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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1362158
審判番号 不服2019-11591  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-04 
確定日 2020-05-07 
事件の表示 特願2018-112564「構造体」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月18日出願公開、特開2018-161894〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年1月28日(以下、「原出願日」という。)に出願した特願2014-13770号の一部を平成30年6月13日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成31年3月 7日付け:拒絶理由通知書
令和 元年5月14日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年5月29日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
令和 元年9月 4日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和元年9月4日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年9月4日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「基材と、
前記基材の一方の側に配置された無機膜と、を備え、
前記基材の前記無機膜が配置された側はポーラス構造を有する材料により形成され、前記基材の前記無機膜が配置されていない側はポーラス構造を有さない材料により構成されている構造体。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の令和元年5月14日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「基材と、
前記基材の一方の側に配置された無機膜と、を備え、
前記基材の前記無機膜が配置された側はポーラス構造を有する材料により構成されている構造体。」

2 補正の適否
上記1より、本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「基材」について「前記基材の前記無機膜が配置されていない側はポーラス構造を有さない材料により構成されている」ものに限定する補正を含むものであって、この補正は、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献
(ア)原査定の拒絶の理由、すなわち令和元年5月29日付けで通知した拒絶の理由で引用され、本願の原出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開2003-326641号公報(平成15年11月19日出願公開。原査定の引用文献2。以下、「引用文献」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は当審で付与した。)
a「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、多孔質な導電膜を必要とする用途、具体的には、ガス透過性導電膜が必要である燃料電池や酸素分離装置、湿度センサ、ガスセンサなどの用途に対して有用な導電性多孔質層及びその製造方法に関する。詳しくは、金属及び/又は金属酸化物微粒子を含んだ溶液と溶媒吸収量の大きい材料を用い、湿式方式により簡便及び安価に製造可能であり、かつ、高温での熱処理が不要で、広範な材料に対応可能な導電性多孔質層およびその製造方法に関する。」
b「【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明における一実施の形態を具体的に説明する。本発明は少なくとも多孔質基材(1)、導電性多孔質層(2)を有し、多孔質基材(1)上に金属及び/又は金属酸化物の微粒子を含む溶液を塗布することにより、多孔質基材(1)の表面及び/又は層中に、導電性多孔質層(2)を形成するものである。
【0013】本発明は、溶媒吸収量の大きい多孔質基材(1)を用いることを特徴としており、単位重量あたりの表面積が非常に大きく、各種化合物の吸着作用が非常に大きい多孔質材料からなることが好ましい。
【0014】本発明は以下の現象を利用している。金属及び/又は金属酸化物の微粒子を含んだ溶液を、溶媒浸透性の良好な多孔質基材(1)へ塗布することにより、溶媒の迅速な多孔質基材(1)への浸透が起こる。それに伴い、金属及び/又は金属酸化物の微粒子を含んだ溶液が、濃縮されることにより金属及び/又は金属酸化物の微粒子同士の凝集が起こる。凝集した金属及び/又は金属酸化物の微粒子が、多孔質(1)の細孔より大きくなると、溶媒及び、溶媒に溶解している分散剤などや、金属及び/又は金属酸化物の微粒子に吸着している分散剤などが選択的に細孔へ浸透していく。相対して、多孔質基材(1)表面付近では選択的に金属及び/又は金属酸化物の微粒子の凝集体が堆積していき、さらに金属及び/又は金属酸化物の微粒子に比べて分散剤などの量が十分に少なくなることから、金属及び/又は金属酸化物の微粒子同士の接触面積が大きくなり、それに比例して導通パス数が増大し、導電性良好な導電性多孔質層(2)が多孔質基材(1)表面付近に形成される。さらには、前記多孔質基材(1)は、金属及び/又は金属酸化物の微粒子との相互作用、例えばイオン的な中和作用などにより、金属及び/又は金属酸化物の微粒子の凝集を促進させる効果を持つことが好ましく、持たない場合に比べて、さらに良好な導電性の導電性多孔質層(2)が形成される。」
c「【0017】また、導電性多孔質層(2)は下記のようなメカニズムで形成される。金属及び/又は金属酸化物の微粒子が分散している溶液を溶媒浸透性良好な多孔質基材(1)に塗布すると、前述したように、溶媒の浸透と金属及び/又は金属酸化物の微粒子同士の凝集が同時に進行する。つまり、平面状に金属及び/又は金属酸化物の微粒子が堆積した後に凝集が起こるわけではなく、溶媒中で凝集した凝集体が、溶媒の浸透とともに堆積する。その際、空間的に溶媒を含んだ形状で凝集することから、溶媒の多孔質基材(1)への浸透後は、空孔を有し、金属及び/又は金属酸化物微粒子が3次元網目状に凝集した導電性多孔質層が形成される。また、該導電性多孔質層は、気孔構造を有するものである。
【0018】多孔質基材(1)は、多孔質な板やシート、フィルムなどを用いても良いし、微粒子及び/又は繊維状物質を含む多孔質層(1b)を支持体(1a)上に形成して用いても良い。なお支持体(1a)は多孔質でなくても良く、その上に多孔質層(1b)を積層し、多孔質基材(1)としたときに前記したような溶媒吸収能力があれば良い。また、2層以上でも構わない。
【0019】多孔質基材(1)の具体例としては、紙材、多孔質磁器、セラミックフォーム、多孔質ガラス、プラスチックフォーム、その他の多孔質フィルムもしくはシートなどが挙げられるが、その限りではない。
【0020】多孔質基材(1)が支持体(1a)上に多孔質層(1b)を設ける場合の支持体(1a)としては、紙材、多孔質磁器、セラミックフォーム、多孔質ガラス、プラスチックフォーム、その他の多孔質フィルムもしくはシートなどの多孔質材料や多孔質でないフィルムやシートなどが挙げられる。なお、ガスセンサーなどに応用する場合、支持体(1a)も多孔質であることが好ましい。多孔質層(1b)は、多孔質基材(1)としたときに前記したような溶媒吸収能力があれば良く、特に限定するものではないが、微粒子及び/又は繊維状物質を含むものであることが好ましい。」
d「【0028】導電性多孔質層(2)を形成する金属及び/又は金属微粒子酸化物の微粒子としては特に制限するものではないが、具体例としては、金、銀、銅、パラジウム、ニッケル、クロム、亜鉛、コバルト、モリブデン、タングステン、ルテニウム、オスミニウム、イリジウム、鉄、マンガン、白金、ゲルマニウム、錫、ガリウム、インジウム、から選ばれる元素から成る物質、及びその酸化物、及びそれらの合金及び混合物などが挙げられる。中でも導電性の点から金属を用いることが好ましい。」
e「【0037】また、図2に示すように、支持体(1a)と多孔質層(1b)よりなる多孔質基材(1)の表面及び/又は層中に、導電性多孔質層(2)が形成されている構成が挙げられる。ここで、導電性多孔質層(2)は、全面に形成しても、または部分的に形成してもよい。また、多孔質層(1b)は複数層よりなっていてもよい。」
f「【図2】



(イ)上記(ア)から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「多孔質基材(1)と、
多孔質基材(1)上に金属及び/又は金属酸化物の微粒子を含む溶液を塗布することにより多孔質基材(1)の表面に形成された金属及び/又は金属酸化物微粒子が3次元網目状に凝集した導電性多孔質層(2)と、を備え、
多孔質基材(1)は多孔質層(1b)を支持体(1a)上に形成して用いており、多孔質層(1b)は溶媒吸収能力がある多孔質フィルムもしくはシートなどであり、支持体(1a)は多孔質でないフィルムやシートなどである導電膜。」

(3)引用発明との対比・判断
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「多孔質基材(1)」は、本件補正発明の「基材」に相当する。
(イ)引用発明の「多孔質基材(1)は多孔質層(1b)を支持体(1a)上に形成して用いており、多孔質層(1b)は溶媒吸収能力がある多孔質フィルムもしくはシートなどであり、支持体(1a)は多孔質でないフィルムやシートなどである」構成について、「多孔質層(1b)」が溶媒吸収能力がある多孔質フィルムもしくはシートなどであり、「支持体(1a)」が多孔質でないフィルムやシートなどであるから、「多孔質基材(1)」の「多孔質層(1b)」側が「導電性多孔質層(2)」が配置された側であり、「多孔質基材(1)」の「支持体(1a)」側が「導電性多孔質層(2)」が配置されていない側であることは明らかである。
また、「多孔質フィルムもしくはシートなど」はポーラス構造を有する材料であるといえ、「多孔質でないフィルムやシートなど」はポーラス構造を有さない材料であるといえる。
よって、引用発明の「多孔質基材(1)は多孔質層(1b)を支持体(1a)上に形成して用いており、多孔質層(1b)は溶媒吸収能力がある多孔質フィルムもしくはシートなどであり、支持体(1a)は多孔質でないフィルムやシートなどである」構成は、本件補正発明の「前記基材の前記無機膜が配置された側はポーラス構造を有する材料により形成され、前記基材の前記無機膜が配置されていない側はポーラス構造を有さない材料により構成されている」構成に相当する。
(ウ)引用発明の「多孔質基材(1)上に金属及び/又は金属酸化物の微粒子を含む溶液を塗布することにより多孔質基材(1)の表面に形成された金属及び/又は金属酸化物微粒子が3次元網目状に凝集した導電性多孔質層(2)」のうち、「金属及び/又は金属酸化物微粒子が3次元網目状に凝集した導電性多孔質層(2)」は、無機化合物で構成されているといえ、この「導電性多孔質層(2)」は、「多孔質基材(1)の表面に形成され」ているから「多孔質基材(1)」の一方の側に配置されているといえるので、本件補正発明の「前記基材の一方の側に配置された無機膜」に相当する。
(エ)引用発明の「導電膜」は、本件補正発明の「構造体」に相当する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点は次のとおりであり、両者の間に相違点はない。

[一致点]
「基材と、
前記基材の一方の側に配置された無機膜と、を備え、
前記基材の前記無機膜が配置された側はポーラス構造を有する材料により形成され、前記基材の前記無機膜が配置されていない側はポーラス構造を有さない材料により構成されている構造体。」

よって、本件補正発明は、引用発明である。

ウ なお、請求人は、審判請求書において、「引用文献2,3と補正後の新請求項1に記載の発明とは、新請求項1において基材の無機膜が配置されていない側がポーラス構造を有さない材料により構成されている点を特定することで、本願新請求項1に記載の発明は、基材全体がポーラス構造となっている構成をも包含するものではなくなりましたので、上記のような異なる構成と、それに基づく「効果」を有します。」(4.(4-1))と主張している。
しかし、上記ア(イ)で述べたとおり、引用発明は「基材の無機膜が配置されていない側がポーラス構造を有さない材料により構成されている」ものであるから、請求人の上記主張は採用できない。

(4)小括
したがって、本件補正発明は引用文献に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和元年9月4日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和元年5月14日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(2)に記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうちの理由1は、次のとおりのものである。
本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。

引用文献2:特開2003-326641号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記本件補正発明から、「基材」についての「前記基材の前記無機膜が配置されていない側はポーラス構造を有さない材料により構成されている」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)に記載したとおり、引用発明であるから、本願発明も同様に、引用発明である。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-03-06 
結審通知日 2020-03-10 
審決日 2020-03-24 
出願番号 特願2018-112564(P2018-112564)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (B32B)
P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増永 淳司  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 高山 芳之
武内 大志
発明の名称 構造体  
代理人 特許業務法人平木国際特許事務所  

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