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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1362183
審判番号 不服2019-13914  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-18 
確定日 2020-05-08 
事件の表示 特願2017-544552「N-アセチルシステインアミドによる網膜色素変性症の治療」拒絶査定不服審判事件〔平成28年5月12日国際公開、WO2016/073931、平成29年11月16日国内公表、特表2017-533969〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年11月6日(パリ条約による優先権主張 2014年11月7日 米国(US))を国際出願日とする特許出願であって、出願後の主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年11月19日付け :拒絶理由通知
平成31年 4月26日 :意見書及び手続補正書の提出
令和 1年 6月14日付け :拒絶査定
令和 1年10月18日 :審判請求書及び
早期審理に関する事情説明書の提出

第2 本願発明
本願に係る発明は、平成31年4月26日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「N-アセチルシステインアミド(NACA)を含み、1回当たり、治療有効量のN-アセチルシステインアミド(NACA)の固体用量で100、150、300、333、400、500、600、700、750、800、900、1000、2500、5000、7500又は10000mgが投与される、ほ乳類における網膜色素変性症の治療剤又は予防剤。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用文献1:DONG, Aling et al., Compared with N-acetylcysteine (NAC), N-Acetylcysteine Amide (NACA) Provides Increased Protection of Cone Function in a Model of Retinitis Pigmentosa, Investigative Ophthalmology & Visual Science, 2014.04, Vol. 55, Issue 13, 1736,

第4 引用文献の記載事項等
(1)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶理由で引用された引用文献1には、以下の事項が記載されている(和訳は、当合議体が付した。)。

(摘記1a)
「Compared with N-acetylcysteine (NAC), N-Acetylcysteine Amide (NACA) Provides Increased Protection of Cone Function in a Model of Retinitis Pigmentosa
Abstract
Purpose: Retinitis pigmentosa (RP) is a major cause of blindness due to a large variety of mutations that lead to the death of rod photoreceptors. After rods die, cones gradually die from progressive oxidative damage. We previously found that N-acetylcysteine (NAC), a well-known thiol antioxidant, reduces cone cell death and preserves cone function in models of RP. N-acetylcysteine amide (NACA) is a prodrug for NAC with increased bioavailability. In this study, we compared NAC and NACA in a model of RP.
Methods: Starting at postnatal day (P) 14, rd10^(+)/^(+) mice were given normal drinking water (n=6) or water containing 7mg/ml NACA or 20mg/ml NAC (n=8 for each group). Scotopic and photopic electroretinograms (ERGs) were recorded at P35 and P50. Cone density was measured at P50 in four 230 mmx 230 mm (512x512 pixels) areas located 0.5mm superior, temporal, inferior, and nasal to the center of the optic nerve in retinal flat mounts stained with fluorescein-labeled peanut agglutinin (PNA).
Results: At P35, mean peak scotopic ERG b-wave amplitude was similar in rd10^(+)/^(+) mice treated with 7mg/ml NACA or 20mg/ml NAC, and were significantly greater (about 2-fold) than those in controls. Mean peak photopic b-wave amplitude was 41% higher (p=0.024) in NACA-treated mice than NAC-treated mice and both were more than 3-fold higher than that in controls. At P50, mean peak scotopic ERG b-wave amplitude was more than 5-fold higher in NAC- or NACA-treated mice than in controls with mean b-wave amplitudes significantly greater in NACA-treated mice compared with NAC-treated mice at 10 of 11 stimulus intensities. Mean photopic ERG b-wave amplitude was 50% higher (p=0.001) at all 3 stimulus intensities in NACA-treated versus NAC-treated mice and more than 4-fold greater than controls. At P50, cone cell density was significantly greater in 3 of 4 quadrants in NACA-treated mice compared to NAC-treated mice.
Conclusions: Even with a substantially lower oral dose, NACA showed significantly greater preservation of cone cell function and cone survival compared with NAC in rd10^(+)/^(+) mice.」
(和訳:
N-アセチルシステイン(NAC)と比較した、N-アセチルシステインアミド(NACA)の、網膜色素変性症のモデル動物における錐体機能の保護の向上
要約
目的:網膜色素変性症(RP)は、杆体光受容体の障害を起こす多様な変異に起因する失明の主要な原因である。杆体の障害後、進行性の酸化的損傷により錐体は徐々に障害される。我々は、以前に、よく知られたチオール抗酸化物質であるN-アセチルシステイン(NAC)が錐体細胞の障害を減らし、RPのモデル動物において錐体機能を維持することを発見した。N-アセチルシステインアミド(NACA)は、バイオアベイラビリティが向上したNACのプロドラッグである。この研究では、RPのモデル動物においてNACとNACAを比較した。
方法:生後(P)14日目から開始して、rd10^(+)/^(+)マウスに通常の飲用水(n=6)又は7mg/mlのNACA若しくは20mg/mlのNACを含有する水(各群についてn=8)を与えた。暗順応及び明順応網膜電図(ERG)をP35日目及びP50日目に記録した。錐体密度は、フルオレセイン標識ピーナッツアグルチニン(PNA)で染色した網膜フラットマウントにおける視神経の中心の0.5mm上方、側方、下方及び鼻側に位置する4つの230mm×230mm(512×512ピクセル)領域においてP50日目に測定した。
結果:P35日目において、7mg/mlのNACAで治療したrd10^(+)/^(+)マウス及び20mg/mlのNACで治療したrd10^(+)/^(+)マウスは、類似の平均ピーク暗順応ERGb波振幅を示し、対照群よりも有意に(約2倍)大きかった。平均ピーク明順応b波振幅は、NACA治療マウスではNAC治療マウスよりも41%高く(p=0.024)、いずれも対照群より3倍以上高かった。P50日目において、NAC又はNACA治療マウスの平均ピーク暗順応ERGb波振幅は、対照群より5倍以上大きく、平均b波振幅は、11のうち10の刺激強度においてNAC治療マウスと比較してNACA治療マウスで有意に大きかった。平均明順応ERGb波振幅は、NAC治療マウスに対してNACA治療マウスでは、3つの刺激強度全てにおいて50%大きく(p=0.001)、対照群より4倍以上大きかった。P50日目において、錐体細胞密度は、NAC治療マウスと比較してNACA治療マウスにおいて、4象限中3つで有意に大きかった。
結論:実質的に低経口用量であっても、rd10^(+)/^(+)マウスにおいて、NACAはNACと比較して、有意に大きな錐体細胞機能の維持及び錐体生存を示した。」

(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)の記載によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「7mg/mlのN-アセチルシステインアミド(NACA)を含有する水からなる、マウスにおける網膜色素変性症の治療剤。」

第5 対比・判断
1 対比
本願発明と、引用発明とを対比する。
引用発明の「7mg/mlのN-アセチルシステインアミド(NACA)を含有する水からなる」治療剤、「マウス」、「網膜色素変性症の治療剤」は、それぞれ、本願発明の「N-アセチルシステインアミド(NACA)を含」む治療剤、「ほ乳類」、「網膜色素変性症の治療剤又は予防剤」に包含されるものである。
そうすると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「N-アセチルシステインアミド(NACA)を含む、ほ乳類における網膜色素変性症の治療剤又は予防剤。」

<相違点>
本願発明は、「1回当たり、治療有効量のN-アセチルシステインアミド(NACA)の固体用量で100、150、300、333、400、500、600、700、750、800、900、1000、2500、5000、7500又は10000mgが投与される」のに対し、引用発明は、「7mg/mlのN-アセチルシステインアミド(NACA)を含有する水」が投与されるものの、用量についてかかる特定をしていない点。

2 判断
(1)相違点について
まず、本願発明における「固体用量」という事項の意味について検討する。
本願明細書には、【0056】等に、「一部の実施形態では、投与のためのNACAの用量は、1回当たり100、150、300、333、400、500、600、700、750、800、900、1,000、2,500、5,000、7,500又は10,000mgである。・・・別の態様では、NACAは、ミニ錠剤、カプセル、錠剤、発泡剤、2段階放出、混合放出、サシェ、粉末又は液剤を介して経口的に送達される。・・・」との記載は存在するものの、「固体用量」という記載自体は存在しない。また、平成31年4月26日提出の意見書においても、「固体用量」との記載に係る補正の根拠となる本願当初明細書等における記載は挙げられていない。
一方、同意見書では、審判請求人(出願人)は、「また、出願人は、請求項3から固形剤に適さない投与経路を削除しました。」、「しかし、引用文献1には、NACAを固形剤として投与することや、投与量が耐容性良好である100mg以上であることについては何ら開示しておりません。」、「一方、本願明細書の[0056]における『投与のためのNACAの用量は、1回当たり100、150、300、333、400、500、600、700、750、800、900、1,000、2,500、5,000、7,500又は10,000mgである。・・・NACAは、ミニ錠剤、カプセル、錠剤、発泡剤、2段階放出、混合放出、サシェ、粉末又は液剤を介して経口的に送達される。』という記載から分かりますように、本発明はより高い用量の固形形態でのNACAの使用を開示しております。」、「このような固体形態での高用量のNACAの使用について、引用文献1には何ら開示も示唆もされておりませんし、・・・」、「引用文献1及び2には、100mg以上の高用量のNACAを固形剤として使用することについて何ら開示も示唆もされておりません。」と主張していることも考慮すると、本願発明において、「固体用量で」「投与される」ということには、固形剤として又は固形形態で投与されることが包含されると認められる。

一般に、治療効果を奏し、かつ、副作用が許容範囲となることを考慮して、医薬の用量を好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮であり、ヒトを含むほ乳類に医薬を適用するにあたって、その体重に応じて用量を設定することが通常であるから、引用発明をヒトを含むほ乳類に適用する際に、NACAの好適な用量を実験的に確認し、1回当たり、治療有効量のN-アセチルシステインアミド(NACA)の用量を、100、150、300、333、400、500、600、700、750、800、900、1000、2500、5000、7500又は10000mgと設定することは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、剤形として、固形剤は周知の形態であるから、引用発明において、剤形として、固形剤を採用したことは、当業者における設計的事項にすぎない。

(2)本願発明の効果について
本願明細書における実施例においては、7mg/mlのNACAを含有する水をrd10^(+)/^(+)マウスに経口的に投与した場合に、7mg/ml又は20mg/mlのNACを含有する水を同様に投与した場合と比較して、有意に大きな錐体細胞機能の維持及び錐体生存の効果を示した旨が記載され、そのことはNACAがNACの前駆体であり、前駆体が著しく異なるインビボ効果を導くことは予測されなかったはずであるから驚くべきことである旨が記載されている。
しかしながら、引用文献1には、NACのプロドラックであるNACAが、実質的に低経口用量で、rd10^(+)/^(+)マウスにおいて、NACと比較して有意に大きな錐体細胞機能の維持及び錐体生存を示したことが既に記載されている(Purposeの4-5行及びConclusionsを参照。)。
そして、本願明細書には、「1回当たり、治療有効量で100、150、300、333、400、500、600、700、750、800、900、1000、2500、5000、7500又は10000mg」との用量を採用した具体的実施例やそのことによる効果、また、「固形剤」等の剤形を採用したことによる効果については何ら記載されていない。
そうすると、本願発明の奏する効果が、本願優先日における技術水準から予測される範囲を超えた格別顕著なものであると認めることはできない。

(3)審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において、「平成31年4月26日付で提出した意見書においても述べましたように、本発明者らは、高用量のNACAの投与がヒトに及ぼす影響について臨床試験を行った結果、非常に高用量のNACAが忍容性を示すことを予想外にも発見し、本発明を完成するに至りました。」(主張1)、「しかし、引用文献1には、網膜色素変性症の治療のための固体NACAの使用については何ら記載されておりませんし、また、100mgという高用量のNACAが忍容性を示すことについて開示も示唆もされておりません。」(主張2)、「また、審査官殿は『治療効果及び副作用を考慮して、医薬の用量を好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮である』と指摘されておりますが、出願当時の技術常識を参酌すれば、高用量のNACAが網膜色素変性症に効果を示すことは予想外であったと考えられます。なぜなら、本願明細書[0005]に記載されておりますように、本発明者らは、NACAの類似関連物質であるN-アセチルシステイン(NAC)について、『N-アセチルシステイン(NAC)がRPのモデルにおいて錐体細胞死を低下させ、錐体機能を維持することを以前に発見した』が、『NACの使用はいくつかの欠点によって制限されており』、網膜色素変性症治療剤として実用化されるには至っておりませんでした。」(主張3)と主張する。
しかしながら、上記主張1及び2については、当該臨床試験に関して本願当初明細書には全く記載されていなかったうえ、ヒトにおいて100mg等という高用量のNACAが忍容性を示すことについて、定性的な記載すら存在しなかったことから、上記主張1及び2は、本願明細書の記載に基づくものでなく、採用できない。
また、上記主張3については、本願明細書の【0005】を参酌すると、上記欠点とは、「最も重要なのは膜浸透性の低さ及び経口製剤としての全身生物学的利用率が10%未満であること」を意味していると認められる。しかしながら、引用文献1の記載(Purposeの4-5行及びConclusionsを参照。)によれば、NACのプロドラックであるNACAを採用すること自体によって上記欠点が解消されることが理解される。
そうすると、上記欠点は、既にNACAを含む引用発明において、NACAの用量を好適化することを妨げる事情となるとは認められない。

したがって、審判請求人の上記主張は、いずれも採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-12-09 
結審通知日 2019-12-10 
審決日 2019-12-23 
出願番号 特願2017-544552(P2017-544552)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 阿佳里石井 裕美子  
特許庁審判長 井上 典之
特許庁審判官 穴吹 智子
渡邊 吉喜
発明の名称 N-アセチルシステインアミドによる網膜色素変性症の治療  
代理人 東海 裕作  
代理人 富田 博行  
代理人 園元 修一  
代理人 園元 修一  
代理人 小澤 誠次  
代理人 東海 裕作  
代理人 廣田 雅紀  
代理人 廣田 雅紀  
代理人 山村 昭裕  
代理人 山村 昭裕  
代理人 松橋 泰典  
代理人 松橋 泰典  
代理人 山内 正子  
代理人 松田 一弘  
代理人 小澤 誠次  
代理人 富田 博行  
代理人 堀内 真  
代理人 堀内 真  
代理人 松田 一弘  
代理人 山内 正子  
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