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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1361504
異議申立番号 異議2019-701051  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-23 
確定日 2020-04-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第6535581号発明「負極活物質、混合負極活物質材料、非水電解質二次電池用負極、リチウムイオン二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6535581号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6535581号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?11に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、平成27年11月18日に出願され、令和 1年 6月 7日に特許権の設定登録がされ、同年 6月26日に特許掲載公報が発行され、その後、同年12月23日付けで、請求項1?11(全請求項)に対し、特許異議申立人である七滝一郎(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明

本件特許の特許請求の範囲の請求項1?11に係る発明(以下、順に「本件発明1」?「本件発明11」という。)は、それぞれ、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
負極活物質粒子を含む負極活物質であって、
前記負極活物質粒子は、ケイ素化合物(SiO_(x):0.5≦x≦1.6)を含むケイ素化合物粒子を含有し、
前記負極活物質粒子は少なくとも一部に結晶質のLi_(2)SiO_(3)を含有し、
前記負極活物質粒子は、^(29)Si-MAS-NMR スペクトルから得られるLi_(2)SiO_(3)に由来するピークの強度A、Siに由来するピークの強度B、Li_(2)Si_(2)O_(5)に由来するピークの強度C、及びSiO_(2)に由来するピークの強度Dが、下記式1又は式2を満たすものであり、
前記^(29)Si-MAS-NMR スペクトルから得られるケミカルシフト値として-40?-60ppmにピークを有するものであることを特徴とする負極活物質。
A>B>D ・・・ (1)
A>C>D ・・・ (2)
【請求項2】
前記^(29)Si-MAS-NMR スペクトルから得られるケミカルシフト値として-130ppm付近にピークを有するものであることを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
前記ケイ素化合物粒子は、X線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であるとともに、その結晶面に対応する結晶子サイズは7.5nm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の負極活物質。
【請求項4】
前記負極活物質と炭素系活物質との混合物を含む負極電極と対極リチウムとから成る試験セルを作製し、該試験セルにおいて、前記負極活物質にリチウムを挿入するよう電流を流す充電と、前記負極活物質からリチウムを脱離するよう電流を流す放電とから成る充放電を30回実施し、各充放電における放電容量Qを前記対極リチウムを基準とする前記負極電極の電位Vで微分した微分値dQ/dVと前記電位Vとの関係を示すグラフを描いた場合に、X回目以降(1≦X≦30)の放電時における、前記負極電極の電位Vが0.40V?0.55Vの範囲にピークを有するものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の負極活物質。
【請求項5】
前記負極活物質粒子はメジアン径が1.0μm以上15μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の負極活物質。
【請求項6】
前記負極活物質粒子は、表層部に炭素材を含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の負極活物質。
【請求項7】
前記炭素材の平均厚さは10nm以上5000nm以下であることを特徴とする請求項6に記載の負極活物質。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の負極活物質と炭素系活物質とを含むことを特徴とする混合負極活物質材料。
【請求項9】
請求項8に記載の混合負極活物質材料を含み、前記負極活物質と前記炭素系活物質の質量の合計に対する、前記負極活物質の質量の割合が6質量%以上であることを特徴とする非水電解質二次電池用負極。
【請求項10】
請求項8に記載の混合負極活物質材料で形成された負極活物質層と、
負極集電体とを有し、
前記負極活物質層は前記負極集電体上に形成されており、
前記負極集電体は炭素及び硫黄を含むとともに、それらの含有量がいずれも100質量ppm以下であることを特徴とする非水電解質二次電池用負極。
【請求項11】
負極として、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の負極活物質を含む負極を用いたものであることを特徴とするリチウムイオン二次電池。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本願の出願日前に頒布された刊行物である、下記甲第1?4号証を提出して、以下の申立理由1、2により、請求項1?11に係る本件特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 申立理由1(新規性欠如)
本件発明1、2、4、11は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1号第3項に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当するので、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(進歩性欠如)
本件発明3、5?10は、甲第1号証と甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法113条第2号に該当するので、取り消されるべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2013-161705号公報
甲第2号証:特開2013-225502号公報
甲第3号証:特開2009-259723号公報
甲第4号証:特開2015-156355号公報
(以下、甲第1号証?甲第4号証を、順に「甲1」?「甲4」という。)

第4 当審の判断
1 申立理由1、2(甲1を主たる引用例とする新規性及び進歩性)について
(1)甲1の記載
ア 甲1には、以下の記載がある。(なお、下線は当審が付与し、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。
1ア 「【請求項1】
Li_(2)SiO_(3)を基本組成とするメタケイ酸リチウム系化合物を含む化合物相と、Si微粒子を含むSi含有相と、を含有し該Si微粒子が分散状態にあることを特徴とする二次電池用活物質。」

1イ 「【0003】
高エネルギー密度を実現可能な負極活物質として、珪素や酸化珪素のような珪素系材料が挙げられる。珪素は、単位体積当りまたは単位質量当たりのリチウムイオンの吸蔵放出量が多く、炭素の10倍以上の高容量を示す。しかし、珪素系材料は、充放電容量が大きいものの、リチウム吸蔵時の体積膨張による電極破壊、珪素の微粉化による電極からの珪素の滑落およびそれらに起因する導電パスの切断、などが原因で、充放電サイクル特性に乏しいという課題がある。
【0004】
珪素の充放電サイクル特性の改善対策として、酸化珪素を負極活物質として用いることが知られている。酸化珪素(SiO_(x):xは0.5≦x≦1.5程度)は、熱処理されると、SiとSiO_(2)とに分解することが知られている。これは不均化反応とよばれ、SiとOとの比が概ね1:1の均質な固体の一酸化珪素SiOであれば、固体の内部反応によりSi相とSiO_(2)相の二相に分離する。二相のうち微小なSi相が、主としてリチウムの吸蔵放出を行う。SiO_(2)相は、複数の微小なSi相を覆い電解液の分解を抑制する働きをもつ。したがって、Si相とSiO_(2)相とに分解したSiO_(x)からなる負極活物質を用いた二次電池は、サイクル特性に優れる。一方、酸化物の導電性が低いため、リチウムの拡散が不十分となる。また、SiO_(2)相がリチウムと電気化学反応してケイ酸塩を形成するため、不可逆容量(初期充電時に充電した容量のうち外部に取り出すことのできない容量、すなわち最初の充電容量と最初の放電容量との差)の増大、ひいては初期充放電効率が低下するという問題点を有していた。
【0005】
初期充放電効率を向上させるために、たとえば、不可逆容量分を予め電気化学的に充電したり、金属リチウムを貼り付けた負極を用いたりして、不可逆容量を補う方法が試みられている。また、珪素系材料とリチウムとを反応させて、リチウム含有珪素系材料を合成して不可逆容量を補う方法もある。
・・・
【0008】
特許文献1に記載のリチウム含有酸化珪素粉末も特許文献2に記載の複合体粒子も、原料である酸化珪素とリチウム塩とを焼成することで、固体のままの原料の表面から反応させる、いわゆる固相法により合成されている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
固相法では、粉末状の原料(たとえばSiO粉末およびLiOH粉末)が混合された状態で反応が進む。SiO粒子の表面であってLiOH粉末と接触している箇所から順次シリケート化されて、ケイ酸リチウム化合物が生成される。しかし、固相法の場合には、LiOH粉末と接触しない箇所、たとえばSiO粒子の内部やSiO粒子の表面の一部に、未反応のSiOが残存する。未反応のSiOの存在は、リチウムのドープ量が不十分であり不可逆容量の低減効果が小さいことを意味する。また、SiO粒子の表層が十分にシリケート化していても内部がシリケート化されていない場合には、内部に未反応のSiOが存在し、充放電を担うSi相がSiO_(2)相とともに内部に偏在していると考えられる。しかし、シリケート化により形成された表層のケイ酸リチウム化合物がリチウムイオンなどの電解質イオンの移動を妨げる要因となり、不可逆容量の増大の原因になり得る。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑み、初期充放電効率に優れた新規の二次電池用活物質およびその製造方法を提供することを目的とする。」

1ウ「【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、SiO粉末とLiOH粉末とを、LiNO_(3)の溶融塩中で反応させる溶融塩法により得られる反応生成物は、Li_(2)SiO_(3)相とSi微粒子とを含有し、充放電に関与するSi微粒子が分散した均一な組織を有することがわかった。この成果を発展させることで、本発明者は以降に述べる種々の発明を完成させるに至った。
・・・
【0017】
また、本発明の二次電池用活物質の製造方法は、
少なくともSiを含む珪素含有原料およびリチウム水酸化物を、アルカリ金属硝酸塩を含む450℃以下の溶融塩中で反応させる溶融反応工程と、
前記溶融反応工程にて得られた反応生成物と前記溶融塩との混合物から、該反応生成物を回収する回収工程と、
を含むことを特徴とする。
【0018】
珪素含有原料およびリチウム水酸化物のみを反応させると、リチウム水酸化物は反応性が高いため、珪素含有原料に含まれるSiを容易にシリケート化し、オルトケイ酸リチウム(Li_(4)SiO_(4))を生成すると考えられる。この反応をアルカリ金属硝酸塩の溶融塩中で行うと、リチウム水酸化物の反応性が適度に抑制されると推察される。そのため、珪素含有原料に含まれるSiは全てがシリケート化されず、反応生成物にSiを残存させられる。Siは、充放電に積極的に寄与する。そして、珪素含有原料に含まれる一部のSiからLi_(2)SiO_(3)を基本組成とするメタケイ酸リチウム系化合物を含む化合物相が生成される。また、溶融塩中では、珪素含有原料およびリチウム水酸化物が微分散するため、原料全体が十分に反応した均一な組織が形成されやすい。その結果、Li_(2)SiO_(3)を基本組成とするメタケイ酸リチウム系化合物を含む化合物相と、Si微粒子を含むSi含有相と、を含有し該Si微粒子が分散状態にあるリチウム含有珪素系材料(すなわち本発明の二次電池用活物質)が容易に得られる。
・・・
【0032】
<二次電池用負極>
本発明の活物質を用いて二次電池の電極が構成されるが、本発明の活物質は二次電池の負極活物質として好適である。負極は、集電体と、本発明の活物質を含み集電体上に結着された負極活物質層と、を有する。負極活物質層は、負極活物質およびバインダー樹脂に、必要に応じて導電助材および適量の有機溶剤を加えて混合し、スラリーにしたものを、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの方法で集電体上に塗布し、バインダー樹脂を硬化させることによって作製することができる。」

1エ 「【0037】
<二次電池用活物質の製造方法>
次に、本発明の活物質を容易に合成可能な負極活物質の製造方法(本発明の製造方法)を説明する。本発明の製造方法は、主として、溶融反応工程と回収工程とを含む。以下にそれぞれの工程を説明する。
【0038】
溶融反応工程は、少なくともSiを含む珪素含有原料およびリチウム水酸化物を、アルカリ金属硝酸塩を含む溶融塩中で反応させる工程である。
【0039】
リチウム水酸化物は、本発明の活物質を構成するLi源となる。リチウム水酸化物として、無水水酸化リチウム(LiOH)および/または水酸化リチウム一水和物(LiOH・H_(2)O)を使用可能である。
【0040】
珪素含有原料は、本発明の活物質を構成するSi源となる。珪素含有原料は、Siを含有する材料であれば、単体、化合物および合金のうちのいずれであってもよい。具体的には、単体珪素、一酸化珪素(SiO_(x):xは0.9≦x≦1.9)、二酸化珪素(SiO_(y):yは2)等が挙げられる。珪素含有原料としては、これらのうちの一種以上を含めばよいが、特に好ましくは、一酸化珪素(SiO_(x))である。SiO_(x)は、前述の不均化処理の有無に関わらず使用可能であるが、不均化処理によりSiO_(2)相とSi相との二相に予め分離したものを使用してもよい。
【0041】
SiとOとの原子比が概ね1:1の均質な固体である一酸化珪素(SiO_(x))は、固体内部の反応によりSiO_(x)がSiO_(2)相とSi相との二相に不均化する。不均化により得られる酸化珪素粉末は、SiO_(2)相とSi相とを含む。不均化は、SiO_(x)にエネルギーを付与することにより進行する。エネルギー付与手段としては、熱エネルギーを付与する、ミリングなどにより機械的エネルギーを付与する、などが挙げられる。
【0042】
熱エネルギーを付与する場合には、SiO_(x)を加熱するとよい。一般に、酸素を絶った状態であれば800℃以上で、ほぼすべての一酸化珪素が不均化して二相に分離すると言われている。具体的には、非結晶性の一酸化珪素粉末を含む原料粉末に対して、真空中または不活性ガス中などの不活性雰囲気中で800?1200℃、1?5時間の熱処理を行うことにより、非結晶性のSiO_(2)相と結晶性のSi相の二相を含む酸化珪素粉末が得られる。」

1オ 「【0047】
アルカリ金属硝酸塩は、溶融塩法による合成において、珪素含有原料およびリチウム水酸化物を分散させる溶媒としての役割を果たす。アルカリ金属硝酸塩としては、リチウム水酸化物よりも融点が低い硝酸塩が望ましく、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ルビジウムおよび硝酸セシウムのうちの一種以上を使用するとよい。特に望ましくは、アルカリ金属硝酸塩のうち最も融点が低い、硝酸リチウム(融点は261℃)である。硝酸リチウムの溶融塩は、リチウム水酸化物が溶融状態で混合することで、混合溶融塩の融点は低下し約250℃となる。そのため、300℃以下の低温で、活物質を合成することも可能となる。
・・・
【0049】
溶融反応工程での反応温度は、溶融塩の温度に相当し、溶融塩が溶融状態で存在できる温度以上であればよい。基本的には、溶融状態で存在できる温度以上で反応を行えばよく、反応温度が高いほど所望の活物質を効率よく生成させられる。しかし、反応温度が高すぎると、反応性が高すぎて充放電に関与するSi微粒子が減少する場合がある。また、反応温度が高すぎると、アルカリ金属硝酸塩が分解しやすくなる。そのため、反応温度は、溶融塩が溶融状態で存在できる温度以上450℃以下、250?400℃さらには260?300℃が望ましい。上記の反応温度で、60分以上望ましくは3?8時間反応させることで、所望の組成および構造を有する活物質が得られる。」

1カ 「【0053】

【0054】
式(1)は、xが1である一酸化珪素の不均化反応を表す。不均化反応は、溶融反応工程に先立ち珪素含有原料に対して予め施される、あるいは溶融塩中に一酸化珪素が微分散する際に不均化と同等の反応が進行していると考えられる。いずれの場合も、溶融塩中では、式(2)で表されるように、SiO_(2)とLiOHとが優先的に反応して、Li_(2)SiO_(3)が生成すると推察される。したがって、不均化反応により生成されたSi微粒子を含むSi含有相は、アルカリ金属硝酸塩を含む溶融塩の反応抑制効果により、LiOHと反応せずに残存すると推察される。」

1キ 「【実施例】
【0071】
以下に、本発明の二次電池用活物質およびその製造方法の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【0072】
<実施例1>
一酸化珪素(平均粒径が50μmのSiO粉末:シグマ・アルドリッチ・ジャパン株式会社)、水酸化リチウム一水和物(LiOH・H_(2)O:株式会社高純度化学研究所)および硝酸リチウム(LiNO_(3):株式会社高純度化学研究所)を準備した。SiO粉末に対しては、熱処理などの処理を施さなかった。
【0073】
SiO粉末(2g)、LiOH・H_(2)O(2g)およびLiNO_(3)(15g)を秤量した。このとき、SiO粉末に含まれるSiに対するLiOH・H_(2)Oに含まれるLiの割合(Li/Si)は、モル比で1であった。これらの粉末を坩堝にいれ、270℃の電気炉に移し、270℃で5時間の加熱を行った。電気炉内は、アルゴン雰囲気とした。このとき、坩堝の中の原料は融解して溶融塩となり、反応生成物が沈殿していた。
【0074】
次に、溶融塩の入った坩堝を電気炉から取り出して、室温にて冷却した。溶融塩が十分に冷却されて固体化した後、エタノールを加えて固体化した溶融塩を溶解した。反応生成物はエタノールに不溶性であるため、懸濁液が得られた。懸濁液を濾過および乾燥して、粉末状の反応生成物を得た。
【0075】
得られた粉末に対して誘導結合プラズマ(ICP)を用いた元素分析を行った結果、反応生成物100質量%に対してLiを8.7質量%含有することがわかった。
【0076】
また、得られた粉末に対してCuKα線を用いたX線回折(XRD)測定を行った。結果を図1に示した。XRD測定によれば、結晶質Li_(2)SiO_(3)由来の回折ピーク(図1の▽で示す位置)と、Si微粒子由来のハロー(図1の◆で示す位置)が観測された。Si微粒子は、(111)面の回折ピークの半値幅からシェラーの式より算出される結晶粒径が4nmであった。その他の回折パターンは観測されず、Si微粒子が結晶性Li_(2)SiO_(3)と複合化していることが示唆された。すなわち、得られた粉末は、Si微粒子とLi_(2)SiO_(3)相との複合粒子を含むリチウム含有珪素系材料粉末であることがわかった。
【0077】
また、得られた粉末の粒子断面をクロスセクションポリッシャー法を用いて表出させて、その断面を走査電子顕微鏡(SEM)により観察した。結果を図2に示した。図2に示したSEM像は、反射電子像であり、Li、SiおよびOを含む粒子であれば、リチウムを多く含む部分が他の部分よりも濃く観察される。しかし、図2に示したSEM像では、一粒子の断面において濃淡がなく一様であったことから、一粒子の組成も表面から中心部までほぼ均一であると言える。また、Si微粒子の偏在も見られなかった。SEM像より、得られた粉末の平均粒径は2.5μmであると算出された。
【0078】
以上の結果から考えて、珪素含有原料として平均粒径が50μmのSiO粉末を用いたことから、SiOが溶融塩中で溶解して2.5μm程度の大きさの粒子になって微分散するとともに、SiO_(2)相と該SiO_(2)相に分散したSi微粒子とに不均化される。そして、不均化された微細なSiO粒子に含まれるSiO_(2)相とLiOHとが表面から中心部まで十分に反応して、図6の左下に示したような複合粒子を形成していると言える。
【0079】
また、SEM像より、粒子の内部に空孔の存在が確認できた。空孔の存在により、Li吸蔵および放出の差異に発生するSiの体積膨張および収縮を緩和する働きも期待できる。」

1ク 「【0095】
<実施例2>
LiOH・H_(2)Oの配合量を1gとした他は、実施例1と同様にして粉末状の反応生成物を得た。本実施例では、SiO粉末に含まれるSiに対するLiOH・H_(2)Oに含まれるLiの割合(Li/Si)は、モル比で0.5であった。
【0096】
<実施例3>
LiOH・H_(2)Oを4g、LiNO_(3)を20gとした他は、実施例1と同様にして粉末状の反応生成物を得た。本実施例では、SiO粉末に含まれるSiに対するLiOH・H_(2)Oに含まれるLiの割合(Li/Si)は、モル比で2であった。
【0097】
<実施例4>
LiOH・H_(2)Oを6g、LiNO_(3)を25gとした他は、実施例1と同様にして粉末状の反応生成物を得た。本実施例では、SiO粉末に含まれるSiに対するLiOH・H_(2)Oに含まれるLiの割合(Li/Si)は、モル比で3であった。
【0098】
<実施例5>
LiOH・H_(2)Oを8g、LiNO_(3)を30gとした他は、実施例1と同様にして粉末状の反応生成物を得た。本実施例では、SiO粉末に含まれるSiに対するLiOH・H_(2)Oに含まれるLiの割合(Li/Si)は、モル比で4であった。
【0099】
<X線回折測定>
実施例2?5で得られたそれぞれの粉末に対してCuKα線を用いたXRD測定を行った。結果を図7に示した。XRD測定によれば、いずれの粉末も、結晶質Li_(2)SiO_(3)由来の回折ピーク(図7の▽で示す位置)と、Si微粒子由来のハロー(図7の◆で示す位置)が観測された。Si微粒子は、(111)面の回折ピークの半値幅からシェラーの式より算出される結晶粒径が4?6nmであった。その他の回折パターンは観測されず、Si微粒子が結晶性Li_(2)SiO_(3)と複合化していることが示唆された。すなわち、得られた粉末は、リチウム含有珪素系材料粉末であることがわかった。いずれの実施例の粉末からも、ほぼ同様の回折パターンが得られたことから、得られるリチウム含有珪素系材料粉末の組成および構造は、Li/Siの値によって大きく変化しないことがわかった。」

1ケ 「【0117】
Li/Si=2とした実施例3の反応は、次のように表される。
【0118】
2[Si+SiO_(2)]+8LiOH→2Si+2Li_(2)SiO_(3)+4LiOH(+2H_(2)O+H_(2))
2Si+2Li_(2)SiO_(3)+4LiOH→Si+2Li_(2)SiO_(3)+Li_(4)SiO_(4)(+2H_(2))
[Si+2Li_(2)SiO_(3)+Li_(4)SiO_(4)]+H_(2)O→Si+3Li_(2)SiO_(3)(+2LiOH)
つまり、実施例3で得られたリチウム含有珪素系材料粉末は、全体組成:Li_(6)Si_(4)O_(9)(6.941×6+28.09×4+16.00×9=298.006g/mol)に対してリチウムを6.941×6=41.646g/mol含有する。したがって、リチウムドープ量は、13.975%と算出される。また、反応式より、反応前の単体Siの半分が、反応後に残存することがわかる。
【0119】
Li/Si=3とした実施例4の反応は、次のように表される。
【0120】
Si+SiO_(2)+6LiOH→Si+Li_(2)SiO_(3)+4LiOH(+H_(2)O)
Si+Li_(2)SiO_(3)+4LiOH→Li_(2)SiO_(3)+Li_(4)SiO_(4)+(2H_(2))
Li_(2)SiO_(3)+Li_(4)SiO_(4)+H_(2)O→2Li_(2)SiO_(3)(+2LiOH)
つまり、実施例4で得られたリチウム含有珪素系材料粉末は、全体組成:Li_(4)Si_(2)O_(6)(6.941×4+28.09×2+16.00×6=179.944g/mol)に対してリチウムを6.941×4=27.764g/mol含有する。したがって、リチウムドープ量は、15.429%と算出される。この条件では、反応前のSiの全てが、Li_(2)SiO_(3)に変化したことが、反応式よりわかる。
【0121】
リチウムのドープ量(質量%)は、理論値よりも3割程度少なくなるが、使用する水酸化リチウムの量を増加させることで、リチウムドープ量が増加する。理論値からは、原料粉末に含まれるSiに対するLiのモル比が3以上になると、全てのSiがメタケイ酸リチウム化合物に変化する。しかし、実施例4および5で得られたリチウム含有珪素系材料粉末のXRDパターンにはSi微粒子の存在が確認された。これは、使用した硝酸リチウム量や反応温度などの他の反応条件の影響で、SiとLiOHとの反応が抑制されたものと考えられる。理論値から考えて、リチウムドープ量が1?15質量%さらには5?13質量%さらには7?12質量%であれば、十分量のSi微粒子を含むリチウム含有珪素系材料粉末であると言える。」

1コ 「


1サ 「



イ 甲1に記載された事項
(ア)上記1イによれば、高エネルギー密度を有し、充放電サイクルを改善できる負極活物質として酸化珪素が知られている。この酸化珪素(SiO_(x):xは0.5≦x≦1.5程度)は熱処理されると不均化反応によってSi相とSiO_(2)相の二相に分離するものであるところ、SiO_(2)相はリチウムと電気化学反応してケイ酸塩を形成するため、不可逆容量が増大し、ひいては初期充放電効率が低下するという問題点があったところ、固相法によってSiO粉末とLiOH粉末を反応させることでリチウム含有珪素系材料を合成して不可逆容量を補うと、SiO粒子の内部や表面の一部に未反応のSiOが存在してしまい、リチウムのドープ量が不十分となり不可逆容量の低減効果が小さくなる。

(イ)甲1の発明は上記問題点に鑑み、初期充放電効率に優れた二次電池用負極活物質を提供することを課題とするものであり、上記1ウによれば、珪素含有原料およびリチウム水酸化物の反応をアルカリ金属硝酸塩の溶融塩中で行うと、リチウム水酸化物の反応性が適度に抑制されるので、Li_(2)SiO_(3)を基本組成とするメタケイ酸リチウム系化合物を含む化合物相と、Si微粒子を含むSi含有相とを含有し、Si微粒子が分散状態にあるリチウム含有珪素系材料を容易に得ることができる。この結果、以下の実施例に示されるように、得られた負極活物質には、未反応のSiOが含まれないので、不可逆容量が低減し、初期充放電効率に優れたものとなる。

(ウ)上記1キによれば、実施例1の二次電池用活物質は次の方法で製造される。SiO粉末(2g)、LiOH・H_(2)O(2g)およびLiNO_(3)(15g)の粉末を坩堝に入れ、アルゴン雰囲気で270度5時間の加熱を行って原料を溶融し、冷却した溶融塩をエタノールで溶解し、得られた懸濁液を濾過し乾燥することにより、粉末状の反応生成物、すなわち、二次電池用負極活物質が得られる。

(エ)上記得られた粉末に対してX線回折測定を行った結果が上記1コの図1に示されており、結晶質Li_(2)SiO_(3)由来の回折ピーク(図1の▽で示す位置)と、Si微粒子由来のハロー(図1の◆で示す位置)が観測され、その他の回折パターンは観測されなかった。また、上記Si微粒子の結晶粒径が4nmと算出され、上記粉末の平均粒径は2.5μmと算出された。なお、X線回折でピークやハローが観測されているということから、上記Si微粒子とLi_(2)SiO_(3)が結晶性の物質であることは自明である。

(オ)したがって、実施例1において得られた粉末は、結晶粒径が4nmのSi微粒子と結晶性のLi_(2)SiO_(3)相からなる複合粒子を含むリチウム含有珪素系材料粉末であり、当該粉末の平均粒径は2.5μmである。

(カ)そして、上記(ウ)に記載した実施例1の二次電池用活物質の製造方法における反応式は、上記1カに(1)式及び(2)式として記載されており、段落【0054】の記載も参照すれば、2molのSiO粉末は不均化反応によって、1molのSiとSiO_(2)に分離し、硝酸リチウムの溶融塩中でこの1molのSiO_(2)は2molのLiOH・H_(2)Oと反応して1molのLi_(2)SiO_(3)が生成する。したがって、実施例1で得られた粉末がSiとLi_(2)SiO_(3)からなる複合粒子を含むものであることは、反応式からも理解される。

(キ)また、上記(1)式及び(2)式から、不均化反応前のSiOに対して同モル量のLiOH・H_(2)Oが反応すれば、SiOから不均化反応によって生じたSiO_(2)は全てが消費され、反応後にSiO_(2)が残ることはないことがわかる。また、この点に関連して、上記1キの段落【0078】に、「不均化された微細なSiO粒子に含まれるSiO_(2)相とLiOHとが表面から中心部まで十分に反応」すると記載されており、SiO粒子内の表面から中心部までの全てのSiO_(2)相がLiOHと反応してLi_(2)SiO_(3)が生成するものと認められる。

(ク)そこで、上記(ウ)に示した実施例1で使用した原料のモル数を確認する。SiOのモル分子量は44.1gで、LiOH・H_(2)Oのモル分子量は41.9gであることを踏まえると、2gのSiOは2/44.1=0.0453mol、2gのLiOH・H_(2)Oは2/41.9=0.0477molである。したがって、SiOのモル量と比較してLiOH・H_(2)Oのモル量はほぼ同量か若干多いので、実施例1において、全量のSiO_(2)が消費され、得られた粉末中にSiO_(2)は存在しないことが、反応式の点からも確認できる。

(ケ)したがって、実施例1で得られた二次電池用負極活物質は、「結晶粒径が4nmのSi微粒子と結晶性のLi_(2)SiO_(3)相からなる複合粒子を含み、SiO_(2)は含まれておらず、上記Si微粒子が分散状態にある、粉末状二次電池用負極活物質」である。

(コ)次に、実施例3、4の二次電池用負極活物質について検討する。上記1クによれば、その製造方法は、実施例1の製造方法とLiOH・H_(2)O及びLiNO_(3)の配合量のみが異なっていると記載されていることから、実施例3では、SiO粉末(2g)とLiOH・H_(2)O(4g)を反応させ、実施例4では、SiO粉末(2g)とLiOH・H_(2)O(6g)を反応させている。

(サ)実施例3の反応式については、上記1ケの段落【0118】に記載されており、下線を付した2[Si+SiO_(2)]の部分は、上記(1)式を参照すれば、4SiOが不均化反応で分離したものであると理解できるから、4モルのSiOと8モルのLiOHが反応して、最終的に1モルのSiと3モルのLi_(2)SiO_(3)が生成する。したがって、実施例3の二次電池用活物質においても、得られた粉末中にSiO_(2)は存在していないといえる。

(シ)実施例4の反応式については、上記1ケの段落【0120】に記載されており、下線を付したSi+SiO_(2)の部分は、上記(1)式を参照すれば、2SiOが不均化反応で分離したものであると理解できるから、2モルのSiOと6モルのLiOHが反応して、最終的に2モルのLi_(2)SiO_(3)が生成する。したがって、実施例4の二次電池用活物質においても、得られた粉末中にSiもSiO_(2)も存在していないといえる。

(ス)ここで、実施例3、4のXRD測定結果が上記1サの図7に示されており、上記1クの段落【0099】も参照すると、実施例3、4のいずれにおいても、結晶質Li_(2)SiO_(3)由来の回折ピーク(図7の▽で示す位置)と、Si微粒子由来のハロー(図7の◆で示す位置)が観測され、その他の回折パターンは観測されなかった。また、上記Si微粒子の結晶粒径が4?6nmと算出された。

(セ)なお、実施例4についてSiが観測されたという同図7の上記結果は、上記1ケの段落【0120】の反応式において最終的にSiが消費されて存在しないという上記(シ)の検討結果と一見矛盾しているように見える。この点については、上記1ケの段落【0121】に「リチウムのドープ量(質量%)は、理論値よりも3割程度少なくなるが、使用する水酸化リチウムの量を増加させることで、リチウムドープ量が増加する」と記載されているように、実際の反応においては、リチウムの反応は理論の3割程度少なくなるものであり、しかも、上記1カの段落【0054】に記載されているように「溶融塩中では、式(2)で表されるように、SiO_(2)とLiOHとが優先的に反応して、Li_(2)SiO_(3)が生成する」という特徴があるので、段落【0120】に記載された3つの反応式のうち、第1の反応式が優先的に進んでSiO_(2)は全て消費されるけれども、LiOHと反応しにくいSiについては第2の反応式が十分進まなかったために未反応のSiが残存したと考えられる。

(ソ)したがって、実施例3と実施例4において得られた二次電池用負極活物質は、「結晶粒径が4?6nmのSi微粒子と結晶性のLi_(2)SiO_(3)相からなる複合粒子を含み、SiO_(2)は含まれておらず、上記Si微粒子が分散状態にある、粉末状二次電池用負極活物質」である。

ウ 上記イの(ケ)と(ソ)の検討結果を総合すると、甲1には、実施例1、3、4に注目すると、以下の二次電池用負極活物質が記載されているものと認められる。

「結晶粒径が4?6nmのSi微粒子と結晶性のLi_(2)SiO_(3)相からなる複合粒子を含み、SiO_(2)は含まれておらず、上記Si微粒子が分散状態にある、粉末状の二次電池用負極活物質」(以下、「甲1発明」という。)

(2)本件発明1?11と甲1発明との対比と判断
ア 本件発明1と甲1発明との対比
(ア)甲1発明の「二次電池用負極活物質」は、本件発明1の「負極活物質」に相当する。

(イ)甲1発明の「複合粒子」は「二次電池用負極活物質」に含まれる活物質粒子であり、本件発明1の「負極活物質粒子」は「負極活物質」に含まれる活物質粒子であるから、上記(ア)の検討も勘案すると、甲1発明の「複合粒子」は本件発明1の「負極活物質粒子」に相当する。

(ウ)甲1発明の「複合粒子」が「結晶粒径が4?6nmのSi微粒子」を含むことと、本件発明1の「負極活物質粒子は、ケイ素化合物(SiO_(x):0.5≦x≦1.6)を含むケイ素化合物粒子を含有」することは、上記「Si微粒子」と上記「ケイ素化合物粒子」がいずれも少なくとも珪素を含有する粒子であるといい得るから、上記(イ)の検討も勘案すると、「負極活物質粒子」が「少なくとも珪素を含有する粒子(以下、「珪素含有粒子」という。)」を含む点で共通する。

(エ)甲1発明の「複合粒子」が「結晶性のLi_(2)SiO_(3)相」を含むことは、本件発明1の「負極活物質粒子は少なくとも一部に結晶質のLi_(2)SiO_(3)を含有」することに相当する。

(オ)以上によれば、本件発明1と甲1発明との「一致点」及び「相違点1」、「相違点2」は以下のとおりである。

(一致点)
負極活物質粒子を含む負極活物質であって、
前記負極活物質粒子は、珪素含有粒子を含有し、
前記負極活物質粒子は少なくとも一部に結晶質のLi_(2)SiO_(3)を含有する、負極活物質である点。

(相違点1)
「珪素含有粒子」が、本件発明1では「ケイ素化合物(SiO_(x):0.5≦x≦1.6)を含むケイ素化合物粒子」であるのに対して、甲1発明では「結晶粒径が4?6nmのSi微粒子」である点。

(相違点2)
本件発明1の「負極活物質粒子」は「^(29)Si-MAS-NMR スペクトルから得られるLi_(2)SiO_(3)に由来するピークの強度A、Siに由来するピークの強度B、Li_(2)Si_(2)O_(5)に由来するピークの強度C、及びSiO_(2)に由来するピークの強度Dが、下記式1又は式2を満たすものであり、前記^(29)Si-MAS-NMR スペクトルから得られるケミカルシフト値として-40?-60ppmにピークを有するもの」、「A>B>D ・・・ (1) A>C>D ・・・ (2)」であることが特定されているのに対し、甲1発明はそのような特定がされていない点。

イ 相違点1についての検討
(ア)相違点1について検討するにあたり、本件発明1の「ケイ素化合物(SiO_(x):0.5≦x≦1.6)を含むケイ素化合物粒子」がどのように製造されるものであるかを、本件明細書の記載に基づいて確認する。本件明細書には実施例1-1の負極の製造について以下の記載がある。

「【0123】
次に負極を作製した。まず、負極活物質を以下のようにして作製した。金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉に導入し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕した。このようにして得たケイ素化合物粒子のSiO_(x)のxの値は1.0であった。続いて、ケイ素化合物粒子の粒径を分級により調整した。その後、熱分解CVDを行うことで、ケイ素化合物粒子の表面に炭素材を被覆した。これを負極活物質粒子とした。
【0124】
続いて、負極活物質粒子に熱ドープ法を行うことによりリチウムを挿入し改質した。まず、負極活物質粒子(炭素材を被覆したケイ素化合物粒子)に対して4質量%に相当する質量のLiH粉末を、負極活物質粒子とアルゴン雰囲気下で混合し、シェイカーで撹拌した。その後、雰囲気制御炉で、攪拌した粉末を740℃の熱処理を行うことで改質を行った。
【0125】
改質後はアルコールやアルカリ水、弱酸や純水で負極活物質粒子の洗浄を行った。
【0126】
このようにして作製した負極活物質粒子には、結晶質のLi_(2)SiO_(3)が含まれていた。
【0127】
ここで、実施例1-1で作製した負極活物質粒子(ケイ素系活物質粒子)を^(29)Si-MAS-NMRによって測定したところ、図4のようなスペクトルが得られた。図4のスペクトルにおいてベースラインを設定し、ピーク強度を算出したところ、Li_(2)SiO_(3)に由来するピークの強度A、Siに由来するピークの強度B、Li_(2)Si_(2)O_(5)に由来するピークの強度C、及びSiO_(2)に由来するピークの強度Dが、式2を満たし(A>C>D)、式1を満たさない(A>D>B)ものであった。」

(イ)上記(ア)の記載によれば、金属ケイ素と二酸化ケイ素を気化させたものを堆積させ、冷却、取り出しの後粉砕することにより得られたケイ素化合物粒子(SiO_(x)でx=1.0)に、炭素材を被覆したものを負極活物質粒子とし、さらに、当該負極活物質粒子に対して4質量%のLiH粉末を混合し740℃の熱処理を行うことにより改質を行うことによって、結晶質のLi_(2)SiO_(3)が含まれたものとなる。

(ウ)つまり、本件発明1の「ケイ素化合物(SiO_(x):0.5≦x≦1.6)を含むケイ素化合物粒子」には次の二つの意味があり得ると考えられる。
第1には、金属ケイ素と二酸化ケイ素を気化させたものを堆積させ、冷却、取り出しの後粉砕することにより得られたケイ素化合物粒子の表面に炭素材が被覆された負極活物質粒子、つまり「改質前の負極活物質粒子」を意味すると考えられる。
第2には、そのように形成された負極活物質粒子に対して4質量%のLiH粉末を混合して740℃の熱処理を行い結晶質のLi_(2)SiO_(3)が生成したものにおいて、LiH粉末はわずか4質量%しかないことに鑑み、Liが挿入され改質され「結晶質のLi_(2)SiO_(3)」が生成しているのは当該負極活物質粒子のうち一部のみであって、その他の「改質されていない部分」があると解されるところ、この「改質されていない部分」を意味すると考えられる。なお、段落【0127】には、改質後の負極活物質粒子をNMRで測定すると、SiとSiO_(2)が含有されていることが示されているから、上記「改質されていない部分」のSiOxには、改質時の熱処理によってSiとSiO_(2)が生じている(不均化反応)と推定される。

(エ)ここで、本件発明1は、「一部に結晶質のLi_(2)SiO_(3)を含有」することから、改質後の負極活物質粒子を意味することが明らかであるから、本件発明1の「ケイ素化合物(SiOx:0.5≦x≦1.6)を含むケイ素化合物粒子」とは、上記第1の意味、すなわち「改質前の負極活物質粒子」を意味するものではなく、上記第2の意味、すなわち「改質されていない部分」を意味するものと解される。つまり、負極活物質粒子のうち、LiHを用いた熱処理により改質されなかった「ケイ素化合物(SiO_(x):0.5≦x≦1.6)」の部分であり、当該熱処理によりSiとSiO_(2)を生じている部分であるということができる。

(オ)一方、甲1発明に含まれる「Si微粒子」は、上記(1)イ(エ)?(カ)で検討したように、原料のSiOから不均化反応で生じたSiであり、同様に上記SiOから不均化反応で生じたSiO_(2)はその全てがLiOHと反応することによって消費されて「結晶性のLi_(2)SiO_(3)相」となっている。また、上記「Si微粒子」は、甲1発明の「粉末状二次電池用負極活物質」のうち、硝酸リチウムを用いた溶融反応によってLiが挿入された「結晶性のLi_(2)SiO_(3)相」以外の部分であって、上記(エ)の「改質されていない部分」に相当する部分であるといえる。

(カ)したがって、甲1発明の「Si微粒子」とは、本件発明1における「改質されていない部分」に相当する「ケイ素化合物(SiO_(x))を含むケイ素化合物粒子」において、x=0のものに相当していると考えることができるから、「ケイ素化合物(SiO_(x))」に含まれるxの組成比が、本件発明1では「0.5≦x≦1.6」であり、甲1発明では「x=0」と異なっているので、相違点1は本件発明1と甲1発明との実質的な相違点である。

(キ)よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は相違点1において甲1発明と相違するので、甲1に記載された発明ではない。
また、本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2?11も、少なくとも相違点1で甲1発明と相違するので、本件発明1と同様の理由で、甲1に記載された発明ではない。

ウ 相違点に係る容易想到性についての検討
(ア)相違点1に係る容易想到性について検討する。
上記(1)イ(ア)、(イ)で検討したように、従来負極活物質として用いられていた酸化珪素(SiO_(x):xは0.5≦x≦1.5程度)は、固相法によってSiO粉末とLiOH粉末を反応させると、SiO粒子の内部や表面の一部に未反応のSiOが存在してしまい、リチウムのドープ量が不十分となり不可逆容量の低減効果が小さくなるが、甲1発明は、珪素含有原料およびリチウム水酸化物の反応をアルカリ金属硝酸塩の溶融塩中で行うことにより、Li_(2)SiO_(3)を含む化合物相と、Si微粒子を含むSi含有相とを含有するリチウム含有珪素系材料を容易に得ることができ、この結果、甲1発明には、未反応のSiOが含まれないものとなるので、不可逆容量が低減し、初期充放電効率に優れたものとすることができるものである。

(イ)つまり、甲1発明は、負極活物質中のSiOの全てをリチウム水酸化物と反応させ、SiOを含有しないものとすることにより、不可逆容量を低減し、初期充放電効率に優れたものとするものである。したがって、仮に甲1発明において、負極活物質中にSiOを含有させると、負極活物質の不可逆容量が増加し、初期充放電効率が低下してしまい、甲1発明の課題を解決できないものとなってしまうので、その負極活物質中にSiOを含有させることは阻害されているといえる。なお、このことは、甲2?甲4に記載された事項によらず、甲1の記載事項自体から判断されることである。

(ウ)したがって、甲1発明において、「Si微粒子」に代えて「ケイ素化合物(SiO_(x):0.5≦x≦1.6)を含むケイ素化合物粒子」とすること、すなわち、相違点1に係る本件発明1の特定事項を備えるものとすることは、当業者が容易になし得たことではない。

(エ)よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2?11も、本件発明1と同様の理由で、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)小括
以上のとおりであるから、申立理由1、2には理由がない。

第5 結び
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-04-06 
出願番号 特願2015-225323(P2015-225323)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松村 駿一  
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 池渕 立
井上 猛
登録日 2019-06-07 
登録番号 特許第6535581号(P6535581)
権利者 信越化学工業株式会社
発明の名称 負極活物質、混合負極活物質材料、非水電解質二次電池用負極、リチウムイオン二次電池  
代理人 好宮 幹夫  
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