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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1362290
審判番号 不服2019-13639  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-11 
確定日 2020-05-13 
事件の表示 特願2017-528477「パーキンソン病を遅延させるための医薬」拒絶査定不服審判事件〔平成28年6月2日国際公開、WO2016/083863、平成30年1月11日国内公表、特表2018-500300〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年11月28日を国際出願日とする特許出願であって、その主な手続の経緯は次のとおりである。

平成30年 8月24日付け :拒絶理由通知書
平成31年 3月 4日 :意見書及び手続補正書
令和 1年 6月 3日付け :拒絶査定
令和 1年10月11日 :審判請求書及び手続補足書

第2 本願発明について
本願の請求項1?19に係る発明は、平成31年3月4日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?19に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
オピカポンで以前に治療されていない患者のパーキンソン病の進行遅延における使用のための、
(i)レボドパ、
(ii)AADC阻害剤、および
(iii)オピカポン
を含み、オピカポンの用量が、25mgから100mgである医薬。」

第3 拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、また、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特表2014-505096号公報(公表日 平成26年(2014年)2月27日)

第4 本願出願時の技術常識及び引用文献の記載
1 パーキンソン病治療の技術常識について
(1)文献A(Mebio,2013,Vol.30,No.11,pp.31-39)
文献Aには、次の記載がある。

「パーキンソン病(PD)では、黒質から線条体に投射するドパミン作動性ニューロンが変性・脱落し、線条体でのドパミン量が減少することが運動症状発現の要因である。そのため、治療としては、ドパミンの前駆体で血液脳関門を通過するL-ドパ(LD)の投与によりドパミンを補充することが一般的に行われている。」(p.31右欄2?8行)

「エンタカポンは主に末梢で作用するCOMT阻害薬であり、L-ドパ(LD)とドパ脱炭酸酵素阻害薬の合剤との同時使用により、LDの半減期を延長させて生物学的利用率を高める。」(p.31左欄第1段落)



」(p.33)

「MAOB阻害薬は神経保護効果を有し、病気の進行を抑制するdisease modifying drugとして期待されたが、DATATOP study(…)の結果では、その効果は認められていない^(7))。
進行期PD患者に対しては、10年以上LDを服用して効果が減弱した症例においても有効であり^(8))、特に安静時振戦、…で改善がみられる。」(p.36右欄16?25行)

(2)文献B(BMC Neurology,2013,13:35。請求人が意見書に添付した参考資料3)
文献Bには、次の記載がある(英文なので和訳を示す。)。

「パーキンソン病(PD)における薬物治療は、現在のところ事実上は対症療法であるから、PD研究の主たる目的は、神経変性を遅延あるいは更に停止させ、そして、それにより臨床的進行を遅延あるいは更に停止させる薬の開発である。」(p.1左欄本文4?8行)

(3)上記(1)(2)の記載によれば、パーキンソン病とは、ドパミン作動性神経細胞が変性・脱落し、線条体でのドパミン量が減少する進行性の神経変性疾患であり、血液脳関門を通過するドパミン前駆体(L-ドパ(レボドパ))を投与してドパミンを補充することが一般に行われているところ、本願出願当時、(i)レボドパの効果はレボドパの血中濃度についての薬物動態から推測できること、及び(ii)パーキンソン病の薬物治療は、事実上は症状を抑える対症療法であり、神経変性によるパーキンソン病の進行を遅延させる治療薬(disease modifying drug(疾患修飾薬))が望まれていたことが、それぞれ技術常識となっていたということができる。

2 引用文献1の記載及び引用発明
(1)引用文献1には、次のとおり記載されている。なお、下線は合議体が付した。

ア「【請求項1】
中枢または末梢神経系障害の予防または治療に使用するための式(I)の化合物
【化1】

式中、R_(1)およびR_(2)は同一または異なって、水素、生理学的条件下に加水分解可能な基、または置換されていてもよいアルカノイルまたはアロイルを示し;Xはメチレン基を示し;YはO、SまたはNHを示し;nは0、1、2または3を示し;mは0または1を示し;R_(3)は、無標の結合で示されるように結合された式A、BまたはCのピリジンN-オキシド基を示す。
【化2】

式中、R_(4)、R_(5)、R_(6)およびR_(7)は同一または異なって、水素、アルキル、チオアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、チオアリール、アルカノイル、アロイル、アリール、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、シクロアルキルアミノ、ヘテロシクロアルキルアミノ、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、ハロゲン、ハロアルキル、トリフルオロメチル、シアノ、ニトロまたはヘテロアリールを示し、あるいはR_(4)、R_(5)、R_(6)およびR_(7)の2個以上が一緒になって、脂肪族またはヘテロ脂肪族環、または芳香環またはヘテロ芳香環を形成することを示す;「アルキル」の語は、「アルコキシ」、「アルカノイル」等の「alk-」の変形も含めて、1?6個の炭素原子を含む直鎖または分岐鎖の炭素鎖を意味する。「アリール」の語は、フェニルまたはナフチル基を意味する;「ヘテロシクロアルキル」の語は、酸素、イオウまたは窒素の少なくとも1個の原子を含む4員?8員環を表す;「ヘテロアリール」の語は、イオウ、酸素または窒素の少なくとも1個の原子を含む5員または6員環を表す;「ハロゲン」の語はフッ素、塩素、臭素またはヨウ素を表す;R_(4)、R_(5)、R_(6)およびR_(7)がアルキルまたはアリールを表す場合、それらは1個以上のヒドロキシ、アルコキシまたはハロゲン基により置換されていてもよい;またはそれらの薬学的に許容可能な塩、エステル、カルバミン酸エステルまたはリン酸エステルである;であって、睡眠の前、就寝前または就寝時に投与される、式(I)の化合物。

【請求項41】
治療に有効な量の請求項1に定義される式(I)の化合物を、睡眠前、就寝前または就寝時に、中枢および末梢神経系障害に罹患した患者に投与することを含む、中枢および末梢神経系障害の予防または治療方法。

【請求項43】
式(I)の化合物が、5-[3-(2,5-ジクロロ-4,6-ジメチル-1-オキシ-ピリジン-3-イル)-[1,2,4]オキサジアゾール-5-イル]-3-ニトロベンゼン-1,2-ジオール、またはその薬理学的に許容可能な塩、エステル、カルバミン酸エステルおよびリン酸エステルである、請求項41または42に記載の方法。

【請求項48】
式(I)の化合物がカテコールアミン薬と併用して投与される、請求項41?47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
カテコールアミン薬がレボドパである、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
式(I)の化合物がカテコールアミン薬と連続して投与される、請求項48または49に記載の方法。
【請求項51】
式(I)の化合物がカテコールアミン薬の前または後に投与される、請求項48?50のいずれか1項に記載の方法。

【請求項55】
カテコールアミン薬がAADCiと連続してまたは同時に投与される、請求項48?54のいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
AADCiがカルディドーパまたはベンセラジドである、請求項56に記載の方法。
【請求項57】
中枢および抹消神経系障害が、気分障害、胃腸障害、浮腫形成状態、高血圧または運動障害である、請求項41?56のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
運動障害がパーキンソン病である、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
治療に有効な量の請求項1に定義される式(I)の化合物、特に5-[3-(2,5-ジクロロ-4,6-ジメチル-1-オキシ-ピリジン-3-イル)-[1,2,4]オキサジアゾール-5-イル]-3-ニトロベンゼン-1,2-ジオール、またはその薬理学的に許容可能な塩、エステル、カルバミン酸エステルおよびリン酸エステルを、中枢および抹消神経系障害に罹患した患者に、食物摂取の間に、カテコールアミン薬、特にレボドパと併用して投与することを含む中枢および抹消神経系障害、特にパーキンソン病のような運動障害の予防または治療方法であって、式(I)の化合物が、カテコールアミン薬の1日の最後の投与の少なくとも1時間後で、睡眠前、就寝前または就寝時に、1日に1回投与される、方法。」

イ「【技術分野】
【0001】
本発明は、中枢および末梢神経系障害の治療における、式(I)の置換されたニトロカテコールの特定の投与計画に従った使用に関する。」

ウ「【背景技術】
【0002】
COMT阻害剤のレボドパ/芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼ阻害剤(AADCi)療法の補助療法としての使用の論理的根拠は、レボドパを3-O-メチル-レボドパ(3-OMD)とする代謝性O-メチル化に対する低減能に基く。3-OMDの長い半減期と対照的に、レボドパの生体内半減期が短い結果として、レボドパに誘導される臨床的改善の持続時間は短い。さらに、3-OMDは、脳-血液関門(BBB)内外の輸送に際し、レボドパと競合する。このことは、経口投与されたレボドパの非常に限られた量のみが、作用部位、すなわち脳に実際に到達することを意味する。一般的に、通常の投与計画でレボドパ療法を開始してわずか数年のうちに、レボドパに誘導される臨床的改善は、各投与周期の終点において減少し、運動変動のいわゆる「ウエアリング・オフ」パターンが増加する。「ウエアリング・オフ」現象と3-OMDの蓄積との間の密接な相関が示された(Tohgi, H., et al., Neurosci. Letters, 132:19-22, 1992)。これは、BBB内外の輸送系における3-OMDとの競合によるレボドパの脳浸透障害によると推測され(Reches, A. et al., Neurology, 32:887-888, 1982)、またより単純に、脳に到達し得るレボドパがより少ないと推測されている(Nutt, J.G., Fellman, J.H., Clin. Neuropharmacol., 7:35-49, 1984)。事実上、COMTの阻害は、末梢、特に腸内でO-メチル化の代謝分解からレボドパを保護し、それゆえ、レボドパの繰り返し投与で、レボドパの血漿平均濃度は上昇する。脳への輸送における競合の減少に加えて、有意に高い割合の経口投与されたレボドパが作用部位に到達し得る。COMTの阻害は、レボドパの生物学的利用率を増加させ、レボドパの単回投与で抗パーキンソン作用時間が延長される(Nutt, J.G., Lancet, 351:1221-1222, 1998)。
【0003】
報告された最も強力なCOMT阻害剤は、3,4-ジヒドロキシ-4’-メチル-5-ニトロベンゾフェノン(トルカポン、…)および(E)-2-シアノ-N,N-ジエチル-3-(3,4-ジヒドロキシ-5-ニトロフェニル)アクリルアミド(エンタカポン、…)である。
【0004】
…発売からまもなく、致命的な劇症肝炎による3例の不幸な死を含む数例の肝毒性が報告された後、トルカポンは市場から回収された。…
【0005】
一方、エンタカポンは、トルカポンと同じニトロカテコール活性基を有するが、肝毒性とは関連付けられず、一般的に安全な薬物であると考えられている。しかしながら、不運なことに、エンタカポンは、トルカポンより有意に効果の低いCOMT阻害剤であり、生体内半減期も非常に短い。これは、エンタカポンの効果持続時間が非常に限られており、その結果、非常に高用量で、レボドパが患者に服用されるごとに投与されなければならないことを意味する。それゆえ、エンタカポンの臨床効果は疑問視され、最近の研究(Parashos, S.A. et al., Clin. Neuropharmacol., 27(3): 119-123, 2004)は、パーキンソン病患者におけるエンタカポン治療の非継続の基本的な理由が、効果不足と認識されたためであることを明らかにした。
【0006】
さらに、生体内半減期の比較的短い既知のCOMT阻害剤は、通常1日に数回の投与を含む継続的な治療計画を要し、患者の負担となる可能性がある。たとえば、トルカポンは1日に3回投与されるべきである。この因子は、それゆえ患者のコンプライアンスと生活の質を阻害し得る。」

エ「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、依然として、生物学的活性、生物学的利用率および安全性の調和された特性を示すCOMT阻害剤の必要性がある。特に、長い生体内半減期と、それゆえ、COMTに対し長期の作用を有し、より少ない用量で所望の治療効果を得ることのできるCOMT阻害剤の必要性がある。」

オ「【課題を解決するための手段】
【0008】
出願人は、以前に、比較的半減期は短いものの、非常に強いCOMT阻害剤であり、従来のCOMT阻害剤に比べて格別に長時間の作用を付与する化合物を発見した(WO2007/013830参照)。
【0009】
これらの化合物は、下記において一般式(I)の化合物として示すが、レボドパの生物学的利用率を顕著に増強し、レボドパの脳への到達を増加させる。該化合物は、脳内ドーパミン量を長期にわたり、有意に増加させる。
【0010】
さらに驚くべきことに、レボドパ量の増加は、長期間にわたり、定常的に維持される。一般式(I)の化合物投与後のCOMT活性およびレボドパの生物学的利用率に対するかかる維持効果は、かなり長時間の作用を有することが知られた唯一のCOMT阻害剤であるトルカポンにより観察される効果と比べて、顕著に大きい。(トルカポンは約2時間の終末相半減期を有し、1日に約3回投与されなければならない。)さらに、一般式(I)の化合物は、トルカポンによりレボドパの脳到達の顕著な変動が誘導される傾向が観察されるのとは対照的に、長期間にわたり、レボドパの脳への到達を定常的に増加させる。それゆえ、一般式(I)の化合物は、レボドパ量の持続的かつ一定の上昇により、より治療上の利点を有する可能性がある。一方、トルカポンの使用は、レボドパ量の急激な増加及び減少により、運動障害のような望ましくない副作用を誘導する可能性がある。

カ「【発明を実施するための形態】…
【0042】
より好ましくは、式(I)の化合物とカテコールアミン薬との相互作用を避けるために、そして、患者が消化器系に食物を有しないときに式(I)の化合物を投与するためにも、式(I)の化合物は、睡眠前、就寝前または就寝時に、1日に1回投与される。
【0043】
ここで用いられる「1日の有効投与量」なる語は、投薬周期に従って投与される際に、投与される化合物の有効な1日の量である。
【0044】
本発明において、一般式(I)の化合物の1日の有効投与量は、約1?約1200mg/日であり、好ましくは約1?約900mg/日であり、より好ましくは約5?約400mg/日であり、さらに好ましくは約25?約300mg/日であり、具体的な1日投与量としては、1mg、3mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、50mg、100mg、200mg、400mg、800mgまたは1200mgである。
【0045】
ここで用いられる「用量単位」なる語は、各投薬周期において投与される化合物の量をいう。
【0046】
一般式(I)の化合物の個々の用量単位は、約1?2400mgであることが好ましく、より好ましくは約1?約1200mgであり、さらにより好ましくは、約1?800mgであり、たとえば、1mg、3mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、50mg、100mg、200mg、400mg、800mgまたは1200mgである。
【0047】
上記の通り、COMT阻害剤は、代謝性のO-メチル化を減少させることから、しばしばカテコールアミン化合物の補助剤として使用される。特に、COMT阻害剤は、レボドパの3-O-メチル-レボドパ(3-OMD)への代謝性O-メチル化を減少させることから、レボドパ/芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼ阻害剤(AADCi)療法の補助剤として、しばしば用いられる。
【0048】
従って、好ましくは、該化合物により治療される病理学的状態は、COMT阻害剤の投与が有効なヒトの中枢および抹消神経系-関連疾患である。
【0049】
式(I)の化合物がカテコールアミン薬と併用して投与される場合、カテコールアミン薬は、AADCi、特にカルディドーパまたはベンセラジドと連続してまたはともに投与されることができる。
【0050】
一般式(I)の化合物、カテコールアミン薬およびAADCiは、別個にまたはいずれの組み合わせでも投与され得る。それらは併用して(たとえば、同時に)または連続して、同一のまたは異なる投与周期で投与され得る。たとえば、一般式(I)の化合物は、カテコールアミン薬と併用してまたは連続して投与され得る。

【0052】
ここで用いられる治療なる語、および「治療する」、「治療すること」といったその変化形は、ヒトまたはヒトでない動物に有効な治療法をいう。さらに、式(I)の化合物は、予防(予防的治療)に使用され得る。治療は、中枢および抹消神経系-関連疾患に関する一以上の症状についての治癒、緩和または低減効果のような効果を含み得る。

「【0089】
式(I)の化合物は、医薬組成物として投与される。
【0090】
好ましくは、医薬組成物はたとえばパッケージ化された製剤等の単位投与量の剤形であり、パッケージには、個別の量の製剤、たとえばパッケージされた錠剤、カプセルおよびびんまたはアンプルに入れられた粉末が含まれる。
【0091】
通常、式(I)の化合物は経口投与される。
式(I)の化合物は、通常は1日に1回から週に約1回投与される。
1日に1回より少ない周期で(たとえば週に1回)、いつ式(I)の化合物が投与されるのかという疑問を避けるため、睡眠前、就寝前または就寝時で、式(I)の化合物が投与されるべき週の投与されるべき日の、レボドパの1日の最後の投与の前または後に投与され、レボドパのように毎日ではないと理解される。」

キ「【実施例】
【0094】
実施例1:化合物Aの調製
(5-[3-(2,5-ジクロロ-4,6-ジメチル-1-オキシ-ピリジン-3-イル)-[1,2,4]オキサジアゾール-5-イル]-3-ニトロベンゼン-1,2-ジオール)

【0109】
実施例3b:レボドパおよび化合物Aの同時および1時間あけた投与
本試験は、標準作用型の25/100mgカルビドーパ/レボドパが50mgの化合物A投与と同時または1時間後に投与された場合のPK-PD相互作用を評価するため、4回の連続した単回投与治療期間でなされた単一施設における、非盲検、無作為、男女の数を釣り合わせた交差試験であった。18名の被験者が2回の治療期間を終え、17名の被験者が3回の治療期間を終え、16名の被験者が4回の全治療期間を終えた。全18名[男性10名(55.6%)]および[女性8名(44.4%)]が本試験に参加した。

【0114】
シネメット(Sinemet(登録商標))100/25と化合物A50mgの同時投与(試験L1)および1時間あけて投与(試験L2)後のレボドパの平均薬物動態パラメーターの推定値および90%信頼区間を表2に示した(シネメット(Sinemet(登録商標))100/25単独を対照とした):
【0115】
【表2】


【0116】
シネメット(Sinemet(登録商標))100/25が化合物A50mgの1時間後に投与された場合、レボドパに対する曝露量(AUCにより評価される)の大幅な増加が見られた。

【0124】
結論
上記結果は、すでに行った多数の分析とよく一致した。…これは、COMTの早期阻害と、その結果としてレボドパの全身曝露の増加をもたらし得る。
【0125】
実施例3c:L-ドパおよび化合物Aの同時投与後、さらにL-ドパを24時間後に投与した後における患者のレボドパ曝露に及ぼす化合物Aの影響
本試験は、3通りの用量(25、50および100mg)の化合物Aの単回投与が、レボドパ/ドーパ-デカルボキシラーゼ阻害剤で併用治療された10名のパーキンソン病患者において、レボドパの薬物動態、運動反応、および赤血球溶解性カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ活性に対する忍容性および影響を評価するための、3施設、二重盲検、無作為で、プラセボを対照とした交差試験であった。
【0126】
以下を示す被験者が適格とされた: 英国(UK)PDS Brain Bankの診断基準に従った診断結果;「好適な」レボドパ/AADCi治療にもかかわらず、1回の投与の終点における悪化を予測し得る兆候;無作為化前の少なくとも1週間以内に、標準作用型レボドパ/AADCi 100/25mgを1日に3?8回の安定した計画で治療されている; オフ状態において、修正されたHoehn and Yahrのステージが5未満;および/または覚醒時間内のオフ状態の平均持続時間が1.5時間以上である。抗-パーキンソン病併用薬(アポモルヒネ、エンタカポンまたはトルタカポン以外)は、無作為化の少なくとも4週間前まで継続服用が認められた。
レボドパの投与量および回数の制御は、運動の複雑化発現に対する通常の治療手段である。これは、通常、レボドパ治療の最適化と表記される。「最適な」レボドパ/AADCi治療は、患者に最良の運動反応をもたらす、すなわち、1回投与の終点における悪化(ウェアリング-オフ)および/または運動の複雑化のない、または最小限まで減少させる、レボドパ/AADCiの投与量および投与計画である。
【0127】
試験は、4種の異なる治療法の選択肢(化合物A25mg、50mg、100mgまたは偽薬)に相当する4回の連続した治療期間からなる。4回の治療期間のそれぞれにおいて、被験者は化合物A/偽薬投与(Day 1)の2日前に研究施設に入院し、化合物A/偽薬投与を受けた48時間後まで入院したまま(「入院患者」)とした。 投与間の洗い出し期間は少なくとも10日とした。次の訪問は、最後の投薬治療または早期中止の約2週間後とされた。各期間中、Day 3に、化合物A/偽薬カプセルがレボドパ/カルビドーパ100/25mg (シネメット(Sinemet(登録商標))25/100 1錠)またはレボドパ/ベンセラジド100/25mg(マドパール(Madopar(登録商標))/レステックス(Restex(登録商標))125 1錠)の朝の投与分とともに投与された。
【0128】
全10名の被験者が本試験に登録された:10名の被験者が3回の治療期間を終了し、9名の被験者が全4回の治療期間を終了した。平均 (±SD) 年齢、身長および体重は、それぞれ58.40±10.24(幅:42-70)才、1.69±0.14(1.52-1.95)m、71.5±15.06(50-100)kgであった。
【0129】
本試験の結果を表3および4に示した。
【0130】
【表3】


【0131】
【表4】


【0136】
実施例3e:パーキンソン病患者における臨床試験:睡眠前および食物摂取1時間後の投与量
二重盲検、偽薬対照試験において、レボドパ/AADCiが継続されているパーキンソン病患者が次の通り治療される。患者は夕方、レボドパ/AADCi治療薬の1日の最後の投与の少なくとも1時間後(就寝時投与)に、偽薬または化合物A(25mgまたは50mg)のいずれかを服用する。
【0137】
被験者は、治療を受ける1時間前および少なくとも1時間後に絶食することを要求される。
【0138】
化合物Aを服用した患者は、偽薬を服用した患者に比べて、改善された効果を示すと予測される。」

(2)上記(1)の記載によれば、引用文献1には、レボドパ/AADCi(芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼ阻害剤)療法の補助療法として用いられるCOMT阻害剤は、末梢の代謝分解からレボドパを保護し、レボドパの生物学的利用率を増加させ、レボドパの単回投与で抗パーキンソン作用時間が延長されるものであり(【0002】)、長い生体内半減期と、それゆえCOMTに対し長期の作用を有し、より少ない用量で所望の治療効果を得ることのできるCOMT阻害剤の必要性があったところ(【0007】)、そのようなCOMT阻害剤として、式(I)の化合物、特に、化合物A(5-[3-(2,5-ジクロロ-4,6-ジメチル-1-オキシ-ピリジン-3-イル)-[1,2,4]オキサジアゾール-5-イル]-3-ニトロベンゼン-1,2-ジオール)を見出したものであり、式(I)の化合物は、レボドパ量の持続的かつ一定の上昇により、より治療上の利点を有する可能性があることが記載されている(【請求項43】【請求項59】【0008】?【0010】【0094】)。
また、式(I)の化合物は、通常、1日に1回から週に約1回、睡眠前、就寝前または就寝時に、その日のレボドパの最後の投与の前または後に投与され(【0091】)、1日の有効投与量は「さらに好ましくは約25?約300mg/日であり、具体的な1日投与量としては、1mg、3mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、50mg、100mg、200mg、400mg、800mgまたは1200mg」であり(【0044】)、レボドパ/AADCi療法の補助剤として用いられること(【0047】?【0050】)が記載されている。
さらに、実施例3bにおいて、男女の被験者に対して、化合物A50mgと、25mgカルビドーパ/100mgレボドパとを、同時または1時間あけて投与する試験を行ったところ、カルビドーパ/レボドパの1時間後に化合物Aを投与した場合、レボドパに対する暴露量(AUC)の大幅な増加が見られたことが記載されている(【0109】?【0124】)。
実施例3cにおいて、レボドパ/AADCi治療として、100mg/25mgを1日に3?8回の安定した計画で治療されているパーキンソン病患者に対して、3通りの用量(25、50及び100mg)の化合物Aを単回投与し、さらに、レボドパ/カルビドーパ100/25mg又はレボドパ/ベンセラジド100/25mgを同時投与又は24時間後に投与した場合についての、レボドパの薬物動態(C_(max)、T_(max)、AUC等)の測定結果が表3及び表4に記載されている(【0125】?【0131】)。
そして、それらの実験結果を踏まえて、実施例3eには、レボドパ/AADCiが継続されているパーキンソン病患者に、レボドパ/AADCi治療薬の1日の最後の投与の少なくとも1時間後(就寝時投与)に、化合物A(25mg又は50mg)を服用するという臨床試験計画が記載され、「化合物Aを服用した患者は、偽薬を服用した患者に比べて、改善した効果を示すと予測される。」と記載されている(【0136】?【0138】)。

引用文献1の実施例3cにおいては、レボドパ/AADCi治療が継続されているパーキンソン病患者に対して、化合物Aと、レボドパ/AADCi(カルビドーパ又はベンセラジド)とを組み合わせて投与した場合のレボドパの薬物動態(C_(max)、T_(max)、AUC等)を測定した結果が記載されているものの、実際に症状が抑制されたのか否かは確認していない。
しかし、上記1(3)のとおり、本願出願当時、(i)レボドパによる治療効果がレボドパの血中濃度についての薬物動態から推測できること、及び(ii)パーキンソン病の薬物治療は、事実上は症状を抑える対症療法であることが、それぞれ技術常識となっていたことから、引用文献1に記載された式(I)の化合物とレボドパ/AADCi治療の組合せ、特に、実施例3cの薬物の組合せは、パーキンソン病の症状を抑制できるもの、つまり、パーキンソン病の治療のための医薬であることを、当業者は理解することができる。
したがって、引用文献1には、次のとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「レボドパ/AADCi治療が継続されているパーキンソン病患者に対するパーキンソン病の治療のための医薬であって、
(i)レボドパ、
(ii)カルビドーパ又はベンセラジドであるAADCi、及び、
(iii)5-[3-(2,5-ジクロロ-4,6-ジメチル-1-オキシ-ピリジン-3-イル)-[1,2,4]オキサジアゾール-5-イル]-3-ニトロベンゼン-1,2-ジオール(化合物A):25mg、50mg又は100mgを、
組合せた医薬。」


第5 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「AADCi」は、芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼ阻害剤であるから(引用文献1の【0002】)、本願発明の「AADC阻害剤」に相当する。
また、本願明細書の【0005】に記載されたオピカポンの化合物名称によれば、引用発明の「5-[3-(2,5-ジクロロ-4,6-ジメチル-1-オキシ-ピリジン-3-イル)-[1,2,4]オキサジアゾール-5-イル]-3-ニトロベンゼン-1,2-ジオール(化合物A)」は、本願発明の「オピカポン」に相当する。
さらに、引用発明の「パーキンソン病の治療のため」と本願発明の「パーキンソン病の進行遅延における使用のため」とは、「パーキンソン病のため」である限りにおいて一致する。
そして、引用発明の「?を組合せた、医薬」は、本願発明の「?を含」む「医薬」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明との一致点及び一応の相違点は次のとおりである。

<一致点>
「患者のパーキンソン病のための、
(i)レボドパ、
(ii)AADC阻害剤、および
(iii)オピカポン
を含む、医薬。」
<相違点1>
患者が、本願発明においては「オピカポンで以前に治療されていない」患者であるのに対し、引用発明においては「レボドパ/AADCi治療が継続されている」患者である点。
<相違点2>
オピカポンの用量が、本願発明においては「25mgから100mg」であるのに対し、引用発明においては「25mg、50mg又は100mg」である点。
<相違点3>
医薬が、本願発明においては「パーキンソン病の進行遅延における使用のための」のものであるのに対し、引用発明においては「パーキンソン病の治療のため」のものである点。

2 判断
(1)相違点1について
上記第4の2(2)のとおり、本願出願日より前に公開された引用文献1には、長い生体内半減期と、それゆえCOMTに対し長期の作用を有し、より少ない用量で所望の治療効果を得ることのできるCOMT阻害剤の必要性があったところ、そのようなCOMT阻害剤として、オピカポン(化合物A)を見出したことが記載され、また、実施例3cにおいて適格とされる被験者の条件にオピカポンの治療経験について記載がないことなどからみて、引用発明の「レボドパ/AADCi治療が継続されているパーキンソン病患者」は、「オピカポンで以前に治療されていない患者」であると解するのが相当である。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。

(2)相違点2について
本願発明の「25mgから100mg」は、25mgから100mgまでのいずれかの用量であることを意味するから、引用発明の「25mg、50mg又は100mg」を包含し、両者のオピカポンの用量は重複一致している。
したがって、相違点2は実質的な相違点ではない。

(3)相違点3について
ア 上記第4の1(3)のとおり、本願出願当時、パーキンソン病の薬物治療は、基本的には症状を抑える対症療法であり、神経変性を防いで、パーキンソン病の進行を遅らせる治療薬(疾患修飾薬)が望まれていたことが技術常識となっていた。
上記の技術常識を踏まえると、本願発明の「パーキンソン病の進行遅延における使用のための医薬」とは、パーキンソン病の治療のための医薬であるものの、単に、パーキンソン病の症状を抑える医薬ではなく、パーキンソン病の進行自体を遅延させる医薬であると解される。

イ 他方、引用文献1には、「治療は、中枢および末梢神経系-関連疾患に関する一以上の症状についての治癒、緩和または低減のような効果を含み得る。」(【0052】)、「『最適な』レボドパ/AADCi治療は、患者に最良の運動反応をもたらす、すなわち、1回投与の終点における悪化(ウエアリング-オフ)および/または運動の複雑化のない、または最小限まで減少させる、レボドパ/AAFCiの投与量および投与計画である。」(【0126】)と記載されていることを考慮すると、引用発明の「パーキンソン病の治療のための医薬」とは、パーキンソン病の症状を治癒、緩和又は低減する効果を含み得るものであるが、特段、パーキンソン病の進行自体を遅延させる効果を奏することは認識されていない。
したがって、引用発明は、症状を抑える効果を奏する「パーキンソン病の治療のための医薬」であると解される。

ウ そこで、本願発明の「パーキンソン病の進行遅延における使用のための医薬」と引用発明の「パーキンソン病の治療のための医薬」とが、異なる用途といえるか否かについて検討する。

(ア)患者群
パーキンソン病の患者に対しては、症状を抑えることと病気の進行を遅延させることのいずれもが望まれており、「パーキンソン病の進行遅延における使用のための医薬」が対象とする患者群は、症状を抑える効果を奏する「パーキンソン病の治療のための医薬」が対象とする患者群と、何ら変わるところはない。
また、本願明細書には、パーキンソン病の進行遅延のための医薬が対象とする患者群が、対症療法として用いられる医薬が対象とする患者群と異なるものであることは、記載も示唆もない。
したがって、本願発明の「パーキンソン病の進行遅延のための医薬」と引用発明の「パーキンソン病の治療のための医薬」とは、それを適用する患者群について区別することはできない。

(イ)用法・用量等の具体的な使用条件
本願出願当時、「パーキンソン病の進行遅延における使用のための医薬」を使用する用法・用量等の具体的な使用条件が、症状を抑える効果を奏する「パーキンソン病の治療のための医薬」のそれと異なるという技術常識があったとはいえない。
また、本願明細書には、オピカポンは5?100mgの用量を1日1回、レボドパの最後の投与の1時間前または1時間後、例えば就寝前に投与することが記載され(【0011】【0012】)、これらは、引用文献1に記載されたもの(【0091】)と重複している。また、本願明細書には、投与期間は、「例えば、2週間、…または24カ月間であってもよい。」(【0010】)と記載されているが、一般に、パーキンソン病の治療は長期間を要することから、引用発明における投与期間も、2週間程度から24カ月程度に至る長期間を当然想定しているといえる。
したがって、本願発明の「パーキンソン病の進行遅延のための医薬」と引用発明の「パーキンソン病の治療のための医薬」とは、その用法・用量等の具体的な使用条件について区別することはできない。

(ウ)上記(ア)(イ)のとおり、患者群及び用法・用量等の具体的な使用条件について区別ができない以上、本願発明の「パーキンソン病の進行遅延における使用のための医薬」と引用発明の「パーキンソン病の治療のための医薬」とは異なる用途であるとはいえず、相違点3は、実質的な相違点ではない。

(4)小括
以上のとおり、相違点1?3は、実質的な相違点ではなく、本願発明は、引用発明と実質的に同一であり、引用文献1に記載された発明であるといわざるを得ない。

3 請求人の主張について
請求人は、「本願発明は、オピカポンで以前に治療されていない患者のパーキンソン病の進行遅延における使用のための医薬に関するものである。そのような効果は、試験デザインが疾患進行に対する効果を観察することができなかったことから、引用例1には開示されていない。試験の形式が疾患の進行を測定するのに不適切であるだけでなく、試験が短期間(3用量のオピカポンおよび最大10日間の追跡調査)であり、対症効果は記録されていない。症状の減少を観察することは不可能であり、比較する遅延開始グループは存在していなかった。
したがって、引用例1には本願発明は開示されておらず、本願発明は引用例1に対し新規性を有するものであると思料する。」と主張する(審判請求書15頁末行?16頁9行)。

しかしながら、上記2(3)のとおり、本願発明と引用発明とは、適用対象の患者群や用法・用量等の具体的な使用条件において区別することができないから、本願発明が、引用発明が本来有していた「パーキンソン病の進行遅延」という、パーキンソン病の治療用の医薬が有する属性として従来から当業者が期待していた属性を有することを見出したものであるとしても、「パーキンソン病の進行遅延」という属性により引用発明とは異なる新たな用途における使用に適することを見出した、新規性のある発明であるとはいえない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-11-28 
結審通知日 2019-12-03 
審決日 2019-12-20 
出願番号 特願2017-528477(P2017-528477)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原口 美和  
特許庁審判長 井上 典之
特許庁審判官 藤原 浩子
渕野 留香
発明の名称 パーキンソン病を遅延させるための医薬  
代理人 梅田 慎介  
代理人 大野 聖二  
代理人 松任谷 優子  

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