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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F02D
審判 全部申し立て 2項進歩性  F02D
管理番号 1362368
異議申立番号 異議2019-700535  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-08 
確定日 2020-04-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6450286号発明「エンジン装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6450286号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-6]について訂正することを認める。 特許第6450286号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6450286号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成27年9月16日に特許出願され、平成30年12月14日にその特許権の設定登録がされ、平成31年1月9日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和元年7月8日に特許異議申立人笹井栄治(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和元年11月1日付けで取消理由が通知(以下「取消理由通知」という。)され、その指定期間内である令和元年12月27日に訂正の請求がされ、その訂正の請求に対して異議申立人から令和2年2月7日に意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
特許権者による令和元年12月27日の訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)の内容は以下のとおりである。なお、下線は、特許権者が訂正箇所に付したものである。

(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方に運転モードを切り換える際に、」とあるのを、「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中に、」に訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記運転モードの切換時において、測定されたエンジン回転数が、緊急停止させる上限のエンジン回転数よりも低い所定回転数よりも高くなった場合に、前記ディーゼルモードに瞬時に切り換える」とあるのを、「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中において、測定されたエンジン回転数が、緊急停止させる上限のエンジン回転数よりも低い所定回転数よりも高くなった場合に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断する」に訂正する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記運転モードの切換時において、切換開始時のエンジン負荷との減少量が所定量よりも大きくなった場合に、前記ディーゼルモードに瞬時に切り換える」とあるのを、「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中において、切換開始時のエンジン負荷との減少量が所定量よりも大きくなった場合に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断する」に訂正する。

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「前記運転モードの切換時において、気体燃料供給量に対する液体燃料供給量の比率が所定値よりも小さくなった場合に、前記ディーゼルモードに瞬時に切り換える」とあるのを、「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中において、気体燃料供給量に対する液体燃料供給量の比率が所定値よりも小さくなった場合に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断する」に訂正する。

(5) 訂正事項5
明細書の段落【0011】に「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方に運転モードを切り換える際に、」とあるのを、「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中に、」に訂正する。

(6) 訂正事項6
明細書の段落【0012】に「このようなエンジン装置において、前記運転モードの切換時において、測定されたエンジン回転数が、緊急停止させる上限のエンジン回転数よりも低い所定回転数よりも高くなった場合に、前記ディーゼルモードに瞬時に切り換えるものとしても構わない。」とあるのを、「このようなエンジン装置において、前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中において、測定されたエンジン回転数が、緊急停止させる上限のエンジン回転数よりも低い所定回転数よりも高くなった場合に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断するものとしても構わない。」に訂正する。

(7) 訂正事項7
明細書の段落【0013】に「このようなエンジン装置において、前記運転モードの切換時において、切換開始時のエンジン負荷との減少量が所定量よりも大きくなった場合に、前記ディーゼルモードに瞬時に切り換えるものとしても構わない。」とあるのを、「このようなエンジン装置において、前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中において、切換開始時のエンジン負荷との減少量が所定量よりも大きくなった場合に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断するものとしても構わない。」に訂正する。

(8) 訂正事項8
明細書の段落【0014】に「このようなエンジン装置において、前記運転モードの切換時において、気体燃料供給量に対する液体燃料供給量の比率が所定値よりも小さくなった場合に、前記ディーゼルモードに瞬時に切り換えるものとしても構わない。」とあるのを、「このようなエンジン装置において、前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中において、気体燃料供給量に対する液体燃料供給量の比率が所定値よりも小さくなった場合に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断するものとしても構わない。」に訂正する。

(9) 訂正事項9
明細書の段落【0018】に「本願発明によると、運転モードの切換時において、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断したときに、ディーゼルモードに瞬時に切り換えるため、エンジ負荷の変動量に応じてエンジン装置の運転モードを緊急避難的にディーゼルモードに切り換えることができる。即ち、運転モードの切換時において、エンジン負荷が大きく変動したとしても、エンジン装置のエンジン回転数が上限のエンジン回転数に達することを防ぐことができ、エンジン装置の緊急停止を回避できる。」とあるのを、「本願発明によると、ガスモード及びディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中において、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断したときに、ディーゼルモードに瞬時に切り換えるため、エンジ負荷の変動量に応じてエンジン装置の運転モードを緊急避難的にディーゼルモードに切り換えることができる。即ち、ガスモード及びディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中において、エンジン負荷が大きく変動したとしても、エンジン装置のエンジン回転数が上限のエンジン回転数に達することを防ぐことができ、エンジン装置の緊急停止を回避できる。」に訂正する。

(10) 訂正事項10
明細書の段落【0019】に「本願発明によると、運転モードの切換時において、切換閾値をエンジン回転数又はエンジン負荷に基づいて設定するものであるから、低負荷又は低回転での運転時には、エンジン回転数が上限値を超える回転数(オーバースピード)まで上昇することがなく、高負荷又は高回転での運転時には、負荷変動に対する対応性を良好に維持できる。」とあるのを、「本願発明によると、ガスモード及びディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中において、切換閾値をエンジン回転数又はエンジン負荷に基づいて設定するものであるから、低負荷又は低回転での運転時には、エンジン回転数が上限値を超える回転数(オーバースピード)まで上昇することがなく、高負荷又は高回転での運転時には、負荷変動に対する対応性を良好に維持できる。」に訂正する。

(11) 訂正事項11
明細書の段落【0109】に「本実施例では、図24のフローチャートに示すように、上述の基本となる制御動作と異なり、エンジン制御装置73は、エンジン制御装置73は、エンジン装置21の運転モードをガスモードに切り換えるものと判断すると(STEP602でYes)、」とあるのを、「本実施例では、図24のフローチャートに示すように、上述の基本となる制御動作と異なり、エンジン制御装置73は、エンジン装置21の運転モードをガスモードに切り換えるものと判断すると(STEP602でYes)、」に訂正する。

(12) 訂正事項12
明細書の段落【0124】に「なお、上述の瞬時切換の判定動作について、ガスモードからディーゼルモードへの切換を実行されている際に行われるものとして説明したが、上記第1及び第2例のように、エンジン回転数又はエンジン負荷に基づいて判定する場合、ガスモードからディーゼルモードへの切換を実行されている際にも、瞬時切換の判定動作を実行できる。」とあるのを「なお、上述の瞬時切換の判定動作について、ガスモードからディーゼルモードへの切換を実行されている際に行われるものとして説明したが、上記第1及び第2例のように、エンジン回転数又はエンジン負荷に基づいて判定する場合、ディーゼルモードからガスモードへの切換を実行されている際にも、瞬時切換の判定動作を実行できる。」に訂正する。

2.訂正事項の適否について
(1)訂正事項1ないし4について
ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア) 訂正事項1について
訂正前の請求項1に「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方に運転モードを切り換える際に、」とあるのを、ディーゼルモードへの緊急切換の時期について、切り換える時点を指すのか、切り換えている期間を指すのか等、多義的な意味に解せた記載を「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中に、」と明確化し減縮するものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる。
そして訂正事項1は、発明特定事項を減縮するものであり、また明細書の段落【0114】、【0118】及び【0123】の記載事項並びに図25、図27及び図29の図示内容の範囲内のものであるから新規事項の追加には該当せず、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(イ) 訂正事項2について
請求前の請求項2に「前記運転モードの切換時」とあるのを「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中」に明確化し減縮するとともに、引用する請求項1の「エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断」することの下位概念として、「緊急停止させる上限のエンジン回転数よりも低い所定回転数よりも高くなった場合」があることを明確化し減縮するために、補正前の「前記ディーゼルモードに瞬時に切り換える」とあるのを「エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断する」とするものであるから、訂正事項2は、全体として特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる。
そして訂正事項2は、発明特定事項を減縮するものであり、また明細書の段落【0114】等の記載事項の範囲内のものであるから新規事項の追加には該当せず、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(ウ) 訂正事項3について
請求前の請求項3に「前記運転モードの切換時」とあるのを「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中」に明確化し減縮するとともに、引用する請求項1の「エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断」することの下位概念として、「切換開始時のエンジン負荷との減少量が所定量よりも大きくなった場合」があることを明確化し減縮するために、補正前の「前記ディーゼルモードに瞬時に切り換える」とあるのを「エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断する」とするものであるから、訂正事項3は、全体として特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる。
そして訂正事項3は、発明特定事項を減縮するものであり、また明細書の段落【0118】等の記載事項の範囲内のものであるから新規事項の追加には該当せず、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(エ) 訂正事項4について
請求前の請求項4に「前記運転モードの切換時」とあるのを「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中」に明確化し減縮するとともに、引用する請求項1の「エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断」することの下位概念として、「気体燃料供給量に対する液体燃料供給量の比率が所定値よりも小さくなった場合」があることを明確化し減縮するために、補正前の「前記ディーゼルモードに瞬時に切り換える」とあるのを「エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断する」とするものであるから、訂正事項4は、全体として特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる。
そして訂正事項4は、発明特定事項を減縮するものであり、また明細書の段落【0123】等の記載事項の範囲内のものであるから新規事項の追加には該当せず、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

イ 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2ないし4は、いずれも訂正前の請求項1を引用し、訂正前の請求項5は訂正前の請求項1ないし4のいずれか一項を引用し、訂正前の請求項6は訂正前の請求項1ないし5のいずれか一項を引用しているものであるから、訂正前の請求項1ないし6は、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1及び同請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし6は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
したがって、訂正事項1ないし4の訂正は、当該一群の請求項[1-6]に対し請求されたものである。

(2)訂正事項5ないし12について
訂正事項5ないし12は、上記訂正事項1ないし4に係る訂正にともなって、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図り明瞭とするための訂正であるから、訂正事項5ないし12は、いずれも明瞭でない記載の釈明を目的としたものといえる。
そして訂正事項5ないし12は、上記訂正事項1ないし4の訂正内容と整合させるもので訂正事項1ないし4と同じ内容であり、訂正事項1ないし4は、上記「第2 2.(1)ア」で述べたように新規事項の追加には該当せず、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号または第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法126条第4項ないし第6項までの規定に適合するものであるから、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-6]について訂正することを認める。

第3 本件発明について
特許第6450286号の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、本件訂正請求により訂正された訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるものである。

「【請求項1】
シリンダ内へ空気を供給させる吸気マニホールドと、前記シリンダからの排気ガスを排気させる排気マニホールドと、前記吸気マニホールドから供給される空気に気体燃料を混合させるガスインジェクタと、前記シリンダに液体燃料を噴射して燃焼させるメイン燃料噴射弁とを備え、複数の前記シリンダそれぞれに対して前記ガスインジェクタと前記メイン燃料噴射弁とを設けており、前記シリンダ内に前記気体燃料を投入するガスモードと前記シリンダ内に前記液体燃料を投入するディーゼルモードのいずれかで駆動するエンジン装置において、
前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードを切り換え中に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断したときに、前記ディーゼルモードに瞬時に切り換えることを特徴とするエンジン装置。
【請求項2】
前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードを切り換え中において、測定されたエンジン回転数が、緊急停止させる上限のエンジン回転数よりも低い所定回転数よりも高くなった場合に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断することを特徴とする請求項1に記載のエンジン装置。
【請求項3】
前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードを切り換え中において、切換開始時のエンジン負荷との減少量が所定量よりも大きくなった場合に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断することを特徴とする請求項1に記載のエンジン装置。
【請求項4】
前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードを切り換え中において、気体燃料供給量に対する液体燃料供給量の比率が所定値よりも小さくなった場合に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断することを特徴とする請求項1に記載のエンジン装置。
【請求項5】
前記ガスモードから前記ディーゼルモードに瞬時に切り換える際には、前記ディーゼルモードに切り換えた後の液体燃料の供給量をエンジン回転数又はエンジン負荷に基づいて設定して前記液体燃料の供給を開始することを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載のエンジン装置。
【請求項6】
前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方に運転モードを切り換える際に、切換後の運転モードで投入させる第1燃料の供給量を、単調増加させる増量制御により切換閾値まで増量させた後、エンジン回転数に基づく調速制御によって制御しており、
前記切換閾値を、エンジン回転数又はエンジン負荷に基づいて設定していることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載のエンジン装置。」

第4 取消理由について
1.取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし6に係る特許に対して、当審が令和元年11月1日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

(1)(明確性)本件特許出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

(2)(進歩性)請求項1ないし5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

甲第1号証:橋本徹、舶用4サイクルDF機関について、日本海事協会会誌 第305号 2013年(IV号)、一般財団法人 日本海事協会、2013年、p13-19
甲第2号証:特開2014-118843号公報
甲第3号証:往復動内燃機関-性能- 第6部:過回転速度防止、JIS B 8002-6:1998、財団法人 日本規格協会、平成10年11月30日、p1-8

2.特許法第36条第6項第2号の判断
本件発明1の「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードを切り換え中に」は、切り換えの時期が明確である。
本件発明2の「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードを切り換え中に」は、切り換えの時期が明確であり、また、「緊急停止させる上限のエンジン回転数よりも低い所定回転数よりも高くなった場合」は、引用する請求項1の「エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断」することの下位概念であることが明確である。
本件発明3の「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードを切り換え中に」は、切り換えの時期が明確であり、また、「切換開始時のエンジン負荷との減少量が所定量よりも大きくなった場合」は、引用する請求項1の「エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断」することの下位概念であることが明確である。
本件発明4の「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードを切り換え中に」は、切り換えの時期が明確であり、また、「気体燃料供給量に対する液体燃料供給量の比率が所定値よりも小さくなった場合」は、引用する請求項1の「エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断」することの下位概念であることが明確である。
そして、本件発明1ないし4のいずれかを引用する本件発明5、及び、本件発明1ないし5のいずれかを引用する本件発明6も、明確である。
そうすると、本件発明1ないし6に係る特許請求の範囲の記載は、いずれも明確である。

3.特許法第29条第2項の判断
(1)甲第1号証ないし甲第3号証について
ア 甲第1号証の記載
甲第1号証には、「舶用4サイクルDF機関について」に関し、図面(特に、図2ないし5を参照。)と共に、次の記載がある。(下線は、理解の一助とするため当審で付したもの。以下、同様。)

(ア) 「2.1 燃料供給
DFはDualFuelの頭文字をとったものであり2元燃料を意味し、DF機関での燃料は、一般的にディーゼル燃料とガス燃料を指す。DF機関では、この燃料を同時に使うのではなく、ディーゼル燃料のみ、ガス燃料のみで運転を行うことができる。但し、ガス燃料の運転では、点火源として、少量のディーゼル燃料を用いる。なお、ディーゼル燃料での運転をディーゼルモード、ガス燃料での運転をガスモードと称し、運転中にこの運転モードを切替えることが出来る。図2に、それぞれのモードにおける燃料の供給方法を示す。ディーゼルモードでは、通常のディーゼルエンジンと同様にディーゼル燃料が直接燃焼室に噴射され、自己着火により燃焼する。一方、ガスモードでは、ガス燃料は吸気ポートに噴射され、空気と供に燃焼室に供給され、その後少量のディーゼル燃料により点火されて燃焼する。このため、DF機関では、ディーゼル燃料を噴射するための燃料噴射弁と、ガス燃料を噴射するためのガス供給電磁弁の両方を備えている。」(13頁左欄下3行ないし右欄16行)

(イ)「2.2 モード切替えの運用
DF機関は運転中にディーゼルモードとガスモードを切替えることが出来る機関であり、想定している運用を図3に示す。
<起動時>
起動時は、機関の温度が低く、燃焼時の燃焼室内温度が低い。一方、ガスモードの場合、点火源であるディーゼル燃料は少量のため、温度が低いと自己着火しづらい。このため、ガスモードでの運転は難しい。したがって、起動はディーゼル燃料だけを用いるディーゼルモードで行う。
<通常運転>
通常運転時は、ディーゼルモードでもガスモードでも運転を行うことが出来る。ただし、ガスモードに切替える際は、点火用のディーゼル燃料が十分自己着火するよう、機関の温度が温まっていることが必要である。なお、DF機関を舶用に用いることの目的は、ガス燃料の使用による環境負荷低減であることから、通常運転では、ガスモードでの運用になると考えられる。
<非常時>
ガスモードでの運転が困難となった場合、ディーゼルモードへ瞬時に切替える。」(13頁下9行ないし14頁左欄14行)

(ウ) 「2.3 モード切替え操作
モード切替え操作の例を図4、図5に示す。図4はディーゼルモードからガスモードに切替える際の様子を示したものである。切替え開始前までは、ディーゼル燃料用のガナバ(以下ディーゼルガナバと略す)(当審注:「ガナバ」は「ガバナ」の誤記。以下同じ。)にてエンジン回転数を制御している。切替えを開始するとディーゼルガナバの信号は一定の割合まで下がり、ディーゼル燃料を減らしていく。そのままではエンジン回転数は低下するが、切替え開始と同時にガス燃料用のガバナ(以下ガスガバナと略す)がエンジン回転数を調整し始める。これにより、エンジン回転数は一定速度を保つことが出来る。その後、ディーゼルガバナ信号が低下し、その信号がガスモード時の値となったところでモード切替えが終了する。なお、ガスモードへの切替えは急速に行う必要がないため、数十秒にて行われる。一方、ガスモードからディーゼルモードへの切替えは非常時の場合があり、急を要することがある。図5急速にガスモードからディーゼルモードに切替えた例である。切替え開始と同時にそれまでガバニングを行っていたガスガバナの信号が瞬時にゼロになる。これに対してディーゼルガバナ信号が瞬時上昇しエンジン回転数を調整する。このときの切替え時間は1秒以下である。このように瞬時に切替えることにより、ガスモード運転中に電気・制御系が故障した場合でも、エンジン回転数を維持し、運転を継続することが出来る。」(14頁左欄下17行ないし右欄9行)

(エ) 図2には、シリンダ内へ空気を供給させる吸気ポート、及び、DF機関のシリンダに対して(燃料)ガス供給電磁弁と燃料噴射弁とを備えている点が示されている。また、シリンダからの排気ガスを排気させる排気ポートが備えられていることは、技術常識から、記載されているに等しい事項といえる。

上記記載及び図示内容を総合すると、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

「シリンダ内へ空気を供給させる吸気ポートと、前記シリンダからの排気ガスを排気させる排気ポートと、前記吸気ポートから供給される空気にガス燃料を噴射させるガス供給電磁弁と、直接燃焼室にディーゼル燃料を噴射して燃焼させる燃料噴射弁とを備え、シリンダに対して前記ガス供給電磁弁と、前記燃料噴射弁とを設けており、前記ガス燃料のみで運転するガスモードと前記ディーゼル燃料のみで運転するディーゼルモードで運転する舶用DF機関において、
前記ガスモードでの運転が困難となった場合、あるいは、前記ガスモードから前記ディーゼルモードへの切替えの場合、前記ディーゼルモードへ瞬時に切替える、舶用DF機関。」

また、上記ウの記載及び図示内容を総合すると、甲第1号証には、以下の技術事項(以下「甲1記載事項」という。)が記載されている。
「舶用DF機関において、ガスモードからディーゼルモードへ瞬時に切替える際は、前記ディーゼルモードに切り換えた後のディーゼルガバナ信号が瞬時に上昇しエンジン回転数を調整する点。」

イ 甲第2号証の記載
甲第2号証には、「内燃機関の燃料噴射制御装置」に関し、図面と共に、次の記載がある。
「【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態を、図面を参照しつつ説明する。本実施形態は、ガス燃料である圧縮天然ガス(CNG)と液体燃料であるガソリンとを燃焼用の燃料として使用する、いわゆるバイフューエルタイプの車載多気筒エンジン(多気筒内燃機関)に適用される燃料噴射システムとして具体化するものとしている。本システムの全体概略図を図1に示す。
【0012】
図1に示すエンジン10は直列3気筒の火花点火式エンジンよりなり、その吸気ポート及び排気ポートには吸気系統11、排気系統12がそれぞれ接続されている。吸気系統11は、吸気マニホールド13と吸気管14とを有している。吸気マニホールド13は、エンジン10の吸気ポートに接続される複数(エンジン10の気筒数分)の分岐管部13aと、その上流側であって吸気管14に接続される集合部13bとを有している。吸気管14には空気量調整手段としてのスロットル弁15が設けられている。このスロットル弁15は、DCモータ等のスロットルアクチュエータ15aにより開度調節される電子制御式のスロットル弁として構成されている。スロットル弁15の開度(スロットル開度)は、スロットルアクチュエータ15aに内蔵されたスロットル開度センサ15bにより検出されるようになっている。
【0013】
また、排気系統12は、排気マニホールド16と排気管17とを有している。排気マニホールド16は、エンジン10の排気ポートに接続される複数(エンジン10の気筒数分)の分岐管部16aと、その下流側であって排気管17に接続される集合部16bとを有している。排気管17には、排気の成分を検出する排気センサ18と、排気を浄化する触媒19とが設けられている。排気センサ18としては、排気中の酸素濃度から空燃比を検出する空燃比センサが設けられている。
【0014】
エンジン10の各気筒には点火プラグ20が設けられている。点火プラグ20には、点火コイル等よりなる点火装置20aを通じて、所望とする点火時期に高電圧が印加される。この高電圧の印加により、各点火プラグ20の対向電極間に火花放電が発生し、気筒内(燃焼室内)に導入した燃料が着火され燃焼に供される。
【0015】
また、本システムは、エンジン10に対して燃料を噴射供給する燃料噴射手段として、ガス燃料(CNG燃料)を噴射する第1噴射弁21と、液体燃料(ガソリン)を噴射する第2噴射弁22とを有している。これら各噴射弁21,22は、吸気系統11において吸気マニホールド13の分岐管部13aにそれぞれ燃料を噴射するものであり、第1噴射弁21の噴射によりガス燃料が各気筒の吸気ポートに供給され、第2噴射弁22の噴射により液体燃料が各気筒の吸気ポートに供給される。」

上記記載事項及び図示内容を総合すると、甲第2号証には、次の技術事項(以下「甲2記載事項」という。)が記載されている。
「ガス燃料と液体燃料を使用するバイフューエルタイプの車両用多気筒内燃機関において、吸気マニホールド13と、排気マニホールド16とを有し、多気筒それぞれにガス燃料を噴射する第1噴射弁21と、液体燃料を噴射する第2噴射弁とを有している点。」

ウ 甲第3号証について
甲第3号証には、図1と共に、次の記載がある。
(ア) 「1.適用範囲 この規格は、往復動内燃機関(以下、機関という。)及びその被駆動装置の保護のために用いられる過回転防止装置について一般要求事項及び用語の定義を規定する。
この規格は、航空機を駆動する機関を除いた、すべての往復動内燃機関に適用する。」

(イ) 「4.1 過回転速度防止装置(overspeed limiting device) あらかじめ定められた回転速度を超えたときに、回転速度を検知する部分と、それによって燃料供給、吸入空気又は点火システムを制御する部分との結合体。」

(ウ) 「4.4 過回転防止作動回転速度 (operateing speed of overspeed limiting device) 過回転速度防止装置が、定められた設定回転速度に対し作動を始める回転速度。」

(エ) 「4.5 最大許容回転速度[nmax(maximum permissible speed)]機関製造業者又はセット(機関及び被駆動装置の結合体)の製造業者が指定する最大回転速度であり、安全確保のため限界回転速度より低く定めた回転速度(備考及び図1を参照)。」

(オ) 「5.一般要求事項
5.3 セットの製造業者は、過回転速度防止装置の設定回転速度が最大許容回転速度(4.5)に対し、十分余裕があることを保証しなければならない。」

(カ) 「6.過回転速度防止の特徴
6.1 過回転速度防止装置は、いかなる場合でも、機関制御系の通常の運転に影響を与えてはならない。ただし、過回転速度に達した場合には、過回転速度防止装置が機関制御系に優先して過回転速度を修正するか、機関を停止させる。」

(キ)図1には、最大許容回転速度を上限として運転している点、及び、過回転速度防止装置の作動開始回転速度は最大許容回転速度よりも低く設定されている点、が示されている。

上記記載事項及び図示内容を総合すると、甲第3号証には以下の技術事項(以下「甲3記載事項)が記載されている。
「内燃機関において、回転速度が最大許容回転速度よりも低い過回転速度防止装置の作動開始回転速度となった場合に、燃料供給、吸入空気または点火システムを制御する点。」

(2) 対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、後者の「ガス燃料」は、その機能、技術的意義等からみて、前者の「気体燃料」に相当し、以下同様に、「噴射させる」は「混合させる」に、「ガス供給電磁弁」は「ガスインジェクタ」に、「ディーゼル燃料」は「液体燃料」に、「燃料噴射弁」は「メイン燃料噴射弁」に、「ガス燃料のみで運転するガスモードとディーゼル燃料のみで運転するディーゼルモードで運転する」は「シリンダ内に気体燃料を投入するガスモードとシリンダ内に前記液体燃料を投入するディーゼルモードのいずれかで駆動する」に、「舶用DF機関」は「エンジン装置」に、それぞれ相当する。
また、後者の「吸気ポート」及び「排気ポート」とは、前者の「吸気マニホールド」及び「排気マニホールド」と、それぞれ「吸気部」及び「排気部」の限りで一致する。
そして、後者の「ディーゼルモードへ瞬時に切替え」ることは、前者の「ディーゼルモードに瞬時に切り換えること」に相当し、また、後者の「前記ガスモードでの運転が困難となった場合、あるいは、前記ガスモードから前記ディーゼルモードへの切替えの場合、」と,前者の「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードを切り換え中に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断したときに」は、「所定の場合に」の限りにおいて一致する。

そうすると、両者は、下記の一致点、相違点がある。

[一致点]
「シリンダ内へ空気を供給させる吸気部と、前記シリンダからの排気ガスを排気させる排気部と、前記吸気部から供給される空気に気体燃料を混合させるガスインジェクタと、前記シリンダに液体燃料を噴射して燃焼させるメイン燃料噴射弁とを備え、前記シリンダに対して前記ガスインジェクタと前記メイン燃料噴射弁とを設けており、前記シリンダ内に前記気体燃料を投入するガスモードと前記シリンダ内に前記液体燃料を投入するディーゼルモードのいずれかで駆動するエンジン装置において、
所定の場合に、前記ディーゼルモードに瞬時に切り換えるエンジン装置。」

[相違点1]
「吸気部」、「排気部」及び「シリンダ」の構造に関し、本件発明1は、「吸気マニホールド」及び「排気マニホールド」であって、「複数の」シリンダ「それぞれ」に対してガスインジェクタとメイン燃料噴射弁とを設けているのに対し、甲1発明は、「吸気ポート」及び「排気ポート」であって、複数のシリンダを有しているのかが明示されていない点。

[相違点2]
「所定の場合に」に関し、本願発明1は、「ガスモード及びディーゼルモードの一方から他方への運転モードを切り換え中に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断したときに」であるのに対し、甲1発明は、「前記ガスモードでの運転が困難となった場合、あるいは、前記ガスモードから前記ディーゼルモードへの切替えの場合」である点。

事案に鑑み、相違点2について検討する。
本件発明1の「ガスモード及びディーゼルモードの一方から他方への運転モードを切り換え中に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断したときに、」前記ディーゼルモードに瞬時に切り換えるとは、「燃料ガスのみのガスモードから燃料油のみのディーゼルモードへ、あるいは、燃料油のみのディーゼルモードから燃料ガスのみのガスモードへの運転モードの切り換え中に、異常と判断したときに、」緊急避難措置を講じるものであり、これにより、運転モード切り換え時の異常による緊急停止を回避する効果を奏するものである。
一方、甲第1号証には、「ガスモード」及び「ディ-ゼルモード」に関し、「DF機関では、この燃料を同時に使うのではなく、ディーゼル燃料のみ、ガス燃料のみで運転を行うことができる。但し、ガス燃料の運転では、点火源として、少量のディーゼル燃料を用いる。なお、ディーゼル燃料での運転をディーゼルモード、ガス燃料での運転をガスモードと称し、運転中にこの運転モードを切替えることが出来る。」との記載があり、「ガスモード」とは、ガス燃料のみでの運転であり、「ディーゼルモード」とは、ディーゼル燃料のみでの運転であることが記載されている。これらを踏まえると、甲1発明の「ガスモードでの運転が困難となった場合」とは、運転モード切り換え中ではなく、「燃料ガスのみのガスモードでの運転が困難となった場合」と解され、また、「ガスモードからディーゼルモードへの切替えの場合」とは、異常時であるか否かによらず「ガス燃料のみの運転からディーゼル燃料のみの運転への切替えの場合」と解される。そうすると、甲1発明は、本件発明1のような、ガスモードからディーゼルモードへ、あるいは、ディーゼルモードからガスモードへの切り換え中に、かつ、異常と判断したときの対応が開示されているとはいえず、また示唆されているともいえない。
ここで、甲3記載事項は、上記「第4 3.(1)ウ」で記載のとおり、「内燃機関において、回転速度が最大許容回転速度よりも低い過回転速度防止装置の作動開始回転速度となった場合に、燃料供給、吸入空気または点火システムを制御する点。」で回転速度に基づく異常時の判断に関する技術事項である。そうすると、甲3記載事項を甲1発明に適用したとしても、「ガスモード及びディーゼルモードの一方から他方への運転モードを切り換え中に、」かつ「エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断したときに、」という、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項には至らず、また容易に想到し得たことともいえない。
また、甲1記載事項は、「第4 3.(1)ア」で記載のとおり、「舶用DF機関において、ガスモードからディーゼルモードへ瞬時に切替える際は、前記ディーゼルモードに切り換えた後のディーゼルガバナ信号が瞬時に上昇しエンジン回転数を調整する点。」でモードを切り換える際のディーゼルガバナの調整に関するものであり、また、甲2記載事項は、上記「第4 3.(1)イ」で記載のとおり、「ガス燃料と液体燃料を使用するバイフューエルタイプの車両用多気筒内燃機関において、吸気マニホールド13と、排気マニホールド16とを有し、多気筒それぞれにガス燃料を噴射する第1噴射弁21と、液体燃料を噴射する第2噴射弁とを有している点。」で内燃機関の構造に関するものである。そうすると、甲1記載事項及び甲2記載事項を踏まえても、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を想到することが容易とはいえず、また、出願時の周知技術を踏まえても当業者にとって容易ともいえない。
以上のとおり、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1発明、甲1記載事項、甲2記載事項及び甲3記載事項に基づき、当業者が容易になし得たものとはいえない。

したがって、本件発明1は、相違点1を検討するまでもなく、甲1発明、甲1記載事項、甲2記載事項及び甲3記載事項に基づき、当業者であれば、容易になし得たものとはいえない。

イ 本件発明2について
本件発明2と甲1発明とを対比すると、上記「第4 3.(2)ア 本件発明1について」の[一致点]、[相違点1]及び[相違点2]に加え、下記の相違点を有している。

[相違点3]
「所定の場合に」に関し、本件発明2は「測定されたエンジン回転数が、緊急停止させる上限のエンジン回転数よりも低い所定回転数よりも高くなった場合に、」エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断するものであるのに対し、甲1発明は、そのよう技術事項を有しない点。

そして、相違点2についての判断は、 上記「第4 3.(2)ア 本件発明1について」において述べたとおりである。

そうすると、本件発明2は、相違点1及び相違点3を検討するまでもなく、甲1発明、甲1記載事項、甲2記載事項及び甲3記載事項に基づき、当業者であれば、容易になし得たものとはいえない。

ウ 本件発明3について
本件発明3と甲1発明とを対比すると、上記「第4 3.(2)ア 本件発明1について」の[一致点]、[相違点1]及び[相違点2]に加え、下記の相違点を有している。

[相違点4]
「所定の場合に」に関し、本件発明3は、「切換開始時のエンジン負荷との減少量が所定量よりも大きくなった場合に、」エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断するものであるのに対し、甲1発明は、そのような技術事項を有していない点。

そして、相違点2の判断については、 上記「第4 3.(2)ア 本件発明1について」において述べたとおりである。

そうすると、本件発明3は、相違点1及び相違点4を検討するまでもなく、甲1発明、甲1記載事項、甲2記載事項及び甲3記載事項に基づき、当業者であれば、容易になし得たものとはいえない。

エ 本件発明4について
本件発明4と甲1発明とを対比すると、上記「第4 3.(2)ア 本件発明1について」の[一致点]、[相違点1]及び[相違点2]に加え、下記の相違点を有している。

[相違点5]
本件発明4は、「運転モードの切換時において、気体燃料供給量に対する液体燃料供給量の比率が所定値よりも小さくなった場合に、」エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断するものであるのに対し、甲1発明は、そのような技術事項を有していない点。

そして、相違点2についての判断は、 上記「第4 3.(2)ア 本件発明1について」において述べたとおりである。

そうすると、本件発明4は、相違点1及び相違点5を検討するまでもなく、甲1発明、甲1記載事項、甲2記載事項及び甲3記載事項に基づき、当業者であれば、容易になし得たものとはいえない。

オ 本件発明5について
本件発明5と甲1発明とを対比すると、上記「第4 3.(2)ア 本件発明1について」の[一致点]、[相違点1]及び[相違点2]、上記「第4 3.(2)イ 本件発明2について」の[相違点3]、上記「第4 3.(2)ウ 本件発明3について」の[相違点4]及び上記「第4 3.(2)エ 本件発明4について」の[相違点5]に加え、下記の相違点を有している。

[相違点6]
本件発明は、「ガスモードからディーゼルモードに瞬時に切り換える際には、前記ディーゼルモードに切り換えた後の液体燃料の供給量をエンジン回転数又はエンジン負荷に基づいて設定して前記液体燃料の供給を開始する」のに対し、甲1発明は、そのような技術事項を含まない点。

そして、相違点2についての判断は、 上記「第4 3.(2)ア 本件発明1について」において述べたとおりである。

そうすると、本件発明5は、相違点1及び相違点2ないし6を検討するまでもなく、甲1発明、甲1記載事項、甲2記載事項及び甲3記載事項に基づき、当業者であれば、容易になし得たものとはいえない。

(3)異議申立人の意見について
異議申立人は、令和2年2月7日付けの意見書において、次の点を主張している。
ア 訂正事項2ないし4、6ないし8について
訂正後請求項2の記載は、訂正前請求項2に記載の「前記ディーゼルモードに瞬時に切り換える」との事項を削除して、新たに「エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断する」との事項を付加するものである。もっとも、訂正前請求項2の記載の「前記ディーゼルモードに瞬時に切り換える」との事項、及び訂正後請求項2の記載の「エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断する」との事項は、そもそも訂正前の請求項2が引用する訂正前の請求項1に「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方に運転モードを切り換える際に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断したときに、前記ディーゼルモードに瞬時に切り換える」と記載されている事項である。しからば、請求項2の「前記ディーゼルモードに瞬時に切り換える」を、「エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断する」との訂正は、上記のとおり、訂正前の請求項2が引用する訂正前の請求項1に記載されている事項であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。
訂正事項3及び4並びに6ないし8についても同様のことがいえるから、訂正事項3、4、及び6ないし8は、特許請求の範囲の減縮、誤記又は誤訳の訂正、明瞭でない記載の釈明、及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものではない。

上記主張アについて検討するに、訂正前の請求項2は訂正前の請求項1を引用しており、訂正前の請求項1には、「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方に運転モードを切り換える際に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断したときに、前記ディーゼルモードに瞬時に切り換える」との記載がある。
そうすると、訂正後の請求項2の「エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断する」との記載は、訂正前の請求項1の「エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断」することの下位概念として、「緊急停止させる上限のエンジン回転数よりも低い所定回転数よりも高くなった場合」に特許請求の範囲を減縮するものといえる。そして訂正事項2は、発明特定事項を減縮するものであり、新規事項の追加に該当せず、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
また、訂正事項3及び4、6ないし8についても同様である。
したがって、異議申立人の上記主張アは採用できない。

イ 本件発明1ないし5の「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードを切り換え中」との発明特定事項について(特許法第29条第2項違反について)

異議申立人は、甲1発明は、令和1年11月1日付け取消理由通知書(4頁16?25行)に記載のとおり、「・・・前記ガスモードから前記ディーゼルモードに運転モードを切替える際に、非常時の場合、前記ディーゼルモードへ瞬時に切替える・・・」と認定されたとおりのものである。そして、甲1発明の「前記ガスモードから前記ディーゼルモードに運転モードを切替える際」とは、切替える直前、切替える時点、及び切替えている期間のいずれか、またはこれらの全てを意味することは、明らかである。
また、ガスモードからディーゼルモードに瞬時に切替えなければならない「非常時」とは、エンジン装置が、ガスモードでの運転中からガスモードからディーゼルモードに運転モードが切替えるまでの何時(当然、ガスモードからディーゼルモードへの運転モードの切替え中を包含している。)でも発生し得るものであることは、当業者において自明の事項である。そして、訂正後本件発明1において、「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードを切り換え中」としたことにより、格別顕著な作用効果を奏するものではない。
以上を踏まえると、訂正後本件発明1において、ディーゼルモードに瞬時に切り換えることを「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードを切り換え中」とする点は、甲1発明において自明の事項、または当業者が所望により適宜容易になし得る程度の設計的事項である。

上記主張イについて検討するに、上記「第4 3.(2)ア 本件発明1について」の相違点2についての判断で述べたとおり、甲第1号証には、「ガスモード」及び「ディ-ゼルモード」に関し、「DF機関では、この燃料を同時に使うのではなく、ディーゼル燃料のみ、ガス燃料のみで運転を行うことができる。但し、ガス燃料の運転では、点火源として、少量のディーゼル燃料を用いる。なお、ディーゼル燃料での運転をディーゼルモード、ガス燃料での運転をガスモードと称し、運転中にこの運転モードを切替えることが出来る。」との記載があり、「ガスモード」とは、ガス燃料のみでの運転であり、「ディーゼルモード」とは、ディーゼル燃料のみでの運転であることが記載されている。
これらを踏まえると、甲1発明の「ガスモードでの運転が困難となった場合」とは、「燃料ガスのみのガスモードでの運転が困難となった場合」と解され、また、「ガスモードからディーゼルモードへの切替えの場合」とは、異常時であるか否かによらず「ガス燃料のみの運転からディーゼル燃料のみの運転への切替えの場合」と解される。そうすると、甲1発明は、本件発明1のような、ガスモードからディーゼルモードへ、あるいは、ディーゼルモードからガスモードへの切り換え中に、異常と判断したときの対応を開示されておらず、また示唆されているともいえない。
そしてこの発明特定事項により、ガスモード及びディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切換中において、エンジン負荷が大きく変動したとしても、エンジン装置のエンジン回転数が上限値に達することを防止でき、エンジン装置の緊急停止を回避できる。」という顕著な効果を奏するものである。
したがって、上記主張イについては、採用できない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1ないし5は、甲1発明、甲1記載事項、甲2記載事項及び甲3記載事項に基づき、当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、本件発明1ないし5に係る特許は、特許法第36条第2項及び特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)本件発明6についての特許法29条第2項違反について
異議申立人は、特許異議申立書において、本件発明6は、甲1発明、甲2記載事項、及び甲3記載事項、並びに周知の技術事項1、2、及び5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、と主張している。
具体的には、引用する本件発明1ないし5が特許法第29条第2項違反であることを前提に、本件発明6の「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方に運転モードを切り換える際に、切換後の運転モードで投入させる第1燃料の供給量を、単調増加させる増量制御により切換閾値まで増量させた後、エンジン回転数に基づく調速制御によって制御しており、前記切換閾値を、エンジン回転数又はエンジン負荷に基づいて設定している」との点は、甲第1号証及び周知の技術事項5(【甲第5号証】?【甲第7号証】)に示されている、というものである。

甲第5号証:特開2000-145488号公報
甲第6号証:特開2003-065112号公報
甲第7号証:国際公開第2015/129547号

上記理由について検討するに、本件発明6は、本件発明1ないし5のいずれかを引用するものであるから、上記発明特定事項を検討するまでもなく、本件発明1ないし5と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明6の上記発明特定事項について更に検討しても、甲第1号証及び甲第5号証ないし甲第7号証の記載事項には、「前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方に運転モードを切り換える際に、切換後の運転モードで投入させる第1燃料の供給量を、単調増加させる増量制御により切換閾値まで増量させた後、エンジン回転数に基づく調速制御によって制御しており、前記切換閾値を、エンジン回転数又はエンジン負荷に基づいて設定している」点については、記載も示唆もされておらず、出願時の周知技術ともいえない。

(2)小括
したがって、本件発明6は、甲1発明、甲1記載事項、甲2記載事項及び甲3記載事項並びに甲第5号証ないし甲第7号証に基づき、当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、本件発明6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではない。

第6 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
エンジン装置
【技術分野】
【0001】
本願発明は、天然ガス等の気体燃料と重油等の液体燃料のいずれにも対応できる多種燃料採用型のエンジン装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばタンカーや輸送船等の船舶や陸上の発電施設においては、その駆動源としてディーゼルエンジンが利用されている。しかしながら、ディーゼルエンジンの排気ガス中には、環境保全の妨げになる有害物質となる、窒素酸化物、硫黄酸化物及び粒子状物質等が多く含まれている。そのため、近年では、ディーゼルエンジンの代替となるエンジンとして、有害物質の発生量を低減できるガスエンジンなどが普及されつつある。
【0003】
天然ガスといった燃料ガスを用いて動力を発生させるいわゆるガスエンジンは、空気に燃料ガスを混合した混合ガスをシリンダに供給して燃焼させる(特許文献1参照)。更には、ディーゼルエンジンの特性とガスエンジンの特性それぞれを組み合わせたエンジン装置として、天然ガス等の気体燃料(燃料ガス)を空気と混合させて燃焼室に供給して燃焼させる予混合燃焼方式と、重油等の液体燃料を燃焼室内に噴射して燃焼させる拡散燃焼方式とを併用できるデュアルフューエルエンジンが提供されている(特許文献2参照)。
【0004】
また、デュアルフューエルエンジンとして、気体燃料によるガスモードから液体燃料によるディーゼルモードに切り換える際に、気体燃料と液体燃料を調整して切り換えるマルチヒューエルエンジン又はバイフューエルエンジンが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-262139号公報
【特許文献2】特開2002-004899号公報
【特許文献3】特開平08-004562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、デュアルフューエルエンジンにおいて、運転モードを切り換える際に、引用文献3のように、気体燃料及び液体燃料を重複させて投入すると同時に、気体燃料及び液体燃料を調整させている。このとき、気体燃料及び液体燃料のうちの一方の供給量について調速制御するとともに他方の供給量をランプ関数的(比例関数的)に増減量制御させることにより、エンジン回転数を目標回転数に合わせるよう調整している。
【0007】
しかしながら、従来においては、調速制御と増減量制御との切換タイミングとなる閾値を、気体燃料及び液体燃料のうちの一方の供給量に基づいて一定値に設定していることが多い。そのため、高回転数でエンジン装置が駆動している際には、切換後の運転モードの燃料を調整制御に変更した場合、その供給量が少ないことから、負荷変動の影響を受けて燃料供給量が大きく変動し、エンジン装置のエンジン回転数が急変動し、場合によっては急停止してしまう場合がある。また、低回転数でエンジン装置が駆動している際には、切換後の運転モードの燃料を調整制御に変更した場合、その供給量が多くなることから、エンジン装置のエンジン回転数が過回転(オーバースピード)となってしまう場合がある。
【0008】
特に、運転モードの切換中において負荷が低下すると、エンジン駆動に必要な燃料供給量が、調速を担っていない燃料(即ち、ランプ関数的に変化する燃料)の供給量よりも少なくなった場合、エンジン装置を調速できなくなって、オーバースピードとなる。エンジン装置は、オーバースピードとなると、その運転動作が危険領域にあるものと判断して、緊急避難的に停止してしまう。
【0009】
また、船舶用の大型エンジン装置においては、緊急時においてディーゼルモードで運転することで、船舶の航行を維持させることが求められている。それに対して、従来のエンジン装置では、緊急時においてガスモードからディーゼルモードへ切り換えた場合に、気筒内の燃料供給過多に基づく筒内圧の過大や異常燃焼の発生や、気筒内の燃料不足による失火の発生により、運転動作が不安定なものとなり、運転を中断して船舶を停止させてしまう恐れがある。
【0010】
そこで、本願発明は、上記のような現状を検討して改善を施したエンジン装置を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、シリンダ内へ空気を供給させる吸気マニホールドと、前記シリンダからの排気ガスを排気させる排気マニホールドと、前記吸気マニホールドから供給される空気に気体燃料を混合させるガスインジェクタと、前記シリンダに液体燃料を噴射して燃焼させるメイン燃料噴射弁とを備え、複数の前記シリンダそれぞれに対して前記ガスインジェクタと前記メイン燃料噴射弁とを設けており、前記シリンダ内に前記気体燃料を投入するガスモードと前記シリンダ内に前記液体燃料を投入するディーゼルモードのいずれかで駆動するエンジン装置において、前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断したときに、前記ディーゼルモードに瞬時に切り換えるというものである。
【0012】
このようなエンジン装置において、前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中において、測定されたエンジン回転数が、緊急停止させる上限のエンジン回転数よりも低い所定回転数よりも高くなった場合に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断するものとしても構わない。
【0013】
このようなエンジン装置において、前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中において、切換開始時のエンジン負荷との減少量が所定量よりも大きくなった場合に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断するものとしても構わない。
【0014】
このようなエンジン装置において、前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中において、気体燃料供給量に対する液体燃料供給量の比率が所定値よりも小さくなった場合に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断するものとしても構わない。
【0015】
上述の各エンジン装置において、前記ガスモードから前記ディーゼルモードに瞬時に切り換える際には、前記ディーゼルモードに切り換えた後の液体燃料の供給量をエンジン回転数又はエンジン負荷に基づいて設定して前記液体燃料の供給を開始するとともに前記気体燃料の供給を停止させた後、前記液体燃料の供給量を調速制御する。このとき、エンジン回転数又はエンジン負荷が低ければ瞬時切換後の前記液体燃料の供給量を少量に設定するものとしても構わない。
【0016】
上述の各エンジン装置において、前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方に運転モードを切り換える際に、切換後の運転モードで投入させる第1燃料の供給量を、単調増加させる増量制御により切換閾値まで増量させた後、エンジン回転数に基づく調速制御によって制御しており、前記切換閾値を、エンジン回転数又はエンジン負荷に基づいて設定しているものとしても構わない。このとき、エンジン回転数又はエンジン負荷が低ければ前記切換閾値を少量に設定するものとしても構わない。
【0017】
このようなエンジン装置において、前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方に運転モードを切り換える際に、切換前の運転モードで投入させている第2燃料の供給量を、エンジン回転数に基づく調速制御によって制御しており、前記増量制御により前記第1燃料の供給量が前記切換閾値に達した後は、第2燃料の供給量を、単調減少させる減量制御により減少させるものとしても構わない。このとき、前記減量制御により前記第2燃料の供給量が下限値に達すると、前記第2燃料の供給を停止させる。
【発明の効果】
【0018】
本願発明によると、ガスモード及びディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中において、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断したときに、ディーゼルモードに瞬時に切り換えるため、エンジ負荷の変動量に応じてエンジン装置の運転モードを緊急避難的にディーゼルモードに切り換えることができる。即ち、ガスモード及びディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中において、エンジン負荷が大きく変動したとしても、エンジン装置のエンジン回転数が上限のエンジン回転数に達することを防ぐことができ、エンジン装置の緊急停止を回避できる。従って、エンジン回転数が上限値を超える回転数(オーバースピード)まで上昇することがないため、このエンジン装置を船舶に搭載させた場合、船舶を緊急停止させることなく、安定した航行を継続させることができる。
【0019】
本願発明によると、ガスモード及びディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中において、切換閾値をエンジン回転数又はエンジン負荷に基づいて設定するものであるから、低負荷又は低回転での運転時には、エンジン回転数が上限値を超える回転数(オーバースピード)まで上昇することがなく、高負荷又は高回転での運転時には、負荷変動に対する対応性を良好に維持できる。即ち、エンジン装置が低負荷又は低回転で運転している際には、切換閾値を小さい値とすることで、目標回転数となるエンジン回転数まで上昇させることなく、モード切換後の燃料の供給を調速制御に切り換えると同時に、モード切換前の燃料の供給を停止させることができる。また、エンジン装置が高負荷又は高回転で運転している際には、切換閾値を大きい値とすることで、エンジン回転数への影響力の大きい燃料の供給量を調速制御することとなる。従って、例えば、急激に負荷が小さくなるような場合であってもエンジン回転数を目標回転数付近に維持でき、緊急停止に結びつくようなエンジン回転数まで上昇することを回避できる。
【0020】
本願発明によると、液体燃料の供給量をエンジン装置の負荷又は回転数に応じて設定するため、低負荷又は低回転での運転時には、エンジン回転数が上限値を超える回転数(オーバースピード)まで上昇することがなく、高負荷又は高回転での運転時には、負荷変動に対する対応性を良好に維持できる。即ち、エンジン装置が低負荷又は低回転で運転している際には、液体燃料を小さい値とすることで、目標回転数となるエンジン回転数まで上昇させることなく、液体燃料の供給を瞬時に調速制御させると同時に、気体燃料の供給を停止できる。また、エンジン装置が高負荷又は高回転で運転している際には、液体燃料の供給量を大きい値とすることで、燃料不足によるエンジン回転数の低下を回避でき、瞬時切換後もエンジン回転数を目標回転数で維持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態における船舶の全体側面図である。
【図2】機関室の側面断面図である。
【図3】機関室の平面説明図である。
【図4】本発明の実施形態におけるエンジン装置の燃料供給路の構成を示す概略図である。
【図5】同エンジン装置における吸排気路の構成を示す概略図である。
【図6】同エンジン装置におけるシリンダヘッド内の構成を模式的に表した概略図である。
【図7】同エンジン装置の制御ブロック図である。
【図8】ガスモード及びディーゼルモードそれぞれにおけるシリンダ内の動作を示す説明図である。
【図9】6気筒で構成するエンジン装置における各シリンダの動作状態を示す状態遷移図である。
【図10】本発明の実施形態におけるエンジン装置の排気マニホールド設置側(右側面)を示す斜視図である。
【図11】同エンジン装置の燃料噴射ポンプ設置側(左側面)を示す斜視図である。
【図12】同エンジン装置の左側面図である。
【図13】同エンジン装置をガスモードで運転させたときの負荷に対する空燃比制御を説明するため図である。
【図14】エンジン制御装置によるガスモードにおける燃料供給制御の基本動作を示すフローチャートである。
【図15】低負荷且つ低回転数におけるエンジン装置をガスモードからディーゼルモードに切り換えた際の、燃料ガス及び燃料油の供給量の遷移とエンジン回転数の関係を示すタイミングチャートである。
【図16】高負荷且つ高回転数におけるエンジン装置をガスモードからディーゼルモードに切り換えた際の、燃料ガス及び燃料油の供給量の遷移とエンジン回転数の関係を示すタイミングチャートである。
【図17】エンジン制御装置によるディーゼルモードにおける燃料供給制御の動作を示すフローチャートである。
【図18】低負荷且つ低回転数におけるエンジン装置をディーゼルモードからガスモードに切り換えた際の、燃料ガス及び燃料油の供給量の遷移とエンジン回転数の関係を示すタイミングチャートである。
【図19】高負荷且つ高回転数におけるエンジン装置をディーゼルモードからガスモードに切り換えた際の、燃料ガス及び燃料油の供給量の遷移とエンジン回転数の関係を示すタイミングチャートである。
【図20】エンジン制御装置によるガスモードにおける燃料供給制御の第1実施例における動作を示すフローチャートである。
【図21】低負荷且つ低回転数におけるエンジン装置に対してディーゼルモードへの瞬時切換を実行させた際の、燃料ガス及び燃料油の供給量の遷移とエンジン回転数の関係を示すタイミングチャートである。
【図22】高負荷且つ高回転数におけるエンジン装置に対してディーゼルモードへの瞬時切換を実行させた際の、燃料ガス及び燃料油の供給量の遷移とエンジン回転数の関係を示すタイミングチャートである。
【図23】エンジン制御装置によるガスモードにおける燃料供給制御の第2実施例における動作を示すフローチャートである。
【図24】エンジン制御装置によるディーゼルモードにおける燃料供給制御の第1実施例における動作を示すフローチャートである。
【図25】エンジン制御装置による瞬時切換の判定動作の第1例を示すフローチャートである。
【図26】ディーゼルモードへの切換時において瞬時切換を実行させた際の、燃料ガス及び燃料油の供給量の遷移とエンジン回転数及びエンジン負荷との関係を示すタイミングチャートである。
【図27】エンジン制御装置による瞬時切換の判定動作の第2例を示すフローチャートである。
【図28】ディーゼルモードへの切換時において瞬時切換を実行させた際の、燃料ガス及び燃料油の供給量の遷移とエンジン回転数及びエンジン負荷との関係を示すタイミングチャートである。
【図29】エンジン制御装置による瞬時切換の判定動作の第3例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本願発明を具体化した実施形態を、2基2軸方式の船舶に搭載される一対の推進兼発電機構に適用した場合の図面に基づいて説明する。
【0023】
まず始めに、船舶の概要について説明する。図1?図3に示すように、本実施形態の船舶1は、船体2と、船体2の船尾側に設けられたキャビン3(船橋)と、キャビン3の後方に配置されたファンネル4(煙突)と、船体2の後方下部に設けられた一対のプロペラ5及び舵6とを備えている。この場合、船尾側の船底7に一対のスケグ8が一体形成されている。各スケグ8には、プロペラ5を回転駆動させる推進軸9が軸支される。各スケグ8は、船体2の左右幅方向を分割する船体中心線CL(図3参照)を基準にして左右対称状に形成されている。すなわち、第1実施形態では、船体2の船尾形状としてツインスケ
グが採用されている。
【0024】
船体2内の船首側及び中央部には船倉10が設けられており、船体2内の船尾側には機関室11が設けられている。機関室11には、プロペラ5の駆動源と船舶1の電力供給源とを兼ねる推進兼発電機構12が船体中心線CLを挟んだ左右に振り分けて一対配置されている。各推進兼発電機構12から推進軸9に伝達された回転動力にて、各プロペラ5は回転駆動する。機関室11の内部は、上甲板13、第2甲板14、第3甲板15及び内底板16にて上下に仕切られている。第1実施形態の各推進兼発電機構12は、機関室11最下段の内底板16上に設置されている。なお、詳細は図示していないが、船倉10は複数の区画に分割されている。
【0025】
図2及び図3に示すように、各推進兼発電機構12は、プロペラ5の駆動源である中速エンジン装置21(実施形態ではデュアルフューエルエンジン)と、エンジン装置21の動力を推進軸9に伝達する減速機22と、エンジン装置21の動力にて発電する軸駆動発電機23とを組み合わせたものである。ここで、「中速」のエンジンとは、毎分500?1000回転程度の回転速度で駆動するものを意味している。ちなみに、「低速」のエンジンは毎分500回転以下の回転速度で駆動し、「高速」のエンジンは毎分1000回転以上の回転速度で駆動する。実施形態のエンジン装置21は中速の範囲内(毎分700?750回転程度)で定速駆動するように構成されている。
【0026】
エンジン装置21は、エンジン出力軸(クランク軸)24を有するシリンダブロック25と、シリンダブロック25上に搭載されたシリンダヘッド26とを備えている。機関室11最下段の内底板16上に、直付け又は防振体(図示省略)を介してベース台27が据え付けられている。ベース台27上にエンジン装置21のシリンダブロック25が搭載されている。エンジン出力軸24は、船体2の前後長さ方向に沿う向きに延びている。すなわち、エンジン装置21は、エンジン出力軸24の向きを船体2の前後長さ方向に沿わせた状態で機関室11内に配置されている。
【0027】
減速機22及び軸駆動発電機23がエンジン装置21よりも船尾側に配置されている。エンジン装置21の後面側からエンジン出力軸24の後端側が突出している。エンジン出力軸の後端側に減速機22が動力伝達可能に連結されている。減速機22を挟んでエンジン装置21と反対側に、軸駆動発電機23が配置されている。機関室11内の前方からエンジン装置21、減速機22、軸駆動発電機23の順に並べて配置されている。この場合、船尾側にあるスケグ8内又はその近傍に減速機22及び軸駆動発電機23が配置されている。従って、船舶1のバドックラインの制約に拘らず、エンジン装置21をできるだけ船尾側に寄せて配置することが可能になっていて、機関室11のコンパクト化に寄与している。
【0028】
減速機22の動力伝達下流側に推進軸9が設けられている。減速機22の外形は、エンジン装置21及び軸駆動発電機23よりも下側に張り出している。当該張り出し部分の後面側に、推進軸9の前端側が動力伝達可能に連結されている。エンジン出力軸24(軸芯線)と推進軸9とは、平面視で同軸状に位置している。推進軸9は、エンジン出力軸24(軸芯線)に対して鉛直方向に異芯した状態で、船体2の前後長さ方向に延びている。この場合、推進軸9は、側面視で軸駆動発電機23及びエンジン出力軸24(軸芯線)よりも低く内底板16に近い位置に置かれている。すなわち、軸駆動発電機23と推進軸9とが上下に振り分けられ、互いに干渉しない。従って、各推進兼発電機構12のコンパクト化が可能になる。
【0029】
エンジン装置21の定速動力は、エンジン出力軸24の後端側から減速機22を介して、軸駆動発電機23と推進軸9とに分岐して伝達される。エンジン装置21の定速動力の一部は、減速機22によって例えば毎分100?120回転前後の回転速度に減速されて、推進軸9に伝達される。減速機22からの減速動力にてプロペラ5が回転駆動する。なお、プロペラ5には、プロペラ羽根の翼角変更によって船速を調節可能な可変ピッチプロペラが採用されている。また、エンジン装置21の定速動力の一部は、減速機22によって例えば毎分1200か1800回転程度の回転速度に増速されて、減速機22に回転可能に軸支されたPTO軸に伝達される。この減速機22のPTO軸の後端側が軸駆動発電機23に動力伝達可能に連結されており、減速機22からの回転動力に基づいて軸駆動発電機23が発電駆動する。軸駆動発電機23の駆動にて生じた発電電力が船体2内の電気系統に供給される。
【0030】
エンジン装置21には、空気取り込み用の吸気経路(図示省略)と排気ガス排出用の排気経路28とが接続されている。吸気経路を通じて取り込まれた空気は、エンジン装置21の各気筒36内(吸気行程の気筒内)に送られる。また、エンジン装置21は2基あるため、排気経路28は2本存在する。各排気経路28はそれぞれ延長経路29に接続されている。延長経路29はファンネル4まで延びていて、外部に直接連通するように構成されている。各エンジン装置21からの排気ガスは、各排気経路28及び延長経路29を経由して、船舶1外に放出される。
【0031】
以上の説明から明らかなように、エンジン装置21と、船舶推進用のプロペラ5を回転駆動させる推進軸9に前記エンジン装置21の動力を伝達する減速機22と、前記エンジン装置21の動力にて発電する軸駆動発電機23とを組み合わせた推進兼発電機構12を一対備えており、一対の推進兼発電機構12は、船体2内の機関室11に、船体中心線CLを挟んだ左右に振り分けて配置されるから、複数台のエンジン(主機関及び補機関)を機関室内に配置する従来構造に比べて、機関室11のエンジン設置スペースを縮小できる。このため、機関室11の前後長を短縮して機関室11をコンパクトに構成でき、ひいては、船体2における船倉スペース(機関室11以外のスペース)の確保がし易い。2つのプロペラ5の駆動によって、船舶1の推進効率向上も図れる。
【0032】
しかも、主機関たるエンジン装置21が2基備わるため、例えば1基のエンジン装置21が故障して駆動不能になったとしても、もう1基のエンジン装置21によって航行可能であり、船舶用原動機装置ひいては船舶1の冗長性を確保できる。その上、前述の通り、エンジン装置21によってプロペラ5の回転駆動と軸駆動発電機23の駆動とを行えるから、通常航行時は、いずれか一方の軸駆動発電機23を予備にできる。従って、例えば1基のエンジン装置21又は軸駆動発電機23の故障によって電力供給が停止した場合、もう1基の軸駆動発電機23を起動させ、周波数及び電圧を確立して給電を復帰させればよい。また、1基のエンジン装置21だけでの航行時にエンジン装置21を停止させた場合は、もう1基の停止中のエンジン装置21、ひいてはこれに対応した軸駆動発電機23を起動させ、周波数及び電圧を確立して給電を復帰させればよい。
【0033】
次に、上記船舶1における主機関として用いられるデュアルフューエルエンジン21の概略構成について、図4?図7を参照して説明する。デュアルフューエルエンジン21(以下、単に「エンジン装置21」と呼ぶ)は、天然ガス等の燃料ガスを空気に混合させて燃焼させる予混合燃焼方式と、重油等の液体燃料(燃料油)を拡散させて燃焼させる拡散燃焼方式とを択一的に選択して駆動する。図4は、エンジン装置21に対する燃料系統を示す図であり、図5は、エンジン装置21における吸排気系統を示す図であり、図7は、エンジン装置21における制御ブロック図である。
【0034】
エンジン装置21は、図4に示すように、二系統の燃料供給経路30,31から燃料が供給されるものであって、一方の燃料供給経路30にガス燃料タンク32が接続されるとともに、他方の燃料供給経路31に液体燃料タンク33が接続される。即ち、エンジン装置21は、燃料供給経路30から燃料ガスがエンジン装置21に供給される一方、燃料供給経路31から燃料油がエンジン装置21に供給される。燃料供給経路30は、液化状態の気体燃料を貯蔵するガス燃料タンク32と、ガス燃料タンク32の液化燃料(燃料ガス)を気化させる気化装置34と、気化装置34からエンジン装置21への燃料ガスの供給量を調整するガスバルブユニット35とを備える。即ち、燃料供給経路30は、ガス燃料タンク32からエンジン装置21に向かって、気化装置34及びガスバルブユニット35が順番に配置されて構成される。
【0035】
エンジン装置21は、図5に示すように、シリンダブロック25に複数の気筒36(本実施形態では6気筒)を直列に並べた構成を有している。各気筒36は、シリンダブロック25内に構成される吸気マニホールド(吸気流路)67と吸気ポート37を介して連通している。各気筒36は、シリンダヘッド26上方に配置される排気マニホールド(排気流路)44と排気ポート38を介して連通している。各気筒36における吸気ポート37に、ガスインジェクタ98を配置する。従って、吸気マニホールド67からの空気が、吸気ポート37を介して各気筒36に供給される一方、各気筒36からの排ガスが、排気ポート38を介して排気マニホールド44に吐出される。また、エンジン装置21をガスモードで運転している場合には、ガスインジェクタ98から燃料ガスを吸気ポート37に供給し、吸気マニホールド67からの空気に燃料ガスを混合して、各気筒35に予混合ガスを供給する。
【0036】
排気マニホールド44の排気出口側に、過給機49のタービン49aの排気入口を接続しており、吸気マニホールド67の空気入口側(新気入口側)に、インタークーラ51の空気吐出口(新気出口)を接続している。インタークーラ51の空気吸入口(新気入口)に、過給機49のコンプレッサ49bの空気吐出口(新気出口)を接続している。コンプレッサ49b及びインタークーラ51の間に、メインスロットル弁V1を配置しており、メインスロットル弁V1の弁開度を調節して、吸気マニホールド67に供給する空気流量を調整する。
【0037】
コンプレッサ49b出口から排出される空気の一部をコンプレッサ49b入口に再循環させる給気バイパス流路17が、コンプレッサ49bの空気吸入口(新気入口)側とインタークーラ51の空気排出口側とを連結している。すなわち、給気バイパス流路17は、コンプレッサ49bの空気吸入口よりも上流側で外気に解放される一方で、インタークーラ51と吸気マニホールド67との接続部分に接続される。この給気バイパス流路17上に、給気バイパス弁V2を配置しており、給気バイパス弁V2の弁開度を調節して、インタークーラ51下流側から吸気マニホールド67へ流れる空気流量を調整する。
【0038】
タービン49aをバイパスさせる排気バイパス流路18が、タービン49aの排気出口側と排気マニホールド44の排気出口側とを連結している。すなわち、排気バイパス流路18は、タービン49aの排気出口よりも下流側で外気に解放される一方で、タービン49aの排気出口とタービン49aの排気入口との接続部分に接続される。この排気バイパス流路18上に、排気バイパス弁V3を配置しており、排気バイパス弁V3の弁開度を調節することで、タービン49aに流れる排ガス流量を調整して、コンプレッサ49bにおける空気圧縮量を調整する。
【0039】
エンジン装置21は、排気マニホールド44からの排気ガスにより空気を圧縮する過給機49と、過給機49で圧縮された圧縮空気を冷却して吸気マニホールド67に供給するインタークーラ51とを有している。エンジン装置21は、過給機49出口とインタークーラ51入口との接続箇所にメインスロットル弁V1を設けている。エンジン装置21は、排気マニホールド44出口と過給機49の排気出口とを結ぶ排気バイパス流路18を備えるとともに、排気バイパス流路18に排気バイパス弁V3を配置する。過給機49をディーゼルモード仕様に最適化した場合に、ガスモード時においても、エンジン負荷の変動に合わせて排気バイパス弁V3の開度を制御することで、エンジン負荷に最適な空燃比を実現できる。そのため、負荷変動時において、燃焼に必要な空気量の過不足を防止でき、エンジン装置21は、ディーゼルモードで最適化した過給機を使用した状態で、ガスモードでも最適に稼働する。
【0040】
エンジン装置21は、過給機49をバイパスする給気バイパス流路17を備え、給気バイパス流路17に給気バイパス弁V2を配置する。エンジン負荷の変動に合わせて給気バイパス弁V2の開度を制御することにより、燃料ガスの燃焼に必要な空燃比に合わせた空気をエンジンに供給できる。また、応答性の良い給気バイパス弁V2による制御動作を併用することで、ガスモードにおける負荷変動への応答速度を速めることができる。
【0041】
エンジン装置21は、インタークーラ51入口とメインスロットル弁V1との間となる位置に、給気バイパス流路17を接続し、コンプレッサ49bから吐出された圧縮空気をコンプレッサ49b入口に帰還させる。これにより、排気バイパス弁V3による流量制御の応答性を給気バイパス弁V2により補うと同時に、給気バイパス弁V2の制御幅を排気バイパス弁V3により補うことができる。従って、舶用用途での負荷変動や運転モードの切換時において、ガスモードにおける空燃比制御の追従性を良好なものとできる。
【0042】
エンジン装置21は、図6に示すように、シリンダブロック25内に円筒形状のシリンダ77(気筒36)が挿入されており、シリンダ77内を上下方向にピストン78が往復動することで、シリンダ77下側のエンジン出力軸24を回転させる。シリンダブロック25上のシリンダヘッド26には、燃料油管42から燃料油(液体燃焼)が供給されるメイン燃料噴射弁79が、先端をシリンダ77に向けて挿入されている。この燃料噴射弁79は、シリンダ77の上端面の中心位置に先端を配置しており、ピストン78上面とシリンダ77の内壁面とで構成される主燃焼室に燃料油を噴射する。従って、エンジン装置21が拡散燃焼方式で駆動するとき、燃料噴射弁79から燃料油がシリンダ77内の主燃焼室に噴射されることで、主燃焼室では、圧縮空気と反応して拡散燃焼を発生させる。
【0043】
各シリンダヘッド26において、メイン燃料噴射弁79の外周側に吸気弁80及び排気弁81を摺動可能に設置している。吸気弁80が開くことにより、吸気マニホールド67からの空気をシリンダ77内の主燃焼室に吸気させる一方で、排気弁81が開くことにより、シリンダ77内の主燃焼室での燃焼ガス(排気ガス)を排気マニホールド44へ排気させる。カムシャフト(図示省略)の回転に応じて、プッシュロッド(図示省略)それぞれが上下動することで、ロッカーアーム(図示省略)が揺動し、吸気弁80及び排気弁81それぞれを上下動させる。
【0044】
主燃焼室に着火火炎を発生させるパイロット燃料噴射弁82が、その先端がメイン燃料噴射弁79先端の近傍に配置されるように、各シリンダヘッド26に対して斜傾させて挿入されている。パイロット燃料噴射弁82は、マイクロパイロット噴射方式を採用しており、先端にパイロット燃料が噴射される副室を有している。即ち、パイロット燃料噴射弁82は、コモンレール47から供給されるパイロット燃料を副室に噴射して燃焼させて、シリンダ77内の主燃焼室の中心位置に着火火炎を発生させる。従って、エンジン装置21が予混合燃焼方式で駆動するとき、パイロット燃料噴射弁82で着火火炎が発生することで、吸気弁80を介してシリンダ77内の主燃焼室に供給される予混合ガスが反応し、予混合燃焼を発生させる。
【0045】
エンジン装置21は、図7に示すように、エンジン装置21の各部を制御するエンジン制御装置73を有している。エンジン装置21は、気筒36毎に、パイロット燃料噴射弁82、燃料噴射ポンプ89、及びガスインジェクタ98を設けている。エンジン制御装置73は、パイロット燃料噴射弁82、燃料噴射ポンプ89、及びガスインジェクタ98それぞれに制御信号を与えて、パイロット燃料噴射弁82によるパイロット燃料噴射、燃料噴射ポンプ89による燃料油供給、及びガスインジェクタ98によるガス燃料供給それぞれを制御する。
【0046】
エンジン装置21は、図7に示すように、排気カム、吸気カム、及び燃料カム(図示省略)を気筒36毎に備えたカム軸200を備えている。カム軸200は、ギア機構(図示省略)を介して、クランク軸24からの回転動力が伝達されることで、排気カム、吸気カム、及び燃料カムを回転させて、気筒36毎に、吸気弁80及び排気弁81を開閉させるとともに、燃料噴射ポンプ89を駆動させる。また、エンジン装置21は、燃料噴射ポンプ89におけるコントロールラック202のラック位置を調整する調速機201を備えている。調速機201は、カム軸200先端の回転数からエンジン装置21のエンジン回転数を測定し、燃料噴射ポンプ89におけるコントロールラック202のラック位置を設定し、燃料噴射量を調整する。
【0047】
エンジン制御装置73は、メインスロットル弁V1、給気バイパス弁V2、及び排気バイパス弁V3それぞれに制御信号を与えて、それぞれ弁開度を調節し、吸気マニホールド67における空気圧力(吸気マニホールド圧力)を調整する。エンジン制御装置73は、吸気マニホールド65における空気圧力を測定する圧力センサ39より測定信号を受け、吸気マニホールド圧力を検知する。エンジン制御装置73は、ワットトランスデューサやトルクセンサなどの負荷測定器19による測定信号を受け、エンジン装置21にかかる負荷を算出する。エンジン制御装置73は、クランク軸24の回転数を測定するパルスセンサなどのエンジン回転センサ20による測定信号を受け、エンジン装置21のエンジン回転数を検知する。
【0048】
ディーゼルモードでエンジン装置21を運転する場合、エンジン制御装置73は、燃料噴射ポンプ89における制御弁を開閉制御して、各気筒36における燃焼を所定タイミングで発生させる。すなわち、各気筒36の噴射タイミングに合わせて、燃料噴射ポンプ89の制御弁を開くことで、メイン燃料噴射弁79を通じて各気筒36内に燃料油を噴射させ、気筒36内で発火させる。また、ディーゼルモードにおいて、エンジン制御装置73は、パイロット燃料及び燃料ガスの供給を停止させている。
【0049】
ディーゼルモードにおいて、エンジン制御装置73は、負荷測定器19で測定されたエンジン負荷(エンジン出力)と、エンジン回転センサ20で測定されたエンジン回転数とに基づいて、各気筒36におけるメイン燃料噴射弁79の噴射タイミングをフィードバック制御する。これにより、エンジン21は、推進兼発電機構12で必要とされるエンジン負荷を出力すると同時に、船舶の推進速度に応じたエンジン回転数で回転する。また、エンジン制御装置73は、圧力センサ39で測定された吸気マニホールド圧力に基づいて、メインスロットル弁V1の開度を制御することで、必要なエンジン出力に応じた空気流量となる圧縮空気を過給機49から吸気マニホールド67に供給させる。
【0050】
ガスモードでエンジン装置21を運転する場合は、エンジン制御装置73は、ガスインジェクタ98における弁開度を調節して、各気筒36内に供給する燃料ガス流量を設定する。そして、エンジン制御装置73は、パイロット燃料噴射弁82を開閉制御して、各気筒36における燃焼を所定タイミングで発生させる。すなわち、ガスインジェクタ98が、弁開度に応じた流量の燃料ガスを吸気ポート37に供給して、吸気マニホールド67からの空気に混合して、予混合燃料を気筒36に供給させる。そして、各気筒36の噴射タイミングに合わせて、パイロット燃料噴射弁82の制御弁を開くことで、パイロット燃料の噴射による点火源を発生させ、予混合ガスを供給した気筒36内で発火させる。また、ガスモードにおいて、エンジン制御装置73は、燃料油の供給を停止させている。
【0051】
ガスモードにおいて、エンジン制御装置73は、負荷測定器19で測定されたエンジン負荷と、エンジン回転センサ20で測定されたエンジン回転数とに基づいて、ガスインジェクタ98による燃料ガス流量と、各気筒36におけるパイロット噴射弁82による噴射タイミングとをフィードバック制御する。また、エンジン制御装置73は、圧力センサ39で測定された吸気マニホールド圧力に基づいて、メインスロットル弁V1、給気バイパス弁V2、及び排気バイパス弁V3それぞれの開度を調節する。これにより、吸気マニホールド圧力を必要なエンジン出力に応じた圧力に調節し、ガスインジェクタ98から供給される燃料ガスとの空燃比をエンジン出力に応じた値に調整できる。
【0052】
エンジン装置21は、図8及び図9に示すように、シリンダ77内をピストン78が下降するとともに吸気弁80が開いて、吸気ポート37を介して、吸気マニホールド67からの空気をシリンダ78内に流入させる(吸気行程)。このとき、ガスモードでは、ガスインジェクタ98から燃料ガスを吸気ポート37に供給させて、吸気マニホールド67からの空気に燃料ガスを混合して、シリンダ77内に予混合ガスを供給させる。
【0053】
次いで、エンジン装置21は、図8及び図9に示すように、ピストン78の上昇とともに吸気弁80を閉じることで、シリンダ77内の空気を圧縮する(圧縮行程)。このとき、ガスモードでは、ピストン78が上死点近傍まで上昇した際に、パイロット燃料噴射弁82で着火火炎を発生させて、シリンダ77内の予混合ガスを燃焼させる。一方、ディーゼルモードでは、燃料噴射ポンプ89の制御弁を開くことで、メイン燃料噴射弁79を通じてシリンダ77内に燃料油を噴射させて、シリンダ77内で発火させる。
【0054】
次いで、エンジン装置21は、図8及び図9に示すように、燃焼によりシリンダ77内の燃焼ガス(燃焼反応による排気ガス)が膨張してピストン78を下降させる(膨張行程)。その後、ピストン78が上昇すると同時に排気弁81を開くことで、排気ポート38を介して、シリンダ77内の燃焼ガス(排気ガス)を排気マニホールド44へ排気させる(排気行程)。
【0055】
図5に示すように、本実施形態のエンジン装置21は、6気筒の気筒36(シリンダ77)を備えており、各気筒36において、気筒36毎に決められたタイミングで、図8に示す吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程の順で状態が遷移する。すなわち、6気筒の気筒36(#1?#6)はそれぞれ、図9に示すように、#1→#5→#3→#6→#2→#4の順に、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程それぞれの状態に遷移する。従って、エンジン装置21がガスモードで動作している際には、吸気行程におけるガスインジェクタ98からの燃料ガス噴射、及び圧縮行程におけるパイロット燃料噴射弁82による着火をそれぞれ、#1→#5→#3→#6→#2→#4の順に実行する。同様に、エンジン装置21がディーゼルモードで動作している際には、圧縮行程におけるメイン燃料噴射弁79からの燃料油噴射を、#1→#5→#3→#6→#2→#4の順に実行する。
【0056】
次に、上記概略構成を有するデュアルフューエルエンジン21(エンジン装置21)の詳細構成について、図10?図12を参照して説明する。以下の説明において、減速機22との接続側を後側として、エンジン装置21の構成における前後左右の位置関係を指定するものとする。
【0057】
エンジン装置21は、図10?図12に示すように、ベース台27(図2参照)上に据置されるシリンダブロック25に、複数のヘッドカバー40が前後一列に配列されたシリンダヘッド26を搭載している。エンジン装置21は、シリンダヘッド26の右側面に、ヘッドカバー40列と平行にガスマニホールド(気体燃料配管)41を延設する一方、シリンダブロック25の左側面に、ヘッドカバー40列と平行に燃料油管(液体燃料配管)42を延設している。また、ガスマニホールド41の上側において、後述の排気マニホールド(排気流路)44がヘッドカバー40列と平行に延設されている。
【0058】
ヘッドカバー40列と排気マニホールド44との間には、シリンダヘッド26内の冷却水路と連結するシリンダヘッド上冷却水配管46が、ヘッドカバー40列と平行に延設されている。冷却水配管46の上側には、軽油等によるパイロット燃料を供給するコモンレール(パイロット燃料配管)47が、冷却水配管46と同様、ヘッドカバー40列と平行に延設されている。このとき、冷却水配管46が、シリンダヘッド26と連結して支持されるとともに、コモンレール47が、冷却水配管46と連結して支持される。
【0059】
排気マニホールド44の前端(排気出口側)は、排気中継管48を介して、過給機49と接続されている。従って、排気マニホールド44を通じて排気される排気ガスが、排気中継管48を介して、過給機49のタービン49aに流入することで、タービン49aが回転して、タービン49aと同軸となるコンプレッサ49bを回転させる。過給機49は、エンジン装置21の前端上側に配置されており、その右側にタービン49aを、その左側にコンプレッサ49bをそれぞれ有する。そして、排気出口管50が、過給機49の右側に配置されるとともに、タービン49aの排気出口と連結し、タービン49aからの排気ガスを排気経路28(図2参照)に排気させる。
【0060】
過給機49の下側には、過給機49のコンプレッサ49bからの圧縮空気を冷却させるインタークーラ51が配置されている。即ち、シリンダブロック25の前端側に、インタークーラ51が設置されるとともに、このインタークーラ51の上部に過給機49が載置される。過給機49の左右中層位置には、コンプレッサ49bの空気吐出口が、後方(シリンダブロック25側)に向かって開口するようにして設けられている。一方、インタークーラ51上面には、上方に向かって開口した空気吸入口が設けられており、この空気吸入口を通じて、コンプレッサ49bから吐出される圧縮空気が、インタークーラ51内部に流入する。そして、コンプレッサ49bの空気吐出口とインタークーラ51の空気吸入口とは、一端が接続されている吸気中継管52により連通される。この吸気中継管52は、上述のメインスロットル弁V1(図5参照)を有している。
【0061】
エンジン装置21の前端面(正面)には、エンジン出力軸24の外周側に、冷却水ポンプ53、パイロット燃料ポンプ54、潤滑油ポンプ(プライミングポンプ)55、及び燃料油ポンプ56それぞれが設置されている。このとき、冷却水ポンプ53及び燃料油ポンプ56それぞれが左側面寄りの上下に配置され、パイロット燃料ポンプ54及び潤滑油ポンプ55それぞれが右側面寄りの上下に配置される。また、エンジン装置21の前端部分には、エンジン出力軸24の回転動力を伝達する回転伝達機構(図示省略)が設けられている。これにより、エンジン出力軸24からの回転動力が前記回転伝達機構を介して伝達されることで、エンジン出力軸24外周に設けられた冷却水ポンプ53、パイロット燃料ポンプ54、潤滑油ポンプ55、及び燃料油ポンプ56それぞれも回転する。更に、シリンダブロック25内において、冷却水ポンプ53の上側に、前後を軸方向とするカムシャフト(図示省略)が軸支されており、該カムシャフトも前記回転伝達機構を通じてエンジン出力軸24の回転動力が伝達されて回転する。
【0062】
シリンダブロック25の下側には、オイルパン57が設けられており、このオイルパン57に、シリンダブロック25を流れる潤滑油が溜まる。潤滑油ポンプ55は、潤滑油配管を介してオイルパン57と下側の吸引口で接続されており、オイルパン57に溜まっている潤滑油を吸引する。また、潤滑油ポンプ55は、上側の吐出口が潤滑油配管を介して潤滑油クーラ58の潤滑油入口と接続することで、オイルパン57から吸引した潤滑油を潤滑油クーラ58に供給する。潤滑油クーラ58は、その前方を潤滑油入口とする一方で後方を潤滑油出口とし、潤滑油出口を潤滑油コシキ59と潤滑油配管を介して連結させる。潤滑油コシキ59は、その前方を潤滑油入口とする一方で後方を潤滑油出口とし、潤滑油出口をシリンダブロック25と接続している。従って、潤滑油ポンプ55から送られてくる潤滑油は、潤滑油クーラ58で冷却された後に、潤滑油コシキ59で浄化される。
【0063】
過給機49は、左右それぞれに振り分けて配置されたコンプレッサ49b及びタービン49aを同軸で軸支し、排気中継管48を通じて排気マニホールド44から導入されるタービン49aの回転に基づき、コンプレッサ49bが回転する。また、過給機49は、新気取り入れ側となるコンプレッサ49bの左側に、導入する外気を除塵する吸気フィルタ63と、吸気フィルタ63とコンプレッサ49bとを接続する新気通路管64とを備える。これにより、タービン49aと同期してコンプレッサ49bが回転することにより、吸気フィルタ63により吸引された外気(空気)は、過給機49を通じてコンプレッサ49bに導入される。そして、コンプレッサ49bは、左側から吸引した空気を圧縮して、後側に設置されている吸気中継管52に圧縮空気を吐出する。
【0064】
吸気中継管52は、その上部前方を開口させて、コンプレッサ49b後方の吐出口と接続している一方で、その下側を開口させて、インタークーラ51上面の吸気口と接続している。また、インタークーラ51は、前面の通気路に設けた分岐口において、給気バイパス管66(給気バイパス流路17)の一端と接続しており、インタークーラ51で冷却した圧縮空気の一部を給気バイパス管66に吐出する。給気バイパス管66の他端が、新気通路管64の前面に設けた分岐口に接続して、インタークーラ51で冷却された圧縮空気の一部が、給気バイパス管66を通じて新気通路管64に環流し、給気フィルタ63からの外気と合流する。また、給気バイパス管66は、その中途部に、給気バイパス弁V2が配置されている。
【0065】
インタークーラ51は、吸気中継管52を通じてコンプレッサ49bからの圧縮空気を左側後方から流入させると、給水配管62から給水される冷却水との熱交換作用に基づいて、圧縮空気を冷却させる。インタークーラ51内部において、左室で冷却された圧縮空気は、前方の通気路を流れて右室に導入された後、右室後方に設けられた吐出口を通じて、吸気マニホールド67に吐出される。吸気マニホールド67は、シリンダブロック25の右側面に設けられており、ガスマニホールド41の下側において、ヘッドカバー40列と平行に前後に延設されている。なお、給気バイパス弁V2の開度に応じて、インタークーラ51からコンプレッサ49bに環流させる圧縮空気の流量が決定されることで、吸気マニホールド67へ供給する圧縮空気の流量が設定される。
【0066】
また、過給機49のタービン49aは、後方の吸込口を排気中継管48と接続させており、右側の吐出口を排気出口管50と接続させている。これにより、過給機49は、排気中継管48を介して排気マニホールド44から排気ガスをタービン49a内部に導入させて、タービン49aを回転させると同時にコンプレッサ49bを回転させ、排気ガスを排気出口管50から排気経路28(図2参照)に排気する。排気中継管48は、その後方を開口させて、排気マニホールド44の吐出口と蛇腹管68を介して接続している一方で、その前方を開口させて、タービン49a後方の吸込口と接続している。
【0067】
また、排気中継管48の中途位置において、右側面側に分岐口が設けられており、この排気中継管48の分岐口に排気バイパス管69(排気バイパス流路18)の一端が接続されている。排気バイパス管69は、その他端が排気出口管50の後方に設けられた合流口と接続され、排気マニホールド44から吐出される排気ガスの一部を、過給機49を介さずに排気出口管50にバイパスさせる。また、排気バイパス管69は、その中途部に、排気バイパス弁V3が配置されており、排気バイパス弁V3の開度に応じて、排気マニホールド44から排気出口管50にバイパスさせる排気ガスの流量を設定し、タービン49aに供給する排ガス流量を調節する。
【0068】
エンジン装置21の始動・停止等の制御を行う機側操作用制御装置71が、支持ステー(支持部材)72を介してインタークーラ51の左側面に固定されている。機側操作用制御装置71は、作業者によるエンジン装置21の始動・停止を受け付けるスイッチとともに、エンジン装置21各部の状態を表示するディスプレイを具備する。調速機201が、シリンダヘッド26の左側面前端に固定されている。シリンダブロック25の左側面後端側には、エンジン装置21を始動させるエンジン始動装置75が固定されている。
【0069】
また、エンジン装置21各部の動作を制御するエンジン制御装置73が、支持ステー(支持部材)74を介して、シリンダブロック25の後端面に固定される。シリンダブロック25の後端側には、減速機22と連結して回転させるフライホイール76が設置されており、フライホイール76の上部に、エンジン制御装置73が配置されている。このエンジン制御装置73は、エンジン装置21各部におけるセンサ(圧力センサや温度センサ)と電気的に接続して、エンジン装置21各部の温度データや圧力データ等を収集するとともに、エンジン装置21各部における電磁弁等に信号を与え、エンジン装置21の各種動作(燃料油噴射、パイロット燃料噴射、ガス噴射、冷却水温度調整など)を制御する。
【0070】
シリンダブロック25は、その左側面上側に段差部が設けてあり、このシリンダブロック25の段差部上面に、ヘッドカバー40及びシリンダヘッド26と同数の燃料噴射ポンプ89が設置されている。燃料噴射ポンプ89は、シリンダブロック25の左側面に沿って一列に配列されており、その左側面が燃料油管(液体燃料配管)42と連結しているとともに、その上端が燃料吐出管90を介して右前方のシリンダヘッド26の左側面と連結している。上下2本の燃料油管42は、一方が燃料噴射ポンプ89へ燃料油を供給する給油管であり、他方が燃料噴射ポンプ89から燃料油を戻す油戻り管である。また、燃料吐出管90は、シリンダヘッド26内の燃料流路を介してメイン燃料噴射弁79(図6参照)と接続することで、燃料噴射ポンプ89からの燃料油をメイン燃料噴射弁79に供給する。
【0071】
燃料噴射ポンプ89は、シリンダブロック25の段差部上において、燃料吐出管90で接続されるシリンダヘッド26の左側後方となる位置に、ヘッドカバー40列に対して左側に並設されている。また、燃料噴射ポンプ89は、シリンダヘッド26と燃料油管42に挟まれた位置で一列に配列されている。燃料噴射ポンプ89は、シリンダブロック25内のカムシャフト(図示省略)におけるポンプ用カムの回転によりプランジャの押し上げ動作を行う。そして、燃料噴射ポンプ89は、プランジャの押し上げにより燃料油管42から供給される燃料油を高圧に上昇させ、燃料吐出管90を介して、シリンダヘッド26内の燃料噴射ポンプ89に高圧の燃料油を供給する。
【0072】
コモンレール47の前端が、パイロット燃料ポンプ54の吐出側と接続されており、パイロット燃料ポンプ54から吐出されるパイロット燃料がコモンレール47に供給される。また、ガスマニホールド41は、排気マニホールド44と吸気マニホールド67の間となる高さ位置で、ヘッドカバー40列に沿って延設されている。ガスマニホールド41は、ガス入口管97と前端が接続して前後に延びているガス主管41aと、ガス主管41aの上面からシリンダヘッド26に向けて分岐させた複数のガス枝管41bとを備える。ガス主管41aは、その上面に等間隔で接続用フランジを備えており、ガス枝管41bの入口側フランジと締結されている。ガス枝管41bは、ガス主管41aとの連結部分と逆側の端部を、ガスインジェクタ98が上側から挿入されたスリーブの右側面と連結している。
【0073】
次に、上記構成を有するデュアルフューエルエンジン21(エンジン装置21)をガスモードで運転したときの空気流量制御について、主に図13などを参照して説明する。
【0074】
エンジン制御装置73は、図13に示すように、エンジン負荷が低負荷域(負荷L4以下の負荷域)であって所定負荷L1より低い場合には、メインスロットル弁V1の弁開度に対してフィードバック制御(PID制御)を行う。このとき、エンジン制御装置73は、エンジン負荷に応じた吸気マニホールド圧力の目標値(目標圧力)を設定する。そして、エンジン制御装置73は、圧力センサ39からの測定信号を受け、吸気マニホールド圧力の測定値(測定圧力)を確認し、目標圧力との差分を求める。これにより、エンジン制御装置73は、目標圧力と測定圧力の差分値に基づき、メインスロットル弁V1の弁開度のPID制御を実行し、吸気マニホールド67の空気圧力を目標圧力に近づける。
【0075】
エンジン制御装置73は、エンジン負荷が所定負荷L1以上となる場合には、メインスロットル弁V1の弁開度に対してマップ制御を行う。このとき、エンジン制御装置73は、エンジン負荷に対するメインスロットル弁V1の弁開度を記憶するデータテーブルDT1を参照し、エンジン負荷に対応したメインスロットル弁V1の弁開度を設定する。そして、エンジン制御装置73は、エンジン負荷が負荷L2(L1<L2<Lth<L4)以上となる場合には、メインスロットル弁V1を全開となるよう制御する。なお、負荷L2は、低負荷域であって、吸気マニホールド圧力が大気圧となる負荷Lthよりも低負荷に設定している。
【0076】
エンジン制御装置73は、エンジン負荷が低負荷域であって所定負荷L3(Lth<L3<L4)より低い場合には、給気バイパス弁V2を全閉となるよう制御する。エンジン制御装置73は、エンジン負荷が所定負荷L3以上となる場合には、給気バイパス弁V2の弁開度に対してフィードバック制御(PID制御)を行う。このとき、エンジン制御装置73は、エンジン負荷に応じた目標圧力と圧力センサ39による測定圧力との差分値に基づき、給気バイパス弁V2の弁開度のPID制御を実行し、吸気マニホールド67の空気圧力を目標圧力に近づける。
【0077】
エンジン制御装置73は、エンジン負荷全域で、排気バイパス弁V3の弁開度に対してマップ制御を行う。このとき、エンジン制御装置73は、エンジン負荷に対する排気バイパス弁V3の弁開度を記憶するデータテーブルDT2を参照し、エンジン負荷に対応した排気バイパス弁V3の弁開度を設定する。すなわち、エンジン負荷が所定負荷L1より低い場合には、排気バイパス弁V3を全開としており、所定負荷L1より高くなると、エンジン負荷に対して排気バイパス弁V3の開度を単調減少させて、所定負荷L2で、排気バイパス弁V3を全開とする。そして、エンジン負荷が所定負荷L2より高く所定負荷L3以下となる場合、排気バイパス弁V3を全閉としており、エンジン負荷が低負荷域の所定負荷L3より高くなると、エンジン負荷に対して排気バイパス弁V3の開度を単調増加させる。すなわち、排気バイパス弁V3を徐々に開ける。
【0078】
図13に示すように、エンジン制御装置73は、エンジンにかかる負荷(エンジン負荷)が低負荷域であって第1所定負荷L3より高い場合に、メインスロットル弁V1の開度を全開とする。また、エンジン制御装置73は、給気バイパス弁V2に対してフィードバック制御(PID制御)を行うと同時に、排気バイパス弁V3に対してマップ制御を行うことで、吸気マニホールド67の圧力を負荷に応じた目標値に調整する。そして、エンジンに負荷が第1所定負荷L3となっているとき、給気バイパス弁V2及び排気バイパス弁V3それぞれを全閉としている。
【0079】
過給機49をディーゼルモード仕様に最適化した場合に、ガスモード運転時においても、エンジン負荷の変動に合わせて給気バイパス弁V2の開度を制御することにより、吸気マニホールド67の圧力制御を応答性の良好なものとできる。そのため、負荷変動時において、燃焼に必要な空気量の過不足を防止でき、ディーゼルモードで最適化した過給機49を使用したエンジン装置21であっても、ガスモードで最適に稼働できる。
【0080】
また、エンジン負荷の変動に合わせて排気バイパス弁V3の開度を制御することにより、気体燃料の燃焼に必要な空燃比に合わせた空気をエンジン装置21に供給できる。また、応答性の良い給気バイパス弁V2による制御動作を併用することで、ガスモードにおける負荷変動への応答速度を速めることができるため、負荷変動時において、燃焼に必要な空気量の不足に基づくノッキングを防止できる。
【0081】
また、低負荷域において、第1所定負荷L3より低い値となる第2所定負荷L1よりエンジン負荷が低い場合に、メインスロットル弁V1に対してフィードバック制御(PID制御)を行う。一方、エンジン制御装置73は、エンジン負荷が第2所定負荷L1より高い場合に、メインスロットル弁V1に対してデータテーブルDT1に基づくマップ制御を行う。更に、エンジン負荷が所定負荷L1より低い場合には、給気バイパス弁V2を全閉とするとともに、排気バイパス弁V3を全開とする。すなわち、排気マニホールド44圧力が大気圧より低い負圧となる場合、排気バス弁V3を全開として、タービン49aの駆動を停止させることで、過給機49におけるサージングなどを防止できる。また、給気バイパス弁V2を全閉とすることで、低負荷時において、メインスロットル弁V1による吸気マニホールド圧力の制御を応答性の高いものとできる。
【0082】
また、エンジン負荷が第2所定負荷L1以上であって、第1及び第2所定負荷L3,L1の間との値となる第3所定負荷L2よりも低い場合、メインスロットル弁V1に対してデータテーブルDT1に基づくマップ制御を行う。また、給気バイパス弁V2を全閉とするとともに、排気バイパス弁V3をデータテーブルDT2に基づくマップ制御を行う。そして、エンジン負荷が第1所定負荷L3となるとき、メインスロットル弁V1を全開とする一方、給気バイパス弁V2及び排気バイパス弁V3を全閉として、ディーゼルモードからガスモード切換可能な状態とする。
【0083】
次いで、エンジン装置21の運転状態をガスモードとディーゼルモードとの間で遷移させる際の燃料制御について、以下に説明する。まず、モード切換時における燃料制御について、その基本となる制御動作を、図14?図19を参照して説明する。図14は、ガスモードで運転中のエンジン装置21における燃料制御の基本動作を示すフローチャートであり、図17は、ディーゼルモードで運転中のエンジン装置21における燃料制御の基本動作を示すフローチャートである。また、図15及び図18が、エンジン装置21を低回転数で且つ低負荷で運転させた際の切換時におけるタイミングチャートであり、図16及び図19が、エンジン装置21を高回転数で且つ高負荷で運転させた際の切換時におけるタイミングチャートである。
【0084】
エンジン装置21がガスモードで運転している際、エンジン制御装置73は、図14に示すように、シリンダ77(気筒36)内に供給する燃料ガス供給量(燃料ガス噴射量)を、エンジン回転数を目標値に近づけるべく、エンジン回転センサ20からの信号に基づく調速制御を行う(STEP501)。すなわち、エンジン制御装置73は、ガスインジェクタ98の開度に対するフィードバック制御(PID制御)を行うことで、ガスインジェクタ98からの燃料ガス噴射量を調整し、燃料ガス供給量の調速制御を実行する。
【0085】
エンジン制御装置73は、エンジン装置21の運転をディーゼルモードに切り換えるか否かの判定を行う(STEP502)。エンジン制御装置73は、例えば、エンジン装置21によるガスモード運転における異常(例えば、燃料ガス圧力低下、吸気マニホールド圧力低下、ガス温度の上昇、空気温度の上昇、又は各センサの断線など)が発生した場合や、NOx(窒素酸化物)やSOx(硫黄酸化物)の排出量を規制する規制海域外を航行中である場合に、エンジン装置21の運転をディーゼルモードに切り換えるものと判定する。
【0086】
エンジン制御装置73は、エンジン装置21の運転をディーゼルモードに切り換えるものと判定すると(STEP502でYes)、燃料油供給量の制御動作をランプ関数的(比例関数的)な増量制御から調速制御に切り換えるための基準となる切換閾値Fothを設定する(STEP503)。このとき、エンジン制御装置73は、エンジン回転数及びエンジン負荷により切換閾値Fothを決定させる閾値設定テーブルを参照し、負荷測定器19及びエンジン回転センサ20それぞれから送信される測定信号(エンジン負荷及びエンジン回転数)により切換閾値Fothを設定する。
【0087】
なお、閾値設定テーブルにおいて、エンジン回転数が低回転数であれば切換閾値Fothを少量とするとともに、エンジン負荷が低負荷であれば切換閾値Fothを少量とする。即ち、エンジン回転数が低回転数であるととともにエンジン負荷が低負荷であれば、切換閾値Fothを少量(例えば、図15の閾値Foth1)に設定する一方、エンジン回転数が高回転数であるととともにエンジン負荷が高負荷であれば、切換閾値Fothを多い量(例えば、図16の閾値Foth2)に設定する。
【0088】
その後、エンジン制御装置73は、メイン燃料噴射弁79からの燃料噴射量を制御すべく、燃料噴射ポンプ89からメイン燃料噴射弁79への燃料油供給量を、時間に対してランプ関数的に単調増加させる(STEP504)。すなわち、エンジン制御装置73は、調速機201を動作することで、燃料噴射ポンプ89におけるコントロールラック202のラック位置を変更させて、燃料油供給量を増量制御する。
【0089】
エンジン制御装置73は、調速機201を通じてコントロールラック202のラック位置を確認する等して、燃料油供給量からの燃料油供給量を確認し、燃料油供給量が切換閾値Foth以上となった場合(STEP505でYes)、燃料油供給量の制御動作をエンジン回転センサ20からの信号に基づく調速制御に切り換える(STEP506)。すなわち、エンジン制御装置73は、燃料噴射ポンプ89におけるコントロールラック202のラック位置に対するフィードバック制御(PID制御)を行うことで、メイン燃料噴射弁79からの燃料油噴射量を調整し、燃料油供給量の調速制御を実行する。
【0090】
次いで、エンジン制御装置73は、燃料ガス供給量の制御動作を調速制御からランプ関数的(比例関数的)な減量制御に切り換える(STEP507)。すなわち、ガスインジェクタ98からの燃料ガス噴射量を、時間に対してランプ関数的に単調減少させる。このとき、エンジン制御装置73は、ガスインジェクタ98の弁の開期間を段階的に短くすることで、燃料ガス供給量を減量制御する。エンジン制御装置73は、ガスインジェクタ98の弁の開期間を確認する等して、燃料ガス供給量が最小値(下限値)Fgminを下回った場合(STEP508でNo)、ガスバルブユニット35からの供給を停止させる(STEP509)。
【0091】
図14のフローチャートに従って動作することで、エンジン装置21は、ガスモードからディーゼルモードに運転を切り換える際、図15及び図16に示すように、燃料油供給量を増量制御するとともに、燃料ガス供給量を調速制御することで、エンジン回転数を目標回転数に保つことができる。その後、燃料油供給量が切換閾値Fothに達すると、燃料油供給量を調速制御するとともに、燃料ガス供給量を減量制御して、エンジン回転数を目標回転数に保つ。このとき、切換閾値Fothをエンジン装置21の負荷及び回転数に応じて設定するため、低負荷及び低回転での運転時には、エンジン回転数が上限値を超える回転数(オーバースピード)まで上昇することがなく、高負荷及び高回転での運転時には、負荷変動に対する対応性を良好に維持できる。
【0092】
エンジン装置21が低負荷且つ低回転で運転している際には、図15に示すように、切換閾値Fothを小さい値Foth1とすることで、目標回転数となるエンジン回転数まで上昇させることなく、燃料油の供給を調速制御に切り換えると同時に、燃料ガスの供給を停止させることができる。また、エンジン装置21が高負荷且つ高回転で運転している際には、図16に示すように、切換閾値Fothを大きい値Foth2とすることで、エンジン回転数への影響力の大きい燃料の供給量を調速制御することとなる。従って、例えば、急激に負荷が小さくなるような場合であってもエンジン回転数を目標回転数付近に維持でき、緊急停止に結びつくようなエンジン回転数まで上昇することを回避できる。
【0093】
一方、エンジン装置21がディーゼルモードで運転している際、エンジン制御装置73は、図17に示すように、シリンダ77(気筒36)内に供給する燃料油供給量(燃料油噴射量)を、エンジン回転数を目標値に近づけるべく、エンジン回転センサ20からの信号に基づく調速制御を行う(STEP601)。エンジン制御装置73は、エンジン装置21の運転をガスモードに切り換える判定を行うと(STEP602でYes)、燃料ガス供給量の制御動作を調速制御からランプ関数的な増量制御に切り換えるための基準となる切換閾値Fgthを設定する(STEP603)。
【0094】
なお、エンジン制御装置73は、例えば、NOxやSOxの排出量を規制する規制海域付近から規制海域内にむけて航行している場合などに、エンジン装置21の運転をガスモードに切り換えるものと判定する。また、エンジン制御装置73は、エンジン回転数及びエンジン負荷により切換閾値Fgthを決定させる閾値設定テーブルを参照して切換閾値Fgthを設定する。閾値設定テーブルにおいて、エンジン回転数が低回転数であれば切換閾値Fgthを少量とするとともに、エンジン負荷が低負荷であれば切換閾値Fgthを少量とする。即ち、エンジン回転数が低回転数であるととともにエンジン負荷が低負荷であれば、切換閾値Fgthを少量(例えば、図18の閾値Fgth1)に設定する一方、エンジン回転数が高回転数であるととともにエンジン負荷が高負荷であれば、切換閾値Fgthを多い量(例えば、図19の閾値Fgth2)に設定する。
【0095】
その後、エンジン制御装置73は、ガスバルブユニット35からの供給をさせるとともに、ガスインジェクタ98の弁の開期間を段階的に長くすることで、燃料ガス供給量を時間に対してランプ関数的に単調増加させる(STEP604)。エンジン制御装置73は、燃料ガス供給量が切換閾値Fgth以上となった場合(STEP605でYes)、燃料ガス供給量の制御動作をエンジン回転センサ20からの信号に基づく調速制御に切り換えるとともに(STEP606)、燃料油供給量の制御動作をランプ関数的な減量制御に切り換える(STEP607)。そして、エンジン制御装置73は、燃料油供給量が最小値(下限値)Fogminを下回った場合(STEP608でNo)、液体燃料タンク33からの供給を停止させる(STEP609)。
【0096】
図17のフローチャートに従って動作することで、エンジン装置21は、ディーゼルモードからガスモードに運転を切り換える際、図18及び図19に示すように、燃料ガス供給量を増量制御するとともに、燃料油供給量を調速制御することで、エンジン回転数を目標回転数に保つことができる。その後、燃料ガス供給量が切換閾値Fgthに達すると、燃料ガス供給量を調速制御するとともに、燃料油供給量を減量制御して、エンジン回転数を目標回転数に保つ。このとき、切換閾値Fgthをエンジン装置21の負荷及び回転数に応じて設定するため、ガスモードからディーゼルモードに切り換える場合と同様、低負荷及び低回転での運転時には、エンジン回転数が上限値を超える回転数(オーバースピード)まで上昇することがなく、高負荷及び高回転での運転時には、負荷変動に対する対応性を良好に維持できる。
【0097】
ガスモードにおける燃料制御の第1実施例について、図20?図22を参照して以下に説明する。上述したように、本実施例における燃料制御は、図14?図16に示す制御動作を基本とするものである。よって、以下では、上述の基本となる制御動作(図14?図16参照)において同一となる制御ステップについては、同一の符号を付すものとし、その詳細な説明は省略する。
【0098】
本実施例では、図20のフローチャートに示すように、上述の基本となる制御動作と異なり、エンジン制御装置73は、エンジン装置21の運転モードをディーゼルモードに切り換えるものと判断したとき(STEP502でYes)、瞬時に運転モードを切り換えるか否かを判定する(STEP701)。ガスモードからディーゼルモードへの瞬時切換を実行しない場合は(STEP701でNo)、基本となる制御動作(図14参照)と同様、切換閾値Fothを設定した後、燃料油供給量が切換閾値Fothに達したときに、燃料油の供給を増量制御から調速制御に変更する一方、燃料ガスの供給を調速制御から減量制御に変更し、最終的に燃料ガスの供給を停止させる(STEP503?STEP509)。
【0099】
ガスモードからディーゼルモードへの瞬時切換を実行する場合は(STEP701でYes)、エンジン制御装置73は、燃料油供給量Foを設定して、燃料ガスの供給を停止するとともに燃料油の供給を開始した後(STEP702?STEP704)、燃料油供給量を調速制御する(STEP705)。このとき、エンジン制御装置73は、エンジン回転数及びエンジン負荷により瞬時切換時における燃料油供給量Foを決定させる瞬時切換用設定テーブルを参照し、負荷測定器19及びエンジン回転センサ20それぞれから送信される測定信号(エンジン負荷及びエンジン回転数)により燃料油供給量Foを設定する。なお、STEP702では、エンジン装置21によるガスモード運転における異常(例えば、燃料ガス圧力低下、吸気マニホールド圧力低下、ガス温度の上昇、空気温度の上昇、又は各センサの断線など)が発生した場合などにおいて、ディーゼルモードへの瞬時切換を実行させる。
【0100】
なお、瞬時切換用設定テーブルにおいて、エンジン回転数が低回転数であれば燃料油供給量Foを少量とするとともに、エンジン負荷が低負荷であれば燃料油供給量Foを少量とする。即ち、エンジン回転数が低回転数であるととともにエンジン負荷が低負荷であれば、燃料油供給量Foを少量(例えば、図21の供給量Fo1)に設定する一方、エンジン回転数が高回転数であるととともにエンジン負荷が高負荷であれば、燃料油供給量Foを多い量(例えば、図22の供給量Fo2)に設定する。
【0101】
図20のフローチャートに従って動作することで、エンジン装置21は、ガスモードからディーゼルモードに運転を切り換える際に瞬時切換を実行する場合、図21及び図22に示すように、燃料ガスの供給を停止すると同時に、設定した燃料油供給量Foによる燃料油の供給を開始する。このとき、燃料油供給量Foをエンジン装置21の負荷及び回転数に応じて設定するため、低負荷及び低回転での運転時には、エンジン回転数が上限値を超える回転数(オーバースピード)まで上昇することがなく、高負荷及び高回転での運転時には、負荷変動に対する対応性を良好に維持できる。
【0102】
エンジン装置21が低負荷且つ低回転で運転している際には、図21に示すように、燃料油供給量Foを小さい値Fo1とすることで、目標回転数となるエンジン回転数まで上昇させることなく、燃料油の供給を瞬時に調速制御させると同時に、燃料ガスの供給を停止できる。また、エンジン装置21が高負荷且つ高回転で運転している際には、図22に示すように、燃料油供給量Foを大きい値Fo2とすることで、燃料不足によるエンジン回転数の低下を回避でき、瞬時切換後もエンジン回転数を目標回転数で維持させることができる。
【0103】
更に、燃料油供給量Foについて、例えば、吸気マニホールド67を流れる空気の温度、潤滑油コシキ59からの潤滑油の温度、燃料油管42を流れる燃料の温度に基づいて、その値を補正する。このとき、エンジン制御装置73は、まず、瞬時切換用設定テーブルを参照して、エンジン回転数及びエンジン負荷で燃料油供給量Foの初期値を設定した後、空気温度、潤滑油温度、及び燃料油温度それぞれから算出される係数を初期値に乗算することで、燃料油供給量Foの補正値を取得する。瞬時切換の実行時においては、この燃料油供給量Foの補正値に基づいて、燃料油の供給を開始する。これによりエンジン装置21の運転環境に応じて燃料油供給量Foを設定できるため、瞬時切換後のディーゼルモードにおいて、エンジン装置21を安定して運転できる。
【0104】
ガスモードにおける燃料制御の第2実施例について、図23を参照して以下に説明する。上述の第1実施例と同様、本実施例における燃料制御についても、図14?図16に示す制御動作を基本とするものである。よって、以下では、上述の基本となる制御動作(図14?図16参照)において同一となる制御ステップについては、同一の符号を付すものとし、その詳細な説明は省略する。
【0105】
本実施例では、図23のフローチャートに示すように、上述の第1実施例となる制御動作と異なり、エンジン制御装置73は、エンジン装置21の運転モードをディーゼルモードに切り換えるものと判断すると(STEP502でYes)、切換閾値Fothを設定した後に、燃料油供給量の増量制御を開始する(STEP503?STP504)。その後、エンジン制御装置73は、瞬時に運転モードを切り換えるか否かを判定する(STEP801)。このとき、瞬時切換を実行する場合(STEP801でYes)、燃料油供給量Foを設定して燃料油供給量を調速制御するとともに、燃料ガスの供給を停止させる(STEP802?STEP804)。
【0106】
また、燃料油供給量の増量制御を開始した後に、燃料油供給量が切換閾値Foth以上となり(STEP505でYes)、燃料油の供給を調速制御に切り換えるとともに燃料ガスの供給を減量制御に切り換えた後も(STEP506?STEP507)、エンジン制御装置73は、瞬時に運転モードを切り換えるか否かを判定する(STEP805)。そして、瞬時切換を実行する場合(STEP805でYes)、燃料油供給量Foを設定して燃料油供給量を調速制御するとともに、燃料ガスの供給を停止させる(STEP802?STEP804)。
【0107】
図23のフローチャートに従って動作することで、エンジン装置21は、ガスモードからディーゼルモードに運転を切り換えるべく、燃料ガスと燃料油の入れ替えを段階的に実行させている場合であっても、ディーゼルモードへの瞬時切換に対応できる。従って、ガスモードからディーゼルモードへの切換を実行されている際にも、緊急避難的にディーゼルモードに切り換える必要がある場合などに対応でき、船舶を緊急停止させることなく、安定した航行を継続させることができる。
【0108】
ディーゼルモードにおける燃料制御の第1実施例について、図24を参照して以下に説明する。上述したように、本実施例における燃料制御は、図17?図19に示す制御動作を基本とするものである。よって、以下では、上述の基本となる制御動作(図17?図19参照)において同一となる制御ステップについては、同一の符号を付すものとし、その詳細な説明は省略する。
【0109】
本実施例では、図24のフローチャートに示すように、上述の基本となる制御動作と異なり、エンジン制御装置73は、エンジン装置21の運転モードをガスモードに切り換えるものと判断すると(STEP602でYes)、切換閾値Fgthを設定した後に、燃料ガス供給量の増量制御を開始する(STEP603?STP604)。その後、エンジン制御装置73は、瞬時にディーゼルモードを切り換えるか否かを判定する(STEP901)。このとき、ディーゼルモードへの瞬時切換を実行する場合(STEP901でYes)、燃料油供給量Foを設定するとともに燃料ガスの供給を停止させた後(STEP902?STEP903)、燃料油供給量を調速制御する(STEP601)。
【0110】
また、燃料ガス供給量の増量制御を開始した後に、燃料ガス供給量が切換閾値Fgth以上となり(STEP605でYes)、燃料ガスの供給を調速制御に切り換えるとともに燃料油の供給を減量制御に切り換えた後も(STEP606?STEP607)、エンジン制御装置73は、瞬時にディーゼルモードを切り換えるか否かを判定する(STEP904)。そして、ディーゼルモードへの瞬時切換を実行する場合(STEP904でYes)、燃料油供給量Foを設定するとともに燃料ガスの供給を停止させた後(STEP902?STEP903)、燃料油供給量を調速制御する(STEP601)。
【0111】
図24のフローチャートに従って動作することで、エンジン装置21は、ディーゼルモードからガスモードに運転を切り換える場合であっても、ディーゼルモードへの瞬時切換に対応できる。従って、ディーゼルモードからガスモードへの切換を実行されている際にも、緊急避難的にディーゼルモードに切り換える必要がある場合などに対応でき、船舶を緊急停止させることなく、安定した航行を継続させることができる。
【0112】
上述したガスモードにおける燃料制御の第1実施例及び第2実施例のSTEP701、STEP801、及びSTEP805で瞬時切換を実行するか否かを判定するものとしているが、この瞬時切換の判定動作の第1例について、図25及び図26を参照して以下に説明する。図25は、本例における瞬時切換の判定動作を示すフローチャートであり、図26は、エンジン装置21における運転モードの切換時において瞬時切換とした場合の燃料などの遷移を示すタイミングチャートである。
【0113】
図25に示すように、エンジン制御装置73は、エンジン装置21の運転モードの切換を開始すると(STEP951)、エンジン回転センサ20からの信号を受けてエンジン装置21のエンジン回転数Rを確認し(STEP952)、エンジン回転数が所定回転数Rthと比較する(STEP953)。この所定回転数Rthは、エンジン装置21を緊急停止させる上限のエンジン回転数Rlimよりも低い値に設定される。従って、所定回転数Rthに達したときには、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限のエンジン回転数Rlimに近づいたものと判断する。
【0114】
そして、エンジン回転数Rが所定回転数Rthよりも高い場合は(STEP953でYes)、ディーゼルモードへの瞬時切換を実行させる(STEP954)。また、エンジン回転数Rが所定回転数Rth以下となる場合(STEP953でNo)、運転モードの切換が終了するか否かを確認し(STEP955)、運手モードの切換が終了していない場合はSTEP951に移行する。これにより、エンジン制御装置73は、運転モードの切換を実行している間、エンジン回転数Rが所定回転数Rthを超えたか否かに基づいて、瞬時判定の実行の可否を判定する。
【0115】
図25のフローチャートに従って動作することで、エンジン装置21は、ガスモードからディーゼルモードに運転を切り換える際、図26に示すように、エンジン回転数Rが所定回転数Rthを超えた瞬間に瞬時判定を実行させる。即ち、図26に示すように、エンジン負荷が減衰方向に変動して、エンジン回転数Rが所定回転数Rthを超えた瞬間に、燃料油供給量Foに設定して燃料油を供給させた後に燃料油供給量を調速制御させるとともに、燃料ガスの供給を停止させる。これにより、エンジン装置21のエンジン回転数が上限のエンジン回転数Rlimに達することを防ぐことができ、エンジン装置21の緊急停止を回避できる。従って、エンジン回転数が上限値を超える回転数(オーバースピード)まで上昇することがないため、船舶を緊急停止させることなく、安定した航行を継続させることができる。
【0116】
次いで、瞬時切換の判定動作の第2例について、図27及び図28を参照して以下に説明する。図27は、本例における瞬時切換の判定動作を示すフローチャートであり、図28は、エンジン装置21における運転モードの切換時において瞬時切換とした場合の燃料などの遷移を示すタイミングチャートである。本例では、上記第1例と異なり、エンジン装置21のエンジン負荷に基づいて、瞬時切換とするか否かを判定する。
【0117】
図27に示すように、エンジン制御装置73は、エンジン装置21の運転モードの切換を開始すると(STEP951)、負荷測定器19からの信号を受けて、切換開始時のエンジン装置21のエンジン負荷を確認し、基準エンジン負荷Losとして記憶する(STEP971)。その後、エンジン制御装置73は、負荷測定器19からの信号によりエンジン負荷Loを確認すると(STEP972)、基準エンジン負荷Losからの減少量(Los-Lo)を算出して(STEP973)、所定減少量Lothと比較する(STEP974)。この基準エンジン負荷Losは、エンジン装置21を緊急停止させる上限のエンジン回転数Rlimよりも低い回転数で駆動可能な範囲で設定される。即ち、基準エンジン負荷Losに達したときには、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限のエンジン回転数Rlimに近づいたものと判断する。
【0118】
そして、基準エンジン負荷Losからの減少量(Los-Lo)が所定減少量Lothよりも大きくなる場合は(STEP974でYes)、ディーゼルモードへの瞬時切換を実行させる(STEP954)。また、基準エンジン負荷Losからの減少量(Los-Lo)が所定減少量Loth以下となる場合(STEP974でNo)、運転モードの切換が終了するか否かを確認し(STEP955)、運手モードの切換が終了していない場合はSTEP972に移行する。これにより、エンジン制御装置73は、運転モードの切換を実行している間、基準エンジン負荷Losからの減少量(Los-Lo)が所定減少量Lothを超えたか否かに基づいて、瞬時判定の実行の可否を判定する。
【0119】
図27のフローチャートに従って動作することで、エンジン装置21は、ガスモードからディーゼルモードに運転を切り換える際、図28に示すように、エンジン負荷の減少量(Los-Lo)が所定減少量Lothを超えた瞬間に瞬時判定を実行させる。即ち、図28に示すように、エンジン負荷が減衰方向に変動して、基準エンジン負荷Losからの減少量が所定減少量Lothを超えた瞬間に、燃料油供給量Foに設定して燃料油を供給させた後に燃料油供給量を調速制御させるとともに、燃料ガスの供給を停止させる。これにより、エンジン装置21のエンジン回転数が上限値を超える回転数(オーバースピード)まで上昇することがないため、エンジン装置21の緊急停止を回避できる。従って、船舶を緊急停止させることなく、安定した航行を継続させることができる。
【0120】
次いで、瞬時切換の判定動作の第3例について、図29を参照して以下に説明する。図29は、エンジン装置21における運転モードの切換時において瞬時切換とした場合の燃料などの遷移を示すタイミングチャートである。本例では、上記第1例と異なり、燃料ガス供給量と燃料油供給量の比に基づいて、瞬時切換とするか否かを判定するものである。また、本例の瞬時切換の判定動作は、上述したガスモードにおける燃料制御の第2実施例のSTEP805において実行される。
【0121】
図29に示すように、エンジン制御装置73は、ガスモードからディーゼルモードへの切換時において(STEP951でYes)、燃料油供給量の調速制御を開始すると(STEP981でYes)、開始時の燃料油供給量Fos及び燃料ガス供給量Fgsに基づいて、瞬時切換の判定基準となる所定閾値Frthを算出して記憶する(STEP982)。その後、エンジン制御装置73は、燃料油供給量Fox燃料ガス供給量Fgxを確認すると(STEP983)、燃料ガス供給量Fgxに対する燃料油供給量Foxの燃料比率Fr(=Fox/Fgx)を算出して(STEP984)、所定閾値Frthと比較する(STEP985)。
【0122】
この閾値Frthは、例えば、燃料油供給量の調速制御開始時における燃料ガス供給量Fgsに対する燃料油供給量Fosの燃料比率Fos/Fgsに係数K(K<1)を乗算した値(K×Fos/Fgs)とし、エンジン装置21を緊急停止させる上限のエンジン回転数Rlimよりも低い回転数で駆動可能な範囲で設定される。即ち、所定閾値Frthに達したときには、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限のエンジン回転数Rlimに近づいたものと判断する。
【0123】
そして、燃料比率Frが所定閾値Frthよりも小さくなる場合は(STEP985でYes)、ディーゼルモードへの瞬時切換を実行させる(STEP954)。また、燃料比率Frが所定閾値Frth以上となる場合(STEP985でNo)、運転モードの切換が終了するか否かを確認し(STEP955)、運手モードの切換が終了していない場合はSTEP983に移行する。これにより、エンジン制御装置73は、運転モードの切換を実行している間、燃料比率Frが所定閾値Frthを超えたか否かに基づいて、瞬時判定の実行の可否を判定する。従って、エンジン装置21のエンジン回転数が上限のエンジン回転数Rlimに達することを防ぐことができ、エンジン装置21の緊急停止を回避できるため、船舶を緊急停止させることなく、安定した航行を継続させることができる。
【0124】
なお、上述の瞬時切換の判定動作について、ガスモードからディーゼルモードへの切換を実行されている際に行われるものとして説明したが、上記第1及び第2例のように、エンジン回転数又はエンジン負荷に基づいて判定する場合、ディーゼルモードからガスモードへの切換を実行されている際にも、瞬時切換の判定動作を実行できる。
【0125】
その他、各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。また、本実施形態のエンジン装置は、船体内の電気系統に電力を供給するための発電装置や陸上の発電施設における駆動源として構成するなど、上述の推進兼発電機構以外の構成においても適用可能である。更に、本願発明のエンジン装置において、着火方式をマイクロパイロット噴射方式によるものとしたが、副室で火花点火させる構成としても構わない。
【符号の説明】
【0126】
1 船舶
2 船体
4 ファンネル
5 プロペラ
9 推進軸
11 機関室
12 推進兼発電機構
17 給気バイパス流路
18 排気バイパス流路
19 負荷測定器
20 エンジン回転センサ
21 エンジン装置(デュアルフューエルエンジン)
22 減速機
23 軸駆動発電機
24 出力軸(クランク軸)
25 シリンダブロック
26 シリンダヘッド
36 気筒
37 吸気ポート
38 排気ポート
39 圧力センサ
40 ヘッドカバー
41 ガスマニホールド(気体燃料配管)
42 燃料油管(液体燃料配管)
43 サイドカバー
44 排気マニホールド
45 遮熱カバー
46 冷却水配管
47 コモンレール(パイロット燃料配管)
48 排気中継管
49 過給機
51 インタークーラ
53 冷却水ポンプ
54 パイロット燃料ポンプ
55 潤滑油ポンプ
56 燃料油ポンプ
57 オイルパン
58 潤滑油クーラ
59 潤滑油コシキ
67 吸気マニホールド
79 メイン燃料噴射弁
80 吸気弁
81 排気弁
82 パイロット燃料噴射弁
89 燃料噴射ポンプ
98 ガスインジェクタ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内へ空気を供給させる吸気マニホールドと、前記シリンダからの排気ガスを排気させる排気マニホールドと、前記吸気マニホールドから供給される空気に気体燃料を混合させるガスインジェクタと、前記シリンダに液体燃料を噴射して燃焼させるメイン燃料噴射弁とを備え、複数の前記シリンダそれぞれに対して前記ガスインジェクタと前記メイン燃料噴射弁とを設けており、前記シリンダ内に前記気体燃料を投入するガスモードと前記シリンダ内に前記液体燃料を投入するディーゼルモードのいずれかで駆動するエンジン装置において、
前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断したときに、前記ディーゼルモードに瞬時に切り換えることを特徴とするエンジン装置。
【請求項2】
前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中において、測定されたエンジン回転数が、緊急停止させる上限のエンジン回転数よりも低い所定回転数よりも高くなった場合に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断することを特徴とする請求項1に記載のエンジン装置。
【請求項3】
前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中において、切換開始時のエンジン負荷との減少量が所定量よりも大きくなった場合に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断することを特徴とする請求項1に記載のエンジン装置。
【請求項4】
前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方への運転モードの切り換え中において、気体燃料供給量に対する液体燃料供給量の比率が所定値よりも小さくなった場合に、エンジン回転数がエンジン装置を緊急停止させる上限値に近づいたものと判断することを特徴とする請求項1に記載のエンジン装置。
【請求項5】
前記ガスモードから前記ディーゼルモードに瞬時に切り換える際には、前記ディーゼルモードに切り換えた後の液体燃料の供給量をエンジン回転数又はエンジン負荷に基づいて設定して前記液体燃料の供給を開始することを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載のエンジン装置。
【請求項6】
前記ガスモード及び前記ディーゼルモードの一方から他方に運転モードを切り換える際に、切換後の運転モードで投入させる第1燃料の供給量を、単調増加させる増量制御により切換閾値まで増量させた後、エンジン回転数に基づく調速制御によって制御しており、
前記切換閾値を、エンジン回転数又はエンジン負荷に基づいて設定していることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載のエンジン装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-26 
出願番号 特願2015-182483(P2015-182483)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (F02D)
P 1 651・ 121- YAA (F02D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 戸田 耕太郎  
特許庁審判長 水野 治彦
特許庁審判官 齊藤 公志郎
渋谷 善弘
登録日 2018-12-14 
登録番号 特許第6450286号(P6450286)
権利者 ヤンマー株式会社
発明の名称 エンジン装置  
代理人 渡辺 隆一  
代理人 渡辺 隆一  

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