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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C23C
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  C23C
審判 全部無効 2項進歩性  C23C
審判 全部無効 判示事項別分類コード:857  C23C
管理番号 1361788
審判番号 無効2014-800158  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-09-18 
確定日 2020-03-02 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4673448号「非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット」の特許無効審判事件についてされた平成27年11月24日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成27年(行ケ)第10261号、平成28年12月21日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第4673448号の特許請求の範囲を、令和1年10月2日付け手続補正書に添付された訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔4、9-13〕について訂正することを認める。 特許第4673448号の請求項1ないし3、5ないし8に係る発明についての特許を無効とする。 特許第4673448号の請求項4、9ないし13に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その13分の6を請求人の負担とし、13分の7を被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第4673448号(以下、「本件特許」という。)は、平成22年3月8日(優先権主張 平成21年3月27日)を国際出願日として特許出願がされ、平成23年1月28日に請求項1?8に係る発明についての特許の設定登録がされたものであり、その後、請求項1?8に係る発明の特許に対して、請求人田中貴金属工業株式会社から無効審判が請求されたものである。以下、審判請求以後の経緯を整理して示す。

1 手続の経緯
平成26年 9月18日 審判請求
12月15日 答弁書の提出
平成27年 2月17日付け 審理事項通知書
3月6日 口頭審理陳述要領書(請求人)提出
3月27日 口頭審理陳述要領書(被請求人)提出
4月8日付け 審理事項通知書
4月14日 口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)提出
4月14日 口頭審理
6月3日付け 審決の予告
8月3日 訂正請求書及び意見書(被請求人)提出
9月14日 弁駁書(請求人)提出
11月24日付け 一次審決
平成28年12月21日 判決
平成29年12月21日付け 審理再開通知書
平成30年 8月24日付け 審決の予告(2回目)
10月26日 訂正請求書及び意見書(被請求人)提出
12月12日 手続補正書(被請求人)提出
平成31年 2月18日 弁駁書(請求人)提出
3月28日付け 訂正拒絶理由通知書
3月28日付け 職権審理結果通知書
4月26日 意見書及び手続補正書(被請求人)提出
令和1年 8月30日付け 訂正拒絶理由通知書(2回目)
8月30日付け 職権審理結果通知書(2回目)
9月11日 手続補正書(被請求人)提出
10月2日 手続補正書(被請求人)提出
10月4日 意見書(請求人)提出
11月19日 意見書(被請求人)提出
11月22日 意見書(請求人)提出

上記手続における平成27年8月3日付けの訂正請求による訂正の請求は、特許法134条の2第6項の規定により取り下げられたものとみなす。

2 審決(一次審決)
審決の結論は、「特許第4673448号の請求項1ないし8に係る発明についての特許を無効とする。」というものである。

3 審決取消訴訟
被請求人は、上記審決の取消しを求めて、平成27年12月28日に知的財産高等裁判所に訴えを提起した。上記訴えは、知的財産高等裁判所において、平成27年(行ケ)第10261号事件として審理され、主文を
「1 特許庁が無効2015-800158号事件について平成27年11月24日にした審決のうち、特許第4673448号の請求項4に係る部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを8分し、その7を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。」とする判決の言渡しが平成28年12月21日にあった。
そして、上記判決はその後確定したところ、特許法第181条第2項の規定により、特許第4673448号の請求項1ないし3、5ないし8に係る部分についても取り消すものとして、更に審理を行うことになったので、平成29年12月21日付けの審理再開通知書を請求人及び被請求人に通知した。

第2 訂正の適否について
2-1 判決後の訂正の経緯
被請求人は、審決の予告(2回目)に対して、平成30年10月26日に訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)を提出し、次いで、同年12月12日に本件訂正請求書に係る手続補正書を提出し、また、平成31年3月28日付け訂正拒絶理由通知書に対して、同年4月26日に本件訂正請求書に係る手続補正書を提出し、さらに、令和1年8月30日付け訂正拒絶理由通知書に対して、同年9月11日及び同年10月2日に本件訂正請求書に係る手続補正書を提出した。
そして、令和1年10月2日提出の手続補正書に添付された訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?13は、平成30年10月26日提出の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?8について引用関係の解消などを行うものであって要旨を変更するものではないことからして、令和1年10月2日の手続補正は、認められるものである。
したがって、令和1年10月2日提出の手続補正書に添付された訂正請求書(以下、この訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)が本件訂正請求書となり、訂正特許請求の範囲は、この訂正請求書に添付されたものとなる。

2-2 訂正の趣旨
被請求人は、特許第4673448号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?13について訂正することを求めるものである。

2-3 訂正の理由
被請求人は、訂正前の請求項4について、同請求項1、2、3の引用関係を解消して独立請求項とした訂正後の請求項4、9、10及び訂正後の4、9、10を引用する訂正後の請求項11、12、13と、これら以外の訂正後の請求項1、2、3、5、6、7、8とを別の訂正単位とすることを求めるものである。

2-4 本件訂正の内容
[訂正事項1]
請求項1に「前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有している」とあるのを「前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有し、前記球形の合金相(B)はCo濃度の高い領域と低い領域及びCr濃度の高い領域と低い領域をそれぞれ有し、Co又はCrのいずれか一つの濃度変動の程度は、中心付近に濃度が25mol%以上に濃縮された濃度の高い領域があり外周に近づくにつれて濃度が低くなるものであり、前記球形の合金相(B)が存在しないときと比べて平均漏洩磁束が5%以上向上していること」と訂正する。

[訂正事項2]
請求項2に「前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有している」とあるのを「前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有し、前記球形の合金相(B)はCo濃度の高い領域と低い領域及びCr濃度の高い領域と低い領域をそれぞれ有し、Co又はCrのいずれか一つの濃度変動の程度は、中心付近に濃度が25mol%以上に濃縮された濃度の高い領域があり外周に近づくにつれて濃度が低くなるものであり、前記球形の合金相(B)が存在しないときと比べて平均漏洩磁束が5%以上向上していること」と訂正する。

[訂正事項3]
請求項3に「前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有している」とあるのを「前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有し、前記球形の合金相(B)はCo濃度の高い領域と低い領域及びCr濃度の高い領域と低い領域をそれぞれ有し、Co又はCrのいずれか一つの濃度変動の程度は、中心付近に濃度が25mol%以上に濃縮された濃度の高い領域かおり外周に近づくにつれて濃度が低くなるものであり、前記球形の合金相(B)が存在しないときと比べて平均漏洩磁束が5%以上向上していること」と訂正する。

[訂正事項4]
請求項4に「請求項1?3のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立請求項に改め、「Crが5mol%以上20mol%以下、残余がCoである合金と非磁性材粒子との混合体からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、
このターゲットの組織が、合金の中に前記非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)と、前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有し、
前記球形の合金相(B)は、中心部がCr25mol%以上であって、中心部から外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相を形成していることを特徴とする非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」に訂正する。

[訂正事項5]
請求項5に「請求項1?4のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」とあるうち、請求項1?4を引用するものについて、請求項1?3を引用するものに改め、「球形の合金相(B)の直径が、50?200μmの範囲にあることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」に訂正する。

[訂正事項6]
請求項6に「請求項1?5のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」とあるうち、請求項1?5を引用するものについて、請求項1?3を引用するものに改め、「非磁性材料が、Cr、Ta、Si、Ti、Zr、Al、Nb、Bからなる酸化物、窒化物若しくは炭化物又は炭素から選択した1成分以上含むことを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」に訂正する。

[訂正事項7]
請求項7を削除する。

[訂正事項8]
請求項8を削除する。

[訂正事項9]
請求項4に「請求項1?3のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」とあるうち、請求項2を引用するものについて、独立請求項に改め、「Crが5mol%以上20mol%以下、Ptが5mol%以上30mol%以下、残余がCoである合金と非磁性材粒子との混合体からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、
このターゲットの組織が、合金の中に前記非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)と、前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有し、
前記球形の合金相(B)は、中心部がCr25mol%以上であって、中心部から外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相を形成していることを特徴とする非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」に訂正し、新たな請求項9とする。

[訂正事項10]
請求項4に「請求項1?3のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」とあるうち、請求項3を引用するものについて、独立請求項に改め、「Crが5mol%以上20mol%以下、Ptが5mol%以上30mol%以下、Bが0.5mol%以上8mol%以下、残余がCoである合金と非磁性材粒子との混合体からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、
このターゲットの組織が、合金の中に前記非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)と、前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有し、
前記球形の合金相(B)は、中心部がCr25mol%以上であって、中心部から外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相を形成していることを特徴とする非磁性材粒子分散型強磁性材スパックリングターゲット。」に訂正し、新たな請求項10とする。

[訂正事項11]
請求項5に「請求項1?4のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」とあるうち、請求項4を引用するものについて、請求項1を引用する請求項4(独立請求項に改められた訂正後の請求項4)、請求項2を引用する請求項4(独立請求項に改められた訂正後の請求項9)、請求項3を引用する請求項4(独立請求項に改められた訂正後の請求項10)のいずれかを引用する請求項5を、「前記球形の合金相(B)の直径が、50?200μmの範囲にあることを特徴とする請求項4、9、10のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」に訂正し、新たな請求項11とする。

[訂正事項12]
請求項6に「請求項1?5のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」とあるうち、請求項4を引用するものについて、請求項1を引用する請求項4(独立請求項に改められた訂正後の請求項4)、請求項2を引用する請求項4(独立請求項に改められた訂正後の請求項9)、請求項3を引用する請求項4(独立請求項に改められた訂正後の請求項10)のいずれかを引用する請求項6を、「前記非磁性材料が、Cr、Ta、Si、Ti、Zr、Al、Nb、Bからなる酸化物、窒化物若しくは炭化物又は炭素から選択した1成分以上含むことを特徴とする請求項4、9、10 のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」に訂正し、新たな請求項12とする。

[訂正事項13]
請求項8に「請求項1?7のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」とあるうち、請求項4を引用するものについて、請求項1を引用する請求項4(独立請求項に改められた訂正後の請求項4)、請求項2を引用する請求項4(独立請求項に改められた訂正後の請求項9)、請求項3を引用する請求項4(独立請求項に改められた訂正後の請求項10)のいずれかを引用する請求項8を、「相対密度が98%以上であることを特徴とする請求項4、9、10のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」に訂正し、新たな請求項13とする。

2-5 訂正の適否についての判断
2-5-1 訂正後の請求項〔1-3、5-8〕について
(1)訂正後の請求項1?3、5?8は、訂正事項1?3、5?8に係る訂正がなされたものであるところ、訂正後の請求項5、6は、訂正後の請求項1?3のいずれかを引用するものであり、また、訂正後の請求項1?3は、いずれも、非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット中の球形の合金相(B)に関し、「Co」「の濃度変動の程度は、中心付近に濃度が25mol%以上に濃縮された濃度の高い領域があり外周に近づくにつれて濃度が低くなるものであり、球形の合金相(B)が存在しないときと比べて平均漏洩磁束が5%以上向上している」との事項(以下、「訂正事項’」という。)を有するものであることからして、訂正後の請求項5、6も、訂正事項’を有するものであるといえる。

(2)上記訂正事項’が新規事項の追加にあたるか否かについて、該訂正事項’を訂正内容とする訂正事項1?3をもって、以下の判断基準にしたがって検討することとする。
特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に規定されるとおり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしなければならず、本件明細書等に記載した事項とは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)を基準として、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項のことであり、上記のようにして導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該訂正は本件明細書等に記載した事項の範囲内であると解されるというものである。

本件明細書の【0016】には、「球形の合金相(B)には、少なからずCrの濃度が低い領域と高い領域が存在し、このような濃度変動の大きな場所では格子歪みが存在すると考えられる」との記載があり、そして、Co濃度も球形の合金相(B)と相(A)との間で相互拡散が生じるから、球形の合金相(B)には、少なからずCoの濃度が低い領域と高い領域も存在することも事実上記載されているといえる。また、同【0018】には、「球形は、その重心から外周までの長さの最小値に対する最大値の比が2以下であると言い換えることもできる。この範囲であれば、外周部に多少の凹凸があっても、組成不均一な相(B)を形成することができる。」との記載があり、そして、組成不均一な相(B)とは、球形の合金相(B)を構成する元素に濃淡があることを意味している。さらに、同【0019】には、「上記数値範囲より小さい場合には、十分な焼結温度で高密度のターゲットを得ようとすると、金属元素同士の拡散が進み、Crの濃度分布をもつ球形の合金相(B)が形成され難くなる。」及び同【0035】には、「図2に示すように、EPMAの元素分布画像で白く見えている箇所が、当該元素の濃度の高い領域である。すなわち、球形の合金相の部分においてCoとCrの濃度が高くなっており、特にCrは周辺部から中心部に向かって、より濃度が高く(白っぽく)なっている。」との記載もあることからして、「球形の合金相(B)には、Coの濃度が低い領域と高い領域が存在する」という事項は、本願明細書等に記載されている事項であるということはできる。
しかしながら、訂正事項’については、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものであるとはいえないことを、以下で示すこととする。
本件明細書の【0015】には、「上記非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットにおいて、ターゲット組織に含まれる球形の合金相(B)が、中心付近にCrが25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相を形成していることが有効である。本願発明は、このようなターゲットを提供する。すなわち、このようなターゲットでは、球形の合金相(B)は、中心部と外周部にかけて顕著な不均一性を有している。これは電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いてターゲットの研磨面の元素分布を測定すると明確に確認できる。球形の合金相(B)におけるCr濃度の分布状態は、焼結温度や原料粉の性状によって変化するが、上記の通り、球形の合金相(B)の存在は、本願発明ターゲットの独特の組織構造を示すものであり、本願ターゲットの漏洩磁束を高める大きな要因となっている。」(当審注:スペースについてはこれを省略し、字詰めを行った。以下同じ。)との記載があるところ、「球形の合金相(B)におけるCr濃度の分布状態は、焼結温度や原料粉の性状によって変化するが、上記の通り、球形の合金相(B)の存在は、本願発明ターゲットの独特の組織構造を示すものであり、本願ターゲットの漏洩磁束を高める大きな要因となっている」との文言は、段落全体からみて、「中心付近にCrが25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相を形成していることが有効である」とされる球形の合金相(B)の存在を受けたものであって、訂正事項’までも意図するものではないと解するのが自然である。

実施例1、2、4、5、8をみてみると、Co-Cr球形粉末におけるCrの組成は、40mol%であるのに対して、Co-Cr球形粉末以外の他の粉末(全体)におけるCrの組成は0mol%であり、また、Co-Cr球形粉末におけるCoの組成は、60mol%であるのに対して、ターゲットにおけるCoの組成は、77.5mol%(実施例1、4)、60mol%(実施例2、5、8)であることからして、Co-Cr球形粉末の外へのCr拡散は生じているといえる一方、Co-Cr球形粉末の外へのCo拡散は生じていないといえるところ、球形の合金相(B)が存在しないときと比べて平均漏洩磁束が、15%(実施例1、4)、7%(実施例2)、5%(実施例5)向上するのは、上記で示したように、Co-Cr球形粉末の外へのCo拡散は生じていないといえることからして、そもそも、「Co」「の濃度変動の程度は、中心付近に濃度が25mol%以上に濃縮された濃度の高い領域があり外周に近づくにつれて濃度が低くなるものであ」ることによるのではないというべきである。
したがって、実施例1、2、4、5、8は、訂正事項’までも意図するものではないと解するのが当然である。

実施例3、6をみてみると、Co-Cr球形粉末におけるCrの組成は、40mol%であるのに対して、Co-Cr球形粉末以外の他の粉末(全体)におけるCrの組成は0mol%であり、また、Co-Cr球形粉末におけるCoの組成は、60mol%であるのに対して、ターゲットにおけるCoの組成は、56mol%(実施例3)、58mol%(実施例6)であることからして、実施例3、6では、Co-Cr球形粉末の外へのCr拡散は生じているといえる一方、Co-Cr球形粉末の外へのCo拡散はほぼ生じていないといえるところ、球形の合金相(B)が存在しないときと比べて平均漏洩磁束が、8%(実施例3)、7%(実施例6)向上するのは、上記で示したように、Co-Cr球形粉末の外へのCo拡散はほぼ生じていないといえることからして、「Co」「の濃度変動の程度は、中心付近に濃度が25mol%以上に濃縮された濃度の高い領域があり外周に近づくにつれて濃度が低くなるものであ」ることによるのではないというべきである。
したがって、実施例3、6についても、実施例1、2、4、5、8と同じく、訂正事項’までも意図するものではないと解するのが当然である。

実施例7、9をみてみると、Co-Cr球形粉末におけるCrの組成は、40mol%であるのに対して、Co-Cr球形粉末以外の他の粉末(全体)におけるCrの組成は0mol%であり、また、Co-Cr球形粉末におけるCoの組成は、60mol%であるのに対して、ターゲットにおけるCoの組成は、45.66mol%(実施例7)、44mol%(実施例9)であることからして、実施例7、9では、Co-Cr球形粉末の外へのCr拡散とCo拡散の両方が生じているとみることができる。
しかし、本件明細書には、「球形の合金相(B)の存在による漏洩磁束を高めるメカニズムは、必ずしも明確ではないが、以下のような理由が推測される。第一に、球形の合金相(B)には、少なからずCrの濃度が低い領域と高い領域が存在し、このような濃度変動の大きな場所では格子歪みが存在すると考えられる。格子歪みがあると、Co原子が持つ磁気モーメントは互いに非平衡状態をとるため、これらの磁気モーメントの向きを揃えるためには、より強力な磁場が必要となる。従って、金属元素が均一に拡散し、格子歪みのない状態と比較すると、透磁率が低くなるため、マグネトロンスパッタ装置の磁石からの磁束は、ターゲット内部を通過する量が減って、ターゲット表面に漏れ出てくる量が増す。」(【0016】)、「第二に、球形の合金相(B)中のCr濃度の高い領域は、析出物として磁壁の移動を妨げていると考えられる。その結果、ターゲットの透磁率が低くなり漏洩磁束が増す。圧延加工可能な強磁性材ターゲットでは、冷間圧延でターゲット中に転位を付与し、漏洩磁束を向上させる方法が広く知られているが、それと同様の効果が球形の合金相(B)によってもたらされていると推測される。さらに該相(B)中のCr濃度の高い領域は、母相である強磁性相内の磁気的相互作用を遮断するので、Cr濃度の高い領域の存在が漏洩磁束に影響を与えている可能性が考えられる。」(【0017】)及び「ここで、本願発明において使用する球形とは、真球、擬似真球、扁球(回転楕円体)、擬似扁球を含む立体形状を表す。いずれも、長軸と短軸の差が0?50%であるものを言う。すなわち、球形は、その重心から外周までの長さの最小値に対する最大値の比が2以下であると言い換えることもできる。この範囲であれば、外周部に多少の凹凸があっても、組成不均一な相(B)を形成することができる。球形そのものを確認することが難しい場合は、相(B)の断面の重心と外周までの長さの最小値に対する最大値の比が2以下であることを目安としてもよい。このように、合金相(B)が球形であると、焼結時に相(A)と相(B)の境界面に空孔が生じにくく、密度が上がり易い。また、同一体積では、球形の方が表面積が小さくなるので、周囲の金属粉(Co粉、Pt粉など)との拡散が進みにくく、組成不均一な相(B)、すなわち中心付近にCrが25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相が容易に形成されるようになる。」(【0018】)との記載があり、これらからして、球形の合金相(B)におけるCr濃度の高い領域において漏洩磁束が増すという事項(推論)が示され(【0017】)、合金相(B)が球形であることにより、中心付近にCrが25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相が容易に形成されるという事項が示され(【0018】)、少なからずCrの濃度が低い領域と高い領域が存在し、このような濃度変動の大きな場所では格子歪みが存在することで漏洩磁束が増すという事項(推論)が示されている(【0016】)ので、漏洩磁束を増加させる主要因は、Cr濃度の高い領域(大きな濃度変動)を存在させることにあるとみるのが妥当であり、また、【0016】において、「格子歪みがあると、Co原子が持つ磁気モーメントは互いに非平衡状態をとるため、これらの磁気モーメントの向きを揃えるためには、より強力な磁場が必要となる」という事項が示されているとしても、これは、Coの濃度変動による格子歪みにより漏洩磁束が増加することを明示するものではなく、さらに、仮に、Coの濃度変動による格子歪みにより漏洩磁束が増加するとしても、実施例7、9における「Coの濃度変動に基づく漏洩磁束の増加の程度」を把握することはできず、そして、本件明細書の【0008】には、「一般に、上記のようなマグネトロンスパッタ装置で非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットをスパッタしようとすると、磁石からの磁束の多くは強磁性材であるターゲット内部を通過してしまうため、漏洩磁束が少なくなり、スパッタ時に放電が立たない、あるいは放電しても放電が安定しないという大きな問題が生じる。この問題を解決するには、ターゲット中の非磁性材粒子の体積比率を増やすことや、Coの含有割合を減らすことが考えられる。しかし、この場合、所望のグラニュラー膜を得ることができないため本質的な解決策ではない。」との記載があることからして、Coの含有割合を低くすると漏洩磁束は増加するといえるものの、この【0008】を基にして、実施例7、9における「Coの濃度変動に基づく漏洩磁束の増加の程度」を把握することもできない。
そうすると、実施例7、9のターゲットは、仮に、中心付近に濃度が25mol%以上に濃縮されたCo濃度の高い領域があり外周に近づくにつれてCo濃度が低くなるものであるとしても、「球形の合金相(B)が存在しないときと比べて平均漏洩磁束が、6%(実施例7、9)向上」するのは、「Crの濃度変動の程度は、中心付近に濃度が25mol%以上に濃縮された濃度の高い領域があり外周に近づくにつれて濃度が低くなるものであ」ることによるとみるのが妥当である。
したがって、実施例7、9は、訂正事項’までも意図するものではないと解するのが自然である。

そして、本件明細書等の他の箇所をみたとしても、訂正事項’は示されていない。

上記からして、訂正事項’、つまり、非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット中の球形の合金相(B)に関し、「Co」「の濃度変動の程度は、中心付近に濃度が25mol%以上に濃縮された濃度の高い領域があり外周に近づくにつれて濃度が低くなるものであり、球形の合金相(B)が存在しないときと比べて平均漏洩磁束が5%以上向上している」との事項を訂正内容とする訂正事項1?3は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入するものであるといえるので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。
上記に関連して、被請求人は、令和1年11月19日提出の意見書において、非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット中の球形の合金相(B)に関し、「Co」「の濃度変動の程度は、中心付近に濃度が25mol%以上に濃縮された濃度の高い領域があり外周に近づくにつれて濃度が低くなるものであ」ることは、【0015】【0016】【0018】【0083】【図】等からして、本件明細書等に記載された事項であり、さらに、「球形の合金相(B)が存在しないときと比べて平均漏洩磁束が5%以上向上している」ものに限定されているので、新規事項の追加に該当せず、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである旨の主張をしているが、上記で検討したように、非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット中の球形の合金相(B)に関し、「Co」「の濃度変動の程度は、中心付近に濃度が25mol%以上に濃縮された濃度の高い領域があり外周に近づくにつれて濃度が低くなるものであり、球形の合金相(B)が存在しないときと比べて平均漏洩磁束が5%以上向上している」との事項は、新規事項の追加に該当するといわざるを得ないので、上記被請求人の主張を採用することはできない。

(3)小括
したがって、訂正事項1?3は、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合するものではない。
そして、上記「2-4 訂正の内容」で示したように、訂正後の請求項5?8は、訂正事項5?8に係る訂正がなされたものであり、上記「2-3 訂正の理由」で示したように、訂正後の請求項1?3、5?8は、一群の訂正単位であることからして、訂正事項5?8について、及び、他の訂正要件について検討するまでもなく、訂正後の請求項〔1-3、5-8〕についての訂正を認めることはできない。

2-5-2 訂正後の請求項〔4、9-13〕について
(1)訂正後の請求項4、9?13は、訂正事項4、9?13に係る訂正がなされたものであるところ、以下、訂正事項4、訂正事項9?13が訂正要件を満たすものであるか否かについて検討する。
[訂正事項4]について
訂正事項4は、訂正前の請求項4が、同請求項1?3の記載を引用する記載であるところ、同請求項2、3を引用しないものとした上で同請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
そして、訂正事項4の内容は、訂正前の特許請求の範囲に記載された事項の範囲内のものであることからして、本件明細書等の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

[訂正事項9]について
訂正事項9は、訂正前の請求項4が、同請求項1?3の記載を引用する記載であるところ、新たに請求項9として新設して、同請求項1、3を引用しないものとした上で同請求項2を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
そして、訂正事項9の内容は、訂正前の特許請求の範囲に記載された事項の範囲内のものであることからして、本件明細書等の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

[訂正事項10]について
訂正事項10は、訂正前の請求項4が、同請求項1?3の記載を引用する記載であるところ、新たに請求項10として新設して、同請求項1、2を引用しないものとした上で同請求項3を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とする訂正である。
そして、訂正事項10の内容は、訂正前の特許請求の範囲に記載された事項の範囲内のものであることからして、本件明細書等の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

[訂正事項11]について
訂正事項11は、訂正前の請求項5が、同請求項1?4の記載を引用する記載であるところ、新たに請求項11として新設して、「訂正前の請求項1?3の記載を引用する同請求項4を、同請求項2、3を引用しないものとした上で同請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めた請求項4」、「訂正前の請求項1?3の記載を引用する同請求項4を、同請求項1、3を引用しないものとした上で同請求項2を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めて新設した請求項9」、「訂正前の請求項1?3の記載を引用する同請求項4を、同請求項1、2を引用しないものとした上で同請求項3を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めて新設した請求項10」を選択的に引用するための訂正であって、特許法第134条の2第1項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
そして、訂正事項11の内容は、訂正前の特許請求の範囲に記載された事項の範囲内のものであることからして、本件明細書等の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

[訂正事項12]について
訂正事項12は、訂正前の請求項6が、同請求項1?5の記載を引用する記載であるところ、新たに請求項12として新設して、「訂正前の請求項1?3の記載を引用する同請求項4を、同請求項2、3を引用しないものとした上で同請求項2を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めた請求項4」、「訂正前の請求項1?3の記載を引用する同請求項4を、同請求項1、3を引用しないものとした上で同請求項2を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めて新設した請求項9」、「訂正前の請求項1?3の記載を引用する同請求項4を、同請求項1、2を引用しないものとした上で同請求項3を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めて新設した請求項10」を選択的に引用するための訂正であって、特許法第134条の2第1項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
そして、訂正事項12の内容は、訂正前の特許請求の範囲に記載された事項の範囲内のものであることからして、本件明細書等の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

[訂正事項13]について
訂正事項13は、訂正前の請求項8が、同請求項1?7の記載を引用する記載であるところ、新たに請求項13として新設して、「訂正前の請求項1?3の記載を引用する同請求項4を、同請求項2、3を引用しないものとした上で同請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めた請求項4」、「訂正前の請求項1?3の記載を引用する同請求項4を、同請求項1、3を引用しないものとした上で同請求項2を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めて新設した請求項9」、「訂正前の請求項1?3の記載を引用する同請求項4を、同請求項1、2を引用しないものとした上で同請求項3を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めて新設した請求項10」を選択的に引用するための訂正であって、特許法第134条の2第1項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
そして、訂正事項13の内容は、訂正前の特許請求の範囲に記載された事項の範囲内のものであることからして、本件明細書等の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないため、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(2)一群の請求項に関する説明
上記「2-3 訂正の理由」で示したように、訂正後の請求項4、9?13は、一群の訂正単位である。

(3)特許独立要件について
訂正事項4、9?13は、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる事項を目的とするものであり、同ただし書第1号又は第2号に掲げる事項を目的にするものではないから、訂正後の請求項4、9?13について、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(4)小括
したがって、訂正事項4、9?13は、特許法第134条の2第1項ただし書第4号の規定に適合し、かつ、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項にも適合するので、訂正後の請求項〔4、9-13〕について訂正することを認める。

2-5ー3 まとめ
以上のとおり、訂正後の請求項〔4、9-13〕について訂正することを認め、訂正後の請求項〔1-3、5-8〕について訂正することは認められない。

第3 本件発明
上記「第2 訂正の適否について」で示したとおり、訂正後の請求項〔4、9-13〕について訂正することを認め、訂正後の請求項〔1-3、5ー8〕について訂正することは認められないので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?3、5?8に係る発明は、特許設定登録時の特許請求の範囲の請求項1?3、5?8の記載により特定され、本件特許の特許請求の範囲の請求項4、9?13に係る発明は、令和1年10月2日提出の手続補正書に添付された訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項4、9?13の記載により特定される次のとおりのものである(以下、請求項の項番に従って、「本件発明1」などといい、全体をまとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
Crが5mol%以上20mol%以下、残余がCoである合金と非磁性材粒子との混合体からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、このターゲットの組織が、合金の中に前記非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)と、前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有していることを特徴とする非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項2】
Crが5mol%以上20mol%以下、Ptが5mol%以上30mol%以下、残余がCoである合金と非磁性材粒子との混合体からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、このターゲットの組織が、合金の中に前記非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)と、前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有していることを特徴とする非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項3】
Crが5mol%以上20mol%以下、Ptが5mol%以上30mol%以下、Bが0.5mol%以上8mol%以下、残余がCoである合金と非磁性材粒子との混合体からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、このターゲットの組織が、合金の中に前記非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)と、前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有していることを特徴とする非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項4】
Crが5mol%以上20mol%以下、残余がCoである合金と非磁性材粒子との混合体からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、
このターゲットの組織が、合金の中に前記非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)と、前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有し、
前記球形の合金相(B)は、中心部がCr25mol%以上であって、中心部から外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相を形成していることを特徴とする非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項5】
球形の合金相(B)の直径が、50?200μmの範囲にあることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項6】
非磁性材料が、Cr、Ta、Si、Ti、Zr、Al、Nb、Bからなる酸化物、窒化物若しくは炭化物又は炭素から選択した1成分以上含むことを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項7】
ターゲット中で、非磁性材料の体積比率が30%以下であることを特徴とする請求項6に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項8】
相対密度が98%以上であることを特徴とする請求項1?7のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項9】
Crが5mol%以上20mol%以下、Ptが5mol%以上30mol%以下、残余がCoである合金と非磁性材粒子との混合体からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、
このターゲットの組織が、合金の中に前記非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)と、前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有し、
前記球形の合金相(B)は、中心部がCr25mol%以上であって、中心部から外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相を形成していることを特徴とする非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項10】
Crが5mol%以上20mol%以下、Ptが5mol%以上30mol%以下、Bが0.5mol%以上8mol%以下、残余がCoである合金と非磁性材粒子との混合体からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、
このターゲットの組織が、合金の中に前記非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)と、前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有し、
前記球形の合金相(B)は、中心部がCr25mol%以上であって、中心部から外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相を形成していることを特徴とする非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項11】
前記球形の合金相(B)の直径が、50?200μmの範囲にあることを特徴とする請求項4、9、10のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項12】
前記非磁性材料が、Cr、Ta、Si、Ti、Zr、Al、Nb、Bからなる酸化物、窒化物若しくは炭化物又は炭素から選択した1成分以上含むことを特徴とする請求項4、9、10のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項13】
相対密度が98%以上であることを特徴とする請求項4、9、10のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」(当審注:下線は、訂正箇所を示すものである。)

第4 請求人の主張
4-1 請求人が審判請求時において主張する無効理由 (概要)
(1)無効理由1
特許請求の範囲の請求項2、4?8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内において頒布された甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当するので、無効とされるべきものである。
(当審注:上記「特許請求の範囲の請求項4?8」は、同請求項2を引用することを意味しており、「無効理由2」についても同様である。)

(2)無効理由2
特許請求の範囲の請求項2、4?8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内において頒布された甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当するので、無効とされるべきものである。

(3)無効理由3
特許請求の範囲の請求項1?8の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるといえず、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないので、特許法第123条第1項第4号に該当するので、無効とされるべきものである。

4-2 請求人の提出した証拠方法
請求人は、次の甲各号証を提出した(以下、「甲1」などという。)
○甲第1号証:特開2008-163438号公報
○甲第2号証:実験成績報告書(平成26年8月28日、田中貴金属工業株式会社 山本俊哉作成)
○甲第3号証:特開2008-169464号公報
○甲第4号証:特開2009-1860号公報
○甲第5号証:特開2009-132975号公報
○甲第6号証:製品安全データシート(2003年11月7日改訂 株式会社アドマテックス製造「アドマファインシリカ」)
○甲第7号証:単体の密度(理科年表平成15年、丸善(株)、国立天文台編)
○甲第8号証:大阪特殊合金株式会社 合金粉末の知識
http://www.gasatomize.com/knowledge.html 2013/06/24印刷
○甲第9号証:高橋研、斉藤伸、角田匡清、機能性薄膜作製のためのスパッタリングターゲット -技術課題と今後への指針-、J.Vac.Soc.Jpn.(真空)、Vol.50、No.1、2007、22-2頁
○甲第10号証:篩目開きと粒度メッシュ
http://www.calgoncarbon-jp.com/product/catalog/list.html 2015/02/03印刷
○甲第11号証:用語集 メッシュ計算
http://www.kansai-kakou.com/yougoshyuu.html 2015/03/02印刷
○甲第12号証:JIS試験篩いメッシュ換算表
○甲第13号証:石田恒雄著、「焼結材料工学」、第1版第2刷、森北出版株式会社、1998年12月18日、p.73-75

第5 被請求人の主張
5-1 被請求人の答弁書における主張(概要)
(1)無効理由1について
特許請求の範囲の請求項2、4?8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内において頒布された甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第123条第1項第2号に該当しないので、無効とされるべきものではない。

(2)無効理由2について
特許請求の範囲の請求項2、4?8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内において頒布された甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第123条第1項第2号に該当しないので、無効とされるべきものではない。
(3)無効理由3について
特許請求の範囲の請求項1?8の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合し、同法第123条第1項4号に該当しないので、無効とされるべきものではない。

5-2 被請求人の提出した証拠方法
○乙第1号証:漏洩磁束の数値計算に関する陳述書(2014年7月15日、桃井元作成)

第6 無効理由1について
6-1 はじめに
請求人が審判請求時に主張する無効理由1は、上記「第4、4-1、(1)」で示した「特許請求の範囲の請求項2、4?8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内において頒布された甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当するので、無効とされるべきものである。」というものであるところ、甲第2号証(以下、単に「甲2」ということもある。他の甲号証についても同じ。)は、本件優先日前に日本国内において頒布された刊行物に該当しないことは明らかであり、また、甲2に記載された発明が、本件優先日前に公然知られた発明であるとも、公然実施された発明であるとすることもできない。
このため、甲2を、無効理由1の証拠とすることはできないので、以下では、無効理由1の主張は、甲第1号証に記載された発明に基く容易想到性の主張であるとする。
ここで、審判請求時の無効理由1の対象となる発明は、特許設定登録時の請求項2に係る発明、及び同請求項2を引用する請求項4?8に係る発明であるところ、本件発明1?13における無効理由1の対象になる発明は、本件発明2、及び特許設定登録時の請求項2に係る発明に関連する本件発明5?9、11?13になるので、上記「特許請求の範囲の請求項2、4?8に係る発明」を、以下、「本件発明2、5?9、11?13」に置き換えて検討することとする。

6-2 刊行物に記載された発明
(1)甲1について
甲1には、次の事項が記載されている。
ア 甲1の記載事項
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト、クロム、セラミックスおよび白金を含有するスパッタリングターゲットであって、該スパッタリングターゲット内に偏在する、クロム原子を高濃度で含有する高クロム含有粒子の最大差し渡し径が40μm以下であることを特徴とするCoCrPt系スパッタリングターゲット。」

(イ)「【0009】
したがって、本発明では、コバルト、クロム、セラミックスおよび白金を含有するCoCrPt系スパッタリングターゲットにおいて、該スパッタリングターゲット内に偏在する、クロム原子を高濃度で含有する高クロム含有粒子のサイズおよび発生量を低減することにより、ターゲットの均質性を高め、かつノジュールまたはアーキングの発生を抑制するとともに、目標とする組成比を有するCoCrPt系スパッタリングターゲットを提供することを課題とする。」

(ウ)「【0023】
CoCrPt系スパッタリングターゲットにおいては、一般にクロム原子を高濃度で含んだ高クロム含有粒子が偏在している、いわゆるクロムリッチ相が存在している。本発明のスパッタリングターゲットでは、この高クロム含有粒子の大きさまたは存在数を抑制したものである。
【0024】
図1および図2は、コバルト、クロム、セラミックスおよび白金を含有するCoCrPt系スパッタリングターゲットの表面を、走査型分析電子顕微鏡で捉えた画像である。図1はセラミックスである二酸化ケイ素を黒色表示したものであり、図2はクロムリッチ相を白色表示したものである。図2から、白色で示された高クロム含有粒子が偏在していることがわかる。」

(エ)「【0026】
図3は、図2における高クロム含有粒子を模式的に表したものである。本明細書において、高クロム含有粒子の「差し渡し径」とは、高クロム含有粒子が占める領域のうち、最も長い径を意味し、具体的には図3の10に示される径である。したがって、「最大差し渡し径」とは、複数の高クロム含有粒子が有する差し渡し径のうち、最も大きい値を示す差し渡し径を意味する。」

(オ)「【0029】
本発明では、ターゲット内に偏在する複数の高クロム含有粒子のうち、その最大差し渡し径が40μm以下であるので、高クロム含有粒子を一定以下の大きさに抑制して、スパッタリングの際のノジュールまたはアーキングの発生を低減することが可能となる。また、このように高クロム含有粒子を一定以下の大きさに抑制することで、より均質性の高いCoCrPt系スパッタリングターゲットを得ることができる。」

(カ)「【0035】
《第一の方法》
第一の方法は、コバルトとクロムとを含む合金をアトマイズし、次いで粉砕することにより粉末(1)を得るA工程と、
コバルトとセラミックスとをメカニカルアロイングすることにより粉末(2)を得るB工程と、
粉末(1)と粉末(2)と白金とを混合し、粉末(3)を得るC工程と、
粉末(3)を焼成するD工程とを
有することを特徴としている。」

(キ)「【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
[実施例1]:第一の方法によるCoCrPt系スパッタリングターゲットの製造
Co_(60)Cr_(40)の合金1.5kgを超小型ガスアトマイズ装置(日新技研社製)を用い、出湯温度1650℃(放射温度計で測定)下、50kg/cm^(2)のArガスを噴射してガスアトマイズすることにより粉末を得た。得られた粉末は平均粒径150μm以下の球状粉末であった。
【0067】
次いで、得られた粉末を大気雰囲気下、ジルコニアボールミルにて、ボールと粉末との重量比を20:1とし、回転速度50rpm、回転時間6時間に設定して粉砕し、粉末(1)を得た。
【0068】
Co粉末(添川理化学社製:平均粒径約2μm、D_(90)6.71、D_(50)4.29)とSiO_(2)粉末(アドマテックス社製:平均粒径約2μm、D_(90)2.87、D_(50)1.52)とを重量比で1:2となるようにメカニカルアロイングした。メカニカルアロイングは、容積2Lの樹脂製ミル容器内に、該容器にφ5mmのジルコニア製ボールと、前記Co粉末とSiO_(2)粉末とを投入して、ボールとこれらの粉末との重量比を1:40とし、回転速度50rpm、回転時間120時間に設定して行い、粉末(2)を得た。
【0069】
これら得られた粉末(1)および粉末(2)に、さらにPt粉末(田中貴金属社製:平均粒径約0.5μm、D_(90)1.78、D_(50)0.58)および上記と同様のCo粉末を投入して、Co_(64)Cr_(10)Pt_(16)(SiO_(2))_(10)の組成比となるように混合し、粉末(3)を得た。混合にはボールミルを用いた。
【0070】
得られた粉末(3)は、さらに振動ふるいを用いて整粒した。
次いで、粉末(3)を成形型に入れ、Ar雰囲気下、焼結温度1150℃、焼結時間1時間、面圧力200kgf/cm^(2)に設定し、ホットプレスを行った。得られた焼結体を切削加工することにより、φ4インチのスパッタリングターゲットを得た。」

(ク)「【0072】
[比較例1?2]
粉末(1)を得るためのジルコニアボールミルを用いた粉砕工程において、回転時間を0時間または3時間に設定した以外は、実施例1と同様の方法によりスパッタリングターゲットを得た。」

(ケ)「【0086】
上記結果を表1に示す。
【0087】
【表1】


【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】走査型分析電子顕微鏡で捉えたコバルト、クロム、セラミックスおよび白金を含有するCoCrPt系スパッタリングターゲットの表面において、セラミックス(SiO_(2))を黒色表示した画像である。
【図2】走査型分析電子顕微鏡で捉えたコバルト、クロム、セラミックスおよび白金を含有するCoCrPt系スパッタリングターゲットの表面において、高クロム含有粒子を白色表示した画像である。
【図3】図2における高クロム含有粒子を模式的に表したものである。」

(コ)「
【図1】



【図2】



【図3】



イ 甲1に記載された発明
a ターゲットの組成について
記載事項(ア)によれば、甲1には、Co、Cr、Pt及びセラミックスを含有するCoCrPt系スパッタリングターゲットに関する発明が記載されている。そして、同(キ)(ク)によれば、比較例1で製造されたターゲットは、Co_(64)Cr_(10)Pt_(16)(SiO_(2))_(10)の組成式を有し、セラミックスとしてはSiO_(2)が使用され、同(ケ)によれば、ターゲットのCr最大差し渡径は70μm、高クロム含有粒子のCr濃度は21.3原子%である。
そして、ターゲットの組成式から、合金中のCo、Cr、Ptのモル比は、71:11:18(64÷(64+10+16):10÷90:16÷90)となるので、甲1の比較例1には、Crが11mol%、Ptが18mol%、残余がCoである合金とセラミックスを含む焼結体からなるCoCrPt系スパッタリングターゲットが記載されている。

b ターゲットの組織について
甲1には、比較例1で製造されたターゲットのSEMによる組織写真は示されていないので、甲1に記載された比較例1の発明(以下、「甲1発明」という。)に係るターゲットの組織は具体的には明らかではない。このため、甲1発明に係るターゲットの組織を本件発明2に係る組織と直接比較することはできない。
しかし、次の理由により、甲1発明に係るターゲットの組織は、【図1】?【図3】で示される組織に近似したものと理解することが合理的である。
すなわち、甲1の記載事項(イ)によれば、甲1に記載された発明は、コバルト、クロム、セラミックスおよび白金を含有するCoCrPt系スパッタリングターゲットにおいて、該スパッタリングターゲット内に偏在する、クロム原子を高濃度で含有する高クロム含有粒子のサイズ及び発生量を低減することを解決すべき課題にするものであり、同(ウ)によれば、高クロム含有粒子は偏在する領域を形成し、この領域がクロムリッチ相である。そして、甲1においては、高クロム含有粒子が占める領域のうち最も長い径が高クロム含有粒子の「差し渡し径」であり、複数の高クロム含有粒子が有する差し渡し径のうち最大の値を「最大差し渡し径」と定義し(同(エ))、さらに、甲1に記載された発明では、高クロム含有粒子の最大差し渡し径を40μm以下に抑制することを解決手段とするものである(同(オ))。
ここで、【図1】?【図3】(同(コ))は、甲1に記載されたCoCrPt系スパッタリングターゲット表面のSEM画像及び模式図であるが(同(ウ))、その組織は、SiO_(2)が微細分散したマトリックス中に、微細な高クロム含有粒子が偏在した領域(クロムリッチ相)が形成されたものであることを確認できる。
そして、甲1発明(比較例1)は、実施例1とは、その製造工程においてCoCr合金粉末の粉砕を行うか否かのみが相違し(同(キ)(ク))、甲1に記載された発明の実施例と比較例をまとめた表1(同(ケ))によれば、比較例1ではCr最大差し渡し径が70μmであり、甲1に記載された発明が課題解決手段とする最大差し渡し径が40μm以下の数値範囲から逸脱するために比較例とされている。
したがって、甲1発明(比較例1)のターゲットの組織は、甲1に記載された発明の実施例の図1?3(同(コ))に示される組織に近似したものであって、SiO_(2)が微細分散したマトリックス中に、微細な高クロム含有粒子が偏在した領域が形成された組織であるということができる。

c 甲1発明
以上のとおりであるので、甲1発明は、次のものである。
「Crが11mol%、Ptが18mol%、残余がCoである合金とセラミックスを含むCoCrPt系スパッタリングターゲットであって、そのターゲット組織が、SiO_(2)が微細分散したマトリックス中に、微細な高クロム含有粒子が偏在した領域を有しているCoCrPt系スパッタリングターゲット。」

(2)甲2について
甲2は、請求人が甲1の比較例1を追試したと主張する実験成績報告書であり、該比較例1を再現したと請求人が主張するターゲット(以下、「甲2発明」という。)について、その組織、高クロム含有粒子の形状及びクロムの濃度分布等が記載されている。特に、第5頁には、EPMAで観察したSEM写真が図12として以下のとおり示され、「SiO_(2)粒子が微細分散したマトリックス合金相の中に、SiO_(2)粒子を含まない大きな球形の合金相が分布している」(第5頁5?7行)。また、甲2の7頁の表1等の記載からすれば、この球形の合金相はCo-Cr合金である。





6-3 対比と判断
(1)対比
甲1発明の「セラミックス」、「CoCrPt系スパッタリングターゲット」は、それぞれ、本件発明2の「非磁性材粒子」、「非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット」に相当することは明らかであり、甲1発明のターゲットを構成する合金の組成比は、本件発明2の合金の組成比の数値範囲に包含されるので、本件発明2と甲1発明とは、「Crが5mol%以上20mol%以下、Ptが5mol%以上30mol%以下、残余がCoである合金と非磁性材粒子との混合体からなる焼結体スパッタリングターゲットである、非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」である点で一致し、少なくとも、次の点で相違する。
本件発明2のターゲットの組織が、「合金の中に前記非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)と、前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有し」ているのに対し、甲1発明のターゲットの組織は、「SiO_(2)が微細分散したマトリックス中に、微細な高クロム含有粒子が偏在した領域を有している」点(以下、「相違点1」という)。

(2)判断
上記相違点1について検討する。
甲1発明のターゲットの組織は、SiO_(2)が微細分散したマトリックス中に、「微細な高クロム含有粒子が偏在した領域」が形成された組織であり、同(ケ)の段落【0088】によれば、高クロム含有粒子は【図2】の白色表示されたものであり、【図2】では微細な高クロム含有粒子が偏在して存在していることが確認でき、【図3】ではこの領域が模式的に示されているところ、【図3】を参照すれば、甲1発明における「微細な高クロム含有粒子が偏在した領域」の高クロム含有粒子は、球形をしているといえないことは明らかである。また、甲1には、甲1発明の「微細な高クロム含有粒子が偏在した領域」を球形に変更することについて、記載されていないばかりでなく、これを示唆する記載もない。
したがって、本件発明2は、他の相違点について検討するまでもなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

6-4 請求人の主張について
(1)甲1’発明について
ア 請求人の主張
請求人は、本件発明2、5?9、11?13に関する無効理由1の主張において、甲1発明の「高クロム含有粒子」の偏在により形成される記載事項(ウ)の「クロムリッチ相」が1つの巨大な粒子であり、本件発明2の「球形の合金相(B)」に相当するものであると主張する(口頭審理陳述要領書第21頁5?15行)。

イ 甲1’発明の認定
上記甲1発明では、ターゲット組織は、「微細な高クロム含有粒子が偏在した領域」を有しているとしたが、記載事項(ケ)の【0088】に記載された【図2】、【図3】に関する説明によれば、白色表示された高クロム含有粒子は微細な粒子が偏在したものではなく一つの高クロム含有粒子であると解することもできる。その場合には、甲1に記載された比較例1のターゲット組織は、SiO_(2)が微細分散したマトリックス中に、一つの高クロム含有粒子を有する組織となる。
そうすると、甲1に記載された発明を次のとおり認定することができる(以下、「甲1’発明」という。)。
「Crが11mol%、Ptが18mol%、残余がCoである合金とセラミックスを含むCoCrPt系スパッタリングターゲットであって、そのターゲット組織が、SiO_(2)が微細分散したマトリックス中に、一つの高クロム含有粒子を有するCoCrPt系スパッタリングターゲット。」

ウ 判断
ターゲット組織に関し、甲1発明と甲1’発明は、甲1発明では「微細な高クロム含有粒子が偏在した領域」を有するのに対し、甲1’発明では「一つの高クロム含有粒子」を有する点でのみ相違するものである。
したがって、本件発明2と甲1’発明とは、本件発明2と甲1発明との一致点と同一の点で一致し、少なくとも、次の点で相違する。
本件発明2のターゲットの組織が、「合金の中に前記非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)と、前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有し」ているのに対し、甲1’発明のターゲットは、その組織が、「SiO_(2)が微細分散したマトリックス中に、高クロム含有粒子を有している」点(以下、「相違点1’」という)。
そこで、相違点1’について判断するに、甲1の【図3】に示されるような高クロム含有粒子を、一つの高クロム含有粒子と理解したとしても、上記【図3】において、高クロム含有粒子が球形であるとすることはできないし、これを球形とすることが甲1に示唆されているとすることもできない。
したがって、本件発明2は、他の相違点について検討するまでもなく、甲1’発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることもできない。
よって、甲1’発明に関する請求人の主張を採用することはできない。

(2)甲2について
ア 請求人の主張
請求人は、甲1の比較例1を追試したと主張する実験成績報告書(甲2)を提出し、甲2の記載を参酌して甲1発明を理解すべきであり、甲2に示されるターゲットは本件発明2と実質的な差異はないので、本件発明2は甲1発明及び甲2発明に基いて当業者が容易に想到し得たものであると主張する(口頭審理陳述要領書12、13頁)。

イ 判断
甲2発明のターゲットの組織は、甲2の図12を参照すると、Co-Cr合金からなる球形の合金相が観察され、差し渡し径を甲1の定義(記載事項(エ))にそって測定すると概ね100μm以上となっており、甲1発明(比較例1)において観察されるはずの70μmよりかなり大きな値となっている。また、甲2発明のターゲットの組織には、甲2の図12?15をみても、甲1発明において観察されるはずの、最大差し渡し径が70μmである微細な高クロム含有粒子が偏在した領域は、その存在を確認できない。
これらの点から、甲1の記載から想定される甲1発明のターゲットの組織と、甲2発明のターゲットの組織は全く相違するものであるので、甲2発明は、甲1に比較例1として実質的に記載された発明とすることもできない。
したがって、甲2の記載を参酌して甲1発明を理解すべきであるという請求人の主張は、採用することができない。

(3)弁駁書(平成27年9月14日提出)における主張
ア 請求人の主張
請求人は、弁駁書の第2、1.(1)ア(第8?9頁)において、一次審決の予告で示された上記判断に対し、概ね次の2点を主張する。
a.審判官合議体は、甲1実施例の写真である【図1】?【図3】と本件発明2との判断手法を採っている点で適切ではなく、甲1比較例1と本件発明2とを対比して進歩性を判断すべきであった。
b.審判官合議体は、甲2の図12に観察される粒子の差渡し径が70μmを超えているという一事をもって、甲2に基づく請求人の主張を排斥しているが、甲1においては、0.6×0.5mm^(2)視野内での観察結果に過ぎないので、甲1比較例1のターゲットに大きな差渡し径の粒子が含まれていたとしても不自然ではないことを考慮すべきである。

イ 判断
まず、主張aについて検討する。
甲1には、比較例1で製造したターゲット組織を示す図面は示されていないので、請求人が主張するような甲1比較例と本件発明2のターゲット組織を直接対比することはできない。そこで、上記第6、6-3、(2)で述べたとおり、甲1比較例1のターゲットの組織を、実施例のターゲット組織の示す【図1】?【図3】に近似したものと合理的に認定したものである。
したがって、請求人の主張aは失当である。
次に、主張bについて検討する。
甲1比較例1のターゲット組織は、甲1の【図1】?【図3】に示される組織に近似したものであるので、微細な高クロム含有粒子が偏在した領域が存在しなければならない。しかし、甲2では、SiO_(2)粒子が微細分散したマトリックス合金相中の球形の合金相1?5(第5頁3?7行、図12)について、Co、Cr等の濃度分布の分析(第6?7頁、図13、14、表1)、長軸と短軸の測定(第7頁、表2)が行われているものの、微細な高クロム含有粒子が偏在した領域について観察されていない。
このため、甲2発明のターゲット組織は甲1発明のターゲット組織とは全く相違するものと解釈するほかなく、この解釈は、甲2発明のターゲット組織には、最大差渡し径が70μmである微細な高クロム含有粒子が偏在した領域の確認ができないこと以前のものであり、これしか挙げなかったことをもって、上記解釈が否定されることにはならないといえるので、請求人の主張bも失当である。
したがって、無効理由1に関する請求人の弁駁書の主張a、bは、いずれも採用することができない。

6-5 無効理由1のまとめ
したがって、本件発明2は、他の相違点を検討するまでもなく、甲1発明あるいは甲1’発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。
また、本件発明5?9、11?13についても、上記相違点1に係る特定事項を有するので、上記と同様の理由により、甲1発明あるいは甲1’発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。
よって、無効理由1には理由がない。

第7 無効理由2について
7-1 はじめに
請求人が審判請求時に主張する無効理由2は、上記第4、4-1、(2)で示した「特許請求の範囲の請求項2、4?8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内において頒布された甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当するので、無効とされるべきものである。」というものである。
ここで、無効理由2の対象となる発明は、「第6 無効理由1について」と同じく、本件発明2、及び特許設定登録時の請求項2に係る発明に関連する本件発明5?9、11?13となるので、上記「特許請求の範囲の請求項2、4?8に係る発明」を、以下、「本件発明2、5?9、11?13」に置き換えて検討することとする。

7-2 刊行物に記載された発明
(1)甲3について
甲3には、次の事項が記載されている。
ア 甲3の記載事項
(サ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタターゲット及びその製造方法に関し、特に、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ルテニウム(Ru)、ニッケル(Ni)又は鉄(Fe)から成る第1の物質と、炭素(C)、炭素(C)含有物質、炭化物、窒素(N)含有物質、窒化物、珪素(Si)、珪素(Si)含有物質、珪化物、酸素(O)含有物質、酸化物、ホウ素(B)、ホウ素(B)含有物質又はホウ化物から成る第2の物質とを、少なくとも含有する複数の物質から成るスパッタターゲットに関し、更に、前記スパッタターゲットの製造方法及び前記スパッタターゲットよって製造される製造物に関する。」

(シ)「【0042】
図2は、1つの態様として、Co-Cr-Pt-Siスパッタターゲットの代表的なミクロ組織を示したものである。前記スパッタターゲットは、100メッシュのコバルト(Co)粉末を29.53wt.%、100メッシュのCo-24.22Cr粉末を27.73wt.%、0ミクロンより大きいながら5ミクロンより小さいSiO_(2)粉末を6.13wt.%及び白金(Pt)粉末を36.61wt.%用いて製造される。製造したスパッタターゲットは、例えば、第1の物質、第2の物質及び第3の物質を含む。前記第1の物質は、Co(例えばCo-Cr母合金又はCo)から成る。前記第2の物質は、酸化物から成り、さらに具体的には、この例ではSiO_(2)から成る。前記第3の物質は、白金(Pt)から成る。前記第1の物質は第1の相を構成し、前記第2の物質は第2の相を構成し、そして、前記第3の物質は第3の相を構成する。前記第2の物質の第2の相は、50ミクロン以下の平均サイズを有する。
【0043】
前記スパッタターゲットは、図2において、色の暗い部分で示されたCo相、Co-Cr母合金相及びSiO_(2)化合物相、並びに色の明るい部分で示されたPt相を含む。この例では、SiO_(2)化合物相は、10ミクロン以下(例えば、5ミクロン以下)の平均サイズを有する。」

(ス)「【図面の簡単な説明】
【0058】
・・・。
【図2】本発明の一態様による圧密化された(Co_(74)Cr_(10)Pt_(16))_(92)-(SiO_(2))_(8)合金の典型的なミクロ組織を示す図である。」

(セ)「 【図2】






(2)甲3に記載された発明
記載事項(サ)によれば、甲3には、コバルト(Co)等の第1の物質と炭素(C)や酸化物等の第2の物質を少なくとも有するスパッタターゲットに関する発明が記載されており、その1つの態様として、同(シ)には、【図2】に示されるCo-Cr-Pt-Siスパッタターゲットが記載されている。該ターゲットの組成は、同(ス)によれば、(Co_(74)Cr_(10)Pt_(16))_(92)-(SiO_(2))_(8)合金であるので、金属成分の割合は、Crが10mol%、Ptが16mol%、残余がCoである。また、そのミクロ構造は、同(シ)によれば、Co-Cr母合金相、Co相、SiO_(2)化合物相及びPt相からなる。この4相からなることは、同(セ)の【図2】からも確認することができる。
したがって、甲3には次の発明が記載されている(以下、「甲3発明」という。)。
「Crが10mol%、Ptが16mol%、残余がCoである合金と、SiO_(2)の混合体からなる焼結体スパッタターゲットであって、このターゲットの組織が、Co-Cr母合金相、SiO_(2)化合物相、Co相及びPt相からなるCo-Cr-Pt-Siスパッタターゲット。」

(3)甲4について
甲4には、発明の名称を「比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲット」とする発明が記載されている。

7-3 対比と判断
(1)対比
甲3発明のCr、Pt及びCoの組成割合は、本件発明2のそれぞれの組成割合に包含される。また、甲3発明の「SiO_(2)化合物相」及び「Co-Cr-Pt-Siスパッタターゲット」が、本件発明2の「非磁性材粒子」及び「非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット」に相当することは明らかである。このため、本件発明2と甲3発明とは、「Crが5mol%以上20mol%以下、Ptが5mol%以上30mol%以下、残余がCoである合金と非磁性材粒子との混合体からなる焼結体スパッタリングターゲットである、非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。」である点で一致し、少なくとも、次の点で相違する。
本件発明2のターゲットの組織が、「合金の中に前記非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)と、前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有し」ているのに対し、甲3発明のターゲットの組織は、Co-Cr母合金相、SiO_(2)化合物相、Co相及びPt相からなり、本件発明2の上記相(A)及び合金相(B)に対応する相を有するか明らかではない点(以下、「相違点2」という。)

(2)判断
上記相違点2について検討する。
本件発明2のターゲットは、相(A)と球形の合金相(B)の2相からなり、甲3発明のものは、Co-Cr母合金相、SiO_(2)化合物相、Co相及びPt相の4相からなる。そして、甲3発明の「Co-Cr母合金相」は、請求人の主張によれば直径50μm以上の球形であるので(口頭審理陳述要領書第35?36頁の項目3.)、仮に、本件発明2の「球形の合金相(B)」に対応するとして、甲3発明のSiO_(2)化合物相、Co相及びPt相からなる「Co-Cr合金相以外の領域」が、本件発明2の「相(A)」に対応するかを検討する。
甲3発明のターゲットの組織で「Co-Cr母合金相以外の領域」は、SiO_(2)化合物相、Co相及びPt相からなる。しかし、相とは、一般に化学組成及び原子の集合状態が同じになっていて、境界面によって周りと区分された領域のことである(この点について必要なら、(1)小林俊郎、梶野利彦、新家光雄訳、ホルンボーゲン 材料、1989年2月20日、共立出版株式会社、第59頁、あるいは(2)化学大辞典5、1997年9月20日、共立出版株式会社、第487頁の「そう 相」の項目を参照。)。そして、本件発明2の相(A)は、合金の中に非磁性材粒子が均一に微細分散しているので、化学組成及び原子の集合状態が同じになっていて、境界面によって周りと区分された領域であるといえ、このため、上記した一般の「相」の定義に合致する「相」であるといえる。そうすると、甲3発明のCo相とPt相からなる領域も、それぞれが相であり、均一な合金相であるとすることはできない。
また、甲3発明のターゲットは、使用した第1?第3の物質である原料粉末に由来する第1?第3の相から構成されるので、SiO_(2)化合物相は、個々のCo相とPt相の界面やCo相中に分散することになる。このことは、【図2】(同(セ))をみても確認することができる。このため、SiO_(2)化合物相は、Co相とPt相からなる領域に均一に分散しているとはいえない。
そして、仮に、甲3発明のターゲットにCo-Pt合金相が存在するとしても、Co-Cr母合金相は、Co相とPt相の界面に存在することが考えられ、当該Co-Pt合金相中にCr-Co母合金相が存在することにはならない。
したがって、甲3発明におけるCo-Cr母合金相以外の領域は、「合金の中に非磁性材粒子が均一に微細分散した相」であるといえないので、甲3発明のターゲットは、本件発明2の相(A)に相当する相を有しない。また、甲3発明のターゲットにおけるCo-Cr母合金相以外の領域を、合金の中に非磁性材粒子が均一に微細分散した相とすることについて、甲3には記載されていないし、これを示唆する記載もない。また、甲4には、スパッタリングターゲットの組織を、合金の中に非磁性材粒子が均一に微細分散した相と、該相の中に球形の合金相を有する組織とすることは記載されていないし、これを示唆する記載もない。

7-4 請求人の主張について
(1)請求人は、甲3の【図2】全体における配置をみれば、SiO_(2)粒子がCo-Cr母合金相以外の部分に均一に微細分散していると評価できるし、Co相とPt相は、それぞれCoリッチな領域とPtリッチな領域を保って存在しているが、CoとPtを含む合金の一部であることは明らかであると主張する(口頭審理陳述要領書第33頁下から6行?同第34頁12行)。
しかし、甲3発明のターゲット組織におけるCo相とPt相は均一な合金相を形成していないことは、上記したとおりである。そして、該均一な合金相が存在しない以上、非磁性材粒子が微細分散した合金相も存在しない。
したがって、請求人の上記主張は、採用することができない。

(2)弁駁書(平成27年9月14日提出)における主張
ア 請求人の主張
請求人は、弁駁書の第10、11頁において、一次審決の予告で示された上記判断に対し、概ね、次の2つの点を主張する。
a.審判官合議体は甲3のCo相とPt相は均一な合金相と評価できないとするが、本件発明2の効果に影響を与えるか否かという観点から見れば、全体としてCo-Pt合金中にSiO_(2)粒子が均一に分散した相と評価できる。
b.本願の【図4】及び【図7】は、実施例2及び3のターゲット面のSEM観察画像であるが、相(A)中に直径が50μm未満の小さな球形がみられ、一次審決の予告が認定する相の定義によれば、相(A)は「合金中に非磁性材粒子が均一に微細分散した相」とはいえない。

イ 判断
まず、主張aについて検討する。
本件明細書中には、相(A)について、合金中に非磁性材粒子が均一に微細分散した相としての説明があるのみで、請求人が主張するような「本件発明2の効果に影響を与えるか否かという観点」からの均一性については記載も示唆もない。また、技術常識を考慮しても、甲3の相(A)(Co-Cr合金相以外の領域)が、本件発明2の効果に影響を与えるか否かという観点から見て全体としてCo-Pt合金中にSiO_(2)粒子が均一に分散した相とすることはできない。
したがって、請求人の主張に根拠はないというべきである。
次に、主張bについて検討するに、たしかに、本願の【図4】及び【図7】には、相(A)に相当する相に小さな球形がいくつか存在する。しかし、これらの小さな球形が存在するとしても、この相(A)は、合金中に非磁性材粒子が微細分散した相と評価することができ、この点で、甲3の【図2】に示されるターゲット組織とは異なることは明らかである。
したがって、請求人の弁駁書の主張は、採用することができない。

7-5 無効理由2のまとめ
したがって、本件発明2は、他の相違点を検討するまでもなく、甲3発明及び甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。
また、本件発明5?9、11?13についても、上記相違点2に係る特定事項を有するので、上記と同様の理由により、甲3発明及び甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。
よって、無効理由2には理由がない。

第8 無効理由3(サポート要件)について
8-1 請求人が審判請求時において主張するサポート要件違反について
請求人は、特許請求の範囲の請求項1?8の記載がサポート要件に適合していない理由として、次の4つを挙げている(口頭審理陳述要領書第36?40頁、第1回口頭審理調書の請求人の陳述の要領7)。
(i)球形の合金相(B)の組成及び濃度勾配が特定されていない、すなわち、球形の合金相(B)は、Co-Cr合金であって、中心付近にCrが25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成であることが特定されていない。
(ii)球形の合金相(B)の粒径が特定されていないこと。
(iii)球形の合金相(B)が相(A)に包囲されていること。
(iv)特許請求の範囲の請求項6に係る発明における非磁性材料が、具体的に効果が確認できないものを含むこと。
ここで、訂正請求(適否)からして、上記「特許請求の範囲の請求項1?8」及び「特許請求の範囲の請求項6に係る発明」を、「特許請求の範囲の請求項1?13」及び「本件発明6、12」に置き換えた上で、以下、次の規範にそって検討することとする。
発明の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断する。

8-2 発明が解決しようとする課題
本件明細書の「本発明は上記問題を鑑みて、漏洩磁束を向上させて、マグネトロンスパッタ装置で安定した放電が得られ、かつ、高密度でスパッタ時に発生するパーティクルの少ない非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットを提供することを課題とする。」(【0018】)との記載からして、本件発明は、「漏洩磁束を向上させて、マグネトロンスパッタ装置で安定した放電が得られ、かつ、高密度でスパッタ時に発生するパーティクルの少ない非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットを提供する」ことを発明が解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)にするものであると認める。

8-3 無効理由3の(ii)ないし(iv)について
上記(ii)の球形の合金相(B)の粒径については、本件明細書の「また、球形の合金相(B)の直径は50?200μmの範囲にあるのが好ましい。ターゲット全体の中で球形の合金相(B)の占める体積比率には上限があるので、上記数値範囲より大きい場合には、漏洩磁束の向上に寄与する球形の合金相(B)の個数が減少してしまい、漏洩磁束の向上が少なくなる。
また、上記数値範囲より小さい場合には、十分な焼結温度で高密度のターゲットを得ようとすると、金属元素同士の拡散が進み、Crの濃度分布をもつ球形の合金相(B)が形成され難くなる。従って、本発明においては、上記数値範囲内の直径を有する球形の合金相(B)が生ずるようにするのが望ましいと言える。」(【0019】)によれば、直径が50?200μmの範囲外にあると、漏洩磁束の向上が少なくなったり、Crの濃度分布をもつ球形の合金相(B)が形成され難くなるからであるとされている。このため、球形の合金相(B)の粒径には、本件発明の効果を達成する上で好ましい範囲があるものの、当該数値範囲の上限と下限に臨界的意義があるといえないので、本件発明の課題を解決する上で必須の事項であるとは認められない。
次に、(iii)の球形の合金相(B)が相(A)に包囲されている点については、同「このように、合金相(B)が球形であると、焼結時に相(A)と相(B)の境界面に空孔が生じにくく、密度が上がり易い。また、同一体積では、球形の方が表面積が小さくなるので、周囲の金属粉(Co粉、Pt粉など)との拡散が進みにくく、組成不均一な相(B)、すなわち中心付近にCrが25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相が容易に形成されるようになる。」(【0018】)からして、球形の合金相(B)の組成を上記したとおりに限定した場合には、そのような組成は、相(A)と球形の合金相(B)との界面の相互拡散で生じたものであるので、実質的に球形の合金相(B)は相(A)に包囲されて存在していることを規定したことになる。このため、この点について本件発明の特定事項とする必要があるとはいえない。
最後に(iv)の非磁性材料の特定に関しては、本件明細書の実施例において非磁性材料としてSiO_(2)やTiO_(2)を使用した場合に本件発明の作用効果が達成されることが記載されているので、非磁性材料粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットにおいて通常使用される他の非磁性材料においても、同等の作用効果を達成できると解することができる。
したがって、これら(ii)?(iv)の点に関しては、サポート要件に違反するものではない。

8-4 無効理由3の(i)について
(1)はじめに
「球形の合金相(B)がCo濃度の高い領域と低い領域及びCr濃度の高い領域と低い領域をそれぞれ有している」ことをもって、本件発明の課題が解決されるのか否か、「球形の合金相(B)が中心付近にCrが約25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成を有している」ことをもって、本件発明の課題が解決されるのか否かについて、以下、検討する。

(2)発明の詳細な説明に記載された発明の課題解決手段について
ア 本件明細書の【0018】の記載
本件明細書の【0018】には、「組成不均一な相(B)、すなわち中心付近にCrが25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相」との記載がある。
そして、本件発明1は、少なくとも、非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)の中に、全体との体積比率で4%以上40%以下の球形の合金相(B)を有するようにターゲットの組織構造を調整したものであるところ、【0018】には、かかる合金相(B)の「球形」という文言の定義付けと、本件発明の技術的事項である合金相(B)が球形でなければならないことの理由付けがされている。その上で、「合金相(B)が球形であると…組成不均一な相(B)、すなわち中心付近にCrが25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相が容易に形成されるようになる」と記載されている。
したがって、本件発明の構成要件である合金相(B)が球形であることは、「中心付近にCrが25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相」を形成するために求められているものと理解できる。

イ 本件明細書の発明を実施するための形態に関する記載
本件明細書の発明を実施するための形態のうち【0027】には、球形の合金相(B)の原料粉末となるCo-Cr球形粉末のCr含有量について、「Co-Cr球形粉末は、ターゲットの組織において観察される球形の合金相(B)に対応するものである。Co-Cr球形粉末の組成はCrの含有量が25mol%以上70mol%以下とすることが望ましい。Co-Cr球形粉末の組成を上記範囲に限定する理由は、Crの含有量が上記範囲より少ないと、球形の合金相(B)中にCrが濃縮された領域が形成されにくくなり、漏洩磁束の向上が期待できない」と記載されている。
そして、原料粉末を焼結すると金属元素同士の拡散が進むところ、上記記載は、焼結によって、球形の合金相(B)中にCrが濃縮された領域を形成させるために、原料粉末となるCo-Cr球形粉末のCrの含有量が25mol%以上であることが望ましいとするものである。そして、球形の合金相(B)中にCrが濃縮された領域を形成させることを前提に、ターゲット全体としてCrの含有量が5mol%以上20mol%以下の合金の中で、Crの含有量を25mol%以上とする球形の合金相(B)を焼結させるのであるから、結果として、中心付近にCrが約25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相が形成されることが想定されるものである。
このように、結果として、中心付近にCrが約25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相が形成されることを想定して、本件明細書の発明を実施するための形態には、原料粉末となるCo-Cr球形粉末のCrの含有量が25mol%以上であることが望ましいと記載されているということができる。

ウ 本件明細書の実施例の記載
焼結後の球形の合金相(B)中のCrの濃度分布について、本件明細書の実施例1?9に、どのような記載があるかについて検討する。
(ア)[実施例1?3]
本件明細書の実施例1?3には、球形の合金相(B)中のCrの濃度分布について、「球形の合金相では、Crが25mol%以上濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し、外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっていることが確認された。」と記載されている(【0035】、【0043】、【0051】)。

(イ)[実施例4?6、8及び9]
本件明細書の実施例4?6、8及び9には、球形の合金相(B)中のCrの濃度分布について、「球形の合金相の部分においてCoとCrの濃度が高くなっており、特にCrは周辺部から中心部に向かって、より濃度が高くなっていることが確認された。」と記載されている(【0059】、【0067】、【0075】、【0091】、【0099】)。
そして、これらの実施例4?6、8及び9においては、球形の合金相の中心付近のCr濃度は明記されていないものの、実施例2と比較すれば、これらの実施例における球形の合金相中のCrの濃度分布は、「Crが25mol%以上濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し、外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっている」ものと合理的に推定される。
すなわち、実施例2では、球形の合金相(B)の原料粉末として、「直径が50?150μmの範囲にありCrを40mol%含有するCo-Cr球形粉末」(【0037】)を用い、「真空雰囲気中、温度1150℃、保持時間2時間、加圧力30MPaの条件」(【0040】)の焼結条件でターゲットを作製している。これに対し、実施例4?6、8及び9における球形の合金相の原料粉末は、いずれも「直径が75?150μmの範囲にありCrを40mol%含有するCo-Cr球形粉末」(【0053】、【0061】、【0069】、【0085】、【0093】)であって、Crの濃度(40mol%)は同一で、直径の下限値(75μm)は実施例2の直径の下限値(50μm)を上回っており、焼結温度(【0054】、【0062】、【0070】、【0086】、【0094】)は、いずれの実施例においても、実施例2の焼結温度(1150℃)を下回り、その他の焼結条件(焼結時間、加圧力)は同一である。そして、Co-Cr球形粉末の直径が大きい程、体積に対する表面積の割合が小さくなることから、焼結時におけるCrの拡散は起こりにくく、また、焼結時の温度が低い程、焼結時におけるCrの拡散は起こりにくいものである。そうすると、実施例4?6、8及び9における球形の合金相(B)は、実施例2の球形の合金相(B)よりもCrの拡散が起こりにくいといえる。そして、実施例2では、「Crが25mol%以上濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し、外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっている」という球形の合金相(B)を作製するに至っていることからすれば、実施例4?6、8及び9の球形の合金相(B)中のCrの濃度分布もまた、「Crが25mol%以上濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し、外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっている」ものと推定できる。

(ウ)[実施例7]
本件明細書の実施例7には、球形の合金相(B)中のCrの濃度分布について、「球形の合金相の部分においてCoとCrの濃度が高くなっており、特にCrは周辺部から中心部に向かって、より濃度が高くなっていることが確認された。」と記載されている(【0083】)。
実施例7においては、球形の合金相の中心付近のCr濃度は明記されていない。もっとも、実施例2と比較した場合、実施例7における球形の合金相の原料粉末は、「直径が75?150μmの範囲にありCrを40mol%含有するCo-Cr球形粉末」(【0077】)であって、実施例2のCrの濃度(40mol%)と同一で、直径の下限値(75μm)は実施例2の直径の下限値(50μm)を上回っており、焼結条件のうち焼結時間、加圧力は同一である。一方、焼結温度(1300℃、【0078】)は、実施例2の焼結温度(1150℃)を上回る。そうすると、実施例7は、原料粉末の直径の下限値が大きい点では、実施例2よりもCrの拡散が起こりにくいといえる一方、焼結温度の点では、実施例2よりもCrの拡散が起こりやすいといえる。したがって、実施例7の球形の合金相(B)の濃度分布は、実施例2と同様に「Crが25mol%以上濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し、外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっている」とまではいえないものの、中心部のCrの濃度が25mol%を下回るか否かは明らかではなく、少なくとも、それに近い程度に濃縮されたものというべきである。

(エ)したがって、本件明細書には実施例1?9の記載があるところ、その球形の合金相(B)中のCrの濃度分布について、実施例1?6、8、9には、いずれも「Crが25mol%以上濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し、外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっている」ものが記載されており、実施例7についても、中心部のCrの濃度は不明であるもののCrが「濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し、外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっている」ものが記載されている。

エ 球形の合金相(B)について濃度変動の程度が小さい場合
他方、Crの濃度変動の程度が小さい球形の合金相(B)であっても、漏洩磁束の向上という本件発明の課題を解決できるか否かは明らかではない。
例えば、Cr濃度について周囲から中心部に向かって低くなる濃度分布となるような球形の合金相(B)の場合を検討するに、かかる濃度分布とするためには、球形の合金相(B)について周囲から内部に向かってCrを拡散させる必要があるから、その製法は、球形の合金相(B)の原料粉末となる球形粉にはCrを含有させず、相(A)となる原料粉末中にCr粉末を含有させて混合粉を準備し、これを焼結することで、相(A)から、球形の合金相(B)にCrを拡散させることになる。しかし、相(A)のターゲット中に占める体積の比率は60?96%と、球形の合金相(B)に比べて大きいから、焼結前の相(A)中のCr濃度は比較的低いものとならざるを得ず、結果として、焼結によって金属元素同士の拡散が生じたとしても、球形の合金相(B)に生じるCrの濃度変動の程度は大きなものにはならず、そのような濃度分布によって漏洩磁束の向上を見込めるか否かについては不明である。このように、球形の合金相(B)の具体的組成の典型例として想定されるCr濃度が周囲から中心部に向かって低くなる濃度分布の場合に、本件発明の課題を解決できるか否かは明らかではない。
また、その他、球形の合金相(B)において、単にCrの濃度変動があることのみで、漏洩磁束の向上に至ったことを示す具体例もない。
このように、本件明細書の全ての記載を考慮しても、球形の合金相(B)について、Crの濃度変動の程度が小さい場合に、漏洩磁束の向上という本件発明の課題を解決できるか否かは明らかではない。

オ まとめ
以上のとおり、発明の詳細な説明に記載された発明の課題解決手段を勘案したとしても、「球形の合金相(B)がCo濃度の高い領域と低い領域及びCr濃度の高い領域と低い領域をそれぞれ有している」ことをもって、本件発明の課題が解決されるとは言い難く、上記課題解決手段からみて、「球形の合金相(B)が中心付近にCrが約25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成を有している」ことをもって、本件発明の課題が解決されるとみるのが妥当である。

(3)第1のメカニズム及び第2のメカニズムについて
ア 本件明細書の【0016】及び【0017】の記載
球形の合金相(B)内において濃度変動が存在し、球形の合金相(B)と相(A)との組成が異なる場合、第1のメカニズムに関する記載(【0016】)及び第2のメカニズムに関する記載(【0017】)により、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとみることもでき得る。
確かに、本件明細書の【0016】及び【0017】に記載された第1及び第2のメカニズムによれば、定性的には、球形の合金相(B)中にCrの濃度が低い領域と高い領域の存在により生じた濃度変動があれば(第1のメカニズム)、あるいは、球形の合金相(B)中に析出物としてCrが存在すれば(第2のメカニズム)、ターゲットの透磁率は低くなると解することは可能である。
しかし、第1のメカニズムについては、ターゲットの透磁率を低くするために必要な格子歪みを発生させるためには、Crの濃度について「濃度変動の大きな場所」の存在が必要とされており、単にCrの濃度変動があれば足りると解することまではできない。そして、【0016】の記載からでは、定量的に、第1のメカニズムに関し、どの程度のCrの濃度変動を有する場所が、ターゲットの透磁率を低くするために必要な程度の「格子歪み」を発生させる「濃度変動の大きな場所」に該当するのかについて明らかではない。
また、第2のメカニズムについても「Cr濃度の高い領域」が必要とされており、Cr濃度が一定程度以上であることが求められている。しかしながら、【0017】の記載からでは、単に析出物としてCrがあれば足りると解することまではできず、定量的に、どの程度のCr濃度であれば「Cr濃度の高い領域」に該当するのかについて明らかではない。
そうすると、球形の合金相(B)の存在により、第1のメカニズム及び第2のメカニズムによってターゲットの透磁率が低くなるとしても、当業者は、球形の合金相(B)が存在するだけで、漏洩磁束が高められると認識するまでは至らないから、Crの濃度変動があるだけで、その濃度変動の程度が何ら特定されていない球形の合金相(B)を含むターゲットは、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものということはできない。

イ 本件明細書の【0015】の記載
本件明細書の【0015】には、「ターゲット組織に含まれる球形の合金相(B)が、中心付近にCrが25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相を形成していることが有効である。本願発明は、このようなターゲットを提供する。すなわち、このようなターゲットでは、球形の合金相(B)は、中心部と外周部にかけて顕著な不均一性を有している。…球形の合金相(B)におけるCr濃度の分布状態は、焼結温度や原料粉の性状によって変化するが、上記の通り、球形の合金相(B)の存在は、本願発明ターゲットの独特の組織構造を示すものであり、本願ターゲットの漏洩磁束を高める大きな要因となっている。」と記載されているところ、「球形の合金相(B)の存在」それ自体が「本願ターゲットの独特の組織構造を示す」とあるから、当業者は、上記記載の球形の合金相(B)の具体的な組成のみを前提に、漏洩磁束が向上すると限定して理解することはないとみることもでき得る。
しかし、【0015】には、「球形の合金相(B)におけるCr濃度の分布状態は、焼結温度や原料粉の性状によって変化するが、上記の通り、球形の合金相(B)の存在は、本願発明ターゲットの独特の組織構造を示すもの」とされ、「上記の通り、球形の合金相(B)の存在は」との文言は、「中心付近にCrが25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相を形成していることが有効である」とされる球形の合金相(B)の存在を受けたものである。そして、「球形の合金相(B)におけるCr濃度の分布状態は、焼結温度や原料粉の性状によって変化するが」との文言は、あくまでも「中心付近にCrが25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成」の範囲内で、Cr濃度の分布状態が変化するという趣旨のものと解するのが自然である。
したがって、【0015】の記載をもって、「球形の合金相(B)の存在」それ自体が「本願ターゲットの独特の組織構造を示す」と解釈するのは相当ではないというべきである。

ウ 本件発明の課題との関係
本件発明は、漏洩磁束を大きくすることを解決すべき技術的課題として、従来技術とは異なる新たな観点に基づき、ターゲット中に球形の合金相(B)を存在させるという新規な組織構造を採用することによって漏洩磁束を向上させるというものであるから、CoとCrの濃度範囲について、必ずしも実施例で具体的な測定結果をもって裏付けられる必要はなく、また、本件明細書の実施例に記載された具体的な測定結果は、より効率的に漏洩磁束を高める観点から望ましいものとして記載されたものにすぎないということもでき得る。
確かに、本件発明は、非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)の中に、球形の合金相(B)を有するようにしたという技術的事項を含むものであって、マグネトロンスパッタ装置でスパッタを行う非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットの分野において、このような組織構造を有する従来技術が存在したと認めるに足りる証拠はない。
しかし、前記アのとおり、定性的には、球形の合金相(B)中にCrの濃度が低い領域と高い領域の存在により生じた濃度変動があれば、あるいは、球形の合金相(B)中に析出物としてCrが存在すれば、ターゲットの透磁率は低くなると解することは可能であるものの、球形の合金相(B)が存在するだけで、漏洩磁束をどの程度高められるかについては明らかではなく、必要とする程度に漏洩磁束を高めるには、球形の合金相(B)のCrの濃度変動の程度をも考慮せざるを得ないというべきである。
よって、このような濃度変動の程度を斟酌しない観点は、技術的合理性を欠くものである。

エ 本件明細書の【0018】の記載
本件明細書の【0018】には、「ここで、本願発明において使用する球形とは…いずれも、長軸と短軸の差が0?50%であるものを言う。…この範囲であれば、外周部に多少の凹凸があっても、組成不均一な相(B)を形成することができる。…同一体積では、球形の方が表面積が小さくなるので、周囲の金属粉(Co粉、Pt粉など)との拡散が進みにくく、組成不均一な相(B)、すなわち中心付近にCrが25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相が容易に形成されるようになる」と記載されており、「組成不均一な相(B)」として、「すなわち中心付近にCrが25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相」と説明されている。
したがって、当業者は、本件発明の課題を解決するに当たり、「組成不均一な相(B)」との記載をもって、球形の合金相(B)中においてCrの濃度変動等があれば十分であると認識するとはいえない。

オ 本件明細書の【0035】の記載
本件明細書の【0035】には、「図2に示すように…球形の合金相の部分においてCoとCrの濃度が高くなっており、特にCrは周辺部から中心部に向かって、より濃度が高く(白っぽく)なっている。…球形の合金相では、Crが25mol%以上濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し、外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっていることが確認された。」と記載されており、球形の合金相(B)の部分において「CoとCrの濃度が高くなっている」とされた後に「球形の合金相では、Crが25mol%以上濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し、外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっていることが確認された」と説明されている。
したがって、当業者は、本件発明の課題を解決するに当たり、「球形の合金相の部分においてCoとCrの濃度が高くなっており」との記載をもって、球形の合金相(B)中においてCrの濃度変動等があれば十分であると認識するとはいえない。

カ 本件明細書の【0019】の記載
本件明細書の【0019】には、「球形の合金相(B)の直径は50?200μmの範囲にあるのが好ましい。…上記数値範囲より小さい場合には、十分な焼結温度で高密度のターゲットを得ようとすると、金属元素同士の拡散が進み、Crの濃度分布をもつ球形の合金相(B)が形成され難くなる。」と記載されているところ、「Crの濃度分布をもつ球形の合金相(B)」との記載があることから、球形の合金相(B)中の濃度分布が任意である旨記載されているみることもでき得る。
しかし、本件明細書の【0018】には「ここで、本願発明において使用する球形とは、真球、擬似真球、扁球(回転楕円体)、擬似扁球を含む立体形状を表す。」と記載された上で、【0019】には「また、球形の合金相(B)の直径は50?200μmの範囲にあるのが好ましい。」と記載されているのであるから、【0019】は、【0018】で指摘された球形の合金相(B)の大きさに関する記載であることは明らかである。そして、【0018】では球形の合金相(B)について「中心付近にCrが25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相」と記載されているのであるから、【0019】の「Crの濃度分布をもつ球形の合金相(B)」とは、【0018】に記載された球形の合金相(B)の具体的組成を前提とするものといえる。
したがって、当業者は、本件発明の課題を解決するに当たり、「Crの濃度分布をもつ球形の合金相(B)」との記載があることをもって、球形の合金相(B)中においてCrの濃度変動等があれば十分であると認識するとはいえない。

キ まとめ
以上のとおり、第1のメカニズム及び第2のメカニズムを勘案したとしても、「球形の合金相(B)がCo濃度の高い領域と低い領域及びCr濃度の高い領域と低い領域をそれぞれ有している」ことをもって、本件発明の課題が解決されるとは言い難く、上記メカニズムからみて、「球形の合金相(B)が中心付近にCrが約25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成を有している」ことをもって、本件発明の課題が解決されるとみるのが妥当である。

(4)小括(無効理由(i)について)
上記「(2)発明の詳細な説明に記載された発明の課題解決手段」及び「
(3)第1のメカニズム及び第2のメカニズムについて」で示したように、球形の合金相(B)がCo濃度の高い領域と低い領域及びCr濃度の高い領域と低い領域をそれぞれ有している」ことをもって、本件発明の課題が解決されるとは言い難く、「球形の合金相(B)が中心付近にCrが約25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成を有している」ことをもって、本件発明の課題が解決されるとみるのが妥当であることからして、「(i)球形の合金相(B)の組成及び濃度勾配が特定されていない、すなわち、球形の合金相(B)は、Co-Cr合金であって、中心付近にCrが25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成であることが特定されていない」本件発明1?3、5?8は、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものということはできない。
一方、本件発明4、9?13は、「中心付近にCrが25mol%以上濃縮し、外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成」を有する球形の合金相(B)である点を特定するものであることからして、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。

8-5 無効理由3のまとめ
よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項4、9?13の記載は、サポート要件を満たすものであり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?3、5?8の記載は、サポート要件を満たすものではない。

第9 結論
以上のとおり、無効理由1、2には、理由がなく、本件特許の特許請求の範囲の請求項4、9?13の記載は、同法第36条第6項第1号の規定に適合し、不備はないから、同請求項4、9?13に係る特許は、特許法第123条第1項第4号に該当せず、無効理由3により無効とすべきものではなく、同請求項1?3、5?8の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないから、同請求項1?3、5?8に係る特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効理由3により無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が13分の6を負担し、被請求人が13分の7を負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Crが5mol%以上20mol%以下、残余がCoである合金と非磁性材粒子との混合体からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、
このターゲットの組織が、合金の中に前記非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)と、前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有し、
前記球形の合金相(B)はCo濃度の高い領域と低い領域及びCr濃度の高い領域と低い領域をそれぞれ有し、Co又はCrのいずれか一つの濃度変動の程度は、中心付近に濃度が25mol%以上に濃縮された濃度の高い領域があり外周に近づくにつれて濃度が低くなるものであり、前記球形の合金相(B)が存在しないときと比べて平均漏洩磁束が5%以上向上していることを特徴とする非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項2】
Crが5mol%以上20mol%以下、Ptが5mol%以上30mol%以下、残余がCoである合金と非磁性材粒子との混合体からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、
このターゲットの組織が、合金の中に前記非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)と、前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有し、
前記球形の合金相(B)はCo濃度の高い領域と低い領域及びCr濃度の高い領域と低い領域をそれぞれ有し、Co又はCrのいずれか一つの濃度変動の程度は、中心付近に濃度が25mol%以上に濃縮された濃度の高い領域があり外周に近づくにつれて濃度が低くなるものであり、前記球形の合金相(B)が存在しないときと比べて平均漏洩磁束が5%以上向上していることを特徴とする非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項3】
Crが5mol%以上20mol%以下、Ptが5mol%以上30mol%以下、Bが0.5mol%以上8mol%以下、残余がCoである合金と非磁性材粒子との混合体からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、
このターゲットの組織が、合金の中に前記非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)と、前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有し、
前記球形の合金相(B)はCo濃度の高い領域と低い領域及びCr濃度の高い領域と低い領域をそれぞれ有し、Co又はCrのいずれか一つの濃度変動の程度は、中心付近に濃度が25mol%以上に濃縮された濃度の高い領域があり外周に近づくにつれて濃度が低くなるものであり、前記球形の合金相(B)が存在しないときと比べて平均漏洩磁束が5%以上向上していることを特徴とする非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項4】
Crが5mol%以上20mol%以下、残余がCoである合金と非磁性材粒子との混合体からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、
このターゲットの組織が、合金の中に前記非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)と、前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有し、
前記球形の合金相(B)は、中心部がCr25mol%以上であって、中心部から外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相を形成していることを特徴とする非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記球形の合金相(B)の直径が、50?200μmの範囲にあることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項6】
前記非磁性材料が、Cr、Ta、Si、Ti、Zr、Al、Nb、Bからなる酸化物、窒化物若しくは炭化物又は炭素から選択した1成分以上含むことを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項7】削除
【請求項8】削除
【請求項9】
Crが5mol%以上20mol%以下、Ptが5mol%以上30mol%以下、残余がCoである合金と非磁性材粒子との混合体からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、
このターゲットの組織が、合金の中に前記非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)と、前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有し、
前記球形の合金相(B)は、中心部がCr25mol%以上であって、中心部から外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相を形成していることを特徴とする非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項10】
Crが5mol%以上20mol%以下、Ptが5mol%以上30mol%以下、Bが0.5mol%以上8mol%以下、残余がCoである合金と非磁性材粒子との混合体からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、
このターゲットの組織が、合金の中に前記非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)と、前記相(A)の中に、ターゲット中に占める体積の比率が4%以上40%以下であり、長軸と短軸の差が0?50%である球形の合金相(B)とを有し、
前記球形の合金相(B)は、中心部がCr25mol%以上であって、中心部から外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相を形成していることを特徴とする非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項11】
前記球形の合金相(B)の直径が、50?200μmの範囲にあることを特徴とする請求項4、9、10のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項12】
前記非磁性材料が、Cr、Ta、Si、Ti、Zr、Al、Nb、Bからなる酸化物、窒化物若しくは炭化物又は炭素から選択した1成分以上含むことを特徴とする請求項4、9、10のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
【請求項13】
相対密度が98%以上であることを特徴とする請求項4、9、10のいずれか一項に記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-12-27 
結審通知日 2020-01-07 
審決日 2020-01-21 
出願番号 特願2010-537196(P2010-537196)
審決分類 P 1 113・ 857- ZDB (C23C)
P 1 113・ 121- ZDB (C23C)
P 1 113・ 841- ZDB (C23C)
P 1 113・ 537- ZDB (C23C)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 村守 宏文  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 豊永 茂弘
宮澤 尚之
登録日 2011-01-28 
登録番号 特許第4673448号(P4673448)
発明の名称 非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット  
代理人 磯田 直也  
代理人 望月 尚子  
代理人 高橋 雄一郎  
代理人 大西 千尋  
代理人 大平 茂  
代理人 高橋 雄一郎  
代理人 鈴木 修  
代理人 望月 尚子  
代理人 松山 美奈子  

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