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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1362004
審判番号 不服2019-293  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-10 
確定日 2020-04-30 
事件の表示 特願2017- 46686「燃料電池システム及び燃料電池制御プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 9月27日出願公開、特開2018-152206〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成29年3月10日の出願であって、平成30年8月31日付けの拒絶理由の通知に対し、同年10月9日付けで意見書が提出されたが、同年10月19日付けで拒絶査定がなされ(発送日 同年10月23日)、これに対して平成31年1月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、当審において、令和元年11月25日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年12月26日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1?14に係る発明は、令和元年12月26日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「燃料電池の電圧値が予め定めた範囲内に収まるように、前記燃料電池の電流値又は電圧値を設定する設定装置と、
前記設定装置で設定された電流値又は電圧値に近づくように、前記燃料電池の電流値又は電圧値を制御すると共に、前記設定装置で設定された電流値又は電圧値に応じて前記燃料電池に供給される燃料ガスの流量を制御し、前記燃料電池の劣化度合いが進展するにつれて、前記燃料ガスの流量を減少させていく制御装置と、
を備えた燃料電池システム。」

第3 当審拒絶理由の概要

本願の請求項1に係る発明についての当審拒絶理由の理由Bは、概略、次のとおりのものである。
本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、以下の引用例1に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用例1.特開2009-26529号公報

第4 引用例の記載及び引用発明

1.引用例1の記載及び引用発明
(1)当審拒絶理由で引用した引用例1である特開2009-26529号公報には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
ア.「【請求項1】
少なくともひとつの燃料電池セルを有するスタックと、
スタックの温度を検出する温度センサと、
温度センサが検出した温度が閾値より低い場合に該スタックが出力する電圧を目標電圧に維持する電圧制御を実行し、検出した温度が閾値より高い場合に該スタックが出力する電流を目標電流に維持する電流制御を実行する出力制御器と、
を備えることを特徴とする燃料電池装置。」
イ.「【0002】
・・・(中略)・・・スタック(即ち燃料電池セル)は、燃料(典型的には水素であるが、一酸化炭素など、水素以外の物質が燃料となる場合もある)と酸素を反応させて電流を出力する。供給する燃料の量(特に水素の量)を変化させるとスタックが出力する電流が変化する。」
ウ.「【0006】
前述したように、燃料電池装置を定常動作する場合にはスタックは電流制御される。しかし本発明は、スタックの温度が動作下限温度に上昇するまではスタックをあえて電圧制御する。本明細書にいう電圧制御とは、スタックの電圧を目標電圧に一致させる制御をいう。「電圧制御」を実行している間は、スタックから出力される電流はスタックの温度や燃料の量に応じて変化する。」
エ.「【0015】
(第1実施例)本発明の第1実施例に係る燃料電池装置について、図面を参照して説明する。
図1に、本実施例の燃料電池装置100のブロック図を示す。なお、図1は、本発明を説明するために必要な部品のみを示しており、一般的な燃料電池装置が備える部品(改質器等)については図示を省略している。」
オ.「【0016】
本実施例の燃料電池装置100は、複数のスタック10a、10bと、電圧・電流制御器14a、14bと、統括制御器20と、電力制御器16を備える。」
カ.「【0020】
温度センサ12a、12b、電圧・電流制御器14a、14b、は、信号線50を介して統括制御器20に電気的に接続されている。統括制御器20には夫々のセンサ(電圧センサ18a、18b、電流センサ19a、19b、及び温度センサ12a、12b、)の検出結果が入力される。統括制御器20は、入力された検出結果に基づいて、電圧・電流制御器14a、14bに対して電流制御又は電圧制御のいずれか実行させる指令と、制御の目標値(電流制御の場合は目標電流であり、電圧制御の場合は目標電圧)を指令する。
電圧・電流制御器14aは、電圧センサ18aが検出した電圧に基づいて、スタック10aの電圧を目標電圧に維持する電圧制御を実行することができる。また、電圧・電流制御器14aは、電流センサ19aが検出した電流に基づいて、スタック10aの出力電流を目標電流に維持する電流制御を実行することができる。
同様に電圧・電流制御器14bは、スタック10bの電圧を目標電圧に維持する電圧制御とスタック10bの出力電流を目標電流に維持する電流制御を行うことができる。」
キ.「【0021】
次に、燃料電池装置100の動作の概要について説明する。なお以下では、スタック10a、10bを総称する場合には「スタック10」と称し、電圧・電流制御器14a、14bを総称する場合には「電圧・電流制御器14」と称する。」
ク.「【0030】
本実施例の燃料電池装置100では、スタックの温度が動作下限温度Tokより低い場合には、スタックを電圧制御する。具体的には、スタック10の温度が第2温度T1より低い場合(かつスタック10の温度が第1温度T0よりも高い場合)には、目標電圧Vsetを第1電圧V1に設定してスタック10を電圧制御する(図2のステップS106)。第1電圧V1(目標電圧)は、スタックの特性から予め定められる値であり、スタックの劣化が急激に進行しないレベル以上の値に設定される。スタック10はその電圧が第1電圧V1に一致するように出力電流が調整されるため、スタック10の電圧は第1電圧V1より低くなることはない(但し、電圧制御とはいえ多少の電圧変動は起こり得る)。燃料電池装置100の起動時にスタックの温度が低いためにスタックの電圧が急激に低下することを防止できる。スタックの劣化を低減することができる。
さらに、スタック10の電圧が目標電圧Vset=V1となるように電圧制御すると、図3に示すように、スタック10の温度が第2温度T1まで上昇していればスタック10が出力する電流はI1となる。スタック10の温度が(T1-ΔT)の場合にはスタック10が出力する電流はIeとなる。I1とIeの電流差ΔIは小さい。従って、スタック10の内部でΔTの温度分布がある場合でも、スタックの内部で電気的状態の分布(ここでは電流の分布)の不均一さは小さくなる。スタック10を電圧制御すると、スタックの内部の温度分布による電気状態の不均一さを電流制御時の不均一さよりも小さくすることができる。スタック10を電圧制御すると、スタックの内部の温度分布による劣化を低減することができる」
そして、記載カ?クからみて、次の事項が理解できる。
ケ.統括制御器20は、スタック10の目標電圧Vsetを設定し、電圧・電流制御器14は、スタック10の電圧が目標電圧Vsetに一致するように出力電流を調整する。
(2)そうすると、これらの事項からみて、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「スタックの目標電圧Vsetを設定する統括制御器と、
スタックの電圧が目標電圧Vsetに一致するように出力電流を調整する電圧・電流制御器と、
を備える燃料電池装置。」

2.引用例6
本願出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開昭57-204927号公報(以下、「引用例6」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
ア.「第3図は燃料電池の電流密度対燃料電池の電圧の特性図である。図示のように電圧対電流密度(mA/cm^(2))のカーブは、初期状態(実線)のものが5000時経過すると点線で示す90%に低下、即ち劣化する。
第4図は第1図に示すスタックの出力特性を示すグラフであり、イはスタック6,7の出力特性、ロはスタック8,9の出力特性である。スタック8,9はスタック6,7より経年変化により劣化しており、直流電流対直流電圧のカーブがスタック6,7のものよりも低くなっている。」(第2ページ右上欄第10?20行)

3.引用例7
本願出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平4-17269号公報(以下、「引用例7」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
ア.「燃料電池スタックは、スタックの単位セルを構成している電極などの品質のバラツキ,各単位セル毎の電解質含浸量,運転状態などの条件により、同じ仕様の下で設計、製作された燃料電池スタックであっても、各燃料電池スタックの個々の電池出力特性(I-V特性)が第3図のように若干相違する。なお、第3図は2基の燃料電池スタックA,Bに対する各々のI-V特性を示したものである。
このように電池出力特性が相違する2基の燃料電池スタックA,Bを電気的に並列接続し、電気負荷と基準のガス利用率とから求めた発電システム全体での必要な反応ガス量を各燃料電池スタックA,Bに分配供給して運転すると、第3図で明らかなように出力電圧V_(0)に対して燃料電池スタックA,Bが分担する電流I_(A),I_(B)(システム全体での電流はI_(A)+I_(B))の間には各電池特性に相応して差が生じる。つまり電気負荷は各燃料電池スタックA,Bに均等に1/2ずつ分担されず、電池特性の低い燃料電池スタックAの負荷分担比率は小さく、電池特性の高い燃料電池スタックBでは逆に負荷分担比率が大きくなる。」(第2ページ左下欄第1行?右下欄第2行)
イ.「(1)電気出力回路側で各燃料電池スタックが分担する電気負荷を検出する負荷検出手段と、各燃料電池スタック毎にその反応ガス供給ラインの入口側に接続した流量制御弁と、負荷検出値とあらかじめ設定した基準のガス利用率を基に前記流量制御弁の弁開度を制御する流量制御手段とを備え、各燃料電池スタックごとに、基準のガス利用率を維持するよう負荷分担比率に相応して反応ガス供給量を個別制御する。」(第3ページ左上欄第19行?右上欄第7行)
ウ.「前項(1)によれば、並列運転される複数基の燃料電池スタックに対し、各燃料電池スタックの電池出力特性差が原因で各燃料電池スタックの負荷分担比率、つまり各燃料電池スタックに流れる負荷電流が異なる場合でも、各基の燃料電池スタックが基準のガス利用率を維持するように、その負荷分担比率に対応した反応ガス量が供給される。つまり負荷分担の大きな燃料電池スタックは反応ガス供給量が増量され、逆に負荷分担の小さな燃料電池スタックは反応ガス供給量が減量される。これにより、各基の燃料電池スタックで消費する反応ガスのガス利用率が常に安定して発電システム全体で高発電効率を確保できるとともに、特に負荷分担比率の大きな燃料電池スタックがガス欠運転状態となるのを確実に防止できる。」(第3ページ左下欄第6?20行)
エ.「第1図のように電気的に並列接続して発電を行っている燃料電池スタック1A,1Bの運転状態で、燃料電池スタック1Aと1Bとの電池特性差が原因で第3図のように出力電流I_(A)とI_(B)との間に差が生じた場合には、負荷分担比率が小,つまり出力電流の小さな燃料電池スタック1Aに対しては、電流I_(A)の検出値と基準のガス利用率とから必要な反応ガス供給量を演算し、その指令を流量制御弁6A,7Aに与えて燃料電池スタック1Aへの反応ガス供給量を減量制御する。これに対して、負荷分担比率が大,つまり出力電流の大きな燃料電池スタック1Bに対しては、同様な手法で基準のガス利用率の下で運転を行うように、燃料電池スタック1Bへの反応ガス供給量を増量制御する。
これにより燃料電池スタック1Bがガス欠の運転状態に至ることがなく、かつ燃料電池スタック1A,1Bは共に適正なガス利用率の下で高い発電効率を発揮するよう運転される。」(第4ページ右上欄第5行?左下欄第2行)

4.引用例8
本願出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2006-344488号公報(以下、「引用例8」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
ア.「【請求項3】
燃料電池反応により電力を発生する固体酸化物形燃料電池と、電力を貯える蓄電池と、前記固体酸化物形燃料電池及び前記蓄電池の作動を制御するための制御手段とを備えた固体酸化物形燃料電池システムであって、
前記固体酸化物形燃料電池の発電電流に対する発電電圧が設定電圧以下になると、前記制御手段は、前記固体酸化物形燃料電池の発電出力を制限するとともに、前記蓄電池からの放電を行うことを特徴とする固体酸化物形燃料電池システム。」
イ.「【0004】
この種の燃料電池では、一般的に、発電時間の経過とともに発電特性が低下(劣化)し、燃料電池性能が低下した場合(即ち、同一電流条件において、燃料電池の発電電圧が低下した場合)、発電電力(発電電流と発電電圧との積)を維持するために、発電電流が増大させるように制御するようになる。燃料電池のこのような出力制御は、燃料電池スタックでの発熱を増大させることになるために、燃料電池スタックに対する冷却を強める必要がある。
【0005】
リン酸形燃料電池(PAFC)、固体高分子形燃料電池(PEFC)の場合、冷却媒体として水を用いているために、冷却能力を増やすためには冷却水の流量を増加させればよく、それに伴う動力増加は僅かである。これに対して、固体酸化物形燃料電池の場合、冷却媒体として空気(主として、燃料電池反応に利用する反応空気)を用いているために、冷却能力を増やすためには反応空気を供給するための空気ブロアからの送風量を増加させなければならず、それに伴う空気ブロアの消費電力損失増加が大きくなり、燃料電池システム全体としての発電効率が低下する。」
ウ.「【0016】
また、本発明の請求項3に記載の固体酸化物形燃料電池システムによれば、固体酸化物形燃料電池の発電電流に対する発電電圧が設定電圧以下に下がると、制御手段は固体酸化物形燃料電池の発電出力を制限するので、その後はこの制限された発電出力の範囲内で固体酸化物形燃料電池が稼働される。従って、固体酸化物形燃料電池の発電出力の出力電流が抑えられ、発電効率の低下した状態での稼働を抑制しながら固体酸化物形燃料電池の寿命を延ばすことができる。」
エ.「【0032】
一方、固体酸化物形燃料電池2の稼働により燃料電池スタックが劣化してその作動温度が設定温度以上に上昇すると、ステップS3からステップS7に進み、固体酸化物形燃料電池2の最大発電出力の制限が行われる。・・・(中略)・・・尚、固体酸化物形燃料電池2の発電出力の制限は、インバータ10の負荷側出力を制限するとともに、流量コントローラ8を制御して固体酸化物形燃料電池2に供給される燃料ガスの供給量を制御することによって行われる。」
エ.「【0036】
次に、図6?図10を参照して、固体酸化物形燃料電池システムの他の実施形態について説明する。図6は、他の実施形態の固体酸化物形燃料電池システムの制御系を簡略的に示すブロック図であり、図7は、固体酸化物形燃料電池における劣化前後の発電電流と発電電圧との関係を示す図であり、図8は、最大発電電力に関する出力修正データを示す図であり、図9は、最小発電電力に関する出力修正データを示す図であり、図10は、図6の固体酸化物形燃料電池システムの作動の流れを示すフローチャートである。尚、他の実施形態において、図1?図5に示す実施形態と実質上同一のものには同一の参照番号を付し、その説明を省略する。
【0037】
図6において、この他の実施形態の固体酸化物形燃料電池システムにおける制御手段22Aは、温度上昇判定手段28に加えて電圧低下判定手段52を備えており、固体酸化物形燃料電池2の燃料電池スタックの劣化に伴う作動温度の上昇と出力電圧の低下に基づいて固体酸化物形燃料電池の発電出力を制限するように構成されている。」

5.引用例9
本願出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2011-103211号公報(以下、「引用例9」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
ア.「【請求項1】
固体電解質型燃料電池であって、
複数の固体電解質型燃料電池セルを備えた燃料電池モジュールと、
この燃料電池モジュールに燃料を供給する燃料供給手段と、
上記燃料電池モジュールに酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、
上記燃料供給手段から供給する燃料の量を制御する制御手段と、を有し、
上記制御手段は、上記燃料電池モジュールの劣化を判定する劣化判定手段、及び、この劣化判定手段による劣化判定に基づいて複数回運転条件を補正する燃料補正手段を備え、
上記燃料補正手段は、上記燃料電池モジュールが劣化したことが判定された第1劣化判定時において、燃料供給量が減少されるように以後の運転における定格出力電力を低下させる補正を実行し、上記第1劣化判定時よりも後に上記燃料電池モジュールが劣化したことが判定された第2劣化判定時において、燃料供給量が更に減少されるように以後の運転における定格出力電力を、上記第1劣化判定時よりも大きい下げ幅で低下させる補正を実行することを特徴とする固体電解質型燃料電池。」
イ.「【0077】
燃料電池モジュール2が劣化すると、同一の電力を出力している時の燃料電池セルユニット16の温度が高くなるので、固体電解質型燃料電池1の初期使用時と同じ定格電力を得ようとすると燃料電池セルユニット16の温度が上昇し、劣化をさらに進行させることになる。そこで、燃料電池モジュール2が劣化したことが判定されると、燃料供給補正により燃料供給量を決定する曲線が、図10の曲線F0から、曲線F0に対して3%燃料供給量が減少された曲線F1に変更される。この燃料供給補正以後は、同一の要求発電量に対する燃料供給量が減少され、要求発電量に対して実際に出力される電力が低下する。燃料供給補正後は、初期の定格出力電力である700Wの要求電力に対する燃料電池モジュール2の実際の出力電力が、低下された新たな定格出力電力とされる。燃料供給量を減少させることにより、燃料電池モジュール2の過度の温度上昇が防止される。」

第5 対比・判断

1.対比
本願発明と引用発明を対比する。
ア.引用発明の「スタック」は、本願発明の「燃料電池」に相当し、引用発明の「スタックの目標電圧Vset」は、本願発明の、設定装置が設定する「前記燃料電池の電流値又は電圧値」に相当するから、引用発明の「統括制御器」は、本願発明の「設定装置」に相当する。そして、引用発明は、電圧・電流制御器が前記スタックの電圧が前記目標電圧Vsetに維持する電圧制御を行うものであるから(「第4 1(1)エ」参照)、前記統括制御器は、前記スタックの電圧を前記目標電圧Vsetに維持するために前記目標電圧Vsetを設定しているといえる。そうすると、引用発明の「スタックの目標電圧Vsetを設定する統括制御器」は、本願発明の「燃料電池の電圧値が予め定めた範囲内に収まるように、前記燃料電池の電流値又は電圧値を設定する設定装置」に相当する。
イ.引用発明の「出力電流」は、本願発明の「前記燃料電池の電流値又は電圧値」に相当するから、引用発明の「電圧・電流制御器」は、本願発明の「制御装置」に相当する。そして、引用発明の「スタックの電圧が目標電圧Vsetに一致する」ことは、本願発明の「前記設定装置で設定された電流値又は電圧値に近づく」ことに相当するから、引用発明の「スタックの電圧が目標電圧Vsetに一致するように出力電流を調整する電圧・電流制御器」は、本願発明の「前記設定装置で設定された電流値又は電圧値に近づくように、前記燃料電池の電流値又は電圧値を制御すると共に、前記設定装置で設定された電流値又は電圧値に応じて前記燃料電池に供給される燃料ガスの流量を制御し、前記燃料電池の劣化度合いが進展するにつれて、前記燃料ガスの流量を減少させていく制御装置」と、「前記設定装置で設定された電流値又は電圧値に近づくように、前記燃料電池の電流値又は電圧値を制御するする制御装置」の点で一致する。
ウ.引用発明の「燃料電池装置」は、本願発明の「燃料電池システム」に相当する。
エ.以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりと認められる。
【一致点】
燃料電池の電圧値が予め定めた範囲内に収まるように、前記燃料電池の電流値又は電圧値を設定する設定装置と、
前記設定装置で設定された電流値又は電圧値に近づくように、前記燃料電池の電流値又は電圧値を制御する制御装置と、
を備えた燃料電池システム。
【相違点】
前記設定装置で設定された電流値又は電圧値に近づくように、前記燃料電池の電流値又は電圧値を制御する制御装置について、本願発明は、前記設定装置で設定された電流値又は電圧値に応じて前記燃料電池に供給される燃料ガスの流量を制御し、前記燃料電池の劣化度合いが進展するにつれて、前記燃料ガスの流量を減少させていくのに対し、
引用発明は、前記電圧・電流制御器がどのように前記出力電流を調整しているのか直ちには明らかではない点。

2.判断
相違点について検討する。

ア.引用例1の記載、特に記載イ?エ(「第4 1(1)イ?エ」参照)からみて、引用発明は、前記スタックに供給する燃料の量を制御して、前記出力電流を調整している。前記出力電流は、前記スタックの電圧が前記目標電圧Vsetに一致するように調整されており、前記目標電圧Vsetに応じて調整されるといえるから、結果、引用発明は、前記目標電圧Vsetに応じて前記スタックに供給する燃料の量を制御するといえる。前記スタックに供給する燃料の量は、本願発明の「燃料電池に供給する燃料ガスの流量」に相当するから、引用発明においても、前記制御装置(電圧・電流制御器)は、前記設定装置で設定された電流値又は電圧値(目標電圧Vset)に応じて前記燃料電池に供給される燃料ガスの流量(スタックに供給する燃料の量)を制御する。
そして、引用例1、特に図3に記載されているように、引用発明の前記スタックは、電流値が低くなるほど電圧値が高くなる傾向を示す電流電圧特性を有しており、運転時間が蓄積していけば、当然、劣化する。燃料電池の電流電圧特性が電流値を低くするにつれて電圧値が高くなる傾向を示し、燃料電池が劣化するにつれて、前記電流電圧特性が同一の電流値に対する電圧値が低下する方向に変化することは、例えば引用例6?8に記載されているように周知であり、これを考慮すれば、引用発明においても、前記スタックの劣化度合いが進展するにつれて、前記電流電圧特性が同一の電流値に対する電圧値が低くなる方向に変化し、前記スタックの電圧が前記目標電圧Vsetに一致するように調整される前記出力電流の値は、前記目標電圧Vsetの値が一定であっても、より低くなる。
燃料電池で消費される燃料ガスの量と電流値は比例するから、引用発明において、前記出力電流を低く調整するために、前記スタックに供給する燃料の量を少なくすることは、当業者にとって容易である。
してみれば、引用発明において、前記相違点に係る本願発明を特定する事項を備えるようにすることは、当業者にとって容易である。
イ.仮に、引用発明が前記燃料電池に供給する燃料ガスの流量を制御して、前記燃料電池の電流値又は電圧値を制御しているとはいえないとしても、前記「ア」で検討したとおり、引用発明は、前記目標電圧Vsetに応じて前記出力電流を調整し、前記目標電圧Vsetの値が一定であっても、前記スタックが劣化するにつれて、前記出力電流の値はより低く調整される。
そして、前記のとおり、燃料電池で消費される燃料ガスの量と電流値は比例するから、引用発明において、前記設定装置で設定された電流値又は電圧値に応じて前記燃料電池に供給される燃料ガスの流量を制御し、前記燃料電池の劣化度合いが進展するにつれて、前記燃料ガスの流量を減少させていくようにすること、すなわち前記相違点に係る本願発明を特定する事項を備えるようにすることは、やはり、当業者にとって容易である。
ウ.前記「ア」で検討したとおり、引用発明においても、前記制御装置は、前記設定装置で設定された電流値又は電圧値に応じて前記燃料電池に供給される燃料ガスの流量を制御するといえる。
そして、例えば引用例6?9に記載されているように、燃料電池システムにおいて、燃料電池の劣化は周知の技術課題であり、また燃料電池の劣化度合いが進展するにつれて、当該燃料電池に供給される燃料ガスの流量を減少させていくこともまた周知である。
そうすると、燃料電池の劣化は、引用発明においても内在する課題といえ、前記周知の事項を引用発明に適用し、引用発明において、燃料電池の劣化度合いが進展するにつれて、当該燃料電池に供給される燃料ガスの流量を減少させていくことようにすることは、当業者にとって容易である。
このことからみても、引用発明において、前記相違点に係る本願発明を特定する事項を備えるようにすることは、当業者にとって容易である。
そして、これは、仮に、引用発明が前記燃料電池に供給する燃料ガスの流量を制御して、前記燃料電池の電流値又は電圧値を制御しているとはいえないとしても、前記「イ」における検討を併せ考慮すれば、変わるものではない。

エ.更に、燃料電池の劣化度合いが進展するにつれて、当該燃料電池に供給される燃料ガスの流量を減少させていくことは、前記のとおり、周知であるが、それにより、発電効率の低下を抑制し得ることもまた周知である(例えば引用例7,8参照)。そうすると、本願発明の奏する効果に、引用例1に記載された事項及び前記周知の事項に基いて、当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものは見いだせない。

オ.請求人は、令和元年12月26日付けの意見書において、「引用例1にも、スタックが出力する電圧が目標電圧Vsetに一致するように出力電流を調整する燃料電池装置が記載されています。しかしながら、その目的は、スタックの異常な電圧低下を回避しながら所定の電流をスタックから引き出すことにあり、本願発明のように、燃料電池システムの発電効率を維持するためではありません。
燃料電池の電圧値が予め定めた範囲内に収まるように制御を行うという見かけ上の制御が引用文献1と同じであったとしても、得られる効果には相違があります。また、引用文献1には、燃料電池に供給する燃料ガスの流量の制御に関しての記載はおろか示唆さえも存在しません。
このように、たとえ当業者であったとしても、引用文献1と出願時の技術常識をどのように組み合わせてみたところで、燃料電池の電流値ではなく、燃料電池の電圧値を予め定めた範囲内に収まるように制御すれば、燃料電池の劣化度合いが進展したとしても燃料電池システムの発電効率の低下を抑制することができるという技術的思想を容易に想到することは困難です。したがって、本願補正後の請求項1記載の発明は新規性及び進歩性を有するものであると思料いたします。」旨主張している(「【意見の内容】(3)」参照)。
しかしながら、引用発明も燃料電池に供給する燃料ガスの流量を制御しているといえることは、先に検討したとおりである。
また、前記のとおり、燃料電池の劣化度合いが進展するにつれて、当該燃料電池に供給される燃料ガスの流量を減少させ、発電効率の低下を抑制し得ることは周知であって、燃料電池の劣化度合いが進展したとしても燃料電池システムの発電効率の低下を抑制することができるという効果は、引用例1に記載された事項及び前記周知の事項に基いて、当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものではない。
したがって、請求人の前記主張は、採用することができない。

カ.以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び前記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2020-02-25 
結審通知日 2020-03-03 
審決日 2020-03-16 
出願番号 特願2017-46686(P2017-46686)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 笹岡 友陽  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 久保 竜一
長馬 望
発明の名称 燃料電池システム及び燃料電池制御プログラム  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
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