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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G06Q
審判 全部申し立て 特許請求の範囲の実質的変更  G06Q
審判 全部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  G06Q
管理番号 1362375
異議申立番号 異議2018-700203  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-03-06 
確定日 2020-05-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6194063号発明「広告配信システム及び方法、並びにプログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6194063号の請求項1ないし8に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6194063号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成28年6月3日(優先権主張 平成27年6月4日)に出願され、平成29年8月18日にその特許権の設定登録(特許公報発行日 平成29年9月6日)がされた。
その特許について、平成30年3月6日に特許異議申立人戸田りえにより請求項1?8に対して特許異議の申立てがなされた。その後の手続の経緯は次のとおりである。

平成30年 7月19日 取消理由通知
同年 9月21日 意見書の提出(特許権者)及び訂正請求
同年10月15日 手続補正指令
同年11月15日 手続補正
平成31年 2月27日 意見書の提出(特許異議申立人)
同年 4月24日 訂正拒絶理由通知
令和 元年 6月 7日 意見書の提出(特許権者)及び手続補正
同年 7月10日 取消理由通知(決定の予告)
同年 9月13日 意見書の提出(特許権者)及び訂正請求
同年10月31日 意見書の提出(特許異議申立人)
同年12月 9日 訂正拒絶理由通知
令和 2年 1月 9日 意見書の提出(特許権者)

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和元年9月13日になされた訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
なお、下線は訂正箇所である。

(1)一群の請求項1?4に係る訂正
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「 TVCMについての視聴履歴とメタデータから得られる現在の実績量を取得する第2取得手段と、
過去のTVCM実績データに基づいて、前記現在の実績量と、キャンペーン経過期間と、キャンペーン残存期間から、キャンペーン期間終了時の予測TVCMリーチ率を算出するTVCMリーチ率予測手段と、
前記予測TVCMリーチ率と、ターゲット属性毎の人口統計情報と、から予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)を算出するリーチ人数予測手段と、
前記到達目標量と、前記予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)との差分値であるギャップ人数に基づいて、デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量であるデジタル補完目標量を設定するデジタル補完目標量設定手段と、
キャンペーン期間終了時のデジタルCMについての予測デジタルCMリーチを算出するデジタルCMリーチ予測手段と、
前記デジタル補完目標量と、前記予測デジタルCMリーチに基づいて、前記デジタルCMの配信を計画するデジタルCM配信計画手段と、」
と記載されているのを、
「 TVCMについての視聴履歴とメタデータから得られる、GRP及びリーチ率を含む現在の実績量を取得する第2取得手段と、
過去のTVCM実績データに基づいて、前記現在の実績量と、キャンペーン経過期間と、キャンペーン残存期間から、キャンペーン期間終了時の予測TVCMリーチ率を算出するTVCMリーチ率予測手段と、
前記予測TVCMリーチ率と、ターゲット属性毎の人口統計情報と、から予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)を算出するリーチ人数予測手段と、
前記到達目標量と、前記予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)との差分値であるギャップ人数に基づいて、目標達成に必要な配信人数であるデジタル補完目標量を設定するデジタル補完目標量設定手段と、
前記デジタル補完目標量を用いて、キャンペーン期間終了時のデジタルCMについてのインプレッション数とユニークユーザ数を算出するデジタルCMリーチ予測手段と、
前記インプレッション数と前記ユニークユーザ数に基づいて、前記デジタルCMの配信を計画するデジタルCM配信計画手段と、」
に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(2)一群の請求項5、6に係る訂正
ア 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に
「 TVCMについての視聴履歴とメタデータから得られる現在の実績量を取得する第2取得ステップと、
過去のTVCM実績データに基づいて、前記現在の実績量と、キャンペーン経過期間と、キャンペーン残存期間から、キャンペーン期間終了時の予測TVCMリーチ率を算出するTVCMリーチ率予測ステップと、
前記予測TVCMリーチ率と、ターゲット属性毎の人口統計情報と、から予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)を算出するリーチ人数予測ステップと、
前記到達目標量と、前記予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)との差分値であるギャップ人数に基づいて、デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量であるデジタル補完目標量を設定するデジタル補完目標量設定ステップと、
キャンペーン期間終了時のデジタルCMについての予測デジタルCMリーチを算出するデジタルCMリーチ予測ステップと、
前記デジタル補完目標量と、前記予測デジタルCMリーチとに基づいて、前記デジタルCMの配信を計画するデジタルCM配信計画ステップと、」
と記載されているのを、
「 TVCMについての視聴履歴とメタデータから得られる、GRP及びリーチ率を含む現在の実績量を取得する第2取得ステップと、
過去のTVCM実績データに基づいて、前記現在の実績量と、キャンペーン経過期間と、キャンペーン残存期間から、キャンペーン期間終了時の予測TVCMリーチ率を算出するTVCMリーチ率予測ステップと、
前記予測TVCMリーチ率と、ターゲット属性毎の人口統計情報と、から予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)を算出するリーチ人数予測ステップと、
前記到達目標量と、前記予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)との差分値であるギャップ人数に基づいて、目標達成に必要な配信人数であるデジタル補完目標量を設定するデジタル補完目標量設定ステップと、
前記デジタル補完目標量を用いて、キャンペーン期間終了時のデジタルCMについてのインプレッション数とユニークユーザ数を算出するデジタルCMリーチ予測ステップと、
前記インプレッション数と前記ユニークユーザ数に基づいて、前記デジタルCMの配信を計画するデジタルCM配信計画ステップと、」
に訂正する。

イ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(3)一群の請求項7、8に係る訂正
ア 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に
「 TVCMについての視聴履歴とメタデータから得られる現在の実績量を取得する第2取得ステップと、
過去のTVCM実績データに基づいて、前記現在の実績量と、キャンペーン経過期間と、キャンペーン残存期間から、キャンペーン期間終了時の予測TVCMリーチ率を算出するTVCMリーチ率予測ステップと、
前記予測TVCMリーチ率と、ターゲット属性毎の人口統計情報と、から予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)を算出するリーチ人数予測ステップと、
前記到達目標量と、前記予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)との差分値であるギャップ人数に基づいて、デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量であるデジタル補完目標量を設定するデジタル補完目標量設定ステップと、
キャンペーン期間終了時のデジタルCMについての予測デジタルCMリーチを算出するデジタルCMリーチ予測ステップと、
前記デジタル補完目標量と、前記予測デジタルCMリーチとに基づいて、前記デジタルCMの配信を計画するデジタルCM配信計画ステップと、」
と記載されているのを、
「 TVCMについての視聴履歴とメタデータから得られる、GRP及びリーチ率を含む現在の実績量を取得する第2取得ステップと、
過去のTVCM実績データに基づいて、前記現在の実績量と、キャンペーン経過期間と、キャンペーン残存期間から、キャンペーン期間終了時の予測TVCMリーチ率を算出するTVCMリーチ率予測ステップと、
前記予測TVCMリーチ率と、ターゲット属性毎の人口統計情報と、から予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)を算出するリーチ人数予測ステップと、
前記到達目標量と、前記予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)との差分値であるギャップ人数に基づいて、目標達成に必要な配信人数であるデジタル補完目標量を設定するデジタル補完目標量設定ステップと、
前記デジタル補完目標量を用いて、キャンペーン期間終了時のデジタルCMについてのインプレッション数とユニークユーザ数を算出するデジタルCMリーチ予測ステップと、
前記インプレッション数と前記ユニークユーザ数に基づいて、前記デジタルCMの配信を計画するデジタルCM配信計画ステップと、」
に訂正する。

イ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

2 訂正の適否の判断
(1)一群の請求項1?4に係る訂正について
ア 上記1(1)アの請求項1に係る訂正事項1は、請求項1の発明特定事項である「デジタル補完目標量設定手段」が設定する「デジタル補完目標量」について、「デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量であるデジタル補完目標量」(以下、「訂正前のデジタル補完目標量」という。)から「目標達成に必要な配信人数であるデジタル補完目標量」(以下、「訂正後のデジタル補完目標量」という。)に変更する訂正を含むものである。
デジタル広告の配信技術において、訂正前のデジタル補完目標量の「デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量」と訂正後のデジタル補完目標量の「目標達成に必要な配信人数」とは、それぞれデジタル広告の配信に関する異なる指標を示すものであり、また、前者はデジタル補完目標量を2つの指標で定義し、後者はデジタル補完目標量を1つの指標で定義することにおいても異なる指標といえるから、両者は同等の技術事項を示すものではない。
よって、上記訂正は、実質上特許請求の範囲を変更するものといえる。
したがって、請求項1についての上記訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更する訂正に該当し、特許法第120条の5第9項で準用する同第126条第6項の規定に違反してなされたものである。

イ 特許権者は、令和元年9月13日付けの訂正請求書の「7 請求の理由」の(1)ウ(イ)aにおいて、上記訂正に関して以下のとおり主張している。

(ア)『(a) 訂正の目的について
(中略)
また、訂正前の請求項1に係る特許発明は、「デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量」について規定している。これに対して、訂正後の請求項1は、「目標達成に必要な配信人数」の記載により、訂正後の請求項1に係る発明におけるデジタル補完目標量設定手段の誤記を訂正するものであり、特許法120条の5第2項ただし書第2号に規定する、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。』(訂正請求書3頁15?26行)

(イ)『(b) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
(中略)
また訂正事項1は、「デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量であるデジタル補完目標量を設定するデジタル補完目標量設定手段」という発明特定事項を「目標達成に必要な配信人数であるデジタル補完目標量を設定するデジタル補完目標量設定手段」とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。』(訂正請求書4頁9?21行)

そして、令和2年1月9日付けの意見書の5(3)アにおいて以下のとおり主張している。

(ウ)『本件明細書の段落0162には、(中略)と記載されています。
つまり、ギャップ人数に基づいて目標達成に必要な配信人数を算定しています。
訂正拒絶理由通知書では、「デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量」と「目標達成に必要な配信人数」とは異なる技術事項を示すものであると指摘されていますが、ギャップ人数から所定の商品等のCMの接触回数(フリクエンシー)を求めることはできないので、「デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量であるデジタル補完目標量」としたのは、誤記であることは明らかです。』(意見書5頁16?32行)、
『明らかな誤記である「デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量」を「目標達成に必要な配信人数」に補正しても、技術的に矛盾する「デジタルCMのフリクエンシーの目標量」を明細書の記載に基づいて削除するのみで、デジタルCMのリーチの目標量」は用いることになり、実質上特許請求の範囲を変更するものではありません。』(意見書5頁下から1行?6頁4行)

ウ 本件特許の願書に最初に添付した明細書(以下、「本件当初明細書」という。)には、段落【0140】から段落【0181】に、以下のとおり、本発明の第三の実施形態が記載されている。
そして、段落【0188】には、以下のとおりの実施形態(以下、「他の実施形態」という。)が記載されている。
以下、符号を用いて、「記載事項a」?「記載事項h」と称する。

(a)【0140】
「図18は、本発明の第三の実施形態に係るサービス提供サーバの機能的構成の一例を示す機能ブロック図である。」
【0153】
「補完配信量算定部92はキャンペーン開始前に機能する機能ブロックであり、ギャップ人数に基づいて、目標達成に必要な配信数(インプレッション数、ユニークユーザ数)を補完配信量として算定する。
補完配信量算定部92は、予め補完率DB94に格納されたターゲット・メディア単位の補完率情報に基づいて、例えばギャップ人数を補完率で除算して得た人数をデジタルCM配信対象人数とする等して、目標達成に必要な配信人数を算定する。
続いて、補完配信量算定部92が備えるデジタルCMリーチ予測部92aはキャンペーン開始前に機能する機能ブロックであり、目標達成に必要な配信人数から逆算して、必要な配信数を補完配信量として算定する。」
【0154】
「補完配信量算定部93及びデジタルCMリーチ予測部93aは、補完配信量算定部92及びデジタルCMリーチ予測部92aと略同一の機能ブロックであり、キャンペーン期間中に機能する点が、異なる。」

(b)【0155】
「配信計画作成部95はキャンペーン開始前に機能する機能ブロックであり、目標達成に必要な配信数(インプレッション数及びユニークユーザ数)と配信単価との積である目標達成必要予算額を算出する。
また、目標達成に必要な配信インプレッション数を、キャンペーン期間の全日数で除した量である1日当たりの配信ボリューム及びその配信予算を算出する。
この様にして、デジタルCMについての配信計画を作成し、配信計画のデータを、配信計画DB96に格納する。」
【0156】
「 配信計画修正部97はキャンペーン期間中に機能する機能ブロックであり、ギャップ人数算出部91が算出したギャップ人数に応じて、配信計画を修正し、配信計画のデータを、配信計画DB96に格納する。」

(c)【0158】
「図19は、図18の機能的構成を有するサーバが、キャンペーン開始前に実行する、配信計画作成処理の流れの一例を説明するフローチャートである。」
【0162】
「ステップS47において、サービス提供サーバ14の補完配信量算定部92は、目標達成に必要な配信人数を算出し、例えばギャップ人数「69000」を図24に示す実質補完率データを参照して得た補完率「60%」で割って得た人数「115000」をデジタルCM配信対象人数とする等して、目標達成に必要な配信人数を算定する。」
【0163】
「続いて、デジタルCMリーチ予測部92aは、目標達成に必要な配信人数「115000」から逆算して、必要な配信数を補完配信量として算定する。
以下のステップでは、本ステップにおいて、補完配信量を「500000インプレッション」及び「130000UU」と算出した場合の例で説明する。」

(d)【0164】
「図19に戻り、ステップS48において、サービス提供サーバ14の配信計画作成部95は、目標達成に必要な配信数(インプレッション数「500000」及びユニークユーザ数「130000」)と、目標達成必要予算額と、目標達成に必要な1日当たりの配信ボリューム及びその配信予算を算出し、デジタルCMについての配信計画を作成する。」

(e)【0165】
「図20は、図18の機能的構成を有するサーバが、キャンペーン期間中に実行する、配信計画修正処理の流れの一例を説明するフローチャートである。」
【0168】
「 ステップS56において、サービス提供サーバ14の補完配信量算定部93は、ギャップ人数「21000人」に基づいて、目標達成に必要な配信数(インプレッション数、ユニークユーザ数)を補完配信量として算定する。
例えばギャップ人数「21000人」を補完率「60%」で割って得た人数「35000」をデジタルCM配信対象人数とする等して、目標達成に必要な配信人数を算定し、デジタルCMリーチ予測部93aが、目標達成に必要な配信人数から逆算して、必要な配信数を補完配信量として算定する。」

(f)【0169】
「ステップS57において、サービス提供サーバ14の配信計画修正部97は、修正配信計画を作成し、データを配信計画DB96に格納する。」

(g)【0188】
「前記到達目標量と、前記予測TVCMリーチ人口との差分(例えば図18のギャップ人数算出部90又はギャップ人数算出部91が算出)に基づいて、デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量であるデジタル補完目標量を設定するデジタル補完目標量設定手段と(例えば図18の補完配信量算定部92及び補完配信量算定部93)、
キャンペーン期間終了時のデジタルCMについての予測デジタルCMリーチを算出するデジタルCMリーチ予測手段と(例えば図18のデジタルCMリーチ予測部92a及びデジタルCMリーチ予測部93a)、
前記デジタル補完目標量と、前記予測デジタルCMリーチに基づいて、前記デジタルCMの配信を計画するデジタルCM配信計画手段と(例えば図18の配信計画作成部95及び配信計画修正部97)」

(h)【図18】




エ 上記イの特許権者の主張について検討する。

(ア)訂正前のデジタル補完目標量の「デジタルCMのフリクエンシー」及び「デジタルCMのリーチ」は、当該技術分野において一般的に用いられる用語であって、その記載自体は明確なものである。

そして、「デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量」をデジタル広告の「デジタル補完目標量」とすることは、当該技術分野において実施可能なことであり、その記載自体は明確なものである。

よって、訂正前の「デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量であるデジタル補完目標量を設定する」との記載は、それ自体で本件当初明細書の記載との関係で誤りであることが明らかとはいえない。

(イ)請求項1の発明特定事項である「デジタル補完目標量設定手段」が設定する「デジタル補完目標量」に関連して、本件当初明細書には記載事項a、記載事項c及び記載事項eが記載されている。

「デジタル補完目標量設定手段」に対応する補完配信量算定部92及び補完配信量算定部93について検討すると、記載事項a及び記載事項eからは、補完配信量算定部92及び補完配信量算定部93が算定する補完配信量が「デジタル補完目標量」に対応し、当該「デジタル補完目標量」は「目標達成に必要な配信数(インプレッション数、ユニークユーザ数)である補完配信量」であること、記載事項a及び記載事項cからは、補完配信量算定部92及び補完配信量算定部93が算定する目標達成に必要な配信人数が「デジタル補完目標量」に対応し、すなわち「デジタル補完目標量」は「目標達成に必要な配信人数(115000)」であることが記載されていると認められる。

よって、本件当初明細書には、「デジタル補完目標量」に関して、2つの技術事項が記載されているといえるから、訂正前のデジタル補完目標量は、どのような技術事項を表すものであるのか明瞭でない記載であって、本件訂正の、明瞭でない記載を訂正後の「目標達成に必要な配信人数」とする訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当するといえる。

(ウ)特許権者は、本件当初明細書の段落0162において、補完配信量算定部92が「ギャップ人数に基づいて目標達成に必要な配信人数を算定する」と記載があるとし、「ギャップ人数から所定の商品等のCMの接触回数(フリクエンシー)を求めることはできない」ことを理由として、「デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量であるデジタル補完目標量」としたのは、誤記であることは明らか、と主張する(上記イ(ウ))。

しかしながら、本件当初明細書には、「ギャップ人数から所定の商品等のCMの接触回数(フリクエンシー)を求めることはできない」とする記載はないこと、また、上記(イ)のとおり、記載事項a及び記載事項eには、「デジタル補完目標量」は「目標達成に必要な配信数(インプレッション数、ユニークユーザ数)である補完配信量」であることも記載されているから、訂正前のデジタル補完目標量が「目標達成に必要な配信人数」の誤記であることが明らかとはいえない。

(エ)上記(ア)?(ウ)において検討した事項から、訂正前の請求項1の「デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量」が、「目標達成に必要な配信人数」の明らかな誤記であるとはいえず、当該訂正が誤記の訂正を目的とするものではないから、上記アのとおり、実質上特許請求の範囲を変更する訂正である。

よって、請求項1についての上記訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更する訂正に該当する。

オ 以上のとおりであるから、上記訂正事項1を含む一群の請求項1?4について訂正を認めない。

(2)一群の請求項5、6に係る訂正について
上記1(2)アの請求項5に係る訂正事項3は、訂正事項1と同様に、「デジタル補完目標量」の内容を、「デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量」から「目標達成に必要な配信人数」に変更する訂正を含むものである。
したがって、上記(1)の判断と同様に、訂正事項3を含む一群の請求項5、6について訂正を認めない。

(3)一群の請求項7、8に係る訂正について
上記1(3)アの請求項7に係る訂正事項5は、訂正事項1と同様に、「デジタル補完目標量」の内容を、「デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量」から「目標達成に必要な配信人数」に変更する訂正を含むものである。
したがって、上記(1)の判断と同様に、訂正事項5を含む一群の請求項7、8について訂正を認めない。

3 小括
以上のように、訂正事項1を含む一群の請求項1?4に係る訂正、訂正事項3を含む一群の請求項5、6に係る訂正及び訂正事項5を含む一群の請求項7、8に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更する訂正に該当し、特許法第120条の5第9項で準用する同第126条第6項の規定に違反してなされたものであるので、請求項〔1?4〕、〔5、6〕、〔7、8〕について訂正を認めない。

第3 本件発明
上記の「第2 訂正の適否」において判断したように、本件特許の特許請求の範囲についての訂正は認めないので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明は、平成29年8月18日にその特許権の設定登録された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
なお、請求項1の各構成に付した符号(A)?(H)は、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成A?構成Hと称する。

【請求項1】
(A)商品又は役務のCMのフリクエンシーとリーチについて、広告主により設定された到達目標量を取得する第1取得手段と、
(B)TVCMについての視聴履歴とメタデータから得られる現在の実績量を取得する第2取得手段と、
(C)過去のTVCM実績データに基づいて、前記現在の実績量と、キャンペーン経過期間と、キャンペーン残存期間から、キャンペーン期間終了時の予測TVCMリーチ率を算出するTVCMリーチ率予測手段と、
(D)前記予測TVCMリーチ率と、ターゲット属性毎の人口統計情報と、から予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)を算出するリーチ人数予測手段と、
(E)前記到達目標量と、前記予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)との差分値であるギャップ人数に基づいて、デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量であるデジタル補完目標量を設定するデジタル補完目標量設定手段と、
(F)キャンペーン期間終了時のデジタルCMについての予測デジタルCMリーチを算出するデジタルCMリーチ予測手段と、
(G)前記デジタル補完目標量と、前記予測デジタルCMリーチに基づいて、前記デジタルCMの配信を計画するデジタルCM配信計画手段と、
(H)を備える広告配信システム。

【請求項2】
前記現在の実績量は、ゼロGRPであり、
前記キャンペーン経過期間は、ゼロ日であり、
前記キャンペーン残存期間は、キャンペーン全期間であり、
放送局及び、タイムランク又は時間単位毎に予定されるCM出稿本数データである出稿計画情報を受付ける出稿計画受付手段と、
前記出稿計画情報と、世帯別に集計されたGRP及びリーチ率を含むパネルデータを参照して、予測世帯GRP値を算出するGRP予測手段と、
を更に備え、
前記TVCMリーチ率予測手段は、前記予測世帯GRP値に基づいて、キャンペーン期間終了時の予測TVCMリーチ率を算出する、
請求項1に記載の広告配信システム。

【請求項3】
キャンペーン期間中のGRP及びリーチ率を含むリアルタイム出稿実績データであるアクチャルデータを受け付けるアクチャルデータ受付手段と、
各DSPからの配信レポートをインポートすることにより、配信実績を、記憶部の一部に入力する配信結果入力手段と、
を更に備え、
前記TVCMリーチ率予測手段は、前記アクチャルデータに基づいて、キャンペーン期間終了時の予測TVCMリーチ率を算出し、
前記デジタル補完目標量設定手段は、ターゲットについてのTVCMの視聴回数及び前記配信実績に基づく実測又は予測したデジタルCMの配信回数との通算で所定の接触回数に到達する人数を予測ターゲット到達人数として前記ギャップ人数を算出する、
請求項1に記載の広告配信システム。

【請求項4】
前記デジタル補完目標量設定手段は、前記予測デジタルCMリーチに、ターゲット属性毎に算出した予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)との補完率を乗じて加算又は前記予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)との重複率を乗じて減算することで前記デジタル補完目標量を設定する、
請求項1、請求項2又は請求項3に記載の広告配信システム。

【請求項5】
広告配信システムが実行する広告配信方法であって、
商品又は役務のCMのフリクエンシーとリーチについて、広告主により設定された到達目標量を取得する第1取得ステップと、
TVCMについての視聴履歴とメタデータから得られる現在の実績量を取得する第2取得ステップと、
過去のTVCM実績データに基づいて、前記現在の実績量と、キャンペーン経過期間と、キャンペーン残存期間から、キャンペーン期間終了時の予測TVCMリーチ率を算出するTVCMリーチ率予測ステップと、
前記予測TVCMリーチ率と、ターゲット属性毎の人口統計情報と、から予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)を算出するリーチ人数予測ステップと、
前記到達目標量と、前記予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)との差分値であるギャップ人数に基づいて、デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量であるデジタル補完目標量を設定するデジタル補完目標量設定ステップと、
キャンペーン期間終了時のデジタルCMについての予測デジタルCMリーチを算出するデジタルCMリーチ予測ステップと、
前記デジタル補完目標量と、前記予測デジタルCMリーチとに基づいて、前記デジタルCMの配信を計画するデジタルCM配信計画ステップと、
を含む広告配信方法。

【請求項6】
前記デジタルCM配信計画ステップは、前記予測デジタルCMリーチに、ターゲット属性毎に算出した予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)との補完率を乗じて加算又は前記予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)との重複率を乗じて減算することで前記デジタルCMの配信を計画する、
請求項5に記載の広告配信方法。

【請求項7】
コンピュータに、
商品又は役務のCMのフリクエンシーとリーチについて、広告主により設定された到達目標量を取得する第1取得ステップと、
TVCMについての視聴履歴とメタデータから得られる現在の実績量を取得する第2取得ステップと、
過去のTVCM実績データに基づいて、前記現在の実績量と、キャンペーン経過期間と、キャンペーン残存期間から、キャンペーン期間終了時の予測TVCMリーチ率を算出するTVCMリーチ率予測ステップと、
前記予測TVCMリーチ率と、ターゲット属性毎の人口統計情報と、から予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)を算出するリーチ人数予測ステップと、
前記到達目標量と、前記予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)との差分値であるギャップ人数に基づいて、デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量であるデジタル補完目標量を設定するデジタル補完目標量設定ステップと、
キャンペーン期間終了時のデジタルCMについての予測デジタルCMリーチを算出するデジタルCMリーチ予測ステップと、
前記デジタル補完目標量と、前記予測デジタルCMリーチとに基づいて、前記デジタルCMの配信を計画するデジタルCM配信計画ステップと、
を含む制御処理を実行させるプログラム。

【請求項8】
前記デジタルCM配信計画ステップは、前記予測デジタルCMリーチに、ターゲット属性毎に算出した予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)との補完率を乗じて加算又は前記予測ターゲット到達人数(予測TVCMリーチ)との重複率を乗じて減算することで前記デジタルCMの配信を計画する、
請求項7に記載の広告配信プログラム。

第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1?8に係る特許に対して、当審が平成30年7月19日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

理由1.(実施可能要件)本件特許は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由2.(明確性・サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の請求項1?8の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。

理由3.(進歩性)本件特許の請求項1?8に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲第1号証?甲第4号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

第5 当審の判断
上記取消理由の理由2(明確性・サポート要件)について、以下に検討する。

1 請求項1について
(1)請求項1には、構成E及び構成Gが記載されている。
構成Eの「デジタル補完目標量設定手段」及び構成Gの「デジタルCM配信計画手段」は、以下に示すように、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。

(2)本件特許の明細書は本件当初明細書から補正されていないので、構成E、構成F及び構成Gに関する本件特許の明細書の記載は、上記第2の2(1)ウの記載事項a?記載事項hのとおりである。

記載事項gは、図18に示される構成との対応関係を記載しているものの、その内容は請求項1に記載された事項と同一の記載をしているに過ぎず、請求項1に係る発明の構成E及び構成Gが、実質的に発明の詳細な説明に記載されているものとは認められない。

(3)次に、記載事項gにおいて、構成Eの「デジタル補完目標量設定手段」に対応するものとされる「補完配信量算定部92及び補完配信量算定部93」、同じく構成Fの「デジタルCMリーチ予測手段」に対応するものとされる「デジタルCMリーチ予測部92a及びデジタルCMリーチ予測部93a」及び構成Gの「デジタルCM配信計画手段」に対応するものとされる「配信計画作成部95及び配信計画修正部97」について、本件特許の明細書の記載を検討する。

ア 記載事項a、記載事項c及び記載事項eによれば、「補完配信量算定部92及び補完配信量算定部93」は、ギャップ人数に基づいて、「目標達成に必要な配信数(インプレッション数、ユニークユーザ数)である補完配信量」を算定する。「補完配信量算定部92及び補完配信量算定部93」は、その処理の過程において「目標達成に必要な配信人数」を算定する。「補完配信量算定部92及び補完配信量算定部93」がその内部に備える「デジタルCMリーチ予測部92a及びデジタルCMリーチ予測部93a」は、「目標達成に必要な配信人数」から「必要な配信数である補完配信量」を算定する。

そして、記載事項b、記載事項d及び記載事項fによれば、「配信計画作成部95及び配信計画修正部97」は、「目標達成に必要な配信数(インプレッション数及びユニークユーザ数)」に基づいて、「デジタルCMについての配信計画」を作成する。

イ 構成Eについて
本件特許の明細書に記載される「補完配信量算定部92及び補完配信量算定部93」は、ギャップ人数に基づいて、「目標達成に必要な配信数(インプレッション数、ユニークユーザ数)である補完配信量」及び「目標達成に必要な配信人数」を算定するものである。
構成Eの「デジタル補完目標量設定手段」は、ギャップ人数に基づいて、「デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量であるデジタル補完目標量を設定する」ものであるが、構成Eの「デジタルCMのフリクエンシーとリーチの目標量」と、明細書に記載される「目標達成に必要な配信数(インプレッション数、ユニークユーザ数)である補完配信量」及び「目標達成に必要な配信人数」とは、デジタルCMの配信技術において別の指標であり、異なる技術事項であるから、構成Eは、本件特許の明細書の記載事項a?記載事項hに記載されていないものである。

ウ 構成Gについて
本件特許の明細書の記載によれば、「補完配信量算定部92及び補完配信量算定部93」は、「必要な配信数である補完配信量」を算定すると共に、その内部に備える「デジタルCMリーチ予測部92a及びデジタルCMリーチ予測部93a」が算出する「目標達成に必要な配信数(インプレッション数、ユニークユーザ数)である補完配信量」を、自らの出力とするものである。
構成Gの「デジタルCM配信計画手段」は、構成Eの出力の「デジタル補完目標量」と、構成Fの出力の「予測デジタルCMリーチ」の2つの情報に基づいて、デジタルCMの配信を計画するものであるが、構成Gに対応する「配信計画作成部95及び配信計画修正部97」は、「目標達成に必要な配信数(インプレッション数及びユニークユーザ数)」に基づいて、デジタルCMについての配信計画を作成するものであり、構成Eに対応する「補完配信量算定部92及び補完配信量算定部93」と構成Fに対応する「デジタルCMリーチ予測部92a及びデジタルCMリーチ予測部93a」からの2つの情報に基づいて、デジタルCMの配信を計画することは、本件特許の明細書の記載事項a?記載事項hに記載されていないものである。

(4)以上のように、本件特許の明細書の記載事項a?記載事項hには、請求項1の構成E及び構成Gは記載されておらず、本件特許の明細書のその他の段落にも、構成E及び構成Gは記載されているものでもない。
よって、請求項1の構成E及び構成Gは、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。
したがって、訂正特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 請求項2?4について
請求項1を引用する請求項2?4においても上記1の記載不備は解消しておらず、請求項2?4の記載は、請求項1と同様に特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3 請求項5?8について
請求項1と発明のカテゴリーが異なるものの実質的な構成要件は同じである請求項5及び請求項7には、請求項1と同様の記載がされている。
したがって、請求項5及び請求項7の記載は、請求項1と同様に特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、請求項5を引用する請求項6、請求項7を引用する請求項8においても上記1の記載不備は解消しておらず、請求項6、8の記載は、請求項1と同様に特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第6 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1?8の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件特許の請求項1?8に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-03-27 
出願番号 特願2016-112064(P2016-112064)
審決分類 P 1 651・ 852- ZB (G06Q)
P 1 651・ 855- ZB (G06Q)
P 1 651・ 537- ZB (G06Q)
最終処分 取消  
前審関与審査官 古川 哲也  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 清水 正一
渡辺 努
登録日 2017-08-18 
登録番号 特許第6194063号(P6194063)
権利者 株式会社デジタルインテリジェンス
発明の名称 広告配信システム及び方法、並びにプログラム  
代理人 関口 正夫  

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