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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E04F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E04F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E04F
管理番号 1362358
異議申立番号 異議2019-700359  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-26 
確定日 2020-04-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6419659号発明「床材の製造方法及び床材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6419659号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、5について訂正することを認める。 特許第6419659号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6419659号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成27年7月10日に出願され、平成30年10月19日にその特許権の設定登録がされ、平成30年11月7日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成31年 4月26日 :特許異議申立人内田照和による請求項1ない し5に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 1年 6月28日付け:取消理由通知書
令和 1年 8月29日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 1年10月10日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和 1年11月18日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 2年 1月17日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 2年 2月27日 :特許異議申立人による意見書の提出


第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。

(1)一群の請求項1ないし4に係る訂正
訂正前の請求項1ないし4について、請求項2ないし4は、請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の記載を以下のとおりに訂正する。
「【請求項1】
複数のガラス繊維及び天然繊維を含むガラスシートを準備する工程、
前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂を付着させることにより、前記接合樹脂の目付量が320g/m^(2)以上であり、前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している、樹脂付きガラスシートを準備する工程、
前記樹脂付きガラスシートの上面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層を積層し、加熱加圧して上側樹脂層、ガラスシート及び下側樹脂層を一体化する工程、を有する床材の製造方法。」

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2の記載を以下のとおりに訂正する。
「【請求項2】
前記樹脂付きガラスシートの接合樹脂の目付量が630g/m^(2)以下であり、
前記樹脂付きガラスシートの通気度が0?10cc/cm^(2)・secである、請求項1に記載の床材の製造方法。」

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3の記載を以下のとおりに訂正する。
「【請求項3】
前記上側樹脂層及び下側樹脂層の双方の塩化ビニル系樹脂が、サスペンション塩化ビニル系樹脂を含む、請求項1または2に記載の床材の製造方法。」

エ 訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0005】の記載を以下のとおりに訂正する。
「【0005】
本発明の床材の製造方法は、複数のガラス繊維及び天然繊維を含むガラスシートを準備する工程、前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂を付着させることにより、前記接合樹脂の目付量が320g/m^(2)以上であり、前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している、樹脂付きガラスシートを準備する工程、前記樹脂付きガラスシートの上面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層を積層し、加熱加圧して上側樹脂層、ガラスシート及び下側樹脂層を一体化する工程、を有する床材の製造方法る工程を有する。」

オ 訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0006】の記載を以下のとおりに訂正する。
「【0006】
本発明の好ましい床材の製造方法は、前記樹脂付きガラスシートの接合樹脂の目付量が630g/m^(2)以下であり、前記樹脂付きガラスシートの通気度が0?10cc/cm^(2)・secである。
本発明の好ましい床材の製造方法は、前記上側樹脂層及び下側樹脂層の双方の塩化ビニル系樹脂が、サスペンション塩化ビニル系樹脂を含む。
本発明の好ましい床材の製造方法は、前記ガラスシートが、繊維成分全体を100質量%とした場合に、天然繊維を15質量%?50質量%含む。」

カ 訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0008】の記載を以下のとおりに訂正する。
「【0008】
発明の製造方法によれば、ペースト塩化ビニル系樹脂を含み且つ架橋剤を含まない所定の目付量の接合樹脂が、ガラスシートの内部に含浸されていると共に、ガラスシートの上側においてガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、ガラスシートの下側においてガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつガラスシートの下側において不連続な層を成している、天然繊維を含む樹脂付きガラスシートに、塩化ビニル系樹脂を含む上側樹脂層及び下側樹脂層を積層して加熱加圧することにより、ガラスシートと上側樹脂層及び下側樹脂層とを容易に接合させ、層間強度に優れた床材を得ることができる。」

(2)請求項5に係る訂正
ア 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5の記載を以下のとおりに訂正する。
「【請求項5】
塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層と、塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層と、前記上側樹脂層と下側樹脂層の間に積層されたガラスシートであって、複数のガラス繊維及び天然繊維を含むガラスシートと、を有し、
前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂が目付量320g/m^(2)以上で付着されており、
前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成しており、
前記上側樹脂層及び下側樹脂層が、前記接合樹脂を介して接合されている、床材。」

イ 訂正事項8
願書に添付した明細書の段落【0007】の記載を以下のとおりに訂正する。
「【0007】
本発明の別の局面によれば、床材を提供する。
本発明の床材は、塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層と、塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層と、前記上側樹脂層と下側樹脂層の間に積層されたガラスシートであって、複数のガラス繊維及び天然繊維を含むガラスシートと、を有し、 前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂が目付量320g/m^(2)以上で付着されており、前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成しており、前記上側樹脂層及び下側樹脂層が、前記接合樹脂を介して接合されている。」

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1の「樹脂付きガラスシート」において用いられる「塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂」とする「接合樹脂」について「ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない」ことを限定し、
訂正前の「樹脂付きガラスシートを準備する工程」において準備される「前記接合樹脂の目付量が320g/m^(2)以上である樹脂付きガラスシート」について「ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂を付着させることにより」準備されることを限定し、
訂正前の樹脂付きガラスシートの「ガラスシートに付着された接合樹脂」について「前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加について
願書に添付された明細書の【0027】、【0028】、【0031】、【0034】、【0051】、【0055】、【0056】、【0093】には次の記載がある。

(ア)「【0027】
接合樹脂5のガラスシート4に対する付着態様は、上面側又は下面側から見て下記の4つの態様に大別できる。
(a)接合樹脂5は、樹脂付きガラスシート6の上面側から見て、ガラスシート4を構成する複数の繊維41の全てに付着している。
(b)接合樹脂5は、樹脂付きガラスシート6の上面側から見て、ガラスシート4を構成する複数の繊維41の少なくとも一部に付着し且つ複数の繊維41のうちの少なくとも1本の繊維に付着していない部分を有する。
(c)接合樹脂5は、樹脂付きガラスシート6の下面側から見て、ガラスシート4を構成する複数の繊維41の全てに付着している。
(d)接合樹脂5は、樹脂付きガラスシート6の下面側から見て、ガラスシート4を構成する複数の繊維41の少なくとも一部に付着し且つ複数の繊維41のうちの少なくとも1本に付着していない部分を有する。
なお、本明細書において、「上面側(又は下面側)から見て」とは、その層の上面(又は下面)に対して垂直な方向から見ることをいう。
接合樹脂5の付着態様は、上記(a)及び(b)から選ばれる1つで且つ(c)及び(d)から選ばれる1つの態様であり、好ましくは、(a)及び(c)の態様、又は、(a)及び(d)の態様である。
【0028】
前記(a)においては、樹脂付きガラスシート6の上面側から見て、複数の繊維41のほとんど全てが接合樹脂に覆われ、前記(c)においても同様に、樹脂付きガラスシート6の下面側から見て、複数の繊維41のほとんど全てが接合樹脂に覆われている。なお、図3乃至図5は、この(a)及び(c)の態様を図示している。 前記(b)においては、樹脂付きガラスシート6の上面側から見て、繊維41が露出している部分を有し、前記(d)においても同様に、樹脂付きガラスシート6の下面側から見て、繊維41が露出している部分を有する。」

(イ)「【0031】
さらに、樹脂付きガラスシート6において、接合樹脂5は、ガラスシート4にほぼ沿って層を成している。なお、図3乃至図5において、ガラスシート4の上面41u及び下面42dを二点鎖線で表している。
例えば、接合樹脂5は、図3乃至図5に示すように、ガラスシート4の内部に含浸し、さらに、ガラスシート4の上側においてガラスシート4の上面41uにほぼ沿って層を成し、さらに、接合樹脂5は、図3及び図4に示すように、ガラスシート4の下側においてガラスシート4の下面42dにほぼ沿って層を成している。なお、図5に示す態様は、接合樹脂5がガラスシート4の下側において層を成しているが、その層がガラスシート4の下面42dよりもシート4の厚み方向上側に入りこんでいる場合である。特に図示しないが、ガラスシート4の上側において層を成している接合樹脂5が、ガラスシート4の上面41uよりもシート4の厚み方向下側に入りこんでいる場合であってもよい。」

(ウ)「【0034】
接合樹脂5が上記(a)の態様で付着している場合には、図3乃至図5に示すように、上接合樹脂層51は、ガラスシート4の上側において連続して層を成している。接合樹脂5が上記(b)の態様で付着している場合には、上接合樹脂層51は、一部不連続な部分を有しつつ全体として見ると層を成している(図示せず)。同様に、接合樹脂5が上記(c)の態様で付着している場合には、下接合樹脂層52は、図3乃至図5に示すように、ガラスシート4の下面側において連続して層を成している。接合樹脂5が上記(d)の態様で付着している場合には、下接合樹脂層52は、一部不連続な部分を有しつつ全体として見ると層を成している(図示せず)。
上接合樹脂層51の上面は、平坦状でもよく、或いは、凹凸状でもよい。下接合樹脂層52の下面は、平坦状でもよく、或いは、凹凸状でもよい。」

(エ)「【0051】
前記各塩化ビニル系樹脂は、K値60?95程度のものが好ましく、K値65?80程度のものがより好ましい。
前記上側樹脂層2及び下側樹脂層3には、通常、上記樹脂成分以外に各種添加剤が含まれる。添加剤としては、従来公知のものを使用でき、例えば、充填剤、可塑剤、難燃剤、安定剤、吸湿剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、発泡剤、防黴剤などが挙げられる。」

(オ)「【0055】
<接合樹脂>
接合樹脂5としては、繊維41、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の何れにも接合するものであれば特に限定されず、従来公知の樹脂を用いることができる。接合樹脂5としては、上側樹脂層2及び下側樹脂層3で例示したような熱可塑性樹脂が挙げられる。
繊維41、塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層2及び下側樹脂層3に対する接合性に優れていることから、接合樹脂5は、主成分樹脂として塩化ビニル系樹脂を含むことが好ましく、主成分樹脂としてペースト塩化ビニル系樹脂を含むことが好ましい。
上述のように、2種類以上の接合樹脂5をガラスシート4に付着させる場合には、それらの接合樹脂5は、いずれも熱可塑性樹脂であることが好ましく、いずれも主成分樹脂として塩化ビニル系樹脂であることがより好ましく、いずれも主成分樹脂としてペースト塩化ビニル系樹脂を含むことがさらに好ましい。
2種類以上の接合樹脂は、異なる接合樹脂であり、例えば、主成分樹脂が異なる場合、主成分樹脂は同種又は同じで、その配合量が異なる場合、主成分樹脂は同種又は同じで且つ配合量も略同じであるが、充填剤などの添加剤の配合量が異なる場合、組成は同じであるが、粘度が異なる場合、などが挙げられる。
【0056】
サスペンション塩化ビニル系樹脂は比較的硬いので、その樹脂はガラスシート4に強固に付着し難いが、ペースト塩化ビニル系樹脂は、可塑剤の量が多く、比較的軟らかいので、ガラスシート4への塗工も容易で且つ繊維41に強固に付着する。また、ペースト塩化ビニル系樹脂は、サスペンション塩化ビニル系樹脂に対する相溶性に優れているので、それを含む接合樹脂5は、サスペンション塩化ビニル系樹脂を含む上側樹脂層2又は下側樹脂層3にも強固に接合するようになる。
接合樹脂5に含まれるペースト塩化ビニル系樹脂は、多数の微粒子集合体からなる粒子径が0.1?10μm(好ましくは1?3μm)の微細粉末であり、好ましくは、前記微細粉末の表面に界面活性剤がコーティングされている。前記ペースト塩化ビニル系樹脂の平均重合度は1000?2000程度が好ましく、K値は、60?95程度が好ましく、K値65?80程度がより好ましい。
なお、接合樹脂5には、通常、各種添加剤が含まれる。添加剤としては、上記に例示したようなものが挙げられる。」

(カ)「【0093】[実施例1]
上記ペースト塩化ビニル系樹脂100質量部に、可塑剤としてフタル酸ジオクチルを73質量部、充填剤として炭酸カルシウムを150質量部混合することにより、ペースト塩化ビニル系樹脂の粘度を2000mPa・sに調整した。この樹脂を第1接合樹脂として用いた。なお、前記粘度は、BM型粘度計(東機産業株式会社製の商品名「BII形粘度計-BMII」)を用いて、20℃、60rpmにて測定した。
上記第1のガラス不織布の上面に、汎用的なロールコーターを用いて、第1接合樹脂の目付量が約350g/m^(2)となるように、第1接合樹脂を塗工することにより、樹脂付きガラスシートを作製した。
この樹脂付きガラスシートの通気度は、0cc/cm^(2)・secであった。
なお、第1のガラス不織布及び樹脂付きガラスシートの各通気度の測定は、上記記載の通りで行った。」

(キ)上記の記載からみて明細書の【0055】、【0056】、【0093】には、「接合樹脂」の主成分樹脂である「塩化ビニル系樹脂」を「ペースト塩化ビニル系樹脂」とすることが記載されているといえる。
また、本件特許の明細書等には、接合樹脂が「架橋剤」を含まないことは明記されていないが、【0056】において接合樹脂に含まれる添加剤として「上記に例示したようなものが挙げられる」と記載されており、ここでいう添加剤の「例示」とは、【0051】に挙げられたものであると認められるところ、【0051】には架橋剤は挙げられておらず、また、接合樹脂に架橋剤が含まれなければならない特段の理由も見当たらない。そうすると、接合樹脂が架橋剤を含まないことを規定することは、明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるから、明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、【0027】、【0028】、【0031】、【0034】には、
接合樹脂5は、ガラスシート4の内部に含浸し、さらに、ガラスシート4の上側においてガラスシート4の上面41uにほぼ沿って層を成し、樹脂付きガラスシート6の下面側から見て、繊維41が露出している部分を有し、上接合樹脂層51は、ガラスシート4の上側において連続して層を成しており、下接合樹脂層52は、一部不連続な部分を有しつつ全体として見ると層を成していることが記載されているから、「接合樹脂」が、「前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している」ことが記載されているといえる。
そうすると、「樹脂付きガラスシート」について「ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂を付着させることにより、前記接合樹脂の目付量が320g/m^(2)以上であり、前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している」ことが記載されているといえる。
よって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2に係る請求項2についての訂正は、訂正前1の請求項2における「樹脂付きガラスシート」の「通気度」について「前記樹脂付きガラスシートの通気度が0?10cc/cm^(2)・secである」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加について
願書に添付された明細書の【0037】、【0078】には次の記載がある。
(ア)「【0037】
前記樹脂付きガラスシート6においては、上記ガラスシート4のほとんどの開口Aが接合樹脂5によって塞がれている。
樹脂付きガラスシート6の通気度は、例えば、0?10cc/cm^(2)・secであり、好ましくは0?5cc/cm^(2)・secであり、より好ましくは0?3cc/cm^(2)・secである。このような通気度を有する樹脂付きガラスシート6は、上側樹脂層2と下側樹脂層3との間のほとんどにおいて接合樹脂5が介在するので、ガラスシートに上側樹脂層及び下側樹脂層が容易に接合するようになる。樹脂付きガラスシート6の通気度は、測定対象を樹脂付きガラスシートに代えた上で、上記ガラスシート4の通気度と同様にして測定できる。
なお、図3乃至図5は、接合樹脂5がガラスシート4の開口の全てを塞いでいる場合、つまり、通気度が零である場合を示している。特に図示しないが、本発明においては、開口のうち僅かな部分において接合樹脂5を有さない場合も含まれ、このような場合は、上記の通気度が零でない場合である。」

(イ)「【0078】
ガラスシート4Mに付着させた接合樹脂5Mの流動性が高く、垂れなどを生じる場合には、ヒーターやオーブンなどの加熱手段(図示せず)を用いて接合樹脂5Mを強制的に乾燥することが好ましい。前記乾燥により、ガラスシート4Mに付着した接合樹脂5Mが垂れることなく、樹脂付きガラスシート6Mを得ることができる。得られた樹脂付きガラスシート6Mは、ほとんど開口を有さず、その通気度は、0?10cc/cm^(2)・secであり、好ましくは0?5cc/cm^(2)・secであり、より好ましくは0?3cc/cm^(2)・secである。」

(ウ)上記の記載からみて明細書の【0037】、【0078】には、「樹脂付きガラスシート」の「通気度」は「0?10cc/cm^(2)・sec」であることが記載されているといえる。
よって、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項2は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3に係る請求項3についての訂正のうち「前記上側樹脂層及び・・・」とする訂正(以下「訂正事項3の訂正1」という。)は、訂正事項1に係る訂正により、請求項1における「接合樹脂」に含まれる主成分樹脂が「ペースト塩化ビニル系樹脂」であるとする訂正がされたことにより重複する記載を削除したものであって、訂正後の請求項1の記載と請求項3の記載とを整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする。
また、訂正事項3に係る請求項3についての訂正のうち「・・・及び下側樹脂の双方の塩化ビニル系樹脂が、・・・」とする訂正(以下「訂正事項3の訂正2」という。)は、訂正前の請求項3が、上側樹脂層及び下側樹脂層の「少なくとも一方」の塩化ビニル系樹脂が、サスペンション塩化ビニル系樹脂を含むことを規定していたところ、「双方」の塩化ビニル系樹脂が、サスペンション塩化ビニル系樹脂を含むと限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加について
(ア)上記アのとおり、訂正事項3の訂正1は、訂正後の請求項1の記載と請求項3の記載とを整合させるものであり、新たな事項を追加するものではない。
(イ)また、訂正事項3の訂正2について検討すると、願書に添付された明細書の【0043】、【0049】、【0080】には次の記載がある。
a 「【0043】
また、サスペンション塩化ビニル系樹脂は、ペースト塩化ビニル系樹脂に比して硬く且つ強度に優れているので、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の厚みを比較的小さくしても(つまり、床材1の厚みを小さくしても)、機械的強度に優れ且つ反りの小さい床材1を得ることができる。例えば、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の双方がサスペンション塩化ビニル系樹脂を含み、接合樹脂5がペースト塩化ビニル系樹脂を含む場合、層間接合力を維持したまま床材1の厚みを比較的小さくすることもできる。
本発明の床材1は、上述のように層間剥離を生じ難いので、床面に敷設する際に、その縁部が捲れることもなく、良好な仕上がりで施工できる。また、既に敷設した床材1を貼り替える際、層間剥離を生じることなく既設の床材1を引き剥がすことができる。このため、既設の床材1の一部(主として下方部)が床面に貼り付いたままで残存する可能性が低く、貼り替え施工も容易に行うことができる。
以下、各層について詳しく説明する。」

b 「【0049】
前記塩化ビニル系樹脂としては、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法などで製造されたものを用いることができる。加工し易く且つ取り扱い易いことから、乳化重合法、又は、懸濁重合法で得られる塩化ビニル系樹脂が好ましい。これらの塩化ビニル系樹脂は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
好ましくは、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の少なくとも一方は、主成分樹脂としてサスペンション塩化ビニル系樹脂を含み、より好ましくは、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の双方は、主成分樹脂としてサスペンション塩化ビニル系樹脂を含む。上側樹脂層2及び下側樹脂層3をサスペンション塩化ビニル系樹脂で形成することにより、床材1の強度を確保しつつ比較的厚みの小さい床材1を得ることができる。」

c 「【0080】
また、別途、保護層72M、化粧層73M、上側樹脂層2M、下側樹脂層3M及び基材層74Mを準備する。これらの層72M,73M,2M,3M,74Mは、所定幅の長尺帯状であり、好ましくは、ガラスシート4Mとほぼ同じ幅の長尺帯状のものを準備する。なお、意匠性を有する上側樹脂層を用いる場合には、化粧層73Mは省略される。
上側樹脂層2M及び下側樹脂層3Mのうち少なくとも一方は、サスペンション塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂で形成され、好ましくは、双方がサスペンション塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂で形成される。
これらの層72M,73M,2M,3Mの形成方法は、特に限定されず、それらを形成する材料に応じて適宜選択でき、例えば、カレンダー法、溶融押出法、溶液流延法などが挙げられる。」

d 上記の記載からみて【0043】、【0049】、【0080】には、上側樹脂層及び下側樹脂層の双方がサスペンション塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂で形成されることが記載されているといえる。

(ウ)よって、訂正事項3の訂正1及び訂正2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、訂正事項3に係る請求項3の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項3は、上記アのとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするとともに、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4に係る訂正は、明細書の発明の詳細な説明の記載と訂正事項1に係る訂正による訂正後の請求項1の記載とを整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

新規事項の追加について
上記アのとおり、訂正事項4に係る訂正は、発明の詳細な説明の記載と訂正事項1に係る訂正による訂正後の請求項1の記載とを整合させるための訂正であるから、訂正事項4に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項4は、上記アのとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正事項5に係る訂正は、明細書の発明の詳細な説明の記載と、訂正事項2に係る訂正による訂正後の請求項2の記載、及び、訂正事項3に係る訂正による訂正後の請求項3の記載とを整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

新規事項の追加について
上記アのとおり、訂正事項5に係る訂正は、発明の詳細な説明の記載と、訂正事項2に係る訂正による訂正後の請求項2の記載、及び、訂正事項3に係る訂正による訂正後の請求項3の記載とを整合させるための訂正であるから、訂正事項5に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項5は、上記アのとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項6
ア 訂正の目的について
訂正事項6に係る訂正は、明細書の発明の詳細な説明の記載と訂正事項1に係る訂正による訂正後の請求項1の記載とを整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

新規事項の追加について
上記アのとおり、訂正事項6に係る訂正は、発明の詳細な説明の記載と訂正事項1に係る訂正による訂正後の請求項1の記載とを整合させるための訂正であるから、訂正事項6に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項6は、上記アのとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項7
ア 訂正の目的について
訂正事項7に係る請求項5についての訂正は、訂正前の請求項5の「接合樹脂」について「ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない」ことを限定するとともに、「前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成して」いることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加について
訂正事項7に係る訂正は、上記(1)の訂正事項1に係る訂正と実質的に同様の訂正であり、上記(1)イに示したように、訂正事項1は、新規事項を追加するものでないから、訂正事項7に係る訂正も、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項7は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)訂正事項8
ア 訂正の目的について
訂正事項8に係る訂正は、明細書の発明の詳細な説明の記載と訂正事項7に係る訂正による訂正後の請求項5の記載とを整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

新規事項の追加について
上記アのとおり、訂正事項8に係る訂正は、発明の詳細な説明の記載と訂正事項7に係る訂正による訂正後の請求項5の記載とを整合させるための訂正であるから、訂正事項8に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項8は、上記アのとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

4 一群の請求項、及び独立特許要件について
訂正前の請求項2は請求項1を引用し、請求項3は請求項1又は2を引用し、請求項4は請求項1ないし3を引用しているから、請求項2ないし4は、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正がされるものである。そのため、請求項1ないし4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当する。
よって、訂正事項1ないし6の訂正は、一群の請求項〔1-4〕に対して請求されたものである。
また、訂正事項7及び8の訂正は、請求項5に対して請求されたものである。
そして、本件においては、訂正前の請求項1ないし5について特許異議の申立てがされているから、訂正事項1ないし8の訂正は、いずれも特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正であり、訂正事項1ないし8により特許請求の範囲の限定的減縮が行われていても、訂正後の請求項1ないし5に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

5 まとめ
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕及び請求項5について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし5に係る発明(以下、各々を「本件訂正発明1」等といい、請求項1ないし5に係る発明をまとめて「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

1 本件訂正発明1
「【請求項1】
複数のガラス繊維及び天然繊維を含むガラスシートを準備する工程、
前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂を付着させることにより、前記接合樹脂の目付量が320g/m^(2)以上であり、前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している、樹脂付きガラスシートを準備する工程、
前記樹脂付きガラスシートの上面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層を積層し、加熱加圧して上側樹脂層、ガラスシート及び下側樹脂層を一体化する工程、を有する床材の製造方法。」

2 本件訂正発明2
「【請求項2】
前記樹脂付きガラスシートの接合樹脂の目付量が630g/m^(2)以下であり、
前記樹脂付きガラスシートの通気度が0?10cc/cm^(2)・secである、請求項1に記載の床材の製造方法。」

3 本件訂正発明3
「【請求項3】
前記上側樹脂層及び下側樹脂層の双方の塩化ビニル系樹脂が、サスペンション塩化ビニル系樹脂を含む、請求項1または2に記載の床材の製造方法。」

4 本件訂正発明4
「【請求項4】
前記ガラスシートが、繊維成分全体を100質量%とした場合に、天然繊維を15質量%?50質量%含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の床材の製造方法。」

5 本件訂正発明5
「【請求項5】
塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層と、塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層と、前記上側樹脂層と下側樹脂層の間に積層されたガラスシートであって、複数のガラス繊維及び天然繊維を含むガラスシートと、を有し、
前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂が目付量320g/m^(2)以上で付着されており、
前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成しており、
前記上側樹脂層及び下側樹脂層が、前記接合樹脂を介して接合されている、床材。」


第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし5に係る特許に対して、当審が令和1年11月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

訂正前の請求項1ないし5に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、訂正前の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 甲号証の記載
(1)甲第3号証(特開平05-163824号公報)の記載
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。以下、他の甲号証についても同様。)。

ア 「【0001】
【技術分野】本発明は、ガラス繊維層を含む塩化ビニル系樹脂床材に関する。」

イ 「【0003】
【目的】そこで、本発明の目的は、ガラス繊維層とその周辺の塩化ビニル系樹脂層との間に剥離現象が発生せず、強い積層強度を有し、寸法安定性に優れ、かつすぐれた耐キャスター走行性を有する床材を提供する点にある。」

ウ 「【0004】
【構成】本発明の第1は、塩化ビニル系樹脂シートの少なくとも片面に、ガラス繊維層を含む架橋塩化ビニル系樹脂層を有することを特徴とする床材に関する。本発明の第2は、架橋剤を配合した塩化ビニル系樹脂ペーストを合浸したガラス繊維層を塩化ビニル系樹脂シートと重ね合せた後、加熱加圧することを特徴とする請求項1記載の床材を製造する方法に関する。
【0005】本発明における塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル重合体、塩化ビニルと塩化ビニリデン、酢酸ビニルなどとの共重合体など各種の塩化ビニルを主成分とする共重合体を包含する。塩化ビニル系樹脂ペーストとしては、たとえば、昭和52年12月20日日刊工業新聞社発行、「プラスチック加工技術便覧(新版)」ペースト加工の項に記載されているように公知のペーストを使用することができる。」

エ 「【0007】ガラス繊維層としては、ガラス繊維不織布、織布等を例示することができる。ガラス繊維は、公知のシラン系あるいはチタン系カップリング剤であらかじめ処理しておくこともできる。本発明は、通常長尺物を意図するものであるが、これを所定の大きさに打抜いてタイルとして使用することもできる。」

オ 「【0008】
【実施例】
実施例1
配合表1の組成よりなる架橋塩化ビニル系樹脂ペーストをリバースコーター、ディップコーター、あるいはグラビアコーターなど適宜のコーターを用いてガラス繊維不織布に塗布処理した。塗布量は300g/m^(2)とした。この状態での不織布の厚さは約0.4mmであった。配合表2の組成よりなる厚さ約0.8mmのポリ塩化ビニルシートを前記架橋塩化ビニル系樹脂ペースト含浸ガラス繊維不織布2の上下両面重ね合せ、全体の厚さ約2mmの長尺床材を得た。
【表1】
配合表1 架橋性PVCペースト
┏━━━━━━━━━━━━┳━━━━━┓
┃PVCペーストレジン ┃ 100┃
┃可塑剤DHP ┃ 50┃
┃パッケージ安定剤 ┃ 2┃
┃DB ┃ 5┃
┗━━━━━━━━━━━━┻━━━━━┛
【表2】
配合表2 積層用PVCシート
┏━━━━━━━━━━━━━┳━━━━┓
┃PVCサスペンジョンレジン┃ 100┃
┃可塑剤DOP ┃ 36┃
┃安定剤 ┃ 3┃
┃炭酸カルシウム ┃ 20┃
┗━━━━━━━━━━━━━┻━━━━┛
具体的製造方法は、図1に示すようにガラス不織布2はコーター4により架橋性PVCペーストで処理されラミネータへと入って行く。PVCシート1、2はそれぞれの赤外ヒータ5、6によりプレヒートされ中間に架橋性PVCペースト含浸ガラスシートを挾み込んだ後、ラミネータ7、8へと送られ、製品となる。従って架橋反応は7で開始されドラム8で完結する。
比較例1
配合表2の組成の積層用PVCシート厚さ2mmのものを用いた(ガラス繊維層なし)。
比較例2
実施例1のガラス繊維不織布に全く含浸処理を行わないほかは、実施例1と同様にして全体の厚さ2mmの長尺床材とした。
比較例3
配合表1の組成において架橋剤であるDBを除くほかは実施例1と同様にして全体の厚さ2mmの長尺床材を得た。
その結果を表3、表4に示す。」

カ 図1


キ 上記オの比較例3においては、PVCペーストレジン、可塑剤DHP、パッケージ安定剤、DBを組成とする配合表1の架橋性PVCペーストの組成において、架橋剤である前記DBを除いており、当該DBを除いた組成のPVCペーストは、架橋剤を含まないPVCペーストであることは明らかである。

ク 甲第3号証に記載された発明
上記ア?キからみて、甲第3号証には、比較例3として以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「架橋剤を含まないPVCペーストをコーター4によりガラス繊維不織布に塗布量300g/m^(2)で塗布処理して架橋剤を含まないPVCペースト含浸ガラスシートを得て、
PVCサスペンジョンレジンを含む組成よりなるポリ塩化ビニルシート1及び2をそれぞれの赤外ヒータ5、6によりプレヒートし、当該ポリ塩化ビニルシート1及び2の中間に前記架橋剤を含まないPVCペースト含浸ガラスシートを挾み込んだ後、ラミネータ7、8へと送られて加熱加圧して製品とする塩化ビニル系樹脂床材の製造方法。」

ケ 甲第3号証に記載された物の発明
上記ア?キからみて、甲第3号証には、比較例3として以下の物の発明(以下「甲3物発明」という。)が記載されていると認められる。
「PVCサスペンジョンレジンを含む組成よりなるポリ塩化ビニルシート1及び2と、前記ポリ塩化ビニルシート1及び2の中間に挾み込まれた、PVCペースト含浸ガラスシートとを有し、
前記PVCペーストは架橋剤を含まないPVCペーストであり、
前記架橋剤を含まないPVCペーストをコーター4によりガラス繊維不織布に塗布量300g/m^(2)で塗布処理したものである、塩化ビニル系樹脂床材の製品。」

(2)甲第1号証(実願昭54-011321号(実開昭55-110234号)のマイクロフィルム)の記載
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている)。

ア 「2 実用新案登録請求の範囲
1.ガラス繊維を主成分とするガラスペーパーの片面又は両面に耐熱性ポリ塩化ビニール層を設けたことを特徴とする建築用積層材の基材。
3 考案の詳細な説明
本考案は壁材・床材などの建築材として用いられる積層材の基材に関するものである。詳しくは、その表面に塩化ビニール加工などが施こされて始めて壁材・床材などになるという基材シートに関するものである。
その目的は、壁材・床材などに加工するに際してすぐれた加工性、物性、取扱い性を有し、しかも得られた壁材・床材などがすぐれた強さ、寸法安定性、耐ブロッキング性を有するという、塩化ビニール加工用基材を提供することにある。」(明細書第1頁第4行?第2頁第2行)

イ 「従来、壁材・床材等の建築用積層材に利用されているポリ塩化ビニール製建築材において、その基材は主として紙、織物、不織布、又はアスベスト紙等が使用されていた。しかし紙、織物、不織布等は寸法安定性において難点があり、一方アスベスト紙の場合は「割れ」等の取扱い性及び衛生管理面での問題を有していた。」(明細書第2頁第3行?9行)

ウ 「本考案をその製造方法及び図面を参照しながら説明する。
まず、本考案に使用するガラスペーパーとはガラス繊維を主成分とし、これにパルプ等の有機繊維、アスベスト、岩綿等の無機繊維、又は充填剤樹脂などを混抄、抄合せ、或いは含浸したものである。
また本考案の重要な構成部分である耐熱性ポリ塩化ビニール層とは、塩化ビニールペーストレジンに一般の可塑剤、安定剤、充填剤、色材、及び滑剤等を常法により配合してポリ塩化ビニールペーストゾル(以下、単にペーストゾルという。)を作成してこれに耐熱性向上剤を配合したものである。この配合量は品種によっても異なるが一般にペーストレジン100重量部に対して2?50重量部が適当である。
この耐熱性向上剤とは硬化助剤又は架橋剤などであり、例えばDAP(オルソフタル酸ジアリル)、TMTP(トリメチロールプロパンメタクリレート)の如きアリルエステル系やアクリル酸エステル系、不飽和ポリエステル系、エポオキシ系等の熱硬化性助剤、などでも、或いは塩化ビニール樹脂と直接架橋するジチオールの如きチオール系、アミン系等の反応性助剤などを1種或いは2種以上使用してもよいものである。なお必要により促進剤を併用してもよいことはいうまでもない。」(明細書第3頁下から1行?第5頁第5行)

エ 「本考案基材は、前記ガラスペーパーの片面又は両面に上記の如き耐熱性向上剤を配合した前記ペーストゾルを塗布又は含浸し、熱処理したものである。
なお、必要によりこの表面に耐熱性でない普通のペーストゾルを塗布することもある。この場合は先にこの普通のペーストゾルを塗布加工しその裏面に耐熱性のペーストゾルを塗布してもよいことは勿論である。何れの場合も表面平滑性を要求される時は表面を転写法で加工して平滑にしても、また加工後塩化ビニール用エンボス機により平滑にしてもよい。」(明細書第5頁第6行?17行)

オ 「また、第3図はガラスペーパー(1)の両面に耐熱性ポリ塩化ビニール層(2)を設けたもので、この場合は両面より塗布してもよいがディプして同時に含浸加工してもよい。
さらに第4図は片面には耐熱性にしていない普通のポリ塩化ビニール層(3)を設けたものである。この第4図のものを得るには直接塗布する場合は前述の耐熱性のペーストゾルを塗布し加熱処理して(2)の層を設け、次に表面に普通のペーストゾルを塗布し必要に応じて塩化ビニール用エンボス機で平滑性にしてもよいし、また転写法の場合は先に離型材に普通のペーストゾルを塗布しその上にガラスペーパーを乗せ加熱し、ついでその上に耐熱性のペーストゾルを塗布して加熱処理し剥離すればよい。」(明細書第6頁第4行?18行)

カ 「実施例 1
繊維径9μカット長13mmのガラス繊維60重量部とNBKP(パルプ)40重量部との混抄紙にポリビニールアルコールを15%含浸し坪量45g/m^(2)のガラスペーパーを作成した。
一方、塩化ビニールペーストレンジ(日本ゼオン(株)製の商品名ゼオン131)100重量部に、DOP45重量部、DBPl0重量部、安定剤3重量部、炭酸カルシウム40重量部、架橋剤としてジチオール系助剤(三協化成(株)製の商品名ジスネットPC-3)4重量部、及び粘度調整剤としてミネラルターベン4重量部、を配合して塩化ビニールペーストゾルを調合した。
前記ガラスペーパーに上記のペーストゾルをナイフコーターにて300g/m^(2)の付量で塗布し120℃×2分の予備乾燥を行ないついで170℃×2分の熱処理を施こし本考案基材を得た。」(明細書第8頁第16行?第9頁第14行)

キ 「実施例 2
実施例1における架橋剤を含まないペーストゾルをステンレスベルトに150g/m^(2)の割合で塗布し、つづいて繊維径9μカット長13mmのガラス繊維のシートにポリビニールアルコール、メラミン、及び触媒の混合比100対10対lの混合樹脂を15%含浸した坪量40g/m^(2)のガラスペーパーを乗せ120?150℃の加熱炉で2分間加熱し、その上より塩化ビニールペーストレジン100重量部、DOP50重量部、DOA25重量部、安定剤3重量部、炭酸カルシウム25重量部、整泡剤4重量部、及び実施例1と同じ架橋剤4重量部を配合したペーストゾルを機械発泡法によって発泡倍率2倍にして450g/m^(2)の割合で塗布し120℃×2分と170℃×2分の熱処理を施こした後ステンレスベルトより剥離して厚さ0.7mmの本考案基材を得た。」(明細書第10頁第9行?第11頁第6行)

ク 上記オに摘記した記載を踏まえると、第4図からは、ガラスペーパー(1)の片面に耐熱性ポリ塩化ビニール層(2)を設け、もう一方の片面には耐熱性にしていない普通のポリ塩化ビニール層(3)を設けていることが看て取れる。



ケ 上記ア及びイから、床材等の建築用積層材に利用されているポリ塩化ビニール製建築材における基材は、主として紙、織物、不織布、又はアスベスト紙等が例示されているように、ポリ塩化ビニールとは異なる材料であって、ポリ塩化ビニールとともに用いられることにより床材等の建築用積層材を構成してポリ塩化ビニール製建築材となる基材である。

コ 上記ウ及びクを踏まえると、上記キの実施例2においては、ガラスペーパー(1)に対して、架橋剤を含まないペーストゾルから得られた耐熱性にしていない普通のポリ塩化ビニール層(3)の目付量が150g/m^(2)の割合であり、架橋剤を配合したペーストゾルから得られた耐熱性ポリ塩化ビニール層(2)の目付量が450g/m^(2)の割合となっていることから、上記ガラスペーパーに対するポリ塩化ビニールを含むペーストゾルの目付量が600g/m^(2)であることとなる。

サ 上記ア?コより、甲第1号証には以下の技術事項(以下「甲1技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「ポリ塩化ビニールとともに用いられることにより床材等の建築用積層材を構成してポリ塩化ビニール製建築材となる基材において、ガラス繊維を主成分とするガラスペーパーに対するポリ塩化ビニールを含むペーストゾルの目付量が600g/m^(2)であること、及び、前記ガラスペーパーはガラス繊維60重量部及びパルプ40重量部を含むガラスペーパーを用いること。」

(3)甲第2号証(特開昭58-197382号公報)の記載
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「3.発明の詳細な説明
本発明は、積層材用基体の製法に関し、さらに詳しくは、片面は比較的大きな充填材を含む層、もう一面は不織布を含む層よりなる二層積層構造を持つポリ塩化ビニル製のシート状物であり、特に床敷材の基体として有用なシート状基体の製法に関する。
一般に、床敷材としては、シート状基体にプラスチック中間層、装飾層および保護層を順次形成した構造の物が、装飾性および歩行感に優れているので、多用されている。シート状基体としてはアスベスト製の紙状物または合成樹脂製シートが利用されているが、近年アスベストの有害性が主張され、しだいに合成樹脂製シートが多く用いられるようになっている。基体に要求される物性としては、強度、耐水性、寸法安定性、高温時の強度などが挙げられる。ところが、合成樹脂製シート基体は、寸法安定性および高温時の強度に問題があるので、この欠点を改良するために補強材が使用されることになる。補強材としては種々の材料が利用されるが、補強効果が大きく、かつ加工基体としても使用できる不織布が多く利用されている。合成樹脂としては、加工性、経済性などの面から、ポリ塩化ビニル樹脂が好ましく用いられている。
また不織布を含む層の上にプラスチック中間層および保護層を設けると、これら積層された層の収縮率の相違によりそり現象が生しる。これを防止するため、さらに所望の厚みを得るためにバック層として比較的充填材を多く含む層を設けているのが実情である。従って、寸法安定性や高温時の強度などを付与するために不織布等で補強された層と、所望の厚みを得るためやそり防止のためのバック層とからなる二層構造のシート状物が床敷材の基体としては理想的である。
このような床敷材の基体を製造する方法の1つとして、ペースト状ポリ塩化ビニル樹脂組成物(以下「ペーストゾル」という。)を不繊布に含浸して補強されたシート層を作り、その後、充填材を多く含むペーストゾルを塗布するか、またはフィルムを貼り合せてバック層を形成する方法がある。」(第1頁右下欄第19行?第2頁右上欄第19行)

イ 「本発明で使用される不織布は、ペーストゾルが浸透してゆく程度の多孔性を有しているものならばいずれも使用できる。しかし、見かけの孔径が0.5mmを越えると浸透したペーストゾルがその表面張力によりシート内に滞留していることができず塗布部の汚染を引き起こす。寸法安定性、耐熱性を付与できる点から、無機繊維を30重量部またはそれ以上含む不繊布が好ましい。特に、ガラス繊維を主体とし、それにパルプや合成繊維などで適度の開孔性を持たせたガラス不繊布が経済性および取扱いやすさの点で最も好ましい。不織布の厚みがあまり厚いとペーストゾルの浸透に侍間がかかるので、2mm以下のものが好ましく、より好ましくは0.2?0.5mmの厚みのものである。」(第3頁左上欄第11行?右上欄第4行)

ウ 「充填材として、炭酸カルシウム、タルク、クレーなどの鉱物性粉体;銅、アルミニウム、鉄、などの金属粉体;樹脂粉砕物;ナイロンビーズ、ポリエステルビーズ、ガラスビーズ、炭素ビーズなどの人工球状物;アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維などの有機繊維;ガラス繊維、炭素繊維、ロックウールなどの無機繊維;金属繊維などが例示できる。」(第3頁右上欄第17行?左下欄第4行)

エ 「ペーストゾルの塗布工程は、ナイフコーター、ロールコーターなどを用いた片面塗布の可能な方法により行なわれる。ペーストゾルの塗布された不織布は、ロール、ネット、ベルトなどの支持体に担持されない状態で移動されてゆく。この開にペーストゾルは不織布内に浸透してゆくのである。したがって、移動してゆく距離が長くまた時間が長いほど良いわけであるが、加工性や強度の面から、予備加熱を行ないペーストゾルの粘度を下げて浸透を早めるのが好ましい。予備加熱は赤外線方式や熱風方式などで行なう。予備加熱温度はペーストゾルが80℃以下の温度になるように行なう。あまり高い温度にすると最低粘度を示す温度状態にある時間が短かくなり充分な分離効果が得られない。続いて、ペーストゾルのゲル化溶融点にまで加温する。この加温効果は前の予備加熱工程と連続的に行なってもよい。たとえば浮上式乾燥機を使用する場合、第1乾燥ゾーンをペーストゾルが80℃以丁になるような温度に設定し、第2乾燥ゾーン以後をゲル化溶融温度以上にする方法である。このようにして得られたシート状基体の浸透側の面はわずかな凹凸があり、化学発泡ペーストゾルやフィルムなどの中間層を施す場合、まれに問題を生じることがある。従って、高度の平滑性が要求される時は、その面をエンボス加工したり、ペーストゾルのゲル化溶融時に少なくとも浸透面側を平滑な面を有する熱ドラムまたはステンレスベルトなどに密着させつつ行ない必要によりさらにエンボス加工を行なうとよい。」(第4頁左上欄第5行?右上欄第13行)

オ 「実施例2
次の組成のペーストゾルを調製した。
ペーストゾル配合 重量部
ペースト用塩化ビニル樹脂
(平均粒径 0.8μ) 100
ジオクチルフタレート(比重 0.986) 55
錫メルカプト系安定剤 2
微細炭酸カルシウム(平均粒径 1.5μ) 10
中空ガラス球(平均粒径100μ、比重0.7)30
上記配合により得られたペーストゾルは、室温状態での見掛粘度は12,500cpsであったが、70℃での粘度は1,300cpsに低下した。
ガラスペーパー混抄紙(ガラス繊維75%およびパルプ25%の混抄紙、
秤量40g/m^(2)、厚み0.29mm、見掛開孔径44μ)にリバースロールコーターにより上記ペーストゾルを1,100g/m^(2)の割合で片面塗布し、これを支持体に担持されない状態で加熱シリンダーに導いた。この間に遠赤外線式加熱器で約70℃を保つようにペーストゾル塗布ガラスペーパーを加温した。平滑な面を有し、かつ190℃に加熱された加熱シリンダーにペーストゾルが浸透した側の面を密着させつつゲル化溶融させてシート状基体を得た。得られたシート状基体は厚さ1mm、比重約1.1であって層間の強度も充分であり、かつ寸法安定性もすぐれていた。また平滑な面を有しているため後工程においてもなんら問題のないものであった。」(第5頁左上欄第15行?左下欄第1行)

カ 上記オのペーストゾルの組成において、ジオクチルフタレートは可塑剤であることが技術常識であり、錫メルカプト系安定剤は安定剤であり、微細炭酸カルシウム及び中空ガラス球は充填剤であり、架橋剤を含まないことが理解できる。

キ 上記ア?カからみて、甲第2号証には以下の技術事項(以下「甲2技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「シート状基体にプラスチック中間層、装飾層及び保護層を順次形成した床敷材に用いられるシート状基体の製造方法であって、架橋剤を含まないペースト状ポリ塩化ビニル組成物を、ガラス繊維75%およびパルプ25%のガラスペーパー混抄紙に、1,100g/m^(2)の割合で塗布して前記シート状基材を製造する方法。」

(4)甲第6号証(特開平04-232742号公報)の記載
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、合成樹脂製の粒子により装飾層を形成する装飾シートに関し、特に、デザインや機能等の要請により該合成樹脂製粒子のバッキング材が表面に露出する必要のある上記装飾シートに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、建築(天井材,壁材,床材等),家具,車両,電気製品,履物,カバン類等の表面材として、合成樹脂製の装飾シートが広く使用されている。
【0003】このような装飾シート、特に床材として使用さる装飾シートとして、最近、第3図に示すように、ガラス繊維,合成繊維,天然繊維等による不織布,織布,編布等に合成樹脂を塗布又は含浸させたシート材、あるいは合成樹脂製のシート材等よりなるバッキング材1上に、合成樹脂製粒子(チップ)10を散布して固定し、該チップ10による微小なモザイク状の模様を形成して装飾層2とするものが開発されている。」

イ 「【0014】本発明装飾シートにおける合成樹脂層を有するバッキング材としては、例えば、発泡又は非発泡の合成樹脂シート、ガラス繊維,有機繊維,パルプ等の1種又は2種以上からなる不織布,織布,編布等に合成樹脂を塗布又は含浸させたもの等で有色又は無色の透明,半透明,不透明の合成樹脂層が実質的に形成されているシート状のものが使用できる。
【0015】この合成樹脂シートを構成し、あるいは不織布等に塗布又は含浸等する合成樹脂としては、ポリ塩化ビニル、塩化ビニルとエチレン,酢酸ビニル,ビニルエーテル,マレイン酸エステル,(メタ)アクリル酸,(メタ)アクリル酸エステル,アクリロニトリル,ウレタン等との共重合樹脂等の塩化ビニル系樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ウレタン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、6-ナイロン、6,6-ナイロン、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンオキサイド等が挙げられ、これらは単独で又は混合して使用される。
【0016】これらの合成樹脂には、可塑剤、必要に応じて着色剤,充填剤,安定剤,発泡剤,防黴剤等の添加剤が添加さる。」

ウ 「【0023】本発明装飾シートにおいては、以上のバッキング材上に設けられる微小モザイク状模様層を構成するための合成樹脂製粒子の樹脂としては、この種の模様層を形成する際に通常使用されるチップを構成する熱可塑性樹脂を使用することができる。具体的には、バッキング材の合成樹脂層を形成する合成樹脂と同様の合成樹脂を使用することができる。」

エ 「【0030】本発明装飾シートは、上記のバッキング材の合成樹脂層を形成する合成樹脂のゲル化前又はゲル化後に、該バッキング材の合成樹脂層上に上記の合成樹脂製粒子を散布し、次いで加熱加圧することにより形成される。」

オ 「【0038】
【実施例】実施例1
(合成樹脂製粒子の調製)表1の組成物を高速攪拌翼型ミキサー(ヘンシェルミキサー)で加熱攪拌して造粒後、直ちに冷却して着色合成樹脂製粒子を得た。
【0039】
【表1】
ポリ塩化ビニル 100重量部
(平均分子量=800)
可塑剤 40重量部
(ジー2ーエチルヘキシルフタレート)
Ba-Zn系安定剤 3重量部
充填剤(炭酸カルシウム) 1重量部
着色剤 適宜量
上記のようにして得た着色合成樹脂製粒子を篩いにかけて平均粒径2mmのものを採取した。
【0040】(本発明シートの調製)ガラス繊維混抄不織布(50g/m^(2))に、表2に示す組成の塩化ビニルペーストを500g/m^(2)の量で塗布含浸させ、不織布上に合成樹脂層5を形成し、該ペーストがゲル化する前に、上記の合成樹脂製粒子を振動型散布器により、1100g/m^(2)の量となるように散布した。
【0041】
【表2】
ポリ塩化ビニル樹脂 60重量部
粗粒子ポリ塩化ビニル樹脂 40重量部
可塑剤 30重量部
(ジー2ーエチルヘキシルフタレート)
Ba-Zn系安定剤 3重量部
粘度低下剤 5重量部
【0042】次いで、図2に示す165℃に加熱された径0.8mのヒートロール3と、径0.1mで、表面がスポンジにより構成された圧接ロール4とによりに、接触角θ=300°、接触圧20000Kg/m^(2)で5分間圧接させた。
【0043】このようにして得られた本発明シートの概略を図1に示す。図1において、1がバッキング材で、該バッキング材1上に上記の着色合成樹脂製粒子10による微小なモザイク状の模様からなる装飾層2が形成されており、該装飾層2のモザイク状模様を構成している着色合成樹脂製粒子10間からバッキング材1の合成樹脂層5の合成樹脂が露出している。」

カ 上記オの表1の組成から、装飾層を構成する着色合成樹脂粒子は、ポリ塩化ビニル樹脂を主成分とする粒子であることが理解できる。また、表2の組成から、塩化ビニルペーストは、架橋剤を含まないことが理解できる。

キ 上記ア?カからみて、甲第6号証には以下の技術事項(以下「甲6技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「床材等の表面材として使用される装飾シートにおけるバッキング材の製造方法であって、前記装飾シートは、バッキング材の上にポリ塩化ビニル樹脂を主成分とする着色合成樹脂性粒子による装飾層が形成されるものであり、前記バッキング材を、ガラス繊維,パルプ等の1種又は2種以上からなるガラス繊維混抄不織布に、架橋剤を含まない塩化ビニルペーストを500g/m^(2)の量で塗布含浸させて製造する方法。」

3 当審の判断
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲3発明とを対比する。

(ア)甲3発明における「ガラス繊維不織布」と、本件訂正発明1における「複数のガラス繊維及び天然繊維を含むガラスシート」とは、「複数のガラス繊維を含むガラスシート」である点で共通する。

(イ)甲3発明における「架橋剤を含まないPVCペーストをコーター4によりガラス繊維不織布に塗布量300g/m^(2)で塗布処理して架橋剤を含まないPVCペースト含浸ガラスシートを得」るためには、「ガラス繊維不織布」を準備していることは明らかである。
そうすると、甲3発明において、前記「ガラス繊維不織布」を準備することと、本件訂正発明1における「複数のガラス繊維及び天然繊維を含むガラスシートを準備する工程」とは、「複数のガラス繊維を含むガラスシートを準備する工程」である点で共通する。

(ウ)本件訂正発明1における「接合樹脂」は、上記第2の2(1)イ(オ)に摘記した明細書【0055】の記載のように「接合樹脂5としては、繊維41、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の何れにも接合するものであれば特に限定され」ないものである。
そして、甲3発明における「架橋剤を含まないPVCペースト」は、ガラスシートに付着された樹脂であり、PVCサスペンジョンレジンを含む組成よりなるポリ塩化ビニルシート1及び2が積層されて加熱加圧される樹脂であって、前記ガラス繊維不織布、ポリ塩化ビニルシート1及び2に接合する樹脂であることは明らかであるから、本件訂正発明1における「ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂」に相当する。

(エ)甲3発明における「架橋剤を含まないPVCペーストをコーター4によりガラス繊維不織布に塗布量300g/m^(2)で塗布処理して架橋剤を含まないPVCペースト含浸ガラスシートを得」ることと、
本件訂正発明1における「前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂を付着させることにより、前記接合樹脂の目付量が320g/m^(2)以上であり、前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している、樹脂付きガラスシートを準備する工程」とは、
「前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂を付着させることにより、前記接合樹脂の目付量が所定量であり、前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されている、樹脂付きガラスシートを準備する工程」である点で共通する。

(オ)甲3発明における「当該ポリ塩化ビニルシート1及び2」は、本件訂正発明1における「塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層」及び「塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層」に相当する。

(カ)甲3発明における「当該ポリ塩化ビニルシート1及び2の中間に前記架橋剤を含まないPVCペースト含浸ガラスシートを挾み込んだ後、ラミネータ7、8へと送られて加熱加圧して製品とする」ことは、
本件訂正発明1における「前記樹脂付きガラスシートの上面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層を積層し、加熱加圧して上側樹脂層、ガラスシート及び下側樹脂層を一体化する工程」に相当する。

(キ)甲3発明における「塩化ビニル系樹脂床材の製造方法」は、本件訂正発明1における「床材の製造方法」に相当する。

(ク)そうすると、本件訂正発明1と甲3発明は、以下の点で一致点と相違点を有する。

(一致点)
「複数のガラス繊維を含むガラスシートを準備する工程、
前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂を付着させることにより、前記接合樹脂の目付量が所定量であり、前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されている、樹脂付きガラスシートを準備する工程、
前記樹脂付きガラスシートの上面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層を積層し、加熱加圧して上側樹脂層、ガラスシート及び下側樹脂層を一体化する工程、を有する床材の製造方法。」

・相違点1
ガラスシートが、本件訂正発明1においては、ガラス繊維とともに天然繊維を含むのに対して、甲3発明においては、そのようなことは特定されていない点。

・相違点2
本件訂正発明1においては、「ガラスシート」に付着させた「接合樹脂」の目付量が「320g/m^(2)以上」であるのに対して、甲3発明においては、「ガラス繊維不織布」に塗布された「架橋剤を含まないPVCペースト」の目付量が「300g/m^(2)」である点。

・相違点3
本件訂正発明1においては、「ガラスシート」に付着させた「前記接合樹脂」が、「前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している」のに対し、甲3発明においては、「ガラス繊維不織布」に塗布された「架橋剤を含まないPVCペースト」について、そのようなことは特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、まず上記相違点3について検討する。

甲3発明においては、床材において、ガラス繊維不織布に塗布された架橋剤を含まないPVCペーストが、前記ガラス繊維不織布の上側において前記ガラス繊維不織布の上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラス繊維不織布の下側において前記ガラス繊維不織布を構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラス繊維不織布の下側において不連続な層を成していることは開示されておらず、示唆もされていない。
また、甲第1号証、甲第2号証、甲第6号証にも、ガラスシートに付着させた接合樹脂が、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成すようにすることは記載も示唆もされていない。
他に、甲3発明におけるガラス繊維不織布に付着させた架橋剤を含まないPVCペーストを、前記ガラス繊維不織布の上側において前記ガラス繊維不織布の上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラス繊維不織布の下側において前記ガラス繊維不織布を構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラス繊維不織布の下側において不連続な層を成しているようにすることを示唆する証拠はない。

そうすると、甲3発明におけるガラス繊維不織布に付着させた接合樹脂が、前記ガラス繊維不織布の上側において前記ガラス繊維不織布の上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラス繊維不織布の下側において前記ガラス繊維不織布を構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラス繊維不織布の下側において不連続な層を成すようにすることに動機づけがあるとはいえないから、当業者であっても容易に想到し得たことであるということはできない。

他に、本件訂正発明1が、甲3発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認めるべき特段の事情もない。

以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲3発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)本件訂正発明2ないし4について
本件訂正発明2ないし4は、本件訂正発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに限定する事項を含むものであるから、本件訂正発明1と同じ理由により、甲3発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(3)本件訂正発明5について
ア 対比
本件訂正発明5と甲3物発明を対比する。
上記(1)ア(ア)?(キ)における本件訂正発明1と甲3発明との対比を踏まえると、本件訂正発明5と甲3物発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

・一致点
「塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層と、塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層と、前記上側樹脂層と下側樹脂層の間に積層されたガラスシートであって、複数のガラス繊維を含むガラスシートと、を有し、
前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂が目付量320g/m^(2)以上で付着されており、
前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されており、
前記上側樹脂層及び下側樹脂層が、前記接合樹脂を介して接合されている、床材。」

・相違点A
ガラスシートが、本件訂正発明5においては、ガラス繊維とともに天然繊維を含むのに対して、甲3物発明においては、そのようなことは特定されていない点。

・相違点B
本件訂正発明5においては、「ガラスシート」に付着させた「接合樹脂」の目付量が「320g/m^(2)以上」であるのに対して、甲3物発明においては、「ガラス繊維不織布」に塗布された「架橋剤を含まないPVCペースト」の目付量が「300g/m^(2)」である点。

・相違点C
本件訂正発明5においては「ガラスシート」に付着させた「前記接合樹脂」が、「前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成して」いるのに対し、甲3物発明においては、「ガラス繊維不織布」に塗布された「架橋剤を含まないPVCペースト」について、そのようなことは特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、まず上記相違点Cについて検討する。
相違点Cは、上記相違点3と同様の相違点であり、相違点3については、上記(1)イに示したとおりである。
そうすると、甲3物発明におけるガラスシートに付着させた接合樹脂が、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成しているようにすることに動機づけがあるとはいえないから、当業者であっても容易に想到し得たことであるということはできない。

他に、本件訂正発明5が、甲3物発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認めるべき特段の事情もない。

以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明5は、甲3物発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(4)特許異議申立人の意見について
ア 特許異議申立人は、令和2年2月27日付け意見書において、「そして、相違点4(当審注:本決定における相違点3)については、ガラスシートの片面(上面)に接合樹脂を付着させる場合の一態様を発明特定事項として鋺曲に規定しているに過ぎず、何ら特別な技術的事項を規定するものではない。即ち、接合樹脂をガラスシートの片面に塗工する片面塗工の場合、当該片面では接合樹脂の連続層が形成されるが、ガラスシートを含浸して反対側の面に漏れ出た接合樹脂が不連続層を形成し得ることは、当業者にとっては明らかなことであり、かかる片面塗工は、そもそも甲第3号証(特開平05-163824号公報。請求項1等)、甲第5号証(特開昭61-152452号公報。第4頁右上欄8行目以下、及び図1からみて、被膜被覆が付されたのは基布上面であると見受けられる。)等に開示されており、本件発明の属する技術分野における周知技術に過ぎない。」、及び、「相違点4については、上記したとおりであるが、単に片面(上面)に接合樹脂を付着させる片面塗工の一態様を、鹿爪らしく「連続」や「不連続(片面に塗工すれば接合樹脂がガラスシートに含浸して反対面にも漏れ出るというに過ぎない。)」等の用語を用いて殊更に鋺曲に表現して規定しているに過ぎない。当該用語によって特定された態様は特段の技術的意義を有さず、また、当該片面塗工は、甲第3号証等に開示されているように、当該技術分野における周知の事項である。加えて、当該事項による具体的な作用効果も明らかではない。」との意見を述べている(意見書第1頁下から2行?第2頁第8行、第3頁下から2行?第4頁第4行)。

イ 上記特許異議申立人の意見について検討する。
(ア)甲第3号証には、下記の記載がある。
「【請求項1】 塩化ビニル系樹脂シートの少なくとも片面に、ガラス繊維層を含む架橋塩化ビニル系樹脂層を有することを特徴とする床材。」

(イ)甲第5号証には、下記の記載がある。
「コロナ放電処理された基布は、次いで、その片面又は両表面に対する高分子重合体の被膜被覆に付される。」

(ウ)しかしながら、甲第3号証及び甲第5号証には、ガラス繊維の片面に樹脂を付着させることが記載されているものの、他の面の接合樹脂については記載も示唆もされておらず、甲第3号証及び甲第5号証の記載を参酌しても、片面に樹脂を付着させる片面塗工であれば、樹脂付きガラスシートのガラスシートに付着させた接合樹脂が、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成すということが開示または示唆されていると解することはできない。

オ 以上のようであるから、特許異議申立人の上記意見は採用できない。


第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1ないし5について、概略、以下の申立理由があることを主張している。(特許異議申立書第9頁第3行?第10頁21行、第25頁13行?第27頁第7行参照)
(1)特許法第29条第1項第3号について
ア 訂正前の請求項1及び5に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明と同一である。
イ 訂正前の請求項2及び4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一である。

(2)特許法第29条第2項について
ア 訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。また、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明と周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 訂正前の請求項2ないし4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。又は、甲第1号証に記載された発明と周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 訂正前の請求項5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。また、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明と周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。また、甲第3号証に記載された発明又は甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。また、甲第3号証に記載された発明又は甲第4号証に記載された発明と周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)特許法第36条第6項第2号について
請求項1ないし5における「塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする」及び「接合樹脂」が如何なる物を意味するのが明らかでなく、したがって、請求項1ないし5に係る発明は不明確である。

(4)特許法第36条第6項第1号について
請求項1ないし5について、本件特許発明1は、接合樹脂の目付量に上限を規定しておらず、また、実施例8(目付量950g/m^(2))及び実施例9(目付量1100g/m^(2))では層間強度の評価が行われていないから、目付量が何処まで増大した場合にも本件特許発明の作用効果が得られるのかが明らかではなく、本件特許発明1ないし5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

2.証拠
本件特許異議申立において提出された証拠は、以下のとおりである。

甲第1号証 :実願昭54-011321号(実開昭55-110234号 )のマイクロフィルム
甲第2号証 :特開昭58-197382号公報
甲第3号証 :特開平05-163824号公報
甲第4号証 :特表2014-529021号公報
甲第5号証 :特開昭61-152452号公報
甲第6号証 :特開平04-232742号公報
甲第7号証 :特開平07-026041号公報

3 上記申立理由について
請求項1ないし5は、令和2年1月17日付け訂正請求書による訂正の請求により訂正されており、本件訂正発明1ないし5は、上記第3に示したとおりである。

(1)上記1(1)について
ア 甲第1号証及び甲第2号証には、床材において、ガラスシートに付着させた接合樹脂が、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成していることは記載も示唆もされていない。

イ よって、本件訂正発明1及び5は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明ではない。

ウ また、本件訂正発明2及び4は、甲第1号証に記載された発明ではない。

(2)上記1(2)について
ア 甲第1号証?甲第7号証のいずれにも、床材において、ガラスシートに付着させた接合樹脂が、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成しているようにすることは記載も示唆もされていない。

イ よって、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明と周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ また、本件訂正発明2ないし4は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。又は、甲第1号証に記載された発明と周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ また、本件訂正発明5は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明と周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、甲第4号証に記載された発明と周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(なお、本件訂正発明5について、甲第3号証に記載された発明又は甲第3号証に記載された発明と周知慣用技術に基づく容易想到についての判断は上記第4の3(3)イに示したとおりである。)

(3)上記1(3)について
特許異議申立人は特許異議申立書において「本件特許発明1における「接合樹脂」は、「塩化ビニル系樹脂を主成分とする」ところ、本件特許明細書に記載の「バインダー」と区別できず、「接合樹脂」が如何なる物を意味するのか明らかでない。」との意見を述べている(特許異議申立書第24頁第2?21行)。

しかしながら、本件訂正発明1ないし5においては「接合樹脂」と「バインダー」の関係を規定するものではなく、ガラスシートに付着された「接合樹脂」について「接合樹脂の目付量が320g/m^(2)以上」であり、「前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している」ことを規定しているのであって、「接合樹脂」自体についての発明特定事項が不明確であるとはいえないから、特許異議申立人が主張する上記意見は採用できない。

(4)上記1(4)について
特許異議申立人は特許異議申立書において、「本件特許発明1は、接合樹脂の目付量に上限を規定しておらず、また、本件特許明細書の【0008】によれば、本件特許発明の効果は、「ガラスシートと上側樹脂層及び下側樹脂層とを容易に接合させ、層間強度に優れた床材を得ることができる」点にあるところ、実施例8(目付量950g/m^(2))及び実施例9(目付量1100g/m^(2))では層間強度の評価が行われていないから、目付量が何処まで増大した場合にも本件特許発明の作用効果が得られるのかが明らかでない。」との意見を述べている(特許異議申立書第25頁第2?8行)。

本件訂正発明1ないし5は、本件特許明細書の【0002】にあるように「樹脂層とガラス繊維を含むガラスシートは、接合し難いので、樹脂層とガラスシートの層間で剥離しないようにする必要がある。」ことを背景とし、発明が解決しようとする課題は、【0004】の記載のように、「ガラスシートに上側樹脂層及び下側樹脂層を容易に接合し得る床材の製造方法及び床材を提供すること」である。
そして、本件訂正発明1ないし5において、ガラスシートに付着された「接合樹脂」については、「接合樹脂の目付量が320g/m^(2)以上」であることのみを特定しているものではなく、さらに、「前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している」ことも特定しているのであり、当業者であれば、本件訂正発明1ないし5により上記課題を解決できると理解することができる。
そうすると、接合樹脂の目付量に上限を規定していない点のみをもって、本件特許発明の作用効果が得られるのかが明らかでないとする特許異議申立人が主張する上記意見は採用できない。

また、本件特許明細書の【0109】には「各実施例及び比較例の床材について、上側樹脂層とガラスシートとの間の層間剥離強度を測定したところ、表1に示す通りであった。ただし、実施例8及び9並びに比較例4については、層完強度の結果が予測できるため、実際の測定は行わなかった。」と記載されており、実施例8及び実施例9については、実施例1ないし7の層間強度の傾向から結果が予測できるので測定するまでもないと判断したものと解するのが自然である。
そうすると、実施例8及び実施例9の層間強度について記載されていないことのみをもって、本件特許発明の作用効果が得られるのかが明らかでないとする特許異議申立人が主張する上記意見は採用できない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
床材の製造方法及び床材
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強層としてガラスシートを有する床材の製造方法、及び床材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成樹脂層の厚み方向中間部に、補強層としてガラス繊維を含むガラスシートが埋設された床材が知られている(特許文献1)。
このような床材は、ガラスシートの上下面にそれぞれ樹脂層を積層し、その積層体を熱ロール間に通して加圧加熱し、各層を一体化することによって得ることができる。
しかしながら、樹脂層とガラス繊維を含むガラスシートは、接合し難いので、樹脂層とガラスシートの層間で剥離しないようにする必要がある。
特に、樹脂層がサスペンション塩化ビニル系樹脂からなる場合、ガラスシートに対する接合性が悪く、ガラスシートを境にして樹脂層が上下に離反することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】 特許第5643987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ガラスシートに上側樹脂層及び下側樹脂層を容易に接合し得る床材の製造方法及び床材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の床材の製造方法は、複数のガラス繊維及び天然繊維を含むガラスシートを準備する工程、前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂を付着させることにより、前記接合樹脂の目付量が320g/m^(2)以上であり、前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している、樹脂付きガラスシートを準備する工程、前記樹脂付きガラスシートの上面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層を積層し、加熱加圧して上側樹脂層、ガラスシート及び下側樹脂層を一体化する工程、を有する。
【0006】
本発明の好ましい床材の製造方法は、前記樹脂付きガラスシートの接合樹脂の目付量が630g/m^(2)以下であり、前記樹脂付きガラスシートの通気度が0?10cc/cm^(2)・secである。
本発明の好ましい床材の製造方法は、前記上側樹脂層及び下側樹脂層の双方の塩化ビニル系樹脂が、サスペンション塩化ビニル系樹脂を含む。
本発明の好ましい床材の製造方法は、前記ガラスシートが、繊維成分全体を100質量%とした場合に、天然繊維を15質量%?50質量%含む。
【0007】
本発明の別の局面によれば、床材を提供する。
本発明の床材は、塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層と、塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層と、前記上側樹脂層と下側樹脂層の間に積層されたガラスシートであって、複数のガラス繊維及び天然繊維を含むガラスシートと、を有し、前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂が目付量320g/m^(2)以上で付着されており、前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成しており、前記上側樹脂層及び下側樹脂層が、前記接合樹脂を介して接合されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、ペースト塩化ビニル系樹脂を含み且つ架橋剤を含まない所定の目付量の接合樹脂が、ガラスシートの内部に含浸されていると共に、ガラスシートの上側においてガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、ガラスシートの下側においてガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつガラスシートの下側において不連続な層を成している、天然繊維を含む樹脂付きガラスシートに、塩化ビニル系樹脂を含む上側樹脂層及び下側樹脂層を積層して加熱加圧することにより、ガラスシートと上側樹脂層及び下側樹脂層とを容易に接合させ、層間強度に優れた床材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】 本発明の第1実施形態に係る床材の平面図。
【図2】 同床材を図1のII-II線で切断した拡大断面図。
【図3】 図2の一部分を更に拡大した参考断面図であって、接合樹脂と上側樹脂層及び下側樹脂層との接合状態の第1例を模式的に表した参考断面図。
【図4】 図2の一部分を更に拡大した参考断面図であって、前記接合状態の第2例を模式的に表した参考断面図。
【図5】 図2の一部分を更に拡大した参考断面図であって、前記接合状態の第3例を模式的に表した参考断面図。
【図6】 第2実施形態に係る床材の拡大断面図(図1のII-II線と同様な箇所で切断)。
【図7】 第3実施形態に係る床材の拡大断面図(図1のII-II線と同様な箇所で切断)。
【図8】 第4実施形態に係る床材の拡大断面図(図1のII-II線と同様な箇所で切断)。
【図9】 第5実施形態に係る床材の拡大断面図(図1のII-II線と同様な箇所で切断)。
【図10】 ガラス不織布の平面図。
【図11】 図10のXI-XI線で切断した拡大参考断面図。
【図12】 ガラス織布の平面図。
【図13】 図12のXIII-XIII線で切断した拡大参考断面図。
【図14】 本発明の第1実施形態に係る床材の製造方法における各工程の概略側面図。
【図15】 本発明の第2実施形態に係る床材の製造方法における各工程の概略側面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について、適宜図面を参照しつつ説明する。
本明細書において、ある層の「上面」又は「上方」は、床材を敷設する床面から遠い側の面又は方向を指し、「下面」又は「下方」は、その反対側(床材を敷設する床面に近い側)の面又は方向を指す。
本明細書において、「?」で表される数値範囲は、「?」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。
また、各図における、厚み及び大きさなどの寸法は、実際のものとは異なっていることに留意されたい。
【0011】
[床材の積層構造]
図1は、第1実施形態の床材の平面図であり、図2は、同床材の拡大断面図であり、図3乃至図5は、接合樹脂を介したガラスシートと上側樹脂層及び下側樹脂層との接合状態を模式的に表した更なる拡大参考断面図である。なお、図3乃至図5は、接合樹脂の態様が異なっている様々な例を示している。
図1に示すように、床材1は、平面視長尺帯状に形成されている。本明細書において、長尺帯状は、一方向の長さが他方向(他方向は一方向に対して直交する方向)の長さに比して十分に長い長方形状であり、例えば、一方向の長さが他方向の長さの2倍以上、好ましくは4倍以上である。長尺帯状の床材1は、通常、ロールに巻かれて保管・運搬に供され、施工現場において、所望の形状に裁断して使用される。もっとも、本発明の床材1は、長尺帯状のシートに限られず、平面視正方形状などの枚葉状に形成されたタイルであってもよい(図示せず)。
【0012】
前記長尺帯状の床材1は、例えば幅800mm?4000mmのような所定幅で所定長さに形成されたものであり、その長さは、例えば、2m?300mである。枚葉状に形成される床材は、例えば、その縦横がそれぞれ100mm?4000mmである。前記枚葉状の床材は、一辺の長さが50cmの平面視正方形状のものが一般的であるが、縦10cm×横90cmの長方形状、六角形状などでもよく、大きさや形状は特に限定されない。
床材1の上面には、必要に応じて、凹凸模様を付与するためにエンボス加工(図示せず)が施されていてもよい。また、床材1の下面に又は床材1の上面及び下面に、必要に応じて、エンボス加工が施されていてもよい。
【0013】
本発明の床材1は、図1乃至図5に示すように、上側樹脂層2と、繊維41を含むガラスシート4と、前記ガラスシート4に付着された接合樹脂5と、下側樹脂層3と、を有する。以下、接合樹脂が付着されたガラスシートを樹脂付きガラスシート6という。必要に応じて、床材1は、さらに、傷付き防止層71、保護層72、化粧層73、基材層74などから選ばれる少なくとも1つの層を有していてもよい。
本発明の床材1の厚みは、特に限定されないが、例えば、1mm?5mmであり、好ましくは1.5mm?3.5mmである。
具体的には、図1乃至図5に示す第1実施形態の床材1は、上側から順に、傷付き防止層71、保護層72、化粧層73、上側樹脂層2、樹脂付きガラスシート6、下側樹脂層3及び基材層74からなる積層体である。これら各層は、接合されて一体化されている。
【0014】
図6乃至図9は、第2乃至第5実施形態の床材1の断面図である。なお、第2乃至第5実施形態の床材1の平面図は、図1と同様なので省略し、第2乃至第5実施形態の床材1についても、接合樹脂5を介したガラスシート4と上側樹脂層2及び下側樹脂層3との接合状態は、図2と同様であるため省略している。
図6に示す第2実施形態の床材1は、上側から順に、傷付き防止層71、保護層72、意匠性を有する上側樹脂層2、樹脂付きガラスシート6、下側樹脂層3及び基材層74からなる積層体である。これら各層は、接合されて一体化されている。なお、第2実施形態において、基材層74を有さない床材1でもよい。
図7に示す第3実施形態の床材1は、上側から順に、保護層72、化粧層73、上側樹脂層2、樹脂付きガラスシート6、下側樹脂層3、基材層74及びバッキング層75からなる積層体である。これら各層は、接合されて一体化されている。バッキング層75としては、例えば、ゴム、フェルト、発泡アクリル樹脂層などの吸着層などが挙げられる。
図8に示す第4実施形態の床材1は、上側から順に、保護層72、化粧層73、上側樹脂層2、樹脂付きガラスシート6及び下側樹脂層3からなる積層体である。これら各層は、接合されて一体化されている。
図9に示す第5実施形態の床材1は、上側から順に、保護層72、意匠性を有する上側樹脂層2、樹脂付きガラスシート6、下側樹脂層3及び基材層74からなる積層体である。これら各層は、接合されて一体化されている。
【0015】
各実施形態において、樹脂付きガラスシート6は、上側樹脂層2と下側樹脂層3の各厚みを略同じにすることによって、上側樹脂層2及び下側樹脂層3からなる樹脂層の略中間部に配置されていてもよく、或いは、上側樹脂層2と下側樹脂層3の各厚みを異ならせることによって、上側樹脂層2及び下側樹脂層3からなる樹脂層の略中間部よりも下方又は上方に偏って配置されていてもよい。
【0016】
床材1において、ガラスシート4を床材1の厚みの略中間部に配置することにより、反りの小さい床材1を構成できる。
そして、上側樹脂層2と下側樹脂層3の間に積層される樹脂付きガラスシート6の接合樹脂5は、上側樹脂層2と下側樹脂層3のそれぞれに接合することによってそれらの層2,3と一体化し、ガラスシート4の上下で樹脂層を構成するようになる。このため、樹脂付きガラスシート6について、後述する上接合樹脂層と下接合樹脂層の厚みをそれぞれ調整することによって、ガラスシート4が厚みの略中間部に配置された床材1を容易に構成できる。
なお、ガラスシート4が床材1の厚みの略中間部に配置されるとは、床材1の厚み×0.35?床材1の厚み×0.65の範囲内に、ガラスシート4の厚みの中間部が延在されていることをいい、好ましくは、床材1の厚み×0.4?床材1の厚み×0.6の範囲内に、ガラスシート4の厚みの中間部が延在されていることをいう。
その他、図示しないが、上記第1乃至第5実施形態の床材1から、任意の他の層を省略してもよく、或いは、これらの床材1の構成要素として任意の適切な層を付加してもよい。
【0017】
各実施形態の床材1において、ガラスシート4は、複数のガラス繊維を含むガラス不織布又はガラス織布が用いられている。前記ガラスシート4は、繊維成分がガラス繊維のみから構成されていてもよく、ガラス繊維以外に他の繊維を含んでいてもよい。前記他の繊維としては、パルプなどの天然繊維、合成樹脂繊維、金属繊維などが挙げられる。好ましくは、他の繊維として、パルプなどの天然繊維を含む。パルプなどの天然繊維はガラス繊維に比して軽いため、前記天然繊維を含有したガラスシートは、ガラス繊維のみからなるガラスシートに比して、小さな目付量で通気度を小さくできる。また、パルプなどの天然繊維は比較的柔らかいので、加工設備を傷つけるおそれがなく、さらに、材料費も比較的安価である。ガラスシートが他の繊維を含んでいる場合、その量は、繊維成分全体を100質量%とした場合に、0を超え60質量%以下であり、好ましくは15質量%?50質量%である。相対的にガラス繊維の割合が余りに小さくなると、寸法安定性が悪化する。
【0018】
ガラス不織布4aは、図10及び図11に示すように、ガラス繊維を含む複数の繊維41が無秩序に上下方向に重なり又は絡み合い且つそれらが接着剤などのバインダーにてバインドされて又はそれら自身がバインドし合って層を成しているもの、或いは、特に図示しないが、複数の繊維41がある程度の規則性を以て上下方向に重なり又は絡み合い且つそれらが接着剤などのバインダーにてバインドされて又はそれら自身がバインドし合って層を成しているものである。
前記バインダーとしては、繊維41に対する接合性の高いものが好ましく、さらに、繊維41及び接合樹脂5に対する接合性の高いものがより好ましい。このようなバインダーとしては、公知の樹脂を主成分とする接着剤を使用することができ、例えば、1液型接着剤、2液型接着剤、熱硬化型接着剤、ホットメルト型接着剤、紫外線硬化型接着剤などの電子線硬化型接着剤などが挙げられる。具体的には、ウレタン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合系、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂及びエポキシ系樹脂から選ばれる1種又は2種以上の混合物が例示される。
【0019】
前記ガラス不織布は、例えば、分散剤や増粘剤などを配合した水中に、繊維を略均一に分散させ、抄造することにより、ガラス繊維又はガラス繊維及び他の繊維を混合した繊維をシート状に成形し、その繊維のシートに、バインダーを塗布又は含浸させることにより、得ることができる。前記塗布は、ロールコーター、ナイフコーター、カーテンコーター、フローコーター、スプレーコーター、ダイコーターなどの各種コーター;スプレー;刷毛塗り;ローラーなどを用いて行うことができ、前記含浸は、液槽への浸漬などによって行うことができる。バインダーは一定の厚みに塗布又は含浸されるが、過剰なバインダーは、必要に応じてバキュームナイフなどによって吸引除去される。ガラス不織布の単位面積当たりのバインダーの量が所望の範囲になったところで、バインダーを硬化させ、乾燥することにより、ガラス不織布を得ることができる。バインダーの量は、前記塗布又は含浸、必要に応じた吸引などによって調整できる。
【0020】
ガラス織布4bは、図12及び図13に示すように、複数の繊維41が縦横に規則性を以て織り込まれて層を成しているもの、或いは、複数の繊維41が縦横に規則性を以て上下方向に重なり且つそれらが接着剤などのバインダーにてバインドされて層を成しているものである。
なお、繊維41は、ガラスシート4がガラス繊維のみからなる場合には、ガラス繊維を示し、ガラスシート4がガラス繊維及び他の繊維の混合物からなる場合には、それらの繊維を示す。
前記ガラスシート4としては、市販品を用いることもできる。
【0021】
繊維41がある程度の規則性を以てバインドされたガラス不織布4a及びガラス織布4bは、並んだ繊維41に従い、所定方向に配向性が生じる。配向性を有するガラスシート4を用いると、接合樹脂5を比較的均一に付着させることもでき、且つ接合樹脂5の塗布時に繊維41の脱落も少なくなる。
なお、図3乃至図5、図11及び図13においては、2本又は3本の繊維41が厚み方向に重なった状態で表しているが、これらの図は、あくまで参考図であり、実際のガラス不織布4a及びガラス織布4bは、より多くの繊維41が厚み方向に重畳的に重なっている場合があることに留意されたい。
【0022】
前記ガラス不織布4a及びガラス織布4bなどのガラスシート4は、繊維41の間に無数の開口Aを有する。この各開口Aは、概念的には、隣接する繊維41の間の隙間がガラスシート4の厚み方向に連続して繋がったものである。前記各開口Aは、ガラスシート4の厚み方向と略平行に繊維41の隙間が連続し、略直線的にガラスシート4の上下面に連通した態様、或いは、繊維41の隙間がガラスシート4の厚み方向に対して傾斜、湾曲、屈曲又は蛇行などしつつ連続して配置されながらガラスシート4の上下面に連通した態様などが含まれる。前者の態様の開口は、通常、ガラスシート4の上面側から拡大して見た場合に、ガラスシート4の下面側に存在する事物を視認できるような態様であり、後者の態様の開口は、通常、それを視認できないような態様である。
ただし、前記開口を有さないガラスシートを用いてもよい。
【0023】
ガラスシート4の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.1mm?0.5mmであり、より好ましくは0.15mm?0.4mmであり、さらに好ましくは0.20mm?0.35mmである。また、ガラスシート4の目付量は、特に限定されないが、好ましくは10g/m^(2)?100g/m^(2)であり、より好ましくは20g/m^(2)?60g/m^(2)である。ガラスシート4の厚み又は目付量が小さすぎると、床材1の引張り強度及び寸法安定性を十分に向上できず、一方、大きすぎると、接合樹脂5がガラスシート4の開口内にまで十分に行き渡らず、厚み方向中間部の繊維41の表面に十分に付着しないおそれがある。特に、ガラス不織布4aについては、前記厚み及び目付量の範囲のものが好適である。
なお、ガラスシート4の密度は、特に限定されないが、例えば、0.1g/cm^(3)?0.5g/cm^(3)である。
【0024】
前記ガラスシート4は、無数の開口Aを有するので、ガラスシート4の面内には、ガラスシート4の上側から下側、又は、上側から下側に通じる通気路が確保されている。前記ガラスシート4の開口率が大きいと、ガラスシート4の通気性が高くなり、反対に前記開口率が小さいと、ガラスシート4の通気性が低くなる。本発明では、このような点を考慮して、ガラスシート4の通気性を測定することによって、前記開口率を評価するものとする。なお、前記開口率は、ガラスシート4の上面の単位面積当たりに占める開口総面積をいう。
【0025】
前記開口Aを有するガラスシート4の通気度は、例えば、零を超え350cc/cm^(2)・sec以下であり、好ましくは30cc/cm^(2)・sec?300cc/cm^(2)・secであり、より好ましくは50cc/cm^(2)・sec?150cc/cm^(2)・secである。上側樹脂層2と下側樹脂層3の接合性を向上させるためには、前記開口A内に接合樹脂5が入り込み易く且つそれが保持され易くなっていることが好ましい。この点、ガラスシート4の通気度、すなわち、ガラスシート4の開口率が小さいほど接合樹脂5が入り込み難くなり、開口率が大きいほど接合樹脂5が保持され難くなる。一方で、ガラスシートによる強度、反り抑制効果、寸法変化抑制効果を付与するためには、ガラスシートの開口率にもある程度の上限がある。このような観点から、ガラスシート4は、その通気度が上記の範囲であることが好ましい。
なお、開口を有さないガラスシートの通気度は、零である。
ただし、本明細書において、ガラスシート4の通気度は、JIS L 1096の通気性試験方法に準じて、株式会社東洋精器製作所製のフラジール型通気性試験機を用いて、測定対象の1枚のガラスシートを測定した値である。
【0026】
本発明においては、前記ガラス不織布4a及びガラス織布4bなどのガラスシート4に接合樹脂5が付着されることにより、樹脂付きガラスシート6が構成されている。なお、接合樹脂5は、ガラス不織布などを構成する上記バインダーとは異なるものであることに留意されたい。
具体的には、図3乃至図5の各態様に示すように、前記ガラスシート4の繊維41には、接合樹脂5が付着されている。ただし、図3乃至図5においては、ガラスシートとしてガラス不織布を用いた場合を示している。
【0027】
接合樹脂5のガラスシート4に対する付着態様は、上面側又は下面側から見て下記の4つの態様に大別できる。
(a)接合樹脂5は、樹脂付きガラスシート6の上面側から見て、ガラスシート4を構成する複数の繊維41の全てに付着している。
(b)接合樹脂5は、樹脂付きガラスシート6の上面側から見て、ガラスシート4を構成する複数の繊維41の少なくとも一部に付着し且つ複数の繊維41のうちの少なくとも1本の繊維に付着していない部分を有する。
(c)接合樹脂5は、樹脂付きガラスシート6の下面側から見て、ガラスシート4を構成する複数の繊維41の全てに付着している。
(d)接合樹脂5は、樹脂付きガラスシート6の下面側から見て、ガラスシート4を構成する複数の繊維41の少なくとも一部に付着し且つ複数の繊維41のうちの少なくとも1本に付着していない部分を有する。
なお、本明細書において、「上面側(又は下面側)から見て」とは、その層の上面(又は下面)に対して垂直な方向から見ることをいう。
接合樹脂5の付着態様は、上記(a)及び(b)から選ばれる1つで且つ(c)及び(d)から選ばれる1つの態様であり、好ましくは、(a)及び(c)の態様、又は、(a)及び(d)の態様である。
【0028】
前記(a)においては、樹脂付きガラスシート6の上面側から見て、複数の繊維41のほとんど全てが接合樹脂に覆われ、前記(c)においても同様に、樹脂付きガラスシート6の下面側から見て、複数の繊維41のほとんど全てが接合樹脂に覆われている。なお、図3乃至図5は、この(a)及び(c)の態様を図示している。
前記(b)においては、樹脂付きガラスシート6の上面側から見て、繊維41が露出している部分を有し、前記(d)においても同様に、樹脂付きガラスシート6の下面側から見て、繊維41が露出している部分を有する。
【0029】
前記(a)において、樹脂付きガラスシート6の上面側から見て、繊維41の露出率は、実質的に0%である。
前記(b)において、樹脂付きガラスシート6の上面側から見て、繊維41の露出率は、例えば、零を超え20%以下であり、好ましくは零を超え15%以下であり、より好ましくは零を超え10%以下である。
前記(c)において、樹脂付きガラスシート6の下面側から見て、繊維41の露出率は、実質的に0%である。
前記(d)において、樹脂付きガラスシート6の下面側から見て、繊維41の露出率は、例えば、零を超え20%以下であり、好ましくは零を超え15%以下であり、より好ましくは零を超え10%以下である。
【0030】
前記ガラス繊維の露出率は、樹脂付きガラスシート6の単位面積当たりに露出した繊維41の総面積である。前記露出率は、例えば、樹脂付きガラスシート6の上面(又は下面)から1cm×1cmの範囲を任意に抽出し、その範囲における上面側(又は下面側)から見て繊維41が見える面積を計測し、式:露出率(%)=繊維が露出した面積の総和/1cm^(2))×100、で求めることができる。
【0031】
さらに、樹脂付きガラスシート6において、接合樹脂5は、ガラスシート4にほぼ沿って層を成している。なお、図3乃至図5において、ガラスシート4の上面41u及び下面42dを二点鎖線で表している。
例えば、接合樹脂5は、図3乃至図5に示すように、ガラスシート4の内部に含浸し、さらに、ガラスシート4の上側においてガラスシート4の上面41uにほぼ沿って層を成し、さらに、接合樹脂5は、図3及び図4に示すように、ガラスシート4の下側においてガラスシート4の下面42dにほぼ沿って層を成している。なお、図5に示す態様は、接合樹脂5がガラスシート4の下側において層を成しているが、その層がガラスシート4の下面42dよりもシート4の厚み方向上側に入りこんでいる場合である。特に図示しないが、ガラスシート4の上側において層を成している接合樹脂5が、ガラスシート4の上面41uよりもシート4の厚み方向下側に入りこんでいる場合であってもよい。
【0032】
樹脂付きガラスシート6において、前記のように層を成した接合樹脂5の上面及び下面は、それぞれ平坦状又は凹凸状でもよく、或いは、何れか一方が平坦状で且つ他方が凹凸状でもよい。図3及び図4では、層を成した接合樹脂5は、その上面及び下面がいずれも平坦状である場合を、図5では、層を成した接合樹脂5は、その上面が平坦状で且つその下面が凹凸状の場合を例示している。
【0033】
詳しくは、図3及び図4において、樹脂付きガラスシート6を区分すると、樹脂付きガラスシート6は、接合樹脂5が含浸したガラスシート4と、そのガラスシート4の上面41uにおいて層を成した上接合樹脂層51と、そのガラスシート4の下面42dにおいて層を成した下接合樹脂層52と、からなる。
また、図5において、樹脂付きガラスシート6を区分すると、樹脂付きガラスシート6は、接合樹脂5が含浸したガラスシート4と、そのガラスシート4の上面41uにおいて層を成した上接合樹脂層51と、からなる。
【0034】
接合樹脂5が上記(a)の態様で付着している場合には、図3乃至図5に示すように、上接合樹脂層51は、ガラスシート4の上側において連続して層を成している。接合樹脂5が上記(b)の態様で付着している場合には、上接合樹脂層51は、一部不連続な部分を有しつつ全体として見ると層を成している(図示せず)。同様に、接合樹脂5が上記(c)の態様で付着している場合には、下接合樹脂層52は、図3乃至図5に示すように、ガラスシート4の下面側において連続して層を成している。接合樹脂5が上記(d)の態様で付着している場合には、下接合樹脂層52は、一部不連続な部分を有しつつ全体として見ると層を成している(図示せず)。
上接合樹脂層51の上面は、平坦状でもよく、或いは、凹凸状でもよい。下接合樹脂層52の下面は、平坦状でもよく、或いは、凹凸状でもよい。
【0035】
上接合樹脂層51と下接合樹脂層52は、同じ厚みでもよく、或いは、厚み差を有していてもよい。好ましくは、上接合樹脂層51の厚みが、下接合樹脂層52の厚みの1倍を超え100倍以下であり、より好ましくは10倍?80倍である。
具体的な数値では、上接合樹脂層51の厚みは、例えば、0.01mm?1.2mmであり、好ましくは、0.1mm?1.1mmであり、より好ましくは、0.2mm?1mmであり、さらに好ましくは、0.3mm?0.8mmである。また、下接合樹脂層52の厚みは、例えば、0.005mm?0.5mmであり、好ましくは、0.01mm?0.4mmであり、より好ましくは、0.01mm?0.3mmである。
なお、上接合樹脂層51の厚みは、ガラスシート4の上面41uから上接合樹脂層51の上面までの長さであり、下接合樹脂層52の厚みは、ガラスシート4の下面から下接合樹脂層52の下面までの長さである。上接合樹脂層51の上面及び/又は下接合樹脂層52の下面が凹凸状であって、それらの層51,52の厚みが均等でない場合には、前記上接合樹脂層51の厚み及び下接合樹脂層52の厚みは、その最大値とする。
接合樹脂5が含浸したガラスシート4の厚みは、ガラスシート4そのものの厚みに略等しい。
【0036】
前記接合樹脂5は、繊維41の表面全体に付着されてもよく、或いは、多くの繊維41の表面全体に付着され且つ残る繊維41の表面の一部分に付着されていてもよい。なお、繊維41の表面とは、ガラスシート4を構成する繊維41そのものの表面、及び、前記繊維41にバインダーが接合している場合にはそのバインダーの表面を含む意味である。
図示例では、接合樹脂5は、複数の繊維41のうち多くの繊維41の表面全体に付着されている。
【0037】
前記樹脂付きガラスシート6においては、上記ガラスシート4のほとんどの開口Aが接合樹脂5によって塞がれている。
樹脂付きガラスシート6の通気度は、例えば、0?10cc/cm^(2)・secであり、好ましくは0?5cc/cm^(2)・secであり、より好ましくは0?3cc/cm^(2)・secである。このような通気度を有する樹脂付きガラスシート6は、上側樹脂層2と下側樹脂層3との間のほとんどにおいて接合樹脂5が介在するので、ガラスシートに上側樹脂層及び下側樹脂層が容易に接合するようになる。樹脂付きガラスシート6の通気度は、測定対象を樹脂付きガラスシートに代えた上で、上記ガラスシート4の通気度と同様にして測定できる。
なお、図3乃至図5は、接合樹脂5がガラスシート4の開口の全てを塞いでいる場合、つまり、通気度が零である場合を示している。特に図示しないが、本発明においては、開口のうち僅かな部分において接合樹脂5を有さない場合も含まれ、このような場合は、上記の通気度が零でない場合である。
【0038】
樹脂付きガラスシート6において、接合樹脂5の目付量は、320g/m^(2)以上であり、好ましくは、350g/m^(2)以上であり、より好ましくは、400g/m^(2)以上であり、さらに好ましくは450g/m^(2)以上である。接合樹脂5が320g/m^(2)以上付着されている樹脂付きガラスシート6を用いることにより、上側樹脂層2と下側樹脂層3をガラスシート4に容易に且つ良好に接合できる。
樹脂付きガラスシート6において、接合樹脂5の目付量の上限は、特に限定されないが、接合樹脂5を多量にガラスシート4に付着させると、樹脂付きガラスシート6の加工時に皺が生じるなどの加工性の問題を生じる場合がある。かかる観点から、接合樹脂5の目付量は、例えば、630g/m^(2)以下であり、好ましくは、600g/m^(2)以下であり、より好ましくは、550g/m^(2)以下である。
【0039】
前記樹脂付きガラスシート6において、1種類の接合樹脂がガラスシート4に付着されていてもよく、2種類以上の接合樹脂がガラスシート4に付着されていてもよい。
図3は、1種類の接合樹脂をガラスシート4に付着させた樹脂付きガラスシート6を含む床材の参考断面図であり、図4及び図5は、2種類の接合樹脂をガラスシート4に付着させた樹脂付きガラスシート6を含む床材の参考断面図である。
図3において、接合樹脂5は、1種の接合樹脂5a(以下、第1接合樹脂5aという場合がある)のみから構成されている。図3の樹脂付きガラスシート6は、断面視において、接合樹脂5aを海とし且つ繊維41を島とする海島状となっている。
【0040】
図4及び図5において、接合樹脂5は、前記第1接合樹脂5aと、その第1接合樹脂5aとは異なる接合樹脂5b(以下、第2接合樹脂5bという場合がある)と、から構成されている。第2接合樹脂5bは、繊維41の表面に付着され、第1接合樹脂5aは、その第2接合樹脂5aの周りを被覆するように設けられている。
図4においては、繊維41の表面に付着された第2接合樹脂5bが第1接合樹脂5a内に埋没するように、接合樹脂5が設けられている。図4の樹脂付きガラスシート6は、断面視において、第1接合樹脂5aを海とし且つ繊維41及び第2接合樹脂5bを島とする海島状となっている。
図5においては、第1接合樹脂5aが、ガラスシート4の下面42dよりも厚み方向上側に入り込んでおり、ガラスシート4の下側から見ると、第1接合樹脂5aと、繊維41の表面に付着された第2接合樹脂5bと、が混在している。図5の樹脂付きガラスシート6は、断面視において、第1接合樹脂5a及び第2接合樹脂5bからなる接合樹脂5を海とし且つ繊維41を島とする海島状となっている。
【0041】
前記樹脂付きガラスシート6の接合樹脂5は、上側樹脂層2及び下側樹脂層3をそれぞれ繊維41に接合させるためのバインダー樹脂として機能する。すなわち、図3乃至図5に示すように、上側樹脂層2及び下側樹脂層3は、前記接合樹脂5を介して繊維41に接合されている。
なお、図3乃至図5においては、接合樹脂5、上側樹脂層2及び下側樹脂層3を分かり易く図示するために、これらの境界辺りに実線を明示しているが、接合樹脂5、上側樹脂層2及び下側樹脂層3は、いずれも樹脂材料からなるので、これらの境界が明瞭に現れるわけではないことに留意されたい。
【0042】
本発明の床材1は、接合樹脂5を介してガラスシート4と上側樹脂層2及び下側樹脂層3が接合するので、それらの層間で剥離し難い。これは、目付量320g/m^(2)以上の接合樹脂5がガラスシート4に付着されているので、その接合樹脂5が繊維41と上側樹脂層2及び下側樹脂層3との間に介在し、上側樹脂層2及び下側樹脂層3が強固にガラスシート4に接合するためと推定される。
特に、接合樹脂5がペースト塩化ビニル系樹脂を含み、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の少なくとも一方がサスペンション塩化ビニル系樹脂を含む場合、上側樹脂層2及び下側樹脂層3が接合樹脂5を介してより強固にガラスシート4に接合し得る。
【0043】
また、サスペンション塩化ビニル系樹脂は、ペースト塩化ビニル系樹脂に比して硬く且つ強度に優れているので、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の厚みを比較的小さくしても(つまり、床材1の厚みを小さくしても)、機械的強度に優れ且つ反りの小さい床材1を得ることができる。例えば、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の双方がサスペンション塩化ビニル系樹脂を含み、接合樹脂5がペースト塩化ビニル系樹脂を含む場合、層間接合力を維持したまま床材1の厚みを比較的小さくすることもできる。
本発明の床材1は、上述のように層間剥離を生じ難いので、床面に敷設する際に、その縁部が捲れることもなく、良好な仕上がりで施工できる。また、既に敷設した床材1を貼り替える際、層間剥離を生じることなく既設の床材1を引き剥がすことができる。このため、既設の床材1の一部(主として下方部)が床面に貼り付いたままで残存する可能性が低く、貼り替え施工も容易に行うことができる。
以下、各層について詳しく説明する。
【0044】
<上側樹脂層及び下側樹脂層>
上側樹脂層2及び下側樹脂層3は、床材1の強度及び重量を構成する主たる部分である。
上側樹脂層2及び下側樹脂層3の厚みは、特に限定されず、適宜設定できる。上側樹脂層2の厚みと下側樹脂層3の厚みは、同じでもよいし、又は、何れか一方が小さくてもよい。例えば、上側樹脂層2の厚みは、0.05mm?1.0mmであり、好ましくは0.1mm?0.8mmである。下側樹脂層3の厚みは、例えば、0.5mm?3.0mmであり、好ましくは0.7mm?2.0mmである。
【0045】
なお、第2実施形態などのように、意匠性を有する上側樹脂層2を用いる場合には、その上側樹脂層2の厚みを比較的小さく設定してもよい。例えば、意匠性を有する上側樹脂層2の厚みは、0.05mm?0.5mmである。意匠性を有する上側樹脂層2は、そのものが意匠となり得るものである。前記意匠性を有する上側樹脂層2は、(1)上側樹脂層そのものの色彩で意匠が表出される場合、(2)上側樹脂層に着色剤が混合され、その着色剤の色彩及びその混ざり方によって意匠が表出される場合、(3)上側樹脂層に樹脂チップが混合され、その樹脂チップの色彩、形状、分散の仕方などによって意匠が表出される場合、(4)上側樹脂層に色彩の異なる着色剤と樹脂チップとが混合され、それらの色彩や混ざり方などによって意匠が表出される場合、などが挙げられる。意匠性を有する上側樹脂層2を用いた床材1について、その上側樹脂層2の厚みが小さい場合には、下側樹脂層3が主として床材1の強度及び重量を構成する部分となる。
【0046】
樹脂層(上側樹脂層2及び下側樹脂層3)の樹脂成分としては、特に限定されず、従来公知のものを用いることができ、一般的には、熱可塑性樹脂が用いられる。また、上側樹脂層2と下側樹脂層3の樹脂成分は、同種でもよいし、同じでもよいし、又は、異なっていてもよい。樹脂成分が同種とは、その樹脂成分の主たる繰り返し単位を構成するモノマーが同一であることを意味し、共重合モノマーを有する場合にはその共重合モノマーが異なる場合、及び/又は、重合度が異なる場合を含む。樹脂成分が同じとは、繰り返し単位(及び共重合モノマーを有する場合には、その共重合モノマーを含む)が同一であることを意味し、重合度が異なる場合を含む。
【0047】
前記熱可塑性樹脂としては、塩化ビニルや塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体などの塩化ビニル系樹脂;ポリオレフィン系樹脂;ウレタン系樹脂;エチレン-酢酸ビニル共重合体などの酢酸ビニル系樹脂;エチレン-メタクリレート樹脂などのアクリル系樹脂;ポリアミド系樹脂;エステル系樹脂;オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマーなどの各種エラストマーなどの各種エラストマー;ゴムなどが挙げられる。これらは、1種単独で、又は2種以上を併用できる。優れた可撓性を有し、さらに、樹脂付きガラスシート6と接合し易いことから、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の少なくとも何れか一方は、塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする樹脂層であることが好ましく、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の双方が、塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とすることがより好ましい。塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする樹脂層を有する床材1は、柔軟性に優れているので、歩行感が良好であり、さらに、湾曲させながら床面に施工できる。また、塩化ビニル系樹脂は、安価である上、これを用いると、床材1の製造も簡易となる。
上側樹脂層2及び下側樹脂層3が何れも塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする場合、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の塩化ビニル系樹脂は、モノマーの種類及び重合度が同じでもよく、そのいずれかが異なっていてもよい。
【0048】
なお、本明細書において、主成分樹脂は、その層を構成する樹脂成分(ただし、添加剤を除く)の中で最も多い成分(重量比)をいう。主成分樹脂の量は、その層を構成する樹脂成分全体を100質量%とした場合、50質量%を超え、好ましくは、70質量%以上であり、より好ましは80質量%以上である。主成分樹脂の量の上限は、100質量%である。主成分樹脂の量が100質量%未満である場合において、その層に含まれる主成分樹脂以外の樹脂は、特に限定されず、公知の樹脂成分を用いることができる。
【0049】
前記塩化ビニル系樹脂としては、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法などで製造されたものを用いることができる。加工し易く且つ取り扱い易いことから、乳化重合法、又は、懸濁重合法で得られる塩化ビニル系樹脂が好ましい。これらの塩化ビニル系樹脂は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
好ましくは、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の少なくとも一方は、主成分樹脂としてサスペンション塩化ビニル系樹脂を含み、より好ましくは、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の双方は、主成分樹脂としてサスペンション塩化ビニル系樹脂を含む。上側樹脂層2及び下側樹脂層3をサスペンション塩化ビニル系樹脂で形成することにより、床材1の強度を確保しつつ比較的厚みの小さい床材1を得ることができる。
【0050】
ペースト塩化ビニル系樹脂は、例えば、乳化重合法で得られるペースト状の塩化ビニル系樹脂であり、可塑剤により、適宜粘度を調整できる。ペースト塩化ビニル系樹脂は、多数の微粒子集合体からなる粒子径が0.1?10μm(好ましくは1?3μm)の微細粉末であり、好ましくは、前記微細粉末の表面に界面活性剤がコーティングされている。ペースト塩化ビニル系樹脂の平均重合度は1000?2000程度が好ましい。
サスペンション塩化ビニル系樹脂は、例えば、懸濁重合法で得られる塩化ビニル系樹脂である。サスペンション塩化ビニル系樹脂は、粒子径が好ましくは20μm?100μmの微細粉末である。サスペンション塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、700?1500程度が好ましく、700?1100程度がより好ましく、700?1000程度がさらに好ましい。
ただし、前記粒子径は、体積基準の粒度分布におけるメディアン径(D50)である。
【0051】
前記各塩化ビニル系樹脂は、K値60?95程度のものが好ましく、K値65?80程度のものがより好ましい。
前記上側樹脂層2及び下側樹脂層3には、通常、上記樹脂成分以外に各種添加剤が含まれる。添加剤としては、従来公知のものを使用でき、例えば、充填剤、可塑剤、難燃剤、安定剤、吸湿剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、発泡剤、防黴剤などが挙げられる。
【0052】
前記上側樹脂層2及び下側樹脂層3は、それぞれ独立して、非発泡でもよいし、或いは、発泡されていてもよい。例えば、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の何れか一方が発泡樹脂層で且つ他方が非発泡樹脂層で構成されていてもよいし、又は、双方が非発泡樹脂層若しくは発泡樹脂層で構成されていてもよい。
前記発泡樹脂層の発泡倍率は特に限定されないが、好ましくは1.05倍?10倍であり、より好ましくは1.1倍?4倍である。発泡倍率が余りに低いと、床材1に実質的にクッション性を付与できず、一方、発泡倍率が余りに高いと、床材1が柔らかくなりすぎる。
【0053】
<ガラスシート>
ガラスシート4は、経時的な収縮や膨張による床材1の寸法変化を抑制するための層である。詳しくは、ガラスシート4は、強度が高く、温度による寸法変動が少ないというガラス繊維の特性を有し、床材1の寸法安定性や剛性などの機械的強度を高め、温度変化や経時的な収縮や膨張による寸法変化や反りを抑制するための層である。
ガラスシート4は、複数の繊維41が重なり合って層を成しているものであり、上述のように、ガラス不織布4aやガラス織布4bなどを用いることができる。
好ましくは、ガラス不織布4aが用いられる。ガラス不織布4aは、寸法安定性に優れるため、床材1全体の寸法安定性に大きく寄与する上、床材1の曲げ強度及び引張り強度を向上させることができる。また、ガラス織布4bは、繊維41が概ね規則的に配列されているので、床材1の表面に織り目が表出するおそれがあるが、ガラス不織布4aを用いた場合には、そのような不具合も生じない。
ガラス不織布4aやガラス織布4bの説明は、上記[床材の積層構造]の欄で述べた通りである。ここでは、上記の欄で説明しなかった事項について主として説明する。
【0054】
ガラス不織布4a及びガラス織布4bのガラス繊維の太さは、特に限定されず、例えば、直径5μm?30μmであり、好ましくは、直径8μm?20μmである。
ガラス不織布4aのガラス繊維の長さは、特に限定されず、例えば、10mm?35mmである。ガラス不織布4aのガラス繊維は、短繊維のみから構成されていてもよく、長繊維のみから構成されていてもよく、或いは、短繊維と長繊維の混合から構成されていてもよい。短繊維のみから構成されたガラス不織布4aは、寸法安定性に優れているが、短繊維と長繊維の混合物から構成されたガラス不織布4aは、寸法安定性に加えて引張り強度にも優れている。前記短繊維の長さは、特に限定されないが、例えば、10mm?35mmであり、長繊維の長さは、その短繊維の長さよりも大きい。なお、ガラス織布4bのガラス繊維は、通常、前記長繊維よりも更に長い繊維からなる。
また、ガラスシートがガラス繊維とパルプなどの天然繊維を含む場合、そのパルプなどの天然繊維の太さは、特に限定されないが、例えば、10μm?30μmである。尚、パルプなどの天然繊維は、一般に様々な繊維長や繊維径のものが分布をもって混在しているため、前記天然繊維の太さは、分布の中心的な範囲である。
【0055】
<接合樹脂>
接合樹脂5としては、繊維41、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の何れにも接合するものであれば特に限定されず、従来公知の樹脂を用いることができる。接合樹脂5としては、上側樹脂層2及び下側樹脂層3で例示したような熱可塑性樹脂が挙げられる。
繊維41、塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層2及び下側樹脂層3に対する接合性に優れていることから、接合樹脂5は、主成分樹脂として塩化ビニル系樹脂を含むことが好ましく、主成分樹脂としてペースト塩化ビニル系樹脂を含むことが好ましい。
上述のように、2種類以上の接合樹脂5をガラスシート4に付着させる場合には、それらの接合樹脂5は、いずれも熱可塑性樹脂であることが好ましく、いずれも主成分樹脂として塩化ビニル系樹脂であることがより好ましく、いずれも主成分樹脂としてペースト塩化ビニル系樹脂を含むことがさらに好ましい。
2種類以上の接合樹脂は、異なる接合樹脂であり、例えば、主成分樹脂が異なる場合、主成分樹脂は同種又は同じで、その配合量が異なる場合、主成分樹脂は同種又は同じで且つ配合量も略同じであるが、充填剤などの添加剤の配合量が異なる場合、組成は同じであるが、粘度が異なる場合、などが挙げられる。
【0056】
サスペンション塩化ビニル系樹脂は比較的硬いので、その樹脂はガラスシート4に強固に付着し難いが、ペースト塩化ビニル系樹脂は、可塑剤の量が多く、比較的軟らかいので、ガラスシート4への塗工も容易で且つ繊維41に強固に付着する。また、ペースト塩化ビニル系樹脂は、サスペンション塩化ビニル系樹脂に対する相溶性に優れているので、それを含む接合樹脂5は、サスペンション塩化ビニル系樹脂を含む上側樹脂層2又は下側樹脂層3にも強固に接合するようになる。
接合樹脂5に含まれるペースト塩化ビニル系樹脂は、多数の微粒子集合体からなる粒子径が0.1?10μm(好ましくは1?3μm)の微細粉末であり、好ましくは、前記微細粉末の表面に界面活性剤がコーティングされている。前記ペースト塩化ビニル系樹脂の平均重合度は1000?2000程度が好ましく、K値は、60?95程度が好ましく、K値65?80程度がより好ましい。
なお、接合樹脂5には、通常、各種添加剤が含まれる。添加剤としては、上記に例示したようなものが挙げられる。
【0057】
また、接合樹脂5は、内部に空隙を有しない実質的に中実状であることが好ましい。実質的に中実状とは、空隙を生じるように接合樹脂5を形成しないという意味であり、接合樹脂5をガラスシート4へ付着させるに際して、必然的に生じる又は偶発的に生じる空隙は許容される。もっとも、層間強度を阻害しない程度であれば、接合樹脂5の内部に空隙を形成させてもよい。この空隙は、例えば、接合樹脂5に発泡性マイクロカプセル、中空フィラーなどを配合する、接合樹脂5を化学発泡させるなどの方法によって形成できる。接合樹脂5に空隙を形成することによって、軽量化、柔軟性、加工性などを向上させることができる。
【0058】
ペースト塩化ビニル系樹脂を用いる場合であって、図4及び図5に示すように、第1接合樹脂5a及び第2接合樹脂5bをガラスシート4に付着させる場合には、第1接合樹脂5aは、充填剤の量が第2接合樹脂5bよりも多いペースト塩化ビニル系樹脂であることが好ましい。例えば、第1接合樹脂5aは、充填剤を含み、その含有率が第2接合樹脂2bよりも大きい。第2接合樹脂5bは、充填剤を実質的に含まない又は充填剤を含むがその含有率が第1接合樹脂2aよりも小さい。
【0059】
<化粧層>
化粧層73は、床材1に意匠を付与する層である。化粧層73は、必要に応じて設けられる。
前記化粧層73は、転写層、意匠印刷層、意匠印刷シート、意匠性が付与された熱可塑性樹脂層などが挙げられる。もっとも、化粧層73は、これら例示の層に限られず、意匠を表出できる層であればその他任意のものを用いることができる。
前記転写層は、印刷インキを剥離紙などの基材上に印刷して固化させた後に、固化した印刷インキを剥離して形成した転写フィルムから構成される。前記転写層からなる化粧層7は、上側樹脂層2の上面又は保護層72の下面に転写することによって形成される。意匠印刷層は、上側樹脂層2の上面又は保護層72の下面に印刷インキを直接印刷して固化させた層から構成される。意匠印刷シートからなる化粧層73は、上側樹脂層2の上面又は保護層72の下面に、予め意匠印刷を施したシートを接合することによって形成される。
【0060】
意匠性が付与された熱可塑性樹脂層は、そのものが意匠となり得る層である。前記熱可塑性樹脂層は、(1)樹脂そのものの色彩で意匠性が付与されている場合、(2)着色剤が混合され、その着色剤の色彩及びその混ざり方によって意匠性が付与されている場合、(3)樹脂チップが混合され、その樹脂チップの色彩、形状、分散の仕方などによって意匠性が付与されている場合、(4)色彩の異なる着色剤と樹脂チップとが混合され、それらの色彩や混ざり方などによって意匠性が付与されている場合、などが挙げられる。熱可塑性樹脂層からなる化粧層73は、上側樹脂層の上面などに、その熱可塑性樹脂層を積層接合することによって形成される。
前記意匠性が付与された熱可塑性樹脂層の樹脂成分としては、上記<上側樹脂層及び下側樹脂層>の欄で例示したようなものが挙げられ、上側樹脂層2と保護層72に強固に接合することから、熱可塑性樹脂が好ましい。特に、上側樹脂層2と保護層72が塩化ビニル系樹脂の場合は、塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂が好ましい。
前記化粧層73の厚みは特に限定されないが、例えば、0.5μm?1mmであり、好ましくは0.01mm?0.8mmである。特に、転写層や意匠印刷層からなる化粧層73の厚みは、0.5μm?0.5mmである。
【0061】
<保護層>
保護層72は、床材1に付着した汚れを容易に除去できるようにするために設けられた層である。すなわち、保護層72は、床材1に汚れ除去性を付与する。保護層72は、必要に応じて設けられる。保護層72は、透明又は不透明でもよいが、保護層72の下側に設けられた化粧層73のデザインを視認できるようにするため(化粧層73が設けられていない場合には、上側樹脂層2の着色を視認できるようにするため)、透明であることが好ましい。
保護層72は、樹脂材料で形成される。その樹脂材料としては、上記<上側樹脂層及び下側樹脂層>の欄で例示したようなものが挙げられ、化粧層73又は上側樹脂層2と強固に接合することから、塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂が好ましい。
保護層72の厚みは、特に限定されず、例えば、0.03mm?1mmである。
【0062】
<傷付き防止層>
傷付き防止層71は、保護層72と共に床材1に汚れ除去性を付与し、さらに、床材1の上面に耐摩耗性や耐傷付き性を付与するために設けられる層である。傷付き防止層71は、必要に応じて設けられる。傷付き防止層71は、透明又は不透明でもよいが、保護層72と同様の理由から、透明であることが好ましい。
傷付き防止層71を形成する樹脂材料は、特に限定されないが、比較的硬い樹脂層から形成されていることが好ましい。傷付き防止層71の樹脂材料としては、加工性の良さから硬化性樹脂を用いることが好ましく、さらに、保護層72に熱損傷を与え難いことから、電離放射線硬化性樹脂を用いることがより好ましく、汎用的であることから、紫外線硬化性樹脂を用いることがさらに好ましい。前記硬化性樹脂としては、紫外線硬化性樹脂などの電離放射線硬化性樹脂以外に、熱硬化性樹脂、非電離放射線により硬化する樹脂などが挙げられる。
【0063】
具体的には、傷付き防止層71は、硬化性モノマー及びオリゴマーの少なくともいずれか一方が重合した硬化性樹脂を含み、必要に応じて、その他の成分を含んで形成されている。
電離放射線硬化性樹脂を構成する、電離放射線により硬化する硬化性モノマー又はオリゴマーとしては、通常、紫外線又は電子線で硬化する硬化性モノマー又はオリゴマーが挙げられる。以下、電離放射線により硬化する硬化性モノマー又はオリゴマーを、電離放射線硬化性モノマー又はオリゴマーという。
前記電離放射線硬化性モノマー又はオリゴマーとしては、分子中に(メタ)アクリレート基、(メタ)アクリロイルオキシ基などの重合性不飽和結合基又はエポキシ基などを有するモノマー又はオリゴマーが挙げられる。
【0064】
前記電離放射線硬化性モノマーの具体例としては、α-メチルスチレンなどのスチレン系モノマー、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、分子中に2個以上のチオール基を有するポリオール化合物などが挙げられる。前記電離放射線硬化性オリゴマーの具体例としては、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートなどのアクリレート、不飽和ポリエステル、エポキシなどが挙げられる。これらの硬化性モノマー又はオリゴマーは、1種単独で又は2種以上を併用できる。
これらの中では、電離放射線硬化性モノマー又はオリゴマーとして、分子中に(メタ)アクリレート基を有するモノマー又はオリゴマーを用いることが好ましく、さらに、ウレタン(メタ)アクリレートを用いることがより好ましい。
前記硬化性モノマー又はオリゴマーの分子量は、特に限定されないが、例えば、200?10000などが挙げられる。
【0065】
電離放射線硬化性モノマー又はオリゴマーには、通常、光重合開始剤が添加される。前記光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、キサントン、3-メチルアセトフェノン、4-クロロベンゾフェノン、4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンジルジメチルケタール、N,N,N’,N’-テトラメチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、その他のチオキサント系化合物などが挙げられる。
また、傷付き防止層71には、樹脂成分以外の成分が含まれていてもよく、その成分としては、例えば、溶剤、レベリング剤、微粒子、充填剤、分散剤、可塑剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、酸化防止剤、チクソトロピー化剤、防黴剤などが挙げられる。
傷付き防止層71の厚みは、特に限定されないが、例えば、1μm?100μmであり、好ましくは5μm?70μmであり、より好ましくは10μm?50μmである。
【0066】
<基材層>
基材層74は、床材1の最も下側に位置する層であって、敷設時の床材を床面に接着させる接着剤(以下、床面接着剤という)との接着強度を高め、床材1の反りなどを抑制することを目的とした層である。従って、床材1を敷設した際には、主として基材層74の下面が床面に接することになる。ただし、基材層74の下面にバッキング層75などの他の層を積層することもでき、そのような層構成の床材1の最下面は、基材層74で構成されない。基材層74は、必要に応じて設けられる。
前記基材層74としては、特に限定されないが、例えば、不織布、織布、紙、フェルトなどの従来公知のシート材を用いることができる。不織布や織布を構成する繊維の材質は、特に限定されず、例えば、ポリエステル、ポリオレフィンなどの合成樹脂繊維;ガラス、カーボンなどの無機繊維;天然繊維などが挙げられる。基材層74が設けられていることにより、床材1の敷設時に、床面接着剤が基材層74に十分に含浸し、アンカー効果によって床材1が床面に強固に固定される。また、基材層74を最も下側に配置することにより、基材層74の繊維の少なくとも一部が床材1の最下面から露出するようになるので、前記床面接着剤が繊維に絡み、床材1が床面により強固に固定される。
【0067】
前記織布は、特に限定されないが、寸法安定性などの各種物性の観点から、寒冷紗が好ましく、さらに、ポリエステル繊維の平織り織布がより好ましい。前記寒冷紗は、ポリエステル繊維などの繊維からなる織布である。織布は繊維を織り込んで布状にしているので、不織布より縦横方向に伸びにくく、床材1の伸びを効果的に抑制できる。それ故、基材層74が織布で構成されていることにより、全体の剛性を上げることなく、反りの小さい床材1を得ることができる。
前記不織布としては、スパンボンド不織布、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布などが挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を併用できる。中でも、薄くて強いことから、スパンボンド不織布が好ましく、さらに、ポリプロピレンスパンボンド不織布がより好ましい。
前記基材層74の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.1mm?0.5mmであり、好ましくは0.2mm?0.4mmである。また、基材層74の目付量は、特に限定されず、例えば、30g/m^(2)?50g/m^(2)である。基材層74の厚み又は目付量が小さすぎると、床材1の反りを十分に抑制できないおそれがあり、一方、大きすぎると、基材層74に下側樹脂層3の樹脂材料が十分に含浸しないおそれがある。
【0068】
[床材の製造方法]
次に、本発明の床材の製造方法について説明する。
ただし、本発明の床材1は、次の製造方法によって製造されたものに限定されず、他の製造方法で製造することもできる。
【0069】
本発明の床材の製造方法は、樹脂付きガラスシートを準備する工程、前記樹脂付きガラスシートの上面に上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に下側樹脂層を積層し、加熱加圧して上側樹脂層、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層を一体化する工程、を有し、必要に応じて、他の工程を有していてもよい。
上側樹脂層、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層の積層及び一体化は、同時に行ってもよく、順次行ってもよい。前記積層及び一体化は、例えば、下記(1)乃至(3)のような手順が挙げられる。
(1)上側樹脂層、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層の積層を含む積層体を、加熱加圧して一体化する。
(2)上側樹脂層及び樹脂付きガラスシートの積層を含む第1積層体を加熱加圧して一体化し、さらに、その第1積層体と下側樹脂層の積層を含む第2積層体を加熱加圧して一体化する。
(3)下側樹脂層及び樹脂付きガラスシートの積層を含む第1積層体を加熱加圧して一体化し、さらに、その第1積層体と上側樹脂層の積層を含む第2積層体を加熱加圧して一体化する。
【0070】
なお、具体的な実施形態では、上側樹脂層、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層以外に保護層や基材層などが積層されるが、これら保護層などの積層は、前記(1)乃至(3)のような上側樹脂層、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層の積層及び一体化を行う際に同時に行ってもよく、又は、前記(1)乃至(3)のような上側樹脂層、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層の積層及び一体化を行う前に、若しくは、その後に適宜行ってもよい。
【0071】
これら各工程を1つの製造ラインで一連に行ってもよいし、或いは、前記各工程から選ばれる1つ又は2つ以上の工程を、1つのラインで行い、且つ残る工程を他の1つ又は2つ以上のラインで行ってもよい。また、前記各工程の全てを一の実施者が行ってもよいし、或いは、前記各工程から選ばれる1つ又は2つ以上の工程を一の実施者が行い、且つ残る工程を他の実施者が行ってもよい。
以下、図14及び図15を適宜参考しつつ具体的に説明する。
【0072】
図14は、第1実施形態に係る製造方法の各工程を模式的に表した概略側面図であって、上側樹脂層、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層の積層及び一体化を同時に行う実施形態である。
図15は、第2実施形態に係る製造方法の各工程を模式的に表した概略側面図であり、まず、上側樹脂層及び樹脂付きガラスシートの積層を含む第1積層体を加熱加圧して一体化し、次に、その第1積層体と下側樹脂層の積層を含む第2積層体を加熱加圧して一体化する実施形態である。
各図示例の製造方法に用いられる製造ラインは、樹脂付きガラスシートの準備工程から長尺帯状の床材の製造までを一連に行う場合である。
【0073】
<各層の準備工程>
ガラスシート4Mに接合樹脂5Mを付着させることにより、樹脂付きガラスシート6Mを準備する。
ガラスシート4Mは、上記[床材の積層構造]及び<ガラスシート>の欄で述べたようなガラス不織布又はガラス織布(好ましくはガラス不織布)が用いられる。
ガラスシート4Mに対する接合樹脂5Mの付着方法は、特に限定されず、ロールコーターやナイフコーターなどの各種コーターを用いてガラスシートに接合樹脂を塗工する塗工法、接合樹脂を満たした樹脂槽にガラスシートを通す浸漬法、前記塗工法及び浸漬法の併用などが挙げられる。
図4及び図5に示すような2種類以上の接合樹脂5a,5bがガラスシート4Mに付着された樹脂付きガラスシート6Mを準備する場合には、第2接合樹脂5bをガラスシート4Mに付着させた後、それに第1接合樹脂5aをさらに付着させる。
【0074】
図14及び図15では、ナイフコーターを用いた塗工法を例示している。図14及び図15において、所定幅に形成された長尺帯状のガラスシート4Mを、長さ方向に搬送する。その搬送途中に配置されたナイフコーター81によって、接合樹脂5Mがガラスシート4Mの上面に塗工される。ガラスシート4Mの上面に塗工された接合樹脂5Mは、ガラス繊維の表面を伝わり及びガラスシート4Mの開口を通って移行し、ガラスシート4Mの下面側にも移行して付着する。
接合樹脂5Mの粘度、ナイフコーター81とガラスシート4Mの上面との間隔などを適宜調整することにより、ガラスシート4Mに対する接合樹脂5Mの付着量及び塗工厚みを所望の範囲にすることができる。
【0075】
なお、上記では、接合樹脂5Mをガラスシート4Mに付着させる方法として、ナイフコーター81のみを用いているが、例えば、先ずロールコーターを用いて接合樹脂を塗工した後、ナイフコーターを用いて重ね塗工してもよい(図示せず)。この場合、同じ接合樹脂を重ね塗工してもよく、或いは、第2接合樹脂5bをロールコーターで塗工した後、ナイフコーターを用いて第1接合樹脂5aを重ね塗工してもよい。
接合樹脂5Mの付着量は、320g/m^(2)以上であり、好ましくは、350g/m^(2)以上であり、より好ましくは、400g/m^(2)以上であり、さらに好ましくは450g/m^(2)以上である。また、接合樹脂5Mの目付量の上限は、特に限定されないが、例えば、630g/m^(2)以下であり、好ましくは、600g/m^(2)以下であり、より好ましくは、550g/m^(2)以下である。
【0076】
接合樹脂5Mは、特に限定されないが、塩化ビニル系樹脂、特に、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂材料が好ましい。ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分とする接合樹脂5Mの粘度は、例えば、100mPa・s?30,000mPa・sであり、好ましくは500mPa・s?15,000mPa・sであり、より好ましくは1,000mPa・s?5,000mPa・sである。このような粘度のペースト塩化ビニル系樹脂を用いることにより、ガラスシート4Mに良好に付着させることができる。なお、本明細書において、粘度は、20℃での粘度であって、BM型粘度計を用いて、60rpmにて測定した値である。
2種類以上の接合樹脂をガラスシートに付着させる場合には、第1接合樹脂5aとしては、低粘度から高粘度のペースト塩化ビニル系樹脂を用いることができ、例えば、粘度100mPa・s?50000mPa・s、好ましくは300mPa・s?30000mPa・sの塩化ビニル系樹脂を用いることができる。第2接合樹脂5bとしては、低粘度のペースト塩化ビニル系樹脂を用いることができ、例えば、粘度100mPa・s?3000mPa・s、好ましくは300mPa・s?1500mPa・sの塩化ビニル系樹脂を用いることができる。
【0077】
前記ペースト塩化ビニル系樹脂は、可塑剤を含み、必要に応じて充填剤をさらに含む。具体的には、前記ペースト塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、可塑剤を50?100質量部及び必要に応じて充填剤を0を超え300質量部以下含むものが好ましく、さらに、前記可塑剤及び充填剤に加えて、可塑剤以外の添加剤を1質量部?10質量部含むものがより好ましい。
2種類以上の接合樹脂をガラスシートに付着させる場合には、第1接合樹脂5aは、例えば、ペースト塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、可塑剤を50?100質量部及び充填剤を0?400質量部含むものが用いられ、第2接合樹脂5bは、例えば、ペースト塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、可塑剤を50?100質量部及び充填剤を0?100質量部含むものが用いられる。好ましくは、第1接合樹脂5aは、第2接合樹脂5bよりも充填剤の量が多い塩化ビニル系樹脂である。なお、第1接合樹脂5a及び第2接合樹脂5bにおいて、充填剤の量が0質量%は、充填剤を含まない場合である。
前記可塑剤は、特に限定されず、例えば、フタル酸ジオクチル(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、ブチルオクチルフタレート(BOP)などが挙げられる。前記充填剤は、特に限定されず、例えば、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、炭酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、クレー、タルク、マイカなどが挙げられる。
【0078】
ガラスシート4Mに付着させた接合樹脂5Mの流動性が高く、垂れなどを生じる場合には、ヒーターやオーブンなどの加熱手段(図示せず)を用いて接合樹脂5Mを強制的に乾燥することが好ましい。前記乾燥により、ガラスシート4Mに付着した接合樹脂5Mが垂れることなく、樹脂付きガラスシート6Mを得ることができる。得られた樹脂付きガラスシート6Mは、ほとんど開口を有さず、その通気度は、0?10cc/cm^(2)・secであり、好ましくは0?5cc/cm^(2)・secであり、より好ましくは0?3cc/cm^(2)・secである。
【0079】
また、接合樹脂5Mをガラスシート4Mに付着させるにあたって、ガラスシート4Mの上側の接合樹脂の厚み(つまり、上接合樹脂層の厚み)と、ガラスシート4Mの下側の接合樹脂の厚み(つまり、下接合樹脂層の厚み)と、を適宜調整することによって、床材1の厚みの略中間部にガラスシート4を配置させることが可能となる。これらの厚みの調整は、上側樹脂層、下側樹脂層及びその他の層の厚みを考慮して行うことができる。例えば、上側樹脂層の厚みが下側樹脂層の厚みよりも小さい場合には、上接合樹脂層の厚みが下接合樹脂層の厚みよりも大きく調整した樹脂付きガラスシートを準備することにより、反りの小さい床材を製造できる。
上側樹脂層は、表面エンボスの付与や耐久性などの要因によって、厚みの設定幅が制約されることが多い。さらに、上側樹脂層の上方に積層される、化粧層、保護層、傷付き防止層などの各層も、それらの機能を発揮させるためにその層みの設定幅が制約されることが多い。それ故、床材のうち、上側樹脂層以上の厚みは現実的にはある程度定まっており、設定幅が小さい。このような場合であっても、本発明によれば、樹脂付きガラスシートの上接合樹脂層などの厚みを調整するだけで、ガラスシートを床材の厚みの略中間部に配置でき、反りの小さい床材を得ることができる。
【0080】
また、別途、保護層72M、化粧層73M、上側樹脂層2M、下側樹脂層3M及び基材層74Mを準備する。これらの層72M,73M,2M,3M,74Mは、所定幅の長尺帯状であり、好ましくは、ガラスシート4Mとほぼ同じ幅の長尺帯状のものを準備する。なお、意匠性を有する上側樹脂層を用いる場合には、化粧層73Mは省略される。
上側樹脂層2M及び下側樹脂層3Mのうち少なくとも一方は、サスペンション塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂で形成され、好ましくは、双方がサスペンション塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂で形成される。
これらの層72M,73M,2M,3Mの形成方法は、特に限定されず、それらを形成する材料に応じて適宜選択でき、例えば、カレンダー法、溶融押出法、溶液流延法などが挙げられる。
【0081】
図14では、保護層72M、意匠性を有する上側樹脂層2M、下側樹脂層3M及び基材層74Mを別々に準備し、後述する積層工程でそれらを積層及び一体化する場合を示している。
図15では、保護層72M、化粧層73M、上側樹脂層2M、下側樹脂層3M及び基材層74Mを別々に準備し、後述する積層工程で順次それらを積層及び一体化する場合を示している。
なお、図14において、意匠性を有する上側樹脂層に代えて、化粧層と上側樹脂層を準備してもよい。また、図15において、化粧層73Mと上側樹脂層2Mに代えて、意匠性を有する上側樹脂層を準備してもよい。この場合、化粧層73Mの積層は必要に応じて省略される。
また、上述のように、上側樹脂層、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層以外の層の積層は、後述する積層工程で行う場合に限られず、任意の時期に行うことができる。
例えば、準備工程で、下側樹脂層3Mの下面に基材層74Mを設けておき、この基材層付きの下側樹脂層3Mを、後述する積層工程で樹脂付きガラスシート6Mに積層してもよい。或いは、上側樹脂層2M及び化粧層73Mの積層物の上面又は意匠性を有する上側樹脂層の上面に保護層72Mを設けておき、この保護層付き上側樹脂層2Mを、後述する積層工程で樹脂付きガラスシート6Mに積層してもよい。その他、任意の2つ以上の層を予め積層して一体化しておき、後述する積層工程を行ってもよい。
【0082】
<積層工程>
図14に示すように、樹脂付きガラスシート6Mの上面に、意匠性を有する上側樹脂層2Mを積層し且つ前記樹脂付きガラスシート6Mの下面に、下側樹脂層3Mを積層し、さらに、上側樹脂層2Mの上面に保護層72Mを積層し且つ下側樹脂層3Mの下面に基材層74Mを積層しつつ一対のロール84,85間に通して加熱加圧することにより、各層72M,2M,6M,3M,74Mを一体化する。
図15に示すように、樹脂付きガラスシート6Mの上面に、上側樹脂層2Mを積層し且つ上側樹脂層2Mの上面に化粧層73M及び保護層72Mを積層しつつ、一対のロール841,851間に通して加熱加圧することにより、各層72M,73M、2M,6Mを一体化して第1積層体を形成した後、その第1積層体の下面(樹脂付きガラスシート6Mの下面)に、下側樹脂層3Mを積層し且つ下側樹脂層3Mの下面に基材層74Mを積層しつつ一対のロール842,852間に通して加熱加圧することにより、各層72M,73M,2M,6M,3M,74Mを一体化する。
【0083】
具体的には、図14の場合、上側から順に、保護層72M、意匠性を有する化粧層73M、上側樹脂層2M、樹脂付きガラスシート6M、下側樹脂層3M及び基材層74Mが重なった積層体を、一対の加熱ロール84,85(又は、加熱ロール84と樹脂ロール85)の間に通すことにより、積層体が加熱加圧され、各層72M,2M,6M,3M,74Mが接合する。
図15の場合、上側から順に、保護層72M、化粧層73M、上側樹脂層2M、樹脂付きガラスシート6Mが重なった第1積層体を、一対の加熱ロール841,851(又は、加熱ロール841と樹脂ロール851)の間に通すことにより、第1積層体が加熱加圧され、各層72M,73M,2M,6Mが接合する。次に、上側から順に、前記第1積層体、下側樹脂層3M及び基材層74Mが重なった第2積層体を、一対の加熱ロール842,852(又は、加熱ロール842と樹脂ロール852)の間に通すことにより、第2積層体が加熱加圧され、各層72M,73M,2M,6M,3M,74Mが接合する。
なお、上述のように、例えば、準備工程で、任意の2層以上が積層されたものを準備している場合には、図14及び図15において、その2層以上の積層物が用いられる。
【0084】
加熱加圧による各層の接合方法は、例えば、ラミネート加工法、カレンダー成形法、連続プレス法などが挙げられる。中でも、ラミネート加工法、カレンダー成形法のようなロールによる加熱加圧によって積層体を連続的に接合する方法は、一度に多くの製品を製造することができるので好ましい。特に、ラミネート加工法は、多くの積層体を一度に接合できるので、本発明において最も好適に適用することができる。ラミネート加工法の加熱温度及び圧力は、公知の加工法に準じて適宜設定される。例えば、積層体の加熱温度は、140℃?200℃であり、ロール間の圧力は、20kgf/cm^(2)?100kgf/cm^(2)である。
図14及び図15に示す各層のうち適宜な層の積層を省略、又は、適宜な層を追加することにより、上記第2乃至第5実施形態に示す床材を得ることができる。
【0085】
<エンボス工程>
エンボス工程は、前記積層体の上面又は下面に凹凸を形成するために、必要に応じて行われる。前記ロール84,85,841,851,842,852間を通過して各層が一体化された積層体1Mをエンボスロール86と受けロール87間に通すことにより、積層体1Mに凹凸を形成する。本発明によれば、エンボス加工に優れ、床材上面に良好なエンボス形状を形成できる。
【0086】
<傷付き防止層の形成工程>
この工程は、保護層72Mの上面に傷付き防止層を形成するために、必要に応じて行われる。
前記積層体1Mの上面に、ロールコーター88などを用いて、例えば、電離放射線硬化性モノマー又はオリゴマー(傷付き防止層の形成材料71M)を塗工し、電離放射線照射装置89を用いて、電離放射線を当てることにより、最上面に傷付き防止層が形成された床材1が得られる。
得られた長尺帯状の床材1は、必要に応じてロールに巻き取られ、保管・運搬に供される。また、本発明の床材1を枚葉状のタイルとする場合には、前記長尺帯状の床材を、打ち抜き、カットなどを行うことによって、適切な大きさに切断して、重ねて保管・運搬に供される。
【0087】
一般に、ガラスシートと樹脂層は接合し難い。特に、樹脂層が塩化ビニル系樹脂からなる場合、ガラスシートに対する接合性を高めることが難しく、とりわけ、サスペンション塩化ビニル系樹脂は、ガラスシートの繊維間内部に浸透し難いので接合性が低い。この点、樹脂層とガラスシートを接合する際の加工温度を高める方法も考えられるが、樹脂層の劣化を招いたり、熱が均一に加わらないと局所的に樹脂が伸びて意匠性を損ねたりするので好ましくない。従来、サスペンション塩化ビニル系樹脂を用いた床材は、ガラスシートの上下面にそれぞれサスペンション塩化ビニル系樹脂層を積層し、その積層体を加熱してロール間に通して加圧し、各層を一体化する、いわゆるラミネート加工によって得ることができる。しかし、加工時の積層体の加熱温度とロール間の圧力を過不足なく調整することが難しい。加熱温度が低すぎるか圧力が弱すぎる場合、樹脂層とガラスシートの層間で剥離が生じ易くなる。一方、加熱温度が高すぎるか圧力が強すぎる場合、各層の樹脂が劣化したりガラスシートが破断し易くなる。このような加工時の調整を誤ると、製造効率や製品品質が低下するといった課題が生じる。
【0088】
本発明の製造方法によれば、予め所定の目付量の接合樹脂5Mが付着された樹脂付きガラスシート6Mに上側樹脂層2M及び下側樹脂層3Mを積層するので、上側樹脂層2M及び下側樹脂層3Mが、接合樹脂5Mに接合し、その接合樹脂5Mを介してガラスシート4Mに容易に接合するようになる。本発明の製造方法で得られた床材は、層間強度に優れている。
特に、上側樹脂層2M及び下側樹脂層3Mの少なくとも一方をサスペンション塩化ビニル系樹脂で構成することにより、十分な機械的強度を有しつつ比較的厚みの小さい床材1を構成できる。また、ペースト塩化ビニル系樹脂は、サスペンション塩化ビニル系樹脂との相溶性に優れているので、接合樹脂5Mをペースト塩化ビニル系樹脂で且つ上側樹脂層2M及び下側樹脂層3Mをサスペンション塩化ビニル系樹脂で構成することにより、層間剥離し難く、機械的強度に優れ、比較的厚みの小さい床材1を得ることも可能となる。
さらに、接合樹脂として第1接合樹脂5aと第2接合樹脂5bを用いることにより、接合樹脂の目付量を小さくしても層間強度に優れた床材を得ることができる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を更に詳述する。但し、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0090】
[使用材料]
・第1のガラス不織布(オリベスト株式会社製の商品名「グラベスト」)。不織布の幅:193cm、長さ:3000m、厚み:0.25mm。ガラス繊維とパルプの混繊不織布。ガラス繊維の太さ:直径約18μm、ガラス繊維の長さ:約13mm、ガラス繊維の目付量:25.1g/m^(2)。パルプの太さ:10μm?30μm、パルプの目付量:6.4g/m^(2)。ガラス繊維、パルプ及びそれらをバインドするバインダーを含んだ不織布全体における目付量:37.0g/m^(2)。この第1のガラス不織布の通気度は、295cc/cm^(2)・secであった。
【0091】
・第2のガラス不織布(オリベスト株式会社製の商品名「グラベスト」)。不織布の幅:193cm、長さ:3000m、厚み:0.25mm。ガラス繊維とパルプの混繊不織布。ガラス繊維の太さ:直径約18μm、ガラス繊維の長さ:約13mm、ガラス繊維の目付量:31.5g/m^(2)。パルプの太さ:10μm?30μm、パルプの目付量:5.5g/m^(2)。ガラス繊維、パルプ及びそれらをバインドするバインダーを含んだ不織布全体における目付量:45.0g/m^(2)。この第2のガラス不織布の通気度は、199cc/cm^(2)・secであった。
【0092】
・ペースト塩化ビニル系樹脂
株式会社カネカ製の商品名「カネビニール」。重合度:1150、K値:69。
・サスペンション塩化ビニル系樹脂
株式会社カネカ製の商品名「カネビニール」。重合度:1050、K値:67。
【0093】
[実施例1]
上記ペースト塩化ビニル系樹脂100質量部に、可塑剤としてフタル酸ジオクチルを73質量部、充填剤として炭酸カルシウムを150質量部混合することにより、ペースト塩化ビニル系樹脂の粘度を2000mPa・sに調整した。この樹脂を第1接合樹脂として用いた。なお、前記粘度は、BM型粘度計(東機産業株式会社製の商品名「BII形粘度計-BMII」)を用いて、20℃、60rpmにて測定した。
上記第1のガラス不織布の上面に、汎用的なロールコーターを用いて、第1接合樹脂の目付量が約350g/m^(2)となるように、第1接合樹脂を塗工することにより、樹脂付きガラスシートを作製した。
この樹脂付きガラスシートの通気度は、0cc/cm^(2)・secであった。
なお、第1のガラス不織布及び樹脂付きガラスシートの各通気度の測定は、上記記載の通りで行った。
【0094】
別途、上記サスペンション塩化ビニル系樹脂を、汎用的なカレンダー成形機を用いてカレンダー成形することにより、幅:193cm、長さ:3000m、厚み:0.5mmの樹脂層を作製し、これを上側樹脂層とした。この上側樹脂層の上面に、公知の印刷法にて公知のインキを用いて、厚み約1μmの意匠印刷層を形成した。
同様に、上記サスペンション塩化ビニル系樹脂を押出し加工することにより、幅:193cm、長さ:3000m、厚み:1.45mmの樹脂層を作製し、これを下側樹脂層とした。
【0095】
上側から順に、上記意匠印刷層を備えた上側樹脂層、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層を重ね合わせ、その積層体をプレヒーターで150℃に加熱した状態で、その積層体を各50℃の上下のラミネートロール間に通すことにより、厚み約2.3mmの長尺帯状の床材を作製した。なお、積層体の搬送速度は、約10m/分とし、積層体に加わる圧力は、40kgf/cm^(2)とした。
得られた床材を切断し、その切断面を50倍に拡大して観察したところ、第1接合樹脂の中に第1のガラス不織布が埋没しており、図3に示すような構造であった。さらに、第1のガラス不織布の上面から接合樹脂層の上面までの厚み(上接合樹脂層の厚み)、ガラス不織布の厚み、上側樹脂層の厚み及び下側樹脂層の厚み(各厚みの単位はmm)を測定した。その結果を、表1に示す。
【0096】
[実施例2]
実施例1と同様にして、第1接合樹脂を調製した。
上記ペースト塩化ビニル系樹脂100質量部に、可塑剤としてフタル酸ジオクチルを99質量部、充填剤として炭酸カルシウムを1質量部混合することにより、ペースト塩化ビニル系樹脂の粘度を1000mPa・sに調整した。この充填剤を含まない樹脂を第2接合樹脂として用いた。
上記第1のガラス不織布の上面に、汎用的なロールコーターを用いて、第2接合樹脂の目付量が約50g/m^(2)となるように、第2接合樹脂を塗工した後、さらに、この上面側に、汎用的なナイフコーターを用いて、第1接合樹脂の目付量が約300g/m^(2)となるように、第1接合樹脂を塗工することにより、樹脂付きガラスシートを作製した。
この樹脂付きガラスシートの通気度は、0cc/cm^(2)・secであった。以下、実施例3乃至実施例9においても、樹脂付きガラスシートの通気度は、0cc/cm^(2)・secであった。
【0097】
事後、実施例1と同様にして、意匠印刷層を有する厚み0.5mmの上側樹脂層と厚み1.45mmの下側樹脂層を樹脂付きガラスシートに積層し、加熱加圧することにより、厚み約2.3mmの長尺帯状の床材を作製した。なお、実施例3乃至9及び比較例1乃至4の床材の厚みも全て2.3mmであった。
得られた床材を切断し、その切断面を50倍に拡大して観察したところ、第2樹脂層がガラス繊維の表面に付着し、第1接合樹脂が第1のガラス不織布の上側から略中間部にまで存在し、第1のガラス不織布の下面が第2接合樹脂で覆われていた。すなわち、実施例2は、図5に示すような構造であった。
実施例1と同様に、上接合樹脂層の厚み、ガラス不織布の厚み、上側樹脂層の厚み及び下側樹脂層の厚みを測定した。その結果を、表1に示す。
なお、ガラス不織布の下側にも接合樹脂が層を成して存在していたが、その厚みは、約数十μmであった。以下、実施例3乃至実施例9においても、ガラス不織布の下側に接合樹脂が厚み数十μmで存在していた。
【0098】
[実施例3]
樹脂付きガラスシートを作製時に、第1接合樹脂の目付量を500g/m^(2)となるように変更したこと及び下側樹脂層の厚みを1.3mmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして床材を作製した。
得られた床材は、図3に示すような構造であった。上接合樹脂層の厚み、ガラス不織布の厚み、上側樹脂層の厚み及び下側樹脂層の厚みの結果を、表1に示す。
【0099】
[実施例4]
樹脂付きガラスシートを作製時に、第1接合樹脂の目付量を500g/m^(2)となるように変更したこと及び下側樹脂層の厚みを1.25mmに変更したこと以外は、実施例2と同様にして床材を作製した。
得られた床材を切断して観察したところ、第2樹脂層がガラス繊維の表面に付着し、第1接合樹脂がガラス不織布の上側から下側にまで存在していた。すなわち、実施例4は、図4に示すような構造であった。上接合樹脂層の厚み、ガラス不織布の厚み、上側樹脂層の厚み及び下側樹脂層の厚みの結果を、表1に示す。
【0100】
[実施例5]
第1のガラス不織布に代えて、第2の不織布を用いたこと以外は、実施例3と同様にして床材を作製した。
得られた床材は、図3に示すような構造であった。上接合樹脂層の厚み、ガラス不織布の厚み、上側樹脂層の厚み及び下側樹脂層の厚みの結果を、表1に示す。
【0101】
[実施例6]
樹脂付きガラスシートを作製時に、第1接合樹脂の目付量を600g/m^(2)となるように変更したこと及び下側樹脂層の厚みを1.2mmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして床材を作製した。
得られた床材は、実施例1と同様に、図3に示すような構造であった。上接合樹脂層の厚み、ガラス不織布の厚み、上側樹脂層の厚み及び下側樹脂層の厚みの結果を、表1に示す。
【0102】
[実施例7]
樹脂付きガラスシートを作製時に、第1接合樹脂の目付量を650g/m^(2)となるように変更したこと及び下側樹脂層の厚みを1.15mmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして床材を作製した。
得られた床材は、図3に示すような構造であった。上接合樹脂層の厚み、ガラス不織布の厚み、上側樹脂層の厚み及び下側樹脂層の厚みの結果を、表1に示す。
【0103】
[実施例8]
樹脂付きガラスシートを作製時に、第1接合樹脂の目付量を950g/m^(2)となるように変更したこと及び下側樹脂層の厚みを1.0mmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして床材を作製した。
得られた床材は、図3に示すような構造であった。上接合樹脂層の厚み、ガラス不織布の厚み、上側樹脂層の厚み及び下側樹脂層の厚みの結果を、表1に示す。
【0104】
[実施例9]
樹脂付きガラスシートを作製時に、第1接合樹脂の目付量を1100g/m^(2)となるように変更したこと及び下側樹脂層の厚みを0.8mmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして床材を作製した。
得られた床材は、図3に示すような構造であった。上接合樹脂層の厚み、ガラス不織布の厚み、上側樹脂層の厚み及び下側樹脂層の厚みの結果を、表1に示す。
【0105】
[比較例1]
ガラス不織布に接合樹脂を付着させなかったこと、つまり、第1のガラス不織布そのものを用いたこと及び下側樹脂層の厚みを1.7mmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして床材を作製した。
得られた床材を切断して観察したところ、ガラス不織布が圧縮されていた。その切断面からガラス不織布の厚み、上側樹脂層の厚み及び下側樹脂層の厚みを測定した。その結果を、表1に示す。
【0106】
[比較例2]
樹脂付きガラスシートを作製時に、第1接合樹脂の目付量を250g/m^(2)となるように変更したこと及び下側樹脂層の厚みを1.55mmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして床材を作製した。
得られた床材を切断して観察したところ、第1接合樹脂がガラス不織布の上側から略中間部にまで存在していたが、ガラス不織布の下面においては、ガラス繊維に第1接合樹脂が付着しておらず、下側樹脂層がガラス不織布の下面のガラス繊維に直接接合していた。上接合樹脂層の厚み、ガラス不織布の厚み、上側樹脂層の厚み及び下側樹脂層の厚みの結果を、表1に示す。
【0107】
[比較例3]
樹脂付きガラスシートを作製時に、第1接合樹脂の目付量を300g/m^(2)となるように変更したこと及び下側樹脂層の厚みを1.5mmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして床材を作製した。
得られた床材を切断して観察したところ、比較例2と同様な構造であった。上接合樹脂層の厚み、ガラス不織布の厚み、上側樹脂層の厚み及び下側樹脂層の厚みの結果を、表1に示す。
【0108】
[比較例4]
ガラス不織布に接合樹脂を付着させなかったこと、つまり、第1のガラス不織布そのものを用いたこと、上側樹脂層の厚みを2.2mmに変更したこと、及び下側樹脂層を積層しなかったこと以外は、実施例1と同様にして床材を作製した。
得られた床材を切断して観察したところ、ガラス不織布が圧縮されていた。その切断面からガラス不織布の厚み及び上側樹脂層の厚みを測定した。その結果を、表1に示す。
【0109】
[床材の層間強度試験]
各実施例及び比較例の床材について、上側樹脂層とガラスシートとの間の層間剥離強度を測定したところ、表1に示す通りであった。ただし、実施例8及び9並びに比較例4については、層間強度の結果が予測できるため、実際の測定は行わなかった。
層間剥離強度は、JIS A 1454(高分子系張り床材試験方法)の層間剥離強度試験方法に準じて測定した。
具体的には、床材を、幅50mm、長さ150mmに切り取って測定サンプルを得、このサンプルの端面のうち上側樹脂層とガラスシートの境界にカッターを入れ、サンプルを厚み方向において上下2つに分離し、端面に上片と下片を形成した。このサンプルを、引張試験機にて、上片を引張速度200mm/分で引張って測定した。
【0110】
<加工性>
加工性は、ガラスシートに接合樹脂を塗布して樹脂付きガラスシートを作製する際の作業の容易性を評価した。その結果を、表1に示す。ただし、実施例8及び9については、結果が予測できるため、加工性の評価は行わなかった。
表1の加工性の評価は、次の通りである。
○:製造過程においてロールを用いて樹脂付きガラスシートを円滑に搬送でき、出来上がった樹脂付きガラスシートに皺が生じることがなかった。
△:製造過程においてロールを用いて樹脂付きガラスシートを搬送できたが、出来上がった樹脂付きガラスシートに僅かに皺が生じることがあった。
【0111】
<床材の反り試験>
各実施例及び比較例の床材の反りを測定したところ、表1に示す通りであった。
反りは、JIS A 1454(高分子系張り床材試験方法)の反り試験方法に準じて、5℃下で測定した。
具体的には、床材を、幅303mm、長さ303mmに切り取って測定サンプルを得、そのサンプルを5℃の試験室に12時間以上静置した後、サンプルの端部の4辺のうち反 端部が下側に反った場合をマイナス(mm)で、端部が上側に反った場合をプラス(mm)で表している。床材においては、敷設時の収まりが悪くなるため、特に上側に反ることが好ましくない。
【0112】
【表1】

【0113】
表1の実施例1乃至7と比較例2及び3の対比から、目付量320g/m^(2)以上で接合樹脂を付着させた樹脂付きガラスシートを用いることにより、層間剥離強度に優れた床材が得られ得ることが判る。また、実施例1乃至5と実施例6の対比から、接合樹脂の目付量を630g/m^(2)以下とすることにより、加工性も良好となることが判る。
さらに、実施例1と実施例2の対比、並びに、実施例2と実施例3の対比から、第1接合樹脂と第2接合樹脂を用いることにより、接合樹脂の目付量を小さくしても層間強度に優れた床材が得られることが判る。
また、実施例1乃至8から、床材は、ガラスシートが床材の厚みの略中間部に配置されていることにより、反りが小さくなっていることが判る。
ガラスシートの中間部の位置は、床材の厚み×K倍と特定できるが、前記K倍は、本実施例の床材については、K=(上側樹脂層の厚み+上接合樹脂層の厚み+ガラスシートの厚み×1/2)/床材の厚み、で求められる。
例えば、実施例2においては、ガラスシートの厚みの中間部が、床材の厚み×約0.31倍の箇所に延在され、実施例3においては、ガラスシートの厚みの中間部が、床材の厚み×約0.38倍の箇所に延在され、実施例4においては、ガラスシートの厚みの中間部が、床材の厚み×約0.4倍の箇所に延在されている。このようにガラスシートを床材の厚みの略中間部に配置することにより、反りの小さい床材を得ることができる。
【符号の説明】
【0114】
1 床材
2,2M 上側樹脂層
3,3M 下側樹脂層
4,4M ガラスシート
5,5M 接合樹脂
6,6M 樹脂付きガラスシート
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガラス繊維及び天然繊維を含むガラスシートを準備する工程、
前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂を付着させることにより、前記接合樹脂の目付量が320g/m^(2)以上であり、前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している、樹脂付きガラスシートを準備する工程、
前記樹脂付きガラスシートの上面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層を積層し、加熱加圧して上側樹脂層、ガラスシート及び下側樹脂層を一体化する工程、を有する床材の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂付きガラスシートの接合樹脂の目付量が630g/m^(2)以下であり、
前記樹脂付きガラスシートの通気度が0?10cc/cm^(2)・secである、請求項1に記載の床材の製造方法。
【請求項3】
前記上側樹脂層及び下側樹脂層の双方の塩化ビニル系樹脂が、サスペンション塩化ビニル系樹脂を含む、請求項1または2に記載の床材の製造方法。
【請求項4】
前記ガラスシートが、繊維成分全体を100質量%とした場合に、天然繊維を15質量%?50質量%含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の床材の製造方法。
【請求項5】
塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層と、塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層と、前記上側樹脂層と下側樹脂層の間に積層されたガラスシートであって、複数のガラス繊維及び天然繊維を含むガラスシートと、を有し、
前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂が目付量320g/m^(2)以上で付着されており、
前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成しており、
前記上側樹脂層及び下側樹脂層が、前記接合樹脂を介して接合されている、床材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-25 
出願番号 特願2015-138840(P2015-138840)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (E04F)
P 1 651・ 121- YAA (E04F)
P 1 651・ 537- YAA (E04F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 五十幡 直子  
特許庁審判長 小林 俊久
特許庁審判官 秋田 将行
大塚 裕一
登録日 2018-10-19 
登録番号 特許第6419659号(P6419659)
権利者 東リ株式会社
発明の名称 床材の製造方法及び床材  
代理人 特許業務法人まこと国際特許事務所  
代理人 特許業務法人まこと国際特許事務所  

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