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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08F 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08F 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08F 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08F |
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管理番号 | 1362337 |
異議申立番号 | 異議2018-700370 |
総通号数 | 246 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-06-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-05-02 |
確定日 | 2020-03-27 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6227552号発明「望ましい含水量及び酸素透過性を含むシリコーンヒドロゲル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6227552号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?28〕について訂正することを認める。 特許第6227552号の請求項1、2、6ないし10、25ないし28に係る特許を維持する。 特許第6227552号の請求項3ないし5、11ないし24に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第6227552号(平成24年12月20日を国際出願日とする特許出願、パリ条約による優先権主張:2011年12月23日(2件)、2012年12月19日(1件)(いずれも米国(US)))は、平成29年10月20日付けでその特許権の設定登録がされ、同年11月8日にその特許公報が発行され、その後、請求項1?28に係る特許に対して、平成30年5月2日に特許異議申立人 実川栄一郎(以下、「申立人A」という。)から、同年5月8日に特許異議申立人 北村仁(以下、「申立人B」という。)から、特許異議の申立てがなされたものである。そして、その後の経緯は以下のとおりである。 平成30年 8月16日付け:取消理由の通知 同年11月19日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者) 同年12月27日 :意見書の提出(申立人A) (申立人Bからは、特許権者からの訂正の請求及び意見書に対する意見書の提出は無かった。 平成31年 2月 1日付け:訂正拒絶理由の通知 同年 3月14日 :手続補正書及び意見書の提出(特許権者) 同年 4月26日付け:取消理由の通知(決定の予告) 令和 元年 8月 7日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者) (申立人A、Bのいずれからも、特許権者からの訂正の請求及び意見書に対する意見書の提出は無かった。 令和 元年11月25日付け:取消理由の通知(決定の予告) 同年12月23日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者) (令和元年8月7日提出の訂正の請求及び意見書に対し、申立人A、Bのいずれからも意見書の提出がなかったため、申立人A、Bに対し、令和元年12月23日提出の訂正の請求及び意見書に対する意見書の提出を求めなかった。) 第2 訂正の可否 1 訂正の内容 令和元年12月23日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。なお、訂正前の請求項1?28は一群の請求項である。 (本件訂正により、平成30年11月19日並びに令和元年8月7日提出の訂正請求書による訂正は取り下げられたものとみなす。) 訂正事項1:請求項1の「30?75重量%の、」を、「(a)30?75重量%の、」に訂正する。 訂正事項2:請求項1の「シリコーン含有成分の速度論的半減期を有する」を、「(b)シリコーン含有成分の速度論的半減期を有する」に訂正する。 訂正事項3:請求項1の「シリコーン含有成分の速度論的半減期を有する少なくとも1つのシリコーン含有成分であって、任意で少なくとも1つのヒドロキシル含有基で置換されていてもよい、少なくとも1つのシリコーン含有成分と、」を、「シリコーン含有成分の速度論的半減期を有する少なくとも1つのシリコーン含有成分と、」に訂正する。 訂正事項4:請求項1の「少なくとも1つのヒドロキシル基で置換されている前記シリコーン含有成分、少なくとも1つのヒドロキシアルキルモノマー、及びこれらの混合物から選択される少なくとも1つのヒドロキシル含有成分と、」を、「(c)少なくとも1つのヒドロキシアルキルモノマーから選択される少なくとも1つのヒドロキシル含有成分と、」に訂正する。(注:下線部が訂正箇所である。) 訂正事項5:請求項1の「少なくとも1つのヒドロキシル基で置換されている前記シリコーン含有成分、少なくとも1つのヒドロキシアルキルモノマー、及びこれらの混合物から選択される少なくとも1つのヒドロキシル含有成分と、」を、「(c)少なくとも1つのヒドロキシアルキルモノマーから選択される少なくとも1つのヒドロキシル含有成分と、」に訂正する。(注:下線部が訂正箇所である。) 訂正事項6:請求項1の「を含む反応混合物から形成され、」を、「を含む反応混合物から形成され、 (a)前記少なくとも1つの遅反応性親水性モノマー、(b)前記少なくとも1つのシリコーン含有成分および(c)前記少なくとも1つのヒドロキシル含有成分の組み合わせが、 (i)前記(a)成分としてN-ビニルピロリドン;前記(b)成分としてモノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-ブチル末端ポリジメチルシロキサン、モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-メチル末端ポリジメチルシロキサン、α-(2-ヒドロキシ-1-メタクリルオキシプロピルオキシプロピル)-ω-ブチル-オクタメチルペンタシロキサンもしくはこれらの混合物;および前記(c)成分として2-ヒドロキシエチルメタクリレートもしくは2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート;または (ii)前記(a)成分としてN-ビニル-N-メチルアセトアミド;前記(b)成分としてN-(2,3-ジヒドロキシプロパン)-N’-(プロピルテトラ(ジメチルシロキシ)ジメチルブチルシラン)アクリルアミド;および前記(c)成分として2-ヒドロキシエチルメタクリレート のいずれかであり、」に訂正する。 訂正事項7:請求項1において、訂正事項6で追加した「のいずれかであり、」とある行の下に、 「 前記反応混合物は、3‐メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)を含まず、」を挿入する。 訂正事項8:請求項1の「前記遅反応性親水性成分の半減期の前記シリコーン含有成分の半減期に対する比が少なくとも2であり、」を、「前記遅反応性親水性モノマーの速度論的半減期の前記シリコーン含有成分の速度論的半減期に対する比が少なくとも2であり、」に訂正する。 訂正事項9:請求項1の「(希釈剤を除く)、及び15重量%未満の3‐メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)を含み、」を、「(希釈剤を除く)を含み、」に訂正する。 訂正事項10:請求項1の「前記遅反応性親水性モノマー及び前記シリコーン含有成分以外の全ての反応性成分が、」を、「2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート、2-(2’-ヒドロキシ-5-メタクリルイルオキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド、並びにテトラエチレングリコールジメタクリレート及び/又はエチレングリコールジメタクリレートが、」に訂正する。 訂正事項11:請求項1の「反応性成分100g当たり38?76mmolの量で存在する、」の次に、「前記補助成分が、反応性成分に基づいて12重量%未満の濃度で前記反応混合物中に存在する、」を挿入する。 訂正事項12:請求項1の「反応性成分100g当たり11?92mmolの量で存在し、 前記補助成分が、反応性成分100g当たり38?76mmolの量で存在する、」を、「反応性成分100g当たり38?76mmolの量で存在し、」に訂正する。 訂正事項13:請求項2の「i)37?75重量%、又は、ii)37?70重量%、又は、iii)39?60重量%含む、」を、「37?75重量%含む、」に訂正する。 訂正事項14:請求項3を削除する。 訂正事項15:請求項4を削除する。 訂正事項16:請求項5を削除する。 訂正事項17:請求項6の「i)少なくとも55%、又は、 ii)少なくとも60%、である、」を、「少なくとも55%である、」に訂正する。 訂正事項18:請求項6の「請求項1?5」を、「請求項1又は2」に訂正する。 訂正事項19:請求項7の「i)少なくとも90バーラー、又は、 ii)少なくとも100バーラー、である、」を、「少なくとも90バーラーである、」に訂正する。 訂正事項20:請求項8の「i)85?150バーラー、又は、 ii)85?130バーラー、である、」を、「85?150バーラーである、」に訂正する。 訂正事項21:請求項10の「i)80°未満、又は、 ii)70°未満、の接触角を更に含み、」を、「80°未満の接触角を更に含み、」に訂正する。 訂正事項22?35:請求項11?24を削除する。 訂正事項36:請求項25の「50%未満、好ましくは10%未満の曇り度(%)」を、「50%未満の曇り度(%)」に訂正する。 訂正事項37:請求項25の「請求項1?24」を、「請求項1、2又は6?10」に訂正する。 訂正事項38:請求項26の「前記反応混合物が、更に、少なくとも1つの遅反応性架橋剤と少なくとも1つの速反応性架橋剤とを含む、」を、「前記反応混合物が、更に、2つのビニル基、3つのビニル基、2つのアリル基、3つのアリル基のいずれかを有する、少なくとも1つの遅反応性架橋剤と、(メタ)アクリル基を有する、少なくとも1つの速反応性架橋剤とを含む、」に訂正する。 訂正事項39:請求項26の「請求項1?25」を、「請求項1、2又は6?10又は25」に訂正する。 訂正事項40:請求項27の「i)0.05?0.3重量%、又は、 ii)0.1?0.2重量%、 の量で」を、「0.05?0.3重量%の量で」に訂正する。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1、2、4は、訂正前の請求項1に係る「遅反応性親水性モノマー」、「シリコーン含有成分」、「ヒドロキシル含有成分」の各成分に関し、他の成分との識別を容易にするために、記号「(a)」、「(b)」、「(c)」を付与したものである。 したがって、これらの訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (2)訂正事項3及び5は、訂正前の請求項1に係る「シリコーン含有成分」及び「ヒドロキシル含有成分」に関し、前者の規定中、「任意で少なくとも1つのヒドロキシル含有基で置換されていてもよい」との任意規定を削除し、後者の規定中、「少なくとも1つのヒドロキシル基で置換されている前記シリコーン含有成分、少なくとも1つのヒドロキシアルキルモノマー、及びこれらの混合物」を「少なくとも1つのヒドロキシアルキルモノマー」に限定するものであり、そうすることで、互いの各成分の関係を明確にするものである。 したがって、これらの訂正は、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (3)訂正事項6は、訂正前の請求項1に係る「遅反応性親水性モノマー」、「シリコーン含有成分」、「ヒドロキシル含有成分」の各成分に関し、これら各成分に該当する化合物の名称を具体的に規定するものである。 これは、上記各成分を、特定構造を有する化合物に限定するものであり、実施例3?5、22、23、25、26の記載に基づくものである。 したがって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (4)訂正事項7は、訂正前の請求項1において、3-メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)を含まないものとするものである。 これは、訂正前の請求項4の規定に基づくものである。 そして、訂正事項9は、訂正事項7により、請求項1に係る発明は3-メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)を含まないものとなったため、「…を含み」とする規定を削除するものである。 したがって、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (5)訂正事項8は、訂正前の請求項1に係る「前記遅反応性親水性成分の半減期の前記シリコーン含有成分の半減期に対する比が少なくとも2であり、」との規定を、「前記遅反応性親水性モノマーの速度論的半減期の前記シリコーン含有成分の速度論的半減期に対する比が少なくとも2であり、」とするものである。 これは、訂正前の請求項1において、「前記遅反応性親水性成分」との文言の前には「遅反応性親水性モノマー」との文言はあるものの「遅反応性親水性成分」との文言が存在せず、これを訂正するものであり、また、単なる「半減期」では何を意味するのか明らかでなかったところ、この文言の前に存在する「速度論的半減期」に訂正するものである。 したがって、この訂正は、誤記の訂正または明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (6)訂正事項10は、訂正前の請求項1に係る「前記遅反応性親水性モノマー及び前記シリコーン含有成分以外の全ての反応性成分」に関し、当該成分を具体的な化合物名をもって規定するものである。 これは、上記各成分を、特定構造を有する化合物に限定するものであり、実施例3?5、22、23、25、26の記載に基づくものである。 したがって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (7)訂正事項11は、訂正前の請求項1に対し、「前記補助成分が、反応性成分に基づいて12重量%未満の濃度で前記反応混合物中に存在する」との規定を追加するものである。 これは、訂正前の請求項5の規定に基づくものである。 したがって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (8)訂正事項12は、訂正前の請求項1に係る「反応性成分100g当たり11?92mmolの量で存在し、 前記補助成分が、反応性成分100g当たり38?76mmolの量で存在する、」との規定を、「反応性成分100g当たり38?76mmolの量で存在し、」に訂正するものである。 これは、この文言の前に存在する「補助成分」の存在量に関し、その規定が二通り存在するために不明瞭であったものを、その一方とするものである。 したがって、この訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (9)訂正事項13、17、19?21、36、40はいずれも、「又は」や「好ましくは」といった択一的な記載の一部の要素を削除することで、一の要素に限定するものである。 したがって、これらの訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (10)訂正事項14は、請求項3が引用する請求項1において、「前記反応混合物は、3‐メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)を含まず」と規定されたことに伴い、「10重量%未満の3‐メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)を含む」と規定していた請求項3を削除するものである。 したがって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (11)訂正事項15及び16は、訂正前の請求項4及び5の規定が請求項1に取り込まれたことにより、係る請求項4及び5を削除するものである。 したがって、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (12)訂正事項18は、訂正前の請求項3?5が削除されたことに伴い、訂正前の請求項6の規定から、係る請求項3?5の引用を削除するものである。 したがって、この訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (13)訂正事項22?35は、請求項11?24が引用する請求項1において、「遅反応性親水性モノマー」、「シリコーン含有成分」、「ヒドロキシル含有成分」の各成分の組み合わせが具体的な化合物名をもって規定されたことにより、これら各成分の上位概念である請求項11?24を削除するものである。 したがって、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (14)訂正事項37及び39は、訂正前の請求項3?5及び11?24が削除されたことに伴い、訂正前の請求項25及び26の規定から、係る請求項の引用を削除するものである。 したがって、これらの訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (15)訂正事項38は、訂正前の請求項26に係る「前記反応混合物が、更に、少なくとも1つの遅反応性架橋剤と少なくとも1つの速反応性架橋剤とを含む、」との規定を、「前記反応混合物が、更に、2つのビニル基、3つのビニル基、2つのアリル基、3つのアリル基のいずれかを有する、少なくとも1つの遅反応性架橋剤と、(メタ)アクリル基を有する、少なくとも1つの速反応性架橋剤とを含む、」と訂正するものである。 これは、明瞭でなかった「遅反応性架橋剤」及び「速反応性架橋剤」について、【0063】の「また、反応混合物は、親水性成分の反応速度に依存して複数の架橋剤を含有してよい。遅反応性官能基(例えば、ジビニル、トリビニル、ジアリル、トリアリル)を有する超遅反応性親水性成分(例えば、VMA、EGVE、DEGVE)架橋剤又は遅反応性官能基と速反応性官能基(例えば、HEMAVc)との組み合わせは、最終ヒドロゲル中の遅反応性モノマーのポリマー保持を改善するために、速反応性官能基((メタ)アクリレート)を有する架橋剤と組み合わせてよい。」との記載に基づき、かつ、「ジビニル、トリビニル、ジアリル、トリアリル」との表現では明瞭とはいえない文言を明瞭となるように表したものである。 したがって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 4 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。 第3 本件訂正後の請求項1?28に係る発明 本件訂正により訂正された訂正請求項1?28に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?28に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。 【請求項1】 少なくとも50%の含水量及び少なくとも80バーラーの酸素透過性を含むシリコーンヒドロゲルであって、 (a)30?75重量%の、遅反応性親水性モノマーの速度論的半減期を有する少なくとも1つの遅反応性親水性モノマーと、 (b)シリコーン含有成分の速度論的半減期を有する少なくとも1つのシリコーン含有成分と、 (c)少なくとも1つのヒドロキシアルキルモノマーから選択される少なくとも1つのヒドロキシル含有成分と、を含む反応混合物から形成され、 (a)前記少なくとも1つの遅反応性親水性モノマー、(b)前記少なくとも1つのシリコーン含有成分および(c)前記少なくとも1つのヒドロキシル含有成分の組み合わせが、 (i)前記成分(a)としてN-ビニルピロリドン;前記成分(b)としてモノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-ブチル末端ポリジメチルシロキサン、モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-メチル末端ポリジメチルシロキサン、α-(2-ヒドロキシ-1-メタクリルオキシプロピルオキシプロピル)-ω-ブチル-オクタメチルペンタシロキサンもしくはこれらの混合物;および前記成分(c)として2-ヒドロキシエチルメタクリレートもしくは2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート;または (ii)前記成分(a)としてN-ビニル-N-メチルアセトアミド;前記成分(b)としてN-(2,3-ジヒドロキシプロパン)-N’-(プロピルテトラ(ジメチルシロキシ)ジメチルブチルシラン)アクリルアミド;および前記成分(c)として2-ヒドロキシエチルメタクリレート のいずれかであり、 前記反応混合物は、3‐メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)を含まず、 前記遅反応性親水性モノマーの速度論的半減期の前記シリコーン含有成分の速度論的半減期に対する比が少なくとも2であり、前記反応混合物が、9?14重量%の総量のシリコン(希釈剤を除く)を含み、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート、2-(2’-ヒドロキシ-5-メタクリルイルオキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド、並びにテトラエチレングリコールジメタクリレート及び/又はエチレングリコールジメタクリレートが、前記反応混合物中の補助成分であり、かつ、反応性成分100g当たり38?76mmolの量で存在し、 前記補助成分が、反応性成分に基づいて12重量%未満の濃度で前記反応混合物中に存在する、 シリコーンヒドロゲル。 【請求項2】 前記反応混合物が、遅反応性親水性モノマーの速度論的半減期を有する前記少なくとも1つの遅反応性親水性モノマーを、37?75重量%含む、請求項1に記載のシリコーンヒドロゲル。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 前記含水量が、 少なくとも55%である、請求項1又は2のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲル。 【請求項7】 前記酸素透過性が、 少なくとも90バーラーである、請求項1又は6に記載のシリコーンヒドロゲル。 【請求項8】 前記酸素透過性が、 85?150バーラーである、請求項1又は6?7のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲル。 【請求項9】 1034kPa(150psi)未満の弾性率を更に含み、 弾性率は、詳細な説明の「弾性率」部分に記載される方法に従って測定される、請求項1又は6?8のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲル。 【請求項10】 80°未満の接触角を更に含み、 接触角は、詳細な説明の「前進接触角」部分に記載される方法に従って測定される、請求項1又は6?8のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲル。 【請求項11】 (削除) 【請求項12】 (削除) 【請求項13】 (削除) 【請求項14】 (削除) 【請求項15】 (削除) 【請求項16】 (削除) 【請求項17】 (削除) 【請求項18】 (削除) 【請求項19】 (削除) 【請求項20】 (削除) 【請求項21】 (削除) 【請求項22】 (削除) 【請求項23】 (削除) 【請求項24】 (削除) 【請求項25】 50%未満の曇り度(%)を更に含み、 曇り度(%)は、詳細な説明の「Hansen溶解度パラメーター」の「曇り度値の測定」部分に記載される方法に従って測定される、請求項1、2又は6?10のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲル。 【請求項26】 前記反応混合物が、更に、2つのビニル基、3つのビニル基、2つのアリル基、3つのアリル基のいずれかを有する、少なくとも1つの遅反応性架橋剤と、(メタ)アクリル基を有する、少なくとも1つの速反応性架橋剤とを含む、請求項1、2又は6?10又は25のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲル。 【請求項27】 前記少なくとも1つの遅反応性架橋剤及び少なくとも1つの速反応性架橋剤が、それぞれ、 0.05?0.3重量%の量で前記反応混合物中に存在する、請求項26に記載のシリコーンヒドロゲル。 【請求項28】 前記少なくとも1つのシリコーン含有成分及び前記少なくとも1つのヒドロキシル含有成分が、同じ反応性官能基を有する、請求項1に記載のシリコーンヒドロゲル。 第4 令和元年11月25日付け取消理由通知(決定の予告)について 当審は令和元年11月25日付け取消理由通知において、概要以下のとおりの取消理由(決定の予告)を通知した。 「第4 新たな取消理由について 本件特許は、本件訂正に係る特許請求の範囲の記載が明確であるとは言えず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 … 2 判断 (1)「(a)前記少なくとも1つの遅反応性親水性モノマー、(b)前記少なくとも1つのシリコーン含有成分および(c)前記少なくとも1つのヒドロキシル含有成分の組み合わせ」について 本件訂正発明1における(a)?(c)の各成分の組み合わせは、上記1のとおり(i)、(ii)において化合物名が列記されているが、この記載では、各化合物が(a)?(c)のいずれに該当するのか明らかでない。 このため、本件訂正発明1における(a)?(c)の各成分の組み合わせについて、これを明確に把握することができない。 (2)「9?14重量%の総量のシリコン(…除く)、」との記載について 本件訂正発明1における「前記反応混合物が、9?14重量%の総量のシリコン(希釈剤を除く)、2-(2’-ヒドロキシ-5-メタクリルイルオキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド、並びにテトラエチレングリコールジメタクリレート及び/又はエチレングリコールジメタクリレートが、前記反応混合物中の補助成分であり、かつ、反応性成分100g当たり38?76mmolの量で存在し、」とあるが、この記載では、「9?14重量%の総量のシリコン(…除く)」が、本件訂正発明1において一体どのような構成を採っているのか、見当が付かない。 このため、本件訂正発明1における「9?14重量%の総量のシリコン(…除く)、」に係る構成について、これを明確に把握することができない。 (3)「補助成分」について 本件訂正発明1において、「補助成分」は「2-(2’-ヒドロキシ-5-メタクリルイルオキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド、並びにテトラエチレングリコールジメタクリレート及び/又はエチレングリコールジメタクリレート」であると見受けられる。 これに対し、本件訂正前の請求項1に係る発明では「前記遅反応性親水性モノマー及び前記シリコーン含有成分以外の全ての反応性成分が、前記反応混合物中の補助成分」と定義されており、「ヒドロキシル含有成分」も「補助成分」の一つと解しうるものと認められる。 そうすると、本件訂正発明1「補助成分」とは、「ヒドロキシル含有成分」という概念が含まれるものであるのか否か、見当が付かない。 このため、本件訂正発明1における「補助成分」について、これを明確に把握することができない。 (4)「TRIS」の非含有について 本件訂正請求書21頁には、本件訂正発明1において「含有されない成分(TRIS)に関する記述を削除する」と記載されている。 これに対し、本件訂正発明4は「前記シリコーン含有成分が、3-メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)を含まない」と規定されている。 本件訂正発明1ではTRISが「含有されない」と述べているにも関わらず、本件訂正発明4でTRISを「含まない」と規定していることから、本件訂正発明1はTRISを「含有されない成分」として理解して良いのか否か、判然としない。 このため、本件訂正発明1におけるTRISの含有あるいは非含有について、これを明確に把握することができない。 (5)以上の点から、本件訂正発明1は明確でない。 また、これを引用する本件訂正発明2、4、6?10、25?28は、同様に明確でない。 したがって、本件訂正発明1、2、4、6?10、25?28に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものに対してなされたものである。 第5 むすび 上記第4で検討したとおりであるから、本件訂正発明1、2、4、6?10、25?28に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 また、本件請求項3、5、11?24が削除されたため、本件発明3、5、11?24に係る特許についての特許異議の申立ては、却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。」 以下、決定の予告で示した取消理由について検討する。 1 各指摘事項について (1)「(a)前記少なくとも1つの遅反応性親水性モノマー、(b)前記少なくとも1つのシリコーン含有成分および(c)前記少なくとも1つのヒドロキシル含有成分の組み合わせ」について 本件訂正発明1における(a)?(c)の各成分の組み合わせは、上記第2 3(3)で述べたとおり、各成分に該当する化合物が具体的に明らかとなった。 (2)「9?14重量%の総量のシリコン(…除く)、」との記載について 「9?14重量%の総量のシリコン(…除く)、」との記載は、本件訂正発明1において「9?14重量%の総量のシリコン(…除く)を含み、」となったため、この記載の意味は明確となった。 (3)「補助成分」について 決定の予告で示したとおり、本件訂正前の請求項1に係る発明では「前記遅反応性親水性モノマー及び前記シリコーン含有成分以外の全ての反応性成分が、前記反応混合物中の補助成分」と定義されており、「ヒドロキシル含有成分」も「補助成分」の一つと解しうるものと認められる。 そして、本件訂正発明1において、「補助成分」は「2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート、2-(2’-ヒドロキシ-5-メタクリルイルオキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド、並びにテトラエチレングリコールジメタクリレート及び/又はエチレングリコールジメタクリレート」と規定された。 このため、「ヒドロキシル含有成分」も「補助成分」の一つと解しうるものである。 (4)「TRIS」の非含有について 本件訂正発明1では、「前記反応混合物は、3‐メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)を含まず」と、TRISを含有しないことが明確になった。 2 まとめ 以上の点から、本件訂正発明1、及びこれを引用する本件訂正発明2、6?10、25?28は、明確である。 したがって、当該決定の予告で示した取消理由には理由がない。 第5 異議申立ての理由についての検討 以下、申立人A、Bが提出した特許異議申立書をそれぞれ「申立書A」、「申立書B」という。 1 申立人Aの異議申立ての理由について 申立人の異議申立ての理由は、要するに以下のとおりである。 甲第1号証:国際公開第2011/041523号 (甲第1号証訳文として特表2013-506875号公報) 甲第2号証:特開2008-20918号公報 甲第3号証:国際公開第2010/147864号 (甲第3号証訳文として特表2012-530279号公報) 甲第4号証:特表2010-510550号公報 甲第5号証:特開昭54-22487号公報 甲第6号証:本件に対する平成29年1月23日付け拒絶理由通知書 甲第7号証:平成30年4月27日付けで申立人Aが作成した実験成績証明書 (以下、甲第1?7号証を「甲A1」?「甲A7」という。) ・申立ての理由A1 本件請求項1?28に係る発明は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たさない。 ・申立ての理由A2 本件発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たさない。 ・申立ての理由A3 本件請求項1?28に係る発明は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たさない。 ・申立ての理由A4 本件請求項1?4、6、8、10、24及び28に係る発明は、甲A1又は甲A2に記載された発明である。 ・申立ての理由A5 本件請求項7に係る発明は、甲A2に記載された発明である。 ・申立ての理由A6 本件請求項1?3、5?10、24、25及び28に係る発明は、甲A1?甲A5のいずれかに記載された発明に基づき、当業者が容易に想到できた発明である。 ・申立ての理由A7 本件請求項4に係る発明は、甲A1?甲A3又は甲A5のいずれかに記載された発明に基づき、当業者が容易に想到できた発明である。 2 申立ての理由A1について (1)申立人Aは「請求項1の記載からは、「シリコーン含有成分」と「ヒドロキシル含有成分」を区別することができない…」(申立書A 32頁1行?33頁2行)、「本件特許発明における「シリコーン含有成分」は不明確である…」(同 33頁3?15行)、「本件特許発明における「遅反応性親水性モノマー」は不明確である…」(同 33頁16行?34頁13行)と主張する。 しかし、本件訂正発明1は「遅反応性親水性モノマー」(すなわち「成分(a)」)、「シリコーン含有成分」(すなわち「成分(b)」)、「ヒドロキシル含有成分」(すなわち「成分(c)」)につき、 「(i)前記成分(a)としてN-ビニルピロリドン;前記成分(b)としてモノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-ブチル末端ポリジメチルシロキサン、モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-メチル末端ポリジメチルシロキサン、α-(2-ヒドロキシ-1-メタクリルオキシプロピルオキシプロピル)-ω-ブチル-オクタメチルペンタシロキサンもしくはこれらの混合物;および前記成分(c)として2-ヒドロキシエチルメタクリレートもしくは2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート;または (ii)前記成分(a)としてN-ビニル-N-メチルアセトアミド;前記成分(b)としてN-(2,3-ジヒドロキシプロパン)-N’-(プロピルテトラ(ジメチルシロキシ)ジメチルブチルシラン)アクリルアミド;および前記成分(c)として2-ヒドロキシエチルメタクリレート のいずれかであり、」と明確に規定された。 したがって、「請求項1の記載からは、「シリコーン含有成分」と「ヒドロキシル含有成分」を」明確に区別でき、「シリコーン含有成分」及び「遅反応性親水性モノマー」は明確である。 (2)申立人Aは「本件明細書の記載からは、当業者は「前記遅反応性親水性成分の半減期の前記シリコーン含有成分の半減期に対する比が少なくとも2」との発明特定事項の技術的意義を理解できない…」(申立書A 34頁14行?35頁10行)、「本件特許発明における「半減期」は不明確である…」(同 35頁16行?36頁5行)と主張する。 しかし、「半減期」は本件訂正発明1において「速度論的半減期」に訂正され、該「速度論的半減期」については本件明細書【0132】?【0150】において明確に記載されている。 確かに具体的な化合物名は「mPDMS」(【0140】)しか存在しないが、「速度論的半減期」を測定する各成分につき、一次速度式を仮定(【0147】)して求めることは化学反応論的にみて合理的であると認められる。 そうすると「前記遅反応性親水性成分(モノマー)の(速度論的)半減期の前記シリコーン含有成分の(速度論的)半減期に対する比」は上記本件明細書の記載に基づけば明確であると認められる。 (3)申立人Aは「本件特許発明における「反応性成分100gあたりの補助成分の量」は不明確である…」(申立書A 36頁6?13行)と主張する。 本件訂正発明1は「前記反応混合物中の補助成分であり、かつ、反応性成分100g当たり38?76mmolの量で存在」と規定された。 このため、「反応性成分100gあたりの補助成分の量」は明確である。 (4)申立人Aは「本件特許発明におけるTRISの規定は不明確である…」(申立書A 36頁14行?37頁4行)と主張する。 本件訂正発明1は「前記反応混合物は、3‐メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)を含まず」と規定された。 このため、本件特許発明におけるTRISの規定は明確である。 (5)申立人Aは、本件特許の請求項11、15、21?23には記載不備がある(申立書A 37頁5行?39頁11行)旨主張する。 本件訂正により、本件特許の請求項11?24は削除された。したがって、この主張の根拠は存在しない。 (6)申立人Aは「本件特許の請求項16、18、20、24?25には記載不備がある…」(申立書A 39頁12?18行)と主張する。 本件訂正により、本件特許の請求項11?24は削除された。また、本件訂正発明25は「50%未満の曇り度(%)を更に含み」と規定された。 したがって、本件訂正発明16、18、20、24に対する当該主張の根拠は存在せず、本件訂正発明25の規定は明確である。 (7)申立人Aは「本件特許発明26及び27における「遅反応性架橋剤」及び「速反応性架橋剤」は不明確である…」(申立書A 39頁19行?40頁17行)と主張する。 しかし、「遅反応性架橋剤」及び「速反応性架橋剤」につき本件訂正発明26は「2つのビニル基、3つのビニル基、2つのアリル基、3つのアリル基のいずれかを有する、少なくとも1つの遅反応性架橋剤と、(メタ)アクリル基を有する、少なくとも1つの速反応性架橋剤」と明確に規定された。 したがって、本件特許発明26及び27における「遅反応性架橋剤」及び「速反応性架橋剤」は明確である。 (8)以上のことから、本件訂正発明は明確であり、本件請求項1?28に係る発明は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たすものといえる。 よって、申立人Aが主張する申立ての理由A1には理由がない。 3 申立ての理由A2について 申立人Aは「本件特許明細書に実施例として記載されているものの多くは、本件特許発明の実施例ではない…」(申立書A 40頁18行?43頁[表B])、「関連出願に対する拒絶理由通知書における認定が本件特許発明にも妥当する…」(申立書A 43頁下6行?46頁3行)と主張する。 しかし、本件訂正発明1は、実施例3?5、22、23、25、26に基づき、「遅反応性親水性モノマー」(すなわち「成分(a)」)、「シリコーン含有成分」(すなわち「成分(b)」)、「ヒドロキシル含有成分」(すなわち「成分(c)」)につき、 「(i)前記成分(a)としてN-ビニルピロリドン;前記成分(b)としてモノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-ブチル末端ポリジメチルシロキサン、モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-メチル末端ポリジメチルシロキサン、α-(2-ヒドロキシ-1-メタクリルオキシプロピルオキシプロピル)-ω-ブチル-オクタメチルペンタシロキサンもしくはこれらの混合物;および前記成分(c)として2-ヒドロキシエチルメタクリレートもしくは2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート;または (ii)前記成分(a)としてN-ビニル-N-メチルアセトアミド;前記成分(b)としてN-(2,3-ジヒドロキシプロパン)-N’-(プロピルテトラ(ジメチルシロキシ)ジメチルブチルシラン)アクリルアミド;および前記成分(c)として2-ヒドロキシエチルメタクリレート のいずれかであり、」と規定された。 したがって、本件特許明細書に実施例として記載されたものは、本件訂正発明1の実施例であり、本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 以上のことから、本件発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たすものといえる。 よって、申立人Aが主張する申立ての理由A2には理由がない。 4 申立ての理由A3について (1)申立人Aは「特願2014-548878号…に対する認定は本件特許発明に対しても妥当する…」(申立書A 46頁6行?48頁2行)と主張する。 しかし、本件訂正発明1は、実施例3?5、22、23、25、26に基づき、「遅反応性親水性モノマー」(すなわち「成分(a)」)、「シリコーン含有成分」(すなわち「成分(b)」)、「ヒドロキシル含有成分」(すなわち「成分(c)」)につき、 「(i)前記成分(a)としてN-ビニルピロリドン;前記成分(b)としてモノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-ブチル末端ポリジメチルシロキサン、モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-メチル末端ポリジメチルシロキサン、α-(2-ヒドロキシ-1-メタクリルオキシプロピルオキシプロピル)-ω-ブチル-オクタメチルペンタシロキサンもしくはこれらの混合物;および前記成分(c)として2-ヒドロキシエチルメタクリレートもしくは2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート;または (ii)前記成分(a)としてN-ビニル-N-メチルアセトアミド;前記成分(b)としてN-(2,3-ジヒドロキシプロパン)-N’-(プロピルテトラ(ジメチルシロキシ)ジメチルブチルシラン)アクリルアミド;および前記成分(c)として2-ヒドロキシエチルメタクリレート のいずれかであり、」と規定された。 したがって、本件特許明細書に実施例として記載されたものは、本件訂正発明1の実施例であり、本件訂正発明は、本件特許の発明の詳細な説明に記載したものである。 (2)申立人Aは「本件特許発明には、「良好な透明度」という課題を解決できない範囲が含まれている…」(申立書A 49頁12行?51頁2行)と主張する。 また、この主張の中で申立人Aは「実施例3?5のように、ヒドロキシアルキルモノマーを使用しても…、「良好な透明度」という課題を解決できない場合があるのであるから、ヒドロキシアルキルモノマーを使用することなく、「良好な透明度」という課題を解決できる発明が、発明の詳細な説明には記載されているとは到底認められない。」と述べる。 本件訂正発明は「望ましい含水量及び酸素透過性を示すシリコーンヒドロゲルに関する」(【0002】)ものであり、「良好な透明度」のみにとらわれない。また、本件訂正発明の用途につき「本発明のシリコーンヒドロゲルは、生物医学装置、眼科用装置、及び特にコンタクトレンズの製造に有用である。」(【0009】)と、「良好な透明度」を要する物に拘るものではない。 そうすると、「良好な透明度」を有するものとはいえないものであっても、シリコーンヒドロゲルとして「望ましい含水量及び酸素透過性を示す」ものであれば、本件訂正発明の実施例といえる。 したがって、本件特許明細書に実施例として記載されたものは、本件訂正発明1の実施例であり、本件訂正発明は、本件特許の発明の詳細な説明に記載したものである。 (3)申立人Aは「本件特許発明には、「優れた湿潤性」という課題を解決できない範囲が含まれている…」(申立書A 51頁3?22行)と主張する。 申立人Aがこの主張の根拠とする実施例10?13は、本件訂正発明の実施例ではない。したがって、この主張の根拠は存在せず、本件訂正発明は、本件特許の発明の詳細な説明に記載したものである。 (4)申立人Aは「本件特許発明により、「加水分解安定性」という課題を解決できることを認識できない…」(申立書A 51頁23行?52頁7行)と主張する。 本件訂正発明は「望ましい含水量及び酸素透過性を示すシリコーンヒドロゲルに関する」(【0002】)ものであり、「加水分解安定性」のみにとらわれない。 したがって、本件訂正発明は、本件特許の発明の詳細な説明に記載したものである。 (5)申立人Aは「補助成分量が38?76mmol/lの範囲の全体にわたり請求項1で規定されている酸素透過性と含水量とを両立できることを認識できない…」(申立書A 52頁8行?53頁23行)と主張する。 本件訂正発明1は、実施例3?5、22、23、25、26に基づき、「遅反応性親水性モノマー」、「シリコーン含有成分」、「ヒドロキシル含有成分」、「補助成分」のそれぞれが、化合物名をもって具体的に規定された。そして、上記各実施例はいずれも本件訂正発明1の酸素透過性と含水量とを両立したものであり、これらの各成分によれば、補助成分量が38?76mmol/lの範囲の全体にわたり、係る酸素透過性と含水量とを両立しうるものと推認できる。 したがって、本件訂正発明は、本件特許発明の詳細な説明に記載したものである。 (6)申立人Aは「本件特許発明において、「mPDMS等のモノメタクリルオキシアルキルポリジメチルシロキサンメタクリレートとNVPとの組み合わせ」は、必須の構成要件である…」(申立書A 53頁末行?54頁11行)と主張する。 本件訂正発明は「望ましい含水量及び酸素透過性を示すシリコーンヒドロゲルに関する」(【0002】)ものである。そして、本件訂正発明1は、実施例3?5、22、23、25、26に基づき、「遅反応性親水性モノマー」、「シリコーン含有成分」、「ヒドロキシル含有成分」、「補助成分」のそれぞれが、化合物名をもって具体的に規定され、これら実施例はいずれも「望ましい含水量及び酸素透過性を示す」ものである。そうすると、本件訂正発明は「mPDMS等のモノメタクリルオキシアルキルポリジメチルシロキサンメタクリレートとNVPとの組み合わせ」のみにとらわれるものではない。 したがって、本件訂正発明は、本件特許の発明の詳細な説明に記載したものである。 (7)以上のことから、本件訂正発明は本件特許の発明の詳細な説明に記載したものであり、本件請求項1?28に係る発明は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすものといえる。 よって、申立人Aが主張する申立ての理由A3には理由がない。 5 申立ての理由A4?A7について(甲A1に基づくもの) (1)甲A1の記載事項 甲A1は英文で記載されているところ、そのファミリー文献である特表2013-506875号公報を参考にして引用する。 ア 「本発明は、コンタクトレンズおよびシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ等のコンタクトレンズの製造方法およびシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの製造方法に関するものである。」([0002]) イ 「本発明にとって有用なシリコーン含有成分の例は、例えばポリシロキサニルアルキル(メタ)アクリル酸系モノマー、マクロマーまたはプレポリマーを含むが、これらに限定されず、同様に制限なしに、メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、ペンタメチルジシロキサニルメチルメタクリレート、およびメチル-ジ(トリメチルシロキシ)メタクリルオキシメチルシランを包含する。 … 本発明において有用なシリコーン含有成分の他の具体例は、例えば3-メタクリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)プロピル-ビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン(米国ペンシルベニア州モーリスビルのゲレスト(Gelest)社から入手できる「(SiGMA)」)およびメチル-ジ(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセロールエチルメタクリレート(「SiGEMA」)であり得る。これらのシリコーン含有成分は、少なくとも一つのヒドロキシル基および上記構造(I)で示される二価の結合基Lにおける少なくとも一つのエーテル基、および少なくとも二つのシロキサニル基を含む。これらのシリコーン含有成分は、ここでは構造(B)群のシリコーン含有成分として表示される。この群のシリコーン含有成分に関する更なる詳細は、例えば米国特許第4,139,513号において与えられている。この米国特許の内容全体を、参考としてここに組入れる。例えば、SiGMAは、以下の例示的な非限定的構造によって表すことができる。 … 現時点において有用な該重合性組成物は、1種またはそれ以上の非シリコーン含有疎水性モノマーを含むことができる。このような疎水性モノマーの例は、制限なしに、アクリル酸およびメタクリル酸およびこれらの誘導体を包含する。非シリコーン含有疎水性モノマーの一例は、制限なしに、メチルメタクリレートを含む。2種またはそれ以上の疎水性モノマーの組合せを使用することも可能である。 本発明において有用な、シリコーン含有成分の他の具体例は、以下の式で表される化学製品、または日本国特許出願公開第2008-202060A号(この特許出願の内容全体を、参考としてここに組入れる)に記載されている化学物質、例えば以下に列挙するものであり得る: … FMM, Mw =1,500 … その他のシリコーン-含有成分を使用することも可能である。例えば、他の適当な型の該成分は、ポリ(オルガノシロキサン)モノマー、マクロマーまたはプレポリマー、例えばα,ω-ビスメタクリルオキシ-プロピルポリジメチルシロキサンを含むことができる。もう一つの例は、mPDMS(モノメタクリルオキシプロピル末端を持つ、モノ-n-ブチル末端を持つポリジメチルシロキサン)である。他の有用なシリコーン-含有成分は、シリコーン-含有ビニルカーボネートまたはビニルカルバメートモノマー、マクロマーまたはプレポリマー、例えば制限なしに1,3-ビス[4-(ビニルオキシカルボニルオキシ)ブチ-1-イル]テトラメチルシロキサン、3-(ビニルオキシカルボニルチオ)プロピル-[トリス(トリメチルシロキシシラン]、3-[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルアリル カルバメート、3-[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルビニルカルバメート; トリメチルシリルエチルビニルカルバメート、およびトリメチルシリルメチルビニルカルバメートを含む。1またはそれ以上のこれらシリコーン-含有成分の例は、例えば米国特許第5,998,498号および米国特許出願公開第2007/0066706 A1号、同第2007/0296914 A1号、および同第2008/0048350号に与えられているものであり得る。これら特許および公開特許の開示事項全体を、参考としてここに組入れる。」([0065]-[0072]) ウ 「本発明の重合性組成物は、また離型助剤、即ち硬化されたコンタクトレンズの、金型からの取出しをより一層容易にする上で効果的な、1種またはそれ以上の成分を含むこともできる。例示的な離型助剤は、親水性シリコーン、ポリアルキレンオキサイド、およびこれらの組合せを含む。本発明の重合性組成物は、付随的にヘキサノール、エトキシエタノール、イソプロパノール(IPA)、プロパノール、デカノールおよびこれらの組合せからなる群から選択される希釈剤を含むことができる。希釈剤を使用する場合、これは、典型的には約10%(w/w)?約30%(w/w)なる範囲の量で存在する。比較的高濃度で希釈剤を含む組成物は、低いイオノフラックス(ionoflux)値、低いモジュラス、および高い伸び、並びに20秒を越えるウォーターブレークアップ時間(water break up times)(WBUTs)を持つ傾向にあるが、必ずしもそのような傾向を持つ訳ではない。ヒドロゲルコンタクトレンズの製造において使用するのに適した追加の材料は、米国特許第6,867,245号に記載されている。この米国特許の内容全体を、参考としてここに組入れる。しかし、幾つかの態様において、本発明の重合性組成物は、希釈剤を含まない。」([0085]) エ 「例 以下の非限定的な実施例は、本発明の幾つかの局面を例証するものである。 以下の略号および対応する化合物および構造を、以下の実施例において使用する。 … FMM:前に例示されたような、シリコーン含有成分(米国オハイオ州アクロンの信越シリコーンアメリカ(Shin-Etsu Siliconesof America)社); … SiGMA:(3-メタクリロキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)プロピル-ビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン。その構造は以下の通りである: … HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート; … TEGDMA:トリ(エチレングリコール)ジメタクリレート; TEGDVE:トリ(エチレングリコール)ジビニルエーテル; VAZO(登録商標) 64:2,2′-アゾビス(イソブチロニトリル); … MPC:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(HEMA-PC、LIPIDURE(登録商標)、日本国東京の日油社製); … コンタクトレンズの製造 下記表ABの幾つかにより示されるような、原料および成分の様々な組合せを混合することにより製造した。該レンズ処方物は、以下のような一般的な方法で成型してレンズとした。 … 表AB 」 ([00102]-[00148]) (2)甲A1に記載された発明 特に、処方No.5からみて、甲A1には、少なくとも以下の引用発明A1が記載されていると認められる。(上記(1)ウの記載から、処方No.5の「n-プロパノール」は、反応に関与しないものと認められる。) 「NVP49質量部、FMM20質量部、SiGMA20質量部、HEMA5質量部、MPC7質量部、TEGDMA1.5質量部、TEGDVE0.5質量部を含む反応混合物から形成され、反応混合物は3-メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)を含まない、シリコーンヒドロゲル。」 (3)本件訂正発明1について ア 対比 引用発明A1における「質量部」の合計は103質量部であることからみて、本件訂正発明1のように「重量%」と読み替えて差し支えないものと認められる。 引用発明A1における「NVP」は本件訂正発明1における「N-ビニルピロリドン」、同じく「HEMA」は「2-ヒドロキシエチルメタクリレート」、「TEGDMA」は「テトラエチレングリコールジメタクリレート」に相当する。 なお、「FMM」及び「SiGMA」は「モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-ブチル末端ポリジメチルシロキサン、モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-メチル末端ポリジメチルシロキサン、α-(2-ヒドロキシ-1-メタクリルオキシプロピルオキシプロピル)-ω-ブチル-オクタメチルペンタシロキサンもしくはこれらの混合物」あるいは「N-(2,3-ジヒドロキシプロパン)-N'-(プロピルテトラ(ジメチルシロキシ)ジメチルブチルシラン)アクリルアミド」ではないので本件訂正発明1の「シリコーン含有成分」とはいえず、「MPC」及び「TEGDVE」は「2-(2'-ヒドロキシ-5-メタクリルイルオキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド、エチレングリコールジメタクリレート」ではないので本件訂正発明1の「反応混合物中の補助成分」とはいえない。 そうすると、本件訂正発明1と引用発明A1とは、以下の点で一致する。 「(a)49重量%のN-ビニルピロリドンと、 (c)2-ヒドロキシエチルメタクリレートと、を含む反応混合物から形成され、 前記反応混合物は、3‐メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)を含まない、 シリコーンヒドロゲル。」 そして、両者は、少なくとも以下の点で相違する。 相違点A1:(b)「シリコーン含有成分」において、本件訂正発明1は、(a)成分が「N-ビニルピロリドン」、(c)成分が「2-ヒドロキシエチルメタクリレート」の場合、「モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-ブチル末端ポリジメチルシロキサン、モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-メチル末端ポリジメチルシロキサン、α-(2-ヒドロキシ-1-メタクリルオキシプロピルオキシプロピル)-ω-ブチル-オクタメチルペンタシロキサンもしくはこれらの混合物」であるのに対し、引用発明A1では「FMM」及び「SiGMA」である点。 イ 判断 甲A1明細書[0072]には、「その他のシリコーン-含有成分を使用することも可能である。例えば、…。もう一つの例は、mPDMS(モノメタクリルオキシプロピル末端を持つ、モノ-n-ブチル末端を持つポリジメチルシロキサン)である。」(上記(1)イ)との記載がある。この「mPDMS(モノメタクリルオキシプロピル末端を持つ、モノ-n-ブチル末端を持つポリジメチルシロキサン)」は、本件訂正発明1でいう「モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-ブチル末端ポリジメチルシロキサン」といえる。 しかし、甲A1明細書からは、引用発明A1の「FMM」及び「SiGMA」に代えて、あるいは、これらに加えて「mPDMS」を用いてシリコーンヒドロゲルを構成することについての記載ないし示唆は見いだせない。あるいは、「mPDMS」を引用発明A1における「シリコーン-含有成分」として用いることができたとしても、それによって、本件訂正発明1の物性である「少なくとも50%の含水量及び少なくとも80バーラーの酸素透過性を含む」シリコーンヒドロゲルを得ることができるか何ら明らかでない。また、そのような物性を得られることが本件出願前において周知の技術的事項であったということもできない。 このため、その余の相違点がいかなるものであっても、本件訂正発明1は、甲A1に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものということはできない。 (4)本件訂正発明2、6?10、25?28についての判断 本件訂正発明2、6?10、25?28は、本件訂正発明1を引用し、さらに限定を加えたものである。そして、上述のとおり、本件訂正発明1は、甲A1に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものということはできないことに鑑みると、本件訂正発明2、6?10、25?28についても、甲A1に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものともいうことはできない。 (5)まとめ 以上のことから、本件訂正発明は、甲A1に記載された発明であるとも、甲A1に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものともいうことができない。 よって、申立人Aが主張する、甲A1に基づく申立ての理由A4?A7には理由がない。 6 申立ての理由A4?A7について(甲A2に基づくもの) (1)甲A2の記載事項 ア 「【0001】 … 〔発明の分野〕 本発明は、シリコーンヒドロゲルの眼科用デバイス及び関連組成物と方法等に関する。さらに詳しくは、本発明は、湿潤性の成型シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ、並びに関連組成物及び方法に関する。」 イ 「【0011】 …用語“シリコーンヒドロゲル”又は“シリコーンヒドロゲル材料”は、ケイ素成分又はシリコーン成分を含むヒドロゲルを表す。例えば、シリコーンヒドロゲルは1以上の親水性のケイ素含有ポリマーを含む。シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは、シリコーンヒドロゲル材料を含む、視力補正コンタクトレンズをはじめとするコンタクトレンズである。 シリコーン含有成分は、モノマー、マクロマー又はプレポリマー中に少なくとも1つの[-Si-O-Si]基を含む成分である。シリコーン含有成分には、該シリコーン含有成分の総分子量の20質量%より多い、例えば30質量%より多い量でSiと付着したOが存在し得る。有用なシリコーン含有成分は、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-ビニルラクタム、N-ビニルアミド、及びスチリル官能基などの重合可能な官能基を含む。… 適切なシリコーン含有モノマーのさらなる例は、ポリシロキサニルアルキル(メタ)アクリルモノマーであり、限定するものではないが、メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、ペンタメチルジシロキサニルメチルメタクリレート、及びメチルジ(トリメチルシロキシ)メタクリルオキシメチルシランが挙げられる。 シリコーン含有成分の有用な一分類はポリ(オルガノシロキサン)プレポリマー、例えば、α,ω-ビスメタクリルオキシ-プロピルポリジメチルシロキサンである。別の例はmPDMS(モノメタクリルオキシプロピル-末端化モノ-n-ブチル末端化ポリジメチルシロキサン)である。別の有用な分類のシリコーン含有成分として、シリコーン含有ビニルカーボネート又はビニルカルバメートモノマーが挙げられ、限定するものではないが、1,3-ビス[4-(ビニルオキシカルボニルオキシ)ブタ-1-イル]テトラメチルシロキサン3-(ビニルオキシカルボニルチオ)プロピル-[トリス(トリメチルシロキシシラン];3-[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルアリルカルバメート;3-[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルビニルカルバメート;トリメチルシリルエチルビニルカーボネート;及びトリメチルシリルメチルビニルカーボネートが挙げられる。… … 【0015】 ケイ素含有成分に加え、本レンズ、レンズ生成物、組成物は、1以上の親水性成分を含み得る。親水性成分として、残りの反応性成分と配合したとき、結果として生じるレンズに少なくとも約20%、例えば、少なくとも約25%の含水量を与え得る当該成分が挙げられる。好適な親水性成分は、すべての反応性成分の質量に対して約10?約60質量%の量で存在し得る。約15?約50質量%、例えば、約20?約40質量%。本レンズ用のポリマーを製造するために使用し得る親水性モノマーは、少なくとも1個の重合可能な二重結合と、少なくとも1個の親水性官能基を有する。重合可能な二重結合の例として、アクリル、メタクリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、フマル、マレイン、スチリル、イソプロペニルフェニル、O-ビニルカーボネート、O-ビニルカルバメート、アリル、O-ビニルアセチル及びN-ビニルラクタム及びN-ビニルアミド二重結合が挙げられる。このような親水性モノマーは、それ自体架橋剤として使用される。“アクリルタイプ”又は“アクリル含有”モノマーは、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMA)、2-ヒドロキシエチルアクリレート、グリセロールメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリルアミド、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、メタクリル酸、アクリル酸及びその混合物などの、容易に重合することも分かっているアクリル基(CR'H=CRCOX)(式中、RはH又はCH_(3)であり、R'はH、アルキル又はカルボニルであり、かつXはO又はNである)を含有する当該モノマーである。 本レンズの材料に組み込み得る親水性のビニル含有モノマーとして、N-ビニルラクタム(例えば、N-ビニルピロリドン(NVP))、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、N-ビニル-N-エチルアセトアミド、N-ビニル-N-エチルホルムアミド、N-ビニルホルムアミド、N-2-ヒドロキシエチルビニルカルバメート、N-カルボキシ-β-アラニンN-ビニルエステル等のモノマーが挙げられる。一実施態様では、親水性ビニル含有モノマーがNVPである。 本レンズに利用し得る他の親水性モノマーとして、重合可能な二重結合を含有する官能基と置き換えられた1以上の末端ヒドロキシル基を有するポリオキシエチレンポリオールが挙げられる。例として、重合可能な二重結合を含有する官能基と置き換えられた1以上の末端ヒドロキシル基を有するポリエチレングリコールが挙げられる。例として、1又は2モル当量以上のエンドキャッピング基、例えばイソシアナトエチルメタクリレート(“IEM”)、無水メタクリル酸、塩化メタクリロイル、塩化ビニルベンゾイル等と反応して、ポリエチレンポリオール(該ポリエチレンポリオールに、カルバメート又はエステル基などの連結成分を介して結合した1以上の重合可能な末端オレフィン性基を有する)を生成するポリエチレングリコールが挙げられる。 さらなる例は、米国特許第5,070,215号で開示されている親水性ビニルカーボネート又はビニルカルバメートモノマー、及び米国特許第4,190,277号で開示されている親水性オキサゾロンモノマーである。当業者には、他の好適な親水性モノマーが明白だろう。本発明のポリマーに組み込み得るさらに好ましい親水性モノマーとして、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMA)、2-ヒドロキシエチルアクリレート、グリセロールメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリルアミド、N-ビニルピロリドン(NVP)、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、及びポリエチレングリコールジメタクリレート等の親水性モノマーが挙げられる。ある実施態様では、DMA、NVP及びその混合物といった親水性モノマーが用いられる。 シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを作るために使用する材料のさらなる例として、米国特許第6,867,245号で開示されている材料が挙げられる。」 ウ 「【0027】 本シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズのいくつかの実施態様は、レンズ装用者又はレンズ装用者群によって知覚されるコンタクトレンズの快適さを増強する1以上の快適増強剤(該増強剤のないシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズに比べて快適さを増強する)をも含み得る。本レンズで含め得る快適増強剤の一例は脱水低減剤である。快適増強剤の別の例は涙液膜安定剤である。快適増強剤の別の例は、脱水を低減し、かつコンタクトレンズを置いた目の涙液膜を安定化する薬剤である。快適増強剤は、水に対する親和性を有するポリマー材料を含む。特定の実施態様では、ポリマー材料が1以上の両親媒性基を含む。好適な材料の例として、重合可能なリン脂質、例えばホスホリルコリン成分を含む材料が挙げられる。ある実施態様では、本レンズはメタクリレートホスホリルコリンモノマーの単位を含むレンズ本体を含む。さらなる実施態様では、本レンズは2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を含む。MPCはBiocompatibles Limited(Great Britain)及びNOF Corporation (Tokyo, Japan)等の会社から得られ、或いは米国特許第5,981,786号;第6,420,453号;及び第6,423,761号に記載されている通りに製造できる。 … 【0028】 … 本レンズのレンズ本体は、典型的に高い酸素透過性を有する。例えば、レンズ本体は、60バレルに劣らないDkの酸素透過性を有する。本レンズの実施態様は、約80バレル、約90バレル、約100バレル、約110バレル、約120バレル、約130バレル、約140バレル、又はそれ以上のDkを有するレンズ本体を含む。 当業者に公知の日常的な方法を用いて本レンズのDkを決定できる。例えば、米国特許第5,817,924号に記載されているようなMocon法を用いてDk値を決定できる。MoconOx-Tran Systemのモデル選定下で市販機器を用いてDk値を決定することができる。 本レンズは、眼に許容し得る含水量を有するレンズ本体をも含む。例えば、本レンズの実施態様は、30%に劣らない含水量を有するレンズ本体を含む。ある実施態様では、レンズ本体は約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、又は約65%の含水量を有する。 当業者に公知の日常的な方法を用いて本レンズの含水量を決定できる。例えば、水和したシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを水性液から取り出し、拭いて表面の過剰な水を除去して秤量することができる。秤量したレンズを真空下80℃の乾燥器内で乾燥させてから乾燥レンズを秤量することができる。水和レンズの重量から乾燥レンズの重量を引いて重量差を決定することができる。含水量(%)は(重量差/水和重量)×100である。」 エ 「【0035】 本発明の先駆組成物の特定の実施態様として、無極性樹脂のコンタクトレンズ型内で供給される重合可能なシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ先駆組成物が挙げられる。他の実施態様として、ビン等の貯蔵容器、又は手動若しくは自動ピペット操作(pipetting)デバイス等の分配デバイス内の前記組成物が挙げられる。 本発明の駆組成物の一例は、ジメタクリロイルシリコーン含有マクロマー、α-ω-ビス(メタクリロイルオキシエチルイミノカルボキシエチルオキシプロピル)-ポリ(ジメチルシロキサン)-ポリ(トリフルオロプロピルメチルシロキサン)-ポリ(ω-メトキシ-ポリ(エチレングリコール)プロピルメチルシロキサン)(M3U)から成る重合可能なケイ素含有成分と、N-ビニル-N-メチルアセトアミド(VMA)、イソボルニルメタクリレート(IBM)、エトキシエチルメタクリレート(EOEMA)、トリ(エチレングリコール)ジメタクリレート(TEGDMA)、トリエチレングリコールジビニルエーテル(TEGDVE)、及び2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルペンタンニトリル)(VAZO-52)を含む重合可能な非ケイ素含有成分とを含む。この組成物中のIBMは、IBMのない実質的に同一のレンズに比し、抽出されたシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの剛性を高めるようである。ケイ素含有成分は、該組成物の約30?約40%(w/w)を構成し、かつ非ケイ素含有成分は、該組成物の約60?約70%(w/w)を構成し得る。ある実施態様では、M3Uが約30?約40%の量で供給され、VMAが約45?約50%の量で供給され、MMAが約15?約20%の量で供給され、IBMが約5%の量で供給され、EOEMAが15%の量で供給され、TEGDMA又はTEGDMA及びTEGDVEが約0.2%の量で供給され、かつVAZO-52が約0.5%の量で供給される。 本発明の先駆組成物の別の例は、前記成分と、紫外線吸収剤及び着色剤(反応性染料又は顔料粒子でよい)を含む。UV吸収剤は約0.9%の量で供給され、着色剤は約0.1%の量で供給され得る。UV吸収剤は、約320?380nmのUV-A範囲では相対的に高い吸収値を示すが、約380nmでは相対的に透明である強力なUV吸収剤でよい。例えば、UV吸収剤として光重合可能なヒドロキシベンゾフェノン及び光重合可能なベンゾトリアゾール、例えば2-ヒドロキシ-4-アクリロイルオキシエトキシベンゾフェノン(Cytec IndustriesからCYASORB(登録商標)UV416として商業的に入手可能)、2-ヒドロキシ-4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリルイルオキシ)プロポキシベンゾフェノン、及びNoramcoからNORBLOC(登録商標)7966として商業的に入手可能な光重合可能なベンゾトリアゾールが挙げられる。他の光重合可能なUV吸収剤として、重合可能なエチレン性不飽和トリアジン、サリチレート、アリール置換アクリレート、及び他の有効なUV吸収剤の重合可能バージョン、並びにこれらUV吸収剤の混合物が挙げられる。 【0036】 本発明の先駆組成物の別の実施態様は、M3Uから成る重合可能なケイ素含有成分と、VMA、メチルメタクリレート(MMA)、TEGDMA、及びVAZO-52を含む重合可能な非ケイ素含有成分とを含む。 本発明の先駆組成物のさらなる例は、前記実施態様の成分と、紫外線吸収剤及び着色剤を含む。この実施態様は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)とポリエチレングリコール(PEG)のブロックコポリマーをも含み得る。本明細書では、このブロックコポリマーをPDMS-co-PEGと略記する。DMS-co-PEGの一例は、75%のPEG含量と約1400の分子量を有する。有用なPDMS-co-PEG材料の他の例は、約300?約3000ダルトンの分子量を有する。PDMS-co-PEGは、約10%(w/w)?約40%(w/w)の量で存在し得る。例えば、先駆組成物は、12%(w/w)、20%(w/w)、25%(w/w)、29%(w/w)、又は30%(w/w)の量のPDMS-co-PEGを含み得る。 本発明の先駆組成物の別の実施態様は、M3Uから成る重合可能なケイ素含有成分と、VMA、IBM、MMA、TEGDMA、紫外線吸収剤、着色剤、及びVAZO-64を含む重合可能な非ケイ素含有成分とを含む。これら組成物の実施態様は、本明細書で開示される他の実施態様より高いモジュラスを有し得る。 本発明の先駆組成物の別の実施態様は、M3Uから成る重合可能なケイ素含有成分と、1-ビニル-2-ピロリドン(NVP)、MMA、TEGDMA、及びVAZO-52を含む重合可能な非ケイ素含有成分とを含む。このような実施態様では、ケイ素含有成分は、該組成物の約30?約40%(w/w)を構成し、非ケイ素含有成分は、該組成物の約60?約70%(w/w)を構成する。例えば、M3Uは約35%?約38%の量で存在し得る。NVPは約45?約50%の量で存在し、MMAは約15?約20%の量で存在し、TEGDMAは約0.1?約0.8%の量で存在し、かつVAZO-52は約0.1?0.6%の量で存在し得る。 別の実施態様は、以前と同一の成分とデカノールを含む。約5%(w/w)?約30%(w/w)の量でデカノールを供給することができる。例えば、実施態様は、約5%(w/w)、約10%(w/w)、約15%(w/w)、約20%(w/w)、約25%(w/w)、又は約30%(w/w)の量のデカノールを含み得る。デカノールは相溶化剤と希釈剤の両方として有効であり得る。従って、デカノールはレンズ先駆組成物の成分の相分離の減少に役立ち得る。デカノール含有製剤の1つの特定例は35%のM3U、約45%?約55%のNVP、約13%?約20%のMMA、約0.1%のTEGDMA、約0.6%の(VAZO-52)、及び約30%以下のデカノールを含む。 本NVP含有先駆組成物は、離型助剤、例えば、親水性シリコーン成分、ポリアルキレンオキシド成分、又はその組合せを含む離型助剤をも含み得る。 本NVP含有先駆組成物は、ヘキサノール、エトキシエタノール、イソプロパノール(IPA)、プロパノール、デカノール、シリコーン油、及びその組合せから成る群より選択される希釈剤をも含み得る。希釈剤は約10%?約30%(w/w)の量で存在できる。相対的に高濃度の希釈剤を有する組成物は、より低いイオノフラックス値、低減したモジュラス、上昇した伸び率、及び20秒より長い水のBUTを有すると思われる。 希釈剤含有のNVP含有先駆組成物は、メタクリレートホスホリルコリン-モノマー、例えば2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの単位を含む。MPCは、該組成物の約1%(w/w)?約15%(w/w)の量で存在し得る。例えば、本組成物が約2.5%のMPC、約5%のMPC、約7%のMPC、約10%のMPC、又は約12%のMPCを含むと、眼に適合性のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを製造できる。該組成物は、アルコールベースの希釈剤を含んでもよい。例えば、約5%のデカノールを含む組成物もある。 上述した実施態様をはじめとする本NVP含有組成物の実施態様は、(3-メタクリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)プロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン(SiGMA)をも含む。」 オ 「【0039】 〔実施例〕 以下の実施例は本発明の特定の局面及び利点を説明するが、それによって本発明は限定されないと解釈すべきである。 実施例では以下の周知の化学薬品について言及するが、時には、以下に示すその略語で表すこともある。 … VMA:N-ビニル-N-メチルアセトアミド(真空下で新たに蒸留した) M3U:M3-U;α-ω-ビス(メタクリロイルオキシエチルイミノカルボキシエチルオキシプロピル)-ポリ(ジメチルシロキサン)-ポリ(トリフルオロプロピルメチルシロキサン)-ポリ(ω-メトキシ-ポリ(エチレングリコール)プロピルメチルシロキサン);ジメタクリロイル シリコーン含有マクロマー 以下の実施例で使うM3Uは下記式で表され、式中、nは121、mは7.6、hは4.4、Mn=12,800、かつMw=16,200である。 【0040】 【化3】 【0041】 … VAZO-52:2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルペンタンニトリル)(V-52;熱開始剤) … PDMS-co-PEG:ポリジメチルシロキサンと75%のPEGを含有するPEGとのブロックコポリマーで、600のMW(GelestのDBE712) … NVP:1-ビニル-2-ピロリドン(真空下で新たに蒸留した) HOB:2-ヒドロキシルブチルメタクリレート FM0411M:FM-0411M;メタクリロイルオキシエチルイミノカルボキシエチルオキシプロピル-ポリ(ジメチルシロキシ)-ブチルジメチルシラン FM0411M:以下の実施例で使用したものは下記式で表され、式中、n=13?16、Mwは1500。 【0042】 【化4】 【0043】 … TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート … MMA:メチルメタクリレート … Pr:プロパノール … UV416:2-(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリレート M3U Tint:M3U(%w/w)中のβCu-フタロシアニンの分散系。Cu-フタロシアニンは、BASFからHeliogenBlue K7090として入手可能である。 【0044】 〔実施例1〕 シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの製作: 実施例2?55で示す化合物を秤量し、混合して混合物を形成した。混合物を0.2?5.0ミクロンのシリンジフィルターでろ過してビンに入れた。混合物を約2週間まで貯蔵した。この混合物が重合可能なシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ先駆組成物と解釈する。実施例2?55では、各化合物のそれぞれの質量パーセント(質量ベースで質量について表される;w/w)に加え、単位量を与えた。最終的なシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズでは、化合物の重量パーセントは、先駆組成物中に存在する単位量に密接に関係する。 ある体積の先駆組成物を雌型の無極性樹脂の型部材、例えばポリプロピレンの型部材のレンズ画定面と接触させて置いた。無極性樹脂の雄型の型部材、例えばポリプロピレンの雄型部材を前記雌型部材と接触させて置いて、先駆組成物を含有するコンタクトレンズ形状のキャビティを含むコンタクトレンズ型を形成した。 コンタクトレンズ型を窒素フラッシュしたオーブン内に置いて先駆組成物を熱的に硬化させた。コンタクトレンズ型を約80℃の温度に約1時間以上さらした。 先駆組成物の重合後、コンタクトレンズ型を離型し、その抽出される前の重合したシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ生成物を型部材の一方から脱レンズした。この抽出される前の脱レンズしたレンズ生成物を秤量してその乾燥質量を決定した。 この脱レンズしたレンズ生成物を抽出し、該レンズ生成物を複数体積のアルコール(例えばエタノール)と脱イオン水に接触させることによって水和させた。水和したシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを秤量してからオーブン内で脱水させ、脱水したシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの乾燥質量を再び秤量した。 本明細書で述べるように、接触角(動的接触角と静的接触角を含む)、酸素透過性、イオノフラックス、モジュラス、伸び率、引張り強さ、含水量などの特性を決定した。水和したシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの水のブレイクアップ時間を測定することによって、該レンズの湿潤性も調べた。コンタクトレンズを人の目に1時間、3時間、又は6時間以上置いてから臨床的な評価を行う予製(dispensing)研究の際に、眼の適合性についてさらに調べた。 … 【0151】 〔実施例39〕 以下の指定量の化合物を混合及びろ過することによって、かつ実施例1で述べたように、重合可能なシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ先駆組成物を得た。 【0152】 【0153】 この製剤から得られたシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは眼に許容し得る表面湿潤性を有した。これらコンタクトレンズは約55%の平衡含水量、約7のイオノフラックス、約34°の静的接触角、約65°の前進接触角、約50°の後退接触角、約0.6MPaのヤングモジュラス、約238%の伸び率、及び約109のDkを有した。これらヒドロゲルコンタクトレンズは23.6±0.1%の抽出可能物量を有した。 … 【0157】 〔実施例41〕 以下の指定量の化合物を混合及びろ過することによって、かつ実施例1で述べたように、重合可能なシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ先駆組成物を得た。 【0158】 【0159】 この製剤から得られたシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは眼に許容し得る表面湿潤性を有した。これらコンタクトレンズは約55%の平衡含水量、約6のイオノフラックス、約35°の静的接触角、約73°の前進接触角、約49°の後退接触角、約0.3MPaのヤングモジュラス、約265%の伸び率、及び約98のDkを有した。 【0160】 〔実施例42〕 以下の指定量の化合物を混合及びろ過することによって、かつ実施例1で述べたように、重合可能なシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ先駆組成物を得た。 【0161】 【0162】 この製剤から得られたシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは眼に許容し得る表面湿潤性を有した。これらコンタクトレンズは約46%の平衡含水量、約4のイオノフラックス、約40°の静的接触角、約78°の前進接触角、約54°の後退接触角、約0.4MPaのヤングモジュラス、約219%の伸び率、及び約129のDkを有した。これらヒドロゲルコンタクトレンズは50.2±0.8%の抽出可能物量を有した。 … 【0175】 〔実施例47〕 以下の指定量の化合物を混合及びろ過することによって、かつ実施例1で述べたように、重合可能なシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ先駆組成物を得た。 【0176】 【0177】 この製剤から得られたシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは眼に許容し得る表面湿潤性を有した。これらコンタクトレンズは約60%の平衡含水量、約11のイオノフラックス、約46°の静的接触角、約102°の前進接触角、約51°の後退接触角、約0.2MPaのヤングモジュラス、約150%の伸び率、及び約0.2の引張り強さを有した。」 (2)甲A2に記載された発明 特に、実施例47からみて、甲A2には、少なくとも以下の引用発明A2が記載されていると認められる。 (上記(1)エの記載から、実施例47の「Pr」は反応に関与しないものと認められる。また、「FMM」は、甲A1の「FMM」を参照し、上記(1)オの「FM0411M」と、「PC」は上記(1)ウの「MPC」と解した。「HOP」は「HOB」の誤記と解した。「Mix4」は、甲A2実施例59において架橋剤が列記されており、該実施例中の「MIX#3:1:1比のTEGDMAとTEGDVE」(【0204】)との記載から、何らかの架橋剤と解し、反応に関与する成分とした。「V-52」は重合開始剤であるが、本件明細書【0090】の「例えば、本発明の生物医学装置は、反応性成分及び希釈剤を重合開始剤と混合し、適切な条件で硬化させて、…」との記載からみて、重合開始剤は反応性成分とは認識されないものとみて、反応性成分とはしなかった。) 「M3U27.2質量%、FMM10.1質量%、NVP46.3質量%、MPC6.0質量%、IBM6.0質量%、HOB4.1質量%、Mix4 0.4質量%を含む反応混合物から形成され、反応混合物は3-メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)を含まない、シリコーンヒドロゲル。」 (3)本件訂正発明1について ア 対比 引用発明A2における「質量%」は、本件訂正発明1のように「重量%」と読み替えて差し支えないものと認められる。 引用発明A2における「NVP」は本件訂正発明1における「N-ビニルピロリドン」に相当する。 「FMM」及び「M3U」は「モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-ブチル末端ポリジメチルシロキサン、モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-メチル末端ポリジメチルシロキサン、α-(2-ヒドロキシ-1-メタクリルオキシプロピルオキシプロピル)-ω-ブチル-オクタメチルペンタシロキサンもしくはこれらの混合物」あるいは「N-(2,3-ジヒドロキシプロパン)-N'-(プロピルテトラ(ジメチルシロキシ)ジメチルブチルシラン)アクリルアミド」ではないので本件訂正発明1の「シリコーン含有成分」とはいえない。 「HOB」は「2-ヒドロキシエチルメタクリレート」もしくは「2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート」ではないので本件訂正発明1の「ヒドロキシル含有成分」とはいえない。 「MPC」及び「IBM」は「2-(2'-ヒドロキシ-5-メタクリルイルオキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド、エチレングリコールジメタクリレート」ではないので本件訂正発明1の「反応混合物中の補助成分」とはいえない。 「Mix4」はどのような化合物が含まれるのか明らかでないので、本件訂正発明1のどの成分とも認定できない。 そうすると、本件訂正発明1と引用発明A2とは、以下の点で一致する。 「(a)46.3重量%のN-ビニルピロリドンを含む反応混合物から形成され、 前記反応混合物は、3‐メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)を含まない、 シリコーンヒドロゲル。」 そして、両者は、少なくとも以下の点で相違する。 相違点A2:(b)「シリコーン含有成分」において、本件訂正発明1は、(a)成分が「N-ビニルピロリドン」の場合、「モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-ブチル末端ポリジメチルシロキサン、モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-メチル末端ポリジメチルシロキサン、α-(2-ヒドロキシ-1-メタクリルオキシプロピルオキシプロピル)-ω-ブチル-オクタメチルペンタシロキサンもしくはこれらの混合物」であるのに対し、引用発明A1では「FMM」及び「M3U」である点。 イ 判断 甲A2明細書【0011】には、「シリコーン含有成分の有用な一分類は…。別の例はmPDMS(モノメタクリルオキシプロピル-末端化モノ-n-ブチル末端化ポリジメチルシロキサン)である。」(上記(1)イ)との記載がある。この「mPDMS(モノメタクリルオキシプロピル-末端化モノ-n-ブチル末端化ポリジメチルシロキサン)」は、本件訂正発明1でいう「モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-ブチル末端ポリジメチルシロキサン」といえる。 しかし、甲A2明細書からは、引用発明A2の「FMM」及び「M3U」に代えて、あるいは、これらに加えて「mPDMS」を用いてシリコーンヒドロゲルを構成することについての記載ないし示唆は見いだせない。あるいは、「mPDMS」を引用発明A2における「シリコーン含有成分」として用いることができたとしても、それによって、本件訂正発明1の物性である「少なくとも50%の含水量及び少なくとも80バーラーの酸素透過性を含む」シリコーンヒドロゲルを得ることができるか何ら明らかでない。また、そのような物性を得られることが本件出願前において周知の技術的事項であったということもできない。 このため、その余の相違点がいかなるものであっても、本件訂正発明1は、甲A2に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものということはできない。 (4)本件訂正発明2、6?10、25?28についての判断 本件訂正発明2、6?10、25?28は、本件訂正発明1を引用し、さらに限定を加えたものである。そして、上述のとおり、本件訂正発明1は、甲A2に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものということはできないことに鑑みると、本件訂正発明2、6?10、25?28についても、甲A2に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものともいうことはできない。 (5)まとめ 以上のことから、本件訂正発明は、甲A2に記載された発明であるとも、甲A2に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものともいうことができない。 よって、申立人Aが主張する、甲A2に基づく申立ての理由A4?A7には理由がない。 7 申立ての理由A6?A7について(甲A3に基づくもの) (1)甲A3の記載事項 甲A3は英文で記載されているところ、そのファミリー文献である特表2012-530279号公報を参考にして引用する。 ア 「バイオメディカルデバイス 発明の背景 1.技術分野 本発明は一般に眼科用レンズなどのバイオメディカルデバイスに関する。 2.関連技術の説明 コンタクトレンズなどのバイオメディカルデバイスは、硬質ガス透過性材料、軟質エラストマー材料及びソフトヒドロゲル材料を含む様々なポリマー材料から作られている。現在販売されてコンタクトレンズの多くは、ソフトヒドロゲル材料から作られている。ヒドロゲルは水を吸収しそして保持する架橋ポリマー系であって、通常、10?80質量%、特に20?70質量%の水を吸収しそして保持する。ヒドロゲルレンズは、一般に、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-ビニル-2-ピロリドン、グリセロールメタクリレート及びメタクリル酸などの少なくとも1種の親水性モノマーを含むレンズ形成性モノマー混合物を重合することによって調製される。シリコーンヒドロゲルレンズの場合には、シリコーン含有モノマーは、親水性モノマーと共重合される。水分含量に関係なく、ヒドロゲル及び非ヒドロゲルシロキシ及び/又はフッ素化コンタクトレンズの両方は比較的疎水性で非湿潤性の表面を有する傾向がある。 コンタクトレンズなどのバイオメディカルデバイスの分野において、たとえば、酸素透過性、湿潤性、材料強度及び安定性などの様々な物理的及び化学的特性は、まさに、使用可能なコンタクトレンズを提供するために注意深くバランスさせなければならない幾つかの要素である。たとえば、角膜は大気との接触から酸素供給を受けるので、良好な酸素透過性は特定のコンタクトレンズ材料にとって重要な特性である。もしレンズが十分な湿潤可能性を有しなければ、それが潤滑されず、それゆえ目に快適に装着できない点で湿潤性も重要である。したがって、最適なコンタクトレンズは少なくとも優れた酸素透過性及び優れた涙液湿潤性の両方を有する。 シリコーンレンズとの関係での1つの問題はレンズ上に疎水性領域を形成するシリコーン鎖が表面に現れることである。このことは湿潤性、眼運動及び使用者の快適性に悪影響を及ぼすであろう。 この問題を回避するための1つの方法はシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの表面をプラズマコーティングなどの親水性コーティングでコーティングすることによる方法である。 生体適合性でありながら、体との長期の接触のために酸素透過性、潤滑性及び湿潤性などの適切な物理的及び化学的特性を示すコンタクトレンズなどの改良されたバイオメディカルデバイスを提供することが望まれている。また、簡単でコスト効率の高い様式で容易に製造することができる、改良されたバイオメディカルデバイスを提供することも望まれている。」(1頁1行?2頁15行) イ 「下記の実施例は当業者が本発明を実施することができるように提供されるものであって、本発明の単なる例示である。実施例は特許請求の範囲に規定されるとおりの発明の範囲を限定するものと解釈されるべきでない。 実施例において、下記の略語を使用する。 DMA:N,N-ジメチルアクリルアミド HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート NVP:N-ビニル-2-ピロリドン … TRIS-MA:トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート … VazoTM64:アゾビスイソブチロニトリル(AIBN) … CIX-4:以下の構造を有する化合物 TEGDMA:以下の構造を有する化合物 M1-MCR-C12:以下の構造を有する化合物 上式中、nは平均で12である。 … 例50?55 親水性ポリマー(ポリDMA-コ-mPEG 1000マクロRAFT試薬)の調製 例53では、マグネティックスターリングバーを装備した25OmL1つ口丸底フラスコに、392mg(0.891mmol)のエチルα-ドデシルトリチオカルボニルフェニルアセテート(EDTCPA)、43mLのDMA(41.4g、0.4173moles)、4.629gのモノメトキシポリエチレングリコール1000メタクリレート(mPEG)(4.21mmol)及び100mLの無水1,4-ジオキサンを添加した。これらの成分を完全に混合した後に、1,4-ジオキサン中の8.59mM AIBNの溶液(1.41mg/mL)1mLを、慎重にフラスコにピペットで入れた。丸底フラスコを、適切なサイズのゴム栓で閉止し、フラスコの内容物を、その後、1時間、乾燥窒素ガスをバブリングすることによりパージした。反応フラスコの内容物を、18時間、油浴で60℃に加熱し、室温まで冷却し、激しく攪拌しながら、2500mLのエーテルに滴下し沈殿させた。その後、ポリマー生成物をろ過し、真空下で乾燥して残留エーテルを除去した。 … 例56?58及び比較例C?E 例53のポリ(DMA-コ-mPEG)親水性ポリマーを用いたバイオメディカルデバイスの調製 例56?58及び比較例C?Eの各配合物の量及び成分を下記の表5に示す。 例39?49と実質的に同様にしてコンタクトレンズ及びレンズ平板を調製した。材料の酸素透過係数を得るために、レンズ平板をキャスティングした。水含有分、弾性率、引張強度、%伸び率及び引裂強度を決定するためにレンズサンプルをキャスティングした。 物性 例56?58及び比較例C?Eの物性を下記の表6に示す。 データから判るとおり、ポリ(DMA-コ-mPEG)ポリマーを含む例56?58のバイオメディカルデバイスは、比較例C?Eのバイオメディカルデバイスと比較して、高い含水率、表面湿潤性(前進接触角及びヒステリシス)、潤滑性(摩擦係数を用いて測定して)、及び、低い弾性率を有した。」(36頁1行?61頁5行) (2)甲A3に記載された発明 特に、例56からみて、甲A3には、少なくとも以下の引用発明A3が記載されていると認められる。 (例56の「ヘキサノール」は反応に関与しないものと認められる。「Darocure 1173」は重合開始剤であるが、本件明細書【0090】の「例えば、本発明の生物医学装置は、反応性成分及び希釈剤を重合開始剤と混合し、適切な条件で硬化させて、…」との記載からみて、重合開始剤は反応性成分とは認識されないものとみて、反応性成分とはしなかった。表5では、各成分の配合量は「部」として記載されているが、その余の実施例の記載において、各成分の配合量は「g」で示されているものが大多数であるから、この「部」は「質量部」と解した。) 「55.3%の含水量及び90.0バーラーの酸素透過性を含むシリコーンヒドロゲルであって、 TRIS-MA24.3質量%、NVP36.2質量%、CIX-4 0.3質量%、MI-MCR-C12 22.3質量%、TEGDMA3.2質量%、例53の化合物5.0質量%、HEMA8.7質量%を含む反応混合物から形成される、シリコーンヒドロゲル。」 (3)本件訂正発明1について ア 対比 引用発明A3の「TRIS-MA」は本件訂正発明1でいう「TRIS」である。そうすると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。 相違点A3:本件訂正発明1は、反応混合物が「3‐メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)を含ま(ない)」ものであるのに対し、引用発明A3はこれを含む点。 イ 判断 引用発明A3は「TRIS-MA」を含むことでシリコーンヒドロゲルを製成するものであり、これを含まずに製成することは想定されない。 このため、その余の相違点がいかなるものであっても、本件訂正発明1は、甲A3に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものということはできない。 (4)本件訂正発明2、6?10、25?28についての判断 本件訂正発明2、6?10、25?28は、本件訂正発明1を引用し、さらに限定を加えたものである。そして、上述のとおり、本件訂正発明1は、甲A3に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものということはできないことに鑑みると、本件訂正発明2、6?10、25?28についても、甲A3に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものともいうことはできない。 (5)まとめ 以上のことから、本件訂正発明は、甲A3に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものということができない。 よって、申立人Aが主張する、甲A3に基づく申立ての理由A6?A7には理由がない。 8 申立ての理由A6?A7について(甲A4に基づくもの) (1)甲A4の記載事項 ア 「【請求項1】 (A)溶剤を除いた全組成物の重量に対して少なくとも10重量%の少なくとも一種の式Iに示すシリコーン含有モノマー、 (B)溶剤を除いた全組成物の重量に対して少なくとも10重量%の3-メタクリロイルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、 (C)N-ビニルピロリドン、及び、 (D)少なくとも一種の他の非イオン性親水性モノマー、 の反応生成物を含む組成により形成され、(A)と(B)の総量は溶剤を除いた全組成物の重量に対して少なくとも20重量%であり、且つ、該N-ビニルピロリドン(NVP)の量は該反応生成物においてポリビニルピロリドン(PVP)ホモポリマーが含まれる量であることを特徴とする、コンタクトレンズ。 【化1】 式Iにおいて、nは1?3、mは9?15、各aはそれぞれ独立に炭素数1?4のアルキル基、及び各bはそれぞれ独立に炭素数1?4のアルキル基である。」 イ 「【0001】 本発明は、シリコーン含有のモノマーから作られるヒドロゲルコンタクトレンズに関する。 … 【0012】 我々は、ポリビニルピロリドンをポリマーとして反応混合物中に導入しなくとも可湿性のシリコーンヒドロゲルのコンタクトレンズを製造できることを見出した。」 ウ 「【0049】 例1?10 コンタクトレンズを表1に示す組成を有する様々なモノマー混合物を反応させて作製した。すべてのコンタクトレンズにおいて、エタノールと酢酸エチルの50:50混合物を溶剤として用いた。 【0050】 室温において反応物と溶剤を混合し、硬化性混合物を得た。その混合物をコンタクトレンズの型に入れ、窒素雰囲気下で2段階の硬化を経て硬化させた。その硬化は、窒素で1時間パージし、次いでまずはじめに、45℃/分の昇温速度で55℃まで加熱し、次いでその温度で8時間半、硬化させた。その後、45℃/分の昇温速度で124℃まで加熱し、次いで124℃で1時間硬化させた。オーブン内の酸素濃度は100ppm未満が好ましく、50ppm未満がより好ましい。 【0051】 【表1】 … 【0067】 例11?13 例11?13は、共溶剤として同量のエタノールとデカノールを用いた際の組成物におけるメタクリル酸の影響を示したものである。 【0068】 コンタクトレンズは表3に示す組成で例1?10と同様に作製した。 【0069】 【表3】 … 【0073】 例14?37 さらに、表5に示す組成を有する様々なモノマー混合物を反応させてコンタクトレンズを作製した。上記例1?10と同様の方法でコンタクトレンズを作製し、得られたコンタクトレンズについて同様の測定を行った。例33?37において、湿潤したレンズの直径とベースカーブはOptimecJCFタイプで測定した。 【0074】 【表5】 【0075】 表中、(C)は比較例である。例37は2.91%のイソボルニルメタクリレート(IBoMA)を含む。」 (2)甲A4に記載された発明 甲A4には、特許請求の範囲の規定からみて以下の引用発明A4aが、実施例及び比較例からみて以下の引用発明A4bが、それぞれ記載されていると認められる。なお、各実施例及び比較例における最小のTris含有値を示す例は例14及び25であり、これを参考に引用発明A4を認定した。 (「重合開始剤(AZBN)」は、本件明細書【0090】の「例えば、本発明の生物医学装置は、反応性成分及び希釈剤を重合開始剤と混合し、適切な条件で硬化させて、…」との記載からみて、重合開始剤は反応性成分とは認識されないものとみて、反応性成分とはしなかった。実施例及び比較例において、各成分の配合量は「%」として記載されているが、甲A4特許請求の範囲及び発明の詳細な説明において、配合量は一貫して「重量%」と記載されているから、この「%」は「重量%」と解した。) 「3-メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランを少なくとも10重量%含む反応混合物から形成される、ヒドロゲル。」(引用発明A4a) 「Trisを少なくとも18.0重量%含む反応混合物から形成される、ヒドロゲル。」(引用発明A4b) (3)本件訂正発明1について ア 対比 引用発明A4bの「Tris」は本件訂正発明1でいう「3‐メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)」である。そうすると、本件訂正発明1と、引用発明A4a及び4bとは、少なくとも以下の点で相違する。 相違点A4:本件訂正発明1は、反応混合物が「3‐メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)を含ま(ない)」ものであるのに対し、引用発明A4a及び4b共これを含む点。 イ 判断 引用発明A4a及び4bは「3-メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン」、「Tris」を含むことでシリコーンヒドロゲルを製成するものであり、これを含まずに製成することは想定されない。 このため、その余の相違点がいかなるものであっても、本件訂正発明1は、甲A4に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものということはできない。 (4)本件訂正発明2、6?10、25?28についての判断 本件訂正発明2、6?10、25?28は、本件訂正発明1を引用し、さらに限定を加えたものである。そして、上述のとおり、本件訂正発明1は、甲A4に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものということはできないことに鑑みると、本件訂正発明2、6?10、25?28についても、甲A3に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものともいうことはできない。 (5)まとめ 以上のことから、本件訂正発明は、甲A4に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものということができない。 よって、申立人Aが主張する、甲A4に基づく申立ての理由A6?A7には理由がない。 9 申立ての理由A6?A7について(甲A5に基づくもの) (1)甲A5の記載事項 ア 「本発明の新規なハイドロゲルは、水溶性又は水膨潤性重合体、すなわち親水性重合体(Ap)を形成可能な水溶性単量体(As)と、ジ-又はトリ-オレフイン性シロキサン誘導体マクロマー(B)、例えば両末端が重合性ビニル基である長い直鎖のポリシロキサン鎖からなる化合物との溶液中又はバルク中でのフリーラジカル共重合によつて合成する。この方法において、三次元高分子網状構造が二つのタイプのセグメントから形成され、その各々がこの系の際立つた物理的性質に寄与している。A-セグメントは水溶性に寄与し、シロキサンB-セグメントは柔軟性架橋を形成し、酸素透過性と組織適合性を改良する。各化合物の相対比を変化させる事により広い範囲の機械的性質、拡散性を得る事が可能である。例えばAとBとの適切な相対比を使う事により優れた強度と伸長度及び強靱性を持ち、その上重合体とほぼ同重量の水を吸収可能な重合体を得る事が出来る。これは従来のハイドロゲルと著しい相異で、従来のものの架橋は短く、非弾性で乾燥状態では固くもろいのと対照的である。」(10頁左上欄12行?右上欄13行) イ 「吸水率の広い範囲及び強度ならびに伸縮性に加えてそれらの良好な組織適合性及び酸素透過性のため、本発明ハイドロゲルは特に温血動物における筋肉内及び皮下の移植組織として、またはコンタクトレンズ材料としての使用に特に適する。同じ理由で、本発明ハイドロゲル材料は、他の比較的弱いハイドロゲル材料を用いると必要な基材支持をすることなく血管または体外側路を作ることもできる。」(16頁左下欄末行?右下欄8行) ウ 「以下の例は説明の目的だけで提供されたものであり、いかなる意味でも本発明の性質及び範囲を限定するものではない。 実施例 1 シロキサンマクロマーの調製 機械的攪拌器、温度計、冷却器及び窒素導入管を備えた1000ml-三頸フラスコに、ポリジメチルシロキサンジオール(ダウコーニング:Dow Corning,Q4-3667,分子量2400)480g(0.2モル)及びイソホロンジイソシアネート88.8g(0.4モル)を充填する。トリエチルアミン触媒0.2gを加えた後、混合物をイソシアネート(NCO)含有量が2.78%(滴定による、理論上2.95%)に達するまで、5時間60℃にて窒素化にて攪拌する。 このポリジメチルシロキサンジイソシアネート初期重合体500gを2-ヒドロキシエチルメタクリレート125gで希釈し、メタクリレート部分で末端が覆われたシロキサン初期重合体(=シロキサンマクロマー)の87.3%2-ヒドロキシエチルメタクリレート溶液を得る。該溶液を、イソシアネート(NCO)帯が前記溶液から得られる赤外線スペクトルから消失するまで室温で攪拌する。 実施例 2 実施例1で調製したシロキサンマクロマー溶液100gに第三ブチルパーオクテート0.1gを加える。マクロマーの2-ヒドロキシエチルメタクリレート溶液から30分間ガス抜きし、それから直径1/16インチ(1.588mm)のシリコンコードスペーサーを備えた“テフロン”塗布アルミニウムシート間に流し込む。シート金型を3時間80℃にて硬化し、そして100℃にて1時間の後硬化を行う。冷後、半透明の非常に柔軟な重合シート(厚さ1.5mm)が得られる。 … 実施例 5 シロキサンマクロマーの調製 実施例1の方法に従つて、別のシロキサンマクロマーを、まずポリジメチルシロキサンジオール(ダウ・コーニング社のQ4-3557,分子重800)160g(0.2モル)及びイソホロンジイソシアネート88.8g(0.4モル)を反応させることにより調製する。該混合物をNCO含量が6.45%(中和による、理論上6.74%)に達するまで窒素下50℃にて5時間攪拌する。 シロキサン ジイソシアネート初期重合体200gを2-ヒドロキシエチルメタクリノート50gで希釈し、NCO帯が赤外線スペクトル中消失するまで室温にて攪拌する。 … 実施例 7 実施例2の方法に従って、実施例5のシロキサンマクロマー75g及びN-ビニルピロリドン50gを混合して得られるシロキサンマクロマーの48.4%N-ビニルピロリドン及び2-ヒドロキシエチルメタクリレート溶液を硬化することによりシートを製造する。 … 実施例2-4,6,7,9及び11で製造された種々のシートを乾燥及び水と平衡した湿潤(=膨潤)状態の引張強さ及び伸び、ならびに水及びエタノール中の膨潤度について測定する。 これらの測定の結果を第I表に挙げる。水及びアルコール中の膨潤度(DS)は、平衡が確められるまで水またはアルコール中の所定重量のポリマーを膨潤させ、膨潤したポリマーを秤量しそして乾燥試料を再秤量することにより測定する。膨潤度(DS)は次のように決定される: 膨潤したビーズの重量-乾燥ポリマーの重量 DS=────────────────────×100 乾燥ポリマーの重量 (1) メタクリレート部分で末端が覆われたシロキサンマクロマー (2)2-ヒドロキシエチルメタクリレート (3) N-ビニルピロリドン (4) 酢酸ビニル 」(19頁左上欄1行?21頁上欄) (2)甲A5に記載された発明 甲A5には、実施例7からみて以下の引用発明A5が記載されていると認められる。 (実施例において、各成分の配合量は「%」として記載されているが、甲A5特許請求の範囲及び発明の詳細な説明において、配合量は「重量%」と記載されているから、この「%」は「重量%」と解した。実施例5中、「2-ヒドロキシエチルメタクリノート」とあるのは「2-ヒドロキシエチルメタクリレート」の誤記と解した。) 「メタクリレート部分で末端が覆われたシロキサンマクロマーQ_(4)-3557 48.4重量%、2-ヒドロキシエチルメタクリレート1.6重量%、N-ビニルピロリドン50重量%を含む反応混合物から形成され、反応混合物は3-メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)を含まない、ポリシロキサンハイドロゲル。」 (3)本件訂正発明1について ア 対比 引用発明A5の「ポリシロキサンハイドロゲル」は、本件訂正発明1の「シリコーンヒドロゲル」と同義である。 引用発明A5における「メタクリレート部分で末端が覆われたシロキサンマクロマーQ_(4)-3557」は、「モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-ブチル末端ポリジメチルシロキサン、モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-メチル末端ポリジメチルシロキサン、α-(2-ヒドロキシ-1-メタクリルオキシプロピルオキシプロピル)-ω-ブチル-オクタメチルペンタシロキサンもしくはこれらの混合物」あるいは「N-(2,3-ジヒドロキシプロパン)-N'-(プロピルテトラ(ジメチルシロキシ)ジメチルブチルシラン)アクリルアミド」ではないので本件訂正発明1の「シリコーン含有成分」とはいえず、「2-(2'-ヒドロキシ-5-メタクリルイルオキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド、エチレングリコールジメタクリレート」でもないので本件訂正発明1の「反応混合物中の補助成分」とはいえない。 そうすると、本件訂正発明1と引用発明A5とは、以下の点で一致する。 「(a)50重量%のN-ビニルピロリドンと、 (c)2-ヒドロキシエチルメタクリレートと、を含む反応混合物から形成され、 前記反応混合物は、3‐メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)を含まない、 シリコーンヒドロゲル。」 そして、両者は、少なくとも以下の点で相違する。 相違点A5:(b)「シリコーン含有成分」において、本件訂正発明1は、(a)成分が「N-ビニルピロリドン」、(c)成分が「2-ヒドロキシエチルメタクリレート」の場合、「モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-ブチル末端ポリジメチルシロキサン、モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-メチル末端ポリジメチルシロキサン、α-(2-ヒドロキシ-1-メタクリルオキシプロピルオキシプロピル)-ω-ブチル-オクタメチルペンタシロキサンもしくはこれらの混合物」であるのに対し、引用発明A5では、これに相当するものが用いられていない点。 イ 判断 甲A5明細書からは、引用発明A5において、「モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-ブチル末端ポリジメチルシロキサン、モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-メチル末端ポリジメチルシロキサン、α-(2-ヒドロキシ-1-メタクリルオキシプロピルオキシプロピル)-ω-ブチル-オクタメチルペンタシロキサンもしくはこれらの混合物」に相当する化合物を加えてシリコーンヒドロゲルを構成することについての記載ないし示唆は見いだせない。 このため、その余の相違点がいかなるものであっても、本件訂正発明1は、甲A5に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものということはできない。 (4)本件訂正発明2、6?10、25?28についての判断 本件訂正発明2、6?10、25?28は、本件訂正発明1を引用し、さらに限定を加えたものである。そして、上述のとおり、本件訂正発明1は、甲A5に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものということはできないことに鑑みると、本件訂正発明2、6?10、25?28についても、甲A5に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものともいうことはできない。 (5)まとめ 以上のことから、本件訂正発明は、甲A5に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものということができない。 よって、申立人Aが主張する、甲A5に基づく申立ての理由A6?A7には理由がない。 10 申立人Bの異議申立ての理由について 申立人の異議申立ての理由は、要するに以下のとおりである。 (なお、インターネットサイトから印刷されたものの印刷日は、平成30年5月24日提出の上申書での釈明に基づく。) 甲第1号証:国際公開第2011/041523号 (甲第1号証訳文として特表2013-506875号公報) 甲第2号証:CooperVision社製品紹介サイト「バイオフィニティ」 https://coopervision.jp/contact-lenses/biofinithy/lensdata (平成30年5月7日印刷) 甲第3号証:Alcon社ご利用ガイドサイト 「コンタクトレンズの「酸素透過率」(DK/L)とは」 https://alcon-contact.jp/howto/glossary/dk/ (平成30年4月20日印刷) 甲第4号証:T.Saegusa, et al.,"One-shot block copolymerization", Macromolecular Symposia, 1990年2月 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1002/masy.19900320103 (平成30年4月14日印刷) 甲第5号証:上垣外正己他、「ラジカル重合」、ネットワークポリマー、 30(5)2009、234-249 甲第6号証:日本化学会編、「新実験化学講座19 高分子化学I」第2刷、 98頁、丸善株式会社、昭和55年11月20日 甲第7号証:国際公開第2004/063795号 甲第8号証:Chemical Book製品カタログサイト 「N-ビニル-N-メチルアセトアミド」 http://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB7420450.htm (平成30年4月20日印刷) 甲第9号証:特表平11-502949号公報 甲第10号証:特開平3-179422号公報 甲第11号証:特開2008-20918号公報 甲第12号証:協和界面化学株式会社サイト「接触角の種類と測定方法」 http://www.face-kyowa.co.jp/science/literature/contactangle03/ (平成30年4月27日印刷) (以下、甲第1?12号証を「甲B1」?「甲B12」という。) ・申立ての理由B1 本件請求項1?6、8?10及び24?28に係る発明は、甲B1に記載された発明、及び、甲B2?B8、B10に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易になし得た発明である。 ・申立ての理由B2 本件請求項7に係る発明は、甲B1に記載された発明、及び、甲B2?B8、B10、B11に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易になし得た発明である。 11 申立ての理由B1及びB2について (1)本件訂正発明1について 甲B1は甲A1であるから、甲B1に記載された発明は引用発明A1である。そして、本件訂正発明1と甲A1に記載された発明との間には、上記5(3)アで示した相違点A1-1が存在する。 そして、甲B2?B12のいかなる記載を参照しても、引用発明A1の「FMM」及び「SiGMA」に代えて、あるいは、これらに加えて「モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-ブチル末端ポリジメチルシロキサン、モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-メチル末端ポリジメチルシロキサン、α-(2-ヒドロキシ-1-メタクリルオキシプロピルオキシプロピル)-ω-ブチル-オクタメチルペンタシロキサンもしくはこれらの混合物」を用いてシリコーンヒドロゲルを構成することについての記載ないし示唆は見いだせない。 このため、その余の相違点がいかなるものであっても、本件訂正発明1は、甲B1に記載された発明、及び、甲B2?B12に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たものということはできない。 (2)本件訂正発明2、6?10、25?28について 本件訂正発明2、6?10、25?28は、本件訂正発明1を引用し、さらに限定を加えたものである。そして、上述のとおり、本件訂正発明1は、甲B1に記載された発明、及び、甲B2?B12に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たものということはできないことに鑑みると、本件訂正発明2、6?10、25?28についても、甲B1に記載された発明、及び、甲B2?B12に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たものともいうことはできない。 (3)まとめ 以上のことから、本件訂正発明は、甲B1に記載された発明、及び、甲B2?B12に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得たものともいうことができない。 よって、申立人Aが主張する、甲B1?B8、B10、B11に基づく申立ての理由B1及びB2には理由がない。 12 両申立人の主張を併合した検討 甲A1?A7及び甲B1?B12を基に、両申立人の主張を併合して検討する。 本件訂正発明1の「(b)シリコーン含有成分」を含むことが明らかでない甲A1(甲B1)、甲A2、甲A5それぞれに記載された発明において、その余の甲A甲B各号証のいかなる記載を参照しても、該「(b)シリコーン含有成分」を用いることや、本件訂正発明1において含まないものと規定される「3‐メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)」を含む甲A3、甲A4それぞれに記載された発明において、その余の甲A甲B各号証のいかなる記載を参照しても、該「…(TRIS)」を含有しないものとすることは、当業者が容易に想到し得ることということはできず、更には「少なくとも50%の含水量及び少なくとも80バーラーの酸素透過性を含む」という物性まで具備するものとすることについても、同様に当業者が容易に想到し得たことということはできない。 以上のことから、本件訂正発明は、甲A1?A7、及び、甲B1?B12の各々に記載されたいずれの技術的事項からも、当業者が容易に想到し得たものということはできない。 13 まとめ 以上のとおりであるから、本件特許異議申立てについては、いずれの異議申立ての理由にも理由がない。 第6 平成30年8月16日付け取消理由通知について 1 取消理由通知の概要 当審は、上記取消理由通知において、以下の取消理由を通知した。 「A (新規性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 B (進歩性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 C (実施可能要件)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 D (サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 E (明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。」 2 検討 (1)取消理由A、Bについて 取消理由A、Bは、上記甲A1をその証拠方法としたものである。そして、上記第5 5に示したとおりの理由であるから、取消理由A、Bの各々には理由がない。 (2)取消理由C、Dについて ア 取消理由C (ア)取消理由Cにおいて、当審は以下のとおり指摘した。 「1 本件発明には「前記遅反応性親水性成分の半減期の前記シリコーン含有成分の半減期に対する比が少なくとも2であり」という規定があるが、この規定を満たす実施例が見当たらない。」 この指摘に対し、本件訂正発明1は「(a)遅反応性親水性モノマー」と「(b)シリコーン含有成分」の各成分につき、上記第2 3(3)で述べたとおり具体的に明らかとなった。そして、この半減期の比の記載がなくとも、上記規定を満たす化合物の組合せは明らかになったといえる。 (イ)また、当審は以下のとおり指摘した。 「2 仮に、実施例が上記1の規定を満たすとしても、その他の構成を全て満たす実施例は、実施例3?5、22、23、25、26のみであり、この実施例において、遅反応性親水性モノマー、シリコーン含有成分、ヒドロキシル含有成分の組合せは、「NVP、mPDMS(及びOH-mPDMS)、HEMA(及びOH-mPDMS)又はGMMA」か、「VMA、SA2、HEMA」しかない。また、補助成分にしてもHEMA、TEGDMA、EGDMA、Norbloc、CGI819(「青HEMA」は単なる「HEMA」と解した。そうでないのであれば、「青HEMA」とは何か明確でない。)しかない。殊に、遅反応性親水性モノマー、シリコーン含有成分、ヒドロキシル含有成分の組合せは二通りしかなく、他の組合せとしてどのようなものによれば本件発明を実施できるのか判然とせず、上記第2の1に示したとおり、シリコーン含有成分とヒドロキシル含有成分自体も区別がつかないので、どのような化合物の組合せが、本件発明を実施したことといえるのか理解できない。」 この指摘のうち、「青HEMA」については、特許権者が平成30年11月19日に提出した意見書14頁15行?15頁8行で主張するとおり、「青色に着色されたHEMA」であり、単なる「HEMA」と解される。 その余の指摘については、上記第5 3で示したとおりである。 イ 取消理由D 取消理由Dにおいて、当審は以下のとおり指摘した。 「上記第3の2に示したとおり、本件発明に係る遅反応性親水性モノマー、シリコーン含有成分、ヒドロキシル含有成分、更には補助成分としてどのような化合物を選択すれば本件発明を実施できるのか判然としない。」 この指摘については、上記第5 4に示したとおりである。 ウ まとめ したがって、取消理由C、Dの各々には理由がない。 (3)取消理由Eについて ア 取消理由Eでは以下のとおり指摘した。 「1 請求項1には、シリコーン含有成分に関し、「任意で少なくとも1つのヒドロキシル含有基で置換されていてもよい」と、ヒドロキシル含有成分に関し、「少なくとも1つのヒドロキシル基で置換されている前記シリコーン含有成分…から選択される少なくとも1つ」と、それぞれ規定されている。このため、少なくとも1つのヒドロキシル基で置換されているシリコーン含有成分が、シリコーン含有成分とヒドロキシル含有成分のどちらに属するのか判然とせず、本件発明1の構成成分を確定できない。 併せて、請求項1には、反応混合物中の補助成分に関し、「前記遅反応性親水性モノマー及び前記シリコーン含有成分以外の全ての反応性成分が、前記反応混合物中の補助成分であり」と規定されているが、少なくとも1つのヒドロキシル基で置換されているシリコーン含有成分が、シリコーン含有成分とヒドロキシル含有成分のどちらに属するのか判然としないため、「少なくとも1つのヒドロキシル基で置換されているシリコーン含有成分」が、反応混合物中の補助成分か否か確定することができず、「反応混合物中の補助成分」そのものや、「反応混合物中の補助成分」の存在量の規定が、何を意味するのか理解できない。 したがって、本件発明1、及びこれを引用する本件発明2?28は、明確ではない。」 これに対し、本件訂正発明1は、「シリコーン含有成分」と「ヒドロキシル含有成分」、併せて「遅反応性親水性モノマー」の組み合わせにつき、 「 (i)前記成分(a)としてN-ビニルピロリドン;前記成分(b)としてモノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-ブチル末端ポリジメチルシロキサン、モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-メチル末端ポリジメチルシロキサン、α-(2-ヒドロキシ-1-メタクリルオキシプロピルオキシプロピル)-ω-ブチル-オクタメチルペンタシロキサンもしくはこれらの混合物;および前記成分(c)として2-ヒドロキシエチルメタクリレートもしくは2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート;または (ii)前記成分(a)としてN-ビニル-N-メチルアセトアミド;前記成分(b)としてN-(2,3-ジヒドロキシプロパン)-N’-(プロピルテトラ(ジメチルシロキシ)ジメチルブチルシラン)アクリルアミド;および前記成分(c)として2-ヒドロキシエチルメタクリレート のいずれか」と、 反応混合物中の補助成分につき、 「2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート、2-(2’-ヒドロキシ-5-メタクリルイルオキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド、並びにテトラエチレングリコールジメタクリレート及び/又はエチレングリコールジメタクリレート」となった。 したがって、この取消理由には理由がない。 イ 取消理由Eでは以下のとおり指摘した。 「2 請求項1には、「遅反応性親水性モノマーの速度論的半減期を有する少なくとも1つの遅反応性親水性モノマー」と規定されているが、この「遅反応性親水性モノマーの速度論的半減期を有する」とは技術的にどのようなことを意味しているのか判然としない。「速度論的半減期」とは何か、「遅反応性親水性モノマー」が「速度論的半減期を有する」とは該モノマーが具体的に何を有することを意味するのか、あるいはどのような物性値を有することを意味するのか、見当が付かない。 したがって、本件発明1、及びこれを引用する本件発明2?28は、明確ではない。」 これに対し、上記1で示したとおり、各成分が具体的な化合物名で規定された。このように「遅反応性親水性モノマー」並びにその余の成分が明確に規定されることとなったため、「速度論的半減期」がいかなるものであるとしても、本件訂正発明を明確に理解することができる。 したがって、この取消理由には理由がない。 ウ 取消理由Eでは以下のとおり指摘した。 「3 請求項1には、「遅反応性親水性モノマー」と規定されているが、この「遅反応性」とは技術的にどのようなことを意味しているのか判然としない。どのような反応性が「遅反応性」といえるのか、何ら明らかでない。 なお、発明の詳細な説明【0026】?【0029】を参照すると、 (1)「遅反応性基の例としては、(メタ)アクリルアミド…が挙げられる。… 速反応性基の例としては、…メタアクリルアミド…が挙げられる。…」とあり、一体何をもって「遅反応性」、「速反応性」といっているのか全く理解できず、 (2)「遅反応性親水性モノマーは、主に反応の終わりに重合するように選択される。」と記載されているが、これは、「反応の終わり」とはどのような時期か確定せず、いつどのように反応するのか理解できないし、遅反応性親水性モノマーが「反応の終わり」まで重合に関与しないことを意味するのか、反応開始から「反応の終わり」といえる時期まで重合に関与することを意味するのか、あるいは、何らかの別の技術的意味を有するのか、見当が付かない。 したがって、本件発明1、及びこれを引用する本件発明2?28は、明確ではない。」 この点は、上記イで検討したとおりであるから、この取消理由には理由がない。 エ 取消理由Eでは以下のとおり指摘した。 「4 請求項1には、「シリコーン含有成分の速度論的半減期を有する少なくとも1つのシリコーン含有成分」と規定されているが、この「シリコーン含有成分の速度論的半減期を有する」とは技術的にどのようなことを意味しているのか判然としない。「速度論的半減期」とは何か、「シリコーン含有成分」が「速度論的半減期を有する」とは該成分が具体的に何を有することを意味するのか、あるいはどのような物性値を有することを意味するのか、見当が付かない。 したがって、本件発明1、及びこれを引用する本件発明2?28は、明確ではない。」 この点は、上記イで検討したとおりであるから、この取消理由には理由がない。 オ 取消理由Eでは以下のとおり指摘した。 「5 請求項1には、「前記遅反応性親水性成分の半減期の前記シリコーン含有成分の半減期に対する比が少なくとも2であり」と規定されているが、この「前記遅反応性親水性成分」に関し、この記載以前に「遅反応性親水性成分」との文言はない。このため、この規定が何を意味するのか理解できない。 仮に、「遅反応性親水性成分」が何であるか明確であるとしても、「半減期」とは何か、半減期の「比」とは何か、これらは物理的にどのような意味があり、どのように定義されるのか、「比」が「少なくとも2」とは、具体的にどのような物性値を意味するのか、見当が付かない。 したがって、本件発明1、及びこれを引用する本件発明2?28は、明確ではない。」 この点は、上記イで検討したことと同旨により、この取消理由には理由がない。 カ 取消理由Eでは以下のとおり指摘した。 「6 請求項1には、「前記遅反応性親水性モノマー及び前記シリコーン含有成分以外の全ての反応性成分が、前記反応混合物中の補助成分であり、かつ、反応性成分100g当たり11?92mmolの量で存在し、前記補助成分が、反応性成分100g当たり38?76mmolの量で存在する」と規定されているが、「前記反応混合物中の補助成分であり、かつ、反応性成分100g当たり11?92mmolの量で存在し、前記補助成分が、反応性成分100g当たり38?76mmolの量で存在する」とは、一体何を意味するのか皆目見当が付かない。 したがって、本件発明1、及びこれを引用する本件発明2?28は、明確ではない。」 この点は、本件訂正発明1において、「反応性成分100g当たり38?76mmolの量で存在」で統一された。 したがって、この取消理由には理由がない。 キ 取消理由Eでは以下のとおり指摘した。 「7 請求項2には、「前記反応混合物が、遅反応性親水性モノマーの速度論的半減期を有する前記少なくとも1つの遅反応性親水性モノマーを、i)37?75重量%、又は、ii)37?70重量%、又は、iii)39?60重量%含む」と規定されているが、「前記反応混合物」が、「遅反応性親水性モノマーの速度論的半減期を有する前記少なくとも1つの遅反応性親水性モノマー」をi)?iii)のどの配合量で含むのか、この規定からは明確に定めることができない。 したがって、本件発明2、及びこれを引用する本件発明3?6、11?27は、明確でない。」 これに対し、本件訂正発明2は、「前記反応混合物が、遅反応性親水性モノマーの速度論的半減期を有する前記少なくとも1つの遅反応性親水性モノマーを、37?75重量%含む、請求項1に記載のシリコーンヒドロゲル。」となり、上記の明確でない点は解消した。 したがって、この取消理由には理由がない。 ク 取消理由Eでは以下のとおり指摘した。 「8 請求項6には、「前記含水量が、i)少なくとも55%、又は、ii)少なくとも60%、である」と規定されているが、「前記含水量」が、i)?ii)のどの量であるのか、この規定からは明確に定めることができない。 したがって、本件発明6、及びこれを引用する本件発明7?27は、明確でない。」 本件訂正発明6は、上記キと同旨により、上記の明確でない点は解消した。 したがって、この取消理由には理由がない。 ケ 取消理由Eでは以下のとおり指摘した。 「9 請求項7には、「前記酸素透過性が、i)少なくとも90バーラー、又は、ii)少なくとも100バーラー、である」と規定されているが、「前記酸素透過性」が、i)?ii)のどの量であるのか、この規定からは明確に定めることができない。 したがって、本件発明7、及びこれを引用する本件発明8?27は、明確でない。」 本件訂正発明7は、上記キと同旨により、上記の明確でない点は解消した。 したがって、この取消理由には理由がない。 コ 取消理由Eでは以下のとおり指摘した。 「10 請求項8には、「前記酸素透過性が、i)85?150バーラー、又は、ii)85?130バーラー、である」と規定されているが、「前記酸素透過性」が、i)?ii)のどの量であるのか、この規定からは明確に定めることができない。 したがって、本件発明8、及びこれを引用する本件発明9?27は、明確でない。」 本件訂正発明8は、上記キと同旨により、上記の明確でない点は解消した。 したがって、この取消理由には理由がない。 サ 取消理由Eでは以下のとおり指摘した。 「11 請求項10には、「i)80°未満、又は、ii)70°未満、の接触角を更に含み」と規定されているが、「接触角」が、i)?ii)のどの量であるのか、この規定からは明確に定めることができない。 したがって、本件発明10、及びこれを引用する本件発明11?27は、明確でない。」 本件訂正発明10は、上記キと同旨により、上記の明確でない点は解消した。 したがって、この取消理由には理由がない。 シ 取消理由Eでは以下のとおり指摘した。 「12 請求項11には、「前記少なくとも1つのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート又は(メタ)アクリルアミドモノマー及び前記遅反応性モノマーが、0.15?0.4のモル比を形成するモルパーセントで存在する」と規定されているが、この「0.15?0.4のモル比」とは、一体何の何に対するモル比なのか、皆目見当が付かない。 したがって、本件発明11、及びこれを引用する本件発明12?27は、明確でない。」 本件訂正により請求項11は削除されたため、この取消理由には理由がない。 ス 取消理由Eでは以下のとおり指摘した。 「13 請求項11には、「好ましくは」との文言に続く規定が存在するが、これは係る規定が本件発明11の構成の一部であるのか否か確定できない。 「好ましくは」、「更に好ましくは」、「最も好ましくは」といった構成要件を不明確にする文言で規定された本件発明16、18、20、24、25についても同様である。 したがって、本件発明11、16、18、20、24、25、及びこれらのいずれかを引用する本件発明12?15、17、19、21?23、26、27は、明確でない。」 本件訂正により、請求項11?24は削除された。また、本件訂正発明25は、上記キと同旨により、上記の明確でない点は解消した。 したがって、この取消理由には理由がない。 セ 取消理由Eでは以下のとおり指摘した。 「14 請求項11には、「式II?IVのビニルピロリドン」と規定されているが、「ビニルピロリドン」あるいはその誘導体といえるのは、式IVのみである。このため「式II?IVのビニルピロリドン」とは一体どのような技術的意味があるのか理解できない。 したがって、本件発明11、及びこれを引用する本件発明12?27は、明確でない。」 上記シと同旨により、この取消理由には理由がない。 ソ 取消理由Eでは以下のとおり指摘した。 「15 請求項15には、「R_(1)及びR_(2)における炭素原子の総数が4以下である、式II若しくはIVのビニルピロリドン…から選択される、請求項11?14のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲル。」と規定されているが、引用する請求項11には、式IIあるいはIVの何れにもR_(1)及びR_(2)は存在しない。このため、この規定が何を意味するのか皆目見当が付かない。 したがって、本件発明11、15、及びこれらのいずれかを引用する本件発明12?14、16?27は、明確でない。」 上記シと同旨により、この取消理由には理由がない。 タ 取消理由Eでは以下のとおり指摘した。 「16 請求項21には、「i)R_(1)がH又はメチルであり、Xが酸素であり、Rが、C_(2)?C_(4)モノ又はジヒドロキシ置換アルキル、及び1?10個の繰り返し単位を有するポリ(エチレングリコール)から選択されるか、又は、ii)R_(1)がメチルであり、Xが酸素であり、Rが、C_(2)?C_(4)モノ又はジヒドロキシ置換アルキル、及び2?20個の繰り返し単位を有するポリ(エチレングリコール)から選択される」と規定されているが、i)及びii)の規定が一部重複しており、結果としてどの「ポリ(エチレングリコール)」を選択しうるのか、確定できない。 したがって、本件発明21、及びこれを引用する本件発明22、23、25?27は、明確でない。」 上記シと同旨により、この取消理由には理由がない。 チ 取消理由Eでは以下のとおり指摘した。 「17 請求項21には、「i)R_(1)がH又はメチルであり、Xが酸素であり、Rが、C_(2)?C_(4)モノ又はジヒドロキシ置換アルキル、及び1?10個の繰り返し単位を有するポリ(エチレングリコール)から選択されるか、又は、ii)R_(1)がメチルであり、Xが酸素であり、Rが、C_(2)?C_(4)モノ又はジヒドロキシ置換アルキル、及び2?20個の繰り返し単位を有するポリ(エチレングリコール)から選択される、請求項11?20のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲル。」と規定されているが、引用する請求項11には、「Rは、H又はメチルであり」と規定されており、本件発明21に係るRは一体何なのか、皆目見当が付かない。 したがって、本件発明11、21、及びこれらのいずれかを引用する本件発明12?20、22?27は、明確でない。」 上記シと同旨により、この取消理由には理由がない。 ツ 取消理由Eでは以下のとおり指摘した。 「18 請求項22には、「Rが、2-ヒドロキシエチル、2,3-ジヒドロキシプロピル、2-ヒドロキシプロピルである、請求項11?21のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲル。」と規定されているが、引用する請求項11には、「Rは、H又はメチルであり」と規定されており、本件発明22に係るRは一体何なのか、皆目見当が付かない。 したがって、本件発明11、22、及びこれらのいずれかを引用する本件発明12?21、23?27は、明確でない。」 上記シと同旨により、この取消理由には理由がない。 テ 取消理由Eでは以下のとおり指摘した。 「19 請求項23には、「R_(4)が、メチル又は2-ヒドロキシエチルである、請求項11?22のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲル。」と規定されているが、引用する請求項11には、「R_(4)及びR_(8)は、CH_(2)、CHCH_(3)、及びC(CH_(3))_(2)からなる群より独立して選択され」、「R_(4)は、CH_(2)、CHCH_(3)、及びC(CH_(3))からなる群より選択され」と規定されており、本件発明21に係るR_(4)は一体何なのか、皆目見当が付かない。 したがって、本件発明11、21、及びこれらのいずれかを引用する本件発明12?20、22?27は、明確でない。」 上記シと同旨により、この取消理由には理由がない。 ト 取消理由Eでは以下のとおり指摘した。 「20 請求項26には、「前記反応混合物が、更に、少なくとも1つの遅反応性架橋剤と少なくとも1つの速反応性架橋剤とを含む」と規定されているが、上記3で指摘したことと同様、この「遅反応性」、「速反応性」とは技術的にどのようなことを意味しているのか判然としない。どのような反応性が「遅反応性」、「速反応性」といえるのか、何ら明らかでない。 請求項27における「遅反応性架橋剤」、「速反応性架橋剤」についても同様である。 したがって、本件発明26、27は、明確ではない。」 これに対し、本件訂正発明26は「前記反応混合物が、更に、2つのビニル基、3つのビニル基、2つのアリル基、3つのアリル基のいずれかを有する、少なくとも1つの遅反応性架橋剤と、(メタ)アクリル基を有する、少なくとも1つの速反応性架橋剤とを含む、請求項1、2又は6?10又は25のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲル。」となり、遅反応性架橋剤及び速反応性架橋剤の各々は、置換基が具体的に規定されることにより、明確となった。 したがって、この取消理由には理由がない。 ナ 取消理由Eでは以下のとおり指摘した。 「21 請求項27には、「前記少なくとも1つの遅反応性架橋剤及び少なくとも1つの速反応性架橋剤が、それぞれ、i)0.05?0.3重量%、又は、ii)0.1?0.2重量%、の量で前記反応混合物中に存在する」と規定されているが、両架橋剤の存在量が、i)?ii)のどの量であるのか、この規定からは明確に定めることができない。 したがって、本件発明27は、明確でない。」 本件訂正発明27は、上記キと同旨により、上記の明確でない点は解消した。 したがって、この取消理由には理由がない。 ニ 以上のとおり、取消理由Eには理由がない。 3 まとめ 以上のとおり、平成30年8月16日付け取消理由通知で示した取消理由には理由がない。 第7 平成31年4月26日付け取消理由通知(決定の予告)について 1 取消理由通知の概要 当審は、上記第6で示した取消理由通知のうち、取消理由B、C、Dをもって、取消理由(決定の予告)を通知した。 2 検討 (1)取消理由Bについて 取消理由Bは、上記甲A1をその証拠方法としたものである。そして、上記第5 5に示したとおりの理由であるから、取消理由Bには理由がない。 (2)取消理由C、Dについて ア 取消理由C (ア)取消理由Cにおいて、当審は以下のとおり指摘した。 「(1)上記取消理由通知において述べたことと同様、本件訂正発明には「前記遅反応性親水性モノマーの速度論的半減期の前記シリコーン含有成分の速度論的半減期に対する比が少なくとも2であり」という規定があるが、この規定を満たす実施例が見当たらない。」 この指摘に対し、本件訂正発明1は「(a)遅反応性親水性モノマー」と「(b)シリコーン含有成分」の各成分につき、上記第2 3(3)で述べたとおり具体的に明らかとなった。そして、この半減期の比の記載がなくとも、上記規定を満たす化合物の組合せは明らかになったといえる。 (イ)また、当審は以下のとおり指摘した。 「(2)また、上記取消理由通知において述べたことと同様、仮に、実施例が上記(1)の規定を満たすとしても、その他の構成を全て満たす実施例は、実施例3?5、22、23、25、26のみであり、この実施例において、遅反応性親水性モノマー、シリコーン含有成分、ヒドロキシル含有成分の組合せは、「NVP、mPDMS(及びOH-mPDMS)、HEMA又はGMMA」か、「VMA、SA2、HEMA」しかない。また、補助成分にしてもHEMA又はGMMA、TEGDMA又はEGDMA、Norbloc、CGI819しかない。殊に、遅反応性親水性モノマー、シリコーン含有成分、ヒドロキシル含有成分の組合せは二通りしかなく、他の組合せとしてどのようなものによれば本件訂正発明を実施できるのか判然とせず、どのような化合物の組合せが、本件訂正発明を実施したことといえるのか理解できない。」 この指摘については、上記第5 3で示したとおりである。 イ 取消理由D 取消理由Dにおいて、当審は以下のとおり指摘した。 「上記2(2)に示したとおり、本件訂正発明に係る遅反応性親水性モノマー、シリコーン含有成分、ヒドロキシル含有成分、更には補助成分としてどのような化合物を選択すれば本件訂正発明を実施できるのか判然としない。特に、シリコーン含有成分及びヒドロキシル含有成分においては、それぞれ「スチリル」及び式Xの化合物において実施例が存在せず、また、得られたシリコーンヒドロゲルにおいて、「スチリル」及び式Xの化合物を用いたものが、これらとの間で分子構造上の共通点を見いだしづらい「(メタ)アクリレート」や「メタアクリルアミド」及び式IXの化合物を用いたものと同等の物性を有するものと解しうる根拠を見いだすことができない。」 この指摘については、上記第5 4に示したとおりである。 ウ まとめ したがって、取消理由C、Dの各々には理由がない。 3 まとめ 以上のとおり、平成31年4月26日付け取消理由通知で示した取消理由には理由がない。 第8 むすび 以上のとおりであるから、異議申立ての理由及び当審からの取消理由によっては、請求項1、2、6?10、25?28に係る発明の特許を取り消すことはできない。また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。 請求項3?5、11?24に係る特許については、上述のとおり、この請求項を削除する訂正を含む本件訂正が認容されるため、特許異議申立ての対象となる特許が存在しないものとなったことから、同請求項に係る特許についての特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも50%の含水量及び少なくとも80バーラーの酸素透過性を含むシリコーンヒドロゲルであって、 (a)30?75重量%の、遅反応性親水性モノマーの速度論的半減期を有する少なくとも1つの遅反応性親水性モノマーと、 (b)シリコーン含有成分の速度論的半減期を有する少なくとも1つのシリコーン含有成分と、 (c)少なくとも1つのヒドロキシアルキルモノマーから選択される少なくとも1つのヒドロキシル含有成分と、を含む反応混合物から形成され、 (a)前記少なくとも1つの遅反応性親水性モノマー、(b)前記少なくとも1つのシリコーン含有成分および(c)前記少なくとも1つのヒドロキシル含有成分の組み合わせが、 (i)前記成分(a)としてN-ビニルピロリドン;前記成分(b)としてモノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-ブチル末端ポリジメチルシロキサン、モノメタクリルオキシプロピル末端モノ-n-メチル末端ポリジメチルシロキサン、α-(2-ヒドロキシ-1-メタクリルオキシプロピルオキシプロピル)-ω-ブチル-オクタメチルペンタシロキサンもしくはこれらの混合物;および前記成分(c)として2-ヒドロキシエチルメタクリレートもしくは2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート;または (ii)前記成分(a)としてN-ビニル-N-メチルアセトアミド;前記成分(b)としてN-(2,3-ジヒドロキシプロパン)-N’-(プロピルテトラ(ジメチルシロキシ)ジメチルブチルシラン)アクリルアミド;および前記成分(c)として2-ヒドロキシエチルメタクリレート のいずれかであり、 前記反応混合物は、3‐メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)を含まず、 前記遅反応性親水性モノマーの速度論的半減期の前記シリコーン含有成分の速度論的半減期に対する比が少なくとも2であり、前記反応混合物が、9?14重量%の総量のシリコン(希釈剤を除く)を含み、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート、2-(2’-ヒドロキシ-5-メタクリルイルオキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド、並びにテトラエチレングリコールジメタクリレート及び/又はエチレングリコールジメタクリレートが、前記反応混合物中の補助成分であり、かつ、反応性成分100g当たり38?76mmolの量で存在し、 前記補助成分が、反応性成分に基づいて12重量%未満の濃度で前記反応混合物中に存在する、 シリコーンヒドロゲル。 【請求項2】 前記反応混合物が、遅反応性親水性モノマーの速度論的半減期を有する前記少なくとも1つの遅反応性親水性モノマーを、37?75重量%含む、請求項1に記載のシリコーンヒドロゲル。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 前記含水量が、 少なくとも55%である、請求項1又は2のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲル。 【請求項7】 前記酸素透過性が、 少なくとも90バーラーである、請求項1又は6に記載のシリコーンヒドロゲル。 【請求項8】 前記酸素透過性が、 85?150バーラーである、請求項1又は6?7のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲル。 【請求項9】 1034kPa(150psi)未満の弾性率を更に含み、 弾性率は、詳細な説明の「弾性率」部分に記載される方法に従って測定される、請求項1又は6?8のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲル。 【請求項10】 80°未満の接触角を更に含み、 接触角は、詳細な説明の「前進接触角」部分に記載される方法に従って測定される、請求項1又は6?8のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲル。 【請求項11】 (削除) 【請求項12】 (削除) 【請求項13】 (削除) 【請求項14】 (削除) 【請求項15】 (削除) 【請求項16】 (削除) 【請求項17】 (削除) 【請求項18】 (削除) 【請求項19】 (削除) 【請求項20】 (削除) 【請求項21】 (削除) 【請求項22】 (削除) 【請求項23】 (削除) 【請求項24】 (削除) 【請求項25】 50%未満の曇り度(%)を更に含み、 曇り度(%)は、詳細な説明の「Hansen溶解度パラメーター」の「曇り度値の測定」部分に記載される方法に従って測定される、請求項1、2又は6?10のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲル。 【請求項26】 前記反応混合物が、更に、2つのビニル基、3つのビニル基、2つのアリル基、又は3つのアリル基のいずれかを有する、少なくとも1つの遅反応性架橋剤と、(メタ)アクリル基を有する、少なくとも1つの速反応性架橋剤とを含む、請求項1、2又は6?10又は25のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲル。 【請求項27】 前記少なくとも1つの遅反応性架橋剤及び少なくとも1つの速反応性架橋剤が、それぞれ、 0.05?0.3重量%の量で前記反応混合物中に存在する、請求項26に記載のシリコーンヒドロゲル。 【請求項28】 前記少なくとも1つのシリコーン含有成分及び前記少なくとも1つのヒドロキシル含有成分が、同じ反応性官能基を有する、請求項1に記載のシリコーンヒドロゲル。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-03-16 |
出願番号 | 特願2014-548883(P2014-548883) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(C08F)
P 1 651・ 537- YAA (C08F) P 1 651・ 536- YAA (C08F) P 1 651・ 121- YAA (C08F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 藤本 保 |
特許庁審判長 |
佐藤 健史 |
特許庁審判官 |
井上 猛 大熊 幸治 |
登録日 | 2017-10-20 |
登録番号 | 特許第6227552号(P6227552) |
権利者 | ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア・インコーポレイテッド |
発明の名称 | 望ましい含水量及び酸素透過性を含むシリコーンヒドロゲル |
代理人 | 佐藤 剛 |
代理人 | 西下 正石 |
代理人 | 特許業務法人コスモ国際特許事務所 |
代理人 | 山尾 憲人 |
代理人 | 西下 正石 |
代理人 | 佐藤 剛 |
代理人 | 山尾 憲人 |