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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B65D
管理番号 1361972
審判番号 不服2019-12673  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-24 
確定日 2020-05-12 
事件の表示 特願2015-213385「合成樹脂製容器」拒絶査定不服審判事件〔平成29年5月18日出願公開、特開2017-81615、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
この出願(以下「本願」という。)は、平成27年10月29日の出願であって、その主な手続は以下のとおりである。

平成31年1月28日付け
拒絶理由通知
平成31年4月5日
意見書の提出
令和元年年6月28日付け
拒絶査定(以下「原査定」という。)
同年9月24日
本件拒絶査定不服審判の請求、同時に手続補正書の提出
(以下「本件補正」という。)


第2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は次のとおりである。

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1?3について
・引用文献1?3

引用文献等一覧
1.特開2005-280718号公報
2.特開2006-192858号公報
3.特開2005-96466号公報


第3.本件補正
本件補正は、補正前の請求項1に「炭素の組成比が10(atom%)以上、20(atom%)以下である」とあるのを、「炭素の組成比が16(atom%)以上、18(atom%)以下である」と補正するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、かつ、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
そして、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0021】には、「なお、上記の炭素の組成比は、より好ましくは12(atom%)以上、19(atom%)以下とし、さらに好ましくは16(atom%)以上、18(atom%)以下とする。」と記載されているから、新規事項を追加するものではない。
よって、特許法第17条の2第3項から第5項までの要件に違反しているものとはいえない。
そして、以下に示すように、補正後の請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明3」という。)は、特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定、いわゆる独立特許要件を満たすものである。

1.本願発明
本願発明1?3は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される以下の発明である。

「【請求項1】
容器本体の内表面及び外表面の少なくとも一方にバリア被膜を有する合成樹脂製容器であって、
前記バリア被膜が、前記容器本体の表面に隣接する有機ケイ素化合物膜と、該有機ケイ素化合物膜に隣接する酸化ケイ素化合物膜とを備え、
前記有機ケイ素化合物膜は、少なくとも所定の厚み方向位置において、ケイ素、酸素及び炭素の組成比(atom%)のうち、ケイ素と酸素の組成比が互いに等しく、且つ、炭素の組成比が16(atom%)以上、18(atom%)以下であることを特徴とする合成樹脂製容器。
【請求項2】
前記有機ケイ素化合物膜は、前記酸化ケイ素化合物膜に隣接する表面での水接触角が91°以上、99°以下である、請求項1に記載の合成樹脂製容器。
【請求項3】
前記容器本体がポリエステル系の合成樹脂材料により形成されている、請求項1又は2に記載の合成樹脂製容器。」

2.引用文献、引用発明等
(1)引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2005-280718号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器本体の内表面又は外表面の少なくとも一方に、ガスバリア性の高い被膜を有する合成樹脂製の容器であって、
少なくとも前記被膜は、容器本体の表面に位置し窒素、珪素、炭素、水素及び酸素を含む有機系珪素化合物層と、この有機系珪素化合物層の表面に位置し酸化珪素化合物を主成分とする酸化珪素化合物層からなることを特徴とする高いバリア性を有する合成樹脂製容器。」

イ.「【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート製ボトル(以下、PETボトルと言う。)に代表される合成樹脂製容器に関するものであり、該容器へのガスの透過、特に酸素ガス、炭酸ガスの透過を防止して、内容物の品質の安定保持を図ろうとするものである。」

ウ.「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、より高いガスバリア性を有する新規な合成樹脂製容器を提案するところにある。」

エ.「【発明の効果】
【0010】
容器本体の表面(内外面)に、被膜の第一層として窒素を含有する有機系珪素化合物層を位置させ、該有機系珪素化合物層の表面に第二層として酸化珪素化合物を主成分とする酸化珪素化合物層を成膜すると、二種の膜の相乗効果でもってガスバリア性が著しく改善される。」

オ.「【0021】
【表2】



カ.「【0022】
表1、2より明らかなように、本発明にしたがう容器(表2の二層成膜)においては、Arガスを添加して有機系珪素化合物層を成膜した容器(表1の二層成膜)に比べて酸素バリア性(BIF値)が1.3倍程度、また、水分バリア性(透湿度、BIF値)が1.2倍程度向上しており、PETボトル単体の容器や、酸化珪素化合物を主成分とする層のみを成膜したPETボトルよりも酸素バリア性、及び水分バリア性がさらに向上することが確認できた。」

キ.「【図1】



上記ア.?キ.によれば、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「容器本体の内表面又は外表面の少なくとも一方に、ガスバリア性の高い被膜を有する合成樹脂製の容器であって、
前記被膜は、容器本体の表面に位置し窒素、珪素、炭素、水素及び酸素を含む有機系珪素化合物層と、この有機系珪素化合物層の表面に位置し酸化珪素化合物を主成分とする酸化珪素化合物層からなる、
合成樹脂製容器。」

(2)引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2006-192858号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、基材フィルムと、該基材フィルムの一方の面に設けたバリア性層とからなり、更に、該バリア性層は、少なくとも3室以上の製膜室を使用し、かつ、各室毎に、少なくとも、有機珪素化合物の1種以上からなる製膜用モノマ-ガス、酸素ガス、および、不活性ガスを含有する製膜用混合ガス組成物の各ガス成分の混合比を変えて調製した3以上の製膜用混合ガス組成物を使用し、その各製膜用混合ガス組成物を使用して製膜した3層以上のプラズマ化学気相成長法による炭素含有酸化珪素膜からなり、更に、該各炭素含有酸化珪素膜は、その膜中に炭素原子を含有し、かつ、各酸化珪素膜毎に炭素含有量が異なることを特徴とするバリア性フィルム。
・・・
【請求項5】
1の製膜用混合ガス組成物が、1の製膜用混合ガス組成物中の製膜用モノマ-ガス(M)と酸素ガス(O)との体積比V_(O)/V_(M)をRとしたとき、0.1≦R<2.5の範囲であることを特徴とする上記の請求項1?4のいずれか1項に記載するバリア性フィルム。
【請求項6】
2の製膜用混合ガス組成物が、2の製膜用混合ガス組成物中の製膜用モノマ-ガス(M)と酸素ガス(O)との体積比V_(O)/V_(M)をRとしたとき、2.5≦R<5.0の範囲であることを特徴とする上記の請求項1?5のいずれか1項に記載するバリア性フィルム。
【請求項7】
3の製膜用混合ガス組成物が、2の製膜用混合ガス組成物中の製膜用モノマ-ガス(M)と酸素ガス(O)との体積比V_(O)/V_(M)をRとしたとき、5.0≦R<15.0の範囲であることを特徴とする上記の請求項1?5のいずれか1項に記載するバリア性フィルム。
【請求項8】
炭素含有酸化珪素膜は、Si原子数100に対し、O原子数80?120、C原子数100?150の成分割合からなり、更に、1030cm^(-1)?1060cm^(-1)の間にSi-O-Si伸縮振動に基づくIR吸収があり、かつ、1274±4cm^(-1)にSi-CH_(3)伸縮振動に基づくIR吸収があることを特徴とする上記の請求項5に記載するバリア性フィルム。
【請求項9】
炭素含有酸化珪素膜は、Si原子数100に対し、O原子数100?150、C原子数100以下の成分割合からなり、更に、1045cm^(-1)?1075cm^(-1)の間にSi-O-Si伸縮振動に基づくIR吸収があり、かつ、1274±4cm^(-1)にSi-CH_(3)伸縮振動に基づくIR吸収があることを特徴とする上記の請求項6に記載するバリア性フィルム。
【請求項10】
炭素含有酸化珪素膜は、Si原子数100に対し、O原子数150?190、C原子数80以下の成分割合からなり、更に、1045cm^(-1)?1075cm^(-1)の間にSi-O-Si伸縮振動に基づくIR吸収があり、かつ、1274±4cm^(-1)にSi-CH_(3)伸縮振動に基づくIR吸収があることを特徴とする上記の請求項7に記載するバリア性フィルム。


イ.「【技術分野】
【0001】
本発明は、バリア性フィルムに関し、更に詳しくは、例えば、包装用材料等に使用されるバリア性素材として、酸素ガス、水蒸気等の透過を阻止するガスバリア性に優れ、更に、そのガスバリア性の性能の低下も認められない極めて有用なバリア性フィルムに関するものである。」

ウ.「【0069】
(実験例1)
上記の実施例1?7、および、比較例1で製造したバリア性フィルムについて、酸素透過度および水蒸気透過度を測定した。
(1).酸素透過度の測定
これは、バリア性フィルムについて、温度23℃、湿度90%RHの条件で、米国、モコン(MOCON)社製の測定機〔機種名、オクストラン(OX-TRAN2/20)〕にて測定した。
(2).水蒸気透過度の測定
これは、バリア性フィルムについて、温度40℃、湿度90%RHの条件で、米国、モコン(MOCON)社製の測定機〔機種名、パ-マトラン(PERMATRAN3/31)〕にて測定した。
上記の測定結果について、下記の表1に示す。
【0070】
(表1)

上記の表1において、酸素透過度の単位は、〔cc/m^(2)/day・23℃・90%RH〕であり、水蒸気透過度の単位は、〔g/m^(2) /day・40℃・90%RH〕である。」

エ.「【0078】
(実験例4)
上記の実施例4で製造したバリア性フィルムについて、そのバリア性層を構成する炭素含有酸化珪素膜の深さ方向の構成成分の膜組成比率を測定した。
これは、バリア性フィルムについて、X線光電子分光装置(Xray Photoelectron Spectroscopy:XPS)を用いて、炭素含有酸化珪素膜の膜表面から深さ方向に元素分析を行い、その際に検出された珪素、酸素、および、炭素量を測定して評価した。
上記の結果について、下記の表4に示す。
・・・
【0079】
(表4)



3.対比・判断
(1)本願発明1
本願発明1と引用発明1を対比すると、引用発明1の「容器本体」は、本願発明1の「容器本体」に相当し、以下同様に、「内表面又は外表面の少なくとも一方」は「内表面及び外表面の少なくとも一方」に、「ガスバリア性の高い被膜」及び「被膜」は「バリア被膜」に、「合成樹脂製の容器」及び「合成樹脂製容器」は「合成樹脂製容器」に、「容器本体の表面に位置」は「前記容器本体の表面に隣接」に、「窒素、珪素、炭素、水素及び酸素を含む有機系珪素化合物層」は「有機ケイ素化合物膜」に、「この有機系珪素化合物層の表面に位置」は「該有機ケイ素化合物膜に隣接」に、「酸化珪素化合物を主成分とする酸化珪素化合物層」は「酸化ケイ素化合物膜」にそれぞれ相当する。

よって、本願発明1と引用発明1は以下の点で一致する。
「容器本体の内表面及び外表面の少なくとも一方にバリア被膜を有する合成樹脂製容器であって、
前記バリア被膜が、前記容器本体の表面に隣接する有機ケイ素化合物膜と、該有機ケイ素化合物膜に隣接する酸化ケイ素化合物膜とを備える、合成樹脂製容器。」

そして、本願発明1と引用発明1は、以下の点で相違している。
<相違点1>
本願発明1は、「前記有機ケイ素化合物膜は、少なくとも所定の厚み方向位置において、ケイ素、酸素及び炭素の組成比(atom%)のうち、ケイ素と酸素の組成比が互いに等しく、且つ、炭素の組成比が16(atom%)以上、18(atom%)以下である」(以下「特定組成比」という。)のに対して、引用発明1は、窒素、珪素、炭素、水素及び酸素を含む有機系珪素化合物層における珪素、炭素、酸素の組成比が不明である点。

<相違点1>について検討する。
ア.引用文献2には、酸素ガス、水蒸気等の透過を阻止するガスバリア性に優れたバリア性フィルムにおけるバリア性層を構成する炭素含有酸化珪素膜について、以下のようなSi原子数、O原子数、C原子数の成分割合が記載されている。

Si原子数:O原子数:C原子数
ア.100:80?120:100?150(上記2.(2)ア.の【請求項8】等参照)
イ.100:100?150:100以下(上記2.(2)ア.の【請求項9】等参照)
ウ.100:150?190:80以下(上記2.(2)ア.の【請求項10】等参照)
エ.100:190:68(上記2.(2)エ.の表4実施例4第1層参照)
オ.100:108:124(上記2.(2)エ.の表4実施例4第2層参照)
カ.100:148:95(上記2.(2)エ.の表4実施例4第3層参照)

上記ア.及びウ.は、上記特定組成比を範囲外とするものであり、上記エ.?カ.は、上記特定組成比から大きく外れたものである。
そして、上記イ.のみが上記特定組成比をその範囲に含むものであるが、C原子数がatom%換算で16?18atom%となる原子数比を100以下の中から選択した上で、Si原子数:O原子数として100:100という一点を選択しなければ、上記特定組成比とはならない。
ここで、C原子数を大きく減らした上記エ.ではO原子数がSi原子数の2倍近く、また、Si原子数とO原子数が近い値である上記オ.ではC原子数がSi及びO原子数を上回っていることからすれば、上記特定組成比となるような組み合わせを選択することが、引用文献2に示唆されているとはいえない。

イ.さらに、引用発明1は、「上記の被膜2を構成する層のうち、有機系珪素化合物層2aについてはその層を形成する際に不活性ガス(Ar等の希ガス元素)の代りに窒素ガスを添加して該化合物層2aを、窒素、珪素、炭素、水素及び酸素を含んだ層にすることにより、ガスバリア性がさらに向上したバリア容器となる。」(段落【0014】)とするものであって、有機系珪素化合物層における珪素、炭素、酸素の組成比に着目したものではないから、引用文献2に記載された組成比を適用する動機付けがない。
また、仮に適用できたとしても、引用文献2には、上記ア.のとおり上記特定組成比に関する示唆がないから、上記<相違点1>に係る本願発明の組成を選択することが容易であるとはいえない。

ウ.また、本願発明1は、上記特定組成比とすることで、以下に示すように「合成樹脂製容器の酸素に対するバリア性を高めるとともに水蒸気に対するバリア性をも高めることができる」(段落【0012】)という格別な作用・効果を奏するものである。

すなわち、本願発明1に対応する本願の実施例2、3と、引用文献2の実施例4(上記2.(2)ウ.の段落【0069】参照)は、その酸素透過度と水蒸気透過度が同条件(本願は段落【0034】、【0035】を、引用文献2は上記2.(2)ウ.の段落【0069】をそれぞれ参照)で測定されており、その結果は以下のように記載されている。

酸素透過度 水蒸気透過度
本願の実施例2 37 10
本願の実施例3 37 12
引用文献2の実施例4 2.2 2.2

上記のように、本願の実施例2、3共に、引用文献2の実施例4に対して酸素透過度と水蒸気透過度のいずれも相当上回っていることから、本願発明1は、上記<相違点1>に係る本願発明の構成を備えることで格別な作用・効果を奏しているといえる。

エ.よって、本願発明1は、引用発明1、及び引用文献2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではないから、独立特許要件を満たすものである。

(2)本願発明2及び3について
本願発明2及び3は、いずれも、本願発明1の上記相違点に係る構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、本願発明2及び3は、引用発明1、及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではないから、独立特許要件を満たすものである。


第4.原査定について
上記のとおり、審判請求時の手続補正は適法であるから、本願発明1?3は、上記第3.1.に示したとおりのものである。
そして、本願発明1?3は、上記第3.3.で述べたとおり、原査定の理由により、引用発明1、及び引用文献2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明できたものとすることはできない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第5.むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-04-22 
出願番号 特願2015-213385(P2015-213385)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B65D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 西山 智宏  
特許庁審判長 高山 芳之
特許庁審判官 横溝 顕範
久保 克彦
発明の名称 合成樹脂製容器  
代理人 片岡 憲一郎  
代理人 杉村 憲司  
代理人 杉村 光嗣  

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