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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A46B
管理番号 1362366
異議申立番号 異議2019-700183  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-03-05 
確定日 2020-04-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6385027号発明「歯ブラシ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6385027号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正後の〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6385027号の請求項1-4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第6385027号の請求項1?4に係る特許についての出願は、2017年9月13日(優先権主張2016年10月28日:日本国)を国際出願日とする出願であって、平成30年8月17日にその特許権の設定登録がなされ、平成30年9月5日に特許掲載公報が発行された。
これに対して、特許異議申立人芝崎公昭より、平成31年3月5日に、本件請求項1?4に係る発明の特許について特許異議の申立てがなされ、令和元年5月22日付で取消理由が通知され(発送日:令和元年5月28日)、これに対し特許権者より令和元年7月26日付で意見書及び訂正請求書が提出され、令和元年8月13日付で訂正請求があった旨が通知され(発送日:令和元年8月19日)、これに対し特許異議申立人より令和元年9月18日付で意見書が提出され、令和元年10月24日付で特許権者に対し審尋が行われ(発送日:令和元年10月30日)、これに対し特許権者より令和元年11月26日付で回答書が提出され、令和元年12月24日付で取消理由(決定の予告)が通知され(発送日:令和2年1月8日)、これに対し特許権者より令和2年2月26日付で意見書及び訂正請求書が提出されたものである。


2.令和2年2月26日付の訂正請求の請求の趣旨及び訂正の内容
本訂正請求書による訂正は、特許第6385027号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?4について訂正することを求めるものであり、その訂正事項1?3は以下のとおりである。

訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、
「先端側に配置され植毛面に毛束が植設されたヘッド部と、
該ヘッド部の後端側に延設されたネック部と、
該ネック部の後端側に延設されたハンドル部とを備え、
前記ヘッド部、前記ネック部、及び前記ハンドル部の材質は、曲げ弾性率(JIS7171)が1000MPa以上2200MPa以下である樹脂であり、
前記ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmであり、
前記ヘッド部の長さは、10?33mmであり、
前記ネック部の長さは、30?70mmであり、
前記ネック部は、前記植毛面と平行、且つ、前記ハンドル部の長さ方向と直交する方向の幅が最小値となる位置から後端側に前記幅が一定または漸次大きくなるように形成され、
前記ネック部の前記幅をWmm、前記植毛面と直交する方向の厚さをDmmとすると、
前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に漸次大きくなる場合は当該最小値となる位置を起点とし、前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に一定の場合は最も先端側の前記最小値の位置を起点とし、前記植毛面と平行に前記後端側に10mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が0.7以上、1.5以下であり、前記植毛面と平行に前記後端側に30mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が1.0を上回り、1.3以下であり、
前記ネック部の最小幅Wが4.5mm以下であり、
前記後端側に10mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、165mm^(4)以上、525mm^(4)以下であり、
前記後端側に30mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、600mm^(4)以上、1500mm^(4)以下であり、
前記起点の位置を基準としたときに、当該基準の位置から後端側に10mm離れた位置における前記撓み係数の変化率が1.0以上、1.3以下であり、
前記起点の位置から後端側に20mm離れた位置を基準としたときに、前記起点の位置から後端側に30mm離れた位置における前記撓み係数の変化率が1.7以上、3.0以下であることを特徴とする歯ブラシ。」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2?4も同様に訂正する。)

訂正事項2
明細書の段落【0006】を、
「【0006】
本発明の第1の態様に従えば、先端側に配置され植毛面に毛束が植設されたヘッド部と、該ヘッド部の後端側に延設されたネック部と、該ネック部の後端側に延設されたハンドル部とを備え、前記ヘッド部、前記ネック部、及び前記ハンドル部の材質は、曲げ弾性率(JIS7171)が1000MPa以上2200MPa以下である樹脂であり、前記ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmであり、前記ヘッド部の長さは、10?33mmであり、前記ネック部の長さは、30?70mmであり、前記ネック部は、前記植毛面と平行、且つ、前記ハンドル部の長さ方向と直交する方向の幅が最小値となる位置から後端側に前記幅が一定または漸次大きくなるように形成され、前記ネック部の前記幅をWmm、前記植毛面と直交する方向の厚さをDmmとすると、前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に漸次大きくなる場合は当該最小値となる位置を起点とし、前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に一定の場合は最も先端側の前記最小値の位置を起点とし、前記植毛面と平行に前記後端側に10mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が0.7以上、1.5以下であり、前記植毛面と平行に前記後端側に30mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が1.0を上回り、1.3以下であり、前記ネック部の最小幅Wが4.5mm以下であり、前記後端側に10mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D3が、165mm^(4)以上、525mm^(4)以下であり、前記後端側に30mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、600mm^(4)以上、1500mm^(4)以下であり、前記起点の位置を基準としたときに、当該基準の位置から後端側に10mm離れた位置における前記撓み係数の変化率が1.0以上、1.3以下であり、前記起点の位置から後端側に20mm離れた位置を基準としたときに、前記起点の位置から後端側に30mm離れた位置における前記撓み係数の変化率が1.7以上、3.0以下であることを特徴とする歯ブラシが提供される。」に訂正する。

訂正事項3
明細書の段落【0056】を、
「【0056】
【表3】
幅×厚み^(3)[W×D^(3)]の変化率

」に訂正する。


3.令和2年2月26日付の訂正請求書による訂正の適否
(1)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.一群の請求項
訂正前の請求項1?4について、請求項2?4はそれぞれ請求項1を引用しており、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?4に対応する訂正後の請求項1?4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。


イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア)訂正事項1
a 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1が「先端側に配置され植毛面に毛束が植設されたヘッド部と、該ヘッド部の後端側に延設されたネック部と、該ネック部の後端側に延設されたハンドル部とを備え、前記ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmであり、前記ネック部は、前記植毛面と平行、且つ、前記ハンドル部の長さ方向と直交する方向の幅が最小値となる位置から後端側に前記幅が一定または漸次大きくなるように形成され、前記ネック部の前記幅をWmm、前記植毛面と直交する方向の厚さをDmmとすると、前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に漸次大きくなる場合は当該最小値となる位置を起点とし、前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に一定の場合は最も先端側の前記最小値の位置を起点とし、前記植毛面と平行に前記後端側に10mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が0.7以上、1.5以下であり、前記植毛面と平行に前記後端側に30mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が1.0を上回り、1.3以下であり、前記後端側に10mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、165mm^(4)以上、625mm^(4)以下であり、前記後端側に30mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、600mm^(4)以上、1500mm^(4)以下であり、」とあったものを、「先端側に配置され植毛面に毛束が植設されたヘッド部と、該ヘッド部の後端側に延設されたネック部と、該ネック部の後端側に延設されたハンドル部とを備え、前記ヘッド部、前記ネック部、及び前記ハンドル部の材質は、曲げ弾性率(JIS7171)が1000MPa以上2200MPa以下である樹脂であり、前記ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmであり、前記ヘッド部の長さは、10?33mmであり、前記ネック部の長さは、30?70mmであり、前記ネック部は、前記植毛面と平行、且つ、前記ハンドル部の長さ方向と直交する方向の幅が最小値となる位置から後端側に前記幅が一定または漸次大きくなるように形成され、前記ネック部の前記幅をWmm、前記植毛面と直交する方向の厚さをDmmとすると、前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に漸次大きくなる場合は当該最小値となる位置を起点とし、前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に一定の場合は最も先端側の前記最小値の位置を起点とし、前記植毛面と平行に前記後端側に10mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が0.7以上、1.5以下であり、前記植毛面と平行に前記後端側に30mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が1.0を上回り、1.3以下であり、前記ネック部の最小幅Wが4.5mm以下であり、前記後端側に10mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、165mm^(4)以上、525mm^(4)以下であり、前記後端側に30mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、600mm^(4)以上、1500mm^(4)以下であり、」と訂正するもので、ヘッド部、ネック部、及びハンドル部に関して、「前記ヘッド部、前記ネック部、及び前記ハンドル部の材質は、曲げ弾性率(JIS7171)が1000MPa以上2200MPa以下である樹脂であり」と材質を具体的に限定するものであり、またヘッド部に関して、「前記ヘッド部の長さは、10?33mmであり」と長さを具体的に限定するものであり、またネック部に関して、「前記ネック部の長さは、30?70mmであり」、及び「前記ネック部の最小幅Wが4.5mm以下であり」と長さ及び最小幅を具体的に限定するものであり、また後端側に10mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)に関して、その上限を減縮したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、訂正前の請求項1が「先端側に配置され植毛面に毛束が植設されたヘッド部と、該ヘッド部の後端側に延設されたネック部と、該ネック部の後端側に延設されたハンドル部とを備え、前記ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmであり、前記ネック部は、前記植毛面と平行、且つ、前記ハンドル部の長さ方向と直交する方向の幅が最小値となる位置から後端側に前記幅が一定または漸次大きくなるように形成され、前記ネック部の前記幅をWmm、前記植毛面と直交する方向の厚さをDmmとすると、前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に漸次大きくなる場合は当該最小値となる位置を起点とし、前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に一定の場合は最も先端側の前記最小値の位置を起点とし、前記植毛面と平行に前記後端側に10mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が0.7以上、1.5以下であり、前記植毛面と平行に前記後端側に30mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が1.0を上回り、1.3以下であり、前記後端側に10mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、165mm^(4)以上、625mm^(4)以下であり、前記後端側に30mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、600mm^(4)以上、1500mm^(4)以下であり、」とあったものを、「先端側に配置され植毛面に毛束が植設されたヘッド部と、該ヘッド部の後端側に延設されたネック部と、該ネック部の後端側に延設されたハンドル部とを備え、前記ヘッド部、前記ネック部、及び前記ハンドル部の材質は、曲げ弾性率(JIS7171)が1000MPa以上2200MPa以下である樹脂であり、前記ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmであり、前記ヘッド部の長さは、10?33mmであり、前記ネック部の長さは、30?70mmであり、前記ネック部は、前記植毛面と平行、且つ、前記ハンドル部の長さ方向と直交する方向の幅が最小値となる位置から後端側に前記幅が一定または漸次大きくなるように形成され、前記ネック部の前記幅をWmm、前記植毛面と直交する方向の厚さをDmmとすると、前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に漸次大きくなる場合は当該最小値となる位置を起点とし、前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に一定の場合は最も先端側の前記最小値の位置を起点とし、前記植毛面と平行に前記後端側に10mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が0.7以上、1.5以下であり、前記植毛面と平行に前記後端側に30mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が1.0を上回り、1.3以下であり、前記ネック部の最小幅Wが4.5mm以下であり、前記後端側に10mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、165mm^(4)以上、525mm^(4)以下であり、前記後端側に30mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、600mm^(4)以上、1500mm^(4)以下であり、」と限定するもので、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

c 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1の「先端側に配置され植毛面に毛束が植設されたヘッド部と、該ヘッド部の後端側に延設されたネック部と、該ネック部の後端側に延設されたハンドル部とを備え、前記ヘッド部、前記ネック部、及び前記ハンドル部の材質は、曲げ弾性率(JIS7171)が1000MPa以上2200MPa以下である樹脂であり、前記ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmであり、前記ヘッド部の長さは、10?33mmであり、前記ネック部の長さは、30?70mmであり、前記ネック部は、前記植毛面と平行、且つ、前記ハンドル部の長さ方向と直交する方向の幅が最小値となる位置から後端側に前記幅が一定または漸次大きくなるように形成され、前記ネック部の前記幅をWmm、前記植毛面と直交する方向の厚さをDmmとすると、前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に漸次大きくなる場合は当該最小値となる位置を起点とし、前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に一定の場合は最も先端側の前記最小値の位置を起点とし、前記植毛面と平行に前記後端側に10mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が0.7以上、1.5以下であり、前記植毛面と平行に前記後端側に30mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が1.0を上回り、1.3以下であり、前記ネック部の最小幅Wが4.5mm以下であり、前記後端側に10mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、165mm^(4)以上、525mm^(4)以下であり、前記後端側に30mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、600mm^(4)以上、1500mm^(4)以下であり、」であることは、願書に添付した特許請求の範囲の【請求項1】、及び明細書の段落【0015】、【0016】、【0029】、【0030】、【0031】、【0038】に、以下のとおり記載されている。
「【請求項1】
先端側に配置され植毛面に毛束が植設されたヘッド部と、
該ヘッド部の後端側に延設されたネック部と、
該ネック部の後端側に延設されたハンドル部とを備え、
前記ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmであり、
前記ネック部は、前記植毛面と平行、且つ、前記ハンドル部の長さ方向と直交する方向の幅が最小値となる位置から後端側に前記幅が一定または漸次大きくなるように形成され、
前記ネック部の前記幅をWmm、前記植毛面と直交する方向の厚さをDmmとすると、
前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に漸次大きくなる場合は当該最小値となる位置を起点とし、前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に一定の場合は最も先端側の前記最小値の位置を起点とし、前記植毛面と平行に前記後端側に10mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が0.7以上、1.5以下であり、前記植毛面と平行に前記後端側に30mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が1.0を上回り、1.3以下であり、
前記後端側に10mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、165mm^(4)以上、625mm^(4)以下であり、
前記後端側に30mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、600mm^(4)以上、1500mm^(4)以下であり、
前記起点の位置を基準としたときに、当該基準の位置から後端側に10mm離れた位置における前記撓み係数の変化率が1.0以上、1.3以下であり、
前記起点の位置から後端側に20mm離れた位置を基準としたときに、前記起点の位置から後端側に30mm離れた位置における前記撓み係数の変化率が1.7以上、3.0以下であることを特徴とする歯ブラシ。」
「【0015】
本実施形態の歯ブラシ11は、先端に配置され用毛の毛束114が植毛されたヘッド部110と、ヘッド部110の後端側に延設されたネック部120と、ネック部120の後端側に延設されたハンドル部130(以下、ヘッド部110とネック部120とハンドル部130とを合わせてハンドル体12と称する)とを備える。
【0016】
ハンドル体は、全体として長尺状に一体成形されたものであり、例えば、樹脂を材料とし射出成形により得られるものである。
ハンドル体の材質としては、曲げ弾性率(JIS7171)が1000MPa以上2200MPa以下である樹脂が挙げられ、例えば、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、ポレアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS)などが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果がより顕著であること及びコスト面を考慮すると汎
用樹脂であるポリプロピレン樹脂が好ましい。」
「【0029】
ハンドル体12の長さは、特に限定されず、例えば、100?200mmとされる。
ヘッド部110の幅、すなわち植毛面111と平行で、且つハンドル部130の長さ方向と直交する方向の幅(以下、単に幅と称する)は、特に限定されず、例えば、5?16mmが好ましく、8?12mmがより好ましい。上記下限値以上であれば、毛束114を植設する面積を十分に確保でき、上記上限値以下であれば、口腔内での操作性をより高められる。
ヘッド部110の長さは、特に限定されず、例えば、10?33mmが好ましく、12?28mmがより好ましい。上記下限値以上であれば、毛束114を植設する面積を十分に確保でき、上記上限値以下であれば、口腔内での操作性をより高められる。
ヘッド部110の厚さは、材質等を勘案して決定でき、例えば、2.0?4.0mmがより好ましい。上記下限値以上であれば、ヘッド部110の強度をより高められ、上記上限値以下であれば、奥歯への到達性を高められるとともに、口腔内での操作性をより高められる。
【0030】
ネック部120の長さは、ヘッド部110を口腔内に挿入したときにネック部120が唇に触れるために、例えば、25?70mmであることが好ましい。
ネック部120の幅は、最小値となる位置から後端側に一定または漸次大きくなるように形成されている。ネック部120の幅が最小値となる位置から後端側に一定の場合、最小値となる位置は最も先端側の位置と定義する。本実施形態におけるネック部120は、幅が最小値となる位置121から後端側に向かうのに従って漸次大きくなるように形成されている。ネック部120の幅は、材質等を勘案して決定でき、例えば、ネック部120の最小幅は3.5mm以上、4.5mm以下が好ましく、3.7mm以上、4.3mm以下がより好ましい。上記下限値以上であれば、ネック部120の強度をより高められ、上記上限値以下であれば、唇が閉じやすく、また奥歯への到達性を高められるとともに、口腔内での操作性をより高められる。
【0031】
また、ネック部120における幅をWmm、植毛面111と直交する方向の厚さをDmmとすると、ネック部120における幅が最小値となる位置121を起点として植毛面111と平行に後端側に10mm離れた位置122におけるD/Wで求められる値は、0.7以上、2.5以下であることが好ましく、0.7以上、2.0以下であることがより好ましく、0.8以上、2.0以下であることが更に好ましく、0.8以上、1.5以下であることが特に好ましい。」
「【0038】
また、一般に、材質が同一の場合、剛体の撓み量は、「断面2次モーメント」に大きく影響を受けることが知られている。撓み量は、幅Wの1乗、厚さDの3乗に比例するため、撓み量を少なくするためには厚さDを保ちつつ、幅を最小限にすることが望ましい。
例えば、撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)とすると、ネック部120の位置121における幅W、厚さDから計算される撓み係数Mは、165mm^(4)以上、625mm^(4)以下であることが好ましく、180mm^(4)以上、525mm^(4)以下であることが更に好ましく、200mm^(4)以上、330mm^(4)以下であることが特に好ましい。また、ネック部120の位置122における幅W、厚さDから計算される撓み係数Mは、165mm^(4)以上、625mm^(4)以下であり、180mm^(4)以上、525mm^(4)以下であることがより好ましく、200mm^(4)以上、330mm^(4)以下であることがさらに好ましく、270mm^(4)以上、310mm^(4)以下であることがさらに好ましい。位置121から植毛面111と平行に後端側に20mm離れた位置において、ネック部120における幅W、厚さDから計算される撓み係数Mは、350mm^(4)以上、550mm^(4)以下であることが好ましい。位置121から植毛面111と平行に後端側に30mm離れた位置において、ネック部120における幅W、厚さDから計算される撓み係数Mは、600mm^(4)以上、1500mm^(4)以下であることが好ましい。
位置122における撓み係数Mが165mm^(4)以上、625mm^(4)以下であれば、唇を閉じてのブラッシング性の向上に寄与できるとともに、撓みすぎによる操作性の悪化を防止することができる。」
但し、「前記ネック部の長さは、30?70mmであり」との訂正に関して、段落【0030】には「ネック部120の長さは、ヘッド部110を口腔内に挿入したときにネック部120が唇に触れるために、例えば、25?70mmであることが好ましい。」と記載されているが、【請求項1】には、「前記植毛面と平行に前記後端側に30mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が1.0を上回り、1.3以下であり」、「前記後端側に30mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、600mm^(4)以上、1500mm^(4)以下であり」、及び「前記起点の位置から後端側に30mm離れた位置における前記撓み係数の変化率が1.7以上、3.0以下である」と記載されているとおり、ネック部の長さは、少なくとも30mm以上の長さがなくてはならないことが示されている。
そうすると、「前記ネック部の長さは、30?70mmであり」との訂正は、段落【0030】、及び【請求項1】に記載された事項である。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

d 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項1?4について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項1?4に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。


(イ) 訂正事項2
a 訂正の目的
訂正事項2は、訂正事項1に伴い、請求項1に関する詳細な説明の記載を整合させるために、請求項1に関する記載を訂正事項1と同様に訂正するもので、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1と同様に訂正事項2も実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

c 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1と同様に訂正事項2も特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。


(ウ) 訂正事項3
a 訂正の目的
段落【0039】には、「また、位置122と位置121から後端側に20mm離れた位置との間における撓み係数Mの変化率としては、1.3以上、1.8以下であることが好ましい。位置121から後端側に20mm離れた位置と、位置121から後端側に30mm離れた位置との間における撓み係数Mの変化率としては、1.7以上、3.0以下であることが好ましく、1.8以上、3.0以下であることがより好ましい。」と記載され、段落【0052】には、「また、各例におけるW×D^(3)で求められる値の前記のように各位置の撓み係数から計算される変化率は、[表3]に示されている。」と記載されているように、変化率としては、位置122と位置121から後端側に20mm離れた位置との間における撓み係数Mの変化率、すなわち「+10mmの位置から+20mmの位置」の変化率、及び位置121から後端側に20mm離れた位置と、位置121から後端側に30mm離れた位置との間における撓み係数Mの変化率、すなわち「+20mmの位置から+30mmの位置」の変化率が記載されているが、訂正前の表3に記載されている「最小位置から+20mmの位置」の変化率、及び「最小位置から+30mmの位置」の変化率については何ら記載されておらず、並びに段落【0055】に記載の表2の「幅×厚み^(3)[W×D^(3)]」に記載されている各例の「+10」の数値と「+20」の数値から求められる変化率(「+10mmの位置から+20mmの位置」の変化率)、及び各例の「+20」の数値と「+30」の数値から求められる変化率(「+20mmの位置から+30mmの位置」の変化率)が、それぞれ表3の「最小位置からから+20mmの位置」、及び「最小位置から+30mmの位置」に記載されている各例の数値と一致することから、訂正前の段落【0056】の表3の「最小位置から+20mmの位置」、及び「最小位置から+30mmの位置」との記載は、「+10mmの位置から+20mmの位置」、及び「+20mmの位置から+30mmの位置」の誤記であるといえる。
そうであれば、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。

b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記aから明らかなように、訂正事項3の訂正は、訂正前の段落【0056】の表3の「最小位置から+20mmの位置」、及び「最小位置から+30mmの位置」を、それぞれ「+10mmの位置から+20mmの位置」、及び「+20mmの位置から+30mmの位置」として誤記を訂正するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、当該訂正は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

c 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
願書に最初に添付した明細書の段落【0039】、【0052】、【0056】には、上記aに記載したものと同じ記載があるから、訂正事項3の表3の記載が「+10mmの位置から+20mmの位置」、及び「+20mmの位置から+30mmの位置」であり、誤記の訂正であるから、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 明細書又は図面の訂正に係る請求項についての説明
願書に添付した明細書の段落【0006】、【0056】に記載された訂正事項2、3は請求項1に関するものであるから、訂正事項1に係る一群の請求項(請求項1?4)と関係を有し、願書に添付した明細書の訂正である訂正事項2、3と関係する全ての一群の請求項(請求項1?4)が請求の対象とされている。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合するものである。


(2)むすび
したがって、本件訂正は特許法第120条の5第2項第1号?第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合する。
よって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。


4.本件発明
本件訂正により訂正された請求項1ないし4に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】
先端側に配置され植毛面に毛束が植設されたヘッド部と、
該ヘッド部の後端側に延設されたネック部と、
該ネック部の後端側に延設されたハンドル部とを備え、
前記ヘッド部、前記ネック部、及び前記ハンドル部の材質は、曲げ弾性率(JIS7171)が1000MPa以上2200MPa以下である樹脂であり、
前記ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmであり、
前記ヘッド部の長さは、10?33mmであり、
前記ネック部の長さは、30?70mmであり、
前記ネック部は、前記植毛面と平行、且つ、前記ハンドル部の長さ方向と直交する方向の幅が最小値となる位置から後端側に前記幅が一定または漸次大きくなるように形成され、
前記ネック部の前記幅をWmm、前記植毛面と直交する方向の厚さをDmmとすると、
前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に漸次大きくなる場合は当該最小値となる位置を起点とし、前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に一定の場合は最も先端側の前記最小値の位置を起点とし、前記植毛面と平行に前記後端側に10mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が0.7以上、1.5以下であり、前記植毛面と平行に前記後端側に30mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が1.0を上回り、1.3以下であり、
前記ネック部の最小幅Wが4.5mm以下であり、
前記後端側に10mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、165mm^(4)以上、525mm^(4)以下であり、
前記後端側に30mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、600mm^(4)以上、1500mm^(4)以下であり、
前記起点の位置を基準としたときに、当該基準の位置から後端側に10mm離れた位置における前記撓み係数の変化率が1.0以上、1.3以下であり、
前記起点の位置から後端側に20mm離れた位置を基準としたときに、前記起点の位置から後端側に30mm離れた位置における前記撓み係数の変化率が1.7以上、3.0以下であることを特徴とする歯ブラシ。
【請求項2】
前記起点の位置から前記植毛面と平行に前記後端側に30mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が1.05以上、1.3以下であることを特徴とする請求項1記載の歯ブラシ。
【請求項3】
前記起点の位置において前記D/Wで求められる値と、当該位置から後端側に30mm離れた位置において前記D/Wで求められる値との差は、0.1以上、0.2以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の歯ブラシ。
【請求項4】
前記幅が最小値となる前記起点の位置において前記D/Wで求められる値と、当該位置から後端側に20mm離れた位置において前記D/Wで求められる値との差は、0.07以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の歯ブラシ。」


5.取消理由 (決定の予告)
令和元年12月24日付の取消理由(決定の予告)の概要は以下のとおりである。
「本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


(1)請求項1において、ネック部の幅と厚さを規定しており、ハンドル体の材質、形状は特定されていない。ハンドル体の材質、形状によって、ハンドル体の曲げ弾性率は変化するが、様々な材質、形状であっても、ネック部の幅と厚さを規定すれば、何故歯ブラシの口腔内操作性の向上という課題が解決できるのか不明である。請求項1を引用する請求項2-4も同様である。
更に、請求項1において、ネック部の幅と厚さ、ヘッド部の厚さを規定しており、ヘッド部、ネック部の長さは特定されていない。ヘッド部、ネック部の長さが異なると撓みが大きく異なるが、実施例として【0051】に、ネック部長48mm、ヘッド部長25mmの開示があるのみであり、請求項1に係る発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。請求項1を引用する請求項2-4も同様である。
したがって、本件特許の請求項1-4に記載された発明は、当該発明が解決すべき課題を解決できないものや実施例の内容を拡張ないし一般化できるとはいえないものをも包含しており、本件特許の願書に添付した発明の詳細な説明に記載されたものではない。」


6.取消理由 (決定の予告)に対する当審の判断
請求項1において、ヘッド部の厚さ、ネック部の幅と厚さを規定し、更に、訂正により、ハンドル体の材質と曲げ弾性率、ヘッド部の長さ、ネック部の長さ、ネック部の最小幅を規定することによって、訂正後の請求項1に記載された発明は、これらの事項が相まって歯ブラシの強度、操作性を向上させるものであるから、ブラシの口腔内操作性の向上という課題が解決できるものとなった。請求項1を引用する請求項2-4も同様である。
したがって、特許を受けようとする発明は発明の詳細な説明に記載されたものであるから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものである。


7.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由
(1)特許法第29条第1項第3号及び第2項
特許異議申立人は、請求項1-4に係る発明は甲第1号証(特開2013-118944号公報)に記載された発明と同一であるか、又は同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた旨主張する。
そして、甲第1号証に記載された発明が構成e1、e2、f1、f2を有する旨主張し、申立書12頁で「下記の構成e1、e2、f1、f2は、図1および表1に基づいて求めた、参考図および参考表1?3の値である。」と主張している。
構成e1、e2、f1、f2は以下のとおりである。
「e1 前記後端側に10mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=WX×DX^(3)が、187mm^(4)であり、
e2 前記後端側に30mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=WX×DX^(3)が、915mm^(4)以下であり、
f1 前記起点の位置を基準としたときに、当該基準の位置から後端側に10mm離れた位置における前記撓み係数の変化率が1.25であり、
f2 前記起点の位置から後端側に20mm離れた位置を基準としたときに、前記起点の位置から後端側に30mm離れた位置における前記撓み係数の変化率が1.88である」
しかし、図面は本来、発明の具体的内容を理解し易くするために、明細書の補助手段として使用される任意書面であって、設計図面に要求されるような正確性をもって図示するものではないから、甲第1号証の図面を採寸した値を採用することはできない。そうすると、甲第1号証には構成e1、e2、f1、f2について記載が無く、且つ当該構成を当業者が容易に考えられるものとも認められない。
したがって、請求項1-4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一ではなく、又、同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)特許法第36条第6項第1号
特許異議申立人は、本件特許発明1は、「前記起点の位置から後端側に20mm離れた位置を基準としたときに、前記起点の位置から後端側に30mm離れた位置における前記撓み係数の変化率が1.7以上、3.0以下である」という構成を有するが、表1?表3のいずれにも、「F2 前記起点の位置から後端側に20mm離れた位置を基準としたときに、前記起点の位置から後端側に30mm離れた位置における前記撓み係数の変化率」についての記載がなく、本件特許発明1は、実施例によって裏付けされていない旨主張している。
しかし、請求項1の「前記起点の位置から後端側に20mm離れた位置を基準としたときに、前記起点の位置から後端側に30mm離れた位置における前記撓み係数の変化率が1.7以上、3.0以下である」を裏付ける記載は表3であるが、表2の撓み係数の値に基づいて演算すれば表3の撓み係数の変化率の基準点が何れも最小位置であることは明らかな誤りであり、この点は訂正により解消した。
また、特許異議申立人は、ヘッド部やネック部の長さが異なると、撓みが大きく相違するから、ヘッド部やネック部の長さは、操作性に影響を与えるが、実施例および比較例の歯ブラシの形状(ネック部を除く)は全て同じであり、ネック部の長さも同じであり、本件特許発明1の範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないから、本件特許発明1は、サポートされていない旨主張している。
しかし、表1のネック部厚みとネック部幅の値はバラツキが小さくても、本件発明の歯ブラシを特定する条件は他にもあるため、歯ブラシが他の条件を満たすとネック部厚みとネック部幅の値が表1の様になるため、発明の詳細な説明に記載されたものではないとすることはできない。


8.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1-4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1-4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
歯ブラシ
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯ブラシに関する。
本願は、2016年10月28日に日本に出願された特願2016-211879号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1?3より、口腔内での操作性等の観点でヘッドの厚さを薄くした歯ブラシが提案されている。ヘッドの厚さを薄くすると強度の低下などが問題となる。そのため、ポリアセタール樹脂(POM)など強度の高い樹脂が使われる。特に、金属製の平線を樹脂製のヘッドに打ち込んで刷毛を保持する平線式植毛の場合、植毛強度、ヘッド部の耐折強度が不十分となる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】 特開平7-143914号公報
【特許文献2】 特開2011-4852号公報
【特許文献3】 特開2011-200296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの検討により、上述したような歯ブラシにおいては、ヘッド部とハンドル部をつなぐネック部が太いとヘッド部を薄くしたことによる口腔内での操作性の向上効果が損なわれることが見出された。特に、ネックを幅広にすると操作性をより損なう上、外観上もヘッドの薄さが目立たず商品の印象も損なわれる。しかしながら、ネック部を細くした場合、撓みすぎて逆に操作性に問題が生じることがある。また、強度的にも更なる改善が求められる。特にポリプロピレン(PP)など歯ブラシに一般的に使われる汎用樹脂の場合、課題はより顕著である。
【0005】
本発明は、以上のような点を考慮してなされたもので、良好な操作性が得られるヘッドの薄い歯ブラシを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に従えば、先端側に配置され植毛面に毛束が植設されたヘッド部と、該ヘッド部の後端側に延設されたネック部と、該ネック部の後端側に延設されたハンドル部とを備え、前記ヘッド部、前記ネック部、及び前記ハンドル部の材質は、曲げ弾性率(JIS7171)が1000MPa以上2200MPa以下である樹脂であり、前記ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmであり、前記ヘッド部の長さは、10?33mmであり、前記ネック部の長さは、30?70mmであり、前記ネック部は、前記植毛面と平行、且つ、前記ハンドル部の長さ方向と直交する方向の幅が最小値となる位置から後端側に前記幅が一定または漸次大きくなるように形成され、前記ネック部の前記幅をWmm、前記植毛面と直交する方向の厚さをDmmとすると、前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に漸次大きくなる場合は当該最小値となる位置を起点とし、前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に一定の場合は最も先端側の前記最小値の位置を起点とし、前記植毛面と平行に前記後端側に10mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が0.7以上、1.5以下であり、前記植毛面と平行に前記後端側に30mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が1.0を上回り、1.3以下であり、前記ネック部の最小幅Wが4.5mm以下であり、前記後端側に10mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、165mm^(4)以上、525mm^(4)以下であり、前記後端側に30mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、600mm^(4)以上、1500mm^(4)以下であり、前記起点の位置を基準としたときに、当該基準の位置から後端側に10mm離れた位置における前記撓み係数の変化率が1.0以上、1.3以下であり、前記起点の位置から後端側に20mm離れた位置を基準としたときに、前記起点の位置から後端側に30mm離れた位置における前記撓み係数の変化率が1.7以上、3.0以下であることを特徴とする歯ブラシが提供される。
【0007】
また、上記本発明の一態様に係る歯ブラシにおいて、前記起点の位置から前記植毛面と平行に前記後端側に30mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が1.05以上、1.3以下であることを特徴とする。
【0008】
また、上記本発明の一態様に係る歯ブラシにおいて、前記起点の位置において前記D/Wで求められる値と、当該位置から後端側に30mm離れた位置において前記D/Wで求められる値との差は、0.1以上、0.2以下であることを特徴とする。
【0009】
また、上記本発明の一態様に係る歯ブラシにおいて、前記幅が最小値となる前記起点の位置において前記D/Wで求められる値と、当該位置から後端側に20mm離れた位置において前記D/Wで求められる値との差は、0.07以下であることを特徴とする。
【0010】
また、上記本発明の一態様に係る歯ブラシにおいて、前記幅が最小値となる前記起点の位置において前記D/Wで求められる値と、当該位置から後端側に20mm離れた位置において前記D/Wで求められる値との差は、0.07以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、汎用樹脂を用いた場合でも良好な口腔内操作性が得られる歯ブラシを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態を示す図であって、歯ブラシ11の平面図である。
【図2】同歯ブラシ11の側面図である。
【図3】歯ブラシ11の先端側を拡大した平面図である。
【図4】歯ブラシ11の先端側を拡大した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の歯ブラシのハンドル体および歯ブラシの実施の形態を、図1ないし図4を参照して説明する。
なお、以下の実施の実施形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせている。
【0014】
図1は、歯ブラシ11の平面図である。図2は、歯ブラシ11の側面図である。図3は、歯ブラシ11の先端側を拡大した平面図である。図4は、歯ブラシ11の先端側を拡大した側面図である。
【0015】
本実施形態の歯ブラシ11は、先端に配置され用毛の毛束114が植毛されたヘッド部110と、ヘッド部110の後端側に延設されたネック部120と、ネック部120の後端側に延設されたハンドル部130(以下、ヘッド部110とネック部120とハンドル部130とを合わせてハンドル体12と称する)とを備える。
【0016】
ハンドル体は、全体として長尺状に一体成形されたものであり、例えば、樹脂を材料とし射出成形により得られるものである。
ハンドル体の材質としては、曲げ弾性率(JIS7171)が1000MPa以上2200MPa以下である樹脂が挙げられ、例えば、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、ポレアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS)などが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果がより顕著であること及びコスト面を考慮すると汎用樹脂であるポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0017】
上記の樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、ハンドル体は、把持性を向上させるため、例えばエラストマーなどの柔軟な樹脂が部分的又は全体に被覆されていてもよい。エラストマーなどの柔軟な樹脂を用いる場合には、接着性を高められる観点から、例えば、ポリオレフィンが好ましく、PPがより好ましい。
【0018】
ヘッド部110は、厚さ方向の一方側(以下、上面側と称する)に植毛面111を有している。植毛面111には、植毛穴112が複数形成され、植毛穴112に用毛の毛束114(図2参照)が植設されている。なお、図1、図3および図4においては、毛束114の図示が省略されている。
【0019】
本実施形態におけるヘッド部110の後端側の端部は、最も先端側に配置された植毛穴112の外縁からヘッド部110の先端までの距離をL11とすると、最も後端側に配置された植毛穴112の外縁から後端側に距離L11の位置で定義される。すなわち、図3に示すように、ヘッド部110は、長さ方向の両端に位置する植毛穴112の外縁からそれぞれ距離L11離れた範囲110Aに配置されている。範囲110Aの後端側の位置は、ヘッド部110とネック部120との境界である。
【0020】
ハンドル部130の先端側の端部は指当て部となり、指当て部の先端側の端部がネック部120とハンドル部130の境界となる。指当て部は、例えば、ネック部120の後端側における植毛面111側の面と、ハンドル部130の先端側における植毛面111側の面との交差部に形成される稜線、或いは、ネック部120の後端側における植毛面111の逆側の面と、ハンドル部130の先端側における植毛面111の逆側の面との交差部に形成される稜線により区画される。この場合、ネック部120とハンドル部130の境界は前記稜線によって定義される。
【0021】
また、ネック部120の後端側における植毛面111側の面と、ハンドル部130の先端側における植毛面111側の面とが面一で稜線を形成しない場合は、ネック部120の後端側における幅方向の側面と、ハンドル部130の先端側における幅方向の側面との交差部に形成される稜線により指当て部が区画される。この場合においても、ネック部120とハンドル部130の境界は前記稜線によって定義される。
【0022】
例えば、側面視でハンドル部130が植毛面111側に凸となる略円弧形状に形成され、ネック部120が植毛面111側に凹となる略円弧形状に形成されたS字形状の実施例のハンドル体12の場合には、以下のようにネック部120とハンドル部130との境界が定義される。
【0023】
ハンドル部130の先端側における植毛面111側には、中心位置が植毛面111とは逆側(図2および図4ではハンドル部130よりも下側)に配置され、側面視で植毛面111側が凸となる円弧輪郭の曲面133が形成されている。同様に、ハンドル部130の先端側における植毛面111と逆側には、中心位置が植毛面111とは逆側に配置され、側面視で植毛面111側が凸となる円弧輪郭の曲面134が形成されている。
【0024】
また、ネック部120の後端側における植毛面111側には、中心位置が植毛面111(図2および図4ではハンドル部130よりも上側)に配置され、側面視で植毛面111側が凹となる円弧輪郭の曲面123が形成されている。同様に、ネック部120の後端側における植毛面111と逆側には、中心位置が植毛面111に配置され、側面視で植毛面111側が凹となる円弧輪郭の曲面124が形成されている。
【0025】
曲面123および曲面133は、それぞれハンドル部130の長さ方向に進むのに従って、側面視における接線と植毛面111との交差角が連続的に変化するが、曲面123と曲面133との交差部においては接線同士の交差角が0または180度ではない角度θ1で交差する。そのため、曲面123と曲面133との交差部においては稜線131が形成されている。
【0026】
曲面124および曲面134についても、それぞれハンドル部130の長さ方向に進むのに従って、側面視における接線と植毛面111との交差角が連続的に変化するが、曲面124と曲面134との交差部においては接線同士の交差角が0または180度ではない角度θ2で交差する。そのため、曲面124と曲面134との交差部においては稜線132が形成されている。従って、ネック部120およびハンドル部130は、稜線131、132を挟んだ長さ方向の一方側が側面視で植毛面111側が凸となる円弧輪郭の曲面133、134と、稜線131、132を挟んだ長さ方向の他方側が側面視で植毛面111側が凹となる円弧輪郭の曲面123、124とでつながれることにより側面視で略S字状に形成されている。
【0027】
ネック部120の後端側の境界は、稜線131、132によって定義される。従って、稜線131、132より後端側は、ハンドル部130が配置されている範囲130Aであり、ヘッド部110が配置されている範囲110Aと、ハンドル部130が配置されている範囲130Aとの間の範囲120Aにネック部120が配置されている。
【0028】
ハンドル部130の先端側における植毛面111側の端部(稜線131よりも後端側)は指当て部となる。使用者は、指当て部に親指を当てるようにしてハンドル部130を持つことにより、歯ブラシ11を安定して操作することができる。また、ハンドル部130の長さ方向における稜線132の位置は、稜線131よりも後端側である。そのため、稜線132の位置が稜線131よりも前端側にある場合と比較して指当て部が厚くなり、歯ブラシ11の操作を一層安定させることができる。
【0029】
ハンドル体12の長さは、特に限定されず、例えば、100?200mmとされる。
ヘッド部110の幅、すなわち植毛面111と平行で、且つハンドル部130の長さ方向と直交する方向の幅(以下、単に幅と称する)は、特に限定されず、例えば、5?16mmが好ましく、8?12mmがより好ましい。上記下限値以上であれば、毛束114を植設する面積を十分に確保でき、上記上限値以下であれば、口腔内での操作性をより高められる。
ヘッド部110の長さは、特に限定されず、例えば、10?33mmが好ましく、12?28mmがより好ましい。上記下限値以上であれば、毛束114を植設する面積を十分に確保でき、上記上限値以下であれば、口腔内での操作性をより高められる。
ヘッド部110の厚さは、材質等を勘案して決定でき、例えば、2.0?4.0mmがより好ましい。上記下限値以上であれば、ヘッド部110の強度をより高められ、上記上限値以下であれば、奥歯への到達性を高められるとともに、口腔内での操作性をより高められる。
【0030】
ネック部120の長さは、ヘッド部110を口腔内に挿入したときにネック部120が唇に触れるために、例えば、25?70mmであることが好ましい。
ネック部120の幅は、最小値となる位置から後端側に一定または漸次大きくなるように形成されている。ネック部120の幅が最小値となる位置から後端側に一定の場合、最小値となる位置は最も先端側の位置と定義する。本実施形態におけるネック部120は、幅が最小値となる位置121から後端側に向かうのに従って漸次大きくなるように形成されている。ネック部120の幅は、材質等を勘案して決定でき、例えば、ネック部120の最小幅は3.5mm以上、4.5mm以下が好ましく、3.7mm以上、4.3mm以下がより好ましい。上記下限値以上であれば、ネック部120の強度をより高められ、上記上限値以下であれば、唇が閉じやすく、また奥歯への到達性を高められるとともに、口腔内での操作性をより高められる。
【0031】
また、ネック部120における幅をWmm、植毛面111と直交する方向の厚さをDmmとすると、ネック部120における幅が最小値となる位置121を起点として植毛面111と平行に後端側に10mm離れた位置122におけるD/Wで求められる値は、0.7以上、2.5以下であることが好ましく、0.7以上、2.0以下であることがより好ましく、0.8以上、2.0以下であることが更に好ましく、0.8以上、1.5以下であることが特に好ましい。
【0032】
ネック部120の最小幅が3.5mm以上、4.5mm以下である場合において、D/Wで求められる値が上記下限値未満の場合には、ブラッシングの際にネック部120が撓みやすくなり操作性が低下する可能性があるとともに、ネック部120が幅広となり操作性を損なう上、外観上もヘッド部110の薄さが目立たず商品の印象も損なわれる可能性がある。
一方、D/Wで求められる値が上記上限値を超える場合には、厚さDが大きくなり咬合面をブラッシングする際に唇が閉じづらくなる可能性がある。また、ヘッド部110を薄くしたことによって得られる操作性向上の効果が損なわれる可能性がある。そのため、D/Wで求められる値は0.7以上、2.5以下であれば、ヘッド部110を薄くしたことによって得られる操作性向上を維持しつつ、唇を閉じてブラッシングしやすくなる。
【0033】
また、ネック部120における幅が最小値となる位置121を起点として後端側に20mm離れた位置におけるD/Wで求められる値は、1.0を上回り、1.3以下であることが好ましく、1.05以上、1.2以下であることがより好ましい。同様に、ネック部120における幅が最小値となる位置121を起点として後端側に30mm離れた位置におけるD/Wで求められる値は、1.0を上回り、1.5以下であることが好ましく、1.05以上、1.3以下であることがより好ましい。
【0034】
ネック部120における幅が最小値となる位置121を起点として後端側に20mm離れた位置において、厚さDを幅Wよりも大きくすることにより、ネック部120が撓み易くなることによる操作性の低下を抑止できるとともに、ネック部120が幅広となり操作性を損なうことを抑止することができる。このように、当該位置におけるD/Wで求められる値が上記の範囲であれば、ネック部120の当該位置が口腔内に挿入された場合でも唇が閉じづらくなることなく操作性向上の効果を確保することができる。幅が最小値となる位置121を起点として後端側に30mm離れた位置におけるD/Wで求められる値が上記の範囲であれば、唇が閉じづらくなることを考慮することなく操作性向上の効果を確保することができる。
【0035】
また、位置121において上記D/Wで求められる値と、位置121を起点として後端側に20mm離れた位置において上記D/Wで求められる値との差は、0.05以上、0.07以下であることが好ましく、0.06以上、0.07以下であることがより好ましい。上記D/Wで求められる値の差が上記下限値を下回る場合及び、上記上限値を上回る場合は、D/Wで求められる値が上記下限値未満の場合及びD/Wで求められる値が上記上限値を超える場合と同様の不具合を生じさせる可能性がある。そのため、位置121において上記D/Wで求められる値と、位置121を起点として後端側に20mm離れた位置において上記D/Wで求められる値との差が0.05以上、0.07以下であれば、ヘッド部110を薄くしたことによって得られる操作性向上を維持しつつ、唇を閉じてブラッシングしやすくなる。
また、位置121を起点として後端側に30mm離れた位置において上記D/Wで求められる値は、位置121において上記D/Wで求められる値よりも大きく、且つ差が0.1以上、0.2以下であることが好ましい。位置121を起点として後端側に30mm離れた位置において上記D/Wで求められる値と、位置121において上記D/Wで求められる値とが上記の関係を満たす場合は、ヘッド部110を薄くしたことによって得られる操作性向上を維持しつつ、唇を閉じてブラッシングしやすくなる。
【0036】
また、ハンドル部130の長さ方向について先端側の位置を基準として後端側の位置の上記D/Wの変化率に関して、上述したネック部120における幅が最小値となる位置121から後端側に10mm離れた位置の上記D/Wの変化率をR01とすると、変化率R01は、1.00を上回り、1.2以下であることが好ましい。位置121から後端側に20mm離れた位置の上記D/Wの変化率をR02とすると、変化率R02は、1.00を上回り、1.2以下であることが好ましい。位置121から後端側に30mm離れた位置の上記D/Wの変化率をR03とすると、変化率R03は、1.00を上回り、1.3以下であることが好ましい。変化率R01、R02、R03は、R01<R02<R03の関係を満足することが好ましい。
これにより、口腔内により入りやすいネック部120の先端側にて、既に厚さDが大きいことで唇を閉じてブラッシングしにくくなることを回避することができる。また、ブラッシングによる負荷がかかりやすいネック部120の後端部側にて、より厚さDを大きく変化させることで、厚さD方向の撓みすぎに起因する操作性の不具合を回避することができる。
【0037】
また、位置121を起点として後端側に10mm離れた位置から、位置121を起点として後端側に20mm離れた位置の上記D/Wの変化率をR12とすると、変化率R12は、1.00を上回り、1.2以下であることが好ましい。位置121を起点として後端側に20mm離れた位置から、位置121を起点として後端側に30mm離れた位置の上記D/Wの変化率をR23とすると、変化率R23は、1.00を上回り、1.3以下であることが好ましい。変化率R12、R23は、R01≦R12≦R23の関係を満足することが好ましい。加えて、変化率R12、R23の少なくとも一方は、変化率R01よりも大きいことが好ましい。
これにより、上記と同様に、口腔内により入りやすいネック部120の先端側にて、既に厚さDが大きいことで唇を閉じてブラッシングしにくくなることを回避することができる。また、ブラッシングによる負荷がかかりやすいネック部120の後端部側にて、より厚さDを大きく変化させることで、厚さD方向の撓みすぎに起因する操作性の不具合を回避することができる。
【0038】
また、一般に、材質が同一の場合、剛体の撓み量は、「断面2次モーメント」に大きく影響を受けることが知られている。撓み量は、幅Wの1乗、厚さDの3乗に比例するため、撓み量を少なくするためには厚さDを保ちつつ、幅を最小限にすることが望ましい。
例えば、撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)とすると、ネック部120の位置121における幅W、厚さDから計算される撓み係数Mは、165mm^(4)以上、625mm^(4)以下であることが好ましく、180mm^(4)以上、525mm^(4)以下であることが更に好ましく、200mm^(4)以上、330mm^(4)以下であることが特に好ましい。また、ネック部120の位置122における幅W、厚さDから計算される撓み係数Mは、165mm^(4)以上、625mm^(4)以下であり、180mm^(4)以上、525mm^(4)以下であることがより好ましく、200mm^(4)以上、330mm^(4)以下であることがさらに好ましく、270mm^(4)以上、310mm^(4)以下であることがさらに好ましい。位置121から植毛面111と平行に後端側に20mm離れた位置において、ネック部120における幅W、厚さDから計算される撓み係数Mは、350mm^(4)以上、550mm^(4)以下であることが好ましい。位置121から植毛面111と平行に後端側に30mm離れた位置において、ネック部120における幅W、厚さDから計算される撓み係数Mは、600mm^(4)以上、1500mm^(4)以下であることが好ましい。
位置122における撓み係数Mが165mm^(4)以上、625mm^(4)以下であれば、唇を閉じてのブラッシング性の向上に寄与できるとともに、撓みすぎによる操作性の悪化を防止することができる。
【0039】
撓み係数Mの変化率としては、位置121と位置122との間では、1.0以上、1.3以下であることが好ましい。また、位置122と位置121から後端側に20mm離れた位置との間における撓み係数Mの変化率としては、1.3以上、1.8以下であることが好ましい。位置121から後端側に20mm離れた位置と、位置121から後端側に30mm離れた位置との間における撓み係数Mの変化率としては、1.7以上、3.0以下であることが好ましく、1.8以上、3.0以下であることがより好ましい。なお、前記変化率は後端側の位置における撓み係数を先端側の位置における撓み係数で割った値、例えば位置121と位置122の間では、位置121における撓み係数Mと位置122における撓み係数MからM/Mとして計算される値である。
撓み係数Mおよびその変化率が上記の範囲であれば、操作性の低下を招くことなく唇を閉じてブラッシングしやすくなる。
【0040】
毛束114は、複数の用毛を束ねたものである。植毛面111から毛束114の先端までの長さ(毛丈)は、毛束114に求める毛腰等を勘案して決定でき、例えば、6?13mmとされる。全ての毛束114は同じ毛丈であってもよいし、相互に異なっていてもよい。
【0041】
毛束114の太さ(毛束径)は、毛束114に求める毛腰等を勘案して決定でき、例えば、1?3mmとされる。全ての毛束114は同じ毛束径であってもよいし、相互に異なっていてもよい。
【0042】
毛束114を構成する用毛としては、例えば、毛先に向かって漸次その径が小さくなり、毛先が先鋭化された用毛(テーパー毛)、植毛面111から毛先に向かいその径がほぼ同一である用毛(ストレート毛)等が挙げられる。ストレート毛としては、毛先が植毛面111に略平行な平面とされたものや、毛先が半球状に丸められたものが挙げられる。
【0043】
用毛の材質は、例えば、6-12ナイロン(6-12NY)、6-10ナイロン(6-10NY)等のポリアミド、PET、PBT、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)等のポリエステル、PP等のポリオレフィン、ポリオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー等のエラストマー樹脂等が挙げられる。これらの樹脂材料は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、用毛としては、芯部と該芯部の外側に設けられた少なくとも1層以上の鞘部とを有する多重芯構造を有するポリエステル製用毛が挙げられる。
【0044】
用毛の横断面形状は、特に限定されず、真円形、楕円形等の円形、多角形、星形、三つ葉のクローバー形、四つ葉のクローバー形等としてもよい。全ての用毛の断面形状は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0045】
用毛の太さは、材質等を勘案して決定でき、横断面が円形の場合、例えば、6?9mil(1mil=1/1000inch=0.025mm)とされる。また、使用感、刷掃感、清掃効果、耐久性等を考慮して、太さの異なる複数本の用毛を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0046】
歯ブラシ11の製造方法は、まず、射出成形でハンドル体12を成形する。
次いで、得られたハンドル体12のヘッド部110に、毛束114を植毛する。毛束114の植毛方法としては、毛束114を二つ折りにしその間に挟み込まれた平線を植毛穴112に打ち込むことにより毛束114を植設する平線式植毛、毛束114の下端を植毛部となる溶融樹脂中へ圧入して固定する熱融着法、毛束114の下端を加熱して溶融塊を形成した後に金型中に溶融樹脂を注入して植毛部を成形するインモールド法等が挙げられる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態の歯ブラシ11によれば、ネック部120における最小幅が3.5mm以上、4.5mm以下であることで、唇を閉じてブラッシングしやすくなる状態を確保しつつ、D/Wで求められる値が0.7以上、2.5であることにより、ポリアセタール等のエンジニアリングプラスチックはもちろんのこと、ポリプロピレン等の汎用樹脂を用いた場合でも操作性の低下を回避することが可能になる。
【0048】
平線式植毛の場合、ヘッド部110に平線打ち込みによるストレスがかかる。ヘッド部110が薄く力がかかったときの変形に対する強度が低い一方で、ネック部120が太く強度が高い場合、歯を磨く際のストレスがヘッド部110に集中し、ヘッド部110の反りが大きくなり使用性が低下することがある。これに対して、本実施形態の歯ブラシ11によれば、ネック部120を細くし、ある程度の撓み性を持たせることで、歯を磨く際のストレスをヘッド部110からネック部120全体に分散でき、使用性が向上する。そのため、平線式植毛の場合、本発明の効果を特に顕著に得ることができる。
【0049】
[実施例]
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0050】
【表1】

【0051】
(実施例1?5、比較例1?7)
上記の[表1]に示す仕様に従ってネック部120が形成された実施例1?および比較例1?7の歯ブラシを製作した。ヘッド部およびハンドル部の幅、長さ、厚さ、形状は全て同一とした。PP樹脂を射出成形して、図3?4に記載されたヘッド部及びハンドル体の一体成形物を得た(植毛穴の配列は、ヘッド部の先端からハンドル体に向って3穴×1列、4穴×6列、3穴×1列。ヘッド部の幅10mm、長さ25mm、厚み3.0mm。ハンドル体の長さ110mm。ネック部の長さは48mm)。PBT製フィラメントからなるテーパー用毛(7.5mil)の毛束を、平線式植毛によりヘッド部に植設して歯ブラシを作製した。
【0052】
各例におけるネック部の幅が最小の位置、その最小の位置から後端側に10mm、20mm、30mmの各位置におけるD/Wで求められる値、W×D^(3)で求められる値は、[表2]に示されている。また、各例におけるW×D^(3)で求められる値の前記のように各位置の撓み係数から計算される変化率は、[表3]に示されている。また、各例におけるD/Wで求められる値の変化率は、[表4]に示されている。
【0053】
(評価方法)
各例の歯ブラシについて、下記の方法で「歯ブラシの口腔内操作性(口の中での動かしやすさ)」を評価した。
<歯ブラシの操作性>
歯ブラシの操作性は、専門化パネル10人が各例の歯ブラシを使用し、「口腔内操作性」を下記評価基準にて評価した。専門化パネル10人の平均点が2.5点以上を「◎」、平均点2.0点以上2.5点未満を「○」、平均点1.5点以上2.0点未満を「△」、平均点1.5点未満を「×」とした。
【0054】
≪評価基準≫
3点:口の中での動かしやすさを非常に感じる。
2点:口の中での動かしやすさを感じる。
1点:口の中での動かしやすさをあまり感じない。
0点:口の中での動かしやすさを感じない。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
表2に示されるように、ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmであり、ネック部の幅の最小値が3.5mm以上、4.5mm以下で、ネック部における最小値となる位置から後端側に10mm離れた位置におけるD/Wで求められる値が0.7以上、2.5以下であり、且つ、幅が最小値となる位置121においてD/Wで求められる値と、位置121から後端側に20mm離れた位置においてD/Wで求められる値との差が0.05以上であり、撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、165mm^(4)以上、625mm^(4)以下であり、位置121から後端側に20mm離れた位置におけるD/Wで求められる値が1.0を上回り、位置121から後端側に30mm離れた位置におけるD/Wで求められる値が位置121においてD/Wで求められる値よりも大きく、且つその差が0.1以上である場合に良好な操作性が得られることを確認できた。
【0059】
また、表4に示されるように、変化率R01、R02、R03、R12、R13がそれぞれ1.00を上回り、さらにR01<R02<R03の関係、R01≦R12≦R23の関係を満足した場合についても良好な操作性が得られることを確認できた。
【0060】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0061】
例えば、上記実施形態の歯ブラシ11では、ネック部120が最小幅となる位置から後端側に向かって漸次幅が大きくなる構成を例示したが、この構成に限定されず、同一幅で後端側に延びる構成であってもよい。ネック部120が同一幅で後端側に延びる構成であっても、最小幅の位置から後端側に10mm離れた位置におけるD/Wで求められる値が0.7以上、2.5以下であることが好ましい。
【符号の説明】
【0062】
11…歯ブラシ、 12…ハンドル体、 110…ヘッド部、 111…植毛面、 120…ネック部、 130…ハンドル部
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側に配置され植毛面に毛束が植設されたヘッド部と、
該ヘッド部の後端側に延設されたネック部と、
該ネック部の後端側に延設されたハンドル部とを備え、
前記ヘッド部、前記ネック部、及び前記ハンドル部の材質は、曲げ弾性率(JIS7171)が1000MPa以上2200MPa以下である樹脂であり、
前記ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmであり、
前記ヘッド部の長さは、10?33mmであり、
前記ネック部の長さは、30?70mmであり、
前記ネック部は、前記植毛面と平行、且つ、前記ハンドル部の長さ方向と直交する方向の幅が最小値となる位置から後端側に前記幅が一定または漸次大きくなるように形成され、
前記ネック部の前記幅をWmm、前記植毛面と直交する方向の厚さをDmmとすると、
前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に漸次大きくなる場合は当該最小値となる位置を起点とし、前記ネック部の幅が前記最小値となる位置から後端側に一定の場合は最も先端側の前記最小値の位置を起点とし、前記植毛面と平行に前記後端側に10mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が0.7以上、1.5以下であり、前記植毛面と平行に前記後端側に30mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が1.0を上回り、1.3以下であり、
前記ネック部の最小幅Wが4.5mm以下であり、
前記後端側に10mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、165mm^(4)以上、525mm^(4)以下であり、
前記後端側に30mm離れた位置における撓み係数M(mm^(4))=W×D^(3)が、600mm^(4)以上、1500mm^(4)以下であり、
前記起点の位置を基準としたときに、当該基準の位置から後端側に10mm離れた位置における前記撓み係数の変化率が1.0以上、1.3以下であり、
前記起点の位置から後端側に20mm離れた位置を基準としたときに、前記起点の位置から後端側に30mm離れた位置における前記撓み係数の変化率が1.7以上、3.0以下であることを特徴とする歯ブラシ。
【請求項2】
前記起点の位置から前記植毛面と平行に前記後端側に30mm離れた位置において前記D/Wで求められる値が1.05以上、1.3以下であることを特徴とする請求項1記載の歯ブラシ。
【請求項3】
前記起点の位置において前記D/Wで求められる値と、当該位置から後端側に30mm離れた位置において前記D/Wで求められる値との差は、0.1以上、0.2以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の歯ブラシ。
【請求項4】
前記幅が最小値となる前記起点の位置において前記D/Wで求められる値と、当該位置から後端側に20mm離れた位置において前記D/Wで求められる値との差は、0.07以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-26 
出願番号 特願2018-519880(P2018-519880)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A46B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大宮 功次  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 堀川 一郎
久保 竜一
登録日 2018-08-17 
登録番号 特許第6385027号(P6385027)
権利者 ライオン株式会社
発明の名称 歯ブラシ  
代理人 川越 雄一郎  
代理人 加藤 広之  
代理人 川越 雄一郎  
代理人 加藤 広之  
代理人 黒瀬 雅一  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 黒瀬 雅一  

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