調味液を加え、ミキサーで揉みほぐす処理)等が使用されていないのであるから、当業者であれば、原料肉に物理的ダメージが加わらず、肉本来の食感を失わず、調味液の浸透速度と最大浸透量を増加させる調味肉の製造方法を提供するという本件特許発明1の課題が解決できると認識できる。

ウ 特許異議申立人は、特許異議申立書32頁10?20行において、本件特許発明1は、原料肉断片は、「スライス片」や「挽肉」が必須の構成であるから物理的ダメージを加えることが必須となることや、特許異議申立書33頁1?16行において、甲第8号証の意見書の中で特許権者が課題に関して述べた点を指摘するとともに、本件明細書の実施例に記載されたスライス片の厚み以外では同様の作用効果が奏される可能性が低い旨主張している。
しかしながら、本件特許発明1は、原料肉を用意する段階で、「スライス片」や「挽肉」にするときに加わる力を問題にしているのではなく、調味液による調味工程での物理的ダメージを抑制することを技術思想とする発明であって、上述のとおり、本件特許発明1の構成を採用することによって、原料肉に物理的ダメージが加わらず、肉本来の食感を失わず、調味液の浸透速度と最大浸透量を増加させる調味肉の製造方法を提供することができ、上記本件特許発明1の課題解決ができると認識するといえる。
また、スライス片の厚さに関しても、実施例で示された範囲以外のものでも、本件明細書【0010】等の記載を参考に当業者であれば一定程度上記課題が解決できると認識できるといえる。

したがって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

エ よって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に裏付けをもって記載されているといえる。

オ また、本件特許発明2?8についても、上記(2)に記載のように、本件特許発明1において、さらに技術的限定を加えたものであるところ、【0014】【0022】【0018】【0020】【0016】【0023】に技術的限定事項に関する記載があるから、本件特許発明1において検討したのと同様に、本件特許発明2?8についても、発明の詳細な説明に裏付けをもって記載されているといえる。

(5)以上のとおり、特許異議申立人の特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の特許異議申立理由には理由がない。

3 理由4について
特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について
(1)判断
ア 請求項1の「浸漬後の原料肉断片の重量」との記載は、特許請求の範囲の記載からみて、「冷凍状態の原料肉断片を調味液中に浸漬し、前記原料肉断片を解凍する工程を含む、調味肉の製造方法」において、「原料肉断片を前記調味液中に浸漬」した後の「重量」を意味することは明確であって、本件明細書全体の記載からみても、それをかえって不明確とする記載も存在せず、少なくとも第三者に不測の不利益を与えるような不明確な点はないといえる。

イ また、請求項1の「スライス片」という記載についても、本件明細書【0010】に好ましい上限に関する記載があり、甲第3号証の摘記(3a)や甲第7号証の摘記(7a)の記載から理解される薄く切られた片であることと矛盾はなく、数値範囲として定義されなくては、技術的意味が不明確になるとはいえず、第三者に不測の不利益を与えるような不明確な点はないといえる。

(2)特許異議申立人の主張の検討
ア 特許異議申立人は、特許異議申立書33頁下から1行?34頁13行、及び34頁下から4行?35頁8行において、「浸漬後の原料肉断片の重量」との記載が浸漬解凍後の重量であるのか、浸漬解凍前の重量であるのか不明確であることや、「スライス片」との記載が、本件明細書【0010】の「スライス片の厚さ(スライス厚)は特に限定されない。」と記載され、定義がないことから不明確であることを、それぞれ主張している。

イ しかしながら、上述のとおり、「浸漬後の原料肉断片の重量」との記載は、特許請求の範囲の記載からみて、「冷凍状態の原料肉断片を調味液中に浸漬し、前記原料肉断片を解凍する工程を含む、調味肉の製造方法」において、「原料肉断片を前記調味液中に浸漬」した後の「重量」を意味することは明確であって、浸漬が終了した時点で完全な解凍前であるか解凍後であるかを特定しなければ不明確となるとはいえない。
また、本件明細書【0010】の記載は、正確には、「原料肉断片がスライス片である場合、スライス片の厚さ(スライス厚)は特に限定されない。」と記載されているもので、「スライス片」という用語自体は技術常識から理解されるべきもので、数値範囲として定義されなくては、技術的意味が不明確になるとはいえず、第三者に不測の不利益を与えるような不明確な点はないといえる。
したがって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

(3)よって、本件特許発明1に係る請求項1の記載は、明確であるといえる。

(4)本件特許発明2?8に係る請求項2?8の記載についても、同様に明確であるといえる。

(5)以上のとおり、特許異議申立人の特許法第36条第6項第2号(明確性要件)の特許異議申立理由には理由がない。

4 理由5について
特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
(1)判断
前記2の(3)のとおりの発明の詳細な説明の記載があり、理由3において、述べたとおり、本件特許発明1?8に関して、【0014】【0022】【0018】【0020】【0016】【0023】に発明特定事項に関する技術的意義や好ましい範囲に関する記載があり、実施例1?43において、冷凍状態の原料肉断片を調味液中に浸漬し、前記原料肉断片を解凍する工程を含み、前記原料肉断片が、前記原料肉のスライス片又は前記原料肉の挽肉であり、浸漬後の原料肉断片の重量/浸漬前の原料肉断片の重量×100で定義される前記原料肉断片の重量増加率が110%以上となるまで、前記原料肉断片を前記調味液中に浸漬する調味肉の製造方法が実施されたことが示されているのであるから、上記記載及び本件出願時の技術常識を参酌すれば、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。

(2)また、特許異議申立人は、理由3で指摘した点と同様の主張を行い、実施可能要件を満たしていない旨の主張をしているが、前記2(4)(4-2)ウで検討したように本件特許発明1?8は、裏付けを持って記載されているといえ、前記発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識から当業者が過度な試行錯誤なく本件特許発明1?8を実施できるといえるので、特許異議申立人の主張は採用できない。

(3)以上のとおり、特許異議申立人の特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)の特許異議申立理由には理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、本件請求項1?8に係る特許は、特許異議申立人が申し立てた特許異議申立理由によっては、取り消されるべきものとはいえない。
また、他に本件請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-03-31 
出願番号 特願2015-149887(P2015-149887)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 113- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 金田 康平  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 関 美祝
瀬良 聡機
登録日 2019-07-12 
登録番号 特許第6552905号(P6552905)
権利者 米久株式会社
発明の名称 調味肉の製造方法及び食肉製品の製造方法  
代理人 浅野 真理  
代理人 宮嶋 学  
代理人 反町 洋  
代理人 中村 行孝  
代理人 鈴木 啓靖  

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