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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B09B
管理番号 1361844
審判番号 不服2019-5226  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-19 
確定日 2020-04-23 
事件の表示 特願2018-133280「キャピラリーバリアの構造」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 1月23日出願公開、特開2020- 11169〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年7月13日の出願であって、同年11月15日付けで拒絶理由が通知され、同年12月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成31年1月25日付けで拒絶査定がされ、同年4月19日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし6に係る発明は、平成30年12月26日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
上下に積層して地中に埋設された大きな間隙を有する下部層と、該下部層より間隙の小さな自然材料の細粒物で構成される上部層との毛管力の差を利用して前記両層の境界面の上方に浸透水を捕捉可能な毛管遮水層が形成されるキャピラリーバリアであって、
前記下部層が粗粒代替構造体により構成される粗粒代替層からなり、
前記粗粒代替構造体が内部に連続した間隙層を有するポーラス構造の耐圧マットと、
前記耐圧マットの少なくとも上面を被覆し、細粒物の透過を規制する有孔構造の通気シートとを具備し、
前記耐圧マットの間隙層の間隙が細粒層の間隙より大きく、
前記耐圧マットと細粒層との境界面に通気シートが介挿され、
接触部を通じて浸透水が通気シートを透過して耐圧マット内に浸水することを規制し得るように、前記通気シートが耐圧マットに対して点接触に近い小さな接触面積を介して接面していることを特徴とする、
キャピラリーバリアの構造。」

第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、おおむね、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用文献1.特開2006-212568号公報
引用文献2.特開2006-21117号公報
引用文献3.特開2007-38174号公報
引用文献4.特開2004-322017号公報

第4 引用文献に記載された事項等
1 引用文献1に記載された事項及び引用発明
(1)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、「埋立て廃棄物の覆土施行方法及び埋立て廃棄物の浸透水キャピラリーバリア層」に関して、おおむね次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。

・「【請求項1】
埋立て廃棄物を覆土する保護層に勾配を付して、前記保護層の勾配に沿って空隙が大きなマットを敷設して、前記マットよりも空隙が小さく大きな毛管力を備えた排水層を前記マット上に形成することを特徴とする埋立て廃棄物の覆土施工方法。
【請求項2】
埋立て廃棄物保護層の上表面に空隙の異なる層を二層積層して導水勾配を付した浸透水キャピラリーバリア層であって、前記二層の下層は上層よりも大きい空隙を備えるマットであることを特徴とする埋立て廃棄物の浸透水キャピラリーバリア層。」

・「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の多層覆土を構成するキャピラリーバリア層は、細粒層及び粗粒層に粒度を調整した砂、礫、岩やコンクリートの粉砕物、その他粒状のリサイクル品等を用いている。このような材料を用いた場合、キャピラリーバリア層にある程度の保水力と透水性を同時に持たせるためには層の厚さを大きく形成する必要がある。このためそれだけ外部から搬入する材料が多くなり材料コストが増えて逆に埋立て量が減少するという好ましくない状況になる。また、埋立てる廃棄物へ載荷する量が多くなれば、不等沈下を引き起こす可能性があった。さらに、全体として施工に要する日数および費用が増大するという問題があった。
【0006】
また、効果的なキャピラリーバリア効果を確保するためには、上層の保水力を下層の保水力よりも大きくする必要がある。このためには上層の空隙径を小さくし、下層の空隙を相対的に大きくする必要がある。一方、上層に載せた材料が下層の空隙に落ち込まない制約(パイピング則)がある。すなわち空隙の大きさや形状のバランスによって成立する構造となっている。さらに空隙に一様性を持たせることが必要である。
【0007】
空隙の大きさは側方への流れやすさ、すなわち透水係数に影響し、空隙が大きいほど透水性は大きくなる。効果的な機能を得るために上層は必要な保水性を維持しつつ透水性を大きくする必要がある。しかし、従来のキャピラリーバリア層は下層表面の平滑性や空隙の一様性を達成するため下層の空隙の大きさは限定された。このため、上層の空隙を大きく形成して透水性を大きくすることは困難であった。
【0008】
そこで、本発明は上記多層覆土における課題を解決するためになされたもので、埋立て廃棄物の多層覆土を構成する浸透水キャピラリーバリア層の形成に効果的な埋立て廃棄物の覆土施工方法及び埋立て廃棄物の浸透水キャピラリーバリア層を提供することを目的とした。」

・「【発明の効果】
【0011】
上記構成による本発明の埋立て廃棄物の覆土施工方法及び埋立て廃棄物の浸透水キャピラリーバリア層によれば、空隙の大きい下層の積層幅を薄く形成することができるので、キャピラリーバリア層全体の積層幅も薄く形成することができる。これにより投入する廃棄物等の埋設量を増大することができる。また、キャピラリーバリア層に用いる資材量や材料コストを低減するとともに施工期間も大幅に短縮することができる。
【0012】
多層覆土を形成させる上ではコストの面や材料の入手環境から良質な材料を使用できない場合がある。この場合砂などの排水材の種類によっては排水距離を稼ぐことができない。排水距離はこの材料が要因となってキャピラリーバリア層の性能に影響を及ぼす。空隙が大きな、例えば格子状のマットを用いれば既製品であるため均質で入手が容易であり、空隙を大きく設定することができる。またマット上層の排水層は前記マットの大きな空隙に合わせて粒径の大きい材料を用いることができ、材料の種類が増えるとともに材料選定が容易となる。したがって常に安定した排水距離を確保しやすい。
また、下層は廃棄物の保護層を整地した後マットを敷くだけで前記下層を形成することができ、キャピラリーバリア層を簡便に施工することができる。」

・「【0017】
図1に埋立て廃棄物の浸透水キャピラリーバリア層の構成概略図を示す。同図(1)は多層覆土の断面図を示し、同図(2)は格子の斜視図を示す。実施形態に係る浸透水キャピラリーバリア層17は、まず下層に空隙の大きいマット18を敷設し、ついでマット18の上層に空隙の小さい排水層20を敷設する二層構造である。
【0018】
前記マット18は上層の排水層20よりも空隙が大きく、実施形態では例えば材質を樹脂性とし立体格子状の人工マットを用いている。このほかマット18は材料がメッシュ体であって、比較的長期の耐久性が確保され圧縮力に強く、上層の排水層20を支持する層で上層による側方排水性が維持できればこれに限定されるものではなく、例えば材質にセメント系材料の二次製品等を用いてもよい。
【0019】
また、マットの空隙はグレーチングに用いられるような、例えば、部材(フラットバー)を平行に等間隔の隙間を空けて配置した櫛歯形状、部材を任意の隙間を空けて配置した形状、網目形状等を用いてもよい。
なお、マット18は保護層16上に直に敷設するほか、導水勾配面の平坦性を確保するため保護層16上にレキを敷いてその上に敷設してもよい。
【0020】
一方、排水層20は下層のマット18よりも空隙を小さく設定している。実施形態に係る排水層20は例えば粒径2.5mm?5mmの単粒度砕石を用いている。これにより排水層20中を浸透した水は空隙間の毛管作用で保水状態を維持することができる。また、浸透水キャピラリーバリア層17は導水勾配を付しているため、排水層20は浸透水がこの勾配に沿って内側を流れ側方排水できる透水性が必要となる。このように排水層20は保水力をマット18よりも大きく設定するとともに透水性を備えていることが必要である。マット18及び排水層20は両者間で保水力の差がない、すなわち保水力が等しいと浸透水キャピラリーバリア層17中の浸透水は下方に落水してしまう。空隙に差を設ける、すなわち保水力に差を設けることによってキャピラリー効果が生じ、浸透水の側方移動が可能となるのである。
【0021】
マット18を使用することにより、下層材の空隙率を大きく設定することができる。空隙径は毛管力の大きさに影響し、空隙が大きくなれば毛管力は小さくなる。キャピラリーバリアでは上層の毛管力が下層の毛管力よりも大きいことが条件であり、下層材の空隙率を大きくすると、上層材の空隙率も相対的に大きくできる。空隙率が大きくできれば透水性も大きくなり側方への流れを大きくできる。毛管力と透水性のバランスを保つことにより薄い層を用いて多量の水を側方排水できることになる。」

・「【図1】



(2)引用発明
引用文献1に記載された事項を、【0017】ないし【0021】及び図1に関して整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「空隙の大きい立体格子状又はメッシュ体であるマット18を敷設し、ついでマット18の上層に下層のマット18より空隙の小さい単粒度砕石の排水層20を敷設する二層構造である浸透水キャピラリーバリア層17。」

2 引用文献2に記載された事項
引用文献2には、「廃棄物最終処分場における覆土構造」に関して、おおむね次の記載がある。

・「【請求項1】
廃棄物最終処分場の埋立地に埋め立てた廃棄物の表面に覆土などの表層を形成するに際し、この表層を透水性を有する部分と、遮水性を有する部分とが混在するように形成する廃棄物最終処分場の覆土構造において、廃棄物層の上に勾配をもたせて形成する粗粒土層と、この粗粒土層の上に敷設されて、点在する複数の小孔により形成される通水部を設けた通気性防水シートと、この通気性防水シートの上に形成される細粒土層とで構成することを特徴とする廃棄物最終処分場における覆土構造。」

・「【0022】
また、通気性防水シートの敷設により、細粒土層の材料が粗粒土層へ移動することを抑止でき、さらに細粒土層と粗粒土層との境界部に多少の不当沈下などによる不陸が発生してもキャピラリーバリア効果に影響は少なく、土構造のみの場合に比較して安定性の高い覆土構造となる。そして、細粒土層と粗粒土層との境界部も安定するから、施工後も安定した勾配を維持できる。」

3 引用文献3に記載された事項
引用文献3には、「被覆材および集排水システム」に関して、おおむね次の記載がある。

・「【請求項1】
廃棄物処分場において、廃棄物層を被覆するとともに雨水を集排水可能にする被覆材であって、前記被覆材は、
廃棄物層上に設置される礫からなる礫層と、
前記礫層上に設置される平均粒径0.2mm?0.35mmの範囲内の砂からなる砂層とを含み、
前記砂は、15質量%の砂が通過するふるいの目の大きさから得られる砂の粒径(D15)と85質量%の砂が通過するふるいの目の大きさから得られる砂の粒径(D85)との比が、1:1?1:3の範囲内であることを特徴とする、被覆材。
・・・(略)・・・
【請求項4】
前記礫層と、前記砂層との間に、不織布を含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の被覆材。」

・「【0026】
本発明では、礫と礫との間の間隙に、礫層4aに隣接する砂層4bの砂が入り込み、間隙を小さくして毛管力を大きくし、礫層4aに水が浸透するのを防止するため、礫層4aと砂層4bとの間に、不織布を敷設することが好ましい。不織布は、礫層4aに砂が入り込むのを防止することができればいかなる厚さであってもよく、例えば、約0.05mmの厚さのものを使用することができる。なお、礫層4aに砂が入り込むのを防止できれば不織布に限られるものではなく、いかなる部材でも用いることができる。」

4 引用文献4に記載された事項
引用文献4には、「多層覆土の排水システム」に関して、おおむね次の記載がある。

・「【請求項1】
埋立て廃棄物保護層の上表面に粗粒層とその上層に積層した細粒層からなる勾配が付された浸透水キャピラリーバリア層を形成するとともに、当該キャピラリーバリア層上に表層覆土を形成してなる多層覆土の排水システムであって、前記埋立て廃棄物保護層の勾配に係らず前記キャピラリーバリア層を少なくとも保水限度距離以内に一定勾配を付して形成するとともに、勾配下流側に排水溝を設置して埋立て地の遮水と集水を行うことを特徴とする多層覆土の排水システム。
・・・(略)・・・
【請求項8】
前記キャピラリーバリア層を形成する細粒層と粗粒層の間に不織布を敷いたことを特徴とする請求項1、3、または7記載の多層覆土の排水システム。」

・「【0029】
また、多層覆土を形成させる上では低コストや地域性の面から良質な材料が得られない場合がある。この材料の種類によっては排水距離を稼げないケースがある。排水距離の変化要因にはこの砂の種類によって影響を及ぼす場合がある。
そこで、排水距離に応じて粗粒層を下層とし細粒層を上層とするキャピラリーバリア層をさらに下段に設けることで二重構造とすれば、排水距離の先延ばしあるいは延長が可能となる。浸透水の粗粒層への落水を軽減するための多重型多層覆土構造について図2の断面図を用いて説明する。廃棄物層30の上に保護層32を敷く、その上層に下層側から粗粒層34、細粒層36、さらに粗粒層34、細粒層36、覆土層38の順で敷設する。この保護層32および覆土層38は必要に応じて浸透性を制御することができるもので構成し、ベントナイト混合土やシートを適切に組み合わせて浸透性を制御するものである。また粗粒層34と細粒層36との境界部分には必要に応じて不織布40を設置してもよい。これは細粒層と粗粒層の施行時の混合を防止するためであり、これにより、細粒層と粗粒層が境界面で混合することなく保持されて、キャピラリーバリア層の排水機能を適当に維持することができる。」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明における「空隙の大きい立体格子状又はメッシュ体であるマット18」は本願発明における「粗粒代替構造体」が具備する「内部に連続した間隙層を有するポーラス構造の耐圧マット」に相当し、「内部に連続した間隙層を有するポーラス構造の耐圧マットと、前記耐圧マットの少なくとも上面を被覆し、細粒物の透過を規制する有孔構造の通気シートとを具備する」「粗粒代替構造体」と、「内部に連続した間隙層を有するポーラス構造の耐圧マット」を具備する「粗粒代替構造体」という限りにおいて一致する。
そうすると、引用発明における「空隙の大きい立体格子状又はメッシュ体であるマット18」は本願発明における「粗粒代替構造体により構成される粗粒代替層」にも相当する。
引用発明における「下層のマット18より空隙の小さい単粒度砕石の排水層20」は本願発明における「該下部層より間隙の小さな自然材料の細粒物で構成される上部層」に相当し、また、「細粒層」にも相当する。
引用発明における「二層構造である浸透水キャピラリーバリア層17」は、「マット18を敷設し、ついでマット18の上層に」「排水層20を敷設する」ものであり、また、引用文献1の図1によると、その上を「覆土層22」で覆われるものであるから、本願発明における「上下に積層して地中に埋設された」「キャピラリーバリア」に相当し、また、「キャピラリーバリアの構造」にも相当する。
引用文献1の「効果的なキャピラリーバリア効果を確保するためには、上層の保水力を下層の保水力よりも大きくする必要がある。」(【0006】)及び「キャピラリーバリアでは上層の毛管力が下層の毛管力よりも大きいことが条件であり」(【0021】)という記載によると、引用発明は、下層である「マット18」と上層である「排水層20」との毛管力の差を使用して両層の境界面の上方に浸透水を補足可能な層を形成するものであることは明らかであるから、引用発明における「二層構造である浸透水キャピラリーバリア層17」は本願発明における「大きな間隙を有する下部層と、該下部層より間隙の小さな自然材料の細粒物で構成される上部層との毛管力の差を利用して前記両層の境界面の上方に浸透水を捕捉可能な毛管遮水層が形成されたキャピラリーバリア」にも相当する。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「上下に積層して地中に埋設された大きな間隙を有する下部層と、該下部層より間隙の小さな自然材料の細粒物で構成される上部層との毛管力の差を利用して前記両層の境界面の上方に浸透水を捕捉可能な毛管遮水層が形成されるキャピラリーバリアであって、
前記下部層が粗粒代替構造体により構成される粗粒代替層からなり、
前記粗粒代替構造体が内部に連続した間隙層を有するポーラス構造の耐圧マットを具備し、
前記耐圧マットの間隙層の間隙が細粒層の間隙より大きい、
キャピラリーバリアの構造。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点>
「内部に連続した間隙層を有するポーラス構造の耐圧マット」を具備する「粗粒代替構造体」に関して、本願発明においては、「粗粒代替構造体」が「前記耐圧マットの少なくとも上面を被覆し、細粒物の透過を規制する有孔構造の通気シート」を具備し、この「通気シート」について、「前記耐圧マットと細粒層との境界面に通気シートが介挿され」、「接触部を通じて浸透水が通気シートを透過して耐圧マット内に浸水することを規制し得るように、前記通気シートが耐圧マットに対して点接触に近い小さな接触面積を介して接面している」と特定されているのに対し、引用発明においては、そのような「通気シート」を具備していない点。

第6 判断
以下、検討する。

1 相違点について
引用文献1の「効果的なキャピラリーバリア効果を確保するためには、上層の保水力を下層の保水力よりも大きくする必要がある。このためには上層の空隙径を小さくし、下層の空隙を相対的に大きくする必要がある。」(【0006】)という記載によると、引用発明においても、下層である「マット18」の空隙を相対的に大きくしようとするものであるといえるから、上層である「排水層20」の細粒が下層である「マット18」に移動することを防いで、キャピラリーバリアの機能を維持するという課題を有することは明らかである。
そして、引用文献2ないし4に記載されているように、上層の細粒層と下層の粗粒層より形成されるキャピラリーバリア構造において、上層の細粒が下層の粗粒層に移動することを防いで、キャピラリーバリアの機能を維持するために、上層の細粒層と下層の粗粒層の境界面に下層の粗粒層を被覆するように細粒物の透過を規制する有孔構造の通気シートを介装することは周知(以下、「周知技術」という。)である。
したがって、引用発明において、上記課題を解決するために周知技術を適用し、「マット18」と「排水層20」の境界面に「マット18」を被覆するように細粒物の透過を規制する有孔構造の通気シートを介装することは当業者が容易に想到し得たことである。
ところで、本願発明における「点接触に近い小さな接触面積」について、本願の請求項1には、具体的にどの程度点接触に近いのか、また、具体的にどの程度小さい面積なのかを定量的に特定する記載はなく、さらに、本願明細書にも、それらを特定する記載はないから、本願発明における「点接触に近い小さな接触面積」には、面接触よりは、接触面積が小さいという程度の意味しか認められない。
そうすると、引用発明における「マット18」は「立体格子状又はメッシュ体である」から、引用発明において「マット18」と「排水層20」の境界面に「マット18」を被覆するように細粒物の透過を規制する有孔構造の「通気シート」を介装したとき、該「通気シート」は「マット18」に対して、必然的に、面接触と比べて、小さな接触面積を介して接面されることになる。また、その場合に、面接触で接面するよりは、接触部を通じて浸透水が通気シートを透過して「マット18」内に浸水することを規制し得るように、通気シートが「マット18」に接面することになることは当業者に明らかである。

よって、引用発明において周知技術を適用して、相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

2 効果について
本願発明の奏する「毛管遮水層の遮水性能を格段に高めることができる」、「施行に要する労力と時間を大幅に削減できる」及び「長期間に亘って毛管遮水層による遮水機能を持続することができる」(本願明細書の【0007】)という効果は、引用発明及び周知技術からみて、当業者が予測可能なものであって、格別顕著なものとはいえない(「毛管遮水層の遮水性能を格段に高めることができる」という効果については引用文献1の【0021】、「施行に要する労力と時間を大幅に削減できる」という効果については引用文献1の【0011】及び【0012】並びに「長期間に亘って毛管遮水層による遮水機能を持続することができる」という効果については引用文献2の【0022】及び引用文献4の【0029】等参照。)。

3 請求人の主張について
(1)主張1
請求人は、「引用文献1の発明は上層の排水層の材料が下層のマットに移動しないことで成り立っている発明である。引用文献1中には、キャピラリーバリア効果を確保するための要件として「一方、上層に載せた材料が下層の空隙に落ち込まない制約(パイピング則)がある。([0006])」の記載・・・(略)・・・これらの記載によれば、引用文献1の発明は、排水層の材料が下層のマットに移動しない発明であることと、そのために排水層にはマットの大きな空隙に合わせて上層の排水層に粒径の大きい材料を用いる必要があることが理解できる。・・・(略)・・・引用文献1にはシートを設置すべき必然性がまったくないものである。このように引用文献1には、引用文献1と周知技術とを相互に結び付ける要因となる共通の課題(動機付け)が存在しない。」旨主張する(審判請求書第4ページ第3行ないし第5ページ第9行)。

(2)主張2
請求人は、「引用文献1の浸透水キャピラリーバリア層が、上層の排水層の材料が下層のマットに移動する構成であると、キャピラリーバリア層が機能しなくなるので、発明として成り立たない。発明として成り立たないということは引用文献1が「未完成発明」ということになる。・・・(略)・・・引用文献1は未完成発明となって引用文献としての適格がなくなり、引用文献1と周知技術との組み合わせは成り立たない。」旨主張する(審判請求書第5ページ第20行ないし第6ページ第3行)。

(3)主張3
請求人は、本願発明の顕著な効果に関して、「本願発明は既述した特徴1により、上部層を構成する細粒物の粒径の影響を受けずに耐圧マットの間隙層の間隙を大きくして、細粒層と耐圧マット内の間隙層の間隙差を無限大といえるほどの大きさにすることができる(段落0013、顕著な効果1)。」、「本願発明は既述した特徴2により、耐圧マットと通気シートの接面部を通じた通気シートによる浸透水の透過を効果的に規制することができる(段落0016,0027、顕著な効果2)。」、「既述した顕著な効果1,2に基づき、「粗粒代替構造体と細粒層との境界面に形成される毛管遮水層の遮水性能を従来と比べて格段に高めることができる(明細書[0007]<1>)。 」及び「本願発明では、キャピラリーバリア機能が格段に向上することで、上部層の細粒層に大量の浸透水を保水することができる(顕著な効果3)。」旨主張する(審判請求書第7ページ下から第6行ないし第8ページ末行)。

(4)そこで、これらの主張について検討する。
ア 主張1について
上記1のとおり、引用発明においても、下層である「マット18」の空隙を相対的に大きくしようとするものであるといえるから、「上層に載せた材料が下層の空隙に落ち込まない制約(パイピング則)」(引用文献1の【0006】)に従うとしても、多少は、上層である「排水層20」の材料が下層である「マット18」の空隙に落ち込むものである。
この点、本願明細書の【0004】の「<5>下部層に立体格子マットを敷設し、上部層に自然材料からなる細粒層を組み合せた特許文献3(当審注:審決における「引用文献1」である。)に記載のキャピラリーバリアでは、立体格子マットの格子空間内に細粒層の細粒物が入り込んでしまい、顕著なキャピラリーバリア効果が得られない。」という記載もこのことを裏付けるものである。
したがって、引用発明においても、上層である「排水層20」の細粒が下層である「マット18」に移動することを防いで、キャピラリーバリアの機能を維持するという課題を有するといえ、引用発明と周知技術とを相互に結び付ける要因となる共通の課題(動機付け)は存在する。
よって、主張1は採用できない。

イ 主張2について
上記アのとおり、引用発明は、「上層に載せた材料が下層の空隙に落ち込まない制約(パイピング則)」(引用文献1の【0006】)に従うものであり、使用当初から、キャピラリーバリア層が機能しなくなる程、上層の排水層の材料が下層のマットに移動するものではないから、未完成発明であるとはいえない。
したがって、主張2は採用できない。

ウ 主張3について
請求人が主張する効果のうち、「本願発明は既述した特徴2により、耐圧マットと通気シートの接面部を通じた通気シートによる浸透水の透過を効果的に規制することができる(段落0016,0027、顕著な効果2)。」という効果は、上記1のとおり、引用発明において、周知技術を適用した場合に奏することが当業者に明らかなものであって、格別顕著なものとはいえない。
また、請求人が主張する残りの効果は、いずれも、上記2のとおり、当業者が予測可能なものであって、格別顕著なものとはいえない。
したがって、主張3は採用できない。

4 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 結語
上記第6のとおり、本願発明、すなわち請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2020-02-21 
結審通知日 2020-02-25 
審決日 2020-03-09 
出願番号 特願2018-133280(P2018-133280)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上坊寺 宏枝  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 大畑 通隆
加藤 友也
発明の名称 キャピラリーバリアの構造  
代理人 山口 真二郎  
代理人 大島 信之  
代理人 大島 信之  
代理人 山口 朔生  
代理人 山口 真二郎  
代理人 山口 朔生  

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