• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G01N
管理番号 1362326
異議申立番号 異議2019-700769  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-26 
確定日 2020-03-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6490614号発明「インドキシル硫酸の測定方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6490614号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6490614号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 特許第6490614号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6490614号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成28年3月17日(優先権主張 平成27年3月30日)の出願であって、平成31年3月8日にその特許権の設定登録がされ、同年3月27日に特許掲載公報が発行されたところ、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和元年9月26日に特許異議申立人松本晶子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年11月6日付けで取消理由が通知され、令和2年1月8日付けで意見書の提出及び訂正請求がされ、同年2月20日付けで、申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和2年1月8日付けの訂正請求(以下「本件訂正請求」という。また、その訂正を「本件訂正」という。)は、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし5について訂正することを求めるものであって、以下の訂正事項1ないし訂正事項5からなる(なお、下線は、請求人が付したものである。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「尿を測定試料とするインドキシル硫酸の測定方法であって、」と記載されているのを、「尿の希釈物を測定試料とするインドキシル硫酸の測定方法であって、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3、4も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記測定試料が尿そのもの又は」と記載されているのを、「前記測定試料が」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3、4も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「尿の希釈物」と記載されているのを、「尿の100倍以上の希釈物」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3、4も同様に訂正する)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「励起波長を260?300nmの範囲から選択し、発光波長を、選択した励起波長よりも80?180nm大きい波長としたときの前記測定試料の蛍光強度から、前記測定試料におけるインドキシル硫酸の濃度を算出する」と記載されているのを、「前記希釈物のインドキシル硫酸の濃度が1?5.3μMの範囲内であり、励起波長を260?300nmの範囲から選択し、発光波長を、選択した励起波長よりも80?180nm大きい波長としたときの前記測定試料の蛍光強度から、前記測定試料におけるインドキシル硫酸の濃度を算出する」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3、4も同様に訂正する)。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

2 訂正の目的、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び一群の請求項
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否について
訂正前の請求項1に係る発明では「尿を測定試料とするインドキシル硫酸の測定方法であって、」と記載しており、また次行にて「前記測定試料が尿そのもの又は尿の希釈物であり、」と記載していることから、「尿」が「尿そのもの」と「尿の希釈物」の両方を含むものとして記載している。
これに対して、訂正後の請求項1に係る発明では、訂正前の請求項1に択一的に記載されていた「尿そのもの」を削除し、「尿の希釈物」であることを特定して特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正後の請求項2?4は、訂正後の請求項1に記載された「尿の希釈物を測定試料とするインドキシル硫酸の測定方法であって、」との記載を引用することにより、訂正後の請求項2?4に係る発明における測定試料をさらに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項1は、上記アのとおり、訂正前の請求項1に択一的に記載されていた「尿そのもの」を削除したことで、訂正前の請求項1の記載を減縮するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、上記アのとおり、訂正前の請求項1に択一的に記載されていた「尿そのもの」を削除したものであり、特許請求の範囲を拡張するものでなく、当該訂正により訂正前の請求項1に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
また訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2?4についても、訂正前の請求項1に択一的に記載されていた「尿そのもの」を削除したものであり、特許請求の範囲を拡張するものでなく、当該訂正により訂正前の請求項2?4に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否について
訂正前の請求項1に係る発明では「前記測定試料が尿そのもの又は尿の希釈物であり、」としていることから、測定試料である「尿」が「尿そのもの」と「尿の希釈物」の両方を含むものとして記載している。
これに対して、訂正後の請求項1に係る発明では、訂正前の請求項1に択一的に記載されていた「尿そのもの」を削除して特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正後の請求項2?4は、訂正後の請求項1に記載された「前記測定試料が・・・」との記載を引用することにより「尿そのもの」を削除し、訂正後の請求項2?4に係る発明における測定試料をさらに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項2は、上記アのとおり、訂正前の請求項1に択一的に記載されていた「尿そのもの」を削除したことで、訂正前の請求項1の記載を減縮するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項2は、上記アのとおり、訂正前の請求項1に択一的に記載されていた「尿そのもの」を削除したものであり、特許請求の範囲を拡張するものでなく、当該訂正により訂正前の請求項1に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
また訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2?4についても、訂正前の請求項1に択一的に記載されていた「尿そのもの」を削除したものであり、特許請求の範囲を拡張するものでなく、当該訂正により訂正前の請求項2?4に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否について
訂正前の請求項1に係る発明では「尿の希釈物」としており、希釈倍率については特定していない。
これに対して、訂正後の請求項1に係る発明では、「尿の100倍以上の希釈物」との記載により希釈倍率を具体的に特定し、さらに限定している。すなわち訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正後の請求項2?4は、訂正後の請求項1に記載された「尿の100倍以上の希釈物」との記載を引用することにより、訂正後の請求項2?4に係る発明における測定試料をさらに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
本件特許明細書の段落【0044】には「各尿検体をPBSで100倍に希釈し、蛍光測定用の検体(測定試料)を調製した。」と記載されており、段落【0046】には「各検体の100倍希釈液の蛍光強度を並行して測定し、検量線から各測定試料のインドキシル硫酸濃度を算出した。」と記載されている。これらの記載から、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項3は、尿の希釈倍率を特定して「尿の100倍以上の希釈物」とするものであり、特許請求の範囲を拡張するものでなく、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
また訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2?4についても、尿の希釈倍率を特定して「尿の100倍以上の希釈物」とするものであり、特許請求の範囲を拡張するものでなく、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的の適否について
訂正前の請求項1に係る発明では「励起波長を260?300nmの範囲から選択し、発光波長を、選択した励起波長よりも80?180nm大きい波長としたときの前記測定試料の蛍光強度から、前記測定試料におけるインドキシル硫酸の濃度を算出する」と記載されており、測定試料のインドキシル硫酸の濃度については特定していない。
これに対して、訂正後の請求項1に係る発明では、「前記希釈物のインドキシル硫酸の濃度が1?5.3μMの範囲内であり、励起波長を260?300nmの範囲から選択し、発光波長を、選択した励起波長よりも80?180nm大きい波長としたときの前記測定試料の蛍光強度から、前記測定試料におけるインドキシル硫酸の濃度を算出する」との記載により、測定試料(尿の希釈物)のインドキシル硫酸の濃度範囲を具体的に特定し、さらに限定している。すなわち訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正後の請求項2?4は、訂正後の請求項1に記載された「前記希釈物のインドキシル硫酸の濃度が1?5.3μMの範囲内であり、」との記載を引用することにより、訂正後の請求項2?4に係る発明における測定試料の(尿の希釈物)のインドキシル硫酸の濃度範囲をさらに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
本件特許明細書の段落【0048】に「図4に励起波長280nm、発光波長400nmの場合における直接蛍光法とHPLC法による測定値との関係を示す。図4の縦軸は直接蛍光法(μM)、横軸はHPLC法によるインドキシル硫酸濃度の測定値(μM)である。」と記載されている。さらに下記「第3 2(2)ア(ウ)」で摘記する図4のグラフにおける最も左側(低濃度側)のプロット(◆)の縦軸から100μMの値が読み取れる。また、最も右側(高濃度側)のプロットの縦軸から530μMの値が読み取れる。当該値は尿の100倍希釈物を用いた測定値を100倍して得られた値であるから、100倍希釈物の濃度範囲は各測定値を100で除した値となり、1?5.3μMとなる。これらの記載から、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項4は、測定試料のインドキシル硫酸の濃度範囲を特定して「前記希釈物のインドキシル硫酸の濃度が1?5.3μMの範囲内であり、」とするものであり、特許請求の範囲を拡張するものでなく、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
また、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2?4についても、測定試料のインドキシル硫酸の濃度範囲を特定して「前記希釈物のインドキシル硫酸の濃度が1?5.3μMの範囲内であり、」とするものであり、特許請求の範囲を拡張するものでなく、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項5は、請求項5を削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項5は、請求項5を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項5は、請求項5を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(6)一群の請求項について
訂正前の請求項1?5について、請求項2?5はそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1?5によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?5に対応する訂正後の請求項1?5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(7)独立特許要件について
本件においては、訂正前の全ての請求項1?5について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1?5に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。

3 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第4項の規定、並びに、同条第9項で準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1?5〕について訂正を認める。
なお、本件訂正を認めることについては、申立人は令和2年2月20日付け意見書において異論を述べていない。

第3 特許異議申立てについて
1 本件特許発明
上記第2のとおり、本件訂正の訂正事項1ないし5による訂正を認めるから、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。)は、本件訂正により訂正された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、その本件特許発明1ないし5は以下に記載したとおりのものである。なお、下線部は、訂正箇所を示す。

「【請求項1】
尿の希釈物を測定試料とするインドキシル硫酸の測定方法であって、
前記測定試料が尿の100倍以上の希釈物であり、
前記希釈物のインドキシル硫酸の濃度が1?5.3μMの範囲内であり、
励起波長を260?300nmの範囲から選択し、発光波長を、選択した励起波長よりも80?180nm大きい波長としたときの前記測定試料の蛍光強度から、前記測定試料におけるインドキシル硫酸の濃度を算出することを特徴とするインドキシル硫酸の測定方法。
【請求項2】
前記発光波長を380?420nmの範囲から選択することを特徴とする請求項1に記載のインドキシル硫酸の測定方法。
【請求項3】
前記励起波長を270?290nmの範囲から選択し、前記発光波長を390?410nmの範囲から選択することを特徴とする請求項1又は2に記載のインドキシル硫酸の測定方法。
【請求項4】
前記励起波長を270?290nmの範囲から選択し、前記発光波長を400?420nmの範囲から選択することを特徴とする請求項1又は2に記載のインドキシル硫酸の測定方法。
【請求項5】(削除)」

2 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし5に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

理由1(サポート要件)
請求項1?5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由2(実施可能要件)
請求項1?5に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

ア 理由1(サポート要件)について
(ア)尿の希釈の観点における検討
本件特許明細書には、実際に尿を測定対象としてインドキシル硫酸の濃度を測定したとされるのは、100倍希釈した尿であり、インドキシル硫酸の濃度の測定範囲は、約1μMから約5.3μMである。
夾雑物を多く含む尿と精製されたインドキシル硫酸を水に溶解したものを同一視することはできないことを考慮すると、希釈されていない尿は、夾雑物を多く含むことから、100倍希釈尿のインドキシル硫酸濃度が約1μMから約5.3μMが測定できたからといって、希釈されていない尿、100倍未満の希釈された尿においてインドキシル硫酸濃度が約1μMから約5.3μMの範囲を測定し得るものかどうかは不明である。

(イ)インドキシル硫酸の濃度の観点における検討
本件特許明細書に添付した図4に、励起波長280nm、発光波長400nmの場合における直接蛍光法とHPLC法による測定値との関係は、相関係数が0.98であることが示されているが、インドキシル硫酸の濃度が約1μMから約5.3μM以外の範囲については示されていないことから、インドキシル硫酸の濃度の程度によって検出される蛍光の強度は必ずしも比例の関係にあるものではないことを踏まえると、100倍希釈した尿であっても、インドキシル硫酸の濃度が約1μMから約5.3μM以外の範囲について、高い相関係数が得られ、測定可能であるかは確認されているとはいえない。

(ウ)検量線の観点における検討
本件特許明細書に記載された検量線は、精製されたインドキシル硫酸を水に溶解して、濃度100μM又は10μMのインドキシル硫酸標準原液を作製し、この標準原液を段階希釈したものを用いて作成されており、実際の尿を用いたものではない。
夾雑物を多く含む尿と精製されたインドキシル硫酸を水に溶解したものを同一視することはできないことを考慮すると(例えば、尿に含まれるアンモニアは、インドキシル硫酸の蛍光強度に影響を与えることが下記参考文献1に示されている。)、本件特許明細書に記載された検量線を用いて、一部の濃度範囲において相関が見られたからといって、希釈の程度、インドキシル硫酸の濃度の測定範囲の特定がない本件特許発明1まで、拡張し得るのか不明である。

(エ)してみると、本件特許発明1?5は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された範囲を超えるものである。

イ 理由2(実施可能要件)について
本件特許発明1-4は、測定試料は、「尿そのもの又は尿の希釈物」であって、希釈の程度は特定されておらず、インドキシル硫酸の濃度の測定範囲の特定はないところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、100倍希釈尿のインドキシル硫酸濃度が約1μMから約5.3μMが測定することが記載されているが、それ以外の条件において、測定可能であるか不明である。
よって、発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1?4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

本件特許発明5は、インドキシル硫酸濃度が0.2?25μMであることが特定されている。しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、100倍希釈尿のインドキシル硫酸濃度が約1μMから約5.3μMが測定することが記載されていだけで、それ以外の条件において、測定可能であるか不明である。
よって、発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

(2)取消理由通知に記載した取消理由について当審の判断
ア 本件特許明細書に記載された事項について
(ア)発明が解決しようとする課題について、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記した従来技術のインドキシル硫酸の測定方法では、検体の抽出操作や前処理等が必要であり、かつ操作が煩雑である等の問題がある。そこで本発明は、より迅速かつ簡便に体液中インドキシル硫酸を測定できる技術を提供することを目的とする。」

(イ)実施例について、以下の記載がある。
「【0041】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
ボランティア8名から採取した尿検体を用いて、以下の実験を行った。
【0043】
(1)HPLC法によるインドキシル硫酸測定
HPLC法(Clin Chem. 1988 Nov;34(11):2264-7.Accumulation of indoxyl sulfate, an inhibitor of drug-binding, in uremic serumas demonstrated by internal-surface reversed-phase liquid chromatography. NiwaT1, Takeda N, Tatematsu A, Maeda K)にて、各検体のインドキシル硫酸濃度を測定した。
【0044】
(2)本発明の方法による蛍光測定(直接蛍光法)
各尿検体をPBSで100倍に希釈し、蛍光測定用の検体(測定試料)を調製した。各測定試料200μLを前処理等することなくそのまま蛍光測定用マイクロプレート(Greinerbio-one、762077)の各穴に入れ、マイクロプレートリーダー(Spectra MaxGemini EM; Molecular Devices, Sunnyvale, CA)にて蛍光強度を測定した。励起波長を280nmとし、発光波長(蛍光波長)320nm?500nmの範囲でスキャンした。図1に各測定試料の蛍光パターンを示す。いずれの測定試料でも発光波長390nmに蛍光強度のピークがあった。
【0045】
(3)測定範囲の検討
精製されたインドキシル硫酸(Aldrich社)を水に溶解して、濃度100μMのインドキシル硫酸標準原液を作製した。この標準原液を1/2倍ずつ段階希釈して、0.196μM?100μMのインドキシル硫酸標準溶液を作製した。この標準溶液を上記(2)と同様の直接蛍光法(励起波長280nm、発光波長400nm)に供して蛍光強度を測定し、インドキシル硫酸濃度と蛍光強度との関係をグラフ化した。その結果、0.196μM?100μMの範囲でインドキシル硫酸濃度と蛍光強度との間に相関関係があり、検量線を作成することができた。特に、0.196μM?25μMの範囲において、高い直線性が得られた(図2)。
【0046】
(4)直接蛍光法とHPLC法との相関
精製されたインドキシル硫酸(Aldrich社)を水に溶解して、濃度10μMのインドキシル硫酸標準原液を作製した。この標準原液を1/2倍ずつ段階希釈して、0.156μM?10μMのインドキシル硫酸標準溶液を作製した。この標準溶液を上記(2)と同様の直接蛍光法(励起波長280nm、発光波長320nm?500nm)に供して蛍光強度を測定し、得られた蛍光強度から検量線を作成した。図3に、励起波長280nm、発光波長400nmの場合の検量線を示す。
各検体の100倍希釈液の蛍光強度を並行して測定し、検量線から各測定試料のインドキシル硫酸濃度を算出した。得られたインドキシル硫酸濃度値と、上記(1)で得られたHPLC法による測定値とを比較した。得られた蛍光強度の値について、発光波長ごとに直接蛍光法とHPLC法との相関係数を、EXCELソフトウェア(Microsoft社)のCORREL関数を用いて算出した。
【0047】
結果を表1に示す。表1に示すように、発光波長が330nm?500nmの範囲で、0.8以上の相関係数が得られた。このうち、発光波長が380nm?420nmの範囲で0.97以上の特に高い相関係数が得られ、410nmと420nmでHPLC法と最も近似した値が得られた。
【0048】
図4に励起波長280nm、発光波長400nmの場合における直接蛍光法とHPLC法による測定値との関係を示す。図4の縦軸は直接蛍光法(μM)、横軸はHPLC法によるインドキシル硫酸濃度の測定値(μM)である。
【0049】
【表1】

【0050】
以上のように、尿検体を特に前処理することなくそのまま蛍光測定することによって、尿中のインドキシル硫酸濃度を正確に測定できることが示された。」

(ウ)図面1ないし4として、以下の記載がある。


イ 本件特許明細書の記載から把握される事項
上記アの記載を総合すると、以下の事項が把握される。
(ア)本件特許発明は、従来技術のインドキシル硫酸の測定方法では、検体の抽出操作や前処理等が必要であり、かつ操作が煩雑である等の問題があるところ、より迅速かつ簡便に体液中インドキシル硫酸を測定できる技術を提供することを目的としていること。
(イ)本件特許明細書に記載されている実施例で測定に供された測定試料は、ボランティア8名から採取した尿検体を100倍希釈液(【0042】、【0044】、【0046】)であること。
(ウ)濃度100μMのインドキシル硫酸標準原液を作製し段階希釈して、0.196μM?100μMのインドキシル硫酸標準溶液を作製し、この標準溶液を励起波長280nm、発光波長400nmに供して蛍光強度を測定し、インドキシル硫酸濃度と蛍光強度との関係をグラフ化した結果、0.196μM?100μMの範囲でインドキシル硫酸濃度と蛍光強度との間に相関関係があり、検量線を作成することができ、特に、0.196μM?25μMの範囲において、高い直線性が得られた(図2)こと(【0045】)。ただし、図2には、25μM?100μMの範囲のデータは記載されておらず、インドキシル硫酸濃度と蛍光強度との間に相関関係があることは確認できない。
(エ)濃度10μMのインドキシル硫酸標準原液を作製し段階希釈して、0.156μM?10μMのインドキシル硫酸標準溶液を作製し、この標準溶液を励起波長280nm、発光波長320?500nmに供して蛍光強度を測定し、検量線を作成したこと(【0046】)。
(オ)図3は、励起波長280nm、発光波長400nmの場合の検量線であること(【0046】)。なお、インドキシル硫酸標準溶液が10μMより大きい濃度の検量線の記載はない。
(カ)検量線は、精製されたインドキシル硫酸を水に溶解して、濃度100μM又は10μMのインドキシル硫酸標準原液を作製し、この標準原液を段階希釈したものを用いて作成されており、実際の尿を用いたものではないこと。
(キ)図4に示された、励起波長280nm、発光波長400nmの場合における直接蛍光法とHPLC法による測定値との関係は、相関係数が0.98であり、ボランティア8名から採取した尿検体のインドキシル硫酸の濃度範囲は、HPLC法で約30μMから約530μMに渡り、直接蛍光法では、約100μMから約530μMに渡ること。
そして、検体の尿は100倍希釈であることを考慮すると、直接蛍光法で実際に測定したインドキシル硫酸の濃度とされる範囲は、約1μMから約5.3μMであること。

ウ 理由1(サポート要件)についての判断
本件特許発明1は、訂正により、
「尿の希釈物を測定試料とするインドキシル硫酸の測定方法であって、
前記測定試料が尿の100倍以上の希釈物であり、
前記希釈物のインドキシル硫酸の濃度が1?5.3μMの範囲内であり、
励起波長を260?300nmの範囲から選択し、発光波長を、選択した励起波長よりも80?180nm大きい波長としたときの前記測定試料の蛍光強度から、前記測定試料におけるインドキシル硫酸の濃度を算出することを特徴とするインドキシル硫酸の測定方法。」となった(下線は、訂正により限定された構成を示すものであり、当審が付与した。)。
そして、この訂正により、上記取消理由の「理由1(サポート要件)について(ア)尿の希釈の観点における検討」で、測定し得るかどうかは不明であると指摘した「希釈されてない尿、100倍未満の希釈された尿」は除かれ、「理由1(サポート要件)について(イ)インドキシル硫酸の濃度の観点における検討」で「測定可能か確認されていない」としたインドキシル硫酸の濃度の測定範囲が除かれ、「理由1(サポート要件)について(ウ)検量線の観点における検討」で不明であると指摘した「希釈の程度、インドキシル硫酸の濃度の測定範囲」が特定され、上記本件特許発明1は、上記イに記載した本件特許明細書の記載から把握される事項(特に、(キ)参照。)の範囲内のものとなった。
また、本件特許発明2?4は、本件特許発明1をさらに限定するものである。
してみると、本件特許発明1?4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された範囲を超えるものとはいえず、訂正された特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしていないとはいえない。

イ 理由2(実施可能要件)についての判断
上記取消理由の「理由2(実施可能要件)について」で指摘した実施可能要件違反についての理由は、発明の詳細な説明の記載は、「希釈の程度」、「インドキシル硫酸の濃度の測定範囲」の特定がない本件特許発明1?4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないというものであった。
これに対し、本件特許発明1は、訂正により、「希釈の程度」、「インドキシル硫酸の濃度の測定範囲」について、「測定試料が尿の100倍以上の希釈物」で、「前記希釈物のインドキシル硫酸の濃度が1?5.3μMの範囲内」であることに限定されたことから、本件特許発明1は、発明の詳細な説明の記載から当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載された範囲のものとなった。
また、本件特許発明2?4は、本件特許発明1から、発光波長、励起波長を、発明の詳細な説明に記載されているより好ましい範囲にさらに限定するものである。よって、本件特許発明2?4は、本件特許発明1と同様に、発明の詳細な説明の記載から当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載された範囲のものである。
してみると、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

ウ 申立人の意見について
申立人は、令和2年2月20日付けの意見書において、「図4において直接蛍光法によるIS濃度(縦軸)とHPLCによるIS濃度(横軸)において、実測値の対応関係があるといえるのは、両者の実測値が概ね一致する160μM以上でしかない。」「よって、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明から、本件特許発明1?4は、本件特許発明の課題を解決できるとは認識することはできないと思料する。」(意見書第3,4頁「(2)理由1(c-1)」参照。)、「理由1にも記載したように、測定試料である希釈物におけるインドキシル硫酸濃度が「1.6μM」未満のインドキシル硫酸濃度を算出できるとはいえず」(意見書第6頁「(3)理由2」参照。)と主張する。
しかしながら、本件特許発明の課題は、本件特許明細書に「【発明が解決しようとする課題】【0007】しかし、上記した従来技術のインドキシル硫酸の測定方法では、検体の抽出操作や前処理等が必要であり、かつ操作が煩雑である等の問題がある。そこで本発明は、より迅速かつ簡便に体液中インドキシル硫酸を測定できる技術を提供することを目的とする。」と記載されているように、「より迅速かつ簡便に体液中インドキシル硫酸を測定できる技術を提供すること」であり、厳密な正確さを課題とするものではない。

ここで、上記「イ 本件特許明細書の記載から把握される事項」「(キ)」を再掲する。
「図4に示された、励起波長280nm、発光波長400nmの場合における直接蛍光法とHPLC法による測定値との関係は、相関係数が0.98であり、ボランティア8名から採取した尿検体のインドキシル硫酸の濃度範囲は、HPLC法で約30μMから約530μMに渡り、直接蛍光法では、約100μMから約530μMに渡ること。
そして、検体の尿は100倍希釈であることを考慮すると、直接蛍光法で実際に測定したインドキシル硫酸の濃度とされる範囲は、約1μMから約5.3μMであること。」
上記相関係数は、低い濃度の測定値を含めたデータから算出されたものであり、かつ、一般に相関があるとされる高い値である。
また、単に希釈という前処理と直接蛍光法という測定方法は、従来の測定方法に比べ「より迅速かつ簡便」であるといえる。
してみると、厳密に正確であるとはいえないまでも、上記相関係数の高い値を踏まえれば、直接蛍光法とHPLC法による測定値との関係から、低い濃度である約1μMから約5.3μMの濃度まで、インドキシル硫酸の濃度を直接蛍光法で「より迅速かつ簡便」に測定し得るといえる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明から、本件特許発明1?4は、本件特許発明の課題を解決できるとは認識できないとはいえず、測定試料である希釈物におけるインドキシル硫酸濃度が「1.6μM」未満のインドキシル硫酸濃度を算出できないとはいえない。

3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申し立て理由について
(1)新規性及び進歩性に関する取消理由について
申立人は、下記の証拠を提出し、本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであると主張している。また、本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであると主張している。

甲第1号証の1:Sandeep Menon Perinchery,The influence of indoxyl sulfate and ammoniumon the autofluorescence of human urine,Talanta 80 (2010) 1269-1276, 2009年9月18日オンライン利用可能(以下「甲1」という。)
甲第1号証の2:甲第1号証の1の部分翻訳文
甲第2号証の1:Distinctive autofluorescence of urine samples from individuals with bacteruria compared with normals, Clinica Chimica Acta 401 (2009) 73-75, 2008年11月30日オンライン利用可能(以下「甲2」という。)
甲第2号証の2:甲第2号証の1の部分翻訳文
甲第3号証の1:THE TOTAL FLUORESENCE OF HUMAN URINE, Analytica ChimicaActa, 198 (1987) 13-23, 1987年(以下「甲3」という。)
甲第3号証の2:甲第3号証の1の部分翻訳文

(2)当審の判断
ア 本件特許発明1について
(ア)甲1の記載事項、及び、甲1に記載された発明
a 甲1の記載事項
甲1には次の事項が記載されている。(なお、英文の後に当審訳を付す。また、下線は当審において付したものである。以下、同様。)

(甲1a)1269頁 文献タイトル
「The influenceof indoxyl sulfate and ammonium on the autofluorescence of human urine」
(ヒト尿の自己蛍光へのインドキシル硫酸及びアンモニウムの影響)

(甲1b)1269頁 ABSTRACT
「ABSTRACT
Despite biological variability the spectral characteristics of undiluted human urine show relatively low autofluorescence at short UV (250-300 nm) excitation. However with dilution the fluorescence intensity remarkably increases. This paper examines the mechanisms behind this effect, by using excitation-emission matrices. Corrections for the inner filter effect were made for improved understanding of the spectral patterns. We focused on three major fluorophores (tryptophan, indoxyl sulfate and 5-hydroxyindole-3-acetate) that are excited at these wavelengths, and whose content in urine is strongly linked with various health conditions. Their fluorescence was studied both individually and in combinations. We also examined the effect of ammonium on the fluorescence of these major fluorophores individually and in combinations. Through these studies we have identified the leading effects that reduce the UV fluorescence, namely higher concentration of indoxyl sulfate producing the inner filter effect and concentration quenching and quenching of fluorophores by ammonium. This result will assist in broader utilisation of UV fluorescence in medical diagnostics.」
(要約
生物学的変動性にもかかわらず、希釈されていないヒト尿のスペクトル特性は、短いUV(250?300nm)励起で比較的低い自己蛍光を示す。ただし、希釈すると蛍光強度が著しく増加する。この報告では、励起-発光マトリックスを使用して、この効果の背後にあるメカニズムを調べる。スペクトルパターンの理解を改善するために、内部フィルター効果の修正が行われた。これらの波長で励起され、尿中の含有量がさまざまな健康状態に強く関連している3つの主要なフルオロフォア(トリプトファン、インドキシル硫酸、5-ヒドロキシインドールー3-アセテート)に着目した。それらの蛍光は、個別および組み合わせの両方で研究された。また、これらの主要なフルオロフォアの蛍光に対するアンモニウムの効果を個別に、または組み合わせて調べた。これらの研究を通じて、UV蛍光を減少させる主要な効果、すなわち、内部フィルター効果及び濃度消光を生じさせるインドキシル硫酸の高濃度およびアンモニウムによるフルオロフォアの蛍光消光を特定した。この結果は、医療診断における紫外線蛍光のより広範な利用を支援する。)

(甲1c)1270頁右欄8-16行
「3. Results and discussion
3.1. Spectral characteristics of undiluted healthy human urine
The literature on urine fluorescence is surprisingly scarce in spite of its easy availability [5,7] and it is therefore worthwhile to present some examples of urine spectral characteristics. Fluorescencecharacteristics of urine are variable and strongly sample-dependent. Two examples of excitation/emission matrices of undiluted healthy samples with different spectral features are shown in Fig.1a and b.」
(3.1.希釈していない健康なヒト尿のスペクトル特性
尿の蛍光に関する文献は、入手が容易であるにもかかわらず驚くほど少なく、したがって、尿のスペクトル特性のいくつかの例を提示する価値がある。尿の蛍光特性はさまざまであり、サンプルに強く依存している。図1aおよびbに、異なるスペクトル特性を備えた希釈されていない健康なサンプルの励起/発光マトリックスの2つの例を示す。)

(甲1d)1270頁右欄下から7行ー下から3行
「3.2.Spectral characteristics of diluted healthy human urine
The dilution of the urine profoundly affects the excitation/emission matrices. This is shown in Fig. 2 where we compared the EEMs for healthy human urine at various dilutions (1:30,1:300 and 1:1000).」
(3.2..希釈した健康なヒト尿のスペクトル特性
尿の希釈は、励起/発光マトリックスに大きく影響する。これを図2に示す。ここでは、さまざまな希釈度(1:30,1:300,1:1000)で健康なヒト尿のEEMを比較した。)

(甲1e)1271頁左欄下から5行ー1272右欄5行
「3.3.The inner filter effect
The recorded fluorescence intensity may not be proportional to the fluorophore concentration due to a well known phenomenon known as the inner filter effect [10]. This can be due to high absorption of excitation light by the sample (primary inner filter effect) and by reabsorption of emitted light (secondary inner filter effect) [10]. Both can be completely accounted for and the spectra can be corrected. The correction for the primary inner filter effect can be done using the following equation
-中略-
It is illustrative to see the influence of the inner filter effect in the EEM matrices of a selected component of urine, indoxyl sulfate (Fig. 4a-c), which produces dramatically varying spectral features as the dilution is varied. The EEM of indoxyl sulfate at physiological concentration of 300μmol shows a peak at 300 nm/380 nm.At 1:10 and 1:1000 dilutions, the peak excitation changes to 280nm but the emission maximum remains the same, i.e., 380 (±10) nm. This result shows that interpreting peaks in emission spectra or excitation/emission matrices needs to be done with a great deal of caution, as major shifts and spectral shape changes can be observed at higher fluorophore concentration, when the innerfilter effect is operational.
(3.3.内部フィルター効果
記録された蛍光強度は、内部フィルター効果よく知られた現象のため、フルオロフォア濃度に比例しない場合がある。これは、サンプルによる励起光の高吸収(一次内部フィルター効果)および放射光の再吸収(二次内部フィルター効果)による可能性がある。両方を完全に説明することで、スペクトルを修正できる。一次内部フィルター効果の補正は次の式を使用して行われる。
-中略-
選択された尿成分であるインドキシル硫酸のEEMマトリックスの内部フィルター効果の影響を確認すると、希釈が変化するとスペクトル特性が劇的に変化する(図4a-c)。 300μmolの生理学的濃度でのインドキシル硫酸のEEMは、300nm/380nm にピークを示します。1:10および1:1000希釈で、ピーク励起は280nmにに変わるが、しかし、発光の最大値は同じまま、つまり380(±10)nmである。
この結果は、内部フィルター効果が作用している場合、より高いフルオロフォア濃度で大きなシフトとスペクトル形状の変化が観察される可能性があるため、発光スペクトルまたは励起/発光マトリックスのピークの解釈には細心の注意を払う必要があることを示している。)

(甲1f)1272右欄15行ー末行
「3.4.Fluorescence quenching in urine
With the inner filter effect fully accounted for, we are able to establish the extent of fluorescence quenching in this complex fluid. In order to capture the key features of all quenching processes, we focused on the most abundant group A fluorophores, indoxyl sulfate,tryptophan and 5-hydroxyindole-3-acetate [7]. The fluorescence of these three fluorophores was studied in isolation as well as in mixtures, including are presentative ‘simulated urine’ with selected urine components (indoxyl sulfate, tryptophan and 5-hydroxyindole-3-acetate) at typical physiological concentrations of 300, 50 and 24μmol, respectively. In order to establish the significance of the inner filter effect we also measured the absorbance of these three fluorophores (see Fig. 3 where a 1:10 dilution was used to obtain measurable values). As indicated earlier, the absorbance of indoxyl sulfate at physiological concentration is high, and the other two fluorophores did not show significant absorption in the examined region.」
(3.4.尿中の蛍光消光
内部フィルター効果が完全に説明されることで、この複雑な液体の蛍光消光の程度を確認できる。すべての消光プロセスの主要な特徴を把握するために、最も豊富なグループAフルオロフォアである、インドキシル硫酸、トリプトファン、5-ヒドロキシインドールー3-アセテートに着目した。これらの3つのフルオロフォアの蛍光を、独立して、並びに、インドキシル硫酸、トリプトファン及び5-ヒドロキシインドールー3-アセテートを生理学的濃度である300,50及び24μmolでそれぞれ含むシミュレートされた尿を含む混合物として検討した。内部フィルター効果の重要性を確認するために、これら3つのフルオロフォアの吸光度も測定した(測定可能な値を得るために1:10希釈を使用した。図3を参照。)。先に示したように、生理学的濃度でのインドキシル硫酸塩の吸光度は高く、他の2つのフルオロフォアは試験した領域で有意な吸収を示さなかった。)

(甲1g)1273頁図4及び図4の説明文

「Fig. 4. Excitation/emission matrices ofindoxyl sulfate. (a) Indoxyl sulfate at a concentration of 300μmol, (b) diluted 1:1000 in doubledistilled water, (c) diluted 1:10 in double distilled water, (d) 1:10 dilution corrected for the inner filter effect and (e) fluorescence intensity at 280nm/380nm versus concentration of indoxyl sulfate;(-■-) uncorrected data; (-○-) data corrected for the inner filter effect; note the different colour scale in (d).」
(図4.インドキシル硫酸の励起/発光マトリックス。(a)300μmolの濃度のインドキシル硫酸、(b)再蒸留水で1:1000 に希釈、(c)再蒸留水で1:10に希釈、(d)内部フィルター効果を補正した1:10希釈、および(e)280nm/380nmでの蛍光強度対インドキシル硫酸の濃度;(-■-)未修正データ。(-○-)内部フィルター効果を修正されたデータ。(d)の異なるカラースケールに注意)

(甲1h)1273頁左欄1-10行
「 We measured the fluorescence of indoxyl sulfate as a function of dilution. Fig. 4e shows the peak fluorescence intensity at 280nm/380 nm, of indoxyl sulfate at various concentrations, before and after correcting for the inner filter effect. It shows that the fluorescence intensity at 300μmol concentration after correcting for the inner filter effect is lower than that of the 30μmol concentration, confirming that at physiological concentration (300μmol), indoxyl sulfate exhibits concentration quenching.Consequently, indoxyl sulfate in undiluted healthy human urine must also be subject to concentration quenching (self-quenching). 」
(インドキシル硫酸の蛍光を希釈の関数として測定した。図4eは、内部フィルター効果を補正する前後の、さまざまな濃度のインドキシル硫酸の280nm/380nmでのピーク蛍光強度を示す。内部フィルター効果を補正した後の300μmol濃度での蛍光強度が30μmol濃度の蛍光強度よりも低いことを示しており、生理学的濃度(300μmol)でインドキシル硫酸が濃度消光を示すことが確認された。その結果、希釈されていない健康な人間の尿中のインドキシル硫酸も濃度消光(自己消光)を受けていると考えられる。)

(甲1i)1274頁図5及び図5の説明文

「Fig. 5. Excitation/emission matrices of ‘simulated urine’ containing indoxyl sulfate(300μmol), tryptophan (50μmol) and 5-hydroxyindole-3-acetate (24μmol). (a) Undiluted; (b) diluted1:1000; (c) diluted 1:10; (d) diluted 1:10, with spectra corrected for innerfilter effect. Note the different colour scale in (d). All dilutions were made in double distilled water. (e) Fluorescence intensity at 280 nm/380nm of ‘simulated urine’ as a function of indoxyl sulfate concentration. (-■-) uncorrected data; (-○-) data corrected for the inner filter effect.」
(図5.インドキシル硫酸(300μmol)、トリプトファン(50μmol)および5-ヒドロキシインドールー3-アセテート(24μmol)を含む「シミュレートされた尿」の励起/発光マトリックス。(a)希釈されていない;(b)1:1000希釈;(c)1:10希釈;(d)1:10に希釈し、内部フィルター効果のためにスペクトルを修正した。(d)の異なるカラースケールに注意。すべての希釈は再蒸留水で行われた。(e)インドキシル硫酸濃度の関数としての「シミュレートされた尿」の280nm/380nmでの蛍光強度。 (-■-)未修正データ。(-○-)内部フィルター効果を修正したデータ。)

(甲1j)1274頁左欄7行-1275頁左欄6行
「 We also studied the mutual interactions between the three key group A fluorophores (tryptophan, 5-hydroxyindole-3-acetate and indoxyl sulfate)at physiological concentrations and at various dilutions. In the presence of indoxyl sulfate, the fluorescence of tryptophan as well as 5-hydroxyindole-3-acetate showed reduced fluorescence (data not shown). The fluorescence intensity of the ‘simulated urine’ (a combination of these three fluorophores) was also very weak, with a peak at 310 nm/340nm (Fig. 5a-c). This is consistent with the spectral position for the 5-hydroxyindole-3- acetate peak (Supplemental material, Table 1), although in light of a very strong inner filter effect, an unambiguous assignment is not possible. Overall,the trend observed in Fig. 5 with dilution is similar to that in Fig. 4, i.e., a deformed peak at 1:10 dilution which, after correction for the innerfilter effect, reveals a pure indoxyl sulfate feature, more clearly observed at1:1000 dilution. This is an indication that indoxyl sulfate reduces the fluorescence of tryptophan and 5-hydroxyindole-3-acetate when these are in combination. Moreover, the maximum fluorescence intensity at physiological concentration of the ‘simulated urine’(Fig. 5a) is significantly lower than that of indoxyl sulfate alone (Fig. 4a), confirming energy transfer between these fluorophores and indoxyl sulfate. Similar to the case of pure indoxyl sulfate, the concentration quenching was confirmed by observing the concentration trends in peak fluorescence intensity of the ‘simulated urine’ before andafter correcting for inner filter effect (Fig. 5e).」
(また、3つの重要なグループAフルオロフォア(トリプトファン、5-ヒドロキシインドールー3-アセテート、インドキシル硫酸塩)間の生理的濃度およびさまざまな希釈度での相互作用を調べた。インドキシル硫酸の存在下で、トリプトファンおよび5-ヒドロキシインドールー3-アセテートの蛍光は、蛍光の減少を示した(データは示していない)。「シミュレートされた尿」(これらの3つのフルオロフォアの組み合わせ)の蛍光強度も非常に弱く、310nm/340nmにピークがあった(図5a?c)。これは、5-ヒドロキシインドールー3-アセテートピークのスペクトル位置と一致している(補足資料、表1)。ただし、非常に強力な内部フィルター効果を考慮すると、明確な割り当ては不可能である。全体として、図5の希釈傾向は図4の傾向と類似している。つまり、1:10希釈での変形ピークは、内部フィルター効果の補正後において、純粋なインドキシル硫酸塩の特徴を示しており、この特徴は1:1000希釈ではより明確に観察される。これは、インドキシル硫酸がトリプトファンと5-ヒドロキシインドールー3-アセテートの組み合わせでこれらの蛍光を消光することを示している。さらに、「シミュレートされた尿」の生理学的濃度での最大蛍光強度(図5a)はインドキシル硫酸のみの場合(図4a)よりも著しく低く、これらのフルオロフォアとインドキシル硫酸間のエネルギー移動が確認された。純粋なインドキシル硫酸の場合と同様に、内部フィルター効果を補正する前後の「シミュレートされた尿」のピーク蛍光強度の濃度傾向を観察することにより、濃度消光が確認された(図5e)。)

(甲1k)1275頁図6の説明文
「Fig. 6. Effect of the addition of varying amounts of ammonium on the fluorescence spectra of ‘simulated urine’ containing tryptophan (50μmol), indoxyl sulfate (300μmol) and 5-hydroxyindole-3-acetate(24μmol), at 280nm excitation. (a) ‘Simulated urine’, without anyammonium, (b) ‘simulated urine’with 19mmol of ammonium and (c) ‘simulated urine’ with 19mmol of ammonium, diluted 1:10 with double distilled water.The inset shows the Stern-Volmer plot representing the fluorescence quenching of the ‘simulated urine’ by ammonium (fluorescence intensity at 380nm for excitation at 280nm as a function of ammonium concentration).」
(図6.280nm励起でのトリプトファン(50μmol)、インドキシル硫酸(300μmol)および5-ヒドロキシインドールー3-アセテート(24μmol)を含む「シミュレートされた尿」の蛍光スペクトルに対するさまざまな量のアンモニウムの添加の効果。(a)アンモニウムを含まない「シミュレート尿」、(b)19mmolのアンモニウムを含む「シミュレートされた尿」、(c)19mmolのアンモニウムを含む「シミュレート尿」、再蒸留水で1:10に希釈。挿入図は、アンモニウムによる「シミュレートされた尿」の蛍光消光を表すStern-Volmerプロットを示す(アンモニウム濃度の関数としての280nmでの励起に対する380nmでの蛍光強度)。)

(甲1l)1275頁左欄下から8行-右欄37行
「Our additional quenching studies, with each of the three fluorophores independently,showed that ammonium quenched the fluorescence of all the three examined fluorophores, tryptophan, indoxyl sulfate and 5-hydroxyindole-3-acetate (data not presented). Fig.6 also shows that dilution reduces the quenching of ‘simulated urine’ by ammonium, asexpected. However, the fact that in Fig. 6 the emission peak of ‘simulated urine’ does not change with dilution indicates that the concentration quenching is not due to reabsorption. This result is consistent with the increased intensity observed for the human urine at shorterUVregion with dilution(Fig. 2). Separately, we observed that ammonium also reduced the fluorescence of each of the three examined fluorophores in a concentration dependent way (data not shown). The overall conclusion from this study is that the key indole fluorophores in healthy human urine are quenched by the presence of ammonium. The mechanism behind this quenching is the sensitivity of indole fluorophores to the local environment [12,17-19]. The electron transfer from excited fluorophores to ammonium has been reported to be the cause of this quenching [15]. A survey of the literature indicates that the fluorescence properties of human urine are also affected by factors other than those examined here. For example, the pH can rebalance the fluorescence intensities of component fluorophores in favour of certain components such as, pterin and 4-pyridoxic acid [7,20,21]. Undiluted healthy human urinehas a pH between 5 and 7.5. As the pH is increased from 8 to 10, the quantum yield and mean life time of the indole fluorophores increases three-fold as compared with that at pH between 3 and 7.5 [12]. This means that the quantum yield of indole fluorophores in normal urine is suboptimal. Pterin and 4-pyridoxic acid contribute significantly to the fluorescence of undiluted healthy human urine at 300-450nm excitation. The 4- pyridoxicacid and pterins have high fluorescence intensity in an acidic medium (pH 4-7) as compared to a basic medium [22,23]. These fluorophores therefore exhibitoptimal fluorescence at the pH of undiluted normal human urine. This is in contrast to the indole fluorophores whose quantum yield is not at their peak in healthy human urine. The overall picture of fluorescence quenching in urine is also more complex. In addition to ammonium, urine contains other known quenchers. A 24 h sample of human urine contains hippuric acid, whose carboxyl group is able to quench the indole fluorophores in urine. All these effects additionally contribute to the main quenching mechanisms discussed here, i.e., the autoquenching of indoxyl sulfate,quenching of tryptophan and 5- hydroxyindole-3-acetate by indoxyl sulfate and the quenching of indole fluorophores by ammonium.」
「3つのフルオロフォアのそれぞれを個別に使用した追加の消光研究により、アンモニウムが、試験した3つのフルオロフォア、トリプトファン、インドキシル硫酸、および5-ヒドロキシインドールー3-アセテートすべての蛍光を消光したことが示された(データは表示されません)。また、図6は、予想通り、希釈によりアンモニウムによる「シミュレートされた尿」の消光が減少することを示した。しかし、図6で「シミュレートされた尿」の発光ピークが希釈によって変化しないという事実は、濃度消光が再吸収によるものではないことを示している。この結果は、希釈されたより短いUV領域でヒト尿について観察された強度の増加と一致している(図2)。それとは別に、我々は、アンモニウムが濃度に依存した方法で、調べられた3つのフルオロフォアのそれぞれの蛍光も減少させることを観察した(データは示していません)。この研究からの全体的な結論は、健康な人間の尿中の重要なインドールフルオロフォアはアンモニウムの存在によって消光されるということです。この消光の背後にあるメカニズムは、ローカル環境に対するインドールフルオロフォアの感度である。励起されたフルオロフォアからアンモニウムへの電子移動が、この消光の原因であることが報告されている。
文献の調査は、ヒト尿の蛍光特性もここで調べた以外の要因によって影響を受けることを示しています。たとえば、pHは、プテリンや4-ピリドキシン酸などの特定の成分を優先して、成分フルオロフォアの蛍光強度のバランスを調整できる。希釈されていない健康なヒトの尿のpHは5?7.5である。pHが8から10に増加すると、インドールフルオロフォアの量子収率と平均寿命は3から7.5の間のpHに比べて3倍に増加する。これは、通常の尿中のインドールフルオロフォアの量子収率が最適以下であることを意味する。プテリンと4-ピリドキシン酸は、300?150nm励起での希釈されていない健康なヒト尿の蛍光に大きく寄与している。4-ピリドキシン酸とプテリンは、塩基性培地と比較して、酸性培地(pH4?7)で高い蛍光強度を持つ。したがって、これらのフルオロフォアは、希釈されていない正常なヒト尿のpHで最適な蛍光を示す。これは、健康なヒトの尿において量子収率がピークに達していないインドールフルオロフォアとは対照的である。尿の蛍光消光の全体像もより複雑です。アンモニウムに加えて、尿には他の既知の消光剤が含まれている。ヒト尿の24時間サンプルには馬尿酸が含まれており、そのカルボキシル基は尿中のインドールフルオロフォアを消光することができる。これらのすべての効果は、本報告で説明する主な消光メカニズム、すなわち、インドキシル硫酸の自動消光、インドキシル硫酸によるトリプトファンおよび5-ヒドロキシインドールー3-アセテートの消光、およびアンモニウムによるインドールフルオロフォアの消光にさらに寄与する。)

(甲1m)1275右欄 「4.Summary」
「4. Summary
-中略- Our findings indicate that thekey factors contributing to the reduction of fluorescence observed in the undiluted healthy human urine samples excited in the shorter UV wavelength include high concentration of indoxyl sulfate contributing to the inner filter effect and the concentration quenching of fluorophores by ammonium. 」
(4.まとめ
-中略-
我々の調査結果は、より短いUV波長で励起された希釈されていない健康なヒト尿サンプルで観察される蛍光の減少に寄与する重要な要因には、内部フィルター効果に寄与する高濃度のインドキシル硫酸塩とアンモニウムによるフルオロフォアの濃度消光が含まれることを示している。)

b 甲1に記載された発明
図4(e)及び図5(e)のグラフにおいて、横軸は、0?300μMのインドキシル硫酸濃度であることが見て取れる。
以上の記載から、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲1発明」という。)。
なお、上記において、「EEM」、「EEMマトリックス」、「励起/発光マトリックス」、「励起-発光マトリックス」は、表記が異なる同じことを意味しているので、以下「EEM」に統一して表記する。また、複数の「測定」を区別するための表記として、括弧内の英数字を用いる。

「生物学的変動性にもかかわらず、希釈されていないヒト尿のスペクトル特性は、短いUV(250?300nm)励起で比較的低い自己蛍光を示すが、希釈すると蛍光強度が著しく増加するという効果の背後にあるメカニズムを、EEMを使用して調べる方法であって、
(a)希釈されていない健康なサンプルのEEMを測定し、
(b)さまざまな希釈度(1:30,1:300,1:1000)で健康なヒト尿のEEMを測定し、
(c1)インドキシル硫酸のEEMを測定し、
また、(c2)さまざまな濃度(0?300μM)のインドキシル硫酸の280nm/380nmでのピーク蛍光強度を測定し、
(d1)インドキシル硫酸(300μmol)、トリプトファン(50μmol)および5-ヒドロキシインドールー3-アセテート(24μmol)を含む「シミュレートされた尿」のEEMを測定し、
また、(d2)インドキシル硫酸濃度(0?300μM)の関数としての「シミュレートされた尿」の280nm/380nmでの蛍光強度を測定し、
(e)280nm励起でのトリプトファン(50μmol)、インドキシル硫酸(300μmol)および5-ヒドロキシインドールー3-アセテート(24μmol)を含む「シミュレートされた尿」にさまざまな量のアンモニウムを添加した際の蛍光スペクトルを測定する
ことを含む方法。」

(イ)甲2の記載事項
「Table 2
List of fluorophores in human urine which can be excited at 290nm
Fluorophores Excitation/emission maxima(nm)
5-Hydroxyindole-3-acetate 300/345-355
5-Hydroxytryptophan 295/340
indolyl-3-acetate 290/360
indoxyl sulphate 290/380
Melatonin 290/330
Skatol-5-sulphate 290/380
Skatol-6-sulphate 290/360,370
Tryptophan 280/350 」
(表2
290nmで励起されるヒト尿中のフルオロフォアのリスト
フルオロフォア 励起波長/発光波長(極大値)(nm)
5-ヒドロキシインドール-3-アセテート 300/345-355
5-ヒドロキシトリプトファン 295/340
インドール-3-アセテート 290/360
インドキシル硫酸 290/380
メラトニン 290/330
スカトール-5-硫酸 290/380
スカトール-6-硫酸 290/360,370
トリプトファン 280/350 )

(ウ)甲3の記載事項
(甲3a)
「SUMMARY
The total fluorescence of human urine was measured atvarious excitation and emission wavelengths and is presented in 3-dimensional form. Despite the complexity of the composition of urine, 3-5 distinct fluorescence maxima can be observed. Effects of pH were studied and tentative assignments as to the species responsible for the peaks were made. Most likely,however, the peaks observed do not result from a single fluorescent urinary metabolite, but rather from several species having similar spectral properties and being present in comparable concentrations.」
(要約
ヒトの尿の全蛍光は、さまざまな励起波長と血中波長で測定され、3次元形式で表示される。尿の組成は複雑であるが、3?5個の異なる蛍光の最大値が観察される。pHの影響を調査し、ピークの原因となる種に関する暫定的な割り当てを行った。しかし、おそらく、観察されたピークは単一の蛍光尿中代謝産物からではなく、同様のスペクトル特性を持ち、同等の濃度で存在するいくつかの種に起因する。)

(甲3b)「Fig.2」に関する記載
「The total fluorescence was divided into three spectral regions. The first region comprises the u.v.-excitable fluorescence (Fig.2), covering the excitation wavelength range from 250 to 400 nm and dsplaying two broad peaks.」
(全ての蛍光は、3つのスペクトル領域に分割できる。第1の領域は、励起波長250?400nmをカバーし、二つのブロードなピークを呈するUV励起蛍光を含んでいる(図2)。)

(甲3c)「Fig.2」の説明文
「Fig.2. Fluorescence topogram of the ultraviolet region for human urine. Contour lines from 5 to 95% (in 5% increments) of the highest peak. pH 7.00, dilution 1:1000.」
(図2.ヒト尿のUV領域の蛍光トポロジー。最も高いピークから5%刻みで5?95%の等高線。pH7.0、1000倍希釈)

(甲3d)甲第3号証の1の第18頁のAssignment of peaks及びTABLE1
「The data show that indoxyl sulfate ("urinary indicane")is most probably a major species responsible for peak 1; it is present rather high concentraition and its spectral maxima match the peak data best.」
(データは、インドキシル硫酸(「尿の指標」)が、ピーク1の原因となる最も可能性ある主要成分であることを示している。インドキシル硫酸はかなりの高濃度で存在するとともに、ピークのスペクトル極大波長に最も一致している。)

(甲3e)
「TABLE 1
Fluorescent species in human urine that may contribute to the 290/380-nm peak, along with published excitation and emission maxima (at pH 7.00), and approximate amount of daily excretion
Species Excitation/emission Approx, daily
maxima^(a)(nm) excretion^(b)(μmol)
Indoxyl sulphate 290/380 300.0
Indolyl-3-acetate 290/360 32.3
Skatol-5-sulphate 290/370 11.0
Skatol-6-sulphate 290/360,370 21.0
5-Hydroxyindole-3-acetate 300/345-355 24.0
5-Hydroxytryptophan 295/340 -
^(a) Data from ref.2. ^(b) Data from ref.1.」
(表1
報告されている励起/発光波長(極大値) ( pH7.0)に基づく290/380nmによるピークに寄与する可能性のあるヒト尿中の蛍光成分及びおおよその排泄量(日)

種類 励起波長/発光波長 概算排泄量、日^(b))
(極大値)^(a)(nm) (μmol)
インドキシル硫酸 290/380 300.0
インドール-3-アセテート 290/360 32.3
スカトール-5-硫酸 290/370 11.0
スカトール-6-硫酸 290/360,370 21.0
5-ヒドロキシインドール-3-アセテート
300/345-355 24.0
5-ヒドロキシトリプトファン 295/340 -
^(a)文献2からのデータ、^(b)文献1からのデータ)

(エ)本件特許発明1と甲1発明との対比
a 「測定試料」及び「測定」について、
「前記測定試料が尿の100倍以上の希釈物であり、」「前記希釈物のインドキシル硫酸の濃度が1?5.3μMの範囲内であ」るとの構成から、本件特許発明1における「測定試料」は、尿の100倍以上の希釈物であり、インドキシル硫酸の濃度が1?5.3μMの範囲内である。
そして、本件特許発明1における「測定」とは、「測定試料の蛍光強度から、前記測定試料におけるインドキシル硫酸の濃度を算出すること」である。

一方、甲1発明の「測定試料」及び「測定」について、

「(a)希釈されていない健康なサンプルのEEMを測定」における測定試料は、「希釈されていない健康なサンプル」であるヒト尿であり、「尿の希釈物」ではなく、また、「測定」は、測定試料のEEMを測定することであり、インドキシル硫酸の濃度を算出することではない。

「(b)さまざまな希釈度(1:30,1:300,1:1000)で健康なヒト尿のEEMを測定」における測定試料は、ヒト尿を1:30,1:300,1:1000に希釈した試料であり、本件特許発明1の「測定試料が尿の100倍以上」と、尿の希釈物(1:300,1:1000)で共通する。しかし、「測定」は、測定試料のEEMを測定することであり、インドキシル硫酸の濃度を算出することではない。

「(c1)インドキシル硫酸のEEMを測定」における測定試料は、インドキシル硫酸溶液であって、「尿」ではなく、また、「測定」は、測定試料のEEMを測定することであり、インドキシル硫酸の濃度を算出することではない。

「(c2)さまざまな濃度のインドキシル硫酸の280nm/380nmでのピーク蛍光強度を測定」における測定試料は、インドキシル硫酸溶液であって、「尿」ではない。また、「測定」は、さまざまな濃度(0?300μM)のインドキシル硫酸の測定試料の蛍光強度を測定することであり、インドキシル硫酸の濃度を算出することではない。

「(d1)インドキシル硫酸(300μmol)、トリプトファン(50μmol)および5-ヒドロキシインドール-3-アセテート(24μmol)を含む「シミュレートされた尿」のEEMを測定」における測定試料は、「シミュレートされた尿」であって、「尿」ではない。また、「測定」は、測定試料のEEMを測定することであり、インドキシル硫酸の濃度を算出することではない。

「(d2)インドキシル硫酸濃度(0?300μM)の関数としての「シミュレートされた尿」の280nm/380nmでの蛍光強度を測定」における、測定試料は、「シミュレートされた尿」であり、本件特許発明1の「尿」ではない。また、「シミュレートされた尿」は、インドキシル硫酸の他にトリプトファン(50μmol)および5-ヒドロキシインドールー3-アセテート(24μmol)を含むものであり、インドキシル硫酸濃度の関数としての「シミュレートされた尿」の280nm/380nmでの蛍光強度の測定において、インドキシル硫酸以外の物質の濃度は変わらないので、100倍以上の希釈物ともいえない。また、測定試料のインドキシル硫酸濃度は、甲1発明(d2)では、0?300μMの範囲である。
「測定」は、さまざまな濃度のインドキシル硫酸を含む「シミュレートされた尿」の蛍光強度を測定することであり、インドキシル硫酸の濃度を算出することではない。
ただ、測定試料について、甲1発明(d2)と本件特許発明1とは、「インドキシル硫酸以外に、尿中に含まれる成分を含み、インドキシル硫酸の濃度に関連した蛍光強度を測定するための試料」である点で共通する。

「(e)280nm励起でのトリプトファン(50μmol)、インドキシル硫酸(300μmol)および5-ヒドロキシインドール-3-アセテート(24μmol)を含む「シミュレートされた尿」にさまざまな量のアンモニウムを添加した際の蛍光スペクトルを測定」における、測定試料は、「シミュレートされた尿」であり、「尿」ではない。また、「測定」は、さまざまな量のアンモニウムを添加した際の蛍光スペクトルを測定することであり、インドキシル硫酸の濃度を算出することではない。

b 蛍光強度を求める際の励起波長と発光波長について
本件特許発明1においては、「励起波長を260?300nmの範囲から選択し、発光波長を、選択した励起波長よりも80?180nm大きい波長」である。
甲1発明の(a)(b)(c1)(d1)の測定においては、EEM(励起/発光マトリックス)を測定することから、励起波長は一つに選択されるものではなく、所定の範囲をスキャンし、発光波長も所定の範囲にわたって検出するものである。
甲1発明の(c2)(d2)の測定においては、「280nm/380nmでのピーク蛍光強度を測定」するものであり、本件特許発明1と甲1発明の励起波長と発光波長は、280nm/380nmで共通する。

c 一致点
よって、甲1発明の中で、本件特許発明1と共通点の多い(d2)の測定を対比の対象とすると、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の点で一致する。
「インドキシル硫酸以外に、尿中に含まれる成分を含み、インドキシル硫酸の濃度に関連した蛍光強度を測定する方法であって、
励起波長と発光波長は、280nm/380nmである
方法。」

d 相違点
本件特許発明1と甲1発明とは、以下の点で相違する。
本件特許発明1は、測定試料が、「尿の100倍以上の希釈物」であり、「インドキシル硫酸の濃度が1?5.3μMの範囲内」であり、測定は、「測定試料の蛍光強度から、前記測定試料におけるインドキシル硫酸の濃度を算出する」ことであるのに対し、
甲1発明は、測定試料が、インドキシル硫酸濃度が0?300μMである「シミュレートされた尿」であり、測定が、測定試料の蛍光強度を測定することに留まり、インドキシル硫酸の濃度を算出していない点。

(オ)判断
甲1は、タイトルのとおり「ヒト尿の自己蛍光へのインドキシル硫酸及びアンモニウムの影響」について研究結果を開示した文献であり、甲1発明は、「(d2)インドキシル硫酸濃度(0?300μM)の関数としての「シミュレートされた尿」の280nm/380nmでの蛍光強度を測定」することを含むが、甲1には、「純粋なインドキシル硫酸の場合と同様に、内部フィルター効果を補正する前後の「シミュレートされた尿」のピーク蛍光強度の濃度傾向を観察することにより、濃度消光が確認された(図5e)。」(上記(甲1j)参照。)と記載されているように、(d2)の測定によって、インドキシル硫酸の影響として濃度消光が確認されるだけで、蛍光強度を測定してインドキシル硫酸の濃度を算出する動機付けはない。
また、甲2,甲3にも、蛍光強度を測定してインドキシル硫酸の濃度を算出する記載や示唆はない。
してみると、本件特許発明1は、甲1発明と、「測定試料の蛍光強度から、前記測定試料におけるインドキシル硫酸の濃度を算出する」ことを含む相違点を実質的に有するから、本件特許発明1は、甲1発明ではない。
また、本件特許発明1は、甲1発明、甲1に記載された事項、甲2、甲3に記載された事項から、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

なお、申立人は、「甲第1号証に開示される尿中のインドキシル硫酸の蛍光プロファイルは、十分に当業者に当該プロファイルを用いた定量法の着想させるものであり、甲第1号証に記載された手法をそのまま利用して尿希釈物について得られた蛍光強度を、検量線用いてインドキシル硫酸濃度を算出して従来法としてHPLC法の測定値を比較することに、進歩性はない」(意見書第9頁第3行?第7行参照。)と主張しているので、甲1に記載されたインドキシル硫酸の蛍光プロファイルを示す図4(e)、図5(e)についてさらに検討する。

甲1発明の「(c2)さまざまな濃度(0?300μM)のインドキシル硫酸の280nm/380nmでのピーク蛍光強度を測定」及び「(d2)インドキシル硫酸濃度(0?300μM)の関数としての「シミュレートされた尿」の280nm/380nmでの蛍光強度を測定」によって得られた結果が、それぞれ、甲1の図4(e)、図5(e)に記載されている。
図4(e)において、測定試料は、インドキシル硫酸の溶液であり、横軸は、インドキシル硫酸濃度0?300μMであり、内部フィルター効果補正後の山なりの曲線のピークは、100μM付近で蛍光強度が約1.0×10^(6)であり、
図5(e)において、測定試料は、「シミュレートされた尿」であり、横軸は、インドキシル硫酸濃度0?300μMであり、内部フィルター効果補正後の山なりの曲線のピークは、70μM付近で蛍光強度が約5×10^(5)である。
どちらも山なりの曲線である点で共通するものの、図4(e)と図5(e)の蛍光プロファイルは、ピークとなる濃度が100μMと70μMと異なり、蛍光強度が約1.0×10^(6)から約5×10^(5)へと約半分となっている。
さらにヒト尿は、図5(e)の「シミュレートされた尿」に加えアンモニウムの影響を受けるものであり、その影響もアンモニウムの濃度によって変化するものである(上記(甲1l)「図6は、予想通り、希釈によりアンモニウムによる「シミュレートされた尿」の消光が減少することを示した。」、「この研究からの全体的な結論は、健康な人間の尿中の重要なインドールフルオロフォアはアンモニウムの存在によって消光されるということです。」参照。)。
インドキシル硫酸の濃度を直接蛍光法で測定するにあたっては、インドキシル硫酸濃度と蛍光強度の対応関係を把握しておく必要があるが、甲1の図4(e)(インドキシル硫酸の溶液)と、図5(e)(「シミュレートされた尿」)に示されるように、インドキシル硫酸濃度に対して蛍光強度が山なりに変化することから、ピークの濃度を除き、一つの蛍光強度から2つの濃度が対応してしまい、一つの濃度を導くことはできない。
よって、図4(e)、図5(e)に記載された蛍光プロファイルは、十分に当業者に当該プロファイルを用いた定量法の着想をさせるものであるとはいえない。

また、申立人から、山なりの蛍光強度(蛍光プロファイル)から、山の片側に対応する濃度範囲だけを利用して検量線を求めることが周知であることを示す証拠は提出されていないが、仮に、濃度範囲を山の片側に対応する範囲に絞って検量線を求めることが、蛍光強度を測定する分野において周知であったとしても、ヒト尿は、「シミュレートされた尿」に加え少なくともアンモニウムが含まれており、さらにアンモニウムの濃度によって蛍光強度が変化するという知見を加味すると、ピークとなる濃度やピークの蛍光強度が図5(e)(「シミュレートされた尿」)に示されたとおりになるとは限らず、濃度範囲を山の片側に対応する濃度範囲をどの範囲にすればよいのか不明であり、甲1の記載事項から検量線を求めることはできない。
してみると、仮に周知とする事項を考慮したとしても、「測定試料」を尿の100倍以上の希釈物であり、インドキシル硫酸の濃度が1?5.3μMの範囲内とし、前記測定試料におけるインドキシル硫酸の濃度を算出することを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1発明、甲1に記載された事項及び甲2,甲3に記載された事項から当業者が容易に想到し得たとはいえない。

イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1の構成を全て含みさらに限定をした発明であるから、甲1発明とは、上記相違点を実質的に有するものである。よって、本件特許発明2ないし4は、甲1発明ではない。
また、相違点についての判断は、上記アのとおりであるから、本件特許発明2ないし4は、甲1発明、甲1に記載された事項及び甲2,甲3に記載された事項から当業者が容易に想到し得たとはいえない。

ウ 申立人の意見書における進歩性に関する主張について
申立人は、令和2年2月20日付けの意見書において、「したがって、甲第1号証に接した当業者であれば、ある程度の定量性を期待して、インドキシル硫酸濃度として30μM以下になるように十分に希釈した尿につき、励起波長280nm及び発光波長を380nmとして直接蛍光法により蛍光強度を測定してインドキシル硫酸濃度を算出し、定量性を評価することは当然試みる事項である。」(意見書第7頁?9頁「(4)理由3」参照。)と主張している。
しかしながら、上記ア、イのとおり、本件特許発明1?4は、甲1発明から当業者が容易に想到することはできないものである。仮に、上記申立人の主張を採用したとしても、インドキシル硫酸濃度として0?30μMに希釈した尿とすることに留まり、それよりも約7分の1の範囲の「1?5.3μM」という限定された範囲に希釈した尿にすることにはならない。
よって、上記申立人の主張は、採用できない。

4 申立人の意見書における追加的主張について
申立人は、令和2年2月20日付けの意見書において、「本件特許発明1では、励起波長を260?300nmの範囲から選択するものであるところ、この励起波長の選択範囲に対応する発光波長の範囲は、340nm(260+80nm)から480nm(300+180nm)となる。このような広い範囲でHPLC法との実質的に対応関係のある実測値を直接蛍光法で算出できるとは、当業者は到底理解できない。」(意見書第4?6頁(2)理由1(c-2)参照。)「上記励起波長範囲及び上記発光波長範囲の蛍光強度を測定したとき、インドキシル硫酸の濃度を算出することができることは記載されておらず、当該範囲にわたってインドキシル硫酸濃度を算出できるかどうかは不明である。」(意見証第6?7頁「(3)理由2」参照。)と主張する(なお、上記励起波長範囲及び上記発光波長範囲の蛍光強度を測定したとき、インドキシル硫酸の濃度を算出することができないことを示す「実験成績証明書」などについては申立人から提出されなかった。)。

申立人の上記「励起波長範囲」及び「発光波長範囲」についての追加的主張は、特許異議申立書に記載されていたものではなく、また、訂正によって生じたものでもない。
よって、必ずしも検討すべき主張ではないが、以下補足的に検討する。

本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0026】
好ましくは、励起波長を260?300nmの範囲から選択し、発光波長を、選択した励起波長よりも80?180nm大きい波長とする。励起波長と発光波長をこれらの範囲から選択することにより、HPLC法とのより高い相関関係が保たれ、体液中インドキシル硫酸をより正確に測定することができる。
-中略-
【0029】
好ましい励起波長と発光波長の具体的な組み合わせを、以下に挙げる。
-中略-
【0031】
・励起波長:260nm/発光波長340?440nm
・励起波長:270nm/発光波長350?450nm
・励起波長:280nm/発光波長360?460nm
・励起波長:290nm/発光波長370?470nm
・励起波長:300nm/発光波長380?480nm」

以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「励起波長と発光波長をこれらの範囲から選択することにより、HPLC法とのより高い相関関係が保たれ、体液中インドキシル硫酸をより正確に測定することができる」とされる「励起波長範囲」及び「発光波長範囲」について「励起波長を260?300nmの範囲から選択し、発光波長を、選択した励起波長よりも80?180nm大きい波長とする」こと、及び励起波長と発光波長の具体的な組み合わせ(励起波長:260nm?300nm、発光波長340?480nm)が記載されている。
よって、上記申立人の主張は、採用できない。

第4 まとめ
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件特許発明1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項5に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項5に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿の希釈物を測定試料とするインドキシル硫酸の測定方法であって、
前記測定試料が尿の100倍以上の希釈物であり、
前記希釈物のインドキシル硫酸の濃度が1?5.3μMの範囲内であり、
励起波長を260?300nmの範囲から選択し、発光波長を、選択した励起波長よりも80?180nm大きい波長としたときの前記測定試料の蛍光強度から、前記測定試料におけるインドキシル硫酸の濃度を算出することを特徴とするインドキシル硫酸の測定方法。
【請求項2】
前記発光波長を380?420nmの範囲から選択することを特徴とする請求項1に記載のインドキシル硫酸の測定方法。
【請求項3】
前記励起波長を270?290nmの範囲から選択し、前記発光波長を390?410nmの範囲から選択することを特徴とする請求項1又は2に記載のインドキシル硫酸の測定方法。
【請求項4】
前記励起波長を270?290nmの範囲から選択し、前記発光波長を400?420nmの範囲から選択することを特徴とする請求項1又は2に記載のインドキシル硫酸の測定方法。
【請求項5】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-13 
出願番号 特願2016-54216(P2016-54216)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (G01N)
P 1 651・ 537- YAA (G01N)
P 1 651・ 113- YAA (G01N)
P 1 651・ 121- YAA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉田 将志  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 森 竜介
▲高▼見 重雄
登録日 2019-03-08 
登録番号 特許第6490614号(P6490614)
権利者 内田 景博 京都府公立大学法人
発明の名称 インドキシル硫酸の測定方法  
代理人 大南 匡史  
代理人 大南 匡史  
代理人 藤田 隆  
代理人 藤田 隆  
代理人 大南 匡史  
代理人 藤田 隆  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ