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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E04F
審判 全部申し立て 2項進歩性  E04F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E04F
管理番号 1362357
異議申立番号 異議2019-700308  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-18 
確定日 2020-04-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6416044号発明「床材の製造方法及び床材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6416044号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕、4について訂正することを認める。 特許第6416044号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6416044号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成27年6月12日に出願され、平成30年10月12日にその特許権の設定登録がされ、平成30年10月31日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成31年 4月18日 :特許異議申立人内田照和による請求項1な いし4に係る特許に対する特許異議の申立 て
令和 1年 6月28日付け:取消理由通知書
令和 1年 8月29日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提 出
令和 1年10月 8日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和 1年10月31日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 1年12月27日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提 出
令和 2年 2月10日 :特許異議申立人による意見書の提出


第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。

(1)一群の請求項1ないし3に係る訂正
訂正前の請求項1ないし3について、請求項2及び3は、請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の記載を以下のとおりに訂正する。
「【請求項1】
アクリル系樹脂を主成分とするバインダー及び複数のガラス繊維を含み且つ前記ガラス繊維が前記バインダーにてバインドされているガラスシートを準備する工程、
前記ガラスシートにペースト塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂を付着させることにより、前記ガラスシートと前記バインダーを含むガラス繊維の表面に付着された前記接合樹脂とを有する樹脂付きガラスシートであって上下面に略直線的に連通した無数の開口を有し且つ通気度が80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secである樹脂付きガラスシートを準備する工程、
前記樹脂付きガラスシートの上面に上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に下側樹脂層を積層し、加熱加圧して上側樹脂層、ガラスシート及び下側樹脂層を一体化する工程、を有する床材の製造方法。」

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3の記載を以下のとおりに訂正する。
「【請求項3】
前記上側樹脂層及び下側樹脂層の少なくとも一方が、サスペンション塩化ビニル系樹脂を含む、請求項1または2に記載の床材の製造方法。」

ウ 訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0005】の記載を以下のとおりに訂正する。
「【0005】
本発明の床材の製造方法は、アクリル系樹脂を主成分とするバインダー及び複数のガラス繊維を含み且つ前記ガラス繊維が前記バインダーにてバインドされているガラスシートを準備する工程、前記ガラスシートにペースト塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂を付着させることにより、前記ガラスシートと前記バインダーを含むガラス繊維の表面に付着された前記接合樹脂とを有する樹脂付きガラスシートであって上下面に略直線的に連通した無数の開口を有し且つ通気度が80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secである樹脂付きガラスシートを準備する工程、前記樹脂付きガラスシートの上面に上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に下側樹脂層を積層し、加熱加圧して上側樹脂層、ガラスシート及び下側樹脂層を一体化する工程を有する。」

エ 訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0006】の記載を以下のとおりに訂正する。
「【0006】
本発明の好ましい床材の製造方法は、前記接合樹脂の目付量が、5g/m^(2)?105g/m^(2)である。
本発明の好ましい床材の製造方法は、前記上側樹脂層及び下側樹脂層の少なくとも一方が、サスペンション塩化ビニル系樹脂を含む。」

オ 訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0009】の記載を以下のとおりに訂正する。
「【0009】
本発明の製造方法によれば、ガラスシートと樹脂層の層間で剥離を生じ難い床材を得ることができる。また、本発明の方法によれば、加工温度を高める必要がなく、樹脂層の劣化が生じることもない。
本発明の好ましい製造方法によれば、上側樹脂層及び下側樹脂層の少なくとも一方がサスペンション塩化ビニル系樹脂を含んでいるので、より層間剥離が生じ難い床材を得ることができる。
また、本発明の床材は、ガラスシートと樹脂層の層間で剥離を生じ難いので、その敷設時に床材縁部が捲れることがなく、また、床材貼り替え時には、層間剥離を生じることなく既設の床材を床面から容易に引き剥がすことができる。」

(2)請求項4に係る訂正
ア 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4の記載を以下のとおりに訂正する。
「上側樹脂層と、
下側樹脂層と、
前記上側樹脂層と下側樹脂層の間に積層されたガラスシートであって、アクリル系樹脂を主成分とするバインダー及び複数のガラス繊維を含み且つ前記ガラス繊維が前記バインダーにてバインドされていると共に、前記ガラス繊維間に開口を有するガラスシートと、前記バインダーを含むガラス繊維の表面に付着されたペースト塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂と、を有する樹脂付きガラスシートと、を有し、
前記樹脂付きガラスシートには、その上下面に略直線的に連通した無数の開口が形成され、前記樹脂付きガラスシートの通気度が、80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secであり、
前記上側樹脂層及び下側樹脂層が、前記接合樹脂を介して前記ガラス繊維に接合されていると共に、前記樹脂付きガラスシートの開口を通じて直接的に接合されている、床材。」

イ 訂正事項7
願書に添付した明細書の段落【0007】の記載を以下のとおりに訂正する。
「【0007】
本発明の別の局面によれば、床材を提供する。
本発明の床材は、上側樹脂層と、下側樹脂層と、前記上側樹脂層と下側樹脂層の間に積層されたガラスシートであって、アクリル系樹脂を主成分とするバインダー及び複数のガラス繊維を含み且つ前記ガラス繊維が前記バインダーにてバインドされていると共に、前記ガラス繊維間に開口を有するガラスシートと、前記バインダーを含むガラス繊維の表面に付着されたペースト塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂と、を有する樹脂付きガラスシートと、を有し、前記樹脂付きガラスシートには、その上下面に略直線的に連通した無数の開口が形成され、前記樹脂付きガラスシートの通気度が、80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secであり、前記上側樹脂層及び下側樹脂層が、前記接合樹脂を介して前記ガラス繊維に接合されていると共に、前記樹脂付きガラスシートの開口を通じて直接的に接合されている。」

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1の「樹脂付きガラスシートを準備する工程」において用いられる「複数のガラス繊維を含むガラスシート」について「アクリル系樹脂を主成分とするバインダー及び複数のガラス繊維を含み且つ前記ガラス繊維が前記バインダーにてバインドされているガラスシートを準備する工程」により準備することを限定し、
訂正前のガラスシートに付着された「接合樹脂」について、「ペースト塩化ビニル系樹脂を含む」ことを限定し、
訂正前の「樹脂付きガラスシートを準備する工程」において用いられる「ガラスシートと前記ガラスシートに付着された接合樹脂とを有する樹脂付きガラスシート」について「前記ガラスシートと前記ガラスシートにペースト塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂を付着させることにより」準備することを限定し、
訂正前の「前記ガラスシートに付着された接合樹脂」について「前記ガラスシートと前記バインダーを含むガラス繊維の表面」に付着されたことを限定し、
訂正前の「上下面に略直線的に連通した無数の開口を有する樹脂付きガラスシート」について、「通気度が80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・sec」であることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加について
願書に添付された明細書の【0017】、【0025】、【0028】、【0033】、【0035】には次の記載がある。
「【0017】
各実施形態の床材1において、ガラスシート4は、複数のガラス繊維を含むガラス不織布又はガラス織布が用いられている。
ガラス不織布4aは、図8及び図9に示すように、複数のガラス繊維41が無秩序に上下方向に重なり又は絡み合い且つそれらが接着剤などのバインダーにてバインドされて又はそれら自身がバインドし合って層を成しているもの、或いは、特に図示しないが、複数のガラス繊維41がある程度の規則性を以て上下方向に重なり又は絡み合い且つそれらが接着剤などのバインダーにてバインドされて又はそれら自身がバインドし合って層を成しているものである。
前記バインダーとしては、ガラス繊維に対する接合性の高いものが好ましく、さらに、ガラス繊維及び接合樹脂5に対する接合性の高いものがより好ましい。このようなバインダーとしては、公知の樹脂を主成分とする接着剤を使用することができ、例えば、1液型接着剤、2液型接着剤、熱硬化型接着剤、ホットメルト型接着剤、紫外線硬化型接着剤などの電子線硬化型接着剤などが挙げられる。具体的には、ウレタン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合系、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂及びエポキシ系樹脂から選ばれる1種又は2種以上の混合物が例示される。」
「【0025】
本発明においては、前記ガラス不織布4a及びガラス織布4bなどのガラスシート4に接合樹脂5が付着されることにより、樹脂付きガラスシート6が構成されている。なお、接合樹脂5は、ガラス不織布などを構成する上記バインダーとは異なるものであることに留意されたい。
具体的には、図3に示すように、前記ガラスシート4のガラス繊維41には、接合樹脂5が付着されている。ただし、図3においては、ガラスシートとしてガラス不織布を用いた場合を示している。」
「【0028】
前記接合樹脂5は、ガラス繊維41の表面全体に付着されてもよく、或いは、多くのガラス繊維41の表面全体に付着され且つ残るガラス繊維41の表面の一部分に付着されていてもよい。なお、ガラス繊維41の表面とは、ガラスシート4を構成するガラス繊維41そのものの表面、及び、前記ガラス繊維41にバインダーが接合している場合にはそのバインダーの表面を含む意味である。
図示例では、接合樹脂5は、複数のガラス繊維41のうち多くのガラス繊維41の表面全体に付着され且つ残るガラス繊維41の表面の一部分に付着されている。」
「【0033】
樹脂付きガラスシート6の通気度は、ガラスシート4の通気度より小さい。具体的数値では、樹脂付きガラスシート6の通気度は、好ましくは80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secであり、より好ましくは100cc/cm^(2)・sec?400cc/cm^(2)・secである。上側樹脂層2と下側樹脂層3の接合性の向上させるためには、樹脂付きガラスシート6の開口率が大きいことが好ましいが、上述のように、強度や反り防止効果などを考慮すると、余りに大きな開口率を有するガラスシート4を用いることは適切ではない。それ故、上記のような通気度の範囲を有するガラスシート4を用いた場合には、樹脂付きガラスシート6の通気度は、80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secの範囲となるように設定することが好ましい。
このような通気度を有する樹脂付きガラスシート6は、その開口B内に上側樹脂層2及び下側樹脂層3を構成する樹脂材料が入り込み易く、開口Bを通じて上側樹脂層2と下側樹脂層3が直接的に接合し易くなる。
ただし、前記樹脂付きガラスシート6の通気度は、JIS L 1096通気性試験方法に準じて、株式会社東洋精器製作所製のフラジール型通気性試験機を用いて、測定対象の樹脂付きガラスシートを3枚重ねた状態で測定される値である。」
「【0035】
本発明の床材1は、ガラスシート4と上側樹脂層2の間及びガラスシート4と下側樹脂層3の間において層間剥離を生じ難い。
これは、ガラスシート4のガラス繊維41に接合樹脂5が付着されているので、その接合樹脂5がガラス繊維41と上側樹脂層2及び下側樹脂層3との間に介在し、上側樹脂層2及び下側樹脂層3が強固にガラスシート4に接合するためと推定される。
特に、接合樹脂5がペースト塩化ビニル系樹脂を含み、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の少なくとも一方がサスペンション塩化ビニル系樹脂を含む場合、上側樹脂層2及び下側樹脂層3が接合樹脂5を介してより強固にガラスシート4に接合し得る。
また、サスペンション塩化ビニル系樹脂は、ペースト塩化ビニル系樹脂に比して硬く且つ強度に優れているので、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の厚みを比較的小さくしても(つまり、床材1の厚みを小さくしても)、機械的強度に優れた床材1を得ることができる。例えば、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の双方がサスペンション塩化ビニル系樹脂を含み、接合樹脂5がペースト塩化ビニル系樹脂を含む場合、層間接合力を維持したまま床材1の厚みを比較的小さくすることもできる。」

上記の記載からみて【0017】には、「複数のガラス繊維を含むガラスシート」について、「アクリル系樹脂を主成分とするバインダー」を含み、前記「複数のガラス繊維」が前記「バインダー」にて「バインドされている」ことが記載されているといえる。
また、【0035】には、「接合樹脂」を「ペースト塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂」とすることが記載されているといえる。
また、【0025】及び【0028】には、接合樹脂が付着される対象について「ガラスシート4を構成するガラス繊維41そのものの表面」、及び、「前記ガラス繊維41にバインダーが接合している場合にはそのバインダーの表面」を含むことが記載されているから、接合樹脂は「前記ガラスシートと前記バインダーを含むガラス繊維の表面」に付着されることが記載されているといえる。
また、【0033】には、「樹脂付きガラスシートの通気度」を「樹脂付きガラスシート6の通気度」が「80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・sec」であることが記載されているといえる。

よって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2に係る請求項3についての訂正は、訂正事項1に係る請求項1が「接合樹脂」を「ペースト塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂」とする訂正がされたことにより重複する記載を削除したものであって、訂正後の請求項1の記載と請求項3の記載との関連性の不備を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

新規事項の追加について
上記アのとおり、訂正事項2に係る請求項3についての訂正は、訂正後の請求項1の記載と請求項3の記載の関連性の不備を整合させるものであり、発明の内容に変更を加えていないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項2は、上記アのとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、発明の内容に変更を加えていないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3に係る訂正は、明細書の発明の詳細な説明の記載と訂正事項1に係る訂正による訂正後の請求項1の記載とを整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

新規事項の追加について
上記アのとおり、訂正事項3に係る訂正は、発明の詳細な説明の記載と訂正事項1に係る訂正による訂正後の請求項1の記載とを整合させるための訂正であり、上記(1)イに示したように、訂正事項1は新規事項を追加するものではないから、訂正事項3に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項3は、上記アのとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4に係る訂正は、明細書の発明の詳細な説明の記載と訂正事項2に係る訂正による訂正後の請求項3の記載とを整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

新規事項の追加について
上記アのとおり、訂正事項4に係る訂正は、発明の詳細な説明の記載と訂正事項2に係る訂正による訂正後の請求項3の記載とを整合させるための訂正であり、上記(2)イに示したように、訂正事項2は新規事項を追加するものではないから、訂正事項4に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項4は、上記アのとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正事項5に係る訂正は、明細書の発明の詳細な説明の記載と訂正事項2に係る訂正による訂正後の請求項3の記載とを整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

新規事項の追加について
上記アのとおり、訂正事項5に係る訂正は、発明の詳細な説明の記載と訂正事項2に係る訂正による訂正後の請求項3の記載とを整合させるための訂正であり、上記(2)イに示したように、訂正事項2は新規事項を追加するものではないから、訂正事項5に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項5は、上記アのとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項6
ア 訂正の目的について
訂正事項6に係る請求項4についての訂正は、訂正前の請求項4の「複数のガラス繊維を含み且つガラス繊維間に開口を有するガラスシート」について、「アクリル系樹脂を主成分とするバインダー及び複数のガラス繊維を含み且つ前記ガラス繊維が前記バインダーにてバインドされている」ことを限定し、
訂正前の「前記ガラス繊維の表面に付着された接合樹脂」について「前記バインダーを含むガラス繊維の表面に付着されたペースト塩化ビニル系樹脂を含む」ことを限定し、
訂正前の「前記樹脂付きガラスシート」について、「前記樹脂付きガラスシートの通気度が、80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secであ」ることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加について
上記(1)イに摘記した本件特許明細書の記載からみて、【0017】には、「複数のガラス繊維を含むガラスシート」について、「アクリル系樹脂を主成分とするバインダー」を含み、前記「複数のガラス繊維」が前記「バインダー」にて「バインドされている」ことが記載されているといえる。
また、【0035】には、「接合樹脂」を「ペースト塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂」とすることが記載されているといえる。
また、【0025】及び【0028】には、接合樹脂が付着される対象について「ガラスシート4を構成するガラス繊維41そのものの表面」、及び、「前記ガラス繊維41にバインダーが接合している場合にはそのバインダーの表面」を含むことが記載されているから、接合樹脂は「前記バインダーを含む」ガラス繊維の表面に付着されることが記載されているといえる。
また、【0033】には、「樹脂付きガラスシートの通気度」を「樹脂付きガラスシート6の通気度は、好ましくは80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・sec」とすることが記載されているといえる。

よって、訂正事項6に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項6は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項7
ア 訂正の目的について
訂正事項7に係る訂正は、明細書の発明の詳細な説明の記載と訂正事項6に係る訂正による訂正後の請求項4の記載とを整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

新規事項の追加について
上記アのとおり、訂正事項7に係る訂正は、発明の詳細な説明の記載と訂正事項1に係る訂正による訂正後の請求項4の記載とを整合させるための訂正であり、上記(6)イに示したように、訂正事項6は新規事項を追加するものではないから、訂正事項7に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項7は、上記アのとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

4 一群の請求項、及び独立特許要件について
訂正前の請求項2は請求項1を引用し、請求項3は請求項1又は2を引用しているから、請求項2及び3は、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正がされるものである。そのため、請求項1ないし3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当する。
よって、訂正事項1ないし5の訂正は、一群の請求項〔1-3〕に対して請求されたものであり、訂正事項6及び7の訂正は、請求項4に対して請求されたものである。

そして、本件においては、訂正前の請求項1ないし4について特許異議の申立てがされているから、訂正事項1ないし7の訂正は、いずれも特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正であり、訂正事項1ないし7により特許請求の範囲の限定的減縮が行われていても、訂正後の請求項1?4に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

5 まとめ
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕及び請求項4について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし4に係る発明(以下、各々を「本件訂正発明1」等といい、請求項1ないし4に係る発明をまとめて「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

本件訂正発明1
「【請求項1】
アクリル系樹脂を主成分とするバインダー及び複数のガラス繊維を含み且つ前記ガラス繊維が前記バインダーにてバインドされているガラスシートを準備する工程、
前記ガラスシートにペースト塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂を付着させることにより、前記ガラスシートと前記バインダーを含むガラス繊維の表面に付着された前記接合樹脂とを有する樹脂付きガラスシートであって上下面に略直線的に連通した無数の開口を有し且つ通気度が80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secである樹脂付きガラスシートを準備する工程、
前記樹脂付きガラスシートの上面に上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に下側樹脂層を積層し、加熱加圧して上側樹脂層、ガラスシート及び下側樹脂層を一体化する工程、を有する床材の製造方法。」

本件訂正発明2
「【請求項2】
前記接合樹脂の目付量が、5g/m^(2)?105g/m^(2)である、請求項1に記載の床材の製造方法。」

本件訂正発明3
「【請求項3】
前記上側樹脂層及び下側樹脂層の少なくとも一方が、サスペンション塩化ビニル系樹脂を含む、請求項1または2に記載の床材の製造方法。」

本件訂正発明4
「【請求項4】
上側樹脂層と、
下側樹脂層と、
前記上側樹脂層と下側樹脂層の間に積層されたガラスシートであって、アクリル系樹脂を主成分とするバインダー及び複数のガラス繊維を含み且つ前記ガラス繊維が前記バインダーにてバインドされていると共に、前記ガラス繊維間に開口を有するガラスシートと、前記バインダーを含むガラス繊維の表面に付着されたペースト塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂と、を有する樹脂付きガラスシートと、を有し、
前記樹脂付きガラスシートには、その上下面に略直線的に連通した無数の開口が形成され、前記樹脂付きガラスシートの通気度が、80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secであり、
前記上側樹脂層及び下側樹脂層が、前記接合樹脂を介して前記ガラス繊維に接合されていると共に、前記樹脂付きガラスシートの開口を通じて直接的に接合されている、床材。」


第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし4に係る特許に対して、当審が令和1年10月31日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

訂正前の請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第19号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、訂正前の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 甲号証の記載
(1)甲第1号証(特開平02-025328号公報)の記載
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。以下、同様。)。

ア 「2.特許請求の範囲
(1)塩化ビニル樹脂シートの層間にガラス繊維不織布が挟持されてなる塩化ビニル樹脂積層材において、該ガラス繊維不織布が塩化ビニル系樹脂エマルジョンにより結合されており、かつ単位面積当たりのガラス繊維の総表面積が5以下であって、塩化ビニル樹脂シートに対するガラス繊維の重量比が0.7%以上であることを特徴とする塩化ビニル樹脂積層材。
(2)ガラス繊維不織布に結合材としてポリビニルアルコール繊維が使用されている請求項1に記載の塩化ビニル樹脂積層材。」(第1頁左下欄第4?15行)

イ 「[産業上の利用分野]
本発明は、塩化ビニル樹脂積層材に関し、とくにガラス繊維不織布により寸法安定性を付与された、タイル床材、防水シートなどに使用される塩化ビニル樹脂積層材に関する。」(第1頁左下欄下から3行?右下欄第2行)

ウ 「[課題を解決するための手段]
本発明は、塩化ビニル樹脂シートの層間にガラス繊維不織布が挟持されてなる塩化ビニル樹脂積層材において、該ガラス繊維不織布が塩化ビニル系樹脂エマルジョンにより結合されており、かつ単位面積当たりのガラス繊維の総表面積が5以下であって、塩化ビニル樹脂シートに対するガラス繊維の重量比が0.7%以上であることを特徴とする塩化ビニル樹脂積層材に関する。
[作用]
すなわち、本発明の塩化ビニル樹脂積層材では、ガラス繊維不織布の結合剤として、塩化ビニル系樹脂エマルジョンを用いており、これは同時に塩化ビニル樹脂シートとガラス繊維不織布との接着剤としても働くため、塩化ビニルゾルを含浸するなどの特別な処理工程を経ずに、寸法安定性と良好な剥離強度とを有する塩化ビニル樹脂積層材が製造できる。これは、塩化ビニル系樹脂エマルジョンが繊維表面を被覆するようにして付着するため、単にガラス繊維同士を結合するだけでなく、上下の塩化ビニル樹脂シートが接着する際にガラス繊維との親和性を高くするからだと考えられる。
なお、この場合、ガラス繊維不織布内に塩化ビニル樹脂シートが十分に入り込んでいないと、必要とする剥離強度が得られないので、ガラス繊維不織布にはある程度の空隙がなければならない。この空隙部は、ガラス繊維不織布の単位面積当たりのガラス繊維の総表面積の値で規定される。本発明では、塩化ビニル樹脂シートがガラス繊維不織布の層内に入り込み、十分な剥離強度が得られるように、単位面積当たりのガラス繊維の総表面積が5以下となるようなガラス繊維不織布が使用されている。また、これと同時に本発明の塩化ビニル樹脂積層材においては、塩化ビニル樹脂シートに対するガラス繊維の重量比を0.7%以上としているため、良好な寸法安定性も満足することができる。」(第2頁左上欄下から6行?左下欄第12行)

エ 「本発明の塩化ビニル樹脂積層材は、塩化ビニル樹脂シートの層間にガラス繊維不織布が挟持された構造となっている。
塩化ビニル樹脂シートには、塩化ビニル樹脂を主体とするコンパウンドをシート状にしたものが使用され、用途に応じてDOP(ジオクチルフタレート)、DBP(ジブチルフタレート)などの可塑剤や炭酸カルシウム、クレーなどの充填剤が添加される。
本発明のガラス繊維不織布には、ガラス繊維を塩化ビニル系樹脂エマルジョンで接着したものが使用される。この塩化ビニル系樹脂エマルジョンとしては、塩化ビニル樹脂、エチレン-塩化ビニル重合体、アクリル-塩化ビニル重合体、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体、及びこれらの変成体を主体とするエマルジョンが好適に使用される。ガラス繊維不織布に必要な強度を持たせ、かつ塩化ビニル樹脂シートとの接着力を高めるために、塩化ビニル系樹脂の付着量はガラス繊維不織布の少なくとも3重量%以上必要であるが、樹脂の付着量の割合があまり大きくなると相対的に繊維の量が減って寸法安定性が低下するため50重量%は超えない方がよい。とくに好ましい塩化ビニル系樹脂の付着量は15?35重量%である。
塩化ビニル樹脂系エマルジョンは、浸漬法、スプレー法などの公知の接着剤の付与手段により、ガラス繊維ウェブに付与される。この内とくに、湿式抄造により得られたガラス繊維ウェブに、ウェブが湿潤状態にある間にスプレー法によって付与する手段が望ましく、この様な手段によれば、ウェブ上の水分を利用して、エマルジョンをウェブ表面に速やかに拡散させ、塩化ビニル系樹脂をできるだけ均一に繊維表面に被膜状に付着できるのでよい。
また、本発明に使用するガラス繊維不織布は、単位面積当たりに含まれるガラス繊維の総表面積が5以下でなければならない。これは、上記の値がガラス繊維不織布の空隙部、とくに不織布面を垂直な方向からみた場合に貫通している空隙部の量を示す指標となっており、この値が5を超えると、この空隙部が非常に少なくなっているということを示すからである。すなわち、不織布に空隙部が少ないと、塩化ビニル樹脂シートは不織布内へ入り込みにくくなるため、いかに塩化ビニル樹脂系エマルジョンを繊維表面に付着せしめて親和性を高めても、ガラス繊維不織布層で剥離が起こり、十分な剥離強度が得られなくなるのである。」(第2頁左下欄下から5行?第3頁右上欄第2行)

オ 「なお、ガラス繊維ウェブ中には、湿潤時のシート強度を高め、製造時の取り扱い性を良くするために、ポリビニルアルコール繊維を加えてもよい。これらの繊維状接着剤は、塩化ビニル樹脂シートとガラス繊維不織布とを接着する際に影響をうけないので、貼り合わせ時の寸法変化を押える働きもする。」(第3頁右下欄第11?17行)

カ 「(実施例1)
ポリエチレンオキサイドを0.2%含む水溶液に、抄紙用ガラス繊維(平均繊維径17μm、繊維長25mm)を分散して、ガラス繊維分散液を作成した。このガラス繊維分散液を20cm×25cmの角型手抄きマシンで抄紙してガラス繊維ウェブを得た。
次いで、このガラス繊維ウェブに、ポリ塩化ビニル樹脂(可塑剤としてDOPを35重量部含む)エマルジョンをスプレー法により付着させ、乾燥して、目付52g/m^(2)、ガラス繊維重量41.6g/m^(2)、樹脂重量10.4g/m^(2)のガラス繊維不織布を得た。
このようにして得られたガラス繊維不織布を、ポリ塩化ビニル100重量部、DOP20重量部、炭酸カルシウム150重量部とからなる重量800g/m^(2)の塩化ビニル樹脂シートを6枚積層したものの3層目と4層目の間に挟み込み、温度160℃、圧力8kg/cm^(2)の条件で、5分間プレスし、厚さ約3mmの塩化ビニル樹脂積層材を得た。」(第3頁右下欄下から3行?第4頁左上欄第15行)

キ 「(比較例2)
ポリエチレンオキサイドを0.2%含む水溶液に、抄紙用ガラス繊維(平均繊維径17μm、繊維長25mm)を分散して、ガラス繊維分散液を作成した。このガラス繊維ウェブ20cm × 25cmの角型手抄きマシンで抄紙してガラス繊維ウェブを得た。
次いで、このガラス繊維ウェブに、酢酸ビニル樹脂エマルジョンをスプレー法により付着させ、乾燥して、目付51.6g/m^(2)、ガラス繊維重量41.6g/m^(2)、樹脂重量10.0g/m^(2)のガラス繊維不織布を得た。
・・・(中略)・・・
(比較例3)
ポリエチレンオキサイドを0.2%含む水溶液液に、抄紙用ガラス繊維(平均繊維径17μm、繊維長25mm)を分散して、ガラス繊維分散液を作成した。このガラス繊維分散液を20cm × 25cmの角型手抄きマシンで抄紙してガラス繊維ウェブを得た。
次いで、このガラス繊維ウェブに、尿素樹脂エマルジョンをスプレー法により付着させ、乾燥して、目付52.7g/m^(2)、ガラス繊維重量41.6g/m^(2)、樹脂重量11.1g/m^(2)のガラス繊維不織布を得た。
・・・(中略)・・・
第1表から明らかなように、ガラス繊維不織布を用いない比較例1と、用いる実施例1との間には寸法安定性に大きな差が見られる。また、ガラス繊維不織布の接着剤のみを変更した、比較例2,3では、寸法安定性では大きな差は見られないが、剥離強度の点で劣り、実用に耐えないものであった。」(第4頁右下欄第6行?第5頁右上欄第8行)

ク 「(実施例2)
抄紙用ガラス繊維に、平均繊維径23μm、繊維長25mmを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作により、目付46.6g/m^(2)、ガラス繊維重量38.2g/m^(2)、樹脂重量8.4g/m^(2)のガラス繊維不織布を得た。
この後、実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂積層材を作成した。」(第5頁左下欄第1?7行)

ケ 「(実施例3)
抄紙用ガラス繊維に、平均繊維径13μm、繊維長25mmを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作により、目付49.4g/m^(2)、ガラス繊維重量39.5g/m^(2)、樹脂重量9.9g/m^(2)のガラス繊維不織布を得た。
この後、実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂積層材を作成した。」(第5頁左下欄下から7行?同欄最下行)

コ 「[発明の効果]
本発明の塩化ビニル樹脂積層材は、上述のごとき構成からなるため、以下のような効果を有する。
○1(当審注:○1は○の中に1。)ガラス繊維不織布の結合剤に塩化ビニル樹脂エマルジョンを用いているため、塩化ビニル樹脂シートとガラス繊維不織布との接着性がよくなっており、かつガラス繊維不織布の単位面積当たりのガラス繊維の総表面積は5以下であるため、ガラス繊維不織布には塩化ビニルシートが食い込むための十分な空隙があるので、塩化ビニル樹脂積層材は良好な剥離強度を有する。」(第6頁左下欄第3?13行)

サ 甲第1号証に記載された発明
(ア)上記ア?コからみて、甲第1号証には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「ポリエチレンオキサイドを0.2%含む水溶液に、抄紙用ガラス繊維(平均繊維径17μm、繊維長25mm)を分散して、ガラス繊維分散液を作成し、当該ガラス繊維分散液を20cm×25cmの角型手抄きマシンで抄紙してガラス繊維ウェブを得て、
ガラス繊維ウェブ中には、湿潤時のシート強度を高め、製造時の取り扱い性を良くするために、結合材として、繊維状接着剤であるポリビニルアルコール繊維を加え、
ガラス繊維不織布に必要な強度を持たせ、かつ塩化ビニル樹脂シートとの接着力を高めるために、前記ガラス繊維ウェブに、ポリ塩化ビニル樹脂(可塑剤としてDOPを35重量部含む)エマルジョンをスプレー法により付着させ、乾燥して、目付52g/m^(2)、ガラス繊維重量41.6g/m^(2)、樹脂重量10.4g/m^(2)であり、不織布面を垂直な方向からみた場合に貫通している空隙部が、塩化ビニル樹脂シートがガラス繊維不織布の層内に入り込みにくく、十分な剥離強度が得られなくならないように、単位面積当たりのガラス繊維の総表面積が5以下となる空隙を有しているガラス繊維不織布を得て、
前記得られたガラス繊維不織布を、ポリ塩化ビニル100重量部、DOP20重量部、炭酸カルシウム150重量部とからなる重量800g/m^(2)の塩化ビニル樹脂シートを6枚積層したものの3層目と4層目の間に挟み込み、温度160℃、圧力8kg/cm^(2)の条件で、5分間プレスし、厚さ約3mmの塩化ビニル樹脂積層材を得て、
前記ガラス繊維不織布の結合剤として、塩化ビニル系樹脂エマルジョンを用いており、当該塩化ビニル系樹脂エマルジョンは同時に塩化ビニル樹脂シートとガラス繊維不織布との接着剤としても働くため、寸法安定性と良好な剥離強度とを有する塩化ビニル樹脂積層材が製造できる、
タイル床材に使用される塩化ビニル樹脂積層材を得る方法。」

(イ)上記ア?コからみて、甲第1号証には以下の物の発明(以下「甲1物発明」という。)が記載されている。
「ポリ塩化ビニル100重量部、DOP20重量部、炭酸カルシウム150重量部とからなる重量800g/m^(2)の塩化ビニル樹脂シートを6枚積層したものの3層目と4層目の間に挟み込まれたガラス繊維ウェブであって、当該ガラス繊維ウェブには、湿潤時のシート強度を高め、製造時の取り扱い性を良くするために、結合材として、繊維状接着剤であるポリビニルアルコール繊維が加えられており、不織布面を垂直な方向からみた場合に貫通している空隙部を有しているガラス繊維ウェブと、前記ガラス繊維ウェブに付着させるポリ塩化ビニル樹脂(可塑剤としてDOPを35重量部含む)エマルジョンと、を有するガラス繊維不織布と、を有し、
前記ポリ塩化ビニル樹脂エマルジョンが付着したガラス繊維不織布は、不織布面を垂直な方向からみた場合に貫通している空隙部が、塩化ビニル樹脂シートがガラス繊維不織布の層内に入り込みにくく、十分な剥離強度が得られなくならないように、単位面積当たりのガラス繊維の総表面積が5以下となる空隙を有しており、
上記塩化ビニル樹脂シートを6枚積層したものの3層目と4層目は、温度160℃、圧力8kg/cm^(2)の条件で、5分間プレスして、ガラス繊維不織布の層内に入り込んでいる、床材に使用される塩化ビニル樹脂積層材。」

(2)甲第19号証(特開平05-163824号公報)の記載
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第19号証には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【技術分野】本発明は、ガラス繊維層を含む塩化ビニル系樹脂床材に関する。」

イ 「【0004】
【構成】本発明の第1は、塩化ビニル系樹脂シートの少なくとも片面に、ガラス繊維層を含む架橋塩化ビニル系樹脂層を有することを特徴とする床材に関する。本発明の第2は、架橋剤を配合した塩化ビニル系樹脂ペーストを合浸したガラス繊維層を塩化ビニル系樹脂シートと重ね合せた後、加熱加圧することを特徴とする請求項1記載の床材を製造する方法に関する。
【0005】本発明における塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル重合体、塩化ビニルと塩化ビニリデン、酢酸ビニルなどとの共重合体など各種の塩化ビニルを主成分とする共重合体を包含する。塩化ビニル系樹脂ペーストとしては、たとえば、昭和52年12月20日日刊工業新聞社発行、「プラスチック加工技術便覧(新版)」ペースト加工の項に記載されているように公知のペーストを使用することができる。」

ウ 「【0007】ガラス繊維層としては、ガラス繊維不織布、織布等を例示することができる。ガラス繊維は、公知のシラン系あるいはチタン系カップリング剤であらかじめ処理しておくこともできる。本発明は、通常長尺物を意図するものであるが、これを所定の大きさに打抜いてタイルとして使用することもできる。」

エ 「【0008】
【実施例】
実施例1
配合表1の組成よりなる架橋塩化ビニル系樹脂ペーストをリバースコーター、ディップコーター、あるいはグラビアコーターなど適宜のコーターを用いてガラス繊維不織布に塗布処理した。塗布量は300g/m^(2)とした。この状態での不織布の厚さは約0.4mmであった。配合表2の組成よりなる厚さ約0.8mmのポリ塩化ビニルシートを前記架橋塩化ビニル系樹脂ペースト含浸ガラス繊維不織布2の上下両面重ね合せ、全体の厚さ約2mmの長尺床材を得た。
【表1】
配合表1 架橋性PVCペースト
┏━━━━━━━━━━━━┳━━━━━┓
┃PVCペーストレジン ┃ 100┃
┃可塑剤DHP ┃ 50┃
┃パッケージ安定剤 ┃ 2┃
┃DB ┃ 5┃
┗━━━━━━━━━━━━┻━━━━━┛
【表2】
配合表2 積層用PVCシート
┏━━━━━━━━━━━━━┳━━━━┓
┃PVCサスペンジョンレジン┃ 100┃
┃可塑剤DOP ┃ 36┃
┃安定剤 ┃ 3┃
┃炭酸カルシウム ┃ 20┃
┗━━━━━━━━━━━━━┻━━━━┛
具体的製造方法は、図1に示すようにガラス不織布2はコーター4により架橋性PVCペーストで処理されラミネータへと入って行く。PVCシート1、2はそれぞれの赤外ヒータ5、6によりプレヒートされ中間に架橋性PVCペースト含浸ガラスシートを挾み込んだ後、ラミネータ7、8へと送られ、製品となる。従って架橋反応は7で開始されドラム8で完結する。」

オ 甲第19号証に記載された発明
上記ア?エからみて、甲第19号証には以下の発明(以下「甲19発明」という。)が記載されている。
「ガラス繊維不織布と、前記ガラス繊維不織布に塗布処理した架橋塩化ビニル系樹脂ペーストとを有する架橋塩化ビニル系樹脂ペースト含浸ガラス繊維不織布を得て、
前記架橋塩化ビニル系樹脂ペースト含浸ガラス繊維不織布の上下両面に、赤外ヒータによりプレヒートされたポリ塩化ビニルシートを重ね合せ、ラミネータへと送られてガラス繊維層を含む塩化ビニル系樹脂床材の製品を製造する方法において、
前記架橋塩化ビニル系樹脂ペーストが、PVCペーストレジンを含む組成であり、
前記ポリ塩化ビニルシートが、PVCサスペンジョンレジンを含む組成である、
ガラス繊維層を含む塩化ビニル系樹脂床材の製品を製造する方法」

3 当審の判断
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明における「分散」される「抄紙用ガラス繊維」、「ガラス繊維ウェブ」は、本件訂正発明1における「複数のガラス繊維」、「ガラスシート」に相当する。

(イ)甲1発明における「ガラス繊維ウェブ中」に、「湿潤時のシート強度を高め、製造時の取り扱い性を良くするために」、「結合材」として加えられる「繊維状接着剤であるポリビニルアルコール繊維」と、本件訂正発明1における「アクリル系樹脂を主成分とするバインダー」とは、「バインダー」である点で共通する。
なお、甲1発明においては、「ポリビニルアルコール繊維」について、上記2(1)アに摘記したように「結合材」として記載されているとともに、上記2(1)オに摘記したように「繊維状接着剤」として記載されている。
このことは、「ポリ塩化ビニル樹脂エマルジョン」について、上記2(1)ウに摘記したように「ガラス繊維不織布の結合剤」と記載されるとともに、上記2(1)エに摘記したように「ガラス繊維不織布」は「ガラス繊維を塩化ビニル系樹脂エマルジョンで接着したもの」と記載され、また、上記2(1)キに摘記したように、比較例2及び比較例3において変更したものが「ガラス繊維不織布の接着剤」として記載されているように、「結合」と「接着」の用語を併用していることと同様であり、「ポリビニルアルコール繊維」はガラス繊維を結合するものであると解することが自然である。
そうすると、甲1発明における「ポリビニルアルコール繊維」は、「ポリ塩化ビニル樹脂エマルジョン」と同様に、ガラス繊維を結合する結合剤、すなわちガラス繊維を「バインド」する「バインダー」である。

(ウ)上記(ア)及び(イ)からみて、甲1発明における「ポリエチレンオキサイドを0.2%含む水溶液に、抄紙用ガラス繊維(平均繊維径17μm、繊維長25mm)を分散して、ガラス繊維分散液を作成し、当該ガラス繊維分散液を20cm×25cmの角型手抄きマシンで抄紙してガラス繊維ウェブを得て、
ガラス繊維ウェブ中には、湿潤時のシート強度を高め、製造時の取り扱い性を良くするために、結合材として、繊維状接着剤であるポリビニルアルコール繊維を加え」ることと、
本件訂正発明1における「アクリル系樹脂を主成分とするバインダー及び複数のガラス繊維を含み且つ前記ガラス繊維が前記バインダーにてバインドされているガラスシートを準備する工程」とは、
「バインダー及び複数のガラス繊維を含み且つ前記ガラス繊維が前記バインダーにてバインドされているガラスシートを準備する工程」である点で共通する。

(エ)甲1発明における「ポリ塩化ビニル樹脂(可塑剤としてDOPを35重量部含む)エマルジョン」と、本件訂正発明1における「ペースト塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂」とは、「塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂」である点で共通する。

(オ)甲1発明における「ガラス繊維不織布に必要な強度を持たせ、かつ塩化ビニル樹脂シートとの接着力を高めるため」に「ガラス繊維ウェブに、ポリ塩化ビニル樹脂(可塑剤としてDOPを35重量部含む)エマルジョンをスプレー法により付着させ」ることと、本件訂正発明1における「前記ガラスシートにペースト塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂を付着させる」こととは、「前記ガラスシートに塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂を付着させる」点で共通する。

(カ)甲1発明において、上記(ウ)のようにして得られた「結合材として、繊維状接着剤であるポリビニルアルコール繊維を加え」られた「ガラス繊維ウェブ」に、上記(オ)のように「ポリ塩化ビニル樹脂エマルジョンをスプレー法により付着させ」ることによって、「結合材」が加えられた「ガラス繊維ウェブ」に「塩化ビニル樹脂が付着」した「塩化ビニル樹脂付きガラス繊維ウェブ」が得られる。
このようにして得られた「塩化ビニル樹脂付きガラス繊維ウェブ」は、本件訂正発明1における「前記ガラスシートと前記バインダーを含むガラス繊維の表面に付着された前記接合樹脂とを有する樹脂付きガラスシート」に相当する。

(キ)甲1発明における「樹脂重量10.4g/m^(2)であり、不織布面を垂直な方向からみた場合に貫通している空隙部が、塩化ビニル樹脂シートがガラス繊維不織布の層内に入り込みにくく、十分な剥離強度が得られなくならないように、単位面積当たりのガラス繊維の総表面積が5以下となる空隙を有しているガラス繊維不織布」と、
本件訂正発明1における「上下面に略直線的に連通した無数の開口を有し且つ通気度が80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secである樹脂付きガラスシート」とは、
「上下面に略直線的に連通した無数の開口を有する樹脂付きガラスシート」である点で共通する。

(ク)上記(ウ)?(キ)からみて、甲1発明における「ガラス繊維不織布に必要な強度を持たせ、かつ塩化ビニル樹脂シートとの接着力を高めるために、前記ガラス繊維ウェブに、ポリ塩化ビニル樹脂(可塑剤としてDOPを35重量部含む)エマルジョンをスプレー法により付着させ、乾燥して、目付52g/m^(2)、ガラス繊維重量41.6g/m^(2)、樹脂重量10.4g/m^(2)であり、不織布面を垂直な方向からみた場合に貫通している空隙部が、塩化ビニル樹脂シートがガラス繊維不織布の層内に入り込みにくく、十分な剥離強度が得られなくならないように、単位面積当たりのガラス繊維の総表面積が5以下となる空隙を有しているガラス繊維不織布を得」ることと、
本件訂正発明1における「前記ガラスシートにペースト塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂を付着させることにより、前記ガラスシートと前記バインダーを含むガラス繊維の表面に付着された前記接合樹脂とを有する樹脂付きガラスシートであって上下面に略直線的に連通した無数の開口を有し且つ通気度が80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secである樹脂付きガラスシートを準備する工程」とは、
「前記ガラスシートに塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂を付着させることにより、前記ガラスシートと前記バインダーを含むガラス繊維の表面に付着された前記接合樹脂とを有する樹脂付きガラスシートであって上下面に略直線的に連通した無数の開口を有する樹脂付きガラスシートを準備する工程」である点で共通する。

(ケ)甲1発明における「塩化ビニル樹脂シートを6枚積層したものの3層目と4層目の間に挟み込」むことは、本件訂正発明1における「前記樹脂付きガラスシートの上面に上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に下側樹脂層を積層」することに相当する。

(コ)上記(ケ)からみて、甲1発明における「前記得られたガラス繊維不織布を、ポリ塩化ビニル100重量部、DOP20重量部、炭酸カルシウム150重量部とからなる重量800g/m^(2)の塩化ビニル樹脂シートを6枚積層したものの3層目と4層目の間に挟み込み、温度160℃、圧力8kg/cm^(2)の条件で、5分間プレスし、厚さ約3mmの塩化ビニル樹脂積層材を得」ることは、
本件訂正発明1における「前記樹脂付きガラスシートの上面に上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に下側樹脂層を積層し、加熱加圧して上側樹脂層、ガラスシート及び下側樹脂層を一体化する工程」に相当する。

(サ)甲1発明における「タイル床材に使用される塩化ビニル樹脂積層材を得る方法」は、本件訂正発明1における「床材の製造方法」に相当する。

(シ)以上(ア)?(サ)を踏まえると、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「バインダー及び複数のガラス繊維を含み且つ前記ガラス繊維が前記バインダーにてバインドされているガラスシートを準備する工程と、
前記ガラスシートに塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂を付着させることにより、前記ガラスシートと前記バインダーを含むガラス繊維の表面に付着された前記接合樹脂とを有する樹脂付きガラスシートであって上下面に略直線的に連通した無数の開口を有する樹脂付きガラスシートを準備する工程と、
前記樹脂付きガラスシートの上面に上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に下側樹脂層を積層し、加熱加圧して上側樹脂層、ガラスシート及び下側樹脂層を一体化する工程、を有する床材の製造方法。」

・相違点1
ガラスシートのガラス繊維が、本件訂正発明1においては、アクリル系樹脂を主成分とするバインダーにてバインドされているのに対して、甲1発明においては、「結合材」として加えられる「繊維状接着剤であるポリビニルアルコール繊維」によってバインドされている点。

・相違点2
塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂が、本件訂正発明1においては「ペースト塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂」であるのに対して、甲1発明においては「塩化ビニル樹脂エマルジョン」であり、当該塩化ビニル樹脂エマルジョンがペーストであることは特定していない点。

・相違点3
樹脂付きガラスシートが、本件訂正発明1においては、通気度が80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secであるのに対し、甲1発明においては、通気度は特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、まず上記相違点3について検討する。

甲1発明においては、ガラス繊維ウェブに、ポリ塩化ビニル樹脂エマルジョンをスプレー法により付着させて、不織布面を垂直な方向からみた場合に貫通している空隙部が、塩化ビニル樹脂シートがガラス繊維不織布の層内に入り込み、十分な剥離強度が得られるように、単位面積当たりのガラス繊維の総表面積が5以下となる空隙を有しているガラス繊維不織布を得ているものの、前記空隙部として、通気度が80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secとすることは記載されておらず、示唆もされていない。
また、甲19号証にも、架橋塩化ビニル系樹脂ペースト含浸ガラス繊維不織布の通気度を80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secとすることは記載も示唆もされていない。
他に、甲1発明における空隙部として、通気度が80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secとすることを示唆する証拠はない。

そうすると、甲1発明における空隙部として、通気度が80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secとすることに動機付けがあるといえないから、当業者であっても容易に想到し得たことであるということはできない。

他に、本件訂正発明1が、甲1発明、甲19発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認めるべき特段の事情もない。

以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明、甲19発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)本件訂正発明2及び3について
本件訂正発明2及び3は、本件訂正発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに限定する事項を含むものであるから、本件訂正発明1と同じ理由により、甲1発明、甲19発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(3)本件訂正発明4について
ア 対比
本件訂正発明4と甲1物発明を対比する。
上記(1)アにおける本件訂正発明1と甲1発明との対比を踏まえると、本件訂正発明4と甲1物発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「上側樹脂層と、
下側樹脂層と、
前記上側樹脂層と下側樹脂層の間に積層されたガラスシートであって、バインダー及び複数のガラス繊維を含み且つ前記ガラス繊維が前記バインダーにてバインドされていると共に、前記ガラス繊維間に開口を有するガラスシートと、前記バインダーを含むガラス繊維の表面に付着された塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂と、を有する樹脂付きガラスシートと、を有し、
前記樹脂付きガラスシートには、その上下面に略直線的に連通した無数の開口が形成され、前記樹脂付きガラスシートの通気度が、80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secであり、
前記上側樹脂層及び下側樹脂層が、前記接合樹脂を介して前記ガラス繊維に接合されている床材。」

・相違点A
ガラスシートのガラス繊維が、本件訂正発明4においては、アクリル系樹脂を主成分とするバインダーにてバインドされているのに対して、甲1物発明1においては、「結合材」として加えられる「繊維状接着剤であるポリビニルアルコール繊維」によってバインドされている点。

・相違点B
樹脂付きガラスシートが、本件訂正発明4においては、通気度が80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secであるのに対し、甲1物発明においては、通気度は特定されていない点。

・相違点C
本件訂正発明4においては、上側樹脂層及び下側樹脂層が、樹脂付きガラスシートの開口を通じて直接的に接合されているのに対し、甲1物発明においては、塩化ビニル樹脂シートの3層目及び塩化ビニル樹脂シートの4層目が、ガラス繊維不織布の空隙部を通じて直接的に接合されていることを特定していない点。

イ 判断
事案に鑑み、まず上記相違点Bについて検討する。

相違点Bは、上記相違点3と同様の相違点であり、相違点3については、上記(1)イに示したとおりである。

そうすると、甲1物発明における空隙部として、通気度が80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secとすることは、当業者であっても容易に想到し得たことであるということはできない。

他に、本件訂正発明4が、甲1物発明、甲19発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認めるべき特段の事情もない。

以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明4は、甲1物発明、甲19発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(4)特許異議申立人の意見について
ア 特許異議申立人は、令和2年2月10日付け意見書において、「しかしながら、「通気度が80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secである樹脂付きガラスシート」については、平成31年4月18日付け特許異議申立書に添付して提出した甲第14号証(特開平11-193620号公報)に開示されているように、これも本件出願の出願日前から公知の周知慣用技術であり、当該事項を単に適用したものに過ぎない。」との意見を述べている(意見書第5頁第9?13行)。

イ 甲第14号証には、下記の記載がある。
「【0019】また、上記したように、補強材は、クッション層中(クッション層の表面近傍中)もしくは表面化粧層とクッション層とを接着する作用を有する合成樹脂層中に埋没している状態としたものの方が、表面化粧層の強度が高い床材を得ることができるので、クッション層を構成する合成樹脂組成物等もしくは表面化粧層とクッション層とを接着する作用を有する合成樹脂組成物が通り抜け可能な補強材が好適である。このような補強材として具体的には、6枚重ねた状態で測定した通気度が150cc/cm^(2)以上の織布、不織布、編布、紙、等が使用できる。特に、30?1000デニールの繊維からなる織布のように、クッション層を構成する合成樹脂組成物等もしくは表面化粧層とクッション層とを接着する作用を有する合成樹脂組成物が容易に通り抜け可能なものが好適である。このような補強材であれば、クッション層を構成する合成樹脂組成物もしくは表面化粧層とクッション層とを接着する作用を有する合成樹脂組成物が、加熱溶融状態の合成樹脂組成物、合成樹脂ペースト、合成樹脂エマルジョン、ゴムラテックスのいずれであっても通り抜け可能であり、表面化粧層の強度が高い床材を得ることが可能となる。」
「【0024】〔実施例2〕補強材を、坪量20g/cm^(2)のポリエステル不織布(6枚重ねた状態で測定した通気度が約170cc/cm^(2)、引張強度4.6kg/5cm)に代える以外は、実施例1と同様にしてクッション性床材を得た。」

ウ 甲第14号証には、6枚重ねた状態で測定した通気度が150cc/cm^(2)以上の織布、不織布、編布、紙、等や、6枚重ねた状態で測定した通気度が約170cc/cm^(2)のポリエステル不織布を使用して補強材とすることは記載されているものの、上記の通気度は、樹脂が付着していない補強剤の通気度であって、樹脂付きガラスシートの通気度を示唆するものではない。
また、上記補強材は、合成樹脂層中に埋没しているから、補強材が通気度を有するとしても、合成樹脂層に埋没した補強材が開口を有するということはないから、樹脂付きガラスシートが上記の通気度を有することを示唆するものであるということはできない。
そして一般に、樹脂付きガラスシートの通気度は、付着する樹脂の量により異なるものであるから、補強材の通気度が開示されているとしても、樹脂付きガラスシートの通気度が開示または示唆されているとはいえない。

エ 以上のようであるから、特許異議申立人の上記意見は採用できない。


第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1ないし4について、概略、以下の申立理由があることを主張している。(特許異議申立書第11頁下から9行?第12頁第2行、第31頁下から13行?第33頁第4行参照)

(1)特許法第29条第1項第3号について
ア 請求項1及び4に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明と同一である。
イ 請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一である。

(2)特許法第29条第2項について
ア 請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明?甲第3号証に記載された発明の少なくとも一に基づいて、又はこれらと周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 請求項1及び4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明?甲第3号証に記載された発明の少なくとも一と、甲第4号証に記載された発明?甲第7号証に記載された発明の少なくとも一と、に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明?甲第3号証に記載された発明の少なくとも一と、甲第7号証に記載された発明、甲第9号証に記載された発明又は甲第18号証に記載された発明の少なくとも一と、に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明?甲第3号証に記載された発明の少なくとも一と、甲19発明と、に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)特許法第36条第6項第2号について
請求項1及び4における「樹脂付きガラスシート」が如何なる物を意味するのかが明らかでないから、請求項1ないし4に係る発明は不明確である。

(4)特許法第36条第6項第1号について
請求項1及び4について、本件特許明細書には塩化ビニル樹脂で構成されている実施例しか記載されておらず、したがって、本件特許発明1ないし4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

2.証拠
本件特許異議申立において提出された証拠は、以下のとおりである。

甲第1号証 :特開平02-025328号公報
甲第2号証 :実願昭61-101996号(実開昭63-008938号
)のマイクロフィルム
甲第3号証 :特開2001-323646号公報
甲第4号証 :実願昭51-018609号(実開昭52-115780号
)のマイクロフィルム
甲第5号証 :実願昭52-080928号(実開昭54-007271号
)のマイクロフィルム
甲第6号証 :特開昭58-199140号公報
甲第7号証 :実願昭57-131466号(実開昭59-035032号
)のマイクロフィルム
甲第8号証 :実願昭60-022520号(実開昭61-139681号
)のマイクロフィルム
甲第9号証 :特開平04-120361号公報
甲第10号証:特開平05-051879号公報
甲第11号証:実願平04-056219号(実開平06-009998号
)のCD-ROM
甲第12号証:特開平07-279384号公報
甲第13号証:特開平09-151595号公報
甲第14号証:特開平11-193620号公報
甲第15号証:特開2001-012066号公報
甲第16号証:特開2004-332417号公報
甲第17号証:特開2015-013471号公報
甲第18号証:特開2010-059611号公報
甲第19号証:特開平05-163824号公報
参考資料(申立人が令和1年10月8日付け意見書に添えて提出)
参考資料1 :特開2002-200702号公報
参考資料2 :特開昭54-129073号公報
参考資料3 :特開平10-180961号公報
参考資料4 :特開2002-200703号公報
参考資料5 :特開2004-084092号公報
参考資料6 :特開平10-046485号公報
参考資料7 :特開昭55-016901号公報
参考資料8 :特開2013-007145号公報
参考資料9 :特開2013-099936号公報

3.上記申立理由について
請求項1ないし4は、令和1年12月27日付け訂正請求書による訂正の請求により訂正されており、本件訂正発明1ないし4は、上記第3に示したとおりである。

(1)上記1(1)について
甲第1号証?甲第3号証には、床材において、樹脂付きガラスシートの通気度が80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secであることは記載も示唆もされていない。

よって、本件訂正発明1及び4は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明ではない。
また、本件訂正発明2は、甲第1号証に記載された発明ではない。

(2)上記1(2)について
甲第1号証?甲第19号証及び参考資料1?9のいずれにも、床材において、樹脂付きガラスシートの通気度を80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secとすることは記載も示唆もされていない。

よって、請求項1ないし4に係る発明は、甲1発明?甲3発明の少なくとも一に基づいて、又はこれらと周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、請求項1及び4に係る発明は、甲1発明?甲3発明の少なくとも一と、甲4発明?甲17発明の少なくとも一と、に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、請求項2に係る発明は、甲1発明?甲3発明の少なくとも一と、甲7発明、甲9発明又は甲18発明の少なくとも一と、に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、請求項3に係る発明は、甲1発明?甲3発明の少なくとも一と、甲19発明と、に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)上記1(3)について
ア 特許異議申立人は特許異議申立書において、「本件特許発明1及び4における「樹脂付きガラスシート」が、バインダーでバインドされたのみのガラスシート及びガラス繊維と樹脂繊維とを組合わせたガラスシートを意味するのか、それとも、上記段落【0017】で例示されたバインダーを用いたうえでさらに接合樹脂を付着させた樹脂付きガラスシートのみを意味するのか、不明である。」との意見を述べている(特許異議申立書第29頁第17?21行)。
しかしながら、本件訂正発明1及び4は、「ガラスシート」は、「アクリル系樹脂を主成分とするバインダー及び複数のガラス繊維を含み且つ前記ガラス繊維が前記バインダーにてバインドされている」ことを特定し、「樹脂付きガラスシート」は、「前記バインダーを含むガラス繊維の表面に付着」されることを特定しているから、特許異議申立人が主張する上記意見は採用できない。

イ 特許異議申立人は特許異議申立書において、「上記段落【0017】においては、「バインダー」の樹脂種として「塩化ビニル系樹脂」が例示されており、「樹脂付きガラスシート」とバインダー付ガラスシートとの区別ができず、本件特許発明1及び4の範囲の外縁不明である。」との意見を述べている(特許異議申立書第29頁第22?25行)。
しかしながら、本件訂正発明1ないし4は、「バインダー」は、「アクリル系樹脂を主成分とするバインダー」であることを特定しているから、特許異議申立人が主張する上記意見は採用できない。

ウ 特許異議申立人は令和2年2月10日付け意見書において、「上記訂正請求書に添付の訂正明細書の【0024】には、ガラスシート4の通気度は、JIS L 1096の通気性試験方法に準じて、株式会社東洋精器製作所製のフラジール型通気性試験機を用いて、測定対象のガラスシートを3枚重ねた状態で測定される値であるとの記載がある。一方、本件発明1?4では「樹脂付きガラスシート」の「通気度が80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・sec」と特定されており、床材を構成する「樹脂付きガラスシート」が1枚の「樹脂付きガラスシート」であるのか、それとも複数枚(例えば3枚)の「樹脂付きガラスシート」であるのか明らかでない。よって、本件発明1?4は、不明確である。」との意見を述べている(意見書第1頁下から7行?第2頁第2行)。
しかしながら、本件訂正発明1ないし4において「樹脂付きガラスシート」を有することは明確であるから、特許異議申立人が主張する上記意見は採用できない。

(4)上記1(4)について
ア 特許異議申立人は特許異議申立書において、「本件特許発明1及び4における「接合樹脂」、「上側樹脂層」及び「下側樹脂層」を構成する樹脂について、本件特許明細書では、塩化ビニル樹脂を用いた実施例しか記載されておらず、したがって、本件特許発明1?4は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。」との意見を述べている(特許異議申立書第30頁第10?14行)。
本件訂正発明1ないし4は、本件特許明細書の【0002】にあるように「樹脂層とガラス繊維を含むガラスシートは、接合し難いので、樹脂層とガラスシートの層間で剥離しないようにする必要がある。」ことを背景とし、発明が解決しようとする課題は、【0004】の記載のように、「ガラスシートと樹脂層の層間で剥離を生じ難い床材の製造方法及び床材を提供すること」である。
本件訂正発明1ないし4において、「接合樹脂」は「ペースト塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂」であることが特定されており、また、「上側樹脂層」及び「下側樹脂層」については、本件特許明細書【0039】には「樹脂層(上側樹脂層2及び下側樹脂層3)の樹脂成分としては、特に限定されず、従来公知のものを用いることができ、一般的には、熱可塑性樹脂が用いられる。」と記載され、【0040】には、「前記熱可塑性樹脂としては、塩化ビニルや塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体などの塩化ビニル系樹脂;ポリオレフィン系樹脂;ウレタン系樹脂;エチレン-酢酸ビニル共重合体などの酢酸ビニル系樹脂;エチレン-メタクリレート樹脂などのアクリル系樹脂;ポリアミド系樹脂;エステル系樹脂;オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマーなどの各種エラストマーなどの各種エラストマー;ゴムなどが挙げられる。」と記載されている。
そして、上記「ペースト塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂」と上記各種の樹脂成分を有する「上側樹脂層」及び「下側樹脂層」とが、塩化ビニル樹脂を用いた実施例以外の場合には、当該樹脂層とガラス繊維を含むガラスシートとが接合し難いと解すべき理由はみあたらない。
そうすると、当業者は、本件特許発明1ないし4の「ペースト塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂」が付着した「樹脂付きガラスシート」と上記各種の樹脂成分を有する「上側樹脂層」及び「下側樹脂層」とにより、ガラスシートと樹脂層の層間で剥離を生じ難いと解することができる。
よって、実施例に用いられた塩化ビニル樹脂以外の樹脂層であっても、発明の課題を解決することを当業者が理解できるから、特許異議申立人が主張する上記意見は採用できない。

イ 特許異議申立人は特許異議申立書において、「本件特許明細書の実施例に着目すると、実施例1には、「厚み方向に開口を有し」とある(段落【0078】)が、その他の実施例2?6においては、「上下面に略直線状に連通した無数の開口」については何らの記載もなく、その存否は不明であり、本件特許発明1?4は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。」との意見を述べている(特許異議申立書第30頁下から6行?下から2行)。
しかしながら、本件特許明細書【0021】には、「前記ガラス不織布4a及びガラス織布4bなどのガラスシート4は、ガラス繊維41の間に無数の開口Aを有する。この各開口は、概念的には、隣接するガラス繊維の間の隙間がガラスシート4の厚み方向に連続して繋がったものである。前記各開口は、ガラスシート4の厚み方向と略平行にガラス繊維の隙間が連続し、略直線的にガラスシート4の上下面に連通した態様、或いは、ガラス繊維の隙間がガラスシート4の厚み方向に対して傾斜、湾曲、屈曲又は蛇行などしつつ連続して配置されながらガラスシート4の上下面に連通した態様などが含まれる。前者の態様の開口は、通常、ガラスシート4の上面側から拡大して見た場合に、ガラスシート4の下面側に存在する事物を視認できるような態様であり、後者の態様の開口は、通常、それを視認できないような態様である。」と記載されている。
そうすると、上記ガラスシートに接合樹脂が付着した「樹脂付きガラスシート」は、上記ガラスシートの、ガラスシート4の上面側から拡大して見た場合に、ガラスシート4の下面側に存在する事物を視認できるような態様の開口に対応した開口を有する以上、「上下面に略直線的に連通した無数の開口を有」するといえる。
よって、本件特許発明1ないし4は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、特許異議申立人が主張する上記意見は採用できない。

ウ 特許異議申立人は特許異議申立書において、「さらに、本件特許発明2の「前記接合樹脂の目付量が、5g/m^(2)?105g/m^(2)」について、本件特許明細書の実施例1?6及び比較例2においてはそれぞれ10?90g/m^(2)及び120g/m^(2)の目付量の場合しか記載がなく、「上下面に略直線的に連通した無数の開口」と「接合樹脂」の目付量との関係を明らかにしておらず、「前記接合樹脂の目付量が、5g/m^(2)?105g/m^(2)」の下限5g/m^(2)及び上限105g/m^(2)の臨界的意義が定かでなく、よって本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。」との意見を述べている(特許異議申立書第31頁第7?13行)。
本件特許明細書【0030】には「樹脂付きガラスシート6において、接合樹脂5の目付量は、特に限定されないが、例えば、5g/m^(2)?105g/m^(2)であり、好ましくは10g/m^(2)?80g/m^(2)、より好ましくは15g/m^(2)?60g/m^(2)である。接合樹脂5の目付量は、ガラス繊維41と上側樹脂層2又は下側樹脂層3の接合性を向上させる観点から、大きい方が好ましいが、一般的には、接合樹脂5の目付量に比例して樹脂付きガラスシート6の通気度、すなわち、開口率が小さくなる。」と記載されている。
そして、本件訂正発明2は、本件訂正発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに接合樹脂の目付量を限定するものであり、本件特許発明1により発明が解決しようとする課題を解決することができると当業者が理解できることは、上記アに示したとおりであるから、上記例示の目付量を発明特定事項として有していても、発明が解決しようとする課題を解決することができると当業者は理解することができる。
よって、本件訂正発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

エ 特許異議申立人は令和2年2月10日付け意見書において、「特許権者による令和1年12月27日付け訂正請求書による訂正後の請求項1?4に係る発明(本件発明1?4)は、「通気度」と規定するが、上記訂正明細書においては特定の方法で測定した「通気度」しか記載されておらず、したがって本件発明1?4は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。」との意見を述べている(意見書第2頁第4?8行)。
しかしながら、樹脂付きガラスシートの通気度については、本件特許明細書【0033】に「ただし、前記樹脂付きガラスシート6の通気度は、JIS L 1096通気性試験方法に準じて、株式会社東洋精器製作所製のフラジール型通気性試験機を用いて、測定対象の樹脂付きガラスシートを3枚重ねた状態で測定される値である。」と記載されており、本件訂正発明1ないし4における「樹脂付きガラスシート」の「通気度」を上記のように測定することが理解できる。
よって、本件特許発明1ないし4は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、特許異議申立人が主張する上記意見は採用できない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
床材の製造方法及び床材
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強層としてガラスシートを有する床材の製造方法、及び床材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成樹脂層の厚み方向中間部に、補強層としてガラス繊維を含むガラスシートが埋設された床材が知られている(特許文献1)。
ガラス繊維は、強度が高く、温度による寸法変化が小さいという特性を有する。このため、ガラスシートを補強層として用いることによって、強度が高く且つ反り難く、寸法安定性及び耐久性を有する床材を構成できる。
しかしながら、樹脂層とガラス繊維を含むガラスシートは、接合し難いので、樹脂層とガラスシートの層間で剥離しないようにする必要がある。特に、樹脂層がサスペンション塩化ビニル系樹脂からなる場合、ガラスシートと接合し難く、その改善が求められる。その改善方法としてガラスシートと樹脂層を接合させる際の加工温度を高めることも考えられるが、樹脂層の劣化を招くので好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】 特許第5643987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ガラスシートと樹脂層の層間で剥離を生じ難い床材の製造方法及び床材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の床材の製造方法は、アクリル系樹脂を主成分とするバインダー及び複数のガラス繊維を含み且つ前記ガラス繊維が前記バインダーにてバインドされているガラスシートを準備する工程、前記ガラスシートにペースト塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂を付着させることにより、前記ガラスシートと前記バインダーを含むガラス繊維の表面に付着された前記接合樹脂とを有する樹脂付きガラスシートであって上下面に略直線的に連通した無数の開口を有し且つ通気度が80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secである樹脂付きガラスシートを準備する工程、前記樹脂付きガラスシートの上面に上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に下側樹脂層を積層し、加熱加圧して上側樹脂層、ガラスシート及び下側樹脂層を一体化する工程を有する。
【0006】
本発明の好ましい床材の製造方法は、前記接合樹脂の目付量が、5g/m^(2)?105g/m^(2)である。
本発明の好ましい床材の製造方法は、前記上側樹脂層及び下側樹脂層の少なくとも一方が、サスペンション塩化ビニル系樹脂を含む。
【0007】
本発明の別の局面によれば、床材を提供する。
本発明の床材は、上側樹脂層と、下側樹脂層と、前記上側樹脂層と下側樹脂層の間に積層されたガラスシートであって、アクリル系樹脂を主成分とするバインダー及び複数のガラス繊維を含み且つ前記ガラス繊維が前記バインダーにてバインドされていると共に、前記ガラス繊維間に開口を有するガラスシートと、前記バインダーを含むガラス繊維の表面に付着されたペースト塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂と、を有する樹脂付きガラスシートと、を有し、前記樹脂付きガラスシートには、その上下面に略直線的に連通した無数の開口が形成され、前記樹脂付きガラスシートの通気度が、80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secであり、前記上側樹脂層及び下側樹脂層が、前記接合樹脂を介して前記ガラス繊維に接合されていると共に、前記樹脂付きガラスシートの開口を通じて直接的に接合されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、ガラスシートと樹脂層の層間で剥離を生じ難い床材を得ることができる。また、本発明の方法によれば、加工温度を高める必要がなく、樹脂層の劣化が生じることもない。
本発明の好ましい製造方法によれば、上側樹脂層及び下側樹脂層の少なくとも一方がサスペンション塩化ビニル系樹脂を含んでいるので、より層間剥離が生じ難い床材を得ることができる。
また、本発明の床材は、ガラスシートと樹脂層の層間で剥離を生じ難いので、その敷設時に床材縁部が捲れることがなく、また、床材貼り替え時には、層間剥離を生じることなく既設の床材を床面から容易に引き剥がすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】 本発明の第1実施形態に係る床材の平面図。
【図2】 同床材を図1のII-II線で切断した拡大断面図。
【図3】 図2の一部分を更に拡大した参考断面図。
【図4】 第2実施形態に係る床材の拡大断面図(図1のII-II線と同様な箇所で切断)。
【図5】 第3実施形態に係る床材の拡大断面図(図1のII-II線と同様な箇所で切断)。
【図6】 第4実施形態に係る床材の拡大断面図(図1のII-II線と同様な箇所で切断)。
【図7】 第5実施形態に係る床材の拡大断面図(図1のII-II線と同様な箇所で切断)。
【図8】 ガラス不織布の平面図。
【図9】 図8のIX-IX線で切断した拡大参考断面図。
【図10】 ガラス織布の平面図。
【図11】 図10のXI-XI線で切断した拡大参考断面図。
【図12】 本発明の第1実施形態に係る床材の製造方法における各工程の概略側面図。
【図13】 本発明の第2実施形態に係る床材の製造方法における各工程の概略側面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、適宜図面を参照しつつ説明する。
本明細書において、ある層の「上面」又は「上方」は、床材を敷設する床面から遠い側の面又は方向を指し、「下面」又は「下方」は、その反対側(床材を敷設する床面に近い側)の面又は方向を指す。
本明細書において、「?」で表される数値範囲は、「?」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。
また、各図における、厚み及び大きさなどの寸法は、実際のものとは異なっていることに留意されたい。
【0012】
[床材の積層構造]
図1は、第1実施形態の床材の平面図であり、図2は、同床材の拡大断面図であり、図3は、接合樹脂を介したガラスシートと上側樹脂層及び下側樹脂層との接合状態を模式的に表した更なる拡大参考断面図である。
図1に示すように、床材1は、平面視長尺帯状に形成されている。本明細書において、長尺帯状は、一方向の長さが他方向(他方向は一方向に対して直交する方向)の長さに比して十分に長い長方形状であり、例えば、一方向の長さが他方向の長さの2倍以上、好ましくは4倍以上である。長尺帯状の床材1は、通常、ロールに巻かれて保管・運搬に供され、施工現場において、所望の形状に裁断して使用される。もっとも、本発明の床材1は、長尺帯状のシートに限られず、平面視正方形状などの枚葉状に形成されたタイルであってもよい(図示せず)。
【0013】
前記長尺帯状の床材1は、所要幅(例えば、800mm?4000mm)の所定長さに形成されたものであり、その長さは、例えば、2m?300mである。枚葉状に形成される床材は、例えば、その縦横がそれぞれ800mm?4000mmである。前記枚葉状の床材は、一辺の長さが50cmの平面視正方形状のものが一般的であるが、縦10cm×横90cmの長方形状、六角形状などでもよく、大きさや形状は特に限定されない。
床材1の上面には、必要に応じて、凹凸模様を付与するためにエンボス加工(図示せず)が施されていてもよい。また、床材1の下面に又は床材1の上面及び下面に、必要に応じて、エンボス加工が施されていてもよい。
【0014】
本発明の床材1は、図1乃至図3に示すように、上側樹脂層2と、ガラス繊維41を含むガラスシート4と、前記ガラスシート4に付着された接合樹脂5と、下側樹脂層3と、を有する。以下、接合樹脂が付着されたガラスシートを樹脂付きガラスシート6という。必要に応じて、床材1は、さらに、傷付き防止層71、保護層72、化粧層73、基材層74などを有していてもよい。
本発明の床材1の厚みは、特に限定されないが、例えば、1.0mm?5.0mmであり、好ましくは、1.5mm?3.5mmである。
具体的には、図1乃至図3に示す第1実施形態の床材1は、上側から順に、傷付き防止層71、保護層72、化粧層73、上側樹脂層2、樹脂付きガラスシート6、下側樹脂層3及び基材層74からなる積層体である。これら各層は、接合されて一体化されている。
【0015】
図4乃至図7は、第2乃至第5実施形態の床材1の断面図である。なお、第2乃至第5実施形態の床材1の平面図は、図1と同様なので省略し、第2乃至第5実施形態の床材1についても、接合樹脂5を介したガラスシート4と上側樹脂層2及び下側樹脂層3との接合状態は、図2と同様であるため省略している。
図4に示す第2実施形態の床材1は、上側から順に、傷付き防止層71、保護層72、意匠性を有する上側樹脂層2、樹脂付きガラスシート6、下側樹脂層3及び基材層74からなる積層体である。これら各層は、接合されて一体化されている。なお、第2実施形態において、基材層74を有さない床材1でもよい。
図5に示す第3実施形態の床材1は、上側から順に、保護層72、化粧層73、上側樹脂層2、樹脂付きガラスシート6、下側樹脂層3、基材層74及びバッキング層75からなる積層体である。これら各層は、接合されて一体化されている。バッキング層75としては、例えば、ゴムなどが挙げられる。
図6に示す第4実施形態の床材1は、上側から順に、保護層72、化粧層73、上側樹脂層2、樹脂付きガラスシート6及び下側樹脂層3からなる積層体である。これら各層は、接合されて一体化されている。
図7に示す第5実施形態の床材1は、上側から順に、保護層72、意匠性を有する上側樹脂層2、樹脂付きガラスシート6、下側樹脂層3及び基材層74からなる積層体である。これら各層は、接合されて一体化されている。
【0016】
各実施形態において、樹脂付きガラスシート6は、上側樹脂層2と下側樹脂層3の各厚みを略同じにすることによって、上側樹脂層2及び下側樹脂層3からなる樹脂層の中間部に配置されていてもよく、或いは、上側樹脂層2と下側樹脂層3の各厚みを異ならせることによって、上側樹脂層2及び下側樹脂層3からなる樹脂層の中間部よりも下方又は上方に偏って配置されていてもよい。
その他、図示しないが、上記第1乃至第5実施形態の床材1から、任意の他の層を省略してもよく、或いは、これらの床材1の構成要素として任意の適切な層を付加してもよい。
【0017】
各実施形態の床材1において、ガラスシート4は、複数のガラス繊維を含むガラス不織布又はガラス織布が用いられている。
ガラス不織布4aは、図8及び図9に示すように、複数のガラス繊維41が無秩序に上下方向に重なり又は絡み合い且つそれらが接着剤などのバインダーにてバインドされて又はそれら自身がバインドし合って層を成しているもの、或いは、特に図示しないが、複数のガラス繊維41がある程度の規則性を以て上下方向に重なり又は絡み合い且つそれらが接着剤などのバインダーにてバインドされて又はそれら自身がバインドし合って層を成しているものである。
前記バインダーとしては、ガラス繊維に対する接合性の高いものが好ましく、さらに、ガラス繊維及び接合樹脂5に対する接合性の高いものがより好ましい。このようなバインダーとしては、公知の樹脂を主成分とする接着剤を使用することができ、例えば、1液型接着剤、2液型接着剤、熱硬化型接着剤、ホットメルト型接着剤、紫外線硬化型接着剤などの電子線硬化型接着剤などが挙げられる。具体的には、ウレタン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合系、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂及びエポキシ系樹脂から選ばれる1種又は2種以上の混合物が例示される。
【0018】
前記ガラス不織布は、例えば、分散剤や増粘剤などを配合した水中に、ガラス繊維を略均一に分散させ、抄造することにより、ガラス繊維をシート状に成形し、そのガラス繊維のシートに、バインダーを塗布又は含浸させることにより、得ることができる。前記塗布は、ロールコーター、ナイフコーター、カーテンコーター、フローコーター、スプレーコーター、ダイコーターなどの各種コーター;スプレー;刷毛塗り;ローラーなどを用いて行うことができ、前記含浸は、液槽への浸漬などによって行うことができる。バインダーは一定の厚みに塗布又は含浸されるが、過剰なバインダーは、必要に応じてバキュームナイフなどによって吸引除去される。ガラス不織布の単位面積当たりのバインダーの量が所望の範囲になったところで、バインダーを硬化させ、乾燥することにより、ガラス不織布を得ることができる。バインダーの量は、前記塗布又は含浸、必要に応じた吸引などによって調整できる。
【0019】
ガラス織布4bは、図10及び図11に示すように、複数のガラス繊維41が縦横に規則性を以て織り込まれて層を成しているもの、或いは、複数のガラス繊維41が縦横に規則性を以て上下方向に重なり且つそれらが接着剤などのバインダーにてバインドされて層を成しているものである。
前記ガラスシート4としては、市販品を用いることもできる。
【0020】
ガラス繊維41がある程度の規則性を以てバインドされたガラス不織布4a及びガラス織布4bは、並んだガラス繊維41に従い、所定方向に配向性が生じる。配向性を有するガラスシート4を用いると、接合樹脂5を比較的均一に付着させることもでき、且つ接合樹脂5の塗布時にガラス繊維41の脱落も少なくなる。
なお、図3、図9及び図11においては、2本又は3本のガラス繊維41が厚み方向に重なった状態で表しているが、これらの図は、あくまで参考図であり、実際のガラス不織布4a及びガラス織布4bは、より多くのガラス繊維41が厚み方向に重畳的に重なっている場合があることに留意されたい。
【0021】
前記ガラス不織布4a及びガラス織布4bなどのガラスシート4は、ガラス繊維41の間に無数の開口Aを有する。この各開口は、概念的には、隣接するガラス繊維の間の隙間がガラスシート4の厚み方向に連続して繋がったものである。前記各開口は、ガラスシート4の厚み方向と略平行にガラス繊維の隙間が連続し、略直線的にガラスシート4の上下面に連通した態様、或いは、ガラス繊維の隙間がガラスシート4の厚み方向に対して傾斜、湾曲、屈曲又は蛇行などしつつ連続して配置されながらガラスシート4の上下面に連通した態様などが含まれる。前者の態様の開口は、通常、ガラスシート4の上面側から拡大して見た場合に、ガラスシート4の下面側に存在する事物を視認できるような態様であり、後者の態様の開口は、通常、それを視認できないような態様である。
【0022】
ガラスシート4の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.1mm?0.5mmであり、より好ましくは0.15mm?0.4mmであり、さらに好ましくは0.20mm?0.35mmである。また、ガラスシート4の目付量は、特に限定されないが、好ましくは10g/m^(2)?100g/m^(2)であり、より好ましくは20g/m^(2)?50g/m^(2)である。ガラスシート4の厚み又は目付量が小さすぎると、床材1の引張り強度及び寸法安定性を十分に向上できず、一方、大きすぎると、接合樹脂5がガラスシート4の開口内にまで十分に行き渡らず、厚み方向中間部のガラス繊維41の表面に十分に付着しないおそれがある。特に、ガラス不織布4aについては、前記厚み及び目付量の範囲のものが好適である。
なお、ガラスシート4の密度は、特に限定されないが、例えば、0.1g/cm^(3)?0.5g/cm^(3)である。
【0023】
前記ガラスシート4は、無数の開口Aを有するので、ガラスシート4の面内には、ガラスシート4の上面側から下面側、又は、上面側から下面側に通じる通気路が確保されている。前記ガラスシート4の開口率が大きいと、ガラスシート4の通気性が高くなり、反対に前記開口率が小さいと、ガラスシート4の通気性が低くなる。本発明では、このような点を考慮して、ガラスシート4の通気性を測定することによって、前記開口率を評価するものとする。なお、前記開口率は、ガラスシート4の上面の単位面積当たりに占める開口総面積をいう。
【0024】
前記ガラスシート4の通気度は、好ましくは100cc/cm^(2)・sec?550cc/cm^(2)・secであり、より好ましくは200cc/cm^(2)・sec?450cc/cm^(2)・secである。上側樹脂層2と下側樹脂層3の接合性の向上させるためには、後述する樹脂付きガラスシート6の開口率が大きいことが好ましく、そのような開口率の大きい樹脂付きガラスシート6を得るためには、通気度の大きいガラスシート4、すなわち、開口率が比較的大きいガラスシート4を用いることが好ましい。一方で、ガラスシートによる強度、反り抑制効果、寸法変化抑制効果を付与するためには、ガラスシートの開口率にもある程度の上限がある。このような観点から、ガラスシート4は、その通気度が550cc/cm^(2)・sec以下であることが好ましい。
ただし、本明細書において、ガラスシート4の通気度は、JIS L 1096の通気性試験方法に準じて、株式会社東洋精器製作所製のフラジール型通気性試験機を用いて、測定対象のガラスシートを3枚重ねた状態で測定される値である。尚、3枚重ねた状態で測定する理由は、本発明に好適な開口率のガラスシートの場合、通気性が高すぎるため、それを1枚又は2枚を重ねた状態では、前記測定方法にて通気度を測定することが困難である場合があるからである。
【0025】
本発明においては、前記ガラス不織布4a及びガラス織布4bなどのガラスシート4に接合樹脂5が付着されることにより、樹脂付きガラスシート6が構成されている。なお、接合樹脂5は、ガラス不織布などを構成する上記バインダーとは異なるものであることに留意されたい。
具体的には、図3に示すように、前記ガラスシート4のガラス繊維41には、接合樹脂5が付着されている。ただし、図3においては、ガラスシートとしてガラス不織布を用いた場合を示している。
【0026】
接合樹脂5のガラスシート4に対する付着態様は、上面側及び下面側から見て下記の4つの態様に大別できる。
(a)接合樹脂5は、樹脂付きガラスシート6の上面側から見て、ガラスシート4を構成する複数のガラス繊維41の全てに付着している。
(b)接合樹脂5は、樹脂付きガラスシート6の上面側から見て、ガラスシート4を構成する複数のガラス繊維41の少なくとも一部に付着し且つ複数のガラス繊維41のうちの少なくとも1本のガラス繊維に付着していない部分を有する。
(c)接合樹脂5は、樹脂付きガラスシート6の下面側から見て、ガラスシート4を構成する複数のガラス繊維41の全てに付着している。
(d)接合樹脂5は、樹脂付きガラスシート6の下面側から見て、ガラスシート4を構成する複数のガラス繊維41の少なくとも一部に付着し且つ複数のガラス繊維41のうちの少なくとも1本に付着していない部分を有する。
なお、本明細書において、「上面側(又は下面側)から見て」とは、その層の上面(又は下面)に対して垂直な方向から見ることをいう。
接合樹脂5の付着態様は、上記(a)乃至(d)から選ばれる1つの態様、(a)及び(c)の態様、(a)及び(d)の態様、(b)及び(c)の態様、又は、(b)及び(d)の態様のいずれかである。
【0027】
前記(a)においては、樹脂付きガラスシート6の上面側から見て、ガラス繊維が接合樹脂に覆われ、前記(c)においても同様に、樹脂付きガラスシート6の下面側から見て、ガラス繊維が接合樹脂に覆われている。
前記(b)においては、樹脂付きガラスシート6の上面側から見て、ガラス繊維が露出している部分を有し、前記(d)においても同様に、樹脂付きガラスシート6の下面側から見て、ガラス繊維が露出している部分を有する。
前記(b)において、樹脂付きガラスシート6の上面側から見て、ガラス繊維の露出率は、例えば、0を超え70%以下であり、好ましくは0を超え50%以下であり、より好ましくは0を超え30%以下である。
前記(d)において、樹脂付きガラスシート6の下面側から見て、ガラス繊維の露出率は、例えば、0を超え70%以下であり、好ましくは0を超え50%以下であり、より好ましくは0を超え30%以下である。
前記ガラス繊維の露出率は、樹脂付きガラスシート6の単位面積当たりに露出したガラス繊維の総面積である。前記露出率は、例えば、樹脂付きガラスシート6の上面(又は下面)から1cm×1cmの範囲を任意に抽出し、その範囲における上面側(又は下面側)から見てガラス繊維が露出した面積を計測し、式:露出率(%)=ガラス繊維が露出した面積の総和/1cm^(2))×100、で求めることができる。
【0028】
前記接合樹脂5は、ガラス繊維41の表面全体に付着されてもよく、或いは、多くのガラス繊維41の表面全体に付着され且つ残るガラス繊維41の表面の一部分に付着されていてもよい。なお、ガラス繊維41の表面とは、ガラスシート4を構成するガラス繊維41そのものの表面、及び、前記ガラス繊維41にバインダーが接合している場合にはそのバインダーの表面を含む意味である。
図示例では、接合樹脂5は、複数のガラス繊維41のうち多くのガラス繊維41の表面全体に付着され且つ残るガラス繊維41の表面の一部分に付着されている。
【0029】
また、接合樹脂5は、ガラス繊維41の表面に均一に付着されていてもよく、或いは、不均一に付着されていてもよい。接合樹脂5の前記付着状態は、ガラスシートに対する接合樹脂の付着方法によって異なる。例えば、ロールコーターやナイフコーターなどのコーターを用いて接合樹脂をガラスシートに塗工した場合、接合樹脂5は、図示例のように、ガラス繊維41の表面に不均一に付着される。換言すると、接合樹脂5は、ガラス繊維41の表面において、厚み差を有して付着されている。不均一の場合、(1)図示のように、ガラス繊維41の上側における接合樹脂5の厚みがガラス繊維41の下側における接合樹脂5の厚みよりも大きい、(2)ガラス繊維41の下側における接合樹脂5の厚みがガラス繊維41の上側における接合樹脂5の厚みよりも大きい、(3)ガラス繊維41の側方における接合樹脂5の厚みがガラス繊維41の上側及び下側における接合樹脂5の厚みよりも大きい、などの態様が挙げられる。
【0030】
樹脂付きガラスシート6において、接合樹脂5の目付量は、特に限定されないが、例えば、5g/m^(2)?105g/m^(2)であり、好ましくは10g/m^(2)?80g/m^(2)、より好ましくは15g/m^(2)?60g/m^(2)である。接合樹脂5の目付量は、ガラス繊維41と上側樹脂層2又は下側樹脂層3の接合性を向上させる観点から、大きい方が好ましいが、一般的には、接合樹脂5の目付量に比例して樹脂付きガラスシート6の通気度、すなわち、開口率が小さくなる。
また、樹脂付きガラスシート6の目付量(ガラスシート4と接合樹脂5の各目付量の和)は、特に限定されないが、例えば、15g/m^(2)?205g/m^(2)であり、好ましくは20g/m^(2)?180g/m^(2)、より好ましくは35g/m^(2)?160g/m^(2)である。
なお、樹脂付きガラスシート6の厚みは、特に限定されないが、概ね0.2mm?0.6mmである。ただし、樹脂付きガラスシートの上下面は平坦でない場合が多いので、前記樹脂付きガラスシートの具体的な厚みは、数カ所の平均的な値である。
【0031】
前記樹脂付きガラスシート6は、接合樹脂5がガラスシート4の全ての開口Aを塞いでおらず、無数の開口Bを有する。換言すると、樹脂付きガラスシート6は、ガラスシート4そのものが有する開口Aに起因した開口Bを有する。その樹脂付きガラスシート6の開口Bの開口率は、ガラスシート4の開口率よりも小さい。なお、前記樹脂付きガラスシート6の開口率は、樹脂付きガラスシート6の上面の単位面積当たりに占める開口総面積をいう。
【0032】
樹脂付きガラスシート6の開口Bは、ガラスシート4の開口Aと同様な意味である。樹脂付きガラスシート6の開口Bの説明は、上記ガラスシート4の開口の説明のうち「ガラス繊維」を「樹脂付きガラス繊維」に、「ガラスシート」を「樹脂付きガラスシート」に読み替えるものとする。
【0033】
樹脂付きガラスシート6の通気度は、ガラスシート4の通気度より小さい。具体的数値では、樹脂付きガラスシート6の通気度は、好ましくは80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secであり、より好ましくは100cc/cm^(2)・sec?400cc/cm^(2)・secである。上側樹脂層2と下側樹脂層3の接合性の向上させるためには、樹脂付きガラスシート6の開口率が大きいことが好ましいが、上述のように、強度や反り防止効果などを考慮すると、余りに大きな開口率を有するガラスシート4を用いることは適切ではない。それ故、上記のような通気度の範囲を有するガラスシート4を用いた場合には、樹脂付きガラスシート6の通気度は、80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secの範囲となるように設定することが好ましい。
このような通気度を有する樹脂付きガラスシート6は、その開口B内に上側樹脂層2及び下側樹脂層3を構成する樹脂材料が入り込み易く、開口Bを通じて上側樹脂層2と下側樹脂層3が直接的に接合し易くなる。
ただし、前記樹脂付きガラスシート6の通気度は、JIS L 1096通気性試験方法に準じて、株式会社東洋精器製作所製のフラジール型通気性試験機を用いて、測定対象の樹脂付きガラスシートを3枚重ねた状態で測定される値である。
【0034】
前記樹脂付きガラスシート6の接合樹脂5は、上側樹脂層2及び下側樹脂層3をそれぞれガラス繊維41に接合させるためのバインダー樹脂として機能する。すなわち、図3に示すように、上側樹脂層2及び下側樹脂層3は、前記接合樹脂5を介してガラス繊維41に接合されている。さらに、樹脂付きガラスシート6の開口Bを通じて、上側樹脂層2と下側樹脂層3が直接的に接合されている。上側樹脂層2及び下側樹脂層3が同じ樹脂成分を含む場合には、上側樹脂層2と下側樹脂層3は、前記開口Bにおいて繋がって1つの層を成している。
なお、図3においては、接合樹脂5、上側樹脂層2及び下側樹脂層3を分かり易く図示するために、これらの境界辺りに実線を明示しているが、接合樹脂5、上側樹脂層2及び下側樹脂層3は、いずれも樹脂材料からなるので、これらの境界が明瞭に現れるわけではないことに留意されたい。
【0035】
本発明の床材1は、ガラスシート4と上側樹脂層2の間及びガラスシート4と下側樹脂層3の間において層間剥離を生じ難い。
これは、ガラスシート4のガラス繊維41に接合樹脂5が付着されているので、その接合樹脂5がガラス繊維41と上側樹脂層2及び下側樹脂層3との間に介在し、上側樹脂層2及び下側樹脂層3が強固にガラスシート4に接合するためと推定される。
特に、接合樹脂5がペースト塩化ビニル系樹脂を含み、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の少なくとも一方がサスペンション塩化ビニル系樹脂を含む場合、上側樹脂層2及び下側樹脂層3が接合樹脂5を介してより強固にガラスシート4に接合し得る。
また、サスペンション塩化ビニル系樹脂は、ペースト塩化ビニル系樹脂に比して硬く且つ強度に優れているので、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の厚みを比較的小さくしても(つまり、床材1の厚みを小さくしても)、機械的強度に優れた床材1を得ることができる。例えば、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の双方がサスペンション塩化ビニル系樹脂を含み、接合樹脂5がペースト塩化ビニル系樹脂を含む場合、層間接合力を維持したまま床材1の厚みを比較的小さくすることもできる。
【0036】
本発明の床材1は、上述のように層間剥離を生じ難いので、床面に敷設する際に、その縁部が捲れることもなく、良好な仕上がりで施工できる。また、既に敷設した床材1を貼り替える際、層間剥離を生じることなく既設の床材1を引き剥がすことができる。このため、既設の床材1の一部(主として下方部)が床面に貼り付いたままで残存する可能性が低く、貼り替え施工も容易に行うことができる。
以下、各層について詳しく説明する。
【0037】
<上側樹脂層及び下側樹脂層>
上側樹脂層2及び下側樹脂層3は、床材1の強度及び重量を構成する主たる部分である。
上側樹脂層2及び下側樹脂層3の厚みは、特に限定されず、適宜設定できる。上側樹脂層2の厚みと下側樹脂層3の厚みは、同じでもよいし、又は、何れか一方が小さくてもよい。例えば、上側樹脂層2の厚みは、0.05mm?1.0mmであり、好ましくは0.1mm?0.3mmである。下側樹脂層3の厚みは、例えば、0.5mm?3.0mmであり、好ましくは0.8mm?2.0mmである。
【0038】
なお、第2実施形態などのように、意匠性を有する上側樹脂層2を用いる場合には、その上側樹脂層2の厚みを比較的小さく設定してもよい。例えば、意匠性を有する上側樹脂層2の厚みは、0.05mm?0.5mmである。意匠性を有する上側樹脂層2は、そのものが意匠となり得るものである。前記意匠性を有する上側樹脂層2は、(1)上側樹脂層そのものの色彩で意匠が表出される場合、(2)上側樹脂層に着色剤が混合され、その着色剤の色彩及びその混ざり方によって意匠が表出される場合、(3)上側樹脂層に樹脂チップが混合され、その樹脂チップの色彩、形状、分散の仕方などによって意匠が表出される場合、(4)上側樹脂層に色彩の異なる着色剤と樹脂チップとが混合され、それらの色彩や混ざり方などによって意匠が表出される場合、などが挙げられる。意匠性を有する上側樹脂層2を用いた床材1について、その上側樹脂層2の厚みが小さい場合には、下側樹脂層3が主として床材1の強度及び重量を構成する部分となる。
【0039】
樹脂層(上側樹脂層2及び下側樹脂層3)の樹脂成分としては、特に限定されず、従来公知のものを用いることができ、一般的には、熱可塑性樹脂が用いられる。また、上側樹脂層2と下側樹脂層3の樹脂成分は、同種でもよいし、同じでもよいし、又は、異なっていてもよい。樹脂成分が同種とは、その樹脂成分の主たる繰り返し単位を構成するモノマーが同一であることを意味し、共重合モノマーを有する場合にはその共重合モノマーが異なる場合、及び/又は、重合度が異なる場合を含む。樹脂成分が同じとは、繰り返し単位(及び共重合モノマーを有する場合には、その共重合モノマーを含む)が同一であることを意味し、重合度が異なる場合を含む。
【0040】
前記熱可塑性樹脂としては、塩化ビニルや塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体などの塩化ビニル系樹脂;ポリオレフィン系樹脂;ウレタン系樹脂;エチレン-酢酸ビニル共重合体などの酢酸ビニル系樹脂;エチレン-メタクリレート樹脂などのアクリル系樹脂;ポリアミド系樹脂;エステル系樹脂;オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマーなどの各種エラストマーなどの各種エラストマー;ゴムなどが挙げられる。これらは、1種単独で、又は2種以上を併用できる。優れた可撓性を有し、さらに、樹脂付きガラスシート6と接合し易いことから、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の少なくとも何れか一方は、塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする樹脂層であることが好ましく、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の双方が、塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とすることがより好ましい。塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする樹脂層を有する床材1は、柔軟性に優れているので、歩行感が良好であり、さらに、湾曲させながら床面に施工できる。また、塩化ビニル系樹脂は、安価である上、これを用いると、床材1の製造も簡易となる。
上側樹脂層2及び下側樹脂層3が何れも塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする場合、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の塩化ビニル系樹脂は、モノマーの種類及び重合度が同じでもよく、そのいずれかが異なっていてもよい。
【0041】
なお、本明細書において、主成分樹脂は、その層を構成する樹脂成分(ただし、添加剤を除く)の中で最も多い成分(重量比)をいう。主成分樹脂の量は、その層を構成する樹脂成分全体を100質量%とした場合、50質量%を超え、好ましくは、70質量%以上であり、より好ましは80質量%以上である。主成分樹脂の量の上限は、100質量%である。主成分樹脂の量が100質量%未満である場合において、その層に含まれる主成分樹脂以外の樹脂は、特に限定されず、公知の樹脂成分を用いることができる。
【0042】
前記塩化ビニル系樹脂としては、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法などで製造されたものを用いることができる。加工し易く且つ取り扱い易いことから、乳化重合法、又は、懸濁重合法で得られる塩化ビニル系樹脂が好ましい。これらの塩化ビニル系樹脂は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
好ましくは、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の少なくとも一方は、主成分樹脂としてサスペンション塩化ビニル系樹脂を含み、より好ましくは、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の双方は、主成分樹脂としてサスペンション塩化ビニル系樹脂を含む。上側樹脂層2及び下側樹脂層3をサスペンション塩化ビニル系樹脂で形成することにより、床材1の強度を確保しつつ比較的厚みの小さい床材1を得ることができる。
【0043】
ペースト塩化ビニル系樹脂は、例えば、乳化重合法で得られるペースト状の塩化ビニル系樹脂であり、可塑剤により、適宜粘度を調整できる。ペースト塩化ビニル系樹脂は、多数の微粒子集合体からなる粒子径が0.1?10μm(好ましくは1?3μm)の微細粉末であり、好ましくは、前記微細粉末の表面に界面活性剤がコーティングされている。ペースト塩化ビニル系樹脂の平均重合度は1000?2000程度が好ましい。
サスペンション塩化ビニル系樹脂は、例えば、懸濁重合法で得られる塩化ビニル系樹脂である。サスペンション塩化ビニル系樹脂は、粒子径が好ましくは20μm?100μmの微細粉末である。サスペンション塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、700?1500程度が好ましく、700?1100程度がより好ましく、700?1000程度がさらに好ましい。
ただし、前記粒子径は、体積基準の粒度分布におけるメディアン径(D50)である。
【0044】
前記各塩化ビニル系樹脂は、K値60?95程度のものが好ましく、K値65?80程度のものがより好ましい。
前記上側樹脂層2及び下側樹脂層3には、通常、上記樹脂成分以外に各種添加剤が含まれる。添加剤としては、従来公知のものを使用でき、例えば、充填剤、可塑剤、難燃剤、安定剤、吸湿剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、発泡剤、防黴剤などが挙げられる。
【0045】
前記上側樹脂層2及び下側樹脂層3は、それぞれ独立して、非発泡でもよいし、或いは、発泡されていてもよい。例えば、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の何れか一方が発泡樹脂層で且つ他方が非発泡樹脂層で構成されていてもよいし、又は、双方が非発泡樹脂層若しくは発泡樹脂層で構成されていてもよい。
前記発泡樹脂層の発泡倍率は特に限定されないが、好ましくは1.05倍?10倍であり、より好ましくは1.1倍?4倍である。発泡倍率が余りに低いと、床材1に実質的にクッション性を付与できず、一方、発泡倍率が余りに高いと、床材1が柔らかくなりすぎる。
【0046】
<ガラスシート>
ガラスシート4は、経時的な収縮や膨張による床材1の寸法変化を抑制するための層である。詳しくは、ガラスシート4は、強度が高く、温度による寸法変動が少ないというガラス繊維の特性を有し、床材1の寸法安定性や剛性などの機械的強度を高め、温度変化や経時的な収縮や膨張による寸法変化や反りを抑制するための層である。
ガラスシート4は、複数のガラス繊維41が重なり合って層を成しているものであり、上述のように、ガラス不織布4aやガラス織布4bなどを用いることができる。
好ましくは、ガラス不織布4aが用いられる。ガラス不織布4aは、寸法安定性に優れるため、床材1全体の寸法安定性に大きく寄与する上、床材1の曲げ強度及び引張り強度を向上させることができる。また、ガラス織布4bは、ガラス繊維41が概ね規則的に配列されているので、床材1の表面に織り目が表出するおそれがあるが、ガラス不織布4aを用いた場合には、そのような不具合も生じない。
ガラス不織布4aやガラス織布4bの説明は、上記[床材の積層構造]の欄で述べた通りである。ここでは、上記の欄で説明しなかった事項について主として説明する。
【0047】
ガラス不織布4a及びガラス織布4bのガラス繊維41の太さは、特に限定されず、例えば、直径5μm?30μmであり、好ましくは、直径8μm?20μmである。
ガラス不織布4aのガラス繊維41の長さは、特に限定されず、例えば、10mm?30mmである。ガラス不織布4aのガラス繊維41は、短繊維のみから構成されていてもよく、長繊維のみから構成されていてもよく、或いは、短繊維と長繊維の混合から構成されていてもよい。短繊維のみから構成されたガラス不織布4aは、寸法安定性に優れているが、短繊維と長繊維の混合物から構成されたガラス不織布4aは、寸法安定性に加えて引張り強度にも優れている。前記短繊維の長さは、特に限定されないが、例えば、10mm?35mmであり、長繊維の長さは、その短繊維の長さよりも大きい。なお、ガラス織布4bのガラス繊維41は、通常、前記長繊維よりも更に長い繊維からなる。
【0048】
<接合樹脂>
接合樹脂5としては、ガラス繊維41、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の何れにも接合するものであれば特に限定されず、従来公知の樹脂を用いることができる。接合樹脂5としては、上側樹脂層2及び下側樹脂層3で例示したような熱可塑性樹脂が挙げられる。
ガラス繊維41、塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層2及び下側樹脂層3に対する接合性に優れていることから、接合樹脂5は、主成分樹脂として塩化ビニル系樹脂を含むことが好ましく、主成分樹脂としてペースト塩化ビニル系樹脂を含むことが好ましい。
【0049】
サスペンション塩化ビニル系樹脂は比較的硬いので、その樹脂はガラスシート4に強固に付着し難いが、ペースト塩化ビニル系樹脂は、可塑剤の量が多く、比較的軟らかいので、ガラスシート4への塗工も容易で且つガラス繊維41に強固に付着する。また、ペースト塩化ビニル系樹脂は、サスペンション塩化ビニル系樹脂に対する相溶性に優れているので、それを含む接合樹脂5は、サスペンション塩化ビニル系樹脂を含む上側樹脂層2又は下側樹脂層3にも強固に接合するようになる。
接合樹脂5に含まれるペースト塩化ビニル系樹脂は、多数の微粒子集合体からなる粒子径が0.1?10μm(好ましくは1?3μm)の微細粉末であり、好ましくは、前記微細粉末の表面に界面活性剤がコーティングされている。前記ペースト塩化ビニル系樹脂の平均重合度は1000?2000程度が好ましく、K値は、60?95程度が好ましく、K値65?80程度がより好ましい。
なお、接合樹脂5には、通常、各種添加剤が含まれる。添加剤としては、上記に例示したようなものが挙げられる。
【0050】
<化粧層>
化粧層73は、床材1に意匠を付与する層である。化粧層73は、必要に応じて設けられる。
前記化粧層73は、転写層、意匠印刷層、意匠印刷シート、意匠性が付与された熱可塑性樹脂層などが挙げられる。もっとも、化粧層73は、これら例示の層に限られず、意匠を表出できる層であればその他任意のものを用いることができる。
前記転写層は、印刷インキを剥離紙などの基材上に印刷して固化させた後に、固化した印刷インキを剥離して形成した転写フィルムから構成される。前記転写層からなる化粧層7は、上側樹脂層2の上面又は保護層72の下面に転写することによって形成される。意匠印刷層は、上側樹脂層2の上面又は保護層72の下面に印刷インキを直接印刷して固化させた層から構成される。意匠印刷シートからなる化粧層73は、上側樹脂層2の上面又は保護層72の下面に、予め意匠印刷を施したシートを接合することによって形成される。
【0051】
意匠性が付与された熱可塑性樹脂層は、そのものが意匠となり得る層である。前記熱可塑性樹脂層は、(1)樹脂そのものの色彩で意匠性が付与されている場合、(2)着色剤が混合され、その着色剤の色彩及びその混ざり方によって意匠性が付与されている場合、(3)樹脂チップが混合され、その樹脂チップの色彩、形状、分散の仕方などによって意匠性が付与されている場合、(4)色彩の異なる着色剤と樹脂チップとが混合され、それらの色彩や混ざり方などによって意匠性が付与されている場合、などが挙げられる。熱可塑性樹脂層からなる化粧層73は、上側樹脂層の上面などに、その熱可塑性樹脂層を積層接合することによって形成される。
前記意匠性が付与された熱可塑性樹脂層の樹脂成分としては、上記<上側樹脂層及び下側樹脂層>の欄で例示したようなものが挙げられ、上側樹脂層2と保護層72に強固に接合することから、熱可塑性樹脂が好ましい。特に、上側樹脂層2と保護層72が塩化ビニル系樹脂の場合は、塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂が好ましい。
前記化粧層73の厚みは特に限定されないが、例えば、0.5μm?1mmであり、好ましくは0.01mm?0.8mmである。特に、転写層や意匠印刷層からなる化粧層73の厚みは、0.5μm?0.5mmである。
【0052】
<保護層>
保護層72は、床材1に付着した汚れを容易に除去できるようにするために設けられた層である。すなわち、保護層72は、床材1に汚れ除去性を付与する。保護層72は、必要に応じて設けられる。保護層72は、透明又は不透明でもよいが、保護層72の下側に設けられた化粧層73の意匠を視認できるようにするため(化粧層73が設けられていない場合には、上側樹脂層2の着色を視認できるようにするため)、透明であることが好ましい。
保護層72は、樹脂材料で形成される。その樹脂材料としては、上記<上側樹脂層及び下側樹脂層>の欄で例示したようなものが挙げられ、化粧層73又は上側樹脂層2と強固に接合することから、塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂が好ましい。
保護層72の厚みは、特に限定されず、例えば、0.03mm?1mmである。
【0053】
<傷付き防止層>
傷付き防止層71は、保護層72と共に床材1に汚れ除去性を付与し、さらに、床材1の上面に耐摩耗性や耐傷付き性を付与するために設けられる層である。傷付き防止層71は、必要に応じて設けられる。傷付き防止層71は、透明又は不透明でもよいが、保護層72と同様の理由から、透明であることが好ましい。
傷付き防止層71を形成する樹脂材料は、特に限定されないが、比較的硬い樹脂層から形成されていることが好ましい。傷付き防止層71の樹脂材料としては、加工性の良さから硬化性樹脂を用いることが好ましく、さらに、保護層72に熱損傷を与え難いことから、電離放射線硬化性樹脂を用いることがより好ましく、汎用的であることから、紫外線硬化性樹脂を用いることがさらに好ましい。前記硬化性樹脂としては、紫外線硬化性樹脂などの電離放射線硬化性樹脂以外に、熱硬化性樹脂、非電離放射線により硬化する樹脂などが挙げられる。
【0054】
具体的には、傷付き防止層71は、硬化性モノマー及びオリゴマーの少なくともいずれか一方が重合した硬化性樹脂を含み、必要に応じて、その他の成分を含んで形成されている。
電離放射線硬化性樹脂を構成する、電離放射線により硬化する硬化性モノマー又はオリゴマーとしては、通常、紫外線又は電子線で硬化する硬化性モノマー又はオリゴマーが挙げられる。以下、電離放射線により硬化する硬化性モノマー又はオリゴマーを、電離放射線硬化性モノマー又はオリゴマーという。
前記電離放射線硬化性モノマー又はオリゴマーとしては、分子中に(メタ)アクリレート基、(メタ)アクリロイルオキシ基などの重合性不飽和結合基又はエポキシ基などを有するモノマー又はオリゴマーが挙げられる。
前記電離放射線硬化性モノマーの具体例としては、α-メチルスチレンなどのスチレン系モノマー、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、分子中に2個以上のチオール基を有するポリオール化合物などが挙げられる。前記電離放射線硬化性オリゴマーの具体例としては、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートなどのアクリレート、不飽和ポリエステル、エポキシなどが挙げられる。これらの硬化性モノマー又はオリゴマーは、1種単独で又は2種以上を併用できる。
これらの中では、電離放射線硬化性モノマー又はオリゴマーとして、分子中に(メタ)アクリレート基を有するモノマー又はオリゴマーを用いることが好ましく、さらに、ウレタン(メタ)アクリレートを用いることがより好ましい。
前記硬化性モノマー又はオリゴマーの分子量は、特に限定されないが、例えば、200?10000などが挙げられる。
【0055】
電離放射線硬化性モノマー又はオリゴマーには、通常、光重合開始剤が添加される。前記光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、キサントン、3-メチルアセトフェノン、4-クロロベンゾフェノン、4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンジルジメチルケタール、N,N,N’,N’-テトラメチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、その他のチオキサント系化合物などが挙げられる。
また、傷付き防止層71には、樹脂成分以外の成分が含まれていてもよく、その成分としては、例えば、溶剤、レベリング剤、微粒子、充填剤、分散剤、可塑剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、酸化防止剤、チクソトロピー化剤、防黴剤などが挙げられる。
傷付き防止層71の厚みは、特に限定されないが、例えば、1μm?100μmであり、好ましくは5μm?70μmであり、より好ましくは10μm?50μmである。
【0056】
<基材層>
基材層74は、床材1の最も下側に位置する層であって、敷設時の床材を床面に接着させる接着剤(以下、床面接着剤という)との接着強度を高め、床材1の反りなどを抑制することを目的とした層である。従って、床材1を敷設した際には、主として基材層74の下面が床面に接することになる。ただし、基材層74の下面にバッキング層75などの他の層を積層することもでき、そのような層構成の床材1の最下面は、基材層74で構成されない。基材層74は、必要に応じて設けられる。
前記基材層74としては、特に限定されないが、例えば、不織布、織布、紙、フェルトなどの従来公知のシート材を用いることができる。不織布や織布を構成する繊維の材質は、特に限定されず、例えば、ポリエステル、ポリオレフィンなどの合成樹脂繊維;ガラス、カーボンなどの無機繊維;天然繊維などが挙げられる。基材層74が設けられていることにより、床材1の敷設時に、床材1を床面接着剤が基材層74に十分に含浸し、アンカー効果によって床材1が床面に強固に固定される。また、基材層74を最も下側に配置することにより、基材層74の繊維の少なくとも一部が床材1の最下面から露出するようになるので、前記床面接着剤が繊維に絡み、床材1が床面により強固に固定される。
【0057】
前記織布は、特に限定されないが、寸法安定性などの各種物性の観点から、寒冷紗が好ましく、さらに、ポリエステル繊維の平織り織布がより好ましい。前記寒冷紗は、ポリエステル繊維などの繊維からなる織布である。織布は繊維を織り込んで布状にしているので、不織布より縦横方向に伸びにくく、床材1の伸びを効果的に抑制できる。それ故、基材層74が織布で構成されていることにより、全体の剛性を上げることなく、反りの小さい床材1を得ることができる。
前記不織布としては、スパンボンド不織布、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布などが挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を併用できる。中でも、薄くて強いことから、スパンボンド不織布が好ましく、さらに、ポリプロピレンスパンボンド不織布がより好ましい。
前記基材層74の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.1mm?0.5mmであり、好ましくは0.2mm?0.4mmである。また、基材層74の目付量は、特に限定されず、例えば、30g/m^(2)?50g/m^(2)である。基材層74の厚み又は目付量が小さすぎると、床材1の反りを十分に抑制できないおそれがあり、一方、大きすぎると、基材層74に下側樹脂層3の樹脂材料が十分に含浸しないおそれがある。
【0058】
[床材の製造方法]
次に、本発明の床材の製造方法について説明する。
ただし、本発明の床材1は、次の製造方法によって製造されたものに限定されず、他の製造方法で製造することもできる。
【0059】
本発明の床材の製造方法は、樹脂付きガラスシートを準備する工程、前記樹脂付きガラスシートの上面に上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に下側樹脂層を積層し、加熱加圧して上側樹脂層、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層を一体化する工程、を有し、必要に応じて、他の工程を有していてもよい。
上側樹脂層、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層の積層及び一体化は、同時に行ってもよく、順次行ってもよい。前記積層及び一体化は、例えば、下記(1)乃至(3)のような手順が挙げられる。
(1)上側樹脂層、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層の積層を含む積層体を、加熱加圧して一体化する。
(2)上側樹脂層及び樹脂付きガラスシートの積層を含む第1積層体を加熱加圧して一体化し、さらに、その第1積層体と下側樹脂層の積層を含む第2積層体を加熱加圧して一体化する。
(3)下側樹脂層及び樹脂付きガラスシートの積層を含む第1積層体を加熱加圧して一体化し、さらに、その第1積層体と上側樹脂層の積層を含む第2積層体を加熱加圧して一体化する。
【0060】
なお、具体的な実施形態では、上側樹脂層、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層以外に保護層や基材層などが積層されるが、これら保護層などの積層は、前記(1)乃至(3)のような上側樹脂層、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層の積層及び一体化を行う際に同時に行ってもよく、又は、前記(1)乃至(3)のような上側樹脂層、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層の積層及び一体化を行う前に、若しくは、その後に適宜行ってもよい。
【0061】
これら各工程を1つの製造ラインで一連に行ってもよいし、或いは、前記各工程から選ばれる1つ又は2つ以上の工程を、1つのラインで行い、且つ残る工程を他の1つ又は2つ以上のラインで行ってもよい。また、前記各工程の全てを一の実施者が行ってもよいし、或いは、前記各工程から選ばれる1つ又は2つ以上の工程を一の実施者が行い、且つ残る工程を他の実施者が行ってもよい。
以下、図12及び図13を適宜参考しつつ具体的に説明する。
【0062】
図12は、第1実施形態に係る製造方法の各工程を模式的に表した概略側面図であって、上側樹脂層、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層の積層及び一体化を同時に行う実施形態である。
図13は、第2実施形態に係る製造方法の各工程を模式的に表した概略側面図であり、まず、上側樹脂層及び樹脂付きガラスシートの積層を含む第1積層体を加熱加圧して一体化し、次に、その第1積層体と下側樹脂層の積層を含む第2積層体を加熱加圧して一体化する実施形態である。
各図示例の製造方法に用いられる製造ラインは、樹脂付きガラスシートの準備工程から長尺帯状の床材の製造までを一連に行う場合である。
【0063】
<各層の準備工程>
ガラスシート4Mに接合樹脂5Mを付着させることにより、樹脂付きガラスシート6Mを準備する。
ガラスシート4Mは、上記[床材の積層構造]及び<ガラスシート>の欄で述べたようなガラス不織布又はガラス織布(好ましくはガラス不織布)が用いられる。
ガラスシート4Mに対する接合樹脂5Mの付着方法は、特に限定されず、ロールコーターやナイフコーターなどの各種コーターを用いてガラスシートに接合樹脂を塗工する塗工法、接合樹脂を満たした樹脂槽にガラスシートを通す浸漬法、前記塗工法及び浸漬法の併用などが挙げられる。
【0064】
図12及び図13では、ロールコーターを用いた塗工法を例示している。図12及び図13において、所定幅に形成された長尺帯状のガラスシート4Mを、長さ方向に搬送する。その搬送途中に配置されたアプリケーターロール81とドクターロール82の間に、前記ガラスシート4Mを挿入することにより、供給ロール83からアプリケーターロール81に供給された接合樹脂5Mがガラスシート4Mの上面に塗工される。ガラスシート4Mの上面に塗工された接合樹脂5Mは、ガラス繊維の表面を伝わり及びガラスシート4Mの開口を通って移行し、ガラスシート4Mの下面側にも付着する。
接合樹脂5Mの粘度、アプリケーターロール81への接合樹脂5Mの供給量、アプリケーターロール81とドクターロール82の間隔などを適宜調整することにより、ガラスシート4Mに対する接合樹脂5Mの付着量を所望の範囲にすることができる。
接合樹脂5Mの付着量は、例えば、5g/m^(2)?105g/m^(2)であり、好ましくは10g/m^(2)?80g/m^(2)、より好ましくは15g/m^(2)?60g/m^(2)である。
【0065】
接合樹脂5Mは、特に限定されないが、塩化ビニル系樹脂、特に、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂材料が好ましい。ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分とする接合樹脂5Mの粘度は、例えば、100mPa・s?10,000mPa・sであり、好ましくは400mPa・s?2,000mPa・sである。このような粘度のペースト塩化ビニル系樹脂を用いることにより、ガラスシート4Mに良好に付着させることができる。なお、本明細書において、粘度は、20℃での粘度であって、BM型粘度計を用いて、60rpmにて測定した値である。
前記ペースト塩化ビニル系樹脂は、可塑剤を含む。具体的には、前記ペースト塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、可塑剤を50質量部?150質量部含むものが好ましく、さらに、前記可塑剤に加えて、可塑剤以外の添加剤を1質量部?10質量部含むものがより好ましい。
【0066】
ガラスシート4Mに付着させた接合樹脂5Mの流動性が高く、垂れなどを生じる場合には、ヒーターやオーブンなどの加熱手段(図示せず)を用いて接合樹脂5Mを強制的に乾燥することが好ましい。前記乾燥により、ガラスシート4Mに付着した接合樹脂5Mが垂れることなく、樹脂付きガラスシート6Mを得ることができる。得られた樹脂付きガラスシート6Mは、開口を有し、その通気度は、80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secであり、好ましくは100cc/cm^(2)・sec?400cc/cm^(2)・secである。
【0067】
また、別途、保護層72M、化粧層73M、上側樹脂層2M、下側樹脂層3M及び基材層74Mを準備する。これらの層72M,73M,2M,3M,74Mは、所定幅の長尺帯状であり、好ましくは、ガラスシート4Mとほぼ同じ幅の長尺帯状のものを準備する。なお、意匠性を有する上側樹脂層を用いる場合には、化粧層73Mは省略される。
上側樹脂層2M及び下側樹脂層3Mのうち少なくとも一方は、サスペンション塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂で形成され、好ましくは、双方がサスペンション塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂で形成される。
これらの層72M,73M,2M,3Mの形成方法は、特に限定されず、それらを形成する材料に応じて適宜選択でき、例えば、カレンダー法、溶融押出法、溶液流延法などが挙げられる。
【0068】
図12では、保護層72M、化粧層73M,上側樹脂層2M、下側樹脂層3M及び基材層74Mを別々に準備し、後述する積層工程でそれらを積層及び一体化する場合を示している。
図13では、保護層72M、化粧層73M、上側樹脂層2M、下側樹脂層3M及び基材層74Mを別々に準備し、後述する積層工程で順次それらを積層及び一体化する場合を示している。
なお、図12及び図13において、化粧層73Mと上側樹脂層2Mに代えて、意匠性を有する上側樹脂層を準備してもよい。この場合、化粧層73Mの積層は必要に応じて省略される。
また、上述のように、上側樹脂層、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層以外の層の積層は、後述する積層工程で行う場合に限られず、任意の時期に行うことができる。
例えば、準備工程で、下側樹脂層3Mの下面に基材層74Mを設けておき、この基材層付きの下側樹脂層3Mを、後述する積層工程で樹脂付きガラスシート6Mに積層してもよい。或いは、上側樹脂層2M及び化粧層73Mの積層物の上面又は意匠性を有する上側樹脂層の上面に保護層72Mを設けておき、この保護層付き上側樹脂層2Mを、後述する積層工程で樹脂付きガラスシート6Mに積層してもよい。その他、任意の2つ以上の層を予め積層して一体化しておき、後述する積層工程を行ってもよい。
【0069】
<積層工程>
図12に示すように、樹脂付きガラスシート6Mの上面に、上側樹脂層2Mを積層し且つ前記樹脂付きガラスシート6Mの下面に、下側樹脂層3Mを積層し、さらに、上側樹脂層2Mの上面に化粧層73M及び保護層72Mを積層し且つ下側樹脂層3Mの下面に基材層74Mを積層しつつ一対のロール84,85間に通して加熱加圧することにより、各層72M,73M,2M,6M,3M,74Mを一体化する。
図13に示すように、樹脂付きガラスシート6Mの上面に、上側樹脂層2Mを積層し且つ上側樹脂層2Mの上面に化粧層73M及び保護層72Mを積層しつつ、一対のロール841,851間に通して加熱加圧することにより、各層72M,73M、2M,6Mを一体化して第1積層体を形成した後、その第1積層体の下面(樹脂付きガラスシート6Mの下面)に、下側樹脂層3Mを積層し且つ下側樹脂層3Mの下面に基材層74Mを積層しつつ一対のロール842,852間に通して加熱加圧することにより、各層72M,73M,2M,6M,3M,74Mを一体化する。
【0070】
具体的には、図12の場合、上側から順に、保護層72M、化粧層73M、上側樹脂層2M、樹脂付きガラスシート6M、下側樹脂層3M及び基材層74Mが重なった積層体を、一対の加熱ロール84,85(又は、加熱ロール84と樹脂ロール85)の間に通すことにより、積層体が加熱加圧され、各層72M,73M,2M,6M,3M,74Mが接合する。
図13の場合、上側から順に、保護層72M、化粧層73M、上側樹脂層2M、樹脂付きガラスシート6Mが重なった第1積層体を、一対の加熱ロール841,851(又は、加熱ロール841と樹脂ロール851)の間に通すことにより、第1積層体が加熱加圧され、各層72M,73M,2M,6Mが接合する。次に、上側から順に、前記第1積層体、下側樹脂層3M及び基材層74Mが重なった第2積層体を、一対の加熱ロール842,852(又は、加熱ロール842と樹脂ロール852)の間に通すことにより、第2積層体が加熱加圧され、各層72M,73M,2M,6M,3M,74Mが接合する。
なお、上述のように、例えば、準備工程で、任意の2層以上が積層されたものを準備している場合には、図12及び図13において、その2層以上の積層物が用いられる。
加熱加圧による各層の接合方法は、例えば、ラミネート加工法、カレンダー成形法、連続プレス法などが挙げられる。中でも、ラミネート加工法、カレンダー成形法のようなロールによる加熱加圧によって積層体を連続的に接合する方法は、一度に多くの製品を製造することができるので好ましい。特に、ラミネート加工法は、多くの積層体を一度に接合できるので、本発明において最も好適に適用することができる。ラミネート加工法の加熱温度及び圧力は、公知の加工法に準じて適宜設定される。例えば、積層体の加熱温度は、160℃?200℃であり、ロール間の圧力は、20kgf/cm^(2)?100kgf/cm^(2)である。
図12及び図13に示す各層のうち適宜な層の積層を省略、又は、適宜な層を追加することにより、上記第2乃至第5実施形態に示す床材を得ることができる。
【0071】
<エンボス工程>
エンボス工程は、前記積層体の上面又は下面に凹凸を形成するために、必要に応じて行われる。前記ロール84,85,841,851,842,852間を通過して各層が一体化された積層体1Mをエンボスロール86と受けロール87間に通すことにより、積層体1Mに凹凸を形成する。本発明によれば、エンボス加工に優れ、床材上面に良好なエンボス形状を形成できる。
【0072】
<傷付き防止層の形成工程>
この工程は、保護層72Mの上面に傷付き防止層を形成するために、必要に応じて行われる。
前記積層体1Mの上面に、ロールコーター88などを用いて、例えば、電離放射線硬化性モノマー又はオリゴマー(傷付き防止層の形成材料71M)を塗工し、電離放射線照射装置89を用いて、電離放射線を当てることにより、最上面に傷付き防止層が形成された床材1が得られる。
得られた長尺帯状の床材1は、必要に応じてロールに巻き取られ、保管・運搬に供される。また、本発明の床材1を枚葉状のタイルとする場合には、前記長尺帯状の床材を、打ち抜き、カットなどを行うことによって、適切な大きさに切断して、重ねて保管・運搬に供される。
【0073】
一般に、ガラスシートと樹脂層は接合し難い。特に、樹脂層が塩化ビニル系樹脂からなる場合、ガラスシートに対する接合性を高めることが難しく、とりわけ、サスペンション塩化ビニル系樹脂は、ガラスシートの繊維間内部に浸透し難いので接合性が低い。この点、樹脂層とガラスシートを接合する際の加工温度を高める方法も考えられるが、樹脂層の劣化を招くので好ましくない。従来、サスペンション塩化ビニル系樹脂を用いた床材は、ガラスシートの上下面にそれぞれサスペンション塩化ビニル系樹脂層を積層し、その積層体を加熱してロール間に通して加圧し、各層を一体化する、いわゆるラミネート加工によって得ることができる。しかし、加工時の積層体の加熱温度とロール間の圧力を過不足なく調整することが難しい。加熱温度が低すぎるか圧力が弱すぎる場合、樹脂層とガラスシートの層間で剥離が生じ易くなる。一方、加熱温度が高すぎるか圧力が強すぎる場合、各層の樹脂が劣化したりガラスシートが破断し易くなる。このような加工時の調整を誤ると、製造効率や製品品質が低下するといった課題が生じる。
【0074】
本発明の製造方法によれば、予め接合樹脂5Mが付着された樹脂付きガラスシート6Mに上側樹脂層2M及び下側樹脂層3Mを積層するので、上側樹脂層2M及び下側樹脂層3Mが、接合樹脂5Mに接合し、その接合樹脂5Mを介してガラスシート4Mに接合するようになる。さらに、樹脂付きガラスシート6Mは、開口Bを有するので、開口の部分に上側樹脂層2Mと下側樹脂層3Mが相互に入り込むことにより、上側樹脂層2Mと下側樹脂層3Mが直接的に接合するようになる。このため、本発明の製造方法によれば、従来に比べて低い温度と圧力でもガラスシート4Mと上側樹脂層2M及び下側樹脂層3Mとの間で層間剥離を生じ難くなり、加工時の製造に適した加熱温度や圧力の範囲が広くなる。
【0075】
特に、上側樹脂層2M及び下側樹脂層3Mの少なくとも一方をサスペンション塩化ビニル系樹脂で構成することにより、十分な機械的強度を有しつつ比較的厚みの小さい床材1を構成できる。本発明は、樹脂層としてサスペンション塩化ビニル系樹脂層を、例えば、ラミネート加工法にて作製した場合であっても、その樹脂層とガラスシートとの層間剥離が生じ難い床材を提供することも1つの目的としている。本発明の製造方法を用いることによって、製造に適した加熱温度や圧力の範囲が広くなるので、ラミネート加工の調整の許容度が拡がり、床材の製造が容易になるという効果も生じる。
また、ペースト塩化ビニル系樹脂は、サスペンション塩化ビニル系樹脂との相溶性に優れているので、接合樹脂5Mをペースト塩化ビニル系樹脂で且つ上側樹脂層2M及び下側樹脂層3Mをサスペンション塩化ビニル系樹脂で構成することにより、層間剥離し難く、機械的強度に優れ、比較的厚みの小さい床材1を得ることも可能となる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を更に詳述する。但し、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0077】
[使用材料]
・ガラスシート
ガラス不織布(オリベスト株式会社製の商品名「グラベスト」)。幅:193cm、長さ:3000m。ガラス繊維の太さ:直径約18μm、ガラス繊維の長さ:約25mm、目付量:30.42g/m^(2)。このガラス不織布の通気度は、370cc/cm^(2)・secであった。
・ペースト塩化ビニル系樹脂
株式会社カネカ製の商品名「カネビニール」。重合度:1150、K値:69。
・サスペンション塩化ビニル系樹脂
株式会社カネカ製の商品名「カネビニール」。重合度:1050、K値:67。
【0078】
[実施例1]
上記ペースト塩化ビニル系樹脂に、可塑剤(フタル酸ジオクチル)を混合することにより、ペースト塩化ビニル系樹脂の粘度を1000mPa・sに調整した。なお、前記粘度は、BM型粘度計(東機産業株式会社製の商品名「BII形粘度計-BMII」)を用いて、20℃、60rpmにて測定した。
上記ガラスシートの上面に、汎用的なロールコーターを用いて、樹脂の目付量が10g/m^(2)となるように、上記粘度のペースト塩化ビニル系樹脂を塗工することにより、樹脂付きガラスシートを作製した。
この樹脂付きガラスシートを上面側から観察したところ、厚み方向に開口を有しており、その通気度は、320cc/cm^(2)・secであった。また、樹脂付きガラスシートの厚みを測定したところ、約0.28mmであった。
なお、ガラス不織布及び樹脂付きガラスシートの各通気度の測定は、上記記載の通りで行った。
【0079】
別途、上記サスペンション塩化ビニル系樹脂を、汎用的なカレンダー成形機を用いてカレンダー成形することにより、幅:193cm、長さ:3000m、厚み:0.2mmの樹脂層を作製し、これを上側樹脂層とした。この上側樹脂層の上面に、公知の印刷法にて公知のインキを用いて、厚み約1μmの意匠印刷層を形成した。
同様に、上記サスペンション塩化ビニル系樹脂を押出し加工することにより、幅:193cm、長さ:3000m、厚み:1.1mmの樹脂層を作製し、これを下側樹脂層とした。
【0080】
上側から順に、上記意匠印刷層を備えた上側樹脂層、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層を重ね合わせ、その積層体をプレヒーターで150℃に加熱した状態で、その積層体を各50℃の上下のラミネートロール間に通すことにより、厚み約2mmの長尺帯状の床材を作製した。なお、積層体の搬送速度は、約5m/分とし、積層体に加わる圧力は、35kgf/cm^(2)とした。
【0081】
[実施例2]
樹脂付きガラスシートを作製時に、ペースト塩化ビニル系樹脂の目付量を20g/m^(2)となるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして床材を作製した。なお、実施例2の樹脂付きガラスシートの通気度を、実施例1と同様にして測定した。以下、実施例2乃至6及び比較例2も同様。
【0082】
[実施例3]
樹脂付きガラスシートを作製時に、ペースト塩化ビニル系樹脂の目付量を40g/m^(2)となるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして床材を作製した。
【0083】
[実施例4]
樹脂付きガラスシートを作製時に、ペースト塩化ビニル系樹脂の目付量を55g/m^(2)となるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして床材を作製した。
【0084】
[実施例5]
樹脂付きガラスシートを作製時に、ペースト塩化ビニル系樹脂の目付量を80g/m^(2)となるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして床材を作製した。
【0085】
[実施例6]
樹脂付きガラスシートを作製時に、ペースト塩化ビニル系樹脂の目付量を90g/m^(2)となるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして床材を作製した。
【0086】
[比較例1]
ガラス不織布にペースト塩化ビニル系樹脂を塗布せずに、ガラス不織布そのものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして床材を作製した。
【0087】
[比較例2]
樹脂付きガラスシートを作製時に、ペースト塩化ビニル系樹脂の目付量を120g/m^(2)となるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして床材を作製した。
【0088】
[床材の剥離試験]
各実施例及び比較例の床材について、上側樹脂層とガラスシートとの間の層間剥離強度を測定したところ、表1に示す通りであった。
層間剥離強度は、JIS A 1454(高分子系張り床材試験方法)の層間剥離強度試験方法に準じて測定した。
具体的には、床材を、幅50mm、長さ150mmに切り取って測定サンプルを得、このサンプルの端面のうち上側樹脂層とガラスシートの境界にカッターを入れ、サンプルを厚み方向において上下2つに分離し、端面に上片と下片を形成した。このサンプルを、引張試験機にて、上片を引張速度200mm/分で引張って測定した。
【0089】
[床材の表面エンボス加工性試験]
各実施例及び比較例の床材を作製した後、その床材の表面に約170℃のエンボスロールを当て、床材表面にエンボス加工を施した。各実施例、比較例のエンボス加工後の床材の表面の状態を目視で観察したところ、表1の通りであった。なお、床材表面は、上記実施形態の床材上面と同義である。
なお、表面にエンボス加工を施した際に各層間に接合不良があると、各層間に内包された空気によって床材表面に凹凸が生じる。床材表面に現れた凹凸の有無を観察することによって、表面エンボス加工性の良さ、つまり、各層間の接合性の良否を確認できる。
表1の表面エンボス加工性の評価は、次の通りである。
○:床材表面に良好なエンボス加工が施され、近接観察でも凹凸が見られなかった。
△:近接観察では床材表面に凹凸が若干確認されたが、立視点にて150cm離隔した状態観察した場合にはそれを視認できなかった。
×:立視点で150cm離隔した状態においても前記凹凸が床材表面に確認された。
【0090】
表1の各実施例と比較例1の対比から、接合樹脂をガラスシートに付着させておくことにより、層間剥離強度に優れた床材が得られ得ることが判る。また、通気度が80?500cc/cm^(2)・secである樹脂付きガラスシート、すなわち、開口を有する樹脂付きガラスシートを用いることにより、層間剥離強度に優れた床材が得られ得ることが判る。特に、通気度が80?300cc/cm^(2)・sec、さらに、80?250cc/cm^(2)・secある樹脂付きガラスシートを用いた床材は、剥離時に材料破壊を生じることから、層間接合力が極めて優れていることが判る。
また、表面エンボス加工性の観点から、接合樹脂の目付量は5?105g/m^(2)であることが好ましいことが判る。特に、接合樹脂の目付量が5?75g/m^(2)、さらに、10?60g/m^(2)である場合には、表面エンボス加工性に優れた床材が得られ得ることが判る。
【0091】
【表1】

【符号の説明】
【0092】
1 床材
2,2M 上側樹脂層
3,3M 下側樹脂層
4,4M ガラスシート
5,5M 接合樹脂
6,6M 樹脂付きガラスシート
A,B 開口
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂を主成分とするバインダー及び複数のガラス繊維を含み且つ前記ガラス繊維が前記バインダーにてバインドされているガラスシートを準備する工程、
前記ガラスシートにペースト塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂を付着させることにより、前記ガラスシートと前記バインダーを含むガラス繊維の表面に付着された前記接合樹脂とを有する樹脂付きガラスシートであって上下面に略直線的に連通した無数の開口を有し且つ通気度が80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secである樹脂付きガラスシートを準備する工程、
前記樹脂付きガラスシートの上面に上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に下側樹脂層を積層し、加熱加圧して上側樹脂層、ガラスシート及び下側樹脂層を一体化する工程、を有する床材の製造方法。
【請求項2】
前記接合樹脂の目付量が、5g/m^(2)?105g/m^(2)である、請求項1に記載の床材の製造方法。
【請求項3】
前記上側樹脂層及び下側樹脂層の少なくとも一方が、サスペンション塩化ビニル系樹脂を含む、請求項1または2に記載の床材の製造方法。
【請求項4】
上側樹脂層と、
下側樹脂層と、
前記上側樹脂層と下側樹脂層の間に積層されたガラスシートであって、アクリル系樹脂を主成分とするバインダー及び複数のガラス繊維を含み且つ前記ガラス繊維が前記バインダーにてバインドされていると共に、前記ガラス繊維間に開口を有するガラスシートと、前記バインダーを含むガラス繊維の表面に付着されたペースト塩化ビニル系樹脂を含む接合樹脂と、を有する樹脂付きガラスシートと、を有し、
前記樹脂付きガラスシートには、その上下面に略直線的に連通した無数の開口が形成され、前記樹脂付きガラスシートの通気度が、80cc/cm^(2)・sec?500cc/cm^(2)・secであり、
前記上側樹脂層及び下側樹脂層が、前記接合樹脂を介して前記ガラス繊維に接合されていると共に、前記樹脂付きガラスシートの開口を通じて直接的に接合されている、床材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-24 
出願番号 特願2015-119191(P2015-119191)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (E04F)
P 1 651・ 121- YAA (E04F)
P 1 651・ 113- YAA (E04F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 五十幡 直子  
特許庁審判長 小林 俊久
特許庁審判官 秋田 将行
大塚 裕一
登録日 2018-10-12 
登録番号 特許第6416044号(P6416044)
権利者 東リ株式会社
発明の名称 床材の製造方法及び床材  
代理人 特許業務法人まこと国際特許事務所  
代理人 特許業務法人まこと国際特許事務所  

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