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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C23F 審判 全部申し立て 2項進歩性 C23F 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C23F |
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管理番号 | 1361503 |
異議申立番号 | 異議2019-700831 |
総通号数 | 245 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-05-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-10-18 |
確定日 | 2020-04-20 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6504748号発明「金属の腐食抑制方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6504748号の請求項1?4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6504748号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成26年3月26日に出願され、平成31年4月5日にその特許権の設定登録がなされ、同年4月24日に特許掲載公報が発行され、その後、令和1年10月18日に、請求項1?4(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である埴田眞一(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審により令和2年1月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年3月9日に意見書(以下「意見書」という。)が特許権者から提出されたものである。 第2 本件発明 特許第6504748号の請求項1?4の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」といい、総称して「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のものである。 「【請求項1】 冷却水系における金属の腐食を抑制する方法において、 ランジェリア指数が1.5未満で、かつ[SiO_(2)]が10mg/L以上(ただし、[SiO_(2)]は水中のSiO_(2)濃度(mg/L))である該冷却水系の水に、 マレイン酸及び/又はその水溶性塩から選ばれる1種以上の重合体(以下、「マレイン酸系重合体」と称す。)を30?150mg/L添加することを特徴とする金属の腐食抑制方法。 【請求項2】 請求項1において、マレイン酸系重合体の重量平均分子量が500?2500であることを特徴とする金属の腐食抑制方法。 【請求項3】 請求項1又は2において、さらにアクリル酸系重合体を前記冷却水系に添加することを特徴とする金属の腐食抑制方法。 【請求項4】 請求項1ないし3のいずれか1項において、前記冷却水系は開放循環冷却水系であることを特徴とする金属の腐食抑制方法。」 第3 取消理由の概要 当審において、本件発明1?4に対して通知した取消理由は以下のとおりである。 1 取消理由1(新規性・進歩性欠如) 申立人が以下の証拠方法によって申し立てた、特許法第29条第1項及び第2項の規定による新規性・進歩性の欠如の理由の一部を採用したものであって、本件発明1?4は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないもの、または、甲第1号証に記載された発明と甲第2及び3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 2 取消理由2(サポート要件違反) 当審が発見したサポート要件違反の記載不備があり、本件発明1、3及び4は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 <証拠方法> (1)甲第1号証:特開2004-107782号公報 (2)甲第2号証:特開昭57-174471号公報 (3)甲第3号証:特開2012-106197公報 (以下「甲第1号証」?「甲第3号証」を、それぞれ「甲1」?「甲3」という。) 第4 甲各号証の記載事項 1 甲1 上記甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付与したものであって、以下同様である。 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、防食方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、リン系薬剤及び亜鉛系薬剤を全く使用することなく、冷却水系における金属材料の腐食を効果的に防止することができる防食方法に関する。」 「【0006】 本発明方法においては、冷却水に、炭酸イオン、カルシウムイオン、ケイ酸イオン、マグネシウムイオンに加えて、水溶性アニオンポリマーを添加することが好ましい。水溶性アニオンポリマーを添加することにより、防食効果をさらに高めるとともに、過飽和の炭酸カルシウム、シリカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウムなどの金属表面へのスケールとしての付着を防止することができる。 使用する水溶性アニオンポリマーに特に制限はなく、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-ヒドロキシ-3-アクリロキシ-1-プロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、それらの塩などのホモポリマー、コポリマーなどを挙げることができる。これらのモノマーと共重合させるコモノマーとしては、例えば、アクリルアミド、酢酸ビニル、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、イソブチレンなどを挙げることができる。これらの水溶性アニオンポリマーは、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。 本発明方法によれば、冷却水を炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウムなどの適度な過飽和の状態とし、これらの微細なスケールを金属表面に吸着させることにより、防食皮膜としての効果を発揮させることができる。 【0007】 【実施例】 以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。 調製した試験水を貯槽に貯留し、この試験水をポンプにより、分極抵抗法による腐食計に通液して貯槽に戻す循環を行い、水温30℃で1日経過後の腐食速度を測定した。 試験水は、純水に塩化カルシウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、ケイ酸ナトリウム水溶液、塩化マグネシウム水溶液を添加して調製し、これにヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液、塩化亜鉛水溶液、マレイン酸とイソブチレンとの共重合体の水溶液及びアクリル酸とイソプレンスルホン酸と2-ヒドロキシエチルメタクリレートとの共重合体から選ばれる防食剤を添加して、あるいは添加せずに試験に供した。 比較例1 Mアルカリ度80mgCaCO_(3)/L、カルシウム硬度80mgCaCO_(3)/L、シリカ濃度25mgSiO_(2)/L、マグネシウム硬度40mgCaCO_(3)/L、ランジェリア指数-0.4の試験水を調製した。この試験水のpHは、7.6であった。 この試験水を用いて、24時間の通水試験を行った。腐食速度は、30mg・dm^(-2)・day^(-1)であった。 比較例2 比較例1で調製した試験水に、ヘキサメタリン酸ナトリウムと塩化亜鉛をそれぞれ100mgPO_(4)^(3-)/Lと20mgZn/Lになるように添加した。試験水のpHは、6.3になった。 この試験水を用いて、24時間の通水試験を行った。腐食速度は、1.0mg・dm^(-2)・day^(-1)であった。 実施例1 Mアルカリ度300mgCaCO_(3)/L、カルシウム硬度300mgCaCO_(3)/L、シリカ濃度100mgSiO_(2)/L、マグネシウム硬度40mgCaCO_(3)/L、ランジェリア指数1.9の試験水を調製した。この試験水のpHは、8.8であった。 この試験水を用いて、24時間の通水試験を行った。腐食速度は、8.2mg・dm^(-2)・day^(-1)であった。 実施例2 実施例1で調製した試験水に、マレイン酸とイソブチレンとの共重合体及びアクリル酸とイソプレンスルホン酸と2-ヒドロキシエチルメタクリレートとの共重合体を、それぞれが濃度50mg/Lになるように添加した。 この試験水を用いて、24時間の通水試験を行った。腐食速度は、1.0mg・dm^(-2)・day^(-1)であった。 実施例3 Mアルカリ度80mgCaCO_(3)/L、カルシウム硬度80mgCaCO_(3)/L、シリカ濃度300mgSiO_(2)/L、マグネシウム硬度200mgCaCO_(3)/L、ランジェリア指数1.1の試験水を調製した。この試験水のpHは、9.1であった。 この試験水を用いて、24時間の通水試験を行った。腐食速度は、9.2mg・dm^(-2)・day^(-1)であった。 実施例4 実施例3で調製した試験水に、マレイン酸とイソブチレンとの共重合体及びアクリル酸とイソプレンスルホン酸と2-ヒドロキシエチルメタクリレートとの共重合体を、それぞれが濃度50mg/Lになるように添加した。 この試験水を用いて、24時間の通水試験を行った。腐食速度は、1.7mg・dm^(-2)・day^(-1)であった。 実施例5 Mアルカリ度80mgCaCO_(3)/L、カルシウム硬度300mgCaCO_(3)/L、シリカ濃度300mgSiO_(2)/L、マグネシウム硬度40mgCaCO_(3)/L、ランジェリア指数1.6の試験水を調製した。この試験水のpHは、9.1であった。 この試験水を用いて、24時間の通水試験を行った。腐食速度は、3.3mg・dm^(-2)・day^(-1)であった。 実施例6 実施例5で調製した試験水に、マレイン酸とイソブチレンとの共重合体及びアクリル酸とイソプレンスルホン酸と2-ヒドロキシエチルメタクリレートとの共重合体を、それぞれが濃度50mg/Lになるように添加した。 この試験水を用いて、24時間の通水試験を行った。腐食速度は、1.8mg・dm^(-2)・day^(-1)であった。 比較例1?2及び実施例1?6の試験水の水質、2.4logA+logB、logC+logD+2pH+8.51logt、logB+logCの値及び腐食速度を、第1表に示す。」 「【0008】 【表1】 ![]() 」 2 甲2 上記甲2には、以下の事項が記載されている。 「ポリマレイン酸又はその塩と、脂肪族オキシカルボン酸又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする金属防食剤。」(特許請求の範囲の1.) 「この発明は、一般水系における金属防食剤、ことに、鋼、軟鋼、鋳鉄、銅等に対する防食剤に関する。 いわゆる水誘導装置、たとえば蒸気製造装置、加熱系、化学反応プラント、冷却水系等においては、その装置を構成している金属(鉄、軟鋼、鋳鉄、銅等)と水とが接触しており、腐食が発生しやすく、このような腐食に対してはその防止のために従来より種々の防食剤あるいは防食方法が提案され使用されている。」(1頁右欄下から6行?2頁左上欄4行) 「この発明に用いるポリマレイン酸としては、種々の分子量のものが使用できるが、合成の容易性等の点で比較的低分子のものが適しており、通常、分子量約500?2000のものが好適に使用できる。」(2頁右上欄11?15行) 「実施例3 大阪市水の6倍合成水調整した。この液の水質は表3の通りである。 ![]() 上記、高濃縮水を用いて、実施例2と同様にして試験を行なった。その結果を、表4に示す。 ![]() 以上の各実験で示されるごとく、ポリマレイン酸又はその塩と脂肪族オキシカルボン酸を併用した場合、それぞれ単独の使用に比して優れた効果が低濃度で得られ、ポリアクリル酸系ポリマーと脂肪族オキシカルボン酸の併用時よりも優れた効果が得られ、高濃縮水においても良好な防食効果が発揮されることが判明した。」 (4頁左上?右上欄) 3 甲3 上記甲3には、以下の事項が記載されている。 「【請求項3】 (A)190nmにおける吸光係数が0.09?0.2(dm^(3)/mg・cm)である芳香族溶媒中で重合したマレイン酸重合体と(B)イタコン酸重合体、マレイン酸重合体、及びイタコン酸とマレイン酸の共重合体から選択される水性溶媒中で重合された重合体の1種以上を同時に使用することを特徴とする水と接する金属表面の腐食抑制及びスケール抑制を行う水処理方法。」 「【0001】 本発明は、工業用水系及び冷却水系、温水系、ボイラ水系、洗浄水、各種工程水系、更には排水系等において、水と接する金属表面の腐食抑制及びスケール抑制を効果的に行うことのできる水処理剤及び水処理方法に関する。」 「【0014】 本発明の水処理剤及び水処理方法が適用される水系とは、一般工業用水系、開放式循環冷却水系や密閉循環式冷却水系、温熱水系及びボイラ水系、紙パルプ製造業・石油化学工業・繊維工業・塗料工業・合成ゴムテックス工業などの各種製造業における工程水系や排水系、都市下水やし尿処理場などの処理工程水及びその放流水等である。」 「【0017】 本発明の(A)成分は、重合体のマレイン酸単位部分が未中和、部分中和塩あるいは完全中和塩である水溶性共重合体である。部分中和塩あるいは完全中和塩を構成する陽イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、アンモニウムイオン等があり、これらの1種あるいは2種以上を用いることができる。」 「【0037】 本発明の(B)成分のイタコン酸重合体の分子量は、好ましくは300?5000、より好ましくは400?3000である。分子量がこの範囲を外れると、腐食抑制効果やスケール抑制効果が小さくなり好ましくない。本発明の(B)成分のマレイン酸重合体の分子量は、好ましくは300?5000、より好ましくは400?3000である。分子量がこの範囲を外れると、腐食抑制効果やスケール抑制効果が小さくなり好ましくない。本発明の(B)成分のイタコン酸とマレイン酸の共重合体の分子量は、好ましくは300?5000、より好ましくは400?3000である。分子量がこの範囲を外れると、腐食抑制効果やスケール抑制効果が小さくなり好ましくない。なお、共重合体はブロックまたはランダム共重合体の何れであってもよい。これらの分子量の好適範囲は、腐食抑制効果およびスケール付着防止効果の観点から選ばれたものである。」 「【0042】 本発明の(B)成分の対象水系への添加量は、対象とする水系の条件、特に水質、温度などにより異なるが、一般的に、その有効成分濃度として1?1000mg/Lになるように添加することが望ましい。また、好ましくは3?500mg/L、より好ましくは5?100mg/Lである。」 「【0051】 本発明の水処理剤及び水処理方法が適用される被処理水系(対象水系)の水質は特に限定されないが、通常は、電気伝導率は5000μS/cm以下、Ca硬度ないしMg硬度は0?1000mgCaCO_(3)/L、Mアルカリ度は0?500mgCaCO_(3)/L、シリカは0?250mg/L、塩化物イオンは0?3000mg/L、硫酸イオンは0?3000mg/L、全鉄は10mg/L以下であって好ましくは3mg/L以下、アルミニウムは3mg/L以下、濁度は100度以下であって好ましくは20度以下、懸濁物質濃度は100mg/L以下であって好ましくは20mg/L以下、リツナーの安定度指数は3.0以上、ランジェリアの飽和指数は3.0以下の範囲である。」 「【0054】 併用が好ましい腐食抑制剤としての化合物は、有機ホスホン酸、ホスホノカルボン酸、ホスフィノポリカルボン酸、スルホン酸基含有ポリマー、リン酸またはリン酸塩、及びモリブデン酸塩である。」 「【0058】 前記のスルホン酸基含有ポリマーは、モノエチレン性不飽和スルホン酸の重合体、モノエチレン性不飽和スルホン酸とモノエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体、あるいはモノエチレン性不飽和スルホン酸とモノエチレン性不飽和カルボン酸と他の共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体である。モノエチレン性不飽和スルホン酸として、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸、ブタジエンスルホン酸やイソプレンスルホン酸等の共役ジエンスルホン化物、スチレンスルホン酸、スルホアルキル(メタ)アクリレートエステル、スルホアルキル(メタ)アリルエーテル、スルホフェノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリルスルホン酸などの1種以上が用いられる。モノエチレン性不飽和カルボン酸として、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸などの1種以上が用いられる。他の共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル類の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルアルキルエステル;(メタ)アクリルアミド類の(メタ)アクリルアミド、N-アルキル置換(メタ)アクリルアミド;炭素数2?8のオレフィンのエチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ヘキセン、2-エチルヘキセン、ペンテン、イソペンテン、オクテン、イソオクテンなど;ビニルアルキルエーテル類のビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル;マレイン酸アルキルエステルなどがあげられ、その1種または2種以上が用いられる。」 第5 当審の判断 1 取消理由通知に記載した取消理由について 当審は、特許権者が提出した意見書を踏まえて検討した結果、本件発明1?4についての新規性・進歩性欠如の取消理由並びに本件発明1、3及び4についてのサポート要件違反の取消理由はないと判断したところ、その理由は以下のとおりである。 (1)新規性・進歩性欠如について ア 本件発明1について (ア)甲1に記載された発明(引用発明1) 上記第4の1に摘示した甲1に記載された【0001】、【0007】の実施例4からみて、甲1には以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 <引用発明1> 「冷却水系における金属材料の腐食を効果的に防止することができる防食方法であって、 シリカ濃度300(mgSiO_(2)/L)、ランジェリア指数1.1の試験水を調製し、 この試験水に、マレイン酸とイソブチレンとの共重合体及びアクリル酸とイソプレンスルホン酸と2-ヒドロキシエチルメタクリレートとの共重合体を、それぞれが濃度50(mg/L)になるように添加する、 調製した試験水を貯槽に貯留し、この試験水をポンプにより、腐食計に通液して貯槽に戻す循環を行い、腐食速度を測定する、 前記方法。」 (イ)引用発明1との対比 本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「冷却水系における金属材料の腐食を効果的に防止することができる防食方法」は、本件発明1の「冷却水系における金属の腐食を抑制する方法」に相当する。 また、引用発明1の「試験水」は、冷却水系における試験に供するために調整された冷却水であるといえるから、本件発明1の「冷却水系の水」に相当する。 さらに、引用発明1の「シリカ濃度」「mgSiO_(2)/L」は、試験水におけるものであることから、本件発明1の「水中のSiO_(2)濃度(mg/L)」に相当するといえる。 そして、引用発明1の「マレイン酸とイソブチレンとの共重合体」と本件発明1の「マレイン酸及び/又はその水溶性塩から選ばれる1種以上の重合体」とは、「マレイン酸を含む重合体」である点で共通する。 してみると、両者は、以下の一致点及び相違点を有している。 <一致点> 「冷却水系における金属の腐食を抑制する方法において、 ランジェリア指数が1.1で、かつ[SiO_(2)]が300mg/L(ただし、[SiO_(2)]は水中のSiO_(2)濃度(mg/L))である該冷却水系の水に、 マレイン酸を含む重合体を50mg/L添加することを特徴とする金属の腐食抑制方法。」である点 <相違点1> マレイン酸を含む重合体について、本件発明1は、「マレイン酸及び/又はその水溶性塩から選ばれる1種以上の重合体」であるのに対し、引用発明1は、「マレイン酸とイソブチレンとの共重合体」である点 (ウ)相違点についての判断 特許権者による意見書において、本件の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には、マレイン酸系重合体として、マレイン酸と他のモノマーとの共重合体を含むとの記載も示唆もなく、他のモノマーの例示もないこと、マレイン酸/イソブチレン共重合体は、本件明細書の【0025】及び【0028】の【表2】の比較例1として挙げられ、本件発明には含まれないとされていることから、本件発明1における「マレイン酸及び/又はその水溶性塩から選ばれる1種以上の重合体」は、(i)マレイン酸のみからなる重合体、(ii)マレイン酸の水溶性塩のみからなる重合体、(iii)マレイン酸とマレイン酸の水溶性塩とのみからなる重合体、の3通りであって、「マレイン酸とイソブチレンとの共重合体」は、本件発明のマレイン酸系重合体には該当しないことは明らかである旨主張しているところ、当該主張は合理的であるから、上記相違点1は、実質的なものであるといえる。 また、上記第4の1に摘示した甲1の【0006】には、防食効果をさらに高めるために添加する水溶性アニオンポリマーとして、特に制限はない中での例示として、「マレイン酸」の「ホモポリマー」の組合せも挙げられているが、多数ある組合せの中で、引用発明1において、当該組合せを特に選択する動機付けは認められない。 さらに、冷却水系における防食剤として、上記第4の2に摘示した甲2の特許請求の範囲には、「ポリマレイン酸又はその塩」を用いることが、上記第4の3に摘示した甲3の【0017】には、「重合体のマレイン酸単位部分」が「ナトリウムイオン」、「カリウムイオン」、「アンモニウムイオン」の「中和塩」である水溶性共重合体を用いることについて、それぞれ記載されているが、当該冷却水の水質条件には何の特定もないところ、甲2及び甲3に記載された防食剤を、引用発明1に係る「シリカ濃度300(mgSiO_(2)/L)、ランジェリア指数1.1の試験水」という特定の水質条件である冷却水系に適用する動機付けは認められない。 そして、本件発明1は、「マレイン酸及び/又はその水溶性塩から選ばれる1種以上の重合体」を「30?150mg/L添加」することによって、本件明細書の【0012】に記載のように、ランジェリア指数<1.5の水系であっても、リン系化合物や重金属塩を使用することなく、従って、環境汚染問題を惹き起こすことなく、水系の金属の腐食を効果的に防止あるいは抑制することが可能となり、冷却水系等の安定運転に寄与することができるという格別顕著な効果を奏するものである。 (エ)小括 よって、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえないし、甲1に記載された発明と甲2及び3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 イ 本件発明2?4について 本件発明2?4は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件発明2?4も、本件発明1と同様に、甲1に記載された発明とはいえないし、甲1に記載された発明と甲2及び3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 ウ 新規性・進歩性欠如についての小括 したがって、本件発明1?4は、甲1に記載された発明とはいえないし、甲1に記載された発明と甲2及び3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (2)サポート要件違反について 本件明細書【0028】の【表2】における比較例1は、モノマー成分が「マレイン酸/イソブチレン」であって、同【0025】によれば「マレイン酸/イソブチレン共重合体(モノマー比50:50)」であるといえるところ、上記(1)ア(ウ)のとおり、意見書における主張により、「マレイン酸とイソブチレンとの共重合体」は、本件発明のマレイン酸系重合体に該当しないものであることが明らかになった。 これにより、比較例1は、本件発明における発明特定事項を満たすものとはいえず、本件発明は、同【0009】に記載された「開放循環冷却水系の運転開始時などの低濃縮条件において、過剰にpHを上昇させることなく良好な防食効果を維持する」という、本件発明が解決しようとする課題を解決できるものである。 よって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。 2 取消理由通知において採用しなかった異議申立理由について (1)甲2を主引用例とした新規性・進歩性欠如について ア 本件発明1について (ア)甲2に記載された発明(引用発明2) 上記第4の2に摘示した甲2の特許請求の範囲1.及び実施例3における水質のうちシリカ(SiO_(2))に着目すると、甲2には以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。なお、表4におけるポリマレイン酸の添加量(mg/l)は、判読することができない。 <引用発明2> 「シリカ(SiO_(2))が46.6mg/lである大阪市水の6倍合成水に、ポリマレイン酸を添加する、大阪市水の6倍合成水における金属防食方法。」 (イ)引用発明2との対比 本件発明1と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「ポリマレイン酸」は、本件発明1の「マレイン酸系重合体」に相当する。 また、甲2には、金属防食方法を冷却水系に用いることも記載されているから、引用発明2における「大阪市水の6倍合成水」は、冷却水系の水とすることを含むものといえる。 してみると、両者は、以下の一致点及び相違点を有している。 <一致点> 「冷却水系における金属の腐食を抑制する方法において、 [SiO_(2)]が46.6mg/L(ただし、[SiO_(2)]は水中のSiO_(2)濃度(mg/L))である該冷却水系の水に、 マレイン酸の重合体を添加する金属の腐食抑制方法。」である点 <相違点2> 冷却水系の水について、本件発明1は、「ランジェリア指数が1.5未満」であるのに対し、引用発明2は、ランジェリア指数が不明な点 <相違点3> マレイン酸系重合体の添加量について、本件発明1は、「30?150mg/L」であるのに対し、引用発明2は、添加量が不明な点 (ウ)相違点についての判断 上記相違点2及び3については、甲2に記載されていないから、実質的な相違点である。 次に、事案に鑑み、相違点3について検討すると、引用発明2におけるポリマレイン酸の添加量は不明であり、これを「30?150mg/L」に限定する動機付けは、甲1?3のいずれにおいても認められない。 そして、本件発明1は、「マレイン酸及び/又はその水溶性塩から選ばれる1種以上の重合体」を「30?150mg/L添加」することによって、本件明細書の【0012】に記載のように、ランジェリア指数<1.5の水系であっても、リン系化合物や重金属塩を使用することなく、従って、環境汚染問題を惹き起こすことなく、水系の金属の腐食を効果的に防止あるいは抑制することが可能となり、冷却水系等の安定運転に寄与することができるという格別顕著な効果を奏するものである。 (エ)小括 よって、本件発明1は、甲2に記載された発明とはいえないし、相違点2について検討するまでもなく、甲2に記載された発明と甲1及び3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 イ 本件発明2?4について 本件発明2?4は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件発明2?4も、本件発明1と同様に、甲2に記載された発明とはいえないし、甲2に記載された発明と甲1及び3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 ウ 甲2を主引用例とした新規性・進歩性欠如についての小括 したがって、本件発明1?4は、甲2に記載された発明とはいえないし、甲2に記載された発明と甲1及び3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (2)甲3を主引用例とした新規性・進歩性欠如について ア 本件発明1について (ア)甲3に記載された発明(引用発明3) 上記第4の3に摘示した甲3の【請求項3】に着目すると、甲3には以下の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。 <引用発明3> 「シリカ0?250mg/L、ランジェリアの飽和指数3.0以下である開放式循環冷却水系の対称水に、マレイン酸重合体を1?1000mg/Lになるように添加する、水と接する金属表面の腐食抑制及びスケール抑制を行う水処理方法。」 (イ)引用発明3との対比 本件発明1と引用発明3とを対比すると、引用発明3の「開放式循環冷却水系の対称水」の「水と接する金属表面の腐食抑制及びスケール抑制を行う水処理方法」、は、本件発明1の「冷却水系における金属の腐食を抑制する方法」に相当する。 また、引用発明3の「シリカ」及び「マレイン酸重合体」は、本件発明1の「SiO_(2)」及び「マレイン酸系重合体」にそれぞれ相当する。 してみると、両者は、以下の一致点及び相違点を有している。 <一致点> 「冷却水系における金属の腐食を抑制する方法において、 特定のランジェリア指数かつSiO_(2)濃度(mg/L)である該冷却水系の水に、 マレイン酸系重合体を添加する金属の腐食抑制方法。」である点 <相違点4> 冷却水系の水のランジェリア指数について、本件発明1は、「1.5未満」であるのに対し、引用発明3は、「3.0以下」である点 <相違点5> 冷却水系の水のSiO_(2)濃度について、本件発明1は、「10mg/L以上」であるのに対し、引用発明3は、「0?250mg/L」である点 <相違点6> マレイン酸系重合体の添加量について、本件発明1は、「30?150mg/L」であるのに対し、引用発明3は、「1?1000mg/L」である点 (ウ)相違点についての判断 上記相違点4?6については、甲3に記載されていないから、実質的な相違点である。 次に、事案に鑑み、相違点6について検討すると、引用発明3おけるポリマレイン酸の添加量を「1?1000mg/L」から「30?150mg/L」に限定する動機付けは、甲3の記載や当該技術分野における技術常識を考慮しても認めることはできない。 そして、本件発明1は、「マレイン酸及び/又はその水溶性塩から選ばれる1種以上の重合体」を「30?150mg/L添加」することによって、本件明細書の【0012】に記載のように、ランジェリア指数<1.5の水系であっても、リン系化合物や重金属塩を使用することなく、従って、環境汚染問題を惹き起こすことなく、水系の金属の腐食を効果的に防止あるいは抑制することが可能となり、冷却水系等の安定運転に寄与することができるという格別顕著な効果を奏するものである。 (エ)小括 よって、本件発明1は、甲3に記載された発明とはいえないし、相違点4及び5について検討するまでもなく、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 イ 本件発明2?4について 本件発明2?4は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件発明2?4も、本件発明1と同様に、甲2に記載された発明とはいえないし、甲2に記載された発明と甲1及び3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 ウ 甲3を主引用例とした新規性・進歩性欠如についての小括 したがって、本件発明1?4は、甲3に記載された発明とはいえないし、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、請求項1?4に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-04-06 |
出願番号 | 特願2014-63955(P2014-63955) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(C23F)
P 1 651・ 121- Y (C23F) P 1 651・ 113- Y (C23F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 印出 亮太、辰己 雅夫 |
特許庁審判長 |
中澤 登 |
特許庁審判官 |
粟野 正明 亀ヶ谷 明久 |
登録日 | 2019-04-05 |
登録番号 | 特許第6504748号(P6504748) |
権利者 | 栗田工業株式会社 |
発明の名称 | 金属の腐食抑制方法 |
代理人 | 重野 剛 |