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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01M 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01M 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01M |
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管理番号 | 1361501 |
異議申立番号 | 異議2019-700792 |
総通号数 | 245 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-05-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-10-03 |
確定日 | 2020-04-09 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6495997号発明「リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6495997号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6495997号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成29年11月20日に出願され、平成31年3月15日にその特許権の設定登録がされ、同年4月3日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、本件特許の請求項1?6に係る特許に対し、令和1年10月3日に、特許異議申立人金澤毅(以下、「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。そして、本件特許に対し、当審は令和1年12月19日付けで取消理由を通知し、それに対し、特許権者は令和2年2月20日付けで意見書を提出した。 第2 本件発明 本件特許の請求項1?6(以下、それぞれの請求項に係る発明を「本件発明1」等という。また、まとめて「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 リチウム複合金属酸化物の一次粒子が複数凝集した二次粒子を含み、 前記二次粒子は、内部に形成された空隙と、前記空隙と前記二次粒子の表面とを接続する貫通孔と、を有し、 以下の(i)?(iii)をすべて満たし、前記二次粒子の中心部における空隙率が20%以上40%以下であり、前記二次粒子の表面部における空隙率が0.10%以上3%以下(ただし、前記表面部は、下記図形において、前記中心部を除いた部分である。)であり、組成式が下記式(I)で表される、リチウム二次電池用正極活物質。 (i)前記二次粒子の断面において、前記断面の外縁で囲まれる図形の長軸長Aに対する前記図形の短軸長Bの比(B/A)が0.75以上1.0以下である。 (ii)前記図形の面積に対する、前記断面に露出した前記空隙の合計面積の割合が2.0%以上20%以下である。 (iii)前記断面に露出した前記空隙の合計面積に対する、前記断面に露出した前記空隙のうち前記二次粒子の中心部に存在する空隙の面積の割合が60%以上99%以下である。 (ただし、前記長軸長は、前記図形において前記図形の重心位置を通る前記図形の径のうち、最長の径である。) 前記中心部は、前記図形の面積をSとするとき、前記図形の重心位置を中心とし、以下の式で算出されるrを半径とする円を想定した時、当該円に囲まれる部分である。 r=(S/π)^(0.5)/2 Li[Li_(x)(Ni_((1-y-z-w))Co_(y)Mn_(z)M_(w))_(1-x)]O_(2) ・・・(I) (式(I)中、0≦x≦0.2、0<y≦0.4、0≦z≦0.4、0≦w≦0.1、MはMg、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Al、Ga、Ti、Zr、Ge、Fe、Cu、Cr、V、W、Mo、Sc、Y、Nb、La、Ta、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、及びSnからなる群より選択される1種以上の金属を表す。) 【請求項2】 水銀圧入法による細孔分布測定において、細孔半径が30nm以上150nm以下に細孔ピークを有する、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。 【請求項3】 前記二次粒子のBET比表面積が0.2m^(2)/g以上3.0m^(2)/g以下である、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質。 【請求項4】 前記式(I)中、0.15≦y≦0.4である、請求項1?3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。 【請求項5】 請求項1?4のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質を有するリチウム二次電池用正極。 【請求項6】 請求項5に記載のリチウム二次電池用正極を有するリチウム二次電池。」 第3 取消理由通知に記載した取消理由の概要 1 取消理由1(明確性:異議申立書(4-2-2)に記載の理由) 請求項1には、「前記図形の重心位置」と記載されているが、「重心位置」が、どのように決定されたものかについて、発明の詳細な説明には特段の記載がなく、出願時の技術常識を考慮しても、「重心位置」がどのように決定されたものかを理解できないから、「前記図形の重心位置」の示す内容が不明確である。 請求項2?6は当該請求項を引用するものであるから、請求項2?6には同様に記載不備がある。 したがって、請求項1?6に係る発明は明確でない。 よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 2 取消理由2(明確性:職権により通知した理由) 請求項1に記載の「空隙率」及び「(i)」、「(ii)」、「(iii)」の要件は、以下に示すとおり、二次粒子の断面構造をどのように測定して算出されたものであるかが特定されていないので、その内容が不明確である。 請求項1には、「(i)前記二次粒子の断面において、前記断面の外縁で囲まれる図形」と記載されているが、請求項1に記載の「空隙率」及び「(i)」、「(ii)」、「(iii)」の要件は、いずれも「(i)前記二次粒子の断面において、前記断面の外縁で囲まれる図形」との記載で特定される「図形」を用いて定義されている。 一方で、請求項1に記載の「(i)前記二次粒子の断面において、前記断面の外縁で囲まれる図形」との記載における「断面」がどのようにして得られる「断面」であるのか、及び請求項1に記載の「空隙率」及び「(i)」、「(ii)」、「(iii)」が、当該「断面」をどのように画像処理したものから測定、算出されたものであるかが特定されておらず、特に、段落【0011】、【0012】に記載の方法で正極活物質の選択、加工、観察する「断面」の選択を行ったものであるのか否か、及び当該「断面」について段落【0013】に記載の方法で断面画像の二値化処理をしたものから「空隙率」及び「(i)」、「(ii)」、「(iii)」を測定、算出したものであるのか否かが不明確であり、請求項1に記載の「空隙率」及び「(i)」、「(ii)」、「(iii)」の要件の内容が不明確となる。 請求項2?6は当該請求項を引用するものであるから、請求項2?6には同様に記載不備がある。 したがって、請求項1?6に係る発明は明確でない。 よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 第4 取消理由通知で採用しなかった申立理由の概要 申立人が主張した異議申立理由のうち、取消理由通知で採用しなかったものの概要は以下のとおりである。 1 申立理由1(新規性、進歩性) (1)申立理由1-1(甲第1号証:特開2013-147416号公報。以下、「甲1」という。)を主たる引用文献とした理由:異議申立書(3-1)の理由) 本件発明1?6は、甲1に記載された発明であるか、甲1に記載された発明および周知の技術などから、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件発明1?6は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (2)申立理由1-2(甲第2号証:特開2013-144625号公報。以下、「甲2」という。)を主たる引用文献とした理由:異議申立書(3-2)の理由) 本件発明1?6は、甲2に記載された発明であるか、甲2に記載された発明および周知の技術などから、当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件発明1?6は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 2 申立理由2(サポート要件、明確性) (1)申立理由2-1(サポート要件:異議申立書(4-1)の理由) 本件発明1では、「リチウム複合金属酸化物の一次粒子が複数凝集した二次粒子を含み、前記二次粒子は・・・リチウム二次電池要正極活物質。」と規定しており、本件発明1で規定する所定の要件を充足する二次粒子を1粒でも含んでいれば、本件発明1の規定を充足することになる。 しかしながら、通常、多数の二次粒子を含むリチウム二次電池用正極活物質を用いて正極が作成され、係る正極を用いてリチウムイオン二次電池が作成される。したがって、リチウムイオン二次電池の特定に影響を与えるためには、所定の物性を有する二次粒子が1粒だけでは十分ではなく、一定以上の割合で含有することは必須であるものといえる。 このため、本件発明の課題を解決するためには、一定以上の割合で所定の要件を充足する二次粒子を含有することは必須の要件といえ、例えば1粒のみ所定の要件を充足する二次粒子を含んでいるだけでは、本件発明の課題を解決できないことは明らかである。 そうすると、本件発明1で規定する所定の要件を充足する二次粒子の含有割合の規定は、課題解決のための必須の要件であり、係る規定を含まない、本件発明1は、本件明細書に開示されたものではなく、サポート要件を充足するものではない。 したがって、本件発明1および本件発明1に従属する本件発明2?6は、当業者が課題を解決できると認識できる範囲を明らかに超えるものである。 よって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 (2)申立理由2-2(明確性:異議申立書(4-2-1)の理由) 本件特許の明細書の実施例においては長軸長と短軸長の比は1つの粒子について求めていると解されるが、【0017】の記載によれば、長軸長と短軸長の比は、複数個の粒子についての測定値の平均であるとされている。 そうすると、本件発明1で規定する長軸長と短軸長との比の定義が本件特許の明細書内で異なっており、どのような数値を意味しているのかが明らかではなく不明確である。 したがって、本件発明1および本件発明1に従属する本件発明2?6は不明確である。 よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 第5 当審の判断 1 取消理由通知に記載した取消理由について (1)取消理由1について 本件特許の請求項1においては、「重心位置」の決定方法について明記されておらず、請求項1の記載のみからは、どのように「重心位置」を決定しているかを特定することができない。 しかしながら、特許権者の令和2年2月20日提出の意見書における主張を踏まえて再検討したところ、以下に示すように、本件特許の請求項1における「重心位置」は、画像解析ソフトの機能を用いて行われたものと理解することができるから、本件特許の請求項1において、「重心位置」の決定方法は明確である。 本件特許の明細書の【0013】には、Image J等の画像解析ソフトにより断面の画像の二値化処理を行うことが、【0118】?【0123】には、Image Jの画像解析ソフトにより長軸長A、短軸長Bの測定や空隙率の測定を行うことが記載されている。 また、請求項1には「長軸長」は、「前記図形において前記図形の重心位置を通る前記図形の径のうち、最長の径」であることが記載され、【0119】には、「空隙率」を測定する前提として「重心位置」を中心とする円を描くことが記載されているから、「長軸長」や「空隙率」を画像解析ソフトで計測する際には、その前提として、「重心位置」が特定されている必要があるといえる。 そして、上記意見書にも記載のように、前記の画像解析ソフトが「重心位置」を表示する機能を有することを考慮すると、【0013】や【0118】?【0123】に記載の画像解析ソフトによる長軸長A、短軸長Bの測定や空隙率の測定においては、当該画像解析ソフトの機能により、「重心位置」の特定も行われていると考えることが自然である。 そうすると、本件特許の請求項1において、「重心位置」の決定方法は明確である。 (2)取消理由2について 本件特許の請求項1においては、「空隙率」及び「(i)」、「(ii)」、「(iii)」の要件を算出するのに用いる「断面」がどのようにして得られる「断面」であるのか、並びに「空隙率」及び「(i)」、「(ii)」、「(iii)」が、当該「断面」をどのように画像処理したものから測定、算出されたものであるかが特定されていない。 しかしながら、特許権者の上記意見書における主張を踏まえて再検討したところ、本件特許の明細書の記載を参酌すれば、本件特許においては、「空隙率」及び「(i)」、「(ii)」、「(iii)」の要件を算出するにあたり、【0011】から【0013】に記載の方法で「断面」を得て「断面」の画像処理を行ったものを用いることが理解できる。 そうすると、本件特許の請求項1に記載の「空隙率」及び「(i)」、「(ii)」、「(iii)」の要件の内容は明確である。 (3)小括 よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでなく、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものではない。 2 取消理由通知で採用しなかった申立理由について (1)各甲号証の記載事項及び各甲号証に記載された発明 甲1及び甲2には、それぞれ、以下の記載がある(下線は当審による。以下同じ)。 ア 甲1について (ア)甲1の記載事項 「【0017】 本発明者らは、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いた場合に、優れた電池特性を発揮できるリチウムニッケル複合酸化物について鋭意検討した結果、原料となるニッケル複合水酸化物の粒度分布を制御し、ニッケル複合水酸化物の微細一次粒子からなる中心部と、この中心部の外側に存在し、ニッケル複合水酸化物からなり、前記一次粒子よりも大きな板状の一次粒子からなる外殻部を有する構造とすることで、均一で適度な粒径を有し、かつ、中空構造を有するリチウムニッケル複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質が得られるとの知見を得た。また、このニッケル複合水酸化物は、晶析時のpH制御により、核生成工程と粒子成長工程に分離するとともに、それぞれの工程における反応雰囲気と、それぞれの工程において供給される金属化合物、より具体的には、複合水酸化物を構成する金属元素の供給源である混合水溶液におけるマンガン含有量とを、それぞれ制御することで得られるとの知見を得た。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。」 「【0145】 (粒子構造) 本発明の正極活物質は、図7に例示するように、二次粒子内部の中空部とその外側の外殻部で構成される中空構造を有する点に特徴がある。このような中空構造とすることにより、反応表面積を大きくすることができ、かつ、外殻部の一次粒子間の粒界あるいは空隙から電解液が浸入して、粒子内部の中空側の一次粒子表面における反応界面でもリチウムの挿脱入が行われるため、Liイオン、電子の移動が妨げられず、出力特性を高くすることができる。」 「【実施例】 【0197】 (実施例1) [複合水酸化物の製造] 複合水酸化物を、以下のようにして作製した。なお、すべての実施例を通じて、複合水酸化物、正極活物質および二次電池の作製には、特に断りのない限りは、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。 【0198】 (核生成工程) まず、反応槽(34L)内に、水を半分の量まで入れて撹拌しながら、槽内温度を40℃に設定した。このときの反応槽内は、大気雰囲気(酸素濃度:21容量%)とした。この反応槽内の水に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%アンモニア水を適量加えて、液温25℃基準で、槽内の反応液のpH値が13.0となるように調整した。さらに、該反応液中のアンモニア濃度を15g/Lに調節して反応前水溶液とした。 【0199】 次に、硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸マンガンを水に溶かして2.0mol/Lの混合水溶液を調整した。この混合水溶液では、各金属の元素モル比が、Ni:Co:Mn=1:1:1(Al=0)となるように調整した。 【0200】 この混合水溶液を、反応槽内の反応前水溶液に88ml/minの割合で加えて、反応水溶液とした。同時に、25質量%アンモニア水および25質量%水酸化ナトリウム水溶液も、この反応水溶液に一定速度で加えていき、反応水溶液(核生成用水溶液)中のアンモニア濃度を上記値に保持した状態で、pH値を13.0(核生成pH値)に制御しながら、50ml添加して、核生成を行った。 【0201】 (粒子成長工程) 核生成終了後、反応水溶液のpH値が液温25℃基準で11.6になるまで35質量%硫酸を添加して、反応水溶液のpH値が11.6に到達した後、反応水溶液(粒子成長用水溶液)に、再度、25質量%水酸化ナトリウム水溶液の供給を再開し、pH値を液温25℃基準で11.6に制御したまま、15分間の晶析を継続し粒子成長を行った後、給液を一旦停止し、反応槽内空間の酸素濃度が0.2容量%以下となるまで窒素ガスを5L/minで流通させた。 【0202】 次に、硫酸ニッケルと硫酸コバルトとを水に溶かして、2.0mol/Lのニッケルコバルト混合水溶液を調整した。この混合水溶液では、各金属の元素モル比が、Ni:Co=82:15となるように調整した。この混合水溶液を、88ml/minの割合で105分間供給できるように、液量9240mlを準備した。また、アルミン酸ナトリウムを水に溶かして、0.6mol/Lのアルミニウム含有水溶液を調製した。このアルミニウム含有水溶液を、8.8ml/minで105分間供給できるように、液量924mlを準備した。その後、ニッケルコバルト溶液を88ml/minの割合、アルミニウム含有水溶液を8.8ml/minの割合で供給を再開し、105分間晶析を行った。 【0203】 反応槽内が満液になったところで、晶析を停止するとともに、撹拌を止めて静置することで、生成物の沈殿を促した。その後、反応槽から上澄み液を半量抜き出した。さらに、上記ニッケルコバルト溶液を88ml/minの割合で120分供給できるように、液量10560mlを準備した。また、上記アルミニウム含有水溶液を8.8ml/minの割合で120分供給できるように、液量1056mlを準備した。その後、ニッケルコバルト溶液を88ml/minの割合で、アルミニウム含有水溶液を8.8ml/minの割合で供給を再開し、2時間晶析を行った後(計4時間)、晶析を終了させた。 【0204】 得られた生成物を水洗、濾過、乾燥させて複合水酸化物を得た。 【0205】 なお、実施例1では、大気雰囲気から窒素雰囲気への切り替えは、粒子成長工程の開始時から粒子成長工程時間の全体に対して6.25%の時点で行ったことになる。また、上記晶析において、pH値は、pHコントローラにより水酸化ナトリウム水溶液の供給流量を調整することで制御され、変動幅は設定値の上下0.2の範囲内であった。 【0206】 [複合水酸化物の分析] 得られた複合水酸化物について、その試料を無機酸により溶解した後、ICP発光分光法により化学分析を行ったところ、その組成は、Ni_(0.79)Co_(0.1)6Al_(0.03)Mn_(0.02)(OH)_(2+a)(0≦a≦0.5)であった。 【0207】 また、この複合水酸化物について、平均粒径および粒度分布を示す〔(d90-d10)/平均粒径〕値を、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて測定した体積積算値から算出して求めた。その結果、平均粒径は4.8μmであり、〔(d90-d10)/平均粒径〕値は、0.49であった。 【0208】 次に、得られた複合水酸化物のSEM(株式会社日立ハイテクノロジース製、走査電子顕微鏡S-4700)観察(倍率:1000倍)を行ったところ、この複合水酸化物は、略球状であり、粒径がほぼ均一に揃っていることが確認された。SEM観察結果を図4に示す。 【0209】 また、得られた複合水酸化物の試料を、樹脂に埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工を行ったものについて、倍率を10,000倍としたSEM観察結果を行ったところ、この複合水酸化物が二次粒子により構成され、該二次粒子は、針状、薄片状の微細一次粒子(粒径およそ0.3μm)からなる中心部と、該中心部の外側にこの微細一次粒子よりも大きい板状の一次粒子(粒径およそ0.6μm)からなる外殻部とにより構成されていることが確認された。この断面のSEM観察結果を、図5に示す。この断面のSEM観察から求めた、二次粒子径に対する外殻部の厚さは、11%であった。 【0210】 [正極活物質の製造] 上記複合水酸化物を、空気(酸素:21容量%)気流中にて、700℃で6時間の熱処理を行って、複合酸化物に転換して回収した。 【0211】 Li/Me=1.06となるように水酸化リチウムを秤量し、上記複合酸化物と混合してリチウム混合物を調整した。混合は、シェーカーミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製、TURBULA TypeT2C)を用いて行った。 【0212】 得られたリチウム混合物を大気中(酸素:21容量%)にて、500℃で9時間仮焼後、760℃で12時間焼成し、冷却した後、解砕して正極活物質を得た。 【0213】 [正極活物質の分析] 複合水酸化物と同様の方法で、得られた正極活物質の粒度分布を測定したところ、平均粒径は4.4μmであり、〔(d90-d10)/平均粒径〕値は、0.43であった。 【0214】 また、複合水酸化物と同様の方法で、正極活物質のSEM観察および断面SEM観察を行ったところ、得られた正極活物質は、略球状であり、粒径がほぼ均一に揃っていることが確認された。この正極活物質のSEM観察結果を図6に示す。一方、断面SEM観察により、この正極活物質が、一次粒子が焼結して構成された外殻部と、その内部に中空部を備える中空構造となっていることを確認した。この正極活物質の断面SEM観察結果を図7に示す。この観察から求めた、正極活物質の粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、12%であった。 【0215】 得られた正極活物質について、流動方式ガス吸着法比表面積測定装置(ユアサアイオニクス社製マルチソーブ)により比表面積を求めたところ、1.3m^(2)/gであった。 【0216】 また、得られた正極活物質について、X線回折装置(パナリティカル社製、X’Pert PRO)を用いて、Cu-Kα線による粉末X線回折で分析したところ、この正極活物質の結晶構造が、六方晶の層状結晶複合酸化物単相からなることを確認した。 【0217】 さらに、同様にICP発光分光法により、正極活物質の組成分析を行ったところ、Li_(1.06)Ni_(0.79)Co_(0.16)Al_(0.03)Mn_(0.02)O_(2)であることが確認された。」 「【図7】 ![]() 」 (イ)甲1に記載された発明 a 【0145】の「本発明の正極活物質は、図7に例示するように、二次粒子内部の中空部とその外側の外殻部で構成される中空構造を有する点に特徴がある。」との記載及び【0214】の「この正極活物質が、一次粒子が焼結して構成された外殻部と、その内部に中空部を備える中空構造となっていることを確認した。」との記載より、甲1における「正極活物質」は、「中空部」とその外側の「外殻部」で構成され、「外殻部」は焼結された「一次粒子」からなると認められる。 b 上記(ア)の摘記事項、特に、【0145】、【0214】、【0217】及び上記aより、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 [甲1発明] 「外殻部とその内部の中空部で構成される二次粒子からなる正極活物質であって、 前記外殻部は、一次粒子が焼結して構成されており、 前記外殻部の一次粒子間の粒界あるいは空隙から電解液が浸入し得る、 組成がLi_(1.06)Ni_(0.79)Co_(0.16)Al_(0.03)Mn_(0.02)O_(2)である_(、) リチウムイオン二次電池の正極活物質。」 イ 甲2について (ア)甲2の記載事項 「【請求項1】 ニッケル(Ni)とコバルト(Co)とマンガン(Mn)との含有割合が、Ni:Co:Mnの原子比で3.5?5.5:1.0?3.0:2.5?4.5であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物であって、 不活性ガスと、当該不活性ガスに対して体積比で0.5%以上3.0%以下の酸素ガスとの混合ガスの雰囲気下で、ニッケル塩、コバルト塩及びマンガン塩を含む水溶液をpH10以上pH13以下に保持することにより、析出させて得られるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物。」 「【請求項10】 請求項1?5のいずれか一項に記載のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物とリチウム化合物との混合物を焼成して得られる非水電解質二次電池用の正極活物質。 【請求項11】 請求項10に記載の非水電解質二次電池用の正極活物質を主成分とする正極、セパレーター、及び負極を有する、非水電解質二次電池。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、正極活物質をさらに高密化でき、高密度の非水電解質二次電池を実現可能にするニッケルコバルトマンガン複合水酸化物及びその製造方法提供することを目的とする。」 「【0056】 3)非水電解質二次電池用の正極活物質及びその製造方法 3a)非水電解質二次電池用の正極活物質 非水電解質二次電池用の正極活物質は、上述したニッケルコバルトマンガン複合水酸化物とリチウム化合物との混合物を焼成して得られるリチウム-ニッケルコバルトマンガン複合酸化物であり、式:LiNi_(x)Co_(y)Mn_(z)O_(2)(式中、0.35≦x≦0.55、0.10≦y≦0.30、0.25≦z≦0.45、さらにx+y+z=1) で表される。 【0057】 正極活物質としてのリチウム-ニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、粉体として使用される。リチウム-ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の粉体形状については、特に制限はないが略球状が好ましい。リチウム-ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の粉体は、結晶構造を有するリチウム-ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の一次粒子と、かかる一次粒子が複数個集合して形成された二次粒子と、これらの混合物とのいずれであってもよい。かかる粉体形状は、通常公知の電子顕微鏡測定により目視または画像データ処理により容易に判断することができる。リチウム-ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の粒子径については、上述したニッケルコバルトマンガン複合水酸化物と近似しており、タップ密度を2.3g/ml以上とでき、バルク密度を1.6g/ml以上とできる。」 「【0061】 4)非水電解質二次電池 本発明の非水電解質二次電池は、以上で説明した正極活物質を用いるものであれば、特に制限はない。非水二次電解質二次電池の構造は、公知の種々のタイプとすることができる。また、得られた非水電解室二次電池(リチウムイオン電池)の種々の特性・性能についても、通常公知の評価方法、測定装置に基づき決定することが可能である。 以下に、非水電解質二次電池の構造の一例を、正極、負極、非水電解質等に分けて説明する。」 「【0075】 (1)実施例1 (ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の製造) 攪拌機とオーバーフローパイプとを備えた容積500Lの円筒形反応槽に水を480L入れた。反応槽の材質には塩化ビニル樹脂を用いた。さらに錯化剤として硫酸アンモニウム粉末を8.9kg加えた。次いでpHが11.5になるまで32%水酸化ナトリウム水溶液を加え、電熱ヒーターにて水溶液の温度を50℃に保持した。次いで反応槽内の溶液中は一定速度にて攪拌を行った。また、反応槽に窒素ガスを10.0L/分の流量にて、空気ガスを1.0L/分の流量にて連続的に供給し、反応槽内の混合ガスにおける酸素濃度を2.0%とした。次にNi:Co:Mn=45:20:35(モル比)となるように硫酸ニッケル(II)水溶液、硫酸コバルト(II)水溶液及び硫酸マンガン(II)水溶液を混合し、混合液中のニッケル濃度が0.65mol/L、コバルト濃度が0.29mol/L、マンガン濃度が0.50mol/Lとなるように水で希釈し、硫酸ニッケル-硫酸コバルト-硫酸マンガン混合水溶液を調整した。この混合水溶液を300ml/分の一定速度にて反応槽上部より槽内液面(攪拌中の溶液表面)へ連続供給した。これと同期して、2.8mol/L硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として24ml/分の一定速度にて反応槽上部の注入口より反応槽内液面へ連続供給した。さらに反応溶液温度を50℃で保持し、反応溶液のpH11.5に保持されるように32%水酸化ナトリウム水溶液を断続的に加え複合金属水酸化物粒子を形成させた。反応槽内は、酸素濃度が2.0%となるように窒素ガスを10.0L/分の流量にて、空気ガスを1.0L/分の流量にて連続的に供給する状態が維持されており、槽内雰囲気は定常的に置換される状態に保持された。反応槽内が定常状態になった72時間後にオーバーフローパイプより排出された水酸化物粒子を連続的に24時間採取し、水洗後に濾過し、棚段式温風乾燥機にて100℃の温風にて20時間乾燥し、乾燥粉末である複合金属水酸化物すなわちニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を得た。得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物は平均粒径(APS)は9.9μm、タッピング密度(TD)は2.33g/ml、バルク密度(BD)は1.83g/mlであった。」 「【0079】 (正極活物質の作製) 得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物と炭酸リチウムとをLi/Me(Ni,Co,Mnの合計)の原子比が1.05となるように混合し、焼成用アルミナ製さやに充填し、電気炉を用いて乾燥空気を5L/分の流量で電気炉内に連続的に供給した雰囲気下、昇温速度200℃/時間で700℃まで昇温し、700℃で5時間保持した。その後、200℃/時間の昇温速度で950℃まで昇温し、950℃で10時間保持した。その後、室温まで放冷した。得られたリチウム-ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の粒子は平均粒径10.0μm、タッピング密度2.61g/ml、バルク密度1.87g/ml、プレス密度3.008g/mlであった。なお、タッピング密度や平均粒径の測定はニッケルコバルトマンガン複合水酸化物と同様とした。また、リチウム-ニッケルコバルトマンガン複合酸化物について化学分析を行った。具体的には、ICPにてNi,Co,Mn,Li及び不純物成分を分析し、中和滴定にて残留する炭酸Li、LiOHを分析した。」 (イ)甲2に記載された発明 上記(ア)に摘記した事項より、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 [甲2発明] 「リチウム-ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の一次粒子が複数個集合して形成された二次粒子を含み、 式:LiNi_(x)Co_(y)Mn_(z)O_(2)(式中、0.35≦x≦0.55、0.10≦y≦0.30、0.25≦z≦0.45、さらにx+y+z=1)で表され、 下記の製造方法で得られた、 非水電解質二次電池(リチウムイオン電池)用の正極活物質。 <製造方法> (ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の製造) 攪拌機とオーバーフローパイプとを備えた容積500Lの円筒形反応槽に水を480L入れた。反応槽の材質には塩化ビニル樹脂を用いた。さらに錯化剤として硫酸アンモニウム粉末を8.9kg加えた。次いでpHが11.5になるまで32%水酸化ナトリウム水溶液を加え、電熱ヒーターにて水溶液の温度を50℃に保持した。次いで反応槽内の溶液中は一定速度にて攪拌を行った。また、反応槽に窒素ガスを10.0L/分の流量にて、空気ガスを1.0L/分の流量にて連続的に供給し、反応槽内の混合ガスにおける酸素濃度を2.0%とした。次にNi:Co:Mn=45:20:35(モル比)となるように硫酸ニッケル(II)水溶液、硫酸コバルト(II)水溶液及び硫酸マンガン(II)水溶液を混合し、混合液中のニッケル濃度が0.65mol/L、コバルト濃度が0.29mol/L、マンガン濃度が0.50mol/Lとなるように水で希釈し、硫酸ニッケル-硫酸コバルト-硫酸マンガン混合水溶液を調整した。この混合水溶液を300ml/分の一定速度にて反応槽上部より槽内液面(攪拌中の溶液表面)へ連続供給した。これと同期して、2.8mol/L硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として24ml/分の一定速度にて反応槽上部の注入口より反応槽内液面へ連続供給した。さらに反応溶液温度を50℃で保持し、反応溶液のpH11.5に保持されるように32%水酸化ナトリウム水溶液を断続的に加え複合金属水酸化物粒子を形成させた。反応槽内は、酸素濃度が2.0%となるように窒素ガスを10.0L/分の流量にて、空気ガスを1.0L/分の流量にて連続的に供給する状態が維持されており、槽内雰囲気は定常的に置換される状態に保持された。反応槽内が定常状態になった72時間後にオーバーフローパイプより排出された水酸化物粒子を連続的に24時間採取し、水洗後に濾過し、棚段式温風乾燥機にて100℃の温風にて20時間乾燥し、乾燥粉末である複合金属水酸化物すなわちニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を得た。 (正極活物質の作製) 得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物と炭酸リチウムとをLi/Me(Ni,Co,Mnの合計)の原子比が1.05となるように混合し、焼成用アルミナ製さやに充填し、電気炉を用いて乾燥空気を5L/分の流量で電気炉内に連続的に供給した雰囲気下、昇温速度200℃/時間で700℃まで昇温し、700℃で5時間保持した。その後、200℃/時間の昇温速度で950℃まで昇温し、950℃で10時間保持した。その後、室温まで放冷した。」 (2)申立理由1について ア 申立理由1-1について (ア)本件発明1について a 本件発明1と甲1発明との対比 (a)甲1発明の「正極活物質」は全体として「Li_(1.06)Ni_(0.79)Co_(0.16)Al_(0.03)Mn_(0.02)O_(2)」の組成を有するが、当該「正極活物質」は「二次粒子」からなるものであって、当該「二次粒子」の一部である「外殻部」を構成する「一次粒子」も同様の組成を有する蓋然性が高い。また、甲1発明の「Li_(1.06)Ni_(0.79)Co_(0.16)Al_(0.03)Mn_(0.02)O_(2)」は、本件発明1の「リチウム複合金属酸化物」に含まれるものである。したがって、甲1発明の「一次粒子」は、本件発明1の「リチウム複合金属酸化物の一次粒子」に相当する。 (b)甲1発明の「一次粒子が焼結して構成された」との事項は、本件発明1の「一次粒子が複数凝集した」に相当し、甲1発明の「二次粒子」は、その一部である「外殻部」が「一次粒子が焼結して構成された」ものであるから、本件発明1の「一次粒子が複数凝集した二次粒子」に相当する。 (c)甲1発明の「正極活物質」は「二次粒子」からなるから、「二次粒子」を含む。したがって、甲1発明の「正極活物質」と本件発明1の「リチウム二次電池用正極活物質」とは、「二次粒子を含」む点で一致する。 (d)甲1発明の「中空部」は、本件発明1の「空隙」に相当し、甲1発明において、「二次粒子」が「その内部の中空部」を含む点は、本件発明1における「前記二次粒子は、内部に形成された空隙」「を有し」との事項に相当する。 (e)甲1発明の「外殻部の一次粒子間の粒界あるいは空隙から電解液が浸入し得る」との記載から、「粒界あるいは空隙」は「外殻部」の内外を貫通しているといえ、上記(d)の事項も考慮すると、甲1発明の「粒界あるいは空隙」は、本件発明1の「前記空隙と前記二次粒子の表面とを接続する貫通孔」に相当する。 (f)甲1発明の「Li_(1.06)Ni_(0.79)Co_(0.16)Al_(0.03)Mn_(0.02)O_(2)」は、本件発明1の、 「Li[Li_(x)(Ni_((1-y-z-w))Co_(y)Mn_(z)M_(w))_(1-x)]O_(2) ・・・(I) (式(I)中、0≦x≦0.2、0<y≦0.4、0≦z≦0.4、0≦w≦0.1、MはMg、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Al、Ga、Ti、Zr、Ge、Fe、Cu、Cr、V、W、Mo、Sc、Y、Nb、La、Ta、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、及びSnからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)」に含まれるから、本件発明1と、甲1発明とは、「組成式がLi_(1.06)Ni_(0.79)Co_(0.16)Al_(0.03)Mn_(0.02)O_(2)で表される」ものにおいて一致する。 (g)甲1発明の「リチウムイオン二次電池の正極活物質」は、本件発明1の「リチウム二次電池用正極活物質」に相当する。 (h)上記(a)?(g)より、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点1で一致し、次の相違点1で相違する。 [一致点1] 「リチウム複合金属酸化物の一次粒子が複数凝集した二次粒子を含み、 前記二次粒子は、内部に形成された空隙と、前記空隙と前記二次粒子の表面とを接続する貫通孔と、を有し、 組成式がLi_(1.06)Ni_(0.79)Co_(0.16)Al_(0.03)Mn_(0.02)O_(2)で表される、リチウム二次電池用正極活物質。」 [相違点1] 本件発明1は、 「以下の(i)?(iii)をすべて満たし、前記二次粒子の中心部における空隙率が20%以上40%以下であり、前記二次粒子の表面部における空隙率が0.10%以上3%以下(ただし、前記表面部は、下記図形において、前記中心部を除いた部分である。)であり」、 「(i)前記二次粒子の断面において、前記断面の外縁で囲まれる図形の長軸長Aに対する前記図形の短軸長Bの比(B/A)が0.75以上1.0以下である。 (ii)前記図形の面積に対する、前記断面に露出した前記空隙の合計面積の割合が2.0%以上20%以下である。 (iii)前記断面に露出した前記空隙の合計面積に対する、前記断面に露出した前記空隙のうち前記二次粒子の中心部に存在する空隙の面積の割合が60%以上99%以下である。 (ただし、前記長軸長は、前記図形において前記図形の重心位置を通る前記図形の径のうち、最長の径である。) 前記中心部は、前記図形の面積をSとするとき、前記図形の重心位置を中心とし、以下の式で算出されるrを半径とする円を想定した時、当該円に囲まれる部分である。 r=(S/π)^(0.5)/2」点を備えるものであるのに対し、 甲1発明は、そのようなものであるか不明な点。 b 相違点1について (a)相違点1が実質的な相違点であるか否かについて 申立人は、異議申立書(3-1-1)「・構成要件(C)について」において、甲1の図7のSEM画像中に記載の特定の粒子について測定すると、上記相違点1に係る事項を満たす旨を主張するので、当該申立人の主張について検討する。 本件発明1の「空隙率」及び「(i)」、「(ii)」、「(iii)」の要件は、上記1(2)にて指摘のように、【0011】?【0013】に記載の所定の方法で得られた「断面」に所定の画像処理を行ったものから得られたものである。 一方で、甲1の図7は、正極活物質の断面SEM観察結果であるが、図7の取得方法について記載した【0209】、【0214】を参照しても、断面を取得、観察する粒子の選択方法について記載はなく、図7に記載された各粒子の断面がどのような粒子のどのような断面であるのかは特定されていない。 そうすると、甲1の図7に記載の各粒子の断面が、本件発明1において「空隙率」及び「(i)」、「(ii)」、「(iii)」の要件を求めるために用いる断面と同一の方法で取得、選択された断面であると特定することはできないから、甲1の図7において測定した値により、甲1発明が上記相違点1に係る事項を備えると結論付けることはできない。 したがって、上記相違点1は、本件発明1と甲1発明との間における実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1発明ではない。 (b)相違点1に係る容易想到性についての判断 後記(3)ア(オ)にも記載のように、本件発明1は、本件発明1の「空隙率」及び「(i)」、「(ii)」、「(iii)」の各要件を特定の範囲とすることで、レート特性を向上させるものであり、これらの要件は、上記1(2)にて指摘のように、【0011】?【0013】に記載の所定の方法で得られた「断面」に所定の画像処理を行ったものにおいて測定されるものである。 一方で、甲1には、二次粒子の断面の選択について何ら記載はなされておらず、甲1発明において、特定の断面を選択して、空隙の分布や二次粒子の形状を調整する動機がないから、甲1発明においては、本件特許の明細書の【0011】?【0013】に記載の所定の方法で得られた「断面」に所定の画像処理をしたものを選択して空隙の分布や二次粒子の形状を調整しようとする動機付けが存在しない。 また、本件発明は、本件特許の明細書の【0011】?【0013】に記載の所定の方法で得られた「断面」に所定の画像処理をしたものを選択して、本件発明1の「空隙率」及び「(i)」、「(ii)」、「(iii)」の各要件を特定の範囲とすることで、レート特性を向上させるとの格別の効果を奏するものであり、甲1には、レート特性と、二次粒子の断面における空隙の分布や二次粒子の形状、空隙の分布を調整する断面の選択との関連についての記載はないから、当該効果は、甲1発明から、当業者が予測し得るものではない。 したがって、甲1発明において、上記相違点1に係る事項を採用することは、当業者が容易に発明し得ることではない。 c 小括 よって、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ)本件発明2?6について 本件発明2?6は、本件発明1の発明特定事項を全て含むから、本件発明1と同様に甲1発明でなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 申立理由1-2について (ア)本件発明1について a 本件発明1と甲2発明との対比 (a)甲2発明の「リチウム-ニッケルコバルトマンガン複合酸化物の一次粒子が複数個集合して形成された二次粒子」は、甲1発明の「リチウム複合金属酸化物の一次粒子が複数凝集した二次粒子」に相当する。 (b)甲2発明の「式:LiNi_(x)Co_(y)Mn_(z)O_(2)(式中、0.35≦x≦0.55、0.10≦y≦0.30、0.25≦z≦0.45、さらにx+y+z=1)」は、本件発明1の「Li[Li_(x)(Ni_((1-y-z-w))Co_(y)Mn_(z)M_(w))_(1-x)]O_(2) ・・・(I) (式(I)中、0≦x≦0.2、0<y≦0.4、0≦z≦0.4、0≦w≦0.1、MはMg、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Al、Ga、Ti、Zr、Ge、Fe、Cu、Cr、V、W、Mo、Sc、Y、Nb、La、Ta、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、及びSnからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)」と、「LiNi_(x)Co_(y)Mn_(z)O_(2)(組成式中、0.35≦x≦0.55、0.10≦y≦0.30、0.25≦z≦0.40、さらにx+y+z=1)」の範囲で共通する。 (c)甲2発明の「非水電解質二次電池(リチウムイオン電池)用の正極活物質」は、甲1発明の「リチウム二次電池用正極活物質」に相当する。 (d)上記(a)?(c)より、本件発明1と甲2発明とは、次の一致点2で一致し、次の相違点2で相違する。 [一致点2] 「リチウム複合金属酸化物の一次粒子が複数凝集した二次粒子を含み、 組成式がLiNi_(x)Co_(y)Mn_(z)O_(2)(組成式中、0.35≦x≦0.55、0.10≦y≦0.30、0.25≦z≦0.40、さらにx+y+z=1)で表される、リチウム二次電池用正極活物質。」 [相違点2] 本件発明1は、 「前記二次粒子は、内部に形成された空隙と、前記空隙と前記二次粒子の表面とを接続する貫通孔と、を有」し、 「以下の(i)?(iii)をすべて満たし、前記二次粒子の中心部における空隙率が20%以上40%以下であり、前記二次粒子の表面部における空隙率が0.10%以上3%以下(ただし、前記表面部は、下記図形において、前記中心部を除いた部分である。)であり」、 「(i)前記二次粒子の断面において、前記断面の外縁で囲まれる図形の長軸長Aに対する前記図形の短軸長Bの比(B/A)が0.75以上1.0以下である。 (ii)前記図形の面積に対する、前記断面に露出した前記空隙の合計面積の割合が2.0%以上20%以下である。 (iii)前記断面に露出した前記空隙の合計面積に対する、前記断面に露出した前記空隙のうち前記二次粒子の中心部に存在する空隙の面積の割合が60%以上99%以下である。 (ただし、前記長軸長は、前記図形において前記図形の重心位置を通る前記図形の径のうち、最長の径である。) 前記中心部は、前記図形の面積をSとするとき、前記図形の重心位置を中心とし、以下の式で算出されるrを半径とする円を想定した時、当該円に囲まれる部分である。 r=(S/π)^(0.5)/2」点を備えるものであるのに対し、 甲2発明は、そのようなものであるか不明な点。 b 相違点2について (a)相違点2が実質的な相違点であるか否かについて 申立人は、異議申立書(3-2-1)「・構成要件(A)?(F)について」において、本件特許の明細書に記載された製造方法と、甲2発明の製造方法とが同一であることから、甲2発明が、上記相違点2に係る事項を備える旨を主張するので、当該申立人の主張について検討する。 (a-1)本件特許の明細書に記載された製造方法 (a-1-1)本件特許の明細書には、本件発明の製造方法につき、以下の記載がある。 「【0044】 <リチウム二次電池用正極活物質の製造方法> 本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、ニッケル、コバルト、マンガンを含む複合金属化合物の製造工程と、該複合金属化合物とリチウム化合物とを用いたリチウム複合金属化合物の製造工程とを備えることが好ましい。 【0045】 本発明のリチウム二次電池用正極活物質を製造するにあたり、まず、リチウム以外の金属、すなわち、Ni、Co及びMnから構成される必須金属、並びに、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVのうちいずれか1種以上の任意金属を含む複合金属化合物を調製する。その後、当該複合金属化合物を適当なリチウム塩と焼成する。 複合金属化合物としては、複合金属水酸化物又は複合金属酸化物が好ましい。 以下に、正極活物質の製造方法の一例を、複合金属化合物の製造工程と、リチウム複合金属酸化物の製造工程とに分けて説明する。 【0046】 (複合金属化合物の製造工程) 複合金属化合物は、通常公知のバッチ共沈殿法又は連続共沈殿法により製造することが可能である。以下、金属として、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む複合金属水酸化物を例に、その製造方法を詳述する。 【0047】 まず共沈殿法、特に特開2002-201028号公報に記載された連続法により、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液、及び錯化剤を反応させ、ニッケルコバルトマンガン複合金属水酸化物を製造する。 【0048】 上記ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの何れかを使用することができる。上記コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、及び塩化コバルトのうちの何れかを使用することができる。上記マンガン塩溶液の溶質であるマンガン塩としては、例えば硫酸マンガン、硝酸マンガン、及び塩化マンガンのうちの何れかを使用することができる。以上の金属塩は、前記式(I)の組成比に対応する割合で用いられる。また、溶媒として水が使用される。 【0049】 錯化剤としては、水溶液中で、ニッケル、コバルト、及びマンガンのイオンと錯体を形成可能なものであり、例えばアンモニウムイオン供給体(硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等)、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。 【0050】 沈殿に際しては、水溶液のpH値を調整するため、必要ならばアルカリ金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)を添加する。 【0051】 上記ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、及びマンガン塩溶液のほか、錯化剤を反応槽に連続して供給させると、ニッケル、コバルト、及びマンガンが反応し、ニッケルコバルトマンガン複合金属水酸化物が製造される。 反応に際しては、反応槽の温度が例えば20℃以上80℃以下、好ましくは30℃以上70℃以下の範囲内で制御する。 反応槽内のpH値は例えば水溶液の温度が40℃の時にpH9以上pH13以下、好ましくはpH11以上pH13以下の範囲内で制御する。このpHを上記の範囲に制御することにより、本発明の所望の中心部の空隙割合が高い二次粒子を製造することができる。 反応槽内の物質は適宜撹拌される。上記反応槽の温度を40℃以上に保持し、かつ前記アルカリ金属水酸化物の重量に対する前記ニッケル、コバルト、及びマンガンの金属としての重量の比が0.9以上となる条件下で各溶液を混合し、撹拌することによって、二次粒子の球形度を本発明の所望の範囲に制御することができる。反応槽は、形成された反応沈殿物を分離するためオーバーフローさせるタイプのものを用いることができる。 また反応槽内は、不活性雰囲気を保ちつつも、適度な酸素含有雰囲気または酸化剤存在下とすることで、本発明の所望の中心部の空隙割合が高い二次粒子を製造することができる。反応槽内を酸素含有雰囲気とするには、反応槽内に酸素含有ガスを導入すればよい。酸素含有ガスとしては、酸素ガス、空気、又はこれらと窒素ガスなどの酸素非含有ガスとの混合ガスが挙げられる。酸素含有ガス中の酸素濃度を調整しやすい観点から、上記の中でも混合ガスであることが好ましい。 【0052】 反応槽に供給する金属塩の濃度、攪拌速度、反応温度、反応pH、及び後述する焼成条件等を適宜制御することにより、最終的に得られるリチウム二次電池用正極活物質を所望の物性に制御することができる。 【0053】 以上の反応後、得られた反応沈殿物を水で洗浄した後、乾燥し、ニッケルコバルトマンガン複合化合物としてのニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を単離する。また、必要に応じて弱酸水や水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを含むアルカリ溶液で洗浄してもよい。なお、上記の例では、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を製造しているが、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を調製してもよい。ニッケルコバルト任意金属Mの複合水酸化物からニッケルコバルト任意金属Mの複合酸化物を調整する際は、300℃以上800℃以下の温度で1時間以上10時間以下の範囲で焼成し、酸化物化する酸化物化工程を実施してもよい。 【0054】 (リチウム複合金属酸化物の製造工程) ・混合工程 上記複合金属酸化物又は水酸化物を乾燥した後、リチウム塩と混合する。 リチウム塩としては、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物、酸化リチウムのうち何れか一つ、または、二つ以上を混合して使用することができる。 【0055】 複合金属酸化物又は水酸化物の乾燥後に、適宜分級を行ってもよい。以上のリチウム塩と複合金属水酸化物とは、最終目的物の組成比を勘案して用いられる。例えば、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を用いる場合、リチウム塩と当該複合金属水酸化物は、前記式(I)の組成比に対応する割合で用いられる。 【0056】 ・本焼成工程 ニッケルコバルトマンガン複合金属酸化物又は水酸化物及びリチウム塩の混合物を焼成することによって、リチウム-ニッケルコバルトマンガン複合金属酸化物が得られる。なお、焼成には、所望の組成に応じて乾燥空気、酸素雰囲気、不活性雰囲気等が用いられ、必要ならば複数の加熱工程を有する本焼成工程が実施される。 【0057】 上記複合金属酸化物又は水酸化物と、水酸化リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物との焼成温度としては、特に制限はないが、700℃以上1100℃以下であることが好ましく、750℃以上1050℃以下であることがより好ましく、800℃以上1025℃以下がさらに好ましい。ここで焼成温度とは、本焼成工程での保持温度の最高温度(以下、最高保持温度と呼ぶことがある)であり、複数の加熱工程を有する本焼成工程の場合、各加熱工程のうち、最高保持温度で加熱した際の温度を意味する。 【0058】 焼成時間は、3時間以上50時間以下が好ましい。焼成時間が50時間を超えると、リチウムの揮発によって実質的に電池性能に劣る傾向となる。焼成時間が3時間より少ないと、結晶の発達が悪く、電池性能が悪くなる傾向となる。 【0059】 本実施形態において、最高保持温度に達する加熱工程の昇温速度は180℃/hr以上が好ましく、200℃/hr以上がより好ましく、250℃/hr以上が特に好ましい。 最高保持温度に達する加熱工程の昇温速度は、焼成装置において、昇温を開始した時間から後述の保持温度に到達するまでの時間から算出される。 昇温速度を上記特定の範囲とすることにより、二次粒子の中心部の空隙割合が高いリチウム二次電池用正極活物質を製造することができる。」 「【実施例】 【0114】 次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。以下の実施例において、実施例5及び実施例6は参考例とする。 【0115】 本実施例においては、リチウム複合金属化合物の評価を次のようにして行った。 【0116】 <組成分析> 後述の方法で製造されるリチウム複合金属化合物の組成分析は、得られたリチウム複合金属化合物の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて行った。 【0117】 <リチウム二次電池用正極活物質の断面観察> リチウム二次電池用正極活物質の粉末を集束イオンビーム加工装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、FB2200)で加工し二次粒子の略中心を通る断面を作製し、前記正極活物質の断面を集束イオンビーム加工装置を用いて走査イオン顕微鏡像(SIM像)として観察、または走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S-4800)を用いて走査電子顕微鏡像(SEM像)として観察した。もしくは、正極をイオンミリング装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、IM4000)で加工し断面を作製し、前記正極の断面を走査電子顕微鏡を用いてSEM像として観察した。なお、レーザー回折式粒度分布測定で得られた50%累積体積粒度D50(μm)に近い最大径を示す正極活物質を選択し、該正極活物質の粒子が枠内に納まる最大の倍率で撮影した。 【0118】 <B/Aの測定方法> 前記断面像をコンピュータに取り込み、画像解析ソフトImage Jを用い、二次粒子の長軸長A及び短軸長Bを求め、B/Aを算出した。 【0119】 [空隙率の測定方法] 画像解析によって算出した二次粒子断面の断面積Sに対して、前記二次粒子の重心位置を中心として、以下の式で算出されるrを半径とする円を描き、円の内部を粒子中心部とし、円の外部を粒子表面部とした。 r=(S/π)^(0.5)/2 【0120】 二次粒子断面全体の空隙率は、以下のようにして算出した。 二次粒子断面全体の空隙率(%) = 二次粒子断面全体に存在する空隙部分の面積/二次粒子断面の面積×100 【0121】 二次粒子の表面部における空隙率は、以下のようにして算出した。 二次粒子の表面部における空隙率(%) = 二次粒子断面の表面部に存在する空隙部分の面積/二次粒子表面部の二次粒子断面の面積×100 【0122】 二次粒子の中心部における空隙率は、以下のようにして算出した。 二次粒子の中心部における空隙率(%) = 二次粒子断面の中心部に存在する空隙部分の面積/二次粒子中心部の二次粒子断面の面積×100 【0123】 二次粒子断面に露出した空隙の合計面積に対する、二次粒子断面に露出した空隙のうち二次粒子の中心部に存在する空隙の面積の割合は、以下のようにして算出した。 二次粒子断面に露出した空隙の合計面積に対する、二次粒子断面に露出した空隙のうち二次粒子の中心部に存在する空隙の面積の割合(%) = 二次粒子断面の中心部に存在する空隙の面積/二次粒子断面全体部に存在する空隙の面積×100」 「【0125】 <リチウム二次電池用正極の作製> 後述する製造方法で得られるリチウム複合金属化合物を正極活物質とし、該正極活物質と導電材(アセチレンブラック)とバインダー(PVdF)とを、リチウム二次電池用正極活物質:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の組成となるように加えて混練することにより、ペースト状の正極合剤を調製した。正極合剤の調製時には、N-メチル-2-ピロリドンを有機溶媒として用いた。 【0126】 得られた正極合剤を、集電体となる厚さ40μmのAl箔に塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、リチウム二次電池用正極を得た。このリチウム二次電池用正極の電極面積は1.65cm^(2)とした。 【0127】 <リチウム二次電池用負極の作製> 次に、負極活物質として人造黒鉛(日立化成株式会社製MAGD)と、バインダーとしてCMC(第一工業薬製株式会社製)とSBR(日本エイアンドエル株式会社製)とを、負極活物質:CMC:SRR=98:1:1(質量比)の組成となるように加えて混練することにより、ペースト状の負極合剤を調製した。負極合剤の調製時には、溶媒としてイオン交換水を用いた。 【0128】 得られた負極合剤を、集電体となる厚さ12μmのCu箔に塗布して60℃で8時間真空乾燥を行い、リチウム二次電池用負極を得た。このリチウム二次電池用負極の電極面積は1.77cm^(2)とした。 【0129】 <リチウム二次電池(コイン型フルセル)の作製> 以下の操作を、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。 「(2)リチウム二次電池用正極の作製」で作製したリチウム二次電池用正極を、コイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋にアルミ箔面を下に向けて置き、その上に積層フィルムセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルムの上に、耐熱多孔層を積層(厚み16μm))を置いた。ここに電解液を300μl注入した。電解液は、エチレンカーボネート(以下、ECと称することがある。)とジメチルカーボネート(以下、DMCと称することがある。)とエチルメチルカーボネート(以下、EMCと称することがある。)の16:10:74(体積比)混合液にビニレンカーボネート(以下、VCと称することがある。)を1体積%加え、そこにLiPF_(6)を1.3mol/lとなるように溶解したもの(以下、LiPF_(6)/EC+DMC+EMCと表すことがある。)を用いた。 次に、<リチウム二次電池用負極の作製>で作製したリチウム二次電池用負極を積層フィルムセパレータの上側に置き、ガスケットを介して上蓋をし、かしめ機でかしめてリチウム二次電池(コイン型フルセルR2032。以下、「フルセル」と称することがある。)を作製した。 【0130】 ・充放電試験 上記の方法で作製したセルを用いて、以下に示す条件で放電レート試験を実施した。放電レート試験における、10CA放電容量維持率をそれぞれ以下のようにして求めた。 【0131】 ・・放電レート試験 試験温度25℃ 充電最大電圧4.2V、充電時間6時間、充電電流1CA定電流定電圧充電 放電最小電圧2.5V、定電流放電 0.2CAで定電流放電させたときの放電容量と、10CAで放電させたときの放電容量とを求めることで、以下の式で求められる10CA放電容量維持率を求めた。10CA放電容量維持率が高ければ高いほど、高出力を示すことを意味する。 ・・10CA放電容量維持率 10CA放電容量維持率(%) =10CAにおける放電容量/0.2CAにおける放電容量×100」 「【0134】 (実施例1) リチウム二次電池用正極活物質1の製造 [ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物製造工程] 攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。 【0135】 硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液を、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が0.55:0.21:0.24となるように混合して、混合原料液を調製した。 【0136】 次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、酸素濃度が1.7%となるように窒素ガスに空気を混合して得た酸素含有ガスを連続通気させた。水酸化ナトリウムの重量に対するニッケル、コバルト、及びマンガンの金属としての重量の比が0.90となるように各溶液を供給し、50℃で撹拌し続けることで、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、水酸化ナトリウム溶液で洗浄した後、遠心分離機で脱水、単離し、105℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1を得た。 【0137】 [混合工程] 以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1と炭酸リチウム粉末とを、モル比でLi/(Ni+Co+Mn)=1.07となるように秤量して混合した。 【0138】 [焼成工程] その後、上記混合工程で得られた混合物を、酸素雰囲気下、271℃/hで昇温し、870℃で5時間焼成することでリチウム二次電池用正極活物質1を得た。 【0139】 リチウム二次電池用正極活物質1の評価 得られたリチウム二次電池用正極活物質1の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.029、y=0.207、z=0.240、w=0.000であった。 【0140】 リチウム二次電池用正極活物質1のB/A、貫通孔の有無、粒子断面全体の空隙率、粒子中心部空隙率/粒子全体空隙率、粒子中心部の空隙率、粒子表面の空隙率、細孔径、BET比表面積、放電レート特性及びタップ密度の結果を表1に記載する。 【0141】 (実施例2) リチウム二次電池用正極活物質2の製造 [ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物製造工程] 攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。 【0142】 硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液を、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が0.55:0.21:0.24となるように混合して、混合原料液を調製した。 【0143】 次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、酸素濃度が6.1%となるように窒素ガスに空気を混合して得た酸素含有ガスを連続通気させた。水酸化ナトリウムの重量に対するニッケル、コバルト、及びマンガンの金属としての重量の比が0.90となるように各溶液を供給し、撹拌し続けることで、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、水酸化ナトリウム溶液で洗浄した後、遠心分離機で脱水、単離し、105℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物2を得た。 【0144】 [混合工程] 以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物2と炭酸リチウム粉末とを、モル比でLi/(Ni+Co+Mn)=1.07となるように秤量して混合した。 【0145】 [焼成工程] その後、上記混合工程で得られた混合物を、酸素雰囲気下、271℃/hで昇温し、870℃で5時間焼成することでリチウム二次電池用正極活物質2を得た。 【0146】 リチウム二次電池用正極活物質2の評価 得られたリチウム二次電池用正極活物質2の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.028、y=0.206、z=0.241、w=0.000であった。 【0147】 リチウム二次電池用正極活物質2のB/A、貫通孔有無、粒子断面全体の空隙率、粒子中心部空隙率/粒子全体空隙率、粒子中心部の空隙率、粒子表面の空隙率、細孔径、BET比表面積、放電レート特性及びタップ密度の結果を表1に記載する。 【0148】 (実施例3) リチウム二次電池用正極活物質3の製造 [ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物製造工程] 攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。 【0149】 硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液を、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が0.55:0.21:0.24となるように混合して、混合原料液を調製した。 【0150】 次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、酸素濃度が6.1%となるように窒素ガスに空気を混合して得た酸素含有ガスを連続通気させた。水酸化ナトリウムの重量に対するニッケル、コバルト、及びマンガンの金属としての重量の比が0.90となるように各溶液を供給し、50℃で撹拌し続けることで、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、水酸化ナトリウム溶液で洗浄した後、遠心分離機で脱水、単離し、105℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物3を得た。 【0151】 [混合工程] 以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物3と炭酸リチウム粉末とを、モル比でLi/(Ni+Co+Mn)=1.07となるように秤量して混合した。 【0152】 [焼成工程] その後、上記混合工程で得られた混合物を、酸素雰囲気下、277℃/hで昇温し、890℃で5時間焼成することでリチウム二次電池用正極活物質3を得た。 【0153】 リチウム二次電池用正極活物質3の評価 得られたリチウム二次電池用正極活物質3の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.032、y=0.208、z=0.243、w=0.000であった。 【0154】 リチウム二次電池用正極活物質3のB/A、貫通孔有無、粒子断面全体の空隙率、粒子中心部空隙率/粒子全体空隙率、粒子中心部の空隙率、粒子表面の空隙率、細孔径、BET比表面積、放電レート特性及びタップ密度の結果を表1に記載する。 【0155】 (実施例4) リチウム二次電池用正極活物質4の製造 [ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物製造工程] 攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。 【0156】 硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液を、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が0.51:0.22:0.27となるように混合して、混合原料液を調製した。 【0157】 次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、酸素濃度が19%となるように窒素ガスに空気を混合して得た酸素含有ガスを連続通気させた。水酸化ナトリウムの重量に対するニッケル、コバルト、及びマンガンの金属としての重量の比が0.90となるように各溶液を供給し、50℃で撹拌し続けることで、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、水酸化ナトリウム溶液で洗浄した後、遠心分離機で脱水、単離し、105℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物4を得た。 【0158】 [混合工程] 以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物4と炭酸リチウム粉末とを、モル比でLi/(Ni+Co+Mn)=1.07となるように秤量して混合した。 【0159】 [焼成工程] その後、上記混合工程で得られた混合物を、酸素雰囲気下、213℃/hで昇温し、930℃で5.6時間焼成することでリチウム二次電池用正極活物質4を得た。 【0160】 リチウム二次電池用正極活物質4の評価 得られたリチウム二次電池用正極活物質4の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.032、y=0.223、z=0.265、w=0.000であった。 【0161】 リチウム二次電池用正極活物質4のB/A、貫通孔有無、粒子断面全体の空隙率、粒子中心部空隙率/粒子全体空隙率、粒子中心部の空隙率、粒子表面の空隙率、細孔径、BET比表面積、放電レート特性及びタップ密度の結果を表1に記載する。」 「【0190】 【表1】 ![]() 【0191】 上記表1に記載の通り、実施例1?6のリチウム二次電池用正極活物質は、容量維持率が比較例1に比べて約20%以上も高かった。」 (a-1-2)上記(a-1-1)で摘記した事項のうち実施例に関する部分、特に、【0190】の【表1】を参照すると、相違点2に係る本件発明1の特定事項を全て満たすものは、実施例1?4のみであるので、実施例1?4の製造方法と同一の製造方法で製造されたものであれば、相違点2に係る構成を全て満たす可能性があるといえる。 (a-1-3)一方で、【0044】?【0059】には、製造方法について一般的な記載がなされており、各製造条件と空隙の分布や、粒子の形状との関連は記載されているが、これらの製造条件を具体的にどのように組み合わせれば、相違点2に係る本件発明1の特定事項を同時に全て満たし得るのかについては、【0044】?【0059】の記載からは明らかでない。 (a-1-4)したがって、本件特許の明細書の記載から、製造された正極活物質が相違点2に係る構成を全て満たすといえる製造方法は、実施例1?4の製造方法と同一の製造方法のみである。 (a-2)甲2発明の製造方法 甲2発明の製造方法については、上記(1)イ(イ)において、甲2発明において「<製造方法>」として認定したとおりである。 (a-3)本件特許の明細書に記載された製造方法と甲2発明の製造方法との対比 上記(a-1-4)に記載のとおり、製造されたものが相違点2に係る構成を全て満たすといえる製造方法は、実施例1?4の製造方法と同一の製造方法のみであるので、甲2発明の製造方法が、実施例1?4の製造方法と同一の製造方法であるかについて検討する。 甲2に記載された製造方法と、本件特許の実施例1?4の製造方法とを対比すると、両者は、少なくとも、原料の混合の順序や、酸素濃度、アルカリ金属水酸化物の重量に対するニッケル、コバルト、及びマンガンの金属としての重量の比、昇温速度等の焼成条件において同一ではなく、甲2に記載された製造方法と、本件特許の実施例1?4の製造方法とが同一であるとはいえない。 そして、甲2に記載された製造方法と本件特許の実施例1?4の製造方法との差異が、製造された正極活物質の空隙の分布や形状に影響をしないと判断し得る理由もないから、甲2発明の製造方法により製造された正極活物質が、本件特許の実施例1?4の製造方法で製造された正極活物質と同一のものであるとはいうことはできない。 なお、上記(a-1-1)で摘記した製造方法の記載のうち、実施例以外の部分である【0044】?【0059】に記載の事項に限ってみても、甲2発明では、少なくとも、【0051】に記載の「前記アルカリ金属水酸化物の重量に対する前記ニッケル、コバルト、及びマンガンの金属としての重量の比が0.9以上となる条件下で各溶液を混合」する点が特定されておらず、甲2発明と本件特許の明細書に記載の製造方法が同一とはいえない。 したがって、本件特許の明細書に記載された製造方法と、甲2発明の製造方法が同一であることを根拠として、甲2発明が、上記相違点2に係る事項を備えるということはできず、上記相違点2は、本件発明1と甲2発明との間における実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲2発明ではない。 (b)相違点2に係る容易性についての判断 後記(3)ア(オ)にも記載のように、本件発明1は、「空隙率」及び「(i)」、「(ii)」、「(iii)」の各要件を特定の範囲とすることで、レート特性を向上させるものであるが、甲2には、レート特性と二次粒子の断面における空隙の分布や二次粒子の形状との関連についての記載はなく、甲2発明において、レート特性を向上させるために「空隙率」や上記「(i)」、「(ii)」、「(iii)」の各要件を本件発明1における特定の範囲の値とする動機はない。 したがって、甲2発明において、上記相違点2に係る事項を採用することは、当業者が容易に発明し得ることではない。 c 小括 よって、本件発明1は、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ)本件発明2?6について 本件発明2?6は、本件発明1の発明特定事項を全て含むから、本件発明1と同様に甲2発明でなく、また、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 小括 よって、本件発明1?6は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものではなく、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものではない。 (3)申立理由2について ア 申立理由2-1について (ア)サポート要件を検討する観点について 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。 以下、上記の観点に立って、本件特許の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かについて検討する。 (イ)特許請求の範囲の記載について 本件特許の特許請求の範囲の記載は、第2に示したとおりである。 (ウ)発明の詳細な説明の記載について 本件特許の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかしながら、リチウム二次電池のレート特性をより向上させるため、特許文献1に記載の方法で得られた正極活物質には、さらなる改良の余地がある。 本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、レート特性に優れるリチウム二次電池用正極活物質、該リチウム二次電池用正極活物質を用いたリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 すなわち、本発明は下記[1]?[8]の発明を包含する。 [1]リチウム複合金属酸化物の一次粒子が複数凝集した二次粒子を含み、前記二次粒子は、内部に形成された空隙と、前記空隙と前記二次粒子の表面とを接続する貫通孔と、を有し、以下の(i)?(iii)をすべて満たすリチウム二次電池用正極活物質。 (i)前記二次粒子の断面において、前記断面の外縁で囲まれる図形の長軸長Aに対する前記図形の短軸長Bの比(B/A)が0.75以上1.0以下である。 (ii)前記図形の面積に対する、前記断面に露出した前記空隙の合計面積の割合が2.0%以上40%以下である。 (iii)前記断面に露出した前記空隙の合計面積に対する、前記断面に露出した前記空隙のうち前記二次粒子の中心部に存在する空隙の面積の割合が60%以上99%以下である。 (ただし、前記長軸長は、前記図形において前記図形の重心位置を通る前記図形の径のうち、最長の径である。) 前記短軸長は、前記図形において前記図形の重心位置を通る前記図形の径のうち、最短の径である。 前記中心部は、前記図形の面積をSとするとき、前記図形の重心位置を中心とし、以下の式で算出されるrを半径とする円を想定した時、当該円に囲まれる部分である。 r=(S/π)^(0.5)/2 [2]前記二次粒子の中心部における空隙率が15%以上50%以下である、[1]に記載のリチウム二次電池用正極活物質。 [3]前記二次粒子の表面部における空隙率が0.10%以上10%以下である、[1]又は[2]に記載のリチウム二次電池用正極活物質。 (ただし、前記表面部は、前記図形において、前記中心部を除いた部分である。) [4]水銀圧入法による細孔分布測定において、細孔半径が30nm以上150nm以下に細孔ピークを有する、[1]?[3]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質。 [5]前記二次粒子のBET比表面積が0.2m^(2)/g以上3.0m^(2)/g以下である、[1]?[4]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質。 [6]組成式が下記式(I)で表される、[1]?[5]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質。 Li[Li_(x)(Ni_((1-y-z-w))Co_(y)Mn_(z)M_(w))_(1-x)]O_(2) ・・・(I) (式(I)中、0≦x≦0.2、0<y≦0.4、0≦z≦0.4、0≦w≦0.1、MはMg、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Al、Ga、Ti、Zr、Ge、Fe、Cu、Cr、V、W、Mo、Sc、Y、Nb、La、Ta、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、及びSnからなる群より選択される1種以上の金属を表す。) [7][1]?[6]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質を有するリチウム二次電池用正極。 [8][7]に記載のリチウム二次電池用正極を有するリチウム二次電池。 【発明の効果】 【0007】 本発明によれば、レート特性に優れるリチウム二次電池用正極活物質、該リチウム二次電池用正極活物質を用いたリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池を提供することができる。」 「【発明を実施するための形態】 【0009】 <リチウム二次電池用正極活物質> 本発明は、リチウム複合金属酸化物の一次粒子が複数凝集した二次粒子を含み、前記二次粒子は、内部に形成された空隙と、前記空隙と前記二次粒子の表面とを接続する貫通孔と、を有し、以下の(i)?(iii)をすべて満たすリチウム二次電池用正極活物質である。 (i)前記二次粒子の断面において、前記断面の外縁で囲まれる図形の長軸長Aに対する前記図形の短軸長Bの比(B/A)が0.75以上1.0以下である。 (ii)前記図形の面積に対する、前記断面に露出した前記空隙の合計面積の割合が2.0%以上40%以下である。 (iii)前記断面に露出した前記空隙の合計面積に対する、前記断面に露出した前記空隙のうち前記二次粒子の中心部に存在する空隙の面積の割合が60%以上99%以下である。 【0010】 本明細書において、「長軸長」とは、二次粒子の断面における、前記断面の外縁で囲まれる図形において前記図形の重心位置を通る前記図形の径のうち、最長の径を意味する。 本明細書において、「短軸長」とは、二次粒子の断面における、前記断面の外縁で囲まれる図形において前記図形の重心位置を通る前記図形の径のうち、最短の径を意味する。 本明細書において、「中心部」とは、二次粒子の断面における前記断面の外縁で囲まれる図形において、前記図形の面積をSとするとき、前記図形の重心位置を中心とし、以下の式で算出されるrを半径とする円を想定した時、当該円に囲まれる部分である。 r=(S/π)^(0.5)/2 本明細書において、「表面部」とは、二次粒子の断面における、前記中心部を除いた部分である。 なお前記中心部は、前記図形の面積Sと等しい面積となる円の半径の1/2を半径rとする円に囲まれる部分を意味する。つまり、前記中心部の半径rは以下の計算式から算出する。 S=π(2r)^(2)」 「【0014】 (i) 本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、リチウム複合金属酸化物の一次粒子が複数凝集した二次粒子を含む。さらに、前記二次粒子の断面において、前記断面の外縁で囲まれる図形の長軸長Aに対する前記図形の短軸長Bの比(B/A)が0.75以上1.0以下である。 図4に、本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質の断面の模式図を示す。本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、二次粒子40の断面を観察したときに、二次粒子の中心部44に空隙43を有する。空隙43は貫通孔42により二次粒子外部と通じている。図4に示す空隙43の形状や貫通孔42の形状や数は一例に過ぎず、これに限定されるものではない。 【0015】 図4において、破線で囲まれる領域が中心部44であり、粒子において中心部44よりも粒子表面側の部分が表面部41である。中心部44は、以下の式で算出されるrを半径とする円を想定した時、当該円に囲まれる円(即ち、直径2rの円)の内部である。 r=(S/π)^(0.5)/2 【0016】 図4に示す長軸長Aに対する短軸長Bの比率(B/A)は、二次粒子の球形度を表す。B/Aの値が1に近いほど、二次粒子が球形に近づくことを意味している。B/Aの下限値は、0.78以上が好ましく、0.80以上がより好ましく、0.85以上が特に好ましい。B/Aが上記範囲であると、球形度が高い二次粒子となる。そのため電極を製造する際の充填性が良好となる。 【0017】 B/Aの測定には、画像解析付きレーザー光回折散乱式粒度分析計や走査型電子顕微鏡画像を用いることができる。数十?数百個程度の粒子をサンプルとして観察し、それらの長軸長Aに対する短軸長Bの比率(B/A)を算出して、その平均値を求めることにより得ることができる。 【0018】 (ii) 本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は前記図形の面積に対する、前記断面に露出した前記空隙の合計面積の割合(以下、二次粒子断面全体の空隙率とよぶことがある)が2.0%以上であり、4.0%以上が好ましく、5.0%以上がより好ましく、6.0%以上が特に好ましい。また、40%以下であり、30%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、20%以下が特に好ましい。 上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。 【0019】 (iii) 本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、前記断面に露出した前記空隙の合計面積に対する、前記断面に露出した前記空隙のうち前記二次粒子の中心部に存在する空隙の面積の割合が60%以上であり、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上が特に好ましい。また、99%以下であり、98.5%以下が好ましく、98%以下がより好ましい。前記断面に露出した前記空隙の合計面積に対する、前記断面に露出した前記空隙のうち前記二次粒子の中心部に存在する空隙の面積の割合が上記範囲であると、二次粒子内部の空隙に適度な量の電解液を保液できる。これにより、リチウム二次電池のレート特性が向上する。 上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。 【0020】 [貫通孔] 本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質が含む二次粒子は、内部に形成された空隙43と、前記空隙と前記二次粒子の表面とを接続する貫通孔42と、を有する。貫通孔42の開口幅は特に限定されず、約30nm以上150nm以下が好ましい。ここで、貫通孔の開口幅とは、二次粒子内部の空隙から外部に至る経路のなかで最も狭小な部分における孔の直径をいう。本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、貫通孔を通じて外部から二次粒子内部の空隙部に電解液が入り込むことができる。これにより、リチウム二次電池のレート特性が向上する。」 「【0023】 本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、図4に示すように二次粒子40の中心部44に空隙43を有している。他の実施形態としては、図5に示すように、二次粒子50の中心部54に多孔質構造の空隙53を有していてもよい。多孔質構造の空隙53は、貫通孔52によって二次粒子の外部と通じている。この実施形態においても、二次粒子50の表面部51には空隙が少ないことが好ましい。 【0024】 本発明を適用せず、二次粒子内部に空隙を有さない場合には、図3(a)に示す二次粒子32全体にリチウムイオンを拡散させることを考えると、二次粒子32の表面から中心付近までリチウムイオンを拡散する必要がある。 【0025】 本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、図2(a)に示すように、二次粒子20の中心部に空隙24を有する。このため、図2(a)の符号25、26に示すように二次粒子内のリチウムイオンの拡散距離が、図3(a)の符号33で示す距離よりも短い。 このためリチウム二次電池のレート特性を向上させることができると推察できる。また、貫通孔22を備えることで外部から空隙部に電解液が入り込みやすい。このため正極活物質の内部を有効に活用でき、リチウム二次電池のレート特性を向上させることができる。なお、二次粒子20の表面部23にも空隙を有すると、電極プレスの際に粒子が圧壊し、微粉発生の原因となりうる。このため、本実施形態においては二次粒子20の内部の空隙率が高いため、圧壊に起因する微粉が発生しにくいという効果も奏する。 【0026】 本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質を充填した様子を図2(b)符号27に示す。本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は球形度が高いため、充填性よく二次粒子27aを充填することができる。つまり、本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質を用いることで、リチウム二次電池用正極の電極密度が向上する。 これに対し本発明を適用せず球形度が低い正極活物質を充填した様子を図3(b)符号34に示す。球形度が低い二次粒子34aを使用すると充填性が悪くなる。つまり、球形度が低い正極活物質を用いると、リチウム二次電池用正極の電極密度が低くなる。」 「【0031】 [組成式] 本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、組成式が、以下の式(I)で表されることが好ましい。 Li[Li_(x)(Ni_((1-y-z-w))Co_(y)Mn_(z)M_(w))_(1-x)]O_(2) ・・・(I) (式(I)中、0≦x≦0.2、0<y≦0.4、0≦z≦0.4、0≦w≦0.1、MはMg、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Al、Ga、Ti、Zr、Ge、Fe、Cu、Cr、V、W、Mo、Sc、Y、Nb、La、Ta、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、及びSnからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)」 (エ)本件特許における発明が解決しようとする課題について 上記(ウ)で摘記した【0005】からみて、本件発明の解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、「レート特性に優れるリチウム二次電池用正極活物質、該リチウム二次電池用正極活物質を用いたリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池を提供すること」である。 (オ)発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲について a 【0006】、【0009】、【0010】には、 「リチウム複合金属酸化物の一次粒子が複数凝集した二次粒子を含み、前記二次粒子は、内部に形成された空隙と、前記空隙と前記二次粒子の表面とを接続する貫通孔と、を有し、以下の(i)?(iii)をすべて満たすリチウム二次電池用正極活物質。 (i)前記二次粒子の断面において、前記断面の外縁で囲まれる図形の長軸長Aに対する前記図形の短軸長Bの比(B/A)が0.75以上1.0以下である。 (ii)前記図形の面積に対する、前記断面に露出した前記空隙の合計面積の割合が2.0%以上40%以下である。 (iii)前記断面に露出した前記空隙の合計面積に対する、前記断面に露出した前記空隙のうち前記二次粒子の中心部に存在する空隙の面積の割合が60%以上99%以下である。」との事項を備える発明により、「レート特性に優れるリチウム二次電池用正極活物質」を得られることが記載されている。 b 【0014】?【0016】には、「前記二次粒子の断面において、前記断面の外縁で囲まれる図形の長軸長Aに対する前記図形の短軸長Bの比(B/A)が0.75以上1.0以下」とすることで「球形度が高い二次粒子となる。そのため電極を製造する際の充填性が良好となる」ことが記載されている。そして、充填密度が高いほど、電極における導電性が向上し、その結果レート特性が向上することは明らかであるから、レート特性を向上させ、上記課題を解決するためには、「前記二次粒子の断面において、前記断面の外縁で囲まれる図形の長軸長Aに対する前記図形の短軸長Bの比(B/A)が0.75以上1.0以下」とすることが必要と認められる。 c 【0020】?【0025】には、「二次粒子」が「内部に形成された空隙」と、「前記空隙と前記二次粒子の表面とを接続する貫通孔」とを有することにより、「外部から空隙部に電解液が入り込みやす」く、「このため正極活物質の内部を有効に活用でき、リチウム二次電池のレート特性を向上させることができる」ことが記載されている。 d また、上記cの効果を奏するために、十分な大きさの「空隙」が必要であることは明らかであるが、【0018】には、「空隙」の大きさに関し、「前記図形の面積に対する、前記断面に露出した前記空隙の合計面積の割合(以下、二次粒子断面全体の空隙率とよぶことがある)」が「2.0%以上」、「40%以下」である点が記載されている。 e 上記c、dより、レート特性を向上させ、上記課題を解決するためには、「二次粒子」が「内部に形成された空隙」と、「前記空隙と前記二次粒子の表面とを接続する貫通孔」とを有すること、「前記図形の面積に対する、前記断面に露出した前記空隙の合計面積の割合(以下、二次粒子断面全体の空隙率とよぶことがある)」が「2.0%以上」、「40%以下」であることが必要といえる。 f 【0019】には、「前記断面に露出した前記空隙の合計面積に対する、前記断面に露出した前記空隙のうち前記二次粒子の中心部に存在する空隙の面積の割合」を「60%以上」、「99%以下」とすることで、「二次粒子内部の空隙に適度な量の電解液を保液でき」、「これにより、リチウム二次電池のレート特性が向上する」ことが記載されている。 g 上記a?fより、上記課題を解決するためには、 「リチウム複合金属酸化物の一次粒子が複数凝集した二次粒子を含み、 前記二次粒子は、内部に形成された空隙と、前記空隙と前記二次粒子の表面とを接続する貫通孔と、を有し、以下の(i)?(iii)をすべて満たすリチウム二次電池用正極活物質。 (i)前記二次粒子の断面において、前記断面の外縁で囲まれる図形の長軸長Aに対する前記図形の短軸長Bの比(B/A)が0.75以上1.0以下である。 (ii)前記図形の面積に対する、前記断面に露出した前記空隙の合計面積の割合が2.0%以上40%以下である。 (iii)前記断面に露出した前記空隙の合計面積に対する、前記断面に露出した前記空隙のうち前記二次粒子の中心部に存在する空隙の面積の割合が60%以上99%以下である。」との事項が必要と認められる。 h 【0031】には、「リチウム二次電池用正極活物質」が「式(I)」で表される所定の「組成式」であることが好ましい点が記載されている。 i 上記(2)イ(ア)b(a-1-1)に摘記した【0190】、【表1】を参照すると、実施例として、上記gの事項に加えて、上記hの事項の「式(I)」で表される組成を備える実施例1?6について、レート特性が向上する効果を奏することが確認できる。 j 上記a?iより、少なくとも以下のものであれば、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲に含まれると認められる。 「リチウム複合金属酸化物の一次粒子が複数凝集した二次粒子を含み、 前記二次粒子は、内部に形成された空隙と、前記空隙と前記二次粒子の表面とを接続する貫通孔と、を有し、以下の(i)?(iii)をすべて満たすリチウム二次電池用正極活物質。 (i)前記二次粒子の断面において、前記断面の外縁で囲まれる図形の長軸長Aに対する前記図形の短軸長Bの比(B/A)が0.75以上1.0以下である。 (ii)前記図形の面積に対する、前記断面に露出した前記空隙の合計面積の割合が2.0%以上40%以下である。 (iii)前記断面に露出した前記空隙の合計面積に対する、前記断面に露出した前記空隙のうち前記二次粒子の中心部に存在する空隙の面積の割合が60%以上99%以下である。」であって、 「組成式が、以下の式(I)で表される、 Li[Li_(x)(Ni_((1-y-z-w))Co_(y)Mn_(z)M_(w))_(1-x)]O_(2) ・・・(I) (式(I)中、0≦x≦0.2、0<y≦0.4、0≦z≦0.4、0≦w≦0.1、MはMg、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Al、Ga、Ti、Zr、Ge、Fe、Cu、Cr、V、W、Mo、Sc、Y、Nb、La、Ta、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、及びSnからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)」であるもの。 (カ)本件発明と発明の詳細な説明に記載された発明との対比 本件発明1?6は、上記(オ)iに記載の事項を全て備えるから、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものである。 (キ)異議申立書(4-1)における申立人の主張について 申立人は、本件発明1では、「リチウム複合金属酸化物の一次粒子が複数凝集した二次粒子を含み、前記二次粒子は・・・リチウム二次電池要正極活物質。」と規定しており、本件発明1で規定する所定の要件を充足する二次粒子を1粒でも含んでいれば、本件発明1の規定を充足することになるが、本件発明の課題を解決するためには、一定以上の割合で所定の要件を充足する二次粒子を含有することは必須の要件といえ、例えば1粒のみ所定の要件を充足する二次粒子を含んでいるだけでは、本件発明の課題を解決できない旨、主張する。 一方で、上記(2)イ(ア)b(a)(a-1)(a-1-1)に摘記した本件特許の明細書に記載の製造方法で「二次粒子」を製造した場合、同様の性質を持つ粒子が多数生じる蓋然性が高く、本件発明1?6において、「空隙率」及び「(i)」、「(ii)」、「(iii)」の要件を満たす「二次粒子」が1粒といったごく少数であるとはいえない。 特に、本件発明1?6の「空隙率」及び「(i)」、「(ii)」、「(iii)」の要件は、上記1(2)にて指摘のように、粒径がD50±5%の範囲に入る「二次粒子」を観察対象として計測するものであり、D50付近の粒子は粒子の集団において平均的な一般的な性質を有し、同様の性質の粒子が数多く含まれることが推測されることから、本件発明1?6において、「空隙率」及び「(i)」、「(ii)」、「(iii)」の要件を満たす「二次粒子」が多数含まれる蓋然性が高いといえる。 そうすると、本件発明1?6は、申立人が主張するような、請求項1に記載された「空隙率」及び「(i)」、「(ii)」、「(iii)」の要件を満たす「二次粒子」が1粒といった極めて特殊な態様は、当然排除されているといえる。 したがって、本件発明1?6において、請求項1に記載された「空隙率」及び「(i)」、「(ii)」、「(iii)」の要件を満たす「二次粒子」が1粒といった極めて特殊な態様まで含まれると解する余地はなく、上記「二次粒子」は、相当数含まれると解されるから、本件特許の課題を十分解決し得るといえる。 (ク)小括 よって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでなく、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものでない。 イ 申立理由2-2について 本件特許の明細書の【0017】、【0117】、【0118】については、二次粒子の長軸長と短軸長の比は【0017】に記載のように複数の粒子についての測定値を平均して求め、その際の個々の粒子の測定方法を【0117】、【0118】に記載のように行うことを意味すると解することが合理的である。 したがって、本件発明1で規定する長軸長と短軸長との比の定義は明確である。 よって、本件特許は、特許請求の範囲が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでなく、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものでない。 第6 むすび 本件特許の請求項1?6に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由1?3及び特許異議申立書に記載された申立理由1?2によっては、取り消すことができない。 また、他に本件特許1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-04-01 |
出願番号 | 特願2017-222627(P2017-222627) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(H01M)
P 1 651・ 113- Y (H01M) P 1 651・ 537- Y (H01M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 阿川 寛樹、赤樫 祐樹 |
特許庁審判長 |
粟野 正明 |
特許庁審判官 |
池渕 立 北村 龍平 |
登録日 | 2019-03-15 |
登録番号 | 特許第6495997号(P6495997) |
権利者 | 株式会社田中化学研究所 住友化学株式会社 |
発明の名称 | リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池 |
代理人 | 加藤 広之 |
代理人 | 寺本 光生 |
代理人 | 佐藤 彰雄 |
代理人 | 加藤 広之 |
代理人 | 佐藤 彰雄 |
代理人 | 棚井 澄雄 |
代理人 | 鈴木 慎吾 |
代理人 | 寺本 光生 |
代理人 | 棚井 澄雄 |
代理人 | 鈴木 慎吾 |