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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65H
管理番号 1361996
審判番号 不服2018-13783  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-17 
確定日 2020-04-30 
事件の表示 特願2014-126092「ポリビニルアルコール系フィルムロール」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月 9日出願公開,特開2015- 63395〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,平成26年6月19日(優先権主張平成25年8月28日)に出願された特許出願であって,平成30年3月7日付けで拒絶理由が通知され,同年5月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年7月25日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされたものである。
本件拒絶査定不服審判は,原査定を取り消す,本件出願は特許をすべきものであるとの審決を求めて,同年10月17日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出され,当審において,令和1年8月26日付けで拒絶理由が通知され,同年10月28日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2 請求項1に係る発明
本件出願の請求項1に係る発明は,令和1年10月28日に提出された手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるものと認められるところ,当該請求項1の記載は次のとおりである。

「幅3?6m,長さ10000?20000mの光学用ポリビニルアルコール系フィルムを円筒状の芯管に巻き取ってなるポリビニルアルコール系フィルムロールであり,該芯管がJIS H4048:2006で規定される6N01または6061を満足するアルミニウム合金からなり,該芯管の外径が150?300mmの範囲にあり,該芯管の円筒長が2?7mの範囲にあり,該芯管の質量が30?150kgの範囲にあることを特徴とするポリビニルアルコール系フィルムロール。」(以下,「本件発明」という。)

3 当審において通知された拒絶理由の概要
当審において令和1年8月26日付けで通知された拒絶理由は,概略次の理由(以下,「当審拒絶理由」という。)を含んでいる。
(進歩性欠如)本件出願の請求項1ないし4(平成30年10月17日に提出された手続補正書による補正後の請求項1ないし4である。)に係る発明は,その優先権主張の日より前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,その優先権主張の日より前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

当審拒絶理由において引用された引用例は,次のとおりである。
引用文献1:特開2001-315885号公報
引用文献2:特開2012-236663号公報

4 引用例
(1)引用文献1
ア 引用文献1の記載
引用文献1は,本件出願の優先権主張の日より前である平成13年11月13日に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献1には,次の記載がある。(下線部は,後述する「引用発明」の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,安定な延伸が可能で,幅広の偏光フィルムの製造原料として有用な偏光フィルム用のポリビニルアルコール系重合体フィルムの保管または輸送方法に関する。
【0002】
【従来の技術】光の透過および遮蔽機能を有する偏光板は,光のスイッチング機能を有する液晶とともに,液晶ディスプレイ(LCD)の基本的な構成要素である。・・・(中略)・・・液晶表示画面の大型化に伴い,従来品以上に幅広の偏光板が求められている。
【0003】偏光板は,一般にポリビニルアルコール系重合体フィルム(以下,ポリビニルアルコール系重合体を「PVA」,ポリビニルアルコール系重合体フィルムを「PVAフィルム」と略記することがある)を一軸延伸させて染色するか,染色した後一軸延伸してから,ホウ素化合物で固定処理を行った(染色と固定処理が同時の場合もある)偏光フィルムに,三酢酸セルロース(TAC)フィルムや酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルムなどの保護膜を貼り合わせた構成となっている。
・・・(中略)・・・
【0005】・・・(中略)・・・このように幅広の偏光フィルムを得るためには,幅広のPVAフィルムが必要である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし,PVAフィルムの幅広化で,PVAフィルムを巻き付けたフィルムロール重量が増加することによって,そのハンドリングの困難性が増すこととなり,そのため,フィルムロールの保管または輸送中にフィルムロール両端面に傷が付くことにより,延伸時にPVAフィルムが切断したり,また,長期保管中にフィルムロールが撓んで,PVAフィルムに皺が発生するなどの問題があった。
【0007】本発明の目的は,安定な延伸が可能で,幅広の偏光フィルムの製造原料として有用な偏光フィルム用PVAフィルムの保管または輸送方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,本発明にかかる偏光フィルム用PVAフィルムの保管または輸送方法は,フィルムと接触する部分の材質が金属またはプラスチックからなり,外径が10cm以上,長さが2m以上でかつフィルム幅より長い筒状のコアに,フィルム厚さ40μm?100μm,フィルム幅2m以上,フィルム長さ1000m以上のPVAフィルムを巻き付けてフィルムロールと成し,該フィルムロールを透湿度が10g/m^(2)/日以下の包装用フィルムで包装して,保管または輸送を行うものである。
【0009】この発明によれば,フィルムロールの保管または輸送中におけるフィルムロール端面の傷の発生やコアの撓みによるPVAフィルムの皺の発生を防止できるので,安定な延伸が可能で,幅広の偏光フィルムが得られる。ここで,コアの外径とは,コアが円筒状の場合,その外周円の直径をいい,コアが角筒状の場合,その外接円の直径をいう。」

(イ) 「【0010】
【発明の実施の形態】以下,本発明を詳細に説明する。・・・(中略)・・・
【0027】本発明において,PVAフィルムはフィルム幅が2m以上であり,2.3m以上が好ましく,2.6m以上がより好ましく,3m以上がさらに好ましく,3.3m以上が最も好ましい。2mよりフィルム幅が狭いと,ネックインの影響がPVAフィルム中央部付近にまで及び,幅広で偏光性能が良好な偏光フィルムが得られない。また,PVAフィルムのフィルム幅が6mを超える場合には,一軸延伸で均一に延伸することが困難な場合があるので,フィルム幅は6m以下が好ましく,5m以下がより好ましい。
【0028】PVAフィルムの厚さは40?100μmであり,45?90μmが好ましく,50?80μmがさらに好ましい。PVAフィルムの厚さが40μm未満では延伸倍率を高くできず,得られる偏光フィルムの偏光性能が低くなる。一方,PVAフィルムの厚さが100μmを超えても偏光性能の向上は見られず経済的でないばかりでなく,延伸のための張力を大きくする必要がある。
【0029】PVAフィルムの長さは,1000m以上であり,1300m以上が好ましく,2000m以上がより好ましく,2300m以上が最も好ましい。長さの上限は特にないが,取り扱い性より,好ましくは10000m以下である。長さが1000m未満では,得られる偏光フィルムに継ぎ目が多くなりロスが増加する。さらに,フィルムロールの巻出し部分と巻き芯部分は延伸条件が安定しないのでロスとなるが,このロス部分はフィルムの長さに関係せず一定なので,長さ収率も低下する。
【0030】PVAフィルムを巻き付ける筒状のコアは,例えば円筒状のもので,外径が10cm以上であり,15cm以上が最も好ましい。コアの外径が10cm未満では,コアが撓んで,PVAフィルムが皺になりやすい。また,コアの外径の上限は特にないが,コアの大型化に従ってフィルムロール径も大きくなり,必要以上に大きな巻出し装置が必要となるので,30cm以下が好ましい。
【0031】通常,PVAフィルムや他のプラスチックフィルムでは,コアの長さをフィルム幅と同一にするが,当該発明のPVAフィルムを巻き付けるコアの長さは,2m以上であり,PVAフィルム幅より長いことが重要である。コアの長さは,PVAフィルム幅よりも1mm?40cm長いものであり,5mm?30cm長いことが好ましく,10mm?30cm長いことが最も好ましい。コアの長さがPVAフィルム幅と同一かまたは短い場合には,保管または輸送途中でフィルムロールの端部に傷が付きやすく,延伸時に傷の部分からPVAフィルムが裂けるため,安定した延伸ができない。また,コアの長さがPVAフィルム幅よりも40cmを超えて長い場合は,コアの材質によってはフィルムロールが撓みやすくPVAフィルムに皺が入りやすい傾向があり,さらに必要以上に大きな巻出し装置が必要となる。コアの長さ方向の中央部にPVAフィルムを巻き付けることが理想であるが,装置の関係上,片側にずらして巻き付けても良い。ただし,コアの両端面が,フィルムロール両端面より外側にはみ出している必要がある。フィルムロール端面には,端面保護のために保護板などの治具を取り付けても良い。
【0032】さらにまた,PVAフィルムと接触する部分のコアの材質は,金属またはプラスチックであることが重要である。金属としては,炭素鋼,高張力鋼,ステンレス鋼などの鉄及び鉄合金,アルミニウム,ジュラルミンなどのアルミニウムおよびアルミニウム合金,銅,黄銅,青銅などの銅および銅合金などが挙げられる。・・・(中略)・・・フィルムと接触する部分のコアが木や紙や布の場合には,保管または輸送中にPVAフィルム中の水分や可塑剤などがコアに移行して,コアが撓み,PVAフィルムに皺が発生するし,巻き芯部に近くなるほどPVAフィルム中の水分や可塑剤の量が減少しているので,安定した延伸ができなくなる。
【0033】また,コアの肉厚は,1.5mm?20mmであり,2mm?15mmが好ましく,3mm?10mmが最も好ましい。コアの肉厚が,1.5mm未満では,コアの材質により強度不足でフィルムロールが撓み,PVAフィルムに皺が発生したり,コアが変形して長期の繰り返し使用に耐えない場合がある。一方,20mmを超えると,コアの材質によりコアの重量が大きくなって,ハンドリングの困難性が増大する場合がある。」

(ウ) 「【0045】実施例1
・・・(中略)・・・フィルム幅2.3m,フィルム厚さ75μmのPVAフィルムを長さ2200mとし,長さ2.35m,外径11.4cm,肉厚7mmの円筒状の硬質ポリ塩化ビニル製コアに巻き付けてフィルムロールとした。・・・(中略)・・・
【0048】実施例2
・・・(中略)・・・フィルム幅2.7m,フィルム厚さ75μmのPVAフィルムを長さ2600mとし,長さ2.72m,外径16.52cm,肉厚3.4mmの円筒状のステンレス製コアに巻き付けてフィルムロールとした。・・・(中略)・・・
【0051】実施例3
・・・(中略)・・・フィルム幅2.0m,フィルム厚さ50μmのPVAフィルムを長さ1300mとし,長さ2.005m,外径11.4cm,肉厚7mmの円筒状の硬質ポリ塩化ビニル製コアに巻き付けてフィルムロールとした。」

(エ) 「【0071】
【発明の効果】以上のように本発明によれば,安定な延伸が可能で,幅広の偏光フィルムの製造原料として有用な偏光フィルム用PVAフィルムが得られる。」

イ 引用文献1の記載から把握される発明
前記ア(ア)ないし(エ)で摘記した記載から,円筒状のコアに,幅広の偏光フィルムの製造原料として有用な偏光フィルム用PVAフィルムを巻き付けたフィルムロールに関する発明を把握することができるところ,当該発明の構成は次のとおりである。

「円筒状のコアに,幅広の偏光フィルムの製造原料として有用な偏光フィルム用PVAフィルムを巻き付けたフィルムロールであって,
前記PVAフィルムは,厚さが50μm?80μm,幅が3.3m以上5m以下,長さが2300m以上10000m以下であり,
前記円筒状のコアは,外径が15cm以上30cm以下,肉厚が3mm?10mmであり,長さが前記PVAフィルムの幅よりも10mm?30cm長く,前記PVAフィルムと接触する部分の材質が金属またはプラスチックからなる,
フィルムロール。」(以下,「引用発明」という。)

(2)引用文献2
ア 引用文献2の記載
引用文献2は,本件出願の優先権主張の日より前である平成24年12月6日に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献2には,次の記載がある。(下線部は,後述する「引用文献2技術」の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,液晶フィルムなどを巻き取って保管するフィルム用巻芯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5(a)に示すものは,液晶フィルムなどを巻き取るための巻芯であり,この種の巻芯は,長尺な管21と,その管21の長手方向両端部に取り付けるボス22とから構成してある。そして,両側の各ボス22の支持部23を支持台25のボス受け26にそれぞれ置くことにより,フィルム27を巻き出し可能な状態で支持するものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
フィルム27を巻いた状態でボス受け26に乗せたとき,その荷重によりボス22の支持部23と取付部24との境界部28に相当の応力が発生するものであった(図5(b)参照)。ボス22を支持台25のボス受け26に置いた状態で巻芯を搬送したときには,揺れや衝撃によってボス22が境界部28で破損する問題点があった。
本発明は,上記課題を鑑みてなされたものであり,保管時あるいは搬送時に加わる衝撃に対して耐久性を備える堅牢なフィルム用巻芯を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のうち請求項1記載の発明は,アルミ押出形材からなる管と,アルミ鍛造品からなるボスとを備え,管は,長手方向両端部にボスをそれぞれ取り付けるものであり,ボスは,支持部と管との取付部を有しており,支持部と取付部との境界部にはRが設けてあることを特徴とする。
・・・(中略)・・・
【0006】
本発明のうち請求項3記載の発明は,管をアルミニウム合金6N01で成形し,ボスをアルミニウム合金6061で成形していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のうち請求項1記載の発明によれば,ボスがアルミ鍛造成形してあることで耐久性が向上するとともに,ボスの支持部と取付部との境界部にRが設けてあることにより,
応力が分散できるころから堅牢なフィルム用巻芯が提供できる。
・・・(中略)・・・
【0009】
本発明のうち請求項3記載の発明によれば,ボスをアルミニウム合金6061で成形し,管をアルミニウム合金6N01で成形しているので,いずれのアルミニウム合金についても加工性や引張強度を有する素材であり,さらに,押出性やコスト面でもフィルム用巻芯として最適なものとなる。」

(イ) 「【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)は,本実施によるフィルム用巻芯を示す縦断面図であり,(b)は,要部を拡大した縦断面図である。
【図2】(a)は,本実施によるフィルム用巻芯をボス受けに載置した状態を示す正面図であり,(b)は,側面図である。
・・・(中略)・・・
【図5】(a)は,従来のフィルム用巻芯を示す縦断面図であり,(b)は,要部を拡大した縦断面図である。」

(ウ) 「【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に,図面に基づいて本実施によるフィルム用巻芯について説明する。本実施によるフィルム用巻芯(以下,巻芯と記す)は,管1と,管1の長手方向両端部に取り付けられるボス2とを備えており,図2(a)(b)のように,支持台9のボス受け10に置かれている。管1は,図1(a)のように,A6N01S-T5(アルミニウム合金6N01を押出し成形したもの)であり,本実施のものでは,管の外径が250mmに設定されている。ボス2は,図1(b)のように,筒状をなす支持部3と,その支持部3よりも径が大きく且つ管1の長手方向両端部に嵌入して取り付ける取付部4とからなっており,A6061FD-T6(アルミニウム合金6061を型鍛造で成形したもの)を使用している。また,支持部3は,長手方向の長さが50mmとしてあり,外径が175mm,内径が155mmである。さらに,取付部4の径は,外径が250mmであり,内径が238mmであり,管1内に飲み込まれる長さは50mmとしてある。また,管1とボス2は,管1の外周側から直交方向に差し込まれるピン6を連通して抜け止めするものであり,そのピン6を嵌入するためのピン孔7a,7bが管1とボス2の取付部にそれぞれ設けてある。
・・・(中略)・・・
【0014】
・・・(中略)・・・
なお,ボス2がフィルム11の荷重や衝撃で破損しないものであるのはもちろん,鍛造性やコスト面も考慮する必要があり,このことから,ボス2の材質選定については,アルミニウム合金2000系,6000系,7000系のうちのいずれかが望ましい。このうち,アルミニウム合金2000系と7000系は,耐食性が悪く,本実施によるフィルム用巻芯のように屋外使用が想定されるものでは,汚れを落とすために水洗浄が行われることから一定の耐食性を有する必要がある。さらに,本実施では,ボス2のアルミニウム合金材2aとして径が200mmを超える押出し棒材を使用することから,強度の高いアルミニウム2000系と7000系では押出し性が悪く製造が難しい。また,アルミニウム合金2000系と7000系は,変形抵抗値が高いことから鍛造成形には適さず,このことからアルミニウム合金6000系が選定される。アルミニウム合金6000系のうち,アルミニウム合金6N01やアルミニウム合金6063は,成形性は良いが強度不足になるため,A6061FD-T6(アルミニウム合金6061)とするものである。
【0015】
管1は,径が大きいため,変形抵抗値の大きな2000系,7000系では押出しが困難であることから,アルミニウム合金6000系が選択され,その中で押出性,コスト,強度を鑑みたときにA6N01S-T5を選定するものである。ボス2と同様にA6061FD-T6で成形したときには,押出し性が悪いためにコスト高になり,また,押出し性の良好なA6063S-T5としたときには,耐力値が想定される使用環境では満たされないことから管1としては適さない。」

(エ) 「【図1】

【図2】

・・・(中略)・・・
【図5】



イ 引用文献2の記載から把握される技術事項
引用文献2の【0014】の「ボス2がフィルム11の荷重や衝撃で破損しないものである」とは,ボス2の強度が十分であることを指していることは明らかであるから,前記ア(ア)ないし(エ)で摘記した記載から,引用文献2に次の技術事項が記載されていると認められる。

「保管時あるいは搬送時に加わる衝撃に対して耐久性を備えるものとするために,アルミ押出形材からなる管の長手方向両端部に,アルミ鍛造品からなるボスをそれぞれ取り付けたフィルム用巻芯において,
押出性,コスト,強度の観点から,前記管の材質としては,アルミニウム合金6N01が適しており,
強度,鍛造性,コスト,耐食性の観点から,前記ボスの材質としては,アルミニウム合金6061が適しており,
前記管の外径は250mmに設定することができること。」(以下,「引用文献2技術事項」という。)

5 対比
ア 技術的にみて,引用発明の「PVAフィルム」,「円筒状のコア」及び「フィルムロール」は,本件発明の「ポリビニルアルコール系フィルム」,「円筒状の芯管」及び「ポリビニルアルコール系フィルムロール」にそれぞれ対応する。

イ 引用発明の「PVAフィルム」(本件発明の「ポリビニルアルコール系フィルム」に対応する。以下,「5 対比」欄において,「」で囲まれた引用発明の構成に付した()中の文言は,当該引用発明の構成に対応する本件発明の発明特定事項を表す。)の幅は,「3.3m以上5m以下」という数値範囲内の値であるから,「3?6m」という本件発明の「ポリビニルアルコール系フィルム」の幅の数値範囲を満足する。
また,引用発明の「PVAフィルム」は,幅広の偏光フィルムの製造原料として有用な偏光フィルム用PVAフィルムであるところ,偏光フィルムの製造原料として用いられることは,偏光フィルムという光学用途に用いられることにほかならないから,引用発明の「幅広の偏光フィルムの製造原料として有用な偏光フィルム用PVAフィルム」は「光学用PVAフィルム」であるといえる。
さらに,引用文献1の【0003】の記載によると,引用発明の「PVAフィルム」とは,ポリビニルアルコール系重合体フィルムのことであるから,本件発明の「ポリビニルアルコール系フィルム」との間に,材質上の差異はない。
したがって,引用発明の「PVAフィルム」と,本件発明の「ポリビニルアルコール系フィルム」は,「幅3?6mの光学用ポリビニルアルコール系フィルム」である点で一致する。

ウ 引用発明の「フィルムロール」(ポリビニルアルコール系フィルムロール)は,「円筒状のコア」に,「幅広の偏光フィルムの製造原料として有用な偏光フィルム用PVAフィルム」を巻き付けたものであるから,「幅広の偏光フィルムの製造原料として有用な偏光フィルム用PVAフィルム」(光学用ポリビニルアルコール系フィルム)を「円筒状のコア」(円筒状の芯管)に巻き取ってなるPVAフィルムロールであるといえる。
したがって,引用発明の「フィルムロール」と,本件発明の「ポリビニルアルコール系フィルムロール」は,「光学用ポリビニルアルコール系フィルムを円筒状の芯管に巻き取ってなるポリビニルアルコール系フィルムロール」である点で共通する。

エ 「15cm以上30cm以下」という引用発明の「円筒状のコア」の外径の数値範囲は,「150?300mm」という本件発明の「円筒状の芯管」の外径の数値範囲と一致する。
また,引用発明において,PVAフィルムの幅は3.3m以上5m以下であり,「円筒状のコア」の長さはPVAフィルムの幅よりも10mm?30cm長いのだから,「円筒状のコア」は,最小長さが3.31(=3.3+0.01)mであり,最大長さが5.3(=5+0.3)mである。しかるに,当該「3.31mないし5.3m」という引用発明の「円筒状のコア」の長さの数値範囲は,「2?7m」という本件発明の「円筒状の芯管」の円筒長の数値範囲を満足する。
したがって,引用発明の「円筒状のコア」と,本件発明の「円筒状の芯管」は,「外径が150?300mmの範囲」にあり,「円筒長が2?7mの範囲」にある点で一致する。

オ 前記アないしエに照らせば,本件発明と引用発明は,
「幅3?6mの光学用ポリビニルアルコール系フィルムを円筒状の芯管に巻き取ってなるポリビニルアルコール系フィルムロールであり,該芯管の外径が150?300mmの範囲にあり,該芯管の円筒長が2?7mの範囲にあるポリビニルアルコール系フィルムロール。」
である点で一致し,次の点で一応相違する又は相違する。

相違点1:
本件発明の光学用ポリビニルアルコール系フィルムの長さが,10000?20000mであるのに対して,
引用発明の偏光フィルム用PVAフィルムの長さは,2300m以上10000m以下である点。

相違点2:
本件発明の芯管が,JIS H4048:2006で規定される6N01または6061を満足するアルミニウム合金からなるのに対して,
引用発明のコアは,PVAフィルムと接触する部分の材質が,金属またはプラスチックであり,PVAフィルムと接触する部分以外の部分の材質については,特定されていない点。

相違点3:
本件発明の芯管の質量が,30?150kgの範囲にあるのに対して,
引用発明のコアの質量は,定かでない点。

6 判断
(1)相違点1について
ア 「10000?20000m」という本件発明の光学用ポリビニルアルコール系フィルムの長さの数値範囲は,「2300m以上10000m以下」という引用発明の偏光フィルム用PVAフィルムの長さの数値範囲と,「10000m」という数値で重複している。
そうすると,本件発明は,偏光フィルム用PVAフィルムの長さが「10000m」である場合の引用発明を包含していることになるのであるから,相違点1は実質的な相違点でないというべきである。

イ また,仮に,相違点1を実質的な相違点と考えたとしても,次のとおりである。
引用文献1の【0029】には,偏光フィルム用PVAフィルムの長さについて,「PVAフィルムの長さは,1000m以上であり,・・・(中略)・・・2300m以上が最も好ましい。長さの上限は特にないが,取り扱い性より,好ましくは10000m以下である。長さが1000m未満では,得られる偏光フィルムに継ぎ目が多くなりロスが増加する。さらに,フィルムロールの巻出し部分と巻き芯部分は延伸条件が安定しないのでロスとなるが,このロス部分はフィルムの長さに関係せず一定なので,長さ収率も低下する。」と説明されている。
当該説明から,PVAフィルムの長さの下限については,ロスを抑制するという観点から,1000m以上にする必要があるが,その上限については,特に制限されるものでなく,取り扱い性等を考慮して適宜決定できる事項であることを把握することができるから,引用文献1の記載に接した当業者は,引用発明において,PVAフィルムの長さは,1000m以上という条件を満足する限りは,適宜の値に変更できるものと理解すると認められる。
そうすると,引用発明において,偏光フィルム用PVAフィルムの長さを10000?20000mという範囲内の値に設定すること,すなわち,相違点1に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備するものにすることは,引用文献1の記載に接した当業者が,適宜なし得た設計変更にすぎないというべきである。

ウ 令和1年10月28日に提出した意見書において,請求人は,「引用文献1のものは,実施例1では2200m,実施例2では2600m,実施例3では1300mと,いずれも3000m以下の長さのものの開示しかなく記載の根拠はありませんから,上記10000mは単に記載されているだけに過ぎません。よって,本件発明と引用文献1とは,上記10000mの一点についても重なりがないと解するのが妥当であると思われます。」などと主張する。
しかしながら,引用文献1の【0029】には,PVAフィルムの長さを,2300m以上10000m以下に設定する技術思想が記載されているのであるから,たとえ,引用文献1にPVAフィルムの長さが10000mの実施例が開示されていないとしても,引用文献1の記載からはPVAフィルムの長さが10000mである引用発明を把握できるというべきである。
また,仮に,引用文献1の記載からは,PVAフィルムの長さが10000mである引用発明を把握することができず,請求人が主張するように,本件発明のポリビニルアルコール系フィルムの長さの数値範囲と,引用発明のPVAフィルムの長さの数値範囲との間に,重なる部分はないと解した場合であっても,前記イで述べたとおり,引用発明において,偏光フィルム用PVAフィルムの長さを10000?20000mという範囲内の値に設定することは,引用文献1の記載に接した当業者が,適宜なし得た設計変更にすぎないから,本件発明が進歩性を有していないとの結論に変わりはない。
したがって,前記請求人の主張は採用できない。

(2)相違点2について
ア 引用文献1の【0033】には,コアの肉厚が1.5mm未満だと,材質によっては,強度不足でフィルムロールが撓み,PVAフィルムに皺が発生したり,コアが変形して長期の繰り返し使用に耐えない場合があることが説明されている。
ここで,引用発明におけるPVAフィルムの総質量は,きわめて大きな値(PVAの比重が1.19ないし1.31の範囲にあるから,引用発明のPVAフィルムの総質量はおよそ452kgないし5.24tの範囲内の値になる。)となることから,コアの材質として,例えば引用文献1の【0032】に記載されている木,紙又は布といった強度が不足するものを用いた場合には,たとえ,コアの肉厚を1.5mm以上にしたとしても,【0033】に記載されている問題が発生してしまうことは,明らかである。
そうすると,引用発明において,「PVAフィルムと接触する部分」(以下,便宜上「接触部分」という。)以外の部分(以下,便宜上「残余部分」という。)のコアの材質が特定されていなくとも,当該材質として,PVAフィルムの総質量に耐え得るような強度に優れた材質を選択することは,当業者が当然に配慮することといえる。
一方,引用文献2には,前記4(2)イで認定したように,
「保管時あるいは搬送時に加わる衝撃に対して耐久性を備える堅牢なものとするために,アルミ押出形材からなる管の長手方向両端部に,アルミ鍛造品からなるボスをそれぞれ取り付けたフィルム用巻芯において,
押出性,コスト,強度の観点から,前記管の材質としては,アルミニウム合金6N01が適しており,
強度,鍛造性,コスト,耐食性の観点から,前記ボスの材質としては,アルミニウム合金6061が適しており,
前記管の外径は250mmに設定することができること。」(引用文献2技術事項)が記載されているところ,引用文献2の記載に接した当業者は,引用文献2技術事項のアルミニウム合金6N01やアルミニウム合金6061が,引用発明のコアの残余部分の材質としても,十分な強度を有するものであり,かつ,コスト等の面からも適していると理解するものといえる。
そして,前記アルミニウム合金6N01やアルミニウム合金6061は,引用文献1の【0032】に,コアの接触部分の材質として例示された「アルミニウム合金」に該当するものであるから,当該アルミニウム合金6N01又はアルミニウム合金6061を,コアの残余部分の材質として用いる場合には,接触部分の材質をこれと異なるものとする必要はなく,コア全体をアルミニウム合金6N01又はアルミニウム合金6061で形成すればよいことは,引用文献1に記載された実施例がいずれも接触部分と残余部分が単一の材質で形成されたものであること(前記4(1)ア(ウ)を参照。)を考慮すると,当業者が直ちに思い至ることというほかない。
以上によると,引用発明において,円筒状のコア全体を,アルミニウム合金6N01又はアルミニウム合金6061で作成すること,すなわち,相違点2に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,引用文献2技術事項に基づいて,当業者が適宜なし得たことと認められる。

イ 令和1年10月28日に提出した意見書において,請求人は,「引用文献2が対象とするフィルムは『液晶フィルムなど』であり(引用文献2:段落[0001]),液晶フィルム(審決注:偏光膜又は偏光フィルムの誤記と解される。)の成形材料である『ポリビニルアルコール系フィルム』を対象とする引用文献1および本件発明とは異なっていますから,引用文献1に引用文献2を組み合わせることは妥当ではありません。」などと主張する。
しかしながら,引用発明のコアと,引用文献2技術事項の巻芯は,フィルムを巻き付ける芯材である点で共通し,かつ,前記アで述べたように,引用文献2技術事項の巻芯の材質であるアルミニウム合金6N01やアルミニウム合金6061が,引用発明のコアの材質としても用いることができるものであることは,引用文献2の記載に接した当業者が直ちに理解できることであるから,引用発明のコアの材質として,引用文献2技術事項の巻芯の材質を用いることには,動機付けが存在する。
したがって,前記請求人の主張は採用できない。
また,同意見書において,請求人は,「仮に,引用文献1と引用文献2とを組み合わせるとしても,引用文献2には,フィルム用巻芯において,管部にはコスト,強度の点からA6N01S-T5(6N01)を選定するが,A6061FD-T6(6061)およびA6063S-T5(6063)は押出し性が悪い,または耐力値の点で適さないと記載があり(引用文献2:段落[0015]),ボス部には成形性や強度の点でアルミニウム合金6061が適するが,アルミニウム合金6N01やアルミニウム合金6063は適さない,とアルミニウム合金の適否および性質について様々な記載がありますから(引用文献2:段落[0014]),長尺化したポリビニルアルコール系フィルムの巻取りに際し,撓みや真円の変形の抑制に効果のある芯管の材料として,何を選択すべきか,たとえ当業者であっても想定することはできないものと思料いたします。」などとも主張する。
しかしながら,請求人が指摘する引用文献2の記載からは,アルミニウム合金6061が,押出性はあまりよくないものの,強度はアルミニウム合金6N01より優れた材料であり,アルミニウム合金6N01が,強度はアルミニウム合金6061ほどではないものの,押出性に優れた材料であることを理解できるのであるから,前記引用文献2の記載に接した当業者は,引用発明において,PVAフィルムの厚みや幅等が各数値範囲の中で上限に近い値であり,総質量がきわめて大きい場合には,強度により優れたアルミニウム合金6061を用い,PVAフィルムの総質量が比較的小さい場合には,アルミニウム合金6061ほどではないものの十分な強度を有するとともにより押出性に優れたアルミニウム合金6N01を用いることを,想定するものと認められる。
したがって,当該請求人の主張も採用できない。

(3)相違点3について
ア アルミニウム合金6N01及び6061の比重は,いずれも「2.70」である。
したがって,前記(2)で述べた構成の変更(アルミニウム合金6N01又は6061の採用)を行った引用発明において,円筒状のコアの質量は,最も軽い場合(コアの外径が15cmで,長さが3.31mで,肉厚が3mm)で,約12.4kg(≒{π×(15/2)^(2)-π×(15/2-0.3)^(2)}×331×2.70/1000)となり,最も重い場合(コアの外径が30cmで,長さが5.3mで,肉厚が10mm)で,約130kg(≒{π×(30/2)^(2)-π×(30/2-1.0)^(2)}×530×2.70/1000)となる。
ここで,当該「約12.4ないし約130kg」というコアの質量の数値範囲は,その大部分が,本件発明の芯管の質量の範囲(30?150kg)と重複しているから,前記(2)で述べた構成の変更を行った発明は,実質上,請求項1に係る発明の相違点3に関する発明特定事項を具備することになるといえる。

イ また,仮に,そうとまでいえないとしても,引用発明において,厚さ,幅及び長さが各数値範囲の中で上限値又はそれに近い値を有しているようなPVAフィルム(あるいは,長さが前記(1)イで述べた「10000?20000m」という範囲内の値であり,その総質量が,厚さ,幅及び長さが各数値範囲の中で上限値又はそれに近い値であるPVAフィルムの総質量と同程度であるようなPVAフィルム)を巻き付ける場合,そのようなPVAフィルムの総質量に耐え得るものにするために,円筒状のコアの外径及び肉厚を,各数値範囲の中で上限値又はそれに近い値に設定することは,当業者にとって当然の設計というべきである。
そして,そのような設定の円筒状のコアの質量は,アルミニウム合金6N01又は6061のもので約130kgという値又はそれに近い値になるから,「30?150kg」という本件発明の芯管の質量の数値範囲を満足する。
したがって,引用発明において,厚さ,幅及び長さが各数値範囲の中で上限値又はそれに近い値を有しているようなPVAフィルムを巻き付けるために,円筒状のコアの質量を約130kgという値又はそれに近い値に設定すること,すなわち,相違点3に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が適宜なし得たことと認められる。

(4)効果について
本件発明が奏する効果は,請求項1に記載された各発明特定事項から,当業者が予測できた程度のものと認められる。

(5)小括
以上のとおり,本件発明は,引用発明及び引用文献2技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 むすび
本件発明は,引用発明及び引用文献2技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-02-28 
結審通知日 2020-03-03 
審決日 2020-03-17 
出願番号 特願2014-126092(P2014-126092)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B65H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 秀之  
特許庁審判長 藤本 義仁
特許庁審判官 清水 康司
畑井 順一
発明の名称 ポリビニルアルコール系フィルムロール  
代理人 井▲崎▼ 愛佳  
代理人 西藤 優子  
代理人 西藤 征彦  

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