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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B32B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B32B
管理番号 1361885
審判番号 不服2019-13279  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-03 
確定日 2020-05-12 
事件の表示 特願2015-94694「積層ポリエステルフィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月15日出願公開、特開2016-210066、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年5月7日の出願であって、平成30年11月12日付けで拒絶理由が通知され、平成31年1月16日に手続補正書及び意見書が提出され、平成31年3月13日付けで最後の拒絶理由が通知され、令和元年5月16日に手続補正書及び意見書が提出され、令和元年7月2日付けで令和元年5月16日にした手続補正を却下し、同日付けで拒絶査定がされた。これに対し、令和元年10月3日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明について
1 本願発明
特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明(以下「本願発明1?10」という。)は、令和元年10月3日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。

「 【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面の表面粗度(Ra)が38?100nmであり、
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、架橋剤及び離型剤を合計70.01重量%以上含有し、離型剤を0.01?15重量%含有し、架橋剤を70?99.99重量%含有し、架橋剤と離型剤以外のポリマーを不揮発成分の割合として30重量%未満含有し、アンモニウム基含有化合物を含有しない塗布液から形成された塗布層を有することを特徴とする積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
水摘接触角が55度以上である、請求項1記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記架橋剤は、2種類以上を組合せて成る、請求項1又は2記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記架橋剤は、オキサゾリン化合物とメラミン化合物を含有する2種類以上の組合せである、請求項3記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記架橋剤は、3種類以上を組合せて成る、請求項1又は2記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記架橋剤は、オキサゾリン化合物とエポキシ化合物とメラミン化合物とを、又はカルボジイミド化合物とエポキシ化合物とメラミン化合物とを含有する3種類以上の組合せである、請求項5記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項7】
前記ポリエステルフィルムは、エステル環状三量体の含有量が0.7重量%以下である、請求項1?6の何れか一項記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項8】
前記ポリエステルフィルムは、3層以上の構成である、請求項7記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項9】
前記ポリエステルフィルムの片面の表面粗度(Ra)が38nm?100nmであり、かつ、反対面側の表面粗度(Ra)が10?25nmである、請求項1?8の何れか一項記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項10】
前記ポリエステルフィルムの片面の表面租度(Ra)が48?100nmである、請求項9記載の積層ポリエステルフィルム。」

2 令和元年7月2日付け補正の却下の決定の理由の概要
令和元年7月2日付け補正の却下の決定の理由の概要は、以下の理由で、いわゆる独立特許要件を満たさないというものである。

(1)進歩性について
請求項1-10に係る発明は、引用文献1-4に記載された発明及び引用文献1、5に記載されたような周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項1-10に係る発明は、特許法第29条第2項に該当し特許出願の際独立して特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2015-003993号公報(周知技術を示す文献)
2.特開2004-122699号公報
3.特開2007-211073号公報
4.特開2008-162222号公報
5.特開2014-12372号公報(新たに引用された文献;周知技術を示す文献)

(2)サポート要件について
本願発明の課題は、ゲージバンドが発生しないポリエステルフィルムを提供すること、熱処理工程を経た後であっても、オリゴマーに起因する異物生成が抑制できる離型フィルムを提供することと認めらる(【0011】)。
ここで、補正後の請求項1には、ポリエステルフィルムの少なくとも片面の表面粗度(Ra)が25?100nmであり、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、架橋剤及び離型剤を合計70.01重量%以上含有し、離型剤を0.01?15重量%含有し、架橋剤を70?99.99重量%含有し、架橋剤と離型剤以外のポリマーを不揮発成分の割合として30重量%未満含有し、アンモニウム基含有化合物を含有しない塗布液から形成された塗布層を有することが記載されているから、ポリエステルフィルムの表面粗度(Ra)が25?100nmである表面上に特定の組成の塗布液から形成された塗布層が存在していない場合も含むものである。一方、本願の発明の詳細な説明に記載された実施例にはポリエステルフィルムの両面に特定の組成の塗布液から形成された塗布層が存在する場合が記載されているのみであり、ポリエステルフィルムの表面粗度(Ra)が25?100nmである表面上に特定の組成の塗布液から形成された塗布層が存在していない場合においても本願の課題を解決し得ることが明細書の記載から明らかだとは言えない。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
請求項1を引用する請求項2-10に係る発明についても同様である。 よって請求項1-10は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
したがって、請求項1-10に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に該当し特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 当審の判断
上記2の理由について検討する。
(1)進歩性について
本願発明1?10は、「ポリエステルフィルムの少なくとも片面の表面粗度(Ra)が38?100nm」とすることで、ゲージバンドを防止するという顕著な効果を有するものであるところ、引用文献1?5のいずれにも、ゲージバンドを防止することを示唆する記載はないから、本願発明1?10が、引用文献1-4に記載された発明及び引用文献1、5に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)サポート要件について
ア 本願発明の課題について
本願明細書には、
「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、離形コーティング後、巻き取った離型フィルムロールにゲージバンドが発生しないポリエステルフィルムを提供すること、さらには、光学部材用の製品として加工した後でも、光学特性・視認性に優れた離型フィルムを提供することであって、具体的には、例えば、150℃条件下での長時間の熱処理や、スパッタリング工程、高温高湿雰囲気下での耐久性試験など、過酷な条件下での工程を経た後であっても、オリゴマーに起因する異物生成が抑制できる離型フィルムを提供することにある。」(下線は当審で付した。)
と記載されており、【0002】?【0009】の記載を参酌しても、ゲージバンドの発生とオリゴマーの析出が技術的に関連する不可分な課題であるとはいえないから、本願発明の課題は、「離形コーティング後、巻き取った離型フィルムロールにゲージバンドが発生しないポリエステルフィルムを提供すること」である。そして、「過酷な条件下での工程を経た後であっても、オリゴマーに起因する異物生成が抑制できる離型フィルムを提供することにある。」は、「さらには、」と記載されている事から、本願発明の必須の課題であるとはいえない。

イ 本願発明1?10が本願発明の課題を解決できることについて
本願明細書の【0032】には、「ポリエステルフィルム表層中の粒子含有量は、少なくとも片面の表面粗度(Ra)が25?100nmになるように配合する。Raは、さらに好ましくは35?80nmの範囲である。本発明において、表面粗度が25nmより低い場合は、離型層をコーティングした後、巻き取った際にゲージバンドが発生するようになり、」と記載されており、実施例1?8、10、参考例1、2及び比較例1?7について、【表2】(【0151】)の「表面粗度(Ra)」の欄及び【表3】(【0152】)の「離型フィルムロール外観」の欄には、表面粗度が11nm及び12nmである比較例1が「C:ゲージバンドの発生が見られる」と記載され、表面粗度が12nm及び27nmである参考例1並びに表面粗度が26nm及び28nmである参考例2が「B:ゲージバンドの発生が僅かに見られる」と記載されている。
そうすると、上記記載から、ゲージバンドが発生は、ポリエステルフィルムの表面粗度が大きい程発生しにくくなり、具体的には、表面粗度が26nmでゲージバンドが発生しないといえると理解できる。
そして、本願発明1?10は、いずれも「ポリエステルフィルムの少なくとも片面の表面粗度(Ra)が38?100nmであ」るから、本願発明の課題を解決できるものであると理解できる。

ウ 小括
したがって、本願発明1?10は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲のものであるから、特許法第36条第6項第1号の規定、いわゆるサポート要件に適合する。

エ 予備的検討
本願発明の課題は、上記3(1)のとおりであるところ、仮に「過酷な条件下での工程を経た後であっても、オリゴマーに起因する異物生成が抑制できる離型フィルムを提供すること」も、本願発明が解決する課題であるとした場合について、検討する。
本願明細書の【0004】には、「しかしポリエステルフィルムの問題として、このような高温の処理にさらされると、フィルム中に含有されるオリゴマー(ポリエステルの低分子量成分、特に環状三量体)が、フィルム内部から析出してくる。このようにして析出してきたオリゴマーが、離型層を通り抜けて、粘着層の内部で結晶化して異物となることで、外観検査に支障を来たすといった問題が生じる。」と記載されており、上記「オリゴマーに起因する異物生成」とは、具体的には、析出してきたオリゴマーが、粘着層の内部で結晶化して異物となることを意味すると理解される。
そして、【0050】及び【0097】?【0099】の記載を参酌すると、本願発明1?10は、架橋剤を多く含み、高密度に架橋された塗布層を形成することで、オリゴマーの塗布層の通過を防止し、粘着層の内部で結晶化して異物となること、すなわちオリゴマーに起因する異物生成、を抑制できることが理解できる。
また、粘着層がポリエステルフィルムの一方の面のみに設けられることは通常の使用形態である。そして、本願発明1?10の塗布層は、当然に粘着層が設けられる面側に設けるものであって、粘着層を片方の面に設ける場合は、当該面側に塗布層が設けることで、オリゴマーに起因する異物生成を抑制できることは明らかである。
そうすると、本願発明1?10は、「過酷な条件下での工程を経た後であっても、オリゴマーに起因する異物生成が抑制できる離型フィルムを提供する」という課題を解決できるものであると理解できる。


第3 むすび
したがって、本願発明1?10は、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-04-22 
出願番号 特願2015-94694(P2015-94694)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B32B)
P 1 8・ 537- WY (B32B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 弘實 由美子塩屋 雅弘  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 横溝 顕範
佐々木 正章
発明の名称 積層ポリエステルフィルム  

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