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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1362380
異議申立番号 異議2019-700931  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-21 
確定日 2020-05-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第6558383号発明「石炭灰の改質方法およびコンクリート混和材用のフライアッシュの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6558383号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6558383号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成29年2月10日に出願されたものであって、令和1年7月26日にその特許権の設定登録がされ、同年8月14日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許に対し、令和1年11月21日に特許異議申立人 関和郎(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6558383号の請求項1ないし4の特許に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明4」ということがあり、また、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
45μmふるい残分が10質量%以上である石炭灰を、強制渦式遠心方式の分級装置を用いて、分級後の石炭灰の45μmふるい残分が1質量%以上8質量%以下の範囲となり、分級精度指数(к=d25/d75)が、0.6以上0.7以下となる条件にて分級することを特徴とする石炭灰の改質方法。
【請求項2】
前記45μmふるい残分が10質量%以上である石炭灰は、45μmふるい残分が40質量%以下であって、圧縮度が40%以下であり、ハンターLab表色系における明度指数L値が54.0以上であって、かつ強熱減量が5.0質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の石炭灰の改質方法。
【請求項3】
得られる石炭灰は、強熱減量が分級前の石炭灰と比較して8.0%以上低減されていることを特徴とする請求項1または2に記載の石炭灰の改質方法。
【請求項4】
45μmふるい残分が10質量%以上40質量%以下の範囲にあって、圧縮度が40%以下であり、ハンターLab表色系における明度指数L値が54.0以上であって、かつ強熱減量が5.0質量%以下である石炭灰を、強制渦式遠心方式の分級装置を用いて、分級後の石炭灰の45μmふるい残分が1質量%以上8質量%以下の範囲となり、分級精度指数(к=d25/d75)が、0.6以上0.7以下となる条件にて分級することを特徴とするコンクリート混和材用のフライアッシュの製造方法。」

第3 申立理由の概要
申立人が主張する申立理由及び証拠方法は次のとおりである。
1 申立理由
本件発明1ないし4は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証ないし甲第7号証に記載される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2 申立人が提出した証拠方法
(1)甲第1号証:森滋勝ら 「石炭フライアッシュの改質プロセスの開発」,化学工学論文集,第20巻、第4号、第463-467頁、1994年
(2)甲第2号証:中川文雄ら 「ミクロンセパレータの分級特性と適用例」,粉体工学研究会誌、Vol.12、No.11、第633-637頁、1975年
(3)甲第3号証:社団法人土木学会編,「石炭灰有効利用技術について -循環型社会を目指して-,第46-49頁、平成15年9月
(4)甲第4号証:特開2001-179134号公報
(5)甲第5号証:特開2006-315896号公報
(6)甲第6号証:土肥浩大ら、「フライアッシュおよび石炭灰の色に及ぼす諸要因の影響」,三菱マテリアルセメント研究所研究報告,No.18、平成29年1月5日発行
(7)甲第7号証:特開平7-4632号公報

なお、甲第1号証ないし甲第7号証を、以下では、それぞれ「甲1」ないし「甲7」ということがある。

第4 甲1ないし甲3の記載事項及び甲1発明
1 甲1の記載事項
甲1には、以下の(1)?(9)の事項が記載されている(当審注:「・・・」は記載の省略を表す。以下、甲2及び甲3においても同じ。)。

(1)「本報ではJIS規格に適合しない高い未燃焼炭素分を含むフライアッシュを改質して,フライアッシュセメントとして有効に利用するために,2段の流動層を用いた新しいプロセスの開発を行った.粒度分布と密度分級を組み合わせた本プロセスにより,フライアッシュ中の未燃炭素分を連続的に低減させることによって,JIS規格に適合した改質フライアッシュが得られることが明らかとなった.」(第463頁要約第4-8行)

(2)「Table1にフライアッシュの粒度別未燃炭素含有率の測定結果の一例を示す.Table1から明らかなように,粒子径38μm以上の広い範囲に,JISで規定する5%以上の未燃炭素分が含まれている.」(第463頁右欄第11?14行)

(3)「


」(第464頁左上)

(4)「本実験装置の概略をFig.1に示す.まず第1段において,流動化用空気はコンプレッサーで圧縮し,エアードライヤーで除湿後,フロートメーターで流量を測定して,流動層下部の風箱に供給する.・・・第1段のバッグフィルターで回収されたフライアッシュは,第2段目の振動流動層密度分級装置へ供給される.」(第463頁右欄第16行-第464頁左欄第7行)

(5)「なお,本実験により,第1段では100μm以上の粗粒をカットすれば良いことが明らかになったので,流動層より簡便な市販の風力分級装置を用いて粗粒をカットしたフライアッシュを第2段へ供給した実験も行った.
1.2 原料フライアッシュの性状
Table2に実験に使用した原料フライアッシュの体積加重平均径と未燃炭素含有率を,Fig.2に原料フライアッシュの粒度分布を示す.」(第464頁左欄第35行-同頁右欄第6行)

(6)「

」(第465頁上)

(7)「なお,以下の実験結果は,主にフライアッシュEを用いてプロセスの特性を明らかにするとともに,各種のフライアッシュを使用してプロセスの有効性を明らかにするための試験を行った.」(第464頁右欄第14行-17行)

(8)「2.2 第1段処理方法の影響
・・・すなわち,第1段においては100μm以上の粗粒をカットすれば良いことになるので,第1段分級装置としてより簡便な風量分級装置を採用できる可能性がある.この可能性を検討するために,第1段処理方法として流動層を用いた場合と風力分級装置を用いた場合の原料フライアッシュEに対する飛び出し成分の粒度分布の比較を行った結果がFig.2である.なお,風力分級装置はホソカワミクロンセパレータであり,ロータ回転数500r.p.m,風量約11m^(3)/min,供給量80kg/hの条件で運転した.」(第465頁左欄第4行-第17行)

(9)「

」(第465頁)

2 甲1発明
上記(1)、(4)、(5)及び(8)から、甲1には、JIS規格に適合しない高い未燃焼炭素分を含むフライアッシュを、粒度分布と密度分級を組み合わせた2段の処理プロセスによってフライアッシュ中の未燃炭素分を低減させるフライアッシュの改質方法が記載されているといえ、第1段として風量分級装置であるホソカワミクロンセパレータを用い、第2段として振動流動層密度分級装置を用いることが記載されているといえる.
また、上記(2)、(3)、(6)、(7)から、甲1には、上記2段の処理プロセスではフライアッシュEを用いて試験を行ったこと、及び当該フライアッシュEの性状は、上記(3)の記載から、粒径106μm以上、粒径75?106μm、粒径53?75μmの粒体の全体に占める重量比がそれぞれ、12.3%、7.2%、9.8%であるから、粒径53μm以上の粒子は全体の29.3質量%を占めるものであることが記載されているといえる。
以上の記載から、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「粒径53μm以上の粒子が29.3質量%であって、未燃焼炭素分を含むフライアッシュを、第1段として風量分級装置であるホソカワミクロンセパレータを用い、第2段として振動流動層密度分級装置を用いて、フライアッシュ中の未燃炭素分を低減させるフライアッシュの改質方法。」

3 甲2の記載事項
甲2には、以下の(1)?(3)の事項が記載されている。

(1)「ミクロンセパレータは遠心力利用風力分級機で,上述のような風力分級機の特徴以外に,◎広い分級可能範囲,◎高い分級効率,◎操作および調節の容易さ,◎前後の工程への付設の容易さなどの特徴を有している。」(第633頁左欄第13行?第16行)

(2)「

」(第633頁右欄)

(3)「昭和50年6月2日受理
*細川粉体工学研究所・・・」(第633頁脚注)

4 甲3の記載事項
甲3には、以下の(1)及び(2)の事項が記載されている。

(1)「表-3.1.1には、JIS規格のフライアッシュII種相当のフライアッシュの性状例を示す。・・・強熱減量は、主に未燃炭素の比率の指標を示す値であるが、強熱減量が少ないほどセメントやコンクリート用としては良質である。JIS規格ではフライアッシュII種として5%以下に規定している。」(第47頁第8行?第19行)

(2)「

」(第47頁)

第5 申立理由(進歩性要件)について当審の判断
1 本件発明1について
(1)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「粒径53μm以上の粒子」は、目開きが本件発明1における「45μmふるい」で篩分した際にふるい上に残る蓋然性が高いから、甲1発明における「粒径53μm以上の粒子が29.3質量%であって、未燃焼炭素分を含むフライアッシュ」は、本件発明1でいう「45μmふるい残分が10質量%以上である石炭灰」に相当する。
また、甲1発明における「ホソカワミクロンセパレータ」は、甲2の記載からすれば、甲2の(2)に記載されたような構造を有する遠心力利用風力分級機であって、ロータの回転により発生した遠心力を利用して粉体の分級を行うものと認められるから、本件発明1における「強制渦式遠心方式の分級装置」に相当する。
してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違していると認められる。

(一致点)
「45μmふるい残分が10質量%以上である石炭灰を、強制渦式遠心方式の分級装置を用いて分級する石炭灰の改質方法」である点。

(相違点1)
本件発明1においては、分級後の石炭灰の45μmふるい残分が1質量%以上8質量%以下の範囲であるが、甲1発明においては分級後の石炭灰の45μmふるい残分が明らかではない点。

(相違点2)
本件発明1においては、分級精度指数(к=d25/d75)が、0.6以上0.7以下となる条件にて分級するものであるが、甲1発明においては分級精度指数が明らかではない点。

(2)相違点についての検討
事案に鑑み、はじめに相違点1について検討する。
申立人は、当該相違点1に係る45μmふるい残分に関し、甲2及び甲3に基づく容易想到性を主張するので、特にこれらの証拠に着目してみると、甲2の記載から、甲1発明のホソカワミクロンミクロンセパレータが高い分級効率を有するものであることは周知であるといえる。
また、甲3には、JIS規格のフライアッシュII種相当のフライアッシュの性状例について、45μmふるい残分が8%以下であるものが複数記載され、強熱減量(甲1でいう「未燃炭素分」の指標を示す値)が少ないほどセメントやコンクリートの混和材として良質であることについて記載されているように、コンクリートの混和材として用いるJISフライアッシュII種相当のフライアッシュにおいては、45μmふるい残分が8%以下であるものがあり、強熱減量が少ないことが好ましいことは周知であると認められる。
さらに、甲1の(3)の記載から、粒径が38μm以上の粒子を分級すれば、フライアッシュ中の未燃炭素分を低減できることも当業者に明らかである。
しかしながら、甲1の(1)、(5)及び(8)の記載から、甲1発明においては、本来2段の流動層を用いてフライアッシュの改質を行うことが予定されていたところ、第1段においては100μm以上の粗粒がカットされていれば良いことに鑑み、第1段の流動層に代えて、より簡便な風力分級装置を採用したものであることが理解できるから、甲1発明は、第1段の風量分級装置で100μm以上の粗粒を除いたのち、後続の第2段の振動流動層密度分級装置でさらなる分級を行うことを前提とした発明であると解するのが合理的である。そして、実際、甲1の(9)のFig.2のとおり、第1段処理方法として、風力分級装置を採用した場合、粒径100μm以上の粗粒は約3.0%に低減されているものの、粒径45μm以上の粗粒(45μmふるい残分)については8%を大きく超えるものとなっている。
してみると、甲1ないし甲3の記載から、甲1発明のホソカワミクロンセパレータが高い分級効率を有するものであり、一般に、JIS規格相当のフライアッシュの45μmふるい残分が8%以下であるものが存在することが周知であり、なおかつ、粒径が38μm以上の粒子を分級すればフライアッシュ中の未燃炭素分を低減させることができることを当業者が認識し得たとしても、甲1発明における第1段の風量分級装置において、100μm以上の粗粒に加え、45μmふるい残分が8%以下となる程度までさらなる分級を行うことの動機付けまでを、これらの記載中に見いだすことはできないから、甲1ないし甲3の記載に基づいて、相違点1に係る発明特定事項に当業者が容易に想到し得たとはいえない。
なお、甲4には、サイクロン式分級装置におけるフライアッシュの分級において、分級精度指数(к=d25/d75)が0.6?0.7程度であったこと、甲5には、コンクリート混和材に使用する石炭灰として、圧縮度を30?50%のものとしたこと、甲6には、フライアッシュまたは石炭灰中の未燃炭素量とハンターLab表色系における明度指数と密接な関係があり、明度指数L値が54、0以上で強熱減量が5.0質量%以下のものが知られていること、甲7には、フライアッシュの改質方法として風力分級により強熱減量の小さいフライアッシュを選別採取することが知られていたこと、がそれぞれ記載されているものの、いずれも上記相違点1に係る「分級後の石炭灰の45μmふるい残分が1質量%以上8質量%以下の範囲」とすることについては何ら記載されていない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載の発明と、甲第2号証ないし甲第7号証に記載される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載の発明と、甲第2号証ないし甲第7号証に記載される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに技術的限定を付したものであるから、本件発明1と同様に、甲第1号証に記載の発明と、甲第2号証ないし甲第7号証に記載される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上の検討のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-04-28 
出願番号 特願2017-23389(P2017-23389)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小川 武原 和秀  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 櫛引 明佳
宮澤 尚之
登録日 2019-07-26 
登録番号 特許第6558383号(P6558383)
権利者 三菱マテリアル株式会社
発明の名称 石炭灰の改質方法およびコンクリート混和材用のフライアッシュの製造方法  
代理人 松沼 泰史  
代理人 大浪 一徳  
代理人 寺本 光生  
代理人 細川 文広  
代理人 志賀 正武  

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