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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 B24B
管理番号 1362166
審判番号 不服2019-14842  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-06 
確定日 2020-05-26 
事件の表示 特願2015-62888「研削加工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月20日出願公開、特開2016-182644、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年3月25日の出願であって、主な手続きの経緯は以下のとおりである。
平成30年 9月12日付け 拒絶理由通知
平成30年11月16日 意見書及び手続補正書の提出
平成31年 3月20日付け 拒絶理由通知(最後)
令和 元年 5月27日 意見書の提出
令和 元年 7月30日付け 拒絶査定
令和 元年11月6日 拒絶査定不服審判の請求、これと同時に手続補正書の提出
令和 元年11月29日付け 前置報告

第2 原査定の概要
原査定(令和元年7月30日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
平成30年11月16日提出の手続補正書でした手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

第3 審判請求時の補正について
1.補正の内容
本件審判請求時の補正(以下「本件補正」という。)は、以下の事項を含むものである。
(1)特許請求の範囲の補正
補正前の特許請求の範囲の請求項1の「予め既存のワーク全面の形状をデータ化して記憶しているデータマップから前記センサが測定した前記ワークの一部形状に対応するパターンを含むワーク形状を呼び出し」を、「予め既存のワーク全面の形状をデータ化して記憶しているデータマップ内のデータパターンのうち前記センサが測定した前記ワークの一部形状に対応する前記データパターンを判定し、判定された前記データパターンに含まれるワーク形状を呼び出し」(下線部は、補正箇所を示す。)とする補正事項。

(2)明細書の補正
段落【0013】を、上記(1)の特許請求の範囲の補正に合わせた記載とする補正事項。

2.本件補正の適否の判断
(1)補正の目的
上記特許請求の範囲の補正は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「呼び出されるワーク形状」について、本件補正前に「予め既存のワーク全面の形状をデータ化して記憶しているデータマップから前記センサが測定した前記ワークの一部形状に対応するパターンを含む」ものとされていたものを、「予め既存のワーク全面の形状をデータ化して記憶しているデータマップ内のデータパターンのうち前記センサが測定した前記ワークの一部形状に対応する前記データパターンを判定し、判定された前記データパターンに含まれる」ものとすることで減縮しようとするものであるところ、産業上の利用分野及び解決しようとする課題に変更がないことは明らかであるから、この補正事項は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
また、明細書の補正(段落【0013】の補正)は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためになされたものであるから、同法同条第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
なお、請求項2、3は、請求項1を引用するものであるところ、請求項2、3についても上記請求項1についてと同様に判断できる。また、以下の(2)-(4)についても、請求項1についてと同様である。

(2)当初明細書等に記載された事項の範囲内であるか
特許請求の範囲等の補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしなければならないところ(特許法17条の2第3項)、上記の「最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項」とは、当業者によって,明細書,特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項を意味し、当該補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。
これを踏まえて以下検討する。

ア 当初明細書等の記載事項
当初明細書等には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付与。)。
「【0035】
また、主制御部21では、センサ15が前記ワーク外周位置P1から砥石12と干渉しない手前の前記位置P2上まで移動してウエハWの形状をスキャンして得られた結果と、既存のウエハWの形状をデータ化して予め記憶しているマップ22b内のデータパターンを参照して、例えば今回スキャンして得られた結果が、既存のウエハWから得られたどのパターンに対応しているかを判定し、ウエハW上における残りの位置P2から中心軸線Oまでの範囲における形状を演算して予測することができるようになっている。そして、主制御部21では、その予測に基づいてチルト機構制御部25を介してチルト機構14を制御し、チャックテーブル11の傾きを調整することができるようになっている。
【0036】
図5は研削加工装置10の動作手順の一例を示す図である。その研削加工装置10の動作を、図5の(a)?(f)の順に説明する。
(a) まず、ウエハWが載置される前のチャックテーブル11の形状が測定され、その測定結果が主制御部21のメモリ21bなどに予め格納される。
(b) 次いで、砥石12が上方に、砥石台13と共に移動された状態において、チャックテーブル11上に研削前のウエハWがエアチャックして取り付けられる。また、チャックテーブル11がウエハWと一体に回転するとともに、砥石12が回転しながらウエハWの表面と接触するまで砥石台13と共に下降し、クーラント供給機構17から研削水を供給しながらウエハWの粗研削を行う。ウエハWの粗研削後、クーラント供給機構17による研削水の供給を停止するとともに、砥石12は、チャックテーブル11の傾斜、すなわちチルト機構14によるチャックテーブル11のチルト制御の邪魔にならない位置まで、上方に砥石台13と共に移動される。
(c) その後、センサ15によるウエハWの形状の測定が行われる。この形状の測定では、センサ15がセンサ移動機構18と共に駆動軸19を支点として水平に旋回し、図1及び図2に示すワーク外周位置P1から砥石12と干渉しない手前の位置P2まで移動してウエハWの形状をスキャンし、そのウエハWの形状を測定する。そして、センサ15の測定の結果がデータとして主制御部21に入力される。
(d) 主制御部21では、センサ15が測定したデータとデータマップ22b内に予め格納されているデータパターンを参照し、どのデータパターンと対応しているかを判定し、ウエハW上における残りの位置P2から中心軸線Oまでの範囲における形状を演算して予測する。
(e) そして、主制御部21では、その予測値に基づいてチルト機構制御部25を介してチルト機構14を制御し、チャックテーブル11の回転軸線Oの傾きを調整する。すなわち、ウエハWと砥石52との相対位置関係を調節する。
(f) 次いで、チャックテーブル51がウエハWと一体に回転し、また砥石52が回転しながらウエハWの表面と接触するまで、砥石台53と共に下降し、クーラント供給機構17から研削水を供給しながらウエハWに対する精研削が行われる。これにより、ウエハWは厚みが均一になるように精研削され、ウエハWの粗研削から精研削までの一連の処理が完了する。この研削手順では、ウエハW間のバラツキを抑え、高精度、かつ、厚みの均一性が得られる。」

イ 検討
上記アのとおり、段落【0035】、【0036】には、センサ15がワーク外周位置P1から砥石12と干渉しない手前の前記位置P2上まで移動してウエハWの形状をスキャンして得られた結果と、既存のウエハWの形状をデータ化して予め記憶しているデータマップ22b内のデータパターンを参照して、例えば今回スキャンして得られた結果が、既存のウエハWから得られたどのパターンに対応しているかを判定し、ウエハW上における残りの位置P2から中心軸線Oまでの範囲における形状を演算して予測する旨記載されている。
そして、センサ15によるウエハWの形状の測定に先だって行われるウエハWの粗研削(段落【0036】(b)に記載の工程)は、中心軸線Oを中心として、チャックテーブル11を回転させつつ、砥石12によって行うものであるから、粗研削後のウエハWは、回転軸線Oに対し、回転対称となる表面形状を有することになることは明らかといえる。また、これと対比されるデータマップのデータパターンについても、対比の対象とされる以上、同様に粗研削された後のものであることは明らかであり,当該データパターンに位置P1から位置P2までの形状データが含まれていることも明らかである。
一方、段落【0035】、【0036】には、上記のとおり、今回スキャンして得られた結果が、既存のウエハWから得られたどのパターンに対応しているかを判定し、ウエハW上における残りの位置P2から中心軸線Oまでの範囲における形状を演算して予測する旨の記載があるところ、ウエハW上における残りの位置P2から中心軸線Oまでの範囲における形状は、対応するパターンを基に演算して予測されるものであるから、「予め既存のウエハWの形状のデータを基に作成されるデータパターン」が、少なくともセンサの移動経路上において、ワーク外周位置P1から砥石12と干渉しない手前の位置P2までのウエハWの形状のデータのみでなく、位置P2から回転軸線Oまでをも含んだウエハWの形状のデータを基に作成されるものであることが理解できる。
そして,データマップは,データパターンが記憶されているマップであるから,当該データマップが、少なくともセンサの移動経路上において、ウエハWの外周位置P1から回転軸線Oまでのデータを基に作成されるデータパターンを含むものと理解でき、かつ、上記のとおり、ウエハWが回転軸線Oに対し、回転対称となる表面形状を有することを踏まえれば、ウエハWの外周位置P1から回転軸線Oまでのデータを基に作成されるデータパターンを含むことは、ウエハWの全面についてのデータパターンを含むことと等価のものと理解できる。
したがって、「予め既存のワーク全面の形状をデータ化して記憶しているデータマップ」を有することは、当初明細書等の記載から導き出される事項といえる。

また、上記のとおり、「予め既存のワーク全面の形状をデータ化して記憶しているデータマップ」を有することが当初明細書等の記載から導き出される事項であること、「呼び出されるワーク形状」における「呼び出される」が、参照されることであることは明らかであることを踏まえれば、「呼び出されるワーク形状」、すなわち参照されるワーク形状が、「予め既存のワーク全面の形状をデータ化して記憶しているデータマップ内のデータパターンのうち前記センサが測定した前記ワークの一部形状に対応する前記データパターンを判定し、判定された前記データパターンに含まれる」ものであることも、当初明細書等の段落【0035】、【0036】の記載から明らかである。
そうすると、請求項1に係る本件補正は、当業者によって,明細書,特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。

(3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか
上記(1)のとおり、本件補正のうち、特許請求の範囲の補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるところ、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(4)独立特許要件はあるか
拒絶査定の理由は、上記第2のとおり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないことのみであるところ、本件補正後の請求項1-3に係る発明について新たな拒絶理由を発見しないから、当該発明は、独立特許要件を満たすものである。

(5)まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえないから、本件補正は適法になされたものと認められる。

第4 本願発明
上記第3のとおり、本件補正は認められるから、本願請求項1-3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は、令和元年11月6日提出の手続補正書で手続補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
回転可能に支持された概略円板状のワークの回転軸線の傾きをチルト機構により調節し、前記ワークの回転軸線を含んで対向配設された砥石をワーク表面に当てて前記ワークを研削する研削加工方法であって、
センサを前記ワークの外周位置から前記砥石と干渉しない回転軸線の手前の位置まで移動させて前記ワークの形状を測定するとともに、
予め既存のワーク全面の形状をデータ化して記憶しているデータマップ内のデータパターンのうち前記センサが測定した前記ワークの一部形状に対応する前記データパターンを判定し、判定された前記データパターンに含まれるワーク形状を呼び出し、前記ワークの前記回転軸線の手前の位置から前記回転軸線の位置までの形状を予測し、チルト補正量を算出して前記チルト機構の調整を行う、ことを特徴とする研削加工方法。
【請求項2】
前記センサとして光学式の非接触型センサを使用する、ことを特徴とする請求項1に記載の研削加工方法。
【請求項3】
前記ワークとして半導体ウエハを使用する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の研削加工方法。」

第5 原査定(新規事項)について
原査定の拒絶理由は、前記第2のとおり、平成30年11月16日提出の手続補正書でした手続補正が、以下の二点において、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないことである。
A. マップが「ワーク全面の形状」をデータ化して記憶していることが、当初明細書等の記載からみて当業者にとり自明な事項であると解することはできないこと。
B. 出願当初明細書には、「ワーク形状を呼び出」すことは直接的に明記されていないし、当初明細書等の記載から、データパターンから直接的にワーク形状を呼び出すことが当業者にとり自明であると解することはできないこと。

これらの点について検討すると、A.及びB.のいずれの点についても、当業者によって,明細書,特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであることは、上記第3に示したとおりであるから、原査定を維持することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-05-11 
出願番号 特願2015-62888(P2015-62888)
審決分類 P 1 8・ 55- WY (B24B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 上田 真誠山村 和人  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 大山 健
見目 省二
発明の名称 研削加工方法  
代理人 清水 貴光  

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