• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F17C
管理番号 1361827
審判番号 不服2019-12356  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-18 
確定日 2020-05-12 
事件の表示 特願2016-238100「高圧タンク」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月21日出願公開、特開2018- 96385、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成28年12月8日の出願であって、平成31年4月5日付けで拒絶理由が通知され、令和1年5月9日に明細書及び特許請求の範囲の手続補正及び意見書の提出がなされ、同年8月6日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされ、これに対し、同年9月18日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


第2.原査定の拒絶の理由の概要
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

< 引 用 例 一 覧 >
1.特開平10-292899号公報
2.特開2008-286297号公報
3.米国特許出願公開第2014/0166670号明細書


第3.本願発明
本願発明は、令和1年5月9日に補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
高圧タンクであって、
ライナと、
前記ライナの表面に形成された離型剤層と、
前記離型剤層上に、樹脂と繊維とで形成された補強層と、を備え、
前記離型剤層の厚みは、前記補強層を形成する前記繊維の直径の半分以下である、高圧タンク。」


第4.引用例記載事項及び引用発明
1.引用例1
(1)引用例1記載事項
原査定の拒絶の理由に引用した引用例1には、以下の事項が記載されている。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】金属製ライナーの外周を繊維強化プラスチックで補強した複合容器であって、金属製ライナーと繊維強化プラスチック層との間の全面又はその主要部分に離型剤の塗布膜、離型用フィルム又はこれらの組合せからなる固着防止層を形成させたことを特徴とする天然ガス自動車燃料装置用複合容器。」
イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、天然ガス自動車燃料装置用の、又は高圧ガス容器等に用いる複合容器に関し、とくに金属製ライナーと繊維強化プラスチックを分離回収し易い複合容器に関する。」
ウ.「【0010】
【発明が解決しようとする課題】天然ガス自動車の燃料装置用のFRP複合容器は、樹脂を含浸した連続繊維の束(ロービング)を金属製ライナーの外周に巻き付ける、フィラメントワインディング法により製作される。
【0011】巻き付け形式の代表的なものに、図4(a)に示すようなフープラップ形式と、図4(b)に示すようなフルラップ形式がある。フープラップ形式は、ライナーの胴部のみにフープ巻き(軸方向にほぼ直角に巻き付け)したもので、フルラップ形式は、ライナーの全周にフープ巻き及びヘリカル巻き(螺旋状に巻き付け)又はインプレーン巻き(直線状に巻き付け)等によりロービングを巻き付けたものである。
【0012】いづれの形式においても、ロービングは樹脂を接着剤としてライナー表面に強固に固着し、ライナーとFRP層を機械的に分離することが困難になる。とくに加圧時に両者の接合面は強い圧縮応力を受けるので、長期間の使用により、その固着状態はますます強固なものになり、FRP複合容器の廃棄又は再生利用時にこれを機械的に分離することは到底不可能となる。
・・・
【0015】上記のようなFRP複合容器の再利用時に予測される問題に鑑み、本発明は、複合容器の製作段階において、使用後の再生資源としての利用を容易ならしめる工夫を加えることを意図してなされたものである。
【0016】すなわち、本発明は、天然ガス自動車の燃料装置用のFRP複合容器において、使用後の解体処理又は再利用時に、金属製ライナーとFRP層を分離回収し易い複合容器を提供することを目的とする。」
エ.「【0020】
【発明の実施の形態】本発明の複合容器は、図1に示すように、金属製ライナー1と繊維強化プラスチック(FRP)層2の間の全面又はその主要部分に固着防止層3を形成させたことを特徴とする。
【0021】金属製ライナー1はスチール、ステンレス鋼、アルミニウム又はその合金、チタン又はその合金等の材料から成る。FRP層2の繊維には、各種のガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等が用いられ、FRP層2の樹脂としては、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられることが多い。
【0022】本発明の実施の一形態においては、成形加工と所定の熱処理をした金属製ライナー1の外周に離型剤の塗布膜を形成させて固着防止層3とし、その外側にフィラメントワインディング法で樹脂を含浸させた強化繊維の束(ロービング)4を巻き付けてFRP層2を形成させる。
【0023】プラスチック成形用の離型剤としては、従来からシリコンオイル、鉱物油、パラフィンワックス、脂肪酸誘導体等各種のものが用いられているが、本発明においては、フィラメントワインディングした後の加熱硬化処理、温度圧力サイクル試験等の条件を考慮して、耐熱性を有する離型剤を選択することが望ましい。
【0024】すなわち、FRP層2に熱硬化性樹脂を用いる場合には、通常その硬化温度に所定時間保持するが、この加熱硬化処理時に分解、変質等しない離型剤を用いる必要がある。例えばエポキシ樹脂の場合には徐々に昇熱後90?180℃に保定し、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂の場合も同様に80?120℃に保定し加熱硬化処理されるので、シリコン系、フッ素系等の耐熱性離型剤を用いることが好ましい。」
オ.「【0026】金属製ライナーの表面に離型剤の塗布膜を形成する方法は、ハケ塗りやスプレー等の通常の方法によればよい。また塗布膜の厚みは、本発明者らの知見によれば、数?数十μm程度であればよく、これによって該容器を長期間使用した後でも金属製ライナーへのFRP層の固着を防止することができる。」
カ.「【0037】
【実施例】容器保安規則に基づく天然ガス自動車燃料装置用複合容器告示(平成9年4月1日施行、以下単に「告示」という)に準じて、スチール製継目無ライナーに、樹脂含浸ガラス繊維を巻き付けた天然ガス自動車燃料装置用複合容器を試作するに際して、本発明を実施した。
【0038】ライナー材料はJISG3429(1988)に定めるSTH21相当の継目無鋼管で、胴部外径346mm、全長1,675mmであった。このライナーに所定の熱処理を施した後、エポキシ樹脂を含浸したEガラス繊維(JISR3413(1995)ガラス糸の2種類に定める無アルカリガラス又は米国MIL規格R60346C(1981)ロービング、ガラス及び繊維に定めるタイプI)のロービングを胴部にフープ巻きして、フープラップ容器を製作した。容器の耐圧設計は告示に準じたが、胴部の肉厚は約6mm、FRP層の厚みも約6mmであった。
【0039】この複合容器に対して本発明を実施するに際して、下記実施例1?3に示すように、固着防止層の材料及びその形成部位を変えて、各10個の容器を製作し、告示に定める設計確認試験等を行うと共に、一定期間、実車充填と同1条件の加圧減圧試験を行い、その後解体処理して、金属製ライナーとFRP層の固着状況を調査した。
【0040】(実施例1)固着防止層が離型剤の塗布膜からなり、図1に示すように、金属製ライナー1のドーム部Dの一部と胴部Eにフープ巻きしたFRP層2の部分全体のライナー外表面に塗布膜を形成させた場合である。
【0041】離型剤としてはフッ素系離型剤を用い、ライナーはドーム部を除いてショットブラスト等による前処理を行わず、黒皮のまま油分、水分を除去した後、離型剤をスプレーして厚み4?6μmの離型剤の塗布膜を形成させた。その後前記ロービングをフープ巻きし、徐々に昇温して100℃で約1時間、140℃で約3時間保定しその後徐冷するエポキシ樹脂の硬化処理を行って、FRP層を形成させた。」
キ.「【0049】その結果、実施例1の容器はFRP層全面において金属製ライナーとの固着がほとんど無いか又はごく軽微であって、治具を用いて容易にFRP層をライナーから引き剥がし、両者を分離回収することが可能であった。」
ク.「【0053】
【発明の効果】本発明により、FRP複合容器の使用後の産業廃棄物処理又は再利用時に、金属製ライナーとFRP層を容易に分離回収することが可能になった。これにより、金属製ライナーとFRP層中の強化繊維を再生資源として利用することが容易になり、とくにFRP部分は既存のあるいは開発中の廃棄物処理法により処理することが可能になった。」
ケ.「【図1】



(2)引用発明
上記ア.?ケ.に、摘記した引用例1記載事項を踏まえると、引用例1には、以下の引用発明が記載されているといえる。
《引用発明》
金属製ライナーの外周を繊維強化プラスチックで補強した天然ガス自動車燃料装置用複合容器であって、金属製ライナーと繊維強化プラスチック層との間に、厚み4?6μmの離型剤の塗布膜からなる固着防止層を形成させた、天然ガス自動車燃料装置用複合容器。

2.引用例2
原査定の拒絶の理由に引用した引用例2には、以下の事項が記載されている。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材を巻回して製造される高圧タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
ライナの外側に繊維強化複合材を複数層にわたって巻回することにより、高圧タンクを製造する技術が知られている。」
(2)「【0022】
図1は、本実施の形態にかかる高圧タンク10の概略的な断面図である。高圧タンク10では、円筒形状に作られた樹脂製のライナ12の外周に、繊維強化複合材としての炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が巻回されたCFRP層14が形成されており、さらにCFRP層14の外周には保護層としてのガラス層16が形成されている。そして、ライナ12の両端には、金属製の口金18,20が取り付けられている。
・・・
【0024】
図2は、図1に符号22で示した高圧タンク10の側面の断面構造を示す図である。高圧タンク10では、最も内側にライナ12があり、その外側にCFRP層14が設けられ、さらに、その外側にガラス層16が設けられている。CFRP層14は、複数(例えば数千本?数万本)の炭素繊維を含む束状のCFRPが巻回され多層化(例えば10層程度から数十層程度)されたものである。このCFRP層14のうち、内層24は、プリプレグと呼ばれる半硬化状態の樹脂が含まれたCFRPを巻回して製造されており、外層26は液状の樹脂が含まれたCFRPを巻回して製造されている。」
(3)「【0026】
製造過程においては、まず、口金を取り付けたライナ12が回転軸30にセットされる(S10)。そして、内側の層(例えば1?10層)に対しては、直径が7μmである炭素繊維が2万本程度束ねられ、この炭素繊維間に半硬化状態の樹脂が設けられたた繊維束32(プリプレグ)を用いて、CFRP層14がフィラメントワインディング成形(以下FW成形と呼ぶことがある)される(S12)。ここで、フィラメントワインディング成形とは、樹脂を含浸させた繊維束を巻回する成形方法を指す。・・・」

3.引用例3
原査定の拒絶の理由に引用した引用例3には、以下の事項が記載されている。
(1)「[0001] 1. Field of the Invention
[0002] The present invention relates to high pressure gas containment devices, and in particular, natural gas and hydrogen gas storage vessels composed of concentric shells having reduced weight and at reduced cost.」
(当審訳:[0001] 1.発明の分野
[0002] 本発明は、高圧ガス封入装置、特に、低減された重量及び製造コストを有する、同心のシェルで構成された、天然ガス及び水素ガス貯蔵容器に関する。)
(2)「[0016] In order to accomplish the objectives of the present invention, the present invention provides a method of construction for gas containment vessels that are comprised of an inner corrosion resistant shell made of lower strength steel alloy or aluminum alloy or thermoplastic polymer, and an outer concentric shell constructed of high strength, albeit lower corrosion resistant, metal orfiber-reinforced composite. The fiber can comprise filaments derived from basaltic rocks, the filaments having been immersed in a thermosetting or thermoplastic polymer matrix, and comingled with carbon, glass or aramid fibers such that there is load sharing between the basaltic fibers and carbon, glass or aramid fibers.」
(当審訳:[0016] 本発明の目的を達成するために、本発明は、低強度の鋼合金もしくはアルミニウム合金又は熱可塑性ポリマーからなる耐食性の内側シェルと、高強度で耐腐食性の低い、金属又は繊維強化複合体で構築された外側シェルとから構成されるガス貯蔵容器の製造方法を提供する。
繊維は、玄武岩から得られたフィラメントと、熱硬化性または熱可塑性ポリマーマトリックス中に浸漬されたフィラメントとからなり、玄武岩質繊維と、炭素、ガラスあるいはアラミド繊維の間に負荷分散があるように、炭素、ガラスあるいはアラミド繊維と混合されて、構成され得る。)
(3)「[0026] In another embodiment of the present invention as illustrated in FIG.2, the inner corrosion resistant shell 20 can be made of steel or aluminum similar to the Metal-Metal configuration described above, however it is partially or fully encased in an outer shell 40 that is reinforced with filaments of 5-30 micron diameter derived from basaltic rocks, which are naturally occurring volcanic rocks that are found worldwide.・・・」
(当審訳:[0026] 図2に示すように、本発明の別の実施形態では、耐腐食性の内側シェル20は、上述の金属-金属構造に類似する鋼鉄又はアルミニウムから製造され得るが、世界中で見られ、自然に発生する火山岩である玄武岩から得られた5?30ミクロン径のフィラメントで補強された外側シェル40に、部分的または完全に包まれている。・・・)

第5.対比・判断
1.対比
引用発明の「金属製ライナー」、「離型剤の塗布膜」、「繊維強化プラスチック層」、「天然ガス自動車燃料装置用複合容器」は、各々、本願発明の「ライナ」、「離型剤層」、「樹脂と繊維とで形成された補強層」、「高圧タンク」に相当する。
ゆえに、本願発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
《一致点》
高圧タンクであって、
ライナと、
前記ライナの表面に形成された離型剤層と、
前記離型剤層上に、樹脂と繊維とで形成された補強層と、を備えた、高圧タンク。

《相違点》
離型剤層の厚みが、本願発明では、補強層を形成する繊維の直径の半分以下であるのに対し、引用発明では、4?6μmであり、繊維強化プラスチック層を形成する繊維の直径との関係は不明である点。

2.相違点についての判断
「ライナと、前記ライナの表面に形成された離型剤層と、前記離型剤層上に、樹脂と繊維とで形成された補強層と、を備えた、高圧タンク」における補強層を形成する繊維に関して、上記第4.の2.及び3.で示したように、引用例2には「直径が7μmである炭素繊維」を用いることが記載され、引用例3には「玄武岩から得られた5?30ミクロン径のフィラメント」を用いることが記載されている。
しかし、上記引用例2及び3には、離型剤層の厚みを、補強層を形成する繊維の直径の半分以下とすることは記載されていないし、補強層を形成する繊維の直径が、8?16μm以上(引用発明の「離型剤の塗布膜」(離型剤層)の厚みである「4?6μm」の倍以上)であることが通常である旨を示唆する記載もない。
したがって、引用発明における「離型剤の塗布膜」(離型剤層)の「4?6μm」という厚みを、「繊維強化プラスチック層」を形成する繊維の直径の半分以下となるようにその構成を変更することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
そして、本願発明は、上記相違点に係る「補強層を形成する繊維の直径の半分以下」とした点により、本願明細書の段落【0017】に記載された「また、膜厚が補強層40を形成する繊維CFの直径の半分以下である場合には、繊維CFの最も幅が広い中心部分が離型剤層30に埋まることが抑制されるため、より容易にライナ10を補強層40から剥離させることができる。つまり、本実施形態では、離型剤層30の膜厚は薄ければ薄いほど、補強層40に対するライナ10の離型性を高めることができる。」という作用効果を奏するものであるところ、引用例1?3には、前記作用効果が奏されることが予測可能であったことを示唆する記載もない。

3.小括
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び引用例2及び3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
ゆえに、本願発明は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではなく、特許を受けることができないものであるとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、原査定の拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-04-16 
出願番号 特願2016-238100(P2016-238100)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F17C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 宮崎 基樹  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 渡邊 豊英
杉山 悟史
発明の名称 高圧タンク  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ