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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F |
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管理番号 | 1362181 |
審判番号 | 不服2019-1875 |
総通号数 | 246 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-06-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-02-12 |
確定日 | 2020-05-08 |
事件の表示 | 特願2015- 27590「インダクタンス素子」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月22日出願公開、特開2016-152257〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成27年2月16日の出願であって、平成30年8月28日付けで拒絶理由通知がされ、同年11月1日付けで意見書と補正書が提出されたが、同年11月7日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成31年2月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。 第2.平成31年2月12日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成31年2月12日にされた手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正について(補正の内容) 平成31年2月12日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするもので、 本件補正前に、 「 【請求項1】 異なる初透磁率を有する2種以上の磁性コアを含む複合体の表面の少なくとも一部に接地導体と導通する金属部材を配し、前記複合体と前記金属部材を芯として巻線を施してなることを特徴とするインダクタンス素子。 【請求項2】 前記2種以上の磁性コアは、第1磁性コアと、前記第1磁性コアよりも初透磁率が低い第2磁性コアを含むことを特徴とする請求項1記載のインダクタンス素子。 【請求項3】 前記第1磁性コアは初透磁率が5000以上、前記第2磁性コアは初透磁率が2000以下(0を含まず)であることを特徴とする請求項2に記載のインダクタンス素子。 【請求項4】 前記第1磁性コアまたは前記第2磁性コアは各々1以上の分割体からなることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のインダクタンス素子。 【請求項5】 前記複合体における前記第2磁性コアの体積比率は前記第1磁性コアの体積比率よりも小さいことを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか一項に記載のインダクタンス素子。 【請求項6】 前記金属部材は、少なくとも一部が前記第2磁性コアに接するように配置されてなることを特徴とする請求項2ないし請求項5のいずれか一項に記載のインダクタンス素子。 【請求項7】 前記第1磁性コアと前記第2磁性コアの間の少なくとも一部に弾性部材を配してなることを特徴とする請求項2ないし請求項6のいずれか一項に記載のインダクタンス素子。 【請求項8】 前記第1磁性コアおよび前記第2磁性コアは環状体であり、前記巻線をトロイダル状に施してなることを特徴とする請求項2ないし請求項7のいずれか一項に記載のインダクタンス素子。 【請求項9】 請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載のインダクタンス素子を用いたことを特徴とするチョークコイル。 【請求項10】 請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載のインダクタンス素子を用いたことを特徴とするノイズ対策部品。 」 とあったところを、 本件補正により、 「【請求項1】 異なる初透磁率を有する2種以上の磁性コアを含む複合体の表面の少なくとも一部に接地導体と導通する金属部材を配し、前記複合体と前記金属部材を芯として巻線を施してなり、前記2種以上の磁性コアは、第1磁性コアと、前記第1磁性コアよりも初透磁率が低い第2磁性コアを含み、前記金属部材は、少なくとも一部が前記第2磁性コアに接するように配置されてなることを特徴とするインダクタンス素子。 【請求項2】 前記第1磁性コアは初透磁率が5000以上、前記第2磁性コアは初透磁率が2000以下(0を含まず)であることを特徴とする請求項1に記載のインダクタンス素子。 【請求項3】 前記第1磁性コアまたは前記第2磁性コアは各々1以上の分割体からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインダクタンス素子。 【請求項4】 前記複合体における前記第2磁性コアの体積比率は前記第1磁性コアの体積比率よりも小さいことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のインダクタンス素子。 【請求項5】 前記第1磁性コアと前記第2磁性コアの間の少なくとも一部に弾性部材を配してなることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のインダクタンス素子。 【請求項6】 前記第1磁性コアおよび前記第2磁性コアは環状体であり、前記巻線をトロイダル状に施してなることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のインダクタンス素子。 【請求項7】 請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のインダクタンス素子を用いたことを特徴とするチョークコイル。 【請求項8】 請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のインダクタンス素子を用いたことを特徴とするノイズ対策部品。」 とするものである。(下線部は、補正箇所である。) 2.補正の適否 本件補正は、補正前の請求項2、6を削除して、補正前の請求項1に記載された発明の発明特定事項である「2種以上の磁性コア」に関して「第1磁性コアと、前記第1磁性コアよりも初透磁率が低い第2磁性コアを含み」と初透磁率の大小を限定し、さらに、「金属部材」に関して「少なくとも一部が前記第2磁性コアに接するように配置されて」と配置を限定するものである。また、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)を検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1.に本件補正による請求項1として記載したとおりのものである。 (2)引用文献、引用発明 (ア)引用文献1 原査定の拒絶の理由において引用された、実願昭60-23574号(実開昭61-140617号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は、当審において付加した。以下、同じ。) a.「〔従来の技術〕 近年、電子機器より発生する電磁エネルギーの放出が他の電子機器に悪影響を及ぼし、誤動作を引き起すなど問題となっている。又、その周波数帯域も次第に拡大されつつあり、特に電子機器の電源線を通して外部に発散される電磁波の周波数帯域が広くなり、これを防止するノイズフィルタの抑止周波数帯域も広いものが望まれている。この様な要求に対し、ノイズフィルタに使用するフィルタ用コイルを低周波域用コイルと高周波域用コイルをそれぞれ巻回して形成し、その防止帯域を広げている。 ・・・・ 中 略 ・・・・ ここで、上記チョークコイル2,7のコア1,5には、普通透磁率が高く強磁性体であるフェライトを使用することが多い。第14図は初透磁率の相異する各種フェライトの周波数特性を示したものである。一般に、低周波域(例えば周波数100KHz)において透磁率が高いフェライトは、高周波域(例えば周波数1MHz)では透磁率が低くなる。例えば、図でAの特性曲線をもつフェライトは、周波数300KHzで透磁率は5000μiであるが、周波数1MHzでは1000μiに低下する。これに対しBの特性曲線をもつフェライトは、周波数300KHzで透磁率は2000μiであるが、周波数が2MHzになっても1800μiの透磁率を保持している。」 (明細書1頁14行-4頁1行) b.「〔問題点を解決するための手段〕 この考案の障害波防止用フィルタ装置には、材質又は形状の異なる2種類のコアを互いに積層させ且つこれらのコアを共に芯にしてコイルを巻回して成るノイズフィルタが具備されている。 〔作用〕 材質又は形状の異なる2種類のコアを共に芯にして巻回されたコイルにより、低周波域から高周波域まで広帯域にわたってノイズが除去される。また、一つのコイルを巻回すれば良いので、巻線工数も少なく、小型なものとなる。」(明細書6頁2-13行) c.「〔実施例〕 以下、この考案の実施例を図面について説明する。 第1図はこの考案の一実施例を示す斜視図であり、図において、10,11は互いに積層された2種類の円筒状のコアで、それぞれ材質と形状が異なる。即ち、コア10は比較的低い周波数にて透磁率の高いフェライトにより形成してあり、その形状寸法は外径16(mm)、内径8(mm)、幅4(mm)としてある。また、コア11は比較的高い周波数にて透磁率の高いフェライトにより形成してあり、形状寸法は外径15(mm)、内径8(mm)、幅4(mm)としてある。そして、これらの2種類のコア10,11を共に芯にしてチョークコイル12a,12bを巻回してあり、このチョークコイル12a,12bの一端部及び他端部がそれぞれ入力端子13a,13bと出力端子14a,14bになる。なお、15は絶縁板である。 第2図は上記チョークコイル12a,12bとコンデンサC_(2),C_(3)から成るノイズフィルタの回路図であり、図中15は接地端子を示し、第1図と同一符号は相当部分を示している。このフィルタ回路は、前述した従来例と同様入力端子13a,13bに商用電源が接続され、出力端子14a,14bには電気機器の負荷が接続される。そして、このノイズフィルタ、つまり障害波防止用フィルタ装置を装着した電気機器は、低周波域から高周波域まで広い帯域にわたってノイズが除去される。 次に、上述したノイズの除去について具体例をあげて説明する。今、仮に第3図(a)に示すコイル16とコンデンサC4のフィルタ回路を形成し、そのコイル16の巻数を10T(ターン)とすると共に、第1図に示した2種類のコア10,11を使用した場合(第3図(b)参照)、ノイズの周波数とその減衰特性は第4図に示すようになる。」(明細書6頁14行-8頁10行) d.「 ![]() 」 e.「 ![]() 」 f.「 ![]() 」 g.「 ![]() 」 ・上記b、及びcには、2種類のコア10、11を互いに積層させこれらのコアを共に芯にしてチョークコイル12a、12bを巻回したノイズフィルタが記載されている。 ・上記cには、コア10は比較的低い周波数にて透磁率の高いフェライトにより形成すること、また、コア11は比較的高い周波数にて透磁率の高いフェライトにより形成することが記載されている。 また、上記a及び図14には、一般に、低周波域(例えば周波数100KHz)において初透磁率が高いフェライトAは、高周波域(例えば周波数1MHz)では初透磁率が低くなるものであって、高周波数にて初透磁率の高いフェライトBは、低周波数域ではフェライトAに比べ初透磁率は低いが高周波域においては初透磁率の低下が低くフェライトAよりも高くなることが記載されている。 してみると、引用文献1には、コア10は低周波数にて初透磁率の高いフェライトにより形成され高周波域では初透磁率が低くなるものであって、コア11は高周波数にて初透磁率の高いフェライトにより形成され低周波数域ではコア11に比べ初透磁率は低いことが記載されているといえる。 ・上記b、及びcには、引用文献1のノイズフィルタが、低周波域から高周波域まで広い帯域にわたってノイズが除去できることが記載されている。 したがって、上記引用文献1の記載及び図面並びにこの分野の技術常識を考慮すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認められる。 「2種類のコア10、11を共に芯にしてチョークコイル12a、12bを巻回したノイズフィルタにおいて、 コア10は低周波数にて初透磁率の高いフェライトにより形成され高周波では初透磁率が低くなるものであって、 コア11は高周波数にて初透磁率の高いフェライトにより形成され低周波数ではコア10に比べ初透磁率は低いものであり、 低周波域から高周波域まで広い帯域にわたってノイズが除去されノイズフィルタ。」 (イ)引用文献2 拒絶査定において引用された、特開2011-3560号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 a.「【0001】 本発明は、主として電子機器から発生し、電源線等を伝播する電気的雑音を防止するノイズフィルタに用いられるインダクタンス素子に関する。」 b.「【背景技術】 【0002】 ・・・・中 略・・・・ 【0004】 図5は、従来の一般的なノイズフィルタの回路図の一例を示す図である。図5に示すノイズフィルタ20は、コモンモードノイズを遮り減衰させるためのコモンモードに対する高いインピーダンスと高い結合係数の相互インダクタンスとを有するインダクタンス素子1と、回路基板のグラウンド21に一方の端子が接地され、コモンモードノイズを還流させて打ち消すための一対のコンデンサ22と、ノーマルモードノイズを遮り減衰させるためのノーマルモードに対して高いインピーダンスを有するノーマルモードチョークコイル23と、ノーマルモードノイズを還流させて打ち消すためのコンデンサ24およびコンデンサ25とから構成されている。なお、ノイズフィルタ20に入力される電源26は商用の交流電源を想定し、グラウンド21は大地に接地した状態を想定し、ノイズフィルタ20の出力に接続される負荷27は、スイッチング電源等のノイズを発生する電子機器等を想定している。 【0005】 ここで、インダクタンス素子1が高周波領域にて用いられる場合には、インダクタンス素子1を構成するコイルの線間容量がノイズの遮断特性を劣化させてしまう。そこで、ノイズ抑制に与える悪影響を排除するため、磁気コアを接地すると共に接地した磁気コアに 被覆導線を直接巻回することによりインダクタンス素子を形成する技術が提案されている。このようなインダクタンス素子は、例えば特許文献1及び特許文献2に開示されている。 【0006】 これに対して、磁気コアと被覆導線を巻回して形成したコイルとの間が短絡され磁気特性が低下することを問題とし、磁気コア上に接地導体を形成し、その上に誘電体及び近接導体を順に形成し、さらにその上に被覆導線を巻回して形成することにより、磁気コアと被覆導線とを電気的に分離し、それによって信頼性を高めたインダクタンス素子が提案されている。このようなインダクタンス素子は、例えば特許文献3に開示されている。 【0007】 さらに、上記の特許文献3のインダクタンス素子のコイル線と導体間の容量の調整のしやすさや設計上の自由度を改善したインダクタンス素子が提案され、例えば特許文献4に開示されている。図6はこのような従来のインダクタンス素子の一例を説明するための図である。図6(a)は絶縁ケースを透視して見たインダクタンス素子の正面図、図6(b)は図6(a)のC-C断面図であり、図6(c)は図6(b)の一部を拡大した詳細断面図、図6(d)は図6(a)を中心線16で切断した時の断面図である。 【0008】 図6において、インダクタンス素子1cは、トロイダル形状の磁気コア2と、磁気コア2の外周に接地接続用端子7を有した導体6を配置し、双方をトロイダル形状の絶縁ケース3に収納し、絶縁ケース3の上から被覆導線8を巻回して得られている。すなわち、トロイダル形状の磁気コア2を半円環状に二等分し、磁気コア2の磁路に生じる磁束が互いに打ち消し合わさるように被覆導線8を二等分した磁路に各々巻回し、磁気コア2を二等分する中心軸16に対して対称となる二つのコイル9を形成している。なお、コイル9のそれぞれのコイル線の末端は被覆が剥離され、半田付け等によって接続を容易にするために半田メッキ等が施され、それぞれ実装端子17a、17b、17c、17dが形成されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0009】 【特許文献1】特開平9-102426号公報 【特許文献2】特開2004-311866号公報 【特許文献3】特開2004-235709号公報 【特許文献4】特開2008-118101号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0010】 図6に示される従来のインダクタンス素子1cは、導体6と被覆導線8の間に形成された静電容量により被覆導線8の線間容量をキャンセルし、広い周波数帯域で減衰特性を改善して広帯域化するものであった。しかしながら、従来のインダクタンス素子では、絶縁ケース3内で導体6が磁気コア2に接触したときに、磁気コア2の容量が影響を与え、導体6と被覆導線8との間に形成される静電容量の値を変化させてしまっていた。また、作製されたインダクタンス素子において、導体6と磁気コア2が接触するものと接触しないものとが存在するため、導体6と被覆導線8とで形成する静電容量にも個体差が出てしまい、特性良好の素子と特性不良の素子が混在していた。図7に従来のインダクタンス素子の減衰特性の一例を示す。同じ工程で作製された4個のインダクタンス素子の減衰特性を示しており、この図よりわかるように、同様な作製方法でも減衰特性がばらついてしまうという問題点があった。」 c.「【発明の効果】 【0014】 本発明により、例えば、上下2分割された絶縁ケースの下側ケースと上側ケースの嵌合部に空間を設けて、この空間に導体を保持し固定できる構造とすることで、導体と被覆導線で形成される静電容量が安定し、ばらつきの少ない良好な減衰特性を得られるようになる。また、導体の幅などの形状を制御することで、その静電容量の値を制御することができる。よって、本発明により、コイル線と導体間の容量の調整が容易で設計の自由度が広く、さらに、ばらつきが少なく安定した良好な減衰特性を有するインダクタンス素子が得られる。」 d.「【発明を実施するための形態】 【0016】 以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。 以下に説明する実施の形態におけるインダクタンス素子は、コモンモード用インダクタンス素子である。すなわち、トロイダル形状の磁気コアを半円環状に二等分し、磁気コアの磁路に生じる磁束が互いに打ち消し合わさるように被覆導線を二等分した磁路に各々巻回し、磁気コアを二等分する軸に対して対称となる二つのコイルを形成している。しかし、全周にわたって被覆導線を巻回し、コイルを一つ形成したノーマルモード用インダクタン ス素子や、三相電源等に用いられるコイルを三つ以上形成したインダクタンス素子の場合であっても本発明は適用可能である。 【0017】 図1は、本発明によるインダクタンス素子の第一の実施の形態を説明する図であり、図1(a)は絶縁ケースを透視して見たインダクタンス素子の正面図、図1(b)は図1(a)のA-A断面図であり、図1(c)は図1(b)の一部を拡大した詳細断面図、図1(d)は図1(a)を中心線16で切断した時の断面図である。 【0018】 図1において、本実施の形態のインダクタンス素子1aは、中央部に穴を有するトロイダル形状の磁気コア2と、磁気コア2の外周面に沿って配置された導体6と、磁気コア2と導体6を収納する絶縁ケースとを有し、絶縁ケースの外側から被覆導線8を巻回して構成され、導体6は磁性コア2の外周側に配置された接地接続用の端子である接地接続用端子7を有している。ここで、図1(c)に示すように、絶縁ケースは絶縁ケース上5と絶縁ケース下4の2つの部位を嵌め合せる構造を有し、その嵌め合せ部に絶縁ケース上5と絶縁ケース下4に囲まれた空間10が形成され、この空間10に導体6が保持されて固定されている。また、絶縁ケース下4は貫通孔15を備え、この貫通穴15から接地接続用端子7が絶縁ケースの外部に突出している。」 ・上記段落【0018】によれば、磁気コアの外周面に沿って配置される接地された導体6は、絶縁ケースの空間に10に保持固定されており、導体6と磁気コア2は離れた状態であるといえる。 上記引用文献2の記載及び図面、並びにこの分野の技術常識を考慮すると、引用文献2には以下の技術事項(以下、「引用文献2に記載の技術事項」という。)が開示されていると認められる。 「ノイズフィルタに用いられるインダクタンス素子において、磁気コアの外周面に沿って離れた状態で接地された導体を保持し固定することで、コイル線と導体間の静電容量を安定させること。」 (3)対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 a.引用発明の「コア10」及び「コア11」は、低周波数では「コア10」の初透磁率が高く、高周波数では「コア11」の初透磁率が高いものであり、「コア10」と「コア11」では初透磁率は異なっているものと認められる。 したがって、引用発明の「コア10」及び「コア11」は、本件補正発明の「異なる初透磁率を有する2種以上の磁性コア」に相当し、また、引用発明の「コア10」と「コア11」を合わせたコアは、本件補正発明の「異なる初透磁率を有する2種以上の磁性コアを含む複合体」に相当する。 さらに、引用発明の「コア11」は、低周波数では「コア10」に比べ初透磁率は低いものであるから、引用発明の「コア10」は、本件補正発明の「第1磁性コア」に相当し、引用発明の「コア11」は、本件補正発明の「前記第1磁性コアよりも初透磁率が低い第2磁性コア」に相当する。 b.また、引用発明の「2種類のコア10、11を共に芯にしてチョークコイル12a、12bを巻回」することは、本件補正発明の「複合体を芯として巻線を施してな」ることに相当する。 c.引用発明の「ノイズフィルタ」は、2種類のコア10、11を共に芯にしてチョークコイル12a、12bを巻回したものであるから、本件補正発明の「インダクタンス素子」に相当する。 d.本件補正発明では「複合体の表面の少なくとも一部に接地導体と導通する金属部材を配し」ており、巻線は「前記複合体と前記金属部材を芯として」施され、さらに、「前記金属部材は、少なくとも一部が前記第2磁性コアに接するように配置されて」いるのに対して、引用発明ではそのような金属部材を有していない点で相違する。 したがって、本件補正発明と引用発明とを対比すると、両者は、以下の点で一致し、また、相違している。 (一致点) 「異なる初透磁率を有する2種以上の磁性コアを含む複合体を芯として巻線を施してなり、前記2種以上の磁性コアは、第1磁性コアと、前記第1磁性コアよりも初透磁率が低い第2磁性コアを含む、インダクタンス素子。」 (相違点) 本件補正発明では「複合体の表面の少なくとも一部に接地導体と導通する金属部材を配し」ており、巻線は「前記複合体と前記金属部材を芯として」施され、さらに、「前記金属部材は、少なくとも一部が前記第2磁性コアに接するように配置されて」いるのに対して、引用発明ではそのような金属部材を有していない点。 (4)判断 上記相違点について検討する。 ノイズフィルタに用いられるインダクタンス素子において、コイルの線間容量によってノイズの遮断特性が劣化してしまうことは周知の技術課題である(必要であれば、引用文献2(特に、段落【0004】-【0009】)等参照)。 そして、引用文献2には、該周知の技術課題に対して接地導体を磁気コアに設けた際の、接地導体と磁気コアとの接触の有無による静電容量のバラツキを無くすために、磁気コアの外周面に沿って接地導体を離れた状態で保持固定し、コイル線と接地導体間の静電容量を安定させることが記載されている。そうすると、引用文献2においてはコアに接地導体を確実に接触するように保持固定しても静電容量を安定させられることは明らかである。 また、コアが複数のコアから構成される際に、何れのコアに対しても導体と接することに関連した特段の限定がされていないのであれば、何れのコアと接するようにするかは設計的事項に過ぎない。 してみれば、引用発明のノイズフィルタにおいてコイルの線間容量による遮断特性の劣化を防止するために、引用文献2に記載される技術事項を適用して、本件補正発明の上記相違点の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。 この点について、審判請求人は、平成31年2月12日付け審判請求書において、 「引用文献1の第8頁第11行?第9頁第15行には、1種類のコアを単独で使用する場合、周波域によって所望の減衰特性が得られないことが記載されており、広い周波域に用いる場合に1種類のコアを単独で使用する構成を排除しております。したがって、引用文献1に、引用文献2を組み合わせた場合、広い周波域に用いる場合に1種類のコアを単独で使用する構成を排除している引用文献1に、単一材質のコアを用いて、特性の異なる複合体とすることについての記載や示唆のない引用文献2を適用したことになり、組み合わせる動機付けもありません。」と主張している。 しかしながら、引用文献2に記載された技術事項が、1種類のコアを単独で使用することを必須とするような構成とも、コアが複合化されているような場合には困難とされている構成ともいえないことから、引用文献1に引用文献2を組合わせることに阻害要因があるとはいえない。 そして、上記で検討したように、インダクタ素子のコイルの線間容量によってノイズの遮断特性が劣化してしまうことは周知の技術課題であって、引用文献1に記載された発明においても当然に考慮されることであるから、引用文献1に引用文献2に記載された技術事項を組合わせることに動機付けがないとはいえない。 よって、出願人の上記主張は、採用できない。 また、審判請求人は「また、金属部材を第2磁性コアに接するよう配置すると、明細書の段落[0058]、[0059]に記載のように、第1磁性コアとして導電性を有するMn-Znフェライト材、第2磁性コアとして絶縁性を有するNi-Znフェライト材を用いた場合に、金属部材と第1磁性コア間に生じる静電容量を減少させる効果や、金属部材と第1磁性コアの接触により生じた電位差に起因する金属部材の腐食発生を防止する効果を得ることもできますが、引用文献1、2、3にはこのような本発明の構成により得られる特有の作用効果は記載されておりません。」と主張している。 しかし、本件補正発明において、第1磁性コアがMn-Znフェライトであり、第2磁性コアがNi-Znフェライトであるとは記載されておらず、上記効果についての主張は請求項の記載に基づかないものであるから、上記主張を採用することはできない。 そして、本件補正発明の作用効果も、引用発明及び引用文献2に記載された技術津事項に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)結語 以上検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 1.本願発明 平成31年2月12日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成30年11月1日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は上記「第2 1.」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。 2.引用文献、引用発明 引用発明等は、上記「第2 2.(2)引用文献、引用発明」の項で記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、前記「第2 2.」で検討した本件補正発明の発明特定事項である「2種以上の磁性コア」に関する「第1磁性コアと、前記第1磁性コアよりも初透磁率が低い第2磁性コアを含み」という限定、及び、「金属部材」に関する「少なくとも一部が前記第2磁性コアに接するように配置されて」という限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に他の限定事項を付加したものに相当する本件補正発明が前記「第2 2.(4)判断」に記載したとおり、引用文献1に記載された発明、及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献1に記載された発明、及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-03-04 |
結審通知日 | 2020-03-11 |
審決日 | 2020-03-24 |
出願番号 | 特願2015-27590(P2015-27590) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01F)
P 1 8・ 575- Z (H01F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 竹下 翔平 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
須原 宏光 山澤 宏 |
発明の名称 | インダクタンス素子 |
代理人 | 池田 憲保 |
代理人 | 平瀬 実 |
代理人 | 佐々木 敬 |