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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1362285
審判番号 不服2018-16325  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-06 
確定日 2020-05-13 
事件の表示 特願2015-197121「パターン付き勾配ポリマーフィルム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月24日出願公開,特開2016- 40608〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2015-197121号(以下「本件出願」という。)は,2010年(平成22年)10月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年4月14日 米国)を国際出願日とする特願2013-504880号の一部を平成27年10月2日に新たな特許出願(外国語書面出願)としたものであって,その手続等の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成27年10月30日付け:手続補正書
平成28年 8月25日付け:拒絶理由通知書
平成29年 2月27日付け:意見書
平成29年 7月28日付け:拒絶理由通知書
平成30年 2月 8日付け:意見書
平成30年 2月 8日付け:手続補正書
平成30年 7月31日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成30年12月 6日付け:審判請求書

2 本願発明
本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成30年2月8日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの,次のものである。
「 バインダーと,
複数のナノボイドを含むボイドのネットワークであって,その複数のナノボイドの少なくとも60%が70nm以下のサイズを有する,ボイドのネットワークと,を備える,勾配ポリマーフィルムであって,
ここで,複数のナノボイドの局所的体積分率が前記勾配ポリマーフィルムの横断面にわたって変化する,勾配ポリマーフィルム。」

3 原査定の理由
原査定の拒絶の理由のうち1つは,(進歩性)本願発明は,その優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物(引用文献3)に記載された発明,並びに,引用文献1及び引用文献2に記載された技術に基づいて,本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用文献1:特開2008-192527号公報
引用文献2:特開2006-124499号公報
引用文献3:特開2007-308544号公報

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3は,本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機樹脂中にシリカ微粒子が分散した低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料であって,前記有機樹脂が直径100nm以下の気泡を有することを特徴とする低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料。
…(省略)…
【請求項3】
請求項1において,前記シリカ微粒子の平均粒径が5nm?100nmであることを特徴とする低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は,有機樹脂中に直径が100nm以下のナノポーラス構造を有するポリマー/セラミックナノコンポジット材料に関し,多層配線の低誘電率層間絶縁材料,各種ディスプレイの低反射膜,導波路用クラッド材として広く応用できる。
…(省略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
…(省略)…
【0008】
本発明は,上述の問題を鑑みなされたもので,絶縁樹脂において,特殊な構造の導入を必要とせず,低誘電率,低屈折率を実現可能なシリカ樹脂ナノコンポジット材料とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果,シリカ微粒子,有機樹脂,有機溶剤から形成される物理ゲル化したオルガノゲルを利用することにより,有機樹脂中に直径100nm以下の気泡を有するナノポーラス構造を有する低誘電率低屈折率材料が得られることを確認した。有機溶剤に分散させた粒径が5nmから100nmのシリカ微粒子をエポキシ樹脂に分散させた後,物理ゲル化状態にする。この後,加熱によりゲル化物から有機溶剤を除去する方法である。
…(省略)…
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば,ナノ粒子特有の現象である溶剤を取り込んだ物理ゲル現象を利用するため特別な装置や薬品を必要とせず安価に,比誘電率が2.0?3.0の低誘電率のシリカ樹脂ナノコンポジット材料を得ることができ,例えば,配線板の層間絶縁膜に適用した場合,信号伝送速度の大幅な改善を図ることができる。また,本発明のシリカ樹脂ナノコンポジット材料は,無色透明な樹脂板となり光の屈折率も低減され,各種ディスプレイの反射防止膜,導波路用クラッド材として応用範囲が大きく広がる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料は,有機溶剤に分散させた粒径が5nmから100nmのシリカ微粒子をエポキシ樹脂に分散させた後,物理ゲル化状態にする。この後,加熱によりゲル化物から有機溶剤を除去する方法により作成される。この加熱過程で溶剤は除去されるが,コンポジット樹脂の形状,体積共にほとんど変化しない。コンポジット樹脂は,無色透明であり溶剤が除去された後の空隙のサイズは100nm以下である。最終的に,エポキシ樹脂は加熱により硬化するため空隙は独立気泡となるため,吸水等の問題もない。空隙となる気泡の含有率としては体積で5から40%で作製される。ここで,ゲルとは三次元網目が多量の溶媒を含んだ状態を言い,水を含むゲルをハイドロゲル,有機溶媒を含むゲルをオルガノゲル,気体を含むゲルをエアロゲルという。また,化学結合(共有結合)によるゲルを化学ゲル,物理的な架橋(非共有結合)によるゲルを物理ゲルという。本発明では,物理的な架橋によるゲルで多量の溶剤を含んだオルガノゲルを利用している。本発明では,シリカ微粒子,有機樹脂,有機溶剤で形成された物理ゲル化状態のオルガノゲルから有機溶剤を除去してコンポジットの有機樹脂中に均一に気泡を形成させる。従って,中空シリカを用いる方法と異なり,気泡含有率は,有機溶剤の量と溶剤乾燥プロセスの条件により気泡量及びサイズをコントロールできる。また,できる気泡も均一に分散されたシリカ微粒子間の有機樹脂中に形成されるため,直径10nmから100nmのサイズで均一に存在する。
【0014】
本発明では,有機溶剤に1次粒子レベルで分散した疎水牲オルガノシリカゾルを用いることが有効であるが,界面活性剤等での表面処理を施し有機溶剤への分散性を高めたシリカ微粒子でも同じ効果が得られる。また,有機樹脂は,エポキシ樹脂,ポリイミド樹脂,シアネート樹脂,フェノール樹脂,メタクリレート樹脂,不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂全般に適用可能であるが,溶剤に可溶なポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂でも適用可能である。特に,エポキシ樹脂に適用した場合,その効果が顕著である。
【0015】
シリカ微粒子の平均粒径は5nmから200nmの範囲が適用可能であるが,特に,5nmから100nmの範囲が高い効果を示す。溶剤としては,テトラヒドロフラン,アセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,2-メトキシエタノール,N,N-ジメチルホルムアミド,N,N-ジメチルアセトアミド等が使用できるが,エポキシ樹脂が硬化する前にコンポジット樹脂から除去できる沸点の低い方が好ましい。
【0016】
シリカ微粒子の配合量は特に限定はされないが,各種特性のバランスを考慮した場合,5wt%から30wt%の範囲が好ましい。例えば,特開平6-316407号公報等に記載のように,アルキルシリケートをアルカリ触媒で加水分解することにより得られるシリカゾルの製造方法で粒子径3nmから100nmの範囲で粒子径のそろった球状シリカが得られる。本発明では,このようにして得られたシリカ微粒子が適用できる。当然のことながら,他の製造方法で得られたシリカ微粒子でも,同じ効果が得られる。このようにして得られた親水性コロイド状シリカをジシロキサン化合物あるいはモノアルコキシシラン化合物等のシリル化剤で疎水化処理されたシリカ微粒子を用いる方法が好ましい。勿論,シリカ微粒子の表面をシラン系カップリング剤により疎水化して有機溶剤への分散性を高める方法あるいは界面活性剤により分散性を高める方法で表面処理したシリカ微粒子を適用することも可能である。
【0017】
ナノコンポジット材料の作製手順としては,まずシリカ微粒子を分散したメチルエチルケトンのような低沸点溶剤にエポキシ樹脂,硬化剤,必要に応じて硬化促進剤を溶解させたワニスを用意する。次に,このワニスを基板上に均一に塗布する。この塗布基板を密閉容器中に保管すると数時間から2,3日で塗布膜が物理ゲルとなり固化する。この物理ゲルを加熱処理することにより溶剤を除去する。この加熱処理で塗布膜は溶剤が除去される分,軽くなるが,形状及び体積はほとんど変化なく,且つ透明性は増す,即ち屈折率が小さくなる。溶剤除去のための加熱処理は,窒素のような不活性ガス雰囲気中,あるいは減圧雰囲気下で行うことが好ましい。この後,用途にもよるが窒素等の不活性ガス雰囲気下で,加熱してコンポジット樹脂を硬化させる。光硬化の場合は,UV露光により硬化させた後,加熱による後硬化を実施するが,溶媒除去のための加熱処理は露光前に行っても,露光後に行ってもかまわない。
【0018】
以下,本発明の低誘電率低屈折率ナノコンポジット材料について具体的な実施例で説明する。
【0019】
(実施例1)
脂環式エポキシ樹脂(セロキサイド2021,ダイセル化学工業製,エポキシ当量176),3or4-メチル-ヘキサヒドロ無水フタル酸(HN-5500,日立化成工業製)をモル比1:1.5の割合で混合した。さらに,硬化促進剤として2-エチル-4-メチルイミダゾールCN(2E4MZ-CN,四国化成製)0.2重量部(エポキシ,酸無水物に対し)を加え液状樹脂混合物を作製した。この液状樹脂混合物に,平均粒径12nmの疎水性シリカ30wt%が分散されたメチルエチルケトンスラリ(日産化学MEK-ST)を混合してシリカフィラ分散ワニスを調整した。硬化剤,硬化促進剤を含むエポキシ樹脂分85重量部に対してMEK-STを50重量部の割合で調整した。このワニスを,電極を形成したガラス板の上にドクターブレードで塗布し厚さ10μmの塗布膜とした。この後,密閉ガラス容器中で24時間保管して物理ゲル状の塗布膜を得た。この物理ゲル状の塗布膜を90℃で減圧下,30分加熱して塗布膜中に残存するメチルエチルケトンを乾燥除去する。次に,この試料を130℃で1時間,170℃で2時間加熱して硬化させた。物理ゲル化した塗布膜断面と加熱硬化後の試料断面の高分解能SEM写真(日立の走査型電子顕微鏡S-900で観察)を図1に示す。物理ゲルではシリカが均一に分散しており樹脂と溶剤を抱え込んだネットワーク構造を形成しているように観察される。これを熱処理すると30nmから50nmの空隙が全面に観察される。これは,シリカ微粒子ネットワークを保持したまま溶剤が除去され,樹脂が硬化するため溶剤の除去部が極めて小さい空隙として残る構造になると推定される。硬化後,無色透明,低屈折率の塗布膜となる。なお,得られたナノポーラス構造硬化膜の空隙率は25vol%であった。」

(2) 引用発明
引用文献3の,請求項1の記載を引用して記載された請求項3には,「低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料」の発明が記載されている。ここで,請求項1に記載された「シリカ微粒子の平均粒径」は「5nm?100nm」であるから,当業者ならば,少なくとも,「シリカ微粒子の平均粒径」が「5nm」や「100nm」である発明を把握することができる。また,【0001】の記載からみて,請求項3に記載された「低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料」は,「多層配線の低誘電率層間絶縁材料,各種ディスプレイの低反射膜,導波路用クラッド材として広く応用できる」ものと理解される。
以上勘案すると,引用文献3には,「シリカ微粒子の平均粒径」が,例えば「5nm」である,次の「低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料」の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 有機樹脂中にシリカ微粒子が分散した低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料であって,
シリカ微粒子の平均粒径が5nmであり,
有機樹脂が直径100nm以下の気泡を有し,
多層配線の低誘電率層間絶縁材料,各種ディスプレイの低反射膜,導波路用クラッド材として広く応用できる,
低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料。」

(3) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1は,本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
高分子材料から形成され,コア部と,該コア部より屈折率の低い材料からなるクラッド部とにより形成された光導波路により光を導く導光体であって,該クラッド部は平均気泡径が5?200nmの微細独立気泡を内包する発泡体からなり,該発泡体部の体積空隙率が1?95%であることを特徴とする導光体。」

イ 「【0008】
以下に,まず,本発明を構成する導光体に用いられる発泡体の原料となる発泡性組成物について説明する。発泡性組成物は活性エネルギー線を照射して加熱処理を施すことで発泡性が発現する組成物である。」

ウ 「【0035】
本発明の導光体の製造方法では,パターン化されたクラッド部を発泡体の形で得るために,照射工程において活性エネルギーの強度分布が生じるようにフォトマスクを使用して活性エネルギー線を照射することができる。…(省略)…コア部は未発泡部であり,光導波路の光の通路となる。」

(4) 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2は,本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,気泡径の大小や気泡密度の粗密が位置によって異なる不均一発泡体の製造方法に関する。詳しく述べれば,気泡径を微細な範囲に留めつつ気泡密度の高い領域も得られる不均一発泡体の製造方法に関する。」

イ 「【発明の効果】
【0018】
本発明の不均一発泡体の製造方法によれば,気泡径を微細な範囲に留めつつ気泡密度の高い領域も得られる。また,例えば3次元の気泡分布等,幅広いパターンの気泡分布も任意かつ容易に得られる。したがって,本発明によれば,同一発泡体内で発泡特性分布を付与された高機能性発泡体を容易が得ることができる。」

ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の不均一発泡体の製造方法は,放射線エネルギー及び熱エネルギーの作用により発泡構造を形成する発泡性組成物を原料とする。本発明の製造方法は,発泡性組成物の成形工程と,成形工程で得られる成形体に放射線エネルギー及び熱エネルギーを付与して発泡させる発泡工程とを備える。」

エ 「【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明により,従来法では得ることができなかった気泡分布を任意に変化させた発泡体を容易に提供することが可能となる。また,気泡分布に伴い,発泡特性分布も生じた高機能性発泡体を提供することができ,包装材料や建築材料,医療材料,電気機器材料,電子情報材料,自動車材料などさまざまな分野に大きな寄与を与える。」

2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明と引用発明を対比する。
ア 勾配ポリマーフィルム
引用発明の「低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料」は,「有機樹脂中にシリカ微粒子が分散した」,「多層配線の低誘電率層間絶縁材料,各種ディスプレイの低反射膜,導波路用クラッド材として広く応用できる」ものである。
ここで,引用発明の「有機樹脂」は,その文言からみて,ポリマーということができる。また,引用発明の「低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料」は,その用途からみて,フィルム状のものといえる。
(当合議体注:「材料」とは「物を製造するとき,もととして用いる物。原料。」(広辞苑6版)を意味し,通常,形状が特定されないものであるが,引用発明の「低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料」は,「気泡」を具備するもの(引用文献3の【0017】に記載されているような工程を経たもの)であるから,成形後のものである。)
したがって,引用発明の「低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料」と本願発明の「勾配ポリマーフィルム」とは,「ポリマーフィルム」である点で共通する。

イ バインダー
引用発明の「低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料」は,「有機樹脂中にシリカ微粒子が分散した」ものである。
引用発明の上記の構成からみて,引用発明の「有機樹脂」は,「シリカ微粒子」を結着させる樹脂と理解されるから,バインダーということができる。
したがって,引用発明の「有機樹脂」は,本願発明の「バインダー」に相当する。

ウ ボイドのネットワーク,勾配ポリマーフィルム
引用発明の「低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料」の「有機樹脂」は,「直径100nm以下の気泡を有し」ている。
上記の気泡の直径からみて,引用発明の「気泡」は,ナノサイズのボイドということができる。また,誘電率や屈折率の低下がもたらされるためには,多数の「気泡」が含まれる必要がある。
そうしてみると,引用発明の「気泡」は,本願発明の「ナノボイド」に相当する。加えて,上記ア及びイの対比結果も加味すると,引用発明の「低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料」と本願発明の「勾配ポリマーフィルム」は,「バインダー」を備え,「複数のナノボイドを含む」点で共通する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 バインダーを備え,
複数のナノボイドを含む,
ポリマーフィルム。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
「ポリマーフィルム」が,本願発明は,「ボイドのネットワーク」「を備える」とともに,「その複数のナノボイドの少なくとも60%が70nm以下のサイズを有する」ものであるのに対して,引用発明は,「ボイドのネットワーク」「を備える」か,一応,明らかではなく,また,「その複数のナノボイドの少なくとも60%が70nm以下のサイズを有する」かも,一応,明らかではない点。

(相違点2)
本願発明は,「複数のナノボイドの局所的体積分率が前記勾配ポリマーフィルムの横断面にわたって変化する,勾配」ポリマーフィルムであるのに対して,引用発明は,「複数のナノボイドの局所的体積分率が前記勾配ポリマーフィルムの横断面にわたって変化する」ものとは特定されておらず,この点において「勾配」ポリマーフィルムとはいえない点。

(3) 判断
ア 相違点1について
引用発明の「低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料」の製造方法に関して,引用文献3の【0017】には,「物理ゲルを加熱処理することにより溶剤を除去する」と記載されている。
上記の製造方法からみて,引用発明の「低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料」の「有機樹脂」が有する「気泡」は,「シリカ微粒子」の隙間から溶剤が揮発したあとの空洞と理解される(この点について,必要ならば,特開2010-79053号公報の【0009】,【0024】,【0028】及び【0033】,特開平11-326601号公報の【0003】及び【0008】を参照。また,引用文献3の【0019】にも,同旨の記載がある。)。
そうしてみると,引用発明の「低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料」の「気泡」は,溶剤の揮発経路(「シリカ微粒子」の隙間)に沿うような形状で互いに連通したものと理解するのが自然である。また,その気泡の大きさは,「平均粒径が5nm」の「シリカ微粒子」の隙間に対応するサイズのものと理解されるから,その「気泡」の少なくとも60%が70nm以下のサイズを有するものであることは,明らかである(当合議体注:この点は,引用文献3の【0019】に記載された実施例1において,平均粒径12nmの疎水性シリカにより,30nm?50nmの空隙が全面に観察されたことからも確認できる。)。
以上勘案すると,引用発明の「低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料」は,本願発明でいう「複数のナノボイドを含むボイドのネットワーク」を備えたものであり,また,「その複数のナノボイドの少なくとも60%が70nm以下のサイズを有する」ものである。

なお,引用文献3の【0013】には「最終的に,エポキシ樹脂は加熱により硬化するため空隙は独立気泡となるため,吸水等の問題もない。」と記載されている。しかしながら,エポキシ樹脂は熱硬化型樹脂であり,加熱により溶けて空隙を塞ぐようなことはなく,また,架橋により収縮すると考えられる。仮に,表面の溶剤が抜けた孔が極めて小さいため事実上スキン層となる(吸水率が低い)としても,内部で気泡が連通していることには変わりなく,また,エポキシ樹脂により空洞が全て分断されて独立気泡となり,気泡の連通が観察されなくなるとは考えられない(当合議体注:本願発明においては,ナノボイドの体積分率が特定されていないから,本願発明には,ナノボイドの体積分率がごく僅かにすぎない発明も含まれる。)。
あるいは,引用文献3の【0017】には,「この後,用途にもよるが窒素等の不活性ガス雰囲気下で,加熱してコンポジット樹脂を硬化させる。」と記載されている。そして,加熱前の引用発明の「低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料」の気泡が互いに連通してネットワークを形成していることは,すでに述べたとおりであり,このような加熱していない「低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料」は,相違点1に係る本願発明の要件を満たすといえる。
さらにすすんで,(特許請求の範囲には記載されていない事項であるが,)製造方法に遡って検討すると,本願発明の「勾配ポリマーフィルム」は,工程順が,樹脂の重合(光硬化),乾燥炉による溶媒の除去,後硬化の順である製造方法により製造される物と理解される(本件出願の明細書の【0122】及び【0123】)。しかしながら,引用文献3の【0017】には,溶媒除去のための加熱処理は,露光前に行っても,露光後に行っても構わない旨が記載されており,露光後に行う場合の製造工程は,樹脂の硬化(光硬化),溶媒除去のための加熱,後硬化の順となり,本願発明と変わらないものとなる。
以上勘案すると,相違点1は,相違点ではないか,少なくとも,当業者が,引用文献3の示唆に基づいて,容易に発明をすることができたものである。

イ 相違点2について
本件優先日前に頒布された刊行物である引用文献1には,コア部(未発泡部)及びクラッド部(発泡体)により形成された光導波路であって,活性エネルギー線及び加熱処理の条件によって発泡を制御する技術が開示されている。また,本件優先日前に頒布された刊行物である引用文献2にも,電子情報材料として用いることができる気泡径の大小や気泡密度の粗密が位置によって異なる不均一発泡体であって,放射線エネルギー及び熱エネルギーの付与条件によって発泡を制御する技術が開示されている。
ここで,引用発明の「低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料」は,「多層配線の低誘電率層間絶縁材料,各種ディスプレイの低反射膜,導波路用クラッド材として広く応用できる」ものであるから,その気泡含有率(屈折率)に,表面方向でみたときの横断面又は厚さ方向でみたときの横断面において分布を持たせた方が望ましい場合もあるといえる(例:光導波路のクラッド部とコア部で気泡含有率を異ならせる,低反射膜の空気側とディスプレイ側で気泡含有率を異ならせる。)。
また,引用文献3の【0013】には,気泡含有率を,有機溶剤の量と溶剤乾燥プロセスの条件により制御できることが開示されているから,引用発明においても,引用文献1又は引用文献2に開示されるように,気泡の有無,気泡径の大小及び気泡密度の粗密を制御することも可能といえる。
以上勘案すると,本件優先日前の当業者が,引用発明の「低誘電率低屈折率シリカ樹脂ナノコンポジット材料」を製造するに際して,溶剤乾燥プロセスの加熱条件を変化させる(例:加熱温度を変更して乾燥速度を変える),また,有機溶剤の量が異なるワニス(例:【0019】に記載のMEK-STの分量を変えるか,メチルエチルケトンを追加したもの)を塗り分ける等の手段を併用することにより,相違点2に係る本願発明の構成を具備したものとすることは,容易に発明をすることができたものである。

(4) 発明の効果
本件出願の明細書においては,背景技術に関する記載(【0003】及び【0004】)の後,発明が解決しようとする課題に関する記載がないまま,課題を解決するための手段が記載され(【0005】?【0009】),そして,発明の効果に関する記載がないまま,図面の簡単な説明や発明を実施する形態が記載されている(【0011】以降)。
本願発明の効果は不明であるが,仮に,本願発明の「勾配ポリマーフィルム」を得ることそれ自体を発明の効果と理解するならば,それは,前記(3)で述べたように容易推考をする当業者が期待する効果にすぎない。

(5) 審判請求人の主張について
審判請求人は,引用文献3の【0013】の記載や製造方法の相違を指摘して,本願発明と引用文献3に記載された発明とは相違すると主張する(審判請求書の7頁下から5行?8頁7行)。
しかしながら,前記(3)イで述べたとおりであるから,審判請求人の主張は採用できない。

3 まとめ
以上のとおり,本願発明は,引用文献1及び引用文献2に記載された技術を心得た当業者が,引用文献3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-12-03 
結審通知日 2019-12-10 
審決日 2019-12-25 
出願番号 特願2015-197121(P2015-197121)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 昌伸  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 井口 猶二
樋口 信宏
発明の名称 パターン付き勾配ポリマーフィルム及び方法  
代理人 胡田 尚則  
代理人 青木 篤  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 三橋 真二  
代理人 高橋 正俊  
代理人 南山 知広  
代理人 鶴田 準一  
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