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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01D
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  B01D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  B01D
管理番号 1362340
異議申立番号 異議2019-700114  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-13 
確定日 2020-03-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6374352号発明「懸濁物質の高分子凝集・沈降剤及び懸濁物質の除去処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6374352号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第6374352号の請求項1、3、4に係る特許を維持する。 特許第6374352号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6374352号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成27年 6月 8日(優先権主張 平成26年 6月 9日)を出願日とする出願であって、平成30年 7月27日にその請求項1?4に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年 8月15日に特許掲載公報が発行され、その後、その全請求項に係る特許について、平成31年 2月13日付けで特許異議申立人柏木 里実(以下、「申立人」という。)により、甲第1?3号証を添付して特許異議の申立てがされ、令和 1年 5月21日付けで当審より取消理由が通知され、同年 7月29日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年 8月22日付けで特許権者より意見書の手続補正書(方式)及び訂正請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年 9月25日付けで申立人より意見書が提出され、同年11月 8日付けで当審より取消理由(決定の予告)が通知され、令和 2年 1月10日付けで特許権者より意見書の提出並びに訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年 2月17日付けで申立人より意見書が提出されたものである。

第2 本件訂正請求による訂正の適否の判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
なお、令和 1年 7月29日付けの訂正請求書による訂正の請求(以下、「初回訂正請求」という。)は、本件訂正請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
(1)特許請求の範囲の訂正
(1-1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「下記一般式(1)、下記一般式(2)で表されるモノマーのいずれか一方又は両方を必須成分として5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、」
と記載されているのを、
「下記一般式(1)、下記一般式(2)で表されるモノマーのいずれか一方又は両方を必須成分として5モル%以上を含む原料モノマーから誘導される、重量平均分子量が600万?1100万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド等量が1.2?3.4meq/gであるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、」
に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3?4も同様に訂正する。)。

(1-2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(1-3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に
「請求項1又は2に記載の懸濁物質の高分子凝集・沈降剤を、」
と記載されているのを、
「請求項1に記載の懸濁物質の高分子凝集・沈降剤を、」
に訂正する。

(2)本件特許明細書の訂正
(2-1)訂正事項4
本件訂正前の本件特許明細書の【0045】に
「【0045】
[凝集試験例-2(実施例1?4、比較例1?4)]
<凝集試験方法>
先の試験に用いた粗大SSの最大粒子径の範囲が、50μm以上あり且つ200μmに満たないものである廃水を使用し、高分子凝集剤の添加量を2mg/Lと処理条件を一定にして、本発明で規定するN値が種々に異なるようにモノマー組成を設計して誘導した各高分子凝集剤を用いて、実施例1?4、比較例1、2の凝集試験を行った。」
と記載されているのを、
「【0045】
[凝集試験例-2(実施例1?2、参考例3?4、比較例1?4)]
<凝集試験方法>
先の試験に用いた粗大SSの最大粒子径の範囲が、50μm以上あり且つ200μmに満たないものである廃水を使用し、高分子凝集剤の添加量を2mg/Lと処理条件を一定にして、本発明で規定するN値が種々に異なるようにモノマー組成を設計して誘導した各高分子凝集剤を用いて、実施例1?2、参考例3?4、比較例1、2の凝集試験を行った。」
に訂正する。

(2-2)訂正事項5
本件訂正前の本件特許明細書の【0047】に



と記載されているのを



に訂正する。

(2-3)訂正事項6
本件訂正前の本件特許明細書の【0057】に
「【0057】
[凝集試験例-6(実施例9?15、比較例8?10)(原料モノマー、イオン性、N値、L値等についての検討)]」
と記載されているのを、
「【0057】
[凝集試験例-6(実施例9?14、参考例15、比較例8?10)(原料モノマー、イオン性、N値、L値等についての検討)]」
に訂正する。

(2-4)訂正事項7
本件訂正前の本件特許明細書の【0058】に



と記載されているのを



に訂正する。

本件訂正前の請求項2?4は、請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1?4は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
また、本件特許明細書の訂正は、一群の請求項1?4に関する訂正であり、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?4〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)特許請求の範囲の訂正
(1-1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1では限定されていなかった「共重合体」の物性を、「重量平均分子量が600万?1100万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド等量が1.2?3.4meq/gである」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、願書に添付した特許請求の範囲の【請求項2】には、
「【請求項2】
さらに、重量平均分子量が500万?1100万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド等量が1.2?3.4meq/gである請求項1に記載の懸濁物質の高分子凝集・沈降剤。」
と記載され(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)、【0058】表4の実施例14(前記1(2)(2-4)参照。)には、「共重合体」の重量平均分子量を600万とすることが記載されているから、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(1-2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではないこと、及び、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(1-3)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、訂正事項2による請求項2の削除に合わせて、選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3による訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(2)本件特許明細書の訂正
(2-1)訂正事項4?7について
訂正事項4?7による訂正は、いずれも、訂正事項1による請求項1の訂正により「共重合体」の「重量平均分子量」の下限が600万となったことに対応して、「重量平均分子量」が500万である訂正前の実施例3、4、15を参考例3、4、15とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項4?7による訂正が、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

なお、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
本件訂正が認められることは前記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1?4に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
粒径が50μm以上の金属粉、石炭粉又はコークス粉の少なくともいずれかを含む、粒径が50μm以上の粗大な懸濁物質と、粒径が50μmに満たない微細な懸濁物質とが共存している、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の廃水に含有させることで、該廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって一緒に凝集沈降させる際に使用される前記懸濁物質の高分子凝集・沈降剤であって、
下記一般式(1)、下記一般式(2)で表されるモノマーのいずれか一方又は両方を必須成分として5モル%以上を含む原料モノマーから誘導される、重量平均分子量が600万?1100万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド等量が1.2?3.4meq/gであるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、該共重合体の重量平均分子量(Mw)に、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)の2乗を乗じた値を、さらに100万で除した値をNとした場合に、N値が5?60であり、且つ、該共重合体の重量平均分子量(Mw)を、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)で除した値を、さらに100万で除した値をLとした場合に、L値が1.5以上であることを特徴とする懸濁物質の高分子凝集・沈降剤。

(上記式中の、R_(1)、R_(2)は、それぞれ独立にCH_(3)又はC_(2)H_(5)を表し、R_(3)は、H、CH_(3)又はC_(2)H_(5)のいずれかを表す。X^(-)は、アニオン性対イオンを表す。)
【請求項2】
削除
【請求項3】
粒径が50μm以上の金属粉、石炭粉又はコークス粉の少なくともいずれかを含む、粒径が50μm以上の粗大な懸濁物質と、粒径が50μmに満たない微細な懸濁物質とが共存している、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の廃水中に、請求項1に記載の懸濁物質の高分子凝集・沈降剤を、処理廃水に対する添加量が0.5mg/L以上となるように添加して、前記懸濁物質を同一の処理によって一緒に凝集沈降させることを特徴とする廃水中の懸濁物質の除去処理方法。
【請求項4】
前記廃水が製鉄工場で生じるものであり、廃水中の懸濁物質が、金属粉と油分とを含むものである請求項3に記載の廃水中の懸濁物質の除去処理方法。」

第4 異議申立理由の概要
1 各甲号証
甲第1号証:特開2014-108394号公報
甲第2号証:特開2014-133229号公報
甲第3号証:特願2014-119094号の願書、明細書、特許請求の範囲、図面

2 優先権主張について
(ア)本件特許出願の優先権主張の基礎とされた先の特許出願である特願2014-119094号の願書、明細書、特許請求の範囲、図面(甲第3号証)には、訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である、「共重合体の重量平均分子量(Mw)を、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)で除した値を、更に100万で除した値」、すなわち「L値」について記載されていない。
また、「共重合体の重量平均分子量(Mw)を、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)で除した値、更に100万で除した値」、すなわち「L値」が自明の技術事項であるともいえない。

(イ)このため、訂正前の請求項1に係る発明は、優先権主張の基礎とされた甲第3号証に記載されていない新規事項を含むので、優先権の主張の効果は認められない。
そして、このことは、訂正前の請求項2?4に係る発明についても同様であるので、特許法第29条の適用についての基準日は、現実の出願日である平成27年 6月 8日である。

3 特許法第29条第1項第3号(新規性)及び第2項(進歩性)について
(ア)訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明であるから、訂正前の請求項1?4に係る発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(イ)訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証の記載事項に基づいて、または、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1?4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

第5 取消理由の概要
1 令和 1年 5月21日付け取消理由通知書について
(1)優先権主張について
(ア)甲第3号証には、訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である、「共重合体の重量平均分子量(Mw)を、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)で除した値を、さらに100万で除した値」である「L値」自体が記載されておらず、「L値が1.5以上である」ことも記載されていない。
また、このことが、甲第3号証に記載されているに等しい事項であることを示す周知技術も存在しないから、訂正前の請求項1に係る発明は、「L値」に関して、甲第3号証に記載されていない新たな技術事項を導入するものである。

(イ)したがって、本件特許出願の優先権の主張の効果は認められないから、本件特許出願の出願日は、現実の出願日である平成27年 6月 8日となるものである。

(2)特許法第29条第2項(進歩性)について
(ア)訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1?2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(イ)したがって、訂正前の請求項1?4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

2 令和 1年11月 8日付け取消理由通知書について
(1)優先権主張について
前記1(1)(ア)に記載したのと同様の理由により、本件特許出願の優先権の主張の効果は認められないから、本件特許出願の出願日は、現実の出願日である平成27年 6月 8日となるものである。

(2)特許法第29条第2項(進歩性)について
令和 1年 8月22日付け手続補正書(方式)により補正された初回訂正請求により訂正された請求項1?4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1?2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、前記請求項1?4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

第6 取消理由についての判断
前記第5の1(1)?(2)の取消理由と同2(1)?(2)の取消理由は、いずれも、本件特許出願の優先権の主張の効果は認められないから、本件特許出願の出願日は、現実の出願日である平成27年 6月 8日となるものであり、本件特許に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1?2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである、というものであって、同旨のものであるから、以下、まとめて検討する。
1 優先権主張について
本件特許出願の優先権主張の基礎とされた先の特許出願である特願2014-119094号の願書、明細書、特許請求の範囲、図面である甲第3号証には、以下の記載(A)、(B)がある(当審注:「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(A)「【請求項1】
粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが共存している状態の廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって取り除く際に使用される高分子凝集剤であって、
下記一般式(1)、下記一般式(2)で表されるモノマーのいずれか一方又は両方を必須成分として5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、該共重合体の重量平均分子量とpH7におけるカチオンコロイド当量の2乗を乗じた値をNとした場合に、N値が500万?6000万であることを特徴とする高分子凝集剤。

(上記式中の、R_(1)、R_(2)は、それぞれ独立にCH_(3)又はC_(2)H_(5)を表し、R_(3)は、H、CH_(3)又はC_(2)H_(5)のいずれかを表す。X^(-)は、アニオン性対イオンを表す。)」

(B)「【0021】
本発明者らは、上記したような原料モノマーから得られる高分子凝集剤について詳細に検討した結果、本発明の目的を達成するためには、上記した式(1)及び/又は(2)で表されるモノマーを5モル%以上含む原料モノマーから誘導できるカチオン性又は両性の共重合体の中でも、共重合体が下記の要件を満たすものであることが必要であることを見出した。本発明者らは、最初に、該共重合体の重量平均分子量が200万?1300万であり、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が0.4meq/g以上である場合に、本発明が目的とする凝集性が得られることを知見した。
【0022】
本発明者らは、その技術的な効果が極めて高いことから、・・・使用する高分子凝集剤についてのさらなる詳細な検討を行った。その結果、上記原料モノマーから誘導される共重合体の中でも、本発明が規定する、該共重合体の重量平均分子量とpH7におけるカチオンコロイド当量の2乗を乗じたN値が500万?6000万である場合に、より優れた高分子凝集剤として機能することを見出して本発明に至ったものである。本発明に使用するカチオンコロイド当量値は、コロイド滴定法(ポリビニル硫酸カリウム溶液で滴定する方法)により高分子凝集剤中の有効成分1グラムあたりのカチオンコロイド当量値を測定した値である。また、重量平均分子量は、ポリスチレン換算によるGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ)法によって測定した値である。」

(ア)前記(A)、(B)によれば、甲第3号証には、粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが共存している状態の廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって取り除く際に使用される高分子凝集剤であって、一般式(1)、一般式(2)で表されるモノマーのいずれか一方又は両方を必須成分として5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなる凝集剤において、共重合体の重量平均分子量が200万?1300万であり、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が0.4meq/g以上である場合に、目的とする凝集性が得られること、その中でも、共重合体の重量平均分子量とpH7におけるカチオンコロイド当量の2乗を乗じたN値が500万?6000万である場合に、より優れた高分子凝集剤として機能することが記載されている。

(イ)ところが、甲第3号証には、本件発明1の発明特定事項である、「共重合体の重量平均分子量(Mw)を、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)で除した値を、さらに100万で除した値」である「L値」自体が記載されておらず、「L値が1.5以上である」ことも記載されていない。
また、このことが、甲第3号証に記載されているに等しい事項であることを示す周知技術も存在しないから、本件発明1は、「L値」に関して、甲第3号証に記載されていない新たな技術事項を導入するものである。
そして、特許権者は、このことについて特段の意見を述べていない。

(ウ)したがって、本件特許出願の優先権の主張の効果は認められないから、本件特許出願の出願日は、現実の出願日である平成27年 6月 8日となるものである。

2 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載される発明
本件特許出願の優先権の主張の効果は認められず、本件特許出願の出願日は、現実の出願日である平成27年 6月 8日となることは、前記1(ウ)に記載のとおりであって、本件特許出願の現実の出願日前に公開された甲第1号証には、以下の記載(1a)?(1f)がある。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが共存している状態の廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって取り除く際に使用される高分子凝集剤であって、
下記一般式(1)及び(2)を必須成分としてそれぞれ5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、該共重合体の重量平均分子量が200万?1,300万であり、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が0.4meq/g以上であることを特徴とする高分子凝集剤。

(上記式中の、R_(1)、R_(2)は、CH_(3)又はC_(2)H_(5)を、R_(3)は、H、CH_(3)又はC_(2)H_(5)を表す。X^(-)は、アニオン性対イオンを表す。)
・・・
【請求項3】
前記粗大な懸濁物質が少なくとも粒径が50μm以上のものであり、微細な懸濁物質が粒径が50μmに満たないものである請求項1又は2に記載の高分子凝集剤。
【請求項4】
前記懸濁物質を同一の処理によって取り除く際における処理廃水に対する添加量が、0.5mg/L以上である請求項1?3のいずれか1項に記載の高分子凝集剤。」

(1b)「【0002】
例えば、製鉄工場等からの廃水には、金属粉や石炭・コークス粉や油分等の粒径が50μm以上の粗大な懸濁物質(以下、粗大SSとも呼ぶ)が含まれているが、通常、これらの廃水の処理は、粗大な懸濁物質を沈降分離等の方法で予め除去した後、除去後の廃水を処理して、粒径が50μmに満たない微細な懸濁物質(以下、微細SSとも呼ぶ)をさらに除去処理することが行われている。」

(1c)「【0020】
本発明者らは、・・・下記の要件を満たすものであることが必要であることを見出した。具体的には、本発明の高分子凝集剤は、上記原料モノマーから誘導される共重合体の中でも、重量平均分子量が200万?1,300万であり、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が0.4meq/g以上であるであることが必要である。その好ましい範囲は、重量平均分子量とカチオンコロイド当量値との兼ね合いによっても異なるが、重量平均分子量が200万?500万であり、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が0.4?4.8meq/gである弱カチオン?強カチオンのものを使用するとよい。」

(1d)「【0022】
本発明者らの検討によれば、上記したような共重合体を主成分とする本発明の高分子凝集剤を、例えば、製鉄工場の熱間圧延工程から大量に排出される、鉄粉等の金属や圧延油等の油分が懸濁した、粗大SSと微細SSとが共存して浮遊している状態の使用済み冷却水(廃水)に、該処理廃水に対して0.5mg/L以上、例えば、2mg/L程度と微少量添加することで、廃水中の懸濁物質が速やかに凝集沈降して、その上澄みは、目視において濁りの見られない極めて清澄なものになる。・・・
【0023】
さらに、・・・それなりの効果が得られるが、より好ましくは、例えば、上記熱間圧延工程で使用した使用済み冷却水(廃水)が、上記の「スケールピット」に至るまでの廃水が激しく流動している溝や液路に添加するとより高い効果が得られることがわかった。また、特に、「スケールピット」に対してより上流側に添加することが好ましいことを確認した。・・・」

(1e)「【0026】
<高分子凝集剤>
用意した3種類の廃水に、下記の本発明の高分子凝集剤(凝集剤A)を使用してその効果を確認した。具体的には、凝集剤Aは、本発明で規定する一般式(1)及び(2)で表される2種類のモノマーを必須成分として、それぞれ20モル%ずつ含む原料モノマーから誘導した、アクリルアミド/[2-(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウム・クロリド/[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム・クロリド共重合体(モル比=60/20/20)を主成分とするカチオン性のものを用いた。その重量平均分子量は300万であり、pH7におけるカチオンコロイド当量値が2.0meq/gであるものを用いた。」

(1f)「【0030】
[凝集試験例-2]
先の凝集試験例1で使用した高分子凝集剤(凝集剤A)を合成した際に使用したと同様の原料モノマーを用い、各モノマーのモル比と重合度を変化させて、表2に示した重量平均分子量とカチオンコロイド当量の性状の異なる高分子凝集剤をそれぞれ用意した。・・・
・・・
【0033】



(ア)前記(1a)によれば、甲第1号証には「高分子凝集剤」が記載されており、前記「高分子凝集剤」は、粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが共存している状態の廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって取り除く際に使用されるものであり、前記(1a)の一般式(1)及び(2)を必須成分としてそれぞれ5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、該共重合体の重量平均分子量が200万?1,300万であり、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が0.4meq/g以上であり、前記粗大な懸濁物質が少なくとも粒径50μm以上のものであり、微細な懸濁物質が粒径50μmに満たないものであり、廃水に対する添加量が、0.5mg/L以上であるものである。
また、前記(1b)?(1d)によれば、前記廃水は、金属粉や石炭・コークス粉や油分等の粒径が50μm以上の粗大な懸濁物質が含まれ、製鉄工場の熱間圧延工程から大量に排出される、粗大SSと微細SSとが共存して浮遊している状態の使用済み冷却水(廃水)であり、スケールピットに至るまでの激しく流動している溝や液路の廃水に対して前記「高分子凝集剤」を0.5mg/L以上添加することで、廃水中の懸濁物質が速やかに凝集沈降して、その上澄みを、目視において濁りの見られない極めて清澄なものとするものである。

(イ)前記(ア)によれば、甲第1号証には、
「粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが共存している状態の廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって取り除く際に使用される高分子凝集剤であって、
一般式(1)及び(2)を必須成分としてそれぞれ5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、該共重合体の重量平均分子量が200万?1,300万であり、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が0.4meq/g以上であり、
前記粗大な懸濁物質が少なくとも粒径50μm以上であり、微細な懸濁物質が粒径50μmに満たないものであり、
前記廃水は、金属粉や石炭・コークス粉や油分等の粒径が50μm以上の粗大な懸濁物質が含まれ、製鉄工場の熱間圧延工程から大量に排出される、粗大SSと微細SSとが共存して浮遊している状態の使用済み冷却水(廃水)であり、
スケールピットに至るまでの激しく流動している溝や液路の廃水に対して前記高分子凝集剤を0.5mg/L以上添加することで、廃水中の懸濁物質が速やかに凝集沈降して、その上澄みを、目視において濁りの見られない極めて清澄なものとする、高分子凝集剤。

(上記式中の、R_(1)、R_(2)は、CH_(3)又はC_(2)H_(5)を、R_(3)は、H、CH_(3)又はC_(2)H_(5)を表す。X^(-)は、アニオン性対イオンを表す。)」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(ウ)また、甲第1号証には、
「粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが共存している状態の廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって取り除くものであって、
前記廃水は、金属粉や石炭・コークス粉や油分等の粒径が50μm以上の粗大な懸濁物質が含まれ、製鉄工場の熱間圧延工程から大量に排出される、粗大SSと微細SSとが共存して浮遊している状態の使用済み冷却水(廃水)であり、
スケールピットに至るまでの激しく流動している溝や液路の廃水に対して、甲1発明の高分子凝集剤を0.5mg/L以上添加することで、廃水中の懸濁物質が速やかに凝集沈降して、その上澄みを、目視において濁りの見られない極めて清澄なものとする、廃水中の懸濁物質の除去処理方法。」の発明(以下、「甲1’発明」という。)が記載されているといえる。

(2)甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載される発明
本件特許出願の現実の出願日前に公開された甲第2号証には、以下の記載(2a)?(2c)がある。
(2a)「【請求項1】
凝集剤を用い、廃水中から懸濁物質を凝集沈降させて取り除くための廃水中の懸濁物質の除去処理方法であって、
上記凝集剤として少なくとも1種の有機凝集剤を用い、
少なくとも、粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが併存し、且つ、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の水の中に、前記有機凝集剤が共存する状態を生じさせることで、前記粗大な懸濁物質と前記微細な懸濁物質とを同一の処理で凝集沈降させ、これらを同時に除去できるようにしたことを特徴とする廃水中の懸濁物質の除去処理方法。
・・・
【請求項6】
前記粗大な懸濁物質が、粒径が50μm以上のものであり、前記微細な懸濁物質が、粒径が50μmに満たないものであり、且つ、これらの物質の併存状態が、微細な懸濁物質濃度に対する粗大な懸濁物質濃度の比(粗/微)が、その質量比で0.5以上である請求項1?5のいずれか1項に記載の廃水中の懸濁物質の除去処理方法。」
・・・
【請求項8】
前記有機凝集剤が、カチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、該共重合体の重量平均分子量が100万?1,300万であり、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が0.1meq/g以上である請求項1?7のいずれか1項に記載の廃水中の懸濁物質の除去処理方法。」

(2b)「【0038】
本発明で使用する有機凝集剤としては、特に限定されず、例えば、アクリル系、ポリアミン系、およびジアリルアンモニウム系の化合物から選ばれる有機凝集剤を用いることができる。・・・具体的には、下記一般式(1)及び(2)を必須成分としてそれぞれ5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、該共重合体の重量平均分子量が100万?1,300万であり、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が0.1meq/g以上であるものを用いることが有効である。

(上記式中の、R_(1)、R_(2)は、CH_(3)又はC_(2)H_(5)を、R_(3)は、H、CH_(3)又はC_(2)H_(5)を表す。X^(-)は、アニオン性対イオンを表す。)
・・・
【0041】

本発明者らは、・・・下記の要件を満たすものであることを要することを見出した。・・・その、より好ましい範囲は、重量平均分子量とカチオンコロイド当量値との兼ね合いによっても異なるが、重量平均分子量が200万?1100万であり、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が0.2?1.9meq/gである弱カチオン?強カチオンのものを使用するとよい。
・・・
【0044】
本発明者らの検討によれば、上記した共重合体を主成分とする有機凝集剤を、例えば、製鐵工場の熱間圧延工程から大量に排出される、鉄粉等の金属や圧延油等の油分が懸濁した、粗大SSと微細SSとが併存して浮遊している状態の直接冷却廃水に、該処理廃水に対して0.1mg/L以上、例えば、2mg/L程度と微少量添加するだけで、廃水中の懸濁物質が速やかに凝集沈降して、しかも、その上澄みは、目視において濁りの見られない極めて清澄なものになる。・・・」

(2c)「【0055】
<実施例1、2、比較例1>
本実施例の概要を図2に示した。・・・本実施例では、有機凝集剤2として、前記した一般式(1)及び(2)で表される2種類のモノマーを必須成分として、・・・を主成分とするカチオン性のものを用いた。その重量平均分子量は300万であり、pH7におけるカチオンコロイド当量値が0.6?1.0meq/g程度であるものを用いた。・・・」

(ア)前記(2a)によれば、甲第2号証には、「廃水中の懸濁物質の除去処理方法」に用いられる「有機凝集剤」が記載されており、前記「有機凝集剤」は、廃水中から懸濁物質を凝集沈降させて取り除くためのものであって、前記凝集剤として少なくとも1種の有機凝集剤を用い、少なくとも、粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが併存し、且つ、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の水の中に、前記有機凝集剤が共存する状態を生じさせることで、前記粗大な懸濁物質と前記微細な懸濁物質とを同一の処理で凝集沈降させ、これらを同時に除去できるようにしたものであり、前記粗大な懸濁物質が粒径50μm以上のものであり、前記微細な懸濁物質が粒径50μmに満たないものである。
また、前記(2a)、(2b)によれば、前記有機凝集剤は、【0038】の一般式(1)及び(2)で表される2種類のモノマーを必須成分としてそれぞれ5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、該共重合体の重量平均分子量が100万?1,300万であり、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が0.1meq/g以上であるものを用いるものであり、更に、廃水は、鉄粉等の金属や圧延油等の油分が懸濁した、粗大SSと微細SSとが併存して浮遊しているものであり、前記有機凝集剤は、該処理廃水に対して0.1mg/L以上添加するだけで、廃水中の懸濁物質が速やかに凝集沈降して、しかも、その上澄みは、目視において濁りの見られない極めて清澄なものになるものである。

(イ)前記(ア)によれば、甲第2号証には、
「廃水中から懸濁物質を凝集沈降させて取り除くための有機凝集剤であって、
少なくとも、粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが併存し、且つ、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の水の中に、前記有機凝集剤が共存する状態を生じさせることで、前記粗大な懸濁物質と前記微細な懸濁物質とを同一の処理で凝集沈降させ、これらを同時に除去できるようにしたものであり、前記粗大な懸濁物質が粒径50μm以上のものであり、前記微細な懸濁物質が粒径50μmに満たないものであり、
前記有機凝集剤は、下記一般式(1)及び(2)で表される2種類のモノマーを必須成分としてそれぞれ5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、該共重合体の重量平均分子量が100万?1,300万であり、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が0.1meq/g以上であり、
更に、廃水は、鉄粉等の金属や圧延油等の油分が懸濁した、粗大SSと微細SSとが併存して浮遊しているものであり、
前記有機凝集剤は、該処理廃水に対して0.1mg/L以上添加するだけで、廃水中の懸濁物質が速やかに凝集沈降して、しかも、その上澄みは、目視において濁りの見られない極めて清澄なものになる、有機凝集剤。」

(上記式中の、R_(1)、R_(2)は、CH_(3)又はC_(2)H_(5)を、R_(3)は、H、CH_(3)又はC_(2)H_(5)を表す。X^(-)は、アニオン性対イオンを表す。)」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

(ウ)また、甲第2号証には、
「粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが併存し、且つ、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の水の中に、甲2発明の高分子凝集剤が共存する状態を生じさせることで、前記粗大な懸濁物質と前記微細な懸濁物質とを同一の処理で凝集沈降させ、これらを同時に除去できるようにしたものであり、前記粗大な懸濁物質が粒径50μm以上のものであり、前記微細な懸濁物質が粒径50μmに満たないものであり、
更に、廃水は、鉄粉等の金属や圧延油等の油分が懸濁した、粗大SSと微細SSとが併存して浮遊しているものであり、
前記有機凝集剤は、該処理廃水に対して0.1mg/L以上添加するだけで、廃水中の懸濁物質が速やかに凝集沈降して、しかも、その上澄みは、目視において濁りの見られない極めて清澄なものになる、廃水中の懸濁物質の除去処理方法。」の発明(以下、「甲2’発明」という。)が記載されているといえる。

(3)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における、「粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが共存している状態の廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって取り除く際に使用される高分子凝集剤」であって、「前記粗大な懸濁物質が少なくとも粒径50μm以上であり、微細な懸濁物質が粒径50μmに満たないものであり、前記廃水は、金属粉や石炭・コークス粉や油分等の粒径が50μm以上の粗大な懸濁物質が含まれ、製鉄工場の熱間圧延工程から大量に排出される、粗大SSと微細SSとが共存して浮遊している状態の使用済み冷却水(廃水)であり、スケールピットに至るまでの激しく流動している溝や液路の廃水に対して前記高分子凝集剤を0.5mg/L以上添加することで、廃水中の懸濁物質が速やかに凝集沈降して、その上澄みを、目視において濁りの見られない極めて清澄なものとする」「高分子凝集剤」は、本件発明1における、「粒径が50μm以上の金属粉、石炭粉又はコークス粉の少なくともいずれかを含む、粒径が50μm以上の粗大な懸濁物質と、粒径が50μmに満たない微細な懸濁物質とが共存している、乱流状態の廃水に含有させることで、該廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって一緒に凝集沈降させる際に使用される懸濁物質の高分子凝集・沈降剤」に相当する。

(イ)また、甲1発明における一般式(1)、(2)は、本件発明1における一般式(1)、(2)と合致し、甲1発明において、「共重合体の重量平均分子量が200万?1,300万であり、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が0.4meq/g以上であ」ることは、本件発明1において、「共重合体」の「重量平均分子量が800万?1100万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が1.2?3.4meq/gである」ことに合致するから、甲1発明において、「高分子凝集剤」が、「一般式(1)及び(2)を必須成分としてそれぞれ5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、該共重合体の重量平均分子量が200万?1,300万であり、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が0.4meq/g以上である」ことは、本件発明1において、「懸濁物質の高分子凝集・沈降剤」が、「一般式(1)、一般式(2)で表されるモノマーのいずれか一方又は両方を必須成分として5モル%以上を含む原料モノマーから誘導される、重量平均分子量が600万?1100万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド等量が1.2?3.4meq/gであるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてな」ることに一応相当する。

(ウ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「粒径が50μm以上の金属粉、石炭粉又はコークス粉の少なくともいずれかを含む、粒径が50μm以上の粗大な懸濁物質と、粒径が50μmに満たない微細な懸濁物質とが共存している、乱流状態の廃水に含有させることで、該廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって一緒に凝集沈降させる際に使用される前記懸濁物質の高分子凝集・沈降剤であって、
下記一般式(1)、下記一般式(2)で表されるモノマーのいずれか一方又は両方を必須成分として5モル%以上を含む原料モノマーから誘導される、重量平均分子量が600万?1100万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド等量が1.2?3.4meq/gであるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなる、懸濁物質の高分子凝集・沈降剤。

(上記式中の、R_(1)、R_(2)は、それぞれ独立にCH_(3)又はC_(2)H_(5)を表し、R_(3)は、H、CH_(3)又はC_(2)H_(5)のいずれかを表す。X^(-)は、アニオン性対イオンを表す。)」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1-1:本件発明1は、「懸濁物質の高分子凝集・沈降剤」を添加する廃水の「流速が0.5m/秒以上で」ある、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は、廃水の流速が不明である点。

相違点1-2:本件発明1は、「共重合体の重量平均分子量(Mw)に、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)の2乗を乗じた値を、さらに100万で除した値をNとした場合に、N値が5?60であり、且つ、該共重合体の重量平均分子量(Mw)を、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)で除した値を、さらに100万で除した値をLとした場合に、L値が1.5以上である」との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は、「N値」及び「L値」が明らかでない点。

イ 判断
(ア)事案に鑑み、まず、前記ア(ウ)の相違点1-2から検討すると、甲1発明においては、「共重合体の重量平均分子量が200万?1,300万であり、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が0.4meq/g以上」であるところ、これから「共重合体の重量平均分子量(Mw)に、pH7におけるカチオンコロイド当量(CE)の2乗を乗じた値を、更に100万で除した値」である「N値」及び「共重合体の重量平均分子量(Mw)を、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)で除した値を、更に100万で除した値」である「L値」を具体的に求めることはできない。
そうすると、甲1発明において、「N値が5?60であり、且つ」、「L値が1.5以上であ」るということはできず、前記相違点1-2は実質的な相違点である。

(イ)次に、甲1発明において、前記相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを当業者が容易になし得るか否かについて検討するにあたり、本件発明1をみたとき、これは、「共重合体」が、「重量平均分子量が800万?1,100万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が1.2?3.4meq/gである」との発明特定事項を満足した上で、「N値が5?60であり、且つ」、「L値が1.5以上であ」る、とするものである。

(ウ)ここで、前記(1)(1e)によれば、甲第1号証には、「重量平均分子量」が300万であり、「pH7におけるカチオンコロイド当量値」が2.0meq/gである「凝集剤A」が記載され、同(1f)によれば、「重量平均分子量」が500万であり、「pH7におけるカチオンコロイド当量値」が2.4meq/gである「両性の高分子凝集剤」が記載されているが、前記「凝集剤A」及び「両性の高分子凝集剤」は、いずれも、「重量平均分子量が800万?1,100万」である、との発明特定事項を満足しない。
更に、甲第1号証は、そのほかに、「重量平均分子量が800万?1,100万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が1.2?3.4meq/gである」との発明特定事項、及び、「N値が5?60であり、且つ」、「L値が1.5以上であ」る、との発明特定事項を全て満足する「共重合体」が記載されるものではない。

(エ)また、前記(2)(2a)?(2c)によれば、甲第2号証には、「廃水中の懸濁物質の除去処理方法」に用いる「有機凝集剤」における、一般式(1)及び(2)を必須成分としてそれぞれ5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の「共重合体」の実施例として、「重量平均分子量」が300万であり、「pH7におけるカチオンコロイド当量値」が0.6?1.0meq/g程度のものが記載されているが、前記実施例の「共重合体」は、「重量平均分子量が800万?1,100万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が1.2?3.4meq/gである」との発明特定事項を満足しない。
更に、甲第2号証は、そのほかに、「重量平均分子量が800万?1,100万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が1.2?3.4meq/gである」との発明特定事項、及び、「N値が5?60であり、且つ」、「L値が1.5以上であ」る、との発明特定事項を全て満足する「共重合体」が記載されるものではない。

(オ)前記(ウ)、(エ)によれば、甲第1?2号証には、「重量平均分子量が800万?1,100万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が1.2?3.4meq/gである」との発明特定事項、及び、「N値が5?60であり、且つ」、「L値が1.5以上であ」る、との発明特定事項を全て満足する「共重合体」は記載も示唆もされるものではなく、「懸濁物質の高分子凝集・沈降剤」において「N値」及び「L値」を併せて設定することが技術常識であったともいえないから、甲1発明において、「懸濁物質の高分子凝集・沈降剤」を、「共重合体の重量平均分子量(Mw)に、pH7におけるカチオンコロイド当量(CE)の2乗を乗じた値を、更に100万で除した値をNとした場合に、N値が5?60であり、且つ、該共重合体の重量平均分子量(Mw)を、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)で除した値を、更に100万で除した値をLとした場合に、L値が1.5以上であ」るものとする、つまり、前記相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第1?2号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(カ)したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲1発明及び甲第1?2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)本件発明3、4について
(ア)本件発明3と甲1’発明とを対比した場合、甲1’発明は、甲1発明の「懸濁物質の高分子凝集・沈降剤」を処理廃水に対して添加することを含む「廃水中の懸濁物質の除去処理方法」であるので、本件発明3と甲1’発明とは、少なくとも前記相違点1-2と同じ点で相違するものである。

(イ)そして、前記(3)イ(オ)に示した理由と同様の理由により、甲1’発明の「廃水中の懸濁物質の除去処理方法」を、前記相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、甲第1?2号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(ウ)したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明3を、甲1’発明及び甲第1?2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(エ)更に、本件発明4は、本件発明3を引用するものであって、本件発明4と甲1’発明とを対比した場合、少なくとも前記相違点1-2と同じ点で相違するものであり、前記(イ)、(ウ)に示した理由と同じ理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明4も、甲1’発明及び甲第1?2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3 申立人提出の意見書(以下、「申立人意見書」という。)について
(1)申立人意見書の主張の概要
(ア)本件発明1における「原料モノマーから誘導された、重量平均分子量が800万?1100万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド等量が1.2?3.4meq/gであるカチオン性又は両性の共重合体」との発明特定事項は、甲1発明に対して、令和 1年11月 8日付け取消理由通知書で認定された相違点1及び2以外の新たな相違点とはならない。

(イ)甲第1号証には、【0031】に、「共重合体」の「重量平均分子量」が200万以上であって、且つ、「カチオンコロイド当量」が0.4meq/g以上であることが記載され、甲第1号証の【0020】、【0033】の記載は、本件発明1の構成を想起する際の阻害要因にはならない。
また、甲第2号証には、【0041】に、「共重合体」の「重量平均分子量」が200万?1100万、「pH7におけるカチオンコロイド等量値」が0.2?1.9meq/gであることが好ましい旨の記載があるから、甲1発明に係る「懸濁物質の高分子凝集・沈降剤」において、甲第1?2号証の記載に基づいて、「重量平均分子量が800万?1100万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド等量が1.2?3.4meq/gであるカチオン性又は両性の共重合体」とすることは、設計的事項に過ぎない。

(ウ)本件特許明細書において目標としている処理水SS濃度は、甲1発明の実施例で目標としているSS濃度と同じ<10mg/lであり、本件発明1は、甲1発明に対して、特に好適な高分子凝集・沈降剤の構成を見いだしたものとはいえない。
また、本件特許明細書の【0047】には、実施例2の処理水のSS濃度が参考例3及び4よりも低いことが示されており、本件発明1の「重量平均分子量が600万?1100万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド等量が1.2?3.4meq/gであるカチオン性又は両性の共重合体」との発明特定事項は、特に好適な高分子凝集・沈降剤の構成とはいえない。

(エ)よって、本件発明1は、甲1発明及び甲第1?2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当業者の予測を超える優れた効果を奏するものではない。

(オ)本件特許明細書の【0052】?【0054】の実施例5?8には、「重量平均分子量」が300万のものが実施例として記載されているが、これらは本件発明1に含まれず、実施例ではない。
なお、本件特許明細書の【0052】?【0054】の記載事項は、甲第1号証の【0034】?【0036】の記載とほぼ一致する。

(カ)したがって、本件発明1、3、4は、甲第1号証及び甲第2号証により進歩性を有しないから、取り消されるべきものである。

(2)判断
(ア)以下、申立人意見書の主張について検討すると、本件発明1と甲1発明を対比した場合、前記相違点1-1、相違点1-2の点で相違し、このうち前記相違点1-2が実質的な相違点であることは、前記2(3)ア(ウ)、イ(ア)で示したとおりである。

(イ)そして、「重量平均分子量が800万?1,100万」である、との発明特定事項を満足しない「凝集剤A」に関する甲第1号証の【0025】?【0028】の「凝集試験例-1」の記載事項が、本件特許明細書の【0040】?【0043】の「凝集試験例-1(粗大SSが共存することによる効果の確認)」の記載事項と同じであること、同様に、「凝集剤A」に関する甲第1号証の【0034】?【0036】の「凝集試験例-3(実施例1?4、比較例1?3)」の記載事項が、本件特許明細書の【0052】?【0054】の「凝集試験例-4(実施例5?8、比較例5?7)(従来の凝集剤を用いた場合との比較)」の記載事項と同じであるからといって、前記相違点1-2が相違点でなくなることにはならない。

(ウ)また、甲第1?2号証には、「重量平均分子量が800万?1,100万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が1.2?3.4meq/gである」との発明特定事項、及び、「N値が5?60であり、且つ」、「L値が1.5以上であ」る、との発明特定事項を全て満足する「共重合体」は記載も示唆もされるものではないことは、前記2(3)イ(オ)で示したとおりである。
そして、上記からすれば、申立人意見書の主張をもって、前記2(3)イ(オ)で示した判断が覆ることになるとはいえない。

(エ)したがって、申立人意見書の主張はいずれも採用できない。

4 小括
以上のとおりであるので、第5の1、同2の取消理由はいずれも理由がない。

第7 採用しなかった異議申立理由についての判断
1 甲第1号証を主引用例とした場合の特許法第29条第1項第3号(新規性)について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、前記第6の2(3)イ(ア)で示したように、実質的な相違点1-2が存在している。
したがって、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。

2 甲第2号証を主引用例とした場合の特許法第29条第1項第3号(新規性)及び第2項(進歩性)について
前記第6の2(3)イ(オ)で示したように、甲第1?2号証には、「重量平均分子量が800万?1,100万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が1.2?3.4meq/gである」との発明特定事項、及び、「N値が5?60であり、且つ」、「L値が1.5以上であ」る、との発明特定事項を全て満足する「共重合体」は記載も示唆もされるものではないので、甲第1号証を主引用例とすることに代えて、甲第2号証を主引用例にしたとしても、甲第1号証を主引用例にした場合と同じく、本件発明1、3、4は、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲2発明/甲2’発明及び甲第1?2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3 小括
以上のとおりであるので、第4の3(ア)、(イ)の異議申立理由うち、甲第1号証を主引用例とした場合の新規性、及び甲第2号証を主引用例とした場合の新規性及び進歩性についての異議申立理由はいずれも理由がない。

第8 むすび
以上のとおり、異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書で通知された取消理由によっては、本件発明1、3、4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、3、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件発明2に係る特許に対して異議申立人がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
懸濁物質の高分子凝集・沈降剤及び懸濁物質の除去処理方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン性又は両性の高分子凝集剤に関し、より詳しくは、例えば、製鉄工場等で生ずる粒径が50μm以上の金属粉や油分等の粗大な懸濁物質を含む廃水中から、これらの粗大な懸濁物質を含んだ状態で懸濁物質を一挙に除去処理することを可能にできる有用な高分子凝集剤に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、製鉄工場等からの廃水には、金属粉や石炭・コークス粉や油分等の粒径が50μm以上の粗大な懸濁物質(以下、粗大SSとも呼ぶ)が含まれているが、通常、これらの廃水に対する処理は、上記した粗大な懸濁物質を沈降分離等の方法で予め除去し、除去後の廃水をさらに処理することで、粒径が50μmに満たない微細な懸濁物質(以下、微細SSとも呼ぶ)を除去して、懸濁物質のない処理水を得ている。
【0003】
上記した微細SSの除去処理の際には、通常、各種の凝集剤が使用されており、凝集させることで微細SSを粗大化させて、廃水中からの除去処理を容易にしている。従来より、その際に使用する凝集剤についての検討が種々行われており、対象となる廃水の性状に応じて様々な種類の凝集剤を組み合わせて使用されている。例えば、対象となる廃水が、鉄鋼、石油化学、食品加工、自動車工業などの産業における、懸濁物質を多量に含む含油廃水の場合は、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸バンド、鉄塩などの無機凝集剤や、有機カチオン系凝集剤、有機アニオン系凝集剤などの有機凝集剤などの凝集剤を、適宜に添加することで処理されている。その際、上記した廃水中には様々な種類の懸濁物質が含有されているため、数多くの種類がある無機凝集剤や有機凝集剤(高分子凝集剤)の中から複数種の凝集剤を選択し、これらを組み合わせて使用して、懸濁物質を順次除去処理することが一般的に行われている。
【0004】
より具体的には、例えば、特許文献1には、含油廃水に、特定のカチオン性単量体を少なくとも5モル%含有する単量体混合物を重合することで得られた、特定のカチオン性水溶性高分子を添加後、アニオン性水溶性高分子を添加して処理する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、無機凝集剤と、カチオン系ディスパージョン型(共)重合体とを併用することについての提案がされており(特許文献2参照)、当該文献によれば、このようにすることで、より効率よく含油廃水中の油分および懸濁物質の濃度を低減でき、且つ、無機凝集剤の使用量を抑えることができるとしている。
【0005】
また、上記に開示されているようなカチオン性高分子は、古くより、脱水剤としての有用性が着目されており、汚泥の脱水剤等として使用されている(特許文献3、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-255349号公報
【特許文献2】特開2008-006382号公報
【特許文献3】特公平7-71678号公報
【特許文献4】特許第2779732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これまでの高分子凝集剤の開発は、いずれも、汚泥の脱水をより効率よく行うことや、粗大SSを除去した後の廃水中の微細SSの除去を、より効率よく行うことを目的としたものに限られていた。例えば、金属粉や石炭・コークス粉や油分等の粗大SSが含まれている製鉄工場等からの廃水中の懸濁物質の除去処理に高分子凝集剤を使用する場合には、予め粗大SSを除去処理することが必要であり、高分子凝集剤の利用は、微細SSの除去に対する点で何ら変わるものではない。これに対し、特に製鉄工場においては、処理すべき廃水の量が多量であり、その種類も多いことから、廃水中から懸濁物質を除去するための処理設備は巨大なものになっており、設備の簡略化や、凝集剤の使用量の削減を達成できれば、その経済的な効果は極めて大きい。
【0008】
製鉄工場から生じる廃水は種々のものがある。例えば、鋳造工程や熱間圧延工程では大量の冷却水を必要としており、使用後の冷却水には、鉄粉や油分等の大量の懸濁物質が含まれる。このため廃水を冷却水として再利用(循環使用)しているが、その場合には、これらの冷却廃水中の懸濁物質を、冷却水として使用可能なレベルまで除去処理する必要がある。例えば、熱間圧延工程において生じる廃水中には、鉄粉や油分等からなる、数μm?数十μmオーダーの50μmに満たない粒径の微細な懸濁物質(微細SS)に加えて、場合によっては、粒径が50μm以上、場合によっては1000μm程度に至る大きさの粗大な懸濁物質(粗大SS)が含まれている。このため、先に述べたように、冷却廃水中から懸濁物質を除去処理する際には、沈降分離等の方法で、予め粗大SSを除去して、大きいものが含まれるとしても粒径が50μmに満たない微細SSの状態の廃水とし、その後に、凝集剤を加えて除去処理をすることで、使用する凝集剤の量の削減を可能にし、凝集剤による処理効率の向上を図っている。また、懸濁物質を除去処理する際には、無機凝集剤と高分子凝集剤との組合せ等、複数種類の凝集剤を使用することが通常である。
【0009】
上記した従来技術における現状に対し、本発明者らは、従来の凝集剤の使用量を増大させることなく、むしろ、より低減した使用量で、粗大SSと微細SSが共存(並存)している状態の廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって容易に取り除くことができ、しかも、より良好な処理水が得られれば、処理設備を格段に縮小でき、この点のみをもってしても、極めて経済的な処理が可能になるとの認識を持つに至った。また、凝集沈降した沈殿物を、その後の処理が容易なものにできれば、沈降・沈殿物の二次処理が容易になり、さらに有用である。
【0010】
したがって、本発明の目的は、その使用量の増大を伴うことなく、無機凝集剤との併用を必ずしも必要とせず、粗大SSと微細SSが共存している状態の廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって迅速に且つ容易に取り除くことができ、しかも、その処理水が、濁りのない清澄な性状のものであり、凝集沈降した沈殿物の処理が容易となる高分子凝集剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、以下の本発明により達成される。すなわち、本発明は、第1の発明として、粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが共存している状態の廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって取り除く際に使用される高分子凝集剤であって、下記一般式(1)、下記一般式(2)で表されるモノマーのいずれか一方又は両方を必須成分として5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、該共重合体の重量平均分子量(Mw)に、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)の2乗を乗じた値を、さらに100万で除した値をNとした場合に、N値が5?60であることを特徴とする高分子凝集剤を提供する。


(上記式中の、R_(1)、R_(2)は、それぞれ独立にCH_(3)又はC_(2)H_(5)を表し、R_(3)は、H、CH_(3)又はC_(2)H_(5)のいずれかを表す。X^(-)は、アニオン性対イオンを表す。)
【0012】
上記した本発明の高分子凝集剤は、さらに、重量平均分子量が200万?1300万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量が0.7?4.1meq/gであること;さらに、重量平均分子量が400万?1300万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量が1.1?3.5meq/gであること;が好ましい。
【0013】
上記目的は、以下の本発明によって、より安定して効果的に達成される。すなわち、本発明は、第2の発明として、粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが共存している状態の廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって取り除く際に使用される高分子凝集剤であって、下記一般式(1)、下記一般式(2)で表されるモノマーのいずれか一方又は両方を必須成分として5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、該共重合体の重量平均分子量(Mw)に、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)の2乗を乗じた値を、さらに100万で除した値をNとした場合に、N値が5?60であり、且つ、該共重合体の重量平均分子量(Mw)を、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)で除した値を、さらに100万で除した値をLとした場合に、L値が1.5以上であることを特徴とする高分子凝集剤を提供する。

(上記式中の、R_(1)、R_(2)は、それぞれ独立にCH_(3)又はC_(2)H_(5)を表し、R_(3)は、H、CH_(3)又はC_(2)H_(5)のいずれかを表す。X^(-)は、アニオン性対イオンを表す。)
【0014】
上記した本発明の高分子凝集剤は、さらに、重量平均分子量が500万?1100万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量が1.2?3.4meq/gであることが好ましい。
【0015】
上記した本発明の高分子凝集剤は、いずれも、さらに下記の構成を有するものであることが好ましい。前記粗大な懸濁物質は、少なくとも粒径が50μm以上のものであり、前記微細な懸濁物質は、粒径が50μmに満たないものであること;前記懸濁物質を同一の処理によって取り除く際における処理廃水に対する添加量が、0.5mg/L以上であること;前記廃水が製鉄工場で生じるものであり、廃水中の懸濁物質が、金属粉と油分とを含むものであること;が挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、その使用量の増大を伴うことなく、無機凝集剤との併用を必要とせず、粗大SSと微細SSが共存している状態の廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって迅速に凝集させて容易に取り除くことができ、しかも、その処理水が目視した場合に濁りのない清澄な性状のものであり、凝集沈降した沈殿物の処理が容易となる高分子凝集剤の提供が可能になる。この結果、本発明の高分子凝集剤を使用することで、従来、製鉄工場において必要とされてきた、冷却廃水等に含まれる懸濁物質を除去するための巨大な処理設備の一部が不要になり、しかも使用する凝集剤の量を低減でき、さらに、その凝集沈降した沈殿物は取り扱い易く、その処理が極めて容易にできるようになり、これらによってもたらされる経済的な効果は極めて多大なものであり、工業上、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】性状の異なる各種の高分子凝集剤を用いた場合における懸濁物質の凝集・沈降の状態の違いを示すグラフである。
【図2】本発明の第1の発明で規定する範囲の高分子凝集剤を用いた場合に、懸濁物質の凝集・沈降が良好に行われることを示すグラフである。
【図3】本発明の第2の発明で規定する範囲の高分子凝集剤を用いた場合に、懸濁物質の凝集・沈降が良好に行われることを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明者らは、上記した従来技術における課題を解決することを目的とし、粗大SSと微細SSが共存している状態の廃水を同時に処理した場合に、これらのSSが迅速に凝集・凝結し、速やかに凝集物が沈降して、処理水を清澄なものにできる高分子凝集剤を見出すべく鋭意検討した結果、本発明に至ったものである。本発明によって提供される高分子凝集剤は、後述する、特定の構造を有する原料モノマーを含んで誘導されるカチオン性或いは両性の共重合体を主成分としてなり、該共重合体の重量平均分子量(Mw)と、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)とで規定されるN値、或いはN値及びL値が、下記の範囲内にあることを要する。
【0019】
本発明の第1の発明は、共重合体の重量平均分子量(Mw)と、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)の2乗を乗じた値を、さらに100万で除した値をNとした場合に、N値が5?60であることを特徴とする。すなわち、本発明者らの検討によれば、本発明の顕著な効果は、N=(Mw)×(CE)^(2)÷100万の値が5?60の範囲内にある、特定の共重合体を主成分としてなる高分子凝集剤を用いた場合に得ることができる。
【0020】
さらに、本発明者らの検討によれば、上記したN値の範囲内にある高分子凝集剤の中でも、本発明の第2の発明で規定する要件を満足する高分子凝集剤によれば、より効果的に、且つ、安定して本発明の顕著な効果が得られることを見出した。具体的には、本発明の第2の発明は、上記N値を満足することに加えて、共重合体の重量平均分子量(Mw)を、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)で除した値を、さらに100万で除した値をLとした場合に、L値が1.5以上であることを特徴とする。すなわち、本発明のより顕著な効果は、L=(Mw)÷(CE)÷100万の値が1.5以上である場合に得ることができる。上記したように、L値によって特定される高分子凝集剤の範囲は、N値によって特定される高分子凝集剤の範囲に含まれるものであるが、後述するように、L値をも満足する高分子凝集剤を利用することで、より安定して確実に本発明の効果の実現が可能になる。
【0021】
本発明で利用する特定の原料モノマーから誘導される共重合体からなるカチオン性の高分子凝集剤は、先に挙げた特許文献3や特許文献4に記載されているように、有機汚泥の凝集を促進することができ、汚泥の脱水剤として顕著な効果が得られるものとして開発されており、汚泥の脱水剤として使用されている。さらに、特許第3352835号公報には、上記汚泥の脱水に用いられているカチオン性の高分子凝集剤の欠点を改良する目的で、本発明で利用する特定の原料モノマーに、イタコン酸を必須成分として混合した原料モノマーから誘導される共重合体からなる両性の高分子凝集剤が記載されている。しかし、この場合も汚泥の脱水剤としての利用であり、勿論、本発明が目的としている「粗大SSと微細SSが共存している状態の廃水中からのSSを同時に処理」といった観点での検討は全くなされていない。
【0022】
本発明者らは、製鉄工場の鋳造工程や熱間圧延工程から大量に排出される使用済みの、粗大SSと微細SSが共存して浮遊している状態の冷却水(冷却廃水)について、これらのSSを同時に凝集沈降処理できる凝集剤を見出すべく鋭意検討を行った。その結果、上記した汚泥の脱水剤として開発された高分子凝集剤の中に、驚くべきことに、粗大SSと微細SSとが共存して浮遊している状態の廃水中に添加するだけで、より好ましくは、粗大SSと微細SSが併存(並存)し、且つ、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の廃水の中に添加することで、添加量が少量であるにも関わらず、これらのSSが速やかに凝集し、強固に凝結するため、迅速に沈降し、しかも、その上澄みは、従来の方法で処理した処理水と比べた場合に、懸濁物質が目視では認められない程度に格段に清澄なものになることを見出した。さらに、当該高分子凝集剤を添加することで生じた、粗大SSと微細SSとが凝集し凝結して沈降した沈降・沈殿物は、従来の凝集処理によって得られている汚泥状態のものではなく、機械的な装置を用いて掴んで移動できる程度に強固に凝結したものであり、その後の処理が極めて容易になることがわかった。このことは、従来の処理では、凝集剤を添加した後、沈殿槽で凝集物を沈殿させることが必要であったが、本発明の高分子凝集剤を使用すれば、このような沈殿処理が不要となることを意味する。このため、本発明の高分子凝集剤を利用することで、予め粗大SSを除去処理するための従来の設備を使用して、当該設備で微細SSも同時に処理することができ、さらには、従来の設備で必須であった沈殿槽を不要にできる、という設備上の極めて大きな効果の実現が可能になる。
【0023】
上記した従来技術では実現することができなかった種々の顕著な効果が達成できる本発明の高分子凝集剤は、下記一般式(1)、下記一般式(2)で表されるモノマーのいずれか一方又は両方を必須成分として5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、さらに、該共重合体が、その重量平均分子量(Mw)と、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)とで規定される、N値、或いはN値及びL値が本発明で規定する特定の範囲内にあることを要する。

(上記式中の、R_(1)、R_(2)は、それぞれ独立にCH_(3)又はC_(2)H_(5)を表し、R_(3)は、H、CH_(3)又はC_(2)H_(5)のいずれかを表す。X^(-)は、アニオン性対イオンを表す。)
【0024】
本発明を構成するカチオン性又は両性の共重合体は、上記式(1)及び/又は(2)で表されるモノマーを5モル%以上含む原料モノマーから誘導できるが、その際に、本発明で規定するN値、或いはN値及びL値の要件を満たすようにモノマー組成を設計することで得られる。具体的な合成方法としては、カチオン性の共重合体については、先に挙げた特許文献4に記載の合成方法が利用できる。また、両性の共重合体は、例えば、特許第3352835号公報に記載されているように、上記式(1)及び/又は(2)で表されるカチオン性モノマーに、その他のモノマーとしてイタコン酸やアクリル酸等のアニオン性モノマーを適宜混合して原料モノマーとすることで、同様の方法で得ることができる。
【0025】
上記式(1)で示されるモノマーの代表的なものとしては、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、ジメチルアミノエチルアクリレートの塩酸塩等が挙げられる。また、式(2)で示されるモノマーの代表例としては、アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロリドが挙げられる。これらのモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0026】
本発明者らは、本発明が目的とする、使用した場合に、凝集剤の使用量の増大を伴うことなく、粗大SSと微細SSが共存している状態の廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって、迅速に且つ容易に取り除くことのできる凝集剤を開発する過程で、上記したような原料モノマーから得られる高分子凝集剤についての詳細な検討を行った。その際に、上記した式(1)及び/又は(2)で表されるモノマーを5モル%以上含む原料モノマー(以下、特定の原料モノマーとも呼ぶ)から誘導できるカチオン性又は両性の共重合体の中に、本発明の目的を達成できる凝集剤があることを見出した。そして、本発明者らは、最初に、該共重合体の重量平均分子量が200万?1300万であり、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量が0.4meq/g以上である場合に、本発明が目的とする凝集性が得られるとの知見を得た。
【0027】
先に述べたように、技術常識は、「粗大SSと微細SSが共存している状態の廃水から、同一の処理でこれらの懸濁物質を取り除くことは、できない」とするものであったことから、本発明者らは、上記知見の技術的価値は極めて大きいとの認識をもった。そこで、本発明者らは、より安定して高い凝集性を示す高分子凝集剤を見出して、さらに工業的価値を高めるべく、使用する高分子凝集剤についてのさらなる詳細な検討を行った。その結果、上記原料モノマーから誘導される共重合体の中でも、本発明の第1の発明で規定するN値を満足するものが有効であり、また、その中でも、本発明の第2の発明で規定するL値を満足するものが、より安定して、より確実な効果を得るために有効であることを見出して、本発明を達成した。
【0028】
すなわち、本発明の第1の発明では、上記した特定の原料モノマーから誘導できるカチオン性又は両性の共重合体の重量平均分子量(Mw)と、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)の2乗を乗じた値を、さらに100万で除した値をNとした場合に、N値が5?60であることを規定する。また、本発明の第2の発明では、上記N値を満足することに加えて、上記した特定の原料モノマーから誘導できるカチオン性又は両性の共重合体の重量平均分子量(Mw)を、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)で除した値を、さらに100万で除した値をLとした場合に、L値が1.5以上であることを規定する。上記の規定に使用するカチオンコロイド当量は、コロイド滴定法(ポリビニル硫酸カリウム溶液で滴定する方法)により高分子凝集剤中の有効成分1グラムあたりのカチオンコロイド当量を測定した値(meq/g)である。また、重量平均分子量は、ポリスチレン換算によるGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ)法によって測定した値である。
【0029】
本発明者らは、前記特定の原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなる高分子凝集剤について、本発明が目的としている「粗大SSと微細SSとが共存している状態の廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって取り除くことを実現する」といった観点から、詳細な検討を行った。その結果、本発明者らは、まず、上記効果がより顕著に得られる高分子凝集剤として、その主成分である共重合体の特性において、下記の傾向があることを見出した。すなわち、(1)カチオンコロイド当量が小さい場合は、分子量が大きい共重合体の方が、上記した効果が大きい傾向にあり、(2)カチオンコロイド当量が大きい場合は、分子量が小さい共重合体の方が、上記した効果が大きい傾向があることがわかった。
【0030】
本発明者らは、上記した知見に基づきさらなる検討を行った結果、共重合体のN値が5?60である場合に、本発明の効果が安定して得られることを見出した。そして、さらに詳細に検討した結果、共重合体のL値が1.5以上である場合に、本発明の顕著な効果がより安定して得られることを見出した。具体的には、前記特定の原料モノマーから誘導した、重量平均分子量(Mw)と、pH7におけるカチオンコロイド当量(CE)とが種々に異なる共重合体を作製し、これらを用いて、粗大SSと微細SSが並存する廃水中に勢いよく添加することで、その効果の違いを観察した。前記したように、本発明の効果は、「粗大SSと微細SSが同一の処理によって迅速に凝集し、容易に取り除くことができるものとなり、しかも、その処理水が目視した場合に濁りのない清澄な性状のものとなる」という、目視することで確認できるものであるため、その検証は容易である。また、添加条件も、同一条件で高速撹拌することで達成できるため、この点でも検証は容易である。
【0031】
図1は、検討に使用した前記特定の原料モノマーから誘導した、重量平均分子量と、pH7におけるカチオンコロイド当量で決定される、本発明の第1の発明で規定するN値が異なる種々の共重合体を、それぞれ高分子凝集剤として使用して廃水に添加した場合に得られた凝集・沈降効果の違いをA?Dの4段階で評価して示したものである。A?Dは、いずれも本発明の効果が認められるものであるが、相対的にA>B>C>Dの順で顕著な効果が認められた。Dは、全く凝集・沈降の効果が認められないわけではないが、実施化することを考えて不適と評価した。
【0032】
本発明者らは、これらの結果から、本発明の顕著な効果が得られる高分子凝集剤の範囲についてさらなる検討を行った結果、本発明の第1の発明で規定する共重合体のN値が5?60であるものが、より顕著な効果を実現できるものであるとの結論を得た。図2中に、N値が5?60である範囲を破線で示した。さらに、本発明者らの検討によれば、この範囲内のものの中でも、重量平均分子量が200万?1300万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量が0.7?4.1meq/gである場合、重量平均分子量が400万?1300万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量が1.1?3.5meq/gである場合により顕著な効果が得られる。N値でいえば、15?55程度となる、重量平均分子量とコロイド当量の兼ね合いをもつ高分子凝集剤がより好適である。
【0033】
上記のことから、使用する共重合体の重量平均分子量が小さ過ぎると、十分なSS除去効果が得難いことがわかった。一方、重量平均分子量が大き過ぎるとその粘度が上昇し、使用し難くなるので好ましくない。本発明で規定するカチオンコロイド当量は、高分子凝集剤中のカチオン密度、すなわち、カチオン性を示す官能基の量を示すものである。上記したように、本発明者らの検討によれば、本発明の目的に対しては、重量平均分子量との兼ね合いで最適なカチオンコロイド当量の範囲があり、本発明の第1の発明で規定する特性を満たす共重合体を高分子凝集剤として用いることで、本発明の顕著な効果が確実に得られることがわかった。上記した試験の詳細については後述する。
【0034】
上記したように、先に述べた特有の原料モノマーから誘導される共重合体の中でも、本発明の第1の発明で規定するN値を満足するものが、本発明の目的を達成するための高分子凝集剤として有効であることがわかった。しかし、図2に示されているように、N値を満足するものの中でも、凝集・沈殿効果に程度の差があることが認められ、また、処理対象の廃水における粗大SSと微細SSとの共存状態も種々であることから、本発明者らは、実用化に際し、より高い凝集・沈殿効果をより安定して得るためには、使用する高分子凝集剤について、さらに詳細な検討を行い、最適化を図ることが必要であるとの認識をもった。その結果、N値を満足するものの中でも、本発明の第2の発明で規定する、共重合体の重量平均分子量(Mw)を、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)で除した値を、さらに100万で除した値をLとした場合に、L値が1.5以上であるもの、より好ましくは、L値が2.0以上であるものが、より効果的な凝集剤となることを見出した。
【0035】
図3は、検討に使用した前記特定の原料モノマーから誘導した、L値が異なる種々の共重合体を高分子凝集剤として、粗大SSと微細SSとが共存している廃水に添加した場合に得られた、処理水中のSS濃度を示したものである。図3に示した結果は、同時に、廃水中の粗粒濃度の違いによって生じる、凝集・沈降効果の違いも示しているが、明らかに、L値が1.5以上となる共重合体を、高分子凝集剤に使用することで、処理水のSSは20mg/L以下となり、先の凝集・沈降効果の相対的な評価基準の「A」となることが確認された。図3の結果から、より好ましいL値としては2以上、後述の表4の結果から6.7程度までであり、このような高分子凝集剤を使用すれば、処理水は、極めて清澄なものとなることがわかった。
【0036】
本発明者らの検討によれば、上記したような共重合体を主成分とする本発明の高分子凝集剤を、例えば、製鉄工場の熱間圧延工程から大量に排出される、鉄粉等の金属や圧延油等の油分が懸濁した、粗大SSと微細SSとが共存して浮遊している状態の使用済み冷却水(廃水)に、該廃水に対して0.5mg/L以上、例えば、1?4mg/L程度と微少量添加することで、廃水中の懸濁物質が速やかに凝集沈降して、その上澄みは、目視において濁りの見られない極めて清澄(透明)なものになる。詳細については後述するが、本発明の高分子凝集剤は、従来技術のように、予め廃水中から粗大SSを除去した後に行う処理に使用した場合には、上記したような顕著な効果は得られず、微細SSが凝集沈降する傾向はみられるものの、その上澄みは、目視において濁りがあり、明らかに十分なものではなかった。このことは、本発明の高分子凝集剤によってもたらされる従来にない顕著な、凝集・凝結・沈降効果は、微細な懸濁物質と共に、粒径が50μm以上の粗大な懸濁物質が共存している場合に初めて発揮されるものであり、粗大SSと微細SSとが共存して浮遊している状態の廃水を一緒に処理することが重要であることを示している。
【0037】
このことは、図3の結果にも明確に示されている。図3に示されているように、本発明の高分子凝集剤は、廃水中における微細SSと共存する粗大SSの存在量が500?1000mg/L程度と少ない場合でも、本発明の凝集・凝結・沈降効果が認められたが、この場合に、より十分な効果を得るためには高分子凝集剤の添加量を増やす必要があった。これに対し、本発明の高分子凝集剤を用い、より少ない添加量で、より高い凝集・沈降効果を安定して得るためには、粗大SSの存在量が、1000mg/L超、3000?5000mg/L程度、共存している廃水であることが好ましいことがわかった。したがって、粗大SSの存在量が少ない廃水を処理する場合には、粗大SSを多く含む廃水と混合して処理することや、場合によっては、砂などの粗粒を廃水に添加した状態で処理することも有効である。本発明者らの検討によれば、本発明の高分子凝集剤によって得られる、「粗大SSと微細SSが共存している水中から、同一の処理でこれらのSSを取り除く」効果は、処理する水中の粗大SSの存在量が、250?80000mg/L程度でも得られるが、より好ましくは2000?20000mg/L程度である場合に、SSがより速やかに凝集沈降し、その上澄みは極めて清澄(透明)なものになり、凝集・沈降した沈殿物は、水離れのよい脱水性に優れた良好なものとなる。また、本発明者らの検討によれば、処理対象の廃水等における粗大SSと微細SSとの存在量として、微細SS濃度に対する粗大SS濃度の比(粗/微)が、その質量比で2.0以上である場合に、少ない凝集剤の量で、より安定して顕著な効果を得ることができる。
【0038】
さらに、本発明者らの検討によれば、本発明の高分子凝集剤は、例えば、製鉄工場の熱間圧延工程から大量に排出される廃水中の粗大SSを沈降分離除去するための「スケールピット」と呼ばれる水槽に添加してもよく、それなりの効果が得られるが、より好ましくは、例えば、上記熱間圧延工程で使用した使用済み冷却水(廃水)が、上記の「スケールピット」に至るまでの廃水が激しく流動している溝や液路に添加すると、より高い効果が確実に得られることがわかった。また、特に、「スケールピット」に対してより上流側に添加することが好ましいことを確認した。これらのことは、本発明の高分子凝集剤は、廃水が激しく流動している場所に添加し、高分子凝集剤と、粗大SS、微細SSを激しい混合状態で反応させる場合の方が、その凝集・凝結・沈降効果がより顕著に発揮されることを示している。このため、廃水が激しく流動している溝や液路がない場合には、廃水を急速撹拌させた状態で高分子凝集剤を添加するように構成することが、本発明の高分子凝集剤の、より高い凝集・凝結・沈降効果を得るための方法として極めて有効になる。より具体的には、本発明者らの検討によれば、粗大SSと微細SSとが並存し、且つ、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の水の中に、上記した高分子凝集剤が共存する状態を生じさせることで、より顕著な効果が得られることを確認した。
【0039】
本発明者らは、これらの理由について、本発明の高分子凝集剤は、粗大SSに対して特に高い凝集効果、さらに強い凝結効果を示し、この速やかに生じる粗大SSの凝集・凝結の際に、共存している微細SSが、本発明の高分子凝集剤によって形成された粗大な凝集物内に取り込まれる結果、本発明の優れた凝集沈降効果が得られたものと考えている。特に、廃水が溝や液路内を流動している場合は、微細SSが廃水内を活発に動いているので、粗大な凝集物内により取り込まれやすくなったものと推論している。このため、本発明の高分子凝集剤を添加することで得られる凝集した沈降・沈殿物は、従来の、凝集剤を添加して沈殿槽内に沈降させることで得られた汚泥とは全く異なり、粗大なものになり、掴み取ることができる、水離れのよい状態のものになる。この結果、本発明の高分子凝集剤によって処理した場合に得られる凝集した沈降・沈殿物は、その後の処理が極めて容易なものになり、従来、その二次処理にかかっていたコストが大幅に低減される。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
[凝集試験例-1(粗大SSが共存することによる効果の確認)]
<廃水>
製鉄工場の熱間圧延工程から排出される冷却廃水をサンプリングして、廃水中に含まれる粗大SSの粒子径の範囲がそれぞれに異なる3種類の廃水を用意した。具体的には、粗大SSの最大粒子径の範囲が、それぞれ、50μmに満たないもの、50μm以上あり且つ200μmに満たないもの、200μm以上あり且つ1,000μmに満たないものを用意した。また、比較のために用意した粗大SSの最大粒子径の範囲が50μmに満たないものは、予め、廃水を沈降分離処理して粗大SSを除去することで、懸濁物質として最大粒子径が50μmに満たない微細SSのみを含む廃水とした。なお、粗大SSの最大粒子径の範囲が、50μm以上あり且つ200μmに満たないもの、200μm以上あり且つ1,000μmに満たないものには、当然のことながら、粒径が50μmに満たない微細SSを含んでいる。
【0041】
<高分子凝集剤>
最初に、廃水中に微細SSと共存(並存)する粗大SSの粒径による効果の違いと、試験に使用する本発明で規定する高分子凝集剤の添加量による効果の違いを、下記の凝集剤Aを用いて検証した。すなわち、凝集剤Aとして、一般式(1)及び(2)で表される2種類のモノマーを必須成分として、それぞれ20モル%ずつ含む原料モノマーから誘導した、アクリルアミド/[2-(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウム・クロリド/[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム・クロリド共重合体(モル比=60/20/20)を主成分とするカチオン性のものを用いた。その重量平均分子量は300万であり、pH7におけるカチオンコロイド当量が2.0meq/gである。よって、この共重合体のN値は12(L値=1.5)である。
【0042】
<凝集試験方法>
先に用意した懸濁物質の粒子径が異なる3種類の廃水に、上記した凝集剤Aの添加量を、2mg/Lと4mg/Lに変えてそれぞれ凝集試験を行った。具体的には、廃水を入れた容器内に高分子凝集剤を添加し、一定時間高速撹拌し、その後に静置して凝集沈降処理を行い、その上澄み水を処理水として、上澄み水(処理水)のSS濃度を測定し、評価した。また、比較のために、各廃水に高分子凝集剤を添加しない以外は同様にして、上澄み水(処理水)のSS濃度を測定した。そして、得られた結果を表1に示した。
【0043】
<試験結果>
表1に示したように、各廃水に凝集剤を添加しない場合に比べて、本発明の高分子凝集剤(凝集剤A)を添加すると、いずれの場合も処理水SS濃度が低減でき、凝集剤としての効果を示すことを確認した。さらに、表1の結果から、特に、懸濁物質として粒子径が50μm以上の粗大なものが含まれている廃水に、凝集剤Aを添加して凝集試験をした場合に、処理水SS濃度の低減効果が著しく、この場合は、目標とする処理水SS<10mg/Lを容易に達成できることを確認した。さらに、この場合に得られる処理水は、目視では濁りの認められない清澄なものであった。なお、この試験では、いずれも粗大SSの存在量が3000mg/L程度である廃水を使用した。
【0044】

【0045】
[凝集試験例-2(実施例1?2、参考例3?4、比較例1?4)]
<凝集試験方法>
先の試験に用いた粗大SSの最大粒子径の範囲が、50μm以上あり且つ200μmに満たないものである廃水を使用し、高分子凝集剤の添加量を2mg/Lと処理条件を一定にして、本発明で規定するN値が種々に異なるようにモノマー組成を設計して誘導した各高分子凝集剤を用いて、実施例1?2、参考例3?4、比較例1、2の凝集試験を行った。具体的には、本発明で規定する一般式(1)及び(2)で表される2種類のモノマーを必須成分として、これらのモル%を適宜に変えた原料モノマーから誘導した、アクリルアミド/[2-(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウム・クロリド/[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム・クロリド共重合体を主成分とする各高分子凝集剤を用いて試験を行った。表2に示した両性の高分子凝集剤は、本発明で規定する一般式(1)及び(2)で表される2種類のモノマーに、さらに、イタコン酸を適宜に混合した原料モノマーを用いて合成したものを用いた。さらに、比較のために、ノニオン系とアニオン系のポリアクリルアミド系高分子凝集剤を用いて同様の試験を行った比較例3、4の結果を併せて示した。なお、この試験では、いずれも粗大SSの存在量が3000mg/L程度である廃水を使用した。
【0046】
<試験結果>
表2に、実施例及び比較例で使用した高分子凝集剤の性状と、上澄み水を処理水として、この上澄み水(処理水)のSS濃度を測定して除去性を評価し、これらをまとめて示した。なお、表2中のN値は、N=重量平均分子量(Mw)×(カチオンコロイド当量(CE))^(2)÷100万であり、L値は、L=重量平均分子量(Mw)÷カチオンコロイド当量(CE)÷100万である。
【0047】

【0048】
表2に示したように、本発明で規定する性状の高分子凝集剤を用いた実施例では、本発明が最終的な目標としている処理水SS<10mg/Lを容易に達成できることを確認した。そして、得られた処理水は、目視では濁りを認めることができない清澄なものであった。従来のアクリルアミド系の凝集剤を使用した場合の比較例3、4の処理水の濁りは著しく、さらなる処理が必要であった。これに対して、一般式(1)、(2)で表されるモノマーを必須成分として5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性の共重合体であるものの、本発明で規定するN値を満たさない比較例1、2の高分子凝集剤は、従来のアクリルアミド系の凝集剤に比べて凝集効果が認められたものの、得られる処理水は目視で明らかな濁りが認められた。
【0049】
また、従来のアクリルアミド系の凝集剤を使用して凝集処理した場合と、本発明で規定する要件を満たす高分子凝集剤を用いて凝集処理した場合とでは、凝集した沈降・沈殿物の性状が明らかに異なっていた。具体的には、従来のアクリルアミド系の凝集剤を使用して凝集処理した場合のものは、ふわふわとした汚泥状であり、濾過するのが難しいものであった。これに対し、本発明の高分子凝集剤を用いて処理した場合に得られる凝集沈降した沈殿物は、強固に凝結しており、水離れもよく、摘まんで移動することができるものであった。さらに、本発明の高分子凝集剤を用いて処理した場合は、その凝集沈降も極めて速やかに生じることを確認した。
【0050】
[凝集試験例-3(N値と凝集・沈降性効果のとの関係)]
<凝集試験方法>
上記した結果を踏まえて、さらに、本発明で規定するN値が種々に異なるようにモノマー組成を設計して誘導した高分子凝集剤の種類を増やして、凝集試験例-2で行ったと同様の試験を行い、凝集・沈降性の違いを確認した。具体的には、先の試験に用いた粗大SSの最大粒子径の範囲が、50μm以上あり且つ200μmに満たないものである廃水を使用し、高分子凝集剤の添加量を2mg/Lと処理条件を一定にして、本発明で規定するN値が種々に異なる各高分子凝集剤を用いて試験を行い、凝集試験例-2で行ったと同様に評価した。なお、この試験では、いずれも粗大SSの存在量が3000mg/L程度である廃水を使用した。
【0051】
<試験結果>
その結果を図1、2に示したが、使用した高分子凝集剤の重量平均分子量とコロイド当量に対し、これを使用して処理した場合の凝集・沈降効果の違いをA?Dの4段階で評価した。A?Dは、いずれも凝集・沈降効果が認められるものであるが、相対的に評価した場合、A>B>C>Dの順で顕著な効果が認められた。Dは、全く凝集・沈降の効果が認められないわけではないが、実施化することを考えて不適と評価した。その結果、図2中の破線で示した、本発明で規定する「共重合体の重量平均分子量とpH7におけるカチオンコロイド当量の2乗を乗じた値を、さらに100万で除した値をNとした場合に、N値が5?60である」とする要件を具備した共重合体を凝集剤として使用することで、良好な凝集・沈降効果を実現できることが確認された。さらに、図2から、中でも、重量平均分子量が200万?1300万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量が0.7?4.1meq/gである範囲、さらに、重量平均分子量が400万?1300万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量が1.1?3.5meq/gである場合に、本発明で目的とする効果がより顕著であることがわかった。なお、図1、2中には、凝集試験例-2で行った結果も含まれている。
【0052】
[凝集試験例-4(実施例5?8、比較例5?7)(従来の凝集剤を用いた場合との比較)]
懸濁物質として、粒子径が50μm以上あり且つ200μmには満たない粗大SSと、微細SSとを含む廃水を用意し、表3に示した従来の凝集剤と本発明の高分子凝集剤とをそれぞれに用い、凝集試験例-1と同様にして凝集処理を行った。その際、比較例5ではPAC(ポリ塩化アルミニム)を用い、比較例6では、PACと、アニオン系高分子凝集剤を組み合わせて使用した。また、比較例7では、このアニオン系高分子凝集剤のみを使用した。実施例5?8では、凝集試験例-1で使用した高分子凝集剤(凝集剤A)を使用し、その添加量を0.5?4.0mg/Lで変化させて、凝集試験例-1で行ったと同様にして凝集試験した。そして、上澄み水を処理水として、上澄み水(処理水)のSS濃度を測定して除去性を評価した。測定結果を、表3にまとめて示した。なお、この試験では、いずれも粗大SSの存在量が3000mg/L程度である廃水を使用した。
【0053】

【0054】
表3に示したように、従来の、廃水中の懸濁物質の凝集処理に用いられている比較例の凝集剤をそれぞれに用いた処理により得られた処理水SS濃度に比べて、本発明の実施例の高分子凝集剤を用いた処理により得られた処理水SS濃度は、明らかに低い値となった。また、その際に得られた実施例の処理水は、目視では濁りを認めることができない清澄なものであった。さらに、添加量を変化させた実施例5?8の結果から、凝集剤の添加量は、廃水中に0.5?4.0mg/L程度で足り、経済性を考慮し、より安定した十分な処理を行うためには、例えば、1.0?2.0mg/Lとすればよいことを確認した。このことから、本発明の高分子凝集剤を用いれば、廃水への添加量が少量であり、しかも無機凝集剤を併用するといった方法を採用することなく、従来の凝集剤の単独使用や一回の凝集処理によっては到底得ることができなかった優れた凝集・凝結・沈降の効果が得られることが確認された。
【0055】
[凝集試験例-5(L値と、廃水中における粗大SSの存在量と、効果の比較)]
上記の試験例1-4では、いずれも粗大SSの存在量が3000mg/L程度で一定の廃水を使用して行ったが、粗大SSの存在量が低い或いは高い廃水も存在することから、この点についての検討を行った。また、同時に、凝集剤の添加量をより少なくすることについての検討も行った。具体的には、懸濁物質として、粒子径が50μm以上あり且つ200μmには満たない粗大SSと、微細SSとを含む廃水を用意したが、その際、粗大SSの存在量が、500mg/L、1000mg/L、5000mg/Lと、異なる3種類の廃水を用意した。なお、処理前の廃水の微細SS濃度は、105mg/L程度で一定にした。また、凝集剤として、前記した一般式(1)、一般式(2)で表されるモノマーの両方を必須成分として5モル%以上を含む原料モノマーから誘導した、重量平均分子量が約400万?800万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量が1.5?4.8meq/gである、L値が、0.9、1.1、1.6、1.9、2.6、3.5及び5.3、とそれぞれ異なる7種類のカチオン性の共重合体を主成分とするものを用いた。
【0056】
そして、まず、各凝集剤の添加量を1.0mg/Lと少なくして、粗大SSの存在量が異なる上記3種類の廃水について凝集処理を行った。その結果、粗大SSの存在量によらず、図3に示したように、L値が1.3以上、好ましくは、1.8以上である場合に、高い凝集・凝結・沈降の効果が認められた。また、図3に示した結果から、微細SSと並存する粗大SSの存在量が、500?1000mg/Lと少ないよりも、5000mg/L程度と、その存在量を多い廃水の方が、高い凝集・凝結・沈降の効果が得られることがわかった。微細SSに並存する粗大SSの存在量が少ない場合は、凝集剤の添加量を増やすことで、効果の向上が図れることも確認した。
【0057】
[凝集試験例-6(実施例9?14、参考例15、比較例8?10)(原料モノマー、イオン性、N値、L値等についての検討)]
図3に示した結果から、粒子径が50μm以上あり且つ200μmには満たない粗大SSの廃水中における存在量を5000mg/Lとし、一方、粒径が50μmに満たない微細SSの濃度が50mg/Lの廃水を使用し、それぞれの高分子凝集剤の添加量を2mg/Lと処理条件を一定にして、さらなる試験を行った。その結果を表4にまとめて示した。
【0058】

【0059】
表4に示したように、使用した高分子凝集剤のN値が5?60の範囲において、いずれの高分子凝集剤も良好な凝集・凝結・沈降の効果が認められた。さらに、使用した高分子凝集剤のL値について検討した結果、N値が5?60の範囲内であっても、L値が1.5よりも小さい場合は、凝集・沈降効果に劣ることを確認した。L値が1.5以上、好ましくは2.5以上で良好な凝集・凝結・沈降の効果を示す理由は不明ではあるが、重量平均分子量をカチオンコロイド当量で除した値は、高分子凝集剤において重合度を示すと考えられ、重合度の大きな高分子凝集剤ほど、排水中の粗大粒子と微細な懸濁粒子の凝集において効果的であると推察される。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の活用例としては、本発明の高分子凝集剤を用いることで、例えば、製鐵所の連続鋳造工程における鋼材の直接冷却廃水、製鐵所の圧延工程における鋼材の直接冷却廃水、製鐵所の高炉、転炉、電炉工程における集塵廃水、製鐵所の屋外原料貯蔵ヤードから発生する雨水廃水、製鐵所の高炉滓から水砕スラグを得る際に発生する冷却廃水、或いは上水処理における取水、といった粗大SSと微細SSとが併存している状態の大量の廃水から、従来技術ではできなかった、粗大SSと微細SSとを同一の処理で、極めて迅速に凝集沈降させて取り除くことができるようになるので、その工業的価値は極めて高い。また、本発明の高分子凝集剤を用いることで、粗大SSと微細SSとを同一の処理で凝集沈降させた場合の上澄み水は、目視でも懸濁物質の残留が少なくなったことが明確に分かる濁りのない清澄なものであり、そのまま再度冷却水として利用することや、浄水場への導入することができるので、この点からも、その経済的な効果は極めて大きい。更に、本発明の高分子凝集剤と粗大なSSと微細SSとが凝結・凝集してなる沈殿物は、取り扱い易く、クラム重機で浚渫することができ、しかも強固に凝結したものとなるので、沈殿物の処理が大幅に簡略化でき、この点でも得られる経済的な効果は極めて大きい。本発明の高分子凝集剤は、粗大SSと微細SSとが併存している状態のいずれの廃水に対しても適用することが可能であるが、処理する廃水量が極めて多い、製鐵所において発生する、金属粉、水砕スラグ、小石、砂、泥、不溶性有機物、石炭粉、コークス粉、更に油分等の多種の懸濁物質を含む廃水に適用した場合や、上水処理の取水処理に適用した場合に、特に多大な効果が期待できる。更に、水中に粗大SSをほとんど含まない水に対しても、予め砂等を添加して粗大SSと微細SSとが併存した状態とし、これを本発明の高分子凝集剤を利用して処理することで、このような水を処理した場合にも同様の効果が期待できる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径が50μm以上の金属粉、石炭粉又はコークス粉の少なくともいずれかを含む、粒径が50μm以上の粗大な懸濁物質と、粒径が50μmに満たない微細な懸濁物質とが共存している、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の廃水に含有させることで、該廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって一緒に凝集沈降させる際に使用される前記懸濁物質の高分子凝集・沈降剤であって、
下記一般式(1)、下記一般式(2)で表されるモノマーのいずれか一方又は両方を必須成分として5モル%以上を含む原料モノマーから誘導される、重量平均分子量(Mw)が600万?1100万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量が1.2?3.4meq/gであるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、該共重合体の重量平均分子量(Mw)に、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)の2乗を乗じた値を、さらに100万で除した値をNとした場合に、N値が5?60であり、且つ、該共重合体の重量平均分子量(Mw)を、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)で除した値を、さらに100万で除した値をLとした場合に、L値が1.5以上であることを特徴とする懸濁物質の高分子凝集・沈降剤。

(上記式中の、R_(1)、R_(2)は、それぞれ独立にCH_(3)又はC_(2)H_(5)を表し、R_(3)は、H、CH_(3)又はC_(2)H_(5)のいずれかを表す。X^(-)は、アニオン性対イオンを表す。)
【請求項2】
削除
【請求項3】
粒径が50μm以上の金属粉、石炭粉又はコークス粉の少なくともいずれかを含む、粒径が50μm以上の粗大な懸濁物質と、粒径が50μmに満たない微細な懸濁物質とが共存している、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の廃水中に、請求項1に記載の懸濁物質の高分子凝集・沈降剤を、処理廃水に対する添加量が0.5mg/L以上となるように添加して、前記懸濁物質を同一の処理によって一緒に凝集沈降させることを特徴とする廃水中の懸濁物質の除去処理方法。
【請求項4】
前記廃水が製鉄工場で生じるものであり、廃水中の懸濁物質が、金属粉と油分とを含むものである請求項3に記載の廃水中の懸濁物質の除去処理方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-17 
出願番号 特願2015-116052(P2015-116052)
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (B01D)
P 1 651・ 853- YAA (B01D)
P 1 651・ 121- YAA (B01D)
P 1 651・ 113- YAA (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 目代 博茂  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 小川 進
金 公彦
登録日 2018-07-27 
登録番号 特許第6374352号(P6374352)
権利者 日鉄環境株式会社
発明の名称 懸濁物質の高分子凝集・沈降剤及び懸濁物質の除去処理方法  
代理人 岡田 薫  
代理人 菅野 重慶  
代理人 岡田 薫  
代理人 菅野 重慶  
代理人 近藤 利英子  
代理人 近藤 利英子  
代理人 竹山 圭太  
代理人 竹山 圭太  
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