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審決分類 審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1361848
審判番号 不服2019-7994  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-17 
確定日 2020-04-23 
事件の表示 特願2014-237799「インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月 4日出願公開、特開2016- 20082〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年11月25日(優先権主張平成25年12月27日、平成26年6月16日)の出願であって、平成29年11月17日付けで手続補正がなされ、平成30年9月5日付けで拒絶の理由が通知され、同年11月6日付けで意見書が提出されるとともに、手続補正がなされ、平成31年3月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、令和1年6月17日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。


第2 令和1年6月17日付け手続補正書による補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
令和1年6月17日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、平成30年11月6日付けで提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1乃至14を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至12へと補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)

(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
吐出口が設けられた吐出口面が撥水処理された撥水面である記録ヘッドと、前記撥水面をワイピングするためのワイピング手段と、前記撥水面を加熱するための加熱手段と、を備えたインクジェット記録装置を使用し、樹脂を含有する水性インクを前記吐出口から吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記加熱手段により前記撥水面を加熱した後、前記ワイピング手段により前記撥水面をワイピングするとともに、前記撥水面のワイピング後まで前記撥水面を加熱し続ける加熱工程を有し、
前記樹脂が、アクリル樹脂及びウレタン樹脂を含み、
前記撥水面が、フルオロアルキル基を有する加水分解性シラン化合物、及び、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物の縮合物で形成されることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記加熱工程が、前記水性インクが吐出されない程度に駆動しうる、前記加熱手段として利用される電気熱変換体を用いて行われる請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記水性インクを吐出するまでの間、前記加熱手段により前記撥水面を加熱し続ける請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記樹脂の酸価が、40mgKOH/g以上である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記樹脂の酸価が、300mgKOH/g以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記樹脂が、ウレタン樹脂である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記ウレタン樹脂の酸価が、40mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である請求項6に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記ウレタン樹脂における、ウレタン結合が占める割合(モル%)が、ウレア結合が占める割合(モル%)に対するモル比率で、85.0/15.0以上である請求項6又は7に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記樹脂が、アクリル樹脂である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
前記アクリル樹脂の酸価が、40mgKOH/g以上250mgKOH/g以下である請求項9に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
前記水性インクが、顔料を含有する請求項1乃至10のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
前記顔料が、アニオン性基が、直接又は他の原子団を介して粒子表面に結合している自己分散顔料である請求項11に記載のインクジェット記録方法。
【請求項13】
前記顔料が、カーボンブラックである請求項11又は12に記載のインクジェット記録方法。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置であって、
吐出口が設けられた吐出口面が撥水処理された撥水面である記録ヘッドと、前記撥水面をワイピングするためのワイピング手段と、前記撥水面を加熱するための加熱手段と、を備え、
前記撥水面が、フルオロアルキル基を有する加水分解性シラン化合物、及び、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物の縮合物で形成されることを特徴とするインクジェット記録装置。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
吐出口が設けられた吐出口面が撥水処理された撥水面である記録ヘッドと、前記撥水面をワイピングするためのワイピング手段と、前記撥水面を加熱するための加熱手段と、を備えたインクジェット記録装置を使用し、樹脂を含有する水性インクを前記吐出口から吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記加熱手段により前記撥水面を加熱した後、前記ワイピング手段により前記撥水面をワイピングするとともに、前記撥水面のワイピング後まで前記撥水面を加熱し続ける加熱工程を有し、
前記撥水面の加熱温度が、70℃以下であり、
前記樹脂が、アクリル樹脂及びウレタン樹脂を含み、
前記撥水面が、フルオロアルキル基を有する加水分解性シラン化合物、及び、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物の縮合物で形成されることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記加熱工程が、前記水性インクが吐出されない程度に駆動しうる、前記加熱手段として利用される電気熱変換体を用いて行われる請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記水性インクを吐出するまでの間、前記加熱手段により前記撥水面を加熱し続ける請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記樹脂の酸価が、40mgKOH/g以上である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記樹脂の酸価が、300mgKOH/g以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記ウレタン樹脂の酸価が、40mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】 前記ウレタン樹脂における、ウレタン結合が占める割合(モル%)が、ウレア結合が占める割合(モル%)に対するモル比率で、85.0/15.0以上である請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記アクリル樹脂の酸価が、40mgKOH/g以上250mgKOH/g以下である請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記水性インクが、顔料を含有する請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
前記顔料が、アニオン性基が、直接又は他の原子団を介して粒子表面に結合している自己分散顔料である請求項9に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
前記顔料が、カーボンブラックである請求項9又は10に記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置であって、
吐出口が設けられた吐出口面が撥水処理された撥水面である記録ヘッドと、前記撥水面をワイピングするためのワイピング手段と、前記撥水面を加熱するための加熱手段と、を備え、
前記撥水面が、フルオロアルキル基を有する加水分解性シラン化合物、及び、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物の縮合物で形成されることを特徴とするインクジェット記録装置。」

2 補正事項について
本件補正により、本件補正後の請求項1の「インクジェット記録方法」における「加熱工程」に関して、「前記撥水面の加熱温度が、70℃以下であり」との補正事項(以下「補正事項」という。)が追加された。

上記補正事項により、本件補正前の請求項1乃至11の「インクジェット記録方法」及び本件補正前の請求項12の「インクジェット記録装置」における「加熱工程」に関して、「前記撥水面の加熱温度が、70℃以下であり」と具体的に特定したものであって、本件補正前の請求項1乃至14に記載された発明とその補正後の当該請求項1乃至12に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、上記補正事項は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、上記補正事項は、特許法第17条の2第3項及び第4項に違反するところはない。


3 独立特許要件について
本件補正後の前記請求項1に係る発明(令和1年6月17日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】乃至【請求項12】(以下、それぞれ「本願補正発明1」乃至「本願補正発明12」という。)における本願補正発明1が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(1)本願補正発明1
本願補正発明1は、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】に記載したとおりのものと認める。

(2)引用例
ア 引用例1
原査定の拒絶の理由において引用され、本願の優先日前の平成23年10月6日に頒布された刊行物である特開2011-195686号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用インクセット及び画像形成方法に関する。」
(イ)「【0008】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、保存中にpH低下に伴う洗浄性の低下がなく、インク吐出ヘッドの吐出性能を安定に保つことができ、かつインク吐出ヘッドの腐蝕が抑制されたインクジェット記録用インクセットを提供することを課題とする。また、本発明は、長期に亘って安定した吐出性能を維持し、所望の画像を長期に亘って形成し得る画像形成方法を提供することを課題とする。」
(ウ)「【0013】
以下、本発明に係るインクジェット記録用インクセットに含まれるインク組成物およびメンテナンス液、更に所望により含まれる処理液について説明する。
1.インク組成物
本発明に係るインク組成物は、水、顔料およびポリマー粒子を含む。」
(エ)「【0063】
(ポリマー粒子)
本発明のインク組成物は、耐擦性、耐ブロッキング性、及び耐オフセット性を高める観点から、ポリマー粒子の少なくとも1種を含有することが好ましい。
ポリマー粒子としては、該粒子が水中に分散されたポリマーラテックスを好ましく用いることができる。
ポリマー粒子は、そのI/O値が0.20以上0.55以下であるものが、耐ブロッキング性とインク組成物の安定性という点で好ましい。
【0064】
ポリマー粒子としては、特に制限はなく、例えば、熱可塑性のアクリル系、エポキシ系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ポリアミド系、不飽和ポリエステル系、フェノール系、シリコーン系、又はフッ素系の樹脂、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、又はポリビニルブチラール等のポリビニル系樹脂、アルキド樹脂、フタル酸樹脂等のポリエステル系樹脂、あるいはそれらの共重合体又は混合物などの樹脂から構成されるポリマー粒子が挙げられる。」
(オ)「【0127】
4.画像形成方法
本発明の画像形成方法は、前記インクジェット記録用インクセットを用いて、前記インク組成物をインクジェット記録用吐出ヘッドで記録媒体上にパターン状に付与するインク付与工程と、前記メンテナンス液により前記吐出ヘッドに付着したインク組成物を除去するインク除去工程と、を含む。
ここで、「吐出ヘッドに付着したインク組成物」には、前記「インク組成物」そのもののみならず、当該インクに由来して吐出ヘッドに固着した「固着物」も含まれる。

【0130】
インク吐出工程におけるインク吐出時のインクの温度は、30℃以上であることが吐出時のインクの温調およびワイプ性向上の観点から好ましく、35℃以上がさらに好ましい。また、インク安定性および吐出信頼性の観点から、70℃以下が好ましい。
【0131】
インク吐出ヘッドのインクが付着する可能性のある領域、特にノズル面(ヘッドの吐出口が形成されているノズルプレートの表面)は、インクの付着性を低下させるために、撥インク膜が設けられていることが好ましい。好ましい撥インク膜を形成する材料としては、PTFE、PFA、FEP等のパーフルオロポリマーが挙げられる。このような撥インク膜を形成した領域においては、印刷時にインクが意図せずに飛来しても付着することが抑性され、仮に付着し、さらに付着したインクが乾燥しても、軽く拭き取ることで容易に除去することが可能となる。
【0132】
-インク除去工程-
インク除去工程では、ヘッドのノズル面からインク又はインクに由来する固着物を除去するために、メンテナンス液をインクジェットヘッド(例えば、ヘッド周辺及びインク流路等;以下、ヘッド等ともいう。)に付与する。
前記メンテナンス液をヘッド等に付与することにより、ノズル面のインク由来のインク固着物は溶解、又は膨潤等して除去しやすくなる。
また、メンテナンス液を付与する前又は後に、ブレードによる掻き取り、布や紙類での払拭や、インク固形物由来のものを除去してもよい。好ましくは、メンテナンス液を付与後にワイパブレードを用いてノズル面を擦り(ワイピング)、インク固着物を掻き落とす方法、風圧やメンテナンス液等の液圧等により取り除く方法、及び布・紙類で払拭する方法が好ましく、中でも、ブレードによる掻き取り、布や紙類での払拭が好ましい。
前記ワイパブレードの材質は弾性を有するゴムが好ましく、具体的な材質としては、ブチルゴム、クロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、二トリルゴム等が挙げられる。ワイパブレードに撥インク性を付与するためにフッ素樹脂等によりコーティングしてあるワイパブレードを用いても構わない。
本発明の画像形成方法では上記所定のインク組成物を用いるため、ノズル面のインク組成物由来のインク固着物を固体として容易に掻き取ることができる。」
(カ)上記(オ)の「インク付与工程」と「インク吐出工程」は、インクジェット記録方法の技術分野における技術常識からすれば、同義の工程と認められる。

そうすると、上記(ア)乃至(カ)の記載事項から、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「インクジェット記録用インクセットを用いて、インク組成物をインクジェット記録用吐出ヘッドで記録媒体上にパターン状に付与するインク吐出工程と、メンテナンス液により前記吐出ヘッドに付着したインク組成物を除去するインク除去工程と、を含む画像形成方法であって、
インク組成物は、水、顔料および、耐擦性、耐ブロッキング性、及び耐オフセット性を高める観点から、ポリマー粒子を含み、ポリマー粒子は、熱可塑性のアクリル系の樹脂及びポリウレタン系の樹脂の共重合体又は混合物などの樹脂から構成されるポリマー粒子であり、
インク吐出工程におけるインク吐出時のインクの温度は、吐出時のインクの温調およびワイプ性向上の観点から30℃以上で、また、インク安定性および吐出信頼性の観点から70℃以下であり、
インク吐出ヘッドのインクが付着する可能性のある領域であるノズル面は、インクの付着性を低下させるために、パーフルオロポリマーからなる撥インク膜が設けられ、
インク除去工程は、メンテナンス液を付与後にワイパブレードを用いてノズル面を擦る(ワイピング)、
画像形成方法。」

イ 引用例2
原査定の拒絶の理由において引用され、本願の優先日前の平成7年8月8日に頒布された刊行物である特開平7-205453号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、記録手段から被記録材へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置、および記録手段のインク吐出性能を維持するための吐出回復方法に関する。」
(イ)「【0013】本発明は上記従来技術に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、摺擦部材を使用することなく、低コストで、しかもインク消費量増加およびスループット低下を招くことなく、記録手段のインク吐出性能を維持しつつ、該記録手段の高寿命化を図ることができるインクジェット記録装置および吐出回復方法を提供することである。」
(ウ)「【0022】本例においては、記録ヘッド5は、前記吐出口52がキャリッジ4の走査方向と交叉する方向に並ぶような位置関係で、該キャリッジ4に搭載されている。こうして、画像信号または吐出信号に基づいて対応する電気熱変換体55を駆動(通電)して、液路54内のインクを膜沸騰させ、その時に発生する圧力によって吐出口52からインクを吐出させる記録ヘッド5が構成されている。そして、該記録ヘッド5の吐出口52の近傍には、インク吐出用の前記電気熱変換体55とは別に、該記録ヘッド5を保温するための電気熱変換体(いわゆるサブヒータ)56が設けられている。」
(エ)「【0027】次に、以上説明したインクジェット記録装置を参照して、本発明による記録手段(記録ヘッド)5の吐出回復動作の原理について説明する。本発明は、以下に詳述する吐出回復動作を実行するインクジェット記録装置および当該吐出回復動作の実行方法に係わるものである。本発明者らは、前述したようなインク飛翔方向のズレの原因となる吐出口52近傍の異物、すなわち、吐出口52近傍に形成された極めて薄い固着状態の撥インク性の低い被膜やインクの増粘物などの除去方法を鋭意検討した結果、従来技術のような機械的摺擦力によるものではなく、インクの無い状態で吐出口52近傍を加熱し加熱状態でインクを再充填することにより、付着物の除去が可能であることを見出した。この付着物除去のメカニズムは以下のように考えられる。
【0028】すなわち、付着物は主にインクの組成物であり、元々はインクに可溶性であるが、記録インク吐出時に加熱乾燥と堆積を繰り返して成長したため、付着界面では化学反応により結合し、その上部に高密度の堆積が生じている。したがって、付着物をインクに浸析するだけでは、溶解速度が非常に小さく実用的な除去方法にならない。
【0029】また、吐出口52にインクが存在する状態で加熱した場合、付着界面での結合を壊し、かつ実用的な溶解速度になる温度まで付着物を加熱することは困難である。そこで、本発明の吐出回復方法では、記録ヘッド5の吐出口52内のインクを除去した後で、吐出口52近傍を第1の設定温度まで加熱し、次いで、この第1の設定温度のもとで吐出口52内にインクを再充填し、然る後に、吐出口52近傍を第2の設定温度に冷却するという工程が採られる。
【0030】すなわち、本発明のように一度吐出口52よりインクを除去した後で加熱すれば、短時間のうちに付着物を一層高い温度まで容易に加熱することができ、この状態でインクを再充填すると、付着物は界面から離脱したインクに容易に溶解し、該インクとともに容易に除去することができる。」
(オ)「【0034】…サブヒータ56では、吐出用のヒータ55とは異なり、表面での寿命を考慮する必要がなく長時間使用可能であるため、吐出口52近傍を付着物除去可能な温度まで加熱することができる。…」
(カ)「【0040】図7は本発明を適用した吐出回復動作の第3実施例を示すフローチャートである。図7において、手動または自動により吐出回復動作の命令が装置本体に送られてくると、記録を中断してキャリッジ4をホームポジションHPへ戻し、そこに停止させる(ステップS51)。以下、前述の第1実施例の場合と同様に、インクが吐出しない程度の通常より短いパルス幅と高周波数で記録用ヒータ55を所定時間駆動する(ステップS52、S53)ことにより、該ヒータ55の近傍(吐出口52の近傍)を加熱し、インクが吐出口52から突出した状態で吐出口面51をワイピング(拭き取り)する(ステップS54)ことによりインクの除去を完了する。
【0041】弾性ブレード10により吐出口面51をワイピングした後、記録ヒータ55の短パルス高周波数駆動を停止し(ステップS)(審決注:「ステップS55」の誤記と認める。)、サブヒータ56の駆動を開始する(ステップS56)。サブヒータ56の駆動時間をT2以上に管理することにより吐出口52近傍を付着物除去可能な温度まで加熱する(ステップS57)。この充分に加熱された状態で再度弾性ブレード10による吐出口面51のワイピング(拭き取り)を行い(ステップS58)、その後で吸引回復を行うことにより、記録ヘッド5内にインクを充填させる(ステップS59)。このように加熱状態でワイピングを行うことにより、吐出口面51上の付着物の剥離が促進され、効果的な付着物除去が可能になる。吸引回復後にサブヒータ56を停止し(ステップS60)、記録ヘッド5を冷却するための待機動作に入り(ステップS61)、所定時間T3にわたって待機した後(ステップS62)、待機動作を解除し(ステップS63)、READY状態になる。
【0042】以上図7で説明したシーケンスによる吐出回復動作(吐出回復方法)によれば、前述の第1実施例の場合と同様、前記摺擦部材11を使用することなく、低コストで、インク消費量増加およびスループット低下を招くことなく、記録ヘッド5のインク吐出性能を維持しつつ、該記録ヘッドの高寿命化を図ることができることに加え、加熱状態でのワイピング(拭き取り)効果の向上により必要加熱温度を低く設定することができ、一層低コストな構成で、一層高速で効果的な記録ヘッドの吐出回復動作を行うことができるインクジェット記録装置および吐出回復方法が提供される。」

そうすると、上記(ア)乃至(カ)の記載事項から、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「サブヒータ56で吐出口52近傍をインクの除去が可能な温度まで加熱し、加熱状態でワイピングを行うことにより、吐出口面51上のインクの剥離が促進され、効果的なインクの除去が可能になる吐出回復方法。」

ウ 引用例3
原査定の拒絶の理由において引用され、本願の優先日前の平成24年11月8日に頒布された刊行物である特開2012-214713号公報(以下「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット用インク、かかるインクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法に関する。」
(イ)「【0008】
したがって、本発明の目的は、高い画像濃度、高いレベルの画像の耐擦過性及び耐マーカー性を有し、インクの吐出安定性に優れ、フェイス濡れによる画像ヨレを抑制することができるインクジェット用インクを提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記本発明のインクを用いたインクカートリッジ及びインクジェット記録方法を提供することにある。」
(ウ)「【0068】
<水性媒体>
本発明のインクには、水、又は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、従来、インクジェット用のインクに一般的に用いられているものを何れも用いることができる。例えば、炭素数1乃至4のアルキルアルコール類、アミド類、ケトン類、ケトアルコール類、エーテル類、ポリアルキレングリコール類、グリコール類、アルキレン基の炭素原子数が2乃至6のアルキレングリコール類、多価アルコール類、アルキルエーテルアセテート類、多価アルコールのアルキルエーテル類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類などが挙げられる。これらの水溶性有機溶剤は、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。尚、25℃におけるインクの粘度は6cps以下であることが好ましく、例えば水性媒体の構成や含有量によって調整することができる。25℃におけるインクの粘度が6cpsより大きいと、インクの吐出安定性の向上効果が十分に得られない場合がある。」
(エ)「【0085】
<ポリウレタン樹脂分散体の調製>
(ポリウレタン樹脂分散体PU-1?40の調製)
温度計、撹拌機、窒素導入管、還流管を備えた4つ口フラスコに、ポリイソシアネート(A部及びB部)とポリオール(C部)、酸基を有するジオール(D部)、及び、メチルエチルケトン(300部)を仕込み、窒素ガス雰囲気下80℃で6時間反応させた。その後、架橋剤(E部)を添加し、FT-IRによりイソシアネート基の残存率を確認することで、所望のウレタン結合基とウレア結合基のmol比率になるまで、80℃で反応させた。尚、ウレタン結合基とウレア結合基のmol比率の調整方法の詳細は上述の通りである。反応後、40℃まで冷却してイオン交換水を添加し、ホモミキサーで高速撹拌しながら、水酸化カリウム水溶液を添加した。この樹脂溶液を加熱減圧下でメチルエチルケトンを留去し、固形分20質量%、重量平均分子量35,000以上であるポリウレタン樹脂分散体PU-1?40を得た。各ポリウレタン樹脂分散体の調製条件を表1に示す。得られたポリウレタン樹脂の酸価、ウレタン結合基とウレア結合基のmol比率、ゲル分率を、上記の測定方法により測定した。各ポリウレタン樹脂分散体の特性を表2に示す。」
(オ)「【0091】
(顔料分散体Cの調製)
比表面積が220m^(2)/g、DBP吸油量が112mL/100gであるカーボンブラック500g、アミノフェニル(2-スルホエチル)スルホン45g、蒸留水900gを反応器に入れ、温度55℃、回転数300rpmで20分間撹拌した。その後、25質量%の亜硝酸ナトリウム40gを15分間滴下し、更に蒸留水50gを加え、60℃で2時間反応させた。得られた反応物を蒸留水で希釈しながら取り出し、固形分含有量が15.0質量%となるように調製した。更に、遠心分離処理及び精製処理を行い、不純物を除去して、分散液(1)を得た。分散液(1)中のカーボンブラックは、表面にアミノフェニル(2-スルホエチル)スルホンの官能基が結合した状態であった。この分散液(1)中における、カーボンブラックに結合した官能基のmol数を以下のようにして求めた。分散液(1)中のナトリウムイオンを、プローブ式ナトリウム電極で測定し、得られた値をカーボンブラック粉末当りに換算して、カーボンブラックに結合した官能基のmol数を求めた。次に、分散液(1)をペンタエチレンヘキサミン溶液中に滴下した。この際、ペンタエチレンヘキサミン溶液を強力に撹拌しながら室温に保ち、1時間かけて分散液(1)を滴下した。このとき、ペンタエチレンヘキサミンの含有量は、先に測定したナトリウムイオンのmol数の1?10倍とし、溶液の量は分散液(1)と同量とした。更に、この混合物を18乃至48時間撹拌した後、精製処理を行い、固形分含有量が10.0質量%の分散液(2)を得た。分散液(2)中のカーボンブラックは、表面にペンタエチレンヘキサミンが結合した状態であった。
【0092】
次に、重量平均分子量が8,000、酸価が140mgKOH/g、多分散度Mw/Mn(重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn)が1.5であるスチレン-アクリル酸共重合体を190g秤量した。これに1,800gの蒸留水を加え、樹脂を中和するのに必要な水酸化カリウムを加えて、撹拌して樹脂を溶解することで、スチレン-アクリル酸共重合体水溶液を調製した。次に、分散液(2)500gを、上記で得られたスチレン-アクリル酸共重合体水溶液中に撹拌下で滴下した。この分散液(2)及びスチレン-アクリル酸共重合体水溶液の混合物を蒸発皿に移し、150℃で15時間加熱して、乾燥させた後、乾燥物を室温に冷却した。次いで、水酸化カリウムを用いてpHを9.0に調整した蒸留水に上記で得られた乾燥物を加えて、分散機を用いて分散し、更に撹拌下で1.0規定の水酸化カリウム水溶液を添加して、液体のpHを10乃至11に調整した。その後、脱塩、精製処理を行って不純物及び粗大粒子を除去した。上記の方法により、樹脂結合型カーボンブラックが水中に分散された状態の顔料分散体Cを得た。顔料分散体Cの顔料(固形分)の含有量は10.0質量%、pHは10.1であり、顔料の平均粒子径は130nmであった。」
(カ)「【0096】


(キ)上記(ウ)?(カ)より、実施例3のインクは、スチレン-アクリル酸共重合体及びポリウレタン樹脂を含有する水性インクであると認められる。

そうすると、上記(ア)乃至(キ)の記載事項から、引用例3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。
「スチレン-アクリル酸共重合体及びポリウレタン樹脂を含有する水性インク。」

エ 引用例4
原査定の拒絶の理由において引用され、本願の優先日前の平成19年7月12日に頒布された刊行物である特表2007-518587号公報(以下「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥液特性を有するノズル表面を備えるインクジェットヘッドであって、前記ノズル表面は、フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物と、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物とからつくられる縮合生成物を含む、インクジェットヘッド。」
(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドの中のノズルの表面における撥液加工である。」
(ウ)「【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、上記の多数の点を考慮してなされ、高い撥液性、拭き取りに対する高い耐久性(高い撥液性を維持する)、拭き取りの容易さおよびノズル材料への高い接着力を同時に提供するために、および高品質画像記録を実現するインクジェットヘッドの撥液材料を提供するために実行される。
【0027】
さらに、本発明は、上記撥液材に感光特性を付与し、高品質画像記録のためのインクジェットヘッドの製造方法を提供するものである。
【0028】
上記目的を達成するように設計された本発明は、射出表面は撥液特性を有し、前記射出開口部表面はフッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物およびカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物を含む縮合生成物でつくられるインクジェットヘッドである。」
(エ)「【0045】 上記では、縮合生成物は、それぞれが含有するフッ素原子の数が異なる、フッ素含有基を有する少なくとも二種の加水分解性シランを用いて調製される。
【0046】
例えば、C_(6)F_(13)-C_(2)H_(4)-SiX_(3)、C_(8)F_(17)-C_(2)H_(4)-SiX_(3)およびC_(10)F_(21)-C_(2)H_(4)-SiX_(3)が同時に用いられる場合である。上記フッ素含有基は、撥液層の表面に配列される傾向を有する。この時、異なる長さのフルオロアルキル基の存在下では、すべてのフルオロアルキル基が同じ長さを有する場合と比べて、表面のフッ化物濃度が高くなるので、本発明者らは、撥液性、拭き取り抵抗性および記録液抵抗性が改善されることを見いだした。この現象の理由については明らかでないが、フルオロアルキル基は直線の形状を有し、フッ素原子の高い電子密度の斥力に対して表面で最適な立体配座をとるので、異なる長さのフルオロアルキル基は、自身のより高い密度で存在できると考えられる。」
(オ)「【0074】
図2Aに示すように、ベース部材22の上にノズル材料21を作製する。次に、フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物、必要ならアルキル置換、アリール置換または非置換加水分解性シラン化合物の加水分解反応を実行して調製した加水分解性縮合生成物を含有する液体を塗布することによって、ノズル材料23の上に撥液層23を作製する(図2B)。」

そうすると、上記(ア)乃至(オ)の記載事項から、引用例4には、次の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されているものと認められる。
「フルオロアルキル基を有する加水分解性シラン化合物、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物の加水分解反応を実行して調製した加水分解性縮合生成物を含有する液体を塗布することによって、ノズル材料の上に撥液層を作製する方法。」

(3)対比
本願補正発明1と引用発明1とを対比すると、
ア 後者の「『インクジェット記録用インクセットを用い』た、『画像形成方法』」、「ノズル」、「ノズル面」、「撥インク膜を設ける」、「インクジェット記録用吐出ヘッド」、「ノズル面を擦る(ワイピング)」、「ワイパブレード」、「水、および、ポリマー粒子を含む、インク組成物」及び「インクジェット記録用吐出ヘッドで記録媒体上にパターン状に付与する」は、それぞれ、前者の「インクジェット記録方法」、「吐出口」、「吐出口面」、「撥水処理」、「記録ヘッド」、「ワイピングする」、「ワイピング手段」、「樹脂を含有する水性インク」及び「吐出口から吐出して記録媒体に画像を記録する」に相当する。
イ 後者の「ノズル面」は、撥インク膜が設けられているものであるから、前者の「撥水面」に相当する。

したがって、両者は、
「吐出口が設けられた吐出口面が撥水処理された撥水面である記録ヘッドと、前記撥水面をワイピングするためのワイピング手段と、を備えたインクジェット記録装置を使用し、樹脂を含有する水性インクを前記吐出口から吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記ワイピング手段により前記撥水面をワイピングする、
インクジェット記録方法。」
の点で一致し、以下の点で、相違する。

[相違点1]
本願補正発明1が、撥水面を加熱するための加熱手段を備え、加熱手段により撥水面を加熱した後、ワイピング手段により撥水面をワイピングするとともに、撥水面のワイピング後まで撥水面を加熱し続ける加熱工程を有し、撥水面の加熱温度が、70℃以下であるのに対し、引用発明1は、撥水面を加熱すること及び加熱温度が不明である点。

[相違点2]
水性インクに含有する樹脂が、本願補正発明1は、アクリル樹脂及びウレタン樹脂を含むものであるのに対し、引用発明1は、共重合体又は混合物を構成する樹脂として熱可塑性のアクリル系の樹脂及びポリウレタン系の樹脂が例示されているにすぎない点。

[相違点3]
撥水面を形成するものが、本願補正発明1が、フルオロアルキル基を有する加水分解性シラン化合物、及び、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物の縮合物であるのに対し、引用発明1は、パーフルオロポリマーである点。

(4)判断
上記各相違点について、以下、検討する。
ア [相違点1]について
引用発明2の「サブヒータ56」は、本願補正発明1の「加熱手段」に相当する。
そして、引用発明2には、「加熱状態でワイピングを行うことにより、吐出口面51上のインクの剥離が促進され、効果的なインクの除去が可能になる」という作用効果が記載されていることから、引用発明2には、「加熱手段により吐出口面を加熱した後、ワイピング手段により前記吐出口面をワイピングするとともに、前記吐出口面のワイピング後まで前記吐出口面を加熱し続ける加熱工程」が示唆されているといえる。
してみると、引用発明1の撥インク膜が設けられたノズル面のインク除去工程であるワイピング中において、引用発明2の上記示唆に基づいて、インクの除去が可能な温度まで吐出口の近傍を加熱することは、当業者が容易になし得ることである。
ここで、引用発明1は、インク吐出工程におけるインク吐出時のインクの温度は、インク安定性および吐出信頼性の観点から70℃以下とするものであって、インクジェット記録方法における好ましい設定温度として、70℃以下とすることが示唆されているといえるものである。
そうすると、引用発明1に引用発明2を適用するに際して、撥水面の加熱温度を70℃以下とすることは、引用発明1の上記示唆に基づき、当業者が適宜設定し得る程度のものであって、吐出性能を安定に保つことを課題と認識する当業者であれば、当然試みることともいえる。
そうすると、引用発明1の撥インク膜が設けられたノズル面のインク除去工程に、引用発明2の吐出回復方法を適用するに際し、撥水面の加熱温度を70℃以下とし、上記相違点1に係る本願補正発明1とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

イ [相違点2]について
引用発明1には、水性インクに含有される樹脂として、熱可塑性のアクリル系の樹脂及びポリウレタン系の樹脂が例示されているのであるから、水性インクに含有される樹脂として、アクリル樹脂及びウレタン樹脂が示唆されているといえる。
そして、引用発明3に記載されているように、「スチレン-アクリル酸共重合体及びポリウレタン樹脂を含有する水性インク」すなわち、アクリル樹脂及びウレタン樹脂を含有する水性インクは周知の技術手段であるから(以下「周知技術」という。)、水性インクに含有される樹脂として、アクリル樹脂及びウレタン樹脂が示唆されている引用発明1に、前記周知技術を適用し、相違点2に係る本願補正発明1とすることは当業者が容易に想到し得るものである。

ウ [相違点3]について
引用発明4の「ノズル材料の上の撥液層」、「フルオロアルキル基を有する加水分解性シラン化合物」及び「カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物」は、それぞれ、本願補正発明1の「撥水面」、「フルオロアルキル基を有する加水分解性シラン化合物」及び「カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物」に相当するから、引用発明4の「フルオロアルキル基を有する加水分解性シラン化合物、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物の加水分解反応を実行して調製した加水分解性縮合生成物」は、本願補正発明1の「フルオロアルキル基を有する加水分解性シラン化合物、及び、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物の縮合物」に相当する。
そして、引用発明1は、吐出性能を安定に保つことを課題とするところ、そのような課題は、インクジェット技術の分野においては、自明の課題であって、引用発明4にも、当然、内在する課題である。
そうすると、引用発明1に例示される撥インク膜を構成するパーフルオロポリマーに代えて、引用発明4のフルオロアルキル基を有する加水分解性シラン化合物、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物の加水分解反応を実行して調製した加水分解性縮合生成物を適用することは、適宜なし得る程度のものであるから、上記相違点3に係る本願補正発明1とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

そして、本願補正発明1の発明特定事項によって奏される効果も、引用発明1、引用発明2、引用発明4及び上記周知技術から、当業者が予測し得る範囲内のものである。

なお、請求人は、
「引用文献2に記載の発明における「加熱」は、「記録インク吐出時に加熱乾燥と体積を繰り返して成長」し、「付着界面では化学結合により結合」した付着物(段落[0027]?[0029])の結合を壊して吐出口面から剥離させるための操作です。これに対して、本願発明における「加熱」は、前述の通り、「撥水面に対するインクの付着エネルギー(付着力)を低下させることで、ワイピング直後に撥水面上におけるインクの収縮を促進させ」るための操作です(段落[0023])。すなわち、本願発明における「加熱」と、引用文献2に記載の発明における「加熱」とでは、技術的意義及び解決しようとする課題が明確に相違します。」と主張する(審判請求書5頁22行?6頁2行)。
しかし、引用発明2に、「加熱状態でワイピングを行うことにより、吐出口面51上のインクの剥離が促進され、効果的なインクの除去が可能になる」と記載されていることを踏まえれば、本願補正発明1の「加熱」と引用発明2の「加熱」とは、ワイピング時に行うものであって、ノズル面に対するインク付着力を低下させるという作用を奏する点で共通するものである。
そして、本願補正発明1は、加熱工程におけるインクの物性の変化まで特定するものではないから、引用発明2における「加熱」は、本願補正発明1における「加熱」に相当するといえる。

よって、本願補正発明1は、引用発明1、引用発明2、引用発明4及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることが出来ない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成30年11月6日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「吐出口が設けられた吐出口面が撥水処理された撥水面である記録ヘッドと、前記撥水面をワイピングするためのワイピング手段と、前記撥水面を加熱するための加熱手段と、を備えたインクジェット記録装置を使用し、樹脂を含有する水性インクを前記吐出口から吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記加熱手段により前記撥水面を加熱した後、前記ワイピング手段により前記撥水面をワイピングするとともに、前記撥水面のワイピング後まで前記撥水面を加熱し続ける加熱工程を有し、
前記樹脂が、アクリル樹脂及びウレタン樹脂を含み、
前記撥水面が、フルオロアルキル基を有する加水分解性シラン化合物、及び、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物の縮合物で形成されることを特徴とするインクジェット記録方法。」(以下「本願発明」という。)

2 引用例
平成30年9月5日付けの拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載内容は上記「第2 3 (2)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、実質的に、本願補正発明1の「加熱工程」に関して、「前記撥水面の加熱温度が、70℃以下であり」との限定を省くものである。
そうすると、本願発明と引用発明1とを対比すると、上記「第2 3 (3)対比」での検討を勘案すると、両者は、
「吐出口が設けられた吐出口面が撥水処理された撥水面である記録ヘッドと、前記撥水面をワイピングするためのワイピング手段と、を備えたインクジェット記録装置を使用し、樹脂を含有する水性インクを前記吐出口から吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記ワイピング手段により前記撥水面をワイピングする、
インクジェット記録方法。」
の点で一致し、以下の点で、相違する。

[相違点1]
本願発明が、撥水面を加熱するための加熱手段と、を備え、加熱手段により前記撥水面を加熱した後、前記ワイピング手段により前記撥水面をワイピングするとともに、前記撥水面のワイピング後まで前記撥水面を加熱し続ける加熱工程を有するのに対し、引用発明1は、撥水面を加熱するのか否か不明である点。

[相違点2]
水性インクに含有する樹脂が、本願発明は、アクリル樹脂及びウレタン樹脂を含むものであるのに対し、引用発明1は、共重合体又は混合物を構成する樹脂として熱可塑性のアクリル系の樹脂及びポリウレタン系の樹脂が例示されているにすぎない点。

[相違点3]
撥水面を形成するものが、本願発明が、フルオロアルキル基を有する加水分解性シラン化合物、及び、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物の縮合物であるのに対し、引用発明1は、撥水面を形成するものの材料が明らかでない点。

そして、上記「第2 3 (4)判断」における検討内容を踏まえれば、本願発明は、引用発明1、引用発明2、引用発明4及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明1、引用発明2、引用発明4及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-02-21 
結審通知日 2020-02-25 
審決日 2020-03-09 
出願番号 特願2014-237799(P2014-237799)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 56- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村石 桂一  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 藤本 義仁
小林 謙仁
発明の名称 インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置  
代理人 菅野 重慶  
代理人 竹山 圭太  
代理人 近藤 利英子  
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